(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022029375
(43)【公開日】2022-02-17
(54)【発明の名称】官能性ポリオレフィンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 8/50 20060101AFI20220209BHJP
C08F 10/00 20060101ALI20220209BHJP
【FI】
C08F8/50
C08F10/00 510
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020132705
(22)【出願日】2020-08-04
(71)【出願人】
【識別番号】596056896
【氏名又は名称】株式会社三栄興業
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100143959
【弁理士】
【氏名又は名称】住吉 秀一
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 大輔
(72)【発明者】
【氏名】高村 厚
【テーマコード(参考)】
4J100
【Fターム(参考)】
4J100AA02P
4J100AA03P
4J100AA04P
4J100AA17P
4J100AR00P
4J100CA01
4J100CA03
4J100CA11
4J100CA27
4J100DA01
4J100DA04
4J100DA24
4J100HA62
4J100HE17
4J100HF01
4J100JA01
4J100JA03
(57)【要約】
【課題】本発明は、二重結合を有するポリオレフィンを連続的に製造できることで、低コストで安定的に二重結合を有するポリオレフィンを提供することが可能となる。エポキシ基、水酸基、カルボキシル基を導入して変性処理することで、接着剤、塗料、添加剤等の原材料として用いることが出来る。これはポリオレフィンの欠点である、接着性や塗装性などのほかの素材との親和性が低いことを改善できる。
【解決手段】原料ポリオレフィンを用意する工程と、用意された原料ポリオレフィンを、熱分解温度300℃以上にて連続的に熱分解する工程を含む、二重結合を有する熱分解ポリオレフィンの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料ポリオレフィンを用意する工程と、
用意された前記原料ポリオレフィンを、熱分解温度300℃以上にて連続的に熱分解する工程
を含む、二重結合を有する熱分解ポリオレフィンの製造方法。
【請求項2】
前記熱分解の温度が、300℃以上500℃以下である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記熱分解の時間が、30秒以上1200秒以下である請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記原料ポリオレフィンが、側鎖に3級炭素及び4級炭素を有さない原料ポリオレフィンである請求項1乃至3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
側鎖に3級炭素及び4級炭素を有さない前記原料ポリオレフィンが、炭素数2~10の鎖状オレフィンのモノマーを構成単位とするポリオレフィンである請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
側鎖に3級炭素及び4級炭素を有さない前記原料ポリオレフィンが、エチレン、プロピレン及び/または1-ブテンをモノマー構成単位として含む重合体であり、前記二重結合を有する熱分解ポリオレフィンが、末端にのみ二重結合を有する熱分解ポリオレフィンである請求項4または5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記原料ポリオレフィンが、側鎖に3級炭素を有する原料ポリオレフィンである請求項1乃至3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
側鎖に3級炭素を有する前記原料ポリオレフィンが、炭素数5~10の鎖状オレフィンのモノマーを構成単位とするポリオレフィン、またはシクロオレフィンポリマーである請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
側鎖に3級炭素を有する前記原料ポリオレフィンが、4-メチルペンテン及び/またはシクロオレフィンをモノマー構成単位として含む重合体であり、前記二重結合を有する熱分解ポリオレフィンが、末端及び分子鎖内部に二重結合を有する熱分解ポリオレフィンである請求項7または8に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原料ポリオレフィンから製造される二重結合を有する熱分解ポリオレフィンの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレン等のポリオレフィンは、耐油性、耐薬品性に優れ、環境負荷も低減できるといった優れた特性を有している。このようなポリオレフィンの特性を利用して、種々の用途への適用が検討されている。ポリオレフィンの種々の用途への適用にあたり、ポリオレフィンを用いてフィルム状等、所望の形状に成形した成形品を製造することがある。
【0003】
一方で、ポリオレフィンは非極性の高分子であり、かつ官能基を導くことが困難であることから、極性物質との相互作用が乏しく、極性基を有する高分子との混合が困難である。従って、ポリオレフィンは、その適用範囲が限定され、例えば、塗装性、接着性が得られないという問題点や成形品に十分な強度が得られないという問題点を有する。そこで、ポリオレフィンの適用範囲を広げるために、ポリオレフィンに極性基や官能基を導入する手法が試みられている。
【0004】
極性基や官能基をポリオレフィンに導入する方法として、特に、ポリプロピレン系樹脂において、本発明者らは、両末端二重結合含有ポリプロピレン系樹脂を効率よく得られる精密熱分解について検討してきた(非特許文献1、2)。
【0005】
また、両末端に官能基を有するポリオレフィンの合成方法として、ポリオレフィンの分解ではなく、オレフィンの重合による合成方法も報告されている(特許文献1)。
【0006】
また、特許文献2には、コルベンでポリオレフィンを熱分解することで、末端二重結合ポリオレフィンを製造する方法が記載されている。特許文献2では、一分子当たりの二重結合の数は、反応時間1.5時間で数平均分子量5000において、1000炭素当たり4.2の末端二重結合なので、一分子当たり1.5個程度であることが具体的に開示されている。上記開示内容は、両末端二重結合ポリオレフィンが、56mol%程度含まれていることが統計的に推算される。
【0007】
また、特許文献3には、管状反応器でポリオレフィンを連続的に熱減成(熱分解)することが開示されている。特許文献3で得られる低分子ポリオレフィンは、数平均分子量500~10000であるが、二重結合の数は明記されていない。また、特許文献3では、反応時間は0.5時間~10時間という長い時間を必要としている。
【0008】
両末端に二重結合等の官能基を有するポリオレフィンを製造するにあたり、オレフィンの重合では、専用の触媒を利用すること、市販されている様々なポリオレフィンに細かく対応できないことなどの問題点から実用化されていない。一方で、両末端に二重結合等の官能基を有するポリオレフィンを製造するにあたり、熱分解による製造方法は、市販の安価なポリオレフィンを利用することにより、低コストで二重結合ポリオレフィンを合成でき、市販されている様々なポリオレフィンに対応しやすいといった利点がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Macromolecules, 28, 7973(1995)
【非特許文献2】Journal of Analytical and Applied Pyrolysis, 80, 312-318(2007)
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2005-97588号公報
【特許文献2】特開平3-91547号公報
【特許文献3】特開平3-62804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記事情に鑑み、本発明は、ポリオレフィンの適用範囲を広げるために、熱分解法を用いて、二重結合を有するポリオレフィンを効率よく製造できる、二重結合を有する熱分解ポリオレフィンの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の構成の要旨は以下の通りである。
[1]原料ポリオレフィンを用意する工程と、
用意された前記原料ポリオレフィンを、熱分解温度300℃以上にて連続的に熱分解する工程を含む、二重結合を有する熱分解ポリオレフィンの製造方法。
[2]前記熱分解の温度が、300℃以上500℃以下である[1]に記載の製造方法。
[3]前記熱分解の時間が、30秒以上1200秒以下である[1]または[2]に記載の製造方法。
[4]前記原料ポリオレフィンが、側鎖に3級炭素及び4級炭素を有さない原料ポリオレフィンである[1]乃至[3]のいずれか1つに記載の製造方法。
[5]側鎖に3級炭素及び4級炭素を有さない前記原料ポリオレフィンが、炭素数2~10の鎖状オレフィンのモノマーを構成単位とするポリオレフィンである[4]に記載の製造方法。
[6]側鎖に3級炭素及び4級炭素を有さない前記原料ポリオレフィンが、エチレン、プロピレン及び/または1-ブテンをモノマー構成単位として含む重合体であり、前記二重結合を有する熱分解ポリオレフィンが、末端にのみ二重結合を有する熱分解ポリオレフィンである[4]または[5]に記載の製造方法。
[7]前記原料ポリオレフィンが、側鎖に3級炭素を有する原料ポリオレフィンである[1]乃至[3]のいずれか1つに記載の製造方法。
[8]側鎖に3級炭素を有する前記原料ポリオレフィンが、炭素数5~10の鎖状オレフィンのモノマーを構成単位とするポリオレフィン、またはシクロオレフィンポリマーである[7]に記載の製造方法。
[9]側鎖に3級炭素を有する前記原料ポリオレフィンが、4-メチルペンテン及び/またはシクロオレフィンをモノマー構成単位として含む重合体であり、前記二重結合を有する熱分解ポリオレフィンが、末端及び分子鎖内部に二重結合を有する熱分解ポリオレフィンである[7]または[8]に記載の製造方法。
【0013】
上記[1]における「連続的に熱分解」には、精密熱分解法が挙げられる。精密熱分解法とは、本発明者らが開発した精密熱分解法(高度制御熱分解法)(Macromolecules,28,7973(1995)参照。)を意味する。従って、本発明の製造方法によって得られる、二重結合を有する熱分解ポリオレフィンは、原料ポリオレフィンに対して上記精密熱分解法(高度制御熱分解法)を用いた熱分解処理を実施することで得ることができる、原料ポリオレフィンの熱分解生成物である。また、「二重結合を有する熱分解ポリオレフィン」の二重結合としては、エチレン性の二重結合が挙げられる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の二重結合を有する熱分解ポリオレフィンの製造方法の態様によれば、原料ポリオレフィンを熱分解温度300℃以上にて連続的に熱分解することにより、1分子あたりの二重結合の数が向上した二重結合を有する熱分解ポリオレフィンを、効率よく製造することができる。また、本発明の製造方法で得られる二重結合を有する熱分解ポリオレフィンの数平均分子量は、原料ポリオレフィンの数平均分子量よりも小さいので、二重結合を有する熱分解ポリオレフィンの熱溶融物は高い流動性を有している。従って、二重結合を有する熱分解ポリオレフィンは、射出成形等の際の成形性に優れている。
【0015】
本発明の製造方法で得られる二重結合を有する熱分解ポリオレフィンは、原料ポリオレフィンの融点や溶剤溶解性などの特性を維持していることから、原料ポリオレフィンの特性に応じて、耐熱性に優れた熱分解ポリオレフィンや、溶剤への溶解性に優れた熱分解ポリオレフィンなど、所望の特性を有する様々な熱分解ポリオレフィンを製造できる。
【0016】
本発明の製造方法で得られる二重結合を有する熱分解ポリオレフィンは、化学反応性に優れており、二重結合の反応性を利用することで様々な官能基への変換が可能である。例えば、熱分解ポリオレフィンの有する二重結合を、エポキシ基、水酸基、カルボキシル基などに変換することで、塗料や接着剤、樹脂への添加剤などへの応用が可能である。
【0017】
また、本発明の二重結合を有する熱分解ポリオレフィンの製造方法の態様によれば、精密熱分解法による連続的な熱分解であることにより、二重結合を有する熱分解ポリオレフィンの収率及び生産性が向上する。
【0018】
本発明の二重結合を有する熱分解ポリオレフィンの製造方法の態様によれば、熱分解の温度が300℃以上500℃以下であることにより、1分子あたりの二重結合の数がより確実に向上した二重結合を有する熱分解ポリオレフィンを、さらに効率よく製造することができつつ、生成する熱分解ポリオレフィンの熱による劣化を防止できる。
【0019】
本発明の二重結合を有する熱分解ポリオレフィンの製造方法の態様によれば、熱分解の時間が30秒以上1200秒以下であることにより、1分子あたりの二重結合の数がより確実に向上した二重結合を有する熱分解ポリオレフィンを、さらに効率よく製造することができつつ、生成する熱分解ポリオレフィンの低分子化を防止できる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の二重結合を有する熱分解ポリオレフィンの製造方法について、詳細を説明する。本発明の二重結合を有する熱分解ポリオレフィンの製造方法は、原料ポリオレフィンを用意する工程と、用意された原料ポリオレフィンを、熱分解温度300℃以上にて連続的に熱分解する工程と、を含む。
【0021】
<原料ポリオレフィン>
原料ポリオレフィンとしては、例えば、側鎖に3級炭素及び4級炭素を有さない原料ポリオレフィンが挙げられる。原料ポリオレフィンが、側鎖に3級炭素及び4級炭素を有さない化学構造の場合には、本発明の製造方法で得られる熱分解ポリオレフィンは、両末端または片末端に熱分解に由来した二重結合を有し、分子鎖内には熱分解に由来した二重結合は有さない。従って、二重結合を有する熱分解ポリオレフィンとしては、例えば、末端にのみ二重結合を有する熱分解ポリオレフィンが挙げられる。
【0022】
側鎖に3級炭素及び4級炭素を有さない原料ポリオレフィンとしては、例えば、鎖状オレフィンのポリマーが挙げられる。より具体的には、側鎖に3級炭素及び4級炭素を有さない原料ポリオレフィンとしては、例えば、炭素数2~10の鎖状オレフィンのモノマー、好ましくは炭素数3~5の鎖状オレフィンのモノマーを構成単位とするポリオレフィンが挙げられる。炭素数2~10の鎖状オレフィンのモノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン等が挙げられる。原料ポリオレフィンを構成する鎖状オレフィンのモノマーは、1種でもよく、2種以上を併用してもよい。鎖状オレフィンのモノマーが1種である原料ポリオレフィンとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(1-ブテン)等が挙げられる。鎖状オレフィンのモノマーを2種以上併用する場合には、原料ポリオレフィンは、共重合体である。
【0023】
また、原料ポリオレフィンとしては、例えば、側鎖に3級炭素を有する原料ポリオレフィンが挙げられる。原料ポリオレフィンが、側鎖に3級炭素を有する化学構造の場合には、本発明の製造方法で得られる熱分解ポリオレフィンは、両末端または片末端に熱分解に由来した二重結合を有し、また、側鎖の3級炭素の位置に対応する分子鎖内に熱分解に由来した二重結合を有する。従って、二重結合を有する熱分解ポリオレフィンとしては、例えば、末端及び分子鎖内に二重結合を有する熱分解ポリオレフィンが挙げられる。
【0024】
側鎖に3級炭素を有する原料ポリオレフィンとしては、例えば、鎖状オレフィンのポリマー、環状オレフィン(シクロオレフィン)のポリマーが挙げられる。より具体的には、側鎖に3級炭素を有する原料ポリオレフィンとしては、鎖状オレフィンのポリマーの場合には、例えば、炭素数5~10の鎖状オレフィンのモノマー、好ましくは炭素数6~8の鎖状オレフィンのモノマーを構成単位とするポリオレフィンが挙げられる。炭素数5~10の鎖状オレフィンのモノマーとしては、例えば、4-メチルペンテン等が挙げられる。原料ポリオレフィンを構成する鎖状オレフィンのモノマーは、1種でもよく、2種以上を併用してもよい。鎖状オレフィンのモノマーが1種である原料ポリオレフィンとしては、例えば、ポリ(4-メチルペンテン)等が挙げられる。
【0025】
また、側鎖に3級炭素を有する原料ポリオレフィンとしては、環状オレフィン(シクロオレフィン)のポリマーの場合には、例えば、シクロペンタン骨格を有するオレフィンのポリマーが挙げられる。環状オレフィン(シクロオレフィン)のポリマーは、環状オレフィン(シクロオレフィン)の重合体でもよく、環状オレフィン(シクロオレフィン)と上記した鎖状オレフィンとの共重合体でもよい。
【0026】
<原料ポリオレフィンを連続的に熱分解する工程>
原料ポリオレフィンを連続的に熱分解する方法としては、原料ポリオレフィンを精密熱分解用熱分解装置に供給することで、原料ポリオレフィンを精密熱分解法にて熱分解することが挙げられる。精密熱分解用熱分解装置は、特に限定されないが、回分式装置、連続式装置が挙げられる。回分式装置の一例としては、Journal of Polymer Science:Polymer Chemistry Edition, 21, 703(1983)に開示された装置を用いることができる。より具体的には、パイレックス(登録商標)ガラス製熱分解装置の反応容器内に原料ポリオレフィン(例えば、ポリプロピレン)を供給して、減圧下、溶融ポリマー相を窒素ガスで激しくバブリングし、揮発性生成物を抜き出すことにより、2次反応を抑制しながら、所定温度で所定時間、熱分解反応させる。熱分解反応終了後、反応容器中の残存物を熱キシレンに溶解し、熱時濾過後、アルコールで再沈殿させて精製する。再沈物を濾過回収して、真空乾燥することにより二重結合を有するポリオレフィン(例えば、両末端二重結合含有ポリプロピレン)が得られる。
【0027】
連続式装置は、反応容器内に原料ポリオレフィンを連続的に供給し、供給された原料ポリオレフィンを熱分解しながら、順次、反応容器の出口方向へ反応容器中を移動できる構造を有している。反応容器は、供給された原料ポリオレフィンを溶融するための予熱ゾーン、原料ポリオレフィンを熱分解するための高温加熱ゾーン、原料ポリオレフィンを固化しやすくするための予備冷却ゾーンを備えており、それぞれのゾーンは、独立していてもよく、一体型となっていてもよい。精密熱分解用熱分解装置としては、二重結合を有する熱分解ポリオレフィンの収率が向上する点、及び生産性の点から、連続式装置が好ましい。
【0028】
精密熱分解用熱分解装置の高温加熱ゾーンを加熱する方法は、特に限定されず、例えば、電気式ヒーター、火炎などが挙げられる。このうち、温度制御や安全運転の観点から、電気式ヒーターが好ましい。加えて、精密熱分解用熱分解装置内で原料ポリオレフィンを撹拌する際に発生する剪断発熱を有効に活用することも可能である。
【0029】
精密熱分解用熱分解装置内では、原料ポリオレフィンは、発生するガスの除去や熱分解を均一に進めることができる点から、撹拌されることが好ましい。原料ポリオレフィンの撹拌速度は、精密熱分解用熱分解装置の形状と撹拌羽根の形状により異なるが、発生するガスを確実に除去しつつ熱分解をより確実に均一に進める点から、50rpm以上5000rpm以下が好ましい。1000rpmを超える高回転域では剪断発熱が発生するが、発生する熱を有効に活用して効率よく加熱することが望ましい。
【0030】
熱分解条件は、原料ポリオレフィンの数平均分子量と二重結合を有する熱分解ポリプロピレンの数平均分子量とを勘案して調整する。本発明では、原料ポリオレフィンの熱分解温度は、300℃以上である。原料ポリオレフィンの熱分解温度が300℃以上であることにより、1分子あたりの二重結合の数が向上した二重結合を有する熱分解ポリオレフィンを、効率よく製造することができる。原料ポリオレフィンの熱分解温度は300℃以上であれば、特に限定されないが、例えば、熱分解反応の促進と熱分解生成物の熱による劣化防止とのバランスの点から、300℃以上500℃以下の範囲が好ましく、320℃以上480℃以下の範囲がより好ましく、370℃以上430℃以下の範囲が特に好ましい。
【0031】
また、原料ポリオレフィンの熱分解時間は、例えば、二重結合を有する熱分解生成物を確実に得つつ、熱分解生成物の低分子化よる成形品の強度低減を防止する点から、30秒以上1200秒以下が好ましく、50秒以上900秒以下が特に好ましい。
【0032】
連続式の精密熱分解用熱分解装置では、例えば、原料ポリオレフィンの単位時間あたりの供給量と押し出し速度を調整することで、原料ポリオレフィンの熱分解時間を調整することができる。
【0033】
<ポリオレフィンの特性>
原料ポリオレフィンの数平均分子量(Mn)は、特に限定されないが、熱分解による分子の切断数が少ないと熱分解ポリオレフィンの二重結合の数が少なくなるため、一定以上の分子量を有することが好ましい。原料ポリオレフィンの数平均分子量(Mn)は、例えば、二重結合の数を十分に確保する点で、20000以上1500000以下が好ましい。なお、原料ポリオレフィンの数平均分子量(Mn)を低下させることで、熱分解ポリオレフィンの二重結合の数を減らすことも可能である。また、原料ポリオレフィンとして上市されているポリオレフィンを使用する場合、コストの観点からは、最も高い数平均分子量のポリオレフィンを用いるのが好ましい。
【0034】
また、二重結合を有する熱分解ポリオレフィンの数平均分子量は、原料ポリオレフィンの数平均分子量に応じて変化し得るが、例えば、射出成形等の際の優れた成形性を確実に付与しつつ、成形品の強度を得る点から、10000以上50000以下が好ましい。一方で、二重結合を有する熱分解ポリオレフィンを塗料や接着剤の原料などとして用いる際には、反応性や溶解性の点から、1000以上20000以下が好ましい。
【0035】
二重結合を有する熱分解ポリオレフィンの分子量分布の分散度を示す、重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)の値は、特に限定されないが、例えば、1.0以上3.5以下が好ましく、1.5以上3.0以下が特に好ましい。なお、本明細書では、数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)は、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)測定により測定した分子量を意味する。
【0036】
本発明の二重結合を有する熱分解ポリオレフィンの製造方法では、原料ポリオレフィンの立体規則性及びモノマー組成を保持した化学構造を有する、二重結合を有する熱分解ポリオレフィンを得ることができる。例えば、原料ポリオレフィンが鎖状オレフィンのポリマーの場合には、熱分解生成物として二重結合を有する鎖状オレフィンのポリマーを得ることができ、原料ポリオレフィンが環状オレフィン(シクロオレフィン)のポリマーの場合には、熱分解生成物として二重結合を有する環状オレフィン(シクロオレフィン)のポリマーを得ることができる。より具体的には、原料ポリオレフィンがポリエチレンの場合には、熱分解生成物として二重結合を有するポリエチレン、原料ポリオレフィンがポリプロピレンの場合には、熱分解生成物として両末端に二重結合を有するポリプロピレン、原料ポリオレフィンがポリ(1-ブテン)の場合には、熱分解生成物として両末端に二重結合を有するポリ(1-ブテン)、原料ポリオレフィンがポリ(4-メチルペンテン)の場合には、熱分解生成物として両末端に二重結合を有し、さらに分子鎖内に二重結合を有するポリ(4-メチルペンテン)を、それぞれ得ることができる。
【0037】
<二重結合を有する熱分解ポリオレフィンの成形>
本発明の製造方法で得られた二重結合を有する熱分解ポリオレフィンを、例えば、フィルム状、シート状、ブロック状、フレーク状、粉状等、適宜の形状で二重結合を有する熱分解ポリオレフィンを用いた成形品を得ることができる。二重結合を有する熱分解ポリオレフィンを用いた成形品の成形方法としては、例えば、射出成形を挙げることができる。
【実施例0038】
次に、本発明の実施例を説明するが、本発明の趣旨を超えない限り、本発明は、実施例に限定されるものではない。
【0039】
実施例1
原料ポリオレフィンとして、イソタクチックポリプロピレン(日本ポリプロ株式会社製、ノバテックEA9、Mn=92000、Mw/Mn=5.5)を用意した。この原料ポリプロピレンを精密熱分解用の連続式熱分解装置にて、精密熱分解処理をして、熱分解生成物である両末端二重結合を有するイソタクチックポリプロピレンを得た。なお、熱分解温度は430℃とし、熱分解時間を70秒、150秒、210秒とした。熱分解時間が70秒では、原料イソタクチックポリプロピレンの供給量3Kg/hrであり、熱分解生成物1-1の数平均分子量は20000、熱分解時間が150秒では、原料イソタクチックポリプロピレンの供給量1Kg/hrであり、熱分解生成物1-2の数平均分子量が10000、熱分解時間が210秒では、原料イソタクチックポリプロピレンの供給量0.5Kg/hrであり、熱分解生成物1-3の数平均分子量が6600であった。
【0040】
熱分解生成物1-1~1-3の数平均分子量は、高温ゲル浸透クロマトグラフィ(高温GPC)測定により測定した。具体的には、装置として東ソー株式会社製「HLC-8321GPC/HT」、カラムとして、東ソー株式会社製「TSKgel GMHHR-H(20)HT」を使用した。測定方法としては、熱分解生成物1-1~1-3が溶解する溶媒としてトリクロロベンゼンを移動相とし、ポリスチレン(PS)を標準物質として用いた。検出器には、示差屈折率計を用いた。
【0041】
熱分解生成物の一分子当たりの二重結合の平均数は核磁気共鳴分光(NMR)装置で測定した。測定装置は1HNMRまたは13CNMRであり、1HNMRの場合は、二重結合と主鎖の強度比とGPCなどから求めた分子量から推算した。13CNMRの場合は、二重結合末端と飽和末端の強度比から推算した。熱分解生成物1-1~1-3の一分子当たりの末端二重結合の数は1.8であった。また、赤外分光法でもあらかじめ主鎖と二重結合の強度比から検量線を作成し、熱分解生成物の分子量が明らかにすることで二重結合の数を推算できる。
【0042】
評価項目
(1)成形性
上記のようにして得られた熱分解生成物1-1~1-3について、それぞれ、200℃にて圧縮成形(東洋精機株式会社製圧縮成形機、型番MP-WCH)することにより、縦40mm×横40mm×厚さ2mmのフィルム状の成形品を作製した。
【0043】
上記のようにして得られた各成形品に対して、成形品の状態を目視にて観察し、成形品の状態を以下の3段階で評価した。
〇:成形品に割れ、ヒビ等の欠陥が認められない。
△:成形品に若干のヒビが認められる。
×:成形品が割れている。
【0044】
(2)耐熱性(融点)
熱分解生成物1-1~1-3の融点は、示差走査熱量測定(DSC)により求めた。融点の測定には、セイコーインスツルメンツ株式会社製「DSC6100」を用いて0度から230度の温度範囲で測定した。
【0045】
(3)化学反応性
二重結合の化学反応性を評価するために、以下の反応を行った。
熱分解により得られた末端に二重結合を有するイソタクチックポリプロピレン10グラムにテトラヒドロフラン80mLを加え、ボラン・テトラヒドロフラン錯体/テトラヒドロフラン溶液(1M)20mLを加えて60℃で5時間撹拌した。その後、5NのNaOH水溶液を10mL加えた後で30質量%の過酸化水素水10mLを加えて60℃で5時間撹拌した。反応後、再沈殿精製にて二重結合がヒドロキシル基に変換されているか否かを、赤外分光法または1H-NMRにて測定し、以下のように評価した。
○:反応性あり
×:反応性なし
【0046】
実施例2
原料ポリオレフィンとして、ランダムポリプロピレンA(日本ポリプロ株式会社製、ノバテックEG8B、Mw=71000、Mw/Mn=6.2)を用意した。この原料ランダムポリプロピレンAを精密熱分解用の連続式熱分解装置にて、精密熱分解処理をして、熱分解生成物である両末端に二重結合を有するランダムポリプロピレンAを得た。なお、熱分解温度は430℃とし、熱分解時間を70秒、150秒、210秒とした。熱分解時間が70秒では、原料ランダムポリプロピレンAの供給量3Kg/hrであり、熱分解生成物2-1の数平均分子量は18000、熱分解時間が150秒では、原料ランダムポリプロピレンAの供給量1Kg/hrであり、熱分解生成物2-2の数平均分子量が8500、熱分解時間が210秒では、原料ランダムポリプロピレンAの供給量0.5Kg/hrであり、熱分解生成物2-3の数平均分子量が5300であった。なお、熱分解生成物2-1~2-3の数平均分子量は、実施例1と同様にして測定した。一分子当たりの末端二重結合の平均数は、実施例1と同様にして測定し、1.8であった。
【0047】
実施例3
原料ポリオレフィンとして、ランダムポリプロピレンB(三井化学株式会社製、タフマー、Mn=91000、Mw/Mn=2.4)を用意した。この原料ランダムポリプロピレンBを精密熱分解用の連続式熱分解装置にて、精密熱分解処理をして、熱分解生成物である両末端に二重結合を有するランダムポリプロピレンBを得た。なお、熱分解温度は430℃とし、熱分解時間を70秒、150秒、210秒とした。熱分解時間が70秒では、原料ランダムポリプロピレンBの供給量3Kg/hrであり、熱分解生成物3-1の数平均分子量は37000、熱分解時間が150秒では、原料ランダムポリプロピレンBの供給量1Kg/hrであり、熱分解生成物3-2の数平均分子量が8900、熱分解時間が210秒では、原料ランダムポリプロピレンBの供給量0.5Kg/hrであり、熱分解生成物3-3の数平均分子量が5400であった。なお、熱分解生成物3-1~3-3の数平均分子量は、実施例1と同様にして測定した。一分子当たりの末端二重結合の平均数は、実施例1と同様にして測定し、1.8であった。
【0048】
実施例4
原料ポリオレフィンとして、シクロオレフィンポリマー(日本ゼオン株式会社製、ゼオノア、Mw=33000、Mw/Mn=1.8)を用意した。この原料シクロオレフィンポリマーを精密熱分解用の連続式熱分解装置にて、精密熱分解処理をして、熱分解生成物である二重結合を有するシクロオレフィンポリマーを得た。なお、熱分解温度は430℃とし、熱分解時間を70秒、150秒、210秒とした。熱分解時間が70秒では、原料シクロオレフィンポリマーの供給量3Kg/hrであり、熱分解生成物4-1の数平均分子量は25000、熱分解時間が150秒では、原料シクロオレフィンポリマーの供給量1Kg/hrであり、熱分解生成物4-2の数平均分子量が15000、熱分解時間が210秒では、原料シクロオレフィンポリマーの供給量0.5Kg/hrであり、熱分解生成物4-3の数平均分子量が9500であった。なお、一分子当たりの二重結合の平均数は、実施例1と同様にして測定し、1.8であった。
【0049】
実施例5
原料ポリオレフィンとして、シクロオレフィンコポリマー(三井化学株式会社製、アペル、Mn=48000、Mw/Mn=2.1)を用意した。この原料シクロオレフィンコポリマーを精密熱分解用の連続式熱分解装置にて、精密熱分解処理をして、熱分解生成物である二重結合を有するシクロオレフィンコポリマーを得た。なお、熱分解温度は430℃とし、熱分解時間を70秒、150秒、210秒とした。熱分解時間が70秒では、原料シクロオレフィンコポリマーの供給量3Kg/hrであり、熱分解生成物5-1の数平均分子量は19000、熱分解時間が150秒では、原料シクロオレフィンコポリマーの供給量1Kg/hrであり、熱分解生成物5-2の数平均分子量が9800、熱分解時間が210秒では、原料シクロオレフィンコポリマーの供給量0.5Kg/hrであり、熱分解生成物5-3の数平均分子量が5500であった。なお、一分子当たりの二重結合の平均数は、実施例1と同様にして測定し、1.8あった。
【0050】
実施例6
原料ポリオレフィンとして、ポリ(4-メチルペンテン)(三井化学株式会社製、TPX、Mn=73000、Mw/Mn=7.1)を用意した。この原料ポリ(4-メチルペンテン)を精密熱分解用の連続式熱分解装置にて、精密熱分解処理をして、熱分解生成物である末端と分子鎖内部に二重結合を有するポリ(4-メチルペンテン)を得た。なお、熱分解温度は430℃とし、熱分解時間を70秒、150秒、210秒とした。熱分解時間が70秒では、原料ポリ(4-メチルペンテン)の供給量3Kg/hrであり、熱分解生成物6-1の数平均分子量は19000、熱分解時間が150秒では、原料ポリ(4-メチルペンテン)の供給量1Kg/hrであり、熱分解生成物6-2の数平均分子量が11000、熱分解時間が210秒では、原料ポリ(4-メチルペンテン)の供給量0.5Kg/hrであり、熱分解生成物6-3の数平均分子量が6800であった。なお、熱分解生成物6-1~6-3の数平均分子量は、実施例1と同様にして測定した。一分子当たりの二重結合の平均数は、実施例1と同様にして測定し、1.8であった。
【0051】
実施例7
原料ポリオレフィンとして、ポリ(1-ブテン)(三井化学株式会社製、Mn=210000、Mw/Mn=3.8)を用意した。この原料ポリ(1-ブテン)を精密熱分解用の連続式熱分解装置にて、精密熱分解処理をして、熱分解生成物である両末端に二重結合を有するポリ(1-ブテン)を得た。なお、熱分解温度は430℃とし、熱分解時間を70秒、150秒、210秒とした。熱分解時間が70秒では、原料ポリ(1-ブテン)の供給量3Kg/hrであり、熱分解生成物7-1の数平均分子量は19000、熱分解時間が150秒では、原料ポリ(1-ブテン)の供給量1Kg/hrであり、熱分解生成物7-2の数平均分子量が11000、熱分解時間が210秒では、原料ポリ(1-ブテン)の供給量0.5Kg/hrであり、熱分解生成物7-3の数平均分子量が6800であった。なお、熱分解生成物7-1~7-3の数平均分子量は、実施例1と同様にして測定した。一分子当たりの末端二重結合の平均数は、実施例1と同様にして測定し、1.8であった。
【0052】
実施例8
原料ポリオレフィンとして、ポリエチレン(プライムポリマー、ハイゼックス、Mn=210000、Mw/Mn=3.8)を用意した。この原料ポリエチレンを精密熱分解用の連続式熱分解装置にて、精密熱分解処理をして、熱分解生成物である二重結合を有するポリエチレンを得た。なお、熱分解温度は430℃とし、熱分解時間を70秒、150秒、210秒とした。熱分解時間が70秒では、原料ポリエチレンの供給量3Kg/hrであり、熱分解生成物8-1の数平均分子量は15000、熱分解時間が150秒では、原料ポリエチレンの供給量1Kg/hrであり、熱分解生成物8-2の数平均分子量が8200、熱分解時間が210秒では、原料ポリエチレンの供給量0.5Kg/hrであり、熱分解生成物8-3の数平均分子量が6100であった。なお、熱分解生成物8-1~8-3の数平均分子量は、実施例1と同様にして測定した。一分子当たりの二重結合の平均数は、実施例1と同様にして測定し、1.3であった。
【0053】
実施例9
原料ポリオレフィンとして、廃棄ポリプロピレン(主に家電由来のポリプロピレン、Mn=53000、Mw/Mn=5.4)を用意した。この原料廃棄ポリプロピレンを精密熱分解用の連続式熱分解装置にて、精密熱分解処理をして、熱分解生成物である二重結合を有する廃棄ポリプロピレンを得た。なお、熱分解温度は430℃とし、熱分解時間を70秒、150秒、210秒とした。熱分解時間が70秒では、原料廃棄ポリプロピレンの供給量3Kg/hrであり、熱分解生成物9-1の数平均分子量は13000、熱分解時間が150秒では、原料廃棄ポリプロピレンの供給量1Kg/hrであり、熱分解生成物9-2の数平均分子量が8100、熱分解時間が210秒では、原料廃棄ポリプロピレンの供給量0.5Kg/hrであり、熱分解生成物9-3の数平均分子量が3900であった。なお、熱分解生成物9-1~9-3の数平均分子量は、実施例1と同様にして測定した。一分子当たりの二重結合の平均数は、実施例1と同様にして測定し、1.6であった。
【0054】
実施例10
原料ポリオレフィンとして、廃棄ポリエチレン(主に包装材由来のポリエチレン、Mn=25000、Mw/Mn=5.4)を用意した。この原料廃棄ポリエチレンを精密熱分解用の連続式熱分解装置にて、精密熱分解処理をして、熱分解生成物である二重結合を有する廃棄ポリエチレンを得た。なお、熱分解温度は430℃とし、熱分解時間を70秒、150秒、210秒とした。熱分解時間が70秒では、原料廃棄ポリエチレンの供給量3Kg/hrであり、熱分解生成物10-1の数平均分子量は11000、熱分解時間が150秒では、原料廃棄ポリエチレンの供給量1Kg/hrであり、熱分解生成物10-2の数平均分子量が7300、熱分解時間が210秒では、原料廃棄ポリエチレンの供給量0.5Kg/hrであり、熱分解生成物10-3の数平均分子量が4100であった。なお、熱分解生成物10-1~10-3の数平均分子量は、実施例1と同様にして測定した。一分子当たりの二重結合の平均数は、実施例1と同様にして測定し、1.2であった。
【0055】
比較例1
原料ポリオレフィンとして、イソタクチックポリプロピレン(日本ポリプロ株式会社製、ノバテックEA9、Mn=92000、Mw/Mn=5.5)を用意した。この原料イソタクチックポリプロピレンを精密熱分解用の連続式熱分解装置にて、精密熱分解処理をして、熱分解生成物である両末端に二重結合を有するイソタクチックポリプロピレンを得た。なお、熱分解温度は280℃とし、熱分解時間を70秒とした。熱分解時間が70秒では、原料ランダムポリプロピレンの供給量3Kg/hrであり、熱分解生成物C1-1の数平均分子量は87000であった。なお、熱分解生成物C1-1の数平均分子量は、実施例1と同様にして測定した。一分子当たりの末端二重結合の平均数は、実施例1と同様にして測定したが、二重結合の濃度が低く、検出できなかった。
【0056】
比較例2
市販の熱分解ポリプロピレン(三井化学株式会社製、ハイワックス、NP055)の数平均分子量は、実施例1と同様にして測定し、6800であった。一分子当たりの末端二重結合の平均数は、実施例1と同様にして測定し1.3であった。
【0057】
比較例3
市販の熱分解ポリプロピレン(三洋化学株式会社製、ビスコール、660-P)の数平均分子量は、実施例1と同様にして測定し、7400であった。一分子当たりの末端二重結合の平均数は、実施例1と同様にして測定し1.3であった。
【0058】
上記実施例2~10及び比較例1~3についても、実施例1と同様にして、成形性、耐熱性(融点)及び化学反応性を評価した。
【0059】
実施例1~10及び比較例1~3の評価結果を下記表1、表2に示す。なお、表1、表2中の重量平均分子量は、数平均分子量と同じく、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)測定により測定した。
【0060】
【0061】
【0062】
上記表1から、原料ポリオレフィンを430℃にて連続的に熱分解して二重結合を有する熱分解ポリオレフィンを製造した実施例1~10では、熱分解時間70秒~210秒のいずれでも、熱分解ポリオレフィンから、ヒビ等の欠陥や割れが防止されたフィルムを成形することができ、成形性に優れていた。また、実施例1~10では、熱分解時間70秒で、原料と比較した融点の低下が15℃以下にとどまり、耐熱性にも優れていることが判明した。また、実施例1~10で得られた熱分解ポリオレフィンでは、化学反応性にも優れており、熱分解ポリオレフィンにエポキシ基、水酸基、カルボキシル基等を導入して変性処理することで、接着剤、塗料、添加剤等の原材料として用いることができることが判明した。
【0063】
一方で、上記表2から、原料ポリオレフィンを280℃と300℃未満の温度にて連続的に熱分解して二重結合を有する熱分解ポリオレフィンを製造した比較例1では、成形性と耐熱性は得られたが、二重結合の数が少なく、化学反応性が得られなかった。従って、比較例1では、熱分解ポリオレフィンにエポキシ基、水酸基、カルボキシル基等を導入して変性処理することで、接着剤、塗料、添加剤等の原材料として用いることが難しいことが判明した。また、市販の熱分解ポリプロピレンを使用した比較例2、3では、耐熱性と化学反応性は得られたが、成形性が得られなかった。
本発明は、二重結合を有するポリオレフィンを連続的に製造できることで、低コストで安定的に二重結合を有するポリオレフィンを提供することが可能となる。従って、熱分解ポリオレフィンにエポキシ基、水酸基、カルボキシル基等を導入して変性処理することで、接着剤、塗料、添加剤等の原材料として用いることができる。これにより、従来のポリオレフィンの欠点であった、接着性や塗装性などのほかの素材との親和性が低いことを改善できる。例えば、ポリプロピレンと炭素繊維との密着性を改善し、炭素繊維強化ポリプロピレンの強度向上が期待できる。