(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022029376
(43)【公開日】2022-02-17
(54)【発明の名称】官能基化ポリオレフィン及び官能基化ポリオレフィンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 8/46 20060101AFI20220209BHJP
C08F 10/00 20060101ALI20220209BHJP
C08F 8/50 20060101ALI20220209BHJP
【FI】
C08F8/46
C08F10/00 510
C08F8/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020132706
(22)【出願日】2020-08-04
(71)【出願人】
【識別番号】596056896
【氏名又は名称】株式会社三栄興業
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100143959
【弁理士】
【氏名又は名称】住吉 秀一
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 大輔
(72)【発明者】
【氏名】高村 厚
【テーマコード(参考)】
4J100
【Fターム(参考)】
4J100AA03P
4J100AA17P
4J100AR00P
4J100BA15H
4J100CA01
4J100CA11
4J100CA27
4J100CA31
4J100DA01
4J100DA04
4J100DA24
4J100HA62
4J100HC30
4J100HE17
4J100HE32
(57)【要約】
【課題】分子量の低下と融点の低下が防止され、耐熱性に優れた成形品を得ることができるマレイン酸変性ポリオレフィン及びマレイン酸変性ポリオレフィンの製造方法を提供する。
【解決手段】ポリオレフィンの熱分解により得られた、少なくともポリオレフィン鎖の主鎖の末端に二重結合を有する二重結合含有ポリオレフィンと、マレイン酸及び/または無水マレイン酸と、の反応生成物であり、数平均分子量が3,000以上、マレイン酸含量が0.5質量%以上5.0質量%以下である、マレイン酸変性ポリオレフィン。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィンの熱分解により得られた、少なくともポリオレフィン鎖の主鎖の末端に二重結合を有する二重結合含有ポリオレフィンと、マレイン酸及び/または無水マレイン酸と、の反応生成物であり、数平均分子量が3,000以上、マレイン酸含量が0.5質量%以上5.0質量%以下である、マレイン酸変性ポリオレフィン。
【請求項2】
前記マレイン酸変性ポリオレフィンの側鎖が、前記マレイン酸及び/または無水マレイン酸で変性されていない請求項1に記載のマレイン酸変性ポリオレフィン。
【請求項3】
前記マレイン酸変性ポリオレフィンのポリオレフィン鎖の主鎖の末端のみが、前記マレイン酸及び/または無水マレイン酸で変性されている請求項2に記載のマレイン酸変性ポリオレフィン。
【請求項4】
前記マレイン酸変性ポリオレフィンのポリオレフィン鎖が、炭素数2~10の鎖状オレフィンのモノマーを構成単位とするポリオレフィン鎖である請求項2または3に記載のマレイン酸変性ポリオレフィン。
【請求項5】
前記炭素数2~10の鎖状オレフィンのモノマーが、エチレン、プロピレン及び/または1-ブテンである請求項4に記載のマレイン酸変性ポリオレフィン。
【請求項6】
前記マレイン酸変性ポリオレフィンの側鎖が、前記マレイン酸及び/または無水マレイン酸で変性されている請求項1に記載のマレイン酸変性ポリオレフィン。
【請求項7】
前記マレイン酸変性ポリオレフィンのポリオレフィン鎖の主鎖の末端と側鎖が、前記マレイン酸及び/または無水マレイン酸で変性されている請求項6に記載のマレイン酸変性ポリオレフィン。
【請求項8】
前記マレイン酸変性ポリオレフィンのポリオレフィン鎖が、炭素数5~10の鎖状オレフィンのモノマーを構成単位とするポリオレフィン鎖またはシクロオレフィンポリマーである請求項6または7に記載のマレイン酸変性ポリオレフィン。
【請求項9】
前記炭素数5~10の鎖状オレフィンのモノマーが、4-メチルペンテンである請求項8に記載のマレイン酸変性ポリオレフィン。
【請求項10】
ポリオレフィンの熱分解により得られた、数平均分子量が3,000以上である、少なくともポリオレフィン鎖の主鎖の末端に二重結合を有する二重結合含有ポリオレフィンを用意する工程と、
用意された前記二重結合含有ポリオレフィンを加熱処理することにより溶融して、二重結合含有ポリオレフィンの溶融物を得る工程と、
前記二重結合含有ポリオレフィンの溶融物に、有機過酸化物の不存在下、マレイン酸及び/または無水マレイン酸を添加して、前記二重結合含有ポリオレフィンを、前記マレイン酸及び/または無水マレイン酸と反応させて前記マレイン酸及び/または無水マレイン酸で変性する工程と、
を含む、数平均分子量が3,000以上、マレイン酸含量が0.5質量%以上5.0質量%以下である、マレイン酸変性ポリオレフィンの製造方法。
【請求項11】
前記二重結合含有ポリオレフィンの溶融物が、有機溶媒を含まない請求項10に記載のマレイン酸変性ポリオレフィンの製造方法。
【請求項12】
前記二重結合含有ポリオレフィンの側鎖が二重結合を有しておらず、前記側鎖を前記マレイン酸及び/または無水マレイン酸で変性しない請求項10または11に記載のマレイン酸変性ポリオレフィンの製造方法。
【請求項13】
前記二重結合含有ポリオレフィンの主鎖の末端のみが二重結合を有しており、前記主鎖の末端のみを前記マレイン酸及び/または無水マレイン酸で変性する請求項12に記載のマレイン酸変性ポリオレフィンの製造方法。
【請求項14】
前記二重結合含有ポリオレフィン及び前記マレイン酸変性ポリオレフィンのポリオレフィン鎖が、炭素数2~10の鎖状オレフィンのモノマーを構成単位とするポリオレフィン鎖である請求項12または13に記載のマレイン酸変性ポリオレフィンの製造方法。
【請求項15】
前記炭素数2~10の鎖状オレフィンのモノマーが、エチレン、プロピレン及び/または1-ブテンである請求項14に記載のマレイン酸変性ポリオレフィンの製造方法。
【請求項16】
前記二重結合含有ポリオレフィンの側鎖が二重結合を有しており、前記側鎖を、前記マレイン酸及び/または無水マレイン酸で変性する請求項10または11に記載のマレイン酸変性ポリオレフィンの製造方法。
【請求項17】
前記二重結合含有ポリオレフィンの主鎖の末端と側鎖が二重結合を有しており、前記主鎖の末端と前記側鎖を前記マレイン酸及び/または無水マレイン酸で変性する請求項16に記載のマレイン酸変性ポリオレフィンの製造方法。
【請求項18】
前記二重結合含有ポリオレフィン及び前記マレイン酸変性ポリオレフィンのポリオレフィン鎖が、炭素数5~10の鎖状オレフィンのモノマーを構成単位とするポリオレフィン鎖またはシクロオレフィンポリマーである請求項16または17に記載のマレイン酸変性ポリオレフィンの製造方法。
【請求項19】
前記炭素数5~10の鎖状オレフィンのモノマーが、4-メチルペンテンである請求項18に記載のマレイン酸変性ポリオレフィンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、官能基化ポリオレフィンであるマレイン酸変性ポリオレフィン及び官能基化ポリオレフィンであるマレイン酸変性ポリオレフィンの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレン等のポリオレフィンは、耐油性、耐薬品性に優れ、環境負荷も低減できるといった優れた特性を有している。このようなポリオレフィンの特性を利用して、ポリマー組成物に配合する添加剤等、種々の用途への適用が検討されている。
【0003】
しかしながら、ポリオレフィンは非極性の高分子であり、かつ官能基を導くことが困難であることから、極性基や官能基を有する高分子化合物との相互作用が乏しく、それらとの混合が困難であるので、適用範囲が限定されるという問題がある。ポリオレフィンの適用範囲を広げるために、例えば、ポリオレフィンに極性基や官能基を導入する手法が試みられている。
【0004】
極性基や官能基を導入したポリオレフィン、例えば、両末端部に極性基や官能基を有するポリオレフィン誘導体として、本発明者らは、ポリオレフィンの精密熱分解により得られる両末端二重結合含有ポリオレフィンを出発原料として、両末端がマレイン化されたマレイン化オリゴオレフィンとジアミノアルキルポリジメチルシロキサンとを共重合させたマルチブロック共重合体を提案している(特許文献1)。
【0005】
また、ポリオレフィンを熱減成して得られる末端二重結合ポリオレフィンから酸変性した低分子量ポリオレフィンを製造することが提案されている(特許文献2)。特許文献2では、実施例にて、数平均分子量5000の低分子量ポリプロピレンから酸価13.2の無水マレイン酸変性低分子量ポリプロピレンを製造している。無水マレイン酸変性低分子量ポリプロピレンの酸含有量は1.7%、一分子当たりのマレイン酸量は1.2個程度である。反応条件は、反応温度195℃であり、反応時間は10時間と長時間が必要となっている。
【0006】
また、酸変性ポリオレフィンの製造方法としては、一般的には、原料ポリオレフィンに無水マレイン酸と有機過酸化物を添加し、二軸押出機などを用いて溶融混練することが開示されている(特許文献3)。しかし、有機過酸化物を添加する特許文献3では、無水マレイン酸の導入量はポリオレフィン1分子当たり1個以下となり、ポリオレフィン分子鎖のランダムな位置に無水マレイン酸が導入され、また、ポリオレフィンが低分子量となってしまう。
【0007】
ポリオレフィン分子鎖のランダムな位置に無水マレイン酸が導入され、また、酸変性ポリオレフィンが低分子量であると、酸変性ポリオレフィンの融点が低下することで耐熱性が得られないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002-161141号公報
【特許文献2】特開平3-91547号公報
【特許文献3】特開2017-171828号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記事情に鑑み、本発明は、分子量の低下と融点の低下が防止され、耐熱性に優れた成形品を得ることができる、官能基化ポリオレフィンであるマレイン酸変性ポリオレフィン及び官能基化ポリオレフィンであるマレイン酸変性ポリオレフィンの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の構成の要旨は以下の通りである。
[1]ポリオレフィンの熱分解により得られた、少なくともポリオレフィン鎖の主鎖の末端に二重結合を有する二重結合含有ポリオレフィンと、マレイン酸及び/または無水マレイン酸と、の反応生成物であり、数平均分子量が3,000以上、マレイン酸含量が0.5質量%以上5.0質量%以下である、マレイン酸変性ポリオレフィン。
[2]前記マレイン酸変性ポリオレフィンの側鎖が、前記マレイン酸及び/または無水マレイン酸で変性されていない[1]に記載のマレイン酸変性ポリオレフィン。
[3]前記マレイン酸変性ポリオレフィンのポリオレフィン鎖の主鎖の末端のみが、前記マレイン酸及び/または無水マレイン酸で変性されている[2]に記載のマレイン酸変性ポリオレフィン。
[4]前記マレイン酸変性ポリオレフィンのポリオレフィン鎖が、炭素数2~10の鎖状オレフィンのモノマーを構成単位とするポリオレフィン鎖である[2]または[3]に記載のマレイン酸変性ポリオレフィン。
[5]前記炭素数2~10の鎖状オレフィンのモノマーが、エチレン、プロピレン及び/または1-ブテンである[4]に記載のマレイン酸変性ポリオレフィン。
[6]前記マレイン酸変性ポリオレフィンの側鎖が、前記マレイン酸及び/または無水マレイン酸で変性されている[1]に記載のマレイン酸変性ポリオレフィン。
[7]前記マレイン酸変性ポリオレフィンのポリオレフィン鎖の主鎖の末端と側鎖が、前記マレイン酸及び/または無水マレイン酸で変性されている[6]に記載のマレイン酸変性ポリオレフィン。
[8]前記マレイン酸変性ポリオレフィンのポリオレフィン鎖が、炭素数5~10の鎖状オレフィンのモノマーを構成単位とするポリオレフィン鎖またはシクロオレフィンポリマーである[6]または[7]に記載のマレイン酸変性ポリオレフィン。
[9]前記炭素数5~10の鎖状オレフィンのモノマーが、4-メチルペンテンである[8]に記載のマレイン酸変性ポリオレフィン。
[10]ポリオレフィンの熱分解により得られた、数平均分子量が3,000以上である、少なくともポリオレフィン鎖の主鎖の末端に二重結合を有する二重結合含有ポリオレフィンを用意する工程と、
用意された前記二重結合含有ポリオレフィンを加熱処理することにより溶融して、二重結合含有ポリオレフィンの溶融物を得る工程と、
前記二重結合含有ポリオレフィンの溶融物に、有機過酸化物の不存在下、マレイン酸及び/または無水マレイン酸を添加して、前記二重結合含有ポリオレフィンを、前記マレイン酸及び/または無水マレイン酸と反応させて前記マレイン酸及び/または無水マレイン酸で変性する工程を含む、数平均分子量が3,000以上、マレイン酸含量が0.5質量%以上5.0質量%以下である、マレイン酸変性ポリオレフィンの製造方法。
[11]前記二重結合含有ポリオレフィンの溶融物が、有機溶媒を含まない[10]に記載のマレイン酸変性ポリオレフィンの製造方法。
[12]前記二重結合含有ポリオレフィンの側鎖が二重結合を有しておらず、前記側鎖を前記マレイン酸及び/または無水マレイン酸で変性しない[10]または[11]に記載のマレイン酸変性ポリオレフィンの製造方法。
[13]前記二重結合含有ポリオレフィンの主鎖の末端のみが二重結合を有しており、前記主鎖の末端のみを前記マレイン酸及び/または無水マレイン酸で変性する[12]に記載のマレイン酸変性ポリオレフィンの製造方法。
[14]前記二重結合含有ポリオレフィン及び前記マレイン酸変性ポリオレフィンのポリオレフィン鎖が、炭素数2~10の鎖状オレフィンのモノマーを構成単位とするポリオレフィン鎖である[12]または[13]に記載のマレイン酸変性ポリオレフィンの製造方法。
[15]前記炭素数2~10の鎖状オレフィンのモノマーが、エチレン、プロピレン及び/または1-ブテンである[14]に記載のマレイン酸変性ポリオレフィンの製造方法。
[16]前記二重結合含有ポリオレフィンの側鎖が二重結合を有しており、前記側鎖を、前記マレイン酸及び/または無水マレイン酸で変性する[10]または[11]に記載のマレイン酸変性ポリオレフィンの製造方法。
[17]前記二重結合含有ポリオレフィンの主鎖の末端と側鎖が二重結合を有しており、前記主鎖の末端と前記側鎖を前記マレイン酸及び/または無水マレイン酸で変性する[16]に記載のマレイン酸変性ポリオレフィンの製造方法。
[18]前記二重結合含有ポリオレフィン及び前記マレイン酸変性ポリオレフィンのポリオレフィン鎖が、炭素数5~10の鎖状オレフィンのモノマーを構成単位とするポリオレフィン鎖またはシクロオレフィンポリマーである[16]または[17]に記載のマレイン酸変性ポリオレフィンの製造方法。
[19]前記炭素数5~10の鎖状オレフィンのモノマーが、4-メチルペンテンである[18]に記載のマレイン酸変性ポリオレフィンの製造方法。
【0011】
上記態様における「熱分解」とは、精密熱分解が挙げられる。精密熱分解とは、本発明者らが開発した精密熱分解法(高度制御熱分解法)(Macromolecules,28,7973(1995)参照。)による熱分解を意味する。従って、「ポリオレフィンの熱分解により得られた、少なくともポリオレフィン鎖の主鎖の末端に二重結合を有する二重結合含有ポリオレフィン」は、原料ポリオレフィンに対して上記精密熱分解法(高度制御熱分解法)を用いた熱分解処理を実施することで得ることができる、原料ポリオレフィンの熱分解生成物である。また、「二重結合含有ポリオレフィン」の二重結合としては、エチレン性の二重結合が挙げられる。
【0012】
なお、本明細書中、「マレイン酸変性ポリオレフィン」とは、マレイン酸及び/または無水マレイン酸で変性されたポリオレフィンを意味する。
【発明の効果】
【0013】
本発明のマレイン酸変性ポリオレフィンの態様によれば、ポリオレフィンの熱分解により得られた、少なくともポリオレフィン鎖の主鎖の末端に二重結合を有する二重結合含有ポリオレフィンと、マレイン酸及び/または無水マレイン酸と、の反応生成物であり、数平均分子量が3,000以上、マレイン酸含量が0.5質量%以上5.0質量%以下であることにより、分子量の低下と融点の低下が防止されているので、耐熱性に優れた成形品を得ることができる。
【0014】
本発明のマレイン酸変性ポリオレフィンの製造方法の態様によれば、変性対象である二重結合含有ポリオレフィンを加熱処理により溶融物の状態として、有機過酸化物の不存在下、マレイン酸及び/または無水マレイン酸を添加することにより、二重結合含有ポリオレフィンの分子量と融点と比較して、分子量の低下と融点の低下が防止されたマレイン酸変性ポリオレフィンを得ることができる。従って、上記製造方法で得られたマレイン酸変性ポリオレフィンを用いて、耐熱性に優れた成形品を形成することができる。
【0015】
本発明のマレイン酸変性ポリオレフィンの製造方法で、分子量の低下と融点の低下が防止されたマレイン酸変性ポリオレフィンを得ることができるのは、有機過酸化物の不存在下で、二重結合含有ポリオレフィンの溶融物をマレイン酸及び/または無水マレイン酸で変性することから、変性対象である二重結合含有ポリオレフィンのランダムな位置にマレイン酸及び/または無水マレイン酸が導入されることを抑制し、また、変性対象である二重結合含有ポリオレフィンの分解を適度に抑制するためと考えられる。なお、一般的に、マレイン酸及び/または無水マレイン酸の導入量が多くなると、マレイン酸変性ポリオレフィンの融点が低下する傾向がある。
【0016】
本発明のマレイン酸変性ポリオレフィンの製造方法の態様によれば、二重結合含有ポリオレフィンの溶融物が有機溶媒を含まないことにより、有機過酸化物の不存在下でも、より確実に、変性対象である二重結合含有ポリオレフィンをマレイン酸及び/または無水マレイン酸で変性することができる。なお、変性対象である二重結合含有ポリオレフィンの二重結合の一部をマレイン酸及び/または無水マレイン酸で変性することで、二重結合を有しつつマレイン酸及び/または無水マレイン酸が導入されたマレイン酸変性ポリオレフィンを得ることができる。さらに、マレイン酸変性ポリオレフィンの分子中の二重結合を使って、マレイン酸変性ポリオレフィンに、さらにマレイン酸及び/または無水マレイン酸を導入することも可能である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<マレイン酸変性ポリオレフィン>
まず、本発明のマレイン酸変性ポリオレフィンについて説明する。本発明のマレイン酸変性ポリオレフィンは、ポリオレフィンの熱分解により得られた、少なくともポリオレフィン鎖の主鎖の末端に二重結合を有する二重結合含有ポリオレフィンと、マレイン酸及び/または無水マレイン酸と、の反応生成物であり、数平均分子量が3,000以上、マレイン酸含量が0.5質量%以上5.0質量%以下である。
【0018】
本発明のマレイン酸変性ポリオレフィンは、変性対象である二重結合含有ポリオレフィンの二重結合にマレイン酸及び/または無水マレイン酸が付加することで、ポリオレフィン骨格にマレイン酸及び/または無水マレイン酸が導入された化合物である。従って、本発明のマレイン酸変性ポリオレフィンは、少なくともポリオレフィン鎖の主鎖の末端にマレイン酸及び/または無水マレイン酸が導入されている。
【0019】
本発明のマレイン酸変性ポリオレフィンとしては、例えば、マレイン酸変性ポリオレフィンの側鎖が、マレイン酸及び/または無水マレイン酸で変性されていないマレイン酸変性ポリオレフィンを挙げることができる。側鎖がマレイン酸及び/または無水マレイン酸で変性されていないマレイン酸変性ポリオレフィンとしては、主鎖の末端のみが、マレイン酸及び/または無水マレイン酸で変性されているポリオレフィンが挙げられる。主鎖の末端のみがマレイン酸及び/または無水マレイン酸で変性されている化学構造としては、主鎖の片末端のみがマレイン酸及び/または無水マレイン酸で変性されていてもよく、主鎖の両末端ともにマレイン酸及び/または無水マレイン酸で変性されていてもよい。
【0020】
側鎖がマレイン酸及び/または無水マレイン酸で変性されていないマレイン酸変性ポリオレフィンのポリオレフィン鎖としては、例えば、鎖状オレフィンのポリマーが挙げられる。より具体的には、例えば、炭素数2~10の鎖状オレフィンのモノマーを構成単位とするポリオレフィン鎖、好ましくは炭素数3~5の鎖状オレフィンのモノマーを構成単位とするポリオレフィン鎖が挙げられる。炭素数2~10の鎖状オレフィンのモノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン等が挙げられる。側鎖がマレイン酸及び/または無水マレイン酸で変性されていないマレイン酸変性ポリオレフィンのポリオレフィン鎖を構成する鎖状オレフィンのモノマーは、1種でもよく、2種以上を併用してもよい。鎖状オレフィンのモノマーが1種であるポリオレフィン鎖としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(1-ブテン)等が挙げられる。鎖状オレフィンのモノマーを2種以上併用する場合には、ポリオレフィン鎖は、共重合体である。
【0021】
また、本発明のマレイン酸変性ポリオレフィンとしては、例えば、側鎖がマレイン酸及び/または無水マレイン酸で変性されているマレイン酸変性ポリオレフィンを挙げることができる。上記マレイン酸変性ポリオレフィンでは、側鎖がマレイン酸及び/または無水マレイン酸で変性されているので、分子鎖中にマレイン酸の化学構造が導入されている。側鎖がマレイン酸及び/または無水マレイン酸で変性されているマレイン酸変性ポリオレフィンとしては、マレイン酸変性ポリオレフィンのポリオレフィン鎖の主鎖の末端と側鎖とが、マレイン酸及び/または無水マレイン酸で変性されているポリオレフィンが挙げられる。主鎖の末端がマレイン酸及び/または無水マレイン酸で変性されている化学構造としては、主鎖の片末端のみがマレイン酸及び/または無水マレイン酸で変性されていてもよく、主鎖の両末端ともにマレイン酸及び/または無水マレイン酸で変性されていてもよい。
【0022】
側鎖がマレイン酸及び/または無水マレイン酸で変性されているマレイン酸変性ポリオレフィンのポリオレフィン鎖としては、例えば、鎖状オレフィンのポリマー、環状オレフィン(シクロオレフィン)のポリマーが挙げられる。より具体的には、例えば、鎖状オレフィンのポリマーの場合には、例えば、炭素数5~10の鎖状オレフィンのモノマーを構成単位とするポリオレフィン鎖、好ましくは炭素数6~8の鎖状オレフィンのモノマーを構成単位とするポリオレフィン鎖が挙げられる。炭素数5~10の鎖状オレフィンのモノマーとしては、例えば、4-メチルペンテン等が挙げられる。側鎖がマレイン酸及び/または無水マレイン酸で変性されているマレイン酸変性ポリオレフィンのポリオレフィン鎖を構成する鎖状オレフィンのモノマーは、1種でもよく、2種以上を併用してもよい。鎖状オレフィンのモノマーが1種であるポリオレフィン鎖としては、例えば、ポリ(4-メチルペンテン)等が挙げられる。
【0023】
側鎖がマレイン酸及び/または無水マレイン酸で変性されているマレイン酸変性ポリオレフィンのポリオレフィン鎖としては、環状オレフィン(シクロオレフィン)のポリマーの場合には、例えば、シクロペンタン骨格を有するオレフィンのポリマーが挙げられる。環状オレフィン(シクロオレフィン)のポリマーは、環状オレフィン(シクロオレフィン)の重合体でもよく、環状オレフィン(シクロオレフィン)と上記した鎖状オレフィンとの共重合体でもよい。
【0024】
本発明のマレイン酸変性ポリオレフィンの数平均分子量(Mn)は、3,000以上である。マレイン酸変性ポリオレフィンの数平均分子量が3,000以上であることにより、ポリエステルやポリウレタンなどのプレポリマーとして用いることで、耐熱性に優れた成形品を形成することができる。マレイン酸変性ポリオレフィンの数平均分子量は、3,000以上であれば、特に限定されないが、その下限値は、耐熱性をより確実に得る点から、4,000が好ましく、5,000がより好ましい。一方で、マレイン酸変性ポリオレフィンの数平均分子量の上限値は、マレイン酸変性ポリオレフィンの熱溶融物に流動性を付与して射出成形等の際の成形性を確実に得る点とマレイン酸の導入効果を得る点から、40,000が好ましく、30,000が特に好ましい。なお、本明細書では、数平均分子量(Mn)は、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)測定により測定した分子量を意味する。
【0025】
本発明のマレイン酸変性ポリオレフィンのマレイン酸及び/または無水マレイン酸の導入量(マレイン酸含量)は、マレイン酸変性ポリオレフィン1分子あたり、すなわち、マレイン酸変性ポリオレフィン100質量%中に、0.5質量%以上5.0質量%以下であれば、特に限定されないが、その下限値は、高分子化合物との相互作用性を得てポリオレフィンの適用範囲を確実に広げる点から、マレイン酸変性ポリオレフィン1分子あたり、0.6質量%が好ましく、0.8質量%がより好ましく、1.0質量%が特に好ましい。一方で、マレイン酸及び/または無水マレイン酸の導入量(マレイン酸含量)の上限値は、融点の低下を確実に防止する点から、マレイン酸変性ポリオレフィン1分子あたり、4.5質量%が好ましく、4.0質量%が特に好ましい。なお、マレイン酸及び/または無水マレイン酸の導入量は、酸価の測定や赤外分光法にて測定することができる。
【0026】
<マレイン酸変性ポリオレフィンの製造方法>
次に、本発明の数平均分子量が3,000以上、マレイン酸含量が0.5質量%以上5.0質量%以下であるマレイン酸変性ポリオレフィンの製造方法について説明する。本発明のマレイン酸変性ポリオレフィンの製造方法は、(1)ポリオレフィンの熱分解により得られた、数平均分子量が3,000以上である、少なくともポリオレフィン鎖の主鎖の末端に二重結合を有する二重結合含有ポリオレフィンを用意する工程(二重結合含有ポリオレフィン用意工程)と、(2)用意された前記二重結合含有ポリオレフィンを加熱処理することにより溶融して、二重結合含有ポリオレフィンの溶融物を得る工程(二重結合含有ポリオレフィン溶融工程)と、(3)前記二重結合含有ポリオレフィンの溶融物に、有機過酸化物の不存在下、マレイン酸及び/または無水マレイン酸を添加する工程(マレイン酸添加工程)と、(4)前記二重結合含有ポリオレフィンを、前記マレイン酸及び/または無水マレイン酸と反応させて前記マレイン酸及び/または無水マレイン酸で変性する工程(変性工程)と、含む。
【0027】
(1)二重結合含有ポリオレフィン用意工程
二重結合含有ポリオレフィン用意工程では、マレイン酸及び/または無水マレイン酸での変性対象である二重結合含有ポリオレフィンを用意する。用意する二重結合含有ポリオレフィンは、少なくともポリオレフィン鎖の主鎖の末端に二重結合を有する。二重結合含有ポリオレフィンは、原料ポリオレフィンの熱分解により得られるポリオレフィンである。「熱分解」とは、上記の通り、精密熱分解が挙げられる。
【0028】
精密熱分解は、精密熱分解用熱分解装置にて実施することができる。精密熱分解用熱分解装置は、特に限定されないが、回分式装置、連続式装置が挙げられる。回分式装置の一例としては、Journal of Polymer Science:Polymer Chemistry Edition, 21, 703(1983)に開示された装置を用いることができる。より具体的には、パイレックス(登録商標)ガラス製熱分解装置の反応容器内に原料ポリオレフィン(例えば、ポリプロピレン)を供給して、減圧下、溶融ポリマー相を窒素ガスで激しくバブリングし、揮発性生成物を抜き出すことにより、2次反応を抑制しながら、所定温度で所定時間、熱分解反応させる。熱分解反応終了後、反応容器中の残存物を熱キシレンに溶解し、熱時濾過後、アルコールで再沈殿させて精製する。再沈殿物を濾過回収して、真空乾燥することにより二重結合含有ポリオレフィン(例えば、両末端二重結合含有ポリプロピレン)が得られる。
【0029】
連続式装置は、反応容器内に原料ポリオレフィンを連続的に供給し、供給された原料ポリオレフィンを熱分解しながら、順次、反応容器の出口方向へ反応容器中を移動できる構造を有している。反応容器は、供給された原料ポリオレフィンを溶融するための予熱ゾーン、原料ポリオレフィンを熱分解するための高温加熱ゾーン、原料ポリオレフィンを固化しやすくするための予備冷却ゾーンを備えており、それぞれのゾーンは、独立していてもよく、一体型となっていてもよい。精密熱分解用熱分解装置としては、二重結合含有ポリオレフィンの収率が向上する点、及び生産性の点から、連続式装置が好ましい。
【0030】
精密熱分解用熱分解装置の高温加熱ゾーンを加熱する方法は、特に限定されず、例えば、電気式ヒーター、火炎などが挙げられる。このうち、温度制御や安全運転の観点から、電気式ヒーターが好ましい。加えて、精密熱分解用熱分解装置内で原料ポリオレフィンを撹拌する際に発生する剪断発熱を有効に活用することも可能である。
【0031】
精密熱分解用熱分解装置内では、原料ポリオレフィンは、発生するガスの除去や熱分解を均一に進めることができる点から、撹拌されることが好ましい。原料ポリオレフィンの撹拌速度は、精密熱分解用熱分解装置の形状と撹拌羽根の形状により適宜選択可能であり、発生するガスを確実に除去しつつ熱分解をより確実に均一に進める点から、50rpm以上5000rpm以下が好ましい。1000rpmを超える高回転域では剪断発熱が発生するが、発生する熱を有効に活用して効率よく加熱することが望ましい。
【0032】
熱分解条件は、熱分解前の原料ポリオレフィンの分子量から二重結合含有ポリオレフィンの分子量を予測し、予め実施した実験の結果を勘案して調整する。熱分解温度としては、300~500℃の範囲が好ましい。300℃より低い温度ではポリオレフィンの熱分解反応が充分に進行しない傾向があり、500℃より高い温度ではポリオレフィンの劣化が十分に制御できない傾向がある。
【0033】
本発明では、用意する二重結合含有ポリオレフィンの数平均分子量が3,000以上となるように、熱分解前の原料ポリオレフィンの分子量を選択し、また、熱分解条件を調整する。用意する二重結合含有ポリオレフィンの数平均分子量は、3,000以上であれば、特に限定されないが、その下限値は、耐熱性に優れたマレイン酸変性ポリオレフィンをより確実に形成する点から、5,000が好ましく、10,000が特に好ましい。一方で、用意する二重結合含有ポリオレフィンの数平均分子量の上限値は、得られるマレイン酸変性ポリオレフィンの熱溶融物に流動性を付与して射出成形等の際の成形性を確実に得る点から、500,000が好ましく、150,000が特に好ましい。
【0034】
用意する二重結合含有ポリオレフィンの二重結合数は、特に限定されないが、その下限値は、高分子化合物との相互作用性を得てポリオレフィンの適用範囲を確実に広げるマレイン酸変性ポリオレフィンを得る点から、二重結合含有ポリオレフィン1分子あたり、1.3個が好ましく、1.5個が特に好ましい。一方で、二重結合数の上限値は、マレイン酸変性ポリオレフィンの融点の低下を確実に防止する点から、二重結合含有ポリオレフィン1分子あたり、1.9個が好ましく、1.8個が特に好ましい。なお、二重結合数は、ヨウ素価の測定や核磁気共鳴装置にて測定することができる。
【0035】
精密熱分解法では、原料ポリオレフィンの立体規則性及びモノマー組成を保持した化学構造を有する、二重結合含有ポリオレフィンを得ることができる。例えば、原料ポリオレフィンが鎖状オレフィンのポリマーの場合には、熱分解生成物として二重結合を有する鎖状オレフィンのポリマーを得ることができ、原料ポリオレフィンが環状オレフィン(シクロオレフィン)のポリマーの場合には、熱分解生成物として二重結合を有する環状オレフィン(シクロオレフィン)のポリマーを得ることができる。より具体的には、原料ポリオレフィンがポリプロピレンの場合には、熱分解生成物として末端に二重結合を有するポリプロピレン、原料ポリオレフィンがポリ(1-ブテン)の場合には、熱分解生成物として末端に二重結合を有するポリ(1-ブテン)、原料ポリオレフィンがポリ(4-メチルペンテン)の場合には、熱分解生成物として末端に二重結合を有し、さらに側鎖(分子鎖内)に二重結合を有するポリ(4-メチルペンテン)を、それぞれ、得ることができる。
【0036】
(2)二重結合含有ポリオレフィン溶融工程
二重結合含有ポリオレフィン溶融工程では、マレイン酸及び/または無水マレイン酸での変性対象である二重結合含有ポリオレフィンを加熱処理することにより溶融することで、二重結合含有ポリオレフィンの溶融物を得る。
【0037】
二重結合含有ポリオレフィンの加熱処理は、二重結合含有ポリオレフィンの融点以上の温度で行う。二重結合含有ポリオレフィンの加熱温度の下限は、二重結合含有ポリオレフィンの融点以上であれば、特に限定されないが、後述する二重結合含有ポリオレフィンとマレイン酸及び/または無水マレイン酸との反応の促進の点から、150℃以上が好ましく、180℃以上が特に好ましい。また、二重結合含有ポリオレフィンの加熱温度の上限は、副反応抑制の点から、250℃以下が好ましく、230℃以下が特に好ましい。
【0038】
また、二重結合含有ポリオレフィンの溶融物には、有機溶媒が含まれていないことが好ましい。有機溶媒不含の二重結合含有ポリオレフィンの溶融物とすることにより、後述するように、有機過酸化物の不存在下でも、より確実に、変性対象である二重結合含有ポリオレフィンをマレイン酸及び/または無水マレイン酸で変性することができる。
【0039】
(3)マレイン酸添加工程
マレイン酸添加工程は、二重結合含有ポリオレフィンの溶融物に、有機過酸化物の不存在下、マレイン酸及び/または無水マレイン酸を添加する工程である。すなわち、本発明の製造方法では、マレイン酸添加工程やその後の変性工程を含め、有機過酸化物は使用されない。
【0040】
従来、無水マレイン酸等のポリオレフィンへの導入は、有機過酸化物を添加して、ラジカル反応により行っていた。有機過酸化物としては公知の物が使用され、t-ブチルヒドロキペルオキシド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、過酸化ベンゾイルが挙げられる。しかし、有機過酸化物を添加すると、その後の変性工程で、ポリオレフィンのランダムな位置に無水マレイン酸等が導入され、また、ポリオレフィンが低分子量となってしまう。ポリオレフィンのランダムな位置に無水マレイン酸等が導入され、また、マレイン酸変性ポリオレフィンが低分子量であると、マレイン酸変性ポリオレフィンの融点が低下することで、耐熱性が得られず、従って、マレイン酸変性ポリオレフィンから形成される成形品の耐熱性が得られない。
【0041】
しかし、本発明の製造方法では、有機過酸化物の不存在下で、溶融状態の二重結合含有ポリオレフィンをマレイン酸及び/または無水マレイン酸で変性することにより、変性対象である二重結合含有ポリオレフィンのランダムな位置にマレイン酸及び/または無水マレイン酸が導入されることを抑制し、また、変性対象である二重結合含有ポリオレフィンの分解を適度に抑制する。従って、本発明の製造方法では、二重結合含有ポリオレフィンの分子量と融点と比較して、分子量の低下と融点の低下が防止されたマレイン酸変性ポリオレフィンを得ることができる。すなわち、本発明の製造方法では、ポリオレフィンの変性後における、分子量の低下と融点の低下を抑制できる。上記から、本発明の製造方法で得られたマレイン酸変性ポリオレフィンを用いて、耐熱性に優れた成形品を形成することができる。
【0042】
二重結合含有ポリオレフィンの溶融物にマレイン酸及び/または無水マレイン酸を添加する条件は、特に限定されないが、例えば、二重結合含有ポリオレフィンの溶融物の温度を、好ましくは150℃~250℃、特に好ましくは180℃~230℃の範囲に調整して、二重結合含有ポリオレフィン1.0molあたり20mol~100molの無水マレイン酸を添加する。
【0043】
(4)変性工程
変性工程では、溶融状態の二重結合含有ポリオレフィンを、マレイン酸及び/または無水マレイン酸と反応させてポリオレフィンをマレイン酸及び/または無水マレイン酸で変性する工程である。変性工程では、二重結合含有ポリオレフィンとマレイン酸及び/または無水マレイン酸とのエン反応により、ポリオレフィンにマレイン酸及び/または無水マレイン酸が導入されることで、マレイン酸変性ポリオレフィンを得る。すなわち、変性対象である二重結合含有ポリオレフィンの二重結合にマレイン酸及び/または無水マレイン酸が付加することで、ポリオレフィン骨格にマレイン酸及び/または無水マレイン酸が導入される。
【0044】
二重結合含有ポリオレフィンとマレイン酸及び/または無水マレイン酸とのエン反応の反応条件としては、例えば、反応温度180℃~250℃にて、150rpm~250rpmの撹拌条件下,4時間~8時間撹拌する反応条件が挙げられる。
【0045】
上記のようにして得られたマレイン酸変性ポリオレフィンを、再沈殿処理することで、精製された状態のマレイン酸変性ポリオレフィンを得ることができる。
【0046】
本発明の製造方法では、変性対象である二重結合含有ポリオレフィンの側鎖が二重結合を有していない場合には、該側鎖をマレイン酸及び/または無水マレイン酸で変性せず、側鎖がマレイン酸変性されていないマレイン酸変性ポリオレフィンを生成する。二重結合含有ポリオレフィンの主鎖の末端のみが二重結合を有している場合には、前記主鎖の末端のみをマレイン酸及び/または無水マレイン酸で変性する。
【0047】
側鎖が二重結合を有していない二重結合含有ポリオレフィン及び側鎖がマレイン酸変性されていないマレイン酸変性ポリオレフィンのポリオレフィン鎖としては、例えば、鎖状オレフィンのポリマーが挙げられる。より具体的には、例えば、炭素数2~10の鎖状オレフィンのモノマーを構成単位とするポリオレフィン鎖、好ましくは炭素数3~5の鎖状オレフィンのモノマーを構成単位とするポリオレフィン鎖が挙げられる。炭素数2~10の鎖状オレフィンのモノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン等が挙げられる。側鎖がマレイン酸及び/または無水マレイン酸で変性されていないマレイン酸変性ポリオレフィンのポリオレフィン鎖を構成する鎖状オレフィンのモノマーは、1種でもよく、2種以上を併用してもよい。
【0048】
本発明の製造方法では、変性対象である二重結合含有ポリオレフィンの側鎖が二重結合を有している場合には、該側鎖をマレイン酸及び/または無水マレイン酸で変性して、側鎖がマレイン酸変性されたマレイン酸変性ポリオレフィンを生成する。側鎖がマレイン酸変性されたマレイン酸変性ポリオレフィンとしては、主鎖の末端と側鎖をマレイン酸及び/または無水マレイン酸で変性されたマレイン酸変性ポリオレフィンが挙げられる。すなわち、本発明の製造方法では、二重結合含有ポリオレフィンの主鎖の末端と側鎖が二重結合を有している場合には、前記主鎖の末端と前記側鎖をマレイン酸及び/または無水マレイン酸で変性する。
【0049】
側鎖が二重結合を有している二重結合含有ポリオレフィン及び側鎖がマレイン酸変性されているマレイン酸変性ポリオレフィンのポリオレフィン鎖としては、例えば、鎖状オレフィンのポリマー、環状オレフィン(シクロオレフィン)のポリマーが挙げられる。より具体的には、例えば、鎖状オレフィンのポリマーの場合には、例えば、炭素数5~10の鎖状オレフィンのモノマーを構成単位とするポリオレフィン鎖、好ましくは炭素数6~8の鎖状オレフィンのモノマーを構成単位とするポリオレフィン鎖が挙げられる。炭素数5~10の鎖状オレフィンのモノマーとしては、例えば、4-メチルペンテン等が挙げられる。側鎖がマレイン酸及び/または無水マレイン酸で変性されているマレイン酸変性ポリオレフィンのポリオレフィン鎖を構成する鎖状オレフィンのモノマーは、1種でもよく、2種以上を併用してもよい。
【0050】
側鎖が二重結合を有している二重結合含有ポリオレフィン及び側鎖がマレイン酸変性されているマレイン酸変性ポリオレフィンのポリオレフィン鎖としては、環状オレフィン(シクロオレフィン)のポリマーの場合には、例えば、シクロペンタン骨格を有するオレフィンのポリマーが挙げられる。環状オレフィン(シクロオレフィン)のポリマーは、環状オレフィン(シクロオレフィン)の重合体でもよく、環状オレフィン(シクロオレフィン)と上記した鎖状オレフィンとの共重合体でもよい。
【実施例0051】
次に、本発明の実施例を説明するが、本発明の趣旨を超えない限り、本発明は、実施例に限定されるものではない。
【0052】
実施例1
マレイン酸変性ポリオレフィンの製造
(1)二重結合含有ポリオレフィン用意工程
まず、イソタクチックポリプロピレン(日本ポリプロ株式会社製、Mn=16万、Mw/Mn=6.0)の精密熱分解法により、両末端二重結合含有ポリプロピレンを得た。得られた両末端二重結合含有ポリプロピレンは、ペレット状であり、数平均分子量Mnは20000、分散度(重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn)が2.1、熱分解生成物である両二重結合含有ポリプロピレン1分子当たりの二重結合の平均数が1.8であった。
【0053】
(2)二重結合含有ポリオレフィン溶融工程
上記で得られた両末端二重結合含有ポリプロピレンを窒素ガス充填下、200℃で1時間、完全に溶融するまで200rpmで撹拌した。
【0054】
(3)マレイン酸添加工程及び(4)変性工程
上記で得られた溶融した両末端二重結合含有ポリプロピレンに窒素ガス気流下で無水マレイン酸、酸化防止剤としてジブチルヒドロキシトルエンを加えた。その後、窒素ガス充填下、200℃で6時間、200rpmで撹拌して、マレイン酸変性ポリプロピレンを得た。
【0055】
実施例1で得られたマレイン酸変性ポリプロピレンについて、数平均分子量と融点は、用意した二重結合含有ポリオレフィンと変化はなかった。また、マレイン酸変性ポリプロピレンのマレイン酸含量は1質量%であった。
【0056】
なお、1分子当たりの二重結合の平均数は、核磁気共鳴法にて測定した。数平均分子量と重量平均分子量の測定方法とマレイン酸含量の測定方法は、後述のように行った。
【0057】
実施例2
実施例1の精密熱分解条件を変更することで、得られた両末端二重結合含有ポリプロピレンの数平均分子量を6600とした以外は実施例1と同様にして、マレイン酸変性ポリオレフィンを得た。実施例2のマレイン酸変性ポリオレフィンの数平均分子量と融点は、用意した二重結合含有ポリオレフィンと変化はなく、マレイン酸変性ポリプロピレンのマレイン酸含量は3質量%であった。
【0058】
実施例3
実施例1のポリプロピレンを低融点ランダムポリプロピレン(三井化学株式会社製、タフマー)に変更することで、得られた両末端二重結合含有ポリプロピレンの数平均分子量を5400とした以外は実施例1と同様にして、マレイン酸変性ポリオレフィンを得た。実施例3のマレイン酸変性ポリオレフィンの数平均分子量と融点は、用意した二重結合含有ポリオレフィンと変化はなく、マレイン酸変性ポリプロピレンのマレイン酸含量は4質量%であった。
【0059】
実施例4
実施例1のポリプロピレンをポリ(1-ブテン)(三井化学株式会社製、ビューロン)に変更することで、得られた両末端二重結合含有ポリ(1-ブテン)の数平均分子量を5100とした以外は実施例1と同様にして、マレイン酸変性ポリ(1-ブテン)を得た。実施例4のマレイン酸変性ポリ(1-ブテン)の数平均分子量と融点は、用意した二重結合含有ポリオレフィンと変化はなく、マレイン酸変性ポリ(1-ブテン)のマレイン酸含量は4質量%であった。
【0060】
実施例5
実施例1のポリプロピレンをポリエチレン(プライムポリマー社製、ハイゼックス)に変更することで、得られた二重結合含有ポリエチレンの数平均分子量を6100とした以外は実施例1と同様にして、マレイン酸変性ポリエチレンを得た。実施例5のマレイン酸変性ポリエチレンの数平均分子量と融点は、用意した二重結合含有ポリオレフィンと変化はなく、マレイン酸変性ポリエチレンのマレイン酸含量は2質量%であった。
【0061】
実施例6
実施例1のポリプロピレンをポリ(4-メチルペンテン)(三井化学株式会社製、TPX)に変更することで、得られた二重結合含有ポリ(4-メチルペンテン)の数平均分子量を5000とした以外は実施例1と同様にして、マレイン酸変性ポリオレフィンを得た。実施例6のマレイン酸変性ポリ(4-メチルペンテン)の数平均分子量と融点は、用意した二重結合含有ポリオレフィンと変化はなく、マレイン酸変性ポリ(4-メチルペンテン)のマレイン酸含量は3質量%であった。
【0062】
実施例7
実施例1のポリプロピレンをシクロオレフィンポリマー(日本ゼオン株式会社製、ゼオノア)に変更することで、得られた二重結合含有シクロオレフィンポリマーの数平均分子量を9500とした以外は実施例1と同様にして、マレイン酸変性シクロオレフィンポリマーを得た。実施例7のマレイン酸変性シクロオレフィンポリマーの数平均分子量と融点は、用意した二重結合含有ポリオレフィンと変化はなく、マレイン酸変性シクロオレフィンポリマーのマレイン酸含量は2重量%であった。
【0063】
実施例8
実施例1のポリプロピレンをシクロオレフィンコポリマー(三井化学株式会社製、アペル)に変更することで、得られた二重結合含有シクロオレフィンコポリマーの数平均分子量を9800とした以外は実施例1と同様にして、マレイン酸変性シクロオレフィンコポリマーを得た。実施例8のマレイン酸変性シクロオレフィンコポリマーの数平均分子量と融点は、用意した二重結合含有ポリオレフィンと変化はなく、マレイン酸変性シクロオレフィンコポリマーのマレイン酸含量は2質量%であった。
【0064】
実施例9
実施例1のポリプロピレンを廃棄ポリプロピレン(主に家電由来のポリプロピレン)に変更することで、得られた両末端二重結合含有ポリプロピレンの数平均分子量を3900とした以外は実施例1と同様にして、マレイン酸変性ポリプロピレンを得た。実施例9のマレイン酸変性ポリプロピレンの数平均分子量と融点は、用意した二重結合含有ポリオレフィンと変化はなく、マレイン酸変性ポリプロピレンのマレイン酸含量は4質量%であった。
【0065】
実施例10
実施例1のポリプロピレンを廃棄ポリエチレン(主に包装材のポリエチレン)に変更することで、得られた二重結合含有ポリエチレンの数平均分子量を4100とした以外は実施例1と同様にして、マレイン酸変性ポリエチレンを得た。実施例10のマレイン酸変性ポリエチレンの数平均分子量と融点は、用意した二重結合含有ポリオレフィンと変化はなく、マレイン酸変性ポリエチレンのマレイン酸含量は3質量%であった。
【0066】
比較例1
実施例2の(4)変性工程において反応温度を200℃から170℃に変更した以外は実施例1と同様にして、マレイン酸変性ポリプロピレンを得た。比較例1のマレイン酸変性ポリオレフィンの数平均分子量と融点は、用意した二重結合含有ポリオレフィンと変化はなく、マレイン酸変性ポリプロピレンのマレイン酸含量は0.2質量%であった。
【0067】
比較例2
実施例2の(4)変性工程において反応温度を200℃から250℃に変更した以外は実施例1と同様にして、マレイン酸変性ポリプロピレンを得た。比較例2のマレイン酸変性ポリオレフィンの数平均分子量は、用意した二重結合含有ポリオレフィンと変化はなく、マレイン酸変性ポリプロピレンのマレイン酸含量は6質量%であった。得られたマレイン酸変性ポリプロピレンは、さらに激しく茶色に着色していた。また、マレイン酸変性ポリプロピレンの融点は、140℃と、用意した二重結合含有ポリオレフィンと比較してわずかに低下した。
【0068】
比較例3
実施例2の(3)マレイン酸添加工程において、酸化防止剤を有機過酸化物である過酸化ベンゾイルに変更した以外は実施例1と同様にして、マレイン酸変性ポリプロピレンを得た。比較例3のマレイン酸変性ポリオレフィンの数平均分子量は、用意した二重結合含有ポリオレフィンの6600から3500へと低下し、マレイン酸変性ポリプロピレンのマレイン酸含量は6質量%であった。得られたマレイン酸変性ポリプロピレンは、さらに激しく茶色に着色していた。また、マレイン酸変性ポリプロピレンの融点は、134℃と、用意した二重結合含有ポリオレフィンと比較して大きく低下した。
【0069】
評価項目
(1)数平均分子量と重量平均分子量
数平均分子量と重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)を用いて測定した。具体的には、装置として東ソー株式会社製「HLC-8321GPC/HT」、カラムとして、東ソー株式会社製「TSKgel GMHHR-H(20)HT」を使用した。測定方法としては、試料が溶解する溶媒としてトリクロロベンゼンを移動相とし、ポリスチレン(PS)を標準物質として用いた。検出器には、示差屈折率計を用いた。
【0070】
(2)マレイン酸含量
所定量のマレイン酸とポリオレフィンを混合して測定した赤外分光法の検量線より、マレイン酸含量を測定した。
【0071】
(3)耐熱性(融点)
二重結合含有ポリオレフィンとマレイン酸変性ポリオレフィンの融点は、示差走査熱量測定(DSC)により求めた。融点の測定には、セイコーインスツルメンツ社製「DSC6100」を用いて0度から230度の温度範囲で測定した。
【0072】
評価結果を下記表1に示す。
【0073】
【0074】
上記表1から、数平均分子量が3,000以上、マレイン酸含量が0.5質量%以上5.0質量%以下である実施例1~10では、マレイン酸変性ポリオレフィンの数平均分子量と融点が、いずれも原料である用意した二重結合含有ポリオレフィンの数平均分子量と融点と差異が無く、耐熱性の低下を防止できることが判明した。従って、実施例1~10では、耐熱性に優れた成形品を得ることができることが判明した。
【0075】
また、実施例1~10では、用意した二重結合含有ポリオレフィンを加熱処理により溶融物の状態として、有機過酸化物の不存在下で無水マレイン酸を添加しており、実施例1~10の上記製造方法により、マレイン酸変性ポリオレフィンの数平均分子量と融点が、いずれも、用意した二重結合含有ポリオレフィンの数平均分子量と融点と変化することを防止できた。
【0076】
一方で、マレイン酸含量が0.2質量%である比較例1、マレイン酸含量が6質量%である比較例2、3では、マレイン酸変性ポリオレフィンの融点が、用意した二重結合含有ポリオレフィンの融点と比較して低下し、耐熱性の低下を防止できないことが判明した。また、(3)マレイン酸添加工程において、過酸化ベンゾイルを添加した比較例3では、マレイン酸変性ポリオレフィンの数平均分子量が、用意した二重結合含有ポリオレフィンの数平均分子量と比較して低下し、耐熱性の低下を防止できないことが判明した。
本発明は、マレイン酸変性後でも、分子量の低下と融点の低下が防止されたマレイン酸変性ポリオレフィンを得ることができるので、耐熱性に優れたマレイン酸変性ポリオレフィンの成形品を得ることができる。また、本発明のマレイン酸変性ポリオレフィンは、マレイン酸が導入されていることで高分子化合物との相互作用性が得られるので、ポリオレフィンの適用範囲を広げることができる。