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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022029412
(43)【公開日】2022-02-17
(54)【発明の名称】サルコペニア診断装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 10/00 20060101AFI20220209BHJP
   A61B 5/22 20060101ALI20220209BHJP
   A61B 5/107 20060101ALI20220209BHJP
   A61B 5/11 20060101ALI20220209BHJP
【FI】
A61B10/00 H
A61B5/22 220
A61B5/107 130
A61B5/11 200
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021071846
(22)【出願日】2021-04-21
(31)【優先権主張番号】P 2020132666
(32)【優先日】2020-08-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ウェブサイト: https://www.journals.elsevier.com/journal-of-cardiology https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0914508721000733 https://doi.org/10.1016/j.jjcc.2021.03.009 https://www.journal-of-cardiology.com/article/S0914-5087(21)00073-3/fulltext 公開日:令和3年4月16日
(71)【出願人】
【識別番号】599045903
【氏名又は名称】学校法人 久留米大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168114
【弁理士】
【氏名又は名称】山中 生太
(74)【代理人】
【識別番号】100162259
【弁理士】
【氏名又は名称】末富 孝典
(74)【代理人】
【識別番号】100146916
【弁理士】
【氏名又は名称】廣石 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】角間 辰之
【テーマコード(参考)】
4C038
【Fターム(参考)】
4C038VA04
4C038VA05
4C038VA12
4C038VB14
(57)【要約】
【課題】早期かつ簡易にサルコペニアを診断することができるサルコペニア診断装置及びプログラムを提供する。
【解決手段】サルコペニア診断装置1は、入力部10と、判定部11と、を備える。入力部10は、成人である被検者の性別、体重、下腿周囲径を示す情報を入力する。判定部11は、入力部10に入力された情報に基づいて、被検者がサルコペニアであるか否かを判定する。これにより、特別な装置が必要な骨格筋指数を求めることなく、被検者がサルコペニアであるか否かを判定することができる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
成人である被検者の性別、体重、下腿周囲径を示す情報を入力する入力部と、
前記入力部に入力された情報に基づいて、前記被検者がサルコペニアであるか否かを判定する判定部と、
を備えるサルコペニア診断装置。
【請求項2】
前記判定部は、
前記被検者の性別、体重、下腿周囲径を示す情報に基づいて、骨格筋指数の代わりに用いられる代用指数の値を算出し、前記代用指数の値が基準値未満である場合に、前記被検者がサルコペニアであると判定する、
請求項1に記載のサルコペニア診断装置。
【請求項3】
前記代用指数の値は、性別の項を実数a1又は実数a2とし、体重の項の係数を実数b1とし、下腿周囲径の項の係数を実数c1とすると、
前記被検者の性別が男性である場合には、算出式(1)で求められ、
代用指数=a1+b1×体重+c1×下腿周囲径・・・(1)
前記被検者の性別が女性である場合には、算出式(2)で求められる、
代用指数=a2+b1×体重+c1×下腿周囲径・・・(2)
請求項2に記載のサルコペニア診断装置。
【請求項4】
前記体重の単位をkgとし、前記下腿周囲径の単位をcmとした場合に、
a1は、2.01であり、a2は、1.25であり、
b1は、0.06であり、c1は、0.05であり、
前記基準値は、5.78である、
請求項3に記載のサルコペニア診断装置。
【請求項5】
前記入力部は、前記被検者の大腿周囲径を示す情報を入力する、
請求項1に記載のサルコペニア診断装置。
【請求項6】
前記判定部は、
前記被検者の性別、体重、下腿周囲径、大腿周囲径を示す情報に基づいて、骨格筋指数の代わりに用いられる代用指数の値を算出し、前記代用指数の値が基準値未満である場合に、前記被検者がサルコペニアであると判定する、
請求項5に記載のサルコペニア診断装置。
【請求項7】
前記代用指数の値は、性別の項を実数a3又は実数a4とし、体重の項の係数を実数b2とし、下腿周囲径の項の係数を実数c2とし、大腿周囲径の項の係数を実数d2とすると、
前記被検者の性別が男性である場合には、算出式(3)で求められ、
代用指数=a3+b2×体重+c2×下腿周囲径+d2×大腿周囲径・・・(3)
前記被検者の性別が女性である場合には、算出式(4)で求められる、
代用指数=a4+b2×体重+c2×下腿周囲径+d2×大腿周囲径・・・(4)
請求項6に記載のサルコペニア診断装置。
【請求項8】
体重の単位をkgとし、下腿周囲径の単位をcmとした場合に、
a3は、0,67であり、a4は、-0.08であり、
b2は、0.04であり、c2は、0.04であり、d2は、0.08であり、
前記基準値は、6.02である、
請求項7に記載のサルコペニア診断装置。
【請求項9】
前記判定部は、
前記被検者の歩行速度が基準値以下であるか、前記被検者の握力が基準値未満である場合に、
前記算出式(1)又は(2)を用いて、前記被検者がサルコペニアであるか否かを判定する、
請求項3又は4に記載のサルコペニア診断装置。
【請求項10】
前記判定部は、
前記被検者の握力が基準値未満である場合、前記被検者の5回椅子立ち上がりテストの結果が基準時間以上である場合、前記被検者の歩行速度が基準値以下である場合に、
前記算出式(3)又は(4)を用いて、前記被検者がサルコペニアであるか否かを判定する、
請求項7又は8に記載のサルコペニア診断装置。
【請求項11】
前記判定部は、
前記被検者の握力が基準値未満であり、前記被検者の5回椅子立ち上がりテストの結果が基準時間以上である場合、前記被検者の握力が基準値未満であり、前記被検者の歩行速度が基準値以下である場合に、
前記算出式(3)又は(4)を用いて、前記被検者が重症サルコペニアであるか否かを判定する、
請求項7又は8に記載のサルコペニア診断装置。
【請求項12】
前記算出式(1)及び(2)又は前記算出式(3)及び(4)は、
第1の年齢以上かつ第2の年齢以下である複数の被検者のデータに対して多変量解析を行って生成された回帰直線式であり、
前記判定部は、
前記被検者の年齢が、前記第1の年齢以上かつ前記第2の年齢以下である場合に、
前記算出式(1)又は(2)あるいは前記算出式(3)又は(4)を用いて、前記被検者がサルコペニアであるか否かを判定する、
請求項4又は8に記載のサルコペニア診断装置。
【請求項13】
前記第1の年齢は、40歳であり、前記第2の年齢は、89歳である、
請求項12に記載のサルコペニア診断装置。
【請求項14】
コンピュータを、
成人である被検者の性別、体重、下腿周囲径を示す情報を入力する入力部、
前記入力部に入力された情報に基づいて、前記被検者がサルコペニアであるか否かを判定する判定部、
として機能させるプログラム。
【請求項15】
前記入力部は、前記被検者の大腿周囲径を示す情報を入力する、
請求項14に記載のプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サルコペニア診断装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
高齢化社会においては健康寿命の延長対策が望まれる。健康寿命とは、健康かつ活動的に自立した日常生活を送ることができる期間である。健康寿命を縮める運動器(ロコモティブ)症候群の要因の1つにサルコペニアがある。サルコペニアとは、加齢又は疾患により、骨格筋量と筋肉機能が低下した状態をいう。
【0003】
世界共通の診断基準でサルコペニアを診断する際には、四肢骨格筋量の測定と骨格筋指数の算出が必須である。骨格筋量の測定は、二重エネルギーX線吸収法(DXA法:Dual energy X-Ray Absorptiometry)又は生体電気インピーダンス法(BIA法:Bio-electrical impedance analysis)による体組成測定法によって行われている(例えば、非特許文献1、2参照)。
【0004】
DXA法による測定は、X線検査対応室への大型専用機器の設置が必要であり、比較的少ないとは言え、測定時の放射線被曝は避けられない。BIA法による測定は、持ち運び可能な専用機器を用いることができるため、ベッドサイドでの測定が可能にはなる。しかしながら、このような専用機器は高額である。また、測定原理上、ペースメーカー等のデバイスが植込まれた患者の測定は不可能である。
【0005】
サルコペニアは全死亡率又は心血管死亡率を高めることから、その早期診断と早期予防が望まれる一方、診療現場での診断検査実施率は低いままである。その原因として、診断に必須とされる四肢骨格筋量測定と骨格筋指数算出の実施、すなわちDXA法及びBIA法の実施が難しいことが挙げられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】山内 健,”「体組成分析の基礎と応用」BIAの原理と体組成評価”、外科と代謝・栄養53巻4号、2019年8月
【非特許文献2】柳町 幸,中山 弘文,山一 真彦,藤田 朋之,大門 眞,”「体組成分析の基礎と応用」Dual energy X-ray absorptiometry(DXA)の原理と体組成評価”外科と代謝・栄養53巻4号、2019年8月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、サルコペニアの診断に必要な骨格筋量を測定するには、大型又は高価な特別な装置が必要となる。このため、早期かつ簡易な診断が難しいという不都合があった。
【0008】
本発明は、上記実情の下になされたものであり、早期かつ簡易にサルコペニアを診断することができるサルコペニア診断装置及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の第1の観点に係るサルコペニア診断装置は、
成人である被検者の性別、体重、下腿周囲径を示す情報を入力する入力部と、
前記入力部に入力された情報に基づいて、前記被検者がサルコペニアであるか否かを判定する判定部と、
を備える。
【0010】
この場合、前記判定部は、
前記被検者の性別、体重、下腿周囲径を示す情報に基づいて、骨格筋指数の代わりに用いられる代用指数の値を算出し、前記代用指数の値が基準値未満である場合に、前記被検者がサルコペニアであると判定する、
こととしてもよい。
【0011】
また、前記代用指数の値は、性別の項を実数a1又は実数a2とし、体重の項の係数を実数b1とし、下腿周囲径の項の係数を実数c1とすると、
前記被検者の性別が男性である場合には、算出式(1)で求められ、
代用指数=a1+b1×体重+c1×下腿周囲径・・・(1)
前記被検者の性別が女性である場合には、算出式(2)で求められる、
代用指数=a2+b1×体重+c1×下腿周囲径・・・(2)
こととしてもよい。
【0012】
前記体重の単位をkgとし、前記下腿周囲径の単位をcmとした場合に、
a1は、2.01であり、a2は、1.25であり、
b1は、0.06であり、c1は、0.05であり、
前記基準値は、5.78である、
こととしてもよい。
【0013】
前記入力部は、前記被検者の大腿周囲径を示す情報を入力する、
こととしてもよい。
【0014】
前記判定部は、
前記被検者の性別、体重、下腿周囲径、大腿周囲径を示す情報に基づいて、骨格筋指数の代わりに用いられる代用指数の値を算出し、前記代用指数の値が基準値未満である場合に、前記被検者がサルコペニアであると判定する、
こととしてもよい。
【0015】
前記代用指数の値は、性別の項を実数a3又は実数a4とし、体重の項の係数を実数b2とし、下腿周囲径の項の係数を実数c2とし、大腿周囲径の項の係数を実数d2とすると、
前記被検者の性別が男性である場合には、算出式(3)で求められ、
代用指数=a3+b2×体重+c2×下腿周囲径+d2×大腿周囲径・・・(3)
前記被検者の性別が女性である場合には、算出式(4)で求められる、
代用指数=a4+b2×体重+c2×下腿周囲径+d2×大腿周囲径・・・(4)
こととしてもよい。
【0016】
体重の単位をkgとし、下腿周囲径の単位をcmとした場合に、
a3は、0,67であり、a4は、-0.08であり、
b2は、0.04であり、c2は、0.04であり、d2は、0.08であり、
前記基準値は、6.02である、
こととしてもよい。
【0017】
前記判定部は、
前記被検者の歩行速度が基準値以下であるか、前記被検者の握力が基準値未満である場合に、
前記算出式(1)又は(2)を用いて、前記被検者がサルコペニアであるか否かを判定する、
こととしてもよい。
【0018】
前記判定部は、
前記被検者の握力が基準値未満である場合、前記被検者の5回椅子立ち上がりテストの結果が基準時間以上である場合、前記被検者の歩行速度が基準値以下である場合に、
前記算出式(3)又は(4)を用いて、前記被検者がサルコペニアであるか否かを判定する、
こととしてもよい。
【0019】
前記判定部は、
前記被検者の握力が基準値未満であり、前記被検者の5回椅子立ち上がりテストの結果が基準時間以上である場合、前記被検者の握力が基準値未満であり、前記被検者の歩行速度が基準値以下である場合に、
前記算出式(3)又は(4)を用いて、前記被検者が重症サルコペニアであるか否かを判定する、
こととしてもよい。
【0020】
前記算出式(1)及び(2)又は前記算出式(3)及び(4)は、
第1の年齢以上かつ第2の年齢以下である複数の被検者のデータに対して多変量解析を行って生成された回帰直線式であり、
前記判定部は、
前記被検者の年齢が、前記第1の年齢以上かつ前記第2の年齢以下である場合に、
前記算出式(1)又は(2)あるいは前記算出式(3)又は(4)を用いて、前記被検者がサルコペニアであるか否かを判定する、
こととしてもよい。
【0021】
前記第1の年齢は、40歳であり、前記第2の年齢は、89歳である、
こととしてもよい。
【0022】
本発明の第2の観点に係るプログラムは、
コンピュータを、
成人である被検者の性別、体重、下腿周囲径を示す情報を入力する入力部、
前記入力部に入力された情報に基づいて、前記被検者がサルコペニアであるか否かを判定する判定部、
として機能させる。
【0023】
この場合、前記入力部は、前記被検者の大腿周囲径を示す情報を入力する、
こととしてもよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、成人である被検者の性別、体重、下腿周囲径を示す情報に基づいて、被検者がサルコペニアであるか否かを判定する。これにより、特別な装置が必要な骨格筋指数を求めることなく、容易に測定できる項目だけで被検者がサルコペニアであるか否かを判定することができる。この結果、早期かつ簡易にサルコペニアを診断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】2014年の診断基準によるアジア基準サルコペニア診断チャートを示す図である。
図2】本発明の実施の形態1に係るサルコペニア診断装置の機能構成を示すブロック図である。
図3図2のサルコペニア診断装置の判定部の構成を示すブロック図である。
図4図2のサルコペニア診断装置のハードウエア構成を示すブロック図である。
図5図2のサルコペニア診断装置の動作を示すフローチャートである。
図6】情報の入力画面の一例を示す図である。
図7】(A)及び(B)は、判定結果の表示画面の一例を示す図である。
図8】(A)は、一般健診者における骨格筋指数と代用指数との相関関係を示す図である。(B)は、心血管病患者における骨格筋指数と代用指数との相関関係を示す図である。
図9】2019年の診断基準によるアジア基準サルコペニア診断チャートを示す図である。
図10】2019年アジア基準サルコペニア診断チャートを基に、SPPB(Short Physical Performance Battery)以外のデータによってサルコペニアまたは重症サルコペニアを診断するチャートを示す図である。
図11】本発明の実施の形態2に係るサルコペニア診断装置の機能構成を示すブロック図である。
図12図11のサルコペニア診断装置の動作を示すフローチャートである。
図13】情報の入力画面の一例を示す図である。
図14】(A)、(B)及び(C)は、判定結果の表示画面の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。各図面においては、同一又は同等の部分に同一の符号を付す。
【0027】
[アジア基準サルコペニア診断チャート]
まず、従来行われているサルコペニアの診断方法について説明する。この診断方法は、図1に示すアジア基準サルコペニア診断チャートに沿ったものである。このチャートは、2014年発表のサルコペニア診断基準を基に作成されたものである。図1に示すように、この診断チャートでは、高齢者のうち、歩行速度が0.8m/sec以下であるか、又は男性では握力が26kg未満、女性では握力が18kg未満であり(ステップS1;Yes)、筋肉量(骨格筋指数SMI)について、男性では7.0kg/m未満、女性では5.4kg/m未満である場合に、サルコペニアであると判定される。
【0028】
骨格筋指数SMIとは、四肢の筋肉量の合計を身長(m)の2乗で割った値である。筋肉量は、上述のように、DXA法又はBIA法による体組成測定法の実施によって得られる。
【0029】
実施の形態1
[サルコペニア診断装置]
本実施の形態に係るサルコペニア診断装置1は、図1に示すチャートとは異なる方法で、骨格筋の筋肉量が自然に低下するとされる第1の年齢としての40歳以上かつ第2の年齢としての89歳以下である日本人の成人男性又は成人女性がサルコペニアであるか否かを診断する。この診断には、骨格筋指数SMIが用いられず、その代用指数AI(Alternative Index)が用いられる。
【0030】
[全体構成]
図2に示すように、サルコペニア診断装置1は、入力部10と、判定部11と、出力部12と、を備える情報処理装置である。
【0031】
入力部10は、被検者の握力、歩行速度、性別、体重、下腿周囲径を示す情報を入力する。被検者の握力、歩行速度、体重、下腿周囲径を示す情報としては、予め測定された数値が用いられる。ここで、下腿周囲径とは、膝蓋骨上縁と踵骨の中間点の周囲径である。
【0032】
判定部11は、入力部10に入力された情報に基づいて、被検者がサルコペニアであるか否かを判定する。具体的には、判定部11は、入力部10に入力された情報を、後述する演算式に代入して代用指数AIの値を求め、代用指数AIの値が基準値未満である場合に、被検者がサルコペニアであると判定する。本実施の形態では、基準値を5.78であるとする。
【0033】
出力部12は、被検者がサルコペニアであるか否かの判定結果を出力する。出力部12による出力は、表示出力であってもよいし、音声出力であってもよい。
【0034】
[判定処理]
判定部11において行われるサルコペニアの判定処理について、さらに具体的に説明する。図3に示すように、判定部11は、判定手順実行部20と、個人データ記憶部22と、判定条件データ記憶部23と、を備える。
【0035】
判定手順実行部20は、被検者の歩行速度、握力、性別、体重、下腿周囲径を示す情報に基づいて、予め決定されている判定手順に従って、被検者がサルコペニアであるか否かを判定する。判定手順実行部20は、例えば、被検者の歩行速度が基準値(0.8m/sec)以下であるか、被検者の握力が基準値(男性は26kg:女性は18kg)未満である場合に、代用指数AIの値を算出する。判定手順実行部20は、代用指数算出部21で算出された代用指数AIの値が、閾値(5.78)未満であれば、サルコペニアであると判定する。判定手順実行部20は、サルコペニアであるか否かを示す判定結果を、出力部12へ出力する。
【0036】
より具体的には、判定手順実行部20は、代用指数AIの値を算出する。代用指数AIは、性別の項と、体重の項と、下腿周囲径の項とを有する線形結合式である。この式では、性別の項を実数a1又は実数a2とし、体重の項の係数を実数b1とし、下腿周囲径の項の係数を実数c1としている。代用指数AIの値は、被検者の性別が男性である場合には、以下の算出式(1)を用いて算出される。
AI=a1+b1×体重+c1×下腿周囲径・・・(1)
また、代用指数の値AIは、被検者の性別が女性である場合には、以下の算出式(2)を用いて算出される。
AI=a2+b1×体重+c1×下腿周囲径・・・(2)
体重の単位をkgとし、下腿周囲径の単位をcmとした場合に、a1は、2.01であり、a2は1.25であり、b1は0.06であり、c1は、0.05である。
【0037】
個人データ記憶部22は、入力部10に入力された被検者の歩行速度、握力、性別、体重、下腿周囲径を示す情報を記憶する。判定手順実行部20は、個人データ記憶部22に記憶された情報に基づいて、被検者がサルコペニアであるか否かを判定する判定手順を実行する。
【0038】
判定条件データ記憶部23は、入力部10に入力された判定条件データを記憶する。判定条件データには、例えば、判定手順における判定に用いられる歩行速度、握力、代用指数AIの基準値、実数a1、a2、b1、c1の値がある。判定手順実行部20は、判定条件データ記憶部23に記憶された歩行速度、握力の基準値に基づいて判定を行い、実数a1、a2、b1、c1が設定された代用指数AIを算出する。さらに、判定手順実行部20は、代用指数AIの値が基準値(5.78)未満である場合に、被検者がサルコペニアであると判定する。
【0039】
上述のように、判定部11は、被検者の歩行速度が基準値以下であるか、被検者の握力が基準値未満である場合に、かつ、算出式(1)又は(2)の値が基準値未満である場合に、被検者がサルコペニアであると判定する。
【0040】
[ハードウエア構成]
図4には、サルコペニア診断装置1のハードウエア構成が示されている。図4に示すように、サルコペニア診断装置1は、CPU(Central Processing Unit)30と、メモリ31と、補助記憶装置32と、マンマシンインターフェイス33と、通信インターフェイス34、入出力インターフェイス35と、を備える。サルコペニア診断装置1の各構成要素は、内部バス40を介して接続されている。
【0041】
CPU30は、ソフトウエアプログラム(以下、単に「プログラム」とする)を実行するプロセッサ(演算装置)である。メモリ31には、補助記憶装置32から判定プログラム41が読み込まれる。CPU30は、メモリ31に格納された判定プログラム41を実行することにより、判定部11が備える判定手順実行部20の機能が実現される。
【0042】
メモリ31は、例えばRAM(Random Access Memory)である。メモリ31には、上述のように、CPU30によって実行される判定プログラム41及び判定条件データ42が読み込まれる他、CPU30による判定プログラム41の実行の結果である判定結果が記憶される。なお、サルコペニア診断装置1は、ROM(Read Only Memory)も備えている。ROMには、サルコペニア診断装置1の起動プログラムが実装されており、CPU30がROMの起動プログラムを実行することにより、サルコペニア診断装置1が起動される。
【0043】
補助記憶装置32は、例えばハードディスク等である。補助記憶装置32は、CPU30により実行される判定プログラム41及び判定条件データ42を記憶する。持ち運び可能なUSB(Universal Serial Bus)メモリ等の記録媒体(一時的でない記録を行う記録媒体)50には判定プログラム41が記憶されている。補助記憶装置32には、記録媒体50から転送された判定プログラム41が記憶されている。判定条件データ42は、判定プログラム41が実行される際に用いられるデータであり、図3の判定条件データ記憶部23に記憶される判定条件データに対応する。本実施の形態では、メモリ31が、個人データ記憶部22に対応し、メモリ31及び補助記憶装置32が、判定条件データ記憶部23に対応する。
【0044】
マンマシンインターフェイス33は、操作者が操作入力を行う操作入力部と、表示画面を有するディスプレイとを備える。本実施の形態では、マンマシンインターフェイス33は、タッチパネルである。なお、操作入力部としてキーボード及びポインティングデバイスを備え、ディスプレイは別に備えるようにしてもよい。マンマシンインターフェイス33により、入力部10及び出力部12の機能が実現される。
【0045】
通信インターフェイス34は、インターネット等の通信ネットワークに準拠した通信インターフェイスである。判定プログラム41及び判定条件データ42は、通信インターフェイス34を介して、補助記憶装置32に記憶することが可能である。
【0046】
入出力インターフェイス35は、記録媒体50とのインターフェイスである。判定プログラム41及び判定条件データ42は、この入出力インターフェイス35を介して入力され、補助記憶装置32に記憶することが可能である。
【0047】
次に、本発明の実施の形態に係るサルコペニア診断装置1の処理、すなわち判定プログラム41の流れについて説明する。この処理を開始するにあたって、図3に示すように、判定条件データ記憶部23には、判定条件データが記憶されている。また、サルコペニア診断装置1は、すでに起動プログラムにより起動しており、図4に示すように、補助記憶装置32に判定プログラム41が実装され、判定プログラム41がメモリ31に読み込まれ、実行可能な状態となっている。さらに、判定条件データ記憶部23に記憶された判定条件データに対応する、図4の補助記憶装置32に記憶された判定条件データ42は、メモリ31に読み込まれた状態となっている。
【0048】
図5に示すように、入力部10が、被検者の握力、歩行速度、性別、体重、下腿周囲径を示す情報を入力する(ステップS11)。ここで、図3に示すように、入力部10に入力された情報は、判定部11の個人データ記憶部22に記憶される。言い換えれば、図4に示すように、CPU30は、マンマシンインターフェイス33に、これらの情報の入力画面(図6参照)を表示し、その入力画面への操作者の操作入力を、マンマシンインターフェイス33を介して入力する。CPU39は、入力された情報を、メモリ31に記憶する。
【0049】
続いて、判定部11の判定手順実行部20は、歩行速度が0.8m/sec以下であるか否かを判定する(ステップS12)。具体的には、図3に示すように、判定手順実行部20は、個人データ記憶部22に記憶された被検者の歩行速度が判定条件データ記憶部23に記憶された歩行速度の基準値0.8m/sec以下であるか否かを判定する。この歩行速度の基準値である0.8m/secは、図1のアジア基準サルコペニア診断チャートの歩行速度の基準と同じである。言い換えれば、CPU30は、メモリ31に記憶された被検者の歩行速度と、メモリ31に記憶された歩行速度の基準値0.8m/secとの比較演算を行う。
【0050】
歩行速度が0.8m/sec以下でない場合(ステップS12;No)、判定手順実行部20は、性別が男性であるか否かを判定する(ステップS13)。性別が男性である場合(ステップS13;Yes)、判定手順実行部20は、握力が26kg未満であるか否かを判定する(ステップS14)。一方、性別が男性でない場合(ステップS13;No)、判定手順実行部20は、握力が18kg未満であるか否かを判定する(ステップS15)。このステップS13では、図4に示すように、CPU30は、メモリ31に読み込まれた被検者の性別に従って判定を行う。また、ステップS14、S15では、CPU30は、メモリ31に読み込まれた歩行速度、握力の基準値と、被検者の歩行速度、握力との比較演算を行う。
【0051】
性別が男性で握力が26kg未満である場合(ステップS14;Yes)又は性別が女性で握力が18kg未満である場合(ステップS15;Yes)、判定手順実行部20は、性別が男性であるか否かを判定する(ステップS16)。ここでは、図4に示すように、CPU30が、メモリ31に記憶された被検者の性別に従って判定を行う。
【0052】
性別が男性である場合(ステップS16;Yes)、判定手順実行部20は、代用指数算出部21に、男性用の算出式(1)を用いて、代用指数AIの値を算出させる(ステップS17)。一方、性別が女性である場合(ステップS16;No)、判定手順実行部20は、女性用の算出式(2)を用いて、代用指数AIの値を算出させる(ステップS18)。ここでは、CPU30が、メモリ31に読み込まれた実数a1、a2、b1、c1の値に基づいて、算出式(1)又は算出式(2)の演算を行う。
【0053】
ステップS17、S18の後、判定手順実行部20は、算出式の値が閾値(5.78)未満であるか否かを判定する(ステップS19)。算出式の値が閾値未満であれば(ステップS19;Yes)、出力部12は、サルコペニアであるという判定結果を出力する(ステップS20)。一方、算出式の値が閾値以上であれば(ステップS19;No)、出力部12は、サルコペニアではないという判定結果を出力する(ステップS21)。
【0054】
なお、性別が男性で握力が26kg未満である場合(ステップS14;No)又は性別が女性で握力が18kg未満である場合(ステップS15;No)にも、出力部12は、サルコペニアではないという判定結果を出力する(ステップS21)。ここでは、CPU30は、マンマシンインターフェイス33の表示画面に、サルコペニアではないという判定結果を表示出力する(ステップS21)。
【0055】
ここでは、CPU30は、マンマシンインターフェイス33の表示画面に、サルコペニアの判定結果を表示出力する。例えば、ステップS20では、図7(A)に示すように、”サルコペニアが疑われます。”という文字列を、マンマシンインターフェイス33に表示出力する。また、ステップS21では、図7(B)に示すように、”サルコペニアではありません。”という文字列を、マンマシンインターフェイス33に表示出力する。
【0056】
なお、本実施の形態では、ステップS12~ステップS16を第1段階の評価とし、ステップS17~ステップS21を第2段階の評価とする。また、図1のアジア基準サルコペニア診断チャートのステップS1を第1段階の評価とし、ステップS2を第2段階の評価とする。
【0057】
図8(A)に示すように、一般健診者(CD adults)における骨格筋指数SMIと代用指数AIとの間には高い相関関係(r=0.857)がある。また、図8(B)に示すように、心血管病患者(CVD patients)における骨格筋指数SMIと代用指数との間にも高い相関関係(r=0.782)が認められる。したがって、一般健診者であっても、心血管病患者であっても、骨格筋指数SMIを用いるのと同様に、上記算出式を用いて代用指数AIを算出することにより、サルコペニアの診断が可能であることが明らかとなった。
【0058】
[算出式の生成方法について]
次に、代用指数AIの算出式(1)、(2)がどのようにして生成されたかについて説明する。算出式(1)、(2)を生成するためには、まず、骨格筋指数SMIの代用指数AIの因子を特定する必要がある。以下では、情報処理装置によって実行される代用指数AIの因子の特定手順について説明する。
【0059】
骨格筋指数SMIの代用指数AIについては、以下のような因子があることが予想される。そこで、それらの因子を評価項目として列挙した。
年齢、性別、平均血圧、脈圧、身長、体重、body mass index、上腕周囲径、大腿周囲径、下腿周囲径、四肢の骨格筋指数SMI、体脂肪率、内臓脂肪面積、骨塩基量、t-score(骨密度指標の1つ)、握力、膝伸展筋力、通常歩行速度、functional reach test、five repetition chair stand test、timed up and go test(以上3つは運動能力を評価するためのテスト)、血中アルブミン濃度、GNRI(Geriatric Nutritional Risk Index;栄養状態を表す指標の1つ)、血中LDLコレステロール濃度、血中HDLコレステロール濃度、血中中性脂肪濃度、HBA1c、血中カルシウム濃度、血中リン濃度、血中ビタミンD濃度、血中TRACP-5b(酒石酸耐性酸性ホスファターゼ)濃度(骨代謝状態を表す指標の1つ)、血中亜鉛濃度
【0060】
評価項目を列挙した後、まず、手順1として、年齢40歳以上かつ89歳以下の一般健診者及び心臓血管病入院患者を対象に、上述の評価項目の被検者毎の測定データ又は算出データを集積した。
【0061】
次に、手順2として、骨格筋指数SMI以外の上記評価項目のうち、骨格筋指数SMIと統計学的に有意な相関関係を示す項目を単変量解析により抽出した。この結果、年齢、身長、体重、上腕周囲径、大腿周囲径、下腿周囲径、握力、GNRIの8項目が抽出された。
【0062】
次に、手順3として、握力はアジア基準サルコペニア診断フローチャートにおける第1段階の診断項目に該当する。このため、握力を除いた残り7つの項目と骨格筋指数SMIの相関性を、図1に示すアジア基準サルコペニア診断フローチャート第1段階の判定条件を満たした対象者で、多変量解析(ステップワイズ法)を行って、有意抽出された性別、体重、下腿周囲径の3項目による回帰直線式を算出した。ここで、ステップワイズ法とは、変数増減法ともいう。ステップワイズ法では、有意な説明変数(独立変数)を1つずつ取り込んだり、取り除いたりしながら、有意な回帰モデルが作成される。このように、上記代用指数AIの算出式(1)、(2)は、第1の年齢としての年齢40歳以上かつ第2の年齢としての89歳以下の日本人の成人のデータに基づいて統計解析に基づいて生成された回帰直線式である。
【0063】
次に、手順4として、算出した骨格筋指数SMIの代用指数AIとサルコペニアの陽性者の2変量の関係に対して、ロジスティック回帰分析を行い、ROC(受信者操作特性)曲線から得られたカットオフ値を、代用指数AIによるサルコペニア判定の基準値5.78として決定した。
【0064】
以上詳細に説明したように、本実施の形態に係るサルコペニア診断装置1は、被検者の性別、体重、下腿周囲径、握力、歩行速度に基づいて、被検者がサルコペニアであるか否かを判定する。これにより、特別な装置が必要な骨格筋指数を求めることなく、容易に測定できる項目だけで被検者がサルコペニアであるか否かを判定することができる。この結果、早期かつ簡易にサルコペニアを診断することができる。
【0065】
本実施の形態に係るサルコペニア診断装置1では、多数の要因項目の中から、被検者の性別、体重、下腿周囲径に絞り込んで、被検者がサルコペニアを診断することができる。この特徴は、本発明者の独自の研究及び実験により得られた知見であり、容易に想到し得るものではない。
【0066】
本実施の形態に係るサルコペニア診断装置1は、スマートフォン、タブレット型コンピュータ等の携帯端末上又はパーソナルコンピュータで実現することができる。したがって、病院だけでなく、自宅でも診断が可能となる。
【0067】
上述の算出式(1)、(2)は、一般健診者でも心血管病患者との両方に同じものを適用することができる。したがって、ペースメーカー等のデバイスが埋め込まれている患者でも、診断が可能となる。このため、診断できる被検者の範囲を大幅に拡大することが可能となる。
【0068】
実施の形態2
上記実施の形態1に係るサルコペニア診断装置1は、2014年の診断基準でサルコペニアを診断するものである。サルコペニアの診断基準は、2019年に更新されている。実施の形態2に係るサルコペニア診断装置1は、更新されたサルコペニアの診断基準に対応するものである。
【0069】
図9に示すように、2019年のサルコペニアの診断基準では、握力が男性で28kg未満、女性で18kg未満であること、6m歩行した場合の歩行速度が1.0m/秒未満であること、5回椅子立ち上がりに要する時間が12秒以上であること、SPPB(Short Physical Performance Battery)が9点以下であることが基準として含まれている。握力は「筋力」の評価項目であり、歩行速度、5回椅子立ち上がり、SPBBは「身体機能」の評価項目である。これらの筋力または身体機能の評価基準でサルコペニアか疑われる場合(ステップS3;Yes)、DXAにおいて骨格筋量が男性で7.0kg/m未満、女性で5.4kg/m未満である場合、又はBIAにおいて骨格筋量が男性で7.0kg/m未満、女性で5.7kg/m未満である場合(ステップS4;Yes)に、サルコペニア又は重症サルコペニアと判断するものである。ここで、サルコペニアは、骨格筋量が基準値を下回り、筋力または身体機能のいずれかが基準値を下回る状態をいい、重症サルコペニアとは、骨格筋量が基準値を下回り、身体機能と筋力がともに基準値を下回る状態をいう。
【0070】
より具体的には、ステップS3では、正常、サルコペニア、重症サルコペニアの判定は、図10に示す表に従って、行われる。図10に示す表をまとめると以下のようになる。
(1)握力が基準値を下回る(NG)場合、サルコペニア疑いとする。
(2)5回椅子立ち上がりテスト結果が基準時間を上回る(NG)場合に、サルコペニア疑いとする。
(3)歩行速度が基準値を下回る(NG)場合に、サルコペニア疑いとする。
(4)握力が基準値を下回り(NG)、5回椅子立ち上がりテスト結果が基準時間を上回る(NG)場合に、重症サルコペニア疑いとする。
(5)握力が基準値を下回り(NG)、歩行速度が基準値を下回る(NG)場合に、重症サルコペニア疑いとする。
(6)握力が基準値を上回り(正常)、歩行速度が基準値を上回り(正常)、5回椅子立ち上がりテスト結果が基準時間を上回る(正常)場合には、正常とする。
図10に示すように、2019年のサルコペニアの基準では、これらの判定結果に加え、骨格筋量が基準を満たす場合に、サルコペニア又は重症サルコペニアであると判定される。
【0071】
なお、2019年のサルコペニアの診断基準では、SPPBの点数結果も、判定の基準となっている。しかし、図10に示す表では、SPPBの点数結果には判定基準には含まれていない。本実施の形態に係るサルコペニア診断装置1は、SPPBを含まない判定基準で、正常、サルコペニア、重度サルコペニアの判定を行うものとする。
【0072】
図11に示すように、サルコペニア診断装置1が、入力部10と、判定部11と、出力部12と、を備える情報処理装置である点は、上記実施の形態1と同じである。
【0073】
入力部10は、被検者の握力、歩行速度、5回椅子立ち上がりテスト結果、性別、体重、下腿周囲径、大腿周囲径を示す情報を入力する。被検者の握力、歩行速度、5回椅子立ち上がりテスト結果、体重、下腿周囲径、大腿周囲径を示す情報としては、予め測定された数値が用いられる。ここで、大腿周囲径とは、鼠径皮膚溝(鼠径部の皺)と膝蓋骨上縁の中間点の周囲径である。図13には、これらの情報の入力画面が表示されている。なお、5回椅子立ち上がりテストとは、椅子に座ったり立ったりする動作を5回繰り返した場合に要する時間(秒)を検査するものである。
【0074】
判定部11は、入力部10に入力された情報に基づいて、被検者がサルコペニアであるか否かを判定する。具体的には、判定部11は、入力部10に入力された情報を、後述する演算式に代入して代用指数AIの値を求め、代用指数AIの値が基準値未満である場合に、被検者がサルコペニア又は重症サルコペニアであると判定する。本実施の形態では、基準値を6.02であるとする。
【0075】
出力部12は、被検者がサルコペニア又は重症サルコペニアであるか否かの判定結果を出力するのは、上記実施の形態と同じである。
【0076】
本実施の形態では、判定部11が、判定手順実行部20と、個人データ記憶部22と、判定条件データ記憶部23と、を備える点は、上記実施の形態と同様である(図3参照)。
【0077】
判定手順実行部20は、被検者の握力、歩行速度、5回椅子立ち上がりテストの結果、性別、体重、下腿周囲径、大腿周囲径を示す情報に基づいて、予め決定されている判定手順に従って、被検者がサルコペニア又は重症サルコペニアであるか否かを判定する。具体的には、判定手順実行部20は、骨格筋指数の代わりに用いられる代用指数AIの値を算出し、代用指数AIの値が基準値未満である場合に、被検者がサルコペニア又は重症サルコペニアであると判定する。例えば、判定手順実行部20は、被検者の握力が基準値(男性は28kg:女性は18kg)未満である場合に、サルコペニアの疑いがあるとして、代用指数AIの値を算出する。判定手順実行部20は、歩行速度が1.0m/秒未満である場合に、サルコペニアの疑いがあるとして、代用指数AIの値を算出する。また、判定手順実行部20は、5回椅子立ち上がりテストの結果が12秒以上である場合に、サルコペニアの疑いがあるとして、代用指数AIの値を算出する。
【0078】
また、判定手順実行部20は、被検者の握力が基準値(男性は28kg:女性は18kg)未満であり、かつ、5回椅子立ち上がりテストが12秒以上である場合には、重症サルコペニアの疑いがあるとして、代用指数AIの値を算出する。判定手順実行部20は、被検者の握力が基準値(男性は28kg:女性は18kg)未満であり、かつ、歩行速度が1.0m/秒未満である場合には、重症サルコペニアの疑いがあるとして、代用指数AIの値を算出する。判定手順実行部20は、代用指数算出部21で算出された代用指数AIの値が、閾値(6.02)未満であれば、サルコペニア又は重症サルコペニアであると判定する。判定手順実行部20は、サルコペニア又は重症サルコペニアであるか否かを示す判定結果を、出力部12へ出力する。
【0079】
より具体的には、判定手順実行部20は、代用指数AIの値を算出する。代用指数AIは、性別の項と、体重の項と、下腿周囲径の項と、大腿周囲径の項とを有する線形結合式である。この式では、性別の項を実数a3又は実数a4とし、体重の項の係数を実数b2とし、下腿周囲径の項の係数を実数c2とし、大腿周囲径の項の係数を実数d2としている。代用指数AIの値は、被検者の性別が男性である場合には、以下の算出式(3)を用いて算出される。
AI=a3+b2×体重+c2×下腿周囲径+d2×大腿周囲径・・・(3)
また、代用指数の値AIは、被検者の性別が女性である場合には、以下の算出式(4)を用いて算出される。
AI=a4+b2×体重+c2×下腿周囲径+d2×大腿周囲径・・・(4)
体重の単位をkgとし、下腿周囲径の単位をcmとした場合に、a3は、0.67であり、a4は-0.08であり、b2は、0.04であり、c2は、0.04であり、d2は、0.08である。
【0080】
個人データ記憶部22(図3参照)は、入力部10に入力された被検者の歩行速度、握力、5回椅子立ち上がりテスト、性別、体重、下腿周囲径、大腿周囲径を示す情報を記憶する。判定手順実行部20は、個人データ記憶部22に記憶された情報に基づいて、被検者がサルコペニア又は重症サルコペニアであるか否かを判定する判定手順を実行する。
【0081】
判定条件データ記憶部23は、入力部10に入力された判定条件データを記憶する。判定条件データには、例えば、判定手順における判定に用いられる歩行速度、握力、5回椅子立ち上がりテストの結果、代用指数AIの基準値、実数a3、a4、b2、c2、d2の値がある。判定手順実行部20は、判定条件データ記憶部23に記憶された歩行速度、握力の基準値、5回椅子立ち上がりテストの結果に基づいて判定を行い、実数a3、a4、b2、c2、d2が設定された代用指数AIを算出する。さらに、判定手順実行部20は、代用指数AIの値が基準値(6.02)未満である場合に、被検者がサルコペニア又は重症サルコペニアであると判定する。
【0082】
上述のように、判定部11は、被検者が握力、歩行速度、5回椅子立ち上がりテストの結果がNGである場合に、かつ、算出式(3)又は(4)で求められる代用指数AIの値が基準値未満である場合に、被検者がサルコペニア又は重症サルコペニアであると判定する。
【0083】
本実施の形態に係るサルコペニア診断装置1のハードウエア構成は、図4に示す上記実施の形態1に係るハードウエア構成と同じである。
【0084】
次に、本発明の実施の形態に係るサルコペニア診断装置1の処理、すなわち判定プログラム41(図4参照)の流れについて説明する。
【0085】
図12に示すように、まず、入力部10が、被検者の握力、歩行速度、性別、体重、下腿周囲径、大腿周囲径、5回椅子立ち上がりテストの結果を示す情報を入力する(ステップS31)。図4に示すように、CPU30は、マンマシンインターフェイス33に、これらの情報の入力画面(図13参照)を表示し、その入力画面への操作者の操作入力を、マンマシンインターフェイス33を介して入力する。CPU39は、入力された情報を、メモリ31に記憶する。
【0086】
続いて、判定部11の判定手順実行部20は、被検者の握力、歩行速度、5回椅子立ち上がりテストの結果がサルコペニア又は重症サルコペニアの疑いがあるか否かを、図10に示すアジア基準サルコペニア診断チャートの表にしたがって判定する(ステップS32)。ここで、サルコペニアの疑いがあると判定された場合には、その旨が記憶され、重症サルコペニアの疑いがあると判定された場合には、その旨が記憶される。
【0087】
被検者の握力、歩行速度、5回椅子立ち上がりテストの結果がサルコペニア又は重症サルコペニアの疑いがあることを示していない場合(ステップS32;No)、出力部12は、”サルコペニアでない”という表示出力(図14(C))を行う(ステップS38)。一方、被検者の握力、歩行速度、5回椅子立ち上がりテストの結果が上記(1)~(5)の条件に該当する場合(ステップS32;Yes)、判定手順実行部20は、被検者の性別が男性であるか否かを判定する(ステップS33)。性別が男性である場合(ステップS33;Yes)、判定手順実行部20は、代用指数算出部21に、男性用の算出式(3)を用いて、代用指数AIの値を算出させる(ステップS34)。一方、性別が女性である場合(ステップS33;No)、判定手順実行部20は、女性用の算出式(4)を用いて、代用指数AIの値を算出させる(ステップS35)。
【0088】
ステップS34、S35の後、判定手順実行部20は、代用指数AIの値が閾値(6.02)未満であるか否かを判定する(ステップS36)。代用指数AIの値が閾値未満であれば(ステップS36;Yes)、判定手順実行部20は、ステップS32の判定結果が、サルコペニアであるか否かを判定する(ステップS40)。サルコペニアである場合(ステップS40;Yes)、出力部12は、サルコペニアである(”サルコペニアが疑われます”)という判定結果(図14(A))を出力する(ステップS37)。サルコペニアでない場合(ステップS40;No)、出力部12は、重症サルコペニアである(”重症サルコペニアが疑われます”)という判定結果(図14(B))を出力する(ステップS39)。
【0089】
一方、算出式の値が閾値以上であれば(ステップS36;No)、出力部12は、サルコペニアではないという判定結果(図14(C))を出力する(ステップS38)。ステップS37、S38、S39が終了した後、処理が終了する。
【0090】
なお、算出式(3)、(4)についても上記算出式(1)、(2)と同様に、第1の年齢以上かつ第2の年齢以下である複数の被検者のデータに対して多変量解析を行って生成された回帰直線式とすることができ、第1の年齢を40歳とし、第2の年齢と89歳とすることができる。しかしながら、年齢はこれには限定されない。
【0091】
以上詳細に説明したように、本実施の形態に係るサルコペニア診断装置1は、被検者の性別、体重、下腿周囲径、大腿周囲径、握力、歩行速度、5回椅子立ち上がりテストの結果に基づいて、被検者がサルコペニア又は重症サルコペニアであるか否かを判定する。これにより、特別な装置が必要な骨格筋指数を求めることなく、容易に測定できる項目だけで被検者がサルコペニア又は重症サルコペニアであるか否かを判定することができる。この結果、早期かつ簡易にサルコペニア又は重症サルコペニアを診断することができる。
【0092】
また、上記実施の形態に係るサルコペニア診断装置1では、年齢が40歳以上かつ89歳以下の複数の被検者のデータに対して多変量解析を行って生成された回帰直線式である算出式(1)、(2)又は算出式(3)、(4)を用いて、被検者がサルコペニアであるか否かを判定した。この場合、判定部は、被検者の年齢が、40歳以上かつ89歳以下である場合に、算出式(1)又は(2)又は算出式(3)、(4)を用いて、被検者がサルコペニアであるか否かを判定するようにしてもよい。すなわち、サルコペニア診断装置1では、被検者の年齢を入力して、その年齢が40歳以上かつ89歳以下でない場合には、サルコペニアの判定を行わないような処理を行うようにしてもよい。算出式(1)、(2)又は算出式(3)、(4)を生成する基となったデータが取得された年齢の被検者のみを判定対象とすれば、判定の信頼性の低下を防止することが可能となる。このように、被検者が例えば成人でない場合、対象年齢から外れる場合には、判定を行わない処理を行ってもよい。
【0093】
もっとも、30代の被検者または90歳以上の被検者であっても、40歳以上かつ89歳以下の被検者のデータに基づく上記算出式(1)、(2)又は算出式(3)、(4)を用いてサルコペニアを判定することは可能である。サルコペニアの判定が必要な年齢である被検者に対しては、本実施の形態に係るサルコペニア診断装置1を適用可能である。
【0094】
また、算出式(1)、(2)又は算出式(3)、(4)を求めるためにデータを取得する被検者の年齢は、40歳以上かつ89歳以下には限られない。第1の年齢及び第2の年齢は、適宜変更が可能である。例えば、第1の年齢を30歳としてもよい。また、被検者の年齢に応じて、係数又は線形結合を行う因子が異なる算出式を用いるようにしてもよい。
【0095】
また、上記実施の形態に係るサルコペニア診断装置1では、歩行速度及び握力による判定を行った後に、代用指数AIによる判定を行った。しかしながら、サルコペニア診断装置1は、歩行速度が基準値以下であることが判明している被検者、握力が基準値未満であることが判明している被検者を対象として判定を行うようにしてもよい。この場合、サルコペニア診断装置1では、代用指数AIのみでサルコペニアの判定を行うようになる。
【0096】
このように、算出式は、変更することが可能であり、他の因子を組み込むことも可能である。例えば、年齢の項及びGNRIの項を、算出式(1)、(2)又は算出式(3)、(4)に組み込むようにしてもよい。サルコペニア診断装置1は、コンピュータが判定プログラム41を実行することにより、算出式の変更を容易に行うことができる。
【0097】
なお、上記実施の形態では、男性と女性とで、算出式を分けたが、本発明はこれには限られない。男性と女性で算出式を同じとして、算出式の値と比較する基準値を男性と女性とで分けるようにしてもよい。
【0098】
なお、上述の算出式(1)、(2)又は算出式(3)、(4)によるサルコペニア判定は、日本人を対象とするものであった。被検者が日本人でない場合には、判定を行わない処理を行ってもよい。また、判定対象が日本国以外のアジア人又は欧米人である場合には、算出式(1)、(2)又は算出式(3)、(4)とは異なる別の算出式、例えば、係数又は線形結合を行う因子が異なる算出式で代用指数AIを算出する必要がある。特に欧米人が対象である場合には、EWGSOP(European Working Group on Sarcopenia in Older People)による診断基準に従った算出式を用いるのが望ましい。なお、この基準では、例えば、握力については、男性で30Kg未満、女性では20Kg未満で代用指数AIによる判定を行うことになる。
【0099】
その他、サルコペニア診断装置1のハードウエア構成やソフトウエア構成は一例であり、任意に変更および修正が可能である。
【0100】
入力部10、判定部11及び出力部12などから構成される、サルコペニア診断装置1の処理を行う中心となる部分は、専用のシステムによらず、通常のコンピュータシステムを用いて実現可能である。例えば、前記の動作を実行するためのコンピュータプログラムを、コンピュータが読み取り可能な記録媒体(フレキシブルディスク、CD-ROM、DVD-ROM等)に格納して配布し、当該コンピュータプログラムをコンピュータにインストールすることにより、前記の処理を実行するサルコペニア診断装置1を構成してもよい。また、インターネット等の通信ネットワーク上のサーバ装置が有する記憶装置に当該コンピュータプログラムを格納しておき、通常のコンピュータシステムがダウンロード等することでサルコペニア診断装置1を構成してもよい。
【0101】
サルコペニア診断装置1の機能を、OS(オペレーティングシステム)とアプリケーションプログラムとの分担、またはOSとアプリケーションプログラムとの協働により実現する場合などには、アプリケーションプログラム部分のみを記録媒体や記憶装置に格納してもよい。
【0102】
搬送波にコンピュータプログラムを重畳し、通信ネットワークを介して配信することも可能である。例えば、通信ネットワーク上の掲示板(BBS;Bulletin Board System)にコンピュータプログラムを掲示し、ネットワークを介してコンピュータプログラムを配信してもよい。そして、このコンピュータプログラムを起動し、OSの制御下で、他のアプリケーションプログラムと同様に実行することにより、前記の処理を実行できるように構成してもよい。
【0103】
この発明は、この発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施の形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施の形態は、この発明を説明するためのものであり、この発明の範囲を限定するものではない。すなわち、この発明の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、この発明の範囲内とみなされる。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明は、サルコペニアの判定に適用することができる。
【符号の説明】
【0105】
1 サルコペニア診断装置、10 入力部、11 判定部、12 出力部、20 判定手順実行部、22 個人データ記憶部、23 判定条件データ記憶部、30 CPU、31 メモリ、32 補助記憶装置、33 マンマシンインターフェイス、34 通信インターフェイス、35 入出力インターフェイス、40 内部バス、41 判定プログラム、42 判定条件データ、50 記録媒体、AI 代用指数、SMI 骨格筋指数
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