(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022029421
(43)【公開日】2022-02-17
(54)【発明の名称】運転者の心身状態判定方法及びそのシステム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/18 20060101AFI20220209BHJP
A61B 5/16 20060101ALI20220209BHJP
A61B 5/0245 20060101ALI20220209BHJP
【FI】
A61B5/18
A61B5/16 110
A61B5/0245 200
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021108097
(22)【出願日】2021-06-29
(31)【優先権主張番号】P 2020132250
(32)【優先日】2020-08-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001184
【氏名又は名称】特許業務法人むつきパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】中川 千鶴
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 綾子
(72)【発明者】
【氏名】渡部 貴浩
【テーマコード(参考)】
4C017
4C038
【Fターム(参考)】
4C017AA02
4C017AA14
4C017BC21
4C038PP03
4C038PQ03
4C038PS00
(57)【要約】
【課題】 測定される運転者の心拍及び呼吸の両データから該運転者の心身状態を判定する方法及びシステムの提供。
【解決手段】 鉄道車両運転中の運転者において測定される心拍及び呼吸の時間変動を用いてこの対応から心拍の呼吸性洞性不整脈(RSA)成分としてのRSA値を算出し心身状態を判定する方法及びシステムである。緊張課題を含む模擬運転区間で時間変動を測定し、生理指標について、各基準値を決定しておき、実運行区間で時間変動を測定しながら、心身状態判定のための特定位置において、RSA値が基準RSA値よりも低い場合に、各生理指標の基準値からの変動幅から運転者の緊張状態を判定する。また、システムは、時間変動を測定するセンサを含む測定ユニットと、生理指標を算出する制御ユニットとからなる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両運転中の運転者において測定される心拍及び呼吸の時間変動を用いてこの対応から心拍の呼吸性洞性不整脈(RSA)成分としてのRSA値を算出し心身状態を判定する方法であって、
緊張課題を含む模擬運転区間で前記時間変動を測定し、呼吸長及び/又は呼吸振幅、RSA値を含む生理指標について、前記運転者毎の基準となる基準RSA値とともに、基準呼吸長及び/又は基準呼吸振幅を含む各基準値を決定しておき、
実運行区間で前記時間変動を測定しながら、心身状態判定のための特定位置において、RSA値が前記基準RSA値よりも低い場合に、前記生理指標の前記各基準値からの変動幅から前記運転者の緊張状態を判定することを特徴とする車両運転中の運転者の心身状態判定方法。
【請求項2】
前記基準RSA値とともに、前記基準呼吸長及び/又は前記基準呼吸振幅に合わせて基準心拍数を決定しておき、
緊張状態の判定において、心拍数の前記基準心拍数からの変動幅及び/又はRSA値の前記基準RSA値からの変動幅を更に組合せて判定することを特徴とする請求項1記載の車両運転中の運転者の心身状態判定方法。
【請求項3】
前記基準値は、対応する前記生理指標の前記模擬運転区間を通しての算術平均として決定されることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両運転中の運転者の心身状態判定方法。
【請求項4】
前記緊張状態の判定において、前記模擬運転区間を通しての前記生理指標の標準偏差に対する前記変動幅の大小の判別を含むことを特徴とする請求項3記載の車両運転中の運転者の心身状態判定方法。
【請求項5】
前記RSA値は、前記呼吸の1呼吸に対応する前記心拍から算出することを特徴とする請求項1乃至4のうちの1つに記載の車両運転中の運転者の心身状態判定方法。
【請求項6】
心拍数、心拍数変化率、及び、呼吸長変化率をさらに含む前記生理指標から、前記呼吸長とともに前記運転者毎に1つ以上を選択して特定生理指標とし、前記特定生理指標について前記模擬運転区間での測定から各基準値を決定しておき、
緊張状態の判定において、前記特定生理指標についての対応する前記基準値に対する変動幅に基づいて判定を行うことを特徴とする請求項1記載の車両運転中の運転者の心身状態判定方法。
【請求項7】
前記模擬運転区間は非緊張課題を含み、前記非緊張課題に対応する前記生理指標から、前記呼吸長とともに前記運転者毎に1つ以上を選択して第2の特定生理指標とし、前記第2の特定生理指標について前記模擬運転区間での測定から各基準値を決定しておき、
RSA値が前記基準RSA値よりも高い場合に、前記第2の特定生理指標についての対応する前記基準値に対する変動幅に基づいて前記判定を行うことを特徴とする請求項6記載の車両運転中の運転者の心身状態判定方法。
【請求項8】
呼吸波形及び心拍変動波形の1呼吸にそれぞれ対応する1呼吸間呼吸波形及び1呼吸間心拍変動波形を比較して定めた補正係数を乗じることで前記基準RSA値からの変動幅を補正することを特徴とする請求項2記載の車両運転中の運転者の心身状態判定方法。
【請求項9】
前記模擬運転区間は運転シミュレータによって与えられるものであることを特徴とする請求項1乃至8のうちの1つに記載の車両運転中の運転者の心身状態判定方法。
【請求項10】
前記呼吸の時間変動は前記運転者の胸囲又は腹囲を測定して取得されることを特徴とする請求項1乃至9のうちの1つに記載の車両運転中の運転者の心身状態判定方法。
【請求項11】
鉄道車両運転中の運転者において測定される心拍及び呼吸の時間変動を用いてこの対応から心拍の呼吸性洞性不整脈(RSA)成分としてのRSA値を算出し心身状態を判定するシステムであって、
前記時間変動を測定するセンサを含む測定ユニットと、
前記測定ユニットで測定された前記時間変動から、呼吸長及び/又は呼吸振幅、RSA値を含む生理指標を算出する制御ユニットと、を含み、
前記制御ユニットは、
前記測定ユニットによって緊張課題を含む模擬運転区間で測定された前記時間変動から、前記生理指標について、前記運転者毎の基準となる、基準RSA値とともに、基準呼吸長及び/又は基準呼吸振幅を含む各基準値を決定するとともに、
前記測定ユニットによって実運行区間で前記時間変動を測定しながら、心身状態判定のための特定位置において、RSA値が前記基準RSA値よりも低い場合に、前記生理指標の前記各基準値からの変動幅から前記運転者の緊張状態を判定することを特徴とする車両運転中の運転者の心身状態判定システム。
【請求項12】
前記基準RSA値とともに、前記基準呼吸長及び/又は前記基準呼吸振幅に合わせて基準心拍数を決定しておき、
前記緊張状態の判定において、心拍数の前記基準心拍数からの変動幅及び/又はRSA値の前記基準RSA値からの変動幅を更に組合せて判定することを特徴とする請求項11記載の車両運転中の運転者の心身状態判定システム。
【請求項13】
前記制御ユニットは、
心拍数、心拍数変化率、及び、呼吸長変化率をさらに含む前記生理指標から、前記運転者毎に1つ以上を選択して特定生理指標として記憶させ、前記特定生理指標について前記模擬運転区間での測定から各基準値を決定するとともに、
緊張状態の判定において、前記特定生理指標についての対応する前記基準値からの変動幅に基づいて判定を行うことを特徴とする請求項11記載の車両運転中の運転者の心身状態判定システム。
【請求項14】
前記制御ユニットは、
前記測定ユニットによって非緊張課題を更に含む前記模擬運転区間で測定された前記時間変動に基づき、前記非緊張課題に対応する前記生理指標から、前記呼吸長とともに前記運転者毎に1つ以上を選択して第2の特定生理指標として記憶させ、前記第2の特定生理指標についての各基準値を決定するとともに、
心身状態判定のための特定位置において、RSA値が前記基準RSA値よりも高い場合に、前記第2の特定生理指標についての対応する前記基準値からの変動幅に基づいて前記判定を行うことを特徴とする請求項13記載の車両運転中の運転者の心身状態判定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両運転中の運転者の心身状態を判定する方法及びそのシステムに関し、特に、測定される運転者の心拍及び呼吸の両データから該運転者の心身状態を判定する方法及びそのシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
人間の自律神経は、交感神経系と副交感神経系とで構成されており、これらをバランスさせて心身を正常状態に維持し、各種の日常生活に対応している。ここで、心拍変動(HRV:Heart Rate Variability)は、心身の緊張状態を反映する交感神経系の活動と、この働きを鎮静状態へと導く副交感神経系の活動とを反映する両成分を含んでいる。そこで、車両運転中の運転者の心拍の変化から該運転者の自律神経の活動状態を判定し、車両の運転制御に反映させ、又は、警報を与えようとするシステムが提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、運転者の心拍変化を検出し該運転者の自律神経の活動状態を判定する方法を開示している。ここでは、車両のハンドル部に設けた電極によって運転者の心拍計測を行うとともに、電極を複数設けたハンドルの把持状態を検出し、更に、運転者を撮像して姿勢を検出することで、心拍と運転者の様子とからその自律神経の活動状態、つまり、緊張感、眠気、焦燥感、疲労感、ぼんやり(注意散漫)などの車両の運転に注意を要する状態を判定できるとしている。
【0004】
また、呼吸についても、心拍同様に、自律神経との関係性を有するが、呼吸は人の意志によって変化させ得るため、測定される呼吸のみの生体周期情報から運転者の自律神経の活動状態を判定することは非常に難しい。
【0005】
例えば、特許文献2では、呼吸の変化に合わせて運転状態の変化を測定することにより、運転者の心理的動転度合いを判定する方法を開示している。シート背部に設けた感圧センサからの体圧信号と、アクセル及びブレーキの走行状態量と、から呼吸信号を抽出するが、体圧信号にはアクセル及びブレーキの操作に基づく体圧変動が含まれるため、走行状態量によって体圧信号から体圧変動を取り除いて、正確な呼吸信号を得るとしている。
【0006】
また、特許文献3では、測定された心拍について呼吸性変動の出現を期待される拍間時間(RRI)を数値的にフィルタ処理し、RRIの変動状態が通常運転状態のものか、又は、急激な精神負荷の変動に対応する単純増加又は単純減少かを検出して、「居眠り」のような自律神経の活動状態の指標である覚醒度の判定を行う覚醒度判定方法を開示している。ここでは、通常状態であるときと、単純増加あるいは単純減少であるときで、RRIの変動に対応した基準線f(n)を変更し、この基準線f(n)に対するRRIの分散RRVnを演算して、分散RRVnに基づいた覚醒度の検出を行うとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2007/111223号
【特許文献2】特開2006-042903号公報
【特許文献3】特開2007-044154号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
測定された心拍変動HRVについて呼吸性洞性不整脈(RSA;Respiratory sinus arrhythmia)に対応した成分を抽出し、自律神経の活動状態を判定することが提案されている。ここで、測定される呼吸のみ又は心拍のみの生体周期情報から運転者の自律神経の活動状態を判定することは難しいが、心拍と同時に呼吸変動を測定して所定のフィルタ処理をしてノイズを除去することで、心拍及び呼吸の両データを合わせて解析し、車両運転中の多様な状況に対する応答に対する評価を得られることが期待される。
【0009】
本発明は、以上のような状況に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、測定される運転者の心拍及び呼吸の両データから該運転者の心身状態を判定する方法及びそのシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による車両運転中の運転者の心身状態判定方法は、鉄道車両運転中の運転者において測定される心拍及び呼吸の時間変動を用いてこの対応から心拍の呼吸性洞性不整脈(RSA)成分としてのRSA値を算出し心身状態を判定する方法であって、緊張課題を含む模擬運転区間で前記時間変動を測定し、呼吸長及び/又は呼吸振幅、RSA値を含む生理指標について、前記運転者毎の基準となる基準RSA値とともに、基準呼吸長及び/又は基準呼吸振幅を含む各基準値を決定しておき、実運行区間で前記時間変動を測定しながら、心身状態判定のための特定位置において、RSA値が前記基準RSA値よりも低い場合に、前記生理指標の前記各基準値からの変動幅から前記運転者の緊張状態を判定することを特徴とする。
【0011】
かかる特徴によれば、測定される運転者の心拍及び呼吸の両データから運転者の心身状態をより明確に判定することができる。
【0012】
上記した発明において、前記基準RSA値とともに、前記基準呼吸長及び/又は前記基準呼吸振幅に合わせて基準心拍数を決定しておき、緊張状態の判定において、心拍数の前記基準心拍数からの変動幅及び/又はRSA値の前記基準RSA値からの変動幅を更に組合せて判定することを特徴としてもよい。
【0013】
上記した発明において、前記基準値は、対応する前記生理指標の前記模擬運転区間を通しての算術平均として決定されることを特徴としてもよい。
【0014】
上記した発明において、前記緊張状態の判定において、前記模擬運転区間を通しての前記生理指標の標準偏差に対する前記変動幅の大小の判別を含むことを特徴としてもよい。
【0015】
上記した発明において、前記RSA値は、前記呼吸の1呼吸に対応する前記心拍から算出することを特徴としてもよい。
【0016】
上記した発明において、心拍数、心拍数変化率、及び、呼吸長変化率をさらに含む前記生理指標から、前記呼吸長とともに前記運転者毎に1つ以上を選択して特定生理指標とし、前記特定生理指標について前記模擬運転区間での測定から各基準値を決定しておき、緊張状態の判定において、前記特定生理指標についての対応する前記基準値に対する変動幅に基づいて判定を行うことを特徴としてもよい。
【0017】
上記した発明において、前記模擬運転区間は非緊張課題を含み、前記非緊張課題に対応する前記生理指標から、前記呼吸長とともに前記運転者毎に1つ以上を選択して第2の特定生理指標とし、前記第2の特定生理指標について前記模擬運転区間での測定から各基準値を決定しておき、RSA値が前記基準RSA値よりも高い場合に、前記第2の特定生理指標についての対応する前記基準値に対する変動幅に基づいて前記判定を行うことを特徴としてもよい。
【0018】
上記した発明において、呼吸波形及び心拍変動波形の1呼吸にそれぞれ対応する1呼吸間呼吸波形及び1呼吸間心拍変動波形を比較して定めた補正係数を乗じることで前記基準RSA値からの変動幅を補正することを特徴としてもよい。
【0019】
上記した発明において、前記模擬運転区間は運転シミュレータによって与えられるものであることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、模擬運転区間での心拍及び呼吸の時間変動を簡便に測定できて、簡便に運転者の心身状態を判定することができる。
【0020】
上記した発明において、前記呼吸の時間変動は前記運転者の胸囲又は腹囲を測定して取得されることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、呼吸のデータを簡便に取得でき、簡便に運転者の心身状態を判定することができる。
【0021】
また、本発明による車両運転中の運転者の心身状態判定システムは、鉄道車両運転中の運転者において測定される心拍及び呼吸の時間変動を用いてこの対応から心拍の呼吸性洞性不整脈(RSA)成分としてのRSA値を算出し心身状態を判定するシステムであって、前記時間変動を測定するセンサを含む測定ユニットと、前記測定ユニットで測定された前記時間変動から、呼吸長及び/又は呼吸振幅、RSA値を含む生理指標を算出する制御ユニットと、を含み、前記制御ユニットは、前記測定ユニットによって緊張課題を含む模擬運転区間で測定された前記時間変動から、前記生理指標について、前記運転者毎の基準となる、基準RSA値とともに、基準呼吸長及び/又は基準呼吸振幅の各基準値を決定するとともに、前記測定ユニットによって実運行区間で前記時間変動を測定しながら、心身状態判定のための特定位置において、RSA値が前記基準RSA値よりも低い場合に、前記生理指標の前記各基準値からの変動幅から前記運転者の緊張状態を判定することを特徴とする。
【0022】
かかる特徴によれば、測定される運転者の心拍及び呼吸の両データから運転者の心身状態をより明確に判定することができる。
【0023】
上記した発明において、前記基準RSA値とともに、前記基準呼吸長及び/又は前記基準呼吸振幅に合わせて基準心拍数を決定しておき、前記緊張状態の判定において、心拍数の前記基準心拍数からの変動幅及び/又はRSA値の前記基準RSA値からの変動幅を更に組合せて判定することを特徴としてもよい。
【0024】
上記した発明において、前記制御ユニットは、心拍数、心拍数変化率、及び、呼吸長変化率をさらに含む前記生理指標から前記運転者毎に1つ以上を選択して特定生理指標として記憶させ、前記特定生理指標について前記模擬運転区間での測定から各基準値を決定するとともに、緊張状態の判定において、前記特定生理指標についての対応する前記基準値からの変動幅に基づいて判定を行うことを特徴としてもよい。
【0025】
上記した発明において、前記制御ユニットは、前記測定ユニットによって非緊張課題を更に含む前記模擬運転区間で測定された前記時間変動に基づき、前記非緊張課題に対応する前記生理指標から、前記呼吸長とともに前記運転者毎に1つ以上を選択して第2の特定生理指標として記憶させ、前記第2の特定生理指標についての各基準値を決定するとともに、心身状態判定のための特定位置において、RSA値が前記基準RSA値よりも高い場合に、前記第2の特定生理指標についての対応する前記基準値からの変動幅に基づいて前記判定を行うことを特徴としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の代表的な一例によるシステムのブロック図である。
【
図3】模擬運転における停止操作中と駅停車中のRSAの得点ごとの出現率のグラフである。
【
図4】模擬運転における停止操作中と駅停車中の(a)心拍数、(b)呼吸長、(c)呼吸振幅の得点ごとの出現率のグラフである。
【
図5】模擬運転における停止操作中と駅停車中の総合判定の得点毎の出現率のグラフである。
【
図6】模擬運転における複数の緊張課題及び非緊張課題に対する、(a)各生理指標での非緊張傾向及び緊張傾向の出現率、(b)生理指標を組み合わせて総合判定したときの出現率のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の代表的な一例による車両運転中の運転者の心身状態を判定する方法及びそのシステムの具体的な実施態様について、
図1~
図5を用いて説明する。
【0028】
図1に示すように、車両運転中の運転者の心身状態の判定システム1は、運転者の心拍と呼吸との時間変動を波形としてそれぞれ測定する波形測定ユニット10と、波形測定ユニット10からの時間変動の波形データを受信して分析する機能を含む制御ユニット20と、を含む。
【0029】
波形測定ユニット10は、例えば運転者の胸部又は腹部に装着可能な伸縮性を有するベルト状の装着具であり、心拍を測定する心拍測定センサ11と、呼吸状態を測定する呼吸測定センサ12と、を含む。ここで、心拍測定センサ11は、複数の心電図電極等によって心拍の時間変動、すなわち心拍変動波形HRVを取得し得るものである。また、呼吸測定センサ12は、運転者の胸囲又は腹囲、すなわち、胸部又は腹部の周囲長の変化を検出する変位センサ等によって呼吸の時間変動である呼吸波形を取得できるものである。これにより、波形測定ユニット10は、例えばウエアラブルセンサとし得て、運転者の動作に制限を加えることなく、心拍と呼吸との時間変動を同時かつ近傍で測定することができる。
【0030】
制御ユニット20は、判定システム1全体の動作を制御するとともに、制御装置21、判定装置22及び記憶装置23を含む。制御装置21は、波形測定ユニット10に心拍と呼吸との時間変動の測定を指令してその波形データを受信することができる。判定装置22は、制御装置21から転送された波形データを分析して運転者の心身状態を判定することができる。記憶装置23は、判定装置22が実行するプログラムや波形測定ユニット10から受信した波形データを記憶することができる。制御ユニット20はさらにモニタなどの図示しない出力装置を備えていてもよい。
【0031】
判定装置22は、所定の判定プログラムにより、例えば波形測定ユニット10で測定された波形データにおいて、心拍及び呼吸の時間変動を測定し、RSA(呼吸性洞性不整脈)成分としてのRSA値とともに、心拍数(心拍間隔)や心拍振幅、呼吸長や呼吸振幅を生理指標として求め、これらの時間変動を用いて運転者の心身状態、特に、緊張状態、あるいは、非緊張状態を総合的に判定することができる。なお、心拍間隔は心拍数の逆数として得られる。また、これら生理指標のうち心拍振幅及び呼吸振幅については、測定方法や振幅を数値化する方法を含めて規格化しておく。例えば、これらの振幅は1呼吸あたりについて1つの値を求めることとし、運転者が最も平常状態に近い心身状態である場合の振幅を1として、これに対する相対値として各振幅を表すなどとし得る。
【0032】
ここでRSA値の相対的な大きさや変化は副交感神経系の活動状態を示すとされており、緊張状態を強くするとRSA値を相対的に低くする傾向がある。そこで、RSA値の基準値となる基準RSA値を定めておき、基準RSA値から測定されたRSA値が低下したときに緊張状態であると判定することもできる。しかし、このようなRSA値のみを指標とした判定では、高い精度で緊張状態を判定することは難しい。
【0033】
そこで、本実施例においては、緊張状態について以下のように判定する。上記のようにRSA値は緊張状態で低下する傾向がある。よって、RSA値を基準RSA値よりも低くする場合には、運転者の心身状態を緊張状態としている蓋然性が高くなる。そこで、基準RSA値よりもRSA値を低下させたときに、呼吸成分である呼吸長及び/又は呼吸振幅によって緊張状態の相対的な強弱を判定する。緊張状態を強くすると、呼吸長及び呼吸振幅はどちらも小さくなる傾向にある。よって、呼吸長及び呼吸振幅について、予め決定しておいた基準呼吸長及び基準呼吸振幅よりも小さいときに基準となる緊張状態(基準RSA値に対応すべき緊張状態)よりも強い緊張状態である可能性が高く、その基準呼吸長及び基準呼吸振幅からの変動幅に基づき緊張状態の強弱を判定するのである。つまり、心拍に関する値であるRSA値を契機として呼吸に関する値である呼吸長や呼吸振幅で判定を行う。
【0034】
ここで、基準RSA値、基準呼吸長、基準呼吸振幅は、いずれも緊張を与える課題を含む模擬運転区間において心拍及び呼吸の時間変動を測定して、運転者毎に定めておく。つまり、緊張に対する心拍や呼吸の変動は運転者によって異なり、運転者個人の基準値を定めることで緊張状態の判定の精度を担保するのである。
【0035】
また、緊張状態の判定において、呼吸長や呼吸振幅の他に、心拍数、心拍振幅やRSA値を加えてもよい。例えば、心拍数についても基準心拍数を決定しておいて、基準心拍数からの心拍数の変動幅を判別して判定に組合せるのである。また、基準心拍振幅からの心拍振幅の変動幅、基準RSA値からのRSA値の変動幅についても同様に判定に組み合わせても良い。これらによって、判定精度の向上が望める。
【0036】
なお、基準値(基準RSA値、基準呼吸長、基準呼吸振幅、基準心拍数、基準心拍振幅)の定め方についてはどのような緊張状態を判定したいかによって異なる。例えば、比較的強い緊張状態のみを判定したい場合には基準値を小さく(心拍数については大きく)設定してもよい。また、模擬運転区間の特定の課題に対応した値を基準値とすることでその特定の課題についての緊張状態と相対的に比較した緊張状態の強弱を判定することが可能となる。
【0037】
更に、緊張状態又は非緊張状態における、RSA値、呼吸長、呼吸振幅、心拍数、心拍振幅の各生理指標の組み合わせとの相関性は、運転者毎に異なる傾向が確認される。かかる傾向は、上記した模擬運転区間での結果から導かれ得て、相関性の強い、つまり、変化の再現傾向に基づいて、生理指標を選択してその組み合わせを決定し、これにより車両運転中の運転者の心身状態の判定をしてもよい。これによれば、より明確な状態判定が可能となるため、緊張状態だけでなく、非緊張状態における判定も同様に可能となる。
【0038】
次に、判定システム1を用いて実際に運転者の心身状態を判定した例について説明する。
【0039】
ここでは、鉄道車両運転中の運転者の心身状態、特に緊張状態を判定した。そのために、上記した判定システム1を用いて、緊張を与える課題(緊張課題)を含む模擬運転区間で車両運転中の運転者について心拍及び呼吸を測定しその時間変動を求めた。
【0040】
模擬運転区間では、運転者の運転作業中における心拍及び呼吸を測定するために、運転シミュレータを用いた模擬運転を実施した。具体的には、大型TVモニタとワンハンドル型コントローラなどで構成した簡易鉄道運転シミュレータを用いた。模擬運転では、運転者が休憩を挟みながら走行課題を所定回数だけ繰り返し行った。走行課題として、所要時間約10分の4駅間の運転区間を設定した。走行課題には、走行している車両を所定の位置に停車させる運転動作などの緊張を与える課題が含まれた。なお、模擬運転に集中させるため、時刻表に従って規定の制限速度で運転を行うよう運転者に指示した。ここでは、一人の運転者が繰り返し行った模擬運転についての測定結果について説明する。
【0041】
図2に示すように、まず、測定された波形データについて、同一時間軸に心拍変動波形HRV及び呼吸波形BWを並べた。心拍変動波形HRVは、呼吸波形BWのうち呼吸開始点Sによって区切られる呼吸区間Tに対応する時間範囲ごとに切り出された。このとき、心拍変動波形HRVと呼吸区間Tとの間に同期性があった。そして、各々の呼吸区間Tにおける心拍変動波形HRVの振幅をRSA値とした。つまり、1呼吸に対応する心拍からRSA値を求めた。なお、RSA値については、各呼吸開始点Sに時間的に対応する心拍変動波形HRV上の点を結ぶ線分データを定義し、この線分データを心拍変動波形HRVから差し引く変換処理をした上で求めることが好ましい。かかる変換処理によって、交感神経と副交感神経の両方の影響を受ける血圧変動系の成分を除去できる。
【0042】
例えば、ここでは、上記した模擬運転区間を通して得られたRSA値、心拍数、呼吸長、呼吸振幅の算術平均をそれぞれの基準値とし、呼吸振幅以外のそれぞれについてはかかる平均値からの標準偏差を求めた。基準値は、それぞれ基準RSA値、基準心拍数、基準呼吸長、基準呼吸振幅と呼ぶこととした。また、模擬運転区間の中から、停止操作中(駅での停車の直前20秒の地点)の位置及び緊張しにくい駅停車中のそれぞれ位置に対応したRSA値、心拍数、呼吸長、呼吸振幅を抜き出し、これらを比較対象として以下のように基準値と比較して得点を定めた。
【0043】
すなわち、
図3に示すように、基準RSA値に対してRSA値が標準偏差以上に大きいときに+1点、標準偏差の2倍以上大きいときに+2点、標準偏差以上に小さいときに-1点、標準偏差の2倍以上小さいときに-2点として得点を設定し、0点以外の結果を停止操作中及び駅停車中のそれぞれについて出現率で示した。つまり、基準RSA値からの変動幅について、標準偏差やその2倍の値に対するRSA値の大小を判別して得点を付けた。その結果、緊張し易い停止操作中はRSA値が小さくなる傾向にあることが判った。しかし、緊張しにくい駅停車中であってもRSA値が小さくなることも多く、RSA値のみで緊張状態を判定することは難しいことが判った。
【0044】
また、
図4(a)に示すように、基準心拍数に対して心拍数が標準偏差以上に大きいときに+1点、標準偏差の2倍以上大きいときに+2点、標準偏差以上に小さいときに-1点、標準偏差の2倍以上小さいときに-2点として得点を設定し、0点以外の結果を停止操作中及び駅停車中のそれぞれについて出現率で示した。心拍数については、緊張し易い停止操作中に大きくなる傾向であった。
【0045】
図4(b)に示すように、基準呼吸長に対して呼吸長が標準偏差以上に大きいときに+1点、標準偏差の2倍以上大きいときに+2点、標準偏差以上に小さいときに-1点、標準偏差の2倍以上小さいときに-2点として得点を設定し、0点以外の結果を停止操作中及び駅停車中のそれぞれについて出現率で示した。呼吸長については、緊張し易い停止操作中に小さくなる傾向であった。
【0046】
図4(c)に示すように、基準呼吸振幅に対して呼吸振幅が2倍以上となった場合に+1点、基準値の半分以下になった場合に-1点として得点を設定し、0点以外の結果を停止操作中及び駅停車中のそれぞれについて出現率で示した。呼吸振幅については、緊張し易い停止操作中に小さくなる傾向であった。
【0047】
しかし、心拍数、呼吸長、呼吸振幅のいずれについても、単独で緊張状態を判定するには上記したRSA値による判定よりもさらに難しいことが判った。
【0048】
そこで、RSA、心拍数、呼吸長、呼吸振幅のそれぞれの得点を緊張状態で生じやすい方を正とするように得点の符号を変換して、つまりRSA値、呼吸長、呼吸振幅の得点に-1を乗じて、それぞれの得点を合計し、総合判定とした。
【0049】
図5に示すように、総合判定では、得点「3」の判定では、ほぼ停止操作中のものとなり、運転者の心身状態は相対的に強い緊張状態であると考えられた。一方、得点を負にする判定では停止操作中のものがほとんどなく、相対的に弱い緊張状態である可能性が非常に高いと考えらえた。
【0050】
以上のように、測定される運転者の心拍及び呼吸の両データから該運転者の心身状態について、緊張状態の相対的な強弱を判定することができる。特に、基準RSA値と標準偏差を用いるなど、基準値とこれに対する所定値の隔たりによって判定を行うため、心拍変動波形及び呼吸波形において相対的な数値変化のみで判定が可能である。つまり、測定値の絶対値としての精度は要求されない。そのため、RSA値の詳細な算出方法については特に限定されず、模擬運転から運転者の心身状態の判定までを通して1つに定められていればよい。また、心拍と呼吸の両データから運転者の心身状態を判定することに意味があり、RSA値による判定の契機に呼吸長又は呼吸振幅のうちの一方の判別を組合せるだけでも少なくともRSA値のみによる判定よりも精度よく心身状態を判定し得る。また、呼吸長、呼吸振幅の両者を組合せた判定とすることが好ましく、さらには、上記したように心拍数やRSA値、そして、心拍振幅を組み合わせた判定とすることもできる。
【0051】
また、上記したように、測定値に絶対値としての精度を必要としないため、呼吸波形の取得については運転者の胸囲又は腹囲の変化を検出するだけの簡便な測定方法とすることができ、ウエアラブルセンサを測定に使用することができた。
【0052】
また、上記した例では、模擬運転区間の中から停止操作中及び駅停車中のRSA値、心拍数、心拍振幅、呼吸長、呼吸振幅を抜き出して判定を行ったが、模擬運転区間で得られた基準値及び標準偏差を用いることで実運行区間においても同様に運転者の心拍及び呼吸の時間変動を測定して運転者の心身状態を判定することもできる。つまり、基準RSA値、基準呼吸長、基準呼吸振幅とそれぞれの標準偏差、さらに基準心拍数、基準心拍振幅、を模擬運転において算出して、記憶装置23に記憶させておくことで、以降の実運行区間などの他の運転区間においては、特定位置においてリアルタイムで運転者の心身状態を判定可能である。特定位置とは運転者の心身状態を判定しようとする位置であり、心拍及び呼吸の時間変動を測定した時間軸上の位置であるが、運転区間内の空間上の位置と時間軸とを対応させて空間上の位置とすることもできる。特に、鉄道であれば、運行区間上の車両の走行予定が定められており、例えば、駅や踏切などの特定区間の直前においても運転者の心身状態を判定することができ、場合によってアラームを発したりすることも可能となる。なお、上記したように、これらの基準値や標準偏差は運転者の個人差を含むため、運転者毎に定めて用いられる。
【0053】
上記した例では、基準RSA値、基準心拍数、基準心拍振幅、基準呼吸長、基準呼吸振幅について、模擬運転区間を通した算術平均として決定したが、その他によって決定してもよい。例えば、基準RSA値を模擬運転区間で取得された値の最大値に決定すると、基準RSA値はほぼ完全なリラックス状態と仮定できる。そして、基準RSA値からのRSA値の低下した変動幅で緊張状態を段階的に点数化してこれに上記と同様に呼吸長などの基準値からの変動幅の判別を組合せることで運転者の心身状態を判定することができる。
【0054】
さらに、基準RSA値からのRSA値の変動幅を組み合わせて心身状態の判定を行う場合において、かかる変動幅を補正する方法もある。まず、1呼吸に対応する呼吸波形及び心拍変動波形のそれぞれを1呼吸間呼吸波形及び1呼吸間心拍変動波形とする。このとき、1呼吸間呼吸波形と1呼吸間心拍変動波形とを比較して、これらの相関が高いほど1に近く相関が低いほど0に近くなる補正係数を定める。このような補正係数は、例えば、1呼吸間呼吸波形と1呼吸間心拍変動波形との間の相関係数や位相差を用いて算出し得る。相関係数を用いる場合であれば、相関係数の絶対値を補正係数とし得る。位相差を用いる場合であれば、(π-位相差)/πの絶対値を補正係数とし得る。これら2つの積算値を補正係数としてもよい。その上で、基準RSA値からの変動幅にかかる補正係数を乗じて補正し、上記と同様に判定を行う。1呼吸間呼吸波形と1呼吸間心拍変動波形との相関が高いほどRSA値としての信頼度が高くなる傾向にあるため、このような補正をすることでRSA値の信頼度を反映し、精度よく運転者の心身状態の判定をすることができる。
【0055】
また、上記した実施例では、ある時点における緊張状態を当該時点での心拍及び呼吸の時間変動によって判定したが、時間的な前後関係に基づいて心身状態を判定することもできる。例えば、RSA値が非常に高い(例えば基準RSA値の4倍以上の)状態から、次の呼吸区間T(
図2参照)で基準RSA値からの変動幅(隔たり)が標準偏差よりも大きく下回った場合に極度の緊張状態か心理的に動揺していると判定できる。また、規則的な呼吸をしているときは運転操作を行うために好ましい適度な緊張状態であるか、又は、覚醒低下状態である可能性が高い。そこで、呼吸長の基準呼吸長からの隔たりが、4回連続する呼吸区間Tのいずれにおいても10%以下であった場合に規則的な呼吸とみなし、さらに心拍数が基準心拍数よりも大きい値で一定していたり増加していたりした場合に適度な緊張と判定し、基準心拍数よりも小さい値で一定していたり減少していたりした場合にこれより弱い緊張状態(又は覚醒低下状態)と判定できる。また、呼吸振幅が基準呼吸振幅の2倍を超える場合や、呼吸長が基準呼吸長の標準偏差の2倍以上大きい場合などの大呼吸をした場合、その時間的な前後で心身状態の切替えがあったと判定することなどもできる。
【0056】
ここで、RSA値、呼吸長、心拍数、の3つの生理指標にさらに呼吸長変化率及び心拍数変化率を加えた5つの生理指標において、測定される運転者個人ごとに緊張課題に対する変化の再現傾向に差がある一方、呼吸長については運転者個人によらず、緊張課題に対する変化が一定することがわかった。そこで、呼吸長と、これに組み合わせる他の生理指標であって、運転者個人ごとに異なる緊張課題に対する変化の再現傾向の高い生理指標を用いて緊張状態を判定することで、より精度の高い判定が可能となる。
【0057】
つまり、判定システム1は、制御ユニット20において、運転者毎に、緊張課題に対応する呼吸長変化率、心拍数(心拍間隔)、心拍数変化率(心拍間隔変化率)RSA値の変化の再現傾向、つまり繰り返し同じ変化を示す生理指標の1つ以上を呼吸長とともに特定生理指標として選択し記憶させておく。かかる選択は、変化幅をあらかじめ設定して自動的にフィルタリングを行うようにしても良いし、他の公知の方法を用いてもよい。そして、運転者毎の基準となる基準RSA値及び基準呼吸長とともに、特定生理指標についての各基準値を上記したと同様に決定しておく。その上で、緊張状態の判定において、上記同様に、呼吸長を含む特定生理指標についての対応する基準値からの変動幅を組み合わせて判定するのである。
【0058】
図6(a)には、複数の緊張課題及び非緊張課題を含む模擬運転において、緊張課題に対する各生理指標での非緊張傾向及び緊張傾向の出現率の一例を示した。各生理指標の棒グラフの左側は非緊張状態の傾向と判断される、つまり、緊張課題であるにもかかわらず非緊張状態と判定される誤りを示した出現率、棒グラフの右側は緊張状態傾向と判断される、つまり、正解を示した出現率である。
【0059】
なお、心拍間隔変化率及び呼吸長変化率については次のように算出し、評価した。詳細には、予め、運転者が最も平常状態に近い心身状態であると推定されるときに算出された心拍間隔を「1」として定めておく。そして、1呼吸毎に連続して4回算出した心拍間隔のうち1回目を除く2~4回目の心拍間隔の前回との差分(2回目の場合は1回目との差分)が、全て「0.25」以下の場合に心拍間隔が安定しており規則的であると評価し、これを心身状態の判定に用いる。つまり、基準心拍間隔変化率を「0.25」以下と定め、4回連続した心拍間隔の1呼吸あたりの変化率をそれぞれ評価するのである。呼吸長変化率も心拍間隔変化率と同様に算出し、評価できる。
【0060】
これによると、呼吸長とともに、心拍間隔において正解を示す傾向にある。このため、上記したように、呼吸長の基準呼吸長に対する変動幅と、呼吸長変化率の基準呼吸長変化率に対する変動幅と、を組み合わせた総合判定B(
図6(b)参照)と比較して、呼吸長の基準呼吸長に対する変動幅と、心拍間隔の基準心拍間隔に対する変動幅と、を組み合わせた総合判定A(
図6(b)参照)の方が緊張状態傾向を正しく示すのである。
【0061】
なお、非緊張状態の判定は困難であったが、上記同様、運転者個人ごとに異なる非緊張課題(例えば、駅停車中)に対する変化の再現傾向の高い第2の特定生理指標についても呼吸長を含んで選択し、これらを用いてその緊張状態の判定ができるようになる。
【0062】
以上、本発明による代表的な実施例について述べたが、本発明は必ずしもこれに限定されるものではなく、適宜、当業者によって変更され得る。すなわち、当業者であれば、添付した特許請求の範囲を逸脱することなく、種々の代替実施例及び改変例を見出すことができるであろう。
【符号の説明】
【0063】
1 判定システム
10 波形測定ユニット
11 心拍測定センサ
12 呼吸測定センサ
20 制御ユニット
21 制御装置
22 判定装置
23 記憶装置