(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022029526
(43)【公開日】2022-02-18
(54)【発明の名称】固定金具用工具、固定金具の固定方法、及び、固定金具の抜取方法
(51)【国際特許分類】
B25B 27/30 20060101AFI20220210BHJP
E01F 8/00 20060101ALI20220210BHJP
【FI】
B25B27/30
E01F8/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020132822
(22)【出願日】2020-08-05
(71)【出願人】
【識別番号】514245225
【氏名又は名称】アスゲッティ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 淳
(72)【発明者】
【氏名】山田 良司
【テーマコード(参考)】
2D001
3C031
【Fターム(参考)】
2D001AA01
2D001BA02
2D001BB01
2D001CA01
3C031EE27
3C031EE73
(57)【要約】
【課題】従来よりも円滑に固定金具を圧入可能とする。
【解決手段】着脱工具50(固定金具用工具)は、固定手段に含まれるトグルクランプ61及びストッパプレート68と、アーム80、及び圧入ハンドル90を備える。トグルクランプ61及びストッパプレート68は、一対のフランジ14A,14Bの、対向面14A1,14B1とは反対側の、一対の露出面14A2,14B2同士を挟持する。アーム80は、固定金具30の圧入方向に沿って進退可能であって、圧入方向端部に固定金具30と当接するヘッド83が設けられる。圧入ハンドル90は、アーム80から離隔された支点ピン67A,67Bを中心に回動可能であってアーム80を圧入方向に付勢する。ヘッド83は、固定金具30の、圧入方向に沿った底板32の上面32Aとの当接面83Aを有する。
【選択図】
図13
【特許請求の範囲】
【請求項1】
H鋼の支柱に設けられた一対のフランジの一方と、一対の前記フランジ間に配置された遮音板との間隙に固定金具を圧入可能な、固定金具用工具であって、
一対の前記フランジの、対向面とは反対側の、一対の露出面同士を挟持する固定手段と、
前記固定金具の圧入方向に沿って進退可能であって、前記圧入方向端部に前記固定金具と当接するヘッドが設けられたアームと、
前記アームから離隔された支点ピンを中心に回動可能であって前記アームを前記圧入方向に付勢するハンドルと、
を備え、
前記ヘッドは、前記固定金具の、前記圧入方向に沿った底板の上面との当接面を有する、固定金具用工具。
【請求項2】
請求項1に記載の固定金具用工具であって、
前記固定手段は、一対の前記露出面同士を挟持する挟持力を調整可能な調整機構を備える、固定金具用工具。
【請求項3】
請求項2に記載の固定金具用工具であって、
前記固定手段は、
一対の前記フランジの一方であって前記固定金具と当接する金具側フランジの前記露出面に当接する当接面を備えるストッパプレートと、
一対の前記フランジの他方であって前記遮音板と当接する遮音板側フランジの前記露出面と当接するクランプパッドを備えるクランプ部材と、
を備え、
前記クランプ部材は、前記ストッパプレートと前記クランプパッドにより前記金具側フランジと前記遮音板側フランジとを挟持した状態で、前記遮音板側フランジの前記露出面とは直交する方向に前記クランプパッドを進退可能なネジ送り機構を前記調整機構として備える、
固定金具用工具。
【請求項4】
請求項3に記載の固定金具用工具であって、
前記クランプ部材と前記ストッパプレートを接続する機構であって、挟持状態の前記クランプパッドと前記ストッパプレートの前記当接面とに並列するようにオフセットされ、一対の対向する接続板と一対の前記接続板の一端同士を接続する被覆板とを備え、前記支柱に隣接させて前記遮音板上に跨るように配置される、鞍型機構を備え、
一対の前記接続板の、前記被覆板が接続された前記一端とは対向する他端側に前記クランプ部材及び前記ストッパプレートが接続される、
固定金具用工具。
【請求項5】
請求項4に記載の固定金具用工具であって、
前記鞍型機構の前記被覆板に、前記アーム及び前記支点ピンが設けられ、
前記鞍型機構の一対の前記接続板のうち前記遮音板側フランジに隣接する前記接続板と、前記遮音板側フランジとに掛け渡され、前記遮音板側フランジに対する前記接続板の移動を抑制する開き止め部材を備える、
固定金具用工具。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の、固定金具用工具であって、
前記ハンドルは、前記支点ピンから着脱可能であって、
前記アームの、前記ヘッドが設けられた前記圧入方向端部と対向する他端部には、前記アームより径の大きいハンドル受け部が設けられ、
前記支点ピンを中心に回動可能であって、前記アームに差し込み可能な二股のフォークが設けられ、当該フォークが前記ハンドル受け部の底面に当接して前記アームを前記圧入方向とは反対の引抜方向に付勢する、引抜ハンドルを備える、
固定金具用工具。
【請求項7】
請求項4または5に記載の固定金具用工具の、前記鞍型機構を、前記遮音板に跨らせるとともに、前記ヘッドの前記当接面を、前記固定金具の底板の上面に当接させ、前記ハンドルを回動させることで前記アームを前記圧入方向に付勢して、前記支柱の前記フランジと前記遮音板との間隙に前記固定金具を圧入させる、固定金具の固定方法。
【請求項8】
請求項6に記載の前記引抜ハンドルにより前記アームを前記引抜方向に付勢することで、前記間隙から前記固定金具を引き抜く、固定金具の抜取方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書では、遮音板を支柱に固定させるための固定金具の着脱作業に用いられる、固定金具用工具、ならびに、当該工具を用いた固定金具の固定方法及び固定金具の抜取方法が開示される。
【背景技術】
【0002】
道路の脇(側方)には、道路騒音の民地への伝搬を抑制するための遮音壁が設けられる。この遮音壁は、道路の延設方向に沿って間隔を空けて立設された支柱と、当該支柱に支持される遮音板を含んで構成される。
【0003】
支柱は例えばH鋼であって、支柱の対向する一対のフランジ間に、遮音板の側端が挿入される。遮音板の厚みは、支柱のフランジ間隔より薄くなっており、遮音板と支柱のフランジとの間には間隙が生じる。支柱に遮音板を支持させる(押し付ける)ために、この間隙には、例えば特許文献1に示されるような固定金具が圧入される。
【0004】
固定金具は、略楔形状、または逆台形状であって、下端が支柱のフランジと遮音板との間隙に挿入された後に、ハンマーを用いた打ち込み等により圧入される。圧入に伴って固定金具が潰され、その反発力により遮音板が支柱のフランジに押し付けられる。これにより遮音板が支柱に支持される。
【0005】
例えばこの圧入工程に関連して、特許文献2では、電子部品のコネクタをプリント基板に圧入するハンドプレス機が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001-65523号公報
【特許文献2】特開2014-102938号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、例えば固定金具を上から叩いて圧入させる場合、固定金具が縦方向に潰れて横方向に拡がる。言い換えると、固定金具の上端を被加圧面として下方に圧入する場合に、圧入方向(縦方向)に固定金具が潰されることから、圧入方向に直交する方向(横方向)に固定金具が膨らむ。これにより、固定金具の間隙への圧入が困難になるおそれがある。
【0008】
そこで本明細書では、従来よりも円滑に固定金具を圧入可能な、固定金具用工具及び当該工具を用いた固定金具の固定方法が開示される。また本明細書では、従来よりも円滑に固定金具を抜取可能な、固定金具の抜取方法が開示される。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本明細書で開示される固定金具用工具は、H鋼の支柱に設けられた一対のフランジの一方と、一対のフランジ間に配置された遮音板との間隙に固定金具を圧入可能となっている。当該固定金具用工具は、固定手段、アーム、及びハンドルを備える。固定手段は、一対のフランジの、対向面とは反対側の、一対の露出面同士を挟持する。アームは、固定金具の圧入方向に沿って進退可能であって、圧入方向端部に固定金具と当接するヘッドが設けられる。ハンドルは、アームから離隔された支点ピンを中心に回動可能であってアームを圧入方向に付勢する。ヘッドは、固定金具の、圧入方向に沿った底板の上面との当接面を有する。
【0010】
上記構成によれば、固定金具の圧入時に、固定金具の底板がヘッドにより引き下げられる。これにより、固定金具を上端から圧入する場合に生じ得る、圧入方向に直交する方向における固定金具の膨出が抑制され、円滑な圧入が可能となる。
【0011】
また上記構成において、固定手段は、フランジの一対の露出面同士を挟持する挟持力を調整可能な調整機構を備えてもよい。
【0012】
支柱の設計公差に起因して、フランジ間の距離にばらつきが生じる。その結果、一対のフランジを外側から、つまり両フランジの露出面から挟持する場合に、固定手段による両フランジの挟持が不十分となるおそれがある。上記構成のように調整機構によって挟持力を調整可能とすることで、フランジ間の距離にばらつきが生じても、固定手段が一定の挟持力を得ることができる。
【0013】
また上記構成において、固定手段は、ストッパプレートとクランプ部材を備えてもよい。ストッパプレートは、一対のフランジの一方であって固定金具と当接する金具側フランジの露出面に当接する当接面を備える。クランプ部材は、一対のフランジの他方であって遮音板と当接する遮音板側フランジの露出面と当接するクランプパッドを備える。クランプ部材は、ネジ送り機構を調整機構として備える。ネジ送り機構は、ストッパプレートとクランプパッドにより金具側フランジと遮音板側フランジとを挟持した状態で、遮音板側フランジの露出面とは直交する方向にクランプパッドを進退可能となっている。
【0014】
上記構成によれば、ネジ送りという簡素な構造によって、固定手段の挟持力を調整可能となる。
【0015】
また上記構成において、固定金具用工具は、鞍型機構を備えてもよい。鞍型機構は、クランプ部材とストッパプレートを接続する機構である。また鞍型機構は、挟持状態のクランプパッドとストッパプレートの当接面とに並列するようにオフセットされる。さらに鞍型機構は、一対の対向する接続板と、その一対の接続板の一端同士を接続する被覆板とを備え、支柱に隣接させて遮音板上に跨るように配置される。また一対の接続板の、被覆板が接続された一端とは対向する他端側に、クランプ部材及びストッパプレートが接続される。
【0016】
上記構成によれば、鞍型機構が遮音板に跨るように配置され、その鞍型機構の他端(下端)側に、クランプ部材及びストッパプレートが接続される。このような構造において、クランプ部材及びストッパプレートは、遮音板よりも上方に配置されることが避けられる。したがって、例えば最上段の遮音板のように、遮音板の上端からの支柱の突出長さが短い場合であっても、固定手段は確実に支柱を挟持可能となる。
【0017】
また上記構成において、鞍型機構の被覆板に、アーム及び支点ピンが設けられてよい。さらに、固定金具用工具は、開き止め部材を備えてもよい。当該開き止め部材は、鞍型機構の一対の接続板のうち遮音板側フランジに隣接する接続板と、遮音板側フランジとに掛け渡され、遮音板側フランジに対する接続板の移動を抑制する。
【0018】
上記構成によれば、ネジ送り機構によってクランプパッドを進退させる際に、開き止め部材により鞍型機構の供回りが規制される。その結果、鞍型機構に固定されたアーム及び支点ピンの回動も抑制され、アームの圧入方向の傾きを抑制可能となる。
【0019】
また上記構成において、ハンドルは、支点ピンから着脱可能であってよい。また、アームの、ヘッドが設けられた圧入方向端部と対向する他端部には、アームより径の大きいハンドル受け部が設けられてよい。この場合、固定金具用工具は、引抜ハンドルを備える。引抜ハンドルは、支点ピンを中心に回動可能であって、アームに差し込み可能な二股のフォークが設けられ、当該フォークがハンドル受け部の底面に当接してアームを圧入方向とは反対の引抜方向に付勢する。
【0020】
上記構成によれば、固定金具用工具が、固定金具の引抜工具としても使用可能となる。
【0021】
また本明細書で開示される固定金具の固定方法は、上記に記載の固定金具用工具の、鞍型機構を、遮音板に跨らせるとともに、ヘッドの当接面を、固定金具の底板の上面に当接させる。さらに、ハンドルを回動させることでアームを圧入方向に付勢して、支柱のフランジと遮音板との間隙に固定金具を圧入させる。
【0022】
また本明細書で開示される固定金具の抜取方法は、上記に記載の引抜ハンドルによりアームを引抜方向に付勢することで、間隙から固定金具を引き抜く。
【発明の効果】
【0023】
本開示における固定金具用工具及び当該工具を用いた固定金具の固定方法によれば、従来よりも円滑に固定金具を圧入可能となる。また本開示における上記工具を用いた固定金具の抜取方法によれば、従来よりも円滑に固定金具を抜取可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】遮音板が金属製遮音板である場合の、遮音壁の施工について説明する図である。
【
図2】遮音板が透光性遮音板である場合の、遮音壁の施工について説明する図である。
【
図4】本実施形態に係る固定金具用工具を例示する斜視図である。
【
図5】
図4とは反対のアングルから見た、本実施形態に係る固定金具用工具を例示する斜視図である。
【
図6】遮音壁の施工プロセス(1/7)を例示する斜視図である。
【
図7】遮音壁の施工プロセス(2/7)を例示する斜視図である。
【
図8】遮音壁の施工プロセス(3/7)を例示する斜視図である。
【
図9】遮音壁の施工プロセス(4/7)を例示する斜視図である。
【
図11】遮音壁の施工プロセス(5/7)を例示する斜視図である。
【
図12】遮音壁の施工プロセス(6/7)を例示する斜視図である。
【
図14】遮音壁の施工プロセス(7/7)を例示するB-B断面図である。
【
図15】本実施形態に係る固定金具用工具に圧入用補助ロッドを装着したときの斜視図である。
【
図16】圧入用補助ロッドを固定金具用工具に装着させたときの、遮音壁の施工プロセスを説明する、
図13に対応する側面断面図である。
【
図17】圧入用補助ロッドを固定金具用工具に装着させたときの、遮音壁の施工プロセスを説明する、
図14に対応する側面断面図である。
【
図18】圧入ハンドルに代えて引抜用ハンドルを備えた、本実施形態に係る固定金具用工具を例示する斜視図である。
【
図19】本実施形態に係る固定金具用工具を用いた、固定金具の引抜プロセスを説明する斜視図である。
【
図21】引抜用プレートを備える、本実施形態に係る固定金具用工具を例示する斜視図である。
【
図22】引抜用補助プレートを固定金具用工具に装着させたときの、固定金具の引抜プロセスを説明する斜視図である。
【
図24】本実施形態に係る固定金具用工具に引抜用補助ロッドを装着したときの斜視図である。
【
図25】引抜用補助ロッドを固定金具用工具に装着させたときの、固定金具の引抜プロセスを説明する、
図23に対応する側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1に、遮音壁の構成部材である、支柱10、遮音板20及び固定金具30が例示される。遮音壁は、道路の脇(側方)に設けられ、道路の幅方向外側の民地への騒音伝搬を抑制する。例えば、支柱10、遮音板20及び固定金具30は、東日本高速道路株式会社、中日本高速道路株式会社、及び西日本高速道路株式会社による「遮音壁標準設計図集」に基づいて仕様が定められる。
【0026】
支柱10はH鋼から構成される。すなわち支柱10は、一対のフランジ14A,14Bと、一対のフランジ14A,14B間を接続するウェブ12を含んで構成される。フランジ14A,14Bは、その延設方向が道路の延設方向に平行となるように配置される。
【0027】
後述されるように、一対のフランジ14A,14Bの間に、遮音板20の側端部22A,24Aが挿入される。遮音板20の側端部22A,24Aとは、その長手方向の両端部を指す。さらに遮音板20とフランジ14Bとの間に間隙が設けられ、この間隙に固定金具30が圧入される。この圧入時の構造に基づいて、遮音板20に当接する側のフランジ14Aは、適宜「遮音板側フランジ14A」とも記載される。また固定金具30に当接する側のフランジ14Bは、適宜「金具側フランジ14B」とも記載される。
【0028】
支柱10は、遮音板20の支持部材となる。したがって支柱10は、遮音板20の長手方向長さ分のピッチを持って、等間隔に道路脇に設置される。隣り合う支柱10,10間に、遮音板20が落とし込まれる。例えば支柱10の立設方向に沿って、複数段の遮音板20が立設状態で積層される。
【0029】
遮音板20は、略直方体形状のパネル部材であって、金属製のケーシング内に吸音材が収容される。遮音板20の前面22にはグリル26と呼ばれる開口が形成される。遮音板20の前面22は道路側に向けられる。したがって遮音板20の背面24は民地側に向けられる。
【0030】
また後述されるように、遮音板20の長手方向側端部22A,24Aと支柱10のフランジ14A,14Bとが対向する。さらに遮音板20の背面24の側端部24Aと、金具側フランジ14Bとの間に間隙が設けられ、当該間隙に固定金具30が圧入される。この圧入は、本実施形態に係る固定金具用工具(着脱工具50)により実行される。
【0031】
側端部22A,24A間は空洞となっている。この空洞には、図示しない落下防止用のワイヤが挿通される。ワイヤの経路として、遮音板20の頂面及び底面の側端部にはワイヤ開口25が形成される。
【0032】
なお、
図1では、遮音板20として金属製遮音板が例示されているが、遮音板20は、
図2のように、透光板28が金属製のフレーム29に支持された、透光性遮音板であってもよい。この場合も
図1と同様にして、フレーム29の側端部22A,24Aが支柱10の遮音板側フランジ14A及び金具側フランジ14Bと対向する。さらに遮音板20の背面24の側端部24Aと、金具側フランジ14Bとの間に間隙が設けられ、当該間隙に固定金具30が圧入される。この圧入は、本実施形態に係る固定金具用工具(着脱工具50)により実行される。
【0033】
<固定金具の構成>
図3には固定金具30が例示される。固定金具30は例えばJIS G 4313で定められるばね用ステンレス鋼帯を曲げ加工することで成形される。固定金具30は支柱10のフランジ14Bと遮音板20との間に圧入され、圧入時の潰れにより生じるばね反力を用いて、遮音板20が支柱10の遮音板側フランジ14Aに押し付けられる。その結果遮音板20が支柱10に固定される。例えば固定金具30は、仕様に応じて、2.0kN以上または4.0kN以上のばね反力が出せるように、つまり当該ばね反力以下の荷重で座屈しないように製造される。
【0034】
固定金具30は、側面視(
図3矢印A視)で略逆台形状であって、固定金具30が無負荷の状態において、相対的に小幅の下底の幅D2は、支柱10と遮音板20の離隔距離D1(
図6参照)より狭くなるように形成される。また無負荷状態(自然状態)において、相対的に大幅の上底の幅D3は、支柱10と遮音板20の離隔距離D1より広くなるように形成される。
【0035】
固定金具30は、一対の側板31A,31B、底板32、ばね板部33、受け部34、及び留め板部36を含んで構成される。底板32は、固定金具30の下底部分であり、その対向する両端に一対の側板31A,31Bがそれぞれ接続される。側板31A,31Bは、底板32から互いに離隔されるように、斜め上方に延設される。後述されるように、側板31Aは支柱10の金具側フランジ14B(
図1参照)と対向する。また側板31Bは遮音板20の背面24と対向する。
【0036】
側板31Bの上端は留め板部36に接続される。留め板部36は底板32と略平行に延設され、遮音板20の頂面21(
図1参照)に当接するストッパとしての機能を備える。留め板部36は遮音板20のワイヤ開口25と位置合わせされるワイヤ孔37が板厚方向に貫通される。
【0037】
側板31Aの上端はばね板部33に接続される。ばね板部33は、その上端から斜め下に、つまり、下方に行くにしたがって他方の側板31B側に延設される。ばね板部33は、さらにそこから屈曲されて逆斜め下に、つまり、下方に行くにしたがって一方の側板31A側に延設される。
【0038】
ばね板部33の下端は受け部34が接続される。受け部34は、上方が開口されたU字形状に構成される。後述されるように、固定金具30の圧入に際して、受け部34に着脱工具50の圧入用補助ロッド100(
図15参照)が当接される。
【0039】
<固定金具用工具の構成>
図4、
図5には、本実施形態に係る、固定金具用工具が例示される。この工具は、固定金具30の圧入及び引抜が可能となっている。したがってこの固定金具用工具は、以下では適宜、着脱工具50と記載される。
【0040】
図4、
図5に例示されるように、固定金具30の圧入及び引抜に当たり、着脱工具50(固定金具用工具)は、支点プレート66がトグルクランプ61よりも鉛直方向上方に位置するような向きに定められる。さらに
図8に例示されるように、被覆板70の長手方向が遮音板20の厚さ方向に向けられる。このような着脱工具50の向きは以下では適宜、作業時姿勢とも記載される。
【0041】
なお、以下の実施形態では、遮音板20を正面から見て、つまり前面22と面した状態で左側の支柱10と当該遮音板20との間隙に固定金具30を圧入させるときの、着脱工具50が例示される。遮音板20を正面から見て右側の支柱10と当該遮音板20との間隙に固定金具30を圧入させるときには、
図4、
図5と線対称構造の着脱工具50が使用される。
【0042】
着脱工具50(固定金具用工具)は、工具本体60と、工具本体60から着脱可能(分離可能)な圧入ハンドル90を含んで構成される。工具本体60は、支柱10に工具本体60を固定させる固定手段として、トグルクランプ61及びストッパプレート68を備える。また、工具本体60を遮音板20上に配置する鞍型機構として、工具本体60は、接続板73A,73B及び被覆板70を備える。さらに、てこの原理を応用して固定金具30を圧入または引抜く機構として、工具本体60は、支点プレート66、アーム80及びヘッド83を備える。なお
図5では、圧入ハンドル90の図示が省略される。例えばこれらの少なくとも主要部品は、アルミ等の剛性材料から構成される。
【0043】
<固定金具用工具の鞍型機構>
鞍型機構を構成する接続板73A,73B及び被覆板70は、作業時姿勢(
図4及び
図5の姿勢)において、側面視が上に凸のコ字状となる。接続板73A,73Bは作業時姿勢において垂直に立設されその主面が対向するように平行配置される。なお以下では適宜、平板部材において主面とは、その部材中で最も面積の大きい平面を指す。
【0044】
さらに接続板73A,73Bの一端(作業時姿勢では上端)同士が被覆板70に接続される。被覆板70は接続板73A,73Bの主面(対向面)に対して垂直に延設される。被覆板70の長手方向長さは、例えば遮音板20の厚さをわずかに超過する長さであってよい。なお、遮音板20の厚さとは、遮音板20の前面22(
図1参照)から背面24までの距離を指す。
【0045】
また、
図9に例示されるように、接続板73Aは、支柱10の遮音板側フランジ14Aと同一の板厚であってよい。このような板厚とすることで、後述される
図11の増し締め工程の際に、開き止め部材72のがたつきを抑えることが出来る。
【0046】
この、接続板73A,73B及び被覆板70により構成される鞍型機構は、クランプ部材であるトグルクランプ61とストッパプレート68を接続する。この接続に際して、この鞍型機構は、トグルクランプ61とストッパプレート68による支柱10の狭持に干渉しない位置に配置される。
【0047】
例えば、ストッパプレート68とトグルクランプ61のクランプパッド63にて支柱10のフランジ14A,14Bを狭持する狭持状態において、ストッパプレート68の当接面68Aとクランプパッド63に並列するように、鞍型機構がオフセット配置される。このオフセット方向は、狭持状態のネジロッド53の軸方向に対して垂直な軸方向であってよい。
【0048】
後述される
図8のように、接続板73A,73B及び被覆板70から構成される鞍型機構は、固定金具30の圧入及び引抜の際に、遮音板20の上面、すなわち頂面21に跨がるように配置される。具体的には、被覆板70は遮音板20の頂面21を覆う。接続板73Bは遮音板20の背面24と対向する。接続板73Aは遮音板20の前面22(
図1参照)と対向する。
【0049】
<固定金具用工具の固定手段>
図4、
図5を参照して、接続板73Aに、クランプ部材であるトグルクランプ61がボルト留め等により固定される。トグルクランプ61は、接続板73Aに溶接等により固定される。より具体的には、接続板73Aの、被覆板70と接続される端部(作業時姿勢では上端)とは対向する他端側(作業時姿勢では下端側)にトグルクランプ61が固定される。
【0050】
また、接続板73Bにストッパプレート68が溶接等により固定される。より具体的には、接続板73Bの、被覆板70と接続される端部(作業時姿勢では上端)とは対向する他端側(作業時姿勢では下端側)にストッパプレート68が固定される。
【0051】
図5に例示されるように、ストッパプレート68は、接続板73Bよりもその主面に沿った方向に突出するように形成され、その、接続板73Bからはみ出した部分が当接面68Aを構成する。この、トグルクランプ61及びストッパプレート68は、支柱10の遮音板側フランジ14Aの露出面14A2及び金具側フランジ14Bの露出面14B2を挟持する固定手段を構成する。
【0052】
後述される
図8のように、固定金具30の圧入及び引抜時に、ストッパプレート68の当接面68Aは、支柱10の金具側フランジ14Bの露出面14B2と当接する。また、当接面68Aの一部は、トグルクランプ61が閉じられたときのクランプパッド63と対向する。
【0053】
なお、
図1を参照して、遮音板側フランジ14A及び金具側フランジ14Bの露出面14A2,14B2とは、道路側または民地から視認可能な遮音板側フランジ14A及び金具側フランジ14Bの面を指す。つまり、遮音板側フランジ14A及び金具側フランジ14Bの内側の面である対向面14A1,14B1とは反対側の面(外側の面)が露出面14A2,14B2となる。
【0054】
図4、
図5を参照して、クランプ部材であるトグルクランプ61は、クランプハンドル62、クランプアーム51、クランプパッド63、及びベースプレート65を備える。ベースプレート65は、接続板73Aに、ボルト・ナット締結等の締結手段にて固定される。
【0055】
さらにトグルクランプ61は、固定手段(トグルクランプ61及びストッパプレート68)の、支柱10の露出面14A2,14B2同士を挟持する狭持力を調整可能な調整機構を備える。当該調整機構は、ネジロッド53、締込取手54、押さえ取手55、及びナット56A~56Dを含むネジ送り機構を備える。
【0056】
トグルクランプ61についてはその構造が既知であることから、ここでは簡単に説明すると、クランプハンドル62は、
図4の破線で示されるように回動可能となっており、この回動に応じてネジロッド53が破線で示されるように回動する。
図4ではネジロッド53が締め付け位置に配置される。破線は開放位置を示す。
【0057】
ネジロッド53の、鞍型機構寄りの一端には、クランプパッド63が設けられる。クランプパッド63は、支柱10の遮音板側フランジ14Aの露出面14A2(
図1参照)と当接する当接部材であって、例えばゴム等の弾性部材を含んで構成される。
【0058】
クランプアーム51の、クランプハンドル62とは対向する側の端部には、端部円筒52が設けられる。端部円筒52は長手方向に貫通孔が形成され、当該貫通孔にネジロッド53が挿入される。端部円筒52の内周面は、ネジ溝が切られていない平滑面であってよい。
【0059】
<固定金具用工具の調整機構>
ネジロッド53の外周面にはネジ溝が切られており、このネジ溝にナット56A~56Dが螺入される。ナット56Aは締込取手54と溶接等により固定されている。締込取手54には、ナット56Aと同軸の貫通孔が穿孔され、当該貫通孔にネジロッド53が挿入される。
【0060】
クランプハンドル62を閉じ位置に移動させて、ストッパプレート68とクランプパッド63により支柱10を狭持する際に、端部円筒52の先端(クランプパッド63側の先端)がナット56Aの後端(端部円筒52側の端部)と当接する。つまりナット56Aは端部円筒52の、ネジロッド53の軸方向のストッパとして機能する。
【0061】
また、ネジロッド53のネジ溝が右ネジである場合に、締込取手54を反時計回りに回すと、ネジロッド53がナット56Aから前進させられる。これによりクランプパッド63とストッパプレート68による支柱10の狭持力が増加する。また締込取手54を時計回りに回すと、ネジロッド53がナット56Aから後退させられる。これによりクランプパッド63とストッパプレート68による支柱10の狭持力が低減する。
【0062】
つまり、ストッパプレート68とクランプパッド63により、金具側フランジ14Bと遮音板側フランジ14Aとが狭持される。この状態で、締込取手54を介したナット56Aのネジ回しを行うことで、支柱10の遮音板側フランジ14Aの露出面14A2(
図9参照)に対する直交方向にクランプパッド63が進退可能となる。
【0063】
端部円筒52の、締込取手54側とは対向する側に、押さえ取手55及びナット56B~56Dが設けられる。具体的には、ネジロッド53のクランプパッド63側から順に、ナット56B、押さえ取手55、ナット56C,ナット56Dが設けられる。
【0064】
ナット56B~56Dは、緩み留めのためのトリプルナットであり、押さえ取手55のネジロッド53に対する回転変位を抑制させている。例えば、ナット56Cは押さえ取手55に溶接等により固定される。
【0065】
締込取手54によりクランプパッド63の増し締めを行う際に、ナット56Aとネジロッド53とが相対回動せずに、ナット56Aのねじ込みに応じてネジロッド53が供回りするおそれがある。増し締めを行う作業者が、押さえ取手55を握って支持することで、ネジロッド53の供回りが抑制される。
【0066】
また、締込取手54による増し締めの際に、端部円筒52が供回りしてこれによりトグルクランプ61が締込取手54と供回りするおそれがある。このような場合、アーム80が鉛直方向から逸れてしまい、圧入が困難となるおそれがある。そこで後述される
図11のように、増し締めの際には支柱10の遮音板側フランジ14Aと接続板73Aとに亘って、開き止め部材72が掛け渡される。
【0067】
開き止め部材72は、略C字形状であって、長辺部72Aと、長辺部72Aの長手方向両端に設けられた鉤部72B,72Cを備える。長辺部72Aの長さは、接続板73Aの幅W1と遮音板側フランジ14Aの幅W2の和以上となるように定められる。鉤部72Bは遮音板側フランジ14Aの側端部(接続板73Aとは離間される側の側端部)に引っ掛けられる。また鉤部72Cは接続板73Aの側端部(遮音板側フランジ14Aとは離間される側の側端部)に引っ掛けられる。
【0068】
図11のように開き止め部材72が遮音板側フランジ14Aと接続板73Aとに亘って掛け渡されることで、締込取手54を用いた増し締めの際に、接続板73Aが遮音板側フランジ14Aから変位することが抑制される。その結果、増し締め時のトグルクランプ61の供回りが抑制される。
【0069】
<固定金具用工具の圧入機構>
図4、
図5を参照して、被覆板70には、支点プレート66及びアーム80が設けられる。支点プレート66は、溶接等により被覆板70に接合される。支点プレート66は平板形状であって、被覆板70の主面(頂面)に垂直に立設される。また支点プレート66の主面66Aは、被覆板70の長手方向軸と平行となるように配置される。
【0070】
支点プレート66には、アーム80から離隔された複数の支点ピン67A,67Bが設けられる。支点ピン67A,67Bは、固定金具30の圧入方向及び抜取方向、言い換えるとアーム80の進退方向に沿って複数設けられる。支点ピン67A,67Bは、支点プレート66の主面66Aから突設される。なお、支点ピン67は、3個以上設けられていてもよい。
【0071】
支点ピン67A,67Bは、その突設方向中間部が、両端部と比較して小径となるくびれ構造であってよい。さらにそのくびれ部分である小径部67A1,67B1と、ハンドル受け部81とが、支点ピン67A,67Bの中心軸に直交する軸上に配列される。つまり圧入ハンドル90の回動中心溝91を、支点ピン67A,67Bの小径部67A1,67B1に引っ掛けると、圧入ハンドル90の突出部92がハンドル受け部81の頂面に当接可能となる。
【0072】
また被覆板70には、ブッシュ71が設けられる。またブッシュ71の中心軸方向に設けられた貫通孔と同軸に、被覆板70には貫通孔が穿孔される。ブッシュ71の貫通孔にはアーム80が挿入される。つまりブッシュ71はアーム80のガイド部材であって、アーム80の移動方向を、被覆板70の主面に対する垂直方向に規制する。
【0073】
アーム80は、棒状の部材であって、固定金具30の圧入時に、ブッシュ71にガイドされながら、圧入方向に沿って進退可能となっている。
図4、
図5に例示されるアーム80は断面真円形であるが、断面楕円形や断面矩形等、断面非円形であってよい。このような断面とすることで、アーム80の延設方向軸(進退方向軸と言ってもよい)周りの回転が抑制され、これに伴いヘッド83の回動も抑制される。
【0074】
アーム80の圧入方向端部には、ベースプレート82を介してヘッド83が設けられる。ヘッド83の下面には当接面83Aが形成される。後述されるように、当接面83Aは、固定金具30の圧入時に、固定金具30の底板32の上面32A(
図13参照)と当接し、固定金具30を押し下げる。
【0075】
また当接面83Aは、アーム80の中心軸に対して傾斜する傾斜面になっていてよい。具体的には、
図13に例示されるように、当接面83Aは、固定金具30と当接する金具側フランジ14Bから離間する方向に沿って、圧入方向に傾斜する下り傾斜面となっている。当接面83Aを、このような傾斜面とすることで、後述されるように、固定金具30の底板32の上面32Aと当接面83Aとの面接触が可能となる。
【0076】
ヘッド83は、アーム80の延設方向とは異なる方向に延設される。例えばヘッド83は、アーム80とは直角に延設される。
図5を参照して、ベースプレート82の一部を含めた、ヘッド83の、アーム80中心軸からの長手方向長さL1は、被覆板70の、アーム80の中心軸からの幅L2より長い。後述されるように、支柱10の固定金具側方に着脱工具50が配置されるときに、ヘッド83は固定金具30内に挿入される。
【0077】
アーム80の上端、つまり、ヘッド83が設けられた端部(下端)と対向する端部(上端)には、ハンドル受け部81が設けられる。ハンドル受け部81の上面は、圧入ハンドル90の突出部92と当接する。例えばハンドル受け部81は直方体形状であって、アーム80の中心軸に直交する幅が、アーム80の直径を超過するように形成される。つまりハンドル受け部81は、アーム80より径が大きくなるように形成されており、アーム80の、ブッシュ71からの抜け止めとしての機能を有する。
【0078】
図4、
図5を参照して、圧入ハンドル90は工具本体60に着脱可能であって、その支点を支点ピン67A,67Bの一方に設定可能となっている。圧入ハンドル90は、略直線状の剛性部材であって、例えばアルミ等の金属から形成される。
【0079】
圧入ハンドル90は、作業者に把持される把持部93を備える。また、圧入ハンドル90の長手方向に沿って、把持部93とは対向する側に、屈曲部94が形成されるとともに、屈曲部94から突出する突出部92が設けられる。また、圧入ハンドル90の、把持部93と屈曲部94との間、例えば屈曲部94寄りに、回動中心溝91が形成される。回動中心溝91は突出部92が形成された面とは逆側の面が開放されている(切り欠かれている)。この回動中心溝91に、支点ピン67A,67Bが嵌め込まれる。嵌め込まれた支点ピン67A,67Bを中心に圧入ハンドル90が回動され、その結果アーム80が圧入方向に付勢される。
【0080】
<固定金具用工具の補強構造>
本実施形態に係る着脱工具50(固定金具用工具)には、固定金具30の圧入及び引抜時の捩れや撓みを抑制するための補強部材が設けられる。例えば支点プレート66と平行に延設され、当該支点プレート66に裏張りされるようにして、補強板64が設けられる。補強板64には軽量化のための肉抜き孔64Aが形成されていてもよい。
【0081】
また、被覆板70と接続板73Bとの接続部に、補強板70Aが設けられる。さらに、被覆板70上には、当該被覆板70の主面に対して垂直に補強板70Bが設けられる。
【0082】
<遮音壁の施工プロセス>
図6~
図14には、本実施形態に係る着脱工具50(固定金具用工具)を用いた、遮音壁の施工プロセスが例示される。なおこれらの図では、3次元の直交軸が用いられる。具体的には、支柱10の立設方向、つまり鉛直方向軸がZ軸となる。またZ軸は固定金具30の圧入方向軸に等しい。ただしZ軸の負方向が圧入方向となる。
【0083】
またZ軸に垂直な水平面内に、互いに直交するX軸及びY軸が設けられる。X軸はフランジ14A,14Bの長手方向に延設される。Y軸は支柱10のウェブ12の長手方向に延設される。
【0084】
なお、
図6~
図14の例では、複数層に亘り積層される遮音板20のうち、最上段に積層される遮音板20に固定金具30を取り付ける際の例が示される。しかしながら、本実施形態に係る着脱工具50は、構造上、最下段から最上段に至るまでの、すべての遮音板20に対して、
図6~
図14と同様の工程が実施可能となっている。
【0085】
図6には、金具側フランジ14Bの一部とウェブ12の一部が取り除かれた一部断面斜視図が例示される。
図6に例示されるように、支柱10のフランジ14A,14B間に遮音板20が落とし込まれる。このとき、遮音板20の前面22(
図1参照)が道路側のフランジ14Aに寄せられ、遮音板20の背面24と民地側のフランジである金具側フランジ14Bとの間に間隙が生じる。
【0086】
図7に例示されるように、この間隙に固定金具30が仮挿入される。上述のように、固定金具30は逆台形状であって、その下方部分が、遮音板20と金具側フランジ14Bとの間に挿入される。この仮挿入は例えば作業者の手により行われる。
【0087】
このとき、固定金具30の側板31Aは、金具側フランジ14Bの対向面14B1に当接し、金具側フランジ14Bの立設方向(鉛直方向)に揃えられる。固定金具30が逆台形状であるから、側板31Aが鉛直方向に向けられると底板32はフランジ14Bの立設方向に対して傾斜する。具体的に底板32は、金具側フランジ14Bから離隔するほど圧入方向に傾斜する下り傾斜となる。
【0088】
固定金具30が仮挿入されると、着脱工具50(固定金具用工具)が支柱10に固定される。この固定プロセスが、
図8-
図11に例示される。
図8を参照して、トグルクランプ61は開放状態であり、アーム80は上方に引き上げられた状態にて、ストッパプレート68の当接面68Aが金具側フランジ14Bの露出面14B2に当接される。またこのとき、ヘッド83が、固定金具30の底板32と受け部34の間に挿入される。
【0089】
このとき、鞍型機構である接続板73A,73B及び被覆板70が、支柱10に隣接して遮音板20に跨るように配置される。ここで、その鞍型機構の下端側に、クランプ部材であるトグルクランプ61及びストッパプレート68が接続される。このような構造において、トグルクランプ61及びストッパプレート68は、遮音板20よりも上方に配置されることが避けられる。したがって、例えば最上段の遮音板20のように、遮音板20の上端からの支柱10の突出長さが短い場合であっても、固定手段であるトグルクランプ61及びストッパプレート68は、確実に支柱10を挟持可能となる。
【0090】
図9に例示されるように、クランプハンドル62が閉じられ、クランプパッド63が遮音板側フランジ14Aの露出面14A2に当接される。
図10には、
図9のA-A断面が例示される。この図に例示されるように、金具側フランジ14Bと遮音板側フランジ14Aとが、ストッパプレート68及びトグルクランプ61により狭持される。つまり着脱工具50は支柱10に仮固定される。
【0091】
また、
図10に例示されるように、互いに圧入方向軸(アーム中心軸)に対する傾斜面であるヘッド83の当接面83Aと、固定金具30の底板32の上面32Aとが平行となり、両者は面接触する。このような面接触により、圧入時の荷重が分散され、荷重集中に伴う底板32の塑性変形が抑制される。
【0092】
さらに
図11に例示されるように、支柱10の上方から開き止め部材72が、遮音板側フランジ14A及び接続板73Aに掛け渡される。さらに押さえ取手55が作業者に支持されつつ、締込取手54が反時計回りに回される。これによりネジロッド53及びその端部のクランプパッド63がネジ送りされ、遮音板側フランジ14A側に進行させられる。その結果、ストッパプレート68及びトグルクランプ61による支柱10の狭持力、言い換えると、着脱工具50の支柱10への支持力が増加する。
【0093】
次に、
図12、
図13に例示されるように、圧入ハンドル90の回動中心溝91が支点ピン67Aに引っ掛けられ、突出部92がハンドル受け部81の上面に当接される。なおこれらの図では、回動中心溝91が支点ピン67Aに引っ掛けられたが、その都度の圧入に最適な支点ピン67A,67Bが選択される。支点ピン67A,67Bが圧入方向に沿って設けられることで、支点ピンが一個のみ設けられる場合と比較して、圧入時のトータルのストロークを長く取ることが出来る。
【0094】
次に
図14に例示されるように、作業者により把持部93が上方に引き上げられる。これに伴い突出部92が下げられ、アーム80が引き下げられる。さらにヘッド83が固定金具30の底板32を押し下げる。底板32を押し下げることにより、固定金具30の頂面を付勢するときのような、圧入方向に直交する方向(
図14Y軸方向)における固定金具30の膨出が抑制され、円滑な圧入が可能となる。
【0095】
底板32の押下げに伴って固定金具30は、遮音板20とフランジ14Bとの間隙に、圧入方向に引きずり込まれる。固定金具30は、留め板部36が遮音板20の頂面21と当接するまで圧入される。この圧入過程で固定金具30が、圧入方向と直交する方向に潰される。この潰れ変形により生じた弾性力(ばね反力)により遮音板20がフランジ14Aに押し付けられる。その結果、遮音板20が支柱10に固定される。また固定金具30は、金具側フランジ14Bと遮音板20に挟まれた状態で固定される。
【0096】
このように、本実施形態に係る着脱工具50によれば、当該工具により固定金具30が遮音板20とフランジ14Bとの間隙内に押下げられる。このような圧入方法を取ることで、例えばハンマーにより固定金具30を圧入させるときのような、打撃音の発生が免れる。ハンマーによる圧入と比較して騒音が低減されることから、例えば固定金具30の圧入作業を夜間に行う際の、周辺住民への騒音負担が軽減される。
【0097】
<圧入用補助ロッド>
図15には、着脱工具50のアーム80に、圧入用補助ロッド100が取り付けられた例が示される。
図15に示された各構成のうち、
図4、
図5と同一の符号を有する構成については、同図と同様の機能を備えることから、以下では適宜説明が省略される。
【0098】
図15を参照して、アタッチメントプレート101を介してベースプレート82に圧入用補助ロッド100が固定される。アタッチメントプレート101は例えばボルト・ナット等の締結手段によりベースプレート82に固定される。
【0099】
圧入用補助ロッド100は、ヘッド83と平行に延設される。また例えば、ヘッド83と圧入用補助ロッド100の延設方向長さは等しく形成される。また圧入用補助ロッド100とヘッド83の離隔距離は、
図3に例示される、固定金具30の底板32と受け部34の離隔距離D4に略等しい。
【0100】
図16には、着脱工具50に圧入用補助ロッド100が取り付けられたときの、圧入プロセスの例が示される。また
図16において、
図13と同一の符号を有する構成については、基本的に機能が同一であることから、以下では適宜説明が省略される。
【0101】
ヘッド83の当接面83Aが固定金具30の底板32の上面32Aに当接される際に、圧入用補助ロッド100が固定金具30の受け部34の上面に当接される。この状態で
図17に例示されるように、アーム80が下降させられると、ヘッド83が底板32を引き下げるのに加えて、圧入用補助ロッド100が受け部34を引き下げる。
【0102】
圧入用補助ロッド100が受け部34を引き下げることで、ばね板部33が圧入方向に拡げられ、圧入方向に直交する方向では、ばね板部33が潰される。このばね板部33の潰れによって、固定金具30が円滑に圧入される。
【0103】
<引抜時の固定金具用工具の構成>
図18には、圧入済みの固定金具30を引き抜く際に用いられる、着脱工具50の構成が開示される。この引抜作業は、例えば遮音板20の交換時に行われる。
図4と比較して、着脱工具50は、圧入ハンドル90の代わりに引抜ハンドル120を備える。また
図18において、
図4と同一の符号を有する構成については、基本的に機能が同一であることから、以下では適宜説明が省略される。
【0104】
引抜ハンドル120は工具本体60から分離され、その支点を支点ピン67A,67Bのどちらかに設定可能となっている。引抜ハンドル120は、略直線状の剛性部材であって、例えばアルミ等の金属から形成される。
【0105】
引抜ハンドル120は、作業者に把持される把持部123を備える。また、引抜ハンドル120の長手方向に沿って、把持部123とは対向する側に、フォーク122が形成される。フォーク122は把持部123の延設方向に対して傾斜されるように延設される。また、二股のフォーク122の離隔距離D6は、ハンドル受け部81の幅D5未満かつアーム80の直径を超過する。
【0106】
引抜ハンドル120の、把持部123とフォーク122との間、例えばフォーク122寄りに、回動中心溝121が形成される。回動中心溝121は把持部123から見てフォーク122延設方向とは逆側の面が開放されている。この回動中心溝121に、支点ピン67A,67Bが嵌め込まれる。
【0107】
図19には、着脱工具50を用いた固定金具30の引抜プロセスが例示される。なお、
図19、
図20では、補強板64の一部の図示が省略される。
図8~
図11と同様にして、支柱10の遮音板側フランジ14Aと金具側フランジ14Bが、固定手段であるトグルクランプ61及びストッパプレート68に挟持される。またこのときに、アーム80は下方に降ろされ、ヘッド83は圧入方向に沿った最下点に位置される。このとき、ヘッド83は固定金具30の底板32の下方に位置する。
【0108】
引抜ハンドル120のフォーク122がアーム80のハンドル受け部81の下方に差し入れられる。さらに
図20を参照して、引抜ハンドル120の回動中心溝121が支点ピン67Aに引っ掛けられる。この状態で作業者が把持部123を図示矢印のように引き下げると、引抜ハンドル120が支点ピン67Aを中心に回動し、これによりフォーク122がハンドル受け部81の底面に当接してそのままハンドル受け部81を上方に引き上げる。これに応じてヘッド83が固定金具30の底板32を押し上げる。つまり圧入方向とは反対の引抜方向に固定金具30が付勢され引き抜かれる。これにより、支柱10のフランジ14Bと遮音板20との間隙から固定金具30が引き抜かれる。
【0109】
<引抜用プレート>
図21には、着脱工具50に引抜用プレート110が取り付けられた例が示される。また
図21において、
図4、
図5と同一の符号を有する構成については、基本的に機能が同一であることから、以下では適宜説明が省略される。
【0110】
引抜用プレート110は、アタッチメントプレート111を介して、ベースプレート82に固定される。アタッチメントプレート111は例えばボルト・ナット等の締結手段によりベースプレート82に固定される。
【0111】
引抜用プレート110は、ヘッド83の当接面83Aから圧入方向下方に離隔され、ヘッド83と平行に延設される。引抜用プレート110とヘッド83との離隔距離は、固定金具30の板厚を超過するように定められる。例えば固定金具30の板厚の1.0倍から1.5倍の範囲内で、引抜用プレート110とヘッド83との離隔距離が定められる。
【0112】
図22、
図23には、着脱工具50に引抜用プレート110が取り付けられたときの、引抜プロセスの例が示される。なお、
図22、
図23では、補強板64の一部の図示が省略される。
図22、
図23において、
図19、
図20と同一の符号を有する構成については、基本的に機能が同一であることから、以下では適宜説明が省略される。
【0113】
図8~
図11と同様にして、支柱10の遮音板側フランジ14Aと金具側フランジ14Bが、固定手段であるトグルクランプ61及びストッパプレート68に挟持される。またこのときに、アーム80は下方に降ろされ、ヘッド83と引抜用プレート110の間隙に、固定金具30の底板32が挿入される。
【0114】
さらに引抜ハンドル120のフォーク122がアーム80のハンドル受け部81の下方に差し入れられる。次に
図23を参照して、引抜ハンドル120の回動中心溝121が支点ピン67Aに引っ掛けられる。この状態で作業者が把持部123を図示矢印のように引き下げると、引抜用プレート110が固定金具30の底板32を押し上げる。つまり圧入方向とは逆方向に固定金具30が引き抜かれる。
【0115】
固定金具30の引抜に当たり、固定金具30の弾性力により、引抜の過程で、遮音板20及び支柱10のフランジ14Bの間隙から固定金具30が飛び出すおそれがある。ここで、
図22、
図23に例示される実施形態では、固定金具30の底板32が、ヘッド83と引抜用プレート110に挟まれた状態で引抜が行われる。このような構造を備えることで、仮に固定金具30が引抜の際に飛び出そうとしても、ヘッド83がこれを押さえつける形になるので、固定金具30の飛び出しが抑制される。
【0116】
<引抜用補助ロッド>
図24には、引抜用プレート110に加えて引抜用補助ロッド115が取り付けられた着脱工具50が例示される。なお
図24において、
図21と同一の符号を有する構成については、基本的に機能が同一であることから、以下では適宜説明が省略される。
【0117】
図24を参照して、アタッチメントプレート116を介してベースプレート82に引抜用補助ロッド115が固定される。アタッチメントプレート116は例えばボルト・ナット等の締結手段によりベースプレート82に固定される。
【0118】
引抜用補助ロッド115は、ヘッド83と平行に延設される。また例えば、ヘッド83と引抜用補助ロッド115の延設方向長さは等しく形成される。また引抜用補助ロッド115とヘッド83の離隔距離は、
図3に例示される、固定金具30の底板32とばね板部33の上端下面33Aとの離隔距離D7に略等しい。
【0119】
図25には、着脱工具50に引抜用補助ロッド115が取り付けられたときの、引抜プロセスの例が示される。なお
図25では、補強板64の図示が一部省略される。また
図25において、
図23と同一の符号を有する構成については、基本的に機能が同一であることから、以下では適宜説明が省略される。
【0120】
ヘッド83と引抜用プレート110との間に固定金具30の底板32が挿入される際に、引抜用補助ロッド115が固定金具30のばね板部33の上端下面33Aに当接される。この状態で
図25に例示されるように、引抜ハンドル120の把持部123が下降させられると、引抜用プレート110が底板32を引き上げるのに加えて、引抜用補助ロッド115がばね板部33の上端部分を引き上げる。
【0121】
引抜用プレート110が底板32を引き上げるとき、固定金具30には抜取方向の、つまり
図25のZ軸方向の圧縮荷重が加わる。この圧縮荷重により、固定金具30は、抜取方向とは直交する方向に、つまり
図25のY軸方向に膨らむ。その一方で、引抜用補助ロッド115がばね板部33の上端部分を引き上げるので、固定金具30の上記のY軸方向の膨らみは抑制される。この結果、固定金具30の引抜が円滑に行われる。
【0122】
<その他の実施形態>
上述の実施形態では、着脱工具50を支柱10に固定させるための固定手段として、トグルクランプ61及びストッパプレート68が開示されたが、本実施形態に係る着脱工具50はこの形態に限られない。例えば、ストッパプレート68の代わりにトグルクランプ61が設けられ、2台のトグルクランプ61,61によって支柱10が挟持されてもよい。
【0123】
または、トグルクランプ61に代えてストッパプレート68が設けられ、一対のストッパプレート68,68によって支柱10が挟持されてもよい。この場合、一方のストッパプレート68に調整機構であるネジロッド53、締込取手54、押さえ取手55、及びナット56A~56Dが備えられてもよく、ネジロッド53の先端にはクランプパッド63が設けられる。この場合、ストッパプレート68に対するクランプパッド63の相対距離が、ネジ送り機構によって調整され、これに伴って挟持力が調整される。
【0124】
さらに、調整手段についても、上述のようなネジ送り機構に代えて、クランプパッド63を進退可能な他の機構が用いられてもよい。例えば高負荷型のギヤードモータを用いたリニアステージ機構が調整機構として用いられ、当該機構によりクランプパッド63を進退可能としてもよい。
【0125】
また、
図11に例示される開き止め部材72は、支柱10の上から遮音板側フランジ14A及び接続板73Aに差し込まれていたが、本実施形態に係る着脱工具50は、この形態に限られない。例えば、遮音板側フランジ14A及び接続板73Aの下側から開き止め部材72が差し込まれてもよい。この場合、開き止め部材72及び接続板73Aに、板厚方向の貫通孔が穿孔されるとともに、この貫通孔に、抜け止めのボルトが挿入(螺入)される。
【0126】
例えば支柱の上端にアングル部材が設置されている等の要因により、支柱10の上端部分に十分なスペースを取ることが困難な場合がある。このような場合に、開き止め部材72が下から差し込まれる。これによって、トグルクランプ61とストッパプレート68との挟持力を調整する場合、つまりネジロッド53をナット56Aに対して遮音板側フランジ14A側に進める場合に、着脱工具50の供回りが抑制可能となる。
【符号の説明】
【0127】
10 支柱、12 支柱のウェブ、14A 支柱の遮音板側フランジ、14A1 遮音板側フランジの対向面、14A2 遮音板側フランジの露出面、14B 支柱の金具側フランジ、14B1 金具側フランジの対向面、14B2 金具側フランジの露出面、20 遮音板、21 遮音板の頂面(上面)、22 遮音板の前面、22A,24A 遮音板の側端部、24 遮音板の背面、30 固定金具、31A 固定金具の側板、31B 固定金具の側板、32 固定金具の底板、32A 固定金具の上面、33 固定金具のばね板部、33A 固定金具の上端下面、34 固定金具の受け部、36 固定金具の留め板部、50 着脱工具(固定金具用工具)、51 クランプアーム、52 端部円筒、53 ネジロッド、54 締込取手、55 押さえ取手、56A~56D ナット、60 工具本体、61 トグルクランプ、62 クランプハンドル、63 クランプパッド、66 支点プレート、67A,67B 支点ピン、68 ストッパプレート、68A ストッパプレートの当接面、70 被覆板、72 開き止め部材、73A,73B 接続板、80 アーム、81 ハンドル受け部、82 ベースプレート、83 ヘッド、83A ヘッドの当接面、90 圧入ハンドル、91 回動中心溝、92 突出部、93 把持部、94 屈曲部、100 圧入用補助ロッド、110引抜用プレート、115 引抜用補助ロッド、120 引抜ハンドル、122 フォーク。