(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022029535
(43)【公開日】2022-02-18
(54)【発明の名称】鋼製支保工建て込み時の遠隔操作式ボルト締結装置
(51)【国際特許分類】
E21D 11/18 20060101AFI20220210BHJP
E21D 11/40 20060101ALI20220210BHJP
E21D 11/04 20060101ALI20220210BHJP
【FI】
E21D11/18
E21D11/40 A
E21D11/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020132844
(22)【出願日】2020-08-05
(71)【出願人】
【識別番号】000166432
【氏名又は名称】戸田建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】508182589
【氏名又は名称】エフティーエス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104927
【弁理士】
【氏名又は名称】和泉 久志
(72)【発明者】
【氏名】内藤 将史
(72)【発明者】
【氏名】浅野 均
(72)【発明者】
【氏名】関根 一郎
(72)【発明者】
【氏名】若竹 亮
(72)【発明者】
【氏名】辻川 泰人
(72)【発明者】
【氏名】内藤 雅人
(72)【発明者】
【氏名】木村 浩之
【テーマコード(参考)】
2D155
【Fターム(参考)】
2D155BB02
2D155FB01
2D155GC06
2D155KB04
2D155LA17
(57)【要約】
【課題】鋼製支保工建て込み時に作業員が切羽近傍に接近して行う作業を無くし安全性の向上を図るとともに、継手部の連結強度を高め地山の安定性を確保する。
【解決手段】鋼製支保工4の建て込み時に、遠隔操作によって継手部のボルト7を締結する装置である。鋼製支保工4の継手部は、端部同士が突き合わされた鋼製支保工4の側部に添接部材6A、6Bが重ね合わされ、添接部材と鋼製支保工とがトンネル軸方向に挿通されるボルト7によって固定された構造を成している。台座11と、台座11上に設けられ、ローリング及びピッチングの角度調整可能とされた作業台12と、作業台12上をほぼトンネル軸方向及びトンネル幅方向に移動可能に設けられ、先端にボルト7が保持されるボルト締結装置本体13と、ボルト締結装置本体13と一体に移動し、ボルト締結装置本体13の先端部をリアルタイムで撮影する撮影手段14とを備える。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼製支保工の建て込み時に、遠隔操作によって継手部のボルトを締結する装置であって、
前記鋼製支保工の継手部は、端部同士が突き合わされた鋼製支保工の側部に添接部材が重ね合わされ、前記添接部材と前記鋼製支保工とがトンネル軸方向に挿通されるボルトによって固定された構造を成しており、
台座と、前記台座上に設けられ、ローリング及びピッチングの角度調整可能とされた作業台と、前記作業台上をほぼトンネル軸方向及びトンネル幅方向に移動可能に設けられ、先端に前記ボルトが保持されるボルト締結装置本体と、前記ボルト締結装置本体と一体に移動し、前記ボルト締結装置本体の先端部をリアルタイムで撮影する撮影手段とを備えたことを特徴とする鋼製支保工建て込み時の遠隔操作式ボルト締結装置。
【請求項2】
前記遠隔操作式ボルト締結装置は、高所作業用バケットのバケット台座に取り付けられている請求項1記載の鋼製支保工建て込み時の遠隔操作式ボルト締結装置。
【請求項3】
前記作業台がローリング及びピッチングの方向に回転可能とされた回転支持具によって前記台座上に支持されている請求項1、2いずれかに記載の鋼製支保工建て込み時の遠隔操作式ボルト締結装置。
【請求項4】
前記作業台上に、ボルト締結時に前記鋼製支保工に当接して位置合わせを行う鋼製支保工当接具が設けられている請求項1~3いずれかに記載の鋼製支保工建て込み時の遠隔操作式ボルト締結装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に山岳トンネルの掘削において、鋼製支保工を建て込む際、継手部のボルトを遠隔操作によって締結する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、山岳トンネルの施工では、掘削方法の違いにより各種の工法が存在するが、いずれにしても施工手順は、概ね穿孔、装薬、発破、ズリ出し、一次吹付け、鋼製支保工建込み、二次吹付け、ロックボルト打設の工程を順にかつ段階的に踏むことにより掘削・支保工が行われる。
【0003】
通常、前記鋼製支保工50にはH形鋼が用いられており、
図8に示されるように、トンネル中心線Lで左右に分割された左右対称の分割支保工50A、50Bが建て込まれるようになっている。この左右対の分割支保工は、天端に設けられた継手部51で連結されることにより、トンネル周面に沿ったアーチ状に形成される。
【0004】
従来の天端継手部51の構造は、
図9に示されるように、左右の分割支保工50A、50BのそれぞれのH形鋼の端部に継手板52が固設されるとともに、前記継手板52、52同士を突き合わせた状態で、H形鋼のウェブ部wの両側の2箇所において継手板52、52同士を貫通するボルト53を締結するのが一般的である。
【0005】
また、下記特許文献1には、複数の支保部材を連結することにより形成されたトンネル支保工であって、前記支保部材の端部には継手板が設けられており、前記支保部材同士は、前記継手板同士を突き合わせた状態で連結されており、一方の支保部材の前記継手板には、突起が形成されていて、他方の支保部材の前記継手板には、前記突起が挿入される穴が形成されたトンネル支保工が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、
図9に示される従来の天端継手構造は、横方向(トンネル幅方向)にボルトを挿通して連結する構造であるため、
図10に示されるように、各継手板52に形成されたボルト挿通用の貫通孔の位置合わせのために、作業員が作業用バケットに乗って切羽近傍に接近し、目視にて確認する必要があった。さらに、一方のボルトは切羽側での締め付けとなるため、一次吹付けコンクリートはあるものの、まだ二次吹付けがなされていない地山の不安定な状況下で、作業員がのぞき込みながら(もしくは手先の感覚で)、手締めする必要があるため、肌落ち時には重大な災害が発生する危険性があった。
【0008】
このように、山岳トンネルの支保工施工時は、素掘面における崩落、肌落ち等の事故が発生することがあり、危険性が高い作業である。特に、鋼製支保工の建て込み作業は、二次吹付けが未だなされていない一次吹付けだけの状態のときに、作業員(4名程度)が切羽に近づいて、鋼製支保工の位置決め、及び天端継手部のボルト締結を行わなければならないため、最も危険度が高い作業の一つになっている。
【0009】
一方、上記特許文献1記載のトンネル支保工では、切羽側の突起と穴を係合させることによって支保部材の位置合わせが完了できるとともに、坑口側のみでボルト接合しているため、切羽側での作業を減らすことができるようになるが、継手板同士の接合が坑口側のボルト1本のみであるため、地山応力に対して継手構造がもたないおそれがあり、地山の安定性が低下する場合があった。
【0010】
同様に、
図9に示される従来の天端継手構造においても、地山応力による部材の曲げ応力に対しては、2本のボルトの耐力でもたせる構造であり、地山の安定性が低下する場合があった。
【0011】
そこで本発明の主たる課題は、鋼製支保工建て込み時に作業員が切羽近傍に接近して行う作業を無くし安全性の向上を図るとともに、継手部の連結強度を高め地山の安定性を確保した遠隔操作式ボルト締結装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために請求項1に係る本発明として、鋼製支保工の建て込み時に、遠隔操作によって継手部のボルトを締結する装置であって、
前記鋼製支保工の継手部は、端部同士が突き合わされた鋼製支保工の側部に添接部材が重ね合わされ、前記添接部材と前記鋼製支保工とがトンネル軸方向に挿通されるボルトによって固定された構造を成しており、
台座と、前記台座上に設けられ、ローリング及びピッチングの角度調整可能とされた作業台と、前記作業台上をほぼトンネル軸方向及びトンネル幅方向に移動可能に設けられ、先端に前記ボルトが保持されるボルト締結装置本体と、前記ボルト締結装置本体と一体に移動し、前記ボルト締結装置本体の先端部をリアルタイムで撮影する撮影手段とを備えたことを特徴とする鋼製支保工建て込み時の遠隔操作式ボルト締結装置が提供される。
【0013】
上記請求項1記載の発明では、鋼製支保工の継手部として、端部同士が突き合わされた鋼製支保工の側部に添接部材が重ね合わされ、前記添接部材と鋼製支保工とがトンネル軸方向に挿通されるボルトによって固定される構造のものを用いている。
【0014】
本発明に係る遠隔操作式ボルト締結装置は、このような構造の継手部において、前記添接部材と鋼製支保工とを固定するボルトを遠隔操作によって締結する装置である。前記遠隔操作式ボルト締結装置は、台座と、前記台座上に設けられ、ローリング及びピッチングの角度調整可能とされた作業台と、前記作業台上をほぼトンネル軸方向及びトンネル幅方向に移動可能に設けられ、先端に前記ボルトが保持されるボルト締結装置本体と、前記ボルト締結装置本体と一体に移動し、前記ボルト締結装置本体の先端部をリアルタイムで撮影する撮影手段とを備えている。
【0015】
前記撮影手段によって撮影された映像を確認しながら、遠隔操作によって前記ボルトが締結できるので、鋼製支保工建て込み時に作業員が切羽近傍に接近して作業を行う必要がなくなり、安全性の向上が図れる。また、鋼製支保工の継手部の構造が、鋼製支保工の側部に添接部材を重ね合わせ、トンネル軸方向に挿通されるボルトによって固定する構造であるため、継手部の連結強度を高めることができるとともに、地山の安定性が確保できるようになる。
【0016】
請求項2に係る本発明として、前記遠隔操作式ボルト締結装置は、高所作業用バケットのバケット台座に取り付けられている請求項1記載の鋼製支保工建て込み時の遠隔操作式ボルト締結装置が提供される。
【0017】
上記請求項2記載の発明では、前記遠隔操作式ボルト締結装置が、エレクター一体型吹付機などに備えられた高所作業用バケットのバケット台座に取り付けられるようにしているため、バケット台座自体のヨーイングの角度調整機能及び各方向の位置調整機能によって、ボルト締結装置の角度調整及び位置調整が可能となる。
【0018】
請求項3に係る本発明として、前記作業台がローリング及びピッチングの方向に回転可能とされた回転支持具によって前記台座上に支持されている請求項1、2いずれかに記載の鋼製支保工建て込み時の遠隔操作式ボルト締結装置が提供される。
【0019】
上記請求項3記載の発明では、前記作業台をピッチング及びローリングの方向に回転可能とするため、前記作業台をこれらの方向に回転可能な回転支持具によって前記台座上に支持している。この場合、前記回転支持具の周囲の複数箇所を高さ調整可能な支持脚によって支持し、各支持脚の高さ調整によって前記作業台が前記回転支持具を中心としたピッチング及びローリングの方向に角度調整が成されるようにするのが好ましい。
【0020】
請求項4に係る本発明として、前記作業台上に、ボルト締結時に前記鋼製支保工に当接して位置合わせを行う鋼製支保工当接具が設けられている請求項1~3いずれかに記載の鋼製支保工建て込み時の遠隔操作式ボルト締結装置が提供される。
【0021】
上記請求項4記載の発明では、ボルト締結時に鋼製支保工とボルト締結装置本体との位置合わせを行い、ボルトがスムーズに挿入できるようにするため、前記鋼製支保工当接具を前記作業台上に設置している。
【発明の効果】
【0022】
以上詳説のとおり本発明によれば、鋼製支保工建て込み時に作業員が切羽近傍に接近して作業を行う必要が無くなり、安全性の向上が図れるとともに、継手部の連結強度が高く地山の安定性が確保できる鋼製支保工建て込み時の遠隔操作式ボルト締結装置が提供できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】鋼製支保工4を設置したトンネルの縦断面図である。
【
図3】鋼製支保工4の継手部を拡大した、(A)は連結状態の正面図、(B)は右側分割支保工4Aの正面図、(C)は左側分割支保工4Bの正面図である。
【
図4】鋼製支保工4の継手部を示す、(A)は連結状態の断面図、(B)は組立要領を示す断面図である。
【
図5】本発明に係る遠隔操作式ボルト締結装置10を示す平面図である。
【
図7】変形例に係る遠隔操作式ボルト締結装置10を示す平面図である。
【
図9】従来の鋼製支保工50の継手部51を示す、(A)は正面図、(B)は端面図である。
【
図10】従来の鋼製支保工50の建て込み作業状況を示す、トンネルの縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述する。
【0025】
山岳トンネルの掘削では、
図1に示されるように、トンネル掘削面1に対して一次吹付けコンクリート2を吹き付け、切羽3近傍に鋼製支保工4を建て込んだ後、1サイクル前に建て込んだ鋼製支保工4との間に、前記一次吹付けコンクリート2に積層して二次吹付けコンクリート5を吹き付ける、という工程を1サイクルとして、このサイクルを繰り返すことによりトンネル支保工が構築される。なお、必要に応じて、二次吹付けコンクリート5の内周面から一次吹付けコンクリート2を貫通して地山に打設される複数のロックボルト(図示せず)を設けてもよい。
【0026】
前記鋼製支保工4は、
図2に示されるように、地山の崩落防止のために、前記一次吹付けコンクリート2が吹き付けられたトンネル掘削面に沿って建て込まれるアーチ状の部材であり、トンネル軸方向に沿って一定間隔毎に設置されている。前記鋼製支保工4は、ウェブ部wとその両端のフランジ部fとからなるH形鋼によって形成され、
図2に示される形態例では、上端部(天端部)で左右に分割され、分割された円弧状の右側分割支保工4Aと左側分割支保工4Bとが上端の継手部8で連結されることで、アーチ状に形成されている。
【0027】
図3及び
図4に示されるように、前記継手部8の構造は、先行配置される前記右側分割支保工4Aのウェブ部wの一方側側面(切羽側側面)に、天端部の端縁から突出して添接部材6Aが固設されるとともに、後行配置される前記左側分割支保工4Bのウェブ部wの他方側面(坑口側側面)に、天端部の端縁から突出して添接部材6Bが固設されている。前記添接部材6A、6Bの突出部は、前記右側分割支保工4Aと左側分割支保工4Bとの端部同士を突き合わせた状態で、それぞれ反対側の鋼製支保工のウェブ部wに重ね合わされる。これによって鋼製支保工のウェブ部wの両側に添接部材6A、6Bが配置された状態となる。そして、
図4に示されるように、これら添接部材6A、6Bと右側分割支保工4A及び添接部材6A、6Bと左側分割支保工4Bとがそれぞれ、トンネル軸方向(ウェブ部wの平面と直交する方向)に挿通される複数のボルト7、7…及びナット9、9…によって固定されている。
【0028】
前記鋼製支保工4及び添接部材6A、6Bにはそれぞれ、前記ボルト7…が挿通される部分に、ボルト挿通孔4aが形成されている。また、
図4(B)に示されるように、添接部材6A、6Bのうち、切羽側に配置される添接部材6Aの外面には、前記ボルト挿通孔4aに連通してナット9が固設されている。前記ボルト挿通孔4aは、各鋼製支保工4A、4Bに設けられる添接部材6A又は6Bのうち、鋼製支保工4A又は4Bと重なる部分の中央部に1箇所、鋼製支保工4A又は4Bから突出する部分の中央部に1箇所の合計2箇所に設けるのがよい。また、
図3(C)に示されるように、後行配置される左側分割支保工4B及び添接部材6Bの各ボルト挿通孔4aの両側には、後述する剣先ガイド部材8a、8a’が挿通されるガイド部材挿通孔4bが設けられている。
【0029】
前記右側分割支保工4A及び左側分割支保工4Bの建て込み時における前記ボルト挿通孔4a、4aの位置決めのため、前記鋼製支保工4及び添接部材6A、6Bを一体的に貫通し、一方の添接部材、好ましくは切羽側に配置される添接部材6Aから他方の添接部材6Bに向けて突出する先細形状の剣先ガイド部材8aを設けるのが好ましい。これにより、鋼製支保工の建て込みの際、前記剣先ガイド部材8aが他方の添接部材及び鋼製支保工に設けられた開孔に挿入されガイドされることにより、各添接部材6A、6B及び鋼製支保工4に形成された、前記ボルト7を挿通するためのボルト挿通孔4a、4aが連通するように簡単に位置決めできるようになる。前記剣先ガイド部材8aは、前記一方の添接部材6Aに固設されており、前記ボルト7が挿通するボルト挿通孔4aの両側にそれぞれ設けるのが好ましい。
【0030】
各ボルト挿通孔4aの両側に設けられた剣先ガイド部材8a、8aのうち、一方の剣先ガイド部材(
図3及び
図4では、これを符号8a’で示している。)、好ましくは継手部8の中央部に対して外側に配置された剣先ガイド部材8a’は、他方の剣先ガイド部材8a(継手部8の中央側に配置された剣先ガイド部材8a)と比較して相対的に長く突出するように形成するのが好ましい。図示例では、鋼製支保工4のフランジ部Fより外側に突出する長さで設けられている。これにより、後行配置される左側分割支保工4B及び添接部材6Bは、各ボルト挿通孔4aの一方側に設けられたガイド部材挿通孔4bに一方の剣先ガイド部材8a’が先行的に挿入してガイドされた後、各ボルト挿通孔4aの他方側に設けられたガイド部材挿通孔4bに他方の剣先ガイド部材8aが挿入してガイドされるというように、段階的にガイドされるガイド部材の本数が増えるため、ガイド部材を挿通孔に挿入する作業がしやすくなる。
【0031】
前記添接部材6A、6Aは、H形鋼からなる鋼製支保工4のウェブ部wのみを覆う板状に形成してもよいが、
図3及び
図4に示されるように、鋼製支保工4のウェブ部wを覆うとともに、上下のフランジ部fの内面を覆う、断面略コ字形に形成するのが好ましい。前記添接部材6A、6Bは、各分割支保工4A、4Bとの積層部分において、各分割支保工4A、4Bとそれぞれ溶着されている。
【0032】
上記の通り、鋼製支保工4の継手部8の構造が、鋼製支保工4の側部に添接部材6A、6Bを重ね合わせ、これら鋼製支保工4及び添接部材6A、6Bを一体的に、トンネル軸方向に挿通される複数のボルト7…によって固定する構造であるため、継手部の連結強度を高めることができるとともに、地山の安定性が確保できる。
【0033】
本発明に係る遠隔操作式ボルト締結装置10は、上記鋼製支保工4の継手部8に設けられる前記ボルト7を遠隔操作によって締結する装置である。以下、この遠隔操作式ボルト締結装置10について詳細に説明する。
【0034】
前記遠隔操作式ボルト締結装置10は、
図5及び
図6に示されるように、台座11と、この台座11上に設けられ、ローリング及びピッチングの角度調整可能とされた作業台12と、前記作業台上のほぼトンネル軸方向及びトンネル幅方向に移動可能に設けられ、先端に前記ボルト7が保持されるボルト締結装置本体13と、前記ボルト締結装置本体13と一体に移動し、ボルト締結装置本体13の先端部をリアルタイムで撮影する撮影手段14とを備えている。一次吹付け後、エレクターで前記分割支保工4A、4Bを建て込み、これら分割支保工4A、4Bの継手部8のボルト7を、前記遠隔操作式ボルト締結装置10で締結するという手順で鋼製支保工4の建て込みが行われる。このとき、前記遠隔操作式ボルト締結装置10によるボルト7の締結は、前記撮影手段14で撮影された映像を確認しながら、前記ボルト締結装置本体13を遠隔操作することにより行う。このように、遠隔操作によって前記ボルト7…が締結できるので、鋼製支保工4の建て込み時に作業員が切羽近傍に接近して行う作業が無くなり、安全性の向上が図れる。
【0035】
前記遠隔操作式ボルト締結装置10は、
図5及び
図6に示されるように、高所作業用バケットのバケット台座15に取り付けできるようにするのが好ましい。つまり、高所作業用バケットのバケット台座15に備えられたバケットを取り外し、このバケット台座15の上部に前記遠隔操作式ボルト締結装置10の台座11が取り付けできるようになっている。バケットを遠隔操作式ボルト締結装置1に置き換えることで、簡単に取付けが可能となる。特に、前記鋼製支保工4を建て込むエレクターに備えられたバケットを、前記遠隔操作式ボルト締結装置10に置き換えることにより、エレクター1台で鋼製支保工4の建て込みと継手部の連結が行えるようになるので望ましい。
【0036】
一般に前記バケット台座15には、ヨーイング(上下方向軸(Z軸)回りの回転)の角度調整機能及びX軸(トンネル幅方向)、Y軸(トンネル軸方向)、Z軸(上下方向)の各方向の位置調整機能が備えられているので、これによって遠隔操作式ボルト締結装置10の角度調整及び位置調整が可能となる。更に、20cm程度の精度で所望の位置まで自動で移動するナビゲーション機能を備えたものを用いるのが好ましい。
【0037】
前記作業台12は、ピッチング(トンネル幅方向(X軸)回りの回転)及びローリング(トンネル軸方向(Y軸)回りの回転)の角度調整可能とされたピローブロックなどの回転支持具16によって前記台座11上に支持されるようにするのがよい。前記回転支持具16は、台座11と作業台12との間に設けられ、台座11の上面中央部に配置されるとともに、作業台12の下面中央部を支持している。前記台座11と作業台12との間には、前記回転支持具16の周囲に、上下方向に高さ調整可能なエアーシリンダなどの支持脚17、17…が3箇所乃至4箇所設けられ、各支持脚17…の高さを調整することによって、前記作業台12が前記回転支持具16を中心としてピッチング及びローリングの方向に角度調整ができるようになっている。
【0038】
また、前記回転支持具16は、ヨーイングの方向に若干の角度範囲で回転摺動可能に設けられており、鋼製支保工4に対してボルト締結装置本体13が前進し、ボルト締結装置本体13の先端に保持された左右2本のボルト7、7のうち、どちらかが先にナット9に当接したとき、その際の押圧力によって2本のボルト7、7の先端が鋼製支保工4の側面に正対するように前記回転支持具16が摺動回転するように構成するのが好ましい。これにより、左右2本のボルト7、7がナット9に直角に正対しやすくなり、ナット9にボルト7が斜めに螺入されるのが防止できる。前記回転支持具16の回転摺動面は、前記台座11との接触面(底面)でもよいし、前記作業台12との接触面(上面)でもよい。
【0039】
前記ボルト締結装置本体13は、トンネル軸方向の切羽側の先端に磁石の吸引力などによって前記ボルト7が保持可能なボルト保持部が備えられるとともに、前記ボルト7を回動させる回動手段が備えられている。前記ボルト締結装置本体13は、前記作業台12上をほぼトンネル軸方向及びトンネル幅方向に移動自在に設けられている。具体的には、前記作業台12上に設置されたトンネル軸方向に沿って延びる2本のレール19、19上を移動可能とされるとともに、トンネル幅方向に沿って延びる2本のレール20、20上を移動可能とされた2次元調整装置21の上に前記ボルト締結装置本体13が設けられている。前記ボルト締結装置本体13は、図示例では、トンネル幅方向に所定の離隔距離を空けて2台並行して配置されているが、1台だけ配置してもよいし、3台以上並行して配置してもよい。
【0040】
前記ボルト締結装置本体13は、防水性、防振性及び防塵性を備えたボックス内に収納し、先端のボルト保持部をボックスから突出させた構造とすることで、トンネル工事の劣悪な環境下でも対応可能とするのが好ましい。
【0041】
左右2台のボルト締結装置本体13、13の間には、これらの先端に保持されたボルト7、7及びその周辺を撮影可能な撮影手段14が取り付けられている。前記撮影手段14の一例としてはビデオカメラを挙げることができる。前記撮影手段14は、撮影した映像をリアルタイムで送信可能な自動送信手段を備えており、この撮影手段14で撮影された映像を見ながら、オペレーターが前記ボルト締結装置本体13の先端に保持されたボルト7を所定部位のナット9に螺合させるように前記遠隔操作式ボルト締結装置10を操作する。
【0042】
また、前記作業台12上には、ボルト7の締結時に遠隔操作式ボルト締結装置10を鋼製支保工4に近づけたとき、鋼製支保工4に当接して、遠隔操作式ボルト締結装置10と鋼製支保工4との位置合わせを行う鋼製支保工当接具18が設けられている。前記鋼製支保工当接具18は、
図6に示されるように、作業台12の上面に立設される脚部18aと、この脚部18aの上端に設けられ、鋼製支保工4が延びる方向に長い平台18bと、前記平台18bの両端部にそれぞれ設けられ、鋼製支保工4の下側フランジ部fの外面に当接するトンネル軸方向に沿って延びる軸回りに回動可能な水平ローラ18c及び鋼製支保工4の下側フランジ部fの坑口側の側縁に当接する上下方向に沿って延びる軸回りに回動可能な鉛直ローラ18dとによって構成されている。左右の前記水平ローラ18c及び鉛直ローラ18dをそれぞれ鋼製支保工4の下側フランジ部fの外面及び坑口側の側縁に当接させることにより、鋼製支保工4と遠隔操作式ボルト締結装置10との相対的位置が明確に把握できるようになる。また、鋼製支保工4に対する当接部がローラ18c、18dとなっているため、遠隔操作式ボルト締結装置10が鋼製支保工4の軸方向に沿って移動するのを阻害せず、スムーズな移動が可能となる。左右の水平ローラ18c、18c及び鉛直ローラ18d、18dは、ボルト締結装置本体13より幅方向外側に位置しており、左右の水平ローラ18c、18c間及び左右の鉛直ローラ18d、18d間に前記ボルト7が挿入されるようになっている。
【0043】
次に、前記遠隔操作式ボルト締結装置10の操作方法について説明する。予め、遠隔操作式ボルト締結装置10の前記ボルト締結装置本体13の先端にボルト7を保持しておくとともに、右側分割支保工4Aと左側分割支保工4Bとを建て込み、継手部8のボルト7が挿通されるボルト挿通孔を位置合わせしておく。
【0044】
この状態で、前記遠隔操作式ボルト締結装置10が取り付けられた高所作業用バケットのナビゲーション機能によって、約20cm程度の精度で継手部8の近傍まで遠隔操作式ボルト締結装置10を誘導する。その後の細かな調整は、前記撮影手段14で撮影した映像を見ながら、オペレーターが遠隔で手動操作する。遠隔での操作は、鋼製支保工4に鋼製支保工当接具18の各ローラ18c、18dを当接させた後、ボルト締結装置本体13を前進させ、ボルト7を鋼製支保工4のボルト挿通孔に挿入する。前記鋼製支保工当接具18の各ローラ18c、18dを鋼製支保工4に当接させた状態で、上下方向の位置はほぼ合っているので、前記2次元調整装置21によってトンネル幅方向及びトンネル軸方向の位置を調整するとともに、前記台座11と作業台12との間に設けられた回転支持具16によってローリングとピッチングの回転角度を調整する。更に、左右のボルト締結装置本体13、13の先端に備えられたボルト7、7が前記添接部材6Aの内面に固設されたナット9に当接することにより、左右のどちらかが先につくと、回転支持具16がヨーイング方向に回転摺動して、ヨーイング方向の回転角度が自動的に修正される。
【0045】
ボルト7の先端をナット9に当接させた状態で、ボルト7を1回転程度逆回転させてナット9になじませた後、正回転させてボルト7をナットに螺合し、本締めを行う。ボルト7の締付けは、左右のボルト締結装置本体13に保持されたボルト7、7を2本同時に行うのが好ましい。
【0046】
次に、前記遠隔操作式ボルト締結装置10の変形例について、
図7に基づいて説明する。
図7に示されるように、前記遠隔操作式ボルト締結装置10は、ボルト締結装置本体13に、前記剣先ガイド部材8a’に挿入可能な挿通孔を備えた挿通孔付きガイド治具22が設けられており、前記挿通孔付きガイド治具22の先端に備えられた挿通孔を前記剣先ガイド部材8a’に挿入した上で、前記ボルト締結装置本体13の先端に保持されたボルト7をボルト挿通孔に挿入操作するようにしてもよい。これにより、ボルト締結装置本体13の位置が挿通孔付きガイド治具22によってガイドされるため、ボルト7をボルト挿通孔に挿入しやすく、ボルト7の締結操作がしやすくなる。
【符号の説明】
【0047】
1…トンネル掘削面、2…一次吹付けコンクリート、3…切羽、4…鋼製支保工、5…二次吹付けコンクリート、6A・6B…添接部材、7…ボルト、8…継手部、9…ナット、10…遠隔操作式ボルト締結装置、11…台座、12…作業台、13…ボルト締結装置本体、14…撮影手段、15…バケット台座、16…回転支持具、17…支持脚、18…鋼製支保工当接具、19・20…レール、21…2次元調整装置、22…挿通孔付きガイド治具