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特開2022-29536シャワーヘッド、シャワーヘッドの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022029536
(43)【公開日】2022-02-18
(54)【発明の名称】シャワーヘッド、シャワーヘッドの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/455 20060101AFI20220210BHJP
   H01L 21/205 20060101ALN20220210BHJP
   H01L 21/31 20060101ALN20220210BHJP
【FI】
C23C16/455
H01L21/205
H01L21/31 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020132845
(22)【出願日】2020-08-05
(71)【出願人】
【識別番号】515214693
【氏名又は名称】株式会社UACJ鋳鍛
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】特許業務法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲桑▼田 英憲
【テーマコード(参考)】
4K030
5F045
【Fターム(参考)】
4K030EA04
4K030FA03
4K030KA17
4K030LA18
5F045AA08
5F045BB13
5F045DP03
5F045EF05
5F045EH05
(57)【要約】
【解決課題】皮膜にクラックを生じる可能性を低減したシャワーヘッドおよびシャワーヘッドの製造方法を提供する。
【解決手段】 シャワーヘッドは、厚み方向に貫通する1以上の貫通孔部を有する基材と、前記貫通孔部の内周面を覆うように前記基材に差し込まれた1以上のスリーブであって、前記基材の線膨張係数よりも小さい線膨張係数を有する1以上のスリーブと、前記基材の表面と前記スリーブの端面とに跨って形成された皮膜と、を備え、前記1以上の貫通孔部の内径は、常温よりも高い使用温度において前記スリーブの外径よりも小さく、前記1以上のスリーブは、前記使用温度よりも高い加工温度に加熱されて熱膨張した前記基材の前記貫通孔部に差し込まれ、その後前記基材が冷却されることで前記貫通孔部内に嵌め込まれている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚み方向に貫通する1以上の貫通孔部を有する基材と、
前記貫通孔部の内周面を覆うように前記基材に差し込まれた1以上のスリーブであって、前記基材の線膨張係数よりも小さい線膨張係数を有する1以上のスリーブと、
前記基材の表面と前記スリーブの端面とに跨って形成された皮膜と、
を備え、
前記1以上の貫通孔部の内径は、常温よりも高い使用温度において前記スリーブの外径よりも小さく、
前記1以上のスリーブは、前記使用温度よりも高い加工温度に加熱されて熱膨張した前記基材の前記貫通孔部に差し込まれ、その後前記基材が冷却されることで前記貫通孔部内に嵌め込まれたシャワーヘッド。
【請求項2】
前記1以上のスリーブは、外周面に1以上のテーパ面を有し、前記1以上のテーパ面のそれぞれは、先端に近づく方向に行くにつれて直径が小さくなった請求項1に記載のシャワーヘッド。
【請求項3】
前記1以上のテーパ面は、前記先端の近傍に設けられた第1テーパ面を含む請求項2に記載のシャワーヘッド。
【請求項4】
前記1以上の貫通孔部は、内周面に1以上の拡径面を有し、前記1以上の拡径面のそれぞれは、前記スリーブの前記先端とは反対側の基端に近づく方向に行くにつれて直径が大きくなった請求項2又は請求項3に記載のシャワーヘッド。
【請求項5】
前記1以上の拡径面は、前記1以上の貫通孔部の開口縁部であって、前記スリーブの前記基端に近づく方向の端部に位置する前記1以上の貫通孔部の開口縁部に設けられる第1拡径面を含む請求項4に記載のシャワーヘッド。
【請求項6】
前記1以上のスリーブは、第1段部と、前記第1段部よりも前記先端側に設けられ前記第1段部よりも直径が小さくなった先端部分と、を有し、
前記1以上のテーパ面は、前記第1段部に設けられた第2テーパ面を含む請求項2~5のいずれか1項に記載のシャワーヘッド。
【請求項7】
前記1以上のスリーブの前記先端とは反対側の基端から前記第1段部までの長さは、前記スリーブの軸方向に関する前記先端部分の長さよりも大きい請求項6に記載のシャワーヘッド。
【請求項8】
前記1以上のスリーブの前記先端とは反対側の基端から前記第1段部までの長さは、前記スリーブの軸方向に関する前記先端部分の長さよりも小さく、
前記1以上の貫通孔部は、前記先端部分よりも大きい直径で形成された逃げ部であって、前記熱膨張前の前記基材と前記先端部分とが干渉しないようにする逃げ部を有する請求項6に記載のシャワーヘッド。
【請求項9】
前記1以上の貫通孔部は、第2段部と、前記第2段部よりも前記スリーブの前記先端とは反対側の基端側に設けられ前記第2段部よりも直径が大きくなった大径部分と、を有し、
前記1以上の拡径面は、前記第2段部に設けられた第2拡径面を含む請求項6~8のいずれか1項に記載のシャワーヘッド。
【請求項10】
前記使用温度は、100~250℃である請求項1~9のいずれか1項に記載のシャワーヘッド。
【請求項11】
前記加工温度は、前記使用温度よりも100℃以上高い請求項1~10のいずれか1項に記載のシャワーヘッド。
【請求項12】
前記1以上の貫通孔部の内径は、前記使用温度よりも高い温度において前記スリーブの外径と同等になる請求項1~11のいずれか1項に記載のシャワーヘッド。
【請求項13】
厚み方向に貫通する1以上の貫通孔部と前記1以上の貫通孔部の上側の開口縁部とを有する基材と、前記1以上の貫通孔部の内周面を覆うように前記基材に差し込まれる1以上のスリーブであって、前記基材の線膨張係数よりも小さい線膨張係数を有するとともに、常温よりも高い使用温度において1以上の貫通孔部の内径よりも外径が大きい1以上のスリーブと、前記基材の表面と前記スリーブの端面とに跨って形成された皮膜と、を備え、前記使用温度で使用されるシャワーヘッドの製造方法であって、
前記1以上の開口縁部の上側に前記1以上のスリーブを載置する工程と、
前記使用温度よりも高い加工温度に前記基材を加熱して熱膨張させる工程と、
前記使用温度よりも高い加工温度に加熱され熱膨張された前記基材の前記1以上の貫通孔部に前記1以上のスリーブを差し込む工程と、
前記基材を冷却して前記貫通孔部内に前記スリーブを嵌め込む工程と、
前記基材の表面と前記スリーブの端面とに跨るように皮膜を形成する工程と、
を備えるシャワーヘッドの製造方法。
【請求項14】
前記1以上のスリーブは、前記開口縁部に当接する先端部に、前記スリーブが差し込まれる方向の先端に行くにつれて直径が小さくなったテーパ面を有し、
前記1以上の開口縁部の上側に前記1以上のスリーブを載置する工程は、前記テーパ面を介して前記開口縁部に前記スリーブを載置する工程を含む請求項13に記載のシャワーヘッドの製造方法。
【請求項15】
前記1以上の貫通孔部は、前記開口縁部に前記1以上のスリーブが前記差し込まれる方向とは反対方向に行くにつれて直径が大きくなった拡径面を有し、
前記1以上の開口縁部の上側に前記1以上のスリーブを載置する工程は、前記拡径面に前記スリーブを載置する工程を含む請求項13又は請求項14に記載のシャワーヘッドの製造方法。
【請求項16】
前記使用温度よりも高い加工温度に前記基材を加熱して熱膨張させる工程は、前記基材の前記スリーブが前記差し込まれる面とは反対側の面に当接されたヒータで加熱する工程を含む請求項13~15のいずれか1項に記載のシャワーヘッドの製造方法。
【請求項17】
前記使用温度よりも高い加工温度に加熱され熱膨張された前記基材の前記1以上の貫通孔部に前記1以上のスリーブを差し込む工程は、前記基材の前記ヒータが当接される側とは反対側から前記1以上のスリーブを押し込む工程を含む請求項16に記載のシャワーヘッドの製造方法。
【請求項18】
前記使用温度よりも高い加工温度に前記基材を加熱して熱膨張させる工程は、前記基材および前記スリーブを覆う炉内で加熱する工程を含み、
前記使用温度よりも高い加工温度に加熱され熱膨張された前記基材の前記1以上の貫通孔部に前記1以上のスリーブを差し込む工程は、前記1以上の開口縁部の上側に載置された前記1以上のスリーブの上側に載置された錘であって、前記基材の線膨張係数と略同一の線膨張係数を有する錘による荷重によってなされる請求項13~15のいずれか1項に記載のシャワーヘッドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレート本体とスリーブとの間の隙間寸法を小さくすることが可能なシャワーヘッドおよびシャワーヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
処理ガスをチャンバー内に噴射するためのシャワーヘッドが知られている(特許文献1参照)。このシャワーヘッドには、処理ガスを通すための複数の貫通穴の形成されている。シャワーヘッドは、処理ガスやプラズマに曝されるため、腐食しやすい。シャワーヘッドの腐食を防止するため、シャワーヘッドの貫通穴の内周面は、シャワーヘッドの本体を構成する金属とは異なる金属で構成したスリーブによって覆われて保護される場合が多い。また、シャワーヘッドの表面は、耐プラズマ性および処理ガスに対する耐食性を有するセラミックス製の皮膜で覆われて保護される場合が多い。当該皮膜は、シャワーヘッドの本体と、スリーブと、の両方にまたがるように成膜される場合が多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-220623号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記シャワーヘッドは、プラズマ処理時に高温となる。一方、シャワーヘッドの本体とスリーブとは、異種材料で形成される場合が多く、互いに線膨張係数が異なる。このため、高温のプラズマ処理時にシャワーヘッドおよびスリーブが熱膨張することになるが、これらの線膨張係数の違いにより、シャワーヘッドとスリーブとの間に隙間が生じ得る。シャワーヘッドとスリーブとの間に隙間が生じると、この隙間の周辺を起点に上記セラミックス製の皮膜にクラックを生じる可能性がある。皮膜にクラックを生じると、当該クラックからシャワーヘッドの本体の金属が処理ガスおよびプラズマに曝されて、当該部分で腐食を生じる問題がある。
従って、本発明の課題の一つは、皮膜にクラックを生じる可能性を低減したシャワーヘッドおよびシャワーヘッドの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題は、以下の本発明により解決される。すなわち、本発明(1)のシャワーヘッドは、
厚み方向に貫通する1以上の貫通孔部を有する基材と、
前記貫通孔部の内周面を覆うように前記基材に差し込まれた1以上のスリーブであって、前記基材の線膨張係数よりも小さい線膨張係数を有する1以上のスリーブと、
前記基材の表面と前記スリーブの端面とに跨って形成された皮膜と、
を備え、
前記1以上の貫通孔部の内径は、常温よりも高い使用温度において前記スリーブの外径よりも小さく、
前記1以上のスリーブは、前記使用温度よりも高い加工温度に加熱されて熱膨張した前記基材の前記貫通孔部に差し込まれ、その後前記基材が冷却されることで前記貫通孔部内に嵌め込まれている。
【0006】
また、本発明(2)のシャワーヘッドは、(1)記載のシャワーヘッドであって、
前記1以上のスリーブは、外周面に1以上のテーパ面を有し、前記1以上のテーパ面のそれぞれは、先端に近づく方向に行くにつれて直径が小さくなっている。
【0007】
また、本発明(3)のシャワーヘッドは、(2)記載のシャワーヘッドであって、
前記1以上のテーパ面は、前記先端の近傍に設けられた第1テーパ面を含む。
【0008】
また、本発明(4)のシャワーヘッドは、(2)又は(3)記載のシャワーヘッドであって、
前記1以上の貫通孔部は、内周面に1以上の拡径面を有し、前記1以上の拡径面のそれぞれは、前記スリーブの前記先端とは反対側の基端に近づく方向に行くにつれて直径が大きくなっている。
【0009】
また、本発明(5)のシャワーヘッドは、(4)記載のシャワーヘッドであって、
前記1以上の拡径面は、前記1以上の貫通孔部の開口縁部であって、前記スリーブの前記基端に近づく方向の端部に位置する前記1以上の貫通孔部の開口縁部に設けられる第1拡径面を含む。
【0010】
また、本発明(6)のシャワーヘッドは、(2)~(5)のいずれか1項記載のシャワーヘッドであって、
前記1以上のスリーブは、第1段部と、前記第1段部よりも前記先端側に設けられ前記第1段部よりも直径が小さくなった先端部分と、を有し、
前記1以上のテーパ面は、前記第1段部に設けられた第2テーパ面を含む。
【0011】
また、本発明(7)のシャワーヘッドは、(6)記載のシャワーヘッドであって、
前記1以上のスリーブの前記先端とは反対側の基端から前記第1段部までの長さは、前記スリーブの軸方向に関する前記先端部分の長さよりも大きい。
【0012】
また、本発明(8)のシャワーヘッドは、(6)記載のシャワーヘッドであって、
前記1以上のスリーブの前記先端とは反対側の基端から前記第1段部までの長さは、前記スリーブの軸方向に関する前記先端部分の長さよりも小さく、
前記1以上の貫通孔部は、前記先端部分よりも大きい直径で形成された逃げ部であって、前記熱膨張前の前記基材と前記先端部分とが干渉しないようにする逃げ部を有する。
【0013】
また、本発明(9)のシャワーヘッドは、(6)~(8)のいずれか1項に記載のシャワーヘッドであって、
前記1以上の貫通孔部は、第2段部と、前記第2段部よりも前記スリーブの前記先端とは反対側の基端側に設けられ前記第2段部よりも直径が大きくなった大径部分と、を有し、
前記1以上の拡径面は、前記第2段部に設けられた第2拡径面を含む。
【0014】
また、本発明(10)のシャワーヘッドは、(1)~(9)のいずれか1項に記載のシャワーヘッドであって、
前記使用温度は、100~250℃である。
【0015】
また、本発明(11)のシャワーヘッドは、(1)~(10)のいずれか1項に記載のシャワーヘッドであって、
前記加工温度は、前記使用温度よりも100℃以上高い。
【0016】
また、本発明(12)のシャワーヘッドは、(1)~(11)のいずれか1項に記載のシャワーヘッドであって、
前記1以上の貫通孔部の内径は、前記使用温度よりも高い温度において前記スリーブの外径と同等になる。
【0017】
また、本発明(13)のシャワーヘッドの製造方法は、
厚み方向に貫通する1以上の貫通孔部と前記1以上の貫通孔部の上側の開口縁部とを有する基材と、前記1以上の貫通孔部の内周面を覆うように前記基材に差し込まれる1以上のスリーブであって、前記基材の線膨張係数よりも小さい線膨張係数を有するとともに、常温よりも高い使用温度において1以上の貫通孔部の内径よりも外径が大きい1以上のスリーブと、前記基材の表面と前記スリーブの端面とに跨って形成された皮膜と、を備え、前記常温よりも高い使用温度で使用されるシャワーヘッドの製造方法であって、
前記1以上の開口縁部の上側に前記1以上のスリーブを載置する工程と、
前記使用温度よりも高い加工温度に前記基材を加熱して熱膨張させる工程と、
前記使用温度よりも高い加工温度に加熱され熱膨張された前記基材の前記1以上の貫通孔部に前記1以上のスリーブを差し込む工程と、
前記基材を冷却して前記貫通孔部内に前記スリーブを嵌め込む工程と、
前記基材の表面と前記スリーブの端面とに跨るように皮膜を形成する工程と、
を備える。
【0018】
また、本発明(14)のシャワーヘッドの製造方法は、(13)記載のシャワーヘッドの製造方法であって、
前記1以上のスリーブは、前記開口縁部に当接する先端部に、前記スリーブが差し込まれる方向の先端に行くにつれて直径が小さくなったテーパ面を有し、
前記1以上の開口縁部の上側に前記1以上のスリーブを載置する工程は、前記テーパ面を介して前記開口縁部に前記スリーブを載置する工程を含む。
【0019】
また、本発明(15)のシャワーヘッドの製造方法は、(13)又は(14)記載のシャワーヘッドの製造方法であって、
前記1以上の貫通孔部は、前記開口縁部に前記1以上のスリーブが前記差し込まれる方向とは反対方向に行くにつれて直径が大きくなった拡径面を有し、
前記1以上の開口縁部の上側に前記1以上のスリーブを載置する工程は、前記拡径面に前記スリーブを載置する工程を含む。
【0020】
また、本発明(16)のシャワーヘッドの製造方法は、(13)~(15)のいずれか1項に記載のシャワーヘッドの製造方法であって、
前記使用温度よりも高い加工温度に前記基材を加熱して熱膨張させる工程は、前記基材の前記スリーブが前記差し込まれる面とは反対側の面に当接されたヒータで加熱する工程を含む。
【0021】
また、本発明(17)のシャワーヘッドの製造方法は、(16)に記載のシャワーヘッドの製造方法であって、
前記使用温度よりも高い加工温度に加熱され熱膨張された前記基材の前記1以上の貫通孔部に前記1以上のスリーブを差し込む工程は、前記基材の前記ヒータが当接される側とは反対側から前記1以上のスリーブを押し込む工程を含む。
【0022】
また、本発明(18)のシャワーヘッドの製造方法は、(13)~(15)のいずれか1項に記載のシャワーヘッドの製造方法であって、
前記使用温度よりも高い加工温度に前記基材を加熱して熱膨張させる工程は、前記基材および前記スリーブを覆う炉内で加熱する工程を含み、
前記使用温度よりも高い加工温度に加熱され熱膨張された前記基材の前記1以上の貫通孔部に前記1以上のスリーブを差し込む工程は、前記1以上の開口縁部の上側に載置された前記1以上のスリーブの上側に載置された錘であって、前記基材の線膨張係数と略同一の線膨張係数を有する錘による荷重によってなされる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、皮膜にクラックを生じる可能性を低減したシャワーヘッドおよびシャワーヘッドの製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】実施形態のシャワーヘッドを含む製造ラインを示す断面図である。
図2図1に示す第1スリーブおよびこれが差し込まれる第1貫通孔部を拡大して示す断面図である。
図3図1に示す第2スリーブおよびこれが差し込まれる第2貫通孔部を拡大して示す断面図である。
図4図1に示すシャワーヘッドの第1の製造方法中の一工程であって、1以上の開口縁部の上側に1以上のスリーブを載置する工程を示す断面図である。
図5図1に示すシャワーヘッドの第1の製造方法中の一工程であって、使用温度よりも高い加工温度に加熱され熱膨張された基材の1以上の貫通孔部に1以上のスリーブを差し込む工程を示す断面図である。
図6図1に示すシャワーヘッドの第2の製造方法中の一工程であって、1以上の開口縁部の上側に1以上のスリーブを載置する工程を示す断面図である。
図7図1に示すシャワーヘッドの第2の製造方法中の一工程であって、使用温度よりも高い加工温度に加熱され熱膨張された基材の1以上の貫通孔部に1以上のスリーブを差し込む工程を示す断面図である。
図8】第1変形例のシャワーヘッドの第1スリーブおよびこれが差し込まれる第1貫通孔部を示す断面図である。
図9】第2変形例のシャワーヘッドの第1スリーブおよびこれが差し込まれる第1貫通孔部を示す断面図である。
図10】実施例A4の寸法1に対応する、第1スリーブの外径および第1貫通孔部の内径と温度との関係を示すグラフである。
図11】実施例A3の寸法2に対応する、第1スリーブの外径および第1貫通孔部の内径と温度との関係を示すグラフである。
図12】実施例B3に対応する、第2スリーブの外径および第2貫通孔部の内径と温度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下図面を参照して、シャワーヘッドの実施形態について説明する。シャワーヘッドは、主としてフラットパネルディスプレイの基板等の製造工程に用いられ、金属腐食性のあるガス等をワークに噴射して、ワーク表面にプラズマ処理等を行うのに用いられる。
[実施形態]
【0026】
図1図7を参照して、実施形態のシャワーヘッド11について説明する。図1に示すように、シャワーヘッド11は、シャワープレート12と、シャワープレート12が支持・固定される金属製のハウジング41と、高周波電流が供給される高周波電極と、を備える。
【0027】
図1図3に示すように、シャワープレート12は、金属材料によって平板状に形成されている。シャワープレート12は、平板状をなした基材13と、基材13を厚み方向に貫通するように基材13に形成された1以上の貫通孔部14と、1以上の貫通孔部14に差し込まれた1以上のスリーブ15と、基材13の表面(表面、裏面)とスリーブ15の端面151とに跨って形成された皮膜16と、ボルト等の固定具17や位置決めピン45等を通すように4か所の角部に設けられた固定孔21と、を有する。基材13は、例えば、アルミニウム合金によって形成されている。基材13は、銅合金や鉄鋼材料によって形成されていてもよい。
【0028】
1以上のスリーブ15は、貫通孔部14の内周面を覆うように基材13に差し込まれている。基材13に差し込まれるスリーブ15の軸方向Sは、基材13の厚み方向(貫通孔部14の延びる方向)に沿っている。1以上のスリーブ15は、1個であってもよいし、複数であってもよい。1以上のスリーブ15は、1以上の第1スリーブ15Aと、1以上の第1スリーブ15Aとは形態が異なる1以上の第2スリーブ15Bと、を有する。第1スリーブ15Aおよび第2スリーブ15Bは、基材13の線膨張係数よりも小さい線膨張係数を有する。図1において、第1スリーブ15Aが2個示され、第2スリーブ15Bが2個示されているが、これらの数は例示であり、第1スリーブ15Aおよび第2スリーブ15Bの数はこれらに限られるものではない。シャワープレート12は、1以上の第1スリーブ15Aと、1以上の第2スリーブ15Bと、のうち、いずれか一方のみを有していてもよい。
【0029】
1以上の第1スリーブ15Aのそれぞれは、段付きの円筒形をなしたスリーブで構成され、中央部を差し込み方向に貫通する貫通口152を有する。第1スリーブ15Aの直径は、例えば3~5mmで構成される。第1スリーブ15Aは、処理ガスに対する耐腐食性が基材13よりも優れる材料によって形成されればよく、例えば、ステンレス鋼によって形成されることが好ましい。第1スリーブ15Aは、ステンレス鋼以外の鉄鋼、銅合金、セラミックスのいずれかで構成されてもよい。第1スリーブ15Aを構成するステンレス鋼としては、例えばSUS304、SUS326、SUS430のいずれかであってもよい。
【0030】
後述するように、基材13の1以上の貫通孔部14には、その内周面を覆うように1以上のスリーブ15が基材13に対して差し込まれることとなる。以下にいう1以上のスリーブ15が差し込まれる方向D1は、図2図3の紙面下方である。図2に示すように、1以上の第1スリーブ15Aのそれぞれは、外周面22と、第1段部23と、差し込まれる方向D1に関して第1段部23よりも先端側に設けられた先端部分24と、先端部分24に設けられ差し込まれる方向D1の先端に設けられた先端25と、差し込まれる方向D1に関して先端25とは反対側に設けられた基端26と、外周面22に設けられた1以上のテーパ面27と、を有する。1以上のテーパ面27は、1個であってもよいし、複数であってもよい。1以上のテーパ面27は、外周面22の先端25の近傍に設けられた第1テーパ面27Aと、外周面22の第1段部23に設けられた第2テーパ面27Bと、を有する。第1テーパ面27Aは、先端25に近づくにつれて(差し込まれる方向D1に行くにつれて)直径が小さくなっている。第2テーパ面27Bは、先端25に近づくにつれて(差し込まれる方向D1に行くにつれて)直径が小さくなっている。
【0031】
先端部分24の直径は、第1スリーブ15Aの第1段部23が設けられる部分の直径よりも小さく形成されている。図2に示すように、軸方向S(差し込まれる方向D1)に関する基端26から第1段部23までの長さL1は、第1スリーブ15Aの軸方向S(差し込まれる方向D1)に関する先端部分24の長さL2よりも大きい。このため、後述する製造方法において、開口縁部32に第1スリーブ15Aの第1段部23を載置する際に、先端部分24が第1貫通孔部14Aの第2段部33に干渉してしまうことがない。
【0032】
図3に示すように、1以上の第2スリーブ15Bのそれぞれは、円筒形をなしたスリーブで構成され、中央部を差し込み方向D1に貫通する貫通口152を有する。第2スリーブ15Bの直径は、例えば3~5mmで構成される。第2スリーブ15Bは、処理ガスに対する耐腐食性が基材13よりも優れる材料によって形成されればよく、例えば、セラミックスによって形成されることが好ましい。第2スリーブ15Bは、例えば、ステンレス鋼、鉄鋼、銅合金のいずれかで構成されてもよい。第2スリーブ15Bを構成するセラミックスとしては、例えばアルミナ、ムライト、窒化アルミニウムのいずれかであってもよい。
【0033】
第2スリーブ15Bは、外周面22と、差し込まれる方向D1の先端に設けられた先端25と、差し込まれる方向D1に関して先端25とは反対側に設けられた基端26と、外周面22の先端25に対応する位置に設けられた第1テーパ面27A(テーパ面27)と、を有する。
【0034】
1以上の貫通孔部14は、1個であってもよいし、複数であってもよい。図1に示すように、1以上の貫通孔部14は、1以上の第1スリーブ15Aが差し込まれる1以上の第1貫通孔部14Aと、1以上の第2スリーブ15Bが差し込まれるとともに第1貫通孔部14Aとは形態が異なる1以上の第2貫通孔部14Bと、を有する。
【0035】
図2に示すように、第1貫通孔部14Aは、円形で段付きの貫通孔部で構成されている。第1貫通孔部14Aは、内周面31と、内周面31の上側の開口縁部32と、第2段部33と、第2段部33よりもスリーブ15の基端26側(スリーブ15の差し込まれる方向D1とは反対側)に設けられ第2段部よりも直径が大きくなった大径部分34と、内周面31に設けられた1以上の拡径面35と、を有する。開口縁部32は、スリーブ15の基端26側(スリーブ15が差し込まれる方向とは反対方向D2)の端部に位置している。1以上の拡径面35は、1個であってもよいし、複数であってもよい。1以上の拡径面35は、開口縁部32又はその近傍に設けられた第1拡径面35Aと、第2段部33に設けられた第2拡径面35Bと、を有する。大径部分34の直径は、第2段部33の直径よりも大きくなっている。第1拡径面35Aは、スリーブ15の基端26側(スリーブ15が差し込まれる方向とは反対方向D2)に行くにつれて直径が大きくなっている。第2拡径面35Bは、スリーブ15の基端26側(スリーブ15が差し込まれる方向とは反対方向D2)に行くにつれて直径が大きくなっている。
【0036】
第1貫通孔部14Aの大径部分34の内径は、後述する使用温度で第1スリーブ15Aの第1段部23の外径よりも小さくなっている。第1貫通孔部14Aの大径部分34の内径は、常温でも第1スリーブ15Aの第1段部23の外径よりも小さくなっていることが好ましい。さらに、第1貫通孔部14Aの大径部分34の内径は、使用温度よりも高い温度(例えば、後述する加工温度)で第1スリーブ15Aの第1段部23の外径と同等になる。第1貫通孔部14Aの第2段部33の内径は、後述する使用温度で第1スリーブ15Aの先端部分24の外径よりも小さくなっている。第1貫通孔部14Aの第2段部33の内径は、常温でも第1スリーブ15Aの先端部分24の外径よりも小さくなっていることが好ましい。さらに、第1貫通孔部14Aの第2段部33の内径は、使用温度よりも高い温度(例えば、後述する加工温度)で第1スリーブ15Aの先端部分24の外径と同等になる。
【0037】
図3に示すように、第2貫通孔部14Bは、円形で軸方向Sに関して略均一な内径を有する貫通孔部で構成されている。第2貫通孔部14Bは、内周面31と、内周面31の上側の開口縁部32と、開口縁部32に設けられた第1拡径面35A(拡径面35)と、を有する。第1拡径面35Aは、スリーブ15が差し込まれる方向とは反対方向D2に行くにつれて直径が大きくなっている。第2貫通孔部14Bの内径は、後述する使用温度で第2スリーブ15Bの外径よりも小さくなっている。第2貫通孔部14Bの内径は、常温でも第2スリーブ15Bの外径よりも小さくなっていることが好ましい。さらに、第2貫通孔部14Bの内径は、使用温度よりも高い温度(例えば、後述する加工温度)で第2スリーブ15Bの外径と同等になる。
【0038】
皮膜16は、アルミナ(Al)等のセラミックスによって形成されている。皮膜16は、溶融されたアルミナ(Al)等のセラミックスを基材13の表面およびスリーブ15の端面151に塗布(溶射)することで形成される。
【0039】
図1を参照して、シャワーヘッド11の使用方法について説明する。シャワーヘッド11のシャワープレート12は、ボルト・ナット等の固定具17を介してハウジング41に固定される。これによってシャワープレート12は、上方から吊り下げられた状態となる。このシャワーヘッド11に対して、下側に位置する搬送路42上を基板等で構成されるワークWが送られる。ハウジング41内部にはClガス等が供給される。また、シャワープレート12の下側の空間は、例えばチャンバー43で覆われており、その内部をワークWが矢印で示す送り方向に送られている。また、高周波電極には図示しない電源から高周波電流が流されて、シャワープレート12にループ電流を生成する。これによってチャンバー43内に誘導電界が形成される。シャワーヘッド11から供給されるClガスがプラズマ化され、チャンバー43内のシャワーヘッド11の下側の空間でプラズマを生成する。これによってワークWにプラズマ処理がなされる。プラズマ処理中のシャワーヘッド11の温度(使用温度)は、概ね100~250℃程度の高温になる。
【0040】
続いて、図4図5を参照して、本実施形態のシャワーヘッド11の第1の製造方法について説明する。
【0041】
図4に示すように、シャワープレート12の上下を固定用のプレート44で挟む。プレート44は、シャワープレート12の固定孔21を貫通するように通された固定用の位置決めピン45によってシャワープレート12に対して固定される。上側の第1プレート44Aは、四角い平板状に形成されている。第1プレート44Aは、シャワープレート12の基材13の線膨張係数と同じ線膨張係数を有するように、シャワープレート12の基材13と同一の材質によって形成されることが好ましい。上側の第1プレート44Aは、シャワープレート12の1以上の貫通孔部14に対応する位置に設けられた1以上の通孔46と、4か所の角部に対応する位置に設けられ位置決めピン45が通される第2固定孔28と、を有する。
【0042】
下側の第2プレート44Bは、四角い平板状に形成されている。第2プレート44Bは、シャワープレート12の基材13の線膨張係数と同じ線膨張係数を有するように、シャワープレート12の基材13と同一の材質によって形成されることが好ましい。下側の第2プレート44Bは、4か所の角部に対応する位置に設けられ位置決めピン45が通される第2固定孔28と、を有する。
【0043】
第1プレート44Aは、第1固定孔21に通された位置決めピン45によってシャワープレート12に対して位置決め・固定される。第2プレート44Bは、第2固定孔21に通された位置決めピン45によってシャワープレート12に対して位置決め・固定される。このようにして、シャワープレート12は、上下から第1プレート44Aおよび第2プレート44Bで挟まれたユニット47を形成する。
【0044】
本製造方法の第1工程では、このユニット47に対して、1以上のスリーブ15を載置する。すなわち、1以上の第1貫通孔部14Aに対して1以上の通孔46を介して1以上の第1スリーブ15Aを載置し、1以上の第2貫通孔部14Bに対して1以上の通孔46を介して1以上の第2スリーブ15Bを載置する。1以上の第1スリーブ15Aのそれぞれは、第1段部23の第2テーパ面27Bを介して第1貫通孔部14Aの開口縁部32である第1拡径面35Aに載置される(図2参照)。このため、第1スリーブ15Aは、起立姿勢のまま安定的に基材13に支持される。さらに第1スリーブ15Aは、第1プレート44Aの通孔46によってもその起立姿勢が保持される。また、第2テーパ面27Bおよび第1拡径面35Aが設けられているために、次に述べる第1スリーブ15Aの差込みが円滑になされる。また、第2拡径面35Bが設けられているために、次に述べる第2段部33に対する先端部分24の差込みが円滑になされる。
【0045】
1以上の第2スリーブ15Bのそれぞれは、差し込まれる方向D1の先端に位置する第1テーパ面27Aを介して第2貫通孔部14Bの開口縁部32である第1拡径面35Aに載置される(図3参照)。このため、第2スリーブ15Bは、起立姿勢のまま安定的に基材13に支持される。さらに第2スリーブ15Bは、第1プレート44Aの通孔46によってもその起立姿勢が保持される。また、第1テーパ面27Aおよび第1拡径面35Aが設けられているために、次に述べる第2スリーブ15Bの差込みが円滑になされる。
【0046】
常温において、第1貫通孔部14Aの内径(第2段部33の内径、大径部分34の内径)は、第1スリーブ15Aの外径(先端部分24の外径、第1段部23の外径)よりも小さく設定されている。同様に、常温において、第2貫通孔部14Bの内径は、第2スリーブ15Bの外径よりも小さく設定されている。
【0047】
本製造方法の第2工程では、作業者は、このように第1スリーブ15Aと第2スリーブ15Bとが上側に載置されたユニット47を平板状のヒータ48に載置して、当該ユニット47を使用温度(約100~250℃)よりも高い加工温度にまで加熱する。このとき、ヒータ48は、基材13のスリーブ15が差し込まれる面とは反対側の面に当接される。ヒータ48は、基材13を加熱して熱膨張させる。本製造方法の第3工程では、基材13の熱膨張に伴って熱膨張した1以上の貫通孔部14に対して1以上のスリーブ15を差し込まれる方向D1に向けて差し込む工程を行う。加工温度は、350~450℃であってよく、370~430℃であることが好ましく、380~420℃であることがさらに好ましい。加工温度は、プラズマ処理時の使用温度(約100~250℃)よりも100℃以上高い高温であるために、基材13が十分に熱膨張する。本工程では、第1貫通孔部14Aの直径が大きくなって第1貫通孔部14Aに対して第1スリーブ15AがD1方向に自重で落ち込み、第2貫通孔部14Bの直径が大きくなって第2貫通孔部14Bに対して第2スリーブ15BがD1方向に自重で落ち込むこととなる。
【0048】
或いは、熱膨張後の第1貫通孔部14Aの直径に対して第1スリーブ15Aの直径が近く、熱膨張後の第2貫通孔部14Bの直径に対して第2スリーブ15Bの直径が近い場合には、第1スリーブ15Aおよび第2スリーブ15Bは、自重で落下しない。この場合には、本工程において、作業者は、小型のハンマー等を用いて第1スリーブ15Aおよび第2スリーブ15Bを上からD1方向に押し込んだり、小型のハンマー等を用いて第1スリーブ15Aおよび第2スリーブ15Bを上から叩いてD1方向に差し込んだりする。したがって、小型のハンマー等を第1スリーブ15Aおよび第2スリーブ15Bに接触させる側は、ヒータ48が当接される側とは反対側である。
【0049】
本実施形態のように、平板状のヒータ48にユニット47を載置してユニット47を加熱する場合には、ユニット47の上側に開放空間があるために、本工程において、当該開放空間を利用してユニット47に対して上側からアクセスすることができる。また、ヒータ48がユニット47の下側に当接するために、シャワープレート12の基材13を集中的に加熱することができ、基材13を積極的に熱膨張させることができる。
【0050】
これに対して、第1スリーブ15Aは、第1段部23の第2テーパ面27Bにおいて開口縁部32の第1拡径面35Aに当接し、基材13上に最小限の面積で支持されている。このため、基材13に伝導された熱が第1スリーブ15Aにまで効率良く伝導してしまうことが防止される。したがって、ヒータ48からの熱によって第1スリーブ15Aが熱膨張して第1貫通孔部14Aに差し込み難くなる事態を生じにくい。
【0051】
同様に、第2スリーブ15Bは、先端25の第1テーパ面27Aにおいて開口縁部32の第1拡径面35Aに当接し、基材13上に最小限の面積で支持されている。このため、基材13に伝導された熱が第2スリーブ15Bにまで効率良く伝導してしまうことが防止される。したがって、ヒータ48からの熱によって第2スリーブ15Bが熱膨張して第2貫通孔部14Bに差し込み難くなる事態を生じにくい。
【0052】
本実施形態では、先端26に第1テーパ面27Aが形成されており、かつ、第1スリーブ15Aの先端部分24を受け入れる第2段部33に第2拡径面が形成されている。このため、第2段部33(小径部分)に対して先端部分24が精度良く位置決めされるとともに、第1貫通孔部14Aに第1スリーブ15Aが差し込まれる際に、第2段部33(小径部分)に対する先端部分24の差し込みが円滑になされ、先端部分24が折れ曲がったり破損したりすることが有効に防止される。
【0053】
本製造方法の第4工程では、作業者は、基材13に対して第1スリーブ15Aおよび第2スリーブ15Bが差し込まれたユニット47をヒータ48上から移動し、基材13を常温にまで冷却する。これによって基材13を熱膨張前の状態に戻し、第1貫通孔部14A内に第1スリーブ15Aを嵌め込み、第2貫通孔部14B内に第2スリーブ15Bを嵌め込むようにする。これによって、常温および使用温度において、第1スリーブ15Aと第1貫通孔部14Aとの間に隙間が存在しないようにできるとともに、第2スリーブ15Bと第2貫通孔部14Bとの間に隙間が存在しないようにできる。
【0054】
本製造方法の第5工程では、常温に冷却された基材13の表面に、アルミナ(Al)等のセラミックスを溶射する。これによって、基材13の表面とスリーブ15(第1スリーブ15A、第2スリーブ15B)の端面151とに跨るように、セラミックスの皮膜16を形成する。これによってシャワープレート12が完成する。このシャワープレート12をハウジング41に組み付けることで、シャワーヘッド11が完成する。
【0055】
続いて、図6図7を参照して、本実施形態のシャワーヘッド11の第2の製造方法について説明する。
【0056】
図6に示すように、第1の製造方法と同様に、シャワープレート12の上下を固定用のプレート44で挟む。上側の第1プレート44Aおよび下側の第2プレート44Bの構成は、第1の製造方法と同様である。シャワープレート12は、上下から第1プレート44Aおよび第2プレート44Bで挟まれたユニット47を形成する。
【0057】
本製造方法の第1工程では、このユニット47に対して、1以上のスリーブ15を載置する。すなわち、1以上の第1貫通孔部14Aに対して1以上の通孔46を介して1以上の第1スリーブ15Aを載置し、1以上の第2貫通孔部14Bに対して1以上の通孔46を介して1以上の第2スリーブ15Bを載置する。1以上の第1スリーブ15Aのそれぞれは、第1段部23の第2テーパ面27Bを介して第1貫通孔部14Aの開口縁部32である第1拡径面35Aに載置される(図2参照)。このため、第1スリーブ15Aは、起立姿勢のまま安定的に基材13に支持される。さらに第1スリーブ15Aは、第1プレート44Aの通孔46によってもその起立姿勢が保持される。
【0058】
1以上の第2スリーブ15Bのそれぞれは、第1テーパ面27Aを介して第2貫通孔部14Bの開口縁部32である第1拡径面35Aに載置される(図3参照)。このため、第2スリーブ15Bは、起立姿勢のまま安定的に基材13に支持される。さらに第2スリーブ15Bは、第1プレート44Aの通孔46によってもその起立姿勢が保持される。
【0059】
常温において、第1貫通孔部14Aの内径(第2段部33の内径、大径部分34の内径)は、第1スリーブ15Aの外径(先端部分24の外径、第1段部23の外径)と同等かそれよりも小さく設定されている。同様に、常温において、第2貫通孔部14Bの内径は、第2スリーブ15Bの外径と同等かそれよりも小さく設定されている。
【0060】
本製造方法の第2工程では、作業者は、このように第1スリーブ15Aと第2スリーブ15Bとが上側に載置されたユニット47を炉51(電気炉)内に載置して、当該ユニット47を使用温度(約250℃)よりも高い加工温度にまで加熱する。その際、第1スリーブ15Aの上側に、第1錘52を載置し、第2スリーブ15Bの上側に第2錘53を載置する。第1錘52および第2錘53は、基材13と同一の線膨張係数を有するように、基材13と同じ材質(アルミニウム合金)の板材で構成されている。第1錘52は、1以上の第1スリーブ15Aの頂部に当接し、第1プレート44Aの1以上の通孔46内に差し込まれることが可能な1以上の第1突起52Aを有する。第2錘53は、1以上の第2スリーブ15Bの頂部に当接し、第1プレート44Aの1以上の通孔46内に差し込まれることが可能な1以上の第2突起53Aを有する。
【0061】
本製造方法の第3工程では、炉51内でユニット47を加工温度まで加熱することで、1以上の貫通孔部14に対して1以上のスリーブ15を差し込まれる方向D1に向けて差し込む工程を行う。加工温度は、350~450℃であってよく、370~430℃であることが好ましく、380~420℃であることがさらに好ましい。加工温度は、シャワーヘッド11の使用温度(約100~250℃)よりも100℃以上高い高温であるために、基材13が十分に熱膨張する。本工程では、第1貫通孔部14Aの直径が大きくなって、第1錘52の重量によって第1貫通孔部14Aに対して第1スリーブ15Aが落ち込む。また、第2貫通孔部14Bの直径が大きくなって、第2錘53の重量によって第2貫通孔部14Bに対して第2スリーブ15Bが落ち込む。
【0062】
第2の製造方法では、炉51内のユニット47に対して作業者がハンマー等でアクセスすることが困難であることが多いため、第1錘52および第2錘53の重量によってD1方向に第1スリーブ15Aおよび第2スリーブ15Bを基材13に差し込むようにしている。また、第1錘52および第2錘53の線膨張係数は、基材13の線膨張係数と同じになるように設定されているために、炉51内で第1錘52および第2錘53が熱膨張した場合でも、第1スリーブ15Aおよび第2スリーブ15Bの軸方向が貫通孔部14の軸方向からずれてしまうことがない。これによって、貫通孔部14に対してスリーブ15がうまく差し込まれないという不具合を生じることがない。
【0063】
本実施形態では、先端26に第1テーパ面27Aが形成されており、かつ、第1スリーブ15Aの先端部分24を受け入れる第2段部33に第2拡径面が形成されている。このため、第1貫通孔部14Aに第1スリーブ15Aが差し込まれる際に、第2段部33(小径部分)に対する先端部分24の差し込みが円滑になされ、先端部分24が折れ曲がったり破損したりすることが有効に防止される。
【0064】
本製造方法の第4工程では、作業者は、基材13に対して第1スリーブ15Aおよび第2スリーブ15Bが差し込まれたユニット47を炉51内から取り出し、基材13を常温にまで冷却する。これによって基材13を熱膨張前の状態に戻し、第1貫通孔部14A内に第1スリーブ15Aを嵌め込み、第2貫通孔部14B内に第2スリーブ15Bを嵌め込むようにする。これによって、常温および使用温度において、第1スリーブ15Aと第1貫通孔部14Aとの間に隙間が存在しないようにできるとともに、第2スリーブ15Bと第2貫通孔部14Bとの間に隙間が存在しないようにできる。
【0065】
本製造方法の第5工程では、常温に冷却された基材13の表面に、アルミナ(Al)等のセラミックスを溶射する。これによって、基材13の表面とスリーブ15(第1スリーブ、第2スリーブ)の端面151とに跨るように、セラミックスの皮膜16を形成する。これによってシャワープレート12が完成する。このシャワープレート12をハウジング41に組み付けることで、シャワーヘッド11が完成する。
【0066】
続いて、第1の製造方法および第2の製造方法で製造されたシャワーヘッド11の作用について説明する。シャワーヘッド11は、フラットパネルディスプレイ等の基板等の製造工程におけるプラズマ処理によって、約100~250℃の使用温度にまで上昇する。この使用温度は、約150~250℃であることが好適であり、約200~250℃であることがさらに好適である。上記第1の製造方法および第2の製造方法で製造されたシャワーヘッド11は、常温においてスリーブ15と貫通孔部14との間に隙間を生じていない。
【0067】
常温において、計算上、スリーブ15を嵌め込む前の基材13の貫通孔部14の内径は、スリーブ15の外径よりも若干小さく設定されている。さらに、使用温度においても、計算上、スリーブ15を嵌め込む前の基材13の貫通孔部14の内径は、スリーブ15の外径よりも若干小さくなるように調整されている。このため、貫通孔部14にスリーブ15を嵌め込んだ基材13は、常温および使用温度において、弾性変形状態にあり、塑性変形状態ではないと考えられる。そして、常温から温度が上昇した場合には、基材13とスリーブ15がそれぞれ熱膨張する。その際、基材13とスリーブ15との間の線膨張係数の違いにより、基材13とスリーブ15との間で膨張率が異なることとなる(すなわち、アルミニウム合金で構成される基材13は、ステンレス鋼で構成される第1スリーブ15Aやアルミナ等のセラミックスで構成される第2スリーブ15Bよりも大きく熱膨張する)。したがって、温度の上昇に伴い、基材13の貫通孔部14の内径は、スリーブ15の外径よりも大きくなりやすい。このため、使用温度よりも高い温度においては、計算上、基材13の貫通孔部14とスリーブ15との間に隙間を生じるような寸法関係になる。
【0068】
しかしながら、常温から使用温度の範囲内においては、基材13の弾性変形量は、常温における弾性変形量よりも小さくなるものの、基材13は、弾性変形状態を維持することができる。すなわち、上記のように、計算上の寸法関係は、貫通孔部14の内径<スリーブ15の外径となっている。実際上は、常温から使用温度の範囲内における寸法関係は、貫通孔部14の内径=スリーブ15の外径となる。このとき、弾性変形しているスリーブ15の応力値は、弾性変形している基材13の応力値に等しい。
【0069】
計算上のスリーブ15の外径寸法と計算上の貫通孔部14の内径寸法との差は、基材13の弾性変形とスリーブ15の弾性変形とによって吸収されている。常温から使用温度の範囲内における実際上の貫通孔部14の内径は、同温度範囲における計算上の貫通孔部14の内径と、同温度範囲における計算上のスリーブ15の外径と、の間の値をとる。常温から使用温度の範囲内における実際上の貫通孔部14の内径は、基材13の弾性変形のし難さと、スリーブ15の弾性変形のし難さと、の関係で決定される。より詳細には、常温から使用温度の範囲内における実際上の貫通孔部14の内径は、基材13のヤング率の逆数と、スリーブ15のヤング率の逆数と、の比で決定される。上記した基材13の弾性変形とスリーブ15の弾性変形とによって、常温から使用温度の範囲において貫通孔部14とスリーブ15との間で隙間がない状態が維持される。このため、この温度範囲内において、この隙間に起因して皮膜16にクラックを生じてしまうことが防止される。
【0070】
本実施形態では、貫通孔部14の内周面31中に占める主要な面は、基材13の厚さ方向に延びる面であり、これが内周面31の全面積に占める割合は、例えば、90~99%である。残り1~10%は、1以上の拡開面35が内周面31に占める割合である。内周面31中の基材13の厚さ方向に延びる面は、スリーブ15の抜けを防止するための保持力・摩擦力を発揮する主要な面である。
【0071】
さらに、「使用温度」、「加工温度」、実施例で後述する「貫通孔部の内径がスリーブの外径を逆転する温度」の関係は、以下であることが好ましい。
「貫通孔部の内径がスリーブの外径を逆転する温度」-「使用温度」が0℃~150℃、好ましくは50℃~100℃である。また、「加工温度」-「貫通孔部の内径がスリーブの外径を逆転する温度」が0℃~150℃、好ましくは100℃~150℃である。
「貫通孔部の内径がスリーブの外径を逆転する温度」-「使用温度」が0℃~150℃、好ましくは50℃~100℃となり、且つ、「加工温度」-「貫通孔部の内径がスリーブの外径を逆転する温度」が0℃~150℃、好ましくは100℃~150℃となるように、基材及びスリーブの線膨張係数、加工温度を選択することにより、使用温度で貫通孔部14とスリーブ15との間に隙間を生じることを防止して皮膜16にクラックを生じることを防止できる。
【0072】
第1実施形態によれば以下のことがいえる。シャワーヘッド11は、厚み方向に貫通する1以上の貫通孔部14を有する基材13と、貫通孔部14の内周面31を覆うように基材13に差し込まれた1以上のスリーブ15であって、基材13の線膨張係数よりも小さい線膨張係数を有する1以上のスリーブ15と、基材13の表面とスリーブ15の端面151とに跨って形成された皮膜16と、を備え、1以上の貫通孔部14の内径は、常温および常温よりも高い使用温度においてスリーブ15の外径と同等又は外径よりも小さく設定され、1以上のスリーブ15は、前記使用温度よりも高い加工温度に加熱されて熱膨張した基材13の貫通孔部14に差し込まれ、その後基材13が冷却されることで貫通孔部14内に嵌め込まれている。
【0073】
シャワーヘッドの製造方法は、厚み方向に貫通する1以上の貫通孔部14と1以上の貫通孔部14の上側の開口縁部32とを有する基材13と、1以上の貫通孔部14の内周面31を覆うように基材13に差し込まれる1以上のスリーブ15であって、基材13の線膨張係数よりも小さい線膨張係数を有するとともに、常温および常温よりも高い使用温度において1以上の貫通孔部14の内径と同等又は1以上の貫通孔部14の内径よりも外径が大きい1以上のスリーブ15と、基材13の表面とスリーブ15の端面151とに跨って形成された皮膜16と、を備え、前記使用温度で使用されるシャワーヘッドの製造方法であって、1以上の開口縁部32の上側に1以上のスリーブ15を載置する工程と、前記使用温度よりも高い加工温度に基材13を加熱して熱膨張させる工程と、前記使用温度よりも高い加工温度に加熱され熱膨張された基材13の1以上の貫通孔部14に1以上のスリーブ15を差し込む工程と、基材13を冷却して貫通孔部14内にスリーブ15を嵌め込む工程と、基材13の表面とスリーブ15の端面151とに跨るように皮膜16を形成する工程と、を備える。
【0074】
発明者らは、シャワーヘッド11を常温よりも高い使用温度にした際に、基材13の貫通孔部14の内周面31とスリーブ15の外周面22との間の隙間を起点に、当該隙間に対応する位置の皮膜16にクラックを生じることを見出した。これは、シャワーヘッド11を常温よりも高い使用温度にした際に、基材13およびスリーブ15が膨張し、当該隙間に対応する位置にある皮膜16に引張又は圧縮の応力集中を生じたことが原因であると考えられる。上記したシャワーヘッド11およびその製造方法によれば、基材13が熱膨張した状態でスリーブ15を貫通孔部14内に嵌め込むようにしているため、常温の状態で、基材13の貫通孔部14の内周面31とスリーブ15の外周面22との間の隙間を無くすことができる。この常温状態では、基材13は弾性変形状態でスリーブ15を保持していると考えられる。一方、使用温度は、加工温度よりも低温であるために、使用温度において貫通孔部14の内周面31とスリーブ15の外周面22との間に隙間を生じることはほとんどない。なぜなら、使用温度或いはそれよりも高い温度では、基材13とスリーブ15との間の線膨張係数の違いによって、計算上これらの間に隙間を生じるように基材13およびスリーブ15が熱膨張することとなるが、使用温度においても上記基材13の弾性変形状態が維持されるために、基材13とスリーブ15との間に隙間を生成しないからである。したがって、当該クラックの起点となる隙間を生じることがなく、シャワーヘッド11の皮膜16にクラックを生じることがない。これによって、シャワーヘッド11の基材13に腐食を生じることを有効に防止することができる。
【0075】
1以上のスリーブ15は、外周面22に1以上のテーパ面27を有し、1以上のテーパ面27のそれぞれは、先端25に近づく方向(差し込まれる方向D1)に行くにつれて直径が小さくなっている。この構成によれば、貫通孔部14に対するスリーブ15の差込みを容易にすることができる。
【0076】
1以上のテーパ面27は、(1以上のスリーブ15の差し込まれる方向D1の)先端25の近傍に設けられた第1テーパ面27Aを含む。この構成によれば、1以上のスリーブ15の差込みに先立ち1以上の貫通孔部14の開口縁部32に1以上のスリーブ15を載置する際に、第1テーパ面27Aを介して開口縁部32にスリーブ15を載置することができる。これによって、開口縁部32に載置された1以上のスリーブ15の姿勢が安定し、複数のスリーブ15を複数の貫通孔部14に同時に挿入する作業を容易に行うことができる。
【0077】
1以上の貫通孔部14は、内周面31に1以上の拡径面35を有し、1以上の拡径面35のそれぞれは、スリーブ15の先端25とは反対側の基端26に近づく方向(スリーブ15が差し込まれる方向とは反対方向D2)に行くにつれて直径が大きくなっている。この構成によれば、貫通孔部14に対するスリーブ15の差込みを容易にすることができる。
【0078】
1以上の拡径面35は、1以上の貫通孔部14の開口縁部32であって、スリーブ15の基端26に近づく方向(スリーブ15が差し込まれる方向とは反対方向D2)の端部に位置する1以上の貫通孔部14の開口縁部32に設けられる第1拡径面35Aを含む。
【0079】
この構成によれば、スリーブ15の差込みに先立ち貫通孔部14の開口縁部32にスリーブ15を載置する際に、第1拡径面35Aに対してスリーブ15を載置することができる。これによって、第1拡径面35Aに載置された1以上のスリーブ15の姿勢が安定し、複数のスリーブ15を複数の貫通孔部14に同時に挿入する作業も容易に行うことができる。
【0080】
1以上のスリーブ15は、第1段部23と、第1段部23よりも(差し込まれる方向D1の)先端25側に設けられ第1段部23よりも直径が小さくなった先端部分24と、を有し、1以上のテーパ面27は、第1段部23に設けられた第2テーパ面27Bを含む。
【0081】
スリーブ15が段部を有する段付き構造で構成される場合には、スリーブ15は、段部を介して貫通孔部14の開口縁部32に載置されることとなる。この構成によれば、スリーブ15が段付き構造で構成される場合でも、スリーブ15の差込みに先立ち貫通孔部14の開口縁部32にスリーブ15を載置する際に、第1段部23の第2テーパ面27Bを介して開口縁部32にスリーブ15を載置することができる。これによって、開口縁部32に載置された1以上のスリーブ15の姿勢が安定し、複数のスリーブ15を複数の貫通孔部14に同時に挿入する作業も容易に行うことができる。また、貫通孔部14に対する先端部分24の位置決め・差込みも容易に行うことができる。
【0082】
1以上のスリーブ15の(差し込まれる方向D1の)先端25とは反対側の基端26から第1段部までの長さL1は、スリーブの軸方向S(差し込まれる方向D1)に関する先端部分24の長さL2よりも大きい。この構成によれば、スリーブ15の差込みに先立ち貫通孔部14の開口縁部32にスリーブ15を載置する際に、スリーブ15の先端部分24が基材13の貫通孔部14の第1段部23を受ける構造部分に干渉してしまうことを防止できる。
【0083】
1以上の貫通孔部14は、第2段部33と、第2段部33よりも先端25とは反対側の基端26側(差し込まれる方向D1とは反対側)に設けられ第2段部33よりも直径が大きくなった大径部分34と、を有し、1以上の拡径面35は、第2段部33に設けられた第2拡径面35Bを含む。
【0084】
この構成によれば、1以上のスリーブ15を1以上の貫通孔部14に差し込む際に、先端部分24を第2段部33の内側に円滑に案内することができる。これによって、1以上のスリーブ15を1以上の貫通孔部14に差し込む際に、先端部分24に潰れを生じることを極力防止できる。
【0085】
前記加工温度は、前記使用温度よりも100℃以上高い。この構成によれば、常温においてスリーブ15が嵌め込まれた基材13を弾性変形状態にすることができ、使用温度でこの弾性変形状態を解除することで、使用温度において基材13とスリーブ15との間に隙間を生じることを防止できる。これによって、当該隙間に起因して皮膜16にクラックを生じることを防止できる。
【0086】
シャワーヘッドの製造方法において、1以上のスリーブ15は、開口縁部32に当接する先端部に、スリーブ15が差し込まれる方向の先端に行くにつれて直径が小さくなったテーパ面27を有し、1以上の開口縁部32の上側に1以上のスリーブ15を載置する工程は、テーパ面27を介して開口縁部32にスリーブ15を載置する工程を含む。
【0087】
この構成によれば、スリーブ15の差込みに先立ち貫通孔部14の開口縁部32にスリーブ15を載置する際に、第1テーパ面27Aを介して開口縁部32にスリーブ15を載置することができる。これによって、基材13を加熱する際にスリーブ15の姿勢が安定し、複数のスリーブ15を複数の貫通孔部14に同時に挿入する作業も容易に行うことができる。
【0088】
シャワーヘッドの製造方法において、1以上の貫通孔部14は、開口縁部32に1以上のスリーブ15が差し込まれる方向とは反対方向D2に行くにつれて直径が大きくなった拡径面35を有し、1以上の開口縁部32の上側に1以上のスリーブ15を載置する工程は、拡径面35にスリーブ15を載置する工程を含む。
【0089】
この構成によれば、スリーブ15の差込みに先立ち貫通孔部14の開口縁部32にスリーブ15を載置する際に、第1拡径面35Aに対してスリーブ15を載置することができる。これによって、基材13を加熱する際にスリーブ15の姿勢が安定し、複数のスリーブ15を複数の貫通孔部14に同時に挿入する作業も容易に行うことができる。
【0090】
シャワーヘッドの製造方法において、前記使用温度よりも高い加工温度に前記基材13を加熱して熱膨張させる工程は、基材13のスリーブ15が前記差し込まれる面とは反対側の面に当接されたヒータ48で加熱する工程を含む。
【0091】
この構成によれば、基材13を集中的に加熱して基材13を熱膨張させ、スリーブ15に対して極力熱を加えないようにすることができる。これによって、ヒータ48からの熱がスリーブ15に伝導され、スリーブ15が熱膨張することで貫通孔部14に対して嵌め込みにくくなる不具合を生じることを極力防止できる。
【0092】
シャワーヘッドの製造方法において、前記使用温度よりも高い加工温度に加熱され熱膨張された基材13の1以上の貫通孔部14に1以上のスリーブ15を差し込む工程は、基材13のヒータ48が当接される側とは反対側から1以上のスリーブ15を押し込む工程を含む。
【0093】
この構成によれば、基材13のヒータ48が当接される側とは反対側は、開放されているために、この開放空間を利用してスリーブ15を基材13に押し込む作業を円滑に行うことができる。
【0094】
シャワーヘッドの製造方法において、前記使用温度よりも高い加工温度に前記基材13を加熱して熱膨張させる工程は、基材13およびスリーブ15を覆う炉51内で加熱する工程を含み、前記使用温度よりも高い加工温度に加熱され熱膨張された基材13の1以上の貫通孔部14に1以上のスリーブ15を差し込む工程は、1以上の開口縁部32の上側に載置された1以上のスリーブ15の上側に載置された錘であって、基材13の線膨張係数と略同一の線膨張係数を有する錘による荷重によってなされる。
【0095】
この構成によれば、基材13およびスリーブ15は周囲からアクセスがし難い炉51内で加熱されるため、1以上のスリーブ15を1以上の貫通孔部14に差し込む工程は、錘による荷重によってなされる。上記構成によれば、錘は、炉51内において基材13と同程度に熱膨張される。このため、基材13と錘の熱膨張率が異なることで、開口縁部32の上側に載置された1以上のスリーブ15の設置方向が傾いて、基材13に対するスリーブ15の差し込みがうまくなされない不具合を生じることを防止できる。
【0096】
続いて、実施形態のシャワーヘッド11の変形例について説明する。以下の変形例では、主として上記実施形態と異なる部分について説明し、上記実施形態と共通する部分については、図示又は説明を省略する。
(変形例)
図8を参照して、第1変形例のシャワーヘッド11について説明する。
【0097】
1以上の第1スリーブ15Aのそれぞれは、段付きの円筒形をなしたスリーブで構成され、中央部を差し込み方向D1に貫通する貫通口152を有する。第1スリーブ15Aの軸方向S(第1スリーブ15Aが差し込まれる方向)に関して、基端26から第1段部23までの長さは、スリーブ15Aの軸方向S(差し込まれる方向D1)に関する先端部分24の長さよりも小さくなっている。このため、本変形例では、先端部分24の先端は、第1貫通孔部14Aの第2段部33よりも下方に位置している。
【0098】
第1スリーブ15Aが差し込まれる第1貫通孔部14Aは、第2段部33に対応する位置に、先端部分24を避けるように円筒形に切り欠かれて形成された逃げ部61を有する。逃げ部61は、第1貫通孔部14Aの本体14AAに対して同芯の円筒形に形成されている。逃げ部61の内径は、第1スリーブ15Aの先端部分24の直径よりも若干大きく形成されている。逃げ部61は、先端部分24の円柱形状に倣う形状(円筒形)に形成されている。逃げ部61と前端部分24との間のクリアランスは、例えば、0.1~1mmである。熱膨張させる工程の前の工程で、この基材13の開口縁部32に対して第1スリーブ15Aを載置する際に、第1スリーブ15Aの先端部分24が第1貫通孔部14Aの第2段部33と干渉してしまうことが回避される。
【0099】
逃げ部61の形状は、上記した図8に示すものに限られるものではない。逃げ部61は、図9に示す第2変形例のように形成されてもよい。逃げ部61は、第1スリーブ15Aの基端26に近づく方向(第1スリーブ15Aの差し込み方向D1とは反対方向D2)に行くにつれて内径が拡大するように面取りされた面取部として形成されていてもよい。逃げ部61は、第1貫通孔部14Aの本体14AAに対して同芯の逆錐台形状に形成されている。逃げ部61の内径は、第1スリーブ15Aの先端部分24の直径よりも若干大きく形成されている。逃げ部61と前端部分24との間のクリアランスは、例えば、0.1~1mmである。この形状によっても、第1スリーブ15Aが開口縁部32に載置された際に、先端部分24の先端を第2段部33から逃がすことができる。
【0100】
本変形例によれば、以下のことがいえる。1以上のスリーブ15の差し込まれる方向D1の先端とは反対側の基端から第1段部23までの長さL1は、差し込まれる方向D1に関する先端部分24の長さL2よりも小さく、1以上の貫通孔部14は、先端部分24よりも大きい直径で形成された逃げ部61であって、前記熱膨張前の基材13と先端部分24とが干渉しないようにする逃げ部61を有する。
【0101】
この構成によれば、第1スリーブ15Aの差込みに先立ち第1貫通孔部14Aの開口縁部32に第1スリーブ15Aを載置する際に、第1スリーブ15Aの先端部分24が、第1貫通孔部14Aの第1段部23を受ける構造部分(第2段部33)に干渉してしまうことを防止できる。これによって、第1貫通孔部14Aの開口縁部32に第1スリーブ15Aが載置できなくなる不具合を防止できる。
上記した実施形態および変形例は、種々の置き換えや変形を加えて実施できる。
[実施例]
【0102】
第1スリーブ(段付きスリーブ)は、SUS316ステンレス鋼によって、第1段部の直径を4.5mm(寸法公差0~-0.02mm)、先端部分の直径を2.5mm(寸法公差0~-0.02mm)で作成した。第1スリーブの中心には、軸方向に延びる内径2mm(先端部分の内側では内径1mm)の貫通口を形成した。
【0103】
第2スリーブは、セラミックス(アルミナ(Al))によって、直径5mm(寸法公差0~-0.04mm)で円筒形に作成した。第2スリーブの中心には、軸方向に延びる内径1.2mmの貫通口を形成した。
【0104】
シャワーヘッドを構成するシャワープレートを以下の条件で作成した。基材は、A5052アルミニウム合金によって、縦110mm、横110mmの正方形で、厚み10mmの板状に作成した。基材は、2枚用意した。一方の基材に対して、前記厚み方向に貫通する第1貫通孔部(段付きの貫通孔部)を格子点状に分散するように16個(4行×4列)形成した。第1貫通孔部のそれぞれは、内径寸法を変更しつつ各格子点に対応するように形成した。その16個の第1貫通孔部に、16個の第1スリーブを差し込んだ。その16個の結果のうち、8個の結果を表1中に、実施例A1~A5、比較例A1~A3として示す。表1において、寸法1は、第1貫通孔部の大径部分の内径(単位:mm)を示し、寸法2は、第1貫通孔部の小径部分(第2段部)の内径(単位:mm)を示している。
【0105】
【表1】
【0106】
また、他方の基材に対して、厚み方向に貫通する第2貫通孔部(ストレートの貫通孔部)を格子点状に分散するように16個(4行×4列)形成した。第2貫通孔部のそれぞれは、寸法を変更しつつ各格子点に対応するように形成した。その16個の第2貫通孔部に、16個の第2スリーブを差し込んだ。その16個の結果のうち、8個の例を、下記表2中に、実施例B1~B3、比較例B1~B5として示す。表2において、寸法は、第2貫通孔部の内径(単位:mm)を示す。
【0107】
【表2】
【0108】
各実施例および比較例において、使用温度よりも高い加工温度に前記基材を加熱して熱膨張させる工程は、基材を上下から第1プレートおよび第2プレートで挟んでユニットを形成し、当該ユニットをヒータの上側に載置することで行った。
【0109】
実施例A1では、熱膨張させる工程(嵌め込み温度)を350℃以上とすることで、第1スリーブは自重で第1貫通孔部内に落ち込んだ。実施例A1で嵌め込まれた第1スリーブは、上記350℃以上の状態から200℃にまで冷却された状態で、基材から脱落するか否かを検査したところ、脱落しない(評価〇)の判定であった。
【0110】
実施例A2、A3では、熱膨張させる工程(嵌め込み温度)を400℃以上とし、小型のハンマー等で第1スリーブを下方に押し込むことで、第1スリーブを第1貫通孔部内に差し込むことができた。実施例A2、A3で嵌め込まれた第1スリーブは、上記400℃以上の状態から200℃にまで冷却された状態で、基材から脱落するか否かを検査したところ、脱落しない(評価〇)の判定であった。
【0111】
図11に実施例A3の寸法2に対応するグラフを示す。同グラフにおいて、SUS316ステンレス鋼製の第1スリーブは、寸法公差を考慮して、上限と下限の2つの線で示す。同グラフに示すように、A5052アルミニウム合金製の基材は、SUS316ステンレス鋼製の第1スリーブよりも線膨張係数が大きい。このために、400℃以上で熱膨張させる工程において、第1貫通孔部の小径部分の内径は、計算上、第1スリーブの先端部分の外径を逆転する。その後に常温に戻された際には、第1貫通孔部の小径部分の内径は、第1スリーブの先端部分の外径よりも小さくなる。これによって、基材は、弾性変形状態になって第1スリーブを保持するものと考えられる。
【0112】
実施例A4、A5では、熱膨張させる工程(嵌め込み温度)を400℃以上とし、小型のハンマー等で第1スリーブを下方に向けて叩くことで、第1スリーブを第1貫通孔部内に差し込むことができた。実施例A4、A5で嵌め込まれた第1スリーブは、上記400℃以上の状態から200℃にまで冷却された状態で、基材から脱落するか否かを検査したところ、脱落しない(評価〇)の判定であった。
【0113】
図10に実施例A4の寸法1に対応するグラフを示す。同グラフにおいて、SUS316ステンレス鋼製の第1スリーブは、寸法公差を考慮して、上限と下限の2つの線で示す。同グラフに示すように、A5052アルミニウム合金製の基材は、SUS316ステンレス鋼製の第1スリーブよりも線膨張係数が大きい。このために、400℃以上で熱膨張させる工程において、第1貫通孔部の大径部分の内径は、計算上、第1スリーブの第1段部の外径を逆転する。その後に常温に戻された際には、第1貫通孔部の大径部分の内径は、第1スリーブの第1段部の外径よりも小さくなる。これによって、基材は、弾性変形状態になって第1スリーブを保持するものと考えられる。
【0114】
実施例A1~A5では、実際に200℃において基材から第1スリーブが脱落しなかったことから、使用温度付近で第1スリーブと第1貫通孔部との間で隙間が生成されていないことが理解される。この結果は、常温で弾性変形状態にある基材が200℃付近の使用温度においても弾性変形状態にあり、第1スリーブと第1貫通孔部との間に隙間を生じさせないという仮説を裏付けるものである。
【0115】
比較例A1、A2では、常温(室温:R.T.)で(嵌め込み温度=常温)第1貫通孔部内に第1スリーブを差し込むことができた。この比較例A1、A2では、200℃に昇温した状態では、第1スリーブは基材から脱落する(評価×)の判定であった。
【0116】
比較例A3では、熱膨張させる工程(嵌め込み温度)を400℃以上とし、小型のハンマー等で第1スリーブを下方に向けて叩いたものの、第1貫通孔部に対して第1スリーブを差し込むことができなかった(評価×)。
【0117】
実施例B1では、熱膨張させる工程(嵌め込み温度)を350℃以上とすることで、小型のハンマー等で第2スリーブを下方に押し込むことで、第2スリーブを第2貫通孔部内に差し込むことができた。実施例B1で嵌め込まれた第1スリーブは、上記350℃以上の状態から200℃にまで冷却された状態で、基材から脱落するか否かを検査したところ、脱落しない(評価〇)の判定であった。
【0118】
実施例B2、B3では、熱膨張させる工程(嵌め込み温度)を400℃以上とすることで、小型のハンマー等で第2スリーブを下方に押し込むことで、第2スリーブを第2貫通孔部内に差し込むことができた。実施例B2、B3で嵌め込まれた第1スリーブは、上記400℃以上の状態から200℃にまで冷却された状態で、基材から脱落するか否かを検査したところ、脱落しない(評価〇)の判定であった。
【0119】
図12に実施例B3に対応するグラフを示す。同グラフにおいて、アルミナ(Al)製の第2スリーブは、寸法公差を考慮して、上限と下限の2つの線で示す。同グラフに示すように、A5052アルミニウム合金製の基材は、アルミナ(Al)製の第2スリーブよりも線膨張係数が大きい。このため、400℃以上で熱膨張させる工程において、第2貫通孔部の内径は、計算上、第2スリーブの外径を逆転する。その後に常温に戻された際には、第2貫通孔部の内径は、第2スリーブの外径よりも小さくなる。これによって、基材は、弾性変形状態になって第2スリーブを保持するものと考えられる。
【0120】
実施例B1~B3では、実際に200℃において基材から第2スリーブが脱落しなかったことから、使用温度付近で第2スリーブと第2貫通孔部との間で隙間が生成されていないことが理解される。この結果は、常温で弾性変形状態にある基材が200℃付近の使用温度においても弾性変形状態にあり、第2スリーブと第2貫通孔部との間に隙間を生じさせないという仮説を裏付けるものである。
【0121】
比較例B1、B2では、常温(室温:R.T.)で(嵌め込み温度=常温)第2貫通孔部内に第2スリーブを差し込むことができた。この比較例B1、B2では、200℃に昇温した状態では、第2スリーブは基材から脱落する(評価×)の判定であった。
【0122】
比較例B3では、熱膨張させる工程(嵌め込み温度)を180℃とすることで、第2貫通孔部内に第2スリーブを差し込むことができた。この比較例B3では、200℃に昇温した状態では、第2スリーブは基材から脱落する(評価×)の判定であった。
【0123】
比較例B4、B5では、熱膨張させる工程(嵌め込み温度)を400℃以上とし、小型のハンマー等で第1スリーブを下方に向けて押したものの、第2貫通孔部に対して第2スリーブを差し込むことができなかった(評価×)。
【符号の説明】
【0124】
11 シャワーヘッド
12 シャワープレート
13 基材
14 貫通孔部
14A 第1貫通孔部
14B 第2貫通孔部
15 スリーブ
15A 第1スリーブ
15B 第2スリーブ
151 端面
16 皮膜
22 外周面
23 第1段部
D1 差し込まれる方向
D2 反対方向
24 先端部分
25 先端
26 基端
27 テーパ面
27A 第1テーパ面
27B 第2テーパ面
31 内周面
32 開口縁部
33 第2段部
34 大径部分
35 拡径面
35A 第1拡径面
35B 第2拡径面
48 ヒータ
51 炉
52 第1錘
53 第2錘
61 逃げ部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12