(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022029574
(43)【公開日】2022-02-18
(54)【発明の名称】解析装置、解析方法及び解析プログラム
(51)【国際特許分類】
G06T 7/00 20170101AFI20220210BHJP
A61C 19/04 20060101ALI20220210BHJP
A61B 6/14 20060101ALI20220210BHJP
【FI】
G06T7/00 350C
A61C19/04 Z
A61B6/14 311
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020132917
(22)【出願日】2020-08-05
(71)【出願人】
【識別番号】513099603
【氏名又は名称】兵庫県公立大学法人
(71)【出願人】
【識別番号】593080135
【氏名又は名称】株式会社ナルコーム
(74)【代理人】
【識別番号】110001933
【氏名又は名称】特許業務法人 佐野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小橋 昌司
(72)【発明者】
【氏名】ファイハッド パルヴィズ マフディ
(72)【発明者】
【氏名】猪俣 吾郎
【テーマコード(参考)】
4C052
4C093
5L096
【Fターム(参考)】
4C052NN03
4C052NN04
4C052NN15
4C052NN16
4C093AA12
4C093AA26
4C093CA35
4C093DA05
4C093FF16
4C093FF28
4C093FH03
5L096BA06
5L096CA02
5L096FA02
5L096FA03
5L096FA69
5L096HA11
5L096KA04
(57)【要約】
【課題】歯列を撮影したパノラマ画像から歯牙の有無を精度良く解析できる解析装置を提供する。
【解決手段】解析装置は、入力部、検出部、及び決定部を備える。前記入力部は、歯列を撮影したパノラマ画像を入力する入力部。前記検出部は、歯牙に関する物体検出の人工知能による学習を行って得られる学習モデルを用いて、前記パノラマ画像から歯牙の種類毎に歯牙候補を検出する。前記決定部は、各歯牙に対して喪失及び各歯牙に対応する前記歯牙候補を各歯牙の選択肢として設定する。また、前記決定部は、異なる歯牙それぞれに対応する前記歯牙候補間の相対位置に基づく目的関数を設定する。さらに、前記決定部は、前記目的関数の最適化により各歯牙において前記選択肢から1つを決定する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯列を撮影したパノラマ画像を入力する入力部と、
歯牙に関する物体検出の人工知能による学習を行って得られる学習モデルを用いて、前記パノラマ画像から歯牙の種類毎に歯牙候補を検出する検出部と、
各歯牙に対して喪失及び各歯牙に対応する前記歯牙候補を各歯牙の選択肢として設定し、異なる歯牙それぞれに対応する前記歯牙候補間の相対位置に基づく目的関数を設定し、前記目的関数の最適化により各歯牙において前記選択肢から1つを決定する決定部と、
を備えることを特徴とする解析装置。
【請求項2】
前記目的関数は、前記歯牙候補の信頼度にも基づく関数である、請求項1に記載の解析装置。
【請求項3】
前記目的関数は、各歯牙の位置にも基づく関数である、請求項1または請求項2に記載の解析装置。
【請求項4】
口腔領域に関する物体検出の人工知能による学習を行って得られる学習モデルを用いて、前記パノラマ画像から口腔領域を抽出する第1抽出部をさらに備え、
前記検出部は、前記パノラマ画像内の前記口腔領域から前記歯牙候補を検出する、請求項1~3のいずれか一項に記載の解析装置。
【請求項5】
前記口腔領域を、上顎歯牙を含む上領域と下顎歯牙を含む下領域とに分割する境界線を抽出する第2抽出部をさらに備え、
前記目的関数は、前記境界線を用いて求まる関数である、請求項4に記載の解析装置。
【請求項6】
前記検出部は、左右対称の歯牙を、どちらか一方の画像を左右反転させることで同一種類の歯牙とみなす、請求項1~5のいずれか一項に記載の解析装置。
【請求項7】
歯列を撮影したパノラマ画像を取得する取得ステップと、
歯牙に関する物体検出の人工知能による学習を行って得られる学習モデルを用いて、前記パノラマ画像から歯牙の種類毎に歯牙候補を検出する検出ステップと、
各歯牙に対して喪失及び各歯牙に対応する前記歯牙候補を各歯牙の選択肢として設定し、異なる歯牙それぞれに対応する前記歯牙候補間の相対位置に基づく目的関数を設定し、前記目的関数の最適化により各歯牙において前記選択肢から1つを決定する決定ステップと、
を備える解析方法。
【請求項8】
コンピュータを、
歯列を撮影したパノラマ画像を入力する入力部、
歯牙に関する物体検出の人工知能による学習を行って得られる学習モデルを用いて、前記パノラマ画像から歯牙の種類毎に歯牙候補を検出する検出部、並びに
各歯牙に対して喪失及び各歯牙に対応する前記歯牙候補を各歯牙の選択肢として設定し、異なる歯牙それぞれに対応する前記歯牙候補間の相対位置に基づく目的関数を設定し、前記目的関数の最適化により各歯牙において前記選択肢から1つを決定する決定部、
として機能させることを特徴とする解析プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯列を撮影したパノラマ画像から歯牙の有無を解析する解析装置、解析方法及び解析プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、X線撮影装置等によって撮影された歯列のパノラマ画像を歯科医師が目視して歯牙の有無を記録する。
【0003】
しかし、上記のような目視による記録には手間と時間がかかる。さらに、上記のような目視による記録では、歯牙の欠落が多い場合に歯番を間違える等の入力ミスが生じ易い。
【0004】
歯牙の有無に関する記録は例えば自然災害時の犠牲者の身元確認に利用されるが、歯牙の有無に関する記録が不正確であれば身元確認の精度が低下する。
【0005】
ここで、歯牙の有無に関する記録を自動で行う手法として、例えば特許文献1で開示されている医用画像診断支援装置がある。
【0006】
特許文献1で開示されている医用画像診断支援装置は、X線撮影装置等で歯列が撮影されたパノラマ画像から歯牙の有無を自動で解析する。より詳細には、特許文献1で開示されている医用画像診断支援装置は、まず歯列が撮影されたパノラマ画像から、正中線座標の検索、歯牙方向に沿った上端下端の検索、歯牙方向に垂直な左右方向の両端の検索を行うことで、歯列が撮影されたパノラマ画像内の解析領域を絞り込む。次に、特許文献1で開示されている医用画像診断支援装置は、上記の解析領域内において、歯番単位のサンプル幅とサンプル高とにより歯牙枠を決定し、歯牙枠内の濃度に基づいて歯牙の有無を解析する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1で開示されている医用画像診断支援装置では、各歯番の歯があるであろうと予測される座標に上記の歯牙枠が用意されるので、各歯番の歯があるであろうと予測される座標と各歯番の歯が実在する位置の座標とが乖離していると、歯牙の有無に関する解析精度が低下する。
【0009】
本発明は、上記の状況に鑑み、歯列を撮影したパノラマ画像から歯牙の有無を精度良く解析できる解析装置及び解析プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために本発明に係る解析装置は、歯列を撮影したパノラマ画像を入力する入力部と、歯牙に関する物体検出の人工知能による学習を行って得られる学習モデルを用いて、前記パノラマ画像から歯牙の種類毎に歯牙候補を検出する検出部と、各歯牙に対して喪失及び各歯牙に対応する前記歯牙候補を各歯牙の選択肢として設定し、異なる歯牙それぞれに対応する前記歯牙候補間の相対位置に基づく目的関数を設定し、前記目的関数の最適化により各歯牙において前記選択肢から1つを決定する決定部と、を備える構成(第1の構成)とする。
【0011】
上記第1の構成の解析装置において、前記目的関数は、前記歯牙候補の信頼度にも基づく関数である構成(第2の構成)であってもよい。
【0012】
上記第1又は第2の構成の解析装置において、前記目的関数は、各歯牙の位置にも基づく関数である構成(第3の構成)であってもよい。
【0013】
上記第1~第3いずれかの構成の解析装置において、口腔領域に関する物体検出の人工知能による学習を行って得られる学習モデルを用いて、前記パノラマ画像から口腔領域を抽出する第1抽出部をさらに備え、前記検出部は、前記パノラマ画像内の前記口腔領域から前記歯牙候補を検出する構成(第4の構成)であってもよい。
【0014】
上記第4の構成の解析装置において、前記口腔領域を、上顎歯牙を含む上領域と下顎歯牙を含む下領域とに分割する境界線を抽出する第2抽出部をさらに備え、前記目的関数は、前記境界線を用いて求まる関数である構成(第5の構成)であってもよい。
【0015】
上記第1~第5いずれかの構成の解析装置において、前記検出部は、左右対称の歯牙を、どちらか一方の画像を左右反転させることで同一種類の歯牙とみなす構成(第6の構成)であってもよい。
【0016】
上記目的を達成するために本発明に係る解析方法は、歯列を撮影したパノラマ画像を取得する取得ステップと、歯牙に関する物体検出の人工知能による学習を行って得られる学習モデルを用いて、前記パノラマ画像から歯牙の種類毎に歯牙候補を検出する検出ステップと、各歯牙に対して喪失及び各歯牙に対応する前記歯牙候補を各歯牙の選択肢として設定し、異なる歯牙それぞれに対応する前記歯牙候補間の相対位置に基づく目的関数を設定し、前記目的関数の最適化により各歯牙において前記選択肢から1つを決定する決定ステップと、を備える構成(第7の構成)とする。
【0017】
上記目的を達成するために本発明に係る解析プログラムは、コンピュータを、歯列を撮影したパノラマ画像を入力する入力部、歯牙に関する物体検出の人工知能による学習を行って得られる学習モデルを用いて、前記パノラマ画像から歯牙の種類毎に歯牙候補を検出する検出部、並びに各歯牙に対して喪失及び各歯牙に対応する前記歯牙候補を各歯牙の選択肢として設定し、異なる歯牙それぞれに対応する前記歯牙候補間の相対位置に基づく目的関数を設定し、前記目的関数の最適化により各歯牙において前記選択肢から1つを決定する決定部、として機能させる構成(第8の構成)とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る解析装置、解析方法及び解析プログラムによると、歯列を撮影したパノラマ画像から歯牙の有無を精度良く解析できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図3】本発明の一実施形態に係る情報処理装置の構成を示す図
【
図4】
図3に示す情報処理装置の機能の一例を示す機能ブロック図
【
図5】口腔領域に関するアノテーション処理を手動で施したパノラマ画像の一例を示す図
【
図6】歯牙領域に関するアノテーション処理を手動で施したパノラマ画像の一例を示す図
【
図8】評価対象の歯牙を含む異なる2つの歯牙の相対位置と評価値との関係を示す図
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施形態について図面を参照して以下に説明する。
【0021】
<1.歯牙番号及び歯列を撮影したパノラマ画像>
本発明の一実施形態に係る情報処理装置について説明する前に、歯牙番号及び歯列を撮影したパノラマ画像について説明する。
【0022】
ここでは、ユニバーサルシステムの歯牙番号について説明する。
図1は、ユニバーサルシステムの歯牙番号を示す図である。ユニバーサルシステムの歯牙番号は、永久歯の場合、
図1に示すように右上、左上、左下、右下という順に1から32までの番号が振られる。従って、右上第3臼歯が歯牙番号1の歯牙となり、左上第3臼歯が歯牙番号16の歯牙となり、左下第3臼歯が歯牙番号17の歯牙となり、右下第3臼歯が歯牙番号32の歯牙となる。
【0023】
図2は、歯列を撮影したパノラマ画像の一例を示す図である。歯列を撮影したパノラマ画像は、上下の歯列、上下の歯周組織、上顎、下顎などが撮影された画像である。
【0024】
<2.情報処理装置の構成>
図3は、本発明の一実施形態に係る情報処理装置の構成を示す図である。本発明の一実施形態に係る情報処理装置1(以下、情報処理装置1という)は、制御部2、記憶部3、通信部4、表示部5、及び操作部6を備える。
【0025】
制御部2は、例えばマイクロコンピュータである。制御部2は、情報処理装置1の全体を統括的に制御する。制御部2は、不図示のCPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、及びROM(Read Only Memory)を含む。
【0026】
記憶部3は、例えばフラッシュメモリ、ハードディスクドライブ等である。各種のデータ、情報処理装置1によって実行される学習プログラム及び解析プログラム等を記憶する。
【0027】
通信部4は、外部装置との通信を行うための通信インターフェースである。通信部4と外部装置との通信方法は、有線通信でもよく、無線通信でもよく、有線と無線とを組み合わせた通信であってもよい。外部装置としては、例えばX線撮影画像を撮影するX線撮影装置、X線撮影画像を記憶している記憶装置等を挙げることができる。
【0028】
表示部5は、例えば液晶表示装置、有機EL(Electro Luminescence)表示装置等である。表示部5は、制御部2の制御に基づいて各種の画像を表示する。
【0029】
操作部6は、例えばキーボード、ポインティングデバイス等である。操作部6は、ユーザの操作内容に応じた信号を制御部2に出力する。
【0030】
<3.情報処理装置の機能>
図4は、情報処理装置1の機能の一例を示す機能ブロック図である。情報処理装置1は、学習プログラムを実行することによって学習装置10として機能する。情報処理装置1は、解析プログラムを実行することによって解析装置20として機能する。なお、本実施形態では、1台の情報処理装置1が学習装置10及び解析装置20を機能部として含んでいるが、本実施形態とは異なり、学習装置10を機能部として含む情報処理装置と、解析装置20を機能部として含む情報処理装置とが別々の情報処理装置であってもよい。
【0031】
<3-1.学習装置>
学習装置10は、入力部11、前処理部12、学習モデル生成部13、及び出力部14を含む。
【0032】
入力部11は、口腔領域に関するアノテーション処理を手動で施した複数のパノラマ画像PI1を入力する。
図5は、口腔領域に関するアノテーション処理を手動で施したパノラマ画像PI1の一例である。
図5に示すパノラマ画像中の長方形枠内が口腔領域である。
【0033】
入力部11は、歯牙領域に関するアノテーション処理を手動で施した複数のパノラマ画像PI2も入力する。
図6は、歯牙領域に関するアノテーション処理を手動で施したパノラマ画像PI2の一例である。
図6に示すパノラマ画像中の各長方形枠内が各歯牙領域である。
【0034】
具体的には、入力部11は、口腔領域に関するアノテーション処理を手動で施した複数のパノラマ画像PI1及び歯牙領域に関するアノテーション処理を手動で施した複数のパノラマ画像PI2を、通信部4(
図3参照)によって外部装置から取得する。
【0035】
前処理部12は、入力部11が入力した各パノラマ画像に対して、画素値の標準化などの前処理を行う。
【0036】
学習モデル生成部13は、口腔領域に関するアノテーション処理及び前処理が施された複数のパノラマ画像を学習データ(教師データ)として用いて深層学習を行うことで、口腔領域を1つの物体として検出する第1学習モデルを生成する。
【0037】
学習モデル生成部13は、歯牙領域に関するアノテーション処理及び前処理が施された複数のパノラマ画像を学習データ(教師データ)として用いて深層学習を行うことで、歯牙領域を16種類の物体として検出する第2学習モデルも生成する。
【0038】
永久歯である歯牙は歯牙番号1~32(
図1参照)の32種類である。しかしながら、左右対称の歯牙は、どちらか一方の画像を左右反転させることで同一種類の歯牙として取り扱うことができる。例えば歯牙番号1の歯牙と歯牙番号16の歯牙とは、歯牙番号16の歯牙の画像を左右反転させることで同一種類の歯牙として取り扱うことができる。一般に、多種類の物体を検出する人工知能による学習では、物体の種類を少なくした方が検出精度を向上させることができる。したがって、歯牙領域を32種類の物体として検出するよりも、本実施形態のように歯牙領域を16種類の物体として検出する方が望ましい。
【0039】
なお、本実施形態では、人工知能による学習の一例として、深層学習を用いたが、深層学習以外の人工知能による学習を用いてもよい。また、深層学習を用いて物体を検出する手法は特に限定されないが、本実施形態ではFaster RCNNを用いる。一般的なFaster RCNNでは、まずRegion Proposal Network(RPN)の学習が行われ、次に学習済みRPNを用いたFast R-CNNの学習が行われ、その後学習済みFast R-CNNのパラメータを用いたRPNの再学習が行われ、最後に再学習済みRPNを用いたFast R-CNNの再学習が行われる。
【0040】
出力部14は、第1学習モデルのパラメータP1及び第2学習モデルのパラメータP2を外部に出力する。
【0041】
<3-2.解析装置>
解析装置20は、入力部21、前処理部22、第1抽出部23、第2抽出部24、検出部25、及び決定部26を含む。
【0042】
入力部21は、歯列を撮影した解析対象のパノラマ画像PI3を取得する。具体的には、入力部21は、解析対象のパノラマ画像PI3を通信部4(
図1参照)によって外部装置から取得する。
【0043】
前処理部22は、入力部21が入力した解析対象のパノラマ画像PI3に対して、画素値の標準化などの前処理を行う。
【0044】
第1抽出部23は、学習装置10から出力される第1学習モデルのパラメータP1を用いて、前処理が施された解析対象のパノラマ画像から口腔領域を抽出する。
【0045】
第2抽出部24は、前処理が施された解析対象のパノラマ画像内の口腔領域を、上顎歯牙を含む上領域と下顎歯牙を含む下領域とに分割する境界線を抽出する。歯列をパノラマ撮影する際には、通常、撮影対象者がバイトチップ、ロールコットン等を前歯で噛んで、少し開口し且つ咬合した状態にする。従って、歯列を撮影したパノラマ画像では、上顎歯列と下顎歯列との間に空隙が形成されている。上述した境界線は、理想的には当該空隙の上下方向中心を通る。
【0046】
検出部25は、学習装置10から出力される第2学習モデルのパラメータP2を用いて、前処理が施された解析対象のパノラマ画像内の口腔領域から歯牙の種類毎に歯牙候補を検出する。このように、解析対象とすべき領域を、解析対象のパノラマ画像全体ではなく、解析対象のパノラマ画像内の口腔領域に限定することで、解析速度及び解析精度が向上する。なお、本実施形態とは異なり、第1抽出部23を設けずに、解析対象とすべき領域を、解析対象のパノラマ画像全体とすることもできる。
【0047】
検出部25によって検出された歯牙候補のうち、各歯牙において単純に信頼度が高い歯牙候補を選択した場合、解析対象のパノラマ画像から或る歯牙(例えば歯牙番号1の歯牙)が複数検出されるという現実にはあり得ない結果に至るおそれがある。このような不具合を防止するために、解析装置20に決定部26が設けられる。
【0048】
決定部26は、各歯牙に対して喪失及び各歯牙に対応する歯牙候補を各歯牙の選択肢として設定する。また、決定部26は、異なる歯牙それぞれに対応する歯牙候補間の相対位置に基づく目的関数を設定する。さらに、決定部26は、上述した目的関数の最適化により各歯牙において選択肢から1つを決定する。
【0049】
以上説明した解析装置20は、例えば
図7に示すフローチャートのように動作する。以下、
図7に示す動作例について説明する。
【0050】
まず解析装置20の入力部21は、歯列を撮影した解析対象のパノラマ画像PI3を取得する(ステップS1)。
【0051】
次に、解析装置20の前処理部22は、入力部21が入力した解析対象のパノラマ画像PI3に対して、画素値の標準化などの前処理を行う(ステップS2)。
【0052】
次に、解析装置20の第1抽出部23は、学習装置10から出力される第1学習モデルのパラメータP1を用いて、前処理が施された解析対象のパノラマ画像から口腔領域を抽出する(ステップS3)。
【0053】
次に、解析装置20の第2抽出部24は、前処理が施された解析対象のパノラマ画像内の口腔領域を、上顎歯牙を含む上領域と下顎歯牙を含む下領域とに分割する境界線(以下、咬合曲線と称す)を抽出する(ステップS4)。
【0054】
本実施形態では、第2抽出部24は、咬合曲線を下記(1)式で定義される放物線としている。
【数1】
ここで、(P
x,P
y)は放物線の頂点座標であり、aは放物線の傾きを決定するパラメータである。
【0055】
始めに第2抽出部24は、咬合曲線の頂点座標(Px,Py)の範囲を決定する。ステップS3で抽出された口腔領域を左右分割する境界線を正中線とし,正中線のx座標値を咬合曲線の頂点のx座標値Pxとする。
【0056】
次に第2抽出部24は、咬合曲線の頂点のy座標値P
y及び咬合曲線の傾きを決定するパラメータaを下記(2)式で求める。ここで、ω
1,ω
2,ω
3はそれぞれ重みであり、口腔領域におけるx座標の最小値、最大値をそれぞれx
min,x
maxとし、座標(x,y)での輝度値をI(x,y)としている。下記(2)式の右辺第1項は、咬合曲線上の輝度値であり、小さい(暗い)ほど良い。下記(2)式の右辺第2項は、咬合曲線上の輝度値の一次微分値であり、小さい(変化が少ない)ほど良い。下記(2)式の右辺第3項は、咬合曲線からy軸方向に正負それぞれに一定距離離れた領域(上顎歯牙が位置するはずの領域及び下顎歯牙が位置するはずの領域)の各輝度値の合計値であり、大きい(明るい)ほど良い。
【数2】
【0057】
ステップS4に続くステップS5において、解析装置20の検出部25は、学習装置10から出力される第2学習モデルのパラメータP2を用いて、前処理が施された解析対象のパノラマ画像内の口腔領域から歯牙の種類毎に歯牙候補を検出する。
【0058】
検出部25は、左右対称の歯牙を、どちらか一方の画像を左右反転させることで同一種類の歯牙とみなしている。したがって、検出部25は、学習装置10から出力される第2学習モデルのパラメータP2を用いて、前処理が施された解析対象のパノラマ画像内の口腔領域を左右反転させた画像からも歯牙の種類毎に歯牙候補を検出する。これにより、検出部25は、各歯牙に対して、0個又は1個以上の歯牙候補を検出する。
【0059】
ここで、歯牙番号x(1≦x≦32)の歯牙に対して、N(x)個の歯牙候補
が検出部25によって検出されたとする。なお、各歯牙候補は、信頼度の高い順に整列させる。また、信頼度が閾値未満である場合には歯牙候補でないとみなす。
【0060】
ステップS5に続くステップS6において、解析装置20の決定部26は、各歯牙における選択を決定する。
【0061】
始めに解析装置20の決定部26は、
を歯牙番号xの歯牙の選択肢として設定する。
【0062】
次に決定部26は、歯牙候補の組み合わせPを下記(3)式で定義する。
【数3】
【0063】
ただし、c
xがφであるとき、歯牙番号xの歯牙が喪失していることを意味する。対して、c
xがφでないとき、c
xは下記(4)式で定義される。
【数4】
ここで、P
xとP
yはそれぞれ歯牙候補領域の中心点のX座標及びY座標であり、Wは歯牙候補領域の横幅(左右方向の長さ)であり、Hは歯牙候補領域の縦幅(上下方向の長さ)であり、μは歯牙候補領域の信頼度(牙番号xの歯牙らしさを示す度合)である。
【0064】
次に決定部26は、上記(3)式で定義された歯牙候補の組み合わせPを評価する目的関数f(P)を下記(5)式で定義する。
【数5】
ここで、f
p(P)は異なる歯牙それぞれに対応する歯牙候補間の相対位置及び各歯牙の位置に基づく目的関数であり、f
c(P)は各歯牙候補の信頼度に基づく目的関数である。ω
pとω
cは重みパラメータであり、実験的に値が決定される。なお、本実施形態とは異なり、目的関数f(P)を上記(5)式の右辺第1項のみで定義してf(P)= ω
p f
p(P)としてもよく、目的関数f(P)を上記(5)式の右辺第2項のみで定義してf(P)= ω
c f
c (P)としてもよい。
【0065】
決定部26は、上記(5)式で定義された目的関数f(P)の最適化により各歯牙において上述した選択肢から1つを決定する。
【0066】
上述した目的関数f
c(P)は、例えば下記(6)式で定義される。なお、c
xがφであるときのμ(x)は0である。
【数6】
【0067】
次に上述した目的関数fp(P)について説明する。例えば、歯牙番号1の歯牙は歯牙番号2の歯牙の左に必ず位置しており、歯牙番号1の歯牙の中心点のx座標は歯牙番号2の歯牙の中心点のx座標より必ず小さい。従って、歯牙番号1の歯牙に対応する歯牙候補領域の中心点のx座標が歯牙番号2の歯牙に対応する歯牙候補領域の中心点のx座標より大きくなる組み合わせPは、現実にはあり得ない歯牙候補の組み合わせである。同様に、歯牙番号1の歯牙に対応する歯牙候補領域の中心点のx座標と歯牙番号2の歯牙に対応する歯牙候補領域の中心点のx座標とが大きく離れる組み合わせPも、不適当な歯牙候補の組み合わせである。
【0068】
そこで、上述した目的関数f
p(P)は、例えば下記(7)式で定義される。なお、下記(7)式に示す例示とは異なり、下記(7)式からδ
r(x,y)を削除してもよく、下記(7)式からδ
p(x)を削除してもよい。
【数7】
【0069】
δr(x,y)は、下記(i)及び(ii)に場合分けをして下記のように定義される。
【0070】
(i)評価対象の歯牙を含む異なる2つの歯牙が左右に隣り合うか又は別の1つの歯牙を左右から挟んでいる場合
δ
r(x,y)は、下記(8)式で定義される。
【数8】
ここで、a,b,c,d はそれぞれ関数形状を決定するパラメータであり、|x-y|=1のときに(a,b,c,d)=(30,47,114,130)であり、|x-y|=2のときに(a,b,c,d)=(80,97,164,180)である。また、κ=0.35である。a,b,c,d, κの各値は、実験的に定めた。x=φ又はy=φのときは,評価対象の歯牙が喪失している。
【0071】
図8は、上記(8)式をグラフ化したものである。
図8では、評価対象の歯牙の中心点のx座標をy軸上に置いている。
【0072】
(ii)それ以外の場合
評価対象の歯牙を含む異なる2つの歯牙の左右関係がおかしい場合はδr(x,y)=0とし、評価対象の歯牙を含む異なる2つの歯牙の左右方向距離が一定距離より近い場合はδr(x,y)=0とし、それ以外の場合はδr(x,y)=1とする。
【0073】
δp(x)は、上述した咬合曲線を基準として、各歯牙の上下方向の位置が、学習データから求められた平均位置から離れるにしたがって、評価値が単調減少する関数としている。すなわち、 δp(x)は、各歯牙の位置に基づく目的関数である。
【0074】
上記(3)式で定義された歯牙候補の組み合わせPの全てを対象として上記(3)式で定義される目的関数f(P)を最適化することが最良の方法であるが、決定部26が当該方法を採用すると、決定部26における計算時間が長くなる。そこで、本実施形態では、決定部26は、ヒューリスティックな手法を用いて上記(3)式で定義される目的関数f(P)を最適化する。
【0075】
具体的には、決定部26は、下記(I),(II),(III)の手順によって上記(5)式で定義される目的関数f(P)を最適化する。
(I) 各歯牙において、信頼度が最も高い候補を初期候補列とする。
(II) 評価(信頼度に関する評価、絶対位置に関する評価、相対位置に関する評価の重みづけ加算評価)が最も低い歯牙を1つ選択し、選択された同歯牙に対し、同歯牙の全ての選択肢それぞれに置き換えた場合の評価値を求め、最も評価が良い選択肢に置き換えた候補列を仮候補列とする.
(III) 仮候補列の評価値が現在の評価値より高ければ、現在の候補列を更新して上記(II)に戻る。
【0076】
上述した決定部26における処理によって、解析対象のパノラマ画像から或る歯牙(例えば歯牙番号1の歯牙)が複数検出されるという現実にはあり得ない結果に至るおそれがなくなる。したがって、解析装置20は、歯列を撮影したパノラマ画像から歯牙の有無を精度良く解析できる。
【0077】
<4.その他>
なお、本発明の構成は、上記実施形態のほか、発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えることが可能である。上記実施形態は、全ての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきであり、本発明の技術的範囲は、上記実施形態の説明ではなく、特許請求の範囲によって示されるものであり、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内に属する全ての変更が含まれると理解されるべきである。
【0078】
例えば、上述した実施形態では、歯列を撮影したパノラマ画像はX線撮影画像であったが、超音波撮影画像などであってもよい。また、MRI(Magnetic Resonance Imaging)画像、3D-CT(Computed Tomography)画像などの3D画像であってもよい。
【0079】
撮影対象は、人間に限らず、歯牙を有する生体であればよい。
【符号の説明】
【0080】
10 学習装置
11 入力部
12 前処理部
13 学習モデル生成部
14 出力部
20 解析装置
21 入力部
22 前処理部
23 第1抽出部
24 第2抽出部
25 検出部
26 決定部