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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022029737
(43)【公開日】2022-02-18
(54)【発明の名称】培養シート
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/16 20060101AFI20220210BHJP
【FI】
C12M1/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020133191
(22)【出願日】2020-08-05
(71)【出願人】
【識別番号】503174969
【氏名又は名称】株式会社アテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110003041
【氏名又は名称】特許業務法人安田岡本特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井手口 真也
(72)【発明者】
【氏名】藤田 衣美
(72)【発明者】
【氏名】飛田 隆志
【テーマコード(参考)】
4B029
【Fターム(参考)】
4B029AA08
4B029AA09
4B029AA21
4B029BB01
4B029CC04
4B029DG08
4B029EA16
4B029HA02
(57)【要約】
【課題】被検液が培地領域から培地外領域に浸出することを効果的に抑制する。
【解決手段】本発明の培養シート1は、表面に培地が配設された平面状の培地領域3と、培地領域3を取り囲むように形成された平面状の培地外領域4と、を有し、培地領域3に被検液を滴下することで培養を行う培養シート1であって、培地領域3と培地外領域4との間には、培地領域3と培地外領域4との双方よりも高い位置に頂部6を備え、かつ、頂部6の内周側に隣り合った位置と、頂部6の外周側に隣り合った位置とにそれぞれ段差を有する立体構造5が形成されており、立体構造5が、培地領域3から培地外領域4へ被検液が浸出することを抑制していることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に培地が配設された平面状の培地領域と、前記培地領域を取り囲むように形成された平面状の培地外領域と、を有し、前記培地領域に被検液を滴下することで培養を行う培養シートであって、
前記培地領域と培地外領域との間には、凹形状もしくは凸形状の高低差を有する立体構造が形成されており、
前記立体構造が、前記培地領域から培地外領域へ被検液が浸出することを抑制している
ことを特徴とする培養シート。
【請求項2】
前記培養シートは、培地領域と培地外領域の間に基材シートの表面の一部を上方に向かって隆起させた双方の領域よりも高い位置に凸形状の頂部を形成し、前記培地領域と培地外領域とが隔成された一体物として形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の培養シート。
【請求項3】
前記培地領域と培地外領域との間には、前記培地領域の外縁に沿って伸びると共に連続する溝が、少なくとも1条以上形成されており、
前記1条以上の溝が、前記立体構造を構成している
ことを特徴とする請求項1に記載の培養シート。
【請求項4】
前記培地領域は、前記培地外領域に対して低い位置に設けられている
ことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の培養シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物や細胞などを培養する際に用いる培養シート、特に被検液に含まれる水分で乾燥状態の培地が再生されて検体の培養が可能となる乾燥培地を用いた培養シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
微生物検査に関して、寒天平板混釈法や寒天平板塗抹法など、滅菌済みシャーレや滅菌済寒天培地を用いた手法がこれまで利用されてきたが、近年、これら従来法の代替法として、簡易培地と呼称される微生物検出キットが普及してきている。
その理由として考えられるのは、従来法と比べて簡易培地はその検査手法が容易である点にある。従来法では滅菌済シャーレや滅菌済寒天培地を準備する必要があり、それには高圧蒸気滅菌器などの設備を保有している必要がある。また、従来法はその検査工程が煩雑であり、実施する検査員の技量によって試験結果に差異が生じる可能性がある。従来法の検査には相応の設備と熟練した作業者が必要であったが、簡易培地を用いる方法では、それらの問題は解決されている。簡易培地の一つである培養シートは、滅菌済の状態で入手でき、培地作製にかかる労力を省略できる。培養シートの中には乾燥培地を表面に配備されているものがあり、培養シート中の培地領域に被験液を滴下し、適切な温度で培養し計数する、といった簡易な作業工程であるため、誰でも簡単に実施することができる。
【0003】
上述したような乾燥培地を用いた培養シートには、さまざまな構造のものが知られている。
例えば、特許文献1~特許文献3には、基材シートと、基材シートの上に形成された培養層と、培養層を被覆するカバーシートと、を少なくとも有する微生物培養シートが開示されている。この微生物培養シートの培養層の外周には枠層が形成されており、枠層は基材シートの上に凸部として形成されている。そして、カバーシートの少なくとも一部は基材シートに固設されていて、カバーシートを開いたり閉じたりすることで、培養層が設けられた枠層の内部を密閉可能となっている。
【0004】
また、特許文献4には、内部に検体の培養に用いる培地を備えた培地用容器が開示されている。特許文献4の培地用容器は、蓋体を取り外した状態で積層する時に、容器本体の容部側壁上端と上位容器本体の外底部との間に外気に通じる隙間を形成する積層用受止部を、容器本体に設けている。
さらに、特許文献5には、微生物の培養器材が開示されている。この微生物の培養器材は、(a)上部材、(b)凹部を有する下部材、及び(c)培地成分を有するものであり、(c)培地成分は、(c1)加熱による溶解を経ずに、かつ冷却によらず、流動性のない透明なゲルを形成しうる高分子化合物と、(c2)栄養成分とを含有するものとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6460170号公報
【特許文献2】特許第6460171号公報
【特許文献3】特許第6512245号公報
【特許文献4】特許第3073982号公報
【特許文献5】特表2019-519214号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1~特許文献3の培養シートは、基材シートの上に、培養層を取り囲むように枠層を設けた構造となっている。この枠層は基材シートとは別の材料で形成されており、基材シートの上に枠層を形成する工程を別途設けて、培養シートを製造する必要がある。当然、通常の培養シートよりは製造工程数が増えるため、手間がかかる分だけ製造コストも高くなりやすい。
【0007】
一方、特許文献4の培養シートは、容部側壁や堤状台座部を備えた複雑な形状を有しており、製造には複雑な形状の金型が必要となる。そのため、製造工程は簡便でも、製造コストは高騰しやすい。
さらに、特許文献5の培養シートは、培地が設けられた部分だけを陥没させたような構造に形成されている。培地が設けられていない外周側の部分は平坦な面上に形成されており、カバーフィルムと面状態で接触するため、毛細管現象で被検液が浸出してしまう可能性がある。
【0008】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、製造コストを低く抑えることができる簡単な構造でありながら、被検液の浸出を確実に抑制することができる培養シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の培養シートは以下の技術的手段を講じている。
即ち、本発明の培養シートは、表面に培地が配設された平面状の培地領域と、前記培地領域を取り囲むように形成された平面状の培地外領域と、を有し、前記培地領域に被検液を滴下することで培養を行う培養シートであって、前記培地領域と培地外領域との間には、凹形状もしくは凸形状の高低差を有する立体構造が形成されており、前記立体構造が、前記培地領域から培地外領域へ被検液が浸出することを抑制していることを特徴とする。
【0010】
なお、好ましくは、前記培養シートは、培地領域と培地外領域の間に基材シートの表面の一部を上方に向かって隆起させた双方の領域よりも高い位置に凸形状の頂部を形成し、前記培地領域と培地外領域とが隔成された一体物として形成されているとよい。
なお、好ましくは、前記培地領域と培地外領域との間には、前記培地領域の外縁に沿って伸びると共に連続する溝が、少なくとも1条以上形成されており、前記1条以上の溝が、前記立体構造を構成しているとよい。
【0011】
なお、好ましくは、前記培地領域は、前記培地外領域に対して低い位置に設けられているとよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の培養シートによれば、製造コストを低く抑えることができる簡単な構造でありながら、被検液の浸出を確実に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】第1実施形態の培養シートの使用方法を模式的に示した図である。
図2】第1実施形態の培養シートの一部断面斜視図である。
図3】第2実施形態の培養シートの一部断面斜視図である。
図4】第3実施形態の培養シートの一部断面斜視図である。
図5】第4実施形態の培養シートの一部断面斜視図である。
図6】被検液の浸透状態を実施例と比較例とで比較して示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の培養シート1の実施形態を、図面に基づき詳しく説明する。
本発明の培養シート1は、平板のシート状に形成されており、表面に配備された乾燥培地2(培地)を用いて、検体の培養が可能となっている。具体的には、培養シート1の中央側には、乾燥培地2が配設される培地領域3が設けられており、培地領域3の外周側に培地が配置されていない培地外領域4が設けられていて、培養シート1の表面は培地領域3と培地外領域4との2つの領域に隔成されている。つまり、本発明の培養シート1は、培地領域3と培地外領域4とが隔成された一体物として形成されている。
【0015】
本実施形態の場合であれば、角板状に形成され培養シート1の中央に円形の培地領域3が設けられており、この円形の培地領域3内の表面には検体(以降、培養しようとする細菌やカビなどの微生物やがん細胞などの細胞を総称して検体という、以下同じ)の培養を可能とする乾燥培地2が配設されている。一方、上述した培地領域3の外側には、培地領域3を取り囲むように、培地外領域4が設けられている。この培地外領域4の培養シート1の表面には培地が設けられておらず、検体の培養を行うことを予め想定していない。つまり、検体の培養を可能とする被検液が培地領域3を超えて培地外領域4まで広がること
は、培養シート1の構成上好ましいものではない。
【0016】
そのため、本発明の培養シート1では、培地領域3と培地外領域4との間に、培地領域3から培地外領域4へ被検液が浸出することを抑制する立体構造5を設けている。
具体的には、この立体構造5は、培地領域3と培地外領域4との双方よりも高い位置に頂部6を備えており、かつ、頂部6の内周側に隣り合った位置と、頂部6の外周側に隣り合った位置とにそれぞれ段差を備えた凹凸を表面に有するものとなっている。このような立体構造5を形成すれば、立体構造5と培地領域3並びに培地外領域4と立体構造5との間に高低差が付与され、培地領域3から培地外領域4へ被検液が自由に広がることが抑制される。
【0017】
なお、このように立体構造5には、さまざまな形状のものが考えられる。以降では、形状や構造が異なる立体構造5をそれぞれ備えた例を第1実施形態~第4実施形態として挙げて、本発明の培養シート1を説明する。
なお、第1実施形態の記載項目の中で、形状及び構造以外の項目は以下に記載する第2~第4実施形態においても適用される。
【0018】
また、形成された基材シートの上方から見た場合の形状は、正方形状、長方形状、三角形状、多角形状の角板状でもよく、円形状、楕円形状などの曲線を基調とした形状でもよく、これらを組み合わせた任意の形状に形成することができる。
[第1実施形態]
図2に示すように、第1実施形態の培養シート1は、上方から見た場合に角板状(正方形状または長方形状)に形成されている。培養を行う場合は、原則としてこの培養シート1で1枚当たり1つの検体の培養が行われる。つまり、複数種類の検体を培養する際には、検体の種類の数だけ培養シート1を用意し、培養が行われる。
【0019】
具体的には、それぞれの培養シート1は、中央に形成された略円形の培地領域3と、この培地領域3の周囲を取り囲む培地外領域4と、を有している。培地領域3と培地外領域4との間には、上方に向かって隆起すると共に円環状に連続した線状(帯状)の凸条部7(突起枠)が形成されている。この凸条部7は、1枚の平板状の基材シートを上方に向かって凸状に加工(塑性加工)することで形成されており、第1実施形態では培地領域3から培地外領域4へ被検液が浸出することを抑制する立体構造5として構成されている。
【0020】
培地領域3は、培養シート1の中央側に形成された部分であり、乾燥状態の培地が表面に配設されている。具体的には、第1実施形態の培養シート1は、一辺が40~100mm、好適には一辺が70~90mmの角板状に形成されている。そして、これらの培養シート1の中央側には、上面視で略円形の培地領域3が形成されており、この培地領域3は直径が50~60mmの円形とされている。なお、立体構造5で囲まれた培地領域3の形状は、円形に限られたものではなく、正方形や長方形、その他の形状であってもよい。
【0021】
培地領域3の表面に配設される培地(乾燥培地2)は、検体の種類に合わせて様々な種類があり、検体の培養に必要な栄養成分を含むものとなっている。その成分を作用の目的別に大別すると、溶媒、バインダー、ゲル化剤、栄養成分、発色指示薬・選択剤などに分類される。
各成分を混合するために用いられる溶媒に関しては、水や有機溶媒を用いるとよい。好ましくは、沸点の低いメタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノールに代表される低級アルコールを用いるとよい。低級アルコールは比較的沸点が低く、溶媒を揮発させることが容易である。
【0022】
バインダーは、培地成分を培養シート1表面に固着させるために使用される。例えば、ポリビニルピロリドンやポリエチレンオキサイド、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコールなどの水もしくは有機溶媒に溶解する高分子化合物が用いられる。好ましくは、水および有機溶媒に溶解する両親媒性の高分子化合物を用いるとよい。有機溶媒を用いることで、バインダーが溶媒に溶けることで溶媒の粘度を容易に調節することができる。
【0023】
ゲル化剤は被検液中の水分を吸収、ゲル化し、微生物の生育に必要な場を提供するために使用される。例えば、グァーガムやキサンタンガム、ローカストビーンガム、タラガム
、タマリンドシードガム、カラギーナンなどの増粘多糖類、ヒドロキシエチルセルロースやカルボキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体、ポリアクリル酸ナトリウムやアルギン酸などがゲル化剤に該当する。ゲル化剤は1種類を選択して採用してもよく、また、2種類以上のゲル化剤を任意の割合で混合し採用してもよい。
【0024】
栄養成分は、微生物の生育に必要な成分であり、窒素源や炭素源、無機塩類やビタミンを提供するために使用される。窒素源及び炭素源としては主にペプトン(カゼイン・獣肉・大豆など)が挙げられ、無機塩類及びビタミンとしては酵母エキスなどのエキス類、リン酸一水素カリウム、塩化ナトリウムなどを使用することができる。
発色指示薬は、コロニーを発色させることでその存在を視認し易くするために用いられ、pH変動や微生物が産生する酵素により呈色する。発色指示薬としては、トリフェニルテトラゾリウムクロライドやテトラゾリウムバイオレットなどのテトラゾリウム塩やニュートラルレッド、フェノールレッド、ブロモチモールブルーなどのpH指示薬を使用することができる。また、発色指示薬の酵素基質として知られている、5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル-β-D-ガラクトピラノシド(X-Gal)や5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリルリン酸などを使用することができる。
【0025】
選択剤は、検出を目的とする菌以外の微生物の発育を抑制するために使用される。例えば胆汁酸塩やデオキシコール酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウムなどの界面活性剤、クリスタルバイオレットやブリリアントグリーンなどの静菌作用をもつ色素、チオ硫酸ナトリウム、塩化リチウム、アジ化ナトリウムなどの無機塩類を使用することができる。
上記成分を含む乾燥培地2は、いずれも乾燥状態とされており、加水によって検体の培養が可能な状態に再生される。これらの乾燥培地2は、培地領域3の表面に固着された状態で設けられている。培養シート1上の表面に上記成分を含む乾燥培地が存在しており、被検液の滴下後にカバーフィルムを被せることで被検液を培地全体に広げることが可能となる。あらかじめ決められた培地領域に培地液を塗工する方法として、メタルマスク法を含むスクリーン印刷やグラビア印刷、ディスペンサーによる塗布、スプレー方式による噴霧などが考えられる。
【0026】
培地外領域4は、上述した培地領域3の外側に設けられる部分であり、培地領域3とは異なり表面に乾燥培地2が設けられていない。第1実施形態の場合、培地外領域4は、中央側が円形にくり抜かれた角板状に形成されている。
図2の上側に拡大して示すように、上述した培地外領域4の四隅には、培養シート1の積み重ねに便利なようにスタックリブ8が形成されている。このスタックリブ8は、基材シートの下面から下方に向かって突出する形状に形成されている。好ましくは、スタックリブ8の形状は、基材シート下面から下方向に向かって突出する部分であり、その先端8aは下方に行くにつれて先細りとなるテーパ形状に形成されているとよい。つまり、スタックリブ8が形成された部分を上方より見ると、培養シート1の上面は下方に向かって陥没した孔8bとして形成されている。この培養シート1の上面の孔8bは下面の突起8aを差し込み可能な開口径を備えており、突起8aの差し込みが可能となっている。そのため、培養シート1同士を上下に積み重ねると、上側の培養シート1のスタックリブ8に形成された突起8aが、下側の培養シート1のスタックリブ8に形成された孔8bに差し込まれ、上下の培養シート1同士が水平方向にずれないように固定される。また、スタックリブ8によって培養シート1同士は上下に距離をあけて積み重ねられるため、培養器具などが培地領域3に接触して異物が混入することが抑制される。
【0027】
なお、上述した例では、スタックリブ8は下方向に向かって突出していた。しかし、本発明のスタックリブ8は、突出するものでなく、下方向に向かって凹状に凹むものであっても良い。
上述した凸条部7は、培地領域3から培地外領域4に被検液が浸出することを抑制する立体構造5として形成されており、培地領域3と培地外領域4との間の基材シートを、上方に向かって凸状に隆起させて形成される。凸条部7の上面は上方に向かって膨らんだ半円状の断面を有している。また、凸条部7の下面は、上面と同様に上方に向かって膨らん
だ半円状の断面となっているが、基材シートの厚みの分だけ曲率半径が小さくなっている。つまり、凸条部7の基材シートの厚みは、凸条部7以外の培養シート1の表面、つまり培地領域3や培地外領域4の基材シートの厚みと同一とされており、第1実施形態の培養シート1は培地領域3、培地外領域4、及び凸条部7(立体構造5)のいずれの箇所でも同じ厚みを維持するものとなっている。
【0028】
具体的には、第1実施形態の培養シート1に形成される凸条部7は、水平方向に沿った横幅が0.1mm~10mm、好ましくは0.5mm~5mmに形成されている。また、凸条部7は、上方に向かって0.1mm~2mm、好ましくは0.2~1.5mmの高さに隆起している。凸条部7を上述した横幅や高さに形成すれば、培地領域3に滴下された被検液が凸条部7を乗り越えて培地外領域4に浸出する心配がなくなり、乾燥培地2が予め配設された培地領域3のみで培養を確実に行うことが可能となる。
【0029】
上述した凸条部7では、半円状の断面のうち、最も上方に位置する部分が、上述した立体構造5の頂部6となっている。そして、この頂部6の内周側(培地領域3側)に形成される円弧状断面を有する曲面が立体構造5の内周側の段差9を構成しており、頂部6の外周側(培地外領域4側)に形成される円弧状断面を有する曲面が外周側の段差10を構成している。
【0030】
具体的には、立体構造5の頂部6は、培地領域3や培地外領域4に比べて上方に位置しており、培地領域3や培地外領域4に対して高い位置に設けられる。そのため、培地領域3の被検液が培地外領域4に移動する場合には高い位置にある頂部6を乗り越える必要があり、簡単には培地領域3の被検液が培地外領域4に浸出できないようになっている。
また、内周側の段差9は、凸条部7の半円状の断面のうち、頂部6よりも内周側に位置する円弧状の断面に対応して形成されており、頂部6から培地領域3に近接するにつれて下方に向かって低くなる構造となっている。この内周側の段差9は、頂部6との間の高低差により培地領域3の被検液が培地外領域4に浸出することを抑制している。また、外周側の段差10は、凸条部7の半円状の断面のうち、頂部6よりも外周側の断面に対応して形成されており、頂部6から培地外領域4に近接するにつれて下方に向かって低くなる構造とされている。外周側の段差10は、頂部6との間の高低差によりカバーフィルム11などで培養シート1を覆った際に、カバーフィルム11と培地外領域4とを上下方向に離間し、両者が接触することを抑制する機能があり、毛細管現象で培地領域3の被検液が培地外領域4に浸出することを抑制可能となっている。
【0031】
さらに、上述した立体構造5は、基材シートに対してプレス成形などを用いて成形することもできるが、好適には射出成形などを用いて基材シートと一体物として成形するのが好ましい。射出成形などを用いて基材シートと一体物として成形すれば、シワなどの発生を抑えつつ、基材シートに対して凸条部7が一体に成形された培養シート1を一体物として簡便に得ることができる。
【0032】
さらにまた、上述した射出成形などを用いれば、上面が上方に向かって凸状に形成されるだけでなく、下面が上方に向かって凹状に形成された立体構造5であっても、簡便に成形することができ、製造コストの低減も容易となる。
図1に示すように、第1実施形態の培養シート1で検体の培養を行う際には、培養シート1の培地領域3に対して、ピペットなどを用いて被検液を滴下する。この培地領域3には乾燥培地2が配設されており、被検液には上述したような栄養成分、検体、水分などが含まれている。そのため、滴下した被検液に含まれる水分によって乾燥培地2が再生され、再生した培地上で検体の培養が可能となる。
【0033】
次に、培地領域3の培地に被検液を滴下後、培養シート1の上からカバーフィルム11を被覆する。このカバーフィルム11は、培養シート1よりも薄い透明または半透明の平板状の合成樹脂シートである。
カバーフィルムの役割としては、培養中の落下菌や異物混入などによるコンタミ防止、培地中の水分蒸発の防止、被検液を培地周縁部まで拡散させることが挙げられる。カバーフィルムはコロニーを観察及び計数しやすいように、透明であることが好ましい。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアクリル樹脂、ポリアミド、ポリ塩化ビニルなどを使用することができる。また、培養する微生物により適した気体透過性(主に酸素)を有するフィルムを選択することが好ましい。例えば、フィルムの透明性や水蒸気透過性・酸素透過性を考慮して、ポリスチレン、ポリエチレンもしくはポリプロピレンフィルムが挙げられる。
【0034】
カバーフィルムの厚みは0.01mm~0.2mm程度が好ましく、0.02mm~0.1mmがより好ましい。
カバーフィルムのサイズに関しては上記で記載したように、培養中の菌のコンタミネーションを防止するために、培地領域よりも大きいサイズのカバーフィルムを採用するのが望ましい。
【0035】
カバーフィルムに対して、培養シート1に形成された培地領域に対する位置に、バインダー、ゲル化剤、栄養成分、発色指示薬を含む培地液を塗布してもよい。これにより、培養シート1上の乾燥培地に混合できない成分を含有することができる。その塗工範囲は培養シート1の培地領域を覆うことができていれば十分であるが、カバーフィルム全体に塗工する方式であってもよい。
【0036】
なお、カバーフィルムへの塗工に使用するバインダーとしては、ポリエチレンイミンやポリエチレンオキサイド、ポリアクリル酸系などの水溶性樹脂、又はアルコールに溶解する樹脂などが使用できる。
また、カバーフィルムに、あらかじめ水に不溶で微生物の生育に影響を与えないインキで格子状の印刷がなされていてもよい。格子の大きさは10mm角程度が適当である。印刷方式は、特に限定されるものではないが、着色剤や樹脂、溶剤などの選択範囲が広い点でグラビア印刷などが好ましい。その際、カバーフィルムには、コロナ放電処理などの表面処理がなされていてもよい。カバーフィルムに対し表面処理を施すことで、インクの接着性が増大し、安定した印刷を行うことができる。
【0037】
カバーフィルム11の下面と、培養シート1の培地外領域4の表面とが面状態で接触していると、培地領域3の被検液が毛細管現象で培地外領域4に浸出する可能性がある。
そこで、第1実施形態の培養シート1では、頂部6の外周側にも段差を設けている。このように頂部6の外周側に段差を設ければ、培養シート1の培地外領域4の表面がカバーフィルム11の下面から下方に離間し、培養シート1とカバーフィルム11とが上下に大きく引き離されるため、被検液が毛細管現象で培地外領域4に浸出することがなくなる。
【0038】
上述したカバーフィルム11を被覆したら、培養シート1をインキュベーターなどに収容し、培地の環境を検体の生育に適した温度や湿度に維持することで、検体の培養を行うことが可能となる。
上述した第1実施形態の培養シート1では、頂部6の内周側に設けられた内周側の段差9が、被検液が乗り越えできないような高低差を、頂部6と培養シート1との間に付与するため、培地領域3の被検液が培地外領域4に浸出することを抑制することができる。
【0039】
また、第1実施形態の培養シート1では、頂部6の外周側に設けられた外周側の段差10が、培養シート1の培地外領域4の表面をカバーフィルム11の下面よりも下方に離間させるため、培地領域3の被検液が毛細管現象によって培地外領域4に浸出することを抑制することもできる。
さらに、第1実施形態の培養シート1は、射出成形法などを用いて上述した頂部6や段差を備えた立体構造5を一度に成形できるため、培養シート1の製造コストを低く抑えることも可能となる。
【0040】
また、個々の製品の管理を容易にするために、製造ロットやシリアルナンバーを含む製造ID、製造者情報、製品の種類を提示する各種記号、有効期限などを培養シート1の適切な位置に記載することができる。また、その表示形式としては文字情報のほかに一次元コードや二次元コードなどが挙げられる。それらの情報は培養シート1やカバーフィルム11の適切な位置に記載されていてもよく、インクジェットプリンタやレーザープリンタのような印刷装置による培養シート1表面への直接印刷・印字や、情報が記載されたシール素材を培養シート1に貼付することにより情報表示を行ってもよい。
[第2実施形態]
図3に示すように、第2実施形態の培養シート1は、第1実施形態に比して培地領域3が培地外領域4に対して低い位置に設けられている。つまり、第2実施形態の培養シート1では、培地領域3の位置が低い分だけ、培養シート1の表面からカバーフィルム11までの上下間の距離が大きくなり、検体の培養に必要とされる培地空間が大きなものとなっている。このような第2実施形態の培養シート1では、上下方向に余裕がある培養スペースを用いて、カビなどのように培養後のサイズが膨れやすい検体の培養を好適に行うことができる。
【0041】
基材シート上に塗布した乾燥培地シートの上面から凸条部の頂部6までの距離、すなわち培地領域の段差の高さについて、培養層の厚みより0.1mm~2mm、また、好ましくは0.3mm~1.5mm高いことが望ましい。また、培地外領域4の表面から凸条部の頂部6までの距離、すなわち培地外領域の凸条部の高さについて、0.1mm~1mm、好ましくは0.2mm~0.5mmが望ましい。
【0042】
培地領域の段差の高さが培養層の厚みより0.1mm未満である場合、被検液が培地領域に留まらず、培地外領域に浸出する恐れがある。また、培地領域の段差の高さが培養層の厚みより2mmより大きい場合、培地領域とカバーフィルムとの間に大きな空隙が生じ、被検液の滴下後にカバーフィルムを被覆した際、特に培地領域の周縁部において、培地と接触しない可能性がある。また、これにより、培地周縁部の培地領域との密着性が低下し、培地領域の乾燥やフィルムの空隙による異物の混入を招くおそれがある。
【0043】
具体的には、第2実施形態の培養シート1では、培地領域3が培地外領域4よりも低いため、外周側の段差10の落差が第1実施形態のものと同等である一方、内周側の段差9は上下方向の落差が第1実施形態のものより大きくなっており、培地領域3の被検液を培地外領域4に浸出させ難くなっている。そのため、第2実施形態の培養シート1は、運搬などによって被検液の漏洩の心配があるような場合に、好適に用いることができる。
[第3実施形態]
図4に示すように、第3実施形態の培養シート1は、培地領域3と培地外領域4との間に、培地領域3の外縁に沿って伸びる溝12が、少なくとも1条以上形成されたものとなっている。この溝12は、連続した無端の線状とされており、互いに平行に配備されている。
【0044】
具体的には、第3実施形態の培養シート1の溝12は、断面が略三角波に形成されており、図4の例では2周波分に亘る三角波を培地領域3のすぐ外周側に形成したものとなっている。
より詳しく言えば、図4に例示される溝12は、培養シート1の表面に、上方に向かって断面が三角状になるように突出した山部12aと、下方に向かって断面が三角状になるように窪んだ谷部12bとを、水平方向に所定の距離をあけて交互に形成したものということができる。この溝12に関して、その深さが0.1mm以上であるとよい。好ましくは、その溝の深さは0.2mm~1.0mmであることがよい。溝の深さを0.1mmより小さくした場合、被検液の浸出を防止する効果が減少する。また、他の培養シート1上のカバーフィルムと接触してしまうことで、フィルム間の十分な間隔が得られなくなり、微生物の生育に影響を及ぼす可能性があるため溝を深く形成することは推奨できない。
【0045】
このような第3実施形態の培養シート1でも、上述した溝12を設ければ、山部12aでは培養シート1とカバーフィルム11とが面状態で接触していても、山部12aに隣り合った谷部12bでは培養シート1の表面に対するカバーフィルム11の面接触を回避できるため、毛細管現象による被検液の浸出を確実に抑制することができる。つまり、第3実施形態の培養シート1は、内周側の溝12の山部12aが立体構造5の頂部6に相当し、この山部12aの内周側及び外周側に段差が形成されたものということもできる。特に、溝12を1条以上設ければ、谷部12bも複数箇所設けられることとなり、培養シート1の表面からカバーフィルム11が複数箇所で離間するため、毛細管現象による被検液の浸出を第1実施形態よりも確実に抑制可能となる。
【0046】
上述した溝12によって、毛細管現象による被検液の浸出抑制が行われるのは、以下のような理由による。
すなわち、図6の比較例に示すように、培地領域3が培地外領域4よりも窪んだ培養シート1を考える。この比較例の培養シート1では、培地領域3に予め配設された乾燥培地2上に検体を含む被検液を滴下してカバーフィルム11で蓋をした場合、培地外領域4の培養シート1とカバーフィルム11との間は面状態で接触しているか、僅かな隙間を介して隣り合っているため、毛細管現象によって被検液が外周側に浸出し、ひどい場合は被検液と一緒に検体や栄養分が培養シート1の外に漏れ出て、培養が確実に行えなくなる場合がある。
【0047】
しかし、図6の実施例に示すように、培地領域3のすぐ外周側に溝12を形成しておけば、毛細管現象で被検液が浸出しても、溝12で被検液の浸出(浸透)が止まり、被検液が外周側にそれ以上漏れ出ることはない。
それゆえ、上述した溝12を備えた培養シート1では、毛細管現象による被検液の浸出抑制を確実に行うことができる。
【0048】
なお、第3実施形態の培養シート1では、溝12は2本であるが、溝12の形成本数は1本でも良いし、3本以上でも良い。しかし、加工の手間やシワの発生を考えた場合、溝12の形成本数を3本以内とするのが好ましい。
以上のことより、上述した第3実施形態の培養シート1では、培地領域3の被検液が培地外領域4に浸出すること、特に毛細管現象による被検液の浸出を効果的に抑制することが可能となる。
[第4実施形態]
図5に示すように、第4実施形態の培養シート1は、第2実施形態と同様に、培地領域3が培地外領域4に対して低い位置に設けられるものとなっている。第4実施形態の培養シート1が第2実施形態のものと異なっているのは、凸条部7の形成場所が培地領域3と培地外領域4との間ではなく、培地領域3よりも外周側に離れた培地外領域4である点である。
【0049】
つまり、第4実施形態の培養シート1では、頂部6のすぐ内周側に内周側の段差9が設けられ、次に培地外領域4と同じ高さを備えた平坦部13が形成されている。このように凸条部7と培地領域3との間に平坦部13を設ければ、被検液の滴下後にカバーフィルムを被覆した際に、平坦部13を介することで培地領域とカバーフィルムが接しやすくなり、第2実施形態と比べて被検液を培地領域の周縁部まで容易に浸透させることができる。立体構造5の高さは0.1mm~1mm、好ましくは0.2mm~0.7mmが望ましい。また、培地領域3と培地外領域4との高さの差、すなわち培地領域を含む凹部の高さに関して、培養層の厚みより0.1mm~2mm、また、好ましくは0.3mm~1.5mm高いことが望ましい。平坦部13に関して、培地領域の周縁部から立体構造5までの距離は0.1mm~3mm、好ましくは0.2mm~1mmである。平坦部は培地外領域に含まれており、培地成分が存在しない。その平坦部の領域を広げるほど、培地成分が存在しない領域を広げることに繋がり、菌の検出率の低下を招くおそれがある。そのため、平坦部13の領域は仕様上必要な領域を確保しつつ、可能な限り小さくすることが望まれる。
【実施例0050】
次に、実施例および比較例を用いて、本発明の培養シート1が有する作用効果をさらに詳しく説明する。
実施例および比較例の培養シート1は、プラスチック、合成紙、または金属を原材料として、表1及び表2に図示されるような断面の立体構造5を射出成形で成形したものとなっている。
【0051】
基材シートで用いられる材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリブテン-1、エチレン・テトラシクロドデセン・コポリマー、ポリアセタール、アクリロニトリル・スチレン樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂、ポリフェニレンエーテル、ヒドロキシ安息香酸ポリエステル、ポリエーテルイミド、ポリアクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリシクロへキシレンジメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアリレート、ポリアクリロニトリル、ポリアリ
ルサルホン、ポリスチレン、ポリアミド(ナイロン)、ポリカーボネート、ポリメタクリルスチレン、ブタジエン樹脂、ポリブチレンテレフタレート、ポリエステルカーボネート、ポリブチレンサクシネート、エチレン・2-ノルボルネン樹脂、3-ヒドロキシ酪酸・3-ヒドロキシヘキサン酸共重合体などの熱可塑性樹脂を用いることができる。また、これらを1つ以上含む樹脂を用いることができ、これらの樹脂の原料モノマーを重合させた樹脂を用いてもよく、一部を改質したモノマーを重合させた樹脂を用いてもよく、これらを1つ以上含む樹脂に可塑剤、滑剤、表面改質剤、顔料や染料、充填剤などの添加剤を添加した材料を用いてもよい。
【0052】
以下に実施例及び比較例における培地組成並びに使用部材を記載するが、これは本発明を制限するものではない。
栄養成分として、カゼインペプトン3.0g、酵母エキス1.2g、ブドウ糖0.48g、リン酸一水素カリウム0.48g、塩化ナトリウム0.48g、ピルビン酸ナトリウム0.4g、バインダーとして、ヒドロキシプロピルセルロース3.4g、ゲル化剤として、タマリンドシードガム9.0g、ローカストビーンガム9.0gを混合し、メタノール120gに加えて撹拌後、グリセリン4.1gを追加し、混合することで培地液を作製した。
【0053】
上記培地液を基材シートに分注し、55℃で約15分間乾燥させることで乾燥培地2を有する培養シート1を作製した。また、カバーフィルムとしてOPSフィルムを下記試験に使用した。
【0054】
【表1】
【0055】
【表2】
【0056】
「比較例1」
「比較例1」は、上述した原材料を用いて平坦な板状に形成されており、立体構造5を備えていない。つまり、比較例1では、培地領域3の乾燥培地2は、枠状の凸条部7(立
体構造5)で囲まれておらず、培地に滴下された被検液の浸出を抑制する手段が設けられていない。そのため、「液漏れ」の評価が「あり」の結果となり、総合的な評価結果は「不合格」となっている。
「比較例2」
「比較例2」は、上述した原材料を用いて、上面視で略円形の培地領域3と、培地領域3の外側に設けられた培地外領域4との間(境界)に、円環状の凸条部7を形成したものである。この比較例2の凸条部7は、上面が上方に向かって凸状に突出しており、下面は平坦な面状となっていて、下面が上面に合わせて突出していない。そのため、凸上部により被検液を堰き止めることができ、培地領域3から培地外領域4に被検液が浸出することが抑制される。
【0057】
ただ、比較例2の凸条部7は、基材シート上に別の材料を用いて形成されるため、基材シート上に凸条部7を形成する工程が発生する。これにより、工数が増加し、製造コストが高騰する。
これらのことから、比較例2の凸条部7は、「液漏れ」の評価が「なし」の結果であるものの、総合的な評価結果は「不合格」となっている。
「実施例1」
「実施例1」は、比較例2と同じ位置に凸条部7を形成したものであるが、下面が上面に合わせた形状に形成され、凹凸のいずれの部分でも厚みが均等とされている。つまり、凸条部7の内部(上面と下面との間)は、比較例2とは異なり原料で埋められておらず、その分だけ材料コストは比較例2よりも低く抑えることができる。これらのことから、実施例1の凸条部7は、「液漏れ」の評価が「なし」の結果であると共に、製造コストも低く抑えられ、総合的な評価結果は「合格」となっている。
「比較例3」及び「比較例4」
「比較例3」及び「比較例4」は、比較例2や実施例1と同じ位置に凸条部7を形成したものであるが、培地領域3や培地外領域4を構成する基材シートが平坦に形成されていない。具体的には、「比較例3」は上方に向かって膨らむように反っており、「比較例4」は下方に向かって凹むように反っている。そのため、「比較例3」や「比較例4」では、培地領域3が水平な姿勢に保持されにくく、培地領域3の被検液が凸条部7を超えて培地外領域4に浸出しやすい。これらのことから、「比較例3」や「比較例4」の凸条部7は、「液漏れ」の評価が「あり」の結果であり、総合的な評価結果も「不合格」となっている。
「比較例5」及び「比較例6」
「比較例5」及び「比較例6」は、培養シート1の中央側の一部を下方に陥没させ、中央側の陥没した部分を培地領域3とすると共に、培地領域3の外周側の部分を培地外領域4としたものである。つまり、比較例5及び比較例6は培地領域3と培地外領域4とを段差で繋いだものであり、培地外領域4の培養シート1の表面が平坦とされているものが比較例5、曲面となっているものが比較例6となっている。
【0058】
ここで、比較例5及び比較例6の培養シート1は、培地領域3と培地外領域4との双方よりも高い位置に頂部6を備えておらず、頂部6の内外に隣り合った位置にそれぞれ段差を有していない。そのため、培地領域3と培地外領域4との間の段差により、培地領域3の被検液が乗り越えられないような高低差は付与されるが、頂部6の外周側に設けられる段差によって奏される作用効果が得られない。つまり、外周側の段差10が設けられていないので、培地外領域4において培養シート1の表面とカバーフィルム11との面接触は回避できず、毛細管現象により培地領域3から培地外領域4に被検液が浸出することは抑制できない。
【0059】
以上のことから、「比較例5」及び「比較例6」は、「液漏れ」の評価が「あり」の結果となり、総合的な評価結果も「不合格」という結果となっている。
「実施例2」~「実施例4」
「実施例2」~「実施例4」は、培地領域3と培地外領域4との間に、培地領域3の外縁に沿って伸びると共に無端状に連続する溝12が、少なくとも1条以上形成されたもの
となっている。具体的には、実施例2および実施例3は2条の溝12を、実施例4は3条の溝12を備えており、これらの溝12は互いに平行に培養シート1の表面に形成されている。
【0060】
また、「実施例2」~「実施例4」の培養シート1では、培地領域3は、培地外領域4よりも低い位置に形成されている。さらに、「実施例3」の培養シート1では、溝12の形成位置は、培地領域3と培地外領域4との間(境界)ではなく、培地領域3から外周側に離れた培地外領域4に形成されている。
上述した「実施例2」~「実施例4」では、少なくとも1条以上の溝12を形成すると、溝12の山部12aと谷部12bにより、立体構造5の頂部6、内周側の段差9、外周側の段差10が自ずと形成される。そのため、内周側の段差9により培地領域3の被検液が培地外領域4に浸出することが抑制されると共に、外周側の段差10により培地外領域4において培養シート1の表面とカバーフィルム11との面接触が回避され、毛細管現象により培地領域3から培地外領域4に被検液が浸出することも抑制される。そのため、「実施例2」~「実施例4」は、「液漏れ」の評価が「なし」の結果となり、総合的な評価結果も「合格」となっている。
「実施例5」及び「実施例6」
「実施例5」及び「実施例6」は、実施例1と同様に、培地領域3と培地外領域4との間に、上方に向かって突出した円環状の凸条部7を、1条備えたものとなっている。また、「実施例5」及び「実施例6」は、培地領域3が培地外領域4に対して低い位置に設けられるものとなっている。「実施例6」の培養シート1が「実施例5」のものと異なっている点は、凸条部7の形成場所が培地領域3と培地外領域4との間ではなく、培地領域3よりも外周側に離れた培地外領域4である点である。
【0061】
「実施例5」及び「実施例6」では、培地領域3の外側に形成される内周側の段差9が、被検液が乗り越え困難な高低差を付与するため、培地領域3の被検液が培地外領域4に浸出することが抑制される。また、「実施例5」及び「実施例6」では、凸条部7の頂部6の外周側にも外周側の段差10が設けられているため、培地外領域4において培養シート1の表面とカバーフィルム11との面接触が回避され、毛細管現象により培地領域3から培地外領域4に被検液が浸出することも抑制される。
【0062】
そのため、「実施例5」及び「実施例6」は、「液漏れ」の評価が「なし」の結果となり、総合的な評価結果も「合格」となっている。
以上の結果から、表面に培地が配設された平面状の培地領域3と、培地領域3を取り囲むように形成された平面状の培地外領域4と、を有し、培地領域3に被検液を滴下することで培養を行う培養シート1において、培地領域3と培地外領域4との間に、培地領域3と培地外領域4との双方よりも高い位置に頂部6を備え、かつ、頂部6の内周側に隣り合った位置と、頂部6の外周側に隣り合った位置とにそれぞれ段差を有する立体構造5を形成することにより、被検液が乗り越え困難な高低差を内周側の段差9が付与すると共に、外周側の段差10が毛細管現象により培地領域3から培地外領域4に被検液が浸出することも抑制するため、簡単な構造でありながら、被検液が浸出することを効果的に抑制できると判断される。
【0063】
なお、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。特に、今回開示された実施形態において、明示的に開示されていない事項、例えば、運転条件や操業条件、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積などは、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な値を採用している。
【符号の説明】
【0064】
1 培養シート
2 乾燥培地
3 培地領域
4 培地外領域
5 立体構造
6 頂部
7 凸条部
8 スタックリブ
8a スタックリブの先端
8b スタックリブの孔
9 内周側の段差
10 外周側の段差
11 カバーフィルム
12 溝
12a 溝の山部
12b 溝の谷部
13 平坦部
図1
図2
図3
図4
図5
図6