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特開2022-29826ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物、成形品、及びポリフェニレンスルフィド樹脂用制振化剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022029826
(43)【公開日】2022-02-18
(54)【発明の名称】ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物、成形品、及びポリフェニレンスルフィド樹脂用制振化剤
(51)【国際特許分類】
   C08L 81/02 20060101AFI20220210BHJP
【FI】
C08L81/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020133348
(22)【出願日】2020-08-05
(71)【出願人】
【識別番号】000001100
【氏名又は名称】株式会社クレハ
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】村野 大輔
(72)【発明者】
【氏名】目代 晴紀
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 義紀
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002CN01W
4J002CN01X
4J002GG00
4J002GM00
4J002GN00
4J002GQ00
4J002GT00
(57)【要約】
【課題】充填剤を含んでいなくても制振性に優れるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物と、前述のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物からなる成形品と、芳香環上に特定の種類の置換基を有するポリフェニレンスルフィド樹脂を含むポリフェニレンスルフィド樹脂用の制振化剤とを提供すること。
【解決手段】芳香環上に置換基を有さない第1のポリフェニレンスルフィド樹脂と、芳香環上に特定の種類の置換基を有する置換ポリフェニレンスルフィド樹脂とを混合する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のポリフェニレンスルフィド樹脂と、第2のポリフェニレンスルフィド樹脂とを含み、
前記第1のポリフェニレンスルフィド樹脂は、-Ar-S-で表される構成単位からなる分子鎖を有し、Arはp-フェニレン基であり、
前記第2のポリフェニレンスルフィド樹脂は、-Ar-S-で表される構成単位からなる分子鎖を有し、Arは、炭素原子数1以上6以下の炭化水素基で置換されたp-フェニレン基である、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の質量に対する、前記第1のポリフェニレンスルフィド樹脂の質量と、前記第2のポリフェニレンスルフィド樹脂の質量との合計の比率が、60質量%以上である、請求項1に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項3】
前記第1のポリフェニレンスルフィド樹脂の質量と、前記第2のポリフェニレンスルフィド樹脂の質量との合計に対する、前記第2のポリフェニレンスルフィド樹脂の質量の比率が、1質量%以上30質量%以下である、請求項1又は2に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の前記樹脂組成物からなる成形品。
【請求項5】
-Ar-S-で表される構成単位からなる分子鎖を有するポリフェニレンスルフィド樹脂を含み、
Arは、炭素原子数1以上6以下の炭化水素基で置換されたp-フェニレン基であり、
制振化される前記ポリフェニレンスルフィド樹脂が、-Ar-S-で表される構成単位からなる分子鎖を有するポリアリーレンスルフィド樹脂であって、Arがp-フェニレン基である、制振化剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制振性に優れるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物と、前述のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物からなる成形品と、ポリフェニレンスルフィド樹脂用の制振化剤とに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンスルフィド樹脂(PPS)に代表されるポリアリーレンスルフィド樹脂(PAS)は、耐熱性、耐薬品性、難燃性、機械的強度、電気特性、寸法安定性等に優れたエンジニアリングプラスチックである。PASは、押出成形、射出成形、圧縮成形等の一般的溶融加工法により、各種成形品、フィルム、シート、繊維等に成形可能である。このため、PPSは、電気機器、電子機器、自動車機器、包装材料等の広範な技術分野において汎用されている。
【0003】
上記のPASの用途の中でも、例えば、掃除機、冷蔵庫、エアーコンディショナーのような圧縮機やモーター等を備える家電製品や、電気自動車やハイブリッド自動車等におけるモーター部品やモーターの周辺部品についての静粛化の目的で制振性の向上が望まれている。
【0004】
制振性に優れる樹脂組成物としては、例えば、板状充填剤又は針状充填剤を含むポリアミド樹脂組成物(特許文献1を参照)や、制振材料用エマルジョン樹脂組成物(特許文献2)等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-089149号公報
【特許文献2】特開2012-126775号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の樹脂組成物は、充填剤を必須に含むためフィラーレスの用途には用いることができない。また、特許文献2に記載の制振材料用エマルジョン樹脂組成物には、エマルジョン樹脂組成物であるがゆえにプレス成形、押出成形、射出成形等の一般的な樹脂の成形方法への適用が困難である問題がある。
【0007】
本発明は、上記の課題に鑑みなされたものであって、充填剤を含んでいなくても制振性に優れるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物と、当該ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物からなる成形品と、芳香環上に特定の種類の置換基を有するポリフェニレンスルフィド樹脂を含むポリフェニレンスルフィド樹脂用の制振化剤とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、芳香環上に置換基を有さない第1のポリフェニレンスルフィド樹脂と、芳香環上に特定の種類の置換基を有する置換ポリフェニレンスルフィド樹脂とを混合することにより、上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明にかかるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は、第1のポリフェニレンスルフィド樹脂と、第2のポリフェニレンスルフィド樹脂とを含み、
第1のポリフェニレンスルフィド樹脂は、-Ar-S-で表される構成単位からなる分子鎖を有し、Arはp-フェニレン基であり、
第2のポリフェニレンスルフィド樹脂は、-Ar-S-で表される構成単位からなる分子鎖を有し、Arは、炭素原子数1以上6以下の炭化水素基で置換されたp-フェニレン基である。
【0010】
上記のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物において、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の質量に対する、第1のポリフェニレンスルフィド樹脂の質量と、第2のポリフェニレンスルフィド樹脂の質量との合計の比率は、60質量%以上であってよい。
【0011】
上記のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物において、第1のポリフェニレンスルフィド樹脂の質量と、第2のポリフェニレンスルフィド樹脂の質量との合計に対する、第2のポリスルフィド樹脂の質量の比率は、1質量%以上30質量%以下であってよい。
【0012】
本発明にかかる成形品は、上記のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物からなる。
【0013】
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂用の制振化剤は、-Ar-S-で表される構成単位からなる分子鎖を有するポリフェニレンスルフィド樹脂を含み、
Arは、炭素原子数1以上6以下の炭化水素基で置換されたp-フェニレン基であり、
制振化されるポリフェニレンスルフィド樹脂が、-Ar-S-で表される構成単位からなる分子鎖を有するポリフェニレンスルフィド樹脂であって、Arがp-フェニレン基である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、充填剤を含んでいなくても制振性に優れるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物と、当該ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の製造方法と、当該ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を含む制振材料と、前述のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物又は前述の制振材料からなる成形品と、芳香環上に特定の種類の置換基を有するポリフェニレンスルフィド樹脂を含むポリフェニレンスルフィド樹脂用の制振化剤とを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
≪ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物≫
ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は、第1のポリフェニレンスルフィド樹脂と、第2のポリフェニレンスルフィド樹脂とを含む。
第1のポリフェニレンスルフィド樹脂は、-Ar-S-で表される構成単位からなる分子鎖を有する。Arは未置換のp-フェニレン基である。
第2のポリフェニレンスルフィド樹脂は、-Ar-S-で表される構成単位からなる分子鎖を有する。Arは、炭素原子数1以上6以下の炭化水素基で置換されたp-フェニレン基である。
第2のポリフェニレンスルフィド樹脂は、第1のポリフェニレンスルフィド樹脂と良好に相溶し、第1のポリフェニレンスルフィド樹脂中に良好に分散することによりポリフェニレンスルフィド樹脂組成物に良好な制振性を与える。
【0016】
ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の質量に対する、第1のポリフェニレンスルフィド樹脂の質量と、第2のポリフェニレンスルフィド樹脂の質量との合計の比率は、特に限定されず、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の制振特性が良好である点で、60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、90質量%以上がさらにより好ましく、100質量%以上が特に好ましい。
【0017】
上記のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物において、第1のポリフェニレンスルフィド樹脂の質量と、第2のポリフェニレンスルフィド樹脂の質量との合計に対する、第2のポリフェニレンスルフィド樹脂の質量の比率は、1質量%以上30質量%以下が好ましく、5質量%以上25質量%以下がより好ましく、10質量%以上20質量%以下がさらに好ましい。
ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物が、上記の比率で第2のポリフェニレンスルフィド樹脂を含む場合、第1のポリフェニレンスルフィド樹脂の優れた成形性や機械的特性を損なうことなく、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物に良好な制振性を付与しやすい。
【0018】
<第1のポリフェニレンスルフィド樹脂>
前述の通り、第1のポリフェニレンスルフィド樹脂は-Ar-S-で表される構成単位からなる分子鎖を有する。Arはp-フェニレン基である。
【0019】
第1のポリフェニレンスルフィド樹脂としては、第1のポリフェニレンスルフィド樹脂についての上記の所定の条件を満たす公知のポリフェニレンスルフィド樹脂を特に制限なく用いることができる。
また、第1のポリフェニレンスルフィド樹脂の製造方法も特に限定されず、従来知られる方法を適宜採用できる。
【0020】
成形加工性、機械的特性、耐熱性等の点で、第1のポリフェニレンスルフィド樹脂について、ガラス転移温度(Tg)が80℃以上100℃以下の範囲内であるのが好ましい。また、融点が270℃以上300℃以下の範囲内であるのが好ましい。重量平均分子量(Mw)が1000以上100000以下であるのが好ましい。温度310℃、せん断速度1200sec-1で測定した溶融粘度が100Pa・s以上250Pa・s以下であるのが好ましい。
【0021】
<第2のポリフェニレンスルフィド樹脂>
第2のポリフェニレンスルフィド樹脂は、-Ar-S-で表される構成単位からなる分子鎖を有する。Arは、炭素原子数1以上6以下の炭化水素基で置換されたp-フェニレン基である。
なお、Arとしてのp-フェニレン基が有する置換基の数は1である。
第2のポリフェニレンスルフィド樹脂の製造が容易であることや、得られるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の制振性が良好であることから、上記の置換基の中では、炭素原子数1以上6以下の脂肪族炭化水素基が好ましく、メチル基、及びエチル基がより好ましく、メチル基がさらに好ましい。
【0022】
Arとしての炭素原子数1以上6以下の炭化水素基で置換されたp-フェニレン基の好適な例としては、2-メチルベンゼン-1,4-ジイル基、2-エチルベンゼン-1,4-ジイル基、2-n-プロピルベンゼン-1,4-ジイル基、2-イソプロピルベンゼン-1,4-ジイル基、2-n-ブチルベンゼン-1,4-ジイル基、2-イソブチルベンゼン-1,4-ジイル基、2-sec-ブチルベンゼン-1,4-ジイル基、2-tert-ブチルベンゼン-1,4-ジイル基、2-n-ペンチルベンゼン-1,4-ジイル基、2-n-ヘキシルベンゼン-1,4-ジイル基、及び2-フェニルベンゼン-1,4-ジイル基が挙げられる。これらの中では、2-メチルベンゼン-1,4-ジイル基、及び2-エチルベンゼン-1,4-ジイル基が好ましく、2-メチルベンゼン-1,4-ジイル基がより好ましい。
【0023】
第2のポリフェニレンスルフィド樹脂の分子鎖は、Arとしての、炭素原子数1以上6以下の炭化水素基で置換されたp-フェニレン基を2種以上含んでいてもよく、炭素原子数1以上6以下の炭化水素基で置換されたp-フェニレン基を1種のみ含んでいるのが好ましい。
【0024】
-Ar-S-で表される構成単位は、下記の式のうち上段に示されるように、置換基である炭素原子数1以上6以下の炭化水素基が同じ方向に位置するように規則的に並んでもよい。通常、-Ar-S-で表される構成単位は、下記の式のうち下段に示されるように、置換基である炭素原子数1以上6以下の炭化水素基がランダムに配置されるように並ぶ。下記式では、置換基がメチル基である場合について示す。
【化1】
【0025】
第2のポリフェニレンスルフィド樹脂の合成が容易であることや、第1のポリフェニレンスルフィド樹脂と第2のポリフェニレンスルフィド樹脂との溶融混錬が容易であることから、第2のポリフェニレンスルフィド樹脂の分子鎖は、Ar全体のモル数に対して、80モル%以上の2-メチルベンゼン-1,4-ジイル基を含むのが好ましく、90モル%以上の2-メチルベンゼン-1,4-ジイル基を含むのがより好ましく、100モル%の2-メチルベンゼン-1,4-ジイル基を含むのがさらに好ましい。
【0026】
第2のポリフェニレンスルフィド樹脂としては、第2のポリフェニレンスルフィド樹脂についての上記の所定の条件を満たす公知のポリフェニレンスルフィド樹脂を特に制限なく用いることができる。
また、第2のポリフェニレンスルフィド樹脂の製造方法も特に限定されず、従来知られる方法を適宜採用できる。
【0027】
<その他の樹脂>
ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は、本発明の目的を阻害しない範囲で、第1のポリフェニレンスルフィド樹脂、及び第2のポリフェニレンスルフィド樹脂以外のその他の樹脂を含んでいてもよい。
【0028】
他の樹脂としては、硬化性樹脂、及び熱可塑性樹脂のいずれを用いてもよい。第1のポリフェニレンスルフィド樹脂、及び第2のポリフェニレンスルフィド樹脂と、他の樹脂との均一な混合が容易であることから、他の樹脂としては熱可塑性樹脂が好ましい。
【0029】
硬化性樹脂としては、未硬化の状態の硬化性樹脂の前駆体を用いることもできる。硬化性樹脂は、熱硬化性樹脂であっても、光硬化性樹脂であってもよく、ある程度サイズの大きな成形品を製造しやすいこと等から熱硬化性樹脂が好ましい。
硬化性樹脂と、第1のポリフェニレンスルフィド樹脂、及び第2のポリフェニレンスルフィド樹脂とを混合する方法としては、粉末又は粒子状の第1のポリフェニレンスルフィド樹脂、及び第2のポリフェニレンスルフィド樹脂を、液状又は溶液状の未硬化の状態の硬化性樹脂の前駆体と混合させ、混合後、必要に応じて溶媒を除去する方法が挙げられる。この場合、硬化性樹脂の種類に応じて、混合物に、硬化剤を配合してもよい。
以上のようにして得られる混合物は、硬化性樹脂の種類に応じた方法で、加熱及び/又は露光により硬化されポリフェニレンスルフィド樹脂組成物とされる。
【0030】
硬化性樹脂の具体例としては、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、及びアルキド樹脂等の熱硬化性樹脂や、(メタ)アクリル樹脂等の光硬化性樹脂が挙げられる。
【0031】
他の樹脂が熱可塑性樹脂である場合、第1のポリフェニレンスルフィド樹脂、及び第2のポリフェニレンスルフィド樹脂と他の樹脂とは、典型的には、1軸押出機や2軸押出機等の溶融混錬装置を用いて混合される。混合条件は特に限定されず、第1のポリフェニレンスルフィド樹脂、及び第2のポリフェニレンスルフィド樹脂、及び他の樹脂の、融点、溶融粘度等を勘案して適宜決定される。
【0032】
他の樹脂が熱可塑性樹脂である場合の好適な例としては、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂(ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリアリレート樹脂、液晶ポリエステル樹脂等)、FR-AS樹脂、FR-ABS樹脂、AS樹脂、ABS樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリアリーレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、フッ素系樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミドビスマレイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリベンゾオキサゾール樹脂、ポリベンゾチアゾール樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂、BT樹脂、ポリメチルペンテン、超高分子量ポリエチレン、FR-ポリプロピレン、及びポリスチレン等が挙げられる。ただし、上記他の樹脂としてのポリアリーレンスルフィド樹脂は、第1のポリフェニレンスルフィド樹脂及び第2のポリフェニレンスルフィド樹脂に該当しない。
【0033】
以上説明したポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は、必要に応じて、着色剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、離型剤、充填材、及び強化材等の、従来から種々の樹脂組成物に配合されている添加剤、又は添加材を含んでいてもよい。これらの添加剤又は添加材は、添加剤又は添加材の種類に応じた適切な範囲の量を使用される。
【0034】
<ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の製造方法>
上記のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の製造方法は、第1のポリフェニレンスルフィド樹脂、及び第2のポリフェニレンスルフィド樹脂を所望する比率で混合できる方法であれば、特に限定されない。
好ましい方法としては、第1のポリフェニレンスルフィド樹脂と、第2のポリフェニレンスルフィド樹脂とを溶融混錬することを含む、方法が挙げられる。第1のポリフェニレンスルフィド樹脂、及び第2のポリフェニレンスルフィド樹脂とともに、前述の任意成分を溶融混錬するのも好ましい。
溶融混錬は、例えば、1軸押出機や2軸押出機等の公知の溶融混錬装置を用いて行うことができる。
【0035】
≪制振材料≫
以上説明したポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は、制振材料として好適に使用される。本出願の明細書及び特許請求の範囲において、具体的には、動的粘弾性測定(DMA測定)により測定される損失係数として0.150以上の値を示す材料を制振材料とする。制振材料の損失係数は、0.170以上が好ましく、0.200以上がより好ましい。
【0036】
≪成形品≫
以上説明したポリフェニレンスルフィド樹脂組成物、又は制振材料は、公知の方法で成形することにより種々の形状の成形品とされる。
典型的には、プレス成形、押出成形、射出成形のような常法によりポリフェニレンスルフィド樹脂組成物が成形される。
【0037】
成形品の用途は特に限定されない。成形品の用途の具体例としては、自動車及び二輪車等の車両、船舶、鉄道、航空機のような輸送機における振動が発生する装置の部品、又は当該装置の周辺部品;前述の輸送機における、座席又は座席の周辺部品や、操縦装置等の振動の低減が望まれる装置の部品;各種家電機器部品;OA機器部品;建築材料;工作機械部品;産業機械部品が挙げられる。
以上説明した用途の中でも、成形品の用途としては、自動車等の内燃機関を備える輸送機におけるクーラント循環装置の部品が挙げられる。かかるクーラント循環装置の部品としては、ポンプ筐体やクーラント循環用のパイプ等が挙げられる。
成形品を上記の用途に用いることにより、各種製品の制振化を図ることができる。
【0038】
≪ポリフェニレンスルフィド樹脂用の制振化剤≫
樹脂用の制振化剤は、前述の第2のポリフェニレンスルフィド樹脂を含む。制振化される樹脂は、前述の第1のポリフェニレンスルフィド樹脂である。制振化剤は、第2のポリフェニレンスルフィド樹脂のみからなってもよく、第2のポリフェニレンスルフィド樹脂と、他の成分とからなってもよい。他の成分としては特に限定されず、着色剤、前述の熱可塑性樹脂、可塑剤、及び相溶化剤等が挙げられる。特に、第2のポリフェニレンスルフィド樹脂を、熱可塑性樹脂中に高濃度で混合することにより、制振化剤のマスターバッチとすることができる。マスターバッチには、必要に応じて、可塑剤や、相溶化剤を含めるのが好ましい。
【0039】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された文献の全てが参考として援用される。
【実施例0040】
以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明する。なお、本発明は、実施例に限られるものではない。
【0041】
[製造例1]
撹拌機付の容量1Lオートクレーブに、硫化ナトリウム78.0g、水酸化ナトリウム2.5g、N―メチル-2-ピロリドン(NMP)374.8g、イオン交換水27.0g、及び1,4-ジクロロトルエン165.6gを仕込んだ。次いで、オートクレーブ内を窒素ガス雰囲気に置換した後、オートクレーブを密封した。その後、オートクレーブ内の反応液を撹拌しながら、反応液を240℃まで約30分かけて徐々に加熱した。240℃を2時間保持して重縮合反応を行った後、オートクレーブ内に20.3gのイオン交換水を圧入した。その後、オートクレーブの内温を10分かけて260℃まで上げ、同温度でさらに3時間重縮合反応を行った。重縮合反応の終了後、反応液を室温近くまで冷却した。
オートクレーブの内容物を取り出した後、オートクレーブの内容物に3質量%の純水を含むアセトン1Lを加えて、室温にて30分間撹拌して洗浄した。洗浄された固形分(粗製品)をろ過により回収した後、前述のアセトンによる洗浄操作を2回繰り返した。
アセトンで洗浄された固形分を、室温にて純水1L中で30分間撹拌して洗浄した後、ろ過により固形分を回収した。回収された固形分を、室温にて濃度0.18質量%の酢酸水溶液1L中で30分間撹拌して洗浄した後、ろ過により固形分を回収した。次いで、回収された固形分を、室温にて純水1L中で20分間洗浄した後に、ろ過により固形分を回収する操作を4回繰り返し行った。ろ過により回収された固形分を120℃で4時間乾燥させて、精製されたポリ(メチルフェニレン)スルフィド樹脂(重量平均分子量(Mw):19500)を得た。
【0042】
[実施例1、実施例2、及び比較例1]
実施例1、及び実施例2において、ポリフェニレンスルフィド樹脂((株)クレハ製、W-214A)と、製造例1で得たポリ(メチルフェニレン)スルフィド樹脂とを、表1に記載の比率で混合して、樹脂組成物を得た。
具体的には、ポリフェニレンスルフィド樹脂と、ポリ(メチルフェニレン)スルフィド樹脂とを表1に記載の比率でドライブレンドした後、混合物を、R60(容量60mL)のバレルと、フルフライトのスクリューを備える溶融混錬装置(ラボプラストミル、東洋精機製作所製)にて、試験温度320℃、試験時間5分、回転数100rpmの条件で溶融混錬してポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を得た。
比較例1では、ポリフェニレンスルフィド樹脂単独を試料として用いた。
【0043】
実施例1、実施例2、及び比較例1について、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物、又はポリフェニレンスルフィド樹脂単独の試料を320℃で、5MPa、1分の条件で圧縮成形して55mm×55mm×1mmのサイズのシートを作製した。
【0044】
また、得られたシートから、カッターナイフによりDMA測定用の短冊状の試験片を切り出し、DMAによる動的粘弾性の評価を行い、損失係数を測定した。なお、試験片には、DMA測定前に、150℃、1時間の条件でアニール処理を施した。DMA測定条件は以下の通りである。損失係数の測定結果を、表1に記す。
<DMA測定条件>
試料サイズ:10mm×5mm×1mm
引張温度:20℃~240℃
昇温速度:2℃/分
周波数:10Hz
【0045】
【表1】
【0046】
実施例1及び実施例2と、比較例1との比較によれば、ポリフェニレンスルフィド樹脂に、ポリ(メチルフェニレン)スルフィド樹脂が配合されることにより、損失係数が顕著に高まり、制振性が改良されることが分かる。