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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022029827
(43)【公開日】2022-02-18
(54)【発明の名称】硬化性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/30 20060101AFI20220210BHJP
【FI】
C08G59/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020133349
(22)【出願日】2020-08-05
(71)【出願人】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(72)【発明者】
【氏名】大槻 信章
(72)【発明者】
【氏名】前田 順啓
【テーマコード(参考)】
4J036
【Fターム(参考)】
4J036AD07
4J036AD08
4J036AD21
4J036AJ01
4J036AJ14
4J036AJ15
4J036AJ19
4J036BA02
4J036CA08
4J036DA05
4J036DB01
4J036DB14
4J036DD07
4J036FB12
4J036HA02
4J036HA12
4J036JA01
4J036JA05
4J036JA06
(57)【要約】
【課題】
本発明の目的は、取扱い性、熱機械特性に優れつつも脆さの発現しない硬化性樹脂組成物を提供することである。
【解決手段】
ビフェニル骨格とビスフェノールS骨格を有するエポキシ樹脂、および酸価が30~250mgKOH/gの酸基含有樹脂を必須として含む硬化性樹脂組成物を見出した。また、融点90℃以上の結晶性2官能エポキシ樹脂と、ビスフェノールS骨格を有する2官能フェノール化合物とを触媒の存在下に反応させて得られるエポキシ樹脂と、酸価が30~250mgKOH/gの酸基含有樹脂を混合する硬化性樹脂組成物の製造方法を見出した。上記硬化性樹脂組成物を用いることで、取扱い性、熱機械特性、可撓性のいずれにも優れる硬化物が得られる。フィルム、塗料、接着剤、電気・電子機器等の用途で好適に使用できる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビフェニル骨格とビスフェノールS骨格を有するエポキシ樹脂、および酸価が30~250mgKOH/gの酸基含有樹脂を必須として含むことを特徴とする硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
前記エポキシ樹脂が下記一般式(1)で表されることを特徴とする請求項1に記載の硬化性樹脂組成物。
【化1】
【請求項3】
前記酸基含有樹脂が酸基含有重合体であることを特徴とする請求項1又は2に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
さらに、硬化触媒を含むことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物を硬化してなる硬化物。
【請求項6】
融点90℃以上の結晶性2官能エポキシ樹脂と、ビスフェノールS骨格を有する2官能フェノール化合物とを触媒の存在下に反応させて得られるエポキシ樹脂と、酸価が30~250mgKOH/gの酸基含有樹脂を混合することを特徴とする硬化性樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
融点90℃以上の結晶性2官能エポキシ樹脂がビフェニル骨格を有する2官能エポキシ樹脂であることを特徴とする請求項6に記載の硬化性樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
前記酸基含有樹脂は、単量体成分100質量%中、酸基を有する単量体10~55質量%を必須として含有する単量体成分を重合して得られる重合体であることを特徴とする請求項6または請求項7に記載の硬化性樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂を含む硬化性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂は優れた耐熱性、電気絶縁性により、近年、フィルム、塗料、接着剤、電気・電子機器等の用途に広く利用されている。
例えば、ビスフェノールS含有高分子量エポキシ樹脂を含有する樹脂組成物がプリント配線板用に使用されている(特許文献1)。
また、ビスフェノールA型エポキシ樹脂は、高強度の接着剤に使用されており、かかるエポキシ樹脂の性能向上を目的に、特定の共重合体をブレンドすることが知られている(特許文献2)。
特に、パソコン、スマートフォンといった電子機器、IT技術が導入される家電製品では、使われる部材の更なる高性能化が求められており、原料として用いられる硬化性樹脂組成物の取り扱い性や硬化物の耐熱性、可撓性等の性能において改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001-261789号公報
【特許文献2】特開2006-96834号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、取り扱い性が良く、優れた耐熱性および可撓性を有する硬化物が得られる硬化性樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意検討の結果、特定の硬化性樹脂組成物が良好な取り扱い性を有しつつ優れた耐熱性、可撓性、熱機械特性を発現することを見出した。
すなわち、本発明の目的は、下記(1)~(8)により達成される。
(1)ビフェニル骨格とビスフェノールS骨格を有するエポキシ樹脂、および酸価が30~250mgKOH/gの酸基含有樹脂を必須として含むことを特徴とする硬化性樹脂組成物。
(2)前記エポキシ樹脂が下記一般式で表されることを特徴とする(1)に記載の硬化性樹脂組成物。
【0006】
【化1】
(3)前記酸基含有樹脂が酸基含有重合体であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の硬化性樹脂組成物。
(4)さらに、硬化触媒を含むことを特徴とする(1)~(3)のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物
(5)上記(1)~(4)のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物を硬化してなる硬化物。
(6)融点90℃以上の結晶性2官能エポキシ樹脂と、ビスフェノールS骨格を有する2官能フェノール化合物とを触媒の存在下に反応させて得られるエポキシ樹脂と、酸価が30~250mgKOH/gの酸基含有樹脂を混合することを特徴とする硬化性樹脂組成物の製造方法。
(7)融点90℃以上の結晶性2官能エポキシ樹脂がビフェニル骨格を有する2官能エポキシ樹脂であることを特徴とする(6)に記載の硬化性樹脂組成物の製造方法。
(8)前記酸基含有樹脂は、単量体成分100質量%中、酸基を有する単量体10~55質量%を必須として含有する単量体成分を重合して得られる重合体であることを特徴とする(6)または(7)に記載の硬化性樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の硬化性樹脂組成物は、取り扱い性が良好で、得られる硬化物は熱機械特性に優れつつも脆さを発現しないものであった。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に本発明を詳述する。
なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、本発明の好ましい形態である。
また、本明細書において、「(メタ)アクリル酸」は、「アクリル酸及び/又はメタクリル酸」を意味し、「(メタ)アクリレート」は、「アクリレート及び/又はメタクリレート」を意味する。
また、本願において、数値範囲「Min~Max」は、最小値Min以上、且つ、最大値Max以下を意味する。さらに、上限値および下限値について、好適な数値を段階的に記載する場合、各々分けて記載した上限値と下限値を、適宜組み合わせて数値範囲を設定できる。
本発明の硬化性樹脂組成物は、ビフェニル骨格とビスフェノールS骨格を有するエポキシ樹脂、および酸価が30~250mgKOH/gの酸基含有樹脂を必須として含む。
硬化性樹脂組成物の製造方法として、融点90℃以上の結晶性2官能エポキシ樹脂と、ビスフェノールS骨格を有する2官能フェノール化合物とを触媒の存在下に反応させて得られるエポキシ樹脂と、酸価が30~250mgKOH/gの酸基含有樹脂を混合することが好ましい。
本発明の硬化性樹脂組成物に含まれる各成分について説明する。
(A)特定の骨格を有するエポキシ樹脂
出発原料となるエポキシ樹脂としては、硬化物の熱機械特性と可撓性との両立の点から、融点90℃以上の結晶性エポキシ樹脂を用いることが好ましい。より好ましくは融点95℃以上、さらに好ましくは融点100℃以上である。好ましい上限値としては180℃以下、さらに150℃以下である。融点は、例えば、示差走査熱量分析装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製 EXSTAR6000 DSC/6200)により、昇温速度5℃/分の条件で、DSCピーク温度(融点)を求めることで測定できる。
なお、結晶性エポキシ樹脂とは、結晶性の強いエポキシ樹脂を意味し、結晶部分が流動しはじめ液状になる温度である融点があり、融点以下の温度では、高分子鎖が規則正しく配列し、固形樹脂でありながらも、溶融時には液状樹脂並みの低粘度となる熱硬化性のエポキシ樹脂をいう。
このような結晶性エポキシ樹脂としては、例えばビフェニル構造(ビフェニル型)、ベンゼン環構造(ハイドロキノン型)、スルフィド構造(スルフィド型)等を有するものが挙げられ、中でもビフェニル骨格を有するものが好ましい。これらの中でも2官能の結晶性エポキシ樹脂が好ましく、具体的な市販品としては、YL6121H、YX4000(三菱ケミカル製)やYDC-1312、YSLV-120TE、YSLV-90CR(日鉄ケミカル&マテリアル製)等が挙げられ、これらの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。中でもビフェニル型の上記YL6121HやYX4000が特に好ましい。
また、エポキシ樹脂としてその他の公知のエポキシ樹脂を併用しても良く、このようなエポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型、テトラブロモビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールS型等のビスフェノール型エポキシ樹脂;水添(水素化)ビスフェノールA型等の脂環式エポキシ樹脂;ジグリシジルエステル型エポキシ樹脂;多価アルコールのジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、特に、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリアルキレングリコール類、あるいは前記ビスフェノール型エポキシ樹脂の前駆体であるビスフェノール化合物にアルキレンオキサイドを付加させたものである二価アルコール類と、エピクロルヒドリンを反応させて得られるジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;ジグリシジルアミン型エポキシ樹脂等の二官能エポキシ化合物や、テトラグリシジルアミノジフェニルメタン等の多官能性グリシジルアミン樹脂;テトラフェニルグリシジルエーテルエタン等の多官能性グリシジルエーテル樹脂;フェノールノボラック型エポキシ樹脂やクレゾールノボラック型エポキシ樹脂;フェノール、o-クレゾール、m-クレゾール、ナフトール等のフェノール化合物と、フェノール性ヒドロキシル基を有する芳香族アルデヒドとの縮合反応により得られるポリフェノール化合物と、エピクロルヒドリンとの反応物;フェノール化合物とジビニルベンゼンやジシクロペンタジエン等のジオレフィン化合物との付加反応により得られるポリフェノール化合物と、エピクロルヒドリンとの反応物;4-ビニルシクロヘキセン-1-オキサイドの開環重合物を過酸でエポキシ化したもの;トリグリシジルイソシアヌレート等の複素環を有するエポキシ樹脂等の3官能以上のエポキシ化合物が挙げられる。
ここで、融点90℃以上の結晶性2官能エポキシ樹脂以外のエポキシ樹脂を併用する場合の使用量は、エポキシ樹脂全体を100モル%としたとき、75モル%以下とすることが好ましい。75モル%を越えて使用した場合、高融点結晶性2官能エポキシ樹脂骨格に由来する剛直性が不足し、硬化物の寸法安定性向上効果が十分に得られない場合がある。他のエポキシ樹脂のより好ましい使用量は50モル%以下、さらに好ましい使用量は25モル%以下、特に好ましい使用量は10モル%以下、最も好ましい使用量は0モル%である。
【0009】
本発明で用いられる好ましい出発原料としてのエポキシ樹脂は、ビフェニル骨格を有する融点90℃以上の結晶性2官能エポキシ樹脂をエポキシ樹脂全体100モル%としたとき100モル%使用する形態である。
上記エポキシ樹脂と反応させるビスフェノールS骨格を有する2官能フェノール化合物としては、ビスフェノールS、テトラブロモビスフェノールS、テトラメチルビスフェノールS等が挙げられ、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも入手のし易さという点から、ビスフェノールSが好ましい。
また、2官能フェノール化合物(2価フェノール化合物)としてビスフェノールS骨格を有さない公知のフェノール化合物を併用しても良く、このようなフェノール化合物としては、ビスフェノールA、ビスフェノールF、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド等のビスフェノールSを除く公知のビスフェノール類や、ビフェノール等が挙げられる。さらに、三官能以上のフェノール化合物を一部併用しても良く、これらの例として、ノボラック樹脂、1,1,1-トリス(4-ヒドロキシフェニル)エタン等が挙げられる。
ここで、ビスフェノールS骨格を有さないフェノール化合物を併用する場合の使用量は、フェノール化合物全体を100モル%としたとき、75モル%以下とすることが好ましい。75モル%を越えて使用した場合、ビスフェノールS骨格に由来する凝集効果が不足し、硬化物の寸法安定性向上効果が十分に得られない場合がある。ビスフェノールS骨格を有さないフェノール化合物のより好ましい使用量は50モル%以下、さらに好ましい使用量は25モル%以下、特に好ましい使用量は10モル%以下、最も好ましい使用量は0モル%である。
本発明の硬化性樹脂組成物における好ましいエポキシ樹脂は、融点90℃以上の結晶性2官能エポキシ樹脂(特に好ましくはビフェニル骨格を有する融点90℃以上の結晶性2官能エポキシ樹脂)と、ビスフェノールS骨格を有する2官能フェノール化合物とを触媒の存在下に反応させて得られるエポキシ樹脂である。具体的な触媒としては、トリエチルアミン等の三級アミン、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド等の4級アンモニウム塩、2-エチル-4-メチルイミダゾール等のイミダゾール化合物、トリフェニルホスフィンやテトラフェニルホスホニウムブロマイド等のリン化合物、酢酸リチウム等のカルボン酸金属塩、炭酸リチウム等の無機金属塩等が挙げられる。
融点90℃以上の結晶性2官能エポキシ樹脂とビスフェノールS骨格を有する2官能フェノール化合物による鎖延長反応では、上記エポキシ樹脂中のエポキシ基1当量に対し、上記フェノール化合物中のフェノール性ヒドロキシル基が0.3~0.8当量となるように仕込んで反応させることが好ましい。
上記エポキシ樹脂1モルに対し、上記フェノール化合物は0.3モル以上が好ましく、より好ましくは0.35モル以上、さらに好ましくは0.4モル以上である。これらの下限値以上で使用することによって、硬化物の可撓性が向上する。
また、上記エポキシ樹脂1モルに対し、上記フェノール化合物は0.8モル以下が好ましく、より好ましくは0.75モル以下、さらに好ましくは0.7モル以下である。これらの上限値以下で使用することによって、分子量が制御でき、ラジカル重合性モノマーや溶媒といった希釈剤の存在下あるいは非存在下において十分な流動性を得ることができるため、製造時や塗布作業時に取り扱いがより容易となる。
上記比率で反応させて得られるビフェニル骨格とビスフェノールS骨格を有するエポキシ樹脂は、ビフェニル骨格を有する構成単位/ビスフェノールS骨格を有する構成単位のモル比が、80/20~30/70のモル比となることが好ましく、70/30~40/60のモル比となることが特に好ましい。
得られるエポキシ樹脂の重量平均分子量は、900~10000の範囲が好ましい。900未満のものでは、充分な耐熱性が無く、10000を超えると硬化時に反応点となるエポキシ基濃度が下がり、取り扱いも困難になり好ましくない。耐熱性、樹脂の取り扱いの両面からみて、特に好ましくは、重量平均分子量1500~6000の範囲が良い。
また、得られるエポキシ樹脂のエポキシ当量は、15000g/当量以下の範囲である。300~1500g/当量の範囲が好ましく、350~1200g/当量の範囲が特に好ましく、400~900g/当量の範囲が最も好ましい。エポキシ当量は、JIS K7236:2001に準拠した方法で測定できる。
特定の骨格を有するエポキシ樹脂として、以下の一般式(1)が好ましい。
【0010】
【化2】
~Rはそれぞれ独立して炭素数1~3のアルキル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。Xはなし(直接結合)が好ましい。nは1~5が好ましく、1~3が特に好ましい。
また、上記エポキシ樹脂の製造方法における反応を、原料としてYX4000(ビフェニル型エポキシ樹脂)およびビスフェノールSを用いた場合を例に示すと以下の通りと考えられる。
【0011】
【化3】
特定の骨格を有するエポキシ樹脂として、以下の一般式(2)が特に好ましい。
【0012】
【化4】
nは平均1~2
反応スキーム上、YX4000とビスフェノールSを2対1のモル比で反応させた場合、nの平均が1の上記一般式(2)のエポキシ樹脂が得られる。また、3対2のモル比で反応させた場合、nの平均が2の上記一般式(2)のエポキシ樹脂が得られる。
【0013】
(B)酸基含有樹脂
本発明の硬化性樹脂組成物の必須成分である酸基含有樹脂とは、樹脂中に酸基を有する樹脂である。例えば、酸基含有重合体、酸基含有エポキシ樹脂、酸基含有ポリエステル樹脂、酸基含有フェノール樹脂、酸基含有ウレタン樹脂等が挙げられ、好ましくは酸基含有重合体であり、特に好ましくは酸基含有共重合体である。
酸基含有樹脂の酸基として、カルボキシル基、フェノール性水酸基、カルボン酸無水物基、リン酸基、スルホン酸基等が挙げられ、これらの1種のみを有していてもよいし、2種以上有していてもよい。
酸基含有樹脂の酸価は、他の成分であるエポキシ樹脂のエポキシ基と十分反応できる範囲であれば特に限定されないが、30~250mgKOH/gであると、硬化性が向上するため好ましい。特に好ましくは40~200mgKOH/g、最も好ましくは50~180mgKOH/gである。250mgKOH/g以下であれば柔軟性に優れ可撓性が良くなり、30mgKOH/g以上であれば耐熱性が向上する。
なお、上記酸価は、KOH溶液を用いた中和滴定法により測定して得られる値である。
上記酸基含有樹脂の重量平均分子量は、特に制限されず、硬化性樹脂組成物の目的、用途に応じて適宜設定すればよいが、1000~100000であることが好ましく、2000~50000であることがより好ましく、3000~30000であることがさらに好ましい。
上記重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー法(GPC)により、実施例に記載の方法で測定して得られる値である。
本発明の硬化性樹脂組成物における好ましい成分である酸基含有重合体は、酸基を有することにより、他の成分のエポキシ基と反応できる。
上記酸基としては、例えば、カルボキシル基、フェノール性水酸基、カルボン酸無水物基、リン酸基、スルホン酸基等が挙げられ、これらの1種のみを有していてもよいし、2種以上有していてもよい。なかでも、カルボキシル基又はカルボン酸無水物基が好ましく、カルボキシル基がより好ましい。
【0014】
(b1)酸基を有する構造単位
上記酸基含有重合体は、上述した酸基を有する構造単位(以下、「構造単位(b1)」とも称す。)を有することが好ましい。
上記構造単位(b1)を有する重合体を得る方法としては、例えば、酸基含有単量体を含む単量体成分を重合する方法(1)や、エポキシ基含有単量体を含む単量体成分を重合して、エポキシ基を含む重合体を得た後、そのエポキシ基に酸基含有単量体の酸基を付加反応させることにより、エポキシ基を開環し、その際に発生した水酸基に多塩基酸又は多塩基酸無水物を反応させてカルボキシル基を生じさせる方法(2)等が挙げられ、又は、これらを組み合わせた方法であってもよい。
上記(1)の方法では、上記構造単位(b1)は、酸基含有単量体由来の構造単位である。上記(2)の方法では、上記構造単位(b1)は、エポキシ基含有単量体由来の構造単位に酸基含有単量体を反応させ、更に多塩基酸又は多塩基酸無水物を反応させて生じたカルボキシル基を含む構造単位である。
なかでも、上記構造単位(b1)は、酸基含有単量体由来の構造単位であることが好ましい。本発明における酸基含有樹脂は、酸基含有ビニル系単量体を重合して得られる酸基含有ビニル(共)重合体が特に好ましい。
上記酸基含有単量体としては、分子内に上述した酸基と重合性二重結合(炭素-炭素二重結合)を有する化合物が挙げられる。上記重合性二重結合としては、例えば、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、アリル基、メタリル基等が挙げられる。なかでも、(メタ)アクリロイル基が好ましい。
上記酸基含有単量体の具体例としては、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸、ビニル安息香酸等の不飽和モノカルボン酸類;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸等の不飽和多価カルボン酸類;β-カルボキシエチル(メタ)アクリレート、コハク酸モノ(2-アクリロイルオキシエチル)、コハク酸モノ(2-メタクリロイルオキシエチル)等の不飽和基とカルボキシル基との間が鎖延長されている長鎖不飽和モノカルボン酸類;無水マレイン酸、無水イタコン酸等の不飽和酸無水物類;ライトエステルP-1M(共栄社化学製)等のリン酸基含有不飽和化合物;等が挙げられる。これらの中でも、汎用性、入手性等の観点から、カルボン酸系単量体(不飽和モノカルボン酸類、不飽和多価カルボン酸類、長鎖不飽和モノカルボン酸類、不飽和酸無水物類)が好ましい。反応性等の点で、上記酸基含有単量体は、より好ましくは不飽和モノカルボン酸類であり、さらに好ましくは(メタ)アクリル酸である。
上記エポキシ基含有単量体としては、分子内にエポキシ基と上記重合性二重結合を有する化合物が挙げられ、好ましくはエポキシ基含有(メタ)アクリレートが挙げられる。
上記エポキシ基含有単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸β-メチルグリシジル、(メタ)アクリル酸β-エチルグリシジル、ビニルベンジルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、(メタ)アクリル酸(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチル、ビニルシクロヘキセンオキシド等が挙げられる。なかでも、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチルが好ましく、(メタ)アクリル酸グリシジルがより好ましい。
上記多塩基酸又は多塩基酸無水物としては、例えば、コハク酸、マレイン酸、フタル酸、テトラヒドロフタル酸等の多塩基酸;無水コハク酸(別名:コハク酸無水物)、無水マレイン酸、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、エンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、メチルエンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、無水イタコン酸等の二塩基酸無水物や、トリメリット酸無水物等の多塩基酸無水物が挙げられる。なかでも、多塩基酸無水物が好ましい。
上記酸基含有重合体は、上記構造単位(b1)を1種のみ有していてもよし、2種以上を有していてもよい。
上記構造単位(b1)の含有割合は、硬化性の点で、上記酸基含有重合体の全構造単位100質量%に対して、10質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることがさらに好ましく、また、55質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましく、40質量%以下であることがさらに好ましい。例えば、上記酸基含有重合体は単量体成分100質量%中、酸基を有する単量体10~55質量%を必須として含有する単量体成分を重合して得られる重合体である
【0015】
(b2)主鎖に環構造を有する構造単位
上記酸基含有重合体は、主鎖に環構造を有する重合体であることが好ましい。主鎖に環構造を有することにより、耐熱性を向上させることができる。上記環構造としては、イミド環、テトラヒドロフラン環、ラクトン環等が挙げられる。これらの環構造を有するために、上記酸基含有重合体は、主鎖に環構造を有する構造単位(b2)をさらに有することが好ましい。
上記構造単位(b2)を導入しうる単量体としては、例えば、分子内に二重結合含有環構造を有する単量体や、環化重合して環構造を主鎖に有する重合体を形成する単量体、重合後に環構造を形成する単量体等が挙げられる。なかでも、良好な耐熱性や硬度等の観点から、N置換マレイミド系単量体、ジアルキル-2,2’-(オキシジメチレン)ジアクリレート系単量体、及び、α-(不飽和アルコキシアルキル)アクリレート系単量体からなる群より選択される少なくとも1種の単量体が好ましく、耐熱性がより一層優れる点で、N置換マレイミド系単量体、及び、ジアルキル-2,2’-(オキシジメチレン)ジアクリレート系単量体からなる群より選択される少なくとも1種の単量体がより好ましい。
上記酸基含有重合体は、上記構造単位(b2)を1種のみ有していてもよし、2種以上を有していてもよい。
上記構造単位(b2)の含有割合は、耐熱性が良好である点で、上記酸基含有重合体の全構造単位100質量%に対して、10質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることがさらに好ましく、60質量%以下であることが好ましく、55質量%以下であることがより好ましく、50質量%以下であることがさらに好ましい。
【0016】
(b3)他の構造単位
上記酸基含有重合体は、上述した構造単位(b1)及び(b2)以外の,他の構造単位(b3)を有してもよい。
上記他の構造単位(b3)としては、例えば、下記の単量体由来の構造単位が挙げられる。
(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸2,3-ヒドロキシプロピル等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート等の水酸基含有単量体;
(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸i-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸s-ブチル、(メタ)アクリル酸n-アミル、(メタ)アクリル酸s-アミル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸アダマンチル、(メタ)アクリル酸トリシクロデカニル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸2-メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2-エトキシエチル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、(メタ)アクリル酸N,N-ジメチルアミノエチル、1,4-ジオキサスピロ[4,5]デカ-2-イルメタアクリル酸、(メタ)アクリロイルモルホリン、4-(メタ)アクリロイルオキシメチル-2-メチル-2-エチル-1,3-ジオキソラン、4-(メタ)アクリロイルオキシメチル-2-メチル-2-イソブチル-1,3-ジオキソラン、4-(メタ)アクリロイルオキシメチル-2-メチル-2-シクロヘキシル-1,3-ジオキソラン、4-(メタ)アクリロイルオキシメチル-2,2-ジメチル-1,3-ジオキソラン等の(メタ)アクリル酸エステル単量体;
スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、メトキシスチレン等の芳香族ビニル系単量体;
(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸β-メチルグリシジル、(メタ)アクリル酸β-エチルグリシジル、ビニルベンジルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、(メタ)アクリル酸(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチル、ビニルシクロヘキセンオキシド等のエポキシ基含有単量体;
N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド類;
ポリスチレン、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリシロキサン、ポリカプロラクトン、ポリカプロラクタム等の重合体分子鎖の片末端に(メタ)アクリロイル基を有するマクロモノマー類;
1,3-ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等の共役ジエン類;
酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステル類;
メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、2-エチルヘキシルビニルエーテル、n-ノニルビニルエーテル、ラウリルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、メトキシエチルビニルエーテル、エトキシエチルビニルエーテル、メトキシエトキシエチルビニルエーテル、メトキシポリエチレングリコールビニルエーテル、2-ヒドロキシエチルビニルエーテル、4-ヒドロキシブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;
N-ビニルピロリドン、N-ビニルカプロラクタム、N-ビニルイミダゾール、N-ビニルモルフォリン、N-ビニルアセトアミド等のN-ビニル化合物類;
(メタ)アクリル酸イソシアナトエチル、アリルイソシアネート等の不飽和イソシアネート類;等。
なかでも、上記構造単位(b3)は、水酸基含有単量体、(メタ)アクリル酸エステル単量体、芳香族ビニル系単量体、及び、エポキシ基含有単量体からなる群より選択される少なくとも1種の単量体由来の構造単位であることが好ましい。
上記酸基含有重合体は、上記構造単位(b3)を1種のみ有していてもよいし、2種以上を有していてもよい。
上記構造単位(b3)の含有割合は、重合性が良好である点で、上記酸基含有重合体の全構造単位100質量%に対して、10質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましく、25質量%以上であることがさらに好ましく、80質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましく、40質量%以下であることがさらに好ましい。
また、上記酸基含有重合体は、側鎖に重合性二重結合を有していてもよい。側鎖に重合性二重結合を有することにより、上記重合体の硬化性を向上させることができる。上記重合性二重結合としては、上述した重合性二重結合を挙げることができる。なかでも、反応性の点で、(メタ)アクリロイル基であることが好ましい。
上記重合体が側鎖に重合性二重結合を有する場合、その二重結合当量は、200~8000g/当量であることが好ましく、250~5000g/当量であることがより好ましく、300~3000g/当量であることがさらに好ましく、400~2500g/当量であることが最も好ましい。
上記二重結合当量とは、上記重合体の二重結合1molあたりの重合体溶液の固形分の質量である。上記重合体溶液の固形分の質量とは、上記重合体を構成する単量体成分の質量と重合禁止剤の質量とを合計したものである。上記二重結合当量は、重合体溶液の重合体固形分の質量(g)を重合体の二重結合量(mol)で除することにより、求めることができる。上記重合体の二重結合量は、重合の際に使用した酸基含有単量体と、当該酸基と結合し得る官能基及び重合性二重結合を有する化合物との量から求めることができる。上記酸基と結合しうる官能基としては、水酸基、エポキシ基等が挙げられる。また、滴定及び元素分析、NMR、IR等の各種分析や示差走査熱量計法を用いて測定することもできる。
【0017】
本発明における最も好ましい酸基含有重合体は、マレイミド系単量体由来の構成単位、エステル結合を有さない不飽和カルボン酸単量体由来の構成単位、水酸基を有する単量体由来の構成単位を必須単位として有する重合体(ベースポリマー)が有するカルボキシル基に対して、カルボキシル基と反応し得る官能基を有する単量体を反応させてなる構造を有する。上記カルボキシル基は、上記重合体(ベースポリマー)中の上記エステル結合を有さない不飽和カルボン酸単量体由来の構成単位に含まれる。上記エステル結合を有さない不飽和カルボン酸単量体由来の構成単位が有するカルボキシル基の、好ましくはその一部に、カルボキシル基と反応し得る官能基を有する単量体を付加させてなる構造を有する。
上記酸基含有重合体中、上記重合体(ベースポリマー)由来の構成単位は、主鎖を構成する。上記カルボキシル基と反応し得る官能基を有する単量体由来の構成単位は、ラジカル重合性重合体の側鎖を構成する。
上記カルボキシル基と反応し得る官能基を有する単量体は、ラジカル重合性炭素-炭素二重結合(以下、単にラジカル重合性二重結合という場合がある)を有することが好ましい。
本発明における酸基含有重合体は、好ましくは、主鎖100質量%中、マレイミド系単量体由来の構成単位10~60質量%、エステル結合を有さない不飽和カルボン酸単量体由来の構成単位10~55質量%、および水酸基を有する単量体由来の構成単位10~40質量%を含み、かつ、側鎖にラジカル重合性炭素-炭素二重結合を有する。
なお、単量体単位との記載は、単量体に由来する構成単位を示し、当該単量体中の重合性炭素-炭素二重結合(C=C)が単結合(C-C)になった構造単位を意味する。例えば、マレイミド系単量体単位とは、マレイミド系単量体を共重合又はグラフト重合した場合の、マレイミド系単量体由来の構成単位を意味する。
以下に好ましい単量体について説明する。
マレイミド系単量体としては、N-フェニルマレイミド、N-(2-メチルフェニル)マレイミド、N-(4-メチルフェニル)マレイミド、N-(2,6-ジエチルフェニル)マレイミド、N-(2-クロロフェニル)マレイミド、N-メチルマレイミド、N-エチルマレイミド、N-イソプロピルマレイミド、N-ラウリルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、N-ベンジルマレイミド、N-フェニルメチルマレイミド、N-(2,4,6-トリブロモフェニル)マレイミド、N-[3-(トリエトキシシリル)プロピル]マレイミド、N-オクタデセニルマレイミド、N-ドデセニルマレイミド、N-(2-メトキシフェニル)マレイミド、N-(2,4,6-トリクロロフェニル)マレイミド、N-(4-ヒドロキシフェニル)マレイミド、N-(1-ヒドロキシフェニル)マレイミド等のN-置換マレイミドや無置換マレイミドが挙げられ、これらの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、耐熱性向上効果が大きく、共重合性が良好で、かつ入手し易いという点でN-フェニルマレイミド、N-(2-メチルフェニル)マレイミド、N-(2,6-ジエチルフェニル)マレイミド、N-ラウリルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、N-ベンジルマレイミド等が好ましく、N-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、N-ベンジルマレイミドがより好ましく、N-フェニルマレイミド、N-ベンジルマレイミドが最も好ましい。
また、N-フェニルマレイミドとN-ベンジルマレイミドとを併用することも好ましい。併用する場合のN-フェニルマレイミドとN-ベンジルマレイミドとの好ましい比率は、質量比で99:1~1:99である。
分子内に水酸基を有する単量体としては、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸2,3-ジヒドロキシプロピル等の(ジ)ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートや、2-ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリルアミド、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリルアミド、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシピバリル(メタ)アクリルアミド、5-ヒドロキシペンチル(メタ)アクリルアミド、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリルアミド等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミドが挙げられ、これらの1種または2種以上が使用可能である。中でも、共重合性の点から、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートが好ましく、特に(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチルが好ましい。
マレイミド系単量体(マレイミド系単量体単位)は、ベースポリマーを構成する全単量体成分(ベースポリマーを構成する全単量体単位100質量%)中10~60質量%であることが好ましい。マレイミド系単量体の含有量を10質量%以上とすることで、硬化物に充分な耐熱性を付与することができる。一方、含有量を60質量%以下とすることで、不飽和カルボン酸、水酸基を有する単量体に起因するアルカリ現像性、硬化物特性を充分に付与することができる。マレイミド系単量体の好ましい下限は15質量%、より好ましい下限は20質量%である。また、好ましい上限は55質量%、より好ましい上限は50質量%である。
水酸基を有する単量体(水酸基を有する単量体単位)は、ベースポリマーを構成する全単量体成分(ベースポリマーを構成する全単量体単位100質量%)中10~40質量%であることが好ましい。水酸基を有する単量体の含有量を10質量%以上とすることで良好なアルカリ現像性を発現させることができる。一方、含有量を40質量%以下とすることで、マレイミド系単量体に起因する耐熱性等の硬化物特性を充分に付与することができる。水酸基を有する単量体の好ましい下限は12質量%、より好ましい下限は15質量%である。また、好ましい上限は35質量%、より好ましい上限は30質量%である。
本発明では、特性に悪影響を及ぼさない限りにおいて、重合体(ベースポリマー)を得る際に他の共重合可能な単量体成分を使用しても良い。
エステル結合を有さない芳香族系単量体は、酢酸ビニル、アジピン酸ビニル等のビニルエステルモノマー;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル系単量体;n-プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、n-ヘキシルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、2-エチルヘキシルビニルエーテル等のアルキルビニルエーテルや対応するアルキルビニル(チオ)エーテル;無水マレイン酸等の酸無水物基含有単量体あるいはこれをアルコール類等により酸無水物基を開環変性した単量体や上記したもの以外の不飽和塩基酸;N-ビニルピロリドン、N-ビニルオキサゾリドン等のN-ビニル系単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのシアノ基含有単量体等が挙げられる。
これらの中でも、マレイミド系単量体との共重合性が良好であり、硬化物の特性にも優れることから、エステル結合を有さない芳香族系単量体が好ましい。具体例としては、スチレン、α-メチルスチレン、α-クロロスチレン、ビニルトルエン等が挙げられ、電気特性に優れ、安価である点からスチレンが最も好ましい。
エステル結合を有さない芳香族系単量体(エステル結合を有さない芳香族系単量体単位)が、ベースポリマーを構成する全単量体成分(ベースポリマーを構成する全単量体単位100質量%)中に1~35質量%含まれていることが好ましい。エステル結合を有さない芳香族系単量体の含有量を1質量%以上とすることで、硬化物特性をより充分に付与することができる。一方、含有量を35質量%以下とすることで、マレイミド系単量体、不飽和カルボン酸、水酸基を有する単量体に起因する耐熱性をより充分に付与することができる。エステル結合を有さない芳香族系単量体のより好ましい下限は5質量%、さらに好ましい下限は7質量%、特に好ましい下限は8質量%である。また、より好ましい上限は33質量%、さらに好ましい上限は30質量%である。
上記酸基含有重合体の製造方法は、単量体成分100質量%中、マレイミド系単量体10~60質量%、エステル結合を有さない不飽和カルボン酸単量体10~55質量%、および水酸基を有する単量体10~40質量%を必須として含有する上記単量体成分を反応させて重合体(ベースポリマー)を得る工程と、
上記重合体が有するカルボキシル基に対して、上記カルボキシル基と反応し得る官能基を有する単量体を反応させてラジカル重合性重合体を得る工程と、
を含んでいることが好ましい。
単量体成分を反応させて重合体(ベースポリマー)を得る工程において、該重合体を得る方法は特に限定されず、溶液重合法や塊状重合法等、従来公知の重合法の採用が可能である。中でも、重合反応中の温度制御が容易な溶液重合法が好ましい。
溶液重合の際の溶媒としては、重合を阻害したり、原料単量体各成分を変質させるおそれの無い溶媒であれば特に限定されない。使用可能な溶媒の具体的としては、トルエン、キシレン等の炭化水素類;セロソルブアセテート、カルビトールアセテート、(ジ)プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、グルタル酸(ジ)メチル、コハク酸(ジ)メチル、アジピン酸(ジ)メチル、メチルアセテート、エチルアセテート、ブチルアセテート、メチルプロピオネート等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、メチル-t-ブチルエーテル、(ジ)エチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類;N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類等が挙げられ、これらの1種または2種以上を混合して用いることができる。また、特に、マレイミド系単量体の使用量が30質量%を超える場合や(メタ)アクリル酸等の不飽和カルボン酸の使用量が30質量%を超える場合には、単量体や重合体の溶解性向上のために、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートやカルビトールアセテート等のエステル類とプロピレングリコールモノメチルエーテルやイソプロパノール等のアルコール類との混合溶媒が好ましい。
重合反応の際に使用可能な重合開始剤としては、通常のラジカル重合開始剤が挙げられる。具体的には、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(4-メトキシー2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルイソブチロニトリル)等のアゾ系化合物;ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシネオデカネート、t-ブチルパーオキシピバレート、t-アミルパーオキシオクトエート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシベンゾエート、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド等の有機過酸化物等を挙げることができ、所望する反応条件や、得られる重合体に対する要求特性に応じて適宜選択して使用すればよい。
上記重合開始剤の使用量は、上記重合反応に使用する単量体成分100質量%に対して、0.001~15質量%とするのが好ましく、より好ましくは0.01~10質量%である。
【0018】
重合体(ベースポリマー)を得る具体的手法としては特に限定されないが、溶媒中に、全ての成分を一括で仕込んで重合する方法、予め溶媒と成分の一部を仕込んだ反応容器に残りの成分を連続添加あるいは逐次添加して重合する方法等が採用可能である。
重合体(ベースポリマー)の製造では、ベースポリマーを構成する全単量体成分中、マレイミド系単量体10~60質量%、エステル結合を有さない不飽和カルボン酸単量体10~55質量%、水酸基を有する単量体10~40質量%を必須成分とする単量体を、上記重合開始剤を用いて、ラジカル重合させることが好ましい。
上記全単量体成分中、さらに、エステル結合を有さない芳香族系単量体1~35質量%を含有することが好ましい。
反応時の圧力についても特に限定はなく、常圧、加圧のいずれの条件下で行ってもよい。重合反応時の温度については、使用する原料モノマーの種類や組成比、使用溶媒の種類にもよるが、通常は20~150℃の範囲で行うのが好ましく、より好ましくは30~120℃である。
重合反応時には、重合体溶液の最終固形分濃度が10~70質量%となるように、溶媒と各単量体成分の量を設定することが好ましい。この最終固形分濃度が10質量%未満では、生産性が低くなるため好ましくない。一方、最終固形分濃度が70質量%を越える場合、溶液重合の場合でも重合液の粘度が上昇して重合転化率が上昇しないおそれがある。より好ましい最終固形分濃度は20~65質量%であり、さらに好ましくは25~60質量%である。
上記酸基含有重合体の重量平均分子量Mwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定したときの値として、ポリスチレン換算値で1,000~100,000が好ましい。Mwを1,000以上とすることで、硬化物に充分な耐熱性を付与することができる。一方、Mwを100,000以下とすることで、充分な反応性を付与することができる。Mwのより好ましい下限は2,000、さらに好ましい下限は3,000である。また、より好ましい上限は50,000、さらに好ましい上限は30,000である。
この範囲の分子量に調整するために、必要であれば、重合反応時に連鎖移動剤を用いてもよいが、用いないことでメルカプタン臭のない重合体を得ることができる。
使用する場合の使用可能な連鎖移動剤としては、重合に使用する各単量体成分に悪影響を及ぼさないものであればよく、通常、チオール化合物が使用される。具体的には、n-オクチルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン等のアルキルメルカプタン;チオフェノール等のアリールメルカプタン;メルカプトプロピオン酸、メルカプトプロピオン酸メチル等のメルカプト基含有脂肪族カルボン酸およびそのエステル等が好ましい物として挙げられる。連鎖移動剤の使用量は特に限定されず、所望の分子量を有する重合体が得られるように適宜調節すればよいが、一般的には、重合に使用される単量体総量に対して、0.1~15質量%とするのが好ましく、より好ましくは0.5~10質量%である。
次に、酸基含有重合体を得る工程において、重合体(ベースポリマー)が有するカルボキシル基に対して、カルボキシル基と反応し得る官能基を有する単量体を反応させてラジカル重合性を付与し、ラジカル重合性の酸基含有重合体を得る。ラジカル重合性を付与するために、好ましくは、ラジカル重合性炭素-炭素二重結合導入反応を行う。ラジカル重合性基(好ましくは炭素-炭素二重結合)導入反応は、上記重合体のカルボキシル基と、カルボキシル基と反応し得る官能基ならびにラジカル重合性基(好ましくは炭素-炭素二重結合)を有する単量体の上記官能基との反応であり、メチルハイドロキノンや酸素等の重合禁止剤と、トリエチルアミン等の3級アミン、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド等の4級アンモニウム塩、2-エチル-4-メチルイミダゾール等のイミダゾール類、トリフェニルホスフィン等のリン化合物、金属の有機酸塩および無機酸塩、キレート化合物等の反応触媒の共存下で、80~130℃程度で行うことができる。また、他の態様として、カルボキシル基と共に、またはカルボキシル基に代えて、上記他の酸基と反応させてもよい。
カルボキシル基等の酸基と反応し得る官能基としては、グリシジル基、オキサゾリニル基、イソシアネート基およびオキセタニル基よりなる群から選択されることが好ましい。ラジカル重合性炭素-炭素二重結合は(メタ)アクリロイル基であることが好ましい。
グリシジル基を有する単量体の具体例としては、グリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル、α-エチルグリシジル(メタ)アクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシルメチルアクリレート(例えば、ダイセル化学工業社製の「サイクロマーA400」等)、3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレート(例えば、ダイセル化学工業社製の「サイクロマーM100」等)等が挙げられる。
オキサゾリニル基を有する単量体の具体例としては、N-ビニルオキサゾリン、2-イソプロペニル-2-オキサゾリン等が挙げられる。
イソシアネート基を有する単量体の具体例としては、(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート、(メタ)アクリロイルオキシエトキシエチルイソシアネート、ビス(アクリロキシメチル)エチルイソシアネートあるいはこれらの変性体等が挙げられる。より具体的には、「カレンズMOI」(メタクリロイルオキシエチルイソシアネート)、「カレンズAOI」(アクリロイルオキシエトキシエチルイソシアネート)、「カレンズMOI-EG」(メタクリロイルオキシエトキシエチルイソシアネート)、「カレンズMOI-BM」(カレンズMOIのイソシアネートブロック体)、「カレンズMOIBP」(カレンズMOIのイソシアネートブロック体)、「カレンズBEI」(ビス(アクリロキシメチル)エチルイソシアネート)が、昭和電工社から市販されている。なお、これらの商品名は、いずれも登録商標である。
オキセタニル基を有する単量体(i)の具体例としては、3-(メタ)アクリロイルオキシメチルオキセタン、3-エチル-3-(メタ)アクリロイルオキシメチルオキセタン等が挙げられる。
これら単量体のうち1種または2種以上を用いることができる。これらの中でも反応性や工業的入手性の観点から、グリシジル(メタ)アクリレートや3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレートが好ましい。特に好ましくは、グリシジルメタクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレートである。
ラジカル重合性の酸基含有重合体においては、二重結合当量が200~8000g/当量になるように、ラジカル重合性炭素-炭素二重結合導入反応を行うことが好ましい。二重結合当量は硬化性や硬化物の物性に関連しており、上記範囲にすることで、耐熱性や強度、可撓性等の物性に優れた硬化物を与えることができる。二重結合当量のより好ましい範囲は、300~3000g/当量であり、さらに好ましくは400~2500g/当量である。
上記のようにして得られるラジカル重合性の酸基含有重合体の酸価は、30mgKOH/g以上が好ましく、40mgKOH/g以上がより好ましく、50mgKOH/g以上がさらに好ましく、また250mgKOH/g以下が好ましく、200mgKOH/g以下がより好ましく、180mgKOH/g以下がさらに好ましい。ラジカル重合性の酸基含有重合体の酸価が30mgKOH/g以上とすることで、良好な反応性を発現しやすくなる。また、酸価が250mgKOH/g以下であれば、硬化物の耐水性や耐湿性が向上する。
カルボキシル基と反応し得る官能基を有する単量体の使用量は、ラジカル重合性炭素-炭素二重結合導入反応を行う前の重合体が有するカルボキシル基1当量に対し0.01~0.99当量の範囲で、かつ、得られるラジカル重合性の酸基含有重合体の二重結合当量と酸価が上記好適範囲になるように決定することが好ましい。なお、ラジカル重合性の酸基含有重合体のMwの好適範囲は、上記ラジカル重合性炭素-炭素二重結合導入反応前の重合体のMwの好適範囲と同様である。
上記ラジカル重合性の酸基含有重合体は、カルボキシル基とラジカル重合性基(好ましくはラジカル重合性炭素-炭素二重結合)の両方を有していることから、単独でも硬化性樹脂とすることもできるが、上記の(A)特定の骨格を有するエポキシ樹脂と反応させることで、架橋密度の制御や剛直骨格を導入でき、耐熱性および可撓性がさらに優れる硬化物を得ることができる。
【0019】
本発明の(A)特定の骨格を有するエポキシ樹脂および(B)特定の酸基含有樹脂を必須として含む硬化性樹脂組成物の製造方法について述べる。混合する比率としては、上記エポキシ樹脂(A)と上記酸基含有樹脂(B)の比率(質量比)は、両者の合計100を基準として、A/B=1~99/99~1が好ましく、10~90/90~10がより好ましい。Aが1質量%未満では剛直性が低下する場合があり、99質量%を越えると、可撓性が向上しない場合がある。また、上記エポキシ樹脂(A)と上記酸基含有樹脂(B)の比率(モル比)は、両者の合計10を基準として、A/B=6~4/4~6が好ましく、5/5の等モルがより好ましい。
上記混合比率は、得られる硬化性樹脂組成物における上記エポキシ樹脂(A)と上記酸基含有樹脂(B)の比率と同じである。
また、硬化の方法について述べると、例えば、加熱することで無触媒でも硬化可能である。ここでの加熱温度(反応温度)は50~280℃が好ましい。より好ましい反応温度上限は250℃、さらに好ましくは200℃で、この温度以下で反応させることで、副反応に起因する着色をより低減できる。また、より好ましい反応温度下限は55℃、さらに好ましくは60℃である。この温度以上とすることで、速やかに反応が進行する。
また、硬化触媒を用いることにより、更に容易に硬化せしめることが可能となる。
硬化触媒は、特に限定されず、従来公知のエポキシ樹脂用硬化触媒を用いることができるが、好ましくはトリフェニルホスフィン;ベンジルジメチルアミンおよびジメチルアミノメチルフェノール等の第三級アミン類;2-エチル-4-メチルイミダゾールおよび1-シアノエチルー2-エチル-4-メチルイミダゾール等のイミダゾール類;これらイミダゾール類のアクリロニトリル、トリメリット酸またはジシアンジアミド等による変性物;第四級アンモニウム塩:第四級ホスホニウム化合物であり、より好ましくはトリフェニルホスフィンである。かかる硬化触媒の使用量は、特に限定されないが上記エポキシ樹脂(A)と上記酸基含有樹脂(B)の合計100質量部に対し、0.01質量部~20質量部が好ましく、0.1質量部~10質量部が特に好ましい。
また、硬化触媒の変わりに光重合開始剤を使用しても良い。光重合開始剤を使用することで光硬化が可能となる。係る光重合開始剤としては、オニウム塩またはカチオン有機金属類が例示される。さらには光酸発生剤及び/又は熱酸発生剤を併用しても良い。さらには光ラジカル重合開始剤を併用しても良い。
本発明の組成物は、必要により反応性希釈剤が添加されたものであってもよい。かかる希釈剤としては、その他のラジカル重合性樹脂とラジカル重合性モノマーとが挙げられる。ラジカル重合性樹脂としては、不飽和ポリエステル、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、エポキシアクリレート等が使用できる。また、アルキルグリシジルエーテル、o-クレジルグリシジルエーテル、アルキルフェノールグリシジルエーテル、シクロヘキサンジメタノールモノグリシジルエーテル、臭素含有グリシジルエーテル、などの単官能の低分子グリシジルエーテルが例示される。
本発明の組成物は、基材との接着性を高めるために接着性増強剤を添加されたものであってもよい。その具体例としては、例えばN-(β-アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(β-アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-(β-アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシランおよびγ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γートリエトキシシリルーN(1,3-ジメチルブチリデン)プロピルアミン等が例示される。
本発明の硬化性樹脂組成物は、硬化速度を調整するため、フェノール、ビスフェノールAやフェノール樹脂、フェノキシ樹脂などが添加されたものであっても良い。作業性を調整するためにエポキシ基やイソシアネート基、ビニル基を含有するシランカップリング剤、シリカなどのチクソ性付与剤、紫外線吸収剤、艶消し剤、顔料、充填剤などが添加されたものであっても良い。
本発明の硬化性樹脂組成物は、本発明の課題を達成できる範囲内で、他の成分を含んでもよい。他の成分としては、例えば、ガラス繊維または炭素繊維等の繊維類;シリカ、アルミナ、ジルコニアまたは窒化ホウ素等の無機物;および、カーボンブラックまたはステアリン酸亜鉛等の滑材などの添加物が挙げられる。また、タルク、クレー、硫酸バリウム等の充填材、着色用顔料、消泡剤、カップリング剤、レベリング剤、増感剤、離型剤、滑剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、重合抑制剤、増粘剤等の公知の添加剤を添加してもよい。また、各種強化繊維を補強用繊維として用い、繊維強化複合材料とすることができる。
【0020】
本発明の硬化性樹脂組成物の溶媒として用いる有機溶剤としては、環境への負担軽減の点から、窒素原子および硫黄原子のいずれも含まない極性溶剤を主成分(好ましくは全有機溶剤中90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、特に好ましくは99質量%以上100質量%以下)として含むことが好ましい。このような汎用溶媒を使用することで、電気電子産業等の各種分野での適用が容易となる。
本発明における有機溶剤としては、環境面、取扱い性、保存安定性の点から、例えば水酸基を有さないエーテル系、エステル系、ケトン系等の溶剤が挙げられ、特にエーテル系溶剤が好ましい。
エーテル系溶剤としては、公知のものが使用可能であるが、例えばエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル等のエチレングリコールジアルキルエーテル類;ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジブチルエーテル等のポリエチレングリコールジアルキルエーテル類;エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のエチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類;ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のポリエチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類;プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジブチルエーテル等のプロピレングリコールジアルキルエーテル類;ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジブチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールジエチルエーテル、トリプロピレングリコールジブチルエーテル等のポリプロピレングリコールジアルキルエーテル類;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のプロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類;ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート、トリプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、トリプロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、トリプロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のポリプロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類;等が挙げられる。
有機溶剤の使用量は、上記エポキシ樹脂(A)と上記酸基含有樹脂(B)の合計100質量部に対し、900質量部以下、より好ましくは500質量部以下である。好ましい下限値としては、上記エポキシ樹脂(A)と上記酸基含有樹脂(B)の合計100質量部に対し、0質量部以上、より好ましくは50質量部以上である。上記数値範囲に制御することで、組成物の取り扱い性や保存安定性の効率が向上する。
本発明においては、好ましくは有機溶剤を少量ないし用いることなく、熱や光反応を経て架橋構造を有する硬化物が得られる。
さらに、本発明の硬化性樹脂組成物の硬化物は、ガラス転移温度が高く、耐熱性が優れる。本発明の硬化物のガラス転移温度は、特に限定されないが、好ましくは100℃以上であり、より好ましくは105℃以上であり、さらに好ましくは110℃以上である。
本発明の硬化性樹脂組成物を硬化する方法は特に限定されず、上記したような従来公知のエポキシ樹脂組成物を硬化する方法を適用することができる。
また、本発明の硬化物を成形する際は、加圧条件で行ってもよい。また、延伸加工によりフィルム状にしてもよい。
【実施例0021】
以下、実施例によって本発明をさらに詳述するが、下記実施例は本発明を制限するものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施することは全て本発明の技術的範囲に包含される。
本発明の硬化性樹脂組成物および該組成物から得られる硬化物に関し、合成例、実施例、比較例および特性評価により具体的に示す。なお、実施例および比較例では、特に記載しない限り%は質量%を、部は質量部を意味する。
〈物性の評価〉
1.エポキシ当量;JIS K7236:2001に準じて測定した。
2.酸価;各溶液約0.3gを精秤し、アセトン90g/水10g混合溶媒に溶解し、0.1規定のKOH水溶液を滴定液として用いて、自動滴定装置(平沼産業社製)により酸価を測定した。
3.重量平均分子量(Mw);ポリスチレンを標準物質とし、テトラヒドロフランを溶離液とし、カラムにTSKgel SuperHZM -M( 東ソー社製) を用い、HLC-8220GPC(東ソー社製)によるGPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)法にて重量平均分子量(Mw)を測定した。
4.熱機械特性(TMA);各溶液を固形分質量が表1の割合となるように配合して熱硬化性樹脂溶液(硬化性樹脂組成物)を調製した。ポリエチレンテレフタレートフィルムに乾燥後の膜厚が約60μmになるように塗布し、70℃で20分間乾燥させ、200℃で1時間硬化させて冷却した後、剥離した硬化塗膜を幅5mmに切り出して測定用試料とした。サーモメカニカルアナライザーBruker AXS TMA 4000(ブルカー・エイエックスエス(株))を用い、チャック間距離20mmで引っ張りモードにより熱分析し、ガラス転移温度(Tg)、50~200℃における平均線膨張率α50~200(ppm/℃)により評価した。
5.可撓性;熱機械特性(TMA)測定用試料を用い、1mm径のエナメル線に巻き付けて、破断の有無で可撓性を評価した。
〈合成例1〉
エポキシ樹脂(A-1)の合成
撹拌装置、温度計、還流冷却器、ガス導入管を備えた容器に、ビフェニル型エポキシ樹脂(商品名「YX4000」;三菱ケミカル製;エポキシ当量186)100部、ビスフェノールS33.6部、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート122.7部、反応触媒としてトリフェニルホスフィン0.5部を加え、窒素ガスをバブリングしながら130℃で5時間反応させて、エポキシ基定量によりフェノール性ヒドロキシル基とエポキシ基との反応完結を確認した。次いでプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート77.7部を加え、エポキシ当量497、重量平均分子量2800の鎖延長エポキシ樹脂(A-1)を40%含むプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート溶液を得た。
〈合成例2〉
エポキシ樹脂(A-2)の合成
撹拌装置、温度計、還流冷却器、ガス導入管を備えた容器に、合成例1で用いたものと同じビフェニル型エポキシ樹脂「YX4000」100部、ビスフェノールS44.9部、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート144.9部、反応触媒としてトリフェニルホスフィン0.5部を加え、窒素ガスをバブリングしながら130℃で7時間反応させて、エポキシ基定量によりフェノール性ヒドロキシル基とエポキシ基との反応完結を確認した。次いでプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート72.4部を加え、エポキシ当量809、重量平均分子量5600の鎖延長エポキシ樹脂(A-2)を40%含むプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート溶液を得た。
〈合成例3〉
酸基含有樹脂(B-1)の合成
反応槽としての冷却管付きセパラブルフラスコに、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート91.1部、イソプロパノール30.4部を仕込み、窒素置換した後、100℃に昇温した。他方、滴下槽1にスチレンを59.5部、アクリル酸を30.5部、メタアクリル酸2-ヒドロキシエチルを10部、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを133.9部、イソプロパノールを44.6部混合したもの、滴下槽2に重合開始剤としてパーブチルO(商品名;日本油脂社製、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート)16部をそれぞれ仕込んだ。反応温度を100℃に保ちながら、滴下槽1、2から3時間かけて滴下を行った。滴下終了後から更に100℃で30分、反応を継続した。その後、反応温度を115℃に昇温し、1.5時間反応を継続した。次いで、サイクロマーM100(ダイセル化学工業社製)を45.5部、反応触媒としてトリフェニルホスフィンを0.2部、重合禁止剤としてアンテージW-400を0.2部加え、窒素と酸素との混合ガス(酸素濃度7%)をバブリングしながら115℃で反応させて、酸価81mgKOH/g、重量平均分子量6100の酸基含有樹脂(B-1)を40.2%含むプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート溶液を得た。
〈合成例4〉
酸基含有樹脂(B-2)の合成
反応槽としての冷却管付きセパラブルフラスコに、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート88.3部、イソプロパノール29.4部を仕込み、窒素置換した後、100℃に昇温した。他方、滴下槽1にN-フェニルマレイミドを40部、アクリル酸を30.5部、メタアクリル酸2-ヒドロキシエチルを10部、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを136.7部混合したもの、滴下槽2にスチレンを19.5部、イソプロパノールを45.6部混合したもの、滴下槽3に重合開始剤としてパーブチルO12部をそれぞれ仕込んだ。反応温度を100℃に保ちながら、滴下槽1~3から3時間かけて滴下を行った。滴下終了後から更に100℃で30分、反応を継続した。その後、反応温度を115℃に昇温し、1.5時間反応を継続した。次いで、サイクロマーM100を45.5部、反応触媒としてトリフェニルホスフィンを0.2部、重合禁止剤としてアンテージW-400を0.2部加え、窒素と酸素との混合ガス(酸素濃度7%)をバブリングしながら115℃で反応させて、酸価92mgKOH/g、重量平均分子量5300の酸基含有樹脂(B-2)を38.8%含むプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート溶液を得た。
〈合成例5〉
酸基含有樹脂(B-3)の合成
反応槽としての冷却管付きセパラブルフラスコに、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート82.4部、イソプロパノール35.3部を仕込み、窒素置換した後、100℃に昇温した。他方、滴下槽1にN-フェニルマレイミドを40部、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを128部、イソプロパノールを32部混合したもの、滴下槽2にスチレンを13部、メタアクリル酸2-ヒドロキシエチルを20部、メタアクリル酸を27部、イソプロパノールを22.2部混合したもの、滴下槽3に重合開始剤としてパーブチルO10部をそれぞれ仕込んだ。反応温度を100℃に保ちながら、滴下槽1~3から3時間かけて滴下を行った。滴下終了後から更に100℃で30分、反応を継続した。その後、反応温度を115℃に昇温し、1.5時間反応を継続した。次いで、サイクロマーM100を13.7部、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを31.2部、反応触媒としてトリフェニルホスフィンを0.7部、重合禁止剤としてアンテージW-400を0.2部加え、窒素と酸素との混合ガス(酸素濃度7%)をバブリングしながら115℃で反応させて、酸価124mgKOH/g、重量平均分子量7400の酸基含有樹脂(B-3)を32.0%含むプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート溶液を得た。
【0022】
硬化性樹脂組成物における各配合と硬化物の特性評価結果を表1に示す。
【0023】
【表1】
YX4000 :三菱ケミカル製ビフェニル型エポキシ樹脂。
エポキシ当量186。融点105℃
828EL :三菱ケミカル製ビスフェノールA型エポキシ樹脂。
エポキシ当量186。室温で液状、融点は室温以下。
YD-134 :日鉄ケミカル&マテリアル製ビスフェノールA型エポキシ樹脂。
エポキシ当量248。室温で半固形、融点は室温以下。
YX8100BH30:三菱ケミカル製フェノキシ樹脂(ビフェニル骨格とビスフェノールS骨格を有する)。重量平均分子量36649。固形分30.3%のメチルエチルケトン、アノンの混合溶液。明確な融点を示さず。

※比較例4の-は伸び大きく、評価不能。

実施例1~6と、比較例1~3および5との比較より、エポキシ樹脂としてビフェニル骨格とビスフェノールS骨格を有することの優位性を確認できた。
エポキシ樹脂としてA-1、酸基含有樹脂としてB-3を用いた実施例4はガラス転移温度(Tg)が高く、平均線膨張率(α50~200)は低く、可撓性は良好であり、本発明の硬化性樹脂組成物として優れていることを確認できた。B-3の酸基含有樹脂は、主鎖環構造を有するカルボキシル基含有共重合体であり、酸基含有樹脂の中でも好適な樹脂であることを確認できた。ビフェニル骨格とビスフェノールS骨格を有するフェノキシ樹脂と酸基含有樹脂としてB-2を用いた比較例4はガラス転移温度(Tg)が高いものの、平均線膨張率(α50~200)は測定困難であり硬化物としては不適なものとなったことより、エポキシ当量や分子量について好適な範囲を確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明の硬化性樹脂組成物は、取り扱い性、熱機械特性に優れつつも脆さの発現しないものである。従って、フィルム、塗料、接着剤、電気・電子機器等の用途で好適に使用できる。