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特開2022-29888エンドトキシン測定試薬の製造方法及びエンドトキシンの測定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022029888
(43)【公開日】2022-02-18
(54)【発明の名称】エンドトキシン測定試薬の製造方法及びエンドトキシンの測定方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 9/00 20060101AFI20220210BHJP
   G01N 21/78 20060101ALI20220210BHJP
   G01N 33/579 20060101ALI20220210BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20220210BHJP
   C12N 9/64 20060101ALI20220210BHJP
   C12Q 1/25 20060101ALI20220210BHJP
   C12Q 1/37 20060101ALI20220210BHJP
【FI】
C12N9/00 ZNA
G01N21/78 C
G01N33/579
G01N33/53 S
C12N9/64 Z
C12Q1/25
C12Q1/37
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020133471
(22)【出願日】2020-08-06
(71)【出願人】
【識別番号】000219451
【氏名又は名称】東亜ディーケーケー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】野田 健一
【テーマコード(参考)】
2G054
4B050
4B063
【Fターム(参考)】
2G054AA06
2G054BB10
2G054CA21
2G054EA01
4B050CC03
4B050CC08
4B050DD11
4B050LL03
4B063QA01
4B063QQ17
4B063QQ91
4B063QR01
4B063QR16
4B063QR24
4B063QS28
4B063QS36
4B063QX01
(57)【要約】
【課題】本発明は、より簡便かつ高感度にエンドトキシンを測定するための組換えC因子、組換えB因子、及び組換え前凝固酵素を含有するエンドトキシン測定試薬の調製方法を提供する。
【解決手段】カブトガニ由来のC因子をコードする遺伝子を保有させたピキア・パストリス(Pichia pastoris)の形質転換体と、カブトガニ由来のB因子をコードする遺伝子を保有させたピキア・パストリス(Pichia pastoris)の形質転換体と、カブトガニ由来の前凝固酵素をコードする遺伝子を保有させたピキア・パストリス(Pichia pastoris)の形質転換体とをそれぞれ培養し、得られた培養物を原料とし、組換えC因子、組換えB因子、及び組換え前凝固酵素を含有するエンドトキシン測定試薬を調製する、エンドトキシン測定試薬の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組換えC因子と組換えB因子と組換え前凝固酵素を含有するエンドトキシン測定試薬の製造方法であって、
(a)カブトガニ由来のC因子をコードする遺伝子を保有させたピキア・パストリス(Pichia pastoris)の形質転換体を培養して、組換えC因子を含有する培養物を得る培養工程と、
(b)カブトガニ由来のB因子をコードする遺伝子を保有させたピキア・パストリス(Pichia pastoris)の形質転換体を培養して、組換えB因子を含有する培養物を得る培養工程と、
(c)カブトガニ由来の前凝固酵素をコードする遺伝子を保有させたピキア・パストリス(Pichia pastoris)の形質転換体を培養して、組換え前凝固酵素を含有する培養物を得る培養工程と、
(d)前記工程(a)で得られた培養物、前記工程(b)で得られた培養物、及び前記工程(c)で得られた培養物を原料とし、前記組換えC因子、前記組換えB因子、及び前記組換え前凝固酵素のいずれかを含有するエンドトキシン測定試薬を調製する調製工程と、
を有することを特徴とする、エンドトキシン測定試薬の製造方法。
【請求項2】
組換えC因子と組換えB因子と組換え前凝固酵素を含有するエンドトキシン測定試薬の製造方法であって、
カブトガニ由来のC因子をコードする遺伝子、カブトガニ由来のB因子をコードする遺伝子、及びカブトガニ由来の前凝固酵素をコードする遺伝子を保有させたピキア・パストリス(Pichia pastoris)の形質転換体を培養して、組換えC因子、組換えB因子、及び組換え前凝固酵素を含有する培養物を得る培養工程と、
前記培養工程で得られた培養物を原料とし、前記組換えC因子、前記組換えB因子、及び前記組換え前凝固酵素のいずれかを含有するエンドトキシン測定試薬を調製する調製工程と、
を有することを特徴とする、エンドトキシン測定試薬の製造方法。
【請求項3】
前記カブトガニ由来のC因子が、野生型カブトガニC因子又はその変異体であり、
前記カブトガニ由来のB因子が、野生型カブトガニB因子又はその変異体であり、
前記カブトガニ由来の前凝固酵素が、野生型カブトガニ前凝固酵素又はその変異体である、
請求項1又は2のエンドトキシン測定試薬の製造方法。
【請求項4】
前記培養物が、培養上清である、請求項1~3のいずれか一項に記載のエンドトキシン測定試薬の製造方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のエンドトキシン測定試薬の製造方法によりエンドトキシン測定試薬を調製する調製工程と、
前記調製工程において得られたエンドトキシン測定試薬と、前記前凝固酵素の変換により得られる凝固酵素の基質と、被験試料とを混合して反応させ、前記凝固酵素の酵素活性に基づき、前記被験試料のエンドトキシンを測定する測定工程と、
を有する、エンドトキシンの測定方法。
【請求項6】
前記基質が、前記凝固酵素の基質となるペプチドに、標識物質が結合した合成基質であり、前記凝固酵素の酵素活性を、前記合成基質が前記凝固酵素により分解されることで遊離した前記標識物質に基づき測定される、請求項5に記載のエンドトキシンの測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、C因子とB因子と前凝固酵素がいずれも組換えタンパク質であるエンドトキシン測定試薬の製造方法、及び当該エンドトキシン測定試薬を用いてエンドトキシンを測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エンドトキシンは、グラム陰性菌の細胞壁を構成するリポ多糖であり、非常に強力な毒素である。このため、水、医薬品、飲食品等におけるエンドトキシン汚染の検出が非常に重要である。エンドトキシンの検出は、一般的に、カブトガニ(リムルス・ポリフェムス;Limulus polyphemusあるいはタキプレウス・トリデンタツス:Tachypleus tridentatus、タキプレウス・ギガス:Tachypleus gigas、カルノスコルピウス・ロツデカウダCarcinoscorpius rotundicauda)の血球抽出成分(amebocyte lysate)より調製されたライセート試薬を用いて行われる。
【0003】
このライセート試薬には、カブトガニ由来のC因子とB因子と前凝固酵素(プロクロッティングエンザイム)とコアギュローゲンが含まれている。エンドトキシンを含むサンプルにライセート試薬を混合すると、エンドトキシンによってC因子が活性化され、この活性型C因子によりB因子が活性化され、この活性型B因子により前凝固酵素が活性化されて凝固酵素(クロッティングエンザイム)が生成される。ライセート試薬中のコアギュローゲンが凝固酵素により加水分解される結果、コアギュリンが生成され、当該ライセート試薬は不溶性のゲルになる。このゲルの量を測定することにより、エンドトキシンの量を測定することができる。その他、ペプチドに凝固酵素による消化部位によって発色色素を結合させた合成基質を反応系に添加しておき、凝固酵素による消化によって合成基質から遊離した発色色素による発色量を測定することによっても、エンドトキシンの量を測定することができる。
【0004】
このライセート試薬は、カブトガニから調製しなければならず、安定供給や生物資源保護の点から好ましくない。そこで、C因子とB因子と前凝固酵素を、遺伝子組換え技術を利用して組み換えタンパク質として合成し、これらを含む試薬が、エンドトキシン測定試薬として利用されている(例えば、特許文献1及び2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-150903公報
【特許文献2】国際公開第2008/004674号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
C因子等の組換えタンパク質を製造する発現系としては、大腸菌や酵母、昆虫細胞等を利用した発現系が利用されている。中でも、大量生産に適しており、かつ糖鎖修飾等の発現後修飾が真核生物由来のタンパク質発現に適していることから、ヨトウムシ(Spodoptera frugiperda)由来の培養細胞であるSf9昆虫細胞が汎用されている。
【0007】
しかしながら、Sf9細胞を宿主とした場合には、C因子等の発現量が不充分なため、組換え細胞を培養させた培養上清をそのままエンドトキシン測定試薬としてエンドトキシンの測定に用いることは難しい。培養上清をそのままエンドトキシン測定に利用すると、発現量不足でC因子の活性が弱く、エンドトキシンの検出感度が不充分である。このため、充分な感度でエンドトキシンを検出するためには、培養上清から組換えタンパク質を濃縮等することにより、比活性を向上させる必要があった。
【0008】
そこで、本発明は、組換えタンパク質から構成されるエンドトキシン測定試薬の製造方法であって、より効率的にエンドトキシン測定試薬を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記目的を達成するべく鋭意研究したところ、エンドトキシン測定試薬として使用するカブトガニ由来のC因子とB因子と前凝固酵素を組換えタンパク質として調製する場合に、組換え宿主をメタノール資化性酵母ピキア・パストリス(Pichia pastoris)とすることにより、培養上清または細胞破砕抽出物を濃縮操作せずにエンドトキシン測定試薬として使用した場合でも、0.001EU/mLの極微量のエンドトキシンを充分な感度で検出できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明に係るエンドトキシン測定試薬の製造方法及びエンドトキシンの測定方法は、下記[1]~[6]である。
[1] 組換えC因子と組換えB因子と組換え前凝固酵素を含有するエンドトキシン測定試薬の製造方法であって、
(a)カブトガニ由来のC因子をコードする遺伝子を保有させたピキア・パストリス(Pichia pastoris)の形質転換体を培養して、組換えC因子を含有する培養物を得る培養工程と、
(b)カブトガニ由来のB因子をコードする遺伝子を保有させたピキア・パストリス(Pichia pastoris)の形質転換体を培養して、組換えB因子を含有する培養物を得る培養工程と、
(c)カブトガニ由来の前凝固酵素をコードする遺伝子を保有させたピキア・パストリス(Pichia pastoris)の形質転換体を培養して、組換え前凝固酵素を含有する培養物を得る培養工程と、
(d)前記工程(a)で得られた培養物、前記工程(b)で得られた培養物、及び前記工程(c)で得られた培養物を原料とし、前記組換えC因子、前記組換えB因子、及び前記組換え前凝固酵素を含有するエンドトキシン測定試薬を調製する調製工程と、
を有することを特徴とする、エンドトキシン測定試薬の製造方法。
[2] 組換えC因子と組換えB因子と組換え前凝固酵素を含有するエンドトキシン測定試薬の製造方法であって、
カブトガニ由来のC因子をコードする遺伝子、カブトガニ由来のB因子をコードする遺伝子、及びカブトガニ由来の前凝固酵素をコードする遺伝子を保有させたピキア・パストリス(Pichia pastoris)の形質転換体を培養して、組換えC因子、組換えB因子、及び組換え前凝固酵素を含有する培養物を得る培養工程と、
前記培養工程で得られた培養物を原料とし、前記組換えC因子、前記組換えB因子、及び前記組換え前凝固酵素を含有するエンドトキシン測定試薬を調製する調製工程と、
を有することを特徴とする、エンドトキシン測定試薬の製造方法。
[3] 前記カブトガニ由来のC因子が、野生型カブトガニC因子又はその変異体であり、
前記カブトガニ由来のB因子が、野生型カブトガニB因子又はその変異体であり、
前記カブトガニ由来の前凝固酵素が、野生型カブトガニ前凝固酵素又はその変異体である、
前記[1]又は[2]のエンドトキシン測定試薬の製造方法。
[4] 前記培養物が、培養上清である、前記[1]~[3]のいずれかのエンドトキシン測定試薬の製造方法。
[5] 前記[1]~[4]のいずれかのエンドトキシン測定試薬の製造方法によりエンドトキシン測定試薬を調製する調製工程と、
前記調製工程において得られたエンドトキシン測定試薬と、前記前凝固酵素の変換により得られる凝固酵素の基質と、被験試料とを混合して反応させ、前記凝固酵素の酵素活性に基づき、前記被験試料のエンドトキシンを測定する測定工程と、
を有する、エンドトキシンの測定方法。
[6] 前記基質が、前記凝固酵素の基質となるペプチドに、標識物質が結合した合成基質であり、前記凝固酵素の酵素活性を、前記合成基質が前記凝固酵素により分解されることで遊離した前記標識物質に基づき測定される、前記[5]のエンドトキシンの測定方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明においては、培養液の単位量当たりのタンパク質生産性の高いピキア・パストリス(Pichia pastoris)を組換え宿主とすることにより、C因子等の組換えタンパク質の生産性を飛躍的に向上させることができる。よって、本発明を利用することにより、組換え細胞の培養上清を、濃縮操作等の比活性を向上させる処理を行わずに直接測定用試薬として使用した場合でも、充分な感度でエンドトキシンの検出が可能なエンドトキシン測定試薬を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1において、各組換え細胞の培養上清のSDS-PAGEをして分離したタンパク質のバンドの染色画像である。
図2】実施例1において、C因子、B因子、及び前凝固酵素をピキア・パストリス(Pichia pastoris)細胞内で発現させて得られた組換えタンパク質からなるエンドトキシン測定試薬を用いて、発光合成基質法により被験試料中のエンドトキシンを測定した場合の発光強度の測定値(RLU)を、反応液中のエンドトキシン濃度ごとにプロットした図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係るエンドトキシン測定試薬の製造方法は、組換えC因子と組換えB因子と組換え前凝固酵素を含有するエンドトキシン測定試薬の製造方法であって、これらの組換えタンパク質を生産させる組換え宿主として、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)の細胞を用いることを特徴とする。ピキア・パストリス(Pichia pastoris)は、昆虫細胞よりもタンパク質生産量が非常に高く、組換え宿主として用いた場合に培養液の単位量当たりに生産される組換えタンパク質の量が、昆虫細胞よりもはるかに多い。本発明に係るエンドトキシン測定試薬の製造方法においては、組換え宿主として培養液の単位量当たりのタンパク質生産性の高いピキア・パストリス(Pichia pastoris)を用いることにより、組換え細胞の培養上清を、濃縮操作等の比活性を向上させる処理をせずとも、充分な検出感度のエンドトキシン測定試薬とすることができる。
【0014】
本発明に係るエンドトキシン測定試薬の製造方法は、具体的には、下記工程(a)~(d)を有する。
(a)カブトガニ由来のC因子をコードする遺伝子を保有させたピキア・パストリス(Pichia pastoris)の形質転換体を培養して、組換えC因子を含有する培養物を得る培養工程と、
(b)カブトガニ由来のB因子をコードする遺伝子を保有させたピキア・パストリス(Pichia pastoris)の形質転換体を培養して、組換えB因子を含有する培養物または細胞破砕抽出精製物を得る培養工程と、
(c)カブトガニ由来の前凝固酵素をコードする遺伝子を保有させたピキア・パストリス(Pichia pastoris)の形質転換体を培養して、組換え前凝固酵素を含有する培養物または細胞破砕抽出精製物を得る培養工程と、
(d)前記工程(a)で得られた培養物、前記工程(b)で得られた培養物、及び前記工程(c)で得られた培養物を原料とし、前記組換えC因子、前記組換えB因子、及び前記組換え前凝固酵素を含有するエンドトキシン測定試薬を調製する調製工程。
【0015】
本発明及び本願明細書において、「カブトガニ」とは、例えば、タキプレウス・トリデンタツス(Tachypleus tridentatus)やタキプレウス・ギガス(Tachypleus gigas)等のタキプレウス(Tachypleus)属に属するカブトガニ、リムルス・ポリフェムス(Limulus polyphemus)等のリムルス(Limulus)属に属するカブトガニ、カルシノスコルピウス・ロツンディカウダ(Carcinoscorpius rotundicauda)等のカルシノスコルピウス(Carcinoscorpius)属に属するカブトガニが挙げられる。
【0016】
本発明において用いられる「カブトガニ由来のC因子をコードする遺伝子」としては、野生のカブトガニ血球抽出物から精製されるC因子と同じアミノ酸配列からなる野生型のタンパク質をコードする遺伝子であってもよく、野生型タンパク質に各種変異が導入された変異型のタンパク質(変異体)をコードする遺伝子であってもよく、野生型タンパク質又は変異体のN末端やC末端にその他のペプチドやタンパク質が融合した改変体であってもよい。同様に、本発明において用いられる「カブトガニ由来のB因子をコードする遺伝子」及び「カブトガニ由来の前凝固酵素をコードする遺伝子」としては、それぞれ、野生のカブトガニ血球抽出物から精製されるB因子又は前凝固酵素と同じアミノ酸配列からなる野生型のタンパク質をコードする遺伝子であってもよく、野生型タンパク質に各種変異が導入された変異体をコードする遺伝子であってもよく、野生型タンパク質又は変異体のN末端やC末端にその他のペプチドやタンパク質が融合した改変体であってもよい。
【0017】
変異体としては、それぞれの活性を損なわないものであればよい。例えば、公知のものがあればそれを用いればよく、野生型を新たに改変して得たものを用いてもよい。新たに改変する場合には、例えば、発現したC因子、B因子、又は前凝固酵素の活性型における酵素活性が野生型よりも高くなるように設計し得たもの等が好ましい。例えば、野生型のアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換又は付加されたアミノ酸配列等が挙げられる。ここで、「1又は数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換又は付加された」とは、部位特異的突然変異誘発法等の公知の変異ポリペプチド作製法により欠失、挿入、置換又は付加できる程度の数(好ましくは10個以下、より好ましくは7個以下、最も好ましくは5個以下)のアミノ酸が欠失、挿入、置換又は付加されていることが意図される。また、野生型と変異体のアミノ酸配列の配列同一性は、70%以上が好ましく、80%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましく、95%以上が最も好ましい。
【0018】
なお、アミノ酸配列同士の配列同一性(相同性)は、2つのアミノ酸配列を、対応するアミノ酸が最も多く一致するように、挿入及び欠失に当たる部分にギャップを入れながら並置し、得られたアラインメント中のギャップを除くアミノ酸配列全体に対する一致したアミノ酸の割合として求められる。アミノ酸配列同士の配列同一性は、当該技術分野で公知の各種相同性検索ソフトウェアを用いて求めることができる。
【0019】
野生型又は変異体のC因子、B因子、及び前凝固酵素に融合させるペプチド又はタンパク質としては、各活性を損なわないものであれば特に限定されるものではない。当該ペプチド等としては、例えば、ヒスチジンタグ、HA(hemagglutinin)タグ、Mycタグ、及びFLAGタグ等の組換えタンパク質の発現・精製において汎用されているタグ等が挙げられる。
【0020】
野生型のC因子、B因子、及び前凝固酵素をコードする遺伝子は、文献やデータベース(例えば、EMBL Nucleotide Sequence Database(http://www.ebi.ac.uk/embl/))により公知である。したがって、例えば、B因子をコードする遺伝子はJ. Biol. Chem. 268, 21384-21388 (1993)、C因子をコードする遺伝子はJ. Biol. Chem. 266, 6554-6561 (1991)、前凝固酵素をコードする遺伝子は国際公開第2008/004674号に掲載される塩基配列情報等を参照して、PCR法等により適宜増幅し、クローニングすることができる。また、変異体のC因子、B因子、及び前凝固酵素をコードする遺伝子は、目的のアミノ酸配列から成るタンパク質をコードする塩基配列に基づき、化学合成により製造してもよく、それぞれの野生型の遺伝子を適宜改変することによって製造することもできる。また、本発明において用いられる形質転換体に導入されるC因子、B因子、及び前凝固酵素をコードする遺伝子は、縮重コドンを宿主であるピキア・パストリス(Pichia pastoris)のコドン使用頻度の高いものに改変したものであることが好ましい。
【0021】
なお、本発明及び本願明細書において、「遺伝子」は、DNA又はRNAからなり、タンパク質をコードするポリヌクレオチドである。また、遺伝子改変は、部位特異的変異導入、ランダム変異導入、有機合成等、当業者に周知の方法により行うことができる。
【0022】
カブトガニ由来のC因子をコードする遺伝子を保有させたピキア・パストリス(Pichia pastoris)の形質転換体、カブトガニ由来のB因子をコードする遺伝子を保有させたピキア・パストリス(Pichia pastoris)の形質転換体、及びカブトガニ由来の前凝固酵素をコードする遺伝子を保有させたピキア・パストリス(Pichia pastoris)の形質転換体は、各遺伝子を含む組換えベクターをピキア・パストリス(Pichia pastoris)に導入することにより製造できる。
【0023】
各遺伝子を含む組換えベクターは、当業者に周知の方法に従って、各遺伝子を宿主であるピキア・パストリス(Pichia pastoris)細胞中で目的のタンパク質を発現可能なベクターに挿入することにより得ることができる。ベクターへの各遺伝子の挿入は、各遺伝子に適当な制限酵素認識配列を付加したDNA断片を、対応する制限酵素で消化し、得られた遺伝子断片をベクターの対応する制限酵素認識配列、又はマルチクローニングサイトに挿入してベクターに連結することにより行うことができる。
【0024】
ピキア・パストリス(Pichia pastoris)細胞中で使用可能なベクターとしては、染色体挿入型のプラスミドベクター(pICZ、pIC6、pGAPZ、pFLD、pD902、pD905、pD912等)等が挙げられる。また、市販のものを用いてもよい。当該組換えベクターは、組込まれた遺伝子がコードするタンパク質を、宿主細胞内で一過性に発現させるものでもよく、安定発現させるものでもよい。
【0025】
各遺伝子は、上流にプロモーターが配置された発現カセットとして組換えベクターに組込まれることが好ましい。当該発現カセットには、必要に応じて、エンハンサー、ターミネーター、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、リボソーム結合配列等を配置することができる。当該プロモーターとしては、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)細胞内で機能するものであればよく、各遺伝子がコードするタンパク質(C因子、B因子、又は前凝固酵素)が由来する生物種と同種の生物種に由来するプロモーターであってもよく、異種の生物種に由来するプロモーターであってもよく、人工的に合成されたプロモーターであってもよい。
【0026】
C因子、B因子、又は前凝固酵素をコードする遺伝子を含む組換えベクターは、形質転換された細胞と形質転換されていない細胞の選抜を行うための選抜マーカー遺伝子をも含有していることが好ましい。当該選抜マーカー遺伝子としては、例えば、カナマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、ゼオシン耐性遺伝子等の薬剤耐性遺伝子が挙げられる。
【0027】
カブトガニ由来のC因子をコードする遺伝子を保有させたピキア・パストリス(Pichia pastoris)の形質転換体、カブトガニ由来のB因子をコードする遺伝子を保有させたピキア・パストリス(Pichia pastoris)の形質転換体、及びカブトガニ由来の前凝固酵素をコードする遺伝子を保有させたピキア・パストリス(Pichia pastoris)の形質転換体は、各遺伝子を含む組換えベクターを、宿主細胞であるピキア・パストリス(Pichia pastoris)細胞中に導入することにより得ることができる。各組換えベクターの宿主細胞への導入は、リチウム法、 スフェロプラスト法、 エレクトロポレーション法、 ポリエチレングリコール法、パーティクルガン法等、当業者に周知の方法により行うことができる。
【0028】
カブトガニ由来のC因子をコードする遺伝子を保有させたピキア・パストリス(Pichia pastoris)の形質転換体を培養することにより、組換えC因子を含有する培養物が得られる。同様に、カブトガニ由来のB因子をコードする遺伝子を保有させたピキア・パストリス(Pichia pastoris)の形質転換体を培養することにより、組換えB因子を含有する培養物が得られ、カブトガニ由来の前凝固酵素をコードする遺伝子を保有させたピキア・パストリス(Pichia pastoris)の形質転換体を培養することにより、組換え前凝固酵素を含有する培養物が得られる。
【0029】
本発明においては、工程(a)、(b)及び(c)は、それぞれ独立して行ってもよく、同時に行ってもよい。同時に行う場合、例えば、カブトガニ由来のC因子をコードする遺伝子を保有させたピキア・パストリス(Pichia pastoris)の形質転換体と、カブトガニ由来のB因子をコードする遺伝子を保有させたピキア・パストリス(Pichia pastoris)の形質転換体と、カブトガニ由来の前凝固酵素をコードする遺伝子を保有させたピキア・パストリス(Pichia pastoris)の形質転換体とを、同じ培養液中で培養することにより、組換えC因子、組換えB因子、及び組換え前凝固酵素を含む培養物が得られる。また、カブトガニ由来のC因子をコードする遺伝子、カブトガニ由来のB因子をコードする遺伝子、及びカブトガニ由来の前凝固酵素をコードする遺伝子を全て含む組換えベクターを構築し、当該組換えベクターをピキア・パストリス(Pichia pastoris)に導入してこれら3種の遺伝子を全て保有させた形質転換体を製造し、当該形質転換体を培養することにより、組換えC因子、組換えB因子、及び組換え前凝固酵素を含む培養物が得られる。
【0030】
本発明に係るエンドトキシン測定試薬の原料として用いる形質転換体の「培養物」は、培養上清、培養細胞、及び細胞破砕物のいずれであってもよい。例えば、組換えC因子、組換えB因子、及び組換え前凝固酵素は、当業者に周知の方法、例えば、遠心分離により培養物から形質転換体を回収し、これに対して凍結融解処理、超音波破砕処理、又は界面活性剤等による抽出処理を行うことにより、形質転換体から回収することができる。回収した組換えC因子、組換えB因子、及び組換え前凝固酵素をそのまま混合したものを本発明に係るエンドトキシン測定試薬としてもよく、さらに精製したものを本発明に係るエンドトキシン測定試薬としてもよい。精製方法としては、例えば、硫安沈澱、SDS-PAGE、ゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を各々単独で、又は適宜組合わせて実施することができる。
【0031】
各形質転換体内で発現された組換えC因子、組換えB因子、及び組換え前凝固酵素は、少なくとも一部は形質転換体外に分泌されるため、本発明においてエンドトキシン測定試薬を調製するために用いられる「組換えC因子を含有する培養物」、「組換えB因子を含有する培養物」、及び「組換え前凝固酵素を含有する培養物」としては、各形質転換体の培養上清が好ましい。例えば、カブトガニ由来のC因子をコードする遺伝子を保有させたピキア・パストリス(Pichia pastoris)の形質転換体の培養上清と、カブトガニ由来のB因子をコードする遺伝子を保有させたピキア・パストリス(Pichia pastoris)の形質転換体の培養上清と、カブトガニ由来の前凝固酵素をコードする遺伝子を保有させたピキア・パストリス(Pichia pastoris)の形質転換体の培養上清とを混合することにより、本発明に係るエンドトキシン測定試薬が調製できる。カブトガニ由来のC因子をコードする遺伝子、カブトガニ由来のB因子をコードする遺伝子、及びカブトガニ由来の前凝固酵素をコードする遺伝子を全て保有させた形質転換体の培養上清を、本発明に係るエンドトキシン測定試薬とすることができる。
【0032】
本発明においては、組換えタンパク質を培養液の単位量当たりのタンパク質生産性の高いピキア・パストリス(Pichia pastoris)に発現させることにより、組換え細胞を培養させた培養上清を、濃縮や精製等の比活性を向上させる処理を要することなく、そのままエンドトキシン測定試薬として用いることができる。
【0033】
本発明に係るエンドトキシン測定試薬に含まれる組換えC因子に対する組換えB因子の含有割合(組換えB因子/組換えC因子)は、質量比で10/1~0.1/1が好ましく、2/1~0.5/1がより好ましい。また、本発明に係るエンドトキシン測定試薬に含まれる組換えC因子に対する組換え前凝固酵素の含有割合(組換え前凝固酵素/組換えC因子)は、質量比で10/1~0.1/1が好ましく、2/1~0.5/1がより好ましい。
【0034】
本発明に係るエンドトキシン測定試薬には、塩、pH調整剤等のカブトガニ血球抽出物に由来しない他の成分を適宜含ませてもよい。
【0035】
各形質転換体は、当業者に周知の方法により培養することができる。各形質転換体の培養に用いる培地は、一般的にピキア・パストリス(Pichia pastoris)の培養に用いられるものであれば特に限定されるものではなく、細胞が資化しうる炭素源(グルコース、スクロース、メタノール等)、窒素源(ペプトン、肉エキス、酵母エキス等)、無機塩類(リン酸塩、炭酸塩、硫酸塩等)等を含有し、ピキア細胞を効率的に培養しうる培地であれば、天然培地及び合成培地のいずれであってもよい。各形質転換体の培養は、振盪培養、撹拌培養、静置培養等のいずれであってもよく、培養温度、培養時間は、一般的にピキア細胞の培養を行う場合の培養条件と同様にして行うことができる。
【0036】
培養する形質転換体が抗生物質(ネオマイシン、ゼオシン等)に耐性を有する場合は、当該抗生物質を培地に添加しておくことが好ましい。
【0037】
本発明に係るエンドトキシン測定試薬は、発光合成基質法(発光法)に用いることができる。発光合成基質法(発光法)は、エンドトキシンのC因子への結合により生成された、活性型C因子、活性型B因子、又は凝固酵素の基質として、後述する発光合成基質を用いる検出系である。発光合成基質法(発光法)においては、まず、活性型C因子、活性型B因子、又は凝固酵素のプロテアーゼ活性により発光合成基質が加水分解され、後述する発光基質が遊離する。次いで、この発光基質に後述する発光酵素を作用させることにより、当該発光基質が発光する。発光の強度とエンドトキシンの濃度とが相関することから、発光強度を測定すればエンドトキシン濃度を算出できる。
【0038】
すなわち、本発明に係るエンドトキシンの測定方法は、前記のエンドトキシン測定試薬の製造方法によりエンドトキシン測定試薬を調製する調製工程と、前記調製工程において得られたエンドトキシン測定試薬と、前記前凝固酵素の変換により得られる凝固酵素の基質と、被験試料とを混合して反応させ、前記凝固酵素の酵素活性に基づき、前記被験試料のエンドトキシンを測定する測定工程と、を有する。被験試料中にエンドトキシンが含まれている場合、エンドトキシンによって組換えC因子が活性化し、活性化組換えC因子によって組換えB因子が活性化し、活性化組換えB因子によって組換え前凝固酵素が凝固酵素に変換され、生じた凝固酵素のプロテアーゼ活性により基質が分解される。このように、被験試料中にエンドトキシンが含有されていると、凝固酵素の基質が分解されるため、この基質の分解量を指標として被験試料中のエンドトキシンを測定できる。
【0039】
当該基質としては、凝固酵素の基質となるペプチドに、標識物質が結合した合成基質を用いることができる。このような合成基質は、組換え前凝固酵素から変換された凝固酵素によって分解されることにより、標識物質が遊離する。前記凝固酵素の酵素活性は、この遊離した標識物質に基づいて測定される。被験試料中のエンドトキシンが多いほど、前凝固酵素から変換された凝固酵素の酵素活性が高くなり、遊離する標識物質の量も多くなる。
【0040】
標識物質としては、凝固酵素による消化前の基質と消化により遊離した標識物質とを区別して半定量的に測定することが比較的容易であることから、発光基質が好ましい。発光基質とは、発光酵素の基質であり、当該発光酵素の作用により生物発光する物質である。発光基質としては、ルシフェリン等が挙げられる。発光基質の種類は、単独でもよく、2種以上の組合せであってもよい。本発明において用いられる凝固酵素による消化前の基質に含まれる標識物質としては、アミノ基がペプチドのカルボキシル基とアミド結合を形成させることができるため、発光基質にペプチドを結合させやすいことから、アミノルシフェリンが好ましい。
【0041】
凝固酵素の基質となるペプチドとしては、C末端にアミド結合により標識物質が結合されており、凝固酵素のプロテアーゼ活性により切断されるアミノ酸配列を有するものであればよい。当該ペプチドのアミノ酸残基数及びアミノ酸配列は限定されないが、特異性、合成コスト、取扱い易さ等の観点からアミノ酸残基数は2個~10個が好ましい。また、当該ペプチドの種類は、単独でもよく、2種以上の組合せであってもよい。
【0042】
具体的には、凝固酵素の認識配列を有するペプチドとしては、Gly-Val-Ile-Gly-Arg-(配列番号1)、Val-Leu-Gly-Arg-(配列番号2)、Leu-Arg-Arg-(配列番号3)、Ile-Glu-Gly-Arg-(配列番号4)、Leu-Gly-Arg-(配列番号5)、Val-Ser-Gly-Arg-(配列番号6)、Val-Gly-Arg-(配列番号7)等が挙げられる。当該ペプチドのN末端は、保護基で保護されていてもよい。保護基としては、通常この分野で用いられるものであれば限定されることなく用いることができる。具体的には、例えば、N-スクシニル基、tert-ブトキシカルボニル基、ベンゾイル基、p-トルエンスルホニル基等が挙げられる。
【0043】
本発明において用いられる合成基質は、市販されているものであってもよく、合成したものであってもよい。標識物質が発光物質である合成基質(発光合成基質)のうち市販されているものとしては、例えば、プロメガ社から市販されている「Proteasome-GloTM Assay Systems」に付属の発光合成基質(ベンゾイル-Leu-Arg-Arg-アミノルシフェリン)が挙げられる。合成する方法としては、例えば、特表2005-530485号公報(国際公開第2003/066611号)に記載の方法が挙げられる。
【0044】
発光合成基質から遊離する発光基質を発光させる発光酵素としては、遊離した発光基質の生物発光を触媒し、光を発生させるものであればよく、例えば、ルシフェラーゼ、イクオリン等が挙げられる。当該発光酵素は、天然タンパク質であってもよく、組換えタンパク質であってもよい。また、当該発光酵素は、市販されているものであってもよく、精製したものであってもよい。当該発光酵素の種類は、単独でもよく、2種以上の組合せであってもよい。
【0045】
発光基質がルシフェリンである場合、発光酵素にはルシフェラーゼが好ましい。また、発光基質がアミノルシフェリンである場合は、発光酵素には甲虫由来のルシフェラーゼが好ましい。甲虫由来のルシフェラーゼとしては、北米ホタル、ゲンジボタル、ヘイケボタル、ツチボタル、ヒメボタル、マドボタル、オバボタル、光コメツキムシ、鉄道虫等の甲虫由来のルシフェラーゼが好ましい。
【0046】
ルシフェラーゼは、野生型であってもよく、変異型であってもよい。野生型ルシフェラーゼのアミノ酸配列とこれをコードする遺伝子は公知であり、データベースを適宜参照して知ることができる。例えば、北米ホタルルシフェラーゼ遺伝子(cDNA)の塩基配列は、アクセッション番号:M15077としてデータベース(例えば、EMBL Nucleotide Sequence Database(http://www.ebi.ac.uk/embl/))に登録されている。
【0047】
野生型のアミノ酸配列と異なるアミノ酸配列としては、例えば、野生型のアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換又は付加されたアミノ酸配列が挙げられる。ここで、「1又は数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換又は付加された」とは、部位特異的突然変異誘発法等の公知の変異ポリペプチド作製法により欠失、挿入、置換又は付加できる程度の数(好ましくは10個以下、より好ましくは7個以下、最も好ましくは5個以下)のアミノ酸が欠失、挿入、置換又は付加されていることが意図される。また、野生型と変異型のアミノ酸の配列同一性は、70%以上が好ましく、80%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましく、95%以上が最も好ましい。
【0048】
被験試料としては、注射剤、輸液、透析液等の医薬品;血液(血漿)、尿等の臨床試料;飲食品;上水、下水、河川水及び海洋水等の水;土壌及び大気;等が挙げられる。
【0049】
基質として発光合成基質を用いる場合、被験試料のエンドトキシンの測定は、例えば、まず、被験試料にエンドトキシン測定試薬を添加、混合して反応液を調製し、当該反応液を20~40℃で5~20分間静置する。次いで、当該反応液に、発光合成基質を添加、混合し、20~40℃で2~10分間静置する。その後、当該反応液に、発光酵素を添加、混合し、当該反応液の発光強度を、生物発光測定装置を用いて測定する。生物発光測定装置は、市販されているものを用いることができる。生物発光測定装置としては、例えば、「ルミテスター(登録商標)C110」(キッコーマン社製)等が挙げられる。
【0050】
発光合成基質の濃度は、反応液に基質試薬を添加した後の濃度で0.1~100μMが好ましく、1~20μMがより好ましい。発光合成基質の濃度が前記下限値以上であれば、充分な検出感度が得られ、一方、前記上限値以下であれば、材料コストが抑えられる。
【0051】
また、発光合成基質としてルシフェリン、発光酵素としてルシフェラーゼを用いる発光反応においては、アデノシン三リン酸(ATP)及び2価金属イオンが必要である。このため、発光酵素と共に、又は発光酵素を添加する前に、当該反応液にはATP及び2価金属イオンも適量混合させておく。ATPの濃度は、反応液に発光酵素を添加した後の濃度で10-7~10-3Mが好ましく、10-6~10-4Mがより好ましい。ATPの濃度が前記下限値以上であれば、酵素反応においてATPが不足することを防げ、一方、前記上限値以下であれば、材料コストが抑えられ、また、過剰なATPによる酵素反応の阻害が防げる。
【0052】
発光酵素の濃度は、反応液に発光酵素を加えた後の濃度で1ng/μL~10μg/μLが好ましく、10ng/μL~100ng/μLがより好ましい。発光酵素の濃度が前記下限値以上であれば、充分な検出感度が得られ、一方、前記上限値以下であれば、材料コストが抑えられる。
【実施例0053】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0054】
[実施例1]
C因子、B因子、及び前凝固酵素を、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)細胞内又は昆虫細胞(Sf9)内で発現させ、得られた組換えタンパク質からなるエンドトキシン測定試薬の感度を比較した。
【0055】
<エンドトキシン測定試薬の調製>
C因子、B因子、前凝固酵素をコードする遺伝子は、タキプレウス・ギガスの造血組織より調製したcDNAライブラリーからPCR法により増幅させた。増幅させた遺伝子の塩基配列は、C因子をコードする遺伝子についてはアクセッション番号:AF467804、B因子をコードする遺伝子についてはアクセッション番号:D14701、前凝固酵素をコードする遺伝子についてはアクセッション番号:M58366として登録されている塩基配列のタンパク質コーディング領域を含んでいた。
【0056】
増幅させた各遺伝子をピキア用発現ベクターpAOXZ-kp、pAOXZ-MFまたはpAOXZに組換え、クローニングし、発現ベクターを得た。なお、ピキア用発現ベクターpAOXZは、pD902ベクター(ATUM社製)をベースとし、当該ベクターマルチクローニングサイトに、読み枠が合うように6xHisタグ配列を挿入し、必要に応じてHisタグ配列が組換えタンパク質のC末端に付加されるようにデザインした。またpAOXZ-kpは、キラータンパク質の分泌シグナル配列(MTKPTQVLVRSVSILFFITLLHLVVA)を挿入して組換えタンパク質のN末端で融合タンパク質として発現されるようにデザインされた、染色体組換え型の発現ベクターである。ここで、C因子をコードする遺伝子をpAOXZ-kpに組換えた発現ベクターを「CAOX-kp」、B因子をコードする遺伝子をpAOXZに組換えた発現ベクターを「BAOX」、前凝固酵素をコードする遺伝子をpAOXZに組換えた発現ベクターを「CEAOX」と称することとした。
【0057】
ソルビトール洗浄によるエレクトロポレーション法を用いて、CAOX-kp、BAOX、CEAOXをピキア・パストリス(Pichia pastoris)PPS-9016株細胞(ATUM社)に導入し、遺伝子組換え細胞を得た。ピキア・パストリス(Pichia pastoris)細胞の培養には、YPD培地(ライフテクノロジーズ・ジャパン社製)に最終濃度600ppmのゼオシンを添加したものを用いた。各遺伝子組換え細胞を5日間培養して、ゼオシン耐性細胞を得た。ここで、C因子を発現するゼオシン耐性組換えピキア・パストリス(Pichia pastoris)細胞を「16C-kp」、B因子を発現するゼオシン耐性組換えピキア・パストリス(Pichia pastoris)細胞を「16B」、前凝固酵素を発現するゼオシン耐性組換えピキア・パストリス(Pichia pastoris)細胞を「16CE」と称することとした。
【0058】
各組換え細胞を、250mL容フラスコに入れたBMGY培地(ライフテクノロジーズ・ジャパン社マニュアル参照)100mL中でそれぞれ30℃で培養し、吸光度OD600が1.0となった時に細胞を回収して上清を廃棄、100mLのBMMY培地(ライフテクノロジーズ・ジャパン社マニュアル参照)に再懸濁して30℃、96時間培養した。16C-kpの培養上清10μLおよび16B、16CEの細胞懸濁液10μLをアプライしてポリアクリルアミド電気泳動(Native-PAGE)し、タンパク質バンドをPVDF膜へ転写して、抗C因子抗体、抗B因子抗体、抗前凝固酵素抗体を用いたウェスタンブロットにて分離したタンパク質のバンドを染色した。図1に、各培養上清のウェスタンブロットバンドの染色画像を示す。図中、「FC」、「FB」、「pCE」は、それぞれ、組換えC因子、組換えB因子、組換え前凝固酵素を発現させた培養レーンを示す。図1に示すように、組換えC因子、組換えB因子、組換え前凝固酵素のいずれも、組換えタンパク質の生産が認められた。
【0059】
16C-kp組換えピキア・パストリス(Pichia pastoris)細胞の培養上清、16B組換えピキア・パストリス(Pichia pastoris)細胞及び16CE組換えピキア・パストリス(Pichia pastoris)細胞の培養懸濁液10μL相当の細胞破砕抽出物を混合し、これをエンドトキシン測定試薬(PP-LAL)とした。同様に、C因子組換えSf9細胞、B因子組換えSf9細胞、及び前凝固酵素組換えSf9細胞の各培養上清を10μLずつ混合し、これをエンドトキシン測定試薬(IS-LAL)とした。
【0060】
<ルシフェラーゼの調製>
ルシフェラーゼは、特開2007-97577号公報に記載された方法により得た。具体的には、まず、ヒスチジンタグがC末端に付加された高輝度化変異型北米ホタルルシフェラーゼをコードする遺伝子を、大腸菌用発現ベクターpET28a(メルク社製)に組換えた。次いで、当該ベクターを大腸菌に導入し、ヒスチジンタグがC末端に付加された高輝度化変異型北米ホタルルシフェラーゼを発現させた。次いで、大腸菌を超音波破砕処理し、当該高輝度化変異型北米ホタルルシフェラーゼを含む粗抽出液を作製した。次いで、Ni Sepharose excel(GEヘルスケア社製)を用いて、当該粗抽出液から当該高輝度化変異型ホタルルシフェラーゼを精製した。精製した高輝度化変異型ホタルルシフェラーゼを、ATPの10-5 M、酢酸マグネシウムの1mM、Tris-Clの50mMを含む溶液(pH8.0)に溶解し、250ng/μLのルシフェラーゼ液を得た。
【0061】
<エンドトキシン測定>
被験試料には、エンドトキシン(大腸菌O111:B4由来エンドトキシン)(生化学工業社製)をパイロジェンフリー水で希釈することにより、10-5~10-1EU/mLの範囲で5段階に調製したものを用いた。また、ブランクにはエンドトキシンを含まないパイロジェンフリー水を用いた。
【0062】
発光合成基質は、ベンゾイル-Leu-Gly-Arg-アミノルシフェリン(AATバイオクエスト社製)を用いた。酢酸マグネシウムの1mM、Tris-Clの50mMを含む溶液(pH8.0)に、当該発光合成基質を75μMとなるように溶解し、これを基質試薬とした。
【0063】
まず、反応試験管にエンドトキシン測定試薬を50μLずつ分注した。次いで、50μLの試料を当該エンドトキシン測定試薬に加え、ボルテックスミキサーにより数秒間混合し、反応液を得た。反応液を37℃の保温器にて10分間静置した。
次いで、基質試薬の50μLを前記反応液に加え、反応液を37℃の保温器にて5分間静置した。
次いで、反応液を生物発光測定専用試験管「ルミチューブ(登録商標)」(キッコーマン社製)に移し、50μLのルシフェラーゼ液を加えた。これを生物発光測定装置「ルミテスター(登録商標)C110」(キッコーマン社製)にセットして、発光強度を測定した。
【0064】
図2に、各エンドトキシン測定試薬を用いて測定した結果を、エンドトキシン濃度(対数値)を横軸とし、発光強度の測定値(RLU、対数値)を縦軸としてプロットしたグラフを示す。図中、白丸がエンドトキシン測定試薬(ピキア・パストリス(Pichia pastoris)調製PP-LAL)を用いて測定した結果であり、黒丸がエンドトキシン測定試薬(Sf9調製IS-LAL)を用いて測定した結果である。図2に示すように、従来のSf9細胞を宿主としたエンドトキシン測定試薬を使用した場合には、0.001EU/mL以下では発光強度が不足しており、エンドトキシン測定感度が低かった。これに対して、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)細胞を宿主としたエンドトキシン測定試薬を使用した場合には、0.001EU/mL以下でも充分な発光強度であり、0.00001EU/mLの低濃度のエンドトキシンも測定可能であった。特に、0.1EU/mLにおける発光強度は、エンドトキシン測定試薬(Sf9調製IS-LAL)を用いた場合には295,680RLUであり、エンドトキシン測定試薬(ピキア・パストリス(Pichia pastoris)調製PP-LAL)を用いた場合には2,950,000RLUであり、エンドトキシン測定活性は、エンドトキシン測定試薬(ピキア・パストリス(Pichia pastoris)調製PP-LAL)のほうがエンドトキシン測定試薬(Sf9調製IS-LAL)よりも約10倍も高かった。ピキア・パストリス(Pichia pastoris)細胞はSf9細胞よりも組換えタンパク質生産性が高く、このためにエンドトキシン測定感度が向上したと推定された。このように、C因子、B因子及び前凝固酵素の組換えタンパク質を発現させるピキア・パストリス(Pichia pastoris)形質転換体は同一培養スケールでは昆虫細胞を用いるよりも高感度のエンドトキシン測定試薬を生産可能であることが確認された。
図1
図2
【配列表】
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