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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022030006
(43)【公開日】2022-02-18
(54)【発明の名称】ヘッドマウントディスプレイ
(51)【国際特許分類】
   G02B 27/02 20060101AFI20220210BHJP
   H04N 5/64 20060101ALI20220210BHJP
【FI】
G02B27/02 Z
H04N5/64 511A
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020133680
(22)【出願日】2020-08-06
(71)【出願人】
【識別番号】000001225
【氏名又は名称】日本電産コパル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鶴岡 恭生
【テーマコード(参考)】
2H199
【Fターム(参考)】
2H199CA04
2H199CA12
2H199CA13
2H199CA42
2H199CA70
2H199CA71
2H199CA82
2H199CA86
(57)【要約】
【課題】ヘッドマウントディスプレイの表示と外界視野とを同時に観察可能であり、かつ、モアレの発生を抑えたヘッドマウントディスプレイを実現する。
【解決手段】画像を表示する画像表示素子と、画像を使用者の眼球に導く接眼光学系と、接眼光学系と外界との間に設けられたシャッター機構と、を有し、シャッター機構は、正面視において、接眼光学系に表示される画像を構成する画素が並ぶ第1方向に対して所定の角度で延在する縞状の遮光パターンを備えたフィルムを複数重ねた構造を有し、複数のフィルムのうち、一部のフィルムを、他のフィルムに対して差動させることで、外界視野の透過および遮蔽の切り替えを行う、ヘッドマウントディスプレイを提供する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像を表示する画像表示素子と、
前記画像を使用者の眼球に導く接眼光学系と、
前記接眼光学系と外界との間に設けられたシャッター機構と、
を有し、
前記シャッター機構は、正面視において、前記接眼光学系に表示される画像を構成する画素が並ぶ第1方向に対して所定の角度で延在する縞状の遮光パターンを備えたフィルムを複数重ねた構造を有し、
複数の前記フィルムのうち、一部の前記フィルムを、他の前記フィルムに対して差動させることで、外界視野の透過および遮蔽の切り替えを行う、ヘッドマウントディスプレイ。
【請求項2】
請求項1に記載のヘッドマウントディスプレイにおいて、
前記遮光パターンの少なくとも一部は、自己温度制御機能を有している、ヘッドマウントディスプレイ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘッドマウントディスプレイに関し、特に、表示画像と外界視野とを同時に観察可能なヘッドマウントディスプレイに関する。
【背景技術】
【0002】
ヘッドマウントディスプレイ(HMD)は、没入感を得るため、光学素子と画像表示装置を設けた装置群を使用者の顔面に隙間なく半密閉状態で装着する。これにより、外光の侵入を抑え、使用者は、映画館のごとく画像に集中し、没入感を得る。
【0003】
特許文献1(特開平7-36010号公報)には、透光部を有する複数のシャッター板部材を重合して用い、シャッター板部材同士を相互に差動させることで、シャッター開放(透光)状態とシャッター閉止(遮光)状態とを制御し、これにより、効果的なシースルー機能を付与した頭部または顔面装着型ディスプレイ装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7-36010号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、外部環境を視野に収めながら、テレビを視聴するように表示画像を見る場合、または、外界視野の補助画像として、表示画像を見る場合などがある。これらの場合、外光遮光を行う機能がないと、表示画像の視認が外光に阻害されることがある。
【0006】
そこで、ヘッドマウントディスプレイ内に所定の遮光パターンを備えたシャッターを設け、外光を遮蔽することが考えられる。しかし、当該遮光パターンと表示画像を構成する画素の並びとが干渉してモアレが生じ、使用者が不快に感じる場合がある。
【0007】
本発明の目的は、ヘッドマウントディスプレイの表示と外界視野とを同時に観察可能であり、かつ、モアレの発生を抑えたヘッドマウントディスプレイを実現することにある。
【0008】
本発明の前記ならびにその他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願において開示される実施の形態のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0010】
一実施の形態であるヘッドマウントディスプレイは、画像を表示する画像表示素子と、前記画像を使用者の眼球に導く接眼光学系と、前記接眼光学系と外界との間に設けられたシャッター機構と、を有し、前記シャッター機構は、正面視において、前記接眼光学系に表示される画像を構成する画素が並ぶ第1方向に対して所定の角度で延在する縞状の遮光パターンを備えたフィルムを複数重ねた構造を有し、複数の前記フィルムのうち、一部の前記フィルムを、他の前記フィルムに対して差動させることで、外界視野の透過および遮蔽の切り替えを行うものである。
【発明の効果】
【0011】
本願において開示される発明のうち、代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば以下のとおりである。
【0012】
本発明によれば、ヘッドマウントディスプレイの表示と外界視野とを同時に観察可能であり、かつ、モアレの発生を抑えたヘッドマウントディスプレイを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施の形態1であるヘッドマウントディスプレイを示す斜視図である。
図2】実施の形態1であるヘッドマウントディスプレイを示す斜視図である。
図3】実施の形態1であるヘッドマウントディスプレイに内蔵されたシャッターの動作を説明する概略図である。
図4】実施の形態1であるヘッドマウントディスプレイに内蔵されたシャッターの動作を説明する概略図である。
図5】実施の形態1であるヘッドマウントディスプレイに内蔵されたシャッターを示す正面図である。
図6図5のA-A線における断面図である。
図7】実施の形態1の変形例1であるヘッドマウントディスプレイに内蔵されたシャッターの動作を説明する概略図である。
図8】実施の形態1の変形例1であるヘッドマウントディスプレイに内蔵されたシャッターの動作を説明する概略図である。
図9】実施の形態1の変形例2であるヘッドマウントディスプレイに内蔵されたシャッターの動作を説明する概略図である。
図10】実施の形態1の変形例2であるヘッドマウントディスプレイに内蔵されたシャッターの動作を説明する概略図である。
図11】実施の形態1の変形例3であるヘッドマウントディスプレイに内蔵されたシャッターの動作を説明する概略図である。
図12】実施の形態1の変形例3であるヘッドマウントディスプレイに内蔵されたシャッターの動作を説明する概略図である。
図13】実施の形態1の変形例3であるヘッドマウントディスプレイに内蔵されたシャッターの動作を説明する概略図である。
図14】実施の形態2であるヘッドマウントディスプレイに内蔵されたシャッターを示す正面図である。
図15図5のB-B線における断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。また、以下の実施の形態では、特に必要なときを除き、同一または同様な部分の説明を原則として繰り返さない。また、実施の形態を説明する図面においては、構成を分かりやすくするために、平面図または斜視図などであってもハッチングを付す場合がある。さらに、実施の形態を説明する図面においては、構成を分かりやすくするために、断面図においてハッチングを省略する場合がある。
(実施の形態1)
【0015】
<ヘッドマウントディスプレイの構成>
【0016】
本実施の形態によるヘッドマウントディスプレイ(ヘッドビュア装置、HMD:Head MountedDisplay)の構成について、図1図6を用いて説明する。
【0017】
図1に示すように、本実施の形態のヘッドマウントディスプレイ1は、使用者(観察者)の頭部に装着して使用するものであり、例えば眼鏡状の構造を有している。すなわち、ヘッドマウントディスプレイ1は、額縁(フレーム)2を有し、額縁2の左右の両端のそれぞれには、使用者の耳に掛けるためのつるが接続されている。
【0018】
本実施の形態のヘッドマウントディスプレイ1を使用する際には、使用者は、ヘッドマウントディスプレイ1内に表示される画像のみならず、ヘッドマウントディスプレイ1の外界も視認することが可能である。すなわち、外部環境を視野に収めながら、テレビを視聴するように表示画像を見ること、または、外界視野(外部視野)の補助画像として、表示画像を見ることが可能である。このため、ヘッドマウントディスプレイ1には、正面から視認可能な位置において、額縁内に収められた2つのレンズが設けられている。ここでいうヘッドマウントディスプレイ1の正面とは、ヘッドマウントディスプレイ1の表面のうち、使用者がヘッドマウントディスプレイ1を装着した際に、使用者の瞳とは反対側に位置する面を指す。
【0019】
図1に示すヘッドマウントディスプレイ1は、装着時において使用者の耳および鼻筋により支持されるものであるが、図2に示すように、額縁2の中心の上部から弧を描いて延在する支持部材3を備えていてもよい。この場合、ヘッドマウントディスプレイ1を使用者が装着する際には、支持部材3を使用者の頭頂部により支持する。支持部材3内には、ヘッドマウントディスプレイ1の駆動用のバッテリーを内蔵できる。
【0020】
本実施の形態のヘッドマウントディスプレイ1は、上記レンズを介して使用者の目に入る外界視野の透過状態(遮蔽状態)を制御するものである。これにより、ヘッドマウントディスプレイ1内に表示される画像(以下、単に表示画像と呼ぶ)と外界視野との切り替え、および、表示画像と外界視野との同時観察時の強い外光による外光阻害の緩和が可能である。以下では、図3および図4を用いて、外界視野の透過状態(遮蔽状態)を制御するシャッターの動作について説明する。
【0021】
図3に示すように、ヘッドマウントディスプレイ1に内蔵されたシャッターは、少なくとも2枚以上の複数のフィルム(シャッター板部材)4を互いに重ね合わせ、フィルム4同士の相対位置で遮光と透過とを得る構造を有している。ここでいう遮光とは、使用者が外界視野を完全に視認できなくなる全遮光と、減光された外界視野を視認することができる部分遮光との両方を含む。各フィルム4は、透光性フィルム8上に複数設けられた黒色の遮光パターン7を有している。遮光パターン7は透光性フィルム8の表面に沿う方向に延在しており、遮光パターン7は透光性フィルム8上において、遮光パターン7の短手方向に複数並んで配置されている。すなわち、複数の遮光パターン7は透光性フィルム8上において縞状パターンを構成している。1つのフィルム4において、遮光パターン7は光を遮蔽するが、隣り合う遮光パターン7同士の間の領域(透過領域)は、光(外界視野の光、外光)を透過する。
【0022】
ここでは、フィルム4が2枚である場合について説明する。図3に示すように、各フィルム4の厚さ方向において一方のフィルム4の透過領域に他方のフィルム4の透過領域が重なることにより、外光はシャッターを透過し、使用者は外界視野を視認することができる。これに対し、図4に示すように、一方のフィルム4に対して他方のフィルム4が差動することで、各フィルム4の厚さ方向において一方のフィルム4の透過領域に他方のフィルム4の遮光パターン7が重なることにより、外光の遮蔽が行われる。このとき、一方のフィルム4(図3および図4の上側に示されたフィルム)は遮光パターン7が設けられた表面に沿う方向において移動(スライド)可能であるが、他方のフィルム4(図3および図4の下側に示されたフィルム)はヘッドマウントディスプレイ1に固定されており動かない。
【0023】
このようなフィルム4の作動による遮光または透過への切り替えを、磁気的に行う。ここでは、使用者による磁石の回転により行う。すなわち、図3に示すように、移動可能なフィルム4には磁石5が固定されており、ヘッドマウントディスプレイ1内において、磁石5の一方の極(ここではS極)と隣り合う位置には、磁石6が額縁2に対して回転可能に支持されている。磁石5、6のそれぞれのN極とS極とが対向しているときには、当該フィルム4は磁石6側に引き寄せられ、磁石6側に比較的近い第1位置において停止する。これにより、2つのフィルム4の透過領域同士が重なることで、シャッターは透過状態となる。
【0024】
これに対し、図4に示すように、磁石6を180度回転させた結果、磁石5、6のそれぞれのN極同士またはS極同士が対向しているとき、移動可能なフィルム4には、磁石6と反対側に移動する斥力が働き、当該フィルム4は磁石6から比較的遠い第2位置に移動して停止する。これにより、移動可能なフィルム4とヘッドマウントディスプレイ1に固定されたフィルム4のそれぞれの透過領域と遮光パターン7とが重なることで、シャッターは遮光状態となる。なお、磁石の回転を、モーターにより行っても磁気的な遮光または透過への切り替えに差し支えない。
【0025】
ヘッドマウントディスプレイ1は、画像を表示する画像表示素子を内蔵しており、当該画像は、接眼光学系により使用者の眼球に導かれる。これら複数のフィルムを含むシャッターは、ヘッドマウントディスプレイ1内において、接眼光学系と外界との間に設けられている。接眼光学系とは、ヘッドマウントディスプレイ1の装着時に使用者の眼前に位置する、画像を表示するための光学系であり、具体的には、例えばプリズムの一端、またはミラー(例えばハーフミラー)などである。シャッターは表示画像ではなく外界視野を遮蔽するための機構であるから、接眼光学系よりも外界側(ヘッドマウントディスプレイ1の表面側)に位置する。遮光の切り替え(磁石6の回転)は、例えば使用者の操作により行われる。
【0026】
このように、本実施の形態のヘッドマウントディスプレイ1によれば、遮光パターン7を備えた複数のフィルム4を相互に差動させることで、表示画像と外界視野との切り替え、および、表示画像と外界視野との同時観察時の強い外光による外光阻害を緩和することができる。
【0027】
次に、フィルム4の具体的構造について、図5および図6を用いて説明する。図6に示す断面では、透光性フィルム8のハッチングを省略している。図5に示すように、1つのフィルム4は、正面視において、透過領域と遮光パターン7とが交互に並ぶ構造を有している。図6は、遮光パターン7の延在方向に沿う断面図であり、遮光パターン7を含んでいる。図6に示すように、遮光パターン7は、例えば透光性フィルム8上に印刷された黒色インクにより構成されている。本願でいう正面視とは、ヘッドマウントディスプレイ1の正面に対して垂直な方向から見ることを意味する。
【0028】
遮光パターン7は、例えば、墨のスクリーン印刷またはUV(Ultra Violet)インクジェット印刷により形成されている。遮光パターン7の短手方向の幅は、50~400μmである。スクリーン印刷では、200μm以下の幅の遮光パターン7を印刷することが難しい場合があるため、スクリーン印刷とは異なる高精細印刷を行って遮光パターン7を印刷してもよい。
【0029】
また、隣り合う遮光パターン7同士の間隔は、50~400μmとすることが考えられるが、シャッターによる遮光時に十分な遮光状態を得るためには、遮光パターン7の重合せ量を、遮光パターン7の幅の10~50%とすることが好ましい。このため、遮光パターン7の幅は50~400μmよりも小さくすることが好ましい。隣り合う遮光パターン7の縞ピッチを200μm以下に小さくすれば、複数の遮光パターン7から成る縞を見え難くできる。
【0030】
遮光パターン7は、光線透過率0.5%/1μm厚以下の黒色インキであることが好ましい。つまり、遮光パターン7の厚さ1μmにおける光線透過率は0.5%以下であることが好ましい。このような性能を実現するため、遮光パターン7はカーボン顔料を含むことが好ましい。
【0031】
透光性フィルム8を構成する材料には、例えばPC(ポリカーボネート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)またはPET(ポリエチレンテレフタレート)を用いることができる。
【0032】
図3および図4に示す各フィルム4上に印刷された遮光パターン7同士が、互いに接着剤として働き、フィルム4同士が接着される虞がある。また、各フィルム4同士は、相互の位置が差動するため、各フィルム4上に印刷された遮光パターン7同士が剥がれ落ちる虞もある。それらの接着および剥がれを防ぐ方法としては、例えば遮光パターン7を描く黒インクの形状および表面の凹凸により滑剤効果を得る方法、または、フィルム4若しくは遮光パターン7を帯電させ、フィルム4同士を反発させる方法がある。より好ましくは、フィルム4の遮光パターン7形成面に、遮光パターン7による表面凹凸を緩和する透明保護膜を積層する。
【0033】
遮光パターン7を形成したフィルム4上には、AR(AntiReflective)コートが施されていてもよい。ARコートは、屈折率が互いに異なる薄膜を交互に複数積層した多層膜から成る。フィルム4上にARコートを施すことで、フィルム4の表面における反射、および、フィルム4同士の間での反射を防ぐことができる。これにより、外界から侵入する光の減光を防ぎ、シャッターの透過効率を高めることができる。また、フィルム4上にARコートを施すことで、ゴーストおよびフレアの発生を抑制できる。
【0034】
フィルム4の額縁2側の面、または、額縁2には、遮光性塗料が塗布されていてもよい。すなわち、フィルム4の額縁2側の面または額縁2に黒色マット塗装を施す。これにより、外界視野または表示画像の迷光で生じる、ゴーストおよびフレアの発生を抑制できる。
【0035】
ここで、接眼光学系(プリズムまたはミラー)に投影される表示画像は、互いに直交するX方向およびY方向において行列上に並ぶ複数の画素により構成されている。このため、画素の並びにより、表示画像にはX方向およびY方向のそれぞれにおいて、明暗の周期が存在する。このような表示画像と外界との間に、例えばY方向に沿う縦縞の遮光パターン7を備えたフィルム4を配置すると、モアレが生じ、使用者がモアレを不快に感じる場合がある。
【0036】
そこで、本実施の形態の遮光パターン7は、表示画像を構成する画素が並ぶ1方向(X方向またはY方向)に対して、所定の角度を有する方向に延在している。言い換えれば、正面視において、表示画像と重なる遮光パターン7の延在方向は、表示画像を構成する画素が並ぶX方向またはY方向に対し、斜めである。これにより、表示画像とシャッターパターンとの干渉に起因して生じるモアレを解消することができる。
【0037】
当該所定の角度とは、0度より大きく90度より小さい角度である。本発明者の行った実験によれば、当該所定の角度が0度の場合はモアレが不快に感じられ、当該所定の角度が2度の場合はモアレがやや不快に感じられた。また、当該所定の角度が4度および5度の場合はモアレの発生は概ね感じられず、当該所定の角度が10度および35度の場合はモアレの発生を感じなかった。
【0038】
当該所定の角度は、好ましくは5±3度である。すなわち、当該角度が2度より小さいと、使用者がモアレをやや不快に感じると考えられる。また、当該角度が8度より大きくなり45度に近づく程モアレは軽減されるが、複数のフィルム4同士を水平方向(X方向)に差動させて遮光または透過の切り替えを行う際に、一方のフィルム4の移動距離が大きくなる。その結果、ヘッドマウントディスプレイ1の大型化および使用する磁石の磁力の強化が必須になるなどの課題が生じる。また、図4に示すように磁石を回転させるのではなく、後述する変形例1、2のように電磁石を用いてフィルム4を移動させる場合、消費電力が増大するという課題が生じる。したがって、当該所定の角度は5±3度であることが好ましい。
【0039】
ただし、フィルム4同士の相対位置の切り替えのための移動向きは、遮光と透過を得られるならば限定されない。したがって、表示画像を構成する画素が並ぶ所定の方向に対して遮光パターン7が斜めに延在している場合、額縁2に固定されたフィルム4に対して移動可能な他のフィルム4の移動向きは、遮光パターン7の短手方向であってもよい。これにより、フィルム4の移動距離を最短に維持できるため、当該所定の角度は8度より大きくてもよい。
【0040】
なお、ヘッドマウントディスプレイ1に、振動装置を設けてもよい。振動装置は、使用者が外部環境の変化に機敏に反応するための触覚報知部として用いることができ、また、光学素子に生じる振動をキャンセルして、表示画像のノイズの抑制するための装置として用いることもできる。
<変形例1>
【0041】
図3および図4では、外部操作で磁気的に透過状態と遮光状態とを切り替えることについて説明した。これに対し、図7および図8に示すように、電磁的に磁気的に透過状態と遮光状態とを切り替えてもよい。図7は透過状態のシャッターを示す概略図であり、図8は遮光状態のシャッターを示す概略図である。
【0042】
図3および図4に示す構造と同様に移動可能なフィルム4には磁石5が固定されている。磁石5の一方の極(ここではS極)と隣り合う位置には、フィルム4と離間して電磁石9が額縁2に固定して設けられている。
【0043】
図7に示す状態では、電磁石9は通電しておらず、移動可能なフィルム4は機械バネまたは電磁石9より生じる磁力より弱い磁力を有する磁石(磁気バネ)で電磁石9側に引き寄せられ、移動可能なフィルム4と他のフィルム4とのそれぞれの透過領域同士が重なる第1位置に停止している。
【0044】
図8に示す状態では、電磁石9は通電し、移動可能なフィルム4との間で斥力が生じるように、電磁石9の端部に磁極(ここではS極)が生じる。移動可能なフィルム4は機械バネまたは磁気バネよりも強い力で電磁石9側とは反対側に反発して移動し、移動可能なフィルム4の遮光パターン7と他のフィルム4の透過領域とが重なる第2位置に停止する。
【0045】
このように、本変形例では、通電オフ時に電磁的束縛解除によってシャッターは透過状態となる。これにより、停電時などにヘッドマウントディスプレイ1への電力供給がなくなった場合に、使用者は即座に外界を確認でき、安全性を確保し易くなる。
【0046】
遮光および遮光の切り替えは、例えば使用者の操作、または、外光強度を判定可能なシステムによる一体制御で行われる。
【0047】
本変形例では、フィルム4を遮光パターン7の延在方向に対して直交する方向(縞パターンの垂直方向、遮光パターン7の短手方向)に移動させることで、フィルム4の移動距離を縮小することができ、ヘッドマウントディスプレイ1を省電力化できる。また、フィルム4上に並ぶ遮光パターン7同士の間隔(ピッチ)を小さくすることで、ヘッドマウントディスプレイ1を省電力化できる。
<変形例2>
【0048】
図9および図10に示すように、電磁石に流す電流の向きを切り替えて極性を反転させることで、電磁的に機械的に透過状態と遮光状態とを切り替えてもよい。図9は透過状態のシャッターを示す概略図であり、図10は遮光状態のシャッターを示す概略図である。
【0049】
図3および図4に示す構造と同様に移動可能なフィルム4には磁石5が固定されている。磁石5の一方の極(ここではS極)と隣り合う位置には、フィルム4と離間して電磁石10が額縁2に固定して設けられている。
【0050】
図9に示す状態では、電磁石10は通電し、移動可能なフィルム4との間で引力が生じるように、電磁石10の端部に磁極(ここではN極)が生じる。これにより、移動可能なフィルム4は電磁石10側に引き寄せられて移動し、移動可能なフィルム4と他のフィルム4とのそれぞれの透過領域同士が重なる第1位置に停止する。
【0051】
図10に示す状態では、電磁石10は通電し、移動可能なフィルム4との間で斥力が生じるように、電磁石10の端部に磁極(ここではS極)が生じる。移動可能なフィルム4は電磁石10側とは反対側に反発して移動し、移動可能なフィルム4の遮光パターン7と他のフィルム4の透過領域とが重なる第2位置に停止する。
【0052】
前記変形例1と同様に、電磁石10より生じる磁力より弱い力を有する、機械バネまたは磁気バネを設けることで、電磁石10の通電オフ時には電磁的束縛解除によってシャッターを透過状態とすることができる。これにより、停電時などにヘッドマウントディスプレイ1への電力供給がなくなった場合に、使用者は即座に外界を確認でき、安全性を確保し易くなる。
【0053】
遮光および遮光の切り替えは、例えば使用者の操作、または、外光強度を判定可能なシステムによる一体制御で行われる。
【0054】
本変形例でも、フィルム4を遮光パターン7の延在方向に対して直交する方向に移動させることで、フィルム4の移動距離を縮小することができ、ヘッドマウントディスプレイ1を省電力化できる。また、フィルム4上に並ぶ遮光パターン7同士の間隔(ピッチ)を小さくすることで、ヘッドマウントディスプレイ1を省電力化できる。
<変形例3>
【0055】
シャッターを構成するフィルム4の数は2枚に限らず、例えば3枚であってもよい。図11図13を用いて、フィルム4が3枚であるときの各フィルム4の動作について説明する。なお、3枚のフィルム4のうちの1枚は、額縁2に固定されており、他の2枚のフィルム4は額縁2に対して移動可能である。
【0056】
図11では、3枚すべてのフィルム4の各透過領域が正面視で互いに重なり、シャッターは透過状態となっている。図12では、3枚のフィルム4のうちの1枚を移動させて、シャッターを遮光状態としている。図13では、3枚のフィルム4のうちの2枚を移動させて、遮光状態としている。
【0057】
ここでは、フィルム4を3枚以上とすることで、シャッターの透過率を向上できる。つまり、ここでは、図13に示すように、額縁2に固定されたフィルム4の透過領域を、他の2枚のフィルム4のそれぞれの遮光パターン7の一部により覆っている。言い換えれば、第1のフィルム4の透過領域を、他の1枚のフィルム4の遮光パターン7のみで完全に覆うのではなく、当該透過領域の一部を第2のフィルム4の遮光パターン7で覆い、当該透過領域の他の一部を第3のフィルム4の遮光パターン7で覆うことで、遮光を行っている。これにより、フィルム4が2枚のみの場合に比べ、各フィルム4の遮光パターン7の幅に対する透過領域の幅を増大することができる。したがって、シャッターの透過率を向上できる。なお、本願でいう遮光パターン7および透過領域のそれぞれの幅とは、遮光パターン7および透過領域のそれぞれの短手方向の距離を指す。
【0058】
また、ここでは、フィルム4を3枚以上とすることで、透過率ステップ増を実現できる。つまり、額縁2に固定された第1のフィルム4の透過領域の一部を、第1ステップにおいて移動させた第2のフィルム4の遮光パターン7で覆い、さらに、当該透過領域の他の一部を第2ステップにおいて移動させた第3のフィルム4の遮光パターン7で覆うことで、段階的に透過率を低下させることができる。
【0059】
また、3枚のフィルム4のうち、2枚で画像中心遮光を行い、3枚で全遮光を行う組合せとしてもよい。すなわち、上記のように3枚のフィルム4の全てを同じ領域の遮光に用いるのではなく、3枚のフィルム4のうちの1枚を、所定の小さい領域を遮光するために用いてもよい。
【0060】
例えば、2枚のフィルム4を視野全体の遮光に用い、残りの1枚のフィルム4を当該2枚のフィルム4よりも小さい領域(例えば表示画像が表示される領域)の遮光に用いることができる。つまり、3枚のフィルム4を重ね合わせ全遮光を得る構成で、1枚目のフィルム4に隠れる2枚目のフィルム4は透過相対位置にして、3枚目のフィルム4で表示画像を遮光/透過する。この場合、当該3枚目のフィルム4は、表示画像の一部または全部を見る箇所およびその周囲だけ外界背景を遮光すべく形成された遮光パターン7を備える。
【0061】
これにより、強い外光下でも、外界視野と併せ、HMD表示画像を明瞭に観察できる。
(実施の形態2)
【0062】
以下では、フィルム上のヒータ機能を備えた遮光パターンを設けることで、ヘッドマウントディスプレイ内における防曇と、ヘッドマウントディスプレイによるアイマスクのような目のマッサージ効果を実現することについて説明する。
【0063】
図14に本実施の形態のヘッドマウントディスプレイを構成する複数のフィルムのうち、1枚のフィルム4を示す。また、図15は、図14のB-B線における断面図であり、遮光パターン7を含んでいる。本実施の形態の遮光パターン7は、自己温度制御機能を有するインクから成り、遮光用パターンとしての機能だけでなく、ヒータとしての機能を有する。遮光パターン7は、バインダー樹脂とカーボン粒子(カーボン顔料)との混合物により構成されている。遮光パターン7は、スクリーン印刷などにより形成可能である。
【0064】
図15に示すように、遮光パターン7の延在方向の両端のそれぞれには、電極11が接続されている。電極11は透光性フィルム8上に形成されており、遮光パターン7は透光性フィルム8上および電極11上に形成されている。電極11は、例えばAg(銀)ペーストを乾燥させた銀電極である。電極11は、外観から見えない箇所であって、フィルム4の外周部に形成されている。
【0065】
ここで、遮光パターン7の有するPTC(Positive?Temperature?Coefficient)特性について説明する。PTCは、温度の上昇により抵抗値が増す特性である。遮光パターン7は、カーボン粒子を含んでいることで通電可能であり、通電によりジュール熱を発生させる。遮光パターン7の温度が上昇すると、遮光パターン7内のバインダー樹脂が膨張し、遮光パターン7内のカーボン粒子同士が分離することで遮光パターン7が絶縁し、ヒータとしての機能が停止する。このようにして、フィルム4は20~35℃を自己制御温度にて維持する。この温度は、遮光パターン7の含有するカーボン粒子の量、遮光パターン7の厚さまたは幅により調整できる。
【0066】
本実施の形態のヘッドマウントディスプレイによれば、ヘッドマウントディスプレイの接眼光学系近傍の温度は、人体と同じ温度か人体の温度よりやや低い温度に保たれる。これにより、人体から発生する水分が、冷えた光学素子またはディスプレイなどへの付着することによる曇りの発生を抑止し、作動後速やかに曇ることなく表示画像を見ることが可能なヘッドマウントディスプレイを提供することができる。
【0067】
なお、人体からの熱の伝わり、駆動回路、または、表示デバイスの駆動後の発熱による熱伝搬によって防曇を実現することが考えられるが、このような熱伝搬では、装着時の即効性の曇りを解消できない。これに対し、本実施の形態では、ディスプレイ自体を通電により速やかに温めることができるため、防曇効果が高い。また、ヘッドマウントディスプレイの装着感が、冷えた状態より人体に対して優しく、アイマスクのような目のマッサージ効果を得ることができる。
【0068】
透光性フィルム8には、耐熱性を有する基材であるエンジニアプラスチックフィルム(好ましくはPETやPEN、PCフィルム)を用いる。透光性フィルム8にフレキシブルなプリント基板(エンジニアリングプラスチックフィルムに電極11の延長配線を設けたもの)であるフィルムを用いることで、フィルム4だけでなく、透光性フィルム8と、ヒータに電位を供給する電源部が形成されたフィルムとを一体的に形成することができる。これにより、電極11と電源部とを接続するためにフレキシブルフィルムを用意する必要がなくなるため、部品点数の削減および電極11と銅配線との接続作業の簡略化を実現することができる。
【0069】
遮光パターン7には、表面においてマット面を提供する塗料を用いることで遮光性を増すことができ、かつ伝熱性を損なわないヒータ機能を実現できる。また、接眼光学系であるプリズムも当該ヒータにより加熱されることが好ましいが、遮光パターン7がヒータに接触するとプリズムの機能が損なわれる。よって、ヒータ(遮光パターン7)は、プリズム周囲の、無色または黒色のマット面またはプリズム表面と1mm以下の間隙を空けて配置する。また、接眼光学系にプリズムではなくミラー(ハーフミラー)を用いる場合も同様である。また、ヒータをレンズ鏡筒に固定してもよい。この固定は、粘着テープまたは黒色接着剤にて行う。
【0070】
ヘッドマウントディスプレイ内の温度をヒータで高める場合、ヘッドマウントディスプレイ内の湿度が高まることを防ぐため、ヘッドマウントディスプレイに換気口を設けてもよい。換気口は、ヒータ(遮光パターン7)に対し、使用者の瞳とは逆側に設ける。また、換気口の表面は、黒色マット表面であることが望ましい。これにより、シャッターによる遮光/透過の切り替えを行いながら、換気口によりヘッドマウントディスプレイ内の湿度上昇を抑え、防曇を実現し、かつ、アイマスクのような目のマッサージ効果を得ることができる。
【0071】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0072】
1 ヘッドマウントディスプレイ
2 額縁
3 支持部材
4 フィルム
5、6 磁石
7 遮光パターン
8 透光性フィルム
9、10 電磁石
11 電極
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
図11
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図14
図15