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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022030036
(43)【公開日】2022-02-18
(54)【発明の名称】粘接着剤及びその製造法
(51)【国際特許分類】
   C09J 133/06 20060101AFI20220210BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20220210BHJP
【FI】
C09J133/06
C09J11/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020133751
(22)【出願日】2020-08-06
(71)【出願人】
【識別番号】591012738
【氏名又は名称】ヤヨイ化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101432
【弁理士】
【氏名又は名称】花村 太
(72)【発明者】
【氏名】二口 真
(72)【発明者】
【氏名】関根 啓次
(72)【発明者】
【氏名】橋本 健一
(72)【発明者】
【氏名】練合 克己
(72)【発明者】
【氏名】中野 翔一
(72)【発明者】
【氏名】丸山 晃史
【テーマコード(参考)】
4J040
【Fターム(参考)】
4J040DF021
4J040JB09
4J040KA16
4J040LA05
4J040NA12
(57)【要約】
【課題】 粘着剤及び接着剤双方の利点を有する粘接着剤を得る。
【解決手段】 ラジカル重合性を有するモノマーと架橋反応の官能基を含有するモノマーとが、乳化剤と共に乳化重合されたエマルジョンに、前記架橋反応の官能基に結合する架橋基を1分子当り少なくとも2個有する架橋剤が、添加混合されてなるもの。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラジカル重合性を有するモノマーと架橋反応の官能基を含有するモノマーとが、乳化剤と共に乳化重合されたエマルジョンに、前記架橋反応の官能基に結合する架橋基を1分子当り少なくとも2個有する架橋剤が、添加混合されてなることを特徴とする粘接着剤。
【請求項2】
前記架橋反応が、カルボニル/ヒドラジド架橋反応であり、
前記ラジカル重合性を有するモノマーと前記官能基としてカルボニル基を含有するモノマーとが、乳化剤と共に乳化重合されたエマルジョンに、pHが8.5~11.5に調整された状態で、前記カルボニル基に結合するヒドラジド基を1分子当り少なくとも2個有するヒドラジド化合物が、添加混合されてなることを特徴とする請求項1に記載の粘接着剤。
【請求項3】
前記カルボニル基を含有するモノマーが、ダイアセトンアクリルアミドであり、
前記ヒドラジド化合物が、アジピン酸ジヒドラジドであることを特徴とする請求項2に記載の粘接着剤。
【請求項4】
ラジカル重合性を有するモノマーと架橋反応の官能基を含有するモノマーとを乳化剤と共に乳化重合する乳化重合工程と、
この乳化重合工程で得られたエマルジョンに前記架橋反応の官能基に結合する架橋基を1分子当り少なくとも2個を有する架橋剤を添加混合する架橋反応調整工程とを備えたことを特徴とする粘接着剤の製造法。
【請求項5】
前記架橋反応が、カルボニル/ヒドラジド架橋反応であり、
前記乳化重合工程が、ラジカル重合性を有するモノマーと前記カルボニル/ヒドラジド架橋反応の官能基としてカルボニル基を含有するモノマーとを、乳化剤と共に乳化重合するものであり、
前記架橋反応調整工程が、前記乳化重合工程で得られたエマルジョンのpHが8.5~11.5に調整し、前記カルボニル基に結合するヒドラジド基を1分子当り少なくとも2個の有するヒドラジド化合物を添加混合するものであることを特徴とする請求項4に記載の粘接着剤の製造法。
【請求項6】
前記カルボニル基を含有するモノマーが、ダイアセトンアクリルアミドであり、
前記ヒドラジド化合物が、アジピン酸ジヒドラジドであることを特徴とする請求項5に記載の粘接着剤の製造法。
【請求項7】
前記乳化重合工程が、乳化重合初期にアニオン型乳化剤を用いた乳化重合の後に、アニオン型乳化剤とノニオン型乳化剤とを用いた乳化重合を行うと共に、連鎖移動剤を用いて分子量の調整を行うことを特徴とする請求項4~6の何れか1項に記載の粘接着剤の製造法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般家庭や店舗等での内装材、例えばタイル、カーペット、フローリング材、クッションフロア材や壁クロスなどを施工する際に用いるに好適な粘接着剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、店舗や一般家庭における内装材の張り合わせ施工は、性能面で優れる有機溶剤を用いた接着剤や粘着剤で行われていた。しかしながら、有機溶剤系の接着剤や同じく有機溶剤系の粘着剤の使用に際しては、充分に乾燥を実施したとしても有機溶剤がわずかながら残存する。その結果、シックハウス症候群の発生原因となる可能性があると共に、有機溶剤が大気中へ放散されることで地球環境破壊が引き起こされる問題もあった。そのため、有機溶剤自体を用いない無溶剤系や水性系の接着剤や粘着剤を用いて床材や壁材を施工することが、現在では主流となっている。
【0003】
既存の水性系接着剤は、一部を除いて、塗布後、未乾燥状態で張り合わせを行うため、床材や壁材を張り出せるまでの時間は比較的短い反面、乾燥すると接着性能がなくなるため、張り合わせ施工が可能な時間が比較的短いという特性を有している。一般的な水性系接着剤の施工が可能な時間は、塗布後、おおよそ20分~60分である。
【0004】
また、未乾燥状態で張り合わせ作業が行われるため、内装材に対する接着剤の濡れが良く、様々な内装材に対して強力な接着力を発現する反面、接着剤が塗布された床や壁が水分を吸収しない材質の場合、例えば補修目的で、ビニル床タイルやクッションフロアなど非吸水性の床材の上に張り合わせ施工を実施した場合など、接着剤に含まれる水分は、床と床材との間に閉じ込められていつまでも乾燥しないため、接着にムラが生じ、内装材のズレや剥がれなどの接着不良が発生する一要因となっている。
【0005】
一方、粘着剤は、塗布後乾燥した状態で張り合わせを行うため、床材や壁材を貼り合わせるまで1~2時間と接着剤に比べて長い時間を要するが、乾燥した状態であれば、1~2日間施工が可能であり、ローラーやヘラ等、表面積が大きく乾燥しやすい塗布方法も可能となるため、張り合わせ施工時間及び塗布方法の自由度が高いという利点を有する。また、乾燥した状態で施工を実施するため、内装材に対する濡れが悪く、接着剤と比べて総じて接着力が弱くなり、一部の限られた材料、用途のみの施工という制約がある反面、非吸水性の床及び床材への施工が可能であるという利点もあるが、粘着剤は夏場の高温時には柔らかくなり、冬場の低温時には硬化して粘着力が低下してしまい、内装材、特に床材の施工においては温度変化等による床材の伸縮を抑えきれず、床材の突き上げやめすき、剥がれが発生する恐れがある。
【0006】
本出願人は、これらの課題に対してセメント成分及び/又は半水石膏成分からなる硬化剤と粉末エマルジョンとを用いることで長期保存中にも劣化が少なく、使用前に水を加えて混ぜることで均一な塗布が容易に行えるシックハウス症候群を引き起こす可能性のない床用接着剤及び床材施工法を見出した。水性系接着剤と同様に短時間の乾燥で粘着力が発現して貼りだしが可能であり、非吸水性の床材及び床への施工においても速やかに張り合わせ作業を開始できると共に、硬化後には良好な接着性能を有する床用接着剤及び床材施工法として提案している(特許文献1参照)。しかし、乾燥硬化反応の進行と共に粘着力が失われるために水性系接着剤と同様に施工が可能な時間が約60分間と短めとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2018-111775号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述の通り、内装材の施工にあたり、接着剤と粘着剤とが各々有する利点を持ち合わせると共に、各々の欠点を克服した新たな特徴を有する製品の出現が望まれている。すなわち、接着剤と同様に、未乾燥でも施工ができる性能を有し、粘着剤のように乾燥後も長時間にわたり張り合わせが可能であること、また、温度変化等による材料の伸縮を抑えることができる接着力を有する製品が望まれている。
【0009】
本発明では、このような要望を鑑み、粘着剤及び接着剤双方の利点を有する粘接着剤を得ることを目的とする。すなわち、塗布後は接着剤と同等に短時間で張り出しが可能であり、乾燥後も粘着剤のごとく長時間の張り合わせが可能である性能を有するとともに、接着剤と同等の接着力も持ち合わせ、温度変化等による材料の伸縮を抑える性能を有した粘接着剤を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは鋭意検討を行った結果、粘着力を有するポリマーが、塗布後の時間の経過とともに本発明による特殊な架橋が行われることで材料の温度変化による伸縮を抑える強固な接着力を発現することを見出し本発明に至った。
【0011】
請求項1に記載された発明に係る粘接着剤は、ラジカル重合性を有するモノマーと架橋反応の官能基を含有するモノマーとが、乳化剤と共に乳化重合されたエマルジョンに、前記架橋反応の官能基に結合する架橋基を1分子当り少なくとも2個有する架橋剤が、添加混合されてなることを特徴とするものである。
【0012】
請求項2に記載された発明に係る粘接着剤は、請求項1に記載の架橋反応が、カルボニル/ヒドラジド架橋反応であり、
前記ラジカル重合性を有するモノマーと前記官能基としてカルボニル基を含有するモノマーとが、乳化剤と共に乳化重合されたエマルジョンに、pHが8.5~11.5に調整された状態で、前記官能基に結合するヒドラジド基を1分子当り少なくとも2個有するヒドラジド化合物が、添加混合されてなることを特徴とするものである。
【0013】
請求項3に記載された発明に係る粘接着剤は、請求項2に記載のカルボニル基を含有するモノマーが、ダイアセトンアクリルアミドであり、
前記ヒドラジド化合物が、アジピン酸ジヒドラジドであることを特徴とするものである。
【0014】
請求項4に記載された発明に係る粘接着剤の製造法は、ラジカル重合性を有するモノマーと架橋反応の官能基を含有するモノマーとを、乳化剤と共に乳化重合する乳化重合工程と、
この乳化重合工程で得られたエマルジョンに前記架橋反応の官能基に結合する架橋基を1分子当り少なくとも2個を有する架橋剤を添加混合する架橋反応調整工程とを備えたことを特徴とするものである。
【0015】
請求項5に記載された発明に係る粘接着剤の製造法は、請求項4に記載の架橋反応が、カルボニル/ヒドラジド架橋反応であり、
前記乳化重合工程が、ラジカル重合性を有するモノマーと前記カルボニル/ヒドラジド架橋反応の官能基としてカルボニル基を含有するモノマーとを、乳化剤と共に乳化重合するものであり、
前記架橋反応調整工程が、前記乳化重合工程で得られたエマルジョンのpHを8.5~11.5に調整し、前記カルボニル基に結合するヒドラジド基を1分子当り少なくとも2個有するヒドラジド化合物を添加混合することを特徴とするものである。
【0016】
請求項6に記載された発明に係る粘接着剤の製造法は、請求項5に記載のカルボニル基を含有するモノマーが、ダイアセトンアクリルアミドであり、
前記ヒドラジド化合物が、アジピン酸ジヒドラジドであることを特徴とするものである。
【0017】
請求項7に記載された発明に係る粘接着剤の製造法は、請求項4~6の何れか1項に記載の乳化重合工程が、乳化重合初期にアニオン型乳化剤を用いた乳化重合の後に、アニオン型乳化剤とノニオン型乳化剤とを用いた乳化重合を行うと共に、連鎖移動剤を用いて分子量の調整を行うことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、塗布後は接着剤と同等に短時間で張り出しが可能であり、乾燥後も粘着剤のごとく長時間の張り合わせが可能である性能を有するとともに、接着剤と同等の接着力も持ち合わせ、温度変化等による材料の伸縮を抑える性能を有した粘接着剤を得ることができる。すなわち、塗布後の張り合わせ開始時間が短く、張り合わせ可能時間が長ければ、張り出し作業を始め、様々な内装作業が同時並行して実施できるため、作業効率がよいという効果がある。また、ローラーやヘラ等、表面積が大きく乾燥しやすい塗布方法や水分を吸収・揮発しない材料を用いた施工においても従来の接着剤や粘着剤と同等の接着性能を得ることができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の粘接着剤で用いる官能基と架橋剤との一つの架橋反応を示す説明図である。
図2】粘接着剤で用いることができる官能基と架橋剤との別の架橋反応を示す説明図である。
図3】粘接着剤で用いることができる官能基と架橋剤との更に別の架橋反応を示す説明図である。
図4】本発明の粘接着剤の製造工程を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明においては、ラジカル重合性を有するモノマーと架橋反応の官能基を含有するモノマーとが、乳化剤と共に乳化重合されたエマルジョンに、前記架橋反応の官能基に結合する架橋基を1分子当り少なくとも2個有する架橋剤が、添加混合されてなるものである。
【0021】
これにより、接着剤としての適切な接着力を獲得することが可能となり、塗布後は接着剤と同等に短時間で張り出しが可能であり、乾燥後も粘着剤のごとく長時間の張り合わせが可能である性能を有するとともに、接着剤と同等の接着力も持ち合わせ、温度変化等による材料の伸縮を抑える性能を有した粘接着剤を得ることができる。更に、架橋前については強い粘着性能を持ち、粘着剤として壁材や床材を施工することができ、架橋していくにつれて強い接着力(凝集力)が発現し、粘着剤と違って一部の壁材や床材だけではなく、多くの種類の壁材や床材に対しても施工できる利点を備える粘接着剤を得ることができる。
【0022】
以下に具体的説明を行うが、本発明は下記材料に限定されるものではない。本発明のラジカル重合性を有するモノマーとしては、乳化重合してエマルジョンとなるものであればよく、例えば、(メタ)アクリル化合物では、分子中に(メタ)アクリロイル基(CH=CHCO-)を少なくとも1個含む化合物であり、(メタ)アクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、アクリルアミド等が挙げられる。
【0023】
また、粘着性を付与するには、公知のようにラジカル重合性を有するモノマーの中で、Tgの低いモノマーを併用することで実現できる。他のビニル化合物としては、エチレン、スチレン、塩化ビニル、ブタジエン、アクリロニトリル、酢酸ビニル及びそれらの誘導体などが挙げられる。これらビニル化合物は単独でも、或いは混合して賜与することもでき、その混合割合は自由に設定することができる。架橋反応の官能基を含有するモノマーとしてはケトンやアルデヒドのカルボニル基を有するラジカル重合性を持つモノマーであれば何でもよく、ダイアセトンアクリルアミドが一般的に使用される。ヒドラジド架橋反応の架橋剤としてのヒドラジド化合物としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、酒石酸、グルタミン酸、セバシン酸、イソフタル酸等の二塩基酸ジヒドラジド化合物が使用できる。
【0024】
本発明の粘接着剤の好ましい態様としては、ラジカル重合性を有するモノマーとカルボニル/ヒドラジド架橋反応の官能基としてカルボニル基を含有するモノマーとが、乳化剤と共に乳化重合されたエマルジョンに、pHが8.5~11.5に調整された状態でカルボニル/ヒドラジド架橋反応の他の架橋剤として1分子当り少なくとも2個のヒドラジド基を有するポリヒドラジド化合物が添加混合されてなるものである。これにより、施工時の架橋前については粘着剤として各種壁材や床材を収めることができ、架橋していくにつれて強い接着力(凝集力)を有する粘接着剤を得ることができる。
【0025】
即ち、ラジカル重合性を有するモノマーとカルボニル/ヒドラジド架橋反応の官能基としてカルボニル基を含有するモノマーとが、乳化剤と共に乳化重合されたエマルジョンと、エマルジョン中のpHを調整するpH調整剤とを備え、官能基と架橋剤とが、pHがアルカリ性雰囲気中では、架橋反応せず、pHが中性雰囲気中で架橋反応するものである。これにより、架橋前については粘着剤としての強い粘着性能を持ち、各種壁材や床材を収めることができ、架橋していくにつれて強い接着力(凝集力)を発現する点と、粘着剤の安定した貯蔵が可能な点、多くの種類の床材や壁材に対しても施工できる利点を備えることができる。
【0026】
本発明の粘接着剤では、乾燥と共に架橋反応が進行するため、接着剤と同等に短時間で張り出しが可能であり、粘着剤としての性能を有するため、乾燥後6時間程度までは施工可能である。このため、接着剤と比べて、施工時間にゆとりができる。床材については、従来の水性系接着剤では施工できなかった水分の揮発が塗布後に望めないような重ね張りにも施工にも可能という特徴を備える。即ち、粘着剤として施工を行うが、接着剤のように様々な床材を施工でき、様々な床材に対して重ね張りにも対応できる利点を奏する。
【0027】
本発明の粘接着剤の製造法は、ラジカル重合性を有するモノマーと架橋反応の官能基を含有するモノマーとを、乳化剤と共に乳化重合する乳化重合工程と、この乳化重合工程で得られたエマルジョンに、架橋反応の官能基に結合する架橋基を1分子当り少なくとも2個有する架橋剤を添加混合する架橋反応調整工程とを備える。これにより、粘接着剤を製造することができる。
【0028】
より具体的には、架橋反応がカルボニル/ヒドラジド架橋反応であり、乳化重合工程が、ラジカル重合性を有するモノマーとカルボニル/ヒドラジド架橋反応の官能基としてカルボニル基を含有するモノマーとを、乳化剤とで乳化重合するものであり、架橋反応調整工程が、前記乳化重合工程で得られたエマルジョンのpHを8.5~11.5に調整し、前記カルボニル基に結合するヒドラジド基を1分子当り少なくとも2個有するヒドラジド化合物を添加混合するものである。
【0029】
本発明の架橋反応の官能基を含有するモノマーとしては、ラジカル重合性を有するモノマーと架橋反応の官能基を含有するモノマーから乳化重合されたポリマー粒子同士が架橋されるものであればよい。図1図3は粘接着剤で用いることができる官能基と架橋剤との一つの架橋反応を示す説明図である。
【0030】
図1に示す通り、ラジカル重合性を有するモノマーと共に乳化重合を行い、乳化重合を行って化1に示す通り、ダイアセトンアクリルアミド(DAAM)を表出したポリマー粒子1aが作製され、これに架橋反応されるヒドラジド化合物がアジピン酸ジヒドラジド(ADH)とのカルボニル/ヒドラジド架橋反応である。
【0031】
図2に示された例としては、(メタ)アクリル酸のカルボキシ基が表出されたポリマー粒子2aと、架橋反応の官能基に結合する架橋基として、2-オキサゾリン基を1分子当り少なくとも2個を有するオキサゾリン基含有ポリマー(商品名:エポクロスシリーズ、(株)日本触媒社製)2bとが挙げられる。図3に示された例としては、(メタ)アクリル酸のカルボキシ基が表出されたポリマー粒子3aと、チタン錯体であるチタンラクテートアンモニウム塩(商品名:オルガチックスTC-300、マツモトファインケミカル(株)社製)とが挙げられる。
【0032】
本発明の架橋反応としては、カルボニル/ヒドラジド架橋反応の他、脱水縮合反応等の種々の架橋反応を用いることができる。図2又は図3の脱水縮合反応では、塗布後の水分がなくなる際に架橋反応が始まる。また、図1に示されたカルボニル/ヒドラジド架橋反応は、常温で進行するが、アルカリ性条件下では反応は進行しない。このため、pHを調整することにより、粘着性能又は接着性能を表出することができる。具体的には、本発明のカルボニル/ヒドラジド架橋反応による粘接着剤は、水溶液中においては、pHはアルカリ性となっており、貯蔵時にはアルカリ性においては架橋反応が始まらず、長期の貯蔵に優位である。脱水縮合反応においては、このような優位性はなく、貯蔵時にも時間と共にゆっくりではあるが、架橋反応が進行するために貯蔵安定性に欠け使用することができないこと、また、乾燥後の架橋反応が常温では進行難いことから強固な接着力の発現に難があるなど性能において劣るところがある。
【0033】
本発明の粘接着剤を塗布した後、乾燥が進むにつれて空気と触れて酸化(=中和)され、pHが中性になっていく。それによりカルボニル/ヒドラジド架橋反応が始まる。架橋反応が進行するに伴い、強靭な皮膜となり、接着力が増す。架橋前は自由に動けるため粘着力は強いが、その分接着力は弱い。しかし、架橋後は結合されるため、三次元架橋が形成され、自由な動きは制限される。そのため、粘着力は弱くなるが、接着力は強くなる。
【0034】
架橋反応が開始されると、ラジカル重合性を有するモノマーと架橋反応の官能基を含有するモノマーから乳化重合されたポリマー粒子同士が架橋されるが、(メタ)アクリル基を含有するモノマーのみから乳化重合されたポリマー粒子は、通常の(メタ)アクリル粘着剤として粘着性を維持することとなる。
【0035】
好ましい態様としては、架橋反応の官能基を含有するモノマーがダイアセトンアクリルアミド(DAAM)であり、(メタ)アクリル基を含有モノマーと共に乳化重合を行って化1に示す通り、ダイアセトンアクリルアミドを表出したポリマー粒子1aが作製される。
【0036】
この化1のポリマー粒子1aに対して、架橋反応の官能基に結合する架橋基を1分子当り少なくとも2個を有する架橋剤が化2に示すアジピン酸ジヒドラジド(ADH)である。
【0037】
また、本発明の粘接着剤のガラス転移点(Tg)については、配合されるラジカル反応性を有するモノマーの種類によって変化する。架橋反応が開始されるまでは粘着剤としての性能が求められることから、本発明の粘接着剤のTgは-50.0℃より高く、0℃より低いものが好ましく、-45.0℃より高く-10.0℃より低いものがより好ましく、-40.0℃より高く-25.0℃より低いものが最も好ましい。-50.0℃より低い場合粘着力は強いが架橋後も接着力は弱くなり目的を達成できない。また、0℃より高い場合粘着力は低く、乾燥後は接着力が失われてしまうため使用に適さない。
【0038】
【化1】
【0039】
【化2】
【実施例0040】
本発明の粘接着剤の製造法は、乳化重合工程と、この乳化重合工程で得られたエマルジョンに、架橋剤を添加混合する架橋反応調整工程により構成される。以下にエマルジョン製作例及び架橋反応調整工程を実施例として説明する。
【0041】
エマルジョン製作例1
図4は本発明の粘接着剤の製造工程を示す説明図である。先ず、メタクリル酸メチル 8.10部、アクリル酸n-ブチル 25.34部、アクリル酸2エチルヘキシル 14.08部、メタクリル酸2ヒドロキシエチル 1.01部を混合撹拌した単量体混合液を作製した。
【0042】
次に、アニオン型乳化剤(三洋化成工業(株)社製、「サンモリンOT=70」:有効成分70%) 0.64部、アニオン型乳化剤(日本乳化剤(株)社製、「ニューコール707SN」:有効成分30%) 1.49部、また、ノニオン型乳化剤(日本乳化剤(株)社製、「ニューコール714」:有効成分80%) 2.51部、ノニオン型乳化剤(日本乳化剤(株)社製、「ニューコール723」) 0.85部、ダイアセトンアクリルアミド 1.25部、水 13.60部、及び、前記単量体混合液 97%を混合し、モノマー混合物からなる乳化液を得た。
【0043】
次に冷却管、撹拌翼を備えたフラスコに、pH緩衝剤としての炭酸ナトリウム 0.07部、水 12.06部、アニオン型乳化剤(三洋化成工業(株)社製、「サンモリンOT=70」:有効成分70%) 0.07部、アニオン型乳化剤(日本乳化剤(株)社製、「ニューコール707SN」:有効成分30%) 0.16部、及び、前記単量体混合液 3%を仕込み、撹拌下70℃に昇温した。
【0044】
昇温後、ラジカル発生剤として、3%過硫酸カリウム水溶液 0.56部を添加し、乳化重合を行った。その後30分後に、前記乳化液を全量と3%過硫酸カリウム水溶液 4.78部をそれぞれ3時間かけて滴下した。尚、その3時間中の残り1時間については、重合調整剤(連鎖移動剤)として、n-ドデシルメルカプタン 0.06部を滴下した。滴下終了後、80℃に昇温、保持し1時間撹拌を続け、重合を終了させた。その後30℃まで冷却し、60メッシュの金網でろ過し、エマルジョンAを得た。
【0045】
エマルジョン製作例2
ダイアセトンアクリルアミド 0.62部とした以外はエマルジョン製作例1同様に乳化重合を行い、エマルジョンBを得た。
【0046】
エマルジョン製作例3
ダイアセトンアクリルアミド 1.88部とした以外はエマルジョン製作例1同様に乳化重合を行い、エマルジョンCを得た。
【0047】
エマルジョン製作例4
メタクリル酸メチル 10.29部、アクリル酸n-ブチル 23.93部、アクリル酸2エチルヘキシル 13.03部、メタクリル酸2ヒドロキシエチル 1.01部を混合撹拌したモノマー混合液とした以外はエマルジョン製作例1同様に乳化重合を行い、Tg-35.0のエマルジョンDを得た。
【0048】
エマルジョン製作例5
ダイアセトンアクリルアミドを添加せずにエマルジョン製作例1と同様に乳化重合を行いエマルジョンEを得た。
【0049】
エマルジョン製作例6
ダイアセトンアクリルアミド 2.50部とした以外はエマルジョン製作例1同様に乳化重合を行い、エマルジョンFを得た。
【0050】
エマルジョン製作例7
メタクリル酸メチル 5.83部、アクリル酸n-ブチル 26.80部、アクリル酸2エチルヘキシル 14.89部、メタクリル酸2ヒドロキシエチル 1.01部を混合撹拌したモノマー混合液とした以外はエマルジョン製作例1同様に乳化重合を行い、Tg-45.0のエマルジョンGを得た。
【0051】
エマルジョン製作例8
重合調整剤として、n-ドデシルメルカプタンを添加しないでエマルジョン製作例1と同様に乳化重合を行い、エマルジョンHを得た。
【0052】
実施例1
得られたエマルジョンAに、アミノアルコールMEDにてpHを9.5に調整して、ヒドラジン化合物としてアジピン酸ジヒドラジド 0.97部、消泡剤として「SNデフォーマ―364」(サンノプコ(株)社製) 0.19部を添加配合した後、配合液粘度が10000mPa・s(BH型粘度計、20rpm、23℃)となるように、増粘剤として「アロンB-500」(東亜合成(株)社製)を添加混合し、実施例1を得た。
【0053】
実施例2
エマルジョンAをエマルジョンBに変えて実施例1と同様に攪拌混合し、実施例2を得た。
【0054】
実施例3
エマルジョンAをエマルジョンDに変えて実施例1と同様に攪拌混合し、実施例3を得た。
【0055】
実施例4
エマルジョンAを用い、pH調整剤であるアミノアルコールMEDをpHが8.5になるように実施例1と同様に攪拌混合し、実施例4を得た。
【0056】
実施例5
エマルジョンAを用い、pH調整剤であるアミノアルコールMEDをpHが10.5になるように実施例1と同様に攪拌混合し、実施例5を得た。
【0057】
実施例6
エマルジョンAを用い、pH調整剤であるアミノアルコールMEDをpHが11.5になるように実施例1と同様に攪拌混合し、実施例6を得た。
【0058】
比較例1
エマルジョンAをエマルジョンCに変えて実施例1と同様に攪拌混合し、比較例1を得た。
【0059】
比較例2
エマルジョンAをエマルジョンEに変えて実施例1と同様に攪拌混合し、比較例2を得た。
【0060】
比較例3
エマルジョンAをエマルジョンFに変えて実施例1と同様に攪拌混合し、比較例3を得た。
【0061】
比較例4
エマルジョンAをエマルジョンGに変えて実施例1と同様に攪拌混合し、比較例4を得た。
【0062】
比較例5
エマルジョンAをエマルジョンHに変えて実施例1と同様に攪拌混合し、比較例5を得た。
【0063】
比較例6
エマルジョンAにpH調整剤であるアミノアルコールMEDを添加しないで実施例1と同様に攪拌混合してpH7.5の比較例6を得た。
【0064】
【表1】
【0065】
比較例7.8
実施例及び比較例1~6に加えて、比較例7として弊社の接着剤A(ヤヨイ化学工業株式会社製「プラゾールNP5000」)と、比較例8として同じく弊社の粘着剤B(ヤヨイ化学工業株式会社製「プラゾールTC-1」)とを使用した。
【0066】
粘接着性の比較
以上の実施例及び比較例との粘接着性の比較については、合板下地及びクッションフロア(CF)下地(株式会社サンゲツ社製「HフロアHM-4052」を使用)への塗布を行い、各下地への可使時間、乾燥強度、及び、寸法安定性を各々検証した。結果を表1に示す。
【0067】
評価項目
「可使時間」は、作成した接着剤を、くし目ごてを用いて各種下地に塗布し、4時間後に 短冊状(25mm幅)のホモジニアスビニル床タイル(株式会社サンゲツ社製「複層ビニル床タイルFT IS-904オニックス」)を張り、ハンドローラで転圧した後、90度剥離接着強さを測定した数値により判別した。10N/25mm以上であれば「◎」、5N/25mm以上であれば「○」、5N/25mm未満であれば「×」とした。
【0068】
「乾燥強度」は、作成した接着剤をくし目ごてを用いて各種下地に塗布し 、30分毎に40mm四方のホモジニアスビニル床タイル(株式会社サンゲツ社製「複層ビニル床タイルFT IS-904オニックス」)を張り、ハンドローラで転圧した後、168時間(1週間)養生後の引張接着強さを測定した数値の最大値により判別した。0.1N/mm以上であれば「◎」、0.05N/mm以上であれば「○」、0.05N/mm未満であれば「×」とした。
【0069】
「寸法安定性」は、作成した接着剤をくし目ごてを用いて各種下地に塗布し、30分後に長さ約91cmのホモジニアスビニル床タイル(株式会社サンゲツ社製「複層ビニル床タイルFT IS-904オニックス」)を張り、ハンドローラで転圧した。8時間養生後、高温(38℃、8時間以上)と低温(5℃、8時間以上)に静置するサイクルを3回繰り返し、3サイクル目の高低温の寸法差を初期寸法で割った値により判別した。0.1%未満であれば「◎」、0.1%以上0.12%未満であれば「○」、0.12%以上であれば「×」とした。
【0070】
表1に示す通り、合板下地及びCF下地について、可使時間、乾燥強度、寸法安定性の全てが○のものを本発明の粘接着剤の実施例とした。本実施例の粘接着剤のpHについては、8.5以上、11.5以下であればよく、特に、pH=9.5が最も好ましいことが確認された。
【0071】
ダイアセトンアクリルアミドの配合量については、全てのモノマーの配合量を100とした場合の1.270重量%以上、3.139重量%より低いものであればよく、2.468重量%前後であれば更に好ましいことが確認された。
【0072】
また、ガラス転移点(Tg)については、一般的な粘着剤として-50.0℃より高く0℃より低いものが好ましく用いられている。本特許では-40.0℃より高く-35.0℃より低いものがより好ましく、-40.0℃近傍のものが最も好ましいことが確認された。
【符号の説明】
【0073】
1a、2a、2b、3a…ポリマー粒子、
図1
図2
図3
図4