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特開2022-30044微細部品で構成される鏡像力駆動型静電発電機及びその製法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022030044
(43)【公開日】2022-02-18
(54)【発明の名称】微細部品で構成される鏡像力駆動型静電発電機及びその製法
(51)【国際特許分類】
   H02N 1/00 20060101AFI20220210BHJP
【FI】
H02N1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020133764
(22)【出願日】2020-08-06
(71)【出願人】
【識別番号】398055026
【氏名又は名称】酒井 捷夫
(74)【代理人】
【識別番号】100198373
【弁理士】
【氏名又は名称】江畑 耕司
(72)【発明者】
【氏名】酒井 捷夫
(57)【要約】
【課題】非対称静電力を樋型電荷搬送体の駆動力とする静電発電機において、電荷搬送体への電荷の注入方式として充電方式を採用すると、出力が大幅に増加できるが、その電圧は高く、電流は小さいので一般的な用途には適していない。シミュレーションでは、各部品のサイズを1/100に縮小したところ、電圧は低く、電流は大きく実用的になるが、1/100サイズの部品を実用的に作製できなかった。
【解決手段】電荷搬送体の形状をL字状し、これを金属板のハーフ光エッチング法で作製する。
【効果】1/100サイズの電荷搬送体を低コストで大量生産できる。
【選択図】図12

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電荷搬送体に対する電荷の注入方式として高電位充電源による充電方式を使用し、且つ当該高電位充電源と回収電極間で帯電した当該電荷搬送体に作用する非対称鏡像力を、当該電荷搬送体の駆動力とする静電発電機において、
前記電荷搬送体は、当該電荷搬送体の進行方向と平行な水平面と、進行方向先端で当該水平面と連結し、当該進行方向に対し垂直に立てられた垂直面を有するL字状の部材であることを特徴とする静電発電機。
【請求項2】
請求項1において、前記L字状電荷搬送体は、ハーフ光エッチング法で作製されたものである静電発電機。
【請求項3】
電荷搬送体に対する電荷の注入方式として高電位充電源による充電方式を使用し、且つ当該高電位充電源と回収電極間で帯電した当該電荷搬送体に作用する非対称鏡像力を、当該電荷搬送体の駆動力とする静電発電機において、
前記電荷搬送体は、当該電荷搬送体の進行方向に対し直角で、かつ水平方向に伸びる基部と、当該基部から、当該電荷搬送体の進行方向と逆方向へ延びる上下一対の突起が前記水平方向に所定間隔で複数組並べられたくし歯からなり、
当該くし歯部分において、当該電荷搬送体の進行方向逆方向に開口するコの字状の縦断面を有し、前記基部は、前記電荷搬送体の進行方向と平行な水平面と、当該進行方向に対し垂直に立てられた垂直面を有することを特徴とする静電発電機。
【請求項4】
請求項3において、前記くし歯を有する電荷搬送体は、光エッチング法で作製したものである静電発電機。
【請求項5】
電荷搬送体に対する電荷の注入方式として高電位充電源による充電方式を使用し、且つ当該高電位充電源と回収電極間で帯電した当該電荷搬送体に作用する非対称鏡像力を、当該電荷搬送体の駆動力とする静電発電機において、
前記高電位充電源として背面電極を有するエレクトレットを使用し、当該高電位充電源は、当該背面電極と前記回収電極を同一の絶縁性支持体上に形成し、これら背面電極と回収電極を上方から被覆するエレクトレット樹脂層を形成し、当該背面電極上のエレクトレット樹脂層のみを帯電してエレクトレット化することで作製されたものである静電発電機。
【請求項6】
請求項5において、前記帯電によるエレクトレット化は、前記背面電極を接地し、前記回収電極を電気的にフロート状態にして、帯電ローラで行われたものである静電発電機。
【請求項7】
請求項1及び3において、前記高電位充電源のピッチ、および前記回収電極のピッチを夫々Xmとしたとき、前記電荷搬送体のピッチをX/2mとし、且つ一連の当該電荷搬送体を交互にAグループに属する電荷搬送体とBグループに属する電荷搬送体として、A、Bグループを形成し、当該Aグループが所定の高電位充電源群に入り、同時に当該Bグループが所定の回収電極群に入った時、
当該Aグループの各電荷搬送体を接地し、且つ当該Bグループの電荷搬送体を当該所定の回収電極群にそれぞれ接続し、更に移動した前記Aグループが、前記所定の回収電極群に入り、同時に前記Bグループが、前記所定の高電位充電源に入った時、当該Aグループの電荷搬送体を当該所定の回収電極群にそれぞれ接続し、且つ当該Bグループの各電荷搬送体を接地することを特徴とする静電発電機。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電荷搬送体への電荷の注入を充電方式で行い、非対称鏡像力を電荷搬送体の駆動力とする静電発電機において、電荷搬送体を小サイズとし、当該電荷搬送体、充電エレクトレット、及び回収電極の三部品を低コストで製造できる鏡像力駆動型静電発電機及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、非対称静電力を駆動力とする静電発電機において、電荷搬送体に電荷を注入する方法には、誘導方式と充電方式がある。そのうち、充電電荷量が多くなるのは充電方式であることが報告されている。
【0003】
しかしながら、同充電方式により出力を高めることは可能であるが、その内容は高電圧小電流である。
たとえば、充電電位源(以下、実施例に応じて、充電エレクトレットとも表示し、エレクトレットというときは、人工的に外部から電荷を注入保持させるエレクトレットのみならず、本来的に電荷を保持している強誘電体も含むものとする)の電位が、180,000Vの時、シミュレーション結果によれば、出力電圧は140,000V、電流は18mAである。その場合、主要三部品、電荷搬送体、充電エレクトレット、及び回収電極のサイズを1/100に縮小することで、電圧を1/100にし、電流を100倍、そして出力を100倍にできることが明らかになっている。しかし、電荷搬送体は、厚さ2μmのアルミ板で作られ、その形状は、縦横50μmの樋型である。よって、この材質と形状の電荷搬送体を低コストで大量生産することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
[特許文献1] 特開2020-065353号公報
【非特許文献】
【0005】
[非特許文献1]2019年米国静電気学会年次大会予稿集A-4
[非特許文献2][Asymmetric Electrostatic Forces and a New Electrostatic Generator], Nova Science Publishers, New York, 2010
[非特許文献3]Japan Hardcopy ‘90 論文集 EP-10
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、電荷搬送体への電荷の注入を充電方式で行い、電荷搬送体を非対称静電力で駆動する静電発電機において、小サイズ部品を低コストで大量生産できるシステムおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決する為の手段】
【0007】
本発明の目的は、電荷搬送体の樋型形状を上下で切断し、L字形状にすること、または樋型を奥行方向で細かく切断し、くし歯状に並べること、およびこれらを光エッチングで作成し、更に、エレクトレット層を帯電ローラで選択的に帯電することで達成できる。
【発明の効果】
【0008】
電荷搬送体の形状を、製造が容易なL字状またはくし歯状にすること、および充電エレクトレットを帯電ローラで帯電することで、小サイズ部品より構成される高出力静電発電機を、低コストで大量生産できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、クーロンの法則を説明する模式図である。
図2図2は、横向き樋型導体を用いた非対称静電力(クーロン力)を説明する模式図である。
図3図3は、接地導体平板に近接した点電荷に作用する鏡像力を説明する模式図である。
図4図4は、接地導体平板に近接した横置き樋型導電性帯電体に作用する非対称鏡像力を説明する模式図である。
図5図5は、鏡像力駆動型静電発電機の基本構造を示す縦断面図である。
図6図6は、充電電極を使用する鏡像力駆動型静電発電装置のより詳細な縦断面図である。
図7図7は、電荷搬送体を載せた電荷搬送体円板の斜視図である。
図8図8は、装置全体の斜視図である。
図9図9は、電荷が注入された電荷搬送体が、充電エレクトレットを抜けて、その先端が回収電極に到達するまでに受ける静電力を示すグラフである。
図10A図10Aは、光エッチングのハーフエッチング技術で、銅板等にできるポケット形状を示す模式図である。
図10B図10Bは、光エッチングのハーフエッチング技術で、銅板等にできるポケット形状を有する電荷搬送体の斜視図である。
図11図11は、図10に示されるポケット形状を有するピストル型電荷搬送体に作用する静電力を、シミュレーションするために使用された電荷搬送体の縦断面図である。
図12図12は、ピストル型電荷搬送体を使用する鏡像力駆動型静電発電機の模式図である。
図13図13は、ピストル型電荷搬送体が、充電エレクトレットを抜けて、その先端が回収電極に到達するまでに受ける静電力を示すグラフである。
図14図14は、電荷搬送体円板の外周に電荷搬送体を放射状に配した鏡像力駆動型静電発電機の1ユニットを示す鳥瞰図である。
図15図15は、図14に示す静電発電ユニットを5段積層した静電発電機の縦断面図である。
図16図16は、凹部状微細導体を連結した、くし型電荷搬送体を示す平面図である。
図17図17は、くし型電荷搬送体の一つの凹部に作用する静電力をシミュレーションするための平面図である。
図18図18は、一単位のくし歯型電荷搬送体が、充電エレクトレットを抜けて、その先端が回収電極に到達するまでに受ける静電力を示すグラフである。
図19図19は、帯電ローラを使用して、エレクトレット層を選択的に帯電して充電エレクトレットを作製する方法を示す模式図である。
図20A図20は、各ピッチが同じである電荷搬送体、充電エレクトレット、及び回収電極の配置を示す三部品の配置図である。
図20B図20Bは、電荷搬送体の数を、充電エレクトレット、及び回収電極の2倍とし、2グループに分けて、充電と回収を同時に行う方法を示す当該三部品の配置図である。
図21図21は、横置き樋型の電荷搬送体を、上下半分に切断しL字形状にした本発明の一実施例である電荷搬送体を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
小サイズ部品で構成される高出力静電発電機を、低コストで大量生産するという目的を、電荷搬送体を特定の形状とし、かつ光エッチング法で作成すること、および充電エレクトレットを帯電ローラで帯電することで達成した。
【実施例0011】
非対称静電力を電荷搬送体の駆動力とする静電発電方法はいくつかあるが、その中で、装置がもっとも簡単な鏡像力駆動型静電発電機で、小サイズ電荷搬送体を低コストで大量生産できる方法を説明する。
【0012】
通常、電界E中に置かれた電荷qに働く静電力は、(1)式で計算され、クーロン力と呼ばれる。
F = qE
(1)
【0013】
図1において、参照番号1は高圧電極、参照番号2は接地された第一対向電極、参照番号3は点電荷、参照番号4は点電荷に作用する静電力のベクトル、参照番号5は電界(電気力線)、及び参照番号6は、接地された第二対向電極を示している。
つまり、図1の中央左側において、例えば、電界の強さが106 V/mで、点電荷の電荷量が10-7Cの時、点電荷に作用する静電力は0.100Nになる。一方、図1の中央右側のように、電界の方向が反転した時、当該点電荷に作用する静電力の方向も反転するが、その大きさ(絶対値)は0.100Nであり、変わらない。
しかし、クーロンの法則は、点電荷又は点電荷とみなせる球形の帯電体にしか適用できない。
【0014】
これに対して、出願人は、電界中に置かれた非球形の帯電した導体に作用する静電力を求める際、クーロンの法則ではその計算ができないので、特許文献1に記載する二次元差分法を使って、電界の方向が反転する前と後の、当該導体に作用する静電力をシミュレーションした。具体的には、図2に示すように、参照番号7で示す帯電した導体の形状を樋型とし、その帯電量と電界の強さは図1と各同じとした。
その結果、電界の方向が反転すると、静電力の強さは、0.083Nから、0.038Nと半分以下になることが分かった。以下、これを非対称クーロン力という。
【0015】
図3に示すように、点電荷3が、接地導電性平板2から距離rにあるとき、当該点電荷には、(2)式で計算される静電気力が働く。以下、これを鏡像力という。
F = q2/4πε0(2r)2
(2)
しかしながら、この式が適用されるのは、やはり点電荷の場合である。
そこで、図4に示すように、導電性帯電体の形状が樋型の場合に、当該樋型導電性帯電体7に働く静電力をシミュレーションで求めた。その結果、帯電量qが10-6C、間隔rが1.0mmの時、樋型7開口部を平板2に対向させた場合、静電力は32.4Nだったが、その底面部を対向させた場合、倍以上の69.0Nになった。以下、これを非対称鏡像力という。
【0016】
そこで、鏡像力駆動型静電発電機では、非対称クーロン力と非対称鏡像力の両方の効果を使用する。
図5に、その鏡像力駆動型静電発電機の基本構造を示す。主要部品は、充電電位源8(通常はエレクトレットを使用する(以下、充電エレクトレットという))、横置き樋型電荷搬送体7と回収電極9の3点のみである。実際は、そこに図6に示すように、回収電極コンデンサー10、電荷注入導電性端子11と電荷回収導電性端子12が加わるが、以下、説明の簡略化のため、主に主要部品3点のみで行う。
【0017】
電荷搬送体7が、その左から充電エレクトレット8に入り、図6に示される位置に来たとき、電荷搬送体7の上下平板72、74と、充電エレクトレット8との間に空気コンデンサーが形成される。
この時、接地された電荷注入端子11との当接により電荷搬送体7が接地されると、当該空気コンデンサーへの充電電荷が大地より電荷搬送体7に注入される。
その後、帯電された電荷搬送体7はさらに右方向に進み、回収電極9の中に入る。そこで、電荷回収端子12により回収電極9と電気的に連結され、帯電電荷は回収電極9を介して、回収電極コンデンサー10に蓄積され、さらに図示しない回路を通じて外部負荷に流れる。
【0018】
充電エレクトレット8が負帯電の場合、電荷搬送体7は正帯電される。その結果、充電エレクトレット8と回収電極9の間を右に進む電荷搬送体7には、負帯電エレクトレットにより左向きにクーロン力が働く。またエレクトレットの背面電極により、やはり左向きに鏡像力が働く。
一方、回収電極9により、電荷搬送体7に右向きの鏡像力が働く。すなわち、充電エレクトレット8を出た直後は、左向きのクーロン力と鏡像力の合力が強いが、回収電極9に接近すると右向きの鏡像力が強く当該電荷搬送体7に作用する。
【0019】
非対称効果で、横置き樋型電荷搬送体7の後方上下水平板72、74のエッジに働く左向きのクーロン力および鏡像力は弱く、水平板72の表裏に垂直に働く静電力は、上方向と下方向が同じ強さで相殺され、前方垂直板部71に働く右向きの鏡像力は強い。この結果、右向きの静電力が左向きの静電力より強くなり、電荷搬送体7は、充電エレクトレット8から回収電極9に到達することができる。
従って、そこで、電荷搬送体7により搬送された電荷が回収電極9に回収されれば、この装置は静電発電機になる。回収されなければ、静電モーターになる。
【0020】
そこで、静電発電機としての電気的出力すなわち電力を、シミュレーションで求めてみる。
当該鏡像力駆動型静電発電機の装置構成を図7図8で示す。図7は電荷搬送体を載せた電荷搬送体円板の斜視図で、図8は装置全体の斜視図である。
両図において、参照番号8は、充電エレクトレット、7は電荷搬送体、9は回収電極、14は電荷搬送体7を載せた回転可能な電荷搬送体円板、13と15は、向かい合わせの同じ位置に、充電エレクトレット8と回収電極9が設置され固定された充電回収円板、16は回転軸である。なお、この1組の装置を以下1ユニットと呼ぶ。
【0021】
半径100mmの電荷搬送体円板14に、中心から35mm乃至95mmに、長さ60mmの樋型電荷搬送体7を60度おきに6個配置する。電荷搬送体7の幅と高さは10mmである。電荷搬送体7の長さ方向の真ん中は中心から65mm、ゆえにその円周は408mmである。
102mm置きに、充電エレクトレット8と回収電極9の組を4個置く。前の回収電極9’と充電エレクトレット8の間隔は20mm、充電エレクトレット8の幅は20mm、回収電極9までの距離は32mm、回収電極4の幅は30mmである。電荷搬送体7の上下水平平板72、74と充電エレクトレット8の間隔は1.0mmで、上下充電回収円板間の間隔は20mmである。
【0022】
充電エレクトレットの電荷密度を、現状で入手可能な最高値、-2.0mC/m2 とし、テフロン(登録商標)樹脂で構成されるエレクトレット層の厚さが、1.6mm、その比誘電率が2.0の時、エレクトレットの表面電位は180,709Vになる。
ただし、実際には、当該高電位は、大気中では、空気の絶縁破壊が発生して維持できないので、真空中を仮定している。また、当該高電位を真空中で形成するためには特殊な工法が必要になるが、ここでは省略する。
この状態で、電荷搬送体7が図6に示す位置に来て、充電接地端子11により接地されたとき、1.47μCの電荷が充電され、注入される。
【0023】
ここで、1.47μCの電荷が注入された電荷搬送体7が、充電エレクトレット7を抜けて、その先端が回収電極9に到達するまでに受ける静電力を、特許文献1にその詳細を示す二次元差分法でシミュレーションして求め、その結果を図9に示す。
同図より、電荷搬送体7が充電エレクトレット8を出た後、約7.5mmの間は、当該電荷搬送体7に働く静電力はマイナス、すなわち左向きであるが、7.5mmを越えるとプラス、すなわち右向きに転じ、しかもその絶対値がより大きくなることが明らかである。
又、同図において、静電力0Nの横線と、作用した静電力を示す曲線との囲む面積がエネルギーになる。0Nの横線より下の面積は、奪われた運動エネルギーを、上の面積は、与えられた運動エネルギーになる。前者は、-0.148Jで、後者は、+0.353Jでその差は、+0.205Jになる。なお、前者に対する後者の倍率を、非対称静電力効果と呼ぶ。この場合は、2.38倍である。
【0024】
回収電極9に到達した電荷搬送体7には、0.205Jの余剰な運動エネルギーが残されているので、仮に、真空中の移動で空気抵抗がなく、また機械的な摩擦もないと仮定すれば、この余剰な運動エネルギーは、すべて、搬送電荷を電気的により高いポテンシャルに持ち上げるのに使用できる。
余剰エネルギーWで、電荷qを、持ち上げられるポテンシャルVは(3)式で求められる。
V = W/q
(3)
すなわち139,632Vになる。よって、これが、回収可能な、すなわち発電可能な最高電位である(以下、回収電位と言う)。
【0025】
ここで、1個の電荷搬送体7が1回転するときに、4回、充電エレクトレット8と回収電極9を通過するので、その間に搬送回収される電荷量は、計算式1.47μC × 4 = 5.88μCで表わされる。
電荷搬送体円板14上には、6個の電荷搬送体7があるので、電荷搬送体円板14が1回転するときに搬送する電荷量は、5.88μC × 6= 35.28μCである。
電荷搬送体円板14の回転数が、使用するボールベアリングの最大回転数30,000rpmとすると、1秒間に500回転になる。ゆえに1秒間に搬送される電荷量は35.28μC × 500 = 17640μC、すなわち、17.64mAになる。
この結果、発電量Pは電流iと電圧Vの積であり、(4)式で計算され、2463Wになる。
P = I * V
(4)
依って、上記各部品のサイズに鑑みれば、例えば、縦横20cm × 20cm、厚さ2cmのCDカセットのような装置で2kW以上も発電できる。
しかしながら、汎用電源としては、電圧139,632Vは高すぎ、電流17.63mAは低すぎる。
【0026】
そこで、回収電位を140,000Vから1,400Vに下げるために、主要三部品のサイズおよび間隔を1/100にダウンサイジングして、シミュレーションしたところ、その詳細は省略するが、電圧は1/100に、電流は100倍になった。このままでは、発電量は同じであるが、部品の高さも1/100になったので、同一体積の装置の発電量は、100倍に高出力化した。
【0027】
ただし、このシミュレーションで使用した電荷搬送体の形状は、縦横50μmの樋型で、その板厚はわずか2μmである。この小サイズ電荷搬送体を現実に作製することは非常に困難で、たとえ出来たとしても、高コストで、生産性も悪いと思われる。
また、上下充電回収円板13、15の各同一面に、幅200μmの充電エレクトレットと、幅320μmの回収電極を、320μmの間隔で交互に多数作製するのも困難であり、特に、微細幅のエレクトレットの作製が難しい。電子銃で作成することは可能だが、高コストで生産性も悪い。
そこで、現実に低コストで大量生産できる形状で、非対称鏡像力効果のある新規な電荷搬送体形状と、微細幅エレクトレットの新規な帯電方法を以下考案した。
【0028】
その第一候補が、図21に示すように、横置き樋型を上下半分に切断したL字形状の電荷搬送体である。
つまり、L字形状であれば、3Dプリンターで作製する場合、横置き樋型電荷搬送体の上平板72を支える犠牲層が不要になり、その除去も不要になるので、使用材料・装置ともに簡略化できる。
【0029】
さらに有望な製法は、光エッチングのハーフエッチング技術を使用して、図10ABに示すL字形状の電荷搬送体を製造するものである。図10A中、符号20は銅板、符号21は穴、符号zは板厚の方向である。
すなわち、銅板等に対し光エッチングで微細な穴あけ加工をするとき、途中で止めると、図10に示すようなポケット形状である穴ができる。通常、穴21は、銅板20等の板厚の60~70%の深さだが、さらに深く掘ることもできる。これにより、図10Bに示すような 小サイズ電荷搬送体7を、低コストで量産できる。
この形状は、疑似的なL字形状である。そこで、以下ピストル型と呼ぶ。
【0030】
ここで、当該ピストル型電荷搬送体に作用する静電力を二次元差分法でシミュレーションする。
しかしながら、曲線図形は計算できない。そこで、曲線部を図11に示すように小サイズの四角形に置き換えて計算した。図では縦横4段にしか表示されていないが、実際は縦横10段に置き換えた。
【0031】
当該シミュレーションを行った電荷搬送体7、充電エレクトレット8、及び回収電極9の配置を図12に示す。
参照番号71はピストル型電荷搬送体の前方垂直面、72は上方水平面、73は後方垂直面、及び74は下方水平面である。その寸法は、それぞれ、52μm、76μm、12μm、及び12μmである。充電エレクトレット8の幅は208μm、厚さは8μmで、表面電荷密度は-2.0mC/m2 である。
又、電荷搬送体7の上方水平面72と充電エレクトレット8の間隔は12μmである。回収電極9の幅は208μmで、その電位は0Vである。充電エレクトレット8の右端と回収電極9の左端の間隔は332μmである。電荷搬送体7、充電エレクトレット8、及び回収電極9の長さは各6.0mmである。
【0032】
先ず、図12に示すように、ピストル型電荷搬送体7を、充電エレクトレット8の直下において接地した時の充電電荷量をシミュレーションした。結果は、-0.563nCになった。
【0033】
次に、-0.563nCに帯電した電荷搬送体7が、充電エレクトレット8の右端から回収電極の左端まで、16μmピッチで移動するときに受ける静電力をシミュレーションした。その結果を図13に示す。
図9の樋型と比較すると明らかに、ピストル型では、前半で奪われるエネルギーが増え、後半で獲得するエネルギーが減っている。その結果、非対称静電力効果は、2.38倍から、1.78倍に低下している。それでも、前者は、-0.90μJで、後者は、+1.60μJで、+0.70μJの余剰エネルギーがあり、これで、0.563nCの電荷を、+1245Vまで引き上げることができる。
【0034】
次に、当該ピストル型電荷搬送体7を使用する静電発電機の出力を求める。
図14に示すように、半径50mmの電荷搬送体円板14の中心から、40mm乃至46mmの位置に、長さ6mm、幅0.076mm、及び高さ0.052mmのハーフ光エッチングで作成した当該ピストル型電荷搬送体7を、放射状に並べる。当該電荷搬送体14自体は、例えば、厚さ50μmの銅板を光エッチングして作製することができる。または、そのように作製した銅板を支持体に張り付けてもよい。
電荷搬送体円板14を挟む上下充電回収電極円板13、15の中心から40mm乃至46mmの位置に、長さ6mm、幅0.2mmのエレクトレットと、長さ6mm、幅0.33mmの回収電極を置く。
電荷搬送体、エレクトレット、及び回収電極の各回転方向のピッチは、中心から43mmで、1.06mm。40mmで0.99mm、及び46mmで1.13mmである。又、エレクトレットと回収電極間間隔は、中心から、40、43、及び46mmで、夫々0.29、0.33、及び0.37mmである。なお、細幅エレクトレットの製法は、下記実施例3で説明する。
【0035】
又、半径43mmの円周長は270mmで、電荷搬送体7のピッチは1.06mmなので、ここに円環上に255個の電荷搬送体7が並ぶ。
同様に、充電エレクトレット8と回収電極9のピッチも1.06mmなので、それぞれ255個が円環上に並ぶ。
従って、255組の充電エレクトレット8と回収電極9があり、また255個の電荷搬送体7があり、そして各電荷搬送体7には、5.64E-10[C]の電荷が充電されているので、電荷搬送体円板14の1回転で、255個の回収電極9に回収される電荷の量は、255 * 255 * 5.64E-10[C] = 3.66E-5[C]になる。
ここで、電荷搬送体円板14が、ベアリングの最高回転数30,000rpmで回転するとすると、1秒間には500回転する。ゆえに、1秒間に、3.66E-5[C] * 500 = 0.0183[C]の電荷が回収される。すなわち、回収(発電)電流は0.0183Aである。
よって、回収電位が、前記した1245Vなので、発電量は0.0183A * 1245V = 22.8Wになる。
【0036】
以上、上充電回収電極円板13、電荷搬送体円板14、及び下充電回収電極円板15の各1枚で構成される1ユニットの出力は、22.8Wである。
しかし、その高さ(厚さ)は、上下回収電極間距離が0.076mmのため、0.1mmに収められる。このため、100mm*100mm*10mmのカセットサイズには、図15に示すように、100ユニットが積層可能で、その出力は、2.28kWになる。
【0037】
なお、この場合、電荷搬送体7は互いに導通し、隣接電荷搬送体間の間隔は、隣接充電エレクトレット8間、及び隣接回収電極9間の各間隔と同じなので、個々の充電エレクトレット8の電荷注入導電性端子11と、個々の回収電極9の電荷回収導電性端子12を省くことができる。
即ち、電荷搬送体7と大地をつなぐ高速スイッチングトランジスタ、および電荷搬送体7と回収電極9をつなぐ高速スイッチングトランジスタを置き、電荷搬送体7が、充電エレクトレットに入った時、および回収電極に入ったとき、それぞれ瞬間的にON状態にすればよい。
【実施例0038】
第二の実施例では、樋型電荷搬送体7を、その奥行方向に細かく切断して凹状にし、横に寝かせて図16のように長くつなげた、くし歯状の電荷搬送体を使用する。
この形状は、薄い金属板を光エッチングすることで容易に作製できる。
しかしながら、この形状故に、当該くし型電荷搬送体7に作用する静電力をシミュレーションするのは複雑になるので、1個のくし型(凹部)を取り出して、これに作用する静電力をシミュレーションすることにする。その形状を図17に示す。
ここで、参照番号71は、単位くし型電荷搬送体7の前方垂直面を、72は上方水平面を、73は後方垂直面を、75は凹部垂直面を、76は奥側垂直面を、77は手前側垂直面を、78は凹部奥側垂直面を、そして79は凹部手前側垂直面を示す。
その寸法は、この順番に、72μm、48μm、12μm、48μm、72μm、72μm、24μm、及び24μmで、厚さは夫々50μmである。
【0039】
通常、まず最初に、充電エレクトレット8で、電荷搬送体7に充電される電荷量をシミュレーションするには、三次元でする必要があるが、二次元でシミュレーションする場合、当該くし型電荷搬送体7の上下水平面72、74の面積から、電荷量を0.01nCと推定した。
また、電荷搬送体7と充電エレクトレット8および回収電極9の間には、図5図12に示されるように間隔があるので、二次元プログラムでは、平面くし型電荷搬送体と同時には実施出来ない。そこで、同一平面にしてシミュレーションした。
また、エレクトレットは、電荷保持面と支持接地電極層で構成されるが、やはり二次元ではシミュレーションできないため、充電電極と置き換えた。
又、エレクトレットの電位は、電荷搬送体の位置により変わるので一定ではないが、実施例1を参考に、-1500Vとした。
同一平面上に配置した充電電極8と、電荷搬送体7と、回収電極9を図17に示す。充電電極8と回収電極9の幅は、それぞれ192μmで、両者の間隔は、328μmである。
【0040】
帯電量0.01nCの単位くし型電荷搬送体7が、充電電極近傍から回収電極近傍まで移動する間に受ける静電力を、16μmごとにシミュレーションした。その結果を、図18に示す。当該図から、奪われたエネルギーと獲得したエネルギーを計算すると、-47.8nJと+62.0nJになり、余剰エネルギーは、14.2nJで、0.01nCの電荷の電位を1420Vまで高めることができる。なお、くし型電荷搬送体の非対称静電力効果は、1.3倍と、ピストル型電荷搬送体の1.78倍よりさらに低下した。
【0041】
当該単位くし型電極は、長さ6.0mmに83個並べられるので、その搬送電荷量は、0.83nCになり、図14に示す1ユニットの電流は、27mAになる。回収電圧が、1420Vなので、出力は、38.4Wになる。この場合も、1ユニットの高さは、十分0.1mmに収まるので、100mm*100mm*10mmの筐体に、図15に示すように、100個積層した場合は、その出力は、3.84kWになる。
【実施例0042】
現在知られている工法では、同一基板上に、微細幅の充電エレクトレットと回収電極を交互に並べて多数作製することは大変難しい。故に、低コストで大量生産可能な新工法が必要である。以下新工法を説明する。
【0043】
先ず、図19の(1)に示されるように、充電回収基板15の上に、充電エレクトレット8の背面電極82と回収電極9を作製する。例えば、導電性インクを使用するインクジェットプリンタで容易に作製できる。
次に、(2)に示されるように、この上に、充電回収基板15全面に、エレクトレットフイルム81を張り付ける、またはエレクトレット層81を塗布する。その厚さは、例えば、25μmである。
なお、回収電極9の上に、薄い絶縁層81が重ねられても、上下回収電極間はファラデーゲージを形成するので、上下回収電極間の電位はほとんど変わらず、搬送電荷の回収率も変わらない。
【0044】
次に、(3)に示されるように、この上に、レーザプリンタの感光ドラムの帯電に使用されている帯電ローラ(非特許文献3)を載せて、高電圧、例えば、-1500Vを印加しながら回転移動させる。
その時、接地された背面電極82上のエレクトレット層81と帯電ローラ19の間の狭い間隙でコロナ放電が発生し、背面電極82上のエレクトレット層81のみが、選択的に、マイナスに、例えば、-1000Vに帯電される。
なお、この時、回収電極9は、接地されていないので、その上のエレクトレット層81と帯電ローラ19間には強い電界は形成されておらずコロナ放電は発生しない。
なお、このような選択的帯電は、ワイヤーや針を使用する通常のコロナ放電器でも、帯電幅200μmに正確に帯電することはほとんど不可能である。
【実施例0045】
次に、簡単に出力を2倍にする電荷搬送体7の構成を説明する。
実施例1および2において、電荷搬送体7の間隔は、充電エレクトレット8および回収電極9の間隔と同じく106μmであった(図20A参照)。
そこで、本実施例においては、電荷搬送体7の数を2倍にし、間隔を半分の53μmとする。そして、図20Bに示すように、一つ置きに、Aグループ電荷搬送体7AとBグループ電荷搬送体7Bに分ける。
このように構成すると、図20Bに示すように、Aグループ電荷搬送体7Aが、充電エレクトレット8に入った時、同時にBグループ電荷搬送体7Bは、回収電極9に入る。
この時、Aグループを接地し、Bグループを回収電極9と接続すると、Aグループの電荷搬送体7Aは充電され、Bグループの電荷搬送体7Bから搬送された電荷が、回収電極9に回収される。
【0046】
次に、電荷搬送体円板14が、53μm回転移動した時、Aグループ電荷搬送体7Aは、回収電極9に入り、Bグループ電荷搬送体7Bは充電エレクトレット8に入る。この時、Bグループを接地し、Aグループを回収電極9と接続する。
このように、53μm進むごとに充電と回収が同時に行われるので、106μm進むごとに、充電と回収が行われる実施例1、2に対して、回収電流が2倍となり、出力が2倍となる。
【0047】
以上、4実施例とも、充電方式による電荷注入を使用する鏡像力駆動型静電発電機で説明したが、同静電モーターおよび静電加速器の場合も同様に実施可能である。
【符号の説明】
【0048】
1: 高圧電極
2: 第一対向電極
3: 点電荷
4: 点電荷に作用する静電力のベクトルを示す矢印
5: 電界の方向を示す矢印
6: 第二対向電極
7: 電界の方向に前後非対称な形状を有する導体(電荷搬送体)
71:非対称電荷搬送体の前方垂直面
72:非対称電荷搬送体の上水平面
73:非対称電荷搬送体の前方垂直面の後方垂直面
74:非対称電荷搬送体の下水平面
75:非対称電荷搬送体の凹部垂直面
76:非対称電荷搬送体の奥側垂直面
77:非対称電荷搬送体の手前垂直面
78:非対称電荷搬送体の凹部奥側垂直面
79:非対称電荷搬送体の凹部手前側垂直面
8: 充電電位源(充電エレクトレット)
81:充電エレクトレットの樹脂層
82:充電エレクトレットの背面電極層
9: 電荷回収電極
10: 電荷回収電極に接続されたコンデンサー
11: 電荷注入導電性端子
12: 電荷回収導電性端子
13: その裏面に、充電電位源と回収電極が配置された充電回収基板
14: 電荷搬送体が配置された電荷搬送体基板
15: その表面に、充電電位源と回収電極が配置された固定電極基板
16: 電荷搬送体円板の支柱
17: ベアリング
18: 発電機の筐体
19: 帯電ローラ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20A
図20B
図21