(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022030117
(43)【公開日】2022-02-18
(54)【発明の名称】隅肉溶接台車
(51)【国際特許分類】
B23K 9/12 20060101AFI20220210BHJP
B23K 37/02 20060101ALI20220210BHJP
【FI】
B23K9/12 331M
B23K37/02 E
B23K37/02 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020133893
(22)【出願日】2020-08-06
(71)【出願人】
【識別番号】593083918
【氏名又は名称】株式会社コクホ
(74)【代理人】
【識別番号】100098914
【弁理士】
【氏名又は名称】岡島 伸行
(72)【発明者】
【氏名】井上 芳弘
(57)【要約】 (修正有)
【課題】炊き残しを生じさせることなく入隅における隅肉溶接を行うことができ、その結果、作業効率を高めることが可能である隅肉溶接台車を提供する。
【解決手段】隅肉溶接台車1は、一方の被溶接材W1に他方の被溶接材W2を隅肉溶接により接合する隅肉溶接台車であって、一方の被溶接材W1上において溶接トーチTを搭載してセットされる台車本体2と、台車駆動装置と、倣い走行装置4と、トーチ支持装置5と、台車本体2の前後端にそれぞれ配置されて後述のように他方の被溶接材W2に沿って倣い走行する台車本体2をこの台車本体2の進行を妨げる壁近傍で停止させるリミットスイッチ6,6と、制御部を備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の被溶接材に他方の被溶接材を隅肉溶接により接合する隅肉溶接台車であって、
前記一方の被溶接材上に位置する台車本体と、
溶接トーチと、
前記台車本体を前後左右に移動させると共に旋回させる台車駆動装置と、
前記台車駆動装置により前後方向に移動する前記台車本体を前記他方の被溶接材に沿って倣い走行させる倣い走行装置と、
前記台車本体の左右の一方に位置する前記一方の被溶接材及び前記他方の被溶接材の間の溶接ラインに先端を向けた状態の前記溶接トーチを該台車本体の左右方向に往復移動可能に支持するトーチ支持装置と、
前記トーチ支持装置により前記溶接トーチが支持されている前記台車本体の前記他方の被溶接材に対する距離及び姿勢を検出する距離姿勢検出手段と、
前記他方の被溶接材に沿って倣い走行する前記台車本体を該台車本体の進行を妨げる壁近傍で停止させる壁検出手段と、
前記台車駆動装置及び前記倣い走行装置により前記他方の被溶接材に沿って倣い走行する前記台車本体が前記壁検出手段によって前記壁近傍で停止した時点において、前記一方の被溶接材及び前記他方の被溶接材の間の溶接ラインと前記壁との交点に前記溶接トーチの先端を向けるべく前記台車駆動装置を動作させて前記台車本体を旋回させると共に、該台車本体の旋回に伴って前記距離姿勢検出手段で検出される前記台車本体の前記壁に対する距離及び姿勢の変化に基づいて、前記溶接トーチの先端と前記溶接ラインとの距離を所定量に保つべく前記トーチ支持装置を動作させて前記溶接トーチを移動させる制御部を備えている隅肉溶接台車。
【請求項2】
前記台車駆動装置は、前記台車本体に一つずつ搭載されて互いに独立して動作する左側駆動源及び右側駆動源と、前記台車本体の左右に一つずつ配置された左側走行車輪及び右側走行車輪と、前記左側走行車輪に対して前記左側駆動源からの駆動力を伝達する左側駆動力伝達機構と、前記右側走行車輪に対して前記右側駆動源からの駆動力を伝達する右側駆動力伝達機構とが備えられている請求項1に記載の隅肉溶接台車。
【請求項3】
前記倣い走行装置は、先端にローラを有する一対のアームと、前記一対のアームの先端側を前記溶接トーチと同じ方向に突き出させた状態で進退可能に支持するアーム支持機構を備え、前記アーム及び前記アーム支持機構のいずれか一方に前記距離姿勢検出手段が組み込まれている請求項1又は2に記載の隅肉溶接台車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接トーチを搭載して隅肉溶接を行う隅肉溶接台車に係り、特に台車の進行が壁に妨げられる入隅の隅肉溶接に好適な隅肉溶接台車に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、上記したような隅肉溶接に用いられる溶接台車としては、例えば特許文献1に記載されたものがある。
【0003】
この溶接台車は、前後端に4個の走行車輪を配置した台車本体と、この台車本体の前後端間に配置されたトーチ支持部を備えている。溶接トーチは、トーチ支持部によって先端が台車本体の側面がわで且つ斜め下方に向くようにして支持されており、この溶接トーチの傾斜角度は調整可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記した従来の溶接台車において、台車本体の側面がわで且つ斜め下方に向けた状態で支持する溶接トーチの傾斜角度を調節することはできるものの、台車本体の前後方向には位置調整を行うことができないので、台車の進行が壁に妨げられる入隅において隅肉溶接を行う場合には、台車本体の進行方向側端部と台車本体上の溶接トーチとの間の距離分だけ、この溶接台車で溶接を行い得ない部分(いわゆる炊き残し)が生じてしまう。
【0006】
つまり、この溶接台車で溶接を行い得ない部分の溶接は、人手を借りて行わなくてはならず作業効率を高めることができないという問題があり、この問題を解決することが従来の課題となっていた。
【0007】
本発明は、上記した従来の課題に着目してなされたもので、炊き残しを生じさせることなく入隅における隅肉溶接を行うことができ、その結果、作業効率を高めることが可能である隅肉溶接台車を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様は、一方の被溶接材に他方の被溶接材を隅肉溶接により接合する隅肉溶接台車であって、前記一方の被溶接材上に位置する台車本体と、溶接トーチと、前記台車本体を前後左右に移動させると共に旋回させる台車駆動装置と、前記台車駆動装置により前後方向に移動する前記台車本体を前記他方の被溶接材に沿って倣い走行させる倣い走行装置と、前記台車本体の左右の一方に位置する前記一方の被溶接材及び前記他方の被溶接材の間の溶接ラインに先端を向けた状態の前記溶接トーチを該台車本体の左右方向に往復移動可能に支持するトーチ支持装置と、前記トーチ支持装置により前記溶接トーチが支持されている前記台車本体の前記他方の被溶接材に対する距離及び姿勢を検出する距離姿勢検出手段と、前記他方の被溶接材に沿って倣い走行する前記台車本体を該台車本体の進行を妨げる壁近傍で停止させる壁検出手段と、前記台車駆動装置及び前記倣い走行装置により前記他方の被溶接材に沿って倣い走行する前記台車本体が前記壁検出手段によって前記壁近傍で停止した時点において、前記一方の被溶接材及び前記他方の被溶接材の間の溶接ラインと前記壁との交点に前記溶接トーチの先端を向けるべく前記台車駆動装置を動作させて前記台車本体を旋回させると共に、該台車本体の旋回に伴って前記距離姿勢検出手段で検出される前記台車本体の前記壁に対する距離及び姿勢の変化に基づいて、前記溶接トーチの先端と前記溶接ラインとの距離を所定量に保つべく前記トーチ支持装置を動作させて前記溶接トーチを移動させる制御部を備えている構成としている。
【0009】
本発明の第2の態様において、前記台車駆動装置は、前記台車本体に一つずつ搭載されて互いに独立して動作する左側駆動源及び右側駆動源と、前記台車本体の左右に一つずつ配置された左側走行車輪及び右側走行車輪と、前記左側走行車輪に対して前記左側駆動源からの駆動力を伝達する左側駆動力伝達機構と、前記右側走行車輪に対して前記右側駆動源からの駆動力を伝達する右側駆動力伝達機構とが備えられている構成とする。
【0010】
本発明の第3の態様において、前記倣い走行装置は、先端にローラを有する一対のアームと、前記一対のアームの先端側を前記溶接トーチと同じ方向に突き出させた状態で進退可能に支持するアーム支持機構を備え、前記アーム及び前記アーム支持機構のいずれか一方に前記距離姿勢検出手段が組み込まれている構成とする。
【0011】
本発明に係る隅肉溶接台車では、進行が壁に妨げられる入隅において一方の被溶接材に他方の被溶接材を隅肉溶接により接合する場合、一方の被溶接材上に台車本体を置いて一方の被溶接材及び他方の被溶接材の間の溶接ラインに対して溶接トーチによる溶接を開始すると、台車駆動装置により台車本体が前後方向に移動して、倣い走行装置による他方の被溶接材に沿った倣い走行を開始する。
【0012】
そして、隅肉溶接中において、台車本体の進行を妨げる壁への接近を壁検出手段が検出すると、台車駆動装置の動作停止により台車本体が対向壁近傍で停止する。
【0013】
この後、制御部からの指令による台車駆動装置の動作により、溶接ラインと壁との交点に溶接トーチの先端が向くように台車本体が旋回を行う。この台車本体の旋回に伴って、距離姿勢検出手段で検出される他方の被溶接材に対する台車本体の距離及び姿勢の変化に基づいて、制御部からの指令によりトーチ支持装置が動作して、溶接トーチの先端の溶接ラインに対する距離が所定量に保たれるように溶接トーチが移動する。
【0014】
つまり、進行が壁に妨げられる入隅の隅肉溶接を行う場合において、台車本体が壁に行く手を遮られたとしても、溶接トーチの先端の溶接ラインに対する距離を所定量に保ちつつ台車本体が旋回するので、従来行い得なかった台車本体の進行方向側端部と台車本体上の溶接トーチとの間の部分も、いわゆる炊き残しなく溶接し得ることとなる。
【0015】
したがって、人手を借りて炊き残し部分の処理を行わなくて済む分だけ、作業効率を高め得ることとなる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る隅肉溶接台車において、炊き残しを生じさせることなく入隅における隅肉溶接を行うことができ、その結果、作業効率を高めることが可能であるという非常に優れた効果がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態に係る隅肉溶接台車の隅肉接時の平面説明図である。
【
図2】
図1に示した隅肉溶接台車の背面説明図である。
【
図3】
図1に示した隅肉溶接台車の側面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を図面に基づいて説明する。
図1~
図3は、本発明の一実施形態による隅肉溶接台車を示しており、
図1及び
図3において、矢印方向の動作を前進とし、矢印とは反対方向の動作を後退とする。
【0019】
図1~
図3に示すように、この隅肉溶接台車1は、一方の被溶接材W1に他方の被溶接材W2を隅肉溶接により接合する隅肉溶接台車であって、一方の被溶接材W1上において溶接トーチTを搭載してセットされる台車本体2と、台車駆動装置3と、倣い走行装置4と、トーチ支持装置5と、台車本体2の前後端にそれぞれ配置されて後述のように他方の被溶接材W2に沿って倣い走行する台車本体2をこの台車本体2の進行を妨げる壁W3近傍で停止させるリミットスイッチ6,6と、制御部7を備えている。
【0020】
台車駆動装置3は、台車本体2に一つずつ搭載されて互いに独立して動作する左側モータ(左側駆動源)31L及び右側モータ(右側駆動源)31Rと、台車本体2の左右に一つずつ配置された左側走行車輪32L及び右側走行車輪32Rを備えている。
この台車駆動装置3において、左右の走行車輪32L,32Rに対しては、いずれも同じ構成を成す駆動力伝達機構33を介して左右のモータ31L,31Rからの駆動力を伝達するようになっている。
【0021】
この場合、駆動力伝達機構33は、左側モータ31L(或いは右側モータ31R)の出力軸に装着された出力歯車33aと、左側走行車輪32L(或いは右側走行車輪32R)の車軸に装着した入力歯車33bとの間にチェーン33cを掛け渡して成っている。
【0022】
つまり、この台車駆動装置3では、左側モータ31L及び右側モータ31Rの各回転速度や回転方向を適宜変えた駆動力を左側走行車輪32L及び右側走行車輪32Rに対して駆動力伝達機構33を介して伝達することで、台車本体2を前後左右に移動させると共に旋回させることができるようになっている。
【0023】
この際、左側走行車輪32L及び右側走行車輪32Rの各前後には、台車本体2の前後方向への走行時における転倒を防ぐための補助車輪34,34が配置されている。なお、旋回時における台車本体2の動作を阻害しないようにするために、補助車輪34,34と一方の被溶接材W1との間には、0.5mm程度の隙間ができるようにしてある。つまり、補助車輪34,34は、一方の被溶接材W1に対して、つかず離れず軽く接触するようになっている。
【0024】
倣い走行装置4は、台車駆動装置3により前後方向に移動する台車本体2を他方の被溶接材W2に沿って走行させる装置であり、台車本体2上において他方の被溶接材W2を向く溶接トーチTを間にして前後にそれぞれ配置された2組のアクチュエータユニット40,40から成っている。
【0025】
このアクチュエータユニット40は、台車本体2上に搭載されたアクチュエータ41と、このアクチュエータ41のプッシュプルロッド42の先端にL字ホルダ43を介して回転自在に支持される水平倣いローラ44を備えている。水平倣いローラ44は、台車本体2の側面から突き出た状態で支持されており、アクチュエータ41の動作により他方の被溶接材W2に対して進退するものとなっている。
【0026】
この実施形態において、アクチュエータ41のプッシュプルロッド42の先端及びL字ホルダ43間には、距離姿勢検出手段としての距離姿勢検出センサ45が介在させてある。
【0027】
つまり、この倣い走行装置4は、一対のアクチュエータユニット40,40の各水平倣いローラ44,44を他方の被溶接材W2に当接させて、台車本体2を他方の被溶接材W2に沿って走行させる機能を有しているほかに、水平倣いローラ44,44をアクチュエータ41,41の動作により他方の被溶接材W2や対向壁W3に対して同時或いは個々に接触離間させて、台車本体2の他方の被溶接材W2や対向壁W3に対する距離及び姿勢を検出する機能を有している。
【0028】
トーチ支持装置5は、台車本体2の走行方向と直交する方向(
図2左右方向)に沿って台車本体2上に配置されたレール51と、このレール51上を往復移動可能なスライダ52と、台車本体2上に配置されてスライダ52をレール51上で往復移動させるウィービングモータ53と、スライダ52に連結されたトーチクランプ54を有している。溶接トーチTは、その先端Taを被溶接材W1,W2間の溶接ラインL側(
図2左側)で且つ下方に向けた状態でトーチクランプ54により斜めに支持される。
【0029】
溶接トーチTを支持するトーチクランプ54の上下方向の位置は、水平ノブ55の回動操作によって調整が可能となっており、これにより、溶接トーチTの溶接ラインLに対する上下方向のセンタ出しが行えるようになっている。
【0030】
また、スライダ52の台車本体2の走行方向と直交する方向の位置は、ボルト56の回動操作によって調整が可能となっており、トーチクランプ54に支持された溶接トーチTの溶接ラインLに対する距離の調整が行えるようになっている。
【0031】
制御部7は台車本体2上に搭載されており、この制御部7は、倣い走行装置4のアクチュエータユニット40に組み込まれた距離姿勢検出手段としての距離姿勢検出センサ45及び台車本体2に配置された壁検出手段としてのリミットスイッチ6,6からの検出信号を取得して、台車駆動装置3及びトーチ支持装置5の各動作をコントロールするようになっている。
【0032】
具体的には、この制御部7において、リミットスイッチ6からの検出信号を受けて台車本体2が対向壁W3近傍で停止した時点で、台車駆動装置3の左右両側のモータ31L,31Rの各回転速度及び回転方向を適宜変えた駆動力を左右両側の走行車輪32L,32Rにそれぞれ伝達して、台車本体2を旋回させるようにコントロールする。
【0033】
また、この制御部7では、台車本体2の旋回に伴って倣い走行装置4のアクチュエータユニット40に組み込まれた距離姿勢検出センサ45で検出される台車本体2の対向壁W3に対する距離及び姿勢の変化に基づいて、トーチ支持装置5を動作させて溶接トーチTを移動させることで、溶接トーチTの先端Taと被溶接材W1,W2間の溶接ラインLとの距離を所定量に保つようにコントロールする。
【0034】
このような構成を成す隅肉溶接台車1では、被溶接材W1,W2間の入隅における隅肉溶接を行うに際して、溶接トーチTを搭載した台車本体2を一方の被溶接材W1上に載置する。
【0035】
この際、ボルト56を回動操作することでスライダ52の台車本体2に対する位置調整を行うと共に、水平ノブ55を回動操作することで溶接トーチTを支持するトーチクランプ54の上下方向の位置調整を行う。
【0036】
この台車本体2上における調整の後、まず、図示しない電源をオンにする。
次いで、同じく制御部7の図示しないセットボタンをオン操作することで、トーチ支持装置5のウィービングモータ53により溶接トーチTを進退させて、台車本体2からの所定の突き出し量となった位置で固定する。
【0037】
このウィービングモータ53の動作とともに、倣い走行装置4のアクチュエータ41,41の動作により2個の水平倣いローラ44,44(距離姿勢検出センサ45,45)をそれぞれ必要量だけ突き出させる。
【0038】
このように基準調整した溶接台車2を一方の被溶接材W1上のセット位置、すなわち、2個の水平倣いローラ44,44のうちの少なくとも1個の水平倣いローラ44が他方の被溶接材W2の壁面に軽く触れる位置に置く。
【0039】
この状態において、制御部7の図示しない運転ボタンをオン操作すると、台車駆動装置3の左右両側のモータ31L,31Rがそれぞれ作動して、互いに異なる回転速度及び回転方向が駆動力伝達機構33を介して左右両側の走行車輪32L,32Rに伝達され、これにより、セット位置にある台車本体2が他方の被溶接材W2の壁面に対して幅寄せを行う。
【0040】
この台車本体2の幅寄せによって、2個の水平倣いローラ44,44の双方が被溶接材W2の壁面に所定圧力で接触したことを距離姿勢検出センサ45,45が検出することで、台車本体2の前後軸が溶接ラインLの方向に合致していることを制御部7が認識し、台車本体2の幅寄せ動作が停止する(
図1中央の状態)。
【0041】
この後、制御部7からの指令によって、台車駆動装置3の左右両側のモータ31L,31Rがそれぞれ作動して、同じ回転速度及び同じ回転方向の駆動力が駆動力伝達機構33を介して左右両側の走行車輪32L,32Rに伝達され、これにより、倣い走行装置4の水平倣いローラ44,44を当接させた他方の被溶接材W2(溶接ラインL)に沿って台車本体2が倣い走行を開始する(後進する)。
【0042】
このように倣い走行を行っている台車本体2の進行方向側(
図1左側)に位置するリミットスイッチ6が溶接開始側(
図1左側)の壁W3に当接することで、制御部7が倣い溶接区間端に到達したことを認識し、台車本体2の倣い走行が停止する。
【0043】
この状態で、再度、制御部7の図示しない運転ボタンをオン操作すると、倣い走行装置4のアクチュエータ41,41の動作により2個の水平倣いローラ44,44(距離姿勢検出センサ45,45)がそれぞれ後退して他方の被溶接材W2から離間する。
【0044】
これに続いて、制御部7からの指令により、台車駆動装置3の左右両側のモータ31L,31Rがそれぞれ旋回モードで作動して、互いに異なる回転速度及び異なる回転方向の駆動力が駆動力伝達機構33を介して左右両側の走行車輪32L,32Rに伝達され、これにより、台車本体2は、この台車本体2上に設定された旋回軸Xを中心にして信知旋回する。この間、この信知旋回に合わせて、トーチ支持装置5のウィービングモータ53により溶接トーチTが進出する。
【0045】
そして、2個の水平倣いローラ44,44(距離姿勢検出センサ45,45)センサのうちの溶接開始側の水平倣いローラ44が壁W3に当接すると(
図1左側に一点鎖線で示す状態)、制御部7からの指令により、台車駆動装置3の左右両側のモータ31L,31Rがそれぞれ微動モードで作動して、その僅かな駆動力が左右両側の走行車輪32L,32Rに伝達され、トーチ支持装置5により所定量進出した溶接トーチTの先端Taが入隅の溶接開始位置Xに最も近付いたところで台車本体2は停止する(
図1左側に二点鎖線で示す状態)。
【0046】
この後、制御部7の図示しない溶接スタートボタンのオン操作により溶接を開始すると、
図1左側の実線で示す倣い溶接区間端位置から
図1左側の二点鎖線で示す溶接開始位置Xまでの軌跡を逆に辿るようにして、溶接開始位置Xから
図1左側の実線で示す倣い溶接区間端位置まで適宜溶接速度で溶接がなされる。
【0047】
そして、倣い溶接区間端位置に到達後は、台車駆動装置3の左右両側のモータ31L,31Rがそれぞれノーマルモードで作動して、同じ回転速度及び同じ回転方向の駆動力が駆動力伝達機構33を介して左右両側の走行車輪32L,32Rに伝達され、これにより、倣い走行装置4の水平倣いローラ44,44を当接させた他方の被溶接材W2(溶接ラインL)に沿って、入隅を形成する溶接終了側(
図1右側)の壁W3に向けて、台車本体2が倣い溶接走行を開始する(前進する)。
【0048】
次いで、台車本体2の進行方向側に位置するリミットスイッチ6が溶接終了側の壁W3に当接することで(他方の倣い溶接区間端位置に到達することで)台車本体2が停止し、この状態で、再度、運転ボタンをオン操作して倣い走行装置4のアクチュエータ41,41の動作により2個の水平倣いローラ44,44(距離姿勢検出センサ45,45)をそれぞれ後退させて他方の被溶接材W2から離間させるのに続いて、上記溶接開始位置X側と同様に、台車本体2の台車駆動装置3を旋回モード及び微動モードで順次作動させて、台車本体2に信知旋回及び微回動を順次行わせ、所定量進出した溶接トーチTの先端Taが入隅の溶接終了位置Yに最も近付いたところで溶接を終了する。
【0049】
つまり、この実施形態に係る隅肉溶接台車1では、進行が壁W3に妨げられる入隅の隅肉溶接を行う場合において、台車本体2が壁W3に行く手を遮られたとしても、溶接トーチTの先端Taの溶接ラインLに対する距離を所定量に保ちつつ台車本体2が旋回するので、従来行い得なかった台車本体2の進行方向側端部と台車本体2上の溶接トーチTとの間の部分も、いわゆる炊き残しなく溶接し得ることとなる。
【0050】
したがって、人手を借りて炊き残し部分の処理を行わなくて済む分だけ、作業効率を高め得ることとなる。
【0051】
本発明に係る隅肉溶接台車の構成は、上記した実施形態の構成に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0052】
1 隅肉溶接台車
2 台車本体
3 台車駆動装置
4 倣い走行装置
5 トーチ支持装置
6 リミットスイッチ(距離姿勢検出手段)
7 制御部
T 溶接トーチ
W1 一方の被溶接材
W2 他方の被溶接材
W3 壁