IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ナブテスコ株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-シール部材、及び、回転機器 図1
  • 特開-シール部材、及び、回転機器 図2
  • 特開-シール部材、及び、回転機器 図3
  • 特開-シール部材、及び、回転機器 図4
  • 特開-シール部材、及び、回転機器 図5
  • 特開-シール部材、及び、回転機器 図6
  • 特開-シール部材、及び、回転機器 図7
  • 特開-シール部材、及び、回転機器 図8
  • 特開-シール部材、及び、回転機器 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022030120
(43)【公開日】2022-02-18
(54)【発明の名称】シール部材、及び、回転機器
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/3232 20160101AFI20220210BHJP
   F16J 15/18 20060101ALI20220210BHJP
【FI】
F16J15/3232 201
F16J15/18 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020133898
(22)【出願日】2020-08-06
(71)【出願人】
【識別番号】503405689
【氏名又は名称】ナブテスコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(72)【発明者】
【氏名】古田 和哉
【テーマコード(参考)】
3J006
3J043
【Fターム(参考)】
3J006AE17
3J006AE37
3J006CA01
3J006CA03
3J043AA16
3J043BA07
3J043CA02
3J043CB13
3J043DA09
(57)【要約】      (修正有)
【課題】組付性の悪化を招くことなく、筒状部と軸部の間を安定して密閉することができるシール部材、及び、回転機器を提供する。
【解決手段】シール部材36は、基部50と、第1リップ54と、第2リップ55を備えている。基部は、第1部材11に密に組付けられる。第1リップは、基部に接続され第1部材と第2部材13Aを組付ける第1方向の前方側にめくれ変形する。第2リップは、基部に接続され第1リップよりも第1方向の後方側寄りに配置されるとともに、第1リップのめくれ変形に連動して第2部材に密接する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対回転可能に組付けられる第1部材と第2部材の間を密閉するシール部材であって、
前記第1部材に密に組付けられる基部と、
前記基部に接続され前記第1部材と前記第2部材を組付ける第1方向の前方側にめくれ変形する第1リップと、
前記基部に接続され前記第1リップよりも前記第1方向の後方側寄りに配置されるとともに、前記第1リップの前記めくれ変形に連動して前記第2部材に密接する第2リップと、
を備えているシール部材。
【請求項2】
前記第1リップは、前記第1方向と反対の第2方向から前記第2部材と前記第1部材を組付ける組付け形態のときに、先端部が前記めくれ変形をせずに前記第2部材に密接する請求項1に記載のシール部材。
【請求項3】
前記第1リップと前記第2リップとは、外部から荷重の加わらない自由状態において、先端部同士が相互に離間する形状に形成されている請求項1または2に記載のシール部材。
【請求項4】
前記第1リップと前記第2リップは、前記基部側の端部同士が相互に連結されるとともに、相互に連結された部位に前記第1リップと前記第2リップの連動した変位を誘起する連動誘起部が形成されている請求項1~3のいずれか1項に記載のシール部材。
【請求項5】
前記連動誘起部は、前記第1リップと前記第2リップの相互に連結された部位に、当該部位の他の領域よりも肉薄に形成された肉薄部である請求項4に記載のシール部材。
【請求項6】
ケーシングと、
前記ケーシングに回転自在に組付けられた回転部材と、
前記ケーシングと前記回転部材の間を密閉するシール部材と、を備え、
前記シール部材は、
前記ケーシングに密に組付けられる基部と、
前記基部に接続され前記ケーシングと前記回転部材を組付ける第1方向の前方側にめくれ変形する第1リップと、
前記基部に接続され前記第1リップよりも前記第1方向の後方側寄りに配置されるとともに、前記第1リップの前記めくれ変形に連動して前記回転部材に密接する第2リップと、
を備えている回転機器。
【請求項7】
前記第1リップは、前記第1方向と反対の第2方向から前記回転部材と前記ケーシングを組付ける組付け形態のときに、先端部が前記めくれ変形をせずに前記第2部材に密接する請求項6に記載の回転機器。
【請求項8】
相対回転可能に組付けられる部材の筒状部と軸部の間を密閉するシール部材であって、
前記筒状部の内周面に密に組付けられる環状基部と、
前記環状基部から径方向内側に延び、先端部が前記軸部の外周面に密接する環状リップと、を備え、
前記環状リップには、前記軸部から軸方向の挿入荷重を受けたときに、先端部が撓み変形するのを誘起する変形誘起部が形成されているシール部材。
【請求項9】
前記変形誘起部は、前記環状リップの径方向外側寄りの部位に、当該部位の他の領域よりも肉薄に形成された肉薄部である請求項8に記載のシール部材。
【請求項10】
筒状部を有するケーシングと、
軸部を有し前記ケーシングに回転自在に組付けられた回転部材と、
前記筒状部と前記軸部の間を密閉するシール部材と、を備え、
前記シール部材は、
前記筒状部の内周面に密に組付けられる環状基部と、
前記環状基部から径方向内側に延び、先端部が前記軸部の外周面に密接する環状リップと、を備え、
前記環状リップには、前記軸部から軸方向の挿入荷重を受けたときに、先端部が撓み変形するのを誘起する変形誘起部が形成されている回転機器。
【請求項11】
第1部材に固定される基部と、
前記基部に接続される第1リップと、
前記第1リップが前記第1部材の内部側にめくれることにより第2部材に接する第2リップと、
を備えているシール部材。
【請求項12】
相対回転可能に組付けられる部材の筒状部と軸部の間を密閉するシール部材であって、
前記筒状部の内周面に密に組付けられる環状基部と、
前記環状基部から径方向内側に延び、先端部が前記軸部の前記筒状部方向の挿入荷重を受けて挿入方向の前方側にめくれ変形する第1環状リップと、
前記環状基部から延び、先端部が前記第1環状リップよりも前記挿入方向の後方側寄りに配置されるとともに、前記第1環状リップの前記めくれ変形に連動して先端部が前記軸部の外周面に密接する第2環状リップと、
を備えているシール部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相対回転する部材間を密閉するシール部材、及び、回転機器に関する。
【背景技術】
【0002】
減速機等の回転機器の多くは、ダスト進入の防止等の目的でハウジングと回転部材の間がシール部材によって密閉されている。
【0003】
ここで用いられるシール部材として、ハウジングの筒状部の内周面に密に組付けられる環状基部と、環状基部から径方向内側に延び先端部が回転部材の軸部の外周面に密接する環状リップと、を備えたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1に記載のシール部材は、ハウジングの筒状部の内周面に密に組付けられる環状基部に環状リップが延設され、環状リップの先端部が回転部材の軸部の外周面に対して略垂直に対向するように延びている。回転機器の製造時には、ハウジングの筒状部の内周にシール部材を組付けておき、その後に回転部材の軸部をハウジングの筒状部内に挿入組付けする際に、軸部をシール部材の環状リップの内周側に挿入する。このとき、環状リップの先端部は、軸部の挿入方向の前方側に撓み変形つつ軸部の外周面に密接する。これにより、環状リップの先端部の部分的なめくれが抑制され、回転機器の密閉性が高まる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008-267499号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来のシール部材は、回転機器の組付け時に、環状リップの先端部が軸部の挿入方向の前方側に撓み変形して軸部の外周面に密接する構造とされている。このため、上記従来のシール部材の場合、環状リップの先端部の内径が小さ過ぎると回転機器に対する組付性が悪化し、逆に環状リッブの先端部の内径が大き過ぎると筒状部と軸部の間の密閉性が低下してしまう。
【0007】
本発明は、組付性の悪化を招くことなく、筒状部と軸部の間を安定して密閉することができるシール部材、及び、回転機器を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本出願の一態様に係るシール部材は、相対回転可能に組付けられる第1部材と第2部材の間を密閉するシール部材であって、前記第1部材に密に組付けられる基部と、前記基部に接続され前記第1部材と前記第2部材を組付ける第1方向の前方側にめくれ変形する第1リップと、前記基部に接続され前記第1リップよりも前記第1方向の後方側寄りに配置されるとともに、前記第1リップの前記めくれ変形に連動して前記第2部材に密接する第2リップと、を備えている。
【0009】
前記第1リップは、前記第1方向と反対の第2方向から前記第2部材と前記第1部材を組付ける組付け形態のときに、先端部が前記めくれ変形をせずに前記第2部材に密接するようにしても良い。
【0010】
前記第1リップと前記第2リップとは、外部から荷重の加わらない自由状態において、先端部同士が相互に離間する形状に形成されることが望ましい。
【0011】
前記第1リップと前記第2リップは、前記基部側の端部同士が相互に連結されるとともに、相互に連結された部位に前記第1リップと前記第2リップの連動した変位を誘起する連動誘起部が形成されるようにしても良い。
【0012】
前記連動誘起部は、前記第1リップと前記第2リップの相互に連結された部位に、当該部位の他の領域よりも肉薄に形成された肉薄部であっても良い。
【0013】
本出願の一態様に係る回転機器は、ケーシングと、前記ケーシングに回転自在に組付けられた回転部材と、前記ケーシングと前記回転部材の間を密閉するシール部材と、を備え、前記シール部材は、前記ケーシングに密に組付けられる基部と、前記基部に接続され前記ケーシングと前記回転部材を組付ける第1方向の前方側にめくれ変形する第1リップと、前記基部に接続され前記第1リップよりも前記第1方向の後方側寄りに配置されるとともに、前記第1リップの前記めくれ変形に連動して前記回転部材に密接する第2リップと、を備えている。
【0014】
前記第1リップは、前記第1方向と反対の第2方向から前記回転部材と前記ケーシングを組付ける組付け形態のときに、先端部が前記めくれ変形をせずに前記第2部材に密接するようにしても良い。
【0015】
本出願の他の態様に係るシール部材は、相対回転可能に組付けられる部材の筒状部と軸部の間を密閉するシール部材であって、前記筒状部の内周面に密に組付けられる環状基部と、前記環状基部から径方向内側に延び、先端部が前記軸部の外周面に密接する環状リップと、を備え、前記環状リップには、前記軸部から軸方向の挿入荷重を受けたときに、先端部が撓み変形するのを誘起する変形誘起部が形成されている。
【0016】
前記変形誘起部は、前記環状リップの径方向外側寄りの部位に、当該部位の他の領域よりも肉薄に形成された肉薄部であっも良い。
【0017】
本出願の他の態様に係る回転機器は、筒状部を有するケーシングと、軸部を有し前記ケーシングに回転自在に組付けられた回転部材と、前記筒状部と前記軸部の間を密閉するシール部材と、を備え、前記シール部材は、前記筒状部の内周面に密に組付けられる環状基部と、前記環状基部から径方向内側に延び、先端部が前記軸部の外周面に密接する環状リップと、を備え、前記環状リップには、前記軸部から軸方向の挿入荷重を受けたときに、先端部が撓み変形するのを誘起する変形誘起部が形成されている。
【0018】
本出願のさらに他の態様に係るシール部材は、第1部材に固定される基部と、前記基部に接続される第1リップと、前記第1リップが前記第1部材の内部側にめくれることにより第2部材に接する第2リップと、を備えている。
【0019】
本出願のさらに別の態様に係るシール部材は、相対回転可能に組付けられる部材の筒状部と軸部の間を密閉するシール部材であって、前記筒状部の内周面に密に組付けられる環状基部と、前記環状基部から径方向内側に延び、先端部が前記軸部の前記筒状部方向の挿入荷重を受けて挿入方向の前方側にめくれ変形する第1環状リップと、前記環状基部から延び、先端部が前記第1環状リップよりも前記挿入方向の後方側寄りに配置されるとともに、前記第1環状リップの前記めくれ変形に連動して先端部が前記軸部の外周面に密接する第2環状リップと、を備えている。
【発明の効果】
【0020】
上述の各形態のシール部材によれば、組付性の悪化を招くことなく、筒状部と軸部の間を安定して密閉することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】第1実施形態の減速機(回転機器)の縦断面図。
図2】第1実施形態のシール部材の断面図。
図3】第1実施形態の減速機(回転機器)の図1のIII部に対応する拡大断面図。
図4】第1実施形態の減速機(回転機器)の一の組付け形態を示す断面図。
図5】第1実施形態の減速機(回転機器)の他の組付け形態を示す断面図。
図6】第2実施形態のシール部材の断面図。
図7】第2実施形態の減速機(回転機器)の図1のIII部に対応する部分の拡大断面図。
図8】第2実施形態の減速機(回転機器)の一の組付け形態を示す断面図。
図9】第2実施形態の減速機(回転機器)の他の組付け形態を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下で説明する各実施形態においては、共通部分に同一符号を付し、重複する説明を一部省略するものとする。
【0023】
(第1実施形態)
最初に図1図5に示す第1実施形態について説明する。
図1は、本実施形態の回転機器の縦断面図である。
本実施形態の回転機器は、産業用ロボットや工作機械等に用いられる減速機10である。減速機10の入力部(クランク軸14)には、回転駆動源である図示しない電動モータから動力を伝達される。
【0024】
減速機10は、ケーシングである外筒部材11と、外筒部材11の内周面に回転自在に保持された第1キャリアブロック13A及び第2キャリアブロック13Bと、第1キャリアブロック13Aと第2キャリアブロック13Bに回転自在に支持された複数(例えば、三つ)のクランク軸14(入力部材)と、各クランク軸14の図示しない二つの偏心部とともに揺動回転(旋回)する第1揺動歯車15A及び第2揺動歯車15Bと、を備えている。
以下では、第1,第2キャリアブロック13A,13Bの回転中心軸線C1に沿う方向を軸方向と呼び、回転中心軸線C1から放射方向に延びる方向を径方向と呼ぶ。また、軸方向のうちの第1,第2キャリアブロック13A,13Bの中心側を軸方向内側と呼び、軸方向のうちの軸方向内側と逆側を軸方向外側と呼ぶ。さらに、径方向のうちの回転中心軸線C1に向かう側を径方向内側と呼び、径方向のうちの径方向内側と逆側を径方向外側と呼ぶ。
【0025】
第1キャリアブロック13Aは、孔空き円板状の基板部13Aaと、当該基板部13Aaの軸方向内側の端面から第2キャリアブロック13Bの方向に向かって延びる複数の支柱部13Abと、を有する。第2キャリアブロック13Bは、孔空き円板状に形成されている。第1キャリアブロック13Aは、支柱部13Abの端面が第2キャリアブロック13Bの端面に突き合わされ、各支柱部13Abが第2キャリアブロック13Bにボルト16によって締結固定されている。
【0026】
第1キャリアブロック13Aの基板部13Aaと第2キャリアブロック13Bの間には、軸方向の隙間(空間)が確保されている。この隙間には、第1揺動歯車15Aと第2揺動歯車15Bが配置されている。
なお、第1揺動歯車15Aと第2揺動歯車15Bには、第1キャリアブロック13Aの各支柱部13Abが貫通する逃げ孔19が形成されている。逃げ孔19は、各支柱部13Abが第1揺動歯車15Aと第2揺動歯車15Bの揺動動作(旋回動作)を妨げないように、支柱部13Abに対して充分に大きい内径に形成されている。
【0027】
外筒部材11は、第1キャリアブロック13Aの基板部13Aaの外周面と、第2キャリアブロック13Bの外周面とに跨って配置されている。外筒部材11の軸方向の両側の内周部分には、第1キャリアブロック13Aの基板部13Aaの外周面と、第2キャリアブロック13Bの外周面が軸受12A,12Bを介して回転可能に支持されている。また、外筒部材11の軸方向の中央領域(第1揺動歯車15Aと第2揺動歯車15Bの外周面に対向する領域)の内周面には、第1,第2キャリアブロック13A,13Bの回転中心軸線C1と平行に延びる複数のピン溝17が形成されている。各ピン溝17には、略円柱状の内歯ピン20が回転可能に収容されている。外筒部材11の内周面に取り付けられた複数の内歯ピン20は、第1揺動歯車15Aと第2揺動歯車15Bの各外周面に対向している。
【0028】
第1揺動歯車15Aと第2揺動歯車15Bは、外筒部材11の内径よりも若干小さい外径に形成されている。第1揺動歯車15Aと第2揺動歯車15Bの各外周面には、外筒部材11の内周面に配置された複数の内歯ピン20に噛み合い状態で接触する外歯15Aa,15Baが形成されている。第1揺動歯車15Aと第2揺動歯車15Bの各外周面に形成された外歯15Aa,15Baの歯数は、内歯ピン20の数よりも僅かに少なく(例えば、一つ少なく)設定されている。
【0029】
複数のクランク軸14は、第1キャリアブロック13Aと第2キャリアブロック13Bの回転中心軸線C1を中心とした同一円周上に配置されている。各クランク軸14は、図示しない軸受を介して第1キャリアブロック13Aと第2キャリアブロック13Bとに回転自在に支持されている。各クランク軸14の二つの偏心部は、第1揺動歯車15Aと第2揺動歯車15Bを夫々貫通している。各偏心部は、第1揺動歯車15Aと第2揺動歯車15Bに夫々形成された支持孔に図示しない偏心部軸受を介して回転自在に組付けられている。なお、各クランク軸14の二つの偏心部は、クランク軸14の中心軸線回りに位相が相互に180°ずれるように偏心している。
【0030】
複数のクランク軸14が図示しない電動モータの動力を受けて一方向に回転すると、クランク軸14の偏心部が所定の半径で同方向に旋回し、それに伴って第1揺動歯車15Aと第2揺動歯車15Bが同じ半径で同方向に揺動回転(旋回)する。このとき、第1揺動歯車15Aと第2揺動歯車15Bの各外歯15Aa,15Baが、外筒部材11の内周に保持された複数の内歯ピン20と噛み合うように接触する。
なお、図1中の符号28は、各クランク軸14の端部に取り付けられ、電動モータから動力を受けるクランク軸歯車である。
【0031】
本実施形態の減速機10では、第1揺動歯車15Aと第2揺動歯車15Bの各外歯15Aa,15Baの歯数が、外筒部材11側の内歯ピン20の数よりも僅かに少なく設定されている。このため、第1揺動歯車15Aと第2揺動歯車15Bが一揺動回転(一旋回)する間に、第1揺動歯車15Aと第2揺動歯車15Bが外筒部材11側の内歯ピン20から回転方向の反力を受け、揺動回転方向と逆方向に所定のピッチ分だけ自転する。この結果、第1揺動歯車15Aと第2揺動歯車15Bにクランク軸14を介して連結された第1,第2キャリアブロック13A,13Bが、第1,第2揺動歯車15A,15Bとともに同方向に同ピッチで回転する。この結果、クランク軸14の回転は減速されて第1,第2キャリアブロック13A,13Bの回転として出力される。本実施形態では、外筒部材11が図示しない取付ベース部に固定され、第1キャリアブロック13Aが図示しない回転出力部材に連結される。
なお、本実施形態の減速機10では、第1,第2揺動歯車15A,15B、ピン溝17、内歯ピン20等によって減速機構部が構成されている。
【0032】
外筒部材11と第1,第2キャリアブロック13A,13Bの間に介装される軸受12A,12Bはころ軸受によって構成されている。各軸受12A,12Bは、外筒部材11の軸方向の各端部の内周に固定されるアウタレース31と、第1,第2キャリアブロック13A,13Bの各外周に固定されるインナレース30と、アウタレース31とインナレース30の間に介装される転動体である複数のころ32と、複数のころ32を回転可能に保持する環状の保持器33と、を有している。これらの軸受12A,12Bは、インナレース30、ころ32、アウタレース31の各接触点を結ぶ直線が、軸受12A,12Bの中心軸線と直交する面に対して所定角度傾斜している。各軸受12A,12Bは、ラジアル荷重と一方向のアキシャル荷重を支持することができる。
【0033】
第1キャリアブロック13Aの基板部13Aaの外周には、軸受12Aのインナレース30が圧入固定される軸受固定面35と、環状のシール部材36が密接するシール接触面37とが形成されている。シール部材36は、外筒部材11の軸方向一端側の筒状部11aの内周面と第1キャリアブロック13Aの間を軸受12Aの軸方向外側位置で密閉する。すなわち、シール部材36は、外筒部材11と第1,第2キャリアブロック13A,13Bによって囲まれた密閉空間40を軸受12Aの軸方向外側位置において密閉する。
なお、本実施形態では、外筒部材11が第1部材を構成し、第1キャリアブロック13Aと第2キャリアブロック13Bが第2部材を構成している。
【0034】
シール接触面37は、軸受固定面35の軸方向外側に隣接して配置されている。シール接触面37と軸受固定面35は、軸方向に延びる同心の円形形状の周面であり、シール接触面37の外径は、軸受固定面35の外径よりも大きく設定されている。また、シール接触面37の軸方向外側の端部には、径方向外側に延びる端部フランジ39が形成されている。端部フランジ39の外周面は、外筒部材11の筒状部11aの外径とほぼ同外径に形成されている。端部フランジ39の軸方向内側の端面は、外筒部材11の筒状部11aの軸方向の端面に微少隙間を挟んで対向している。
なお、本実施形態では、第1キャリアブロック13Aのうちのシール接触面37部分が軸部を構成している。
【0035】
外筒部材11の第1キャリアブロック13A側の筒状部11aの内周には、環状のシール部材36が保持されるシール保持面41が形成されている。また、外筒部材11のシール保持面41の軸方向内側に隣接する位置には、軸受12Aのアウタレース31が圧入固定される軸受固定面42が形成されている。シール保持面41と軸受固定面42は、軸方向に延びる同心の円形状の周面であり、シール保持面41は軸受固定面42の軸方向外側に配置されている。シール保持面41の内径は軸受固定面42の内径よりも大きく設定されている。
【0036】
図2は、シール部材36の断面図であり、図3は、図1のIII部の拡大図である。
シール部材36は、これらの図に示すように、外筒部材11の筒状部11aの内周面に密に組付けられる環状基部50(基部)と、環状基部50の軸方向外側の端部に連結されたメインリップ52、第1環状リップ54(第1リップ)及び第2環状リップ55(第2リップ)と、を備えている。
【0037】
環状基部50は、外筒部材11の筒状部11aの内周面に圧入固定される円筒状の筒部50aと、筒部50aの軸方向外側の端部から径方向内側に延びるフランジ部50bと、を有する。筒部50aとフランジ部50bには、これらの断面形状に略沿う形状の芯金51が埋設されている。環状基部50の芯金51以外の部分は、ゴム材や樹脂材等の弾性部材によって形成されている。また、環状基部50に連結されたメインリップ52、第1環状リップ54及び第2環状リップ55も、環状基部50の芯金51以外の部分と同じ弾性部材によって一体に形成されている。
【0038】
メインリップ52は、環状基部50のフランジ部50bの端部から軸方向内側、かつ径方向内側に延びる環状のリップであり、延び方向の端部の内周面が第1キャリアブロック13Aのシール接触面37(軸部の外周面)に密接する。メインリップ52のシール接触面37との接触位置の外周側には、メインリップ52をシール接触面37に押し付けるための環状のコイルばね53が装着されている。
【0039】
第1環状リップ54は、環状基部50のフランジ部50bの端部から径方向内側に延びている。第1環状リップ54の付根部(径方向外側の端部)は、メインリップ52の付根部の軸方向外側に隣接して配置されている。第1環状リップ54は、付根部から先端部54aの側に向かって先細り状に収斂する断面形状に形成されている。
【0040】
第2環状リップ55は、環状基部50のフランジ部50bの端部から軸方向外側に延びている。第2環状リップ55の付根部(径方向外側の端部)は、第1環状リップ54の付根部の軸方向外側に隣接して配置されている。第2環状リップ55は、付根部から先端部55aの側に向かって先細り状に収斂する断面形状に形成されている。
【0041】
第2環状リップ55の付け部は第1環状リップ54の付根部と一体に連結されている。第1環状リップ54と第2環状リップ55の付根部側の連結部56は、環状基部50のフランジ部50bの端部とメインリップ52の付根部に対して連結されている。連結部56には、軸方向の厚みが当該連結部56の他の領域よりも肉薄である肉薄部57が形成されている。肉薄部57は、メインリップ52との連結部よりも径方向内側寄り位置に形成されている。
【0042】
肉薄部57は、減速機10の組付け時に、第1キャリアブロック13Aのシール接触面37から軸方向に沿った荷重が加わったときに、第1環状リップ54と第2環状リップ55との連動した撓み変位を誘起する連動誘起部を構成している。
【0043】
図2は、第1環状リップ54と第2環状リップ55に外力が加わらない自由状態のときのシール部材36の形状を示している。
自由状態では、第1環状リップ54は、先端部54aが軸方向外側に僅かに傾斜した状態で径方向内側に延びている。また、第2環状リップ55は、自由状態では、先端部55aが軸方向外側に延びている。この状態において、第1環状リップ54の先端部と第2環状リップ55の先端部55aとは所定の開き角をもって相互に離間している。
なお、本実施形態では、自由状態のときに、第2環状リップ55の先端部55aが回転中心軸線C1とほぼ平行に軸方向外側に延びているが、第2環状リップ55の先端部55aは、回転中心軸線C1と平行になる角度よりも径方向内側や外側に傾斜するようにしても良い。ただし、第2環状リップ55は、先端部55aの角度がいずれの角度に設定される場合においても、先端部55aが必ず第1環状リップ54の先端部54aよりも径方向外側に位置されるように形成される。
【0044】
自由状態におけるシール部材36は、第1環状リップ54の先端部54aに対する荷重の入力方向に応じて、第1環状リップ54と第2環状リップ55は以下のような挙動を呈する。
(a)軸方向内側に向かう荷重が入力されたとき
第1環状リップ54の先端部54aに軸方向内側に向かう荷重が入力された場合には、第1環状リップ54の先端部54aは、その荷重を受けて軸方向内側(第1方向)に向かってめくれ変形(反転)する。このとき、第1環状リップ54と第2環状リップ55の付根部側の連結部56は、肉薄部57を起点として、図2図3中の反時計回り方向に回転するように撓み変位する。この結果、第2環状リップ55の先端部55aは、径方向内側に向かって変位することになる。
(b)軸方向外側に向かう荷重が入力されたとき
第1環状リップ54の先端部54aに軸方向外側に向かう荷重が入力された場合には、第1環状リップ54の先端部54aは、その荷重を受けて軸方向外側(第2方向)に向かって撓み変位する。このとき、第1環状リップ54と第2環状リップ55の付根部側の連結部56が、肉薄部57を起点として、図2図3中の時計回り方向に回転するように撓み変位する。この結果、第2環状リップ55の先端部55aは、径方向外側に向かって変位することになる。
【0045】
つづいて、外筒部材11と第1キャリアブロック13Aに対するシール部材36の組付けについて説明する。
本実施形態の減速機10は、第1キャリアブロック13Aの軸方向外側の端部に、外筒部材11の軸方向の一端の筒状部11aとほぼ同外径の端部フランジ39が受けられている。このため、第1キャリアブロック13Aを外筒部材11に組付けた後では、両者間にシール部材36を組み付けることができない。したがって、組付けに際しては、外筒部材11の筒状部内11aに予めシール部材36を取り付けておき、外筒部材11に対する第1キャリアブロック13Aの組付けと同時に、シール部材36のメインリップ52と第1,第2環状リップ54,55の各先端部54a,55aを第1キャリアブロック13Aのシール接触面37(軸部の外周面)に密接させる。
以下、この作業について詳述する。
【0046】
図4(a)は、外筒部材11にシール部材36を取り付ける作業工程を示す図1のIII部に対応する部分の断面部であり、図4(b)は、その後に外筒部材11に第1キャリアブロック13Aを組み付ける作業工程を示す図1のIII部に対応する部分の断面図である。
最初に、図4(a)に示すように、シール部材36の環状基部50を外筒部材11の筒状部11a内に圧入によって取り付ける。このとき、第1環状リップ54と第2環状リップ55は、前述の自由状態とされている。
なお、このとき軸受12Aは、外筒部材11に組み付けられている。
【0047】
この後に、外筒部材11と第1キャリアブロック13Aの中心を合わせ、図4(b)に示すように、第1キャリアブロック13Aのシール接触面37(軸部の外周面)を、外筒部材11内に軸方向内側に向かって挿入する。これにより、シール接触面37(軸部の外周面)がシール部材36のメインリップ52と第1,第2環状リップ54,55の先端部54a,55aとに接触する。
【0048】
シール接触面37(軸部の外周面)は、最初、シール部材36のメインリップ52と第1環状リップ54の先端部54aに接触し、外筒部材11内への挿入に伴って第1環状リップ54の先端部54aに対して軸方向の挿入荷重を付与するようになる。このとき、シール部材36は、挿入荷重を受けて第1環状リップ54の先端部54aがめくれ変形し、そのめくれ変形に伴って第2環状リップ55の先端部55aが径方向内側に向かって変位する。この結果、第2環状リップ55の先端部55aが充分な締め代をもってシール接触面37(軸部の外周面)に密接する。
なお、こうして組付けられたシール部材36は、図3に示すように、第1環状リップ54と第2環状リップ55の両方の先端部54a,55bがシール接触面37(軸部の外周面)に密接する。ただし、第2環状リップ55の先端部55aのみがシール接触面37(軸部の外周面)に密接するようにしても良い。
【0049】
以上では、第1キャリアブロック13Aに端部フランジ39が設けられた減速機10の場合のシール部材36の組付けについて説明したが、端部フランジ39の無い減速機の場合には、外筒部材11と第1キャリアブロック13Aを組付けた後に、両者の間にシール部材36を組付けることができる。
以下、この作業について詳述する。
【0050】
図5(a)は、外筒部材11と第1キャリアブロック13Aを組付ける作業工程を示す図1のIII部に対応する部分の断面部であり、図5(b)は、その後に外筒部材11と第1キャリアブロック13Aの間にシール部材36を組み付ける作業工程を示す図1のIII部に対応する部分の断面図である。
最初に、図5(a)に示すように、外筒部材11の筒状部11a内に第1キャリアブロック13Aを挿入して、第1キャリアブロック13Aを、軸受12Aを介して、外筒部材11に組み付ける。
【0051】
この後に、外筒部材11のシール保持面41(筒状部11aの内周面)と第1キャリアブロック13Aのシール接触面37(軸部の外周面)の間にできた環状の隙間に、シール部材36を軸方向外側から内側に向かって挿入する。これにより、図5(b)に示すように、シール部材36の環状基部50が外筒部材11のシール保持面41に圧入されるとともに、シール接触面37がシール部材36のメインリップ52と第1環状リップ54の先端部54aとに接触する。
【0052】
こうして、シール部材36の挿入が進むと、第1環状リップ54の先端部54aがシール接触面37(軸部の外周面)から軸方向外側に向かう挿入反力を受け、軸方向外側に撓み変形してシール接触面37(軸部の外周面)に密接する。
【0053】
以上のように、本実施形態の減速機10で採用するシール部材36は、外筒部材11に密に組付けられる環状基部50(基部)と、環状基部50から延びる第1,第2環状リップ54,55(第1リップ及び第2リップ)と、を備えている。そして、第1環状リップ54は、先端部が第1キャリアブロック13Aの軸方向内側に向かう挿入荷重を受けて挿入方向の前方側(第1方向の前方側)にめくれ変形し、第2環状リップ55は、第1環状リップ54のめくれ変形に連動して先端部55aが第1キャリアブロック13Aのシール接触面37(軸部の外周面)に密接する。
【0054】
このため、シール部材36の環状基部50が筒状部11a側に先に組付けられ、その状態で第1キャリアブロック13Aが筒状部11a内に挿入組付けされると、第1環状リップ54の先端部54aが挿入方向の前方側にめくれ変形し、そのめくれ変形に連動して第2環状リップ55の先端部55aがシール接触面37(軸部の外周面)に密接する。したがって、本実施形態のシール部材36を採用した場合には、組付性の悪化を招くことなく、筒状部11aとシール接触面37の間を環状基部50と第2環状リップ55によって安定して密閉することができる。
【0055】
また、本実施形態のシール部材36は、相互に組付けられた外筒部材11と第1キャリアブロック13Aの間の隙間に後から挿入組付けされる組付け形態(第1方向と反対の第2方向から第2部材と第1部材を組付ける組付け形態)のときに、第1環状リップ54の先端部54aがめくれ変形せずに第1キャリアブロック13Aのシール接触面37に密接する構造とされている。このため、外筒部材11と第1キャリアブロック13Aの間の隙間に後からシール部材36を挿入組付けする場合にも、筒状部11aとシール接触面37の間を環状基部50と第1環状リップ54によって安定して密閉することができる。
【0056】
また、本実施形態のシール部材36は、自由状態において、第1環状リップ54と第2環状リップ55の先端部54a,55a同士が相互に離間する形状に形成されている。このため、第1環状リップ54の先端部54aが第1キャリアブロック13Aのシール接触面37から挿入荷重を受けることによって挿入方向の前方側にめくれ変形するときに、第2環状リップ55の先端部が追従してめくれ変形するのを抑制することができる。したがって、本構成を採用した場合には、外筒部材11と第1キャリアブロック13Aの間の密閉性をより高めることができる。
【0057】
さらに、本実施形態のシール部材36は、第1環状リップ54と第2環状リップ55の付根部側の連結部56に、第1環状リップ54と第2環状リップ55の連動した変形を誘起するための肉薄部57(連動誘起部)が形成されている。このため、第1環状リップ54の先端部54aが第1キャリアブロック13Aのシール接触面37から挿入荷重を受けて挿入方向の前方側にめくれ変形するときに、第2環状リップ55の先端部55aが第1環状リップ54に連動してシール接触面37に圧接される方向に変位し易くなる。
【0058】
なお、本実施形態では、連動誘起部として肉薄部57を採用しているが、連動誘起部は肉薄部57に限らず、連結部56の一部に凹部を形成したものや、連結部56の一部を他の部分よりも剛性の低い材料によって形成したものであっても良い。ただし、本実施形態のように、連動誘起部を肉薄部57によって構成した場合には、簡単な構成によって連動誘起部の機能を得ることができる。
【0059】
また、本実施形態のシール部材36は、第1部材である外筒部材11に固定される環状基部50(基部)と、環状基部50に接続される第1環状リップ54(第1リップ)と、第1環状リップ54が外筒部材11の内部側にめくれることにより、シール接触面37に接する第2環状リップ55(第2リップ)と、を備えている。このため、シール部材36の環状基部50が筒状部11a側に先に組付けられ、その状態で第1キャリアブロック13Aが筒状部11a内に挿入組付けされるときに、筒状部11aとシール接触面37の間を環状基部50と第2環状リップ55によって安定して密閉することができる。
【0060】
(第2実施形態)
つづいて、図6図9に示す第2実施形態の減速機と、そこで採用するシール部材136について説明する。なお、第2実施形態の減速機は、シール部材136以外の構成は第1実施形態と同様とされている。
【0061】
図6は、シール部材136の断面図であり、図7は、図1のIII部に対応する部分の拡大断面図である。
シール部材136は、外筒部材11の筒状部11aの内周面に密に組付けられる環状基部50と、環状基部50の軸方向外側の端部に連結されたメインリップ52及び環状リップ59と、を備えている。
【0062】
環状基部50とメインリップ52は第1実施形態のものと同様の構成とされている。環状リップ59は、環状基部50のフランジ部50bの端部から径方向内側に延び、先端部59aが第1キャリアブロック13Aのシール接触面37(軸部の外周面)に対して密接するようになっている。環状リップ59の先端部59aは、シール部材136が自由状態のときには、径方向内側に向かって直線的に延びている。
【0063】
環状リップ59の付根部側には、径方向内外の他の部位に比較して軸方向の肉厚の薄い肉薄部58が形成されている。肉薄部58は、環状リップ59が第1キャリアブロック13Aのシール接触面37(軸部の外周面)から軸方向の挿入荷重を受けたときに、先端部59aの撓み変形を誘起する変形誘起部を構成している。
【0064】
つづいて、外筒部材11と第1キャリアブロック13Aに対するシール部材136の組付けについて説明する。
上述の第1実施形態と同様に、最初に、第1キャリアブロック13Aの軸方向外側の端部に端部フランジ39がある場合のシール部材136の組付けについて説明し、その後に第1キャリアブロック13Aの軸方向外側の端部に端部フランジ39がない場合のシール部材136の組付けについて説明する。
【0065】
(1)端部フランジ39がある場合
図8(a)は、外筒部材11にシール部材136を取り付ける作業工程を示す図1のIII部に対応する部分の断面部であり、図8(b)は、その後に外筒部材11に第1キャリアブロック13Aを組み付ける作業工程を示す図1のIII部に対応する部分の断面図である。
最初に、図8(a)に示すように、シール部材136の環状基部50を外筒部材11の筒状部11a内に圧入によって取り付ける。このとき、環状リップ59の先端部59aは自由状態とされている。
【0066】
この後、外筒部材11と第1キャリアブロック13Aの中心を合わせ、図8(b)に示すように、第1キャリアブロック13Aを、外筒部材11内に軸方向内側に向かって挿入する。これにより、シール接触面37(軸部の外周面)がシール部材136のメインリップ52と環状リップ59の先端部59aとに接触する。
【0067】
シール接触面37(軸部の外周面)は、このときにシール部材136の環状リップ59の先端部59aに接触し、第1キャリアブロック13Aの外筒部材11内への挿入に伴って第1キャリアブロック13Aから環状リップ59に軸方向内側に向かう挿入荷重が作用する。この結果、環状リップ59が肉薄部58を起点として挿入方向の前方側に撓み変形し、環状リップ59の先端部59aが充分な締め代をもってシール接触面37(軸部の外周面)に密接する。
【0068】
(2)端部フランジ39がない場合
図9(a)は、外筒部材11と第1キャリアブロック13Aを組付ける作業工程を示す図1のIII部に対応する部分の断面部であり、図9(b)は、その後に外筒部材11と第1キャリアブロック13Aの間にシール部材136を組み付ける作業工程を示す図1のIII部に対応する部分の断面図である。
最初に、図9(a)に示すように、外筒部材11の筒状部11a内に第1キャリアブロック13Aを挿入して、第1キャリアブロック13Aを、軸受12Aを介して、外筒部材11に組み付ける。
【0069】
この後、外筒部材11のシール保持面41(筒状部11aの内周面)と第1キャリアブロック13Aのシール接触面37(軸部の外周面)の間にできた環状の隙間に、シール部材136を軸方向外側から内側に向かって挿入する。これにより、図9(b)に示すように、シール部材136の環状基部50が外筒部材11のシール保持面41に圧入されるとともに、シール接触面37がシール部材136のメインリップ52と環状リップ59の先端部59aに接触する。
【0070】
こうして、シール部材136の挿入が進むと、環状リップ59の先端部59aがシール接触面37(軸部の外周面)から軸方向外側に向かう挿入反力を受ける。この結果、環状リップ59が肉薄部58を起点として挿入方向の後方側に撓み変形し、環状リップ59の先端部59aが充分な締め代をもってシール接触面37(軸部の外周面)に密接する。
【0071】
以上のように、本実施形態のシール部材36は、外筒部材11に密に組付けられる環状基部50と、環状基部50から径方向内側に延び、先端部が第1キャリアブロック13Aのシール接触面37(軸部の外周面)に密接する環状リップ59と、を備えている。そして、環状リップ59には、第1キャリアブロック13Aから軸方向の挿入荷重を受けたときに、先端部59aが撓み変形するのを誘起する肉薄部58(変形誘起部)が形成されている。
【0072】
このため、シール部材136の環状基部50が筒状部11a側に先に組付けられ、その状態で第1キャリアブロック13Aのシール接触面37が筒状部11a内に挿入組付けされると、第1キャリアブロック13Aから環状リップ59の先端部59aに軸方向内側に向かう挿入荷重が作用する。このとき、変形誘起部である肉薄部58の機能により、環状リップ59の先端部59aの周域全体が軸方向内側に同様に撓み変形し、環状リップ59の先端部59aの周域全体が均一に第1キャリアブロック13Aのシール接触面37に密接する。また、外筒部材11と第1キャリアブロック13Aが先に組付けられ、その状態で外筒部材11と第1キャリアブロック13Aの間の環状の隙間にシール部材136が組付けられると、第1キャリアブロック13Aから環状リップ59の先端部59aに軸方向外側に向かう挿入荷重が作用する。このときは、変形誘起部である肉薄部58の機能により、環状リップ59の先端部59aの周域全体が軸方向外側に同様に撓み変形し、環状リップ59の先端部59aの周域全体が均一に第1キャリアブロック13Aのシール接触面37に密接する。
したがって、本実施形態のシール部材136を採用した場合には、いずれの組付け形態であっても、組付性の悪化を招くことなく、筒状部11aとシール接触面37の間を環状基部50と環状リップ59によって安定して密閉することができる。また、本実施形態のシール部材136では、いずれの組付け形態の場合にも、共通の環状リップ59で第1キャリアブロック13Aのシール接触面37に密接するため、第1実施形態のものに比較して構造を簡素化することができる。
【0073】
本実施形態では、変形誘起部として肉薄部58を採用しているが、変形誘起部は肉薄部58に限らず、環状リップ59の一部に凹部を形成したものや、環状リップ59の一部を他の部分よりも剛性の低い材料によって形成したものであっても良い。ただし、本実施形態のように、変形誘起部を肉薄部58によって構成した場合には、簡単な構成によって変形誘起部の機能を得ることができる。
【0074】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。例えば、上記の実施形態では、本発明に係るシール部材が減速機に採用されているが、採用する回転機器は減速機に限定されるものでなく、減速機構部を備えない回転機器であっても良い。
【符号の説明】
【0075】
10…減速機(回転機器)、11…外筒部材(ケーシング)、11a…筒状部、13B…第2キャリアブロック(回転部材)、36,136…シール部材、37…シール接触面(軸部)、50…環状基部(基部)、54…第1環状リップ(第1リップ)、54a…先端部、55…第2環状リップ(第2リップ)、55a…先端部、57…肉薄部(連動誘起部)、58…肉薄部(変形誘起部)、59…環状リップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【手続補正書】
【提出日】2021-06-17
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対回転可能に組付けられる第1部材と第2部材の間を密閉するシール部材であって、
前記第1部材に密に組付けられる基部と、
前記基部に接続され前記第2部材が前記シール部材に第1サイドから組付けられる状態で、先端部が前記第2部材の組付け方向の前方側に反転可能な第1リップと、
前記基部に接続され前記第1リップよりも前記第1サイド側に配置されるとともに、前記第2部材が前記シール部材に第1サイドから組付けられる状態で、前記第1リップの反転動作に連動して前記第2部材に密接する第2リップと、
を備えているシール部材。
【請求項2】
前記第1リップは、前記第2部材が前記シール部材に前記第1サイドと反対の第2サイドから組付けられる状態で、先端部が前記第2部材の組付け方向の前方側に撓んで前記第2部材に密接する請求項1に記載のシール部材。
【請求項3】
前記第1リップと前記第2リップとは、外部から荷重の加わらない自由状態において、先端部同士が相互に離間する形状に形成されている請求項1または2に記載のシール部材。
【請求項4】
前記第1リップと前記第2リップは、前記基部側の端部同士が相互に連結されるとともに、相互に連結された部位に前記第1リップと前記第2リップの連動した変位を誘起する連動誘起部が形成されている請求項1~3のいずれか1項に記載のシール部材。
【請求項5】
前記連動誘起部は、前記第1リップと前記第2リップの相互に連結された部位に、当該部位の他の領域よりも肉薄に形成された肉薄部である請求項4に記載のシール部材。
【請求項6】
ケーシングと、
前記ケーシングに回転自在に組付けられた回転部材と、
前記ケーシングと前記回転部材の間を密閉するシール部材と、を備え、
前記シール部材は、
前記ケーシングに密に組付けられる基部と、
前記基部に接続され前記回転部材が前記シール部材に第1サイドから組付けられる状態で、先端部が前記回転部材の組付け方向の前方側に反転可能な第1リップと、
前記基部に接続され前記第1リップよりも前記第1サイド側に配置されるとともに、前記回転部材が前記シール部材に第1サイドから組付けられる状態で、前記第1リップの反転動作に連動して前記回転部材に密接する第2リップと、
を備えている回転機器。
【請求項7】
前記第1リップは、前記回転部材が前記シール部材に前記第1サイドと反対の第2サイドから組付けられる状態で、先端部が前記回転部材の組付け方向の前方側に撓んで前記回転部材に密接する請求項6に記載の回転機器。
【請求項8】
相対回転可能に組付けられる部材の筒状部と軸部の間を密閉するシール部材であって、
前記筒状部の内周面に密に組付けられる環状基部と、
前記環状基部から径方向内側に延び、先端部が前記軸部の外周面に密接する環状リップと、を備え、
前記環状リップには、前記軸部から軸方向の挿入荷重を受けたときに、先端部が撓み変形するのを誘起する変形誘起部が形成されているシール部材。
【請求項9】
前記変形誘起部は、前記環状リップの径方向外側寄りの部位に、当該部位の他の領域よりも肉薄に形成された肉薄部である請求項8に記載のシール部材。
【請求項10】
筒状部を有するケーシングと、
軸部を有し前記ケーシングに回転自在に組付けられた回転部材と、
前記筒状部と前記軸部の間を密閉するシール部材と、を備え、
前記シール部材は、
前記筒状部の内周面に密に組付けられる環状基部と、
前記環状基部から径方向内側に延び、先端部が前記軸部の外周面に密接する環状リップと、を備え、
前記環状リップには、前記軸部から軸方向の挿入荷重を受けたときに、先端部が撓み変形するのを誘起する変形誘起部が形成されている回転機器。
【請求項11】
第1部材に固定される基部と、
前記基部に接続される第1リップと、
前記第1リップの先端部が前記第1部材の内部側に反転することにより第2部材に接する第2リップと、
を備えているシール部材。
【請求項12】
相対回転可能に組付けられる部材の筒状部と軸部の間を密閉するシール部材であって、
前記筒状部の内周面に密に組付けられる環状基部と、
前記環状基部から径方向内側に延び、先端部が前記軸部の筒状部方向の挿入荷重を受けて挿入方向の前方側に反転可能な第1環状リップと、
前記環状基部から延び、先端部が前記第1環状リップよりも前記挿入方向の後方側寄りに配置されるとともに、前記第1環状リップの反転動作に連動して先端部が前記軸部の外周面に密接する第2環状リップと、
を備えているシール部材。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0008
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0008】
本出願の一態様に係るシール部材は、相対回転可能に組付けられる第1部材と第2部材の間を密閉するシール部材であって、前記第1部材に密に組付けられる基部と、前記基部に接続され前記第2部材が前記シール部材に第1サイドから組付けられる状態で、先端部が前記第2部材の組付け方向の前方側に反転可能な第1リップと、前記基部に接続され前記第1リップよりも前記第1サイド側に配置されるとともに、前記第2部材が前記シール部材に第1サイドから組付けられる状態で、前記第1リップの反転動作に連動して前記第2部材に密接する第2リップと、を備えている。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0009
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0009】
前記第1リップは、前記第2部材が前記シール部材に前記第1サイドと反対の第2サイドから組付けられる状態で、先端部が前記第2部材の組付け方向の前方側に撓んで前記第2部材に密接するようにしても良い。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0013
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0013】
本出願の一態様に係る回転機器は、ケーシングと、前記ケーシングに回転自在に組付けられた回転部材と、前記ケーシングと前記回転部材の間を密閉するシール部材と、を備え、前記シール部材は、前記ケーシングに密に組付けられる基部と、前記基部に接続され前記回転部材が前記シール部材に第1サイドから組付けられる状態で、先端部が前記回転部材の組付け方向の前方側に反転可能な第1リップと、前記基部に接続され前記第1リップよりも前記第1サイド側に配置されるとともに、前記回転部材が前記シール部材に第1サイドから組付けられる状態で、前記第1リップの反転動作に連動して前記回転部材に密接する第2リップと、を備えている。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0014
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0014】
前記第1リップは、前記回転部材が前記シール部材に前記第1サイドと反対の第2サイドから組付けられる状態で、先端部が前記回転部材の組付け方向の前方側に撓んで前記回転部材に密接するようにしても良い。
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0018
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0018】
本出願の他の態様に係る回転機器は、第1部材に固定される基部と、前記基部に接続される第1リップと、前記第1リップの先端部が前記第1部材の内部側に反転することにより第2部材に接する第2リップと、を備えている。
【手続補正7】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0019
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0019】
本出願のさらに別の態様に係るシール部材は、相対回転可能に組付けられる部材の筒状部と軸部の間を密閉するシール部材であって、前記筒状部の内周面に密に組付けられる環状基部と、前記環状基部から径方向内側に延び、先端部が前記軸部の筒状部方向の挿入荷重を受けて挿入方向の前方側に反転可能な第1環状リップと、前記環状基部から延び、先端部が前記第1環状リップよりも前記挿入方向の後方側寄りに配置されるとともに、前記第1環状リップの反転動作に連動して先端部が前記軸部の外周面に密接する第2環状リップと、を備えている。
【手続補正8】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0044
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0044】
自由状態におけるシール部材36は、第1環状リップ54の先端部54aに対する荷重の入力方向に応じて、第1環状リップ54と第2環状リップ55は以下のような挙動を呈する。
(a)軸方向内側に向かう荷重が第1サイドから入力されたとき
第1環状リップ54の先端部54aに軸方向内側に向かう荷重が第1サイドから入力された場合には、第1環状リップ54の先端部54aは、その荷重を受けて軸方向内側(第1方向)に向かってめくれ変形(反転)する。このとき、第1環状リップ54と第2環状リップ55の付根部側の連結部56は、肉薄部57を起点として、図2図3中の反時計回り方向に回転するように撓み変位する。この結果、第2環状リップ55の先端部55aは、径方向内側に向かって変位することになる。
(b)軸方向外側に向かう荷重が第2サイドから入力されたとき
第1環状リップ54の先端部54aに軸方向外側に向かう荷重が第2サイドから入力された場合には、第1環状リップ54の先端部54aは、その荷重を受けて軸方向外側(第2方向)に向かって撓み変位する。このとき、第1環状リップ54と第2環状リップ55の付根部側の連結部56が、肉薄部57を起点として、図2図3中の時計回り方向に回転するように撓み変位する。この結果、第2環状リップ55の先端部55aは、径方向外側に向かって変位することになる。
【手続補正9】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0055
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0055】
また、本実施形態のシール部材36は、相互に組付けられた外筒部材11と第1キャリアブロック13Aの間の隙間に後から挿入組付けされる組付け形態のときに、第1環状リップ54の先端部54aがめくれ変形せずに第1キャリアブロック13Aのシール接触面37に密接する構造とされている。このため、外筒部材11と第1キャリアブロック13Aの間の隙間に後からシール部材36を挿入組付けする場合にも、筒状部11aとシール接触面37の間を環状基部50と第1環状リップ54によって安定して密閉することができる。