IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 新日鐵住金株式会社の特許一覧 ▶ MSI.TOKYO株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-真空紫外1光子イオン化質量分析装置 図1
  • 特開-真空紫外1光子イオン化質量分析装置 図2
  • 特開-真空紫外1光子イオン化質量分析装置 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022030121
(43)【公開日】2022-02-18
(54)【発明の名称】真空紫外1光子イオン化質量分析装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 49/06 20060101AFI20220210BHJP
   H01J 49/16 20060101ALI20220210BHJP
   H01J 49/40 20060101ALI20220210BHJP
   H01J 49/14 20060101ALI20220210BHJP
【FI】
H01J49/06 700
H01J49/16 200
H01J49/40 800
H01J49/14 700
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020133901
(22)【出願日】2020-08-06
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】510005753
【氏名又は名称】MSI.TOKYO株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】辻 典宏
(72)【発明者】
【氏名】藤部 康弘
(72)【発明者】
【氏名】三木 伸一
(57)【要約】
【課題】ソフトイオン化が可能であり、かつ、高い質量分解能を有する真空紫外1光子イオン化質量分析装置を提供する。
【解決手段】本発明に係る真空紫外1光子イオン化質量分析装置は、真空紫外線発生部と、試料を真空紫外線レーザーにより1光子イオン化し、対象イオンを生成するイオン発生部と、対象イオンを検出するとともに対象イオンの質量を測定する多重周回飛行時間型質量分析部と、を備え、真空紫外線発生部は、紫外線レーザーを真空紫外線レーザーに変換する変換部と、真空紫外線レーザーを集光してイオン発生部に導入する集光レンズとを有し、イオン発生部は、イオン化部と、イオン化部と集光レンズとの間に、かつ真空紫外線レーザーの光軸に沿って配置される第1のアパーチャーと、イオン化部と第1のアパーチャーとの間にかつ真空紫外線レーザーの光軸に沿って配置される第2のアパーチャーとを有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空紫外線レーザーを発生させる真空紫外線発生部と、
試料を前記真空紫外線レーザーにより1光子イオン化し、対象イオンを生成するイオン発生部と、
前記対象イオンを検出するとともに、前記対象イオンの質量を測定する、多重周回飛行時間型質量分析部と、を備え、
前記真空紫外線発生部は、紫外線レーザーを前記真空紫外線レーザーに変換する変換部と、前記真空紫外線レーザーを集光して前記イオン発生部に導入する集光レンズと、を有し、
前記イオン発生部は、
前記試料に前記真空紫外線レーザーを照射させるとともに1光子イオン化した前記対象イオンを前記多重周回飛行時間型質量分析部へ押し出すイオン化部と、
前記イオン化部と前記集光レンズとの間に、かつ前記真空紫外線レーザーの光軸に沿って配置される、第1のアパーチャーと、
前記イオン化部と前記第1のアパーチャーとの間に、かつ前記真空紫外線レーザーの光軸に沿って配置される、第2のアパーチャーとを有する、真空紫外1光子イオン化質量分析装置。
【請求項2】
前記第2のアパーチャーは、前記イオン化部と隣接して配置される、請求項1に記載の真空紫外1光子イオン化質量分析装置。
【請求項3】
前記第2のアパーチャーは、接地されている、請求項1または2に記載の真空紫外1光子イオン化質量分析装置。
【請求項4】
前記第2のアパーチャーは、前記第1のアパーチャーと対向する面が、前記真空紫外線レーザーの光軸に対し、傾斜した傾斜面である、請求項1~3のいずれか一項に記載の真空紫外1光子イオン化質量分析装置。
【請求項5】
前記イオン発生部は、前記傾斜面にて反射した前記紫外線レーザーを透過可能な、ビューポートを備える、請求項4に記載の真空紫外1光子イオン化質量分析装置。
【請求項6】
さらに、前記第2のアパーチャーの前記傾斜面が反射した前記紫外線レーザーを検出する紫外線検出部を有する、請求項4または5に記載の真空紫外1光子イオン化質量分析装置。
【請求項7】
前記紫外線検出部が検出した前記紫外線レーザーの位置および/または強度に応じて、前記真空紫外線レーザーの光軸および/または光量を調節する、調整機構を有する、請求項6に記載の真空紫外1光子イオン化質量分析装置。
【請求項8】
前記真空紫外線レーザーの光軸は、前記多重周回飛行時間型質量分析部における前記対象イオンの周回軌道が形成する面と直交する、請求項1~7のいずれか一項に記載の真空紫外1光子イオン化質量分析装置。
【請求項9】
前記イオン化部は、さらに、前記真空紫外線レーザーの光軸と直交するように電子線を前記試料に対し照射可能な電子銃を有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の真空紫外1光子イオン化質量分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空紫外1光子イオン化質量分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、工場等から排出される排出ガスには、芳香族化合物等の微量の成分が含まれている。環境負荷を検討する際には、排出ガス中のこのような微量の成分を検出、定量することは重要である。
【0003】
気体中の成分を測定する方法として、真空紫外光を試料に照射して当該試料を1光子でイオン化させ、質量分析を行う真空紫外1光子イオン化質量分析法が提案されている。例えば、特許文献1には、レーザー光を利用した1光子イオン化質量分析装置と赤外分光装置とを組み合わせた環境負荷ガス中の分子種をモニタリングする測定システムおよび測定方法が提案されている。
【0004】
また、特許文献2には、高い質量分解能を得るために、イオンが円弧状の軌道を周回する飛行時間型質量分析装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-174558号公報
【特許文献2】特開2011-146180号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したような特許文献1に記載される1光子イオン化質量分析においては、イオン化時における分子開裂を抑制できる、いわゆるソフトイオン化が可能であり、分子種の特定が比較的容易である。しかしながら、特許文献1に記載される1光子イオン化質量分析においては、一般的な飛行時間型質量分析装置により、質量分析を行っているところ、さらなる質量分解能が望まれる。
【0007】
一方で、特許文献2に記載される飛行時間型質量分析装置は、イオンが円弧状の軌道を周回することによって長い飛行時間が達成可能であり、これにより高い質量分解能を有している。しかしながら、特許文献2に記載される飛行時間型質量分析装置では、イオン化の方法として電子イオン化法や化学イオン化法を採用しており、イオン化において対象となる分子のフラグメント化が生じやすかった。このようなフラグメント化は、未知の試料組成物を分析する際において、多くの検出ピークを生じさせ分析を複雑化させる。
【0008】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、ソフトイオン化が可能であり、かつ、高い質量分解能を有する真空紫外1光子イオン化質量分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上述した課題を解決すべく、まず、イオン源として真空紫外1光子イオン化装置を用い、これに質量分析装置として多重周回飛行時間型質量分析装置を組み合わせることを試みた。しかしながら、これらのイオン源と質量分析装置とを単純に組み合わせた場合、装置が動作しないという問題に直面した。
【0010】
本発明者らは、この原因を突き止めるべく検討したところ、真空紫外線は一般には紫外線を変換して生成されるところ、変換に利用されなかった紫外線の強度が高く、これがイオン源に侵入することにより、イオン源に悪影響を与え得ることも知見した。そして、このような紫外線を遮蔽すべく、2つのアパーチャーを設けることを見出し、以下に示す本発明に想到した。
上記のような知見に基づき完成された本発明の要旨は、以下の通りである。
【0011】
(1) 真空紫外線レーザーを発生させる真空紫外線発生部と、
試料を前記真空紫外線レーザーにより1光子イオン化し、対象イオンを生成するイオン発生部と、
前記対象イオンを検出するとともに、前記対象イオンの質量を測定する、多重周回飛行時間型質量分析部と、を備え、
前記真空紫外線発生部は、紫外線レーザーを前記真空紫外線レーザーに変換する変換部と、前記真空紫外線レーザーを集光して前記イオン発生部に導入する集光レンズと、を有し、
前記イオン発生部は、
前記試料に前記真空紫外線レーザーを照射させるとともに1光子イオン化した前記対象イオンを前記多重周回飛行時間型質量分析部へ押し出すイオン化部と、
前記イオン化部と前記集光レンズとの間に、かつ前記真空紫外線レーザーの光軸に沿って配置される、第1のアパーチャーと、
前記イオン化部と前記第1のアパーチャーとの間に、かつ前記真空紫外線レーザーの光軸に沿って配置される、第2のアパーチャーとを有する、真空紫外1光子イオン化質量分析装置。
(2) 前記第2のアパーチャーは、前記イオン化部と隣接して配置される、(1)に記載の真空紫外1光子イオン化質量分析装置。
(3) 前記第2のアパーチャーは、接地されている、(1)または(2)に記載の真空紫外1光子イオン化質量分析装置。
(4) 前記第2のアパーチャーは、前記第1のアパーチャーと対向する面が、前記真空紫外線レーザーの光軸に対し、傾斜した傾斜面である、(1)~(3)のいずれか一項に記載の真空紫外1光子イオン化質量分析装置。
(5) 前記イオン発生部は、前記傾斜面にて反射した前記紫外線レーザーを透過可能な、ビューポートを備える、(4)に記載の真空紫外1光子イオン化質量分析装置。
(6) さらに、前記第2のアパーチャーの前記傾斜面が反射した前記紫外線レーザーを検出する紫外線検出部を有する、(4)または(5)に記載の真空紫外1光子イオン化質量分析装置。
(7) 前記紫外線検出部が検出した前記紫外線レーザーの位置および/または強度に応じて、前記真空紫外線レーザーの光軸および/または光量を調節する、調整機構を有する、(6)に記載の真空紫外1光子イオン化質量分析装置。
(8) 前記真空紫外線レーザーの光軸は、前記多重周回飛行時間型質量分析部における前記対象イオンの周回軌道が形成する面と直交する、(1)~(7)のいずれか一項に記載の真空紫外1光子イオン化質量分析装置。
(9) 前記イオン化部は、さらに、前記真空紫外線レーザーの光軸と直交するように電子線を前記試料に対し照射可能な電子銃を有する、(1)~(8)のいずれか一項に記載の真空紫外1光子イオン化質量分析装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ソフトイオン化が可能であり、かつ、高い質量分解能を有する真空紫外1光子イオン化質量分析装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態に係る真空紫外1光子イオン化質量分析装置の概略を模式的に示す模式図である。
図2図1に示す真空紫外1光子イオン化質量分析装置のイオン発生部の構成を説明する拡大模式図である。
図3図1に示す真空紫外1光子イオン化質量分析装置のa-a線断面における模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0015】
<1.真空紫外1光子イオン化質量分析装置の構成>
まず、本実施形態に係る真空紫外1光子イオン化質量分析装置について説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る真空紫外1光子イオン化質量分析装置の概略を模式的に示す模式図、図2は、図1に示す真空紫外1光子イオン化質量分析装置のイオン発生部の構成を説明する拡大模式図、図3は、図1に示す真空紫外1光子イオン化質量分析装置のa-a線断面における模式図である。なお、図中、説明の容易化のため、各構成要素は適宜拡大・縮小しており、実際の寸法を示すものではない。また、各図中、説明の容易化のため、説明に不要な部材については省略した。さらに、各図中の紫外線レーザー、真空紫外線レーザーや、試料等の物質の移動については、これらの代表的な移動方向、例えば紫外線レーザー、真空紫外線レーザーの光軸のみ表示し、詳細な広がり等の記載を省略した。
【0016】
図1に示す真空紫外1光子イオン化質量分析装置1は、真空紫外線発生部10と、イオン発生部20と、多重周回飛行時間型質量分析部30と、導入部40と、紫外線検出部50とを有している。
【0017】
真空紫外線発生部10は、真空紫外線VUVレーザーを発生させる。真空紫外線発生部10は、固体レーザー発振部より発振されたパルス状の紫外線レーザーUVを変換部13に導光する導光レンズ11と、紫外線レーザーUVを真空紫外線VUVレーザーに変換する変換部13と、変換部13において変換された真空紫外線VUVレーザーを集光してイオン発生部20に導入する集光レンズ15とを有している。
【0018】
導光レンズ11は、固体レーザー発振部(図示せず)より発振された固体レーザーのパルス状の紫外線レーザーUVを変換部13に導入する。導光レンズ11は、変換部13内の目的とする領域において、紫外線レーザーUVが収束するように紫外線レーザーUVの集光を行う。導光レンズ11は、例えば、合成石英、フッ化マグネシウム等により構成される。また、固体レーザーとしては、例えばYAGレーザー等が挙げられる。パルス状の紫外線レーザーUVは、固体レーザーの高調波(例えばYAGレーザーの3倍波(波長:355nm)等)であることができる。
【0019】
変換部13は、導光レンズ11より導光された紫外線レーザーUVを真空紫外線レーザーに変換する真空紫外線レーザー発振部である。変換部13は、例えば、キセノン、アルゴン、クリプトン等の希ガスが封入されたガスセルである。希ガスは、主に変換部13内の紫外線レーザーUVの収束点において、導光レンズ11より導光された紫外線レーザーUVの光子を複数吸収して共鳴し、真空紫外線レーザーVUVを発振する。このような真空紫外線レーザーVUVの波長は、例えばキセノン由来の場合、118nmである。ただし、紫外線レーザーUVのすべての光子が真空紫外線レーザーVUVの発振に利用されるものではなく、紫外線レーザーUVの一部は、真空紫外線レーザーVUVとともに、集光レンズ15を介して外部に放出される。なお、希ガスは、希ガス導入口131より封入される。
【0020】
集光レンズ15は、変換部13において発振した真空紫外線レーザーVUVをイオン発生部20のイオン化部23内において収束するように集光する。また、真空紫外線レーザーVUVと紫外線レーザーUVとは、波長が異なることから集光レンズ15における屈折角も異なる。したがって、集光レンズ15は、この真空紫外線レーザーVUVと紫外線レーザーUVとの屈折角の差異を利用して、真空紫外線レーザーVUVと紫外線レーザーUVとを分離する。集光レンズ15は、例えばフッ化マグネシウム、フッ化リチウム等により構成される。
【0021】
また、以上説明した真空紫外線発生部10は、発生させる真空紫外線レーザーVUVが、図中x軸と並行に後述するイオン化部23へ進行するように配置されている。この場合、イオン化部23において、生成する対象イオンISは、z軸方向と比較して、x軸方向は収束の程度が低い傾向がある。
【0022】
イオン生成領域236に広がる試料Sが真空紫外レーザーに照射されて生成する対象イオンISのうち、後述する多重周回飛行時間型質量分析部30における対象イオンISの周回軌道が形成する面(y-z面)内に存在する対象イオンISが最も効率的に周回軌道に取り込まれる。周回軌道面(y-z面)から離れるにしたがって、対象イオンISの周回軌道への収束効率が低下する。言い換えれば、真空紫外レーザーVUVをx軸方向に照射することによって、対象イオンISと真空紫外レーザーVUVとの有効な相互作用体積を最大とすることができる。このように、対象イオンISが収束しにくい方向軸と、多重周回飛行時間型質量分析部30における対象イオンISの収束の許容度合いが大きい方向軸とを合わせることにより、対象イオンISの検出感度が向上する。
【0023】
イオン発生部20は、試料Sを真空紫外線レーザーVUVにより1光子イオン化し、対象イオンISを生成する。イオン発生部20は、真空チャンバー21と、イオン化部23と、第1のアパーチャー25と、第2のアパーチャー27と、電子銃29とを有している。
【0024】
真空チャンバー21は、空間211を備え、イオン発生部20の各部を収納するとともに、空間211内の真空(減圧)状態を維持する。また、真空チャンバー21は、ビューポート215を有している。
【0025】
真空紫外線発生部10において発振された真空紫外線レーザーVUVは、集光レンズ15を介してイオン発生部20へ導入される。真空紫外レーザーVUVは、集光レンズ15を通過後、真空内を伝播させる必要があり、集光レンズ15は直接、真空チャンバー21の側面に取り付けている。なお、図示の態様に限定されず、変換部13と真空チャンバー21とは、内部を真空としたまたは不活性ガスで置換した鏡筒で接続されてもよい。
【0026】
ビューポート215は、後述する第2のアパーチャー27にて反射した紫外線レーザーUVの光路上に設けられた、透光性の窓部材である。ビューポート215より、イオン発生部20内の紫外線レーザーUVの照射位置、特に後述する第2のアパーチャー27への照射位置を確認することができる。これにより、視認不可能な真空紫外線レーザーVUVの光軸を推測することが可能となり、真空紫外線レーザーVUVの光軸の調整が可能となる。
ビューポート215は、紫外線レーザーUVに対する耐性を有する材料、例えば、合成石英等により構成される。
【0027】
イオン化部23は、試料Sに真空紫外線レーザーVUVを照射させるとともに1光子イオン化した対象イオンISを多重周回飛行時間型質量分析部30へ押し出す。図2に示すように、イオン化部23は、押し出し電極231と、引き出し電極232と、引き込み電極233とを有している。そして、押し出し電極231と、引き出し電極232と、引き込み電極233とは、対象イオンISの予定する進行方向に沿って、この順に配置されている。これらの押し出し電極231、引き出し電極232、引き込み電極233は、それぞれ異なる大きさの電圧を印加することができ、これらの電極231~233間において生じる電位差に基づき、2段加速により、対象イオンISが多重周回飛行時間型質量分析部30へ押し出される。
【0028】
押し出し電極231は、カップ状をなしており、その開口部が引き出し電極232と対向するように配置されている。また、押し出し電極231は、その側面において、真空紫外線レーザーVUVを通過させて押し出し電極231内へ導入するための孔234と、後述する導入部40からの試料Sを押し出し電極231内へ導入するための孔235と、電子銃29からの電子線EBを押し出し電極231内へ導入するための孔239とが設けられている。
【0029】
そして、押し出し電極231と後述する引き出し電極232とで形成される空間のうち、イオン生成領域236において、真空紫外線レーザーVUVまたは電子線EBと、試料Sとが衝突して、試料Sがイオン化し、対象イオンISが生成する。
【0030】
ここで試料S中の分子には、それぞれ固有のイオン化ポテンシャルが存在する。そして、このイオン化ポテンシャルを超える光子エネルギーを有する光子を分子に衝突させることにより、分子は1光子でイオン化される。このような1光子による分子のイオン化は、対象分子の開裂が生じない。また、イオン化ポテンシャルが光子エネルギー以下の分子は、真空紫外線レーザーVUVによりすべてイオン化されることができ、複数種の対象物質を同時にイオン化することも可能である。すなわち1光子イオン化により、複数種の対象物質についての分析が可能となる。そして、本実施形態においては、試料S中の対象物質についてこのような1光子イオン化を行うために、真空紫外線レーザーVUVを使用することができる。
【0031】
また、押し出し電極231の底部は、対象イオンISの進行方向とは反対方向に湾曲したくぼみを有する形状をなしている。押し出し電極231の底部がこのような曲面形状を有することにより、適切なポテンシャル分布を形成でき、湾曲した等電位面上にある対象イオンISに対して、それぞれの加速経路において時間的な等長性を与えることができる。この結果、対象イオンISは、収束しつつ引き出し電極232側に押し出されることができる。これにより、対象イオンISの引出し効率が向上する。この結果、後述する検出器39において検出される対象イオンISのピーク幅が狭くなるとともにピーク強度が向上し、検出感度、分解能および定量性のいずれもが改善される。
【0032】
また、イオン生成領域236の様々な位置において生成した対象イオンISが引き出されるまでの時間的な等長性を満たし、対象イオンISを空間的に収束させるためには、上述した押し出し電極231の底部は、レンズ効果を有し、かつフォーカス点が引き出し電極232の位置に調整可能なポテンシャル分布を形成するような形状を有することが好ましい。また、押し出し電極231の底部は、押し出し電極231の所定の位置を中心とした同心円上の湾曲を有する等電位線を形成可能なように、湾曲することが好ましい。
【0033】
引き出し電極232は、押し出し電極231と引き込み電極233との間に配置される。引き出し電極232は、メッシュ状に形成されており、対象イオンISが通過可能に構成されている。そして、引き出し電極232と押し出し電極231との間の電位差に基づき、対象イオンISがイオン生成領域236より引き出し電極232を通過して、引き込み電極233側へ引き出される。
【0034】
また、引き出し電極232は、対象イオンISの通過位置付近を中心としたイオン通過部237が、対象イオンISの進行方向とは反対方向に湾曲したくぼみを有する形状をなしている。引き出し電極232がこのような曲面形状を有するイオン通過部237を備えることにより、押し出し電極231と同様に、適切なポテンシャル分布を形成でき、湾曲した等電位面上にある対象イオンISに対して、それぞれの加速経路において時間的な等長性を与えることができる。この結果、上述したように、検出感度、分解能および定量性のいずれもが改善される。
【0035】
引き込み電極233は、引き出し電極よりも対象イオンISの進路の下流側に配置される。引き込み電極233は、引き出し電極232と引き込み電極233との間に生じる電位差に基づき、引き出し電極232を通過した対象イオンISを加速させて孔238から多重周回飛行時間型質量分析部30へ引き込む。
【0036】
また、イオン化部23は、必要に応じて、図示せぬ静電レンズを有し、当該静電レンズは、通過した対象イオンISを空間的にさらに収束させる。
【0037】
以上のようなイオン化部23は、対象イオンISの引き出し効率に優れているとともに、対象イオンISの収束に有利であり、感度、分解能および定量性のいずれをも改善することができる。一方で、孔234を通じて真空紫外線レーザーVUVを導入するための空間が小さくなってしまう。この場合、真空紫外線レーザーVUVとともに侵入した紫外線レーザーUVによりイオン化部23の損傷が起こる恐れがある。特に、押し出し電極231の孔234付近に紫外線レーザーUVが照射された場合、押し出し電極231が帯電して、イオン化部23における対象イオンISの引き出し効率が低下したり、押し出し電極231が損傷し、イオン化部23が損傷する場合があり得る。
【0038】
しかしながら、本実施形態に係る真空紫外1光子イオン化質量分析装置1においては、第1のアパーチャー25と、第2のアパーチャー27とを備えることにより、紫外線レーザーUVを効率よく遮断して、上記の問題が防止されている。
【0039】
図1に示すように、第1のアパーチャー25は、イオン化部23と集光レンズ15との間に、かつ真空紫外線レーザーVUVの光軸に沿って配置される。第1のアパーチャー25は、真空紫外線レーザーVUVの光軸上に孔251を有し、真空紫外線レーザーVUVを孔251を介して通過させる。一方で、紫外線レーザーUVは、上述したように集光レンズ15により真空紫外線レーザーVUVと紫外線レーザーUVと光路が分離されている。したがって、紫外線レーザーUVは、その大部分が、第1のアパーチャー25の孔251以外の部分に照射されて遮断される。
【0040】
ここで、紫外線レーザーUVは、第1のアパーチャー25のみでは、十分にはイオン化部23より遮断できないことを本発明者らは知覚した。すなわち、真空紫外線レーザーVUVの強度を大きくする場合、紫外線レーザーUVの照射強度も当然大きくなる。この場合、紫外線レーザーUVの大部分は、集光レンズ15より射出する際に、収束して、第1のアパーチャー25に照射され、遮断される。一方で、紫外線レーザーUVの一部は、拡散等により、他の紫外線レーザーUVと同様の光路を進行せず、必ずしも第1のアパーチャー25により遮断されない。そして、紫外線レーザーUVの一部は、第1のアパーチャー25の孔251を通過して、イオン化部23側に進行しうる。あるいは、真空紫外線レーザーVUVの光軸調整時に、紫外レーザーUVの一部が第1のアパーチャー25を通過して、イオン化部23に照射されることもあった。しかしながら、本実施形態においては、第2のアパーチャー27により、このような紫外線レーザーUVも遮断することができる。
【0041】
すなわち、集光レンズ15を射出後の集光レンズ15と第2のアパーチャー27との間の光路長は、集光レンズ15と第1のアパーチャー25との間の光路長よりも長く、その分、真空紫外レーザーVUVと紫外レーザーVUのスポットの位置の隔たりはより大きくなり、第1のアパーチャー25を通過した紫外レーザーUVも第2のアパーチャー27では、遮蔽される。集光レンズ15と第2のアパーチャー27との間の光路長は、好ましくは集光レンズ15と第1のアパーチャー25との間の光路長の2倍以上であり、より好ましくは3倍以上4倍以下である。
【0042】
図1図2に示すように、第2のアパーチャー27は、イオン化部23と第1のアパーチャー25との間に、かつ真空紫外線レーザーVUVの光軸に沿って配置される。より具体的には、第2のアパーチャー27は、イオン化部23と隣接して配置される。第2のアパーチャー27は、真空紫外線レーザーVUVの光軸上に孔271を有し、真空紫外線レーザーVUVを孔271を介して通過させる。
【0043】
一方で、第2のアパーチャー27は、第1のアパーチャー25と対向する面273において、紫外線レーザーUVを遮断する。具体的には、第2のアパーチャー27は、面273において、紫外線レーザーUVを吸収または反射する。これにより、紫外線レーザーUVがイオン化部23へ到達することを防止することができる。
【0044】
第2のアパーチャー27は、いかなる材料で構成されてもよいが、例えば、金属材料、導電性セラミクス材料、炭素材料等の導電性材料で構成されることが好ましい。この場合、第2のアパーチャーは、図2に示すように接地されていることが好ましい。これにより、紫外線レーザーUVの照射により生じた電荷を除去し、帯電することを防止することができる。この結果、第2のアパーチャー27の帯電によるイオン化部23への影響を防止することができる。なお、金属材料としては、鉄、SUS、アルミニウム等が挙げられる。
【0045】
また、第2のアパーチャー27の面273は、真空紫外線レーザーVUVの光軸に対し、傾斜した傾斜面である。これにより、第2のアパーチャー27の面273が反射可能な材料、特に金属材料で構成されている場合、面273において紫外線レーザーUVを例えば、前述したビューポート215へ反射することができる。具体的には、面273は、真空紫外線レーザーVUVの光軸に対し、例えば30°以上60°以下の最小角αを有することができる。
【0046】
図1図3に示す電子銃29は、イオン化部23の下部に配置されている。電子銃29は、真空紫外線発生部10による真空紫外線レーザーVUVのイオン化部23への進入方向とは別の方向、本実施形態では真空紫外線レーザーVUVのイオン化部23への進入方向と垂直な方向(z軸と平行な方向)において、電子線EBを射出する。
【0047】
このような電子線EBをイオン化部23のイオン生成領域236において、試料Sと衝突させることにより、試料Sがイオン化し、対象イオンISを生成させることができる。すなわち、本実施形態においては、真空紫外線レーザーVUVによる真空紫外線1光子イオン化法と、電子線EBによるいわゆる電子イオン化法(Electron Ionization)とを、選択的に使用して、対象イオンISを生成することが可能である。
【0048】
多重周回飛行時間型質量分析部30は、対象イオンISを検出するとともに、対象イオンISの質量を測定する。多重周回飛行時間型質量分析部30は、図3に示すように、入射電極31と、複数の周回電極33と、イオンゲート35と、出射電極37と、検出器39とを有している。
【0049】
入射電極31は、所定の電場を形成可能であり、イオン発生部20において引き出された対象イオンISを多重周回飛行時間型質量分析部30における周回軌道へ入射する。複数の周回電極33は、一定電圧が印加されており、周回軌道に入射された対象イオンISを誘導して周回軌道を周回させる。なお、本実施形態においては、周回軌道が8の字を描くように、4つの湾曲した周回電極33が配置されている。
【0050】
イオンゲート35は、定期的に印加され、目的外の範囲の質量電荷比のイオンを除去する。また、イオンゲート35は、周回軌道を周回する対象イオンISのうち、周回遅れとなるイオンの除去も行う。
【0051】
出射電極37は、印加されて電場を形成することにより、周回軌道を目的とする数周回した対象イオンISを誘導し、検出器39へ出射する。
【0052】
検出器39は、例えばデイリーイオン検出器であり、検出器39に到達した対象イオンISを検出する。
【0053】
導入部40は、イオン発生部20に接続されており、試料Sをイオン発生部20の空間211へ導入する。具体的には、導入部40より試料Sは、減圧されたイオン発生部20内に連続的に噴射される。噴射された試料Sは、イオン化部23のイオン生成領域236に到達し、ここで、真空紫外線レーザーVUVまたは電子線EBが照射される。
【0054】
紫外線検出部50は、図1に示すように、第2のアパーチャー27の面273において反射された紫外線レーザーUVの光路上に配置されている。紫外線検出部50は、例えばフォトダイオードであり、第2のアパーチャー27の面273において反射した紫外線レーザーUVを検出する。このように、反射した紫外線レーザーUVの強度および位置を紫外線検出部50において検出することにより、真空紫外線レーザーVUVの強度および光軸の位置を推測することが可能となる。この結果、紫外線検出部50において検出された紫外線レーザーUVの強度および位置に基づき、真空紫外線レーザーVUVの光量および/または光軸を調節することができる。
【0055】
したがって、真空紫外1光子イオン化質量分析装置1は、紫外線検出部50が検出した紫外線レーザーUVの位置および/または強度に応じて、真空紫外線レーザーVUVの光軸および/または光量を調節する、調整機構を有してもよい(図示せず)。当該調整機構により、真空紫外線レーザーVUVの光軸および/または光量のより精確な制御化可能となる。
【0056】
なお、図示は省略するが、真空紫外1光子イオン化質量分析装置1には、当該真空紫外1光子イオン化質量分析装置1の動作を制御するための制御装置が設けられる。当該制御装置は、以上説明した、真空紫外1光子イオン化質量分析装置1の各構成の動作を制御し得る。当該制御装置は、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサ、又はプロセッサとメモリ等の記憶素子が搭載された制御基板等であり得る。あるいは、当該制御装置は、PC(Personal Computer)等の汎用的な情報処理装置であってもよい。当該制御部のプロセッサが所定のプログラムに従って演算処理を実行することにより、以上説明した各種の機能が実現・実行され得る。
以上、本実施形態に係る真空紫外1光子イオン化質量分析装置1について説明した。
【0057】
<2.真空紫外1光子イオン化質量分析装置の動作>
次に、本実施形態に係る真空紫外1光子イオン化質量分析装置の動作について、真空紫外1光子イオン化質量分析装置1の動作を例に、説明する。
【0058】
(2.1. 真空紫外1光子イオン化質量分析)
真空紫外1光子イオン化質量分析を行う際の真空紫外1光子イオン化質量分析装置1の動作について説明する。
この場合、まず、導入部40より試料Sがイオン発生部20内に連続的に噴射される。噴射される試料Sは、イオン化部23のイオン生成領域236に到達し、ここで、真空紫外線レーザーVUVが照射される。
【0059】
なお、試料Sとしては、真空紫外線レーザーVUVによるソフトイオン化が可能であれば特に限定されず、各種気体状の組成物、化合物を用いることができる。試料Sは、例えば、芳香族化合物、炭化水素等の低分子または高分子の有機化合物や、工場、ガスタービン、焼却炉等の産業施設や自動車、飛行機等の輸送機械から排出される排出ガス等であることができる。なお、真空紫外1光子イオン化質量分析装置1において検出、定量される化合物は、1種であってもよいし、複数種であってもよい。
【0060】
一方で、真空紫外線レーザーVUVは、真空紫外線発生部10において発振される。具体的には、まず、固体レーザー発振部(図示せず)より発振された固体レーザーのパルス状の紫外線レーザーUVを導光レンズ11を介して変換部13に導入する。次いで、変換部13に導入された紫外線レーザーUVは、その収束点において、変換部13に封入されたキセノン等の希ガスを励起・共鳴させて真空紫外線レーザーVUVを発振させる。
【0061】
変換部13において発振した真空紫外線レーザーVUVは、イオン発生部20のイオン化部23内において収束するように、集光レンズ15において集光される。集光された真空紫外線レーザーVUVは、第1のアパーチャー25の孔251および第2のアパーチャー27の孔271を通過して、イオン化部23のイオン生成領域263に到達する。
【0062】
ここで、真空紫外線レーザーVUVの変換に利用されなかった紫外線レーザーUVは、真空紫外線レーザーVUVと同様に集光レンズ15において集光される。しかしながら、真空紫外線レーザーVUVと紫外線レーザーUVとの屈折角の差異を利用して、真空紫外線レーザーVUVと紫外線レーザーUVとを分離される。そして、集光レンズ15から出射した紫外線レーザーUVの大部分は、第1のアパーチャー25の孔251以外の部分において遮断される。また、第1のアパーチャー25を通過したわずかな強度の紫外線レーザーUVは、さらに、第2のアパーチャー27の面273において遮断される。このようにして、イオン化部23には分析や装置の損傷に影響を与える強度の紫外線レーザーUVの到達が防止される一方で、真空紫外線レーザーVUVは、効率よくイオン発生部20のイオン化部23のイオン生成領域236に到達する。
【0063】
イオン化部23のイオン生成領域236において、真空紫外線レーザーVUVは、試料Sを1光子イオン化し、対象イオンISが生成する。対象イオンISは、押し出し電極231、引き出し電極232および引き込み電極233が適宜電位差を印加されることにより、時間的・空間的に収束するとともに加速して、多重周回飛行時間型質量分析部30へ押し出される。
【0064】
多重周回飛行時間型質量分析部30において、対象イオンISは、まず、所定の電圧に印加された入射電極31により周回軌道に誘導される。そして、一定電圧が印加された4つの周回電極33により、対象イオンISは、周回軌道を目的とする回数周回する。この過程において、入射電極31における印加は、初回の周回が終了するまでには終了される。また、イオンゲート35は、定期的に印加され、目的外の範囲の質量静電荷比のイオンを除去する。
【0065】
対象イオンISが目的とする回数周回軌道を周回した後、出射電極37は、印加されて電場を形成することにより、対象イオンISを誘導し、検出器39へ出射する。そして、検出器39は、到達した対象イオンISを検出する。そして真空紫外線レーザーVUVの発振時間とその後検出器39に到達するまでの飛行時間の関係から、m/z値が特定される。また、検出器39において検出した対象イオンISの量に応じた、m/z値毎の信号強度が検出される。
【0066】
このように得られた情報により、対象イオンISの質量数の特定および定量が可能となる。すなわち、m/z値により、対象イオンISの質量数が特定される。さらに、試料Sの濃度と対応するm/z値の信号強度との検量線を予め作成しておき、検出された信号強度を検量線に代入することにより、試料Sの濃度が算出される。このような試料Sの質量数の特定および定量は、図示せぬ制御装置により行うことができる。
【0067】
以上のようにして、試料Sの質量および濃度が特定される。上記の真空紫外1光子イオン化質量分析においては、ソフトイオン化が可能な真空紫外1光子イオン化法と、高い質量分解能を有する多重周回飛行時間型質量分析法を組み合わせることにより、極めて高い精度での質量分析および試料Sの特定・定量が可能となる。例えば、本発明者らは、上記の真空紫外1光子イオン化質量分析装置1に相当する装置を採用することにより、整数質量数が同一であるシクロヘキサン(C12、質量数84.0939)と、チオフェン(CS、質量数84.0034)との混合物について質量分析を行い、これらについてフラグメントフリーで分離検出できることを確認している。すなわち、これらの分子について、別個のピークとして検出し、定量することが可能であった。
【0068】
このような、真空紫外1光子イオン化法と多重周回飛行時間型質量分析法との組み合わせは、第1のアパーチャー25と第2のアパーチャー27とを採用する、すなわち、複数のアパーチャーを採用して、紫外線レーザーUVを効率的に遮断することにより、初めて可能となったものである。
【0069】
また、真空紫外1光子イオン化質量分析の前後または最終においては、必要に応じて、ビューポート215および/または紫外線検出部50により、紫外線レーザーの位置および/または強度についての情報を得る。この情報に基づき、適宜真空紫外線レーザーVUVの光軸および光量を調節する。
以上、真空紫外1光子イオン化質量分析装置1を用いた真空紫外1光子イオン化質量分析について説明した。
【0070】
(2.2. 電子イオン化質量分析)
次に、電子イオン化質量分析を行う際の真空紫外1光子イオン化質量分析装置1の動作について説明する。電子イオン化質量分析においては、真空紫外1光子イオン化質量分析の場合と比較して、真空紫外線発生部10からの真空紫外線レーザーVUVの使用に代えて電子銃29からの電子線EBを試料Sのイオン化に使用する点が主に異なる。したがって、この点を主に説明し、同様の事項については説明を省略する。
【0071】
すなわち、まず、導入部40より試料Sがイオン発生部20内に連続的に噴射される。噴射された試料Sは、イオン化部23のイオン生成領域236に到達する。
【0072】
一方で、電子銃29により電子線EBがイオン化部23のイオン生成領域236に向けて照射され、電子線EBにより試料Sがイオン化されて対象イオンISが生成する。生成した対象イオンISのその後の分析については、上述した真空紫外1光子イオン化質量分析の場合と同様である。
【0073】
以上のように、真空紫外1光子イオン化質量分析装置1は、電子銃29を備えることにより、真空紫外1光子イオン化質量分析に代えて電子イオン化質量分析を行うことが可能である。電子イオン化法では、フラグメント化が問題とならない、CO、CO等の低分子の測定が可能である。また、電子イオン化法は、これによるフラグメント化イオンのデータベースが充実していることから、組成が未知の試料Sについて、便宜的に分析を行うのに適している。そして、真空紫外線1光子イオン化法は、フラグメント化イオンのデータベースが電子イオン化法と比較して充実していないが、ソフトイオン化によるより厳密な質量分析および定量が可能となる。したがって、真空紫外1光子イオン化質量分析装置1を用いて、その状況に応じた質量分析法を選択することが可能である。
【0074】
以上、本実施形態に係る真空紫外1光子イオン化質量分析装置の動作について説明した。
【0075】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0076】
例えば、上述した実施形態では、第2のアパーチャー27が真空紫外線レーザーVUVの光軸に対して傾斜した面273を有するものとして説明したが、本発明はこれに限定されず、第2のアパーチャーは、真空紫外線レーザーの光軸に対して傾斜した面を有しなくてもよく、真空紫外線レーザーの入射側の面は任意の角度、形状を有することができる。
【0077】
また、第2のアパーチャーは、紫外線レーザーを遮断できるものであればよく、紫外線レーザーを吸収する等、反射しなくてもよい。また、この場合、イオン発生部に配置されるビューポートや、紫外線検出部は省略され得る。
【0078】
例えば、上述した実施形態では、真空紫外1光子イオン化質量分析装置1が電子銃29を備えるものとして説明したが、本発明はこれに限定されず、真空紫外1光子イオン化質量分析装置は電子銃を備えていなくてもよい。
【0079】
さらに、例えば、本発明において用いられるイオン化部としては、上述した本実施形態における電極の構成を備えていなくてもよく、公知の構成を採用し得る。例えば、イオン化部は、引き出し電極を備えていなくてもよい。また、押し出し電極および引き出し電極は、それぞれ湾曲していなくてもよい。
【0080】
また、本発明においては、上述した実施形態における多重周回飛行時間型質量分析部30以外の構成の各種公知の多重周回飛行時間型質量分析部を採用してもよい。例えば、多重周回飛行時間型質量分析部におけるイオンの周回軌道は、上述したような8の字を描くものに限定されず、例えば、円周軌道、螺旋軌道等を適宜選択することができる。また、この場合において、多重周回飛行時間型質量分析部に配置される各種電極の構成も合わせて変更される。
【符号の説明】
【0081】
1 真空紫外1光子イオン化質量分析装置
10 真空紫外線発生部
11 導光レンズ
13 変換部
131 希ガス導入口
15 集光レンズ
20 イオン発生部
21 真空チャンバー
211 空間
215 ビューポート
23 イオン化部
231 押し出し電極
232 引き出し電極
233 引き込み電極
234、235、238、239 孔
236 イオン生成領域
237 イオン通過部
25 第1のアパーチャー
251 孔
27 第2のアパーチャー
271 孔
273 面
29 電子銃
30 多重周回飛行時間型質量分析部
31 入射電極
33 周回電極
35 イオンゲート
37 出射電極
39 検出器
40 導入部
50 紫外線検出部
図1
図2
図3