(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022030128
(43)【公開日】2022-02-18
(54)【発明の名称】光学式指紋センサ及び光学式指紋センサの製造方法
(51)【国際特許分類】
G06T 1/00 20060101AFI20220210BHJP
G02B 5/00 20060101ALI20220210BHJP
G09F 9/00 20060101ALI20220210BHJP
【FI】
G06T1/00 400G
G02B5/00 B
G09F9/00 366A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020133909
(22)【出願日】2020-08-06
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】坂川 誠
(72)【発明者】
【氏名】萩原 英聡
【テーマコード(参考)】
2H042
5B047
5G435
【Fターム(参考)】
2H042AA09
5B047AA25
5B047BB04
5B047BC01
5G435AA17
5G435BB05
5G435DD10
5G435EE04
5G435FF13
5G435KK07
5G435LL07
(57)【要約】
【課題】基材との層間における剥離を低減することができる遮光層を備える光学式指紋センサ及び光学式指紋センサの製造方法を提供すること。
【解決手段】
基材に二次元に配列された複数の受光素子を有する受光層と、前記受光層の光入射面側に形成された透明層と、前記透明層の前記受光層とは反対側の面に形成された遮光層とを備え、前記遮光層には前記受光素子に対応する位置にホールが形成され、前記遮光層は、波長400nmから700nmの範囲の光の透過率が1%以下であり、且つ、波長360nmから400nmの光の透過率が0.05%以上となるように形成されている、光学式指紋センサである。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材に二次元に配列された複数の受光素子を有する受光層と、
前記受光層の光入射面側に形成された透明層と、
前記透明層の前記受光層とは反対側の面に形成された遮光層とを備え、
前記遮光層には前記受光素子に対応する位置にホールが形成され、
前記遮光層は、波長400nmから700nmの範囲の光の透過率が1%以下であり、且つ、波長360nmから400nmの光の透過率が0.05%以上となるように形成されている、
光学式指紋センサ。
【請求項2】
前記遮光層は、窒化チタン、酸窒化チタン、酸化チタン、及び炭化チタンのうち少なくとも1つの黒色顔料を含む、
請求項1に記載の光学式指紋センサ。
【請求項3】
前記遮光層は、前記ホールが前記受光層側に向かうほど径が拡大するように形成されている、
請求項1または2に記載の光学式指紋センサ。
【請求項4】
基材に二次元に配列された複数の受光素子を有する受光層の光入射面側に透明層を形成する工程と、
前記透明層の前記受光層とは反対側の面に波長400nmから700nmの範囲の光の透過率が1%以下であり、且つ、波長360nmから400nmの光の透過率が0.05%以上である光硬化樹脂を塗布する工程と、
前記光硬化樹脂にマスクして前記複数の受光素子に対応する位置に複数のホールが形成されるようにパターニング処理し前記光硬化樹脂に紫外線を照射して硬化させて遮光層を形成する工程と、を備える、
光学式指紋センサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、指紋を光学的に認識する光学式指紋センサ及び光学式指紋センサの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォン等のタッチパネルを用いたモバイル端末装置が普及しつつある。モバイル端末装置には、セキュリティを保護するロックを解除するために、ユーザの本人認証の操作が行われるものがある。本人認証の方法は様々なものがあり、その中で指紋センサはユーザ本人を確実に認証するものとして採用される。
【0003】
モバイル端末においてタッチパネルの表示領域を最大化しつつ、指紋認証をも行えるように、タッチパネルの下層に光学式指紋センサを配置する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。タッチパネルの下層に設けられた光学式指紋センサは、例えば、複数の受光素子を有する受光層を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
受光層の受光素子において入射する光は、斜め方向にも進行して隣接する受光素子にも入射してノイズとなる。ノイズを低減して受光層の読み取り精度を向上させるために、受光層の上層に光を遮断する遮光層が用いられる場合がある。遮光層は、例えば、複数の受光素子間に入射される光を遮光するようにパターンが形成されている。
【0006】
遮光層を形成する場合、可視域の光の遮光性を確保する為にカーボンブラックが含有された黒色感光性材料が一般的に用いられている。遮光層は、例えば、カーボンブラックが混入された硬化前の光硬化樹脂を基材に塗布した後、紫外線を照射し、光硬化樹脂を硬化させた膜により形成される。
【0007】
しかしながら、遮光層を形成する際に光硬化樹脂に紫外線を照射してもカーボンブラックの紫外線の透過率が極めて低く、形成された膜の深部の硬化が不十分となる。その結果、基材との層間において膜の剥離が生じ、遮光層のパターン寸法が安定しないという問題が有った(
図8参照)。光学式指紋センサで、遮光層の材質を具体的に示した技術提案は無かった。
【0008】
本発明は、基材との層間における剥離を低減することができる遮光層を備える光学式指紋センサ及び光学式指紋センサの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達するために、本発明の一態様は、基材に二次元に配列された複数の受光素子を有する受光層と、前記受光層の光入射面側に形成された透明層と、前記透明層の前記受光層とは反対側の面に形成された遮光層とを備え、前記遮光層には前記受光素子に対応する位置にホールが形成され、前記遮光層は、波長400nmから700nmの範囲の光の透過率が1%以下であり、且つ、波長360nmから400nmの光の透過率が0.05%以上となるように形成されている、光学式指紋センサである。
【0010】
本発明の一態様の前記遮光層は、前記遮光層は、窒化チタン、酸窒化チタン、酸化チタン、及び炭化チタンのうち少なくとも1つの黒色顔料を含む、ように構成されていてもよい。
【0011】
本発明の一態様の前記遮光層は、前記ホールが前記受光層側に向かうほど径が拡大するように形成されていてもよい。
【0012】
本発明の一態様は、基材に二次元に配列された複数の受光素子を有する受光層の光入射面側に透明層を形成する工程と、前記透明層の前記受光層とは反対側の面に波長400nmから700nmの範囲の光の透過率が1%以下であり、且つ、波長360nmから400nmの光の透過率が0.05%以上である光硬化樹脂を塗布する工程と、前記光硬化樹脂にマスクして前記複数の受光素子に対応する位置に複数のホールが形成されるようにパターニング処理し前記光硬化樹脂に紫外線を照射して硬化させて遮光層を形成する工程と、を備える光学式指紋センサの製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、基材との層間における遮光層の剥離を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態に係る光学式指紋センサの使用状態を示す断面図である。
【
図2】光学式指紋センサの構成を示す断面図である。
【
図4】光学式指紋センサのS/N比を示す図である。
【
図5】遮光部における可視域の波長の光の透過率を示す図である。
【
図6】遮光部における紫外域の波長の光の透過率を示す図である。
【
図8】比較例に係る形成された遮光部の状態を示す図である。
【
図9】光学式指紋センサの製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しつつ、本発明に係る光学式指紋センサ及び光学式指紋センサの製造方法の実施形態について説明する。
【0016】
図1に示されるように、光学式指紋センサ1は、例えば、スマートフォンS等の携帯端末に設けられたディスプレイCの表面と反対側の下層側に設けられている。ディスプレイCは、自発光する画素により表示画像を表示する有機ELディスプレイであり、既知の構成を有する。光学式指紋センサ1は、ディスプレイCの光源(画素)に照らされた指紋Yから反射した光の強度を検出することで、指紋のパターンを検出する。ユーザは、ディスプレイCに表示された領域に指先を触れ、光学式指紋センサ1に指紋を認識させる。
【0017】
図2及び
図3に示されるように、光学式指紋センサ1は、光の強度を検出する受光層2と、受光層2の上層側(光入射面側)に設けられた遮光層10とを備える。受光層2は、複数の受光素子3を有する。受光素子3は、光を受光しその強度を検出する。複数の受光素子3は、基材Mの光入射面側に二次元のマトリクス状に配列されている。隣接する受光素子3同士の間隔は、例えば、ディスプレイCの画素の間隔に配置されている。
【0018】
受光素子3は、例えば、ディスプレイCの面の法線方向から見て円形に形成されている。受光素子3は、円形以外の形状に形成されていてもよい。基材Mは、例えば、シリコンウエハである。複数の受光素子3は、指紋から反射した光を受光して、指紋の凹凸により生じた反射光の強弱を検出し、指紋のパターンを検出する。受光層2の光入射面側には、透明層Tが設けられている。
【0019】
透明層Tは、可視光領域を透過する光学フィルタである。透明層Tは、例えば、4μmから5μmの厚さに形成されている。透明層Tは、例えば厚みや屈折率などが異なる複数の透明な光学フィルタ層が積層されることで形成されている。各層は、設定された波長域の可視光を干渉により相殺して遮蔽するように厚さや屈折率などが調整されている。すなわち透明層Tは、透明層Tの上方(受光側)から入射した光が、透明層Tの各層で段階的にそれぞれの波長域の光が遮断され、所定の赤外線の波長領域が除去された所望の可視光の波長域の光が受光側の面と反対側の面側の受光層2に到達するような構成となっていることが好ましい。
【0020】
透明層Tの上面(受光側の面)には、光を遮光する遮光層10が形成されている。遮光層10は、例えば、1.5μm程度の厚さに形成されている。遮光層10には、複数のホール11が形成されている。ホール11は、平面視して受光素子3に対応する位置に二次元のマトリクス状に配列されている。ホール11は、例えば、受光素子3の径の3倍程度の径となるように形成されている。
【0021】
複数のホール11は、例えば、複数の受光素子3と同心に配置されるように記載されている。複数のホール11の配置関係はこれに限らず、受光素子3がホール11の際に配置されていてもよい。但し、この場合においても複数の受光素子3と複数のホール11とのピッチは等差である。
【0022】
遮光層10は、例えば、透明層Tの受光側の面に黒色顔料を含む光硬化樹脂を塗布して複数のホール11のマスクをするパターニング処理をし、紫外線を照射して硬化した膜を形成する。紫外線の露光時間を調整することにより、複数のホールのテーパ形状を形成する。
【0023】
複数のホール11は、光学式指紋センサ1の読取りの精度を向上するために設けられるものであり、隣接するホール11から受光素子3に斜め方向から光が入りにくくなるように絞りとして形成されている。複数のホール11は、断面視にて径の大きさが等間隔である垂直形状が採用されていてもよい。複数のホール11は、径の大きさが透明層T方向に向かうほど縮小するように端部の断面がテーパ形状に形成されていてもよい。複数のホール11は、径の大きさが透明層T方向に向かうほど拡大するように端部の断面が逆テーパ形状に形成されていてもよい。
【0024】
逆テーパ形状とは、例えば、ホール11の開口が受光層2側の方向に向かうほど径が同径以上となるように形成されていることをいう。また、テーパ形状とはホール11の透明層Tと接する面における径がホール11の透明層Tとは反対側の層に接する面における径よりも小さい状態と定義することもできる。逆テーパ形状とはホール11の透明層Tと接する面における径がホール11の透明層Tとは反対側の層に接する面における径よりも大きい状態と定義することもできる。垂直形状とはホール11の透明層Tと接する面における径とホール11の透明層Tとは反対側の層に接する面における径が同じ状態と定義することもできる。
【0025】
ホール11の開口は逆テーパ形状であることが好ましい。逆テーパ形状について具体的には、ホールは、径が最小となる第1径に形成された第1開口11Aと、第1径の透明層T方向に第1径以上の第2径に形成された第2開口11Bとが形成されている。そして、ホール11に入射した光がホール11に隣接するホールに対応する位置に配置された受光素子3に入射することが防止されるように形成されている。ホール11が逆テーパに形成されていることにより、隣接するホール11から受光素子3に斜めに入射する光のノイズ(クロストーク)をより低減することができる。
【0026】
図4に示されるように、遮光層10は、テーパ形状(順テーパ形状ともいう)に形成されたホールを有する遮光層10H(
図2参照)に比してS/N比が改善され、ノイズが大幅に低減されている。但し、遮光層10Hは、遮光層10の厚さと同じに形成されている。遮光層10の透明層Tが形成された面と反対側の面には、透明樹脂層Jが形成されている。
【0027】
透明樹脂層Jはホール11を有する遮光層10の透明層Tが形成された面と反対側の面に塗布され、複数のホール11まで浸透する。透明樹脂層Jは、硬化後、遮光層10をコーティングするように形成される。透明樹脂層Jは、例えば、光硬化樹脂を用いて形成されている。
【0028】
次に、遮光層10の物性について説明する。
【0029】
遮光層10は、黒色の遮光性物質が混入された光硬化樹脂により形成されている。光硬化樹脂は、紫外線が照射されると硬化する感光性材料である。遮光層10は、硬化前は光硬化樹脂に遮光性物質である黒色顔料が混入されている。この光硬化樹脂は、透明層Tの受光側の面(受光層2とは反対側の面)に塗布される。塗布された光硬化樹脂を覆うように複数のホール11部分を覆うフォトマスクを当てパターニング処理し、受光側(透明層Tと反対側の面)から紫外線を照射する。そうすると、複数のホール11部分以外の部分の光硬化樹脂が硬化する。そして、複数のホール11部分における未硬化の光硬化樹脂を除去することで遮光層10が形成される。
【0030】
ここで、上述したように、遮光層10は遮光性を確保しつつ、硬化後に透明層Tとの間の剥離を防止するために透明層Tとの接触面にも紫外線を到達させる必要がある。そこで、遮光層10は、赤外線領域を含む可視光領域の波長の光を遮断しつつ、紫外線領域の波長の光をわずかに透過するように形成されている。
【0031】
図5及び
図6に示されるように、遮光層10は、波長400nmから700nmの範囲の光の透過率が1%以下であり、且つ、波長360nmから400nmの光の透過率が0.05%以上となるように形成されている。この透過率を実現するために遮光層10には、例えば、窒化チタン、酸窒化チタン、酸化チタン、及び炭化チタンのうち少なくとも1つを主成分とする黒色顔料が含まれる。遮光層10の透過率は、膜厚により変化する。透過率は、膜厚が厚くなると透過率が低下する。
【0032】
図7に示されるように、遮光層10は、光硬化に用いる紫外線(例えば、365nm)の透過を妨げないため、硬化時に紫外線が照射されると透明層Tとの境界まで紫外線が到達し、透明層Tの受光側の面側に硬化した膜として形成される。硬化後の遮光層10は、赤外線領域を含む可視光領域の波長の光を遮断し、複数のホール11部分からのみ光を透明層T側の方向に透過させる。
【0033】
図8に示されるように、比較例に係る遮光層Bは、カーボンブラックを含む黒色顔料により形成されている。この遮光層は、受光側の面と反対側の面側に紫外線が到達しにくく、対象物を覆うように形成する際に、対象物との間の境界に剥離が生じる場合がある。これに比して、実施形態の遮光層10において、透明層Tとの境界における剥離が防止される。
【0034】
次に、光学式指紋センサ1の製造方法について説明する。
【0035】
図9には、光学式指紋センサ1の製造方法の各工程(ステップ)が示されている。シリコンウエハ等の板状体に形成された基材Mの受光側の面に複数の受光素子3を二次元のマトリクス状に配列して受光層2を形成する(ステップS100)。受光層2の受光側の面に透明層Tを形成する(ステップS110)。光硬化樹脂に窒化チタン、酸窒化チタン、酸化チタン、及び炭化チタンのうち少なくとも1つを主成分とする黒色顔料を混入し、波長400nmから700nmの範囲の光の透過率が1%以下であり、且つ、波長360nmから400nmの光の透過率が0.05%以上であるように所定条件に調整された光硬化樹脂を生成する(ステップS120)。
【0036】
光硬化樹脂を透明層Tの受光側の面に蒸着等により塗布する(ステップS130)。透明層Tの受光側の面に塗布された光硬化樹脂に複数のホール11のマスクをしてパターニング処理し紫外線を照射して硬化させて膜を形成する(ステップS140)。この時、紫外線の露光時間を調整することにより、ホール11にテーパ形状を形成する。上記各工程は、例示した順でなくてもよく、前後してもよい。
【0037】
上述したように、光学式指紋センサ1によれば、遮光層10が赤外線領域以上の可視光領域を含む波長の光を略遮断しつつ、紫外線領域の波長の光をわずかに透過するように光硬化樹脂により形成されているため、硬化時に紫外線を照射すると受光側の面と反対側の面まで紫外線が透過し、遮光層10を確実に硬化させることができる。
【0038】
光学式指紋センサ1によれば、透明層Tの受光側の面に形成される遮光層10は、受光側の面と反対側の面を紫外線が透過して確実に硬化するため、透明層Tとの境界における剥離が防止される。光学式指紋センサ1によれば、ホール11の断面が逆テーパ状に形成されているため、隣接する受光素子3へのノイズとなる可視光の入射が防止され、ノイズを低減することができる。
【0039】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記の一実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0040】
1 光学式指紋センサ
2 受光層
3 受光素子
10 遮光層
10H 遮光層
11 ホール
B 遮光層
C ディスプレイ
J 透明樹脂層
M 基材
S スマートフォン
T 透明層
Y 指紋