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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022030130
(43)【公開日】2022-02-18
(54)【発明の名称】ポリカーボネート樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 69/00 20060101AFI20220210BHJP
   C08L 25/04 20060101ALI20220210BHJP
   C08K 5/49 20060101ALI20220210BHJP
   C08K 5/13 20060101ALI20220210BHJP
   C08J 5/00 20060101ALI20220210BHJP
【FI】
C08L69/00
C08L25/04
C08K5/49
C08K5/13
C08J5/00 CET
C08J5/00 CEY
C08J5/00 CFD
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020133911
(22)【出願日】2020-08-06
(71)【出願人】
【識別番号】396001175
【氏名又は名称】住化ポリカーボネート株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河田 彰
【テーマコード(参考)】
4F071
4J002
【Fターム(参考)】
4F071AA22
4F071AA33
4F071AA50
4F071AA88
4F071AC11
4F071AC15
4F071AD03
4F071AE05
4F071AF23Y
4F071AF32Y
4F071AF34Y
4F071AH03
4F071AH05
4F071AH07
4F071AH11
4F071AH12
4F071AH19
4F071BA01
4F071BB05
4F071BC03
4F071BC12
4J002BC02X
4J002BC05X
4J002BC06X
4J002BC07X
4J002BG053
4J002BH01X
4J002BN143
4J002BN213
4J002BN233
4J002CG00W
4J002EJ066
4J002EW066
4J002EW086
4J002FA083
4J002FD076
4J002FD080
4J002FD090
4J002GN00
4J002GQ00
4J002GT00
(57)【要約】
【課題】平滑な金型を使用しても、耐衝撃性を損なうことなく、艶消しに優れる成形品を作製できるポリカーボネート樹脂組成物を提供する。
【解決手段】ポリカーボネート樹脂(A)1~99質量%とスチレン系樹脂(B)1~99質量%からなる組成物100質量部に対して、多孔質球状粒子(C)0.5~10質量部を含有するポリカーボネート樹脂組成物に関する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂(A)1~99質量%とスチレン系樹脂(B)1~99質量%からなる組成物100質量部に対して、多孔質球状粒子(C)0.5~10質量部を含有するポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項2】
多孔質球状粒子(C)が、架橋ポリメチルメタクリレート樹脂によって形成されたものである、請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
さらに、ゴム変性(メタ)アクリル系重合体(D)を、ポリカーボネート樹脂(A)とスチレン系樹脂(B)からなる組成物100質量部に対して、1~10質量部含有する、請求項1または2に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項4】
さらに、リン系酸化防止剤およびフェノール系酸化防止剤から選択される1種以上の酸化防止剤(E)を、ポリカーボネート樹脂(A)とスチレン系樹脂(B)からなる組成物100質量部に対して、0.01~1.0質量部含有する、請求項1~3のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物から得られた艶消し成形品。
【請求項6】
JIS Z 8741に準拠して、測定角60°で測定したグロスが80%以下で、ISO 179-2に準拠して測定したノッチ付きシャルピー衝撃強度が10kJ/m以上である艶消し成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、艶消し性に優れたポリカーボネート樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂(PC)は、耐衝撃性、耐熱性、透明性に優れており、電気/電子、光学、建材、医療、食品、車両等の各分野において幅広く使用されている。一方で、耐薬品性や成形加工性に劣るという欠点を有するため、他の熱可塑性樹脂をブレンドすることが行われている。特にABS樹脂やASA樹脂に代表されるスチレン系樹脂とのポリマーアロイは、優れた成形加工性と耐衝撃性を有しているものの、表面が鏡面の場合には高光沢となるプラスチック特有の特徴がある。
【0003】
近年、自動車分野、家具、家電分野などで、高級感を出すために艶消し状の外観に対する需要が高まってきている。また、意匠面だけでなく、例えば自動車内装部品では計器周辺の成形品表面に光沢があると、反射光により計器が見えにくくなり、運転の妨げとなる懸念があるため、安全面からも艶消し状の外観が求められている。
【0004】
艶消し状の外観を得る方法として、エンボスロールによって表面に凹凸を形成させる方法や、射出成形用金型の内面に微細な凹凸を設ける方法が提案されている。しかし、鏡面成形品の成形に切り替える際に、ロールや金型の交換といった設備面の対応が必要となることから、全体としての生産効率が悪化するといった問題があった。塗装を施すことにより艶消し状の外観を得る方法も知られている。しかし、塗装の際に埃等が吸着しやすく、またコストが高くなるという問題があった。
【0005】
特許文献1には、樹脂自体を改質する技術として、熱可塑性樹脂に微粒子を分散させる方法が提案されている。しかし、艶消し性は得られるものの、機械的強度が低下するという問題があった。
【0006】
特許文献2には、樹脂に微粒子を分散した材料を表面層とし、これを基材と一体成形する方法が提案されている。しかし、追加の設備、例えば、押出成形であれば多層押出設備、射出成形であれば2色成形機や2色金型が必要となり、コストの上昇につながるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭63-137911号公報
【特許文献2】特開平3-58840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、平滑な金型を使用しても、耐衝撃性を損なうことなく、艶消しに優れる成形品を作製できるポリカーボネート樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、ポリカーボネート樹脂とスチレン系樹脂からなる組成物に、様々な光拡散剤の中でも多孔質球状粒子を配合することで、耐衝撃性を損なうことなく、艶消し性に優れた成形品を作製できるポリカーボネート樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、
ポリカーボネート樹脂(A)1~99質量%とスチレン系樹脂(B)1~99質量%からなる組成物100質量部に対して、多孔質球状粒子(C)0.5~10質量部を含有するポリカーボネート樹脂組成物に関する。
【0011】
多孔質球状粒子(C)が、架橋ポリメチルメタクリレート樹脂によって形成されたものであることが好ましい。
【0012】
ポリカーボネート樹脂組成物が、さらに、ゴム変性(メタ)アクリル系重合体(D)を、ポリカーボネート樹脂(A)とスチレン系樹脂(B)からなる組成物100質量部に対して、1~10質量部含有することが好ましい。
【0013】
ポリカーボネート樹脂組成物が、さらに、リン系酸化防止剤およびフェノール系酸化防止剤から選択される1種以上の酸化防止剤(E)を、ポリカーボネート樹脂(A)とスチレン系樹脂(B)からなる組成物100質量部に対して、0.01~1.0質量部含有することが好ましい。
【0014】
また、本発明は、前記ポリカーボネート樹脂組成物から得られた艶消し成形品に関する。
【0015】
さらに、本発明は、JIS Z 8741に準拠して、測定角60°で測定したグロスが80%以下で、ISO 179-2に準拠して測定したノッチ付きシャルピー衝撃強度が10kJ/m以上である艶消し成形品に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物を用いると、衝撃強度を損なうことなく、艶消し状の外観を有する成形品を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂(A)1~99質量%とスチレン系樹脂(B)1~99質量%からなる組成物100質量部に対して、多孔質球状粒子(C)0.5~10質量部を含有することを特徴とする。多孔質化された微粒子を使用することにより、多孔質化されていない微粒子を使用するよりも、光拡散性能が向上し、艶消し性のさらなる向上を達成することができる。
【0018】
<(A)ポリカーボネート樹脂>
ポリカーボネート樹脂(A)とは、種々のジヒドロキシジアリール化合物とホスゲンとを反応させるホスゲン法、またはジヒドロキシジアリール化合物とジフェニルカーボネートなどの炭酸エステルとを反応させるエステル交換法によって得られる重合体である。代表的なものとしては、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)から製造されたポリカーボネート樹脂が挙げられる。
【0019】
上記ジヒドロキシジアリール化合物としては、ビスフェノールAの他に、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)オクタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル-3-メチルフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-第三ブチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-ブロモフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3、5-ジブロモフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジクロロフェニル)プロパンのようなビス(ヒドロキシアリール)アルカン類、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンのようなビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルエーテルのようなジヒドロキシジアリールエーテル類、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフィドのようなジヒドロキシジアリールスルフィド類、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルホキシドのようなジヒドロキシジアリールスルホキシド類、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルホンのようなジヒドロキシジアリールスルホン類等が挙げられる。これらは、単独または2種類以上混合して使用される。これらの他に、ピペラジン、ジピペリジルハイドロキノン、レゾルシン、4,4’-ジヒドロキシジフェニル等を混合して使用してもよい。
【0020】
さらに、上記のジヒドロキシアリール化合物と以下に示すような3価以上のフェノール化合物を混合使用してもよい。3価以上のフェノールとしては、フロログルシン(1,3,5-トリヒドロキシベンゼン)、4,6-ジメチル-2,4,6-トリ-(4-ヒドロキシフェニル)-ヘプテン、2,4,6-ジメチル-2,4,6-トリ-(4-ヒドロキシフェニル)-ヘプタン、1,3,5-トリ-(4-ヒドロキシフェニル)-ベンゾール、1,1,1-トリ-(4-ヒドロキシフェニル)-エタンおよび2,2-ビス-[4,4-(4,4’-ジヒドロキシジフェニル)-シクロヘキシル]-プロパンなどが挙げられる。
【0021】
ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は、通常10000~100000であるが、好ましくは15000~35000、さらに好ましくは17000~28000である。粘度平均分子量は、ポリカーボネート樹脂を製造するに際し、分子量調節剤、触媒等を必要に応じて使用し、調整することができる。
【0022】
<(B)スチレン系樹脂>
スチレン系樹脂(B)とは、芳香族ビニル化合物の(共)重合体や、芳香族ビニル化合物と共重合可能な他のビニル単量体およびゴム質重合体より選ばれる1種以上を芳香族ビニル化合物と共重合して得られる重合体をいう。具体的には、アクリロニトリルとブタジエンとスチレンとの共重合体であるABS樹脂、アクリロニトリルとスチレンとアクリレートとの共重合体であるASA樹脂、アクリロニトリルとスチレンとの共重合体であるAS樹脂、アクリロニトリルとエチレン-プロピレン-ジエンとスチレンとの共重合体であるAES樹脂、メチルメタクリレートとブタジエンとスチレンとの共重合体であるMBS樹脂、メチルメタクリレートとアクリロニトリルとブタジエンとスチレンとの共重合体であるMABS樹脂、及びスチレンとマレイン酸との共重合体であるSMA樹脂などのスチレン系重合体からなる樹脂、並びにスチレン系熱可塑性エラストマー、例えば(水添)スチレン-ブタジエン-スチレン共重合体、(水添)スチレン-イソプレン-スチレン共重合体などが挙げられる。中でも、流動性、耐衝撃性の観点から、ABS樹脂、ASA樹脂及びAES樹脂が好ましい。
【0023】
また、ポリカーボネート樹脂(A)およびスチレン系樹脂(B)として、市販のポリカーボネートとスチレン系重合体とのブレンド品であるポリマーアロイも使用することができる。
【0024】
ポリカーボネート樹脂(A)およびスチレン系樹脂(B)の配合割合は、ポリカーボネート樹脂(A)1~99質量%とスチレン系樹脂(B)99~1質量%であるが、ポリカーボネート樹脂(A)20~80質量%とスチレン系樹脂(B)80~20質量%が好ましく、ポリカーボネート樹脂(A)40~60質量%とスチレン系樹脂(B)60~40質量%がより好ましい。ポリカーボネート樹脂(A)の配合割合が1質量%未満では、耐熱性、強度が不十分となり、99質量%を超えると、流動性が不十分となる。
【0025】
<(C)多孔質球状粒子>
多孔質球状粒子(C)は、国際公開第2013/161098号公報や特許第4651883号に記載された方法によって作製することができる。具体的な製品としては、積水化成工業株式会社製のテクポリマーMBP-8や、アイカ工業社製のガンツパールGM-1005-17などが挙げられる。
【0026】
多孔質球状粒子の材質は特に限定されず、アクリル樹脂、スチレン樹脂、シリコン樹脂などが挙げられる。これらの中でも、アクリル樹脂が好ましい。アクリル樹脂のモノマーとしてはメチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。アクリル樹脂としては、ポリメチルメタクリレートが好ましい。
【0027】
多孔性粒子の細孔径は、1~5000nmであることが好ましく、10~1800nmであることがより好ましく、10~200nmがさらに好ましく、10~30nmが最も好ましい。
【0028】
多孔質球状粒子の比表面積は、3~500m/gが好ましく、5~500m/gがより好ましい。比表面積が3m/g未満では、グロス値が高くなって艶消し効果が小さくなる傾向にある。ここで、比表面積は、BET法により測定した値である。
【0029】
多孔質球状粒子の平均粒子径は、1~30μmが好ましく、4~15μmがより好ましい。1μm未満であると、多孔質球状粒子が凝集するため、艶消し効果が低くなる傾向があり、30μmを超えると、物性の低下や、多孔質球状粒子全体の表面積が小さくなり艶消し効果が低くなる傾向がある。
【0030】
多孔質球状粒子(C)の添加量は、ポリカーボネート樹脂(A)及びスチレン系樹脂(B)からなる組成物100質量部に対して、0.5~10質量部であるが、2~8重量部が好ましい。添加量が0.5質量部未満では艶消し効果が充分に得られず、また10質量部を超えると衝撃強度が大きく低下する。
【0031】
<(D)ゴム変性(メタ)アクリル系重合体>
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、耐衝撃性の観点から、さらにゴム変性(メタ)アクリル系重合体(D)を含有することが好ましい。ゴム変性(メタ)アクリル系重合体(D)とは、アクリル酸エステルおよび/またはメタクリル酸エステルを必須成分とし、更に所望によってはスチレンなどの芳香族ビニル、ブタジエンなどの不飽和炭化水素、その他共重合可能な単量体から構成される重合体である。そのモルフォロジーは問わないが、ハードセグメントが連続層でソフトセグメントが分散層、あるいはその逆の層からなるコア・シェル型であっても良い。
【0032】
好適には、コア-シェル型のメチルメタアクリレート・ブタジエンゴム、メチルメタアクリレート・グリシジルメタアクリレート・スチレン・アクリル酸エステルゴムおよびメチルメタアクリレート・スチレン・シリコン・アクリル酸エステルゴムが使用できる。市販のものとしては、例えば、ローム・アンド・ハース・ジャパン社製「パラロイドEXL2602」、「パラロイドEXL2603」、「パラロイドEXL2655」や、カネカ社製「カネエースM511」、「カネエースM711」等のコア-シェル型グラフト共重合体が挙げられる。
【0033】
ゴム変性(メタ)アクリル系重合体(D)の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)及びスチレン系樹脂(B)からなる組成物100質量部に対して、1~10質量部が好ましく、2~8質量部がより好ましい。添加量が1重量部未満ではポリカーボネート樹脂の衝撃強度の維持効果が充分に得られず、また10重量部を超えると熱安定性が悪くなるので好ましくない。
【0034】
<(E)酸化防止剤>
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、リン系酸化防止剤およびフェノール系酸化防止剤から選択される1種以上の酸化防止剤を含むことが好ましい。
【0035】
リン系酸化防止剤としては、本発明が目的とする芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を得られる限り特に制限されることはないが、下記亜リン酸エステル構造を有する亜リン酸エステル化合物を含むことが好ましい。
【化1】
【0036】
亜リン酸エステル化合物としては、下記式(1)で表される亜リン酸エステル化合物、下記式(2)で表される亜リン酸エステル化合物、下記式(3)で表される亜リン酸エステル化合物及び下記式(4)で表される亜リン酸エステル化合物などが挙げられる。
【化2】
(式中、Rは、炭素数1~20のアルキル基を示し、aは、0~3の整数を示す)
【0037】
式(1)において、Rは、炭素数1~20のアルキル基であるが、さらには、炭素数1~10のアルキル基であることが好ましい。
【0038】
式(1)で表される化合物としては、例えば、トリフェニルホスファイト、トリクレジルホスファイト、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)フォスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト等が挙げられる。これらの中でも、特にトリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)フォスファイトが好適であり、例えば、BASF社製のイルガフォス168(「イルガフォス」はビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピアの登録商標)として商業的に入手可能である。
【0039】
【化3】
(式中、R、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~8のアルキル基、炭素数5~8のシクロアルキル基、炭素数6~12のアルキルシクロアルキル基、炭素数7~12のアラルキル基又はフェニル基を示す。Rは、水素原子又は炭素数1~8のアルキル基を示す。Xは、単結合、硫黄原子又は式:-CHR-(ここで、Rは、水素原子、炭素数1~8のアルキル基又は炭素数5~8のシクロアルキル基を示す)で表される基を示す。Aは、炭素数1~8のアルキレン基又は式:*-COR-(ここで、Rは、単結合又は炭素数1~8のアルキレン基を示し、*は、酸素側の結合手であることを示す)で表される基を示す。Y及びZは、いずれか一方がヒドロキシル基、炭素数1~8のアルコキシ基又は炭素数7~12のアラルキルオキシ基を示し、もう一方が水素原子又は炭素数1~8のアルキル基を示す。)
【0040】
炭素数1~8のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、t-ペンチル基、i-オクチル基、t-オクチル基、2-エチルヘキシル基等が挙げられる。炭素数5~8のシクロアルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等が挙げられる。炭素数6~12のアルキルシクロアルキル基としては、例えば、1-メチルシクロペンチル基、1-メチルシクロヘキシル基、1-メチル-4-i-プロピルシクロヘキシル基等が挙げられる。炭素数7~12のアラルキル基としては、例えば、ベンジル基、α-メチルベンジル基、α,α-ジメチルベンジル基等が挙げられる。
【0041】
、R及びRは、それぞれ独立して、炭素数1~8のアルキル基、炭素数5~8のシクロアルキル基又は炭素数6~12のアルキルシクロアルキル基であることが好ましい。特に、R及びRは、それぞれ独立して、t-ブチル基、t-ペンチル基、t-オクチル基等のt-アルキル基、シクロヘキシル基又は1-メチルシクロヘキシル基であることが好ましい。特に、Rは、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、t-ペンチル基等の炭素数1~5のアルキル基であることが好ましく、メチル基、t-ブチル基又はt-ペンチル基であることがさらに好ましい。
【0042】
は、水素原子、炭素数1~8のアルキル基又は炭素数5~8のシクロアルキル基であることが好ましく、水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、t-ペンチル基等の炭素数1~5のアルキル基であることがさらに好ましい。
【0043】
式(2)において、Rは、水素原子又は炭素数1~8のアルキル基を示す。炭素数1~8のアルキル基としては、例えば、R、R、R及びRの説明にて例示したアルキル基が挙げられる。特に、Rは、水素原子又は炭素数1~5のアルキル基であることが好ましく、水素原子又はメチル基であることがさらに好ましい。
【0044】
式(2)において、Xは、単結合、硫黄原子又は式:-CHR-で表される基を示す。ここで、式:-CHR-中のRは、水素原子、炭素数1~8のアルキル基又は炭素数5~8のシクロアルキル基を示す。炭素数1~8のアルキル基及び炭素数5~8のシクロアルキル基としては、例えば、それぞれR、R、R及びRの説明にて例示したアルキル基及びシクロアルキル基が挙げられる。特に、Xは、単結合、メチレン基、又はメチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、t-ブチル基等で置換されたメチレン基であることが好ましく、単結合であることがさらに好ましい。
【0045】
式(2)において、Aは、炭素数1~8のアルキレン基又は式:*-COR-で表される基を示す。炭素数1~8のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、オクタメチレン基、2,2-ジメチル-1,3-プロピレン基等が挙げられ、好ましくはプロピレン基である。また、式:*-COR-におけるRは、単結合又は炭素数1~8のアルキレン基を示す。Rを示す炭素数1~8のアルキレン基としては、例えば、Aの説明にて例示したアルキレン基が挙げられる。Rは、単結合又はエチレン基であることが好ましい。また、式:*-COR-における*は、酸素側の結合手であり、カルボニル基がフォスファイト基の酸素原子と結合していることを示す。
【0046】
式(2)において、Y及びZは、いずれか一方がヒドロキシル基、炭素数1~8のアルコキシ基又は炭素数7~12のアラルキルオキシ基を示し、もう一方が水素原子又は炭素数1~8のアルキル基を示す。炭素数1~8のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、t-ブトキシ基、ペンチルオキシ基等が挙げられる。炭素数7~12のアラルキルオキシ基としては、例えば、ベンジルオキシ基、α-メチルベンジルオキシ基、α,α-ジメチルベンジルオキシ基等が挙げられる。炭素数1~8のアルキル基としては、例えば、R、R、R及びRの説明にて例示したアルキル基が挙げられる。
【0047】
式(2)で表される化合物としては、例えば、2,4,8,10-テトラ-t-ブチル-6-〔3-(3-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)プロポキシ〕ジベンゾ〔d,f〕〔1,3,2〕ジオキサホスフェピン、6-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロポキシ]-2,4,8,10-テトラ-t-ブチルジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン、6-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロポキシ]-4,8-ジ-t-ブチル-2,10-ジメチル-12H-ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン、6-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]-4,8-ジ-t-ブチル-2,10-ジメチル-12H-ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン等が挙げられる。これらの中でも、特に光学特性が求められる分野に、得られる芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を用いる場合には、2,4,8,10-テトラ-t-ブチル-6-〔3-(3-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)プロポキシ〕ジベンゾ〔d,f〕〔1,3,2〕ジオキサホスフェピンが好適であり、例えば、住友化学(株)製のスミライザーGP(「スミライザー」は登録商標)として商業的に入手可能である。
【0048】
【化4】
(式中、R及びR10は、それぞれ独立して、炭素数1~20のアルキル基又はアルキル基で置換されていてもよいアリール基を示し、b及びcは、それぞれ独立して、0~3の整数を示す。)
【0049】
式(3)で表される化合物としては、例えば、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト、フェニルビスフェノールAペンタエリスリトールジフォスファイト等が挙げられる。ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイトは、ADEKA社製、商品名「アデカスタブPEP-24G」として商業的に入手可能である。(株)ADEKA製のアデカスタブPEP-36(「アデカスタブ」は登録商標)が商業的に入手可能である。
【0050】
【化5】
【0051】
(式中、R11~R18は、それぞれ独立に、炭素数1~3のアルキル基またはアルケニル基を示す。R11とR12、R13とR14、R15とR16、R17とR18とは、互いに結合して環を形成していても良い。R19~R22は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~20のアルキル基を示す。d~gは、それぞれ独立して、0~5の整数である。X~Xは、それぞれ独立に、単結合または炭素原子を示す。X~Xが単結合である場合、R11~R22のうち、当該単結合に繋がった官能基は一般式(4)から除外される)
【0052】
式(4)で表される化合物の具体例としては、例えばビス(2,4-ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイトが挙げられる。これは、Dover Chemical社製、商品名「Doverphos(登録商標) S-9228」、ADEKA社製、商品名「アデカスタブPEP-45」(ビス(2,4-ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト)として商業的に入手可能である。
【0053】
さらに、上記の他にもテトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレン-ジ-ホスホナイト等が挙げられる。このような、有機ホスホナイト化合物としては、具体的には、例えば、クラリアントジャパン社製Sandstab PEPQ等も挙げることができる。
【0054】
フェノール系酸化防止剤としては、下記式(5)の化合物が挙げられる。
【0055】
【化6】
(式(5)において、R8は炭素数1~20のアルキル基、またはアルキル基で置換されてもよいアリール基を示す。)
【0056】
式(5)の化合物としては、旭電化社製アデカスタブAO-50(n-オクタデシル-3(3’,5’-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)が商業的に入手可能である。
【0057】
酸化防止剤(E)の添加量は、ポリカーボネート樹脂(A)及びスチレン系樹脂(B)からなる組成物100質量部に対して、0.01~2.0質量部が好ましく、0.01~1.0質量部がより好ましく、0.02~0.5質量部がさらに好ましい。添加量が0.01質量部未満では、熱安定性に劣る傾向があり、2.0質量部を超えると物性の低下や、成形加工中の滞留時に熱安定性が不十分となり、黄変するために好ましくない。
【0058】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、必要に応じて、流動性改良剤を添加することができる。流動性改良剤を添加することで、成形性の向上が期待される。流動性改良剤としてはクラレ社製アクリル系ブロック共重合体のLA2140、LA2330や、Java chem、社製のポリエステル変性有機シリコンポリマーSG-600Aなどが挙げられる。
【0059】
その他、公知の各種添加剤、ポリマーなどを添加することができる。例えば、長期間、光に暴露された際の樹脂成形品の変色を抑制するためにヒンダードアミン系の耐光安定剤を、鮮やかな色調を得るためにベンゾオキサゾール系の蛍光増白剤を添加してもよい。さらに、これらを併用して添加してもよい。
【0060】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物には、上記以外の公知の添加剤、例えば滑剤[パラフィンワックス、n-ブチルステアレート、合成蜜蝋、天然蜜蝋、グリセリンモノエステル、モンタン酸ワックス、ポリエチレンワックス、ペンタエリスリトールテトラステアレート等]、着色剤[例えば酸化チタン、カーボンブラック、染料]、充填剤[炭酸カルシウム、クレー、シリカ、ガラス繊維、ガラス球、ガラスフレーク、カーボン繊維、タルク、マイカ、各種ウィスカー類等]、展着剤[エポキシ化大豆油、流動パラフィン等]を必要に応じて添加することができる。
【0061】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法としては特に制限はない。例えば、ポリカーボネート樹脂(A)、スチレン系樹脂(B)、多孔質球状粒子(C)を計量し、タンブラー、リボンブレンダー、高速ミキサー等により一括混合した後、混合物を通常の単軸押出機または二軸押出機を用いて溶融混練し、ペレット化させる方法、あるいは、個々の成分を一部または全てを別々に計量し、複数の供給装置から押出機内へ投入し、溶融混合する方法、さらには、多孔質球状粒子(C)とポリカーボネート樹脂(A)および/またはスチレン系樹脂(B)とを高濃度に配合し、一旦溶融混合してペレット化し、マスターバッチとした後、当該マスターバッチとポリカーボネート樹脂(A)および/またはスチレン系樹脂(B)を所望の比率により混合することもできる。そして、これらの成分を溶融混合する際の、押出機へ投入する位置、押出温度、スクリュー回転数、供給量など、状況に応じて任意の条件が選択され、ペレット化することができる。
【0062】
ポリカーボネート樹脂組成物から成形品を製造する方法にも特に制限はなく、例えば、前記マスターバッチとポリカーボネート樹脂(A)および/またはスチレン系樹脂(B)を、所望の比率により乾式混合後、射出成形装置やシート押出機装置に直接投入して成形品とする方法を挙げることができる。
【0063】
また、本発明の艶消し成形品は、前記ポリカーボネート樹脂組成物から得られることを特徴とする。該成形品は、高い艶消し性を有している。
【0064】
さらに、本発明の艶消し成形品は、JIS Z 8741に準拠して、測定角60°で測定したグロスが80%以下で、ISO 179-2に準拠して測定したノッチ付きシャルピー衝撃強度が10kJ/m以上であることを特徴とする。
【0065】
測定角60°で測定したグロスは、75%以下が好ましい。ここで、グロスは、JIS Z 8741に準拠して測定した値である。また、艶消し成形品のノッチ付きシャルピー衝撃強度は、15kJ/m以上が好ましい。ここで、シャルピー衝撃強度は、ISO 179-2に準拠して測定した値である。
【0066】
<用途>
本発明のポリカーボネート樹脂組成物から得られた成形品は、鏡面反射によりその機能を損なう部材や、意匠性として艶消しを要求される電気・電子製品の筐体、ゲーム・アミューズメント関連機器の外装、パーテーション等の建築分野に好適に用いることができる。また、安全性の面から艶消し性を要求される車内内装部材、例えば自動車のダッシュボード、ドアミラー、自動運転用計測器の筐体やカメラカバーにも好適に用いることができる。
【実施例0067】
以下に、本発明を実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。尚、特に断りのない限り、実施例中の「%」、「部」はそれぞれ重量基準に基づく。
【0068】
使用した原材料は以下のとおりである。
ポリカーボネート樹脂(A) :ビスフェノールAとホスゲンから合成されたポリカーボネート樹脂(住化ポリカーボネート(株)製SDポリカ200-20、粘度平均分子量18800
スチレン系樹脂(B) :アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS樹脂)(日本エイアンドエル(株)製クララスチックAT-05
多孔質球状粒子(C) :架橋PMMA、積水化成品工業(株)製MBP-8、細孔径200Å、比表面積85m/g、平均粒子径8μm
ゴム変性(メタ)アクリル系重合体(D):(株)カネカ製M711(コア-シェル型メチルメタアクリレート・ブタジエンゴム)
リン系酸化防止剤(E) :住友化学(株)製スミライザーGP
フェノール系酸化防止剤(E) :旭電化社製 アデカスタブ AO-50
非多孔質球状粒子 :架橋PMMA製、積水化成品工業(株)製MBX-8、比表面積0.8m/g、平均粒子径8μm
【0069】
作製した樹脂組成物は以下の方法で評価した。
<グロス>
樹脂組成物のペレットを120℃で4時間以上乾燥した後、射出成形機(ファナック(株)製、ROBOSHOT S2000i100B)を用い、成形温度260℃、金型温度80℃で、平板試験片(80mm×50mm×2mmの厚み)を作製した。得られた試験片を用い、JIS Z 8741に準拠して、測定角60°におけるグロスを測定した。80%以下を合格とした。
【0070】
<衝撃強度>
樹脂組成物のペレットを120℃で4時間以上乾燥した後、射出成形機(ファナック(株)製、ROBOSHOT S2000i100B)を用い、成形温度260℃、金型温度80℃で、ISO試験法に準じた試験片を作製した。得られた試験片を用いてISO 179-2に準拠して、ノッチ付きシャルピー衝撃強度を測定した。ノッチ付きシャルピー衝撃強度が10kJ/m以上を合格とした。
【0071】
<熱安定性>
得られたペレットを120℃×4時間の条件にて事前に乾燥を行った後、射出成形機(ファナック(株)製、ROBOSHOT S2000i100B)を用い、成形温度260℃の条件にて15分間滞留前後の平板試験片(縦80mm、横50mm、厚み2mm)を作製後、分光測色計(村上色彩研究所社製CMS-35SP)により、YIの変化(ΔYI)を測定した。ΔYIとは、滞留前後の黄味の程度の差を表し、ΔYIが小さい程、変色は小さく熱安定性に優れている。なお、ΔYIは2.0未満が好ましい。
【0072】
実施例1~10および比較例1~3
表1および2に示す配合比率にて、タンブラーで乾湿混合後、二軸押出機((株)日本製鋼所製、TEX30α)を用いて、溶融温度260℃にて溶融混練し、実施例1~10及び比較例1~3の各々のポリカーボネート樹脂組成物のペレットを得た。得られた組成物を用いて、グロス、衝撃強度、熱安定性を測定した。測定結果を表1および2に示す。
【0073】
【表1】
【0074】
【表2】
【0075】
表1および2から、ポリカーボネート樹脂(A)とスチレン系樹脂(B)からなる組成物に、多孔質球状粒子を特定量配合すると、グロス値が低く、衝撃強度の高い成形品が得られることが分かる。