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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022030211
(43)【公開日】2022-02-18
(54)【発明の名称】動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 13/52 20060101AFI20220210BHJP
   F16D 11/10 20060101ALI20220210BHJP
   F16D 43/10 20060101ALI20220210BHJP
【FI】
F16D13/52 C
F16D11/10 C
F16D43/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020134039
(22)【出願日】2020-08-06
(71)【出願人】
【識別番号】000128175
【氏名又は名称】株式会社エフ・シー・シー
(74)【代理人】
【識別番号】100095614
【弁理士】
【氏名又は名称】越川 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】小澤 嘉彦
(72)【発明者】
【氏名】曾 恒香
(72)【発明者】
【氏名】吉本 克
【テーマコード(参考)】
3J056
3J068
【Fターム(参考)】
3J056AA38
3J056AA60
3J056AA62
3J056BA04
3J056BB21
3J056BE30
3J056CC33
3J056CC36
3J056GA02
3J056GA13
3J068AA01
3J068AA05
3J068BA13
3J068BB06
3J068CA01
3J068CA05
(57)【要約】
【課題】加速時の伝達容量を変更することなくエンジンブレーキ発生時の伝達容量を任意に変更することができる動力伝達装置を提供する。
【解決手段】第2クラッチ部材4bは、駆動側クラッチ板(6a~6c)及び被動側クラッチ板(7a~7c)を軸方向に区分けしてプレッシャ部材5側の第1領域αと遠心クラッチ手段9側の第2領域βとを形成する隔壁部4bbを有し、遠心クラッチ手段9の作動時、第1領域α及び第2領域βの駆動側クラッチ板(6a~6c)及び被動側クラッチ板(7a~7c)を圧接するとともに、バックトルク伝達用カムの作動時、第1領域αの駆動側クラッチ板(6a、6b)及び被動側クラッチ板(7a、7b)を圧接するものである。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のエンジンの駆動力で回転する入力部材と共に回転し、複数の駆動側クラッチ板が取り付けられたクラッチハウジングと、
車両の車輪を回転させ得る出力部材と連結された第1クラッチ部材、及び前記クラッチハウジングの駆動側クラッチ板と交互に形成された複数の被動側クラッチ板が取り付けられた第2クラッチ部材を有したクラッチ部材と、
前記駆動側クラッチ板と被動側クラッチ板とを圧接させて前記エンジンの駆動力を前記車輪に伝達可能な状態とする作動位置と、当該駆動側クラッチ板と被動側クラッチ板との圧接力を解放させて前記エンジンの駆動力が前記車輪に伝達されるのを遮断し得る非作動位置との間で移動可能なプレッシャ部材と、
前記クラッチハウジングの回転に伴う遠心力により内径側位置から外径側位置に移動可能とされたウェイト部材を具備し、当該ウェイト部材が前記外径側位置にあるとき前記駆動側クラッチ板と被動側クラッチ板とを圧接させて前記エンジンの駆動力を前記車輪に伝達可能な状態とするとともに、当該ウェイト部材が前記内径側位置にあるとき前記駆動側クラッチ板と被動側クラッチ板との圧接力を解放させて前記エンジンの駆動力が前記車輪に伝達されるのを遮断し得る遠心クラッチ手段と、
前記プレッシャ部材が非作動位置にあるとき、前記出力部材を介して前記第1クラッチ部材に回転力が入力されると、前記第2クラッチ部材を移動させて前記駆動側クラッチ板と被動側クラッチ板とを圧接させ得るバックトルク伝達用カムと、
を具備した動力伝達装置であって、
前記第2クラッチ部材は、前記駆動側クラッチ板及び被動側クラッチ板を軸方向に区分けして前記プレッシャ部材側の第1領域と前記遠心クラッチ手段側の第2領域とを形成する隔壁部を有し、前記遠心クラッチ手段の作動時、前記第1領域及び第2領域の駆動側クラッチ板及び被動側クラッチ板を圧接するとともに、前記バックトルク伝達用カムの作動時、前記第1領域の駆動側クラッチ板及び被動側クラッチ板を圧接することを特徴とする動力伝達装置。
【請求項2】
前記遠心クラッチ手段が作動し、且つ、前記バックトルク伝達用カムが非作動のとき、当該遠心クラッチ手段とプレッシャ部材との間で圧接力を生じさせて前記第1領域及び第2領域の駆動側クラッチ板及び被動側クラッチ板を圧接するとともに、前記バックトルク伝達用カムが作動し、且つ、前記遠心クラッチ手段が非作動時、前記隔壁部とプレッシャ部材との間で圧接力を生じさせて前記第1領域の駆動側クラッチ板及び被動側クラッチ板を圧接することを特徴とする請求項1記載の動力伝達装置。
【請求項3】
前記隔壁部の形成位置は、前記第1領域に取り付けられる前記駆動側クラッチ板又は被動側クラッチ板による伝達容量、及び第2領域に取り付けられる前記駆動側クラッチ板又は被動側クラッチ板による伝達容量に応じて設定されることを特徴とする請求項2記載の動力伝達装置。
【請求項4】
前記第2領域には、単一の駆動側クラッチ板が取り付けられることを特徴とする請求項2又は請求項3記載の動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、任意に入力部材の回転力を出力部材に伝達させ又は遮断させ得る動力伝達装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に自動二輪車が具備する動力伝達装置は、エンジンの駆動力をミッション及び駆動輪へ伝達又は遮断を任意に行わせるためのもので、エンジン側と連結された入力部材と、ミッション及び駆動輪側と連結された出力部材と、出力部材と連結されたクラッチ部材と、クラッチ部材に対して近接又は離間可能なプレッシャ部材とを有しており、プレッシャ部材をクラッチ部材に対して近接させることにより、駆動側クラッチ板と被動側クラッチ板とを圧接させて動力の伝達を行わせるとともに、プレッシャ部材をクラッチ部材に対して離間させることにより、駆動側クラッチ板と被動側クラッチ板との圧接力を解放させることにより当該動力の伝達を遮断するよう構成されている。
【0003】
従来の動力伝達装置として、例えば特許文献1で開示されているように、プレッシャ部材が非作動位置にあるとき、出力部材を介して第1クラッチ部材に回転力が入力されると、第2クラッチ部材を移動させて駆動側クラッチ板と被動側クラッチ板とを圧接させ得るバックトルク伝達用カムを有したものが挙げられる。かかる従来技術によれば、車輪側の回転力をエンジン側に伝達してエンジンブレーキを生じさせることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-44870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の動力伝達装置においては、バックトルク伝達用カムを構成するカム面の設定角度の自由度が小さいため、エンジンブレーキ発生時の伝達容量を任意に変更することが難しいという不具合がある。一方、例えば駆動側クラッチ板及び被動側クラッチ板の枚数を変更してエンジンブレーキ発生時の伝達容量を任意に変更させた場合、加速時の伝達容量が変わってしまうという不具合がある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、加速時の伝達容量を変更することなくエンジンブレーキ発生時の伝達容量を任意に変更することができる動力伝達装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の発明は、車両のエンジンの駆動力で回転する入力部材と共に回転し、複数の駆動側クラッチ板が取り付けられたクラッチハウジングと、車両の車輪を回転させ得る出力部材と連結された第1クラッチ部材、及び前記クラッチハウジングの駆動側クラッチ板と交互に形成された複数の被動側クラッチ板が取り付けられた第2クラッチ部材を有したクラッチ部材と、前記駆動側クラッチ板と被動側クラッチ板とを圧接させて前記エンジンの駆動力を前記車輪に伝達可能な状態とする作動位置と、当該駆動側クラッチ板と被動側クラッチ板との圧接力を解放させて前記エンジンの駆動力が前記車輪に伝達されるのを遮断し得る非作動位置との間で移動可能なプレッシャ部材と、前記クラッチハウジングの回転に伴う遠心力により内径側位置から外径側位置に移動可能とされたウェイト部材を具備し、当該ウェイト部材が前記外径側位置にあるとき前記駆動側クラッチ板と被動側クラッチ板とを圧接させて前記エンジンの駆動力を前記車輪に伝達可能な状態とするとともに、当該ウェイト部材が前記内径側位置にあるとき前記駆動側クラッチ板と被動側クラッチ板との圧接力を解放させて前記エンジンの駆動力が前記車輪に伝達されるのを遮断し得る遠心クラッチ手段と、前記プレッシャ部材が非作動位置にあるとき、前記出力部材を介して前記第1クラッチ部材に回転力が入力されると、前記第2クラッチ部材を移動させて前記駆動側クラッチ板と被動側クラッチ板とを圧接させ得るバックトルク伝達用カムとを具備した動力伝達装置であって、前記第2クラッチ部材は、前記駆動側クラッチ板及び被動側クラッチ板を軸方向に区分けして前記プレッシャ部材側の第1領域と前記遠心クラッチ手段側の第2領域とを形成する隔壁部を有し、前記遠心クラッチ手段の作動時、前記第1領域及び第2領域の駆動側クラッチ板及び被動側クラッチ板を圧接するとともに、前記バックトルク伝達用カムの作動時、前記第1領域の駆動側クラッチ板及び被動側クラッチ板を圧接することを特徴とする。
【0008】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の動力伝達装置において、前記遠心クラッチ手段が作動し、且つ、前記バックトルク伝達用カムが非作動のとき、当該遠心クラッチ手段とプレッシャ部材との間で圧接力を生じさせて前記第1領域及び第2領域の駆動側クラッチ板及び被動側クラッチ板を圧接するとともに、前記バックトルク伝達用カムが作動し、且つ、前記遠心クラッチ手段が非作動時、前記隔壁部とプレッシャ部材との間で圧接力を生じさせて前記第1領域の駆動側クラッチ板及び被動側クラッチ板を圧接することを特徴とする。
【0009】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の動力伝達装置において、前記隔壁部の形成位置は、前記第1領域に取り付けられる前記駆動側クラッチ板又は被動側クラッチ板による伝達容量、及び第2領域に取り付けられる前記駆動側クラッチ板又は被動側クラッチ板による伝達容量に応じて設定されることを特徴とする。
【0010】
請求項4記載の発明は、請求項2又は請求項3記載の動力伝達装置において、前記第2領域には、単一の駆動側クラッチ板が取り付けられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明によれば、第2クラッチ部材は、駆動側クラッチ板及び被動側クラッチ板を軸方向に区分けしてプレッシャ部材側の第1領域と遠心クラッチ手段側の第2領域とを形成する隔壁部を有し、遠心クラッチ手段の作動時、第1領域及び第2領域の駆動側クラッチ板及び被動側クラッチ板を圧接するとともに、バックトルク伝達用カムの作動時、第1領域の駆動側クラッチ板及び被動側クラッチ板を圧接するので、加速時の伝達容量を変更することなくエンジンブレーキ発生時の伝達容量を任意に変更することができる。
【0012】
請求項2の発明によれば、遠心クラッチ手段が作動し、且つ、バックトルク伝達用カムが非作動のとき、当該遠心クラッチ手段とプレッシャ部材との間で圧接力を生じさせて第1領域及び第2領域の駆動側クラッチ板及び被動側クラッチ板を圧接するとともに、バックトルク伝達用カムが作動し、且つ、遠心クラッチ手段が非作動時、隔壁部とプレッシャ部材との間で圧接力を生じさせて第1領域の駆動側クラッチ板及び被動側クラッチ板を圧接するので、第2クラッチ部材のフランジ形状を任意位置とすることにより、加速時の伝達容量を変更することなくエンジンブレーキ発生時の伝達容量を任意に変更することができる。
【0013】
請求項3の発明によれば、隔壁部の形成位置は、第1領域に取り付けられる駆動側クラッチ板又は被動側クラッチ板による伝達容量、及び第2領域に取り付けられる駆動側クラッチ板又は被動側クラッチ板による伝達容量に応じて設定されるので、車両における加速時の伝達容量とエンジンブレーキ発生時の伝達容量とを精度よく設定することができる。
【0014】
請求項4の発明によれば、第2領域には、単一の駆動側クラッチ板が取り付けられるので、遠心クラッチ手段が作動する際、当該遠心クラッチ手段と第1領域の駆動側クラッチ板又は被動側クラッチ板との接続を第2領域の駆動側クラッチ板を介して円滑に行わせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態に係る動力伝達装置を示す外観図
図2】同動力伝達装置の内部構造を示す縦断面図
図3図2の一部拡大図
図4】同動力伝達装置におけるクラッチハウジングを示す斜視図
図5】同動力伝達装置における第1クラッチ部材を示す3面図
図6】同第1クラッチ部材を示す斜視図
図7】同動力伝達装置における第2クラッチ部材の表面から見た斜視図
図8】同動力伝達装置における第2クラッチ部材の裏面から見た斜視図
図9】同動力伝達装置における第2クラッチ部材を示す平面図及び裏面図
図10図9中のX-X線断面図
図11】同動力伝達装置におけるプレッシャ部材を示す3面図
図12図11中のXII-XII線断面図
図13】同プレッシャ部材の表面側から見た斜視図
図14】同プレッシャ部材の裏面側から見た斜視図
図15】同動力伝達装置における遠心クラッチ手段を示す縦断面図
図16】同遠心クラッチ手段を示す一部破断した斜視図
図17】同動力伝達装置における(a)圧接アシスト用カムの作用、(b)バックトルクリミッタ用カムの作用を説明するための模式図
図18】同動力伝達装置が適用される車両を示す模式図
図19】同動力伝達装置におけるウェイト部材が内径側位置にある状態を示す断面図
図20】同動力伝達装置におけるウェイト部材が内径側位置と外径側位置との間の中間位置にある状態を示す断面図
図21】同動力伝達装置におけるウェイト部材が外径側位置にある状態を示す断面図
図22】同動力伝達装置におけるウェイト部材が内径側位置にあり、プレッシャ部材が非作動位置にある状態を示す断面図
図23】同動力伝達装置におけるウェイト部材が外径側位置にあり、プレッシャ部材が非作動位置にある状態を示す断面図
図24】本発明の他の実施形態に係る動力伝達装置を示す縦断面図
図25】同動力伝達装置における第2クラッチ部材を示す3面図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら具体的に説明する。
本実施形態に係る動力伝達装置Kは、図18に示すように、車両に配設されて任意にエンジンEの駆動力をミッションMを介して駆動輪T側へ伝達し又は遮断するためのもので、図1~16に示すように、車両のエンジンEの駆動力で回転する入力ギア1(入力部材)が形成されたクラッチハウジング2と、ミッションMに接続された出力シャフト3(出力部材)と、クラッチ部材(第1クラッチ部材4a及び第2クラッチ部材4b)と、プレッシャ部材5と、複数の駆動側クラッチ板(6a、6b)及び複数の被動側クラッチ板(7a、7b)と、ウェイト部材10を具備した遠心クラッチ手段9と、補助クラッチ板17と、バックトルク伝達用カム(カム面K1及びカム面K2)とを有して構成されている。
【0017】
入力ギア1は、エンジンEから伝達された駆動力(回転力)が入力されると出力シャフト3を中心として回転可能とされたもので、リベット等によりクラッチハウジング2と連結されている。クラッチハウジング2は、図2中右端側が開口した円筒状部材から成るとともに入力ギア1と連結して構成されており、エンジンEの駆動力により入力ギア1の回転と共に回転し得るようになっている。
【0018】
また、クラッチハウジング2は、図4に示すように、周方向に亘って複数の切欠き2aが形成されており、これら切欠き2aに嵌合して複数の駆動側クラッチ板(6a~6c)が取り付けられている。かかる駆動側クラッチ板(6a~6c)のそれぞれは、略円環状に形成された板材から成るとともにクラッチハウジング2の回転と共に回転し、且つ、軸方向(図2中左右方向)に摺動し得るよう構成されている。なお、第2クラッチ部材4bに対応する位置に取り付けられたクラッチ板を駆動側クラッチ板6a、6c、プレッシャ部材5に対応する位置に取り付けられたクラッチ板を駆動側クラッチ板6bとしている。
【0019】
クラッチ部材は、(第1クラッチ部材4a及び第2クラッチ部材4b)は、クラッチハウジング2の駆動側クラッチ板6a、6cと交互に形成された複数の被動側クラッチ板7a、7cが取り付けられるとともに、車両のミッションMを介して駆動輪Tを回転させ得る出力シャフト3(出力部材)と連結されたものであり、出力部材と連結された第1クラッチ部材4aと複数の被動側クラッチ板7a、7cが取り付けられた第2クラッチ部材4bとの2つの部材を組み付けて構成されている。
【0020】
第1クラッチ部材4aは、その中央に形成された挿通孔(図5、6参照)に出力シャフト3が挿通され、互いに形成されたギアが噛み合って回転方向に連結されるよう構成されている。かかる第1クラッチ部材4aには、図5、6に示すように、圧接アシスト用カムを構成する勾配面4aaと、バックトルクリミッタ用カムを構成する勾配面4abとが形成されている。なお、同図中符号4acは、第1クラッチ部材4aと固定部材8とを連結するためのボルトBの挿通穴が形成されたボス部を示している。
【0021】
また、第1クラッチ部材4aに挿通された出力シャフト3は、図2に示すように、軸方向に延びる挿通孔3aが形成されており、かかる挿通孔3aを介してクラッチハウジング2内にオイルが供給されるようになっている。さらに、挿通孔3aには、棒状部材から成る操作部材18が挿通されており、その操作部材18の先端には操作部18aが取り付けられている。かかる操作部18aは、プレッシャ部材5を回転自在に支持するベアリングWと連結された連動部材19と当接して組み付けられている。そして、図示しないクラッチ操作手段を操作すると、操作部材18が図2中右側に移動し、操作部18aが連動部材19を押圧するので、プレッシャ部材5を同方向に押圧し、作動位置から非作動位置に移動させ得るようになっている。
【0022】
第2クラッチ部材4bは、図7~10に示すように、隔壁部4bbが形成された円環状部材から成るもので、外周面に形成されたスプライン嵌合部4baに被動側クラッチ板7a、7cがスプライン嵌合にて取り付けられるよう構成されている。そして、クラッチ部材(第1クラッチ部材4a及び第2クラッチ部材4b)には、図2、3に示すように、プレッシャ部材5が組み付けられ、当該プレッシャ部材5のフランジ部5cと第2クラッチ部材4bの隔壁部4bbとの間に複数の駆動側クラッチ板(6a、6b)及び被動側クラッチ板(7a、7b)が交互に積層状態にて取り付けられるようになっている。
【0023】
プレッシャ部材5は、図11~14に示すように、周縁部に亘ってフランジ部5cが形成された円板状部材から成るもので、駆動側クラッチ板(6a~6c)と被動側クラッチ板(7a~7c)とを圧接させてエンジンEの駆動力を車輪に伝達可能な状態とする作動位置と、当該駆動側クラッチ板(6a~6c)と被動側クラッチ板(7a~7c)との圧接力を解放させてエンジンEの駆動力が車輪に伝達されるのを遮断し得る非作動位置との間で移動可能なものである。
【0024】
より具体的には、第2クラッチ部材4bに形成されたスプライン嵌合部4baは、図7、8に示すように、隔壁部4bbにより区画されつつ当該第2クラッチ部材4bの外周側面における略全周に亘って一体的に形成された凹凸形状にて構成されており、スプライン嵌合部4baを構成する凹溝に被動側クラッチ板7aが嵌合することにより、被動側クラッチ板7aの第2クラッチ部材4bに対する軸方向の移動を許容しつつ回転方向の移動が規制され、当該第2クラッチ部材4bと共に回転し得るよう構成されているのである。
【0025】
なお、本実施形態に係る第1クラッチ部材4a及び第2クラッチ部材4bのそれぞれには、図5~8に示すように、第2クラッチ部材4bに取り付けられた被動側クラッチ板7a、7cに向かってオイルを流通させ得るオイル供給孔(4ad、4bc)が複数形成されている。そして、出力シャフト3の先端において挿通孔3aから供給されたオイルは、第1クラッチ部材4aに形成されたオイル供給孔4ad及び第2クラッチ部材4bに形成されたオイル供給孔4bcを介して被動側クラッチ板7a、7cに供給されるよう構成されている。
【0026】
また、本実施形態に係るプレッシャ部材5は、当該プレッシャ部材5に取り付けられた被動側クラッチ板7bに向かってオイルを流動させ得るオイル流通路が形成されている。かかるオイル流通路は、図11~14に示すように、オイル流入部5eと、溝部5fと、オイル流出部5gとを有して構成されており、クラッチスプリングSを収容する収容凹部5dを介してプレッシャ部材5のフランジ部5cに向かってオイルを流通させ得るようになっている。
【0027】
オイル流入部5eは、図12、14に示すように、収容凹部5dの底部側(クラッチスプリングSの一端を受ける部位側)に形成された第1孔部から成るとともに、収容凹部5dにおいてプレッシャ部材5の中心側に向かって開口して形成されている。オイル流出部5gは、図12、13に示すように、プレッシャ部材5のフランジ部5c側に形成された第2の孔部から成るとともに、プレッシャ部材5の外径側に向かって開口して形成されている。
【0028】
また、溝部5fは、プレッシャ部材5の表面側に形成された溝形状から成り、収容凹部5dの開口縁部からオイル流出部5g(第2の孔部)まで連通して形成されており、収容凹部5dの開口縁部からオイル流出部5g(第2の孔部)までオイルを流通可能とされている。そして、挿通孔3aから供給されたオイルは、遠心力によって収容凹部5dより内径側の面5hに沿って流れてオイル流入部5e(第1の孔部)に至り、そのオイル流入部5eを介して収容凹部5d内に流入する。
【0029】
一方、プレッシャ部材5の周縁部には、周方向に亘って突起状の嵌合部5iが複数形成されており、これら嵌合部5iに被動側クラッチ板7bが嵌合状態にて取り付けられるようになっている。かかる被動側クラッチ板7bは、一方の面が駆動側クラッチ板6b及び他方の面が駆動側クラッチ板6aに接触しつつ積層状態にて取り付けられるとともに、プレッシャ部材5に対する軸方向の移動が許容されつつ回転方向の移動が規制され、当該プレッシャ部材5と共に回転し得るよう構成されている。
【0030】
しかるに、被動側クラッチ板(7a~7c)は、駆動側クラッチ板(6a~6c)と交互に積層形成されており、隣接する各クラッチ板(6a~6c、7a~7c)が圧接又は圧接力の解放が可能なようになっている。すなわち、各クラッチ板(6a~6c、7a~7c)は、第2クラッチ部材4b及びプレッシャ部材5の軸方向への摺動が許容されており、各クラッチ板(6a、6b、7a、7b)が圧接されてクラッチがオンすることにより、クラッチハウジング2の回転力が第2クラッチ部材4b及び第1クラッチ部材4aを介して出力シャフト3に伝達される状態となり、各クラッチ板(6a、6b、7a、7b)の圧接力が解放されてクラッチがオフすることにより、第1クラッチ部材4a及び第2クラッチ部材4bがクラッチハウジング2の回転に追従しなくなり、出力シャフト3への回転力の伝達がなされなくなるのである。
【0031】
しかして、駆動側クラッチ板(6a~6c)と被動側クラッチ板(7a~7c)とが圧接された状態にて、クラッチハウジング2に入力された回転力(エンジンEの駆動力)を出力シャフト3(出力部材)を介して駆動輪側(ミッションM)に伝達するとともに、駆動側クラッチ板(6a~6c)と被動側クラッチ板(7a~7c)との圧接が解放された状態にて、クラッチハウジング2に入力された回転力(エンジンEの駆動力)が出力シャフト3(出力部材)に伝達されるのを遮断し得るようになっている。
【0032】
また、プレッシャ部材5は、図11、13に示すように、収容凹部5dが周方向に亘って複数(本実施形態においては3つ)形成されており、それぞれの収容凹部5dにクラッチスプリングSが嵌入されている。かかるクラッチスプリングSは、図2に示すように、収容凹部5d内に収容されつつ一端が固定部材8に当接しており、駆動側クラッチ板(6a~6c)及び被動側クラッチ板(7a~7c)が圧接される方向にプレッシャ部材5を付勢している。
【0033】
そして、図示しないクラッチ操作手段を操作することにより、操作部材18を移動させて連動部材19を図2中右側に押圧すると、プレッシャ部材5が同方向に押圧されて非作動位置まで移動し、駆動側クラッチ板(6a~6c)及び被動側クラッチ板(7a~7c)の圧接又は圧接の解放を行わせ得るようになっている。
【0034】
またさらに、本実施形態においては、図5、6、11、14に示すように、第1クラッチ部材4aには、勾配面4aa及び4abが形成されるとともに、プレッシャ部材5には、これら勾配面4aa及び4abと対峙する勾配面5a、5bが形成されている。すなわち、勾配面4aaと勾配面5aとが当接して圧接アシスト用カムを成すとともに、勾配面4abと勾配面5bとが当接してバックトルクリミッタ用カムを成しているのである。
【0035】
そして、エンジンEの回転数が上がり、入力ギア1及びクラッチハウジング2に入力された回転力が、第1クラッチ部材4a及び第2クラッチ部材4bを介して出力シャフト3に伝達され得る状態(ウェイト部材10が外径側位置)となったときに、図17(a)に示すように、プレッシャ部材5にはa方向の回転力が付与されるため、圧接アシスト用カムの作用により、当該プレッシャ部材5には同図中c方向への力が発生する。これにより、プレッシャ部材5は、そのフランジ部5cが第2クラッチ部材4bのフランジ部4bbに対して更に近接する方向(図2中左側)に移動して、駆動側クラッチ板(6a~6c)と被動側クラッチ板(7a~7c)との圧接力を増加させるようになっている。
【0036】
一方、出力シャフト3の回転が入力ギア1及びクラッチハウジング2の回転数を上回ってバックトルクが生じた際には、図17(b)に示すように、クラッチ部材4にはb方向の回転力が付与されるため、バックトルクリミッタ用カムの作用により、プレッシャ部材5を同図中d方向へ移動させて駆動側クラッチ板(6a~6c)と被動側クラッチ板(7a~7c)との圧接力を解放させるようになっている。これにより、バックトルクによる動力伝達装置Kや動力源(エンジンE側)に対する不具合を回避することができる。
【0037】
遠心クラッチ手段9は、図15、16に示すように、クラッチハウジング2の回転に伴う遠心力により内径側位置(図19参照)から外径側位置(図21参照)に移動可能とされたウェイト部材10を具備したもので、ウェイト部材10が外径側位置にあるとき駆動側クラッチ板(6a~6c)と被動側クラッチ板(7a~7c)とを圧接させてエンジンEの駆動力を車輪(駆動輪T)に伝達可能な状態とするとともに、当該ウェイト部材10が内径側位置にあるとき駆動側クラッチ板(6a~6c)と被動側クラッチ板(7a~7c)との圧接力を解放させてエンジンEの駆動力が車輪(駆動輪T)に伝達されるのを遮断し得るよう構成されている。
【0038】
具体的には、遠心クラッチ手段9は、駒状部材で構成されたウェイト部材10と、支持部材13が取り付けられた保持部材11と、圧接部材12と、第1球状部材14と、第2球状部材15と、コイルスプリングから成る付勢部材16とを有して構成されている。なお、保持部材11及び圧接部材12は、周方向に亘って複数の突起部が形成されており、駆動側クラッチ板6と同様、クラッチハウジング2の切欠き2aに嵌合して取り付けられている。これにより、保持部材11及び圧接部材12は、それぞれクラッチハウジング2の軸方向に移動可能とされるとともに、回転方向に係合して当該クラッチハウジング2と共に回転可能とされている。
【0039】
ウェイト部材10は、図15に示すように、保持部材11の収容部11aに収容されており、遠心力が付与されない状態で内径側位置に保持されるとともに、遠心力が付与されることにより付勢部材16の付勢力に抗して外側に移動し、外径側位置に至るようになっている。保持部材11は、ウェイト部材10を内径側位置と外径側位置との間で移動可能に保持するもので、図16に示すように、円環状部材から成り、周方向に亘って複数形成されるとともにウェイト部材10を収容する収容部11aと、収容部11a内に形成された溝形状11bと、押圧面11cとを有して構成されている。
【0040】
各収容部11aは、ウェイト部材10の形状及び移動範囲に合致した凹形状から成り、その外周壁面11aaには、付勢部材16(図2参照)の一端が当接し得るよう構成されている。なお、保持部材11における収容部11aが形成された面には、支持部材13が固定されており、かかる支持部材13を介してウェイト部材10が径方向に移動可能に保持されている。
【0041】
圧接部材12は、ウェイト部材10が内径側位置から外径側位置に移動することにより駆動側クラッチ板(6a~6c)及び被動側クラッチ板(7a~7c)の積層方向(図2中右側)に移動して当該駆動側クラッチ板(6a~6c)と被動側クラッチ板(7a~7c)とを圧接させるものである。具体的には、圧接部材12は、図16に示すように、円環状部材から成り、周方向に亘って複数形成された勾配溝12aと、勾配溝12aが形成された位置にそれぞれ形成された溝形状12bと、押圧面12cとを有して構成されている。
【0042】
勾配溝12aは、ウェイト部材10に対応した位置にそれぞれ形成されており、内側から外側に向かって上り勾配とされている。これにより、クラッチハウジング2が停止した状態ではウェイト部材10を付勢部材16の付勢力にて内径側位置に保持させる(図19参照)とともに、クラッチハウジング2が回転すると、ウェイト部材10に遠心力が付与されて上り勾配の勾配溝12aに沿うことによって、圧接部材12が保持部材11から離間する方向(すなわち、駆動側クラッチ板(6a~6c)及び被動側クラッチ板(7a~7c)を圧接させる方向)に移動するようになっている(図20、21参照)。
【0043】
しかして、ウェイト部材10を介在させつつ保持部材11及び圧接部材12が組み付けられると、図15、16に示すように、各ウェイト部材10に対応して勾配溝12aが位置することとなり、遠心力によってウェイト部材10が内径側位置から外径側位置に向かい勾配溝12aに沿うことによって、圧接部材12が図15中矢印方向(図中右側)に移動し、当該圧接部材12に形成された押圧面12cが駆動側クラッチ板(6a~6c)及び被動側クラッチ板(7a~7c)を押圧して圧接状態とするとともに、保持部材11がその反力で図14中矢印とは反対方向(図中左側)に移動し、当該保持部材11に形成された押圧面11cが補助クラッチ板17を圧接する。
【0044】
第1球状部材14は、ウェイト部材10に取り付けられた鋼球から成り、ウェイト部材10に形成された貫通孔の一方の開口から一部を突出させて圧接部材12の転動面に接触して転動可能とされている。また、第2球状部材15は、ウェイト部材10に取り付けられた鋼球から成り、ウェイト部材10に形成された貫通孔の他方の開口から一部を突出させて保持部材11の転動面に接触して転動可能とされている。
【0045】
すなわち、ウェイト部材10は、遠心力が付与されない状態において内径側位置に保持(図19参照)され、駆動側クラッチ板(6a~6c)及び被動側クラッチ板(7a~7c)の圧接力が解放された状態となっており、遠心力が付与されると、図20に示すように、外側に移動し、外径側位置に至る(図21参照)ことにより、駆動側クラッチ板(6a~6c)及び被動側クラッチ板(7a~7c)が圧接状態となってエンジンEの駆動力が車輪Tに伝達可能な状態となる。なお、図22は、ウェイト部材10が内径側位置にあり、プレッシャ部材5が非作動位置にある状態を示しており、図23は、ウェイト部材10が外径側位置にあり、プレッシャ部材5が非作動位置にある状態を示している。
【0046】
補助クラッチ板17は、クラッチハウジング2内に配設され、駆動側クラッチ板(6a~6c)及び被動側クラッチ板(7a~7c)とは異なる径(本実施形態においては、駆動側クラッチ板(6a~6c)及び被動側クラッチ板(7a~7c)より小径)の円環状部材から成り、図2に示すように、その中央開口に出力シャフト3(出力部材)が挿通されて嵌合状態とされるとともに、保持部材11の押圧面11cと対峙した被押圧面を有して構成されている。
【0047】
かかる補助クラッチ板17は、ウェイト部材10が外径側位置にあるとき(すなわち、駆動側クラッチ板(6a~6c)及び被動側クラッチ板(7a~7c)が圧接状態のとき)、保持部材11に形成された押圧面11cにて押圧されて圧接されると、エンジンEの駆動力を出力シャフト3に伝達し得るようになっている。また、ウェイト部材10が内径側位置にあるとき(すなわち、駆動側クラッチ板(6a~6c)及び被動側クラッチ板(7a~7c)の圧接力が解放状態のとき)、保持部材11に形成された押圧面11cによる押圧力が低下して圧接力が解放されると、エンジンEの駆動力が出力シャフト3に伝達されるのを遮断し得るようになっている。
【0048】
すなわち、ウェイト部材10が外径側位置に移動すると、勾配溝12aがカムとして機能し、保持部材11及び圧接部材12が互いに離間する方向に移動する。これにより、圧接部材12の押圧面12cが駆動側クラッチ板(6a~6c)及び被動側クラッチ板(7a~7c)を圧接するとともに、保持部材11の押圧面11cが補助クラッチ板17の被押圧面を押圧して圧接するので、エンジンEの駆動力が駆動輪Tに伝達されることとなる。
【0049】
バックトルク伝達用カムは、プレッシャ部材5が非作動位置にあるとき、出力シャフト3(出力部材)を介して第1クラッチ部材4aに回転力が入力されると、第2クラッチ部材4bを移動させて駆動側クラッチ板(6a~6c)と被動側クラッチ板(7a~7c)とを圧接させ得るもので、第1クラッチ部材4aに形成されたカム面K1(図5、6参照)及び第2クラッチ部材4b(図7、10)に形成されたカム面(K2)により構成されている。
【0050】
より具体的には、第1クラッチ部材4a及び第2クラッチ部材4bを組み合わせると、カム面K1とカム面K2とが対峙するよう構成されており、出力シャフト3(出力部材)を介して第1クラッチ部材4aに回転力が入力されると、これらカム面(K1、K2)によるカム作用により、第2クラッチ部材4bがプレッシャ部材5側(図2中右側)に移動するようになっている。これにより、バックトルク伝達用カムの作動時に当該バックトルク伝達用カムによる圧接力を受けて第2クラッチ部材4bをプレッシャ部材5側に移動させることができ、駆動側クラッチ板(6a、6b)と被動側クラッチ板(7a、7b)とを圧接させることができる。
【0051】
なお、第1クラッチ部材4a及び第2クラッチ部材4bを組み合わせると、第1クラッチ部材4aに形成された当接面T1(図5、6参照)と第2クラッチ部材4bに形成された当接面T2(図7、8、10参照)とが対峙するよう構成されており、第1クラッチ部材4aが回転すると、当接面T1が当接面T2に当接して第2クラッチ部材4bを同方向に回転させ得るようになっている。
【0052】
ここで、本実施形態に係る第2クラッチ部材4bは、図7~10に示すように、駆動側クラッチ板(6a~6c)及び被動側クラッチ板(7a~7c)を軸方向(図2中左右方向)に区分けしてプレッシャ部材5側の第1領域αと遠心クラッチ手段9側の第2領域βとを形成する隔壁部4bbを有し、遠心クラッチ手段9の作動時、第1領域α及び第2領域βの駆動側クラッチ板(6a~6c)及び被動側クラッチ板(7a~7c)を圧接するとともに、バックトルク伝達用カム(カム面K1、K2)の作動時、第1領域αの駆動側クラッチ板(6a、6b)及び被動側クラッチ板(7a、7b)を圧接する(すなわち、第2領域βの駆動側クラッチ板6c及び被動側クラッチ板7cは圧接しない)ようになっている。
【0053】
より具体的には、本実施形態に係る隔壁部4bbは、第2クラッチ部材4bに形成されたフランジ形状から成り、図3及び図19~23に示すように、駆動側クラッチ板(6a、6b)及び被動側クラッチ板(7a、7b)が取り付けられる第1領域α(本実施形態においては、第2クラッチ部材4bの隔壁部4bbとプレッシャ部材5のフランジ部5cとの間の領域)と、駆動側クラッチ板6c及び被動側クラッチ板7cが取り付けられる第2領域β(本実施形態においては、第2クラッチ部材4bの隔壁部4bbと遠心クラッチ手段9との間の領域)とに分割するものとされている。
【0054】
これにより、遠心クラッチ手段9が作動し、且つ、バックトルク伝達用カムが非作動のとき、当該遠心クラッチ手段9とプレッシャ部材5との間で圧接力を生じさせて第1領域α及び第2領域βの駆動側クラッチ板(6a~6c)及び被動側クラッチ板(7a~7c)を圧接するとともに、バックトルク伝達用カムが作動し、且つ、遠心クラッチ手段9が非作動時、隔壁部4bbとプレッシャ部材5との間で圧接力を生じさせて第1領域αの駆動側クラッチ板(6a、6b)及び被動側クラッチ板(7a、7b)を圧接することができる。
【0055】
本実施形態によれば、第2クラッチ部材4bは、駆動側クラッチ板(6a~6c)及び被動側クラッチ板(7a~7c)を軸方向に区分けしてプレッシャ部材5側の第1領域αと遠心クラッチ手段9側の第2領域βとを形成する隔壁部4bbを有し、遠心クラッチ手段9の作動時、第1領域α及び第2領域βの駆動側クラッチ板(6a~6c)及び被動側クラッチ板(7a~7c)を圧接するとともに、バックトルク伝達用カムの作動時、第1領域αの駆動側クラッチ板(6a、6b)及び被動側クラッチ板(7a、7b)を圧接するので、加速時の伝達容量(遠心クラッチ手段9が作動するときの伝達容量)を変更することなくエンジンブレーキ発生時の伝達容量(バックトルク伝達用カムが作動するときの伝達容量)を任意に変更することができる。
【0056】
また、本実施形態によれば、遠心クラッチ手段9が作動し、且つ、バックトルク伝達用カムが非作動のとき、当該遠心クラッチ手段9とプレッシャ部材5との間で圧接力を生じさせて第1領域α及び第2領域βの駆動側クラッチ板(6a~6c)及び被動側クラッチ板(7a~7c)を圧接するとともに、バックトルク伝達用カムが作動し、且つ、遠心クラッチ手段9が非作動時、隔壁部4bbとプレッシャ部材5との間で圧接力を生じさせて第1領域αの駆動側クラッチ板(6a、6b)及び被動側クラッチ板(7a、7b)を圧接するので、第2クラッチ部材4bのフランジ形状を任意位置とすることにより、加速時の伝達容量を変更することなくエンジンブレーキ発生時の伝達容量を任意に変更することができる。
【0057】
また、本実施形態においては、隔壁部4bbの形成位置は、第1領域αに取り付けられる駆動側クラッチ板(6a、6b)又は被動側クラッチ板(7a、7b)による伝達容量(動力を伝達し得る容量)、及び第2領域βに取り付けられる駆動側クラッチ板6c又は被動側クラッチ板7cによる伝達容量に応じて設定されるよう構成されている。これにより、車両における加速時の伝達容量とエンジンブレーキ発生時の伝達容量とを精度よく設定することができる。
【0058】
以上、本実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、例えば図24、25に示すように、第2領域βには、単一の駆動側クラッチ板6cが取り付けられるものとしてもよい。この場合、遠心クラッチ手段9が作動する際、当該遠心クラッチ手段9と第1領域αの駆動側クラッチ板(6a、6b)又は被動側クラッチ板(7a、7b)との接続を第2領域βの駆動側クラッチ板6cを介して円滑に行わせることができる。すなわち、クラッチハウジング2側(入力側)に取り付けられた遠心クラッチ手段9が第2クラッチ部材4b側(出力側)に取り付けられた駆動側クラッチ板(6a、6b)及び被動側クラッチ板(7a、7b)と接続する際、急な接続によって衝撃が生じる虞があるのに対し、駆動側クラッチ板6cを介することにより、円滑な接続が可能とされるのである。
【0059】
また、本実施形態においては、プレッシャ部材5に嵌合部5iが形成され、被動側クラッチ板7bが取り付けられているが、嵌合部5iが形成されず、被動側クラッチ板7bがプレッシャ部材5に取り付けられないもの(専ら第2クラッチ部材4bに被動側クラッチ板が形成されるもの)としてもよい。この場合、第1領域αに被動側クラッチ板7aが取り付けられるとともに、第2領域βに被動側クラッチ板7cが取り付けられることとなる。なお、本発明の動力伝達装置は、自動二輪車の他、自動車、3輪又は4輪バギー、或いは汎用機等種々の多板クラッチ型の動力伝達装置に適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
第2クラッチ部材は、駆動側クラッチ板及び被動側クラッチ板を軸方向に区分けしてプレッシャ部材側の第1領域と遠心クラッチ手段側の第2領域とを形成する隔壁部を有し、遠心クラッチ手段の作動時、第1領域及び第2領域の駆動側クラッチ板及び被動側クラッチ板を圧接するとともに、バックトルク伝達用カムの作動時、第1領域の駆動側クラッチ板及び被動側クラッチ板を圧接する動力伝達装置であれば、外観形状が異なるもの或いは他の機能が付加されたもの等にも適用することができる。
【符号の説明】
【0061】
1 入力ギア(入力部材)
2 クラッチハウジング
2a 切欠き
3 出力シャフト(出力部材)
3a オイル供給孔
4a 第1クラッチ部材
4aa 勾配面(圧接アシスト用カム)
4ab 勾配面(バックトルクリミッタ用カム)
4ac ボス部
4ad オイル供給孔
4b 第2クラッチ部材
4ba スプライン嵌合部
4bb 隔壁部
4bc オイル供給孔
5 プレッシャ部材
5a 勾配面(圧接アシスト用カム)
5b 勾配面(バックトルクリミッタ用カム)
5c フランジ部
5d 収容凹部
5e オイル流入部
5f 溝部
5g オイル流出部
5h 内周面
5i 嵌合部
6a~6c 駆動側クラッチ板
7a~7c 被動側クラッチ板
8 固定部材
9 遠心クラッチ手段
10 ウェイト部材
11 保持部材
11a 収容部
11aa 内周壁面
11b 溝形状
11c 押圧面
12 圧接部材
12a 勾配溝
12b 溝形状
12c 押圧面
13 支持部材
14 第1球状部材
15 第2球状部材
16 付勢部材
17 補助クラッチ板
18 操作部材
18a 操作部
19 連動部材
B ボルト
S クラッチスプリング
W ベアリング
α 第1領域
β 第2領域
K1 カム面(バックトルク伝達用カム)
K2 カム面(バックトルク伝達用カム)
T1 当接面
T2 当接面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25