(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022030213
(43)【公開日】2022-02-18
(54)【発明の名称】シート状ヒートパイプの製造方法
(51)【国際特許分類】
F28D 15/02 20060101AFI20220210BHJP
F28D 15/04 20060101ALI20220210BHJP
F28F 21/08 20060101ALI20220210BHJP
H05K 7/20 20060101ALI20220210BHJP
H01L 23/427 20060101ALI20220210BHJP
【FI】
F28D15/02 106G
F28D15/02 101H
F28D15/02 106F
F28D15/04 C
F28D15/04 E
F28D15/04 D
F28D15/04 B
F28F21/08 E
F28F21/08 F
F28F21/08 G
H05K7/20 R
H01L23/46 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020134042
(22)【出願日】2020-08-06
(71)【出願人】
【識別番号】390010168
【氏名又は名称】東芝ホームテクノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】特許業務法人牛木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】寺尾 航
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 将人
【テーマコード(参考)】
5E322
5F136
【Fターム(参考)】
5E322AA01
5E322DB08
5E322DB10
5E322FA01
5F136CC12
5F136CC14
(57)【要約】
【課題】十分な熱拡散性能を有し、且つ製造方法を簡素化したリーズナブルなシート状ヒートパイプの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、金属箔をプレス加工により成形し、この成形品を含む2枚以上の金属箔として、2枚の第1シート体11と第2シート体12を積み重ねて、幅dが2mm未満のフランジ部11B,12Bを接合することにより、液相の作動流体が封入される中空の容器15を形成するSHP1が製造される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属箔をプレス加工により成形し、この成形品を含む2枚以上の前記金属箔を積み重ねて、幅が2mm未満のフランジ部を接合することにより、作動流体が封入される中空の容器を形成することを特徴とするシート状ヒートパイプの製造方法。
【請求項2】
前記金属箔の肉厚は0.1mm未満であり、前記プレス加工により前記容器の内部に凹状の蒸気通路及びウィック収納部が形成され、前記ウィック収納部には微細な隙間を有するシート状のウィックを具備し、前記シート状ヒートパイプの総厚みを0.4mm未満としたことを特徴とする請求項1記載のシート状ヒートパイプの製造方法。
【請求項3】
前記プレス加工により前記容器の内部に凹状の蒸気通路が形成され、
前記蒸気通路となる領域には、前記容器が大気圧に押されて潰れないようにするために、前記プレス加工により柱が形成され、
前記柱どうしの間が、5mm以下の間隔をあけて配置されていることを特徴とする請求項1記載のシート状ヒートパイプの製造方法。
【請求項4】
前記容器には、作動流体の注入や真空引きを行なうために、前記容器の内部と連通するノズルが任意の位置に2つ以上具備されており、
前記ノズルには、前記容器を密閉状態にする封止部が設けられていることを特徴とする請求項1~3の何れか一つに記載のシート状ヒートパイプの製造方法。
【請求項5】
前記フランジ部は、ロウ付け、レーザー溶接、拡散接合の何れかを用いて接合されることを特徴とする請求項1~4の何れか一つに記載のシート状ヒートパイプの製造方法。
【請求項6】
積み重ねた前記金属箔の一方は前記プレス加工された前記成形品であり、前記金属箔のもう一方は平板であることを特徴とする請求項1~5の何れか一つに記載のシート状ヒートパイプの製造方法。
【請求項7】
積み重ねた前記金属箔の一方ともう一方が、何れも前記プレス加工された前記成形品であることを特徴とする請求項1~5の何れか一つに記載のシート状ヒートパイプの製造方法。
【請求項8】
前記プレス加工により前記容器の内部に凹状の蒸気通路及びウィック収納部が形成され、前記ウィック収納部には微細な隙間を有するシート状のウィックを具備し、
前記プレス加工により柱が形成され、
前記柱は前記シート状ヒートパイプの放熱部側、受熱部側、若しくは放熱部側と受熱部側の両方に配置され、前記容器の潰れ防止機能や前記ウィックを押える機能を有することを特徴とする請求項1記載のシート状ヒートパイプの製造方法。
【請求項9】
前記金属箔の材質は、ステンレス、チタン、銅、若しくはそれらを主成分とする合金金属の何れかであることを特徴とする請求項1~8の何れか一つに記載のシート状ヒートパイプの製造方法。
【請求項10】
前記容器の内部にはウィックが設けられ、
前記ウィックは、直径が0.05mm以下の銅、ステンレス、若しくはチタンなどの金属線で、かつ開き目が200um以下で編まれたメッシュであることを特徴とする請求項1記載のシート状ヒートパイプの製造方法。
【請求項11】
前記容器の内部にはウィックが設けられ、
前記ウィックは、厚みが0.1mm以下の銅、ステンレス、若しくはチタンなどの金属箔で、その表面に微細な交差した溝と孔を有することを特徴とする請求項1記載のシート状ヒートパイプの製造方法。
【請求項12】
前記容器の内部にはウィックが設けられ、
前記ウィックは、銅、ステンレス、若しくはチタンなどの金属による粉体焼結を含む多孔質体からなる厚みが0.1mm以下のシートで、微細な孔を有することを特徴とする請求項1記載のシート状ヒートパイプの製造方法。
【請求項13】
前記容器の内部にはウィックが設けられ、
前記ウィックは、直径が0.03mm以下の金属線で、密度が100g/m2~350g/m2を有する不織布であることを特徴とする請求項1記載のシート状ヒートパイプの製造方法。
【請求項14】
前記容器の内部にはウィックが設けられ、
前記ウィックには、前記容器が大気圧に押されて潰れないようにするために、粉体焼結品または別部品による柱部材が具備され、
前記柱部材に対向する前記金属箔の外郭表面が平坦となることを特徴とする請求項1記載のシート状ヒートパイプの製造方法。
【請求項15】
前記ウィックを複数枚備えたことを特徴とする請求項11~14の何れか一つに記載のシート状ヒートパイプの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スマートフォンやタブレット端末などの携帯機器に搭載可能であり、小型でありながら十分な熱輸送量が得られるシート状ヒートパイプの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スマートフォンやタブレット端末などの携帯機器に搭載されるCPUの発熱を拡散させるために、例えば特許文献1~4に示すような、シート状ヒートパイプを組み込んだ放熱構造が提案されている。こうしたシート状ヒートパイプは、2枚以上の金属箔からなるシート体を重ね合わせて接合することにより、水などの液相の作動流体を収容する密閉した容器が形成されており、容器の内部に設けたウィックによる毛細管力を利用して、シート状ヒートパイプの受熱部と放熱部との間で作動流体を還流させ、受熱部に熱接続するCPUからの熱を放熱部に輸送して、携帯機器の外部に放散させる、というものである。そして、薄型化が進む携帯機器の内部にシート状ヒートパイプを無理なく搭載するには、シート状ヒートパイプも熱拡散性能を損なわずに薄型化を図ることが望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-050682号公報
【特許文献2】特開2016-017702号公報
【特許文献3】特開2018-204841号公報
【特許文献4】特開2018-189320号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来のシート状ヒートパイプでは、作動液が封入される容器内部の空間を形成するために、シート状の金属箔に対してエッチング加工を行なっており、部品加工に技術を要しコスト上昇を招いていた。また、シート状ヒートパイプとして十分な熱拡散性能を得るためには、容器内部の空間容積をある程度確保する必要があり、こうした十分な熱拡散性能を保持しつつも、製造方法を簡素化させることが困難であった。
【0005】
そこで、本発明は上記の課題を解決して、十分な熱拡散性能を有し、且つ製造方法を簡素化したリーズナブルなシート状ヒートパイプの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、金属箔をプレス加工により成形し、この成形品を含む2枚以上の前記金属箔を積み重ねて、幅が2mm未満のフランジ部を接合することにより、作動流体が封入される中空の容器を形成することを特徴とするシート状ヒートパイプの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
請求項1の発明によれば、プレス加工で成形された金属箔を利用して、2枚以上の金属箔を積み重ね、容器の内容積を極力増やすために、幅が2mm未満に形成されたフランジ部を接合して、作動流体が循環する中空の容器を形成するだけで、十分な熱拡散性能を有し、且つ製造方法を簡素化したリーズナブルなエッチングレスのシート状ヒートパイプを提供できる。
【0008】
請求項2の発明によれば、エッチングレスで総厚みが0.4mm未満でありながら、気相の作動流体が通過する凹状の蒸気通路と、シート状のウィックを収納するウィック収納部とを備えた薄型のシート状ヒートパイプを提供できる。また、容器内部のウィック収納部に、毛細管力を生じさせる微細な隙間を有するシート状のウィックを収納することで、ウィックと蒸気通路との間で、液相と気相の作動流体を円滑に還流させることが可能になり、十分な熱拡散性能が得られるシート状ヒートパイプを提供できる。
【0009】
請求項3の発明によれば、容器の潰れを防止する柱を設けることで、容器が大気圧で押されていても、容器の内部で気相の作動流体を十分に通過させる蒸気通路を確保できる。
【0010】
請求項4の発明によれば、容器の異なる複数の箇所で、容器の内部に作動流体を注入したり、容器の内部を真空に引いたりすることが可能になり、製造工程が終了した製品状態では、それぞれのノズルに封止部を設けることで、容器の内部を密閉状態に維持して、薄型でも高い性能を確保できる。
【0011】
請求項5の発明によれば、フランジ部を接合する際に、任意の接合方法で要求に合わせることができ、設計の自由度を上げることが可能になる。
【0012】
請求項6の発明によれば、積み重ねた金属箔の一方をプレス加工された成形品とし、金属箔のもう一方を平板とすることで、シート状ヒートパイプとしての厚さ要求に合わせた設計が可能となり、設計の自由度を上げることができる。
【0013】
請求項7の発明によれば、積み重ねた金属箔の一方ともう一方を、何れもプレス加工された成形品とすることで、シート状ヒートパイプとしての厚さ要求に合わせた設計が可能となり、設計の自由度を上げることができる。
【0014】
請求項8の発明によれば、シート状ヒートパイプの放熱部側、受熱部側、若しくは放熱部側と受熱部側の両方に柱を設け、必要に応じてその柱に容器の潰れ防止機能やウィックを押さえる機能を持たせることで、シート状ヒートパイプとしての性能要求に合わせた設計が可能となり、設計の自由度を上げることができる。また、容器内部のウィック収納部に、毛細管力を生じさせる微細な隙間を有するシート状のウィックを収納することで、ウィックと蒸気通路との間で、液相と気相の作動流体を円滑に還流させることが可能になり、十分な熱拡散性能が得られるシート状ヒートパイプを提供できる。
【0015】
請求項9の発明によれば、シート状ヒートパイプの外郭をなす金属箔について、任意の材質で要求に合わせることができ、設計の自由度を上げることが可能になる。
【0016】
請求項10~13の発明によれば、薄型のウィックでありながら高い毛細管力が得られ、シート状ヒートパイプとして高い熱拡散性能を確保できる。
【0017】
請求項14の発明によれば、金属箔の外郭表面が平坦になることで、放熱部品や発熱部品との密着性を上げることができ、薄型でも高い性能を確保できる。
【0018】
請求項15の発明によれば、ウィックの枚数を増やす程、ウィックに保持される液相の作動流体の量が増加するので、容器の内部で液相の作動流体の一部を局所的に留めることなく、ウィックを通して液相の作動流体全体を余すことなく循環させて、シート状ヒートパイプとしてさらに高い熱拡散性能を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の第1実施形態におけるシート状ヒートパイプの要部縦断面図である。
【
図4】同、別な形状のシート状ヒートパイプにおいて、接合前の第1シート体の平面図である。
【
図5】同、別な形状のシート状ヒートパイプにおいて、容器に放熱部品と発熱部品を熱接続したシート状ヒートパイプの正面図である。
【
図6】同、別な形状のシート状ヒートパイプにおいて、ノズル先端部を切り離す前のシート状ヒートパイプの平面図である。
【
図10】同、さらに別な例となる柱の縦断面図である。
【
図11】同、プレス加工された1枚の成形品と、プレス加工されていない1枚の非成形品とを積み重ねたシート状ヒートパイプの要部縦断面図である。
【
図12】同、プレス加工された2枚の成形品を積み重ねたシート状ヒートパイプの要部縦断面図である。
【
図13】同、放熱部側に柱を配置したシート状ヒートパイプの要部縦断面図である。
【
図14】同、受熱部側に柱を配置したシート状ヒートパイプの要部縦断面図である。
【
図15】同、放熱部側と受熱部側の両方に柱を配置したシート状ヒートパイプの要部縦断面図である。
【
図16】同、メッシュによるウィックの部分拡大図である。
【
図17】同、金属箔によるウィックの平面図である。
【
図18】同、金属箔によるウィックの右側面図である。
【
図19】同、金属箔によるウィックの底面図である。
【
図21】同、金属線を焼結した後の不織布によるウィックを示す写真である。
【
図22】同、
図21に示す不織布の(A)ウェブ繊維側と(B)直線繊維側の各表面を部分的に拡大した写真である。
【
図24】同、
図23の第1シート体を利用して完成したシート状ヒートパイプについて、実験結果となる各部の温度分布を示す図である。
【
図25】同、本発明の第2実施形態におけるシート状ヒートパイプの要部縦断面図である。
【
図26】同、ウィック収納部に複数枚重ねて収納したウィックの写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好ましい幾つかの実施形態について、スマートフォンやタブレット端末などの携帯機器に搭載されるシート状ヒートパイプ(以下、「SHP」という)を例にして説明する。各実施形態の説明で、共通する箇所には共通する符号を付し、共通する部分の説明は重複を避けるため極力省略する。
【0021】
図1~
図4は、本発明の第1実施形態におけるSHP1の外観構成を示している。これらの各図において、SHP1は、2枚の金属箔である第1シート体11と第2シート体12を重ね合わせて接合した容器15により構成される。SHP1の外郭をなすシート体11,12は、金属としてある程度の熱伝導性を有し、且つ完成したSHP1を図示しない携帯機器の筐体に組み込むまでに、SHP1が容易に変形せずに取扱いがしやすい硬さ(剛性)を有する材質の金属箔から、所望する形状に形成される。こうした要求に合う金属箔の材質は、例えばステンレス、チタン、銅、若しくはそれらを主成分とする合金金属の何れかとするのが好ましい。また、2枚以上の例えば3枚の金属箔を積み重ねて接合することにより、中空の容器15を構成してもよい。シート体11,12となるそれぞれの金属箔の厚さすなわち肉厚t1,t2は、何れも携帯機器の薄型化に対応して0.1mm未満とするのが好ましい。
【0022】
図2や
図4に示すように、容器15の内部に真空状態で純水などの液相の作動流体(図示せず)を封入収容するために、容器15には筒状のノズル17が延設される。また、
図2では図示していないが、ノズル17は容器15の内外を連通させる開口部17Aを有し、最終的に開口部17Aを塞ぐことで、密閉された容器15ひいてはSHP1の厚さT0が、携帯機器の薄型化に対応して0.4mm未満に形成される。この厚さT0は、2枚以上の金属箔を積み重ねたSHP1全体の総厚みに相当する。開口部17Aが塞がれた後に、ノズル17は基端部を残して先端部17Bが切り離され、容器15を密閉したままのSHP1が完成する。完成状態のSHP1は、スマートフォンやタブレット端末などの携帯機器の筐体内部形状に合せた外形を有し、例えば
図2や
図4に示すような第1シート体11の形状では、平面視で略矩形平板状のSHP1となるが、図示しない別な形状の第1シート体11から、平面視で多角形平板状のSHP1を完成させてもよい。
【0023】
前述のように、完成したSHP1はそのまま単体で携帯機器の筐体内部に設置される。このとき、携帯機器の熱源(例えばCPU)と熱接触するSHP1の表面部分が受熱部(図示せず)として形成され、受熱部とは別な部位で、携帯機器の熱拡散部材(例えばタッチパネルや背面カバー)と熱接触するSHP1の表面部分が放熱部(図示せず)として形成される。熱源からの熱を受け入れる受熱部や、熱拡散部材に熱を受け渡す放熱部が、SHP1の表面部分のどの部位に形成されるのかは、携帯機器の内部構成に依存する。
【0024】
SHP1の一側部を形成する第1シート体11は、袋状の容器15の外郭一側面を形成する凹状のシート面部11Aと、平面視でシート面部11Aの周囲全体に形成される枠状のフランジ部11Bと、シート面部11Aより内側に向けてスポット状に突出して形成される複数の支柱11Cと、により構成される。この中で、シート面部11Aと支柱11Cは、加工前の凹凸がない平坦な金属箔から、プレス加工の一種であるプレス絞り加工により所望の形状に絞り成形されたものである。これらのシート面部11Aや支柱11Cを成形するのと同時に、ノズル17の開口部17Aとなる溝部を成形することもできる。
【0025】
SHP1の他側部を形成する第2シート体12は、容器15の外郭他側面を形成する平坦なシート面部12Aと、平面視でシート面部12Aの周囲全体に形成される枠状のフランジ部12Bと、により構成される。
図1に示す第2シート体12は、加工前の凹凸がない平坦な金属箔を、そのまま加工せずに第1シート体11と積み重ねて使用したものである。この場合、第1シート体11のシート面部11Aに対向する部位が第2シート体12のシート面部12Aとなり、第1シート体11のフランジ部11Bに対向し当接する部位が第2シート体12のフランジ部12Bとなる。
【0026】
本実施形態では、第1シート体11のシート面部11Aの開口を第2シート体12のシート面部12Aで塞ぐように、第1シート体11と第2シート体12を積み重ねることで、作動流体が封入される容器15の内部に、主に気相の作動流体を流通させる凹状の蒸気通路21と、主に液相の作動流体を流通させるウィック31を収納するためのウィック収納部22がそれぞれ形成される。これらの蒸気通路21とウィック収納部22は、上述した金属箔に凹状のシート面部11Aを成形するプレス絞り加工により形成されたものである。ウィック収納部22は、容器15の内部に配置されるウィック31の外形に対応した部位に相当し、それ以外の容器15の内部部位が蒸気通路21となる。
【0027】
フランジ部11B,12Bは、シート体11,12の内面どうしを向かい合わせたときにお互いが接して重なる位置にあり、これらをロウ付け、レーザー溶接、拡散接合の何れかを用いて隙間なく接合することにより、SHP1の容器15を取り囲む外周部16が形成される。
【0028】
容器15の内部には、作動流体が封入される脱気状態の密閉室が形成される。この密閉室は、受熱部で蒸発した気相の作動流体を放熱部に輸送するための蒸気通路21と、放熱部で凝縮した液相の作動流体を受熱部に戻すためのシート状のウィック31を具備したウィック収納部22とにより構成される。ウィック31は、例えば厚みが0.1mm以下のシートで、容器15とは別体でウィック収納部22に内封され、液相の作動流体に強い毛細管力を生じさせるために、銅、ステンレス、若しくはチタンなどの金属による粉体焼結を含む多孔質体からなり、微細な孔となる隙間32を全体に満遍なく有して構成される。本実施形態では、容器15が大気圧に押されて潰れないようにするために、第1シート体11にのみ、第2シート体12のシート面部12Aに向けて、ウィック収納部22に配置されたウィック31に当接する支柱11Cが、同じ高さで多数形成される。なお、ウィック31や支柱11Cの具体的な構成については、後ほど詳しく説明する。
【0029】
そして本実施形態では、先ず厚さが何れも0.1mm未満の平坦な2枚の金属箔を用意し、一方の金属箔については、その金属箔をプレス絞り加工により成形し、第1シート体11として第1シート面部11Aや支柱11Cを形成した凹凸状の成形品に仕上げ、他方の金属箔については、そのまま非成形品として第2シート体12にする。
【0030】
次いで、第2シート体12の内面側でウィック収納部22に相当する部位に平板状のウィック31を載せ、このウィック31を挟み込むように、平面視で外形形状が同じ2枚の金属箔から得られたシート体11,12を、それぞれの内面を内側にしてシート面部11A,11Bが向い合うように積み重ねる。そして、ここから内部を空洞にした袋状の容器15が構成されるように、シート体11,12のフランジ部11B,12Bを接合して、SHP1を製造する。その際、SHP1の外周部となるフランジ部11B,12Bを接合し、次に容器15の内部と連通するノズル17を利用して、液相の作動流体の注入と脱気(真空引き)を行なった後、ノズル17を閉塞してSHP1の内部を密閉することで、容器15としての機能が得られ、ノズル17の先端部17Bを切り離すことで、最終的なSHP1の製造が完了する。したがって完成状態のSHP1には、容器15の内部を密封状態に維持するための封止部18(
図6を参照)が、ノズル17の開口部17Aを塞ぐ痕跡として当該ノズル17の基端部に設けられる。
【0031】
なお完成状態のSHP1は、平面視で略矩形平板状や多角形平板状以外に、携帯機器の筐体内部形状に合せた任意の形状とすることができる。また、
図1に示すSHP1は、容器15の柱11Cを設けた以外のどの部位であっても、その厚さT0が均一で好ましくは0.4mm未満に形成されるが、プレス絞り加工の利点を活かして、SHP1の厚さT0を段階的及び/又は連続的に変化させてもよい。
【0032】
例えば、
図5に示すSHP1では、携帯機器の筐体43内で発熱部品となる熱源41と放熱部品となる熱拡散部材42が、異なる高さに配置されている場合に、同じく携帯機器の筐体43内に設置されるSHP1が、これらの熱源41や熱拡散部材42と密着して熱接続できるように、熱源41に接触する受熱部44側の容器15の厚さT0aと、熱拡散部材42に接触する放熱部45側の容器15の厚さT0bが異なっている(T0a<T0b)。また、SHP1の受熱部44から放熱部45に向かうにしたがい、容器15の厚さTocは次第に大きくなるように連続的に変化している。こうした容器15の厚さは、一定の厚さを有する金属箔からプレス絞り加工で第1シート体11を成形する際に、凹状のシート面部11Aの深さを図示しないプレス機械で適宜調整するだけで簡単に得られる。従来のエッチング加工では、一定の厚さを有する金属箔から、
図5に示すような容器15の形状を得ることはできない。
【0033】
また
図6は、SHP1の製造工程において、ノズル17の先端部17Bを切り離す前のSHP1を示しているが、ノズル17は、1つの容器15の任意の位置に2つ以上具備してもよい。
図6に示す例では、平面視で容器15の異なる辺となる一側短辺と他側短辺に、同一形状のノズル17がそれぞれ設けられている。また、ノズル17の先端部17Bは、SHP1の製造工程で作動液の注入や真空引きを容易に行なえるように、容器15の短辺から外方に突出した筒状に形成される。前述したノズル17の開口部17Aは、先端部17Bにも延びて容器15の内外を連通させており、先端部17Bの根元は例えば切込みが形成されているなどして、比較的簡単に切り離せる構成となっている。
【0034】
そして本実施形態では、容器15の内部への作動液の注入や、容器15の内部からの真空引きを、容器15の同じ箇所だけでなく、異なる複数の箇所からも任意に行なうことが可能になる。また、容器15の内面に濡れ性を向上させる酸化膜を付着させる場合、容器15の一つの箇所でノズル17から酸化膜材料を注入すると、そのノズル17の周辺にのみ酸化膜が付着して付きムラが生じてしまうが、容器15の複数の箇所でノズル17から酸化膜材料を注入すれば、容器15内面における酸化膜の付きムラを改善できる。こうした作業が終了した後は、ノズル17の開口部17Aを封止部18で塞いで先端部17Bを根元から切り離せば、製造工程が終了した製品状態のSHP1において、ノズル17の部分を容器15から突出させないようにすることができ、それぞれのノズル17に設けた封止部18が、容器15の内部を密閉状態に維持する。
【0035】
上述したSHP1の製造方法では、フランジ部11B,12Bを拡散接合する代わりに、ロウ付けやレーザー溶接で接合してもよい。例えば、シート体11,12となる金属箔の材質がステンレスであれば、レーザー溶接を採用するとフランジ部11B,12Bの密着性が向上し、金属箔の材質が銅であれば、ロウ付けを採用するとフランジ部11B,12Bの密着性が向上する。このようにフランジ部11B,12Bを接合する際に、金属箔の材質に応じた任意の接合方法で、フランジ部11,12の密着性を高める要求に合わせることが可能になる。
【0036】
また、2枚のシート体11,12を重ね合わせたときに、容器15を取り囲む外周部16としてのフランジ部11B,12Bの幅dは、2mm未満の寸法で例えば1.5mm以上に形成される。これにより完成したSHP1の状態で、容器15に必要な密閉度を確保しつつ、容器15の内容積を極力増やすことができる。
【0037】
プレス絞り加工では、容器15の内部に凹状の蒸気通路21やウィック収納部22を設けるために、シート体11に形成されるシート面部11Aの深さを容易に調整することができるが、携帯機器の筐体43の薄型化に対応して、シート体11,12となるそれぞれの金属箔の肉厚t1,t2を0.1mm未満とし、且つ完成状態でのSHP1の厚さT0を最大で0.4mm未満に形成する。シート体11,12の肉厚t1,t2は、必ずしも同一寸法でなくてもよく、例えばプレス絞り加工を行なってシート体11となる金属箔の肉厚t1の寸法を、プレス絞り加工を行なわずにシート体12となる金属箔の肉厚t2の寸法よりも大きくすることで、シート体11に形成されるシート面部11Aや支柱11Cが変形しにくくなり、SHP1としての取り扱いが容易になる。
【0038】
こうして本実施形態では、一連の製造工程でエッチング加工を一切行なうことなく、プレス絞り加工で成形された金属箔の成形品を第1シート体11として利用し、この第1シート体11の他に別な第2シート体12を含む2枚以上の金属箔を積み重ねた後に、幅dが2mm未満に形成されたフランジ部11B,12Bを接合して、作動流体が循環する中空の容器15を形成することで、容器15の内容積を極力増やした十分な熱拡散性能を有するSHP1を、リーズナブルなエッチングレスの製造方法で簡単に得ることができる。また、エッチングレスで厚さT0が0.4mm未満でありながら、気相の作動流体が通過する凹状の蒸気通路21と、シート状のウィック31を収納するウィック収納部22とを備えた薄型のSHP1を提供できる。
【0039】
本実施形態では、容器15が大気圧で潰れる現象を確実に防ぐために、第1シート体11のシート面部11A内側の蒸気通路21となる領域から、第2シート体12のウィック収納部22に収納されたウィック31の表面に向けて、複数の支柱11Cを縦横等間隔に配置する。
図7に示すように、各々の支柱11Cは同一状で、縦横に隣り合う支柱11C,11Cどうしの、一方の支柱11Cの基端から他方の支柱11Cの基端までの最短距離となる隙間Lが5mm以下となるように、シート面部11Aと一体的に形成されている。支柱11C,11Cどうしの隙間L1を5mm以下とすることで、容器15が大気圧で潰れないように、支柱11Cの全体で第1シート体11のシート面部11Aを支えながら、容器15の内部で気相の作動流体を十分に通過させる蒸気通路21を確保できる。
【0040】
図8~
図10は、プレス絞り加工により第1シート体11に形成される支柱11Cの好適な断面形状を示している。
図8は外形が半球状の支柱11Cであり、
図9は外形が円柱状の支柱11Cであり、
図10は外形が擂り鉢状の支柱11Cである。これらの支柱11Cは、何れも第1シート体11のシート面部11Aから容器15の内側に向けて凸状に形成される。
図1に示す球状の支柱11Cや、
図8~
図10に示す支柱11Cを含めて、様々な異なる形状の支柱11Cを、プレス絞り加工により第1シート体11に一度の作業で形成してもよい。その場合も、支柱11C,11Cどうしの隙間Lが5mm以下となるように、それぞれの支柱11Cが間隔を置いて配置される。
【0041】
第2シート体12は、ウィック収納部22に収納されている平板状のウィック31が、シート面部12Aの変形を防ぐ補強部材として効果的に機能する。そのため、第2シート体12の肉厚t2を、第1シート体11の肉厚t1よりも薄く形成しても(すなわち、t2<t1であっても)、第2シート12のシート面部12A側での容器15の潰れを回避できる。またその分、SHP1の厚さT0も薄く形成でき、携帯機器の筐体43の薄型化に対応した好ましい厚さT0を有するSHP1を提供できる。
【0042】
また
図11に示すように、SHP1として厚さT0をできるだけ薄くしたいという要求に合わせるには、金属箔の片側一方をプレス絞り加工された成形品となる第1シート体11とし、金属箔の片側もう一方をプレス絞り加工されていない平板の非成形品となる第2シート体12として、これらを積み重ねてSHP1を製造するのが好ましい。代わりに、
図12に示すように、金属箔の片側一方をプレス絞り加工された成形品となる第1シート体11とし、金属箔の片側もう一方もプレス絞り加工された成形品となる第2シート体12として、これらを積み重ねてSHP1を製造すれば、SHP1としてもう少し厚さT0を厚くできる要求に合わせることができる。この場合、第2シート体12にはプレス絞り加工により、平坦状ではなく凹状のシート面部12Aが形成され、このシート面部12Aが第1シート体11に同じく凹状に形成されたシート面部11Aと向かい合うことにより、容器15の内部に凹状の蒸気通路21と、ウィック31を収納するためのウィック収納部22がそれぞれ形成される。
図12では、第2シート体12のシート面部12A側にウィック収納部22が設けられており、ここに収納されるシート状のウィック31は、第1シート体11のシート面部11Aから突出する支柱11Cにより押さえられているが、第1シート体11のシート面部11A側にウィック収納部22を設け、ここに収納されるシート状のウィック31を、第2シート体12のシート面部12Aから突出する支柱(ここでは図示せず)により押さえるようにしてもよい。
【0043】
容器15の内側に向けて突出する柱(支柱11C)は、SHP1の使用条件によって放熱側、受熱側、若しくは放熱側と受熱側の両方に配置され、SHP1の外郭となる容器15が潰れるのを防止したり、容器15内部のウィック収納部22に配置されたウィック31を押さえたりする機能を有する。例えば、
図13に示すSHP1では、前述の熱拡散部材42(ここでは図示せず)に接触する放熱部45側で、第1シート体11のシート面部11Aから支柱11Cが配置され、この支柱11Cの先端部がウィック31に接触することにより、容器15の潰れ防止と、容器15の内部でウィック31が動かないようにウィック31を押さえている。ウィック31が載せられる第2シート体12のシート面部12Aは、前述の熱源41(ここでは図示せず)に接触する受熱部44として機能するが、支柱11Cは受熱部44側にではなく、放熱部45側にだけ配置される。
【0044】
別な例として、
図14に示すSHP1は、金属箔の片側一方をプレス絞り加工された成形品となる第2シート体12とし、金属箔の片側もう一方をプレス絞り加工されていない平板の非成形品となる第2シート体11として、これらを積み重ね、プレス絞り加工により第2シート体12に形成された凹状のシート面部12Aを受熱部44として、ここから第1シート体11のシート面部11Aに向けて複数の支柱12Cが配置される。また、第2シート体12のシート面部12Aの開口を第1シート体11のシート面部11Aで塞ぐように、第1シート体11と第2シート体12を積み重ねることで、作動流体が封入される容器15の内部に、気相の作動流体を流通させる蒸気通路21と、液相の作動流体を流通させるウィック31を収納するためのウィック収納部22がそれぞれ形成される。ウィック31には、支柱12Cが挿通する孔33を設けてあり、これにより支柱12Cの先端部が第1シート体11のシート面部11A内面に直接接触して、容器15の潰れを防止している。またウィック31の孔33に支柱12Cが挿通することで、ウィック31は支柱12Cに押さえられないものの、ウィック収納部22からのある程度の動きが規制されて位置決めされる。ウィック31が載せられる第2シート体12のシート面部12Aは受熱部44として機能し、支柱12Cの先端部が当接する第1シート体11のシート面部11Aは放熱部として機能するが、支柱12Cは放熱部45側にではなく、受熱部44側にだけ配置される。
【0045】
図15に示すSHP1は、金属箔の片側一方をプレス絞り加工された成形品となる第1シート体11とし、金属箔の片側もう一方もプレス絞り加工された成形品となる第2シート体12として、これらを積み重ね、プレス絞り加工により第1シート体11に形成された凹状のシート面部11Aを放熱部45として、ここから第2シート体12のシート面部12Aに向けて複数の支柱11Cが配置され、プレス絞り加工により第2シート体12に形成された凹状のシート面部12Aを受熱部44として、ここから第1シート体11のシート面部11Aに向けて複数の支柱12Cが配置される。また、第1シート体11のシート面部11Aに第2シート体12のシート面部12Aを向かい合わせて、第1シート体11と第2シート体12を積み重ねることで、作動流体が封入される容器15の内部に、気相の作動流体を流通させる蒸気通路21と、液相の作動流体を流通させるウィック31を収納するためのウィック収納部22がそれぞれ形成される。ウィック31には、第2シート体12の支柱12Cが挿通する孔33を設けてあり、これにより支柱12Cの先端部が、第1シート体11の向かい合う支柱11Cの先端部に直接接触して、容器15の潰れを防止している。またウィック31の孔33に支柱12Cが挿通することで、ウィック31は支柱12Cに押さえられないものの、ウィック収納部22からのある程度の動きが規制されて位置決めされる。ここでは、放熱部45側と受熱部44側の両方に支柱11C,12Cが配置される。
【0046】
次に、ウィック31の様々な構成について、添付の図面を参照しながら詳しく説明する。
【0047】
図16は、メッシュ51によるウィック31を拡大して示したものである。同図において、ここでのウィック31は、0.05mm以下の直径D1を有し、銅、ステンレス、若しくはチタンなどの金属線52を縦横に整列配置して、開き目H1が200um以下となるように編み込んだ平板状のメッシュ51により構成される。メッシュ51の構成要素となる金属線52の直径D1を0.05mm以下に細径化することで、これをウィック31として利用した場合に強い毛細管力を得ることができ、併せてSHP1の厚みT0を0.4mm未満に薄型化しても、ウィック31を無理なくウィック収納部22に収納できる。また開き目H1は、隣り合う一方の金属線52の内端から他方の金属線52の内端までの距離であり、開き目H1を200um以下とすることで、金属線52の間に形成された隙間32による強い毛細管力を発揮させることができる。
【0048】
図17~
図20は、金属箔61によるウィック31を各々示したものである。これらの各図において、ウィック31は0.1mm以下の厚みT2を有し、その表面に毛細管力を生じる微細な縦横に交差した溝62と、溝62の適所に等間隔で配置される孔63とを有する平板状の銅、ステンレス、若しくはチタンなどからなる金属箔61で構成される。凹状の溝62は、金属箔61の表面にのみ格子状に整列して設けられているが、毛細管力を増すために、金属箔61の裏面にも同様に設けて構わない。金属箔61の表面と裏面とを貫通する孔63は、ウィック31の隙間32に相当するもので、毛細管力で溝62に沿って流動する液相の作動流体を、さらに強い毛細管力で孔63に導き、金属箔61の裏面側から全体に拡散させることが可能となり、溝62と孔63との組み合わせによる強い毛細管力を発揮させることができる。また、金属箔61の厚みT2を0.1mm以下にすることで、SHP1の厚みT0を0.4mm未満に薄型化しても、ウィック31を無理なくウィック収納部22に収納できる。
【0049】
図21および
図22は、不織布71によるウィック31を各々示したものである。同図において、ここでのウィック31は、0.03mm以下の直径D2を有する金属線72,73を、100g/m
2~350g/m
2の密度で配置した不織布71により構成される。不織布71は、ほぼ一方向に均一に並ぶ長い直線繊維としての金属線72と、この金属線72よりも短く、ランダムな方向に配置されるウェブ繊維としての金属線73をほぼ均一に重ね合せ、これらの金属線72,73を編むのではなく、絡み合わることでシート状に形成される。これは、網状に縦の金属線52と横の金属線52を編むメッシュ51とは異なる。また、金属線72,73を単に絡み合わせただけでは、ウェブ繊維の金属線73が直線繊維の金属線72から外れやすいので、金属線72,73を焼結により互いに接合させた不織布71としてもよい。不織布71の構成要素となる金属線72,73の直径D2を、何れも0.03mm以下に細径化することで、これをウィック31として利用した場合に強い毛細管力を得ることができ、併せてSHP1の厚みT0を0.4mm未満に薄型化しても、ウィック31を無理なくウィック収納部22に収納できる。また、金属線72,73を組み合わせた不織布71には、金属線72,73の密度に応じた適切な範囲の大きさの隙間32が形成されるので、毛細管力で金属線72,73の間に沿って流動する液相の作動流体を、さらに強い毛細管力で隙間32に導いて、不織布71の全体に拡散させることが可能となり、ウィック31として強い毛細管力を発揮させることができる。
【0050】
次に、上記構成のSHP1を、薄型の携帯機器に実装した場合の作用効果について説明する。本実施形態のSHP1は、
図5で示した携帯機器の筐体43の内部形状に合せた外形を有しており、そのまま単体で筐体43の内部に設置される。このとき、SHP1の一側面は、その一部が受熱部44として、筐体43の内部に設置したCPUなどの熱源41と接触して熱接続され、熱源となるCPUから離れた部位(SHP1の一側面の別な一部や、他側面)で、放熱部45が形成される。そして、筐体43の内部で熱源41が発熱して温度が上昇すると、その熱源41からSHP1の受熱部44に熱が伝わり、受熱部44では液相の作動流体が蒸発して、容器15の内部に形成された中空の蒸気通路21を通して、受熱部から温度の低い放熱部に向かって気相の作動流体となる蒸気が流れ、SHP1の内部で熱輸送が行われる。この放熱部45に輸送された熱は放熱部45に接触して熱接続する熱拡散部材42に熱拡散され、そこから筐体43の外部に放熱される。これにより携帯機器は、CPUなどの熱源41から発生する熱を熱拡散部材42に効率よく熱拡散することができるため、携帯機器の外郭表面に生ずるヒートスポットが緩和され、CPUなどの熱源41の温度上昇も抑制することができる。
【0051】
一方、SHP1の放熱部45では、容器15の内部で蒸気が凝縮して液相の作動流体が溜まるが、蒸気通路21に対向配置されたウィック31の強い毛細管力により、液相の作動流体が放熱部45から受熱部44へと戻される。微細な隙間32を有するウィック31は、上述した多孔質体、メッシュ51、金属箔61、不織布71のいずれの構成であっても、強い毛細管力で液相の作動流体を放熱部45から受熱部44へと円滑に流動させるため、薄型のウィック31でありながら高い毛細管力が得られ、SHP1として高い熱拡散性能が確保される。したがって、受熱部44で液相の作動流体が無くなることはなく、ここで液相の作動流体が再び蒸発して蒸気通路21を伝わり、放熱部45に導かれることで熱輸送が継続し、SHP1としての本来の性能が発揮される。
【0052】
図23は、
図2及び
図3で示した第1シート体11の実物を平面視で撮影したものである。また
図24は、
図23における第1シート体11を利用して完成したSHP1について、実験で熱源41を熱接続したときの温度分布を示したものである。この実験では、プレス絞り加工により成形された第1シート体11を含めて、2枚のシート体11,12を積み重ねて上述のように製造した完成状態のSHP1を用意し、SHP1の一側面右部「a」に熱源41を取り付けて、その熱源41からの発熱でSHP1の各部がどのような温度になるのかを測定した。
【0053】
その結果、熱源41を装着したSHP1の一側面右部「a」の温度が66.0℃であったのに対して、SHP1の一側面中央部「b」の温度は65.7℃となり、SHP1の一側面左部「c」の温度は65.5℃となった。つまりSHP1の全体で、表面の温度差は0.5℃程度に止まり、本実施形態のSHP1において十分な熱拡散性能が発揮されることが確認できた。
【0054】
以上のように本実施形態では、金属箔をプレス絞り加工のようなプレス加工により成形し、この成形品を含む2枚以上の金属箔として、例えば2枚の第1シート体11と第2シート体12を積み重ねて、幅dが2mm未満のフランジ部11B,12Bを接合することにより、液相の作動流体が封入される中空の容器15を形成するSHP1の製造方法を提供している。
【0055】
この場合、プレス加工で成形された金属箔を利用して、2枚以上の金属箔となる第1シート体11と第2シート体12を積み重ね、容器15の内容積を極力増やすために、幅dが2mm未満に形成されたフランジ部11B,12Bを接合して、作動流体が循環する中空の容器15を形成するだけで、十分な熱拡散性能を有し、且つ製造方法を簡素化したリーズナブルなエッチングレスのSHP1を提供できる。
【0056】
また本実施形態では、金属箔となるシート体11,12の肉厚t1,t2を何れも0.1mm未満とし、プレス加工により容器15の内部に凹状の蒸気通路21及びウィック収納部22を形成し、ウィック収納部22には微細な隙間32を有するシート状のウィック31を具備し、SHP1の総厚みとなる厚さT0を、携帯機器の薄型化に対応して0.4mm未満としたSHP1の製造方法を提供している。
【0057】
この場合、エッチングレスで厚さT0が0.4mm未満でありながら、気相の作動流体が通過する凹状の蒸気通路21と、シート状のウィック31を収納するウィック収納部22とを備えた薄型のSHP1を提供できる。また、容器15内部のウィック収納部22に、毛細管力を生じさせる微細な隙間32を有するシート状のウィック31を収納することで、ウィック31と蒸気通路21との間で、液相と気相の作動流体を円滑に還流させることが可能になり、十分な熱拡散性能が得られるSHP1を提供できる。
【0058】
また本実施形態では、プレス加工により容器15の内部に凹状の蒸気通路21が形成され、蒸気通路21となる領域には、容器15が大気圧に押されて潰れないようにするために、プレス加工により半球状や円柱状、擂り鉢状などの凸状の柱となる支柱11Cが形成され、支柱11C,11Cどうしの間となる隙間Lが、5mm以下の間隔をあけて配置されるSHP1の製造方法を提供している。
【0059】
このようにして、容器15の潰れを防止する支柱11Cを設けることで、容器15が大気圧で押されていても、容器15の内部で気相の作動流体を十分に通過させる蒸気通路21を確保できる。
【0060】
また、本実施形態のSHP1の製造方法において、容器15には、製造工程で作動流体の注入や真空引きを行なうために、容器15の内部と連通するノズル17が任意の位置に2つ以上具備されており、これらのノズル17には、容器15を密封状態にするための封止部18が設けられている。
【0061】
この場合、SHP1の製造工程において、容器15の異なる複数の箇所で、容器15の内部に作動流体を注入したり、容器15の内部を真空に引いたりすることが可能になる。また、SHP1の製造工程が終了した製品状態では、それぞれのノズル17に封止部18を設けることで、容器15の内部を密閉状態に維持して、薄型でも高い熱拡散性能を確保できる。
【0062】
また、本実施形態のSHP1の製造方法において、シート体11,12のフランジ部11B,12Bは、ロウ付け、レーザー溶接、拡散接合の何れかを用いて接合される。
【0063】
これにより、シート体11,12のフランジ部11B,12Bを接合する際に、例えばシート体11,12の材質に基づく任意の接合方法で要求に合わせることができ、SHP1としての設計の自由度を上げることが可能になる。
【0064】
また、本実施形態のSHP1の製造方法において、例えば
図11に示すように、積み重ねた金属箔の一方はプレス加工された成形品としての第1シート体11とし、金属箔のもう一方は平板となる非成形品としての第2シート体12としてもよい。
【0065】
この場合、積み重ねた金属箔の一方をプレス加工された成形品となる第1シート体11とし、金属箔のもう一方を平板となる第2シート体12とすることで、SHP1としての厚さ要求に合わせた設計が可能となり、設計の自由度を上げることができる。
【0066】
代わりに、例えば
図12に示すように、積み重ねた金属箔の一方ともう一方が、何れもプレス加工された成形品としての第1シート体11と第2シート体12であってもよい。
【0067】
この場合、積み重ねた金属箔の一方ともう一方を、何れもプレス加工された成形品となる第1シート体11と第2シート体12とすることで、SHP1としての厚さ要求に合わせた設計が可能となり、設計の自由度を上げることができる。
【0068】
また、本実施形態のSHP1の製造方法において、プレス加工により容器15の内部に凹状の蒸気通路21及びウィック収納部22を形成し、ウィック収納部22には微細な隙間32を有するシート状のウィック31を具備し、例えば
図13~
図15に示すように、プレス加工により柱となる支柱11C,12Cを形成して、容器15の潰れ防止機能やウィック31を押える機能を有するように、支柱11C,12CがSHP1の放熱部45側、受熱部44側、若しくは放熱部45側と受熱部44側の両方に配置されている。
【0069】
このように、SHP1の放熱部45側、受熱部44側、若しくは放熱部45側と受熱部44側の両方に支柱11C,12Cを設け、必要に応じてその支柱11C,12Cに容器15の潰れ防止機能やウィック31を押さえる機能を持たせることで、SHP1としての性能要求に合わせた設計が可能となり、設計の自由度を上げることができる。また、容器15内部のウィック収納部22に、毛細管力を生じさせる微細な隙間32を有するシート状のウィック31を収納することで、ウィック31と蒸気通路21との間で、液相と気相の作動流体を円滑に還流させることが可能になり、十分な熱拡散性能が得られるSHP1を提供できる。
【0070】
また、本実施形態のSHP1の製造方法において、シート体11,12となる金属箔の材質は、ステンレス、チタン、銅、若しくはそれらを主成分とする合金金属の何れかとするのが好ましい。
【0071】
この場合、SHP1の外郭をなすシート体11,12となる金属箔について、任意の材質で要求に合わせることができ、設計の自由度を上げることが可能になる。
【0072】
また、本実施形態のSHP1の製造方法において、容器15の内部に設けられるウィック31は一例として、直径D1が0.05mm以下の銅、ステンレス、若しくはチタンなどの金属線52で、かつ開き目H1が200um以下で編まれたメッシュ51であることが好ましい。これにより、薄型のウィック31でありながらメッシュ51による高い毛細管力が得られ、SHP1として高い熱拡散性能を確保できる。
【0073】
代わりに本実施形態のウィック31は、厚みT2が0.1mm以下で、その表面に毛細管力を生じる微細な交差した溝62と孔63を有し、銅、ステンレス、若しくはチタンなどからなる金属箔61としてもよい。これにより、薄型のウィック31でありながら金属箔61による高い毛細管力が得られ、SHP1として高い熱拡散性能を確保できる。
【0074】
代わりに本実施形態のウィック31は、銅、ステンレス、若しくはチタンなどの金属による粉体焼結を含む多孔質体からなる厚みが0.1mm以下のシートで、微細な孔としての隙間32を有するものでもよい。これにより、薄型のウィック31でありながら多孔質体による高い毛細管力が得られ、SHP1として高い熱拡散性能を確保できる。
【0075】
さらに本実施形態のウィック31は、直径D2が何れも0.03mm以下の金属線72,73で、密度が100g/m2~350g/m2を有する不織布71としてもよい。これにより、薄型のウィック31でありながら不織布71による高い毛細管力が得られ、SHP1として高い熱拡散性能を確保できる。
【0076】
次に、本発明の第2実施形態におけるSHP1について、添付の
図25を参照して詳しく説明する。同図において、本実施形態では容器15の内部において、第1実施形態で示した支柱11C,12Cに代わる複数の柱部材35が、ウィック31の表面から第1シート体11に形成された凹状のシート面部11Aに向けて縦横等間隔に配置されている。したがって、第1シート体11のシート面部11Aは、支柱11Cが設けられておらず凹凸のない平坦に形成される。これにより、特にSHP1の外郭表面となるシート面部11Aの外面に熱源41や熱拡散部材42を熱接続させたときの接触面積が増えて密着性が向上する。また、完成したSHP1を携帯機器の筐体43内に設置した後に、ユーザーが携帯機器の表示部に指などで圧力を加えたときに、その下に位置するSHP1の外郭表面が凹凸のない平坦面であれば、画面のゆがみを生じない利点もある。
【0077】
SHP1に関するその他の構成や製造方法と、各部の寸法は第1実施形態と共通するが、本実施形態でもノズル17は
図6で示したように、1つの容器15の任意の位置に2つ以上具備するのが好ましい。この場合も、各々のノズル17を利用して酸化膜および作動液の注入や真空引きを行ない、ノズル17の開口部17Aを封止部18で塞いだ後に、先端部17Bを根元から切り離せば、ノズル17の部分を容器15から突出させることなく、ノズル17に設けた封止部18により、容器15の内部を密閉状態に維持できる。
【0078】
凸状の柱部材35は、熱伝導性に優れた材料として、例えば銅、鉄、ステンレス、銅又は鉄を主成分とする合金金属、の何れかからなる金属多孔質の粉体焼結品や、粉体焼結に限定されない別部品で構成される。各々の柱部材35は同じ円柱などの柱形状で、若しくは複数の柱形状の組み合わせで、ウィック31の表面に接合される。つまり、ウィック31と柱部材35は別部材なので、多数の多孔質柱35を任意の形状で、位置や高さも支柱11Cのような制約を受けることなく、シート状のウィック31に設けておくことが可能となる。また、隣り合う柱部材35,35の間の隙間を上述した支柱11C,12Cと同じ条件とすることで、容器15が大気圧で潰れないように、柱部材35の全体で第1シート体11のシート面部11Aを支えながら、容器15の内部で気相の作動流体を十分に通過させる蒸気通路21を確保できる。
【0079】
各々の柱部材35には、ウィック31の隙間32と同様に、毛細管力を生じる微細な空隙(図示せず)が多数形成される。したがって、ここでの柱部材35は単に容器15の潰れを防止する機能だけでなく、液相の作動流体を強い毛細管力で主に蒸気通路21に向けて流動させる機能も兼用する。ウィック31に複数の柱部材35が接合されているウィック構造体を容器15の内部に設けることで、ウィック構造体の高い毛細管力による十分な熱拡散性能が得られる。また、ウィック31は、上述の多孔質体やメッシュ51や金属箔61や不織布71をそのまま適用できる。
【0080】
図26は、ウィック収納部22に複数枚重ねて収納したウィック31の一例を示したものである。ここでのウィック31は、
図16に示す2枚のメッシュ51A,51Bで構成される。
図26では、複数枚のウィック31であることを示すために、あえてメッシュ51Aの一部を折り返しているが、実際には同一形状のメッシュ51A,51Bが折り返されることなく、完全に重なってウィック収納部22に配設される。2枚以上のウィック31は、ここで示すメッシュ51の他に、上述の多孔質体や金属箔61や不織布71の何れであってもよく、また柱部材35を備えた1枚のウィック31と、柱部材35を備えていない別な1枚乃至複数枚のウィック31の組み合わせとしてもよい。
【0081】
このように、ウィック収納部22にウィック31を複数枚重ねて収納すると、ウィック31の枚数に比例してウィック31が保持できる液相の作動流体の量(保液量)を増加させることができ、SHP1としての性能が向上する。特に、1枚のウィック31では保液量に限界があって、蒸気通路21の一部に液相の作動流体が液溜まりのように残ると、気相の作動流体の流通がそこで妨げられてSHP1の性能が著しく低下するが、ウィック31を複数枚とすることで、そうした液溜まりを解消して、蒸気通路21全体で気相の作動流体を円滑に流通させることが可能となる。
【0082】
以上のように、本実施形態では容器15の内部にウィック31が設けられ、このウィック31には、容器15が大気圧に押されて潰れないようにするために、粉体焼結品または別部品による柱部材35が具備され、柱部材35に対向する金属箔の外郭表面として、第1シート体11のシート面部11Aの表面が平坦となるSHP1の製造方法を提供している。
【0083】
この場合、第1シート体11のシート面部11Aの表面が平坦になることで、放熱部品となる熱拡散部材42や発熱部品となる熱源41の密着性を上げることができ、SHP1として薄型でも高い性能を確保できる。
【0084】
また本実施形態では、ウィック31を1枚ではなく複数枚備えたSHP1の製造方法を提供している。
【0085】
この場合、ウィック31の枚数を増やす程、ウィック31に保持される液相の作動流体の量が増加するので、容器15の内部で液相の作動流体の一部を局所的に留めることなく、ウィック31を通して液相の作動流体全体を余すことなく循環させて、SHP1としてさらに高い熱拡散性能を確保できる。
【0086】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更可能である。例えば、第1実施形態の支柱11C,12Cや第2実施形態の多孔質柱35は、SHP1の受熱部44や放熱部45の位置に合わせて、個々の形状や配置間隔を変えるように構成してもよい。
【符号の説明】
【0087】
1 シート状ヒートパイプ
11 第1シート体(金属箔)
11C,12C 支柱(柱)
12 第2シート体(金属箔)
15 容器
17 ノズル
18 封止部
21 蒸気通路
22 ウィック収納部
31 ウィック
32 隙間(孔)
35 柱部材
44 受熱部
45 放熱部
51 メッシュ
52 金属線
61 金属箔
62 溝
63 孔
71 不織布
72,73 金属線