(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022030283
(43)【公開日】2022-02-18
(54)【発明の名称】多巻線モータを制御する制御装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/493 20070101AFI20220210BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20220210BHJP
【FI】
H02M7/493
H02M7/48 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020134167
(22)【出願日】2020-08-06
(71)【出願人】
【識別番号】390014384
【氏名又は名称】株式会社REJ
(74)【代理人】
【識別番号】100121119
【弁理士】
【氏名又は名称】花村 泰伸
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 洋治
(72)【発明者】
【氏名】廣中 隆
【テーマコード(参考)】
5H770
【Fターム(参考)】
5H770AA01
5H770BA01
5H770DA03
5H770DA22
5H770DA26
5H770DA30
5H770EA01
5H770EA02
5H770HA02Y
5H770HA03Y
5H770HA07Z
(57)【要約】
【課題】多巻線モータを複数のインバータを用いて制御する際に、PWMキャリアの位相をシフトしたときに生じる誤動作を防止する。
【解決手段】制御装置1の制御部10に備えた電流制御部23において、キャリア位相シフト処理部30は、他の制御部10における位相シフト設定値SSと同じにならないように、かつ、制御タイミングAを基準とした前後のタイミングと適用タイミングBとが一致しないように、位相シフト設定値SSを設定する。電流用補正角処理部31は、適用タイミングBから制御タイミングAまでの間の時間に対応する電流用補正角φ1を求める。磁極位置を電流用補正角φ1だけ遅らせることで、電流制御が行われる。電圧用補正角処理部32は、制御タイミングAから適用タイミングBまでの間の時間に対応する電圧用補正角φ2を求める。磁極位置を電圧用補正角φ2だけ進めることで、電圧指令の演算が行われる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の制御部、及び前記複数の制御部に対応する複数のパワー部を備え、
前記複数の制御部のうちの所定の1つの制御部をマスターとし、前記マスターが使用するキャリアを基準位相キャリアとし、前記基準位相キャリアの極性が変化するタイミングを前記複数の制御部にて共通の制御タイミングAとし、前記複数の制御部のそれぞれが使用する前記キャリアの山及び谷のタイミングを適用タイミングBとし、前記制御タイミングA及び前記適用タイミングBが前記キャリアにて繰り返されるものとし、
前記複数の制御部のそれぞれが、
前記適用タイミングBにて、多巻線モータに流れる電流の値を電流フィードバックとしてラッチし、前記適用タイミングBの後の前記制御タイミングAにて、所定のd軸電流指令id*及び所定のq軸電流指令iq*とラッチした前記電流フィードバックから得られるd軸電流フィードバックid及びq軸電流フィードバックiqとの間のそれぞれの偏差がゼロとなるように電流制御を行うことでd軸電圧指令vd*及びq軸電圧指令vq*を生成し、前記d軸電圧指令vd*及び前記q軸電圧指令vq*から得られる3相交流電圧指令Vu,Vv,Vw、及び当該制御部が使用する前記キャリアに基づいて、PWMのゲート信号Gを生成し、前記制御タイミングAの後の前記適用タイミングBにて、前記ゲート信号Gを出力し、
前記複数のパワー部のそれぞれが、
当該パワー部に対応する前記制御部により出力された前記ゲート信号Gに基づいて、当該パワー部に対応するインバータを駆動し、前記多巻線モータを並列制御する制御装置において、
前記複数の制御部のそれぞれは、
前記制御タイミングAの前後に設けられた所定のデッドバンドと前記適用タイミングBとが一致しないように、前記基準位相キャリアに対する位相シフト量を示す位相シフト設定値SSを設定するキャリア位相シフト処理部と、
前記基準位相キャリアに対し、前記キャリア位相シフト処理部により設定された前記位相シフト設定値SSだけ位相シフトしたキャリアを発生し、前記3相交流電圧指令Vu,Vv,Vw及び前記位相シフトしたキャリアに基づいて、前記ゲート信号Gを生成するPWM部と、
を備えたことを特徴とする制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の制御装置において、
前記キャリア位相シフト処理部は、
予め設定されたキャリア周波数をf、前記多巻線モータのモータ巻線数をN、当該制御部により制御が行われる前記多巻線モータの巻線位置をnとして、式:(360/N)×nにより、基本シフト値SFを算出する基本シフト算出部と、
前記基本シフト算出部により算出された前記基本シフト値SFが前記デッドバンドの領域内にあると判定した場合、前記デッドバンドの領域における両端のうちのいずれかの端を選択し、選択した前記端の側の角度であって前記デッドバンドの領域外となる前記角度を、前記位相シフト設定値SSとして設定し、前記基本シフト値SFが前記デッドバンドの領域内にないと判定した場合、前記基本シフト値SFを前記位相シフト設定値SSとして設定するシフト設定処理部と、
を備えたことを特徴とする制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の制御装置において、
前記複数の制御部のそれぞれは、
さらに、前記適用タイミングBから前記制御タイミングAまでの間の時間に対応する電流用補正角φ1を求める電流用補正角処理部と、
前記多巻線モータの磁極位置の角度から、前記電流用補正角処理部により求めた前記電流用補正角φ1を減算し、電気角θ1を求める減算器と、
前記減算器により求めた電気角θ1に基づいて、ラッチした前記電流フィードバックを、前記d軸電流フィードバックid及び前記q軸電流フィードバックiqに座標変換する第1の座標変換部と、
を備えたことを特徴とする制御装置。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか一項に記載の制御装置において、
前記複数の制御部のそれぞれは、
さらに、前記制御タイミングAから前記適用タイミングBまでの間の時間に対応する電圧用補正角φ2を求める電圧用補正角処理部と、
前記多巻線モータの磁極位置の角度に、前記電圧用補正角処理部により求めた前記電圧用補正角φ2を加算し、電気角θ2を求める加算器と、
前記加算器により求めた前記電気角θ2に基づいて、前記d軸電圧指令vd*及び前記q軸電圧指令vq*を前記3相交流電圧指令Vu,Vv,Vwに座標変換する第2の座標変換部と、
を備えたことを特徴とする制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多巻線モータを並列制御する制御装置に関し、特に、キャリア位相をシフトしてインバータのPWM(Pulse Width Modulation:パルス幅変調)制御を行う制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、多巻線モータ等の1台のモータを、複数のインバータを用いて駆動するモータ制御システムが知られている。複数のインバータのそれぞれは、多巻線モータを構成する巻線に対応して設置される。
【0003】
このようなモータ制御システムの複数のインバータについては、制御周期に同期して運転することが求められる。このため、全てのインバータの制御周期が同期した場合には、PWM制御を実現するために用いるPWMキャリアも同期することとなる。
【0004】
複数のインバータに使用するそれぞれのPWMキャリアが同期し、同時にIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲート型バイポーラートランジスタ)のゲートをスイッチングした場合には、コモンモードノイズ、漏れ電流が重畳されてしまうという問題があった。
【0005】
このような問題を解決するために、複数のインバータに対して、PWMキャリアの位相を360deg/N(Nはインバータの数(巻線の数))シフトして制御する手法が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0006】
また、多巻線モータ側からインバータ等の電源側へ流れ込む大地電流を効果的に抑制するために、速度指令に応じてPWMキャリアの位相シフト量を変更する手法も提案されている(例えば、特許文献2を参照)。
【0007】
このように、PWMキャリアの位相をシフトすることにより、コモンモードノイズを分散することができ、漏れ電流を減少させることができる。
【0008】
ところで、モータ制御システムに用いる制御装置は、多巻線モータを構成するそれぞれの巻線に対応した制御部を備え、それぞれの制御部により生成されるゲート信号を、巻線に対応するインバータへ出力することで、多巻線モータの制御を実現する。
【0009】
図13は、従来のモータ制御システムにおいて、制御タイミングA、適用タイミングB等を説明する図である。制御タイミングAは、制御部が制御演算を行うタイミングを示す。また、適用タイミングBは、外部のセンサ等から入力するデータをラッチ等するタイミング(入力データを更新するタイミング)を示し、また、外部へデータを出力するタイミング(出力データを更新するタイミング)を示す。
図13では、3台のインバータを用いた場合のキャリア周波数f=5kHz(キャリア周期T=200μs)及び制御周期CT=100μsの例を示しており、3台のインバータを制御するそれぞれの制御部(3つの制御部)のうち、2つの制御部における信号が示されている。
【0010】
図13の上部には、基準となるマスターの制御部におけるキャリアc1等のタイミングが示されており、下部には、キャリアの位相シフト量を示す位相シフト設定値SS=120degのときのスレーブの制御部におけるキャリアc2等のタイミングが示されている。
【0011】
一般に、モータ制御システムに用いる制御装置においては、複数のインバータ(複数の巻線)に共通した制御タイミングAにて、制御演算が行われる。この制御タイミングAは、マスターの制御部が使用するキャリアc1の三角波において、極性が変化するタイミングが用いられる。
図13の例では、制御タイミングAは、制御演算のための電流FB(フィードバック)取得タイミング、電圧指令演算タイミング及びエンコーダデータ取得タイミングである。
【0012】
スレーブの制御部においては、制御タイミングAは、当該制御部が使用するキャリアc2ではなく、マスターの制御部が使用するキャリアc1の三角波において極性が変化するタイミングが用いられる。制御タイミングAにおいて、電圧指令演算値aが更新される。
【0013】
このように、制御タイミングAは、マスターの制御部が使用するキャリアc1により定められ、全ての制御部において共通のタイミングとなる。
【0014】
また、制御装置においては、複数のインバータに共通した制御タイミングAとは異なる適用タイミングBにて、入出力信号の適用、すなわち電流FBのラッチ及び電圧指令の適用が行われる。この適用タイミングBは、マスターの制御部においてキャリアc1の三角波の山及び谷のタイミングが用いられる。また、適用タイミングBは、スレーブの制御部においてキャリアc2の三角波の山及び谷のタイミングが用いられる。
【0015】
図13の例では、適用タイミングBは、電流FBラッチタイミング及び電圧指令適用タイミングである。適用タイミングBにおいて、電流FBbがラッチされて電流FBラッチb1として更新され、電圧指令適用値b2も更新される。電流FBラッチb1は、入力データとして制御タイミングAにて制御演算に用いられ、電圧指令適用値b2は、制御タイミングAにて制御演算により得られたデータ(出力データ)として出力される。
【0016】
このように、適用タイミングBは、各制御部が使用するキャリアc1,c2により、それぞれ独立して定められる。
【0017】
適用タイミングBを、キャリアc1,c2の三角波の山及び谷のタイミングとしたのは、インバータのゲートがスイッチングするタイミングを回避し、電流FBラッチb1等のデータの安定化を図るためである。
【0018】
このように、各制御部において使用するキャリアc1,c2において、制御タイミングA及び適用タイミングBが周期的に繰り返される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開昭63-305793号公報
【特許文献2】特開2018-85837号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
図13に示したとおり、制御装置は、適用タイミングBにて、電流FBbをラッチして電流FBラッチb1を更新し(入力し)、その後の制御タイミングAにて、更新した電流FBラッチb1を用いて制御演算を行う。また、制御装置は、制御タイミングAにて、制御演算を行うことで電圧指令演算値aを求め、その後の適用タイミングBにて、電圧指令演算値aを電圧指令適用値b2として更新する(出力する)。
【0021】
ここで、制御装置に、特許文献1の手法(PWMキャリアの位相を360deg/Nシフトして制御する手法)を適用した場合、または特許文献2の手法(速度指令に応じてPWMキャリアの位相シフト量を変更する手法)を適用した場合を想定する。
【0022】
この場合、キャリアの位相シフト量を定める位相シフト設定値SSによっては、スレーブの制御部において、制御タイミングA(を基準とした所定のタイミング)と適用タイミングBとが一致することがあり得る。
【0023】
制御タイミングA及び適用タイミングBが一致する場合、制御装置は、制御タイミングAの制御演算において、同じタイミングの適用タイミングBにて更新された電流FBラッチb1を使用したり、1スキャン前の適用タイミングBにて更新された電流FBラッチb1を使用したりする。
【0024】
また、制御装置は、適用タイミングBにおいて、同じタイミングの制御タイミングAにて制御演算された電圧指令演算値aを電圧指令適用値b2として更新したり、1スキャン前の制御タイミングAにて制御演算された電圧指令演算値aを電圧指令適用値b2として更新したりする。
【0025】
このように、タイミングによっては同じスキャンのデータを用いて処理したり、1スキャン前のデータを用いて処理したりする等、制御が不安定となり、誤動作が生じる可能性がある。
【0026】
そこで、本発明は前記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、多巻線モータを複数のインバータを用いて制御する際に、PWMキャリアの位相をシフトしたときに生じる誤動作を防止する制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0027】
前記課題を解決するために、請求項1の制御装置は、複数の制御部、及び前記複数の制御部に対応する複数のパワー部を備え、前記複数の制御部のうちの所定の1つの制御部をマスターとし、前記マスターが使用するキャリアを基準位相キャリアとし、前記基準位相キャリアの極性が変化するタイミングを前記複数の制御部にて共通の制御タイミングAとし、前記複数の制御部のそれぞれが使用する前記キャリアの山及び谷のタイミングを適用タイミングBとし、前記制御タイミングA及び前記適用タイミングBが前記キャリアにて繰り返されるものとし、前記複数の制御部のそれぞれが、前記適用タイミングBにて、多巻線モータに流れる電流の値を電流フィードバックとしてラッチし、前記適用タイミングBの後の前記制御タイミングAにて、所定のd軸電流指令id*及び所定のq軸電流指令iq*とラッチした前記電流フィードバックから得られるd軸電流フィードバックid及びq軸電流フィードバックiqとの間のそれぞれの偏差がゼロとなるように電流制御を行うことでd軸電圧指令vd*及びq軸電圧指令vq*を生成し、前記d軸電圧指令vd*及び前記q軸電圧指令vq*から得られる3相交流電圧指令Vu,Vv,Vw、及び当該制御部が使用する前記キャリアに基づいて、PWMのゲート信号Gを生成し、前記制御タイミングAの後の前記適用タイミングBにて、前記ゲート信号Gを出力し、前記複数のパワー部のそれぞれが、当該パワー部に対応する前記制御部により出力された前記ゲート信号Gに基づいて、当該パワー部に対応するインバータを駆動し、前記多巻線モータを並列制御する制御装置において、前記複数の制御部のそれぞれが、前記制御タイミングAの前後に設けられた所定のデッドバンドと前記適用タイミングBとが一致しないように、前記基準位相キャリアに対する位相シフト量を示す位相シフト設定値SSを設定するキャリア位相シフト処理部と、前記基準位相キャリアに対し、前記キャリア位相シフト処理部により設定された前記位相シフト設定値SSだけ位相シフトしたキャリアを発生し、前記3相交流電圧指令Vu,Vv,Vw及び前記位相シフトしたキャリアに基づいて、前記ゲート信号Gを生成するPWM部と、を備えたことを特徴とする。
【0028】
また、請求項2の制御装置は、請求項1に記載の制御装置において、前記キャリア位相シフト処理部が、予め設定されたキャリア周波数をf、前記多巻線モータのモータ巻線数をN、当該制御部により制御が行われる前記多巻線モータの巻線位置をnとして、式:(360/N)×nにより、基本シフト値SFを算出する基本シフト算出部と、前記基本シフト算出部により算出された前記基本シフト値SFが前記デッドバンドの領域内にあると判定した場合、前記デッドバンドの領域における両端のうちのいずれかの端を選択し、選択した前記端の側の角度であって前記デッドバンドの領域外となる前記角度を、前記位相シフト設定値SSとして設定し、前記基本シフト値SFが前記デッドバンドの領域内にないと判定した場合、前記基本シフト値SFを前記位相シフト設定値SSとして設定するシフト設定処理部と、を備えたことを特徴とする。
【0029】
また、請求項3の制御装置は、請求項1または2に記載の制御装置において、前記複数の制御部のそれぞれが、さらに、前記適用タイミングBから前記制御タイミングAまでの間の時間に対応する電流用補正角φ1を求める電流用補正角処理部と、前記多巻線モータの磁極位置の角度から、前記電流用補正角処理部により求めた前記電流用補正角φ1を減算し、電気角θ1を求める減算器と、前記減算器により求めた電気角θ1に基づいて、ラッチした前記電流フィードバックを、前記d軸電流フィードバックid及び前記q軸電流フィードバックiqに座標変換する第1の座標変換部と、を備えたことを特徴とする。
【0030】
また、請求項4の制御装置は、請求項1から3までのいずれか一項に記載の制御装置において、前記複数の制御部のそれぞれが、さらに、前記制御タイミングAから前記適用タイミングBまでの間の時間に対応する電圧用補正角φ2を求める電圧用補正角処理部と、前記多巻線モータの磁極位置の角度に、前記電圧用補正角処理部により求めた前記電圧用補正角φ2を加算し、電気角θ2を求める加算器と、前記加算器により求めた前記電気角θ2に基づいて、前記d軸電圧指令vd*及び前記q軸電圧指令vq*を前記3相交流電圧指令Vu,Vv,Vwに座標変換する第2の座標変換部と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0031】
以上のように、本発明によれば、多巻線モータを複数のインバータを用いて制御する際に、PWMキャリアの位相をシフトしたときに生じる誤動作を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明の実施形態による制御装置を含むモータ制御システムの構成例を示す全体図である。
【
図2】マスターの制御部の構成例を示すブロック図である。
【
図3】スレーブの制御部の構成例を示すブロック図である。
【
図4】電流制御部の構成例を示すブロック図である。
【
図6】第一例のキャリア位相シフト処理部の構成例を示すブロック図である。
【
図7】デッドバンドテーブルの構成例を示す図である。
【
図8】シフト設定処理部の処理例を説明する図である。
【
図9】第二例のキャリア位相シフト処理部の構成例を示すブロック図である。
【
図11】PWM部の構成例を示すブロック図である。
【
図12】フェーズシフト回路の構成例を示すブロック図である。
【
図13】従来のモータ制御システムにおいて、制御タイミングA、適用タイミングB等を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明を実施するための形態について図面を用いて詳細に説明する。
〔モータ制御システム〕
図1は、本発明の実施形態による制御装置を含むモータ制御システムの構成例を示す全体図である。このモータ制御システムは、制御装置1、多巻線モータ2及びエンコーダ3を備えて構成される。
図1において、商用電源、コンバータ及びインバータ等の電源系統の記載は省略してある。
【0034】
制御装置1は、制御部10-1,10-2,・・・,10-9、及び対応するパワー部11-1,11-2,・・・,11-9を備えている。制御部10-1は、マスターの制御部であり、制御部10-2,・・・,10-9は、スレーブの制御部である。
【0035】
以下、制御部10-1,10-2,・・・,10-9を総称して制御部10といい、パワー部11-1,11-2,・・・,11-9を総称してパワー部11といい、スレーブの制御部10-2,・・・,10-9を総称してスレーブの制御部10という。
【0036】
また、パワー部11-1,11-2,・・・,11-9のそれぞれが対応する図示しない電流センサから入力し、制御部10-1,10-2,・・・,10-9のそれぞれが対応するパワー部11-1,11-2,・・・,11-9から入力するU相出力電流iu1,iu2,・・・,iu9及びW相出力電流iw1,iw2,・・・,iw9を総称して、U相出力電流iu及びW相出力電流iw(まとめて、出力電流iu,iw)という。出力電流iu,iwは、多巻線モータ2に流れる電流のフィードバックの値を示す。
【0037】
また、制御部10-1,10-2,・・・,10-9のそれぞれが対応するパワー部11-1,11-2,・・・,11-9に出力するゲート信号G1,G2,・・・,G9を総称してゲート信号Gという。
【0038】
また、パワー部11-1,11-2,・・・,11-9のそれぞれが多巻線モータ2へ出力する3相交流電圧e1*,e2*,・・・,e9*を総称して3相交流電圧e*という。尚、
図1は、本発明に直接関連する構成を示しており、直接関連しない構成は省略してある。
【0039】
制御部10は、当該制御部10に対応する多巻線モータ2(ここでは、9巻線モータ)の巻線を、d軸及びq軸にてベクトル制御する。制御部10は、d軸電流指令id*及びq軸電流指令iq*を電流制御することで、d軸電圧指令vd*及びq軸電圧指令vq*を生成し、これらを座標変換して3相交流電圧指令Vu,Vv,Vwを生成する。
【0040】
制御部10は、所定の条件に従って、キャリアcの位相シフト量を示す位相シフト設定値SSを求める。
【0041】
制御部10は、位相シフト設定値SSに基づいてキャリアcの位相をシフトし、位相シフト後のキャリアc及び3相交流電圧指令Vu,Vv,Vwに基づいてゲート信号Gを生成し、ゲート信号Gを、対応するパワー部11に出力する。
【0042】
マスターの制御部10-1は、エンコーダ3から後述するエンコーダデータを入力し、エンコーダデータに基づいて磁極位置及びトルク指令を生成する。そして、制御部10-1は、同期信号、磁極位置、トルク指令等を制御部10-2に出力する。
【0043】
制御部10-2は、制御部10-1から同期信号、磁極位置及びトルク指令等を入力し、これらのデータを制御部10-3に出力する。このように、スレーブの制御部10は、左隣のスレーブの制御部10からこれらのデータを入力し、右隣のスレーブの制御部10に出力する。同期信号は、後述する電流制御部23の動作開始タイミング、全ての制御部10において共通の制御タイミングA、全ての制御部10において独立の適用タイミングB等を決定するために用いられる。
【0044】
本発明の実施形態では、スレーブの制御部10は、位相シフト設定値SSを設定する際に、位相シフト設定値SSに基づいた位相シフト後のキャリアcにおいて、
図13に示した制御タイミングA及び適用タイミングBが一致しないようにする。具体的には、スレーブの制御部10は、制御タイミングAの前後の所定のタイミングと適用タイミングBとが重ならないように、位相シフト設定値SSを設定する。
【0045】
また、本発明の実施形態では、制御部10は、位相シフト設定値SSに基づいた位相シフト後のキャリアcを用いてゲート信号Gを生成する際に、出力電流iu,iwを入力してラッチする適用タイミングBから、実際に出力電流iu,iwからd軸電流フィードバックid及びq軸電流フィードバックiqを求めて電流制御の演算を行う制御タイミングAまでの間の時間を考慮するために、当該時間だけ磁極位置を遅らせることで電流制御を行う。
【0046】
また、本発明の実施形態では、制御部10は、位相シフト設定値SSに基づいた位相シフト後のキャリアcを用いてゲート信号Gを生成する際に、d軸電圧指令vd*及びq軸電圧指令vq*から3相交流電圧指令Vu,Vv,Vwを演算する制御タイミングAから、実際に出力が行われる適用タイミングBまでの間の時間を考慮するために、当該時間だけ磁極位置を進ませることで3相交流電圧指令Vu,Vv,Vwの演算を行う。
【0047】
パワー部11は、対応する制御部10からゲート信号を入力し、ゲート信号に基づいて、インバータの直流バス電圧をスイッチングして3相交流電圧e*を生成し、3相交流電圧e*を多巻線モータ2へ供給する。
【0048】
エンコーダ3は、多巻線モータ2の回転に応じたパルス信号をエンコーダデータとして発生する。このエンコーダデータのカウント値からエンコーダ3の回転速度である速度フィードバックが得られる。
【0049】
〔制御部10-1〕
次に、
図1に示したマスターの制御部10-1について説明する。
図2は、マスターの制御部10-1の構成例を示すブロック図である。この制御部10-1は、磁極位置演算部20、速度制御部21、マスターの同期通信部22-1及び電流制御部23を備えている。マスターの同期通信部22-1、後述する
図3に示すスレーブの同期通信部22-2等を総称して同期通信部22という。
【0050】
磁極位置演算部20は、エンコーダ3からエンコーダデータを入力し、エンコーダデータに基づいて、多巻線モータ2の磁極位置を求める。そして、磁極位置演算部20は、磁極位置を同期通信部22-1に出力する。
【0051】
速度制御部21は、エンコーダ3からエンコーダデータを入力し、予め設定された速度指令とエンコーダデータから得られる速度(多巻線モータ2の回転速度)との間の差が0となるように、トルク指令を求め、トルク指令を同期通信部22-1に出力する。
【0052】
マスターの同期通信部22-1は、磁極位置演算部20から磁極位置を入力すると共に、速度制御部21からトルク指令を入力する。そして、同期通信部22-1は、所定の同期信号、並びに磁極位置及びトルク指令等のデータを、後述する
図3に示すスレーブの同期通信部22-2に出力する。また、同期通信部22-1は、磁極位置及びトルク指令を電流制御部23に出力する。
【0053】
電流制御部23は、同期通信部22-1から磁極位置及びトルク指令を入力すると共に、対応するパワー部11-1から出力電流iu1,iw1を入力する。そして、電流制御部23は、トルク指令をq軸電流指令iq*に変換すると共に、出力電流iu1,iw1を座標変換してd軸電流フィードバックid及びq軸電流フィードバックiqを生成する。
【0054】
電流制御部23は、磁極位置に基づき、q軸電流指令iq*及びq軸電流フィードバックiq等を用いてd軸及びq軸にてベクトル制御することで、ゲート信号G1を生成し、ゲート信号G1を対応するパワー部11-1に出力する。電流制御部23の詳細については後述する。
【0055】
〔制御部10-2〕
次に、
図1に示したスレーブの制御部10-2について説明する。
図3は、スレーブの制御部10-2の構成例を示すブロック図である。この制御部10-2は、スレーブの同期通信部22-2及び電流制御部23を備えている。制御部10-2の構成と制御部10-3,・・・,10-9のそれぞれの構成は、同じである。
【0056】
スレーブの同期通信部22-2は、
図2に示したマスターの同期通信部22-1から、同期信号、並びに磁極位置及びトルク指令等のデータを入力する。そして、同期通信部22-2は、入力した同期信号、並びに磁極位置及びトルク指令等のデータを、制御部10-3に備えた同期通信部22-3に出力する。また、同期通信部22-2は、磁極位置及びトルク指令を電流制御部23に出力する。
【0057】
電流制御部23は、
図2に示した電流制御部23と同一の構成をなし、同一の処理を行う。電流制御部23の詳細については後述する。
【0058】
このように、同期信号、並びに磁極位置及びトルク指令等のデータは、マスターの同期通信部22-1からスレーブの同期通信部22-2に出力される。結果として、全ての制御部10において、同期信号、並びに磁極位置及びトルク指令等のデータを保持することとなる。
【0059】
そして、制御部10は、同期信号に基づいて、電流制御部23の動作開始タイミングを決定し、位相シフト設定値SSだけ位相シフトしたキャリアcを発生する。また、制御部10は、同期信号に基づいて、マスターの制御部10-1にて発生したキャリアc1の三角波の極性が変化するタイミングを、共通の制御タイミングAとして決定する。また、制御部10は、当該制御部10にて発生したキャリアcにおける三角波の山及び谷のタイミングを、適用タイミングBとして決定する。
【0060】
〔電流制御部23〕
次に、
図2及び
図3に示した電流制御部23について説明する。
図4は、電流制御部23の構成例を示すブロック図である。
【0061】
この電流制御部23は、キャリア位相シフト処理部30、電流用補正角処理部31、電圧用補正角処理部32、減算器33,38,39、加算器34,43,44、座標変換部35,45、d軸電流指令生成器36、トルク指令変換器37、d軸電流制御器40、q軸電流制御器41、非干渉補償制御器42及びPWM部46を備えている。
【0062】
キャリア位相シフト処理部30は、PWM部46にて発生するキャリアcに対する位相シフト量に相当する位相シフト設定値SSを、以下の条件を満たすように、任意にまたは所定の処理にて設定する。具体的には、キャリア位相シフト処理部30は、他の制御部10における位相シフト設定値SSと同じにならないように、かつ、全ての制御部10にて共通の制御タイミングAを基準とした前後の所定のタイミングと、PWM部46にて発生するキャリアcの山及び谷のタイミングである適用タイミングBとが一致しないように、位相シフト設定値SSを設定する。
【0063】
キャリア位相シフト処理部30は、位相シフト設定値SSを電流用補正角処理部31、電圧用補正角処理部32及びPWM部46に出力する。キャリア位相シフト処理部30の詳細については後述する。
【0064】
電流用補正角処理部31は、キャリア位相シフト処理部30から位相シフト設定値SSを入力する。そして、電流用補正角処理部31は、出力電流iu,iwを入力してラッチする適用タイミングBから、ラッチした出力電流iu,iwを用いてd軸電流フィードバックid及びq軸電流フィードバックiqを求めて電流制御の演算を行う制御タイミングAまでの間の時間を求める。電流用補正角処理部31は、当該時間に対応する電流用補正角φ1を求め、電流用補正角φ1を減算器33に出力する。
【0065】
この場合、電流用補正角処理部31は、同期信号及び位相シフト設定値SSに基づいて適用タイミングBを特定し、同期信号に基づいて制御タイミングAを特定し、適用タイミングBから制御タイミングAまでの間の時間を求める。
【0066】
これにより、後述する減算器33において、適用タイミングBから制御タイミングAまでの間の時間だけ磁極位置を遅らせることができる。そして、制御タイミングAにおいて、当該制御タイミングAよりも前の適用タイミングBの磁極位置に対応した電流制御を実現することができる。
【0067】
この処理は、全ての制御部10の電流用補正角処理部31においてそれぞれ行われる。なぜならば、キャリアcの位相をシフトした場合、その位相に応じて、適用タイミングBから制御タイミングAまでの間の時間が変わるからである。
【0068】
電圧用補正角処理部32は、キャリア位相シフト処理部30から位相シフト設定値SSを入力する。そして、電圧用補正角処理部32は、d軸電圧指令vd*及びq軸電圧指令vq*から3相交流電圧指令Vu,Vv,Vwを演算する制御タイミングAから、実際に出力が行われる適用タイミングBまでの間の時間を求める。電圧用補正角処理部32は、当該時間に対応する電圧用補正角φ2を求め、電圧用補正角φ2を加算器34に出力する。
【0069】
この場合、電圧用補正角処理部32は、同期信号に基づいて制御タイミングAを特定し、同期信号及び位相シフト設定値SSに基づいて適用タイミングBを特定し、制御タイミングAから適用タイミングBまでの間の時間を求める。
【0070】
これにより、後述する加算器34において、制御タイミングAから適用タイミングBまでの間の時間だけ磁極位置を進めることができる。そして、制御タイミングAにおいて、当該制御タイミングよりも後の適用タイミングBの磁極位置に対応した制御演算を実現することができ、適用タイミングBにおいて、当該適用タイミングBの磁極位置に対応した出力処理を実現することができる。
【0071】
この処理は、全ての制御部10の電圧用補正角処理部32においてそれぞれ行われる。なぜならば、キャリアcの位相をシフトした場合、その位相に応じて、制御タイミングAから適用タイミングBまでの間の時間が変わるからである。
【0072】
減算器33は、同期通信部22から磁極位置を入力すると共に、電流用補正角処理部31から電流用補正角φ1を入力する。そして、減算器33は、磁極位置の角度から電流用補正角φ1を減算することで電気角θ1を求め、電気角θ1を座標変換部35に出力する。
【0073】
これにより、磁極位置に対して電流用補正角φ1(当該制御部10において、適用タイミングBからその後の制御タイミングAまでの間の時間に対応する角度)だけ遅らせた位置情報として、電気角θ1を求めることができる。
【0074】
加算器34は、同期通信部22から磁極位置を入力すると共に、電圧用補正角処理部32から電圧用補正角φ2を入力する。そして、加算器34は、磁極位置の角度に電圧用補正角φ2を加算することで電気角θ2を求め、電気角θ2を座標変換部45に出力する。
【0075】
これにより、磁極位置に対して電圧用補正角φ2(当該制御部10において、制御タイミングAからその後の適用タイミングBまでの間の時間に対応する角度)だけ進めた位置情報として、電気角θ2を求めることができる。
【0076】
座標変換部35は、対応するパワー部11から出力電流iu,iwを入力すると共に、減算器33から電気角θ1を入力し、U相出力電流iu及びW相出力電流iwからV相出力電流ivを求める。
【0077】
座標変換部35は、電気角θ1に基づいて、U相出力電流iu、W相出力電流iw及びV相出力電流ivをd軸電流フィードバックid及びq軸電流フィードバックiqに座標変換する。そして、座標変換部35は、d軸電流フィードバックidを減算器38に出力し、q軸電流フィードバックiqを減算器39に出力する。
【0078】
これにより、当該制御部10の適用タイミングBの出力電流iu,iw(ラッチした出力電流iu,iw)に対し、適用タイミングBの電気角θ1を用いて、d軸電流フィードバックid及びq軸電流フィードバックiqが求められる。このd軸電流フィードバックid及びq軸電流フィードバックiqは、制御タイミングAの演算に用いられる。
【0079】
d軸電流指令生成器36は、所定の演算によりd軸電流指令id*を生成し、d軸電流指令id*を減算器38に出力する。トルク指令変換器37は、同期通信部22からトルク指令を入力し、所定の演算によりトルク指令をq軸電流指令iq*に変換し、q軸電流指令iq*を減算器39に出力する。
【0080】
減算器38は、d軸電流指令生成器36からd軸電流指令id*を入力すると共に、座標変換部35からd軸電流フィードバックidを入力する。そして、減算器38は、d軸電流指令id*からd軸電流フィードバックidを減算することでd軸電流偏差を求め、d軸電流偏差をd軸電流制御器40に出力する。
【0081】
減算器39は、トルク指令変換器37からq軸電流指令iq*を入力すると共に、座標変換部35からq軸電流フィードバックiqを入力する。そして、減算器39は、q軸電流指令iq*からq軸電流フィードバックiqを減算することでq軸電流偏差を求め、q軸電流偏差をq軸電流制御器41に出力する。
【0082】
d軸電流制御器40は、減算器38からd軸電流偏差を入力し、d軸電流偏差が0となるように、PI制御器による電流制御を行うことでd軸電圧指令vd*’を求める。そして、d軸電流制御器40は、d軸電圧指令vd*’を加算器43に出力する。
【0083】
これにより、制御タイミングAに対して電流用補正角φ1だけ遅れたd軸電流フィードバックidを用いて、制御タイミングAにてd軸電流制御が行われ、d軸電圧指令vd*’が求められる。
【0084】
q軸電流制御器41は、減算器39からq軸電流偏差を入力し、q軸電流偏差が0となるように、PI制御器による電流制御を行うことでq軸電圧指令vq*’を求める。そして、q軸電流制御器41は、q軸電圧指令vq*’を加算器44に出力する。
【0085】
これにより、制御タイミングAに対して電流用補正角φ1だけ遅れたq軸電流フィードバックiqを用いて、制御タイミングAにてq軸電流制御が行われ、q軸電圧指令vq*’が求められる。
【0086】
非干渉補償制御器42は、d軸電圧指令vd*’、q軸電圧指令vq*’及びエンコーダデータに基づき、既知の処理にてd軸電圧指令vd*’とq軸電圧指令vq*’との間の干渉を補償するためのd軸電圧補償値及びq軸電圧補償値を求める。そして、非干渉補償制御器42は、d軸電圧補償値を加算器43に出力し、q軸電圧補償値を加算器44に出力する。
【0087】
加算器43は、d軸電流制御器40からd軸電圧指令vd*’を入力すると共に、非干渉補償制御器42からd軸電圧補償値を入力し、d軸電圧指令vd*’にd軸電圧補償値を加算することで、非干渉補償されたd軸電圧指令vd*を求める。そして、加算器43は、d軸電圧指令vd*を座標変換部45に出力する。
【0088】
加算器44は、q軸電流制御器41からq軸電圧指令vq*’を入力すると共に、非干渉補償制御器42からq軸電圧補償値を入力し、q軸電圧指令vq*’にq軸電圧補償値を加算することで、非干渉補償されたq軸電圧指令vq*を求める。そして、加算器44は、q軸電圧指令vq*を座標変換部45に出力する。
【0089】
座標変換部45は、加算器43からd軸電圧指令vd*を入力すると共に、加算器44からq軸電圧指令vq*を入力し、さらに加算器34から電気角θ2を入力する。
【0090】
座標変換部45は、電気角θ2に基づいて、d軸電圧指令vd*及びq軸電圧指令vq*を3相交流電圧指令Vu,Vv,Vwに座標変換し、3相交流電圧指令Vu,Vv,VwをPWM部46に出力する。
【0091】
これにより、制御タイミングAに対し、電圧用補正角φ2だけ進めた適用タイミングBの電圧指令として、3相交流電圧指令Vu,Vv,Vwが求められる。この3相交流電圧指令Vu,Vv,Vw及び
図4には示していないバス電圧に基づいて、後段のPWM部46にてゲート信号Gが生成され、後段の対応するパワー部11にて3相交流電圧e*が生成され多巻線モータ2へ供給される。
【0092】
PWM部46は、座標変換部45から3相交流電圧指令Vu,Vv,Vwを入力すると共に、キャリア位相シフト処理部30から位相シフト設定値SSを入力する。そして、PWM部46は、同期信号に基づいた基準位相キャリアに対し、位相シフト設定値SSだけ位相シフトしたキャリアcを発生する。
【0093】
PWM部46は、3相交流電圧指令Vu,Vv,Vwの相毎に、当該指令の振幅とキャリアcの振幅とを比較することで、比較結果に応じたPWMのゲート信号Gを生成する。PWM部46は、ゲート信号Gを対応するパワー部11に出力する。
【0094】
〔キャリア位相シフト処理部30〕
次に、
図4に示したキャリア位相シフト処理部30について詳細に説明する。前述のとおり、キャリア位相シフト処理部30は、他の制御部10における位相シフト設定値SSと同じにならないように、かつ、共通の制御タイミングAを基準とした前後のタイミングと適用タイミングBとが一致しないように、位相シフト設定値SSを設定する。
【0095】
キャリア位相シフト処理部30について詳細に説明する前に、位相シフト設定値SSを設定する際に、共通の制御タイミングAを基準とした前後のタイミングと適用タイミングBとが一致しないようにする理由について説明する。共通の制御タイミングAを基準とした前後の領域であって、適用タイミングBと一致させない(適用タイミングBを排除する)領域をデッドバンドとする。
【0096】
図5は、デッドバンドを説明する図である。
図5の例では、マスターの制御部10-1が使用する基準位相のキャリアc1の三角波において、制御タイミングAは、極性が変化する90,270degである。
【0097】
デッドバンドは、制御タイミングAを基準にした前後の領域である。90degの制御タイミングAの前後には、電流用デッドバンドDBi1及び電圧用デッドバンドDBv1が設けられ、270degの制御タイミングAの前後には、電流用デッドバンドDBi2及び電圧用デッドバンドDBv2が設けられる。
【0098】
スレーブの制御部10に備えたキャリア位相シフト処理部30は、位相シフト設定値SSを設定する際に、基準位相のキャリアc1に対して位相シフト設定値SSだけ位相シフトしたキャリアcにおいて、その山及び谷のタイミングである適用タイミングBが、電流用デッドバンドDBi1,DBi2及び電圧用デッドバンドDBv1,DBv2と一致しないようにする(一致しないような位相シフト設定値SSを設定する)。
【0099】
ここで、スレーブの制御部10による電流制御の処理においては、適用タイミングBにて、出力電流iu,iw(
図13に示した電流FBbに相当)がラッチされ、電流制御に用いる情報として更新される。そして、更新された出力電流iu,iw(
図13に示した電流FBラッチb1に相当)に対して、ADコンバータによるアナログ信号をデジタル信号に変換する処理等が行われ、制御タイミングAにて、更新された出力電流iu,iwを用いた制御演算が行われる。
【0100】
適用タイミングBの後、変換処理等の時間が経過したときのタイミングと、制御演算が行われる制御タイミングAとが同じである場合、制御演算は、当該スキャンの出力電流iu,iwを用いたり、1スキャン前の出力電流iu,iwを用いたりすることとなり、制御が不安定となる。
【0101】
そこで、
図5に示したとおり、電流用デッドバンドDBi1,DBi2の領域を設けることで、このような問題を解決するようにした。つまり、スレーブの制御部10に備えたキャリア位相シフト処理部30は、基準位相のキャリアc1に対して位相シフト設定値SSだけ位相シフトしたキャリアcにおいて、適用タイミングBが電流用デッドバンドDBi1,DBi2と一致しないように、位相シフト設定値SSを設定する。
【0102】
また、スレーブの制御部10による電圧指令の演算においては、制御タイミングAにて、制御演算を行うことで3相交流電圧指令Vu,Vv,Vw及びゲート信号G(
図13に示した電圧指令演算値aに相当)が求められ、適用タイミングBにて、ゲート信号G(
図13に示した電圧指令適用値b2に相当)が更新(出力)され、対応するパワー部11を介して多巻線モータ2が制御される。
【0103】
制御タイミングAの後、所定の処理の時間が経過したときのタイミングと、適用タイミングBとが同じである場合、適用タイミングBにおける多巻線モータ2の制御は、当該スキャンの3相交流電圧指令Vu,Vv,Vw及びゲート信号Gを用いたり、1スキャン前の3相交流電圧指令Vu,Vv,Vw及びゲート信号Gを用いたりすることとなり、制御が不安定となる。
【0104】
そこで、
図5に示したとおり、電圧用デッドバンドDBv1,DBv2の領域を設けることで、このような問題を解決するようにした。つまり、スレーブの制御部10に備えたキャリア位相シフト処理部30は、基準位相のキャリアc1に対して位相シフト設定値SSだけ位相シフトしたキャリアcにおいて、適用タイミングBが電圧用デッドバンドDBv1,DBv2と一致しないように、位相シフト設定値SSを設定する。
【0105】
尚、制御タイミングAを基準にした電流用デッドバンドDBi1,DBi2及び電圧用デッドバンドDBv1,DBv2の領域(角度領域、時間領域)は、キャリア周波数f及び制御周期CT等により異なる。
【0106】
(第一例/キャリア位相シフト処理部30)
まず、第一例のキャリア位相シフト処理部30について説明する。
図6は、第一例のキャリア位相シフト処理部30の構成例を示すブロック図である。このキャリア位相シフト処理部30aは、基本シフト算出部50、シフト設定処理部51及びデッドバンドテーブル52を備えている。
【0107】
基本シフト算出部50は、予め設定されたキャリア周波数f及びモータ巻線数N(=9)、並びに当該制御部10により制御が行われる多巻線モータ2の巻線位置n(=0~8)を入力する。巻線位置nは、マスターの制御部10-1の場合に0、スレーブの制御部10-2,・・・,10-9の場合にそれぞれ1~8とする。
【0108】
基本シフト算出部50は、モータ巻線数N及び巻線位置nを用いて、360degをモータ巻線数Nで除算し、除算結果に巻線位置nを乗算する演算((360deg/N)×巻線位置n)を行い、巻線位置nに応じた基本シフト値SFを求める。そして、基本シフト算出部50は、基本シフト値SFをシフト設定処理部51に出力する。
【0109】
これにより、N台のパワー部11がある場合、それぞれのキャリアcの三角波における位相を360/Ndegずつシフトした基本シフト値SFを得ることができる。
【0110】
シフト設定処理部51は、基本シフト算出部50から基本シフト値SFを入力すると共に、キャリア周波数f及び制御周期CT等に対応する予め設定されたデッドバンドテーブル52から、デッドバンドの情報を読み出す。そして、シフト設定処理部51は、基本シフト値SFがデッドバンドの領域内にあるか否かを判定する。
【0111】
シフト設定処理部51は、基本シフト値SFがデッドバンドの領域内にあると判定した場合、デッドバンドの領域における両端の角度(2つの端角度)のうち、基本シフト値SFに近い端角度を選択する。そして、シフト設定処理部51は、選択した端角度側の角度であって、デッドバンドの領域外となる角度(例えばデッドバンドに最も近い角度)を設定し、当該角度を位相シフト設定値SSとして電流用補正角処理部31、電圧用補正角処理部32及びPWM部46に出力する。
【0112】
一方、シフト設定処理部51は、基本シフト値SFがデッドバンドの領域内にないと判定した場合、基本シフト値SFを位相シフト設定値SSとして電流用補正角処理部31、電圧用補正角処理部32及びPWM部46に出力する。
【0113】
図7は、デッドバンドテーブル52の構成例を示す図である。このデッドバンドテーブル52は、キャリア周波数f=5kHz及び制御周期CT=100μsの場合の例であり、デッドバンドの領域として、67~74deg,109~120deg,247~254deg,289~300degの情報が設定されている。
【0114】
図5において
図7を適用すると、電流用デッドバンドDBi1は67~74degの領域であり、電圧用デッドバンドDBv1は109~120degの領域である。また、電流用デッドバンドDBi2は247~254degの領域であり、電圧用デッドバンドDBv2は289~300degの領域である。
【0115】
図8は、シフト設定処理部51の処理例を説明する図である。この例は、スレーブの制御部10-4に備えたシフト設定処理部51の処理を示している。
【0116】
制御部10-4において、基本シフト算出部50は、モータ巻線数N=9及び当該制御部10-4の巻線位置n=3を用いて、(360deg/9)×3の演算により、基本シフト値SF=120degを求める。
【0117】
シフト設定処理部51は、
図7に示したデッドバンドテーブル52からデッドバンドの情報を読み出し、基本シフト値SF=120degがデッドバンドの領域(109~120deg)内にあると判定する。そして、シフト設定処理部51は、当該デッドバンドの領域における2つの端角度(109deg,120deg)のうち、基本シフト値SF=120degに近い端角度120degを選択する。
【0118】
シフト設定処理部51は、選択した端角度120deg側の角度であって、デッドバンドの領域(109~120deg)外となる角度(本例では121deg)を設定し、当該角度121degを位相シフト設定値SS=121degとして出力する。
【0119】
このように、
図8に示すように、キャリアc4’(基本シフト値SF=120deg)の位相がキャリアc4(位相シフト設定値SS=121deg)の位相にシフトすることとなる。そして、キャリアc4の谷の適用タイミングBが、制御タイミングAを基準とした電圧用デッドバンドDBv1の領域と一致しないこととなる。
【0120】
したがって、適用タイミングBにおける多巻線モータ2の制御は、当該スキャンの3相交流電圧指令Vu,Vv,Vw及びゲート信号Gを用いたり、1スキャン前の3相交流電圧指令Vu,Vv,Vw及びゲート信号Gを用いたりすることがなく、当該スキャンの3相交流電圧指令Vu,Vv,Vw及びゲート信号Gを用いることとなるため、制御が安定する。
【0121】
(第二例/キャリア位相シフト処理部30)
次に、第二例のキャリア位相シフト処理部30について説明する。
図9は、第二例のキャリア位相シフト処理部30の構成例を示すブロック図である。このキャリア位相シフト処理部30bは、シフト設定処理部53及びシフトテーブル54を備えている。
【0122】
シフト設定処理部53は、予め設定されたキャリア周波数f及びモータ巻線数N(=9)、並びに当該制御部10により制御が行われる多巻線モータ2の巻線位置n(=0~8)を入力する。巻線位置nは、マスターの制御部10-1の場合に0、スレーブの制御部10-2,・・・,10-9の場合にそれぞれ1~8とする。
【0123】
シフト設定処理部53は、キャリア周波数f及び制御周期CT等に対応する予め設定されたシフトテーブル54から、モータ巻線数N及び巻線位置nに対応する角度情報(deg)を読み出す。そして、シフト設定処理部53は、読み出した角度情報を位相シフト設定値SSとして電流用補正角処理部31、電圧用補正角処理部32及びPWM部46に出力する。
【0124】
図10は、シフトテーブル54の構成例を示す図である。このシフトテーブル54は、キャリア周波数f=5kHz及び制御周期CT=100μsの場合の例であり、モータ巻線数N及び巻線位置nに対応する角度情報(deg)が設定されている。
【0125】
例えば、モータ巻線数N=9の場合、巻線位置n=0に対応して0deg、巻線位置n=1に対応して40deg、巻線位置n=2に対応して80deg、巻線位置n=3に対応して121deg等が設定されている。
【0126】
モータ巻線数N=9及び巻線位置n=3に対応する角度情報は、((360deg/N)×巻線位置n)の演算式からすると、(360deg/9)×3=120degとすべきである。
【0127】
しかしながら、前述のとおり、位相シフト設定値SS=120degの場合、巻線位置n=3に対応する制御部10-4において、適用タイミングBが、制御タイミングAを基準としたデッドバンドの領域と一致し、制御が不安定となる。
【0128】
そこで、制御を安定させるために、モータ巻線数N=9及び巻線位置n=3に対応する角度情報を121degとした。
【0129】
モータ巻線数N=3及び巻線位置n=1に対応する121deg、モータ巻線数N=5及び巻線位置n=1に対応する75deg等についても同様に、適用タイミングBが、制御タイミングAを基準としたデッドバンドの領域と一致しないような角度となっている(下線箇所を参照)。
【0130】
このように、
図10に示したシフトテーブル54を用いることで、位相シフト設定値SSを直接設定することができ、
図6に示した第一例のキャリア位相シフト処理部30aに比べ、処理負荷を低減することができる。
【0131】
〔PWM部46〕
次に、
図4に示したPWM部46について詳細に説明する。
図11は、PWM部46の構成例を示すブロック図である。このPWM部46は、フェーズシフト回路60及びゲート信号生成部61を備えている。
【0132】
フェーズシフト回路60は、キャリア位相シフト処理部30から位相シフト設定値SSを入力すると共に、予め設定されたキャリア周波数fを入力する。そして、フェーズシフト回路60は、同期信号に基づいたキャリア周波数fの信号を用いて、位相シフト設定値SSだけ位相シフトしたキャリアcを発生し、キャリアcをゲート信号生成部61に出力する。フェーズシフト回路60の詳細については後述する。
【0133】
ゲート信号生成部61は、座標変換部45から3相交流電圧指令Vu,Vv,Vwを入力すると共に、フェーズシフト回路60から、位相シフト設定値SSだけ位相シフトしたキャリアcを入力する。そして、ゲート信号生成部61は、3相交流電圧指令Vu,Vv,Vwの相毎に、当該指令の振幅とキャリアcの振幅とを比較することで、比較結果に応じたPWMのゲート信号Gを生成する。PWM部46は、ゲート信号Gを対応するパワー部11に出力する。
【0134】
(フェーズシフト回路60)
次に、
図11に示したフェーズシフト回路60について詳細に説明する。
図12は、フェーズシフト回路60の構成例を示すブロック図である。このフェーズシフト回路60は、立ち上がりエッジ判定部70、立ち下がりエッジ判定部71、キャリアHシフトカウント部72、キャリアLシフトカウント部73、カウント監視部74,75、アップ/ダウンカウント制御部76、アップ/ダウンカウンタ77及びキャリア発生部78を備えている。
【0135】
立ち上がりエッジ判定部70は、予め設定されたキャリア周波数fの信号であって、同期信号に同期した信号を入力し、キャリア周波数fの信号の立ち上がりエッジを検出し、検出信号をキャリアHシフトカウント部72に出力する。
【0136】
立ち下がりエッジ判定部71は、予め設定されたキャリア周波数fの信号であって、同期信号に同期した信号を入力し、キャリア周波数fの信号の立ち下がりエッジを検出し、検出信号をキャリアLシフトカウント部73に出力する。
【0137】
キャリアHシフトカウント部72は、立ち上がりエッジ判定部70から検出信号を入力すると、カウントをクリアし、当該検出信号を起点にカウントを開始する。そして、キャリアHシフトカウント部72は、カウント値をカウント監視部74に出力する。
【0138】
キャリアLシフトカウント部73は、立ち下がりエッジ判定部71から検出信号を入力すると、カウントをクリアし、当該検出信号を起点にカウントを開始する。そして、キャリアLシフトカウント部73は、カウント値をカウント監視部75に出力する。
【0139】
カウント監視部74は、キャリア位相シフト処理部30から位相シフト設定値SSを入力すると共に、キャリアHシフトカウント部72からカウント値を入力する。そして、カウント監視部74は、入力したカウント値が、位相シフト設定値SSに対応するカウント設定値に一致すると、マッチ信号をアップ/ダウンカウント制御部76に出力する。
【0140】
カウント監視部75は、キャリア位相シフト処理部30から位相シフト設定値SSを入力すると共に、キャリアLシフトカウント部73からカウント値を入力する。そして、カウント監視部75は、入力したカウント値が、位相シフト設定値SSに対応するカウント設定値に一致すると、マッチ信号をアップ/ダウンカウント制御部76に出力する。
【0141】
アップ/ダウンカウント制御部76は、カウント監視部74,75からマッチ信号をそれぞれ入力し、カウント監視部74からのマッチ信号を入力したときに、アップ指示をアップ/ダウンカウンタ77に出力する。また、アップ/ダウンカウント制御部76は、カウント監視部75からのマッチ信号を入力したときに、ダウン指示をアップ/ダウンカウンタ77に出力する。
【0142】
アップ/ダウンカウント制御部76は、カウント監視部74,75からのマッチ信号をそれぞれ入力したときに、期間信号のパルスをキャリア発生部78に出力する。ここで、期間信号は、同期信号に基づいたキャリア周波数fの信号に対し、その立ち上がりまたは立ち下がりのタイミングから位相シフト設定値SSの時間(カウント)後にパルスを有する信号である。
【0143】
アップ/ダウンカウンタ77は、アップ/ダウンカウント制御部76からアップ指示及びダウン指示を入力し、アップ指示を入力すると、カウント値を一定の増加率にて増加させ、ダウン指示を入力すると、カウント値を一定の減少率にて減少させる。そして、アップ/ダウンカウンタ77は、カウント値をキャリア発生部78に出力する。
【0144】
キャリア発生部78は、アップ/ダウンカウント制御部76から期間信号のパルスを入力すると共に、アップ/ダウンカウンタ77からカウント値を入力する。そして、キャリア発生部78は、期間信号のパルス及びカウント値に基づいて、基準位相キャリアに対して位相シフト設定値SSだけ位相シフトしたキャリアcを発生し、キャリアcをゲート信号生成部61に出力する。
【0145】
以上のように、本発明の実施形態の制御装置1によれば、制御部10の電流制御部23に備えたキャリア位相シフト処理部30は、他の制御部10における位相シフト設定値SSと同じにならないように、かつ、制御タイミングAを基準とした前後のタイミングと適用タイミングBとが一致しないように、位相シフト設定値SSを設定する。
【0146】
電流用補正角処理部31は、適用タイミングBから制御タイミングAまでの間の時間に対応する電流用補正角φ1を求め、減算器33は、磁極位置から電流用補正角φ1を減算し、電流用補正角φ1だけ遅らせた磁極位置である電気角θ1を求める。
【0147】
これにより、制御タイミングAにおいて、適用タイミングBの磁極位置に対応した電流制御を実現することができる。結果として、精度の高いモータ制御を実現することができる。
【0148】
電圧用補正角処理部32は、制御タイミングAから適用タイミングBまでの間の時間に対応する電圧用補正角φ2を求め、加算器34は、磁極位置に電圧用補正角φ2を加算し、電圧用補正角φ2だけ進ませた磁極位置である電気角θ2を求める。
【0149】
これにより、制御タイミングAにおいて、適用タイミングBの磁極位置に対応した電圧指令の演算を実現することができ、適用タイミングBにおいて、当該適用タイミングBの磁極位置に対応した出力処理を実現することができる。結果として、精度の高いモータ制御を実現することができる。
【0150】
つまり、本発明の実施形態では、多巻線モータを複数のインバータを用いて制御する際に、PWMキャリアの位相をシフトしたときに生じる誤動作を防止することができる。
【0151】
また、本発明の実施形態では、制御部10毎に異なる位相のキャリアcを用いてモータ制御を行うことができるから、コモンモードノイズが分散され、漏れ電流を減少させることができる。
【0152】
また、本発明の実施形態において、電流制御に用いる電気角位相は、エンコーダデータから生成される。また、電流制御の演算に用いるエンコーダデータ及び出力電流iu,iwは、制御タイミングAにて取得するが、出力電流iu,iwのラッチは、適用タイミングBにて行われる。このため、位相をシフトすると、適用タイミングBから制御タイミングAまでの間の時間が変化し、取得した電流と、モータに流れる電流に位相差が生じてしまう。電流用補正角処理部31では、この位相差を考慮した電流用補正角φ1を求めるための処理が行われ、結果として、精度の高い電流制御を実現することができる。
【0153】
電圧制御についても同様であり、電圧用補正角処理部32では、位相差を考慮した電圧用補正角φ2を求めるための処理が行われ、結果として、精度の高い電圧制御を実現することができる。
【0154】
以上、実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、その技術思想を逸脱しない範囲で種々変形可能である。
【0155】
例えば、前記実施形態では、
図6に示したキャリア位相シフト処理部30aのシフト設定処理部51は、デッドバンドテーブル52を用いて位相シフト設定値SSを求めるようにしたが、所定の演算式にて、位相シフト設定値SSを求めるようにしてもよい。また、
図9に示したキャリア位相シフト処理部30bのシフト設定処理部53は、シフトテーブル54を用いて位相シフト設定値SSを求めるようにしたが、所定の演算式にて、位相シフト設定値SSを求めるようにしてもよい。
【0156】
また、
図6に示したキャリア位相シフト処理部30aのシフト設定処理部51は、基本シフト値SFがデッドバンドの領域内にあると判定した場合、デッドバンドの領域における2つの端角度のうち、基本シフト値SFに近い端角度を選択し、位相シフト設定値SSを求めるようにした。これに対し、シフト設定処理部51は、デッドバンドの領域における2つの端角度のうち、1つの端角度をランダムに選択し、位相シフト設定値SSを求めるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0157】
1 制御装置
2 多巻線モータ
3 エンコーダ
10 制御部
11 パワー部
20 磁極位置演算部
21 速度制御部
22 同期通信部
23 電流制御部
30 キャリア位相シフト処理部
31 電流用補正角処理部
32 電圧用補正角処理部
33,38,39 減算器
34,43,44 加算器
35,45 座標変換部
36 d軸電流指令生成器
37 トルク指令変換器
40 d軸電流制御器
41 q軸電流制御器
42 非干渉補償制御器
46 PWM部
50 基本シフト算出部
51,53 シフト設定処理部
52 デッドバンドテーブル
54 シフトテーブル
60 フェーズシフト回路
61 ゲート信号生成部
70 立ち上がりエッジ判定部
71 立ち下がりエッジ判定部
72 キャリアHシフトカウント部
73 キャリアLシフトカウント部
74,75 カウント監視部
76 アップ/ダウンカウント制御部
77 アップ/ダウンカウンタ
78 キャリア発生部
f キャリア周波数
N モータ巻線数
n 巻線位置
SS 位相シフト設定値
SF 基本シフト値
φ1 電流用補正角
φ2 電圧用補正角
θ 電気角
id* d軸電流指令
iq* q軸電流指令
id d軸電流フィードバック
iq q軸電流フィードバック
iu U相出力電流
iw W相出力電流
iv V相出力電流
vd*’,vd* d軸電圧指令
vq*’,vq* q軸電圧指令
Vu 3相交流電圧指令(U相)
Vv 3相交流電圧指令(V相)
Vw 3相交流電圧指令(W相)
e* 3相交流電圧
G ゲート信号
c,c1,c2,c4,c4’ キャリア