(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022030303
(43)【公開日】2022-02-18
(54)【発明の名称】編地の編成方法
(51)【国際特許分類】
D04B 1/00 20060101AFI20220210BHJP
D04B 1/10 20060101ALI20220210BHJP
【FI】
D04B1/00 Z
D04B1/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020134203
(22)【出願日】2020-08-06
(71)【出願人】
【識別番号】000151221
【氏名又は名称】株式会社島精機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(72)【発明者】
【氏名】西川 永康
(72)【発明者】
【氏名】大谷 真司
(72)【発明者】
【氏名】由井 学
(72)【発明者】
【氏名】島崎 宜紀
【テーマコード(参考)】
4L002
【Fターム(参考)】
4L002BA00
4L002BA04
4L002EA00
4L002FA02
(57)【要約】
【課題】第一給糸口を横切るように第二給糸口を移動させて編成する際、第二給糸口を蹴り返す必要がない編地の編成方法を提供する。
【解決手段】第一編地部の編成に用いた第一給糸口を停止させた状態で、前記第一給糸口を横切るように第二給糸口を動かして第二編地部を編成する編地の編成方法において、前記第一編地部の編成終了後から前記第二編地部の編成開始までの間に以下のことを行う。前記第一給糸口を用いて、前記第一編地部及び前記第二編地部が係止される編針とは別の編針に、前記第一編地部の端部編目につながる第一編目を編成する。前記第一給糸口から前記第一編目に延びる編糸が、前記端部編目と前記第一編目とをつなぐ渡り糸に交差した状態とする。前記第一編目及び前記第一編地部が、前記第二編地部が編成される針床に対向する針床に係止された状態とする。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一給糸口と第二給糸口とを備える横編機を用いた編地の編成方法であって、
前記第一給糸口を動かして第一編地部を編成した後、前記第一給糸口を停止させた状態で、前記第一給糸口を横切るように前記第二給糸口を動かして第二編地部2を編成する編地の編成方法において、
前記第一編地部の編成終了後から前記第二編地部の編成開始までの間に、工程A、工程B、及び工程Cを行い、
前記工程Aでは、前記第一給糸口を用いて、前記第一編地部及び前記第二編地部が係止される編針とは別の編針に、前記第一編地部の端部編目につながる第一編目を編成し、
前記工程Bでは、前記第一給糸口から前記第一編目に延びる編糸が、前記端部編目と前記第一編目とをつなぐ渡り糸に交差した状態とし、
前記工程Cでは、前記第一編目及び前記第一編地部が、前記第二編地部が編成される針床に対向する針床に係止された状態とする編地の編成方法。
【請求項2】
前記工程Aの前に、前記第一編地部を往復編成し、
前記第一編地部を往路編成する際、空針に掛け目を編成し、
前記工程Aにおいて、前記掛け目のウエール方向に続けて前記第一編目を編成する請求項1に記載の編地の編成方法。
【請求項3】
前記工程Aの前に、前記第一編地部を往復編成し、
前記工程Bの後に、前記第一給糸口とは異なる給糸口を用いて、前記第一編地部の編幅方向に隣接する第三編地部を往復編成し、
前記第三編地部の往復編成時に、前記第一編地部の編目に重なるタック目を編成し、
前記第三編地部の往復編成後に、前記工程Cとして前記第一編目を前記第三編地部の編目に重ねる請求項1又は請求項2に記載の編地の編成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、横編機を用いた編地の編成方法に係る。
【背景技術】
【0002】
横編機は、複数の針床と、複数の針床の編針に編糸を供給する複数の給糸口を備える。このような横編機を用いて編成を行う場合、ある給糸口Xを用いて編地部が編成される際、その給糸口Xが、停止している別の給糸口Yを横切る場合がある。このとき、給糸口Yから延びる編糸が、上記編地部に編み込まれてしまう場合がある。このような問題点を解決する技術として、例えば特許文献1に開示される編地の編成方法が挙げられる。
【0003】
特許文献1には、インターシャ編成において生じる上記問題点を解決する技術が開示されている。特許文献1の
図2には、工程1において第一給糸口(符号11)を用いて第一編地部を編成した後、工程2~4において第二給糸口(符号13)を用いて第二編地部を編成することが示されている。第一編地部の少なくとも一部が、針床上で第二編地部の編幅方向に重複している。工程3に示されるように、第二給糸口が第一給糸口を横切る際、第二給糸口と第一給糸口が共に、蹴り返されている。両給糸口が蹴り返されることで、第一給糸口から第一編地部に延びる編糸が第二編地部に編み込まれることが防止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の技術では、第二編地部が編成される際、第二給糸口が一度蹴り返される。その際、第二給糸口から延びる編糸のテンションが変化する。その結果、第二給糸口の蹴り返しの前後で編目の大きさが変化する場合がある。編糸の材質によっては、第二編地部における編目の大きさの違いが目立つ場合がある。
【0006】
本発明の目的の一つは、停止した状態にある第一給糸口を横切るように第二給糸口を移動させて編成する際、第二給糸口を蹴り返す必要がない編地の編成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
<1>本発明の筒状編地の編成方法は、
第一給糸口と第二給糸口とを備える横編機を用いた編地の編成方法であって、
前記第一給糸口を動かして第一編地部を編成した後、前記第一給糸口を停止させた状態で、前記第一給糸口を横切るように前記第二給糸口を動かして第二編地部を編成する編地の編成方法において、
前記第一編地部の編成終了後から前記第二編地部の編成開始までの間に、工程A、工程B、及び工程Cを行い、
前記工程Aでは、前記第一給糸口を用いて、前記第一編地部及び前記第二編地部が係止される編針とは別の編針に、前記第一編地部の端部編目につながる第一編目を編成し、
前記工程Bでは、前記第一給糸口から前記第一編目に延びる編糸が、前記端部編目と前記第一編目とをつなぐ渡り糸に交差した状態とし、
前記工程Cでは、前記第一編目及び前記第一編地部が、前記第二編地部が編成される針床に対向する針床に係止された状態とする。
【0008】
ここで、第一編地部と第二編地部とが同じ針床で編成される場合もあるし、対向する異なる針床で編成される場合もある。例えば、第一編地部と第二編地部とが共に前針床で編成される場合、第二編地部の編幅方向の中間に第一編地部が重複する二層編地が編成される。例えば、第一編地部が前針床で編成され、第二編地部が後針床で編成される場合、前側編地部の編幅方向の中間部に第一編地部がある筒状編地が編成される。
【0009】
<2>本発明の筒状編地の編成方法の一形態として、
前記工程Aの前に、前記第一編地部を往復編成し、
前記第一編地部を往路編成する際、空針に掛け目を編成し、
前記工程Aにおいて、前記掛け目のウエール方向に続けて前記第一編目を編成する形態が挙げられる。
【0010】
<3>本発明の筒状編地の編成方法の一形態として、
前記工程Aの前に、前記第一編地部を往復編成し、
前記工程Bの後に、前記第一給糸口とは異なる給糸口を用いて、前記第一編地部の編幅方向に隣接する第三編地部を往復編成し、
前記第三編地部の往復編成時に、前記第一編地部の編目に重なるタック目を編成し、
前記第三編地部の往復編成後に、前記工程Cとして前記第一編目を前記第三編地部の編目に重ねる形態が挙げられる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の筒状編地の編成方法によれば、第一給糸口から第一編目に延びる編糸が、第二編地部が編成される針床に対向する針床に寄せられる。従って、第一編地部の編幅方向に重複する第二編地部を編成する際、第二給糸口を止める必要がない。第二給糸口を止めることなく第二編地部が編成されることで、第二編地部の編幅方向に並ぶ複数の編目の大きさにばらつきが生じ難い。
【0012】
上記形態<2>の構成によれば、第一編目が掛け目のウエール方向に続くニット目となる。ニット目は掛け目に比べて移動させ易い。従って、第一編地部を他の編地部(例えば、第二編地部など)に接合するために第一編目を移動させる際、安定的に第一編目を移動させることができる。
【0013】
上記形態<3>の構成によれば、第一編地部を第三編地部につなぐ重ね目と、第三編地部を第一編地部につなぐタック目とが、ウエール方向の同じ高さに揃う。そのため、第一編地部と第三編地部とのつなぎ目が綺麗に仕上がる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、実施形態1に係る編地であるニットウェアの概略図である。
【
図2】
図2は、実施形態1に係る編地の編成方法の一例を示すイメージ図である。
【
図3】
図3は、実施形態1に係る編地の編成方法の手順を示す第一の編成工程図である。
【
図5】
図5は、
図3のS6が終了した時点における編目の係止状態を示す模式図である。
【
図6】
図6は、実施形態2に係る編地の編成方法の手順を示す編成工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<実施形態1>
本実施形態1では、本発明の編地の編成方法を用いて、インターシャ組織を有するニットウェアを編成する例を
図1から
図5に基づいて説明する。もちろん、本例の編地の編成方法によって編成される編地は、ニットウェアに限定されるわけではなく、例えばシートカバーなどの産業資材であっても良い。
【0016】
図1に示されるニットウェア100は、身頃50と右袖60Rと左袖60Lとを有する。身頃50は、前身頃50Fと後身頃50Bとを備える。前身頃50Fには柄部70が形成されている。柄部70はインターシャ編成によって得られる。従って、柄部70を構成する編糸と、柄部70以外の部分を構成する編糸とは異なっている。
【0017】
柄部70を編成する手順を
図2のイメージ図に基づいて説明する。本例では、柄部70の編成に利用される第一給糸口8と、柄部70以外の編成に利用される第二給糸口9を使用した編成例を説明する。
図2では、給糸口8,9は逆三角マークで示される。前針床FBから見て、第一給糸口8は第二給糸口9よりも手前側に配置されている。言い換えれば、後針床BBから見て、第二給糸口9は第一給糸口8よりも手前側に配置されている。身頃50の両端に示される横棒は、前身頃50Fと後身頃50Bとの境界である。
図2における「T+数字」は編成の手順を示す。もちろん、編成に使用される給糸口は三つ以上でも良い。
【0018】
T0には、柄部70の直前まで編成された身頃50が示されている。本例の身頃50は、第二給糸口9から給糸される第二編糸9Yを用いた筒状編成によって編成される。この状態からT1では、身頃50の編幅外から第一給糸口8を糸入れし、Uターン矢印によって示されるように、第一給糸口8を右方向に移動させた後、左方向に移動させる往復編成を行う。この往復編成によって、前針床FBにおいて第一編地部1がウエール方向に二段分編成される。第一編地部1は、第一給糸口8から給糸される第一編糸8Yによって編成される。
【0019】
T2では、Uターン矢印によって示されるように、第二給糸口9を右方向に移動させた後、左方向に移動させる往復編成を行う。この往復編成によって、前針床FBにおいて第三編地部3がウエール方向に二段分編成される。第三編地部3は第二編糸9Yによって編成される。この第三編地部3は、第一編地部1の編幅方向に隣接し、第一編地部1と接合される編地部である。接合の手順は、
図3,4を参照し後述する。
【0020】
T3では、第二給糸口9を右方向に移動させ、後針床BBにおいて第二編地部2を編成する。第二編地部2は第二編糸9Yによって編成される。第一編地部1と第二編地部2とは編幅方向に重複している。本例では、第二編地部2の編成範囲内に、第一編地部1の編成範囲が重複している。従って、第二編地部2を編成するとき、第二給糸口9は第一給糸口8を横切る。本例では、後述する
図3,4の編成工程図に示される操作を行うことで、第二給糸口9を停止させることなく第二編地部2を編成することができる。
【0021】
T4では、Uターン矢印によって示されるように、往復編成を行って、ウエール方向に二段分の第四編地部4を編成する。第四編地部4は第二編糸9Yによって編成される。
【0022】
T5では、第二給糸口9を左方向に移動させ、後針床BBにおいて第二編地部2を編成する。このT5においても、第二給糸口9は第一給糸口8を横切る。また、第二給糸口9を停止させることなく第二編地部2を編成することができる。T5が終了した時点における給糸口8,9の配置はT1と同じである。従って、T5以降は、T1~T5の編成を繰り返すことで、身頃50に柄部70が編成される。
【0023】
次に、インターシャ柄を有する部分の具体的な編成工程を
図3,4に基づいて説明する。
図3,4は、前針床FBと後針床BBとを備える二枚ベッド横編機を用いた編成例を説明する。二枚ベッド横編機を用いた編成では、隣接する編目の間に空針を配置した針抜き編成によってニットウェア100が編成される。もちろん、4枚ベッド横編機によって本例のニットウェア100を編成することもできる。横編機に備わる編針は、フックを開閉するスライダーを備えるコンパウンドニードルでも良いし、フックを開閉するラッチを備えるラッチニードルでも良い。
【0024】
図3,4における「S+数字」は編成工程の番号を示す。
図3,4の右欄には前針床FB及び後針床BBにおける編目の係止状態が示されている。右欄において、黒点は編針を、丸マークは編目を、V字マークは掛け目又はタック目を、逆三角マークは給糸口8,9を示している。欄外の大文字アルファベットは、編針の位置を示している。各工程において実際に編成された部分は太線で、新たに編成された編目は塗り潰して示される。
【0025】
図3のS0には、
図2のT0の左半分に相当する編目が示されている。S1では、第一給糸口8を右方向に移動させ、後針床BBの空針Jに掛け目10を形成した後、前針床FBの編針L,N,P,R,Tに係止される第一編地部1を編成する。掛け目10の編成は必須では無い。本例とは異なり、掛け目10は前針床FBの空針に形成されても良い。このS1は、
図2のT1の往路編成に相当する。
図3では第一編地部1の半分のみが示されているので、第一給糸口8は実際には欄外の位置まで移動する。
【0026】
S2では、第一給糸口8を左方向に移動させ、前針床FBの編針T,R,P,N,Lに係止される第一編地部1を編成する。S2の編成は、
図2のT1の復路編成に相当する。このS2では更に、第一編地部1の編成終了後に、第一給糸口8を左方向に移動させ、掛け目10のウエール方向に連続する第一編目11を編成する(工程A)。
【0027】
ここで、S1において掛け目10を編成しなかった場合、第一編目11は掛け目となる。また、本例では第一編目11が後針床BBに編成されているが、前針床FBに編成されていても良い。その場合、次のS3を行う前に、前針床FBから後針床BBに第一編目11を移動させる。
【0028】
S3では、第一給糸口8から第一編目11に延びる第一編糸8Yが、端部編目1Eと第一編目11とをつなぐ渡り糸12に交差した状態とする(工程B)。端部編目1Eは、S3において編成される第一編地部1の複数の編目のうち、最後に編成される編目である。渡り糸12は、前針床FBと後針床BBとの間を渡る部分である。本例のS3では、具体的には、第一給糸口8を右方向に移動させ、第一給糸口8から第一編目11に延びる第一編糸8Yを渡り糸12に交差させている。
【0029】
S4では、第二給糸口9を右方向に移動させ、前針床FBの編針B,D,F,H,Jに第三編地部3を編成する。S4の編成は、
図2のT2の往路編成に相当する。
【0030】
S5では、第二給糸口9を左方向に移動させ、前針床FBの編針Lにタック目30を編成した後、前針床FBの編針J,H,F,D,Bに第三編地部3を編成する。S5の編成は、
図2のT2の復路編成に相当する。タック目30は、第一編地部1の端部編目1Eに形成される。タック目30によって、第一編地部1と第三編地部3とがつながる。本例と異なり、タック目30は、端部編目1E以外の第一編地部1の編目に形成されても良い。
【0031】
S6では、第一編目11及び第一編地部1が、第二編地部2が編成される後針床BBに対向する前針床FBに係止された状態とする(工程C)。本例のS6では、具体的には、第一編目11を、第二編地部2が編成される後針床BBに対向する前針床FBに移動させている。このとき、渡り糸12に交差する第一編糸8Yが、渡り糸12に引っ掛けられて前針床FB側に寄せられる。
【0032】
本例のS6では、第一編目11は第三編地部3の編目31に重ねられている。編目31は、第三編地部3のうち、最も第一編地部1に近い位置にある編目である。編目31と第一編目11との重ね目13によって、第一編地部1と第三編地部3とがつながる。第三編地部3の編成後に第一編目11が第三編地部3の編目31に重ねられることで、第一編地部1を第三編地部3につなぐ重ね目13と、第三編地部3を第一編地部1につなぐタック目30とが、ウエール方向の同じ高さに揃う。そのため、第一編地部1と第三編地部3とのつなぎ目が綺麗に仕上がる。
【0033】
ここで、第一編目11の移動は、第二編地部2の編成前であればいつ行っても良い。例えば、S4の前に第一編目11の移動を行っても良い。
【0034】
S6が終了した時点における編目の状態を
図5の模式図で説明する。
図5に示される編針5は、
図3における前針床FBの編針Jである。また、
図5では、隣接する編針5の間に配置される固定シンカー6が点線で示されている。固定シンカー6の形状は実際の形状とは異なる。
【0035】
図5に示されるように、
図3のS3において第一編目11から延びる渡り糸12と交差した第一編糸8Yは、第一編目11と第三編地部3の編目31との間に挟まれている。従って、第一編目11から第一給糸口8に向かって延びる第一編糸8Yの基点(白抜き矢印参照)は、前針床FBの側に寄せられ、固定シンカー6に隠れる。そのため、図示しない後針床BBの編針を動かしても、第一編糸8Yが後針床BBの編針に引っ掛けられ難くなる。また、第一編糸8Yの基点が固定シンカー6に隠れる位置に配置されていれば、例えばキャリッジに備わるスティッチプレッサー(特開平3-66415号公報)などが第一編糸8Yに接触しても、第一編糸8Yの基点が固定シンカー6の外側に引き出され難い。第一編糸8Yの基点が固定シンカー6の内側に維持されていれば、第一編糸8Yのコース方向の傾きが大きくならないため、第一編糸8Yが後針床BBの編針に引っ掛けられ難い。
【0036】
ここで、
図3のS6に示されるように、第三編地部3の編成後で、かつ第二編地部2の編成直前に第一編目11が移動されることで、第一編目11が編針5に近い位置に保持される。そのため、第一編糸8Yの基点も編針5に近い位置に配置される。従って、第一編糸8Yの基点が固定シンカー6に隠れた状態が維持され易い。
【0037】
図4のS7では、第一給糸口8を左方向に移動させ、編幅方向に重ね目13と重複する位置に第一給糸口8を配置する。その結果、第一給糸口8から第一編目11に延びる第一編糸8Yが短くなる。このS7は必須では無いが、S7が行われることで、第二編地部2を編成する際に、より一層、第一編糸8Yが第二編地部2に編み込まれ難くなる。
【0038】
S8では、第二給糸口9を右方向に移動させ、第二編地部2を編成する。S8の編成は、
図2のT3の編成に相当する。
図5を用いて既に説明したように、第一給糸口8から延びる第一編糸8Yは、前針床FBの側に寄せられ、後針床BBの編針に引っ掛けられ難くなっている。従って、第二給糸口9は、第一給糸口8を通過する際、停止する必要は無い。また、第一給糸口8を移動させる必要も無い。
【0039】
図2のT4の第四編地部4は、
図3のS4,S5と左右対称の編成によって編成できる。また、
図2のT5の第二編地部2は、
図4のS8と左右対称の編成によって編成できる。この第二編地部2の編成の際も、第二給糸口9を停止する必要は無い。
【0040】
本例の編地の編成方法によれば、第二編地部2が編成される際、第二給糸口9が停止することがないため、第二編地部2を構成する各編目の大きさが揃い易い。従って、第二編地部2の見栄えが良い。
【0041】
<実施形態2>
実施形態2では、編幅方向の一部が前針床FB側で二層状態となった編地を編成する例を
図6の編成工程図に基づいて説明する。
図6の見方は
図3と同じである。なお、後針床BBに別の編地部があっても良い。
【0042】
S0には、前針床FBの編針B,D,F,H,J,L,N,P,R,Tに第二編地部2が係止された状態が示されている。第二編地部2は、第二給糸口9の第二編糸9Yによって編成される。この状態から、第二編地部2の編幅内に第一編地部1を編成する。
【0043】
S1では、第一給糸口8を右方向に移動させ、後針床BBの編針Kに掛け目10を、前針床FBの編針Lにタック目15を編成した後、前針床FBにおいて第一編地部1を編成する。タック目15は、第一編地部1の編幅方向の端部を第二編地部2に接合するためのものである。本例の第一給糸口8は、前針床FBから見て第二給糸口9よりも奥側にある。従って、タック目15以外の位置で第一編地部1が第二編地部2に接合されることはない。ここで、掛け目10を前針床FBの空針に編成しても良い。例えば、前針床FBの編針Kに掛け目10を編成することが挙げられる。
【0044】
S2では、第一給糸口8を左方向に移動させ、前針床FBにおいて第一編地部1を編成した後、掛け目10のウエール方向に続く第一編目11を編成する(工程A)。本例とは異なり、掛け目10が前針床FBに編成される場合、第一編目11も前針床FBで編成される。
【0045】
S3では、第一給糸口8を右方向に移動させ、第一給糸口8から延びる第一編糸8Yを渡り糸12に交差させる(工程B)。第一給糸口8を移動させる代わりに、前針床FBに対して相対的に後針床BBを左方向にラッキングさせることで、第一編糸8Yを渡り糸12に交差させても良い。
【0046】
S4では、第一編地部1を前針床FBから後針床BBに移動させる(工程C)。その結果、渡り糸12に交差する第一編糸8Yが、渡り糸12に引っ掛けられて後針床BBに寄せられる。従って、第一給糸口8から第一編目11に延びる第一編糸8Yの基点が後針床BBに寄せられる。ここで、第一編目11が前針床FBで編成される場合、S4では第一編地部1と第一編目11の両方を後針床BBに移動させる。
【0047】
S4の後は、第二給糸口9を右方向に移動させ、前針床FBにおいて第二編地部2を編成する。第一編糸8Yの基点が後針床BBに寄せられているため、第二給糸口9を止めることなく第二編地部2を編成できる。
【0048】
<総括>
本発明の編地の編成方法は、第二編地部2の編成範囲内に第一編地部1が重複する編地の編成に有効である。従って、実施形態1,2以外にも、例えば前身頃の編幅と後身頃の編幅とが異なるニットウェアや、3層又は4層となる多層編地に対しても本発明の編地の編成方法を適用できる。
【符号の説明】
【0049】
1 第一編地部、1E 端部編目
2 第二編地部
3 第三編地部
4 第四編地部
5 編針
6 固定シンカー
8 第一給糸口、8Y 第一編糸
9 第二給糸口、9Y 第二編糸
10 掛け目、11 第一編目、12 渡り糸、13 重ね目、15 タック目
30 タック目、31 編目