(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022030377
(43)【公開日】2022-02-18
(54)【発明の名称】ハット形鋼矢板の矯正装置、矯正方法およびハット形鋼矢板の製造方法
(51)【国際特許分類】
B21D 3/05 20060101AFI20220210BHJP
【FI】
B21D3/05 H
B21D3/05 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020134365
(22)【出願日】2020-08-07
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】特許業務法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 貴斗
(72)【発明者】
【氏名】後藤 寛人
(57)【要約】
【課題】ハット形鋼矢板の搬送方向の変形および幅方向への変形を抑制することができるハット形鋼矢板の矯正技術を提供する
【解決手段】ウェブ部101、フランジ部102、腕部103および継手部104を有するハット形鋼矢板100を、複数の上ロール2および複数の下ロール3が互いに千鳥配置されたローラで矯正するための装置であって、前記複数の上ロール2のうち少なくとも1の上ロール2または前記複数の下ロール3のうち少なくとも1の下ロール3において、前記腕部103を圧下する腕部圧下部10のロール半径RAが、前記腕部圧下部10の軸心位置とハット形鋼矢板100の目標形状とに基づいて算出される基準値N2より大きいハット形鋼矢板100の矯正装置1である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェブ部、フランジ部、腕部および継手部を有するハット形鋼矢板を、複数の上ロールおよび複数の下ロールが互いに千鳥配置されたローラで矯正するための装置であって、
前記複数の上ロールのうち少なくとも1の上ロールまたは前記複数の下ロールのうち少なくとも1の下ロールにおいて、前記腕部を圧下する腕部圧下部のロール半径が、前記腕部圧下部の軸心位置とハット形鋼矢板の目標形状とに基づいて算出される基準値より大きいことを特徴とするハット形鋼矢板の矯正装置。
【請求項2】
前記1の上ロールまたは前記1の下ロールは、前記腕部圧下部と同軸上に、前記ウェブ部を圧下するウェブ部圧下部を有し、
前記基準値は、前記ウェブ部圧下部のロール半径と、前記目標形状における有効高さと、前記目標形状における前記腕部または前記ウェブ部の目標板厚とに基づいて算出される値であることを特徴とする請求項1に記載のハット形鋼矢板の矯正装置。
【請求項3】
前記腕部圧下部のロール半径と前記基準値との差が、前記基準値の0.01~0.05倍の範囲になるように構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のハット形鋼矢板の矯正装置。
【請求項4】
前記腕部圧下部のロール半径は、前記目標形状における前記腕部の目標板厚に前記基準値を加算した値より小さいことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のハット形鋼矢板の矯正装置。
【請求項5】
ウェブ部、フランジ部、腕部および継手部を有するハット形鋼矢板を、複数の上ロールおよび複数の下ロールが互いに千鳥配置されたローラで矯正するための装置であって、
各上ロールおよび各下ロールは、同一軸心上に、前記ウェブ部を圧下するウェブ部圧下部と前記腕部を圧下する腕部圧下部とを備え、
前記複数の上ロールのうち少なくとも1の上ロールまたは前記複数の下ロールのうち少なくとも1の下ロールが、下記式(1)~(3)を満たすように構成されていることを特徴とするハット形鋼矢板の矯正装置。
N1≧RW ・・・(1)
N2≦RA ・・・(2)
N1/RW>N2/RA ・・・(3)
ここで、N1:前記軸心位置と前記ウェブ部との離間距離に基づいて算出される、ウェブ部圧下部のロール半径にかかる第1基準値、
N2:前記腕部圧下部の軸心位置とハット形鋼矢板の目標形状に基づいて算出される、腕部圧下部のロール半径にかかる第2基準値、
RW:前記ウェブ部圧下部のロール半径、
RA:前記腕部圧下部のロール半径
を表す。
【請求項6】
前記第2基準値は、前記第1基準値と、前記目標形状における有効高さと、前記目標形状における前記腕部または前記ウェブ部の目標板厚とに基づいて算出される値であることを特徴とする請求項5に記載のハット形鋼矢板の矯正装置。
【請求項7】
前記1の上ロールまたは前記1の下ロールは、さらに下記式(4)を満たすことを特徴とする請求項5または6に記載のハット形鋼矢板の矯正装置。
0.01≦RA/N2-RW/N1≦0.05 ・・・(4)
【請求項8】
ウェブ部、フランジ部、腕部および継手部を有するハット形鋼矢板を、請求項1~7のいずれか1項に記載のハット形鋼矢板の矯正装置を用いて矯正することを特徴とするハット形鋼矢板の矯正方法。
【請求項9】
請求項8に記載のハット形鋼矢板の矯正方法を用いた、ハット形鋼矢板の矯正工程を有することを特徴とするハット形鋼矢板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の上ロールおよび複数の下ロールが互いに千鳥配置されたローラを用いるハット形鋼矢板の矯正装置、矯正方法およびハット形鋼矢板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハット形鋼矢板の製造方法としては、連続鋳造した鋳片または適度な大きさ・形状に整えた鋼片を目標形状に造形するカリバーロールを用いて熱間圧延するのが一般的である。この圧延工程を経て冷却されたハット形鋼矢板は、フランジとウェブの板厚差による圧延終了温度の相違から長手(搬送)方向に変形が生じることが知られている。具体的には、
図6に示すようにハット形鋼矢板100がウェブ部101側を内側にして湾曲する、いわゆる上反りと呼ばれる変形や、
図7に示すようにハット形鋼矢板100が腕部103側を内側にして湾曲する、いわゆる下反りと呼ばれる変形が生じる。
【0003】
このような反りを除去し、まっすぐな製品とするため、製品出荷前に冷間矯正工程を施すのが一般的である。たとえば、特許文献1では、上下のロールで腕部を選択的に圧下して腕部の曲げ変形を付与する工程と、上下のロールでウェブ部を選択的に圧下してウェブ部の曲げ変形を付与する工程とをそれぞれ少なくとも一回ずつ行う矯正工程を設けることとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の技術には、未だ解決すべき以下のような問題があった。
上記特許文献1の矯正方法によれば、上記上反りや下反りを矯正することはできるが、ハット形鋼矢板の搬送方向前端部や後端部は
図8に示すように幅方向形状が変形する、より具体的には全幅の減少が発生することがあった。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ハット形鋼矢板の搬送方向の変形のみならず、幅方向への変形も抑制することができるハット形鋼矢板の矯正装置、矯正方法およびハット形鋼矢板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決し、上記の目的を実現するため開発した本発明にかかる第1のハット形鋼矢板の矯正装置は、ウェブ部、フランジ部、腕部および継手部を有するハット形鋼矢板を、複数の上ロールおよび複数の下ロールが互いに千鳥配置されたローラで矯正するための装置であって、前記複数の上ロールのうち少なくとも1の上ロールまたは前記複数の下ロールのうち少なくとも1の下ロールにおいて、前記腕部を圧下する腕部圧下部のロール半径が、前記腕部圧下部の軸心位置とハット形鋼矢板の目標形状とに基づいて算出される基準値より大きいことを特徴とする。
【0008】
なお、本発明にかかる第1のハット形鋼矢板の矯正装置については、
a.前記1の上ロールまたは前記1の下ロールは、前記腕部圧下部と同軸上に、前記ウェブ部を圧下するウェブ部圧下部を有し、前記基準値は、前記ウェブ部圧下部のロール半径と、前記目標形状における有効高さと、前記目標形状における前記腕部または前記ウェブ部の目標板厚とに基づいて算出される値であること、
b.前記腕部圧下部のロール半径と前記基準値との差が、前記基準値の0.01~0.05倍の範囲になるように構成されていること、
c.前記腕部圧下部のロール半径は、前記目標形状における前記腕部の目標板厚に前記基準値を加算した値より小さいこと、
などがより好ましい解決手段になり得るものと考えられる。
【0009】
上記課題を解決し、上記の目的を実現するため開発した本発明にかかる第2のハット形鋼矢板の矯正装置は、ウェブ部、フランジ部、腕部および継手部を有するハット形鋼矢板を、複数の上ロールおよび複数の下ロールが互いに千鳥配置されたローラで矯正するための装置であって、各上ロールおよび各下ロールは、同一軸心上に、前記ウェブ部を圧下するウェブ部圧下部と前記腕部を圧下する腕部圧下部とを備え、前記複数の上ロールのうち少なくとも1の上ロールまたは前記複数の下ロールのうち少なくとも1の下ロールが、下記式(1)~(3)(式中、N1:前記軸心位置と前記ウェブ部との離間距離に基づいて算出される、ウェブ部圧下部のロール半径にかかる第1基準値、N2:前記腕部圧下部の軸心位置とハット形鋼矢板の目標形状に基づいて算出される、腕部圧下部のロール半径にかかる第2基準値、RW:前記ウェブ部圧下部のロール半径、RA:前記腕部圧下部のロール半径を表す。)を満たすように構成されていることを特徴とする。
N1≧RW ・・・(1)
N2≦RA ・・・(2)
N1/RW>N2/RA ・・・(3)
【0010】
なお、本発明にかかる第2のハット形鋼矢板の矯正装置については、
d.前記第2基準値は、前記第1基準値と、前記目標形状における有効高さと、前記目標形状における前記腕部または前記ウェブ部の目標板厚とに基づいて算出される値であること、
e.前記1の上ロールまたは前記1の下ロールは、さらに下記式(4)を満たすこと、
などがより好ましい解決手段になり得るものと考えられる。
0.01≦RA/N2-RW/N1≦0.05 ・・・(4)
【0011】
上記課題を解決し、上記の目的を実現するため開発した本発明にかかるハット形鋼矢板の矯正方法は、ウェブ部、フランジ部、腕部および継手部を有するハット形鋼矢板を、上記いずれかのハット形鋼矢板の矯正装置を用いて矯正することを特徴とする。
【0012】
上記課題を解決し、上記の目的を実現するため開発した本発明にかかるハット形鋼矢板の製造方法は、上記ハット形鋼矢板の矯正方法を用いた、ハット形鋼矢板の矯正工程を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ハット形鋼矢板の搬送方向の変形のみならず、幅方向への変形も矯正することができ、産業上極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態にかかる矯正措置を示す概略説明図であり、(a)は側面図を表し、(b)は上面図を表す。
【
図2】本発明の一実施形態にかかる矯正装置のロール配置を示す概略説明図であって、(a)はウェブ部用上下ロールおよび腕部用上下ロールを表し、(b)は幅拘束用外側ロールを加えたものを表す。
【
図3】従来例を示す概略説明図であり、(a)は、ウェブ部用上下ロールおよび腕部用上下ロールを有する例であり、(b)は、ウェブ部用上下ロールおよび幅拘束用サイドガイドを有する例である。
【
図4】本発明の一実施形態を示す概略説明図であって、(a)は、ウェブ部用上下ロール隙と腕部用上下ロール隙が異なることを説明する図であり、(b)は、下ロールに適用した場合の寸法関係を説明する図である。
【
図5】ハット形鋼矢板の上反りを説明する概念図である。
【
図6】ハット形鋼矢板の下反りを説明する概念図である。
【
図7】ハット形鋼矢板の形状を説明する部分斜視図である。
【
図8】ハット形鋼矢板の全幅差を説明する部分上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
矯正ローラによりハット形鋼矢板を矯正する際に、ハット形鋼矢板の前端部および後端部の全幅が減少する理由について、発明者らは鋭意検討した。その結果、ハット形鋼矢板の矯正中においてウェブ部とフランジ部との境部付近に歪みが付与されることが原因と推定するに至った。より詳説すると、ハット形鋼矢板の搬送方向前端部および後端部は、一対の上下ローラにより矯正される期間に、上記境部に歪みが付与されない一方、それ以外の期間においては3以上の上下ローラにより矯正されることによって、上記境部に歪みが付与されやすい。その結果、ハット形鋼矢板の搬送方向前端部および後端部以外の場所で幅方向内側に変形しようとする力が生じ、その力が、境部に歪みが付与されていない前端部および後端部で解放されることによって、前端部および後端部で全幅が減少するものと考えられる。
【0016】
そして前端部および後端部の全幅を減少させない矯正方法について鋭意検討した結果、ハット形鋼矢板の矯正開始直後から矯正終了直前までの期間、腕部に歪みを付与させることが有効ではないかとの知見を得た。すなわち、腕部を矯正することで、全幅を減少させる方向とは反対方向の力が発生することで力が相殺され、全幅の減少が抑制されるのではないかと考え、本発明を開発するに至った。
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、本実施の形態においてハット形鋼矢板の形状はウェブ部がフランジ部より上方に位置する姿勢(いわゆる逆U姿勢)で取り扱われるものとして説明するが、当然本発明の適用範囲はその他の姿勢(例えばU姿勢)での取り扱いにも及ぶ。
【0017】
図7は矯正に供されるハット形鋼矢板の一例を示す図である。
ハット形鋼矢板100は、略水平部であるウェブ部101と、ウェブ部101の両端からウェブ部101の幅方向外方に向かって傾斜して伸びる一対のフランジ部102と、各フランジ部102から更に外方に伸びる一対の腕部103と、各腕部103に支持される一対の継手部104とを有して構成される。この継手部104が他のハット形鋼矢板100の継手部104と嵌合により連結されて壁体が形成されることになる。
【0018】
図1は
図7に示すようなハット形鋼矢板100の形状を矯正する矯正装置1の一例を示す図であり、
図1(a)は側面図を表し、
図1(b)は上面図を表す。矯正装置1は、ハット形鋼矢板100の搬送方向Fに沿って複数の上ロール2と複数の下ロール3とが互いに千鳥配置されて構成されている。
図1の例では、合計9組のロール2、3が通材路(パスライン)PLを挟んで千鳥状(上下交互)に配置されている。上ロール2は、ハット形鋼矢板100の凸状の外面に沿う形状のロール面を有し、下ロール3は、ハット形鋼矢板100の凹状の内面に沿う形状のロール面を有する。
【0019】
図2は本実施形態にかかる矯正装置1のロール2、3配置を示す概略説明図であって、
図2(a)はウェブ部用上下ロール5、7および腕部用上下ロール9、10を表し、
図2(b)は幅拘束用外側ロール11を加えたものを表す。本実施形態において複数の下ロール3の内、少なくとも1の下ロールは
図2(a)、(b)に示すいずれかの下ロール3が採用されている。
【0020】
図1に示すような千鳥配置された複数の上ロール2および複数の下ロール3において、いずれの下ロール3を
図2に示す下ロール3とするかは、最初(搬送方向F最上流側に位置する1軸目に設けられた下ロール)および最後(搬送方向F最下流側に位置する最終軸に設けられた下ロール)以外の下ロールであればいずれの下ロールに適用しても本発明の効果を奏することができる。より望ましくは、圧下量の多い前段に配された下ロール(すなわち本実施形態では3軸目)を
図2に示す下ロール3とすることで顕著な効果が現われる。また、3軸目および5軸目の下ロールを
図2に示す下ロール3とするなど複数の下ロール3を
図2に示す下ロール3とすることでより顕著な効果が現われる。
【0021】
下ロール3は、ハット形鋼矢板100の腕部103とフランジ部102との境部周辺を含んで腕部103を圧下する一対の腕部圧下部10と、ウェブ部101とフランジ部102との境部周辺を含んでウェブ部101を圧下する一対のウェブ部圧下部7と、各圧下部を同一軸心上で回転可能に支持する支持部6とを有して構成される。
【0022】
以下、
図4を参照して説明する。
図4は本実施形態の下ロール3をハット形鋼矢板100の搬送方向Fから見た概略図である。本実施形態においてウェブ部圧下部7のロール半径RW、および、腕部圧下10部のロール半径RAは下記のように設定されている。なお、本実施形態においてウェブ部圧下部7のロール半径RWとは、ウェブ部圧下部7の内、ウェブ部101を圧下する部位のロール半径を示す(言い換えればウェブ部圧下部7がフランジ部102を圧下する部位のロール半径は考慮しない)。同様に、腕部圧下部10のロール半径RAとは、腕部圧下部10の内、腕部103を圧下する部位のロール半径を示す(言い換えれば腕部圧下部10がフランジ部102を圧下する部位のロール半径は考慮しない)。
【0023】
<ウェブ部圧下部のロール半径RW>
ウェブ部圧下部7のロール半径RWは、ハット形鋼矢板100の搬送方向Fからみて、支持部6の軸心位置と搬送されるハット形鋼矢板100のウェブ部101との離間距離(第1基準値N1)と一致している。すなわち、上ロール2のウェブ部圧下部5と、下ロール3が備えるウェブ部圧下部7との間隙t
1がハット形鋼矢板100の製品のウェブ部101の目標板厚tw(
図7参照)と略同長さ(t
1=tw)となるロール半径に設定されている。ここで、略同長さとは、通材されるハット形鋼矢板100の反り量に応じて必要とされる圧下量を考慮することを示す。
【0024】
<腕部圧下部のロール半径RA>
腕部圧下部10のロール半径RAは、ハット形鋼矢板100の搬送方向Fからみて、支持部6の軸心位置と搬送されるハット形鋼矢板100の腕部103との離間距離(第2基準値N2)よりも大きいロール半径とする。言い換えれば、ウェブ部圧下部10のロール半径RWに、ハット形鋼矢板100の製品のウェブ部101の目標板厚twを加算し、ハット形鋼矢板100の製品の有効高さhを減算した値(第2基準値N2)よりも大きいロール半径とされる。つまり、下ロール3の腕部圧下部10と、上ロール2が備える腕部圧下部9との間隙t
2がハット形鋼矢板100の製品のウェブ部101の目標板厚tbよりも短い長さ(t
2<tb)となるロール半径に設定されている。なお、ハット形鋼矢板100の有効高さhとは、
図4(b)および
図7に示す高さhである。
【0025】
上述したように本実施形態の矯正装置1では上ロール2と下ロール3とは千鳥配置されており、腕部103は間隙t2を通材することが可能である。ここで、間隙がt2とされた上下ロール2、3によりウェブ部101と腕部103とが同時に圧下される際に、腕部103はウェブ部101よりも強く圧下される。これにより、矯正開始直後から矯正終了直前まで腕部103が強く圧下されることになり、腕部103とフランジ部102との境部周辺に歪みが付与されることになる。
【0026】
さらに発明者らは腕部圧下部10の適正なロール半径RAについて検討した結果、ロール半径RAが第2基準値N2より大きい場合であっても所定の範囲よりも短いロール半径の場合、全幅Wを減少する力を相殺する力が弱く、逆に、所定の範囲よりも長いロール半径の場合、全幅Wを広げる方向に変形させる力が強くなることを見出した。そして、下記のような基準で腕部圧下部10のロール半径RAを特定することで腕部圧下部10のロール半径RAを適正化できることがわかった。
【0027】
その関係は、腕部圧下部10のロール半径RAと第2基準値N2との差が、第2基準値N2の0.01~0.05倍の範囲になること、すなわち、0.01≦(RA-N2)/N2≦0.05を満たすことである。そうすることで、矯正後のハット形鋼矢板100の前端部および後端部において全幅の減少が極めて優れたレベルで抑制されることがわかった。加えて、腕部圧下部10のロール半径RAが、ハット形鋼矢板100の目標形状における腕部の目標板厚tbに第2基準値N2を加算した値より小さいことが好ましい。過剰な圧下は全幅の増加が懸念されるからである。
【0028】
なお、本発明は、腕部103の圧下をウェブ部101の圧下より強圧下とすることで全幅Wの減少を抑制するものである。つまり、上記実施形態ではウェブ部圧下部7のロール半径RWを第1基準値N1と同値としたが、ウェブ部圧下部7のロール半径RWを第1基準値N1よりも小さいロール半径とした場合、腕部圧下部10のロール半径RAは、腕部103をウェブ部101より強圧下できるロール半径であればよい。
【0029】
具体的にはウェブ部圧下部7のロール半径RWとの関係で、腕部圧下部10のロール半径RAを、下記数式を満たすように決定することでも全幅の減少を抑制できることがわかった。
N1≧RW ・・・(1)
N2≦RA ・・・(2)
N1/RW>N2/RA ・・・(3)
【0030】
加えて、さらに(RA/N2-RW/N1)が下記数式を満たすことで矯正後のハット形鋼矢板の前端部および後端部において全幅の減少が極めて優れたレベルで抑制されることがわかった。
0.01≦RA/N2-RW/N1≦0.05 ・・・(4)
【0031】
なお、上記実施形態では、複数の下ロール3の内、1以上の下ロール3において、上記式(1)~(3)を満たす下ロール3を適用することとしたが、上ロール2に対して適用することとしてもよい。
【0032】
すなわち、下ロール3は従来の下ロール3としたまま、上ロール2において上記式(1)~(3)を満たす上ロールを適用することとしてもよい。その場合でも同様の効果が得られる。
【0033】
なお、上ロール2に適用する場合、第2基準値N2の算出方法が、下ロール3に適用する場合と異なり、腕部圧下部9のロール半径RAは、ウェブ部圧下部5のロール半径RWにハット形鋼矢板100の製品の有効高さhを加算し、ハット形鋼矢板100の製品の腕部103の目標板厚tbを減算した値(第2基準値N2’)よりも大きいロール半径とされる。
【0034】
本発明にかかるハット形鋼矢板の矯正方法は、上記実施形態の下ロール3または上ロール2を用いて、ウェブ部101、フランジ部102、腕部103および継手部104を有するハット形鋼矢板100を矯正するにあたり、腕部103をウェブ部101より強く圧下する方法である。
【0035】
本発明にかかるハット形鋼矢板の製造方法において、ハット形鋼矢板100を熱間圧延する工程は、常法が適用できる。具体的には、連続鋳造した鋳片または適度な形状に成形した鋼片を、加熱炉で加熱後、複数段のカリバーロールで熱間圧延する工程が適用できる。熱間圧延したハット形鋼矢板100は、冷却後、上記実施形態の矯正装置1に通材され、上記矯正方法を適用する。
【実施例0036】
本発明の矯正方法の効果について表1、2に示す実施例を参照して説明する。
なお、表1中のロール数とは、矯正装置1に含まれる複数の上下ロール2、3の内、
図2に示す本発明の下ロール3が採用されている数であり、ロール数が“0”とは
図2に示す本発明の下ロール3が採用されず、
図3に示す従来の下ロール3のいずれかが採用されていることを示す。たとえば、
図3(a)では、腕部圧下部9、10のロールギャップt
2は腕部103の目標板厚tbと略同一(t
2=tb)であり、
図3(b)では、ウェブ部101のみを圧下して矯正している。
【0037】
また、矯正後の全幅差ΔWとは、
図8に示す製品端部1m以内での最大幅Wmaxと最小幅Wminとの差を示す。
また、反り量が正の値である場合、上反りを表し、負の値の場合、下反りを表すが、反り量が同一であれば反り方向による全幅減少への影響はほとんど変わらないため、本実施例では上反りの場合に統一している。
【0038】
表1には、N1=RW(言い換えればt1=tw)、かつ、N2<RA(言い換えればt2<tb)を満たす場合において、腕部圧下部10のロール半径RAの値を変更したときの矯正後の全幅差ΔWや反り量等の結果を示す。No.1およびNo.2は上記実施形態の下ロールを採用していない比較例であり、矯正後の全幅差ΔWが5mmを超えている。また、従来の下ロールでは、矯正前の反り量が大きいほど、矯正後の全幅差ΔWが大きくなることが分かる。
【0039】
No.3~No.6は
図1の3軸目の下ロール3に本実施形態の下ロール3を適用した発明例である。ウェブ部101の圧下に対して腕部103をやや強く圧下((RA-N2)/N2=0.01)とした場合、矯正前の反り量の大小を問わず、矯正後の全幅差ΔWを適正な範囲に抑制できた。また、矯正前の反り量が大きかったNo.4の鋼矢板において反り量も適正な範囲に抑制できていることが分かる。No.5および6は、No.4と同様の反り量のハット形鋼矢板100に対し、次第に腕部103の圧下量を大きくしていった場合を示す。両者とも、矯正後の全幅差ΔWが、No.4に比べて改善していることが分かる。No.7および8は、本実施形態の下ロール3を3軸目と5軸目の2か所に採用した場合の実施例である。No.7から、圧下量がNo.3と同程度であっても複数の下ロールに本実施形態を適用することで矯正後の全幅差ΔWが改善していることが分かる。
【0040】
【0041】
表2は、N1>RW(言い換えればt1>tw)、且つ、N2=RA(言い換えればt2=tb)を満たす場合において、ウェブ部圧下部のロール半径RWの値を変更したときの矯正後の全幅差や反り量等を示す表である。
【0042】
No.9~11に示す通り、ウェブ部圧下部のロール半径RWを変更して腕部に対する圧下量よりもウェブ部を弱圧下とするにつれて矯正後の全幅差ΔWは改善する一方、適正範囲内であるが矯正後の反り量は増加することが分かる。以上のことから、上記式(1)~(3)を満たすことで矯正後の全幅差ΔWは改善するが、矯正後の反り量をより適正化するにあたっては、特に式(1)および(2)は、下記数式(1’)、(2’)を満たすことがより望ましいことが分かる。
N1=RW・・・(1’)
N2<RA・・・(2’)
【0043】