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特開2022-30382鉄骨梁、柱梁接合構造およびこれを有する構造物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022030382
(43)【公開日】2022-02-18
(54)【発明の名称】鉄骨梁、柱梁接合構造およびこれを有する構造物
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/24 20060101AFI20220210BHJP
   E04B 1/18 20060101ALI20220210BHJP
【FI】
E04B1/24 B
E04B1/18 G
E04B1/24 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020134374
(22)【出願日】2020-08-07
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【弁理士】
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100123386
【弁理士】
【氏名又は名称】熊坂 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100196667
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】金崎 信太郎
(72)【発明者】
【氏名】安永 隼平
(57)【要約】      (修正有)
【課題】単純な構造により、地震力等の短期荷重作用時に材軸方向の端部の塑性変形能力を改善することのできる鉄骨梁、柱梁接合構造およびこれを有する構造物を提供する。
【解決手段】上フランジ11と、下フランジ12と、上フランジと下フランジとを連結するウェブ13とを有する鉄骨梁1の材軸方向の所定位置において、上フランジと下フランジの間を連結する主スチフナ14が設けられるとともに、ウェブには主スチフナと梁幅方向に重なるように貫通孔13hが形成されている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上フランジと、下フランジと、前記上フランジと前記下フランジとを連結するウェブとを有する鉄骨梁であって、
該鉄骨梁の材軸方向の所定位置において、前記上フランジと前記下フランジの間を連結する主スチフナが設けられるとともに、前記ウェブには前記主スチフナと梁幅方向に重なるように貫通孔が形成されていること
を特徴とする鉄骨梁。
【請求項2】
前記所定位置は、前記材軸方向の端部であることを特徴とする請求項1に記載の鉄骨梁。
【請求項3】
前記主スチフナは、前記ウェブに接合されていないことを特徴とする請求項1または2に記載の鉄骨梁。
【請求項4】
前記主スチフナは、前記上フランジと前記下フランジの梁幅方向の先端部に配設されていることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の鉄骨梁。
【請求項5】
前記主スチフナは平板状の形状を有し、前記材軸方向と交差する向きに配設されていることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の鉄骨梁。
【請求項6】
前記材軸方向の端部のうち、前記貫通孔が形成されていない位置において、前記上フランジと前記下フランジとの間が、副スチフナにより連結されていることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の鉄骨梁。
【請求項7】
前記副スチフナは、前記貫通孔と前記鉄骨梁の長さ方向の先端との間に設けられていることを特徴とする請求項6に記載の鉄骨梁。
【請求項8】
前記副スチフナは、前記ウェブに接合されていないことを特徴とする請求項6または7に記載の鉄骨梁。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかに記載の鉄骨梁の前記材軸方向の先端が柱に接続されてなることを特徴とする柱梁接合構造。
【請求項10】
請求項9に記載の柱梁接合構造を有することを特徴とする構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄骨梁、柱梁接合構造およびこれを有する構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
ラーメン構造等の構造物、例えば建築物においては、梁の材軸方向の端部、すなわち柱に接続される部分は、地震時の短期荷重作用時に大きな曲げモーメントを受ける。特に、鉄骨梁の場合には、地震力等の短期荷重作用時に曲げモーメントを受けると、材軸方向の端部のウェブやフランジに局部座屈が発生して、鉄骨梁の耐力や変形能力が急激に低下することがある。
【0003】
具体的には、鉄骨梁の材軸方向の端部において、ウェブが局部座屈したり、現場溶接の施工上の必要からウェブに設けられるスカラップ底からフランジが破断したり、鉄骨梁が柱に接合される溶接部が破断したりして、鉄骨梁の塑性変形能力が十分に発揮されずに、構造物に想定外の被害が生じる恐れがある。
【0004】
鉄骨構造物の塑性設計では、地震力等の短期荷重作用時に、鉄骨梁の材軸方向の端部が曲げモーメントを受けて塑性変形した後も、破断せずに大きく塑性変形可能な塑性ヒンジとなることにより、鉄骨梁が受けるエネルギーを吸収するように設計する。したがって、鉄骨梁が十分な塑性変形能力を発揮できるように、鉄骨梁の材軸方向の端部の局部座屈や早期破断を確実に防止する必要がある。
【0005】
また、建築物等の構造物においては、梁下の空間を有効に活用して階高を抑え、構造物の施工費用を低減するため、梁に設備配管や配線を通すための貫通孔が設けられることが多い。H形、I形、溝形等の断面を有する鉄骨梁に貫通孔が設けられる場合には、ウェブに貫通孔が設けられて断面欠損が生じることとなる。
【0006】
鉄骨梁のウェブに設けられる貫通孔は、ウェブの座屈耐力を低下させるため、ウェブの局部座屈が発生しやすくなり、鉄骨梁の塑性変形能力の低下の原因となる。このような局部座屈の発生を防ぐ観点から、地震力等の短期荷重作用時に大きな曲げモーメントを受ける、鉄骨梁の材軸方向の端部の塑性化領域に貫通孔を形成することは、一般的には避けるべきとされている。
【0007】
一方、例えば非特許文献1に開示されるように、鉄骨梁の材軸方向の端部に貫通孔を形成して、材軸方向の端部が曲げモーメントを受けるときに貫通孔の周囲のウェブが変形するようにすると、ウェブにより負担される耐力の急激な低下が抑えられて、鉄骨梁の塑性変形能力が向上する場合があることも知られている。このとき、貫通孔の位置におけるウェブの有効断面による全塑性耐力が、貫通孔の位置に作用する曲げモーメント以上となるように、貫通孔の大きさを設定することにより、貫通孔の位置の断面欠損に起因する鉄骨梁の耐力の低下の割合を抑えることができる。
【0008】
また、鉄骨梁のウェブに貫通孔が形成されるときの断面欠損に起因して、鉄骨梁の耐力や変形能力が低下することを防ぐため、貫通孔の周囲を補強することが広く行われている。鉄骨梁のウェブに形成される貫通孔の周囲の補強方法としては、図16に示す鉄骨梁8Aのように、貫通孔83hの周囲のウェブ83に、同様に貫通孔88hを有するプレート88を溶接する方法や、図17に示す鉄骨梁8Bのように、貫通孔83hの内周にリングまたはスリーブ管89を挿入して接合する方法などが知られている。
【0009】
貫通孔の周囲を補強する必要性の有無は、貫通孔の位置における鉄骨梁の曲げ耐力およびせん断力と、貫通孔の位置に作用する曲げモーメントおよびせん断力の大きさとの大小関係から判断できる。特許文献1には、鉄骨梁の耐力を確保する上で、鉄骨梁のウェブに貫通孔を形成しても補強する必要のない材軸方向の範囲が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第3238540号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】難波尚、外1名、「梁ウェブ穿孔加工による角形鋼管に接合される梁の変形能力の改善」、鋼構造年次論文報告集、日本鋼構造協会、2006年11月、第14巻、pp.673~680
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ここで、特許文献1では、鉄骨梁の材軸方向の先端からの距離が所定の条件を満たすような範囲を規定し、これを貫通孔を補強する必要のない材軸方向の範囲としており、この範囲外となる鉄骨梁の材軸方向の端部の塑性化領域では、図16図17に示すような方法で貫通孔の周囲を補強している。
【0013】
図1は、鉄骨梁の材軸方向の端部にかかる曲げモーメントMと、鉄骨梁に生じる変形角θとの関係を、模式的に示すグラフである。図1中の実線は、貫通孔が設けられていない従来の鉄骨梁が、局部座屈や破断を生じることなく塑性変形能力を十分に発揮した場合を示す。このような場合では、鉄骨梁の耐力Mは、全塑性耐力Mpに到達した後、緩やかな勾配で上昇を続けて最大耐力に到達し、その後は緩やかな勾配で下降して、再び全塑性耐力Mpまで低下するような挙動を示す。図1に示した例では、鉄骨梁の耐力Mが全塑性耐力Mpに到達した後、全塑性耐力Mp以上を維持できる変形角の上限はθ3である。この、全塑性耐力Mp以上を維持できる変形角θの上限が大きいほど、鉄骨梁の塑性変形能力が高い。
【0014】
しかし、鉄骨梁の材軸方向の端部が曲げモーメントを受けて変形角θが増加していき、全塑性耐力Mpを超えた後、図1中に×印で示すように、変形角θがθ1のときに材軸方向の端部が破断すると、この時点で鉄骨梁の塑性変形能力が完全に失われることとなる。すなわち、鉄骨梁が局部座屈や破断を生じることなく塑性変形能力を十分に発揮する場合の上記変形角θ3に比べると、塑性変形能力が大きく低下する。
【0015】
鉄骨梁が地震力等の繰返し荷重を受けると、材軸方向の先端にひずみが集中して、この材軸方向の先端の破断が発生することが多い。これを防ぐためには、鉄骨梁の材軸方向の先端のひずみの集中を緩和することが重要である。
【0016】
また、鉄骨梁の材軸方向の先端が破断しない場合であっても、ウェブの肉厚が小さい場合等には、鉄骨梁の材軸方向の端部で局部座屈が発生して、図1中に破線で示すように、鉄骨梁の耐力Mが急激に低下することがある。鉄骨梁が地震力等の繰返し荷重に対して十分な耐力を保持しながら、鉄骨梁に入力するエネルギーを吸収するためには、鉄骨梁の材軸方向の先端の破断だけでなく、材軸方向の端部の局部座屈も抑える必要がある。
【0017】
ここで、非特許文献1に開示されるように、鉄骨梁の材軸方向の端部に貫通孔を設けることによって、鉄骨梁の塑性変形能力の向上を図ろうとすると、図1に点線で示すように、貫通孔の位置の断面欠損に起因して、鉄骨梁の最大耐力が低下する。この耐力低下に対しては、上述のとおり、図16図17に示すような方法で貫通孔の周囲を補強することにより、鉄骨梁の耐力を改善することが考えられる。
【0018】
しかし、図16図17に示すようなリングやスリーブ管による補強では、鉄骨梁が地震力等の短期荷重が作用して、材軸方向端部が曲げモーメントを受けるとき、この材軸方向の端部のフランジに発生する局部座屈を抑える効果が得られない。また、リングやスリーブ管は、貫通孔の径や形状に合わせて加工して製作する必要があるため、鋳鋼製のものが用いられることが多く、これらの部品のコストが高い問題もある。
【0019】
また、図16図17に示すような方法により貫通孔の周囲を補強して、貫通孔の変形を拘束すると、貫通孔が設けられていない鉄骨梁と同等の塑性変形能力を確保することはできるが、貫通孔が設けられていない鉄骨梁以上に変形能力が向上することは期待できない。これは、リングやスリーブ管等の補強部材とウェブが溶接接合されて、貫通孔の周囲のウェブが拘束され、変形が妨げられるためである。また、リングやスリーブ管とウェブとの溶接は、肉厚が小さく変形が生じやすいウェブに設けられる貫通孔の周囲で行われるため、鉄骨梁や貫通孔が溶接変形を起こさないよう、溶接に高い技量が要求される問題もある。
【0020】
また、非特許文献1では、サイズH-500×200×10×16のH形鋼からなる鉄骨梁の材軸方向の端部が曲げモーメントを受ける場合の挙動を、弾塑性有限要素解析で計算した結果が示されている、しかし、このようなウェブの幅厚比が小さい鉄骨梁ではそもそも座屈が生じにくく、ウェブの肉厚が小さい鉄骨梁に比べると塑性変形能力が高いことが知られている。近年では、建築物の高層化に伴い、鋼材重量の低減を図るべく、ウェブの肉厚が小さい鉄骨梁が採用される例が増加していることに鑑みれば、非特許文献1のように鉄骨梁の材軸方向の端部に貫通孔を設けるだけでは、鉄骨梁の塑性変形能力は必ずしも改善されないため、十分な塑性変形能力を得るには、材軸方向の端部の局部座屈も抑える必要がある。
【0021】
また、非特許文献1には、梁せい500mmの鉄骨梁に直径360mmの貫通孔が設けられている例では、貫通孔の近傍のフランジが局部座屈してしまい、鉄骨梁の塑性変形能力が向上していないことが示されている。このため、非特許文献1では、鉄骨梁の材軸方向の端部に貫通孔を形成する際に、小さな貫通穴を多数設ける方法を提案している。しかし、このような方法では、多数の貫通孔を形成するために工数が増加する問題がある。
【0022】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、単純な構造により、地震力等の短期荷重作用時に材軸方向の端部の塑性変形能力を改善することのできる鉄骨梁、柱梁接合構造およびこれを有する構造物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記課題を解決するため、本発明は以下の特徴を有する。
【0024】
[1] 上フランジと、下フランジと、前記上フランジと前記下フランジとを連結するウェブとを有する鉄骨梁であって、該鉄骨梁の材軸方向の所定位置において、前記上フランジと前記下フランジの間を連結する主スチフナが設けられるとともに、前記ウェブには前記主スチフナと梁幅方向に重なるように貫通孔が形成されていることを特徴とする鉄骨梁。
【0025】
ここで、「主スチフナと梁幅方向に重なるように貫通孔が形成されている」とは、梁幅方向に見たときに貫通孔の少なくとも一部が主スチフナと重なることを意味する。
【0026】
[2] 前記所定位置は、前記材軸方向の端部であることを特徴とする[1]に記載の鉄骨梁。
【0027】
ここで、材軸方向の「端部」とは、鉄骨梁の材軸方向の先端が柱に接続されてなる構造物に、地震力等の短期荷重が作用するときの塑性化領域を意味し、例えば、鉄骨梁の材軸方向の先端から材軸方向に梁せいの1.5倍までの領域を指す。
【0028】
[3] 前記主スチフナは、前記ウェブに接合されていないことを特徴とする[1]または[2]に記載の鉄骨梁。
【0029】
[4] 前記主スチフナは、前記上フランジと前記下フランジの梁幅方向の先端部に配設されていることを特徴とする[1]~[3]のいずれかに記載の鉄骨梁。
【0030】
[5] 前記主スチフナは平板状の形状を有し、前記材軸方向と交差する向きに配設されていることを特徴とする[1]~[4]のいずれかに記載の鉄骨梁。
【0031】
[6] 前記材軸方向の端部のうち、前記貫通孔が形成されていない位置において、前記上フランジと前記下フランジとの間が、副スチフナにより連結されていることを特徴とする[1]~[5]のいずれかに記載の鉄骨梁。
【0032】
[7] 前記副スチフナは、前記貫通孔と前記鉄骨梁の長さ方向の先端との間に設けられていることを特徴とする[6]に記載の鉄骨梁。
【0033】
[8] 前記副スチフナは、前記ウェブに接合されていないことを特徴とする[67]または[7]に記載の鉄骨梁。
【0034】
[9] [1]~[8]のいずれかに記載の鉄骨梁の前記材軸方向の先端が柱に接続されてなることを特徴とする柱梁接合構造。
【0035】
[10] [9]に記載の柱梁接合構造を有することを特徴とする構造物。
【発明の効果】
【0036】
本発明の鉄骨梁、柱梁接合構造およびこれを有する構造物によれば、地震力等の短期荷重作用時に、貫通孔の周囲のウェブが、鉄骨梁の材軸方向の先端よりも先行して変形し降伏することにより、鉄骨梁の材軸方向の先端でのひずみの集中が緩和され、鉄骨梁の塑性変形能力が向上する。
【0037】
また、上フランジと下フランジの間が、貫通孔の少なくとも一部と梁幅方向に重なるように配設された主スチフナにより連結されているので、鉄骨梁のウェブの肉厚が小さくても、ウェブの局部座屈が抑えられ、鉄骨梁の塑性変形能力が向上する。
【0038】
また、上フランジと下フランジの間が、貫通孔の少なくとも一部と梁幅方向に重なるように配設された主スチフナにより連結されて、上フランジと下フランジが補剛されるので、小さな貫通孔を多数設けるような複雑な構造ではなく、比較的大きな貫通孔を一つまたは少数のみ設ける簡単な構造としても、貫通孔の近傍の上フランジおよび下フランジの局部座屈が抑えられ、鉄骨梁の塑性変形能力が向上する。
【0039】
また、鉄骨梁のウェブに設ける貫通孔の径を変更することにより、鉄骨梁の全塑性耐力を簡単に調整できる。
【0040】
また、主スチフナおよび副スチフナは、上フランジと下フランジの間を連結するように取り付けられているので、これら主スチフナおよび副スチフナの形状を、貫通孔の形状に影響されることなく決定できる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】本発明の鉄骨梁および従来の鉄骨梁における荷重-変形関係を模式的に示すグラフである。
図2】本発明の一実施形態の鉄骨梁および柱梁接合構造を示す図であり、(a)は側面図、(b)は断面図である。
図3】本発明の鉄骨梁の材軸方向の端部に曲げモーメントおよびせん断力が作用するときの変形状況を模式的に示す側面図である。
図4】本発明の他の実施形態の鉄骨梁および柱梁接合構造を示す図であり、(a)は側面図、(b)は断面図である。
図5】本発明のさらに他の実施形態の鉄骨梁および柱梁接合構造を示す図であり、(a)は側面図、(b)は断面図である。
図6】本発明のさらに他の実施形態の鉄骨梁および柱梁接合構造を示す図であり、(a)は側面図、(b)は断面図である。
図7】本発明のさらに他の実施形態の鉄骨梁および柱梁接合構造を示す図であり、(a)は側面図、(b)は断面図である。
図8】本発明のさらに他の実施形態の鉄骨梁および柱梁接合構造を示す図であり、(a)は側面図、(b)は断面図である。
図9】本発明の鉄骨梁が荷重を受けるときの変形を数値解析により計算するための解析モデルを示す図であり、(a)は側面図、(b)は断面図である。
図10】従来の鉄骨梁が荷重を受けるときの変形を数値解析により計算するための解析モデルを示す図であり、(a)は側面図、(b)は断面図である。
図11】従来の鉄骨梁が荷重を受けるときの変形を数値解析により計算するための解析モデルを示す図であり、(a)は側面図、(b)は断面図である。
図12】本発明と従来の鉄骨梁における荷重-変形関係を数値解析により計算した結果を比較して示すグラフである。
図13】本発明の鉄骨梁に発生するひずみ分布の数値解析結果を示すコンター図であり、(a)は側面図、(b)は上面図である。
図14】従来の鉄骨梁に発生するひずみ分布の数値解析結果を示すコンター図であり、(a)は側面図、(b)は上面図である。
図15】従来の鉄骨梁に発生するひずみ分布の数値解析結果を示すコンター図であり、(a)は側面図、(b)は上面図である。
図16】従来の鉄骨梁の一例を示す図であり、(a)は側面図、(b)は断面図である。
図17】従来の鉄骨梁の他の一例を示す図であり、(a)は側面図、(b)は断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、図面を参照して、本発明の鉄骨梁、柱梁接合構造およびこれを有する構造物の実施形態を詳細に説明する。
【0043】
本実施の形態の鉄骨梁は、鉄骨造の建築物(構造物)(図示せず)に設けられるものである。図2(a)および図2(b)はそれぞれ、本実施の形態の鉄骨梁1の側面図、および、後述する貫通孔13hの位置で材軸方向に直交する面で切断した断面図である。この鉄骨梁1では、上フランジ11と、下フランジ12と、これら上フランジ11と下フランジ12とを連結するウェブ13とを有するH形鋼の材軸方向の端部、すなわち建築物の柱2に接続される部分の近傍において、H形鋼の上フランジ11と下フランジ12の間を連結する主スチフナ14が設けられている。
【0044】
さらに、H形鋼のウェブ13には、主スチフナ14と梁幅方向に重なるように貫通孔13hが形成されている。つまり、上フランジ11と下フランジ12の間を連結する主スチフナ14は、貫通孔13hの少なくとも一部と梁幅方向に重なるように配設されている。図2(b)に示すように、主スチフナ14は、平板状の形状を有し、鉄骨梁1の材軸方向と交差する向き、すなわちウェブ13、上フランジ11および下フランジ12の各々に対して垂直に配設されている。
【0045】
また、図2に示すように、鉄骨梁1の材軸方向の端部のうち、貫通孔13hが形成されていない位置では、上フランジ11と下フランジ12との間が、鉄骨梁1のウェブ13の両側に配設された副スチフナ16により連結されている。具体的には、鉄骨梁1の材軸方向の先端と貫通孔13hとの間の一箇所に、副スチフナ16が設けられている。図2(a)に示すように、副スチフナ16および主スチフナ14は、鉄骨梁1の材軸方向に均等な間隔で配設されている。副スチフナ16は、主スチフナ14と同様に、平板状の形状を有し、鉄骨梁1の材軸方向と交差する向き、すなわちウェブ13、上フランジ11および下フランジ12の各々に対して垂直に配設されている。
【0046】
主スチフナ14および副スチフナ16は、上フランジ11と下フランジ12の梁幅方向の先端に接合されて、上フランジ11および下フランジ12の面外変形を拘束している。主スチフナ14および副スチフナ16は、ウェブ13との間に隙間が形成されるように配設されており、ウェブ13には接合されていない。
【0047】
そして、鉄骨梁1の材軸方向の先端が柱2に接続されて、柱梁接合構造3が構成される。
【0048】
本実施の形態の鉄骨梁1の材軸方向の端部に曲げモーメントが作用するときの変形状態を、図3に模式的に示す。
【0049】
上述のとおり、主スチフナ14および副スチフナ16は、ウェブ13には接合されていないため、貫通孔13hの周囲のウェブ13の変形が拘束されない。したがって、図3に示すように、貫通孔13hの周囲のウェブ13が、鉄骨梁1の材軸方向の先端よりも先行して変形し降伏することにより、鉄骨梁1の材軸方向の先端でのひずみの集中が緩和され鉄骨梁1の塑性変形能力が向上する。
【0050】
また、貫通孔13hの断面欠損やウェブ13の肉厚が小さいことに起因する、貫通孔13hの近傍の上フランジ11、下フランジ12およびウェブ13の局部座屈が、主スチフナ14および副スチフナ16によって上フランジ11と下フランジ12の間が連結されることによって抑えられる。
【0051】
この結果、本実施形態の鉄骨梁は、図1中に一点鎖線で示すように、全塑性耐力Mpに到達した後、貫通孔が設けられていない従来の鉄骨梁よりも緩やかな勾配で、耐力Mが上昇し、その後低下していくこととなる。そして、本実施形態の鉄骨梁では、耐力Mが全塑性耐力Mp以上を維持できる限界の変形角がθ5となり、貫通孔が設けられていない従来の鉄骨梁や、貫通孔は設けられるが主スチフナや副スチフナが設けられていない従来の鉄骨梁に比べて、塑性変形能力が向上する。
【0052】
図4~8に、本発明の鉄骨梁および柱梁接合構造の他の実施の形態を示す。
【0053】
図4(a)および図4(b)に示す鉄骨梁1Aおよび柱梁接合構造3Aでは、図2(a)および図2(b)に示す鉄骨梁1および柱梁接合構造3とは異なり、主スチフナ14Aは、鉄骨梁1のウェブ13に平行な向きに配設され、また副スチフナ16が配設されていない。その他は、図2(a)および図2(b)に示す鉄骨梁1および柱梁接合構造3と同様に構成されている。
【0054】
このように、平板状の形状を有する主スチフナ14Aを鉄骨梁1のウェブ13に平行な向きに配設することにより、面外変形が大きく発生しやすい上フランジ11や下フランジ12の梁幅方向の先端において、これら上フランジ11や下フランジ12の面外変形がより効果的に抑えられ、上フランジ11や下フランジ12の局部座屈を防止できる。
【0055】
図5(a)および図5(b)に示す鉄骨梁1Bおよび柱梁接合構造3Bでは、図2(a)および図2(b)に示す鉄骨梁1および柱梁接合構造3とは異なり、平板状の形状を有する主スチフナ14Bが貫通孔13hの全体を覆うようにして、貫通孔13hの周囲のウェブ13の両側に重ねて配設され、上フランジ11と下フランジ12に接合されている。主スチフナ14Bは、ウェブ13に重ねて配設されているが、ウェブ13には接合されていないため、ウェブ13の面該変形を拘束するが、ウェブ13のせん断変形を拘束しない。
【0056】
このように、平板状の形状を有する主スチフナ14Bを貫通孔13hの全体を覆うようにして貫通孔13hの周囲のウェブ13の両側に重ねて配設することで、ウェブ13の面外変形が抑えられ、鉄骨梁1のねじり変形が抑えられる。
【0057】
図6(a)および図6(b)に示す鉄骨梁1Cおよび柱梁接合構造3Cは、図5(a)および図5(b)に示す鉄骨梁1Bおよび柱梁接合構造3Bの平板状の主スチフナ14Bを、形鋼などの成形品により構成された主スチフナ14Cで置き換えたものである。このように、必要に応じて主スチフナの形状を変えてもよい。
【0058】
図7(a)および図7(b)、ならびに図8(a)および図8(b)に示す鉄骨梁1D、1Eおよび柱梁接合構造3D、3Eでは、図2(a)および図2(b)に示す鉄骨梁1および柱梁接合構造3とは異なり、貫通孔13hD、13hEの形状が円形ではなく楕円形または多角形に形成されている。このように、必要に応じて貫通孔の形状を変えても良い。
【0059】
なお、本発明の鉄骨梁においては、貫通孔の大きさを梁せいの半分以下とすることが好ましく、その範囲内で貫通孔の大きさを変更することにより、鉄骨梁の全塑性耐力を調整することができる。
【実施例0060】
貫通孔、主スチフナおよび副スチフナが設けられている本発明の鉄骨梁(本発明例)と、貫通孔、主スチフナ、副スチフナのいずれも設けられていない従来の鉄骨梁(従来例1)と、貫通孔が設けられ主スチフナ、副スチフナが設けられていない従来の鉄骨梁(従来例2)を対象として、有限要素法による数値解析を行い、耐力および変形能力を確認した。
【0061】
本数値解析における解析モデルを、図9図11に示す。図9に示すように、本発明例の鉄骨梁1Fの解析モデルとして、H-1000(H)×300(B)×12×25、全長L=20000mmのH形鋼のウェブ13に、直径500mmの貫通孔13hが形成され、H形鋼の上フランジ11と下フランジ12の間が、材軸方向と直交する向きに配設された主スチフナ14および副スチフナ16、17により連結されているものを設定した。主スチフナ14および副スチフナ16、17のサイズは、高さ950mm、幅144mm、厚さ12mmとした。
【0062】
貫通孔13hの中心位置は、鉄骨梁1Fの材軸方向の先端から600mmの位置とした。また、鉄骨梁1Fのウェブ13の両側の各々に、材軸方向の先端から順に、副スチフナ16が一箇所、主スチフナ14が一箇所、副スチフナ17が二箇所、材軸方向に均等な間隔L1=300mmで配設されているものとした。また、主スチフナ14および副スチフナ16、17は、鉄骨梁1Fの上フランジ11の下面および下フランジ12の上面に接合される一方、ウェブ13には接合されていないものとした。各溶接部はノンスカラップ型とした。
【0063】
そして、本発明例の鉄骨梁1Fが逆対称曲げを受けることを想定し、対称性を考慮して、鉄骨梁1Fの全長Lの半分L/2までを解析モデル化した。
【0064】
H形鋼の力学特性としては、JIS G3136(建築構造用圧延鋼材)のSN490B相当(引張強度:557N/mm、降伏強度:385N/mm、ヤング係数:205000)を想定した応力-歪関係を用いた。また、主スチフナ14および副スチフナ16、17の力学特性としては、JIS G3101(一般構造用圧延鋼材)のSS400相当(引張強度:425N/mm、降伏強度:295N/mm、ヤング係数:205000)を想定した応力-歪関係を用いた。
【0065】
また、図10に示すように、従来例1として、本発明例の貫通孔13h、主スチフナ14、副スチフナ16、17のいずれも設けられておらず、その他は本発明例と同じとした解析モデルを設定した。さらに、図11に示すように、従来例2として、本発明例の主スチフナ14および副スチフナ16、17が設けられておらず、貫通孔13hは本発明例と同様に形成され、その他も本発明例と同じとした解析モデルを設定した。
【0066】
これらの解析モデルについて、鉄骨梁1Fの材軸方向の先端(本発明例および比較例2においては、貫通孔13hが形成されている側の先端)を完全固定とし、全長Lの半分L/2の位置を載荷点とした。この載荷点に、図9図11に示すように、梁せい方向上向きの荷重Pを作用させ、この荷重Pを漸増させていき、弾塑性有限要素法解析により、解析モデルの各部位の変形量および相当塑性ひずみを計算した。
【0067】
本発明例、従来例1、従来例2の各々について上記数値解析を行った結果得られた、鉄骨梁の材軸方向の先端にかかる曲げモーメントMと、鉄骨梁の変形角θとの関係を、図12に示す。ここで、鉄骨梁の材軸方向の先端にかかる曲げモーメントMは、載荷点に作用させる荷重Pと、載荷点から固定端までの距離L/2の積により算出した。鉄骨梁の変形角θは、鉄骨梁の載荷点の鉛直変位δを、上記距離L/2で除すことによって算出した。図12のグラフでは、縦軸は、上記曲げモーメントMを、従来例1の全塑性モーメントMpで除した値M/Mpである。また、横軸は、上記変形角θを、従来例1の全塑性モーメントMp時の変形角θpで除した無次元化変形角θ/θpである。
【0068】
図12に示すように、貫通孔が設けられ主スチフナおよび副スチフナが設けられていない従来例2では、貫通孔、主スチフナ、副スチフナのいずれも設けられていない従来例1に比べて、最大耐力発揮時、すなわち曲げモーメントMが最大となるときの変形角θが大きくなっており、貫通孔が設けられることにより鉄骨梁の変形能力が向上していることがわかる。しかし、従来例2の最大耐力は、従来例1の最大耐力を下回っており、貫通孔が設けられている影響で最大耐力が低下してしまっていることがわかる。
【0069】
これに対し、貫通孔に加えて主スチフナおよび副スチフナが設けられている本発明例では、従来例1および従来例2に比べて、最大耐力発揮時の変形角θ、すなわち変形性能が大幅に向上している。また、本発明例の最大耐力は、従来例1および従来例2の最大耐力を上回っている。
【0070】
図13図15は、上記数値解析を行った結果得られた、無次元化変形角θ/θp=5.0時点での鉄骨梁の各部位の相当塑性ひずみを、本発明例および従来例1、2の各々についてそれぞれ濃淡のコンターで示した図である。
【0071】
従来例1では、図13に示すように、相当塑性ひずみは、鉄骨梁の材軸方向の先端の近傍で集中的に発生しており、相当塑性ひずみが最大となる位置は、鉄骨梁の材軸方向の先端の上フランジである。
【0072】
また、従来例2では、図14に示すように、相当塑性ひずみが最大となる位置は、鉄骨梁の貫通孔の近傍の上フランジとなっている。つまり、従来例2のように、貫通孔が設けられることにより、相当塑性ひずみが集中的に発生する位置が、鉄骨梁の材軸方向の先端から貫通孔の近傍に移動して、鉄骨梁が柱に接合される溶接部での破断を防ぐ効果が得られることがわかる。
【0073】
さらに、本発明例では、図15に示すように、相当塑性ひずみが最大となる位置は、鉄骨梁の貫通孔の上側のウェブとなっている。つまり、本発明例のように、貫通孔に加えて主スチフナおよび副スチフナが設けられることにより、相当塑性ひずみが集中的に発生する位置が、貫通孔の近傍の上フランジから貫通孔の上側のウェブに移動して、貫通孔の近傍のフランジの局部座屈を抑える効果がさらに得られることがわかる。フランジの局部座屈は、鉄骨梁の最大耐力を決定する主な要因であり、本発明例ではフランジの局部座屈が抑えられることで、鉄骨梁の塑性変形能力が大幅に向上することが確認された。
【符号の説明】
【0074】
1、1A~1F 鉄骨梁
2 柱
3、3A~3E 柱梁接合構造
11 上フランジ
12 下フランジ
13 ウェブ
13h、13hD、13hE 貫通孔
14、14A~14C、14F 主スチフナ
16、17 副スチフナ
図1
図2
図3
図4
図5
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図10
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