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特開2022-30446ジカルボン酸モノエステル化修飾セルロースナノファイバー
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  • 特開-ジカルボン酸モノエステル化修飾セルロースナノファイバー 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022030446
(43)【公開日】2022-02-18
(54)【発明の名称】ジカルボン酸モノエステル化修飾セルロースナノファイバー
(51)【国際特許分類】
   C08B 3/12 20060101AFI20220210BHJP
   C08H 8/00 20100101ALI20220210BHJP
【FI】
C08B3/12
C08H8/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020134492
(22)【出願日】2020-08-07
(71)【出願人】
【識別番号】591167430
【氏名又は名称】株式会社KRI
(72)【発明者】
【氏名】林 蓮貞
(72)【発明者】
【氏名】福井 俊巳
【テーマコード(参考)】
4C090
【Fターム(参考)】
4C090AA05
4C090BA25
4C090BB52
4C090BB65
4C090BB71
4C090BB97
4C090BD19
4C090BD36
4C090CA38
4C090DA22
4C090DA26
4C090DA27
4C090DA31
4C090DA32
(57)【要約】

【課題】
プロトン性アミド系溶媒を用いたジカルボン酸モノエステル化修飾セルロースナノファイバー(CNF)を製造する方法及び繊維径3~10nmのシングルCNFを主成分とするジカルボン酸モノエステル化修飾CNFの集合体の提供。
【解決手段】
本発明のジカルボン酸モノエステル化修飾セルロースの製造方法は、ジカルボン酸無水物と下記式(1)に示すプロトン性アミド系溶媒を含む反応溶液をセルロースのフィブリル間に浸透させて、セルロースフィブリル表面の水酸基をエステル化反応して化学解繊することを特徴とする。
R1-C(=O)―NH(R2) (1)
(式中、R1とR2はプロトン又は炭素数1~3のアルキル基を表わす。)
【選択図】 図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジカルボン酸無水物と下記式(1)に示すプロトン性アミド系溶媒を含む反応溶液をセルロースのフィブリル間に浸透させて、セルロースフィブリル表面の水酸基をエステル化反応して化学解繊するジカルボン酸モノエステル化修飾セルロースの製造方法。
R1-C(=O)―NH(R2) (1)
(式中、R1とR2はプロトン又は炭素数1~3のアルキル基を表わす。R1とR2は同じ又は異なる。)
【請求項2】
前記プロトン性アミド系溶媒が、ホルムアミド、メチルホルムアミド、アセトアミド及びN-メチルアセトアミドのいずれかの1種以上である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記ジカルボン酸無水物が、無水マレイン酸、炭素数4~8の脂肪族ジカルボン酸無水物及びフタル酸無水物のいずれかの1種以上である請求項1又は請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記反応溶液が、さらに塩基触媒を含む請求項1~3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
請求項1~4に記載のいずれかの製造方法によりジカルボン酸モノエステル化修飾セルロース製造する工程を第1工程とし、第1工程で製造したジカルボン酸モノエステル化修飾セルロースを水又は極性溶媒50%以下の水溶液中に分散し静電反発とせん断力によりジカルボン酸モノエステル化修飾シングルセルロースナノファイバーに解繊する第2工程を含むジカルボン酸モノエステル化修飾セルロースナノファイバーの製造方法。
【請求項6】
繊維径3~100nmのジカルボン酸モノエステル化修飾セルロースナノファイバーの集合体であって、前記集合体を構成するセルロースナノファイバーが、セルロースIβ結晶構造を有し、ジカルボン酸モノエステル基の平均置換度が0.1~1.0であり、前記集合体の0.3重量%の水分散液の可視光透過率が65%以上であることを特徴とするジカルボン酸モノエステル化修飾セルロースナノファイバーの集合体。
【請求項7】
繊維径3~100nmのジカルボン酸モノエステル化修飾セルロースナノファイバーの集合体であって、前記集合体を構成するセルロースナノファイバーが、セルロースIβ結晶構造を有し、ジカルボン酸モノエステル基の平均置換度が0.1~1.0であり、前記集合体を構成する繊維径3~10nmのシングルセルロースナノファイバーの本数含有率が98%以上であることを特徴とするジカルボン酸モノエステル化修飾セルロースナノファイバーの集合体。
【請求項8】
前記集合体を構成する前記シングルセルロースナノファイバーの平均繊維長が200nm以上、1000nm未満であることを特徴とする請求項6又は請求項7に記載のジカルボン酸モノエステル化修飾セルロースナノファイバーの集合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
新規溶媒の反応溶液によるジカルボン酸モノエステル化修飾セルロースナノファイバーの製造方法及びシングルセルロースナノファイバーのジカルボン酸モノエステル化修飾セルロースナノファイバーを提供する。
【背景技術】
【0002】
セルロース繊維は植物細胞壁の約40%を占めて、地球上最も豊富な有機資源である。優れた弾性率・強度・寸法安定性を持つことに加え、環境にやさしいため、石油に由来するプラスチックの代替として高く期待されている。
【0003】
セルロースは、β-グルコース分子がグリコシド結合により直鎖状に重合した天然高分子である。セルロース繊維は、セルロース分子鎖、エレメンタリフィブリル(幅3~10nm程度)、ミクロフィブリル(幅20~50nm)、フィブリル(幅数百nm)、ラメラ等の構造的段階を経て形成される。
セルロースナノファイバーには,製造方法によって,もっとも基本となる単位である幅3~10nmのエレメンタリフィブリルフィブリル(シングルセルロースナノファイバー又は単繊維)、それが数本のゆるやかな束となって細胞壁中での基本単位として存在する幅20~50nmのセルロースミクロフィブリル束(セルロースナノファイバー)、ミクロフィブリル束がさらに数十~数百nmの束となりクモの巣状のネットワークを形成しているミクロフィブリル化セルロース(MFC)などがある。
即ち、セルロース繊維をミクロフィブリルまで微細に解すと幅数十nmの通常概念のセルロースナノファイバー(CNF、以下セルロースナノファイバーを「CNF」と略記する場合がある。)になる。さらに、エレメンタリフィブリルまで解すと幅数nmのシングルセルロースナノファイバー(シングルCNF)になる。
【0004】
セルロースナノファイバーは、製造方法により無修飾CNF、アシル化修飾CNF及びジカルボン酸修飾CNFなどのアニオン性CNFなどが開発されている。
ジカルボン酸修飾CNFについては、無溶媒法(非特許文献1)と溶媒法(特許文献1、特許文献2)がこれまでに知られている。
【0005】
しかし、無溶媒法ではジカルボン酸無水物がセルロースフィブリル間に浸透し難いため、得られたCNFの解繊度合と修飾基分布の均一性が低い。また、無触媒且つ高温のため、ジカルボン酸モノエステル化だけでなくジカルボン酸ジエステルも形成し、フィブリル間の架橋になる恐れがある。
【0006】
一方、溶媒法の特許文献1及び2では、触媒とジカルボン酸無水物の解繊液(請求項1)又は、触媒とジカルボン酸無水物と非プロトン性溶媒を含む解繊液(請求項3)をセルロースに浸透、反応させることによりセルロースを修飾して化学解繊するジカルボン酸修飾CNFが記載されている。しかし、特許文献1の実施例の表1に示されるように解繊度合が◎で示される良好な解繊を行うには、溶媒を兼ねているピリジンを触媒として無水コハク酸又はフタル酸無水物との混合液を用いた場合(実施例1~3)、ピリジンと溶媒(DMAc、DMSO等)と無水コハク酸等のジカルボン酸(実施例4~6、10)を用いた場合の両方とも反応時間は24時間以上を要している。
【0007】
特許文献1及び2に示されている解繊液の溶媒は、触媒を兼ねた溶媒であるピリジンを含めドナー数25以上の非プロトン性溶媒であり、それぞれ以下の問題点があった。
ピリジンは、沸点が低く、引火性の強い溶剤であり、高い毒性と独特の強い臭気があり人体及び環境に有害な溶剤でその取扱いが難しいという問題点がある。ピリジン以外の非プロトン性溶媒は、塩基性触媒との組み合わせで用いると加温によりセルロースとの間で副反応が生じ、セルロース及び溶媒が変色し加温できず反応時間の短縮ができないという問題があった。また、DMSO以外の非プロトン性溶媒の解繊液は、はセルロースへの浸透性が低いという問題もあった。
さらに、特許文献1及び2では、ジカルボン酸修飾セルロースナノファイバーのシングルシングルセルロースナノファイバーは得られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2017-082188号公報
【特許文献2】特開2017-190437号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Chem.Soc.Rev.,2011,10,3941-3994
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、溶媒としてプロトン性アミド系溶媒を用いることにより、無触媒で、好ましくは塩基触媒を添加して、ジカルボン酸無水物をセルロースに反応させてジカルボン酸モノエステル化修飾セルロースナノファイバーを製造する方法を提供することである。
そして、本発明は、ジカルボン酸モノエステル化修飾シングルセルロースナノファイバーを主成分とするセルロースナノファイバーの集合体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、以下に示す発明を完成するに至った。
〔1〕 ジカルボン酸無水物と下記式(1)に示すプロトン性アミド系溶媒を含む反応溶液をセルロースのフィブリル間に浸透させて、セルロースフィブリル表面の水酸基をエステル化反応して化学解繊するジカルボン酸モノエステル化修飾セルロースの製造方法。
R1-C(=O)―NH(R2) (1)
(式中、R1とR2はプロトン又は炭素数1~3のアルキル基を表わす。R1とR2は同じ又は異なる。)
〔2〕 前記プロトン性アミド系溶媒が、ホルムアミド、メチルホルムアミド、アセトアミド及びN-メチルアセトアミドのいずれかの1種以上であるである前記〔1〕に記載の製造方法。
〔3〕 ジカルボン酸無水物が、無水マレイン酸、炭素数4~8の脂肪族ジカルボン酸無水物及びフタル酸無水物のいずれかの1種以上である前記〔1〕と〔2〕に記載の製造方法。
〔4〕 反応溶液が、さらに塩基触媒を含む前記〔1〕~〔3〕の何れかに記載の製造方法。
〔5〕 前記〔1〕~〔4〕に記載のいずれかの製造方法によりジカルボン酸モノエステル化修飾セルロース製造する工程を第1工程とし、第1工程で製造したジカルボン酸モノエステル化修飾セルロースを水又は極性溶媒50%以下の水溶液中に分散し静電反発とせん断力によりジカルボン酸モノエステル化修飾シングルセルロースナノファイバーに解繊する第2工程を含むジカルボン酸モノエステル化修飾セルロースナノファイバーの製造方法。
〔6〕 繊維径3~100nmのジカルボン酸モノエステル化修飾セルロースナノファイバーの集合体であって、前記集合体を構成するセルロースナノファイバーが、セルロースIβ結晶構造を有し、ジカルボン酸モノエステル基の平均置換度が0.1~1.0であり、前記集合体の0.3重量%の水分散液の可視光透過率が65%以上であることを特徴とするジカルボン酸モノエステル化修飾セルロースナノファイバーの集合体。
〔7〕 繊維径3~100nmのジカルボン酸モノエステル化修飾セルロースナノファイバーの集合体であって、前記集合体を構成するセルロースナノファイバーが、セルロースIβ結晶構造を有し、ジカルボン酸モノエステル基の平均置換度が0.1~1.0であり、前記集合体を構成する繊維径3~10nmのシングルセルロースナノファイバーの本数含有率が98%以上であることを特徴とするジカルボン酸モノエステル化修飾セルロースナノファイバーの集合体。
〔8〕 前記集合体を構成する前記シングルセルロースナノファイバーの平均繊維長が200nm以上、1000nm未満であることを特徴とする前記〔6〕又は〔7〕に記載のジカルボン酸モノエステル化修飾セルロースナノファイバーの集合体。
【0012】
ここで、前記セルロースナノファイバーの集合体とは、繊維径3~10nmのシングルセルロースナノファイバーと繊維径10~100nmのセルロースナノファイバーを含む混合体である。好ましくは、繊維径3~10nmのシングルセルロースナノファイバーと繊維径10~50nmのセルロースナノファイバーを含む混合体である。混合体の形態は特に限定しない。用途に応じて選択すればよい。例えば、水や有機溶媒の分散液状、ペースト状、ゲル状、乾燥状態、又は樹脂に分散している状態などが挙げられる。
【0013】
また、平均置換度とは、セルロースの水酸基が修飾された割合であり、より具体的には、セルロースの繰り返し単位1個当たりの修飾された水酸基の数(置換基の数)の平均値(平均置換度)である。
【0014】
また、前記〔7〕に記載するジカルボン酸モノエステル化修飾シングルセルロースナノファイバーの本数含有率は、前記ジカルボン酸モノエステル化修飾セルロースナノファイバーの集合体からサンプリングした試料を40万倍以上のTEM画像により観察し、ランダムに選択した画像から写っている繊維径が10nmを超える大きいCNF(粗CNF)の本数を数え、繊維径3~10nmのシングルセルロースナノファイバーがその49倍以上の本数であることを確認したものである。
【0015】
前記ジカルボン酸モノエステル化修飾シングルセルロースナノファイバーの平均繊維長は、以下のようにして測定した。
繊維径3~10nmのシングルセルロースナノファイバーの繊維長を計測するには、CNFのオーバーラップを低減するため観察用CNFの分散液をできるだけ希釈してTEM観察サンプルを作成し、40万倍以上のTEM画像により計測した。CNFが湾曲している場合は、繊維の弯曲線に沿って繊維の両端を見出し、各弯曲の間の直線距離を計測し、加算して繊維長とした。
【発明の効果】
【0016】
本発明の製造方法は、反応溶液(解繊溶液)がプロトン性アミド系溶媒とジカルボン酸無水物を含む反応溶液であり、副反応が少なくセルロースへの浸透性と膨潤性に優れ、無触媒の状態でセルロースをジカルボン酸モノエステル化修飾して解繊したセルロースナノファイバーを製造することができる。
【0017】
本発明の製造方方法によると、副反応を避けることだけでなく、反応時間を大幅に短縮するとともに、触媒を使用しなくても加熱することでジカルボン酸モノエステル化修飾反応ができる。
【0018】
本発明の反応溶液は、セルロースフィブリル間に浸透してセルロースフィブリルの表面の水酸基をジカルボン酸モノエステル化修飾した後、静電反発とせん断力を加えることによりジカルボン酸モノエステル化修飾シングルセルロースナノファイバーを主成分とするセルロースナノファイバーの集合体を製造することができる。
【0019】
本発明の製造方法は、反応溶液(解繊溶液)に塩基触媒を加えることにより、ジカルボン酸無水物とセルロースの水酸基とのエステル化反応が促進されて、反応時間を短縮したり、反応温度を下げたりすることが可能である。
【0020】
本発明のジカルボン酸モノエステル化修飾シングルセルロースナノファイバーを主成分とするセルロースナノファイバーの集合体は、CNFの平均繊維径が小さく、繊維径の分布が狭いため、透明性が高い。補強材として樹脂と複合化される際に樹脂の透明性を担保することができる。さらに、繊維長が1μm未満にもかかわらずアスペクト比が100以上であるため分散性と補強効果を両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施例1、実施例3~7、実施例9と10及び比較例1で得たジカルボン酸モノエステル化修飾CNF0.3%の水分散液の写真
図2】実施例1、実施例3~7及び実施例10で得たジカルボン酸モノエステル化修飾CNFのIRスペクトル
図3】実施例1、実施例3~7、実施例9と10及び比較例1で得たジカルボン酸モノエステル化修飾CNF0.3%の水分散液のUVスペクトル
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明のジカルボン酸モノエステル化修飾セルロースナノファイバーの製造方法は、ジカルボン酸無水物と前記式(1)のプロトン性アミド系溶媒を含む反応溶液をセルロースフィブリルの間に浸透させて、セルロースフィブリルの水酸基をジカルボン酸モノエステル化反応させてジカルボン酸モノエステル化修飾して化学解繊することを特徴とする。
【0023】
本発明に用いる原料となるセルロースは、セルロース単独の形態であってもよく、リグニンやヘミセルロースなどの非セルロース成分を含む混合形態であってもよい。
単独形態のセルロース(又は非セルロース成分の含有量が少ないセルロース)としては、例えば、パルプ(例えば、木材パルプ、竹パルプ、ワラパルプ、バガスパルプ、リンターパルプ、亜麻パルプ、麻パルプ、楮パルプ、三椏パルプなど)、ホヤセルロース、バクテリアセルロース、セルロースパウダー、結晶セルロースなどが挙げられる。
混合形態のセルロース(セルロース組成物)としては、例えば、木材[例えば、針葉樹(マツ、モミ、トウヒ、ツガ、スギなど)、広葉樹(ブナ、カバ、ポプラ、カエデなど)など]、草本類[麻類(麻、亜麻、マニラ麻、ラミーなど)、ワラ、バガス、ミツマタなど]、種子毛繊維(コットンリンター、ボンバックス綿、カポックなど)、竹、サトウキビ、紙などが挙げられる。
【0024】
これらのセルロースは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。混合形態のセルロースにおいて、非セルロース成分の割合は90重量%以下であってもよく、例えば1~90重量%、好ましくは3~80重量%、さらに好ましくは5~70重量%程度であってもよい。他の成分の割合が多すぎると、ジカルボン酸モノエステル化修飾CNFの製造が困難となる恐れがある。
【0025】
セルロースは、結晶セルロース(特にI型結晶セルロース)を含むのが好ましく、結晶セルロースと非晶セルロース(不定形セルロースなど)との組み合わせであってもよい。結晶セルロース(特にI型結晶セルロース)の割合は、セルロース全体に対して10重量%以上であってもよく、例えば30~99重量%、好ましくは50~98.5重量%、さらに好ましくは60~98重量%程度である。結晶セルロースの割合が少なすぎると、ジカルボン酸モノエステル化修飾CNFの耐熱性や強度が低下する恐れがある。
【0026】
これらのうち、修飾及び解繊し易い点から、木材パルプ(例えば、針葉樹パルプ、広葉樹パルプなど)、種子毛繊維のパルプ(例えば、コットンリンターパルプ)、セルロースパウダーなどが汎用される。なお、パルプは、パルプ材を機械的に処理した機械パルプであってもよいが、非セルロース成分の含有量が少ないことからパルプ材を化学的に処理した化学パルプが好ましい。
【0027】
セルロースの含水率(乾燥セルロースに対する水分の重量割合)は1重量%以上であってもよく、例えば1~100重量%、好ましくは2~80重量%、さらに好ましくは3~60重量%(特に5~50重量%)程度である。本発明では、反応溶液の浸透性又は膨潤効率の観点から、セルロースは、このような範囲で水分を含むのが好ましく、例えば、市販のセルロースパルプの場合、セルロースパルプを乾燥せずに、そのまま利用してもよい。含水率が小さすぎると、セルロースの解繊性が低下する虞がある。
セルロース原料の前処理について、解繊反応装置のサイズに応じてセルロース原料(特にパルプを用いた場合)を引き裂く又は千切る方法で解繊反応装置又は容器内に入る程度のサイズに破砕して解繊反応処理に供するのが好ましい。
【0028】
ジカルボン酸無水物としては、脂肪族ジカルボン酸無水物、脂環族ジカルボン酸無水物、芳香族ジカルボン酸無水物があるが、好ましいジカルボン酸無水物は、無水マレイン酸、炭素数4~8の脂肪族ジカルボン酸無水物及びフタル酸無水物であり、炭素数4~8の脂肪族ジカルボン酸無水物としては、無水コハク酸、グルタル酸無水物、アジピン酸無水物、ピメリン酸無水物、スベリン酸無水物、アゼライン酸無水物、セバシン酸無水物である。
【0029】
さらに、好ましいジカルボン酸無水物は無水コハク酸、無水マレイン酸とグルタル酸無水物である。これらの無水物は安価且つ市販から容易に入手できるため好ましい。
【0030】
反応溶媒としては、下記式(1)で表されるプロトン性アミド系溶媒を用いる。
R1-C(=O)―NH(R2) (1)
(式中、R1とR2はプロトン又は炭素数1~3のアルキル基を表わす。R1とR2は同じ又は異なる。)
【0031】
好ましいプロトン性アミド系溶媒としては、常温での誘電率が45以上、アクセプター数が20以上のプロトン性アミド系溶媒が好ましい。例えば、ホルムアミド(FA)、N-メチルホルムアミド(MFA)、N-エチルホルムアミド、アセトアミド、N-メチルアセトアミド、N-エチルアセトアミドなどが挙げられる。好ましくは、ホルムアミド、メチルホルムアミド、アセトアミド及びN-メチルアセトアミドであり、最も好ましくはホルムアミドとメチルホルムアミドである。
【0032】
修飾セルロースナノファイバーの製造に用いられる溶媒は、反応化剤を溶解することに加え、セルロースへの浸透速度、セルロースの膨潤度及び修飾反応の促進作用など4つの性質が最も重要であり、修飾セルロースナノファイバーの繊維径、均一性を支配すると考えられる。
プロトン性アミド系溶媒、特に、ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、アセトアミド及びN-メチルアセトアミドはこれらの効果を兼備え、溶媒沸点が高いため加熱反応にも適するため好ましい。加えて、プロトン性アミド系溶媒はアニオンを溶媒和により安定化する効果が高いと思われ好ましい。
また、プロトン性アミド系溶媒は、一般のプロトン性極性溶媒と異なり、溶媒自身からプロトンを供与又は放出する能力が低いため、競合反応が起こりにくい。
【0033】
反応液のセルロースへの浸透性低下や副反応が起こらない限り、DMAc、DMF、NMP、DMSO、アセトンなどのケトン系、THFなどのエーテル系などの非プロトン性溶媒を含ませることもできる。プロトン性アミド系溶媒に非プロトン性溶媒に添加する割合は、溶媒全体の50wt%以下、好ましくは35wt%以下、より好ましくは30wt%以下である。
非プロトン性溶媒の含有率がこの範囲より多くなると浸透性が低下したり、副反応が起こったりするため好ましくない。
【0034】
プロトン性アミド系溶媒に含まれるジカルボン酸無水物の濃度は無水物の種類又は反応性、反応条件(温度、時間、パルプ濃度、触媒有無)により適宜に調整すればよい。例えば、1~50重量%、さらに好ましくは1.5~40重量%、もっと好ましくは2~35重量%、最も好ましくは3~30重量%である。濃度がこの範囲より低くなると反応速度が低下したり修飾率が低くなったりする恐れがあるため好ましくない。逆にこの範囲より高くなると、ジカルボン酸無水物が完全溶解できなくなったり、反応溶液がセルロースのフィブリル同士間への浸透性が低下したりする可能性があるため好ましくない。
【0035】
セルロースと反応溶液との重量割合は、前者/後者=1/99~35/65程度の範囲から選択でき、例えば1.2/98.8~30/70、好ましくは1.5/98.5~25/75、さらに好ましくは2/98~20/80程度である。セルロースの割合が少なすぎると、ジカルボン酸モノエステル化修飾CNFの生産効率が低くなり、多すぎると、反応時間が長くなるため、いずれにしても生産性が低下するおそれがある。さらに、セルロースの割合が多すぎると得られた微細繊維のサイズと修飾率の均一性が低下するおそれがある。
【0036】
反応溶液には、さらに塩基触媒を加えることができる。
反応溶液に塩基触媒が含まれることで、反応温度を低下させたり、反応時間を短縮させたりすることができるため好ましい。塩基触媒としては特に限定しないが、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム等のアルカリ金属炭酸塩、炭酸水素ナトリウム等のアルカリ金属炭酸水素塩、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等のアルキル金属酢酸塩、アルキル金属水酸化物、アミンなどが挙げられる。その中で、アルカリ金属炭酸塩、アルキル金属酢酸塩が好ましく、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウムがより好ましい。一方、アルキル金属水酸化物は塩基性が強いため、ジカルボン酸無水物の加水分解を起こす恐れがあり使用の優先順位が低い。
【0037】
反応溶液における塩基触媒の濃度は、ジカルボン酸無水物の種類、反応温度により適宜制御すればよい。例えば、0.01~10重量%、好ましくは0.05~5重量%、より好ましくは0.1~4重量である。最も好ましくは0.2~3重量%である。この範囲より低くなると触媒作用が期待できないため好ましくない。一方、この範囲より高くなるとセルロースやジカルボン酸無水物の分解に至るおそれがあるため好ましくない。
【0038】
セルロースをジカルボン酸モノエステル化で修飾する方法は、反応溶液をセルロースのフィブリル間に浸透させて、セルロースフィブリル表面の水酸基をエステル化反応して化学解繊することによって行うことができる。
前記の化学解繊する方法については特に限定されず、反応溶液と原料セルロースを混合して行えばよい。
【0039】
反応溶液の調整は、ジカルボン酸無水物と前記式(1)に示すプロトン性アミド系溶媒を含む反応溶液を混合して、場合によってはさらに塩基触媒を加えて反応溶液を調整する。一般的な反応溶液の調整方法は、各成分を混合して攪拌し溶媒に他の成分を均一に溶解させて調整することができる。
【0040】
反応溶液と原料セルロースの混合は、反応容器中の反応溶液に原料セルロースを加えてもよく、反応容器中の原料セルロースに反応溶液を加えてもよい。反応容器は、ラボスケールではサンプル瓶やフラスコなどが利用できる。スケールアップの場合、通常有機合成に適用する反応装置が良い。セルロース濃度が高い場合、二軸押し出し機などの混練機も使用できる。
【0041】
混合液を所定温度で所定時間まで攪拌することにより、反応溶液をセルロースのフィブリル間に浸透させて、セルロースフィブリル表面の水酸基をエステル化反応して化学解繊して、ジカルボン酸モノエステル化修飾セルロースを含む反応物を得ることができる。
【0042】
反応温度は、15℃~250℃が好ましい。15℃より低くなると反応速度が低くなり所要反応時間が長いため好ましくない。250℃より高くなるとセルロース又はジカルボン酸無水物が分解したり、ジカルボン酸モノエステル基がさらにセルロースの水酸基と脱水してアニオン性を失ったりする恐れがあるため好ましくない。より好ましくは20~200℃、最も好ましくは23~180℃である。
【0043】
反応は空気雰囲気で行うことができるが、高温加熱した反応の場合、反応化剤やセルロースの酸化反応を下げるため、不活性ガス下で反応を行うことが好ましい。不活性ガスで行うことで副反応が抑えられるため好ましい。不活性ガスとしては、窒素又はアルゴンガスの何れも利用できる。
【0044】
攪拌は、通常用いられる各種の攪拌方法の中から選択して攪拌すればよい。
ジカルボン酸モノエステル化修飾したセルロースの形状は、攪拌手法やそのせん断力により異なる。例えば、磁性スターラーや機械攪拌などのようなマイルドな攪拌を用いる場合、得られたものの繊維径はミクロンオーダーから数十ミクロンオーダーである。形状が大きいため洗浄の利便性が高く、通常のろ過、加圧ろ過、圧搾などの手法で簡単に洗浄できる。
一方、ペイントシェーカーなどの強力攪拌手法を用いると、修飾後殆どのセルロース繊維径がナノスケールとなる。よって、用途と目的により反応手法を適宜に選定すればよい。
【0045】
反応時間は、温度、ジカルボン酸無水物濃度、触媒濃度と触媒種により適宜に調整すればよい。
例えば、室温且つ触媒無添加の場合、反応時間は6~48時間が好ましい。
反応時間は、加熱あるいは塩基触媒の添加により短縮することができる。
触媒無添加の加熱反応の場合、反応時間は1時間~24時間が好ましい。
塩基触媒を添加した場合、反応時間は室温では3時間~10時間、加熱した場合では30分~6時間に短縮できる。
【0046】
反応時間が短いと、修飾率が低くなったりジカルボン酸モノエステル基の分布が不均一になったりするため得られたジカルボン酸モノエステル化修飾セルロースナノファイバーの分散液の透明性が低くなる恐れがあるため好ましくない。一方、反応時間が長すぎると、ジカルボン酸モノエステル基がさらに別のセルロース水酸基と反応しジカルボン酸ジエステル化修飾セルロースを生じて解繊を抑制する恐れがあるため好ましくない。
【0047】
続いて、反応により得られたジカルボン酸モノエステル化修飾セルロースを含む反応溶液からジカルボン酸モノエステル化修飾されたセルロースを分離、洗浄することにより、反応溶液中のプロトン性アミド系溶媒、ジカルボン酸無水物、ジカルボン酸、塩基触媒などを除去し、ジカルボン酸モノエステル化修飾されたセルロースを回収する。
洗浄溶媒として、特に限定しないが、反応溶液の各成分を溶解できればよい。例えば、水又はアルコール又は水とアルコールの混合液が好ましい。
洗浄方法は、特に限定しないが、圧搾法、加圧濾過法、減圧濾過法、遠心分離法、析出法などが考えられる。
【0048】
反応条件により洗浄途中で、中和用アルカリを用いて中和することが好ましい場合がある。中和用アルカリは特に制限しないが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどのアルカリ金属水酸化物や炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウムなどのアルカリ金属の炭酸塩又はアミン系化合物などが挙げられる。
【0049】
回収したジカルボン酸モノエステル化修飾されたセルロースの状態は特に限定しない。例えば、洗浄した後、水などのプロトン性溶媒を含んだままのウェット状又は乾燥した状態の何れでも良い。回収した修飾セルロースは乾燥させても水を加えると再び分散する。
【0050】
回収したジカルボン酸モノエステル化修飾されたセルロースの形状については、修飾反応時の反応条件、攪拌条件により様々であるが、通常は、繊維径数μm~数十μmの繊維状、繊維径数百nm~1000nmの微細繊維状又は繊維径3nm~100nmのセルロースナノファイバーである。攪拌速度が速いほど、反応と共に解繊が行われるため得られるアニオン性セルロースの中にミクロンオーダー以上の繊維の含有率が少なくなる。しかし、攪拌が強力すぎると反応過程でナノスケールまで解されて、洗浄する際に離水性が低下し洗浄に所要する洗浄溶媒の量が増えたり、洗浄時間が長くなったりするなど、生産効率の低下に至る可能性がある。
【0051】
ジカルボン酸無水物と前記式(1)に示すプロトン性アミド系溶媒を含む反応溶液をセルロースフィブリルの間に浸透させて、セルロースフィブリル表面の水酸基をジカルボン酸モノエステル化修飾する前記〔1〕~〔4〕のいずれかの製造方法によりジカルボン酸モノエステル化修飾セルロースを製造する工程を第1工程とし、続いて、第1工程で製造したジカルボン酸モノエステル化修飾セルロースを水又は極性溶媒50%以下の水溶液中に分散し静電反発とせん断力によりナノ化させる第2工程とする製造方法によりシングルCNFを主成分とするジカルボン酸モノエステル化修飾セルロースナノファイバーを製造することができる。
【0052】
第2工程で修飾セルロースをシングルCNFに解繊するためには、第1工程で製造するジカルボン酸モノエステル化修飾されたセルロースは、ジカルボン酸モノエステル基の平均置換度が0.10以上であることが好ましく、より好ましくは0.12以上、さらに好ましくは0.15以上である。
平均置換度が0.10未満になると、得られたアニオン性セルロースは水中での静電反発が不十分でのため解繊度合が低くなり、解繊後に繊維径が10nmを超える粗CNFの含有率が多くなる恐れがあるため好ましくない。
【0053】
第2工程では、静電反発と機械解繊(せん断力)を併用することにより繊維の形状に関わらず3~10nmまでセルロースをナノ化することができる 第2工程は、第1工程で製造したジカルボン酸モノエステル化修飾セルロースを水又は極性溶媒50%以下の水溶液中に分散させて静電反発させるとともに機械又は物理的なせん断力を加えることにより解繊する。
分散溶媒は、静電反発の効果から、水(蒸留水)が最も好ましいが、ナノ化解繊の後にCNFの濃縮の利便性からアルコールなどの極性溶媒50%以下の水溶液を用いてもよい。
CNFの水酸基がアニオン基で置換されていることにより、分散溶媒中での静電反発により繊維径が3~10nmのシングルCNFまで解繊することができる。
【0054】
繊維径が3~10nmのシングルCNFを主成分とする繊維径3~100nmの修飾CNFの集合体が得られる好ましい方法は、分散溶媒中の修飾セルロース繊維の固形分が約0.1~0.8%になるようにして、ミキサーやホモジナイザーなどの攪拌装置で3~20分攪拌処理する方法を挙げることができる。
【0055】
第2工程で粗大繊維が残留している場合は、ナイロンメッシュなどのフィルターを用いてろ過することにより残留している粗大繊維を除くこともできる。また、クレアミックスやホモジナイザーでさらに処理すると、解繊度合いを向上したり、繊維長を所要範囲まで切断して短くしたりすることもできる。
【0056】
前記第1工程及び第2工程により、ジカルボン酸モノエステル基の平均置換度が0.1~1.0であり、集合体を構成する繊維径3~10nmのシングルセルロースナノファイバーの本数含有率が98%以上であるジカルボン酸モノエステル化修飾セルロースナノファイバーの集合体が得られる。
【0057】
本発明の前記ジカルボン酸モノエステル化修飾セルロースナノファイバーの集合体を構成するセルロースナノファイバーはセルロースIβ結晶構造を有していることが好ましい。Iβ結晶構造を持つことでジカルボン酸モノエステル化修飾セルロースナノファイバーの集合体は強く、一般有機溶媒に溶けないため好ましい。
【0058】
また、本発明の前記集合体を構成するセルロースナノファイバーの結晶化度は、30%~75%である。結晶化度が75%より高くなると繊維径が20nm以上のナノファイバーの本数含有率が高く、集合体の透明性が低くなるため好ましくない。通常、セルロースナノファイバーの結晶化度は繊維径に左右され、繊維径を反映する。結晶化度70%未満に制御すると集合体における繊維径3~10のシングルセルロースナノファイバーの含有率が98%以上であること確保できるため好ましい。一方、結晶化度が30%以下になると非結晶性セルロースの含有率が増えて、補強効果や増粘効果が低下する恐れがあるため好ましくない。より好ましい結晶化度は35~69%、最も好ましくは40~68%である。
【0059】
本発明の前記集合体を構成するセルロースナノファイバーのジカルボン酸モノエステルで修飾された水酸基の数(平均置換度)は、好ましくは0.1~1.0である。もっと好ましくは0.12~0.9、最も好ましくは0.15~0.8である。0.1より低くなると、繊維径10nm以上のCNF含有率が多くなり、シングルセルロースナノファイバー集合体の透明性が低下する恐れがある。一方、平均置換度が1.0以上になると、結晶化度は大きく低下する恐れがあるため好ましくない。
【0060】
本発明の前記ジカルボン酸モノエステル化修飾セルロースナノファイバーの集合体の0.3重量%の水分散液の可視光透過率は65%以上である。65%以下になると補強したコンポジットや分散液の透明性が低いため好ましくない。可視光透過率が65%以上であれば、繊維径3~10nmのシングルセルロースナノファイバーの本数含有率が98%以上であることを担保できる。可視光透過率は、さらに好ましくは75%以上、最も好ましくは80%以上である。
【0061】
本発明の前記集合体を構成する繊維径3~10nmのシングルセルロースナノファイバーの本数含有率は、98%以上である。繊維径3~10nmのシングルセルロースナノファイバーの本数含有率が98%より低くなると補強したコンポジットや分散液の透明性が低いため好ましくない。
【0062】
前記集合体を構成する繊維径3~10nmのシングルセルロースナノファイバーの平均繊維長は、200nm以上、1000nm未満である。この範囲より短くなると補強効果、増粘効果や保水効果が低くなるため好ましくない。一方、1μm以上になるとポリマーと複合化する際に凝集でき易いため補強効果を発現できなくなるため好ましくない。さらに、繊維長が長すぎると塗料や接着剤に添加する時粘度が大きく増加し塗料又は接着剤の流動性や加工性が失う恐れがあるため好ましくない。
前記集合体を構成するセルロースナノファイバーの平均繊維長は、より好ましくは250nm~900nm、最も好ましくは300~850nmである。
【実施例0063】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。表1に、実施例及び比較例の反応液の組成と反応条件を一覧表にして示す。なお、用いた原料の詳細は以下の通りであり、得られた修飾セルロースナノファイバーの特性は以下のようにして測定した。
【0064】
(用いた原料と溶媒)
セルロースパルプ:市販針葉樹木材パルプ(Georgia Pacific社製、商品名:フラッフパルプARC48000GP)を用いた。1センチ角に千切ってから用いた。
粉末セルロース:日本製紙(株)製KCフロックW-100G、平均重合度450を用いた。
他の試薬は、ナカライテスク(株)から購入した。
【0065】
(解繊に用いた機器)
ミキサー:パナソニック社製のMX-X701-T ミキサー。
クレアミックス:M TECHNIQUE 社製のクレアミックスCLM。
【0066】
(セルロースナノファイバーのIR分析)
IRスペクトルによりジカルボン酸モノエステル化修飾を確認した。セルロースナノファイバーのIRスペクトルは、フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)で測定した。なお、測定は、NICOLET社製「NICOLET MAGNA-IR760 Spectrometer」を用い、ATRモードで分析した。
【0067】
(セルロース又はCNFのジカルボン酸モノエステル基修飾率の定量)
セルロース又はCNFのジカルボン酸モノエステル基修飾率は平均置換度で示し、電気伝導度滴定法で定量した。即ち、ジカルボン酸モノエステル化修飾したセルロース又はジカルボン酸モノエステル化修飾したCNFの0.3%の水分散液100gを調製し、そこに0.1Nの塩酸水溶液を加えてpHを2.5に調整した後、0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を用いてpHが11になるまで滴下しながら電気伝導度の値を記録した。電気伝導度とpHをプロットし、電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム水溶液量(a)から、カルボン酸基のモル数Qは、下記式で求められた。
Q(mol)=a[ml]×0.05/1000
この置換基のモル数Qとセルロースの構成単位である無水グルカンの分子量(162)から平均置換度を算出された。
平均置換度=162×Q/(100×0.3%-M×Q+18×Q)
(式中、100はジカルボン酸モノエステル化修飾セルロース又はジカルボン酸モノエステル化修飾CNFの水分散液の量、Mはジカルボン酸無水物の分子量、18はジカルボン酸無水物と水酸基の反応により脱水生成された水の分子量である。)
【0068】
(SEM観察)
ジカルボン酸モノエステル化修飾セルロースナノファイバーの形状はFE-SEM(日本電子(株)製「JSM-6700F」、測定条件:20mA、60秒)を用いて観察した。
【0069】
(TEM観察サンプルの作製)
ジカルボン酸モノエステル化修飾セルロースナノファイバーの集合体を水により0.003%に希釈した後、最終の濃度が0.0015%以下になるように電子顕微鏡用イオン液体(日立ハイテクノロジーズ HILEM IL1000)と混合し、TEM観察用カーボン支持膜(応研商事製 スーパーハイレゾカーボン SHR-C075)上に滴下、乾燥させることによりTEM観察用サンプルを調製した。像コントラストを強調するため、酢酸ガドリニウムを主成分とする電子顕微鏡用染色剤(日新EM製 EMステイナー)を用いて上記試料に電子染色(ネガティブ染色)を施した。
【0070】
(TEM観察)
前記TEM観察サンプルを日本電子製 電界放出型透過電子顕微鏡(FE-TEM) JEM-2100Fを用いて、加速電圧120kV、TEM明視野で観察した。
TEM写真の画像からランダムに繊維径が10nmを超えるCNFを見出し、その周りに繊維径が10nm以下のCNFの本数は49本以上であることを確認した。
繊維径3~10nmのシングルセルロースナノファイバーの平均繊維径及び平均繊維長の測定は、40万倍以上のTEM画像により観察した。TEM写真の画像からランダムに50本以上の繊維を選択し、それぞれの繊維径及び繊維長を計測した。
CNFが湾曲している場合には、繊維の弯曲線に沿って繊維の両端を見出し、各弯曲の間の直線距離を計測し、加算して繊維長とした。
【0071】
(結晶化度の測定方法)
ジカルボン酸モノエステル化修飾セルロースナノファイバーの分散液を乾燥し、粉末X線結晶回折(XRD)を用いて結晶化度を測定した。なお、X線回折装置(UltimaIV、株式会社リガク製)を使用して分析した。測定条件を次に示した。
・X線:Cu/40kV/40mA
・スキャンスピード:10°/分
・走査範囲:2θ=5~70°
また、下記式によって、結晶化度を算出した(Textile Res. J.29:786-794, 1959参照)。
結晶化度(%)=[(I200-IAM)/I200]×100
I200:2θ=22.6°の回折強度
IAM:アモルファス部の回折強度であり2θ=18.5°の回折強度
【0072】
(熱分解温度の測定方法)
ジカルボン酸モノエステル化修飾セルロースナノファイバーの集合体を105℃で2時間乾燥し、その熱分解挙動を示差熱熱重量同時測定装置(STA7200、株式会社日立ハイテクサイエンス製)を使用して分析した。測定条件を次に示した。5%減量温度を測定し、熱分解温度とした。
・雰囲気:アルゴンガス(流量300mL/分)
・温度範囲:30~400℃
・昇温速度:10℃/分
【0073】
(可視光線透過率の測定)
ジカルボン酸モノエステル化修飾セルロースナノファイバーの集合体の0.3重量%の水分散液を調製して紫外可視分光光度計を用いて測定し、波長589nm(D線)での可視光線透過率を測定した。測定に用いた装置は、島津製作所製のUV-3600で、測定波長範囲は300nm~800nmだった。
【0074】
[実施例1]
無水マレイン酸5gとホルムアミド45gの混合液とセルロースパルプ1.5gを100ml丸底三口フラスコに入れ、PTFE羽根型撹拌棒を取り付け、室温で30分攪拌した後、60℃のオイルバスに入れてフラスコ内にアルゴンガスをフローし続けながら6時間攪拌した。反応物を放冷した後、ナイロンメッシュ(T380)で絞って反応溶液を除いてジカルボン酸モノエステル化修飾セルロース成分と反応溶液をそれぞれ回収した。
回収した修飾セルロースを蒸留水150gに分散して再び絞ってジカルボン酸モノエステル化修飾セルロース成分を回収した。分散と絞りを2回繰り返した後、0.4g炭酸ナトリウムを水250mlに溶解した溶液に絞ったジカルボン酸モノエステル化修飾セルロースを分散して再度絞った後、蒸留水250mlで2回洗浄することによりマレイン酸モノエステル化修飾セルロースを得た。洗浄したマレイン酸モノエステル化修飾セルロースと蒸留水を合わせて500mlの分散液を調製してミキサーに入れて10分攪拌することによりマレイン酸モノエステル化修飾セルロースナノファイバーの水分散液を得た。
【0075】
水分散液の外観写真を図1に示した。マレイン酸モノエステル化修飾はIRスペクトルにより確認した(図2)。エステル化結合の吸収1730cm-1付近、末端カルボン酸ナトリウムの吸収は1600cm-1付近にそれぞれ検出された。
得たマレイン酸モノエステル化修飾CNFの0.3%の水分散液を電気伝導度滴定法によりマレイン酸モノエステル化修飾率(平均置換度)は0.46であることを確認した。
得たマレイン酸モノエステル化修飾CNFの0.3%の水分散液の紫外可視透過スペクトルチャートを測定し、結果を図3に示した。可視光透過率は67%となった。
得たマレイン酸モノエステル化修飾CNFの集合体の結晶化度をXRDで評価した結果、69%であることが判明した。また、TG-DTA分析した結果、熱分解温度が260℃であった。
得たマレイン酸モノエステル化修飾CNFの集合体をFE-SEMで観察した。50000倍まで拡大すると繊維径が10nm程度以下のナノファイバー状骨格が認められたが、正確な繊維径と繊維長をはっきり測定できなかった。
次に、TEMを用いて観察した。TEMで得られた画像より無作為で50本のセルロースナノファイバーを選んで、繊維径と繊維長をそれぞれ計測した。繊維径が10nmを超えるものが認められず、3~10nmのセルロースナノファイバーの本数含有率は98%以上であり、シングルCNFの平均繊維径は8nmであった。また、繊維長は500nm~1000nmの間に分布していることを確認でき、平均繊維長は945nmであった。
以上、得たマレイン酸モノエステル化修飾CNFの評価結果を表2に示す。
【0076】
[実施例2]
ミキサー処理後にクレアミクスでさらに20分処理した以外は実施例1と同様に実施した。即ち、実施例1と同様にミキサー処理により得られたマレイン酸モノエステル化修飾セルロースナノファイバーの水分散液(0.3%)をさらにクレアミックスCLMを用いて100mlスケールで18000rpmの回転速度で20分間処理した以外は実施例1と同様の条件及び方法で実施した。
回収したマレイン酸モノエステル化修飾CNFを実施例1と同様に評価した評価結果を表2に示す。
【0077】
[実施例3]
反応温度を室温(23℃)、反応時間を24時間に変更した以外、実施例1と同じ工程でマレイン酸モノエステル化修飾CNFを調製した。その評価結果を表2、図1、2と3に示した。
【0078】
[実施例4]
修飾化剤を無水マレイン酸に代えて無水コハク酸を用い、溶媒をホルムアミドに代えてN-メチルホルムアミドを用い、触媒として炭酸ナトリウム0.75gを添加し、反応時間を6時間に変更した以外は、実施例3と同じ工程でコハク酸モノエステル化修飾CNFを調製した。その評価結果を表2、図1、2と3に示した。
【0079】
[実施例5]
溶媒をN-メチルホルムアミドに代えてホルムアミドを用いた以外は、実施例4と同じ工程でコハク酸モノエステル化修飾CNFを調製した。その評価結果を表2及び図1、2と3に示した。
【0080】
[実施例6]
反応時間を6時間から4時間に変更した以外は、実施例5と同じ工程でコハク酸モノエステル化修飾CNFを調製した。その評価結果を表2、図1、2と3に示した。
【0081】
[実施例7]
無水コハク酸の添加量を5gから2.5gに、ホルムアミドの添加量を45gから47.5gに変更した以外は、実施例6と同じ工程でコハク酸モノエステル化修飾CNFを調製した。その評価結果を表2、図1、2と3に示した。
【0082】
[実施例8]
無水コハク酸に代えてグルタル酸無水物を用いた以外は、実施例5と同じ工程でグルタル酸モノエステル化修飾CNFを調製した。その評価結果を表2に示した。
【0083】
[実施例9]
無水コハク酸に代えて無水マレイン酸を用い、炭酸ナトリウムに代えて炭酸水素ナトリウムを用いた以外は、実施例5と同じ工程でマレイン酸モノエステル化修飾CNFを調製した。その評価結果を表2及び図1と3に示した。
【0084】
[実施例10]
セルロースパルプに代えて粉末セルロースを用いた以外は、実施例5と同じ工程でコハク酸モノエステル化修飾CNFを調製した。修飾率、結晶化度と分散液の可視光線透過率などの測定結果を表2及び図1、2と3に示した。
【0085】
[比較例1]
溶媒をホルムアミドに代えてピリジンを用い、修飾化剤を無水マレイン酸に代えて無水コハク酸を用いた以外は実施例3と同じ工程でコハク酸モノエステル化修飾CNFを調製した。修飾率、結晶化度と分散液の可視光線透過率などの測定結果を表2及び図1と3に示した。
得られたコハク酸モノエステル化修飾CNFの水分散液は白濁しており、0.3%の水分散液の可視光透過率は38%と低かった。また、繊維径3~10nmのシングルCNFは存在するが、繊維径10nm以上のCNFの存在が目立った。
【0086】
[比較例2]
溶媒をN-メチルホルムアミド(実施例4)、ホルムアミド(実施例5)に代えてDMAcを使用した以外は実施例4及び実施例5と同じ工程でコハク酸修飾セルロースナノファイバーの合成を行った。無水コハク酸のDMAc溶液に炭酸ナトリウムを加えると溶液が直ぐ赤、次に紫、さらにイカ墨色に変色した。パルプを加え、6時間攪拌した後、実施例4及び実施例5と同様に洗浄、解繊した。得られたコハク酸モノエステル化修飾CNFの水分散液は白濁しており、0.3%の水分散液の可視光透過率は9%と低かった。また、繊維径3~10nmのシングルCNFはほとんど存在しなかった。
【0087】
[比較例3]
溶媒をホルムアミドに代えてメタノールを使用した以外は実施例5と同じ工程でコハク酸修飾セルロースナノファイバーの合成を行った。6時間攪拌した後、パルプの形状はシートのまま維持されて、ミキサーで解繊を行っても解されなかった。乾燥してIRスペクトルを測定した結果、カルボニル基が検出されなかった。この結果から、メタノールはセルロースパルプの内部に殆ど浸透できず、セルロースと無水コハク酸との反応が生じないと判明した。
【0088】
[比較例4]
溶媒をホルムアミドに代えてジメチルスルホキシド(DMSO)を利用した以外は実施例1と同じ工程でコハク酸修飾セルロースナノファイバーの合成を行った。反応開始30分後、反応溶液が褐色になった。洗浄して得られたセルロースは黄色であった。ミキサーで解繊しても外観がほとんど変わらなかった。
これらの結果から、DMSO中におけるエステル化反応は遅いことに加え、副反応が生じてセルロース繊維が着色し繊維が解繊されていないことが分かった。
【0089】
以上の実施例と比較例の結果を踏まえて、本願の技術の反応溶液は、セルロースへの浸透性が優れたことに加え、副反応が少ないことで得られたジカルボン酸モノエステル化修飾CNFが着色しなく、分散液の透明性が高いことが明らかになった。さらに、触媒添加しても添加しなくても、室温でも加熱しても副反応が起こさず、ジカルボン酸化修飾セルロースナノファイバーが得られた。
【0090】
【表1】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明のジカルボン酸モノエステル化修飾セルロースナノファイバーの集合体は、樹脂の補強材、無機粒子との複合材、コーティング剤に利用でき、シートやフィルムに成形して利用することもできる。さらに、乳化作用(界面活性剤)、増粘作用、保水又は保湿作用などの機能を持つため、医療材・医薬剤分野、化粧品分野、食品分野などへの応用も期待できる。さらに、本発明のジカルボン酸モノエステル化修飾セルロースナノファイバーの集合体は透明性が高いため、透明樹脂の補強材として特に適する。

図1
図2
図3