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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022030483
(43)【公開日】2022-02-18
(54)【発明の名称】導電性インクジェットインク
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/326 20140101AFI20220210BHJP
   C09D 11/52 20140101ALI20220210BHJP
   H01B 1/22 20060101ALI20220210BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20220210BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20220210BHJP
【FI】
C09D11/326
C09D11/52
H01B1/22 Z
B41J2/01 501
B41M5/00 120
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020134556
(22)【出願日】2020-08-07
(71)【出願人】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】株式会社ノリタケカンパニーリミテド
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(72)【発明者】
【氏名】奥田 和弘
(72)【発明者】
【氏名】林 博道
(72)【発明者】
【氏名】村上 歩
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4J039
5G301
【Fターム(参考)】
2C056FC01
2C056FD10
2H186AA17
2H186FB04
2H186FB13
2H186FB14
2H186FB29
2H186FB48
2H186FB56
4J039AD06
4J039AD10
4J039BA06
4J039BA36
4J039BE01
4J039BE22
4J039CA07
4J039EA24
4J039EA44
4J039GA24
5G301DA14
5G301DA33
5G301DA42
5G301DD01
5G301DD02
5G301DD03
(57)【要約】
【課題】無機粉末の主成分としてタングステン粒子を含む導電性インクジェットインクにおいて、インク粘度と経日安定性とを高いレベルで両立する。
【解決手段】ここに開示される導電性インクは、主成分としてW粒子を含有する無機粉末と、分散剤と、有機溶剤とを少なくとも含有し、分散剤は、カチオン系分散剤と、ノニオン系分散剤とを含む混合分散剤である。そして、インク総量を100wt%としたときの混合分散剤の含有量が1.1wt%以上5wt%以下であり、かつ、混合分散剤の含有量を100wt%としたときのノニオン系分散剤の含有量が20wt%以上90wt%以下である。これによって、W粒子を主成分としたインクにおいて、分散材料の含有量を微量にしても好適な経日安定性が発揮できるため、インク粘度と経日安定性とを高いレベルで両立できる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子部品の製造に用いられる導電性インクジェットインクであって、
主成分としてタングステン粒子を含有する無機粉末と、分散剤と、有機溶剤とを少なくとも含有し、
前記分散剤は、カチオン系分散剤と、ノニオン系分散剤とを含む混合分散剤であり、
前記導電性インクジェットインクの総量を100wt%としたときの前記混合分散剤の含有量が1.1wt%以上5wt%以下であり、かつ、
前記混合分散剤の含有量を100wt%としたときの前記ノニオン系分散剤の含有量が20wt%以上90wt%以下であることを特徴とする、導電性インクジェットインク。
【請求項2】
前記無機粉末の比表面積が1m/g以上5m/g以下である、請求項1に記載の導電性インクジェットインク。
【請求項3】
前記無機粉末の平均粒子径が150nm以上500nm以下である、請求項1または2に記載の導電性インクジェットインク。
【請求項4】
前記導電性インクジェットインクの総量を100wt%としたときの前記無機粉末の含有量が30wt%以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載の導電性インクジェットインク。
【請求項5】
前記導電性インクジェットインクの総量を100wt%としたときの前記無機粉末の含有量が60wt%以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の導電性インクジェットインク。
【請求項6】
前記導電性インクジェットインクの総量を100wt%としたときの前記混合分散剤の含有量が2wt%以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載の導電性インクジェットインク。
【請求項7】
前記カチオン系分散剤の重量平均分子量Mwは、2×10以上1.5×10以下である、請求項1~6のいずれか一項に記載の導電性インクジェットインク。
【請求項8】
前記ノニオン系分散剤の重量平均分子量Mwは、2×10以上7×10以下である、請求項1~7のいずれか一項に記載の導電性インクジェットインク。
【請求項9】
バインダ樹脂をさらに含有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の導電性インクジェットインク。
【請求項10】
前記バインダ樹脂は、ポリビニルアセタール樹脂および/またはアクリル樹脂を含む、請求項9に記載の導電性インクジェットインク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性インクジェットインクに関する。具体的には、無機粉末の主成分としてタングステン粒子を含む導電性インクジェットインクに関する。
【背景技術】
【0002】
模様や文字などの画像を印刷対象に描画する印刷方法の一つとして、従来からインクジェット印刷が用いられている。かかるインクジェット印刷は、精度の高い画像を低コストかつオンデマンドで印刷でき、印刷対象へのダメージも少ないため、種々の分野への応用が検討されている。例えば、近年では、電子部品の導電回路パターン(電極など)の形成にインクジェット印刷を使用することが検討されている。
【0003】
かかる電子部品の製造においては、金属粒子等を含む無機粉末を導電性材料として添加した導電性インクジェットインク(以下、「導電性インク」ともいう)が使用される。かかる導電性インクの一例として、銀や銀銅合金等のナノ金属パウダーを無機粉末として含むインクが特許文献1に開示されている。また、酸化銀、酸化銅、酸化パラジウム、酸化ニッケル、酸化鉛、酸化コバルト等の金属酸化物微粒子を無機粉末として含むインクが特許文献2に開示されている。一般に、インクジェット印刷によって適切な導電回路パターンを形成するには、導電性インクが低粘度であり、かつ、無機粉末の濃度が高いことが求められる。上述した特許文献1、2では、これらのインクジェット適正を得るための技術が提案されている。
【0004】
また、印刷時の吐出性や印刷後の導電性等を確保するという観点から、導電性インクジェットインクでは、インク中で無機粉末が安定的に分散していることも求められる。例えば、特許文献3では、酸点と塩基点とが表面に混在する固体微粒子(無機粉末)の分散性を高めるために、酸性吸着基又は塩基性吸着基の何れか一方のみを有する第1分散剤と、酸性吸着基と塩基性吸着基の両方を有する第2分散剤とを添加する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2008-513565号公報
【特許文献2】特開2012-216425号公報
【特許文献3】特開2015-62871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、電子部品の中には、プラズマ耐久性が求められる製品(例えば、静電チャック等)がある。このような耐プラズマ性電子部品では、プラズマ耐久性に優れたセラミック材料(アルミナ、窒化アルミニウムなど)を含む無機基材が用いられる。そして、耐プラズマ性電子部品の製造工程では、かかる無機基材の焼結のために1200℃以上という高温焼成が行われる。この高温焼成中に無機粉末の溶融による導電回路パターンの形状崩壊が生じることを防止するため、耐プラズマ性電子部品では、導電性材料として、タングステン(W)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、モリブデン(Mo)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、クロム(Cr)等の融点1200℃以上の金属(以下、「高融点金属」とも言う)が用いられる。これらの高融点金属のなかでも、タングステンは、化学的な安定性に優れる、体積抵抗率ρV(Ω・cm)が低い、比較的に安価である等の利点を有している。このため、タングステンは、耐プラズマ性電子部品の導電回路パターンを形成する導電性材料として広く使用されている。
【0007】
本発明者らは、タングステン粒子(W粒子)を含むインクジェットインクを開発し、耐プラズマ性電子部品をインクジェットインク印刷で製造することを検討している。しかしながら、タングステンは、現在広く使用されている導電性インクの無機材料(AgやCu等)と比べて比重が非常に大きいため、液中での沈降や凝集が生じやすい。このため、導電性インクの無機粉末の主成分としてW粒子を使用すると、経日安定性が大幅に低下し、長期間(例えば、二ヶ月以上)の保存が困難になるという問題が生じる。
【0008】
一般に、インク中の無機粉末の沈降・凝集を抑制して経日安定性を向上させるには、インクに分散剤を添加することが推奨される。しかしながら、上述の通り、W粒子はインク中での沈降・凝集が非常に生じやすいため、W粒子を含むインクにおいて充分な経日安定性を得るには多量の分散剤を添加する必要がある。このような分散剤の過剰添加を行うと、インク粘度が大きく増大するため、実用に耐える吐出性(印刷性)を確保することが困難になる。すなわち、無機粉末の主成分としてW粒子を含む導電性インクでは、インク粘度と経日安定性とがトレードオフの関係にあり、これらを高いレベルで両立させることが困難であった。
【0009】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、無機粉末の主成分としてタングステン粒子を含む導電性インクジェットインクにおいて、インク粘度と経日安定性とを高いレベルで両立させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の目的を達成するため、ここに開示される技術によって、以下の構成の導電性インクジェットインクが提供される。
【0011】
すなわち、ここに開示される導電性インクジェットインクは、電子部品の製造に用いられる。かかる導電性インクジェットインクは、主成分としてタングステン粒子を含有する無機粉末と、分散剤と、有機溶剤とを少なくとも含有している。かかる分散剤は、カチオン系分散剤と、ノニオン系分散剤とを含む混合分散剤である。そして、ここに開示される導電性インクジェットインクでは、導電性インクジェットインクの総量を100wt%としたときの混合分散剤の含有量が1.1wt%以上5wt%以下であり、かつ、混合分散剤の含有量を100wt%としたときのノニオン系分散剤の含有量が20wt%以上90wt%以下であることを特徴とする。
【0012】
ここに開示される導電性インクでは、カチオン系分散剤とノニオン系分散剤とを所定の割合で混合した混合分散剤が使用されている。これによって、W粒子を主成分として含む無機粉末を使用しているにもかかわらず、微量の分散剤で充分な経日安定性を得ることができるため、分散剤の過剰添加によるインク粘度の上昇を抑制できる。かかる効果が得られる作用機序は次のように推測される。一般に、W粒子の最表面は、大気中の酸素によって酸化されて弱酸性になる。ここで、混合分散剤に含まれるカチオン系分散剤は、末端にアミン基を有しているため、表面が弱酸性であるW粒子に付着しやすい。一方、ノニオン系分散剤は、W粒子に直接付着しにくいが、W粒子に付着したカチオン系分散剤の他端に付着することはできる。このように、カチオン系分散剤を介してノニオン系分散剤がW粒子に付着すると、非常に強い立体障害が生じ、W粒子同士の近接距離を大きい状態に維持できる。この結果、混合分散剤の含有量を微量(5wt%以下)に低減しても、非常に高い分散性を発揮できるため、充分な経日安定性を得ることができる。
【0013】
なお、上述の混合分散剤による分散作用を適切に生じさせるには、カチオン系分散剤とノニオン系分散剤とが適切な比率で混合されている必要がある。さらに、従来よりも長期間(例えば、二ヶ月以上)の経日安定性を得るには、混合分散剤の含有量を一定以上に設定する必要がある。本発明者らは、これらの観点に基づいて実験を行った結果、インク総量に対する混合分散剤の含有量を1.1wt%以上5wt%以下とし、かつ、混合分散剤の総量に対するノニオン系分散剤の含有量を20wt%以上90wt%以下とすることによって、インク粘度と経日安定性とを高いレベルで両立できることを見出し、ここに開示される技術を完成させた。
【0014】
ここに開示される導電性インクジェットインクの好ましい一態様では、無機粉末の比表面積が1m/g以上5m/g以下である。これによって、W粒子の表面にカチオン系分散剤が付着しやすくなるため、ここに開示される技術の効果をより好適に発揮することができる。
【0015】
ここに開示される導電性インクジェットインクの好ましい一態様では、無機粉末の平均粒子径が150nm以上500nm以下である。これによって、無機粒子の凝集・沈殿による経日安定性の低下を抑制できると共に、インクジェット装置の吐出口が詰まることによる吐出性の低下を防止できる。
【0016】
ここに開示される導電性インクジェットインクの好ましい一態様では、導電性インクジェットインクの総量を100wt%としたときの無機粉末の含有量が30wt%以上である。これによって、少ない印刷回数で好適な厚みの導電回路パターンを形成できるため、高品質な電子部品を効率良く製造できる。
【0017】
ここに開示される導電性インクジェットインクの好ましい一態様では、導電性インクジェットインクの総量を100wt%としたときの無機粉末の含有量が60wt%以下である。これによって、導電性インクの経日安定性や吐出性をより向上させることができる。
【0018】
ここに開示される導電性インクジェットインクの好ましい一態様では、導電性インクジェットインクの総量を100wt%としたときの混合分散剤の含有量が2wt%以下である。これによって、インク粘度をさらに低減させて印刷時の吐出性を顕著に向上させることができる。なお、ここに開示される技術によると、混合分散剤の添加量を極めて微量(2wt%以下)に設定したとしても好適な経日安定性を維持できる。
【0019】
ここに開示される導電性インクジェットインクの好ましい一態様では、カチオン系分散剤の重量平均分子量Mwは、2×10以上1.5×10以下である。これによって、導電性インクの経日安定性とインク粘度とを更に高いレベルで両立できる。
【0020】
ここに開示される導電性インクジェットインクの好ましい一態様では、ノニオン系分散剤の重量平均分子量Mwは、2×10以上7×10以下である。これによって、導電性インクの経日安定性とインク粘度とを更に高いレベルで両立できる。
【0021】
ここに開示される導電性インクジェットインクの好ましい一態様では、バインダ樹脂をさらに含有する。これによって、導電性インクを乾燥させた乾燥膜の定着性や強度が向上するため、より緻密な導電回路パターンの形成に貢献することができる。
【0022】
また、上記バインダ樹脂を添加する態様において、バインダ樹脂は、ポリビニルアセタール樹脂および/またはアクリル樹脂を含むことが好ましい。これらの樹脂材料は、乾燥処理後の定着性や強度に優れているだけでなく、乾燥処理後の焼成処理において容易に焼失するため、高品質な導電回路パターンの形成に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】ここに開示される導電性インクにおけるW粒子と分散剤の状態を模式的に示す図である。
図2】導電性インクの製造に用いられる撹拌粉砕機を模式的に示す断面図である。
図3】インクジェット装置の一例を模式的に示す全体図である。
図4図3中のインクジェット装置のインクジェットヘッドを模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。なお、本明細書において、「A~B(A、Bは数値)」と記載した場合、「A以上B以下」を意味するものとする。
【0025】
1.導電性インクジェットインク
ここに開示される導電性インクジェットインクは、少なくとも、(1)無機粉末と、(2)分散剤と、(3)有機溶剤とを含有する。以下、ここに開示される導電性インクに含まれる各成分について説明する。なお、図1は、ここに開示される導電性インクにおけるW粒子と分散剤の状態を模式的に示す図である。
【0026】
(1)無機粉末
無機粉末は、焼成後の印刷層(導電回路パターン)の主成分(母材)を構成する材料である。ここに開示される導電性インクでは、無機粉末の主成分としてタングステン粒子(W粒子)が含まれている(図1中の符号A参照)。本明細書における「W粒子」とは、高純度(典型的には95%以上、好適には97%以上、特に好適には99%以上)のタングステン元素を含む金属粒子を指す。なお、W粒子に含まれ得るタングステン以外の元素は、W粒子の生成などにおいて混入し得る不可避的不純物であり、特に限定されない。この種のW粒子の粒子表面は、大気中の酸素によって酸化されて弱酸性となっている。また、タングステンは、1200℃以上の融点を有する高融点金属の一種である。かかる高融点金属を無機粉末(導電性材料)に使用することによって、高温環境に晒された場合でも好適に形状を維持できる導電回路パターンを形成できる。加えて、タングステンは、化学的な安定性に優れ、かつ、体積抵抗率ρV(Ω・cm)が低いだけでなく、高融点金属の中では安価な部類の金属である。このため、無機粉末の主成分としてW粒子を使用することによって、高品質な耐プラズマ性電子部品(静電チャック等)を安価に製造できる。
【0027】
なお、無機粉末は、主成分としてW粒子を含んでいればよい。換言すると、ここに開示される導電性インクの無機粉末は、微量であればW粒子以外の無機粒子を含んでいてもよい。かかる無機粒子の一例として、Pd、Pt、Rh、Mo、Co、Ni、Fe、Cr等のW以外の高融点金属粒子が挙げられる。また、W粒子以外の無機粒子の他の例として、ZrO、Al、AgO、CuO、PdO、NiO、CoO等のセラミック粒子が挙げられる。これらのセラミック粒子は、一般的な金属粒子よりも融点が高いため、W粒子と混合することによって、導電回路パターンの耐熱性の向上を図ることができる。なお、本明細書における「主成分としてW粒子を含む」とは、無機粉末の総量を100wt%としたときのW粒子の含有量が70wt%以上(好ましくは80wt%以上、より好ましくは90wt%以上、さらに好ましくは95wt%以上、特に好ましくは99wt%以上)であることを指す。無機粉末におけるW粒子の含有量を増加させるにつれて、導電回路パターンの安定化、体積抵抗率ρVの低下、製造コストの低減などの効果が大きくなる一方で、W粒子の凝集・沈殿による経日安定性の低下が生じやすくなる傾向がある。しかし、ここに開示される導電性インクは、後述の混合分散剤を含有しているため、70wt%以上という多量のW粒子を含む無機粉末を使用した場合でも、W粒子の凝集・沈殿による経日安定性の低下を好適に防止できる。
【0028】
また、詳しくは後述するが、ここに開示される導電性インクは、W粒子の表面に付着することによって分散性を向上させるカチオン系分散剤を含有している。かかるカチオン系分散剤による分散性向上効果を適切に発揮させるという観点から、無機粉末は、一定以上の比表面積を有していることが好ましい。例えば、無機粉末の比表面積は、1m/g以上が好ましく、1.5m/g以上がより好ましく、1.6m/g以上が特に好ましい。一方、無機粉末の比表面積が広くなりすぎると、無機粒子同士の凝集が却って生じやすくなる。かかる観点から、無機粉末の比表面積の上限は、5m/g以下が好ましく、4m/g以下がより好ましく、3.5m/g以下が特に好ましい。なお、本明細書における「比表面積」は、JISZ8830:2013に規定されたBET法に基づいて測定されたBET比表面積である。
【0029】
また、無機粉末の粒子径は、吐出性や経日安定性に影響し得る要素の一つである。具体的には、無機粉末の粒子径が大きすぎると、インクジェット装置の吐出口が無機粒子で詰まって吐出性が大きく低下する可能性がある。このため、インクジェットインクに添加される無機粉末の平均粒子径は、500nm以下が好ましく、450nm以下がより好ましく、425nm以下がさらに好ましく、400nm以下が特に好ましい。一方、無機粉末の粒子径が小さくなり過ぎると、無機粒子同士の凝集による経日安定性の低下が生じやすくなる。かかる観点から、無機粉末の平均粒子径の下限は、150nm以上が好ましく、170nm以上がより好ましく、180nm以上がさらに好ましく、200nm以上が特に好ましい。なお、本明細書における「平均粒子径」は、動的光散乱(Dynamic light scattering:DLS)法に基づく平均粒子径である。かかるDLS法に基づく平均粒子径は、JIS Z 8828:2013に準じて測定できる。
【0030】
なお、無機粉末の含有量は、特に限定されず、印刷目的(形成予定の導電回路パターン)に応じて適宜調節することができる。具体的には、導電性インク中の無機粉末の含有量が増加するにつれて、少ない印刷回数で好適な厚みの導電回路パターンを形成しやすくなる。かかる観点から、導電性インクの総量(100wt%)に対する無機粉末の含有量は、30wt%以上が好ましく、35wt%以上がより好ましく、40wt%以上が特に好ましい。一方、無機粉末の含有量が少なくなるにつれて、経日安定性や吐出性が向上する傾向がある。かかる観点から、導電性インクの総量に対する無機粉末の含有量は、70wt%以下が好ましく、60wt%以下がより好ましく、55wt%以下が特に好ましい。
【0031】
(2)分散剤
分散剤は、無機粒子をインク中に均一に分散させ、当該無機粒子の凝集・沈降を抑制する有機化合物である。ここに開示される導電性インクでは、カチオン系分散剤とノニオン系分散剤とが所定の割合で混合された混合分散剤が用いられている。これによって、微量の分散剤で充分な経日安定性を得ることができるため、分散剤の過剰添加によるインク粘度の上昇を抑制できる。以下、かかる混合分散剤について具体的に説明する。
【0032】
(a)カチオン系分散剤
カチオン系分散剤は、カチオン性官能基を有する分散剤である。ここに開示されるカチオン系分散剤は、少なくとも一方の末端にアミン基を有した鎖状の有機化合物である。かかるカチオン系分散剤のアミン基は、表面が弱酸性となったW粒子に付着しやすい。すなわち、図1に示すように、ここに開示される導電性インクにおけるカチオン系分散剤Bは、W粒子Aの表面に直接付着する分散剤として機能する。なお、カチオン系分散剤は、従来公知のカチオン系分散剤を特に制限なく使用できる。かかるカチオン系分散剤の一例として、脂肪酸アミン系分散剤、ポリエステルアミン系分散剤などが挙げられる。より具体的な例としては、クローダジャパン株式会社製のHypermerKD-1やHypermerKD-3などが好適に用いられる。
【0033】
また、カチオン系分散剤の重量平均分子量Mwは、ここに開示される技術の効果を阻害しない限りにおいて適宜調節できる。例えば、カチオン系分散剤の重量平均分子量Mwが大きくなるにつれて無機粉末の分散性が向上して経日安定性が向上しやすくなる傾向がある。かかる観点から、カチオン系分散剤の重量平均分子量Mwは、5×10以上が好ましく、1×10以上がより好ましく、1.5×10以上がさらに好ましく、2×10以上が特に好ましい。一方、カチオン系分散剤の重量平均分子量Mwが小さくなるにつれてインク粘度が低下して吐出性が向上する傾向がある。かかる観点から、カチオン系分散剤の重量平均分子量Mwは、5×10以下が好ましく、2.5×10以下がより好ましく、1.5×10以下がさらに好ましく、1.2×10以下が特に好ましい。なお、本明細書における「重量平均分子量Mw」は、東ソー株式会社製のGPC装置(HLC-8320)を使用し、移動相をテトラヒドロフランとして、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC:Gel Permeation Chromatography)に基づいて測定される。
【0034】
また、後述する「(c)混合分散剤の含有量」および「(d)混合分散剤中のノニオン系分散剤の含有量」に関する条件を満たしている限り、カチオン系分散剤の含有量は、特に限定されない。例えば、導電性インクの総量に対するカチオン系分散剤の含有量の下限値は、0.1wt%以上であってもよく、0.15wt%以上であってもよく、0.2wt%以上であってもよい。一方、カチオン系分散剤の含有量の上限値は、4wt%以下であってもよく、3.5wt%以下であってもよく、3wt%以下であってもよく、2.8wt%以下であってもよい。
【0035】
(b)ノニオン系分散剤
ノニオン系分散剤は、水に溶解した際にイオン化する基を有さない分散剤である。ノニオン系分散剤は、カチオン系分散剤と比べてW粒子の表面に付着し難い。しかし、上述したように、一方の末端にアミン基を有するカチオン系分散剤がW粒子に付着した場合、当該カチオン系分散剤の他方の末端にノニオン系分散剤が付着しやすい。すなわち、ここに開示される導電性インクでは、図1に示すように、カチオン系分散剤Bを介してW粒子Aにノニオン系分散剤Cが付着する。これによって、非常に強い立体障害が生じてW粒子A同士の近接距離を大きい状態に維持できるため、W粉末が主成分の無機粉末を使用しているにもかかわらず、微量の分散剤で充分な経日安定性を得ることができる。
【0036】
なお、ノニオン系分散剤についても、従来公知のノニオン系分散剤を特に制限なく使用できる。かかるノニオン系分散剤の一例として、エーテル系分散剤、エステル系分散剤、エーテルエステル系分散剤、含窒素系分散剤などが挙げられる。ノニオン系分散剤の具体例としては、クローダジャパン株式会社製のHypermerKD-13やHypermerKD-14の他に、クローダ株式会社製のSynperonic PE/L101などが挙げられる。また、ノニオン系分散剤の重量平均分子量Mwは、ここに開示される技術の効果を阻害しない限りにおいて適宜調節できる。例えば、ノニオン系分散剤の重量平均分子量Mwが大きくなるにつれて経日安定性が向上しやすくなる傾向がある。かかる観点から、ノニオン系分散剤の重量平均分子量Mwは、1×10以上が好ましく、2×10以上がより好ましく、3×10以上がさらに好ましく、4×10以上が特に好ましい。一方、ノニオン系分散剤の重量平均分子量Mwが小さくなるにつれて吐出性が向上する傾向がある。かかる観点から、ノニオン系分散剤の重量平均分子量Mwの上限は、1×10以下が適当であり、8×10以下が好ましく、7×10以下がより好ましく、6×10以下がさらに好ましく、5×10以下が特に好ましい。
【0037】
また、カチオン系分散剤の含有量と同様に、ノニオン系分散剤の含有量についても、後述の「(c)混合分散剤の含有量」および「(d)混合分散剤中のノニオン系分散剤の含有量」に関する条件を満たしている限りにおいて特に限定されない。例えば、導電性インクの総量に対するノニオン系分散剤の含有量の下限値は、0.5wt%以上であってもよく、0.7wt%以上であってもよく、0.8wt%以上であってもよく、0.9wt%以上であってもよい。一方、ノニオン系分散剤の含有量の上限値は、5wt%以下であってもよく、4.5wt%以下であってもよく、4wt%以下であってもよく、3.8wt%以下であってもよい。
【0038】
(c)混合分散剤の含有量
上述した通り、ここに開示される導電性インクでは、カチオン系分散剤Bを介してW粒子Aにノニオン系分散剤Cが付着しているため、非常に強い立体障害が生じ、W粒子A同士の近接距離を大きい状態に維持できる(図1参照)。この結果、W粒子が主成分の無機粉末を使用しているにもかかわらず、微量の分散剤で充分な経日安定性を得ることができる。すなわち、ここに開示される導電性インクでは、導電性インクの総量を100wt%としたときの混合分散剤の含有量を5wt%以下に減らしても、長期間(典型的には、二ヶ月以上)の経日安定性を得ることができる。この結果、分散剤の過剰添加によるインク粘度の上昇を防止し、インク粘度と経日安定性とを高いレベルで両立できる。なお、本発明者らの実験によると、混合分散剤の含有量を更に少なくしたとしても好適な経日安定性を維持できることが確認されている。そして、このように混合分散剤の含有量を低減させるにつれてインク粘度が低下するため、さらに優れた吐出性を得ることができる。かかる観点から、ここに開示される導電性インクにおける混合分散剤の含有量の上限値は、4wt%以下が好ましく、3wt%以下がより好ましく、2wt%以下が特に好ましい。一方で、混合分散剤の含有量を低減し過ぎると、充分な経日安定性が得られなくなる可能性がある。かかる観点から、ここに開示される技術では、混合分散剤の含有量の下限値が1.1wt%以上に設定されている。なお、好適な経日安定性を確実に得るという観点から、混合分散剤の含有量の下限値は、1.2wt%以上が好ましく、1.4wt%以上が特に好ましい。
【0039】
(d)混合分散剤中のノニオン系分散剤の含有量
また、混合分散剤が好適な分散性を発揮するには、カチオン系分散剤とノニオン系分散剤とが適切な割合で混合されていることが求められる。本発明者らの実験によると、混合分散剤の含有量を100wt%としたときのノニオン系分散剤の含有量が20wt%以上であれば、W粒子Aに付着したカチオン系分散剤Bに充分な量のノニオン系分散剤Cを付着させることができるため好適な分散性を発揮できる。なお、混合分散剤による分散性をより好適に発揮させるという観点から、ノニオン系分散剤の含有量は、25wt%以上が好ましく、30wt%以上がより好ましく、40wt%以上がさらに好ましく、50wt%以上が特に好ましい。一方で、ノニオン系分散剤の含有量が多くなり過ぎると、カチオン系分散剤の含有量が相対的に少なくなるため、W粒子Aに直接付着できる分散剤が少なくなる。この場合、多量の分散剤を添加しても分散性が向上しにくく、インク粘度のみが増大する可能性がある。かかる観点から、ここに開示される導電性インクでは、混合分散剤の含有量を100wt%としたときのノニオン系分散剤の含有量の上限値が90wt%以下に設定されている。なお、より効率よく分散性を向上させるという観点から、上記ノニオン系分散剤の含有量の上限値は、89wt%以下が好ましく、86wt%以下がより好ましく、80wt%以下が特に好ましい。
【0040】
(3)有機溶剤
有機溶剤は、ここに開示される技術の効果を阻害しない限り、従来のインクジェットインクに使用され得る有機溶剤を特に制限なく使用できる。なお、乾燥処理における急激な乾燥を防止して安定的に乾燥膜を形成するという観点から、比較的に沸点が高い有機溶剤(沸点:140℃~260℃)を使用することが好ましい。また、印刷精度の向上という観点から、有機溶剤は、比較的に低粘度(0.5mPa・s~20mPa・s程度)であり、かつ、適度な表面張力(20mN/m~40mN/m程度)を有するものが好ましい。このような有機溶剤の好適例として、グリコールアセテートや脂肪族モノアルコールなどが挙げられる。グリコールアセテートとしては、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ブチルグリコールアセテート、ブチルジグリコールアセテート(BDGAC)、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチラート等が挙げられる。また、脂肪族モノアルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、n-アミルアルコール、ヘキサノール、ヘプタノール、n-オクタノール、2-エチルヘキサノール、イソオクタノール、ノナノール、デカノール、イソウンデカノール、ラウリルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール等の直鎖又は分岐脂肪族アルコールが挙げられる。また、これらの有機溶剤を混合した混合溶剤を使用してもよい。
【0041】
(4)その他の成分
ここに開示される導電性インクは、本発明の効果を損なわない範囲で、インクジェットインク(典型的には、導電性インクジェットインク)に用いられ得る公知の添加剤をさらに含有してもよい。かかる添加剤の一例として、バインダ樹脂などが挙げられる。
【0042】
バインダ樹脂は、乾燥した導電性インク(乾燥膜)の定着性や強度を向上させるために添加される。バインダ樹脂は、ここに開示される技術の効果を阻害しない限り、従来の導電性インクに使用され得るバインダ樹脂を特に制限なく使用できる。なお、定着性に優れた乾燥膜を形成するという観点から、バインダ樹脂のガラス転移温度は、40℃以上が好ましく、50℃以上が好ましく、60℃以上が特に好ましい。また、焼成処理後にバインダ樹脂が残留すると、製造後の電子部品の品質低下(例えば、抵抗の上昇)の原因になる。このため、バインダ樹脂は、焼成処理(例えば、1200℃~2000℃の加熱処理)で容易に焼失することが好ましい。このようなバインダ樹脂の一例として、ポリビニルアセタール樹脂、アクリル樹脂などが挙げられる。また、ポリビニルアセタール樹脂の具体例として、ポリビニルブチラール樹脂やポリビニルホルマール樹脂(ビニロン)等が挙げられる。
【0043】
なお、バインダ樹脂の重量平均分子量Mwが大きくなるにつれて、乾燥膜の定着性や強度が向上する傾向がある。かかる観点から、バインダ樹脂の重量平均分子量Mwは、0.5×10以上が好ましく、1×10以上がより好ましく、1.5×10以上がさらに好ましく、2×10以上が特に好ましい。一方、バインダ樹脂の重量平均分子量Mwが小さくなるにつれて、インク粘度が低下する傾向がある。かかる観点から、バインダ樹脂の重量平均分子量Mwは、20×10以下が好ましく、15×10以下であることがより好ましく、10×10以下であることがさらに好ましく、5×10以下であることが特に好ましい。
【0044】
また、バインダ樹脂の含有量は、ここに開示される技術の効果を阻害しない限りにおいて適宜調節できる。例えば、導電性インクの総重量に対するバインダ樹脂の下限値は、0.1wt%以上であってもよく、0.2wt%以上であってもよく、0.3wt%以上であってもよい。一方、バインダ樹脂の上限値は、1wt%以下であってもよく、0.9wt%以下であってもよく、0.8wt%以下であってもよく、0.7wt%以下であってもよい。
【0045】
なお、ここに開示される導電性インクは、バインダ樹脂以外の添加剤を含んでいてもよい。バインダ樹脂以外の添加剤の種類やその添加量については、従来公知の技術常識に基づいて適宜変更でき、本発明を特徴づけるものではないため、詳しい説明を省略する。
【0046】
2.導電性インクの調製
次に、ここに開示される導電性インクを調製(製造)する手順について説明する。ここに開示される導電性インクは、上述の各成分を混合した後、無機粉末の解砕・分散を行うことによって調製される。図2は導電性インクの製造に用いられる撹拌粉砕機を模式的に示す断面図である。なお、以下の説明は、ここに開示される導電性インクを調製する手段の一例を示すものであり、本発明を限定することを意図したものではない。
【0047】
ここに開示される導電性インクを製造する際には、先ず、上述した各成分を秤量して混合することによって当該インクの前駆物質であるスラリーを調製する。そして、図2に示すような撹拌粉砕機100を用いて、スラリーの撹拌と無機粉末の解砕を行うことによって導電性インクを調製する。具体的には、微小な解砕用ビーズ(例えば、平均粒子径が10μm~50μmのジルコニアビーズ)をスラリーに添加した後に、供給口110から撹拌容器120内にスラリーを供給する。この撹拌容器120内には、複数の撹拌羽132を有したシャフト134が収容されている。かかるシャフト134の一端はモータ(図示省略)に取り付けられており、当該モータを稼働させてシャフト134を回転させることによって複数の撹拌羽132でスラリーを送液方向Dの下流側に送り出しながら撹拌する。この撹拌の際に解砕用ビーズによってW粒子が解砕され、微粒化した無機粉末がスラリー中に分散される。
【0048】
そして、送液方向Dの下流側まで送り出されたスラリーは、フィルター140を通過する。これによって、微粒化されなかったW粒子や解砕用ビーズがフィルター140に捕集され、無機粉末が十分に分散された導電性インクが排出口150から排出される。なお、本工程において、フィルター140の孔径、解砕用ビーズの平均粒子径などを調節することによって、導電性インクにおける「無機粉末の平均粒子径」や「無機粉末の比表面積」を所望の範囲に調節できる。
【0049】
3.導電性インクの用途
次に、ここに開示される導電性インクの用途について説明する。ここに開示される導電性インクは、電子部品の製造に使用される。なお、本明細書において「電子部品に使用される」とは、ここに開示される導電性インクを無機基材の表面に直接印刷する態様だけでなく、転写紙等の中間材を介して間接的に無機基材の表面に導電性インクを付着させる態様も包含する。
【0050】
(1)印刷
図3はインクジェット装置の一例を模式的に示す全体図である。図4図3中のインクジェット装置のインクジェットヘッドを模式的に示す断面図である。
【0051】
ここに開示される導電性インクは、図3に示すようなインクジェット装置1によって、印刷対象の表面に印刷される。印刷対象である無機基材Wの材料や形状は、特に限定されず、一般的な電子部品の基材として使用され得るものを特に制限なく使用できる。なお、ここに開示される導電性インクは、高融点金属の一種であるタングステンを含む無機粉末を用いているため、1200℃以上の高温焼成が施される無機基材W(例えば、アルミナ基材や窒化アルミニウム基材など)に特に好ましく使用できる。
【0052】
次に、図3に示すインクジェット装置1の構造について説明する。かかるインクジェット装置1は、導電性インクを貯蔵するインクジェットヘッド10を備えている。このインクジェットヘッド10は、印刷カートリッジ40の内部に収容されている。印刷カートリッジ40は、ガイド軸20に挿通されており、当該ガイド軸20の軸方向Xに沿って往復動するように構成されている。また、図示は省略するが、このインクジェット装置1は、ガイド軸20を垂直方向Yに移動させる移動手段を備えている。これによって、インクジェット装置1は、無機基材Wの所望の位置に導電性インクを吐出できる。
【0053】
図3に示すインクジェットヘッド10には、例えば、図4に示されるようなピエゾ型のインクジェットヘッドが用いられる。かかるピエゾ型のインクジェットヘッド10には、ケース12内にインクを貯蔵する貯蔵部13が設けられており、当該貯蔵部13が送液経路15を介して吐出部16と連通している。この吐出部16には、ケース12外に開放された吐出口17が設けられていると共に、当該吐出口17に対向するようにピエゾ素子18が配置されている。かかるインクジェットヘッド10では、ピエゾ素子18を振動させることによって、吐出部16内のインクを吐出口17から無機基材W(図3参照)に向けて吐出する。このとき、ここに開示される導電性インクは、経日安定性とインク粘度とが高いレベルで両立しているため、長期間に亘って高い精度で吐出することができる。このため、ここに開示される導電性インクによると、無機基材Wの表面に、非常に精密なパターン(画像)を印刷することができる。
【0054】
(2)乾燥処理
次に、インクが付着した無機基材Wを所定の温度で加熱する乾燥処理を行う。これによって、インクから有機溶剤が除去されて無機基材Wに乾燥膜が形成される。上述したように、乾燥膜の無機基材W表面への定着性を改善するという観点から、導電性インクにはバインダ樹脂が添加されていることが好ましい。なお、乾燥処理における加熱温度は、有機溶剤が除去され、かつ、無機粉末の焼結が生じない温度(例えば50℃~150℃、好適には60℃~80℃)に設定することが好ましい。
【0055】
(3)焼成
ここに開示される製造方法では、乾燥膜形成後の無機基材Wを、最高焼成温度が1200℃以上(好ましくは1200℃~2000℃、より好ましくは1300℃~1600℃)になるような条件で焼成する。これによって、バインダ樹脂が焼失すると共に、無機粉末が焼結して無機基材Wの表面に固着する。この結果、タングステンを主成分とした導電回路パターンを有する電子部品が製造される。このとき、タングステンは、融点が非常に高い(3380℃)ため、焼成中に溶融して導電回路パターンの形状が崩れることを防止できる。このため、非常に精密な導電回路パターンを有した電子部品を確実に形成できる。さらに、タングステンは、安価であるにもかかわらず、化学的な安定性に優れ、かつ、体積抵抗率ρV(Ω・cm)が低いという利点を有している。このため、ここに開示される導電性インクによると、高性能の耐プラズマ性の電子部品(静電チャック等)を安価に製造できる。
【0056】
[試験例]
以下、ここに開示される技術に関する試験例を説明する。なお、以下の試験例は、ここに開示される技術を限定することを意図したものではない。
【0057】
A.第1の試験
<サンプルの作成>
本試験では、無機粉末と、有機溶剤と、バインダ樹脂と、分散剤とを含む24種類のインクジェットインク(例1~24)を調製した。具体的には、後述の表1に示す添加量で、上述の各材料を混合したスラリーを調製し、当該スラリーに対して、解砕用ビーズ(直径30μmのジルコニアビーズ)を使用した解砕・分散処理(回転数:1500rpm、混合時間:4時間)を実施することによって、例1~24の導電性インクを得た。かかる導電性インクの調製に使用した各材料の詳細を以下で説明する。
【0058】
(無機粉末)
本試験では、無機粉末として、BET比表面積が2.3m/gのタングステン粉末を使用した。なお、表1に示すように、本試験では、全てのサンプルでW粉末の添加量を42.32gに統一した。
【0059】
(有機溶剤)
本試験では、有機溶剤としてブチルジグリコールアセテート(BDGAC)を使用した。なお、各例における有機溶剤の添加量を表1および表2に示す。
【0060】
(バインダ樹脂)
バインダ樹脂として、ポリビニルアセタール樹脂(積水化学工業株式会社製、型式:BL-S)を使用した。このポリビニルアセタール樹脂の分子量は2.3×10であり、ガラス転移温度は66℃である。各例におけるバインダ樹脂の添加量を表1および表2に示す。
【0061】
(分散剤)
本試験では、例1~例24の各々のインクにおいて、以下に列挙する5種類の分散剤を少なくとも1つ添加した。各例で使用した分散剤と、当該分散剤の添加量は、表1および表2に示す。
<カチオン系分散剤>
・分散剤C1:クローダジャパン株式会社製:Hypermer KD-1
・分散剤C2:クローダジャパン株式会社製:Hypermer KD-3
<ノニオン系分散剤>
・分散剤N1:クローダジャパン株式会社製:Hypermer KD-13
・分散剤N2:クローダジャパン株式会社製:Hypermer KD-14
・分散剤N3:クローダジャパン株式会社製:Synperonic PE/L101
【0062】
<評価試験>
(1)インク粘度
調製後の導電性インクの温度を25℃に維持しながら、B型粘度計を用いてインク粘度を測定した。なお、B型粘度計のローターの回転速度は5rpmに設定した。測定結果を表1および表2に示す。
【0063】
(2)経日安定性
調製したインクを2つの保管瓶に採集した後、一方を25℃環境で保存し、他方を60℃環境で保存した。そして、25℃環境と60℃環境の各々のインクに対して、1週間後、2週間後、3週間後、4週間後、8週間後に平均粒子径を測定した。そして、25℃環境と60℃環境の両方において、平均粒子径が320nm以下を維持できている期間を良好な安定性を確保できる期間とみなした。なお、本試験における平均粒子径の測定では、動的光散乱法(DLS法)を使用した。測定結果を表1および表2に示す。
【0064】
(3)総合評価
上述したインク粘度と経日安定性の測定結果に基づいて、各例の導電性インクを総合的に評価した。具体的には、経日安定性が8週間以上であり、かつ、インク粘度が20mPa・s以下であったインクを「◎」と評価した。また、経日安定性が8週間以上であり、かつ、インク粘度が20mPa・s超30mPa・s以下であったインクを「○」と評価した。そして、8週間以上の経日安定性を確保できなかったインクや、インク粘度が30mPa・s超であったインクを「×」と評価した。評価結果を表1及び表2に示す。
【0065】
【表1】
【0066】
【表2】
【0067】
表1および表2に示すように、例3~例5、例7~例11および例15~例18では、混合分散剤の含有量が微量(10wt%以下)であるにも関わらず、好適な経日安定性が得られていた。このことから、カチオン系分散剤とノニオン径分散剤とが所定の割合で混合された混合分散剤を使用することによって、W粒子を主成分とする無機粉末を使用しているにもかかわらず、インク粘度と経日安定性を高いレベルで両立できることが分かった。なお、上述のサンプルの中でも、例3、例7、例9および例16~例18は、インク粘度が特に低く、かつ、充分な経日安定性を有していた。このことから、分散剤の総添加量は、5wt%以下が好適であることが分かった。
【0068】
B.第2の試験
本試験では、BET比表面積が異なるタングステン粉末を使用していることを除いて、上述した第1の試験の例3と同じ条件で調製した4種類の導電性インク(例25~例28)を準備した。そして、第1の試験と同じ条件でインク粘度と経日安定性を測定し、無機粉末のBET比表面積がインク粘度と経日安定性に与える影響を調べた。評価結果を表3に示す。なお、説明の便宜上、以下の表3では、第1の試験で測定した例3の評価結果も併記する。
【0069】
【表3】
【0070】
表3に示すように、本実験では、例3、例25~28の何れにおいても、インク粘度と経日安定性とが高いレベルで両立していることが確認された。一方で、例3、例25~28を比較すると、例3、例25~27がインク粘度の観点で特に好ましいことが分かった。このことから、導電性インクの粘度は、無機粉末(タングステン粉末)のBET比表面積によっても変化し得ることが分かった。そして、経日安定性とインク粘度とをより高いレベルで両立させるという観点から、無機粉末のBET比表面積を1.6m/g以上3.5m/g以下の範囲に制御することが特に好適であると解される。
【0071】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0072】
1 インクジェット装置
10 インクジェットヘッド
12 ケース
13 貯蔵部
15 送液経路
16 吐出部
17 吐出口
18 ピエゾ素子
20 ガイド軸
40 印刷カートリッジ
100 撹拌粉砕機
110 供給口
120 撹拌容器
132 撹拌羽
134 シャフト
140 フィルター
150 排出口
図1
図2
図3
図4