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特開2022-30576リナグリプチン水和物含有製剤の保管方法、その方法で保管されたリナグリプチン水和物含有製剤及び評価方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022030576
(43)【公開日】2022-02-18
(54)【発明の名称】リナグリプチン水和物含有製剤の保管方法、その方法で保管されたリナグリプチン水和物含有製剤及び評価方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/522 20060101AFI20220210BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20220210BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220210BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20220210BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20220210BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20220210BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20220210BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20220210BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20220210BHJP
   A61K 47/04 20060101ALI20220210BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20220210BHJP
   A61K 9/28 20060101ALI20220210BHJP
【FI】
A61K31/522
A61P3/10
A61P43/00 111
A61K47/26
A61K47/36
A61K47/32
A61K47/12
A61K47/38
A61K47/10
A61K47/04
A61K47/02
A61K9/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020134683
(22)【出願日】2020-08-07
(71)【出願人】
【識別番号】000209049
【氏名又は名称】沢井製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】特許業務法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】尾曲 克彦
(72)【発明者】
【氏名】福原 康史
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA44
4C076BB01
4C076CC21
4C076DD28H
4C076DD29H
4C076DD38
4C076DD41
4C076EE16
4C076EE32H
4C076EE38
4C076GG12
4C076GG14
4C076GG33
4C086AA01
4C086CB07
4C086MA02
4C086MA05
4C086MA35
4C086MA52
4C086NA10
4C086ZC20
4C086ZC35
(57)【要約】
【課題】
製造後において、リナグリプチン水和物がForm Cを維持するリナグリプチン水和物含有製剤の保管方法を提供する。または、その保管方法で保管されたリナグリプチン水和物含有製剤を提供する。さらに、リナグリプチン水和物含有製剤に含まれるリナグリプチン水和物がForm Cを維持していることを評価する方法を提供する。
【解決手段】
本発明の一実施形態によると、本発明の一実施形態によると、リナグリプチン水和物含有製剤の25℃に換算した平衡相対湿度を、10%以上45%以下に維持する、リナグリプチン水和物含有製剤の保管方法が提供される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リナグリプチン水和物含有製剤の25℃に換算した平衡相対湿度を、10%以上45%以下に維持する、リナグリプチン水和物含有製剤の保管方法。
【請求項2】
前記平衡相対湿度を1ヶ月以上維持する、請求項1に記載のリナグリプチン水和物含有製剤の保管方法。
【請求項3】
前記リナグリプチン水和物含有製剤は、第1の包装に収容され、
前記第1の包装は、乾燥剤とともに、第2の包装により封止され、
前記第1の包装は、PTP包装シートであり、前記第2の包装は、ピロー包装である、請求項1又は2に記載のリナグリプチン水和物含有製剤の保管方法。
【請求項4】
リナグリプチン水和物含有製剤の25℃に換算した平衡相対湿度が、10%以上45%以下である、リナグリプチン水和物含有製剤。
【請求項5】
前記平衡相対湿度を維持した、請求項4に記載のリナグリプチン水和物含有製剤。
【請求項6】
前記リナグリプチン水和物含有製剤は、第1の包装に収容され、
前記第1の包装は、第2の包装により封止される、請求項4又は5に記載のリナグリプチン水和物含有製剤。
【請求項7】
前記第1の包装は、乾燥剤とともに、第2の包装により封止される、請求項6に記載のリナグリプチン水和物含有製剤。
【請求項8】
前記第1の包装はPTP包装シートであり、前記第2の包装はピロー包装である、請求項6又は7に記載のリナグリプチン水和物含有製剤。
【請求項9】
リナグリプチン水和物含有製剤を製造から1ヶ月保存した後に、リナグリプチン水和物含有製剤25℃に換算した平衡相対湿度を測定し、
前記平衡相対湿度が10%以上45%以下である場合に、リナグリプチン水和物含有製剤に含まれるリナグリプチンが水和物形態を維持していると判定する、リナグリプチン水和物含有製剤の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リナグリプチン水和物含有製剤の保管方法、その方法で保管されたリナグリプチン水和物含有製剤及び評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リナグリプチン(1-[(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン)は、ジペプチジルペプチダーゼ-4(DPP-IV)阻害剤であり、II型糖尿病の治療薬として用いられている。特許文献1には、リナグリプチン又はその塩、マンニトールである第一の希釈剤、アルファ化したデンプンである第二の希釈剤、コポビドンである結合剤、トウモロコシデンプンである錠剤分解物質及びステアリン酸マグネシウムである滑剤を含む医薬組成物が開示されている。
【0003】
また、リナグリプチン結晶には、多形体A、B、C、D及びEが存在することが知られている(特許文献2)。リナグリプチン水和物は、多形体C(Form C)であるが、Form Cは30℃~100℃の温度まで加熱し、この温度で乾燥することにより無水物である多形体D(Form D)になることが知られている。またForm Dは高温条件下で、無水物である多形体E(Form E)へ、さらにForm Eから、無水物である多形体A(Form A)へ転移することが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許5478244号
【特許文献2】特許5323684号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、製造後において、リナグリプチン水和物が水和物状態を維持するリナグリプチン水和物含有製剤の保管方法を提供することを目的の一つとする。または、本発明の一実施形態は、その保管方法で保管されたリナグリプチン水和物含有製剤を提供することを目的の一つとする。または、本発明の一実施形態は、リナグリプチン水和物含有製剤に含まれるリナグリプチンの水和物形態が維持していることを評価する方法を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態によると、リナグリプチン水和物含有製剤の25℃に換算した平衡相対湿度を、10%以上45%以下に維持する、リナグリプチン水和物含有製剤の保管方法が提供される。
【0007】
保管方法において、平衡相対湿度が1ヶ月以上維持されることが好ましい。
【0008】
保管方法において、リナグリプチン水和物含有製剤は、第1の包装に収容され、第1の包装は、乾燥剤とともに、第2の包装により封止され、第1の包装は、PTP包装シートであり、第2の包装は、ピロー包装であってもよい。
【0009】
本発明の一実施形態によると、リナグリプチン水和物含有製剤の25℃に換算した平衡相対湿度を、10%以上45%以下である、リナグリプチン水和物含有製剤が提供される。
【0010】
リナグリプチン水和物含有製剤において、平衡相対湿度が維持されることが好ましい。
【0011】
リナグリプチン水和物含有製剤において、リナグリプチン水和物含有製剤は、第1の包装に収容され、第1の包装は、第2の包装により封止されてもよい。
【0012】
第1の包装は、乾燥剤とともに、第2の包装により封止されてもよい。
【0013】
第1の包装はPTP包装シートであり、第2の包装はピロー包装であってもよい。
【0014】
本発明の一実施形態によると、リナグリプチン水和物含有製剤を製造から1ヶ月保存した後に、リナグリプチン水和物含有製剤の25℃に換算した平衡相対湿度を測定し、平衡相対湿度が10%以上45%以下である場合に、リナグリプチン水和物含有製剤に含まれるリナグリプチンが水和物を維持していると判定する、リナグリプチン水和物含有製剤の評価方法が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一実施形態によると、製造後において、リナグリプチン水和物が水和物形態を維持するリナグリプチン水和物含有製剤の保管方法が提供される。または、本発明の一実施形態によると、その保管方法で保管されたリナグリプチン水和物含有製剤が提供される。または、本発明の一実施形態によると、リナグリプチン水和物含有製剤に含まれるリナグリプチン水和物が水和物形態を維持していることを評価する方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】(a)は、リナグリプチン水和物含有製剤パッケージ100を示す模式図であり、(b)は、PTP包装シート101に収容されたリナグリプチン水和物含有製剤10を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係るリナグリプチン水和物含有製剤の保管方法、その方法で保管されたリナグリプチン水和物含有製剤及び評価方法について詳細に説明する。ただし、本発明のリナグリプチン水和物含有製剤の保管方法、その方法で保管されたリナグリプチン水和物含有製剤及び評価方法は、以下に示す実施の形態及び実施例の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0018】
リナグリプチン水和物(Form C)が高温低湿度下で、水和水が脱離して無水物(Form D)へ転移することが知られているところ、本発明者らが検討した結果、リナグリプチン水和物含有製剤に含まれるリナグリプチンが水和物形態を維持するためには、リナグリプチン水和物含有製剤を乾燥から防ぐだけではなく、多湿状態を防ぐ必要があることを本発明者らは初めて見出した。より具体的には、25℃に換算した平衡相対湿度を、10%以上45%以下に維持することにより、リナグリプチンの水和物形態を維持することを本発明者らは初めて見出した。多湿条件下でのリナグリプチン水和物から無水物への転移は、従来知られておらず、本発明者らが新たに見出したものである。
【0019】
ここで、「平衡相対湿度」とは、吸湿性の物質が周囲環境との間で起きる水分の交換が無い状態における相対湿度である。
【0020】
本発明の一実施形態によると、リナグリプチン水和物含有製剤において、25℃に換算した平衡相対湿度を、10%以上45%以下、好ましくは12%以上32%以下に維持することにより、リナグリプチン水和物含有製剤に含まれるリナグリプチンの水和物形態を維持することができる。
【0021】
[リナグリプチン水和物含有製剤の保管方法]
図1は、本発明の一実施形態に係るリナグリプチン水和物含有製剤の保管方法を示す模式図である。図1(a)は、リナグリプチン水和物含有製剤パッケージ100を示す模式図である。また、図1(b)は、PTP包装シート101に収容されたリナグリプチン水和物含有製剤10を示す模式図である。一実施形態において、リナグリプチン水和物含有製剤10は、PTP包装シート101に収容される。乾燥によりリナグリプチンの水和物形態を維持できないという従来の知見に基づくと、PTP包装シート101をピロー包装103により封止すれば、Form Cを維持できるはずであるが、本発明においては、このような包装では、リナグリプチンの水和物形態を維持するには不十分となる場合もある。
【0022】
ピロー包装103は、封止性に優れた包装形態であるため、保存期間中にピロー包装103の内部の水分量を略一定に維持することができる。したがって、PTP包装シート101をピロー包装103で封止した時点(イニシャル)で、定常状態に達した時点のピロー包装103の内部の空間の25℃に換算した平衡相対湿度を、10%以上45%以下、好ましくは12%以上32%以下とする必要がある。即ち、PTP包装シート101をピロー包装103で封止した時点(イニシャル)でのピロー包装103の内部の空間の水分量は、リナグリプチン水和物含有製剤10自体の水分量と、PTP包装シート101をピロー包装103で封止する作業環境の湿度の影響を受ける。したがって、PTP包装シート101をピロー包装103で封止する時点で、定常状態に達したピロー包装103の内部の空間の25℃に換算した平衡相対湿度が10%以上45%以下、好ましくは12%以上32%以下とするためには、リナグリプチン水和物含有製剤10自体の水分量と、PTP包装シート101をピロー包装103で封止する作業環境の湿度を調整する必要がある。
【0023】
本実施形態においては、リナグリプチン水和物含有製剤10の25℃に換算した平衡相対湿度を、10%以上45%以下に維持する。このため、適切な水分量に制御されたリナグリプチン水和物含有製剤10と、適切な湿度に制御された作業環境により、リナグリプチン水和物含有製剤パッケージ100において、第1の包装であるPTP包装シート101は、第2の包装であるピロー包装103により封止される。このとき、乾燥剤105をともに封入していてもよい。乾燥剤105は、リナグリプチン水和物含有製剤10の水分量が多い場合に、あるいはPTP包装シート101内の湿度が高い場合に、リナグリプチン水和物含有製剤10の水分を吸収して、第2の包装103内の空間の25℃に換算した平衡相対湿度を、10%以上45%以下に維持することができる。本実施形態において、第1の包装101を封止することにより、あるいは、乾燥剤105とともに、第1の包装101を封止することにより、定常状態に達した第2の包装103内の空間の25℃に換算した平衡相対湿度を、10%以上45%以下に維持することができる。この結果として、定常状態に達した第1の包装101中の空間の25℃に換算した平衡相対湿度も、10%以上45%以下に維持され、定常状態に達したリナグリプチン水和物含有製剤10の25℃に換算した平衡相対湿度を、10%以上45%以下に維持することができる。なお、リナグリプチン水和物含有製剤パッケージ100は、例えば、紙製の箱に収容されてもよく、紙製の箱がビニール製のフィルムで更に覆われた状態で保管・流通されてもよい。
【0024】
PTP包装シート101及びピロー包装103は、それぞれ公知のPTP包装シート及びピロー包装を用いることができる。PTP包装シート101は、たとえば、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリ塩化ビニリデンフィルム、ポリクロロトリフルオロエチレンフィルム、ポリプロピレンから選択されるフィルムを複合化したシートであってもよい。また、ピロー包装103は、アルミピローであってもよい。
【0025】
乾燥剤105としては、医薬品の乾燥剤として用いられる公知の乾燥剤を用いることができる。例えば、塩化カルシウム(例えば、株式会社アイディのアイディ(登録商標)シート)及び脱酸素剤(例えば、三菱ガス化学株式会社のファーマキープ(登録商標))から選択することができる。
【0026】
乾燥剤105をピロー包装103内に封入する場合は、乾燥剤の吸湿力により、平衡相対湿度が決定する。乾燥剤105を用いない場合は、ピロー包装の制御された作業環境における環境湿度により、ピロー内の相対湿度が決定することとなる。このようなリナグリプチンの水和物形態を維持するための平衡相対湿度の管理と、包装形態との関係はこれまで検討されておらず、平衡相対湿度を45%以下に維持することによりリナグリプチンの水和物形態を維持可能であることは、従来の知見からは予測できない驚くべき効果である。
【0027】
本実施形態に係るリナグリプチン水和物含有製剤10は、このような包装形態を用いることにより、リナグリプチン水和物含有製剤10の25℃に換算した平衡相対湿度を、10%以上45%以下に、1ヶ月以上維持することができる。好ましくは3ヶ月以上、より好ましくは6ヶ月以上、平衡相対湿度を上記の範囲に維持することができる。したがって、本実施形態に係るリナグリプチン水和物含有製剤10は、1ヶ月以上、好ましくは3ヶ月以上、より好ましくは6ヶ月以上、リナグリプチンの水和物形態を維持することができる。
【0028】
[リナグリプチン水和物含有製剤]
本実施形態に係るリナグリプチン水和物含有製剤10は、Form Cの結晶構造を有するリナグリプチン水和物を含有する公知の製剤であってもよい。リナグリプチン水和物含有製剤10は、例えば、Form Cの結晶構造を有するリナグリプチン水和物をリナグリプチンとして1錠あたり、5mg含んでもよいが、含有量はこれに限定されず、治療に有効な量であればよい。なお、リナグリプチン水和物の結晶構造は、粉末X線回折測定法により決定するものとする。
【0029】
一実施形態において、本実施形態に係るリナグリプチン水和物含有製剤10は、医薬的に許容される賦形剤、結合剤、崩壊剤及び滑沢剤を含んでもよい。賦形剤としては、例えば、乳糖水和物、無水乳糖、結晶セルロース、粉末セルロース、第二リン酸カルシウム無水物、第二リン酸カルシウム二水和物、エリスリトール、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(L-HPC)、マンニトール、トウモロコシデンプン、部分アルファ化デンプン及びキシリトールからなる群から選択される1つ以上を用いることができるが、これらに限定されるものではない。一実施形態において、リナグリプチン水和物含有製剤を100質量%としたときに、3質量%以上88質量%以下の賦形剤を含むことができる。
【0030】
結合剤としては、例えば、コポビドン(ビニルピロリドンと他のビニル誘導体のコポリマー)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ポリビニルピロリドン(ポビドン)、ポリビニルアルコール(PVA)、部分アルファ化デンプン及びL-HPCからなる群から選択される1つ以上を用いることができるが、これらに限定されるものではない。一実施形態において、リナグリプチン水和物含有製剤を100質量%としたときに、1質量%以上5質量%以下の結合剤を含むことができる。
【0031】
崩壊剤としては、例えば、トウモロコシデンプン、クロスポビドン、クロスカルメロースナトリウム、カルメロースカルシウム、カルメロース、デンプングリコール酸ナトリウム、L-HPC及び部分アルファ化デンプンからなる群から選択される1つ以上を用いることができるが、これらに限定されるものではない。一実施形態において、リナグリプチン水和物含有製剤を100質量%としたときに、5質量%以上15質量%以下の崩壊剤を含むことができる。
【0032】
滑沢剤としては、例えば、タルク、マクロゴール(PEG)、ベヘン酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、ショ糖脂肪酸エステル、フマル酸ステアリルナトリウム、ステアリン酸、水添ヒマシ油及びステアリン酸マグネシウムからなる群から選択される1つ以上を用いることができるが、これらに限定されるものではない。一実施形態において、リナグリプチン水和物含有製剤を100質量%としたときに、0.1質量%以上4質量%以下の滑沢剤を含むことができる。
【0033】
また、一実施形態において、リナグリプチン水和物含有製剤10は、錠剤、フィルムコーティング錠又はカプセル剤であってもよい。フィルムコーティング錠において、コーティングフィルムは、フィルム基材、可塑剤、滑沢剤及び任意で1以上の着色剤を含んでもよい。フィルム基材としては、例えば、HPMCを用いることができるが、これに限定されるものではない。また、可塑剤としては、例えば、マクロゴールを用いることができるが、これに限定されるものではない。可塑剤としては、例えば、タルク、二酸化チタンを用いることができるが、これらに限定されるものではない。着色剤としては、例えば、酸化鉄を用いることができるが、これに限定されるものではない。フィルムコーティング錠を100質量%としたときに、2質量%以上4質量%以下のコーティングフィルムを含むことができる。
【0034】
本実施形態に係るリナグリプチン水和物含有製剤10は、公知の製造方法を用いて製造することができる。例えば、直接打錠法又は湿式造粒法を用いることができる。湿式造粒法としては、例えば、撹拌造粒法又は流動層造粒法を用いることができる。
【0035】
本実施形態に係るリナグリプチン水和物含有製剤10は、25℃に換算した平衡相対湿度を、10%以上45%以下に維持することにより、リナグリプチンの水和物形態が維持される。このため、上述したように、リナグリプチン水和物含有製剤10はPTP包装シート101に収容され、第2の包装103により封止される。このとき、乾燥剤105をともに封入していてもよい。また、リナグリプチン水和物含有製剤パッケージ100は、例えば、紙製の箱に収容されてもよく、紙製の箱がビニール製のフィルムで更に覆われた状態で保管・流通されてもよい。
【0036】
本実施形態に係るリナグリプチン水和物含有製剤10は、25℃に換算した平衡相対湿度が10%以上45%以下に、1ヶ月以上、好ましくは3ヶ月以上、より好ましくは6ヶ月以上維持される。このため、本実施形態に係るリナグリプチン水和物含有製剤10は、1ヶ月以上、好ましくは3ヶ月以上、より好ましくは6ヶ月以上、リナグリプチンの水和物形態を維持することができる。
【0037】
[リナグリプチン水和物含有製剤の評価方法]
上述したように、本実施形態に係るリナグリプチン水和物含有製剤10は、25℃に換算した平衡相対湿度を、10%以上45%以下に維持することにより、リナグリプチンの水和物形態が維持される。この知見より、リナグリプチン水和物含有製剤10の25℃に換算した平衡相対湿度を測定することにより、リナグリプチンの水和物形態を維持しているか否かを評価することができる。
【実施例0038】
上述した本発明に係る具体的な実施例及び試験結果を示して、詳細に説明する。
【0039】
[リナグリプチン水和物含有製剤の製造]
直接打錠又は湿式造粒法を用いて、リナグリプチン水和物含有製剤を製造した。詳細には、リナグリプチン水和物(Form C)5.0g、D-マンニトール(グラニュトール(登録商標)F、フロイント産業株式会社)130.9g、部分アルファ化デンプン(スターチ1500G(登録商標)、Colorcon社)18.0g、トウモロコシデンプン(日本食品化工株式会社)18.0g及びコポビドン(KOLLIDON(登録商標)VA64、BASF社)5.4gを30メッシュの篩で篩過した後、ビニール袋で5分間混合した。混合物にステアリン酸マグネシウム(植物、太平化学産業株式会社)2.7gを加え、1分間混合した。得られた混合物を、ロータリー打錠機を用いて圧縮成形して錠剤を製造した。
【0040】
ヒプロメロース(TC-5(登録商標)M、信越化学工業株式会社)100.0g、マクロゴール6000(日油株式会社)10.0g、タルク(富士タルク工業株式会社)35.0g、酸化チタン(NA61、東邦チタニウム株式会社)50.0g及び三二酸化鉄(癸巳化成株式会社)5.0gを、ミキサーを用いて、精製水1150.0g中に撹拌溶解及び分散させ、フィルムコーティング液を調製した。製造した錠剤を、1錠当たりの質量が約5mg増加するまでフィルムコーティング液で被覆し、フィルムコーティング錠を製造した(製剤1)。
【0041】
コポビドン(KOLLIDON(登録商標)VA64、BASF社)5.4gを精製水30.6g中に溶解させ、造粒液を製造した。リナグリプチン水和物(Form C)5.0g、D-マンニトール(25C、ROQUETTE社)130.9g、部分アルファ化デンプン(スターチ1500G(登録商標)、Colorcon社)18.0g及びトウモロコシデンプン(日本食品化工株式会社)18.0gを、乳棒乳鉢を用いて混合した。混合物を造粒液で湿らせ、次いで造粒した。乾燥減量値が5%以下となるように、乾燥機中で造粒物を60℃で乾燥した。乾燥物を30メッシュの篩で整粒した後、ステアリン酸マグネシウム(植物、太平化学産業株式会社)2.7gを加え、ビニール袋で1分間混合した。得られた混合物を、ロータリー打錠機を用いて圧縮成形して錠剤を製造した。得られた錠剤を用いて、製剤1と同様のフィルムコーティング方法によりフィルムコーティング錠を製造した(製剤2)。
【0042】
製剤1及び製剤2を、それぞれPTP包装シートで包装した。また、PTP包装シートをピロー包装で封止したサンプル、PTP包装シートとともにファーマキープ(登録商標)(三菱ガス化学株式会社)をピロー包装で封止したサンプル、PTP包装シートとともにアイディシート(株式会社アイディ)をピロー包装で封止したサンプル、及びPTP包装シートとともに合成ゼオライト(株式会社東海化学工業所)をピロー包装で封止したサンプルを準備した。
【0043】
それぞれのサンプルを40℃、相対湿度75%、又は25℃、相対湿度75%で、1ヶ月、3ヶ月又は6ヶ月保存した。
【0044】
[結晶安定性の評価]
保存後の各サンプルについて、粉末X線回折測定法により製剤中の結晶構造を評価した。製剤1の評価結果を表1に示す。また、製剤2の評価結果を表2に示す。なお、以下の表において、FormA及びFormDは、リナグリプチン無水物の結晶構造を示し、FormCは、リナグリプチン水和物の結晶構造を示す。
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
表1及び表2の結果より、40℃、相対湿度75%条件下において、PTP包装のみのサンプルでは、製剤1、製剤2ともに無水物(Form A)への転移が認められた。この結果より、高温多湿環境がリナグリプチン水和物を無水物へ転移させることが明らかとなった。一方、PTP+ピロー包装、PTP+ファーマキープ(登録商標)+ピロー包装及びPTP+IDシート+ピロー包装のサンプルでは、40℃、相対湿度75%条件下で、6ヶ月保存した場合でも、製剤1、製剤2ともに水和物形態を維持していた。しかし、PTP+ゼオライト+ピロー包装のサンプルでは、ゼオライトによる脱水により、無水物(Form D)への転移が認められた。
【0047】
[リナグリプチン水和物含有製剤の平衡相対湿度測定]
ロトロニック社の水分測定デバイス(HYGROLAB)を用いて、リナグリプチン水和物含有製剤の平衡相対湿度を測定した。上記の条件で保存した各サンプルをサンプルカップに10錠入れ、測定チャンバーにセットし、室温で測定を行った。測定した平衡相対湿度を25℃に換算した。製剤1の評価結果を表3に示す。また、製剤2の評価結果を表4に示す。
【0048】
【表3】
【0049】
【表4】
【0050】
表3及び表4の結果より、25℃、相対湿度75%条件で保存した場合、40℃、相対湿度75%条件で保存した場合ともに、リナグリプチン水和物含有製剤の平衡相対湿度にほとんど違いは認められなかった。また、リナグリプチン水和物含有製剤の平衡相対湿度は1ヶ月保存後には定常状態に達するものと考えられた。無水物(Form A)への転移が認められたPTP包装のみのサンプルでは、リナグリプチン含有製剤の平衡相対湿度も有意に高くなっていることが明らかとなった。また、無水物(Form D)への転移が認められたPTP+ゼオライト+ピロー包装のサンプルでは、リナグリプチン含有製剤の平衡相対湿度も有意に低くなっていることが明らかとなった。
【0051】
流動層造粒法により製造した製剤1をPTP+ピロー包装としたサンプルでは、40℃、相対湿度75%条件で6ヶ月保存した場合に、リナグリプチン水和物含有製剤の平衡相対湿度を45%以下に維持することが明らかとなった。したがって、ピロー包装時の作業環境の湿度を制御して、ピロー包装内の平衡相対湿度を45%以下とすることにより、長期間保存した場合でも、リナグリプチンを水和物形態に維持することができる。また、流動層造粒法により製造した製剤1をPTP+IDシート+ピロー包装としたサンプルでは、40℃、相対湿度75%条件で6ヶ月保存した場合に、リナグリプチン水和物含有製剤の平衡相対湿度を10%以上に維持することが明らかとなった。したがって、乾燥剤をともに封入して湿度を制御することにより、ピロー包装内の平衡相対湿度を10%以上とし、長期間保存した場合でも、リナグリプチンを水和物形態に維持することができる。以上の結果より、25℃~40℃の温度条件下でリナグリプチンの水和物形態を維持するためには、リナグリプチン水和物含有製剤の平衡相対湿度を10%以上45%以下(25℃換算)に制御する必要があることが明らかとなった。
【0052】
上述した各実施形態の態様によりもたらされる作用効果とは異なる他の作用効果であっても、本明細書の記載から明らかなもの、または、当業者において容易に予測し得るものについては、当然に本発明によりもたらされるものと解される。
【符号の説明】
【0053】
10 リナグリプチン水和物含有製剤、100 リナグリプチン水和物含有製剤パッケージ、101 第1の包装、103 第2の包装、105 乾燥剤
図1