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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022030625
(43)【公開日】2022-02-18
(54)【発明の名称】微細粒子測定モジュール
(51)【国際特許分類】
   G01N 15/12 20060101AFI20220210BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20220210BHJP
【FI】
G01N15/12 A
G01N15/12 D
G01N15/12 B
G01N37/00 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020134755
(22)【出願日】2020-08-07
(71)【出願人】
【識別番号】595015890
【氏名又は名称】株式会社朝日FR研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002251
【氏名又は名称】特許業務法人眞久特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高野 努
(57)【要約】
【課題】流動試料を流路内に迅速に充填できる微細粒子測定モジュールを提供する。
【解決手段】流動試料に含まれる微細粒子の粒径等を測定する微細粒子測定モジュールMに内装され、凹部の底面に前記微細粒子が通過できる細孔が貫通されているポアチップ44と、ポアチップ44の上方に開口された前記流動試料の供給口10aとポアチップ44の前記凹部とを繋ぐ第1流路と、ポアチップ44の前記凹部と前記細孔を介して前記第1流路と繋がる第2流路と、前記第2流路と繋がり、前記ポアチップの上方に開口された排出口10bと、前記第1流路から分岐されて前記2流路に至る分岐流路と、気体が貯留されており、前記気体を前記分岐流路に送り込んで前記分岐流路内に形成した気体溜りにより前記第1流路側の前記流動試料と前記第2流路側の前記流動試料とを分離する送気室とが設けられている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流動試料に含まれる微細粒子の粒径、数、粒度分布、及び/又は形状を測定する微細粒子測定モジュールであって、そこに内装された、
凹部の底面に前記微細粒子が通過できる細孔が貫通されているポアチップと、
前記ポアチップの上方に開口された前記流動試料の供給口と、
前記供給口と前記ポアチップの前記凹部とを繋ぐ第1流路と、
前記ポアチップの前記凹部と前記細孔を介して前記第1流路と繋がる第2流路と、
前記第2流路と繋がり、前記ポアチップの上方に開口された排出口と、
前記第1流路から分岐されて前記第2流路に至る分岐流路と、
気体が貯留されており、前記気体を前記分岐流路内に送り込んで前記分岐流路内に形成した気体溜りにより前記第1流路側の前記流動試料と前記第2流路側の前記流動試料とを分離する送気室とが設けられていることを特徴とする微細粒子測定モジュール。
【請求項2】
前記第1流路を前記供給口側と前記ポアチップの前記凹部側とに区画する第1弁体が形成され、前記第1弁体は前記供給口から供給された前記流動試料の流れが前記ポアチップへ向かう順流では前記第1流路を閉塞せず、且つ前記流動試料の流れが前記供給口に向かう逆流では前記供給口から前記流動試料の流失を防止するように前記第1流路を閉塞する第1チェックバルブと、
前記第2流路を前記排出口と前記ポアチップの前記細孔側とに区画する第2弁体が形成され、前記第2弁体は前記順流の前記流動試料の流れで生じる気体の流れでは前記第2流路を閉塞せず、且つ前記順流の前記流動試料が到達したとき、前記流動試料の前記排出口からの流失を防止するように前記第2流路を閉塞する第2チェックバルブとが設けられていることを特徴とする請求項1に記載の微細粒子測定モジュール。
【請求項3】
前記第1弁体には、前記第1流路の開口縁に沿って内方に張り出され、前記流動試料の流れが前記順流のとき、前記第1流路を閉塞しないように前記ポアチップの方向に撓み、他方、前記流動試料の流れが前記逆流のとき、前記供給口の方向に撓み前記第1流路の内壁面に接触して前記第1流路を閉塞する可撓性を有する第1張出部が形成され、
前記第2弁体には、前記第2流路の開口縁に沿って内方に張り出され、前記順流の前記流動試料の流れで生じる気体の流れでは撓まず、他方、前記順流の前記流動試料が到達したとき、前記排出口の方向に撓み前記第2流路の内壁面に接触して前記第2流路を閉塞する可撓性を有する第2張出部が形成されていることを特徴とする請求項2に記載の微細粒子測定モジュール。
【請求項4】
前記送気室と前記分岐流路とが、前記分岐流路と十字状又はT字状に交差する連結流路で繋がっていることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の微細粒子測定モジュール。
【請求項5】
前記送気室を形成する壁部の少なくとも一部が、押圧力に応じて変形して前記送気室に貯留された気体を前記分岐流路内に押し出すことができるように弾性部材で形成されていることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の微細粒子測定モジュール。
【請求項6】
前記第1チェックバルブ、前記第1流路、前記第2流路、前記分岐流路、前記第2チェックバルブ、前記送気室は、所定内径の貫通孔及び/又は所定形状の長孔が形成された複数枚の樹脂シートが積層されて形成されていることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の微細粒子測定モジュール。
【請求項7】
前記樹脂シート及び/又はポアチップの積層面が、親水化面であることを特徴とする請求項6に記載の微細粒子測定モジュール。
【請求項8】
前記第1流路及び第2流路の各々に、前記流動試料と一端が接触する電極端子が設けられていることを特徴とする請求項1~8のいずれかに記載の微細粒子測定モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流動試料に含まれる微細粒子の粒径、数、粒度分布、及び形状等を測定する微細粒子測定モジュールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ウィルスや細菌、及び磁性塗料に含まれる磁性粒子のような微粒子の数、径及びその粒度分布を測定するのに、コールター法、画像解析法、遠心沈降法、及びレーザー回折散乱法のような方法が知られている。なかでもコールター法は、他の測定方法に比較して簡素で小型の測定モジュールを用いることから低コストであり、かつ高精度の測定を迅速に行うことができるという利点を有している。
【0003】
そのため、コールター法を用いた微粒子測定は、インフルエンザウィルスや口腔内細菌の検知、赤血球、白血球、及び血小板を測定することによる血液診断、顔料、高分子ビーズ、及び磁性粒子のような工業品の生産工程における品質管理、酵母菌、乳酸菌、及び麹菌のような食品生産に用いられる菌の管理のように、多岐にわたる分野に広く用いられている。
【0004】
コールター法は、細孔で繋がっており夫々に電極端子を設置した二つの流路に微粒子を含有する電解溶液を収容し、この電極端子間に電圧を印加して電位差を生じさせ、微粒子が細孔を通過する際に発生するイオン電流の変化を電気抵抗により捉え、球形とみなした微粒子の体積からそれの径、及び径の分布を求めるというものである。
【0005】
コールター法を用いて粒子を測定するための分子分析システムが特許文献1に開示されている。この分子分析システムは、ナノポア(細孔)を含む構造体と、細孔を介して接続された二つのリザーバ(流路)と、細孔を通じて二つの流路間を移動する分子種のような微粒子を検出する検出器と、微粒子を再移動させる制御信号を生成するように接続されたコントローラとを、有している。この分子分析システムによれば、ヌクレオチド断片のような微粒子の大きさを検出できる。このナノポア(細孔)の直径は、被測定物である微粒子の大きさに合わせて適宜選択され、100nm以下である。
【0006】
コールター法を用いた微粒子測定モジュールとしては、極めて小さい開口径を有する微細孔が形成されたポアチップを用いたものが検討されているが、ポアチップの上下に測定に供する流動試料を充填し、ポアチップの上方の流動試料とポアチップの下方の流動試料の各々に電極端子から電圧を印加することを要する。しかし、通常の微粒子測定モジュールでは、その上面に内部流路への流動試料の供給口と内部流路内の気体を排出する排出口とが開口されている。また、ポアチップの上下に充填した流動試料の各々に電圧を印加する電極端子は通常モジュールの底面側に設けられている。このため、供給口からポアチップの上方に至る流路とポアチップの下方から排出口に至る流路とは、微細孔でのみ連通していることもあって、各流路の上方に流路内の気体が残留し易くなることが判明した。流路内に気体が残留しないようにするには、供給口から流動試料を流路内に相当な圧力で押し込むことを必要とし、且つポアチップの微細孔を通して流路内の気体を抜き出すことは極めて時間がかかり実用に供することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2011-501806号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、流動試料をポアチップの上部側及び下部側の各流路、及びポアチップ内の気体を排出しつつ流動試料の充填を短時間で行うことができる微細粒子測定モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するためになされた、流動試料に含まれる微細粒子の粒径、数、粒度分布、及び/又は形状を測定する微細粒子測定モジュールは、前記微細粒子測定モジュールに内装された、凹部の底面に前記微細粒子が通過できる細孔が貫通されているポアチップと、前記ポアチップの上方に開口された前記流動試料の供給口と、前記供給口と前記ポアチップの前記凹部とを繋ぐ第1流路と、前記ポアチップの前記凹部と前記細孔を介して前記第1流路と繋がる第2流路と、前記第2流路と繋がり、前記ポアチップの上方に開口された排出口と、前記第1流路から分岐されて前記第2流路に至る分岐流路と、気体が貯留されており、前記気体を前記分岐流路内に送り込んで前記分岐流路内に形成した気体溜りにより前記第1流路側の前記流動試料と前記第2流路側の前記流動試料とを分離する送気室とが設けられていることを特徴とするものである。
【0010】
前記第1流路を前記供給口側と前記ポアチップの前記凹部側とに区画する第1弁体が形成され、前記第1弁体は前記供給口から供給された前記流動試料の流れが前記ポアチップへ向かう順流では前記第1流路を閉塞せず、且つ前記流動試料の流れが前記供給口に向かう逆流では前記供給口から前記流動試料の流失を防止するように前記第1流路を閉塞する第1チェックバルブと、前記第2流路を前記排出口と前記ポアチップの前記細孔側とに区画する第2弁体が形成され、前記第2弁体は前記順流の前記流動試料の流れで生じる気体の流れでは前記第2流路を閉塞せず、且つ前記順流の前記流動試料が到達したとき、前記流動試料の前記排出口からの流失を防止するように前記第2流路を閉塞する第2チェックバルブとが設けられていることにより、ウィルスや細菌等の危険物を含む流動試料を外部に流出させることなく測定でき、測定中及び測定終了後においても流動試料をモジュールからの流出を防止できる。
【0011】
前記第1弁体には、前記第1流路の開口縁に沿って内方に張り出され、前記流動試料の流れが前記順流のとき、前記第1流路を閉塞しないように前記ポアチップの方向に撓み、他方、前記流動試料の流れが前記逆流のとき、前記供給口の方向に撓み前記第1流路の内壁面に接触して前記第1流路を閉塞する可撓性を有する第1張出部が形成され、前記第2弁体には、前記第2流路の開口縁に沿って内方に張り出され、前記順流の前記流動試料の流れで生じる気体の流れでは第2流路を閉塞せず、他方、前記順流の前記流動試料が到達したとき、前記排出口の方向に撓み前記第2流路の内壁面に接触して前記第2流路を閉塞する可撓性を有する第2張出部が形成されていることにより、流動試料を微細粒子測定モジュール内の流路内に入っている気体を抜きつつ確実に充填・密封できる。
【0012】
前記送気室と前記分岐流路とが、前記分岐流路と十字状又はT字状に交差する連結流路で繋がっていることにより、分岐流路内に確実に気体溜りを形成できる。
【0013】
前記送気室を形成する壁部の少なくとも一部が、押圧力に応じて変形して前記送気室に貯留された気体を前記分岐流路内に押し出すことができるように弾性部材で形成されていることにより、送気室に貯留された気体を分岐流路内に簡単に押し出すことができる。
【0014】
前記第1チェックバルブ、前記第1流路、前記第2流路、前記分岐流路、前記第2チェックバルブ、及び前記送気室は、所定内径の貫通孔及び/又は所定形状の長孔が形成された複数枚の樹脂シートが積層されて形成されていることにより、微細粒子測定モジュールの小型化と軽量化とを図ることができる。
【0015】
前記樹脂シート及び/又はポアチップの積層面が、親水化面であることにより、積層した樹脂シートを強固に接合でき、且つ流路内の少なくとも一部が親水化面に形成されており、流動試料との濡れ性を向上できる。
【0016】
前記第1流路及び第2流路の各々に、前記流動試料と一端が接触する電極端子が設けられていることにより、分岐流路内に形成された第1流路側の流動試料と第2流路側の流動試料に電圧を簡単に印加できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る微細粒子測定モジュールによれば、第1流路、ポアチップ及び第2流路内の気体の排出及び流動試料の充填を、分岐配管を介して短時間で行うことができる。また、分岐流路内に充填された流動試料を介して直接接触する第1流路側及び第2流路側に充填された流動試料との分離を、分岐流路内に気体溜りを形成して行うことができ、流動試料に含まれる微細粒子の粒径等の測定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明を適用する微細粒子測定モジュール内に形成される流路を説明する斜視図である。
図2図1中に示すポアチップの斜視図である。
図3図1に示す微細粒子測定モジュールの分解斜視図である。
図4図1に示す微細粒子測定モジュールの流路に設けられた各チェックバルブの近傍の部分断面図である。
図5図4示す各チェックバルブの平面図である。
図6図4に示す各チェックバルブの動作を説明する部分断面図である。
図7図1に示す微細粒子測定モジュールの分岐流路に設けられた送気室近傍の部分断面図である。
図8図7示す送気室の動作を説明する説明図である。
図9図7に示す送気室と分岐流路とを連結する連結流路の他の例を説明する説明図である。
図10】微細粒子測定モジュールの他の例を説明する部分断面図である。
図11】微細粒子測定モジュールの流路を試験液が流れる様子を示す写真である。
図12】微細粒子測定モジュールの分岐流路内に気体溜りを形成した様子を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0020】
本発明を適用する微細粒子測定モジュールの斜視図を図1に示す。図1に示す矢印は供給された流動試料の流れ方向を示す。図1に示す微細粒子測定モジュールM(以下、単にモジュールMと示す。)は、7枚の四角形の樹脂シート10~70が積層されて形成され、ポアチップ44が内装されている。モジュールM内には、流動試料の供給口10a~ポアチップ44に至る第1流路R1が形成されている。また、モジュールM内には、ポアチップ44~流路内の気体の排出口10bに至る第2流路R2が形成されている。それによりモジュールMは、供給口10a~第1流路R1~ポアチップ44~第2流路R2~排出口10bという一連の流路を有している。更に、モジュールM内には、第1流路R1から分岐されて第2流路R2に至る分岐流路R3が、迂回流路として形成されている。この分岐流路R3の近傍には、貯留された気体を分岐流路R3に送り込む送気室36が設けられている。
【0021】
ポアチップ44は、図2に示すように、単結晶シリコン製のブロック部46と窒化シリコン製の薄膜部48とが積層されたものである。ブロック部46は、その底面側に向かって截頭四角錐形に漸次窄まるように窪んだ凹部46aを有している。凹部46aの截頭四角錐形の中心軸を延長した軸上に中心を有する円形をなした細孔48aが、薄膜部48に開口されている。細孔48aの径は測定対象の微粒子の径に応じて選択され、多くの場合、40μm以下であり、ウィルス等の微細粒子を測定対象とする場合は0.3μm以下である。
【0022】
凹部46aの截頭四角錐形は、ケイ素の結晶異方性ウェットエッチングによって、ケイ素結晶の(111)面が露出するように削られているため、四つの面は仰角で45~55°の傾斜を有している。用いられるエッチング液はアルカリ性を呈しているものが選択され、具体的に例えば、水酸化カリウム溶液、テトラメチルアンモニアハイドロオキサイド溶液、エチレンジアミンピロカテコール溶液、及び水和ヒドラジン(N2H4・H2O)溶液から選ばれる少なくとも一種が挙げられる。
尚、凹部46aは、截頭四角錐形に限られず、截頭円錐形であってもよく、截頭三角錐形、截頭五角錐形、截頭六角錐形、截頭八角錐形、及び截頭十二角錐形のような截頭多角錐形であってもよい。
【0023】
図1に示すモジュールMを構成する各樹脂シートの斜視図を図3に示す。図3に示す二点鎖線の矢印は流動試料の流れ方向を示す。最上の樹脂シート10はポリメタクリル酸メチル樹脂製であって、他の樹脂シートよりも厚い。この樹脂シート10には、流動試料の供給口10a、流路中の気体を排出する排出口10b、並びに供給口10a及び排出口10bよりも大径の貫通孔10cが開口されている。樹脂シート10の一辺側にU字状の切欠12,12が形成されている。
【0024】
また、樹脂シート10の下面側の樹脂シート20は、シリコーンゴム製であって、樹脂シート10よりも薄い。この樹脂シート20には、その一辺に沿って伸びる長孔で形成された流路20aがそれを貫通して設けられている。流路20aの一端は供給口10aに対応している。流路20aの他端はそれの一端よりも拡径した円形をなしている。また樹脂シート20の中央部には、それの対角線に沿って伸びる長孔で形成された流路20bがそれを貫通して形成されている。流路20bの一端及び中央は円形をなしている。更に、樹脂シート20には、流路20bを挟んで流路20aと対向する位置で流路20aと平行に流路20cが形成されている。流路20cの一端は排出口10bに対応している。流路20cの他端はそれの一端よりも拡径した円形をなしている。この樹脂シート20にも、U字状の切欠22,22が形成されており、これらは樹脂シート10のU字状の切欠12,12に対応している。
【0025】
樹脂シート20の下面側の樹脂シート30は、シリコーンゴム製であって、樹脂シート20と同じ厚さを有している。この樹脂シート30には、貫通孔30aがそれを貫通して形成されている。貫通孔30aは、樹脂シート20の流路20aの他端に対応しており、流路20aの他端よりも小径である。樹脂シート30には、樹脂シート20の流路20bの一端に対応する位置に流路20bの一端と同径の貫通孔30bが形成され、流路20bの中央に対応する位置に貫通孔30cが形成されている。貫通孔30cは円形をなしている流路20bの中央と同径である。樹脂シート30に、これの一辺に沿って伸びた長孔をなしている流路30dが形成されている。この流路30dの一端は流路20bの他端に対応している。流路30dは、その中央部で連結流路30eと交差して十字状流路31を形成する。樹脂シート30には、樹脂シート20を介して貫通孔10cに対応する位置に、貫通孔30fが形成されている。貫通孔30fは貫通孔10cと同径である。連結流路30eの一端は貫通孔30fと連結されている。更に、樹脂シート30には、樹脂シート20の流路20cの他端に対応する位置に、貫通孔30gが形成されている。貫通孔30gは、流路20cの他端よりも小径である。この樹脂シート30にも、U字状の切欠32,32が形成されており、これらは樹脂シート20のU字状の切欠22,22に対応している。
【0026】
樹脂シート30の下面側の樹脂シート40は、シリコーンゴム製であって、樹脂シート20,30よりも厚く樹脂シート10よりも薄い。樹脂シート40は、ポアチップ44を搭載するシートであって、その中央部に樹脂シート30の貫通孔30cに対応してポアチップ44が挿入孔(図示せず)に挿入されて搭載されている。この樹脂シート40には、樹脂シート30の貫通孔30aに対応する位置に、貫通孔30aよりも大径の貫通孔40aが形成され、樹脂シート30の貫通孔30bに対応する位置に、貫通孔30bと同径の貫通孔40bが形成されている。更に、樹脂シート40には、樹脂シート30の貫通孔30gに対応する位置に、貫通孔30gよりも大径の貫通孔40cが形成され、樹脂シート30の十字状流路31の流路30dの他端に対応する位置に、流路30dの他端と同径の貫通孔40eが形成されている。樹脂シート40には、樹脂シート30の貫通孔30fよりも小径でこれに対応する位置に貫通孔40dが形成されている。この樹脂シート40にも、U字状の切欠42,42が形成されており、これらは樹脂シート30のU字状の切欠32,32に対応している。
【0027】
樹脂シート40の下面側の樹脂シート50は、シリコーンゴム製であって、樹脂シート20,30と同一厚さである。この樹脂シート50の中央部には、樹脂シート40に搭載されたポアチップ44の細孔48a(図2参照)に対応する位置に貫通孔50dが形成されている。更に、樹脂シート50には、樹脂シート40の貫通孔40a,40b,40c,40eの各々に対応する位置に、貫通孔40a,40b,40c,40eの各々と同一径の貫通孔50a,50b,50c,50eが形成されている。この樹脂シート50にも、U字状の切欠52,52が形成されており、これらは樹脂シート40のU字状の切欠42,42に対応している。
【0028】
樹脂シート50の下面側の樹脂シート60は、シリコーンゴム製であって、樹脂シート20,30よりも厚く樹脂シート40よりも薄い。この樹脂シート60には、長孔をなした流路60aが貫通して形成されている。流路60aの両端は円形をなしており、それの一端が貫通孔50aに、他端が貫通孔50bに夫々対応している。また樹脂シート60には、樹脂シート20に形成された流路20bと斜交いに交差するように樹脂シート60の対角線に沿って、長孔をなした流路60bが形成されている。流路60dの一端は貫通孔50eに、中途部は貫通孔50dに、他端は貫通孔50cに、夫々対応している。流路60bは、貫通孔50cに対応する他端近傍が曲折されて曲折部となっており、全体として「ヘ」字状に形成されている。この樹脂シート60にも、U字状の切欠62,62が形成されており、これらは樹脂シート50のU字状の切欠52,52に対応している。
【0029】
樹脂シート60の下面側の樹脂シート70は、ポリエチレンテレフタレート製であって、樹脂シート20,30,50よりも厚い。一方、樹脂シート70はこれらと同一厚さであってもよい。この樹脂シート70には、亜鈴形状で一対の電極端子70a,70bが形成されている。電極端子70a,70bの一端は、夫々U字状の切欠12,22,32,42,52,62で露出している(図1参照)。電極端子70a,70bの一端に、測定機器に繋がっているリード線(図示せず)が夫々接続される。電極端子70aの他端は流路60aの他端に対応しており、そこで流路内に露出している。電極端子70bの他端は流路60bの曲折部に対応しており、そこで流路内に露出している。電極端子70a、70bは、ポリエチレンテレフタレート製の樹脂シート70の一面側に銀ペーストで所定形状に印刷されて形成されており、流路60a,60bに露出し流動試料と接触する一端が塩化銀でコーティングされている。この電極端子70a,70bの一端は、樹脂シート10,20,30,40,50,60の各一辺に形成された、U字状の切欠12,22,32,42,52,62内に位置するように形成されている。
【0030】
図1に示す供給口10a~ポアチップ44に至る第1流路R1は、図3に示す供給口10aに接続される樹脂シート20の流路20aと、樹脂シート30~50の貫通孔30a,40a,50aと、樹脂シート60の流路60aと、樹脂シート50~20の貫通孔50b、40b、30bと、貫通孔30bにその一端が対応する樹脂シート20の流路20bの中央部(分岐点)までと、流路20bの中央に対応する樹脂シート30の貫通孔30cとから構成される。
【0031】
図1に示すポアチップ44~排出口10bに至る第2流路R2は、図2に示すポアチップ44の細孔48a(図2参照)の直下に位置する樹脂シート50の貫通孔50dと、樹脂シート60の「へ」字状の流路60bと、樹脂シート50~30の貫通孔50c、40c、30gと、樹脂シート20の流路20cとから構成される。
【0032】
また、図1示す分岐流路R3は、図3に示すように樹脂シート20の流路20bの中央部(分岐点)から他端側と、流路20bの他端にその一端が対応する樹脂シート30の流路30dと、流路30dの他端に対応する樹脂シート40の貫通孔40eと、これに対応する樹脂シート50の貫通孔50e、樹脂シート60の流路60bの一端から中央部(分岐点)までとから構成される。貫通孔50eは第2流路R2を構成する流路60bの一端に対応し、分岐流路R3は第2流路R2を形成する流路60bの中央部で合流する。この流路30dと図1に示す送気室36とは、流路30dと十字状に交差する連結流路30eで繋がっている。
【0033】
図1に示すモジュールMは、図4(a)(b)に示すように供給口10aの近傍の第1流路R1内に第1チェックバルブ35が設けられており、排出口10bの近傍の第2流路R2内に第2チェックバルブ37が設けられている。図4(b)に示す第1チェックバルブ35は、第1流路R1を供給口10a側とポアチップ44側とに区画する第1弁体34aが形成されている。第1弁体34aは、供給口10aから供給された流動試料の流れがポアチップ44へ向かう順流では第1流路R1を閉塞せず、且つ流動試料の流れがポアチップ44から供給口10aに向かう逆流では供給口10から流動試料の流出を防止するように第1流路R1を閉塞するものである。
【0034】
このような第1チェックバルブ35の第1弁体34aは、図4(b)に示すように第1流路R1を構成する樹脂シート30の貫通孔30aと樹脂シート40の貫通孔40aとによって形成されている。貫通孔30aは、貫通孔40aよりも小径であるから、第1チェックバルブ35の平面図である図5(b)に示すように、第1流路R1を構成する貫通孔40aの開口縁に沿って内方に樹脂シート30が張り出して第1張出部32aを形成している。第1張出部32aは、流動試料の流れが供給口10aからポアチップ44へ向かう順流のとき、第1流路R1を閉塞しないようにポアチップ44の方向に撓み、他方、流動試料の流れが流動試料の流れが供給口10aに向かう逆流では、供給口10aの方向に撓み第1流路R1の内壁面(流路20aの上面)に接触して第1流路R1を閉塞する可撓性を有する。
【0035】
第1張出部32aの張出幅は、流路20aの深さよりも長く、かつ貫通穴40a,50a及び流路60aの合計深さよりも短い。それにより上述のように、順流時に生じる流動試料の圧力によって第1張出部32aがポアチップ44側、すなわち貫通孔40a側へ撓んでも流路60aの底面に接触しないので、貫通孔30aが塞がれずに第1流路R1内の流動試料の流れが妨げられない(図6(b)参照)。一方、逆流時に生じる流動試料の圧力によって第1張出部32aが供給口10a側、すなわち流路20a側に撓んでそれの上面に接触し、貫通孔30aが塞がれて、第1流路R1が閉塞する(図6(d)参照)。なお、張出幅とは第1流路R1の開口縁から貫通孔30aまでの長さである。
【0036】
また、図4(a)に示す第2チェックバルブ37は、第2流路R2を排出口10b側とポアチップ44側とに区画する第2弁体34bが形成されている。第2弁体34bは、流動試料の流れが供給口10aからポアチップ44へ向かう順流のとき、流路内に生じる気体の流れでは第2流路R2を閉塞せず、且つ順流の流動試料が到達したとき、流動試料の排出口10bからの流出を防止するように第2流路R2を閉塞するものである。
【0037】
また、第2チェックバルブ37の第2弁体34bは、図4(a)に示すように第2流路R2を構成する樹脂シート30の貫通孔30gと樹脂シート40の貫通孔40cとによって形成されている。貫通孔30gは、貫通孔40cよりも小径であるから、第2チェックバルブ37の平面図である図5(a)に示すように、第2流路R2を構成する貫通孔40cの開口縁に沿って内方に樹脂シート30が張り出して第2張出部32bを形成している。第2張出部32bは、供給口10aからポアチップ44へ向かう順流の流動試料の流れで生じる気体の流れでは撓まず、他方、順流の流動試料が到達したとき、排出口10b側、すなわち流路20c側に撓み第2流路R2の内壁面である流路20cの上面に接触して第2流路R2を閉塞する可撓性を有する。
【0038】
第2張出部の張出幅は、流路20cの深さよりも長く、かつ貫通穴40c,50c及び流路60bの合計深さよりも短い。それにより上述のように、順流時に生じる流動試料の圧力によって第2張出部32bが排出口10c側、すなわち流路20c側に撓んでそれの上面に接触し、貫通孔30gが塞がれて、第2流路R2が閉塞する(図6(c)参照)。なお、張出幅とは第2流路R2の開口縁から貫通孔30gまでの長さである。
【0039】
図5(a)(b)に示すように、第2チェックバルブ37の第2弁体34bを構成する第2張出部32bは、第1チェックバルブ35の第1弁体34aの第1張出部32aよりも幅狭に形成されている。このため、第2張出部32bは第1張出部32aよりも強い力が付加されたときに撓むことができる。
【0040】
第1チェックバルブ34aの第1張出部32aは、図6(a)に示すように第2チェックバルブ34bの第2張出部32bが撓まない力であっても、図6(b)に示すように第1流路R1を塞がない方向に撓むことができる。その結果、流動試料の流れが供給口10aから注入された流動試料のポアチップ44の方向に流れる順流により流路中の気体が追い出されるとき、第1チェックバルブ34aの第1張出部32aは第1流路R1を閉塞しない方向に撓み、且つ第2チェックバルブ34bの第2張出部32bは撓まずに、排出口10bへの流路を閉塞しない。このため、流路中の気体を排出口10bから十分に排出できる。他方、第2チェックバルブ34bの第2張出部32bに流動試料の到達したとき、図6(c)に示すように、第2張出部32bは排出口10bへの流路を塞ぐ方向に撓み、流動試料の排出口10bからの流動試料の流出を防止できる。また、供給口10aの方向への流動試料の逆流が生じたとき、図6(d)に示すように第1チェックバルブ34aの第1張出部32aは第1流路R1の流路を塞ぐ方向に撓み、流動試料の供給口10aからの流動試料の流出を防止できる。
【0041】
図1に示すモジュールMには、図3に示すように第1流路R1から分岐されて第2流路R2に連結される分岐流路R3を構成する樹脂シート30に形成された流路30dは、図1に示す送気室36と連結流路30e(図3)を介して繋がっている。送気室36に一端が連結された連結流路30eは流路30dと十字状に交差して十字状流路31を形成している。送気室36は、図7(a)に示すように樹脂シート30に形成された樹脂シート10の貫通孔10cと同一径の貫通孔30fと、樹脂シート40に形成された貫通孔30fよりも小径の貫通孔40dとから構成されている。この貫通孔30fの上側は樹脂シート20で覆われており、貫通孔40dの下側も樹脂シート50で覆われている。送気室36を形成する樹脂シート20から成る天井部20dの上面は、貫通孔10cの底部に露出している。このように送気室36の天井部20dを形成する樹脂シート20は、弾性材料であるシリコーンゴム製であるので、天井部20dも弾性を有する。このため、図7(b)に示すように貫通孔10cの底面に露出する天井部20dの露出面を力Fで押圧すると、天井部20dが撓み送気室36内に貯留していた。気体を、連結流路30eを介して十字状流路31内に押し出すことができる。
【0042】
図1示すモジュールMの第1流路R1、第2流路R2及び分岐流路R3に流動試料が充填されたとき、第1流路R1側の流動試料と第2流路R2側の流動試料とが分離されていないと、分岐流路R3での導通の所為で電極端子70a,70b間に電圧を印加しても細孔48aを満たしている流動試料の電気抵抗のみを測定できないので、それに含有されている微細粒子の粒度分布等の測定を開始できない。この点、図1のモジュールMでは、十字状流路31の流路30dに気体溜りを形成し、第1流路R1側の流動試料と第2流路R2側の流動試料とを分離してそこでの絶縁を確保することができる。
【0043】
モジュールMの第1流路R1、第2流路R2及び分岐流路R3に流動試料が充填されたとき、図8(a)に示すように、十字状流路31の流路30d及び連結流路30eにも流動試料Lが入り込むが、連結流路30eに連結されている送気室36には流動試料Lは入り込むことなく、第1流路R1、第2流路R2及び分岐流路R3の気体の一部が貯留されている。この送気室36の天井部20dを図7(b)に示すように力Fで押圧することにより、図8(b)に示すように送気室36内の気体は十字状流路31に押し出されて流路30d内に気体溜りAが形成される。気体溜りAは、流路30d内で流動試料Lを第1流路側R1と第2流路側R2とに分離するとともに、流路30dを挟んで連結流路30eに対向する位置で流路30dから分岐するように突出した突出部30’eに、余剰の流動試料L’を押し出す。それによって、流動試料Lが第1流路側R1と第2流路側R2とに完全に分離されて繋がらない。流動試料Lが分岐流路R3で繋がっていないことにより、流動試料Lの分岐流路R3での導通が絶縁される。電極端子70a,70b間における流動試料Lを介した導通は、第1流路R1、細孔48a、及び第2流路R2を満たしている流動試料Lのみによって確保される。この状態で電極端子70a,70b間に電圧を印加して流動試料に含有されている微細粒子の粒度分布等の測定を開始できる。尚、図8(a)(b)に示すように十字状流路31内の流動試料Lの状態は、樹脂シート10,20を透明材料で形成することにより視認できる。なお、突出部30’eは、流路30dと連結流路30eとともに平面視で略十字状をなしていればよい。具体的に突出部30’eが、連結流路30eの対向箇所から僅かにずれることにより、流路30dを介して連結流路30eと平面視でクランク形をなしていてもよい。
【0044】
図8(a)(b)に示す流路30d及び連結流路30eは十字状流路31を形成していたが、図9(a)に示すようにT字状流路34であってもよい。この場合も、送気室36の天井部20dを図8(b)に示すように力Fで押圧したとき、図9(b)に示すようにT字状流路34の流路30d内に気体溜りAが形成され、第1流路R1側の流動試料と第2流路R2側の流動試料とを分離できる。但し、T字状流路34の流路30d内に形成される気体溜りAは、図8(b)の十字状流路31の流路30d内に形成される気体溜りAに比較して小さくなる。十字状流路31の流路30dから連結流路30eが突出している突出部30’eに送気室36から送り出された気体が溜り易いからと推察される。
【0045】
図3に示すモジュールMを構成するシリコーンゴム製の樹脂シート20,30,40,50,60は親水化処理が施されていることにより、樹脂シート20,30,40,50,60間の接合を十分にでき、流動試料と流路内壁面の濡れ性が向上されることから、流路内に流動試料を迅速に且つ十分に充填できる。このシリコーンゴムとしては、親水性基含有化合物を含有する親水性シリコーンゴムを好適に用いることができる。例えばポリシロキサン骨格の側鎖にポリエーテル基を有するシリコーン化合物のような親水性基含有化合物を含有するポリエーテル変性シリコーンオイルが挙げられる。このような親水性基含有化合物として、下記化学式(1)
【化1】
で表されるシリコーン化合物(式(1)中、x及びyはその化合物のシロキシ構造繰り返しユニット数であり、x又はyが示す繰り返しユニットはブロック共重合体ユニットであってもよくランダム共重合体ユニットであってもよい。nはポリエーテル基中のエーテル構造繰り返し数、より具体的には平均で12程度の数である。Rの夫々はメチル基又はフェニル基である)が挙げられる。
【0046】
親水性基含有化合物は、市販のものであってもよく、TI-2011(東レ・ダウコーニング社製;商品名。化学式(1)参照)、TI-6021(東レ・ダウコーニング社製;商品名)、TSF-4445(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン社製;商品名)、TSF-4446(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン社製;商品名)、KF-6011(信越化学工業社製;商品名)、KF-6011P(信越化学工業社製;商品名)、KF-6012(信越化学工業社製;商品名)、KF-6015(信越化学工業社製;商品名)、KF-6004(信越化学工業社製;商品名)、KF-6043(信越化学工業社製;商品名)が挙げられる。
【0047】
このような親水性基含有化合物は、HLB値(Hydrophilic-Lipophilic Balance;親水油バランス)を3.5~14.5とするものであると、十分な親水性を発現することができる。HLB値は、この範囲よりも小さいと第1及び第2親水性ゴムシート30,60の表面における親水性が不十分となり、この範囲よりも大きいと疎水性材料への分散性が大幅に低下してしまう。HLB値は、エステル系の界面活性剤について、鹸化価をS、界面活性剤を構成する脂肪酸の酸価をAとし、HLB値を20(1-S/A)で定義するものや、HLB値を20×親水部の式量の総和/分子量で定義するものや、官能基によって決まる基数を規定し(例えばメチル基やメチレン鎖は親油基で0.475、水酸基は親水基で1.9など)、HLB値を7+親水基の基数の総和-親油基の基数の総和で定義するものや、HLB値を7+11.7×log(親水部の式量の総和/親油部の式量の総和)で定義するものが知られている。
【0048】
親水性基含有化合物の含有量は、シリコーンゴム100質量部に対して、このような親水性基含有化合物含有添加剤は0.1~30質量部、好ましくは3~5質量部が、配合されていることが好ましい。
【0049】
なお、親水性基含有化合物が各樹脂シート20,30,40,50,60を形成しているシリコーンゴムに配合されている例を示したが、これとともに又はこれに代えて、親水性基含有化合物がこのシリコーンゴムの表面、具体的に第1流路R1、第2流路R2、分岐流路R3、及びポアチップ44の表面に付されてそこで露出していてもよい。このような親水化処理は、各樹脂シート20,30,40,50,60を重ねる前及び/又は重ねながら、噴霧、塗布、及び/又は浸漬の方法で第1流路R1、第2流路R2、分岐流路R3、及びポアチップ44の表面に付すことによって施して、これらを親水化面とすることが好ましい。
【0050】
親水性シリコーンゴムとして、具体的に、付加型シリコーンゴム、縮合型シリコーンゴム、過酸化物架橋型シリコーンゴム、紫外線硬化型シリコーンゴム、及び/又は放射線架橋型シリコーンゴムが挙げられ、それらの中でも付加型シリコーンゴムである熱硬化性液状シリコーンゴムが好ましい。
【0051】
このように親水性基含有化合物を含有する親水性シリコーンゴムから成る親水性シートに、UV処理、エキシマUV処理、コロナ放電処理、プラズマ処理、電子線処理、及びγ線処理から選ばれる少なくとも一つの乾式親水化処理を施すことにより、親水性基含有化合物の親水性基が露出して樹脂シートに更に一層の親水性を付与できる。このようにして得られた樹脂シートの親水性は、樹脂シートの面と水との接触角は50°以下、好ましくは30°以下、より好ましくは20°以下、より一層好ましくは10°以下である。
【0052】
樹脂シート10及び樹脂シート70は、ポリメタクリル酸メチル樹脂製又はポリエチレンテレフタレート樹脂製であることが好ましい。樹脂シート10及び樹脂シート70は、ポリメタクリル酸メチル樹脂又はポリエチレンテレフタレート樹脂以外の樹脂で形成されていてもよい。このような樹脂として例えば、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、シクロオレフィン樹脂、エポキシ樹脂、ポリブテレンテレフタレート樹脂、セルロース及びその誘導体、ヒドロキシエチルセルロース、デンプン、二酢酸セルロース、表面ケン化酢酸ビニル樹脂、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、i-ポリプロピレン、石油樹脂、ポリスチレン、s‐ポリスチレン、クマロン・インデン樹脂、テルペン樹脂、スチレン・ジビニルベンゼン共重合体、ABS樹脂、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリルニトリル、ポリメタクリル酸エチル、ポリシアノアクリレート、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルホルマール、ポリビニルアセタール、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル・エチレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン・エチレン共重合体、フッ化ビニリデン・プロピレン共重合体、1,4-トランスポリブタジエン、ポリオキシメチレン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、フェノール・ホルマリン樹脂、クレゾール・フォルマリン樹脂、レゾルシン樹脂、メラミン樹脂、キシレン樹脂、トルエン樹脂、グリプタル樹脂、変性グリプタル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アリルエステル樹脂、6-ナイロン、6,6-ナイロン、6,10-ナイロン、ポリイミド、ポリアミド、ポリベンズイミダゾール、ポリアミドイミド、ケイ素樹脂、シリコーンゴム、シリコーン樹脂、フラン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリフェニレンオキサイド、ポリジメチルフェニレンオキサイド、ポリフェニレンオキサイドまたはポリジメチルフェニレンオキサイドとトリアリルイソシアヌルブレンド物、(ポリフェニレンオキサイドまたはポリジメチルフェニレンオキサイド、トリアリルイソシアヌル、パーオキサイド)ブレンド物、ポリキシレン、ポリフェニレンスルファイド(PPS)、ポリスルホン(PSF)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリイミド(PPI、カプトン)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、及び液晶樹脂が挙げられる。
【0053】
樹脂シート10及び樹脂シート70は、他の樹脂シート20,30,40,50,60と同一のシリコーンゴム製であってもよい。さらに、4‐シスブタジエンゴム、イソプレンゴム、スチレン・ブタジエン共重合ゴム、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体ゴム、ポリブテンゴム、ポリイソブチレンゴム、エチレン・プロピレンゴム、エチレン・プロピレン・ジエンゴム、塩素化エチレン・プロピレンゴム、塩素化ブチルゴム等のオレフィン系ゴム、天然ゴム、1,4‐シスブタジエンゴム、イソプレンゴム、ポリクロロプレン、スチレン・ブタジエン共重合ゴム、水素添加スチレン・ブタジエン共重合ゴム、アクリルニトリル・ブタジエン共重合ゴム、水素添加アクリルニトリル・ブタジエン共重合ゴム、ポリブテンゴム、ポリイソブチレンゴム、エチレンオキサイド-エピクロロヒドリン共重合体ゴム、塩素化ポリエチレンゴム、クロルスルフォン化ポリエチレンゴム、アルキル化クロルスルフォン化ポリエチレンゴム、クロロプレンゴム、塩素化アクリルゴム、臭素化アクリルゴム、フッ素ゴム、エピクロルヒドリンとその共重合ゴム、臭素化ブチルゴムテトラフロロエチレン、ヘキサフロロプピレン、フッ化ビニリデン及びテトラフルオロロエチレンなどの単独重合体ゴム及びこれらの二元及び三元共重合体ゴム、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合ゴム、プロピレン/テトラフルオロエチレン共重合ゴム、エチレンアクリルゴム、エポキシゴム、ウレタンゴム、両末端不飽和基エラストマー等の線状重合体で例示される原料ゴム状物質の配合物を架橋させた熱可塑性エラストマーが挙げられる。これらは単独で用いられても複数混合して用いられてもよい。
【0054】
上記の樹脂及び熱可塑性エラストマーは単独で用いられても複数混合して用いられてもよい。またこれらはポリアミド繊維、炭素繊維、又はガラス繊維により強化されていてもよい。
【0055】
樹脂シート10及び樹脂シート70の材料は、これらの樹脂に限定されず、上述したシリコーンゴムであってもよい。この場合、樹脂シート10及び樹脂シート70の材料は、樹脂シート20~60を形成しているシリコーンゴムと同種であっても、異種であってもよい。また、樹脂シート10及び樹脂シート70の材料は、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0056】
また、樹脂シート10~70の積層面及びポアチップ44に、コロナ処理、プラズマ処理又は紫外線照射処理(一般的なUV処理やエキシマUV処理)の乾式親水化処理を施すことが好ましい。この処理により、これらの表面で生じた活性基、例えば水酸基(-OH)やヒドロキシシリル基(-SiOH)のような反応性活性基同士が、共有結合により直接、化学結合して、強固に接合し、樹脂シート10~70及びポアチップ44を剥離不能に一体化できる。このような接合を分子接合と称し、分子接合でのエーテル結合は、OH基同士の脱水によるエーテル結合であることが好ましい。また、第1流路R1,第2流路R2及び分岐流路R2の内壁面の少なくとも一部が親水化され、流動試料との濡れ性を向上できる。
【0057】
樹脂シート20~70の厚さは特に限定されず、0.05~3mmの範囲、特に0.1~2mmの厚さであることが好ましい。ポアチップ44が装着される樹脂シート40は、ポアチップ44の厚さに応じて選択されるが、樹脂シート20~30,50~70よりも厚くなることが好ましい。樹脂シート10は、0.5~5mm厚、好ましくは0.5~2mm厚とすることにより、モジュールMを撓み難くすることができる。それによればモジュールMを補強でき、これを反らせたり捻ったりする外力が作用しても容易に撓まず、シリコン及び窒化シリコン製のポアチップ44に割れを生じたり、亀裂を生じたりすることを防止できる。
【0058】
モジュールMは、次のようにして作製することができる。
【0059】
まず、必要に応じて架橋剤や硬化剤を含有しているシリコーンゴム原料成分に、前記所定量の親水性基含有化合物であるポリエーテル変性シリコーンオイルを配合する。このとき、ポリエーテル変性シリコーンオイルがシリコーンゴム原料成分へ均一に分散するように、例えばポリシロキサン骨格の末端にヒドロキシ基を有するシリコーン化合物のような、主鎖が疎水性、末端が親水性を示す化合物を配合してもよい。次いでこの混合物を混練・撹拌し、必要に応じて脱泡する。このシリコーンゴム混錬物を例えば0.1mm厚のシートに成型し、加熱によって架橋させてシリコーンゴムへと硬化させて親水性基含有化合物を含んだシリコーンゴムシートを作製する。
【0060】
レーザーカッターを用いて、親水性基含有化合物を含んだシリコーンゴムシートに流路20a,20b,20cの各々を形成する長孔を開けてから所定の大きさの正方形に切り出した後、正方形の一辺にU字状の切欠22,22を形成して樹脂シート20を作製する。同様にして、貫通孔30a,30b,30c,十字状流路31を形成する長孔を開けてから所定の大きさの正方形に切り出した後、正方形の一辺にU字状の切欠32,32を形成して樹脂シート30を作製する。更に、同様にして所定の箇所に所定の貫通孔、長孔を形成してから所定の大きさの正方形に切り出した後、所定位置にU字状の切欠52,52を形成して樹脂シート50を作製する。
【0061】
また、シリコーンゴム混錬物を0.4mm厚と0,2mmのシートに成型し、加熱によって架橋させてシリコーンゴムへと硬化させて親水性基含有化合物を含んだシリコーンゴムシートを作製する。このシリコーンゴムシートの各々の箇所に所定の貫通孔及び長孔を形成してから所定の大きさの正方形に切り出した後、所定の位置にU字状の切欠42,42,62,62を形成して樹脂シート40(厚さ0.4mm)と樹脂シート60(厚さ0.2mm)を作成する。このようにして得られた樹脂シート20~60の全露出面は親水性を呈している。
【0062】
次いで、樹脂シート20~60の積層面に、乾式親水化処理、例えばエキシマUV照射処理、UV照射処理、コロナ放電処理、プラズマ処理、電子線照射処理、及び/又はγ線照射処理を施し、それらの積層面を、水酸基(-OH)やヒドロキシシリル基(-SiOH)のような活性基が露出した親水化面とする。この活性基が存在することにより、水との接触角が小さくなって親水性が高くなり、その高い親水性が長期間維持される。この乾式親水化処理を施した後、クリーンルーム環境下や常温、常圧、常湿度下で長期間例えば1年以上にわたり、樹脂シート20~60の積層面は高い親水性を維持し、水との接触角を低いまま維持でき例えば通常の接触角測定条件例えば水液滴の滴下後10秒~4分後に測定しても50°以下、好ましくは30°以下、より好ましくは10°以下に維持できていることを確認できる。
尚、樹脂シート20~60は、親水性基含有化合物を非含有のシリコーンゴム原料成分で形成されていてもよい。この場合、それらの表面に乾式親水化処理を施すことにより、その積層面に親水性を付与できる。
【0063】
また、レーザーカッターを用いて、例えば2mm厚のポリメタクリル酸メチル樹脂板に貫通孔10a,10b,10cを所定位置に開けてから、所定の大きさの正方形に切り出した後、所定位置にU字状の切欠12,12を形成して樹脂シート10を作製した。更に、例えば厚さ0.1mmのポリエチレンテレフタレート板をレーザーカッターで所定の大きさの正方形に切り出した後、所定位置に銀ペーストで亜鈴形に印刷し、更に流動試料と接触する部分に塩化銀でコーティングして電極端子70a,70bを形成して樹脂シート70を作製する。
【0064】
樹脂シート10~70及びポアチップ44の積層面に乾式親水化処理を施してそれらの表面に活性基を生成させた後、図1に示すように樹脂シート70上に各樹脂シートの貫通孔及び長孔が対応するように順次積層した後、例えば80℃で10分間加熱する。この加熱により、樹脂シート10~70及びポアチップ44が分子接合によって接合・一体化して図3に示すモジュールMを得ることができる。
【0065】
この分子接合による接合工程を、常圧下で行ってもよく、減圧下又は加圧下で行ってもよい。各表面間における活性基同士の接近は、減圧乃至真空条件下、例えば50torr以下、より具体的には50~10torrの減圧条件、又は10torr未満、より具体的には、10torr未満~1×10-3torr、好ましくは10torr未満~1×10-2torrの真空条件下で、その接触界面の気体媒体を除去することによって、又はその接触界面に応力(荷重)、例えば10~200kgfを加えることによって、さらに接触界面を加熱することによって、促進される。減圧又は加圧条件で、樹脂シート10~70及びポアチップ44に、均一に圧力が掛かることが好ましい。
【0066】
また、接合工程において、乾式親水化処理を施すだけで樹脂シート10~70及びポアチップ44の積層面に十分に活性基が発現するのでそれら活性基のみによる分子接合を形成してもよい一方で、シランカップリング剤のような分子接着剤を用いて、分子接合を形成してもよい。この場合、前記シランカップリング剤のような分子接着剤の0.05~1重量%のアルコール溶液例えばメタノール溶液へ樹脂シート10~70及びポアチップ44を浸漬して乾燥した後、それらが重ね合わされることが好ましい。
【0067】
分子接合の形成において、乾式親水化処理と分子接着剤処理との何れかのみを施してもよく、それらを連続的に交互に施してもよい。分子接合は、例えば、乾式親水化処理のみで形成されていてもよく、乾式親水化処理に引き続く分子接着剤処理で形成されていてもよく、乾式親水化処理に引き続く分子接着処理とさらに乾式親水化処理とで形成されていてもよく、分子接着剤処理のみで接合で形成されていてもよく、分子接着剤処理に引き続く乾式処理で形成されていてもよく、分子接着処理に引き続く乾式親水化処理とさらに分子接着処理とで形成されていてもよい。
【0068】
このように、乾式親水化処理により生成した活性基は、樹脂シートに親水性を付与するだけでなく、シランカップリング剤や別な樹脂シートの積層面に存在する活性基と共有結合を形成することにより、樹脂シート同士を強固に接合し得る分子接合を形成する。
【0069】
必要に応じてモジュールMに真空条件下で乾式親水化処理を施してもよい。それにより第1流路R1、第2流路R2及び分岐流路R3及びポアチップ44の全露出面の親水性を向上させることができる。
【0070】
モジュールMを使用するに際に、供給口10aから流動試料を注入する。注入された流動試料は、図1及び図3に示すように流路20a、第1チェックバルブ35の貫通孔30aと、貫通孔30a,40a,50aと、流路60aと、貫通孔50b、40b、30bと、流路20bと、貫通孔30cとから構成される第1流路R1を通りポアチップ44に至る。ポアチップ44の細孔48aを通過した流動試料は、貫通孔50dと、流路60bと、貫通孔50c,40cと、第2チェックバルブ37の貫通孔30gとから構成される第2流路R2を流れる。第2チェックバルブ37の貫通孔30gに到達した流動試料は、図6(c)に示すように張出部32bが撓み第2流路R2を塞ぎ、流路20cを通過して排出口10bから流出しない。
【0071】
また、大半の流動試料は、流路20bで分流され、十字状流路31と、貫通孔40f,50eと、「へ」字状の流路60bで構成される分岐流路R3を通り、流路60bで第2流路R2と合流する。注入された流動試料により排出される流路内の気体は、図6(a)に示すように第2チェックバルブ35の張出部32bが撓まずに第2流路R2を塞ぐことがないため、流路内の気体は流路20cを経由して排出口10bより排出され、スムーズに流路内を流動試料で充填される。流路内に充填された流動試料は、図6(c)(d)に示すように2チェックバルブ36の張出部32b及び第1チェックバルブ34aの張出部32aの撓みにより外部への流出を防止できる。
【0072】
このように第1流路及び第2流路に加えて分岐流路R2を設けることにより、全流路内に流動試料がスムーズに充填できる。しかし、第1流路R1、第2流路R2及び分岐流路R3に流動試料が充填された状態では、第1流路R1側の流動試料と第2流路R2側の流動試料とが分離されておらず、電極端子70a,70bに電圧を印加して流動試料に含有されている微細粒子の粒度分布等の測定を開始できない。このため、図8(a)に示すように送気室36の天井部20dを押圧することにより、送気室36に貯留されている気体を十字状流路31に押し出して図8(b)に示すように十字状流路31の流路30d内に気体溜りAを形成する。気体溜りAにより、第1流路R1側の流動試料と第2流路R2側の流動試料とを分離できる。第1流路R1側の流動試料と第2流路R2側の流動試料とが分離された状態で、電極端子70a,70bの露出面に所定の電圧を印加して測定を開始できる。測定中も図8(b)に示す状態を保持する。尚、送気室36の気体は、第1流路R1、第2流路R2及び分岐流路R3内の気体の一部を貯留している。
【0073】
図3に示すモジュールMの流路に注入された流動試料は、流路内に密閉されており、モジュールMを傾斜させても引っ繰り返しても流動試料は流出しない。このため、図3に示すモジュールMは、ウィルスや細菌等の危険物を含有する流動試料の測定に好適に用いることができ、測定中及び測定終了後において安全に取り扱うことができる。
【0074】
危険物を含有しない流動試料の場合には、第1流路R1に設けた第1チェックバルブ35及び第2流路R2に設けた第2チェックバルブ37は不要であり、樹脂フィルム30の貫通孔30a,30gは、図10に示すように樹脂フィルム40の貫通孔40a,40cと同一径とすることができる。
【実施例0075】
以下、本発明を適用するモジュールMを試作し、試験液をモジュールMの流路に流した例を示す。
【0076】
2mm厚のポリメタクリル酸メチル樹脂製シートを、図3に示す樹脂シート10の外形になるように、レーザーカッターで切り出した。このシートに、レーザーカッターで貫通孔10a,10b,10cを開けて樹脂シート10を得た。
【0077】
0.1mm厚のシリコーンゴムシートを、図3に示す樹脂シート20,30,50の外形になるように、レーザーカッターで3枚切り出した。そのうちの1枚の樹脂シートに、レーザーカッターで流路20a,20b,20cを図3に示される位置に開けて樹脂シート20を得た。また別な1枚の樹脂シートに、レーザーカッターで貫通孔30a,30b,30c,30g、及び十字状流路31を図3に示される位置に開けて樹脂シート30を得た。最後の一枚に貫通孔40a,40b,40c,40d,40eを図3に示される位置に開けて樹脂シート50を得た。
【0078】
0.4mm厚のシリコーンゴムシートを、図3に示す樹脂シート40の外形になるように、レーザーカッターで切り出した。このシートに貫通孔40a,40b,40c,40d,40e、及びポアチップ用の挿入孔を図3に示される位置に開けて樹脂シート40を得た。
【0079】
0.2mm厚のシリコーンゴムシートを、図3に示す樹脂シート60の外形になるように、レーザーカッターで切り出した。このシートに流路60a,60bを図3に示される位置に開けて樹脂シート60を得た。
【0080】
0.1mm厚のPETシートを図3に示す樹脂シート70の外形になるように、レーザーカッターで切り出した。このシートの一方の面に、銀ペーストを用いて図3に示される位置にスクリーン印刷により電極端子70a,70bを印刷した。電極端子70a,70bの流路に露出する側に塩化銀でコーティングを施した。
【0081】
樹脂シート10,20,30,40,50,60,70の両面にコロナ放電処理を施した。樹脂シート10,70に再度コロナ放電を施してから、これらをシランカップリング剤である3-(2-アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシランの0.1質量%エタノール溶液に浸漬した後、80℃で10分間加熱し、エタノール洗浄した。
【0082】
樹脂シート10,20,30,40,50,60,70を、この順に重ねて積層した。このとき、樹脂シート40に開けたポアチップ用挿入孔に、開口径300nmの細孔48aを有するポアチップ44を入れた。減圧雰囲気中でこれらの樹脂シートに圧力を均等に掛けることにより、コロナ放電処理によって樹脂シート10,20,30,40,50,60,70の表面に生じたOH基同士、及びこのOH基とシランカプリング剤との反応によってエーテル結合を形成し、これら樹脂シートを分子接合によって一体化した。その結果、図11(a)に示すモジュールMを得た。
【0083】
赤色に着色したリン酸緩衝生理食塩水(PBS)からなる試験液Lを、ピペットを用いて供給口10から注入した。図11(b)に示すように、試験液Lは第1流路R1の第1チェックバルブ35を経て流れ、分岐流路R3に進んだ。さらに試験液Lは図11(c)に示すように、十字流路31に進んだ後第2流路R2を流れて、図11(d)に示すようにそこに設けられた第2チェックバルブ37に到達した。第2チェックバルブ37が閉塞し、試験液Lは排出口10bへ向かって流れなかった。また第1流路R1、第2流路R2、及び分岐流路R3が試験液Lで満たされた。このことから、各流路R1~R3を満たしていた空気が第2チェックバルブ37及び排出口10bを経て排出されたことが分かった。また送気室36に試験液Lが流入しなかったことから、流入空気が貯留されていることが分かった。このように、本発明のモジュールMによれば、ポアチップを挟んだ上下の各流路の気体(空気)を排出しつつ流動試料をそれら流路に短時間で充填させることができることが分かった。
【0084】
次いで、図12に示すように、貫通孔10cにアクリル製チップを入れ、ピンセットを用いてこのチップを押圧した。その結果、送気室36に貯留されていた空気が分岐流路R3の十字状流路31に押し出されてそこに気体溜りAが形成された。この気体溜りAによって十字状流路31内に存在する試験液Lが、第1流路R1側と第2流路R2側とに分離された。この状態を保ったまま、電極端子70a,70b間の抵抗値を測定したところ、2.8MΩであった。これにより、分岐流路R3で流動試料の導通が絶縁されてポアチップ44の細孔48aを満たした流動試料の電気抵抗を測定でき、コールター法による微粒子測定が可能であることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明に係る微細粒子測定モジュールは、インフルエンザウィルスや口腔内細菌の検知、赤血球、白血球、及び血小板を測定することによる血液診断、顔料、高分子ビーズ、及び磁性粒子のような工業品の生産工程における品質管理、酵母菌、乳酸菌、及び麹菌のような食品生産に用いられる菌の管理に用いることができる。
【符号の説明】
【0086】
M:微細粒子測定モジュール、10,20,30,40,50,60,70:樹脂シート、10a:供給口、10b:排出口、10c:樹脂シート10の貫通孔、30a,30b,30c,30f,30g:樹脂シート30の貫通孔、40a,40b,40d,40e:樹脂シート40の貫通孔、50a,50b,50c,50d,50e:樹脂シート50の貫通孔、12,22,32,42,52,62:切欠、20a,20b,20c:樹脂シート20の流路、30d:樹脂シート30の流路、30e:樹脂シート30の連結流路、30’e:突出部、60a、60b:樹脂シート60の流路、20d:天井部、31:十字状流路、32a,32b:張出部、34:T字状流路、34a:第1弁体、34b:第2弁体、35:第1チェックバルブ、36:送気室、37:第2チェックバルブ、44:ポアチップ、46:ブロック部、46a:凹部、48:薄膜部、48a:細孔、70a,70b:電極端子、A:気体溜り、F:力、L,L’:流動試料,試験液、R1:第1流路、R2:第2流路、R3:分岐流路
図1
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