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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022030651
(43)【公開日】2022-02-18
(54)【発明の名称】複合樹脂発泡粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/22 20060101AFI20220210BHJP
【FI】
C08J9/22 CES
C08J9/22 CET
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020134788
(22)【出願日】2020-08-07
(71)【出願人】
【識別番号】000131810
【氏名又は名称】株式会社ジェイエスピー
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】住田 慎治
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 裕太
【テーマコード(参考)】
4F074
【Fターム(参考)】
4F074AA21K
4F074AB01
4F074AB03
4F074AG03
4F074BA32
4F074BC12
4F074BC15
4F074CA34
4F074CA39
4F074CA49
4F074DA02
4F074DA04
4F074DA08
4F074DA33
4F074DA59
(57)【要約】
【課題】生産性良く高発泡倍率の複合樹脂発泡粒子を製造する方法を提供する。
【解決手段】造粒工程と改質工程と発泡工程とを行うことにより複合樹脂発泡粒子を製造する方法である。ポリオレフィン系樹脂と気泡調整剤とを混練してポリオレフィン系樹脂種粒子を得る。改質工程では、水性媒体中に分散させた上記種粒子にスチレン系単量体を含浸、重合させて複合樹脂粒子を得る。発泡工程では、密閉容器内で上記複合樹脂粒子を物理発泡剤とともに水性媒体に分散させると共に、複合樹脂粒子を発泡させて複合樹脂発泡粒子を得る。気泡調整剤が、フッ素樹脂粉末及び難水溶性無機粉末からなる群より選択される1種以上の粉末Aと、体積平均粒子径MVが4μm以上の硫酸マグネシウム粉末とを含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン系樹脂と気泡調整剤とを混練してポリオレフィン系樹脂種粒子を得る造粒工程と、
水性媒体中に分散させた上記種粒子にスチレン系単量体を含浸重合させて複合樹脂粒子を得る改質工程と、
密閉容器内で上記複合樹脂粒子を物理発泡剤とともに水性媒体に分散させると共に、上記密閉容器の内容物を、上記密閉容器の内圧よりも低い圧力域に放出することで上記複合樹脂粒子を発泡させて複合樹脂発泡粒子を得る発泡工程と、を有し、
上記気泡調整剤が、フッ素樹脂粉末及び難水溶性無機粉末からなる群より選択される1種以上の粉末Aと、硫酸マグネシウム粉末とを含み、
上記硫酸マグネシウム粉末の体積平均粒子径MVが4μm以上である、複合樹脂発泡粒子の製造方法。
【請求項2】
上記粉末Aの体積平均粒子径MVが1~50μmである、請求項1に記載の複合樹脂発泡粒子の製造方法。
【請求項3】
上記難水溶性無機粉末がホウ酸亜鉛である、請求項1又は2に記載の複合樹脂発泡粒子の製造方法。
【請求項4】
上記硫酸マグネシウム粉末の添加量が、上記種粒子と上記スチレン系単量体との合計100質量%に対して、0.01~1質量%である、請求項1~3のいずれか一項に記載の複合樹脂発泡粒子の製造方法。
【請求項5】
上記改質工程において、重合開始剤として、t-ブトキシ基を有し、かつ10時間半減期温度が80~120℃の有機過酸化物Aと、t-ヘキシルオキシ基又はt-アミルオキシ基を有し、かつ10時間半減期温度が80~120℃の有機過酸化物Bとを用い、
上記種粒子と上記スチレン系単量体との合計量100質量部に対する上記有機過酸化物Aと上記有機過酸化物Bとの合計配合量が0.1~1.0質量部であり、
上記有機過酸化物Aと上記有機過酸化物Bとの合計配合量に対する上記有機過酸化物Aの配合量の割合が50~80質量%である、請求項1~4のいずれか一項に記載の複合樹脂発泡粒子の製造方法。
【請求項6】
上記改質工程における上記スチレン系単量体の配合量が、上記種粒子100質量部に対して、500質量部を超え1900質量部以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載の複合樹脂発泡粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィン系樹脂種粒子に、スチレン系単量体が含浸重合された複合樹脂発泡粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オレフィン系樹脂とスチレン系樹脂との複合樹脂を基材樹脂とする発泡粒子を用いて得られる型内成形体は、軽量で、優れた剛性及び靭性を兼ね備えるため、包装材料、建築材料、車両用部材等の幅広い用途に利用されている。このような型内成形体の製造に用いられる複合樹脂発泡粒子は、例えば次のようにして製造される。まず、気泡調整剤を配合したオレフィン系樹脂種粒子にスチレン系単量体を含浸重合させることにより、複合樹脂粒子を得る。次いで、密閉容器内で複合樹脂粒子を物理発泡剤とともに水性媒体に分散させると共に、密閉容器の内容物を密閉容器の内圧よりも低い圧力域に放出することで、複合樹脂粒子を発泡させる。このようにして、複合樹脂発泡粒子を得ることができる。
【0003】
例えば、特許文献1では、気泡調整剤として、ホウ酸亜鉛等のホウ酸金属塩や、カリウムミョウバン(具体的には、硫酸カリウムアルミニウム)等の1価の陽イオンと3価の陽イオンとからなる硫酸複塩を用いて、複合樹脂発泡粒子を製造する方法が記載されている。また、特許文献2では、気泡調整剤としてホウ酸亜鉛を用いて、複合樹脂発泡粒子を製造する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-107148号公報
【特許文献2】特開2017-105882号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、高発泡倍率の複合樹脂発泡粒子成形体(以下、単に成形体とも言う。)を容易に得ることができる、発泡倍率の高い複合樹脂発泡粒子(以下、単に発泡粒子ともいう。)が求められている。
一方で、上記したような密閉容器を備える発泡装置を用いた発泡方法により、従来の気泡調整剤を用いて、高発泡倍率の発泡粒子を得ようとすると、複合樹脂粒子を発泡させて発泡粒子を製造する際の、発泡温度、発泡圧力などの発泡条件を過酷にする必要があり、発泡装置への負荷が増大する等、発泡粒子の生産性が低下するおそれがあった。
また、複合樹脂粒子を発泡させて発泡粒子を得た後、得られた発泡粒子をさらに発泡させて複合樹脂発泡粒子を得るような、複数回の発泡工程を行うことにより、高発泡倍率の複合樹脂発泡粒子を得る方法が考えられる。しかし、この方法では、発泡工程が増えるため、生産性が低下するおそれがあると共に、発泡倍率によっては、良好な気泡状態を維持したまま、所望とする発泡倍率まで安定して発泡倍率を高めることが困難となるおそれがあった。
【0006】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、生産性良く高発泡倍率の複合樹脂発泡粒子を製造する方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、ポリオレフィン系樹脂と気泡調整剤とを混練してポリオレフィン系樹脂種粒子を得る造粒工程と、
水性媒体中に分散させた上記種粒子にスチレン系単量体を含浸重合させて複合樹脂粒子を得る改質工程と、
密閉容器内で上記複合樹脂粒子を物理発泡剤とともに水性媒体に分散させると共に、上記密閉容器の内容物を、上記密閉容器の内圧よりも低い圧力域に放出することで上記複合樹脂粒子を発泡させて複合樹脂発泡粒子を得る発泡工程と、を有し、
上記気泡調整剤が、フッ素樹脂粉末及び難水溶性無機粉末からなる群より選択される1種以上の粉末Aと、硫酸マグネシウム粉末とを含み、
上記硫酸マグネシウム粉末の体積平均粒子径MVが4μm以上である、複合樹脂発泡粒子の製造方法にある。
【発明の効果】
【0008】
上記複合樹脂発泡粒子は、造粒工程と改質工程と発泡工程とを行うことにより製造される。造粒工程において、上記特定の気泡調整剤を含有する種粒子を製造し、この種粒子を用いて、改質工程、発泡工程を行っている。そのため、生産性良く、高発泡倍率の複合樹脂発泡粒子を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
次に、複合樹脂発泡粒子の製造方法の好ましい実施形態について説明する。本明細書において、「~」を用いてその前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いることとする。また、質量部と重量部とは実質的に同じ意味であり、質量%と重量%とは実質的に同じ意味である。「phr」は、質量部を意味する。
【0010】
複合樹脂発泡粒子(以下、適宜「発泡粒子」という)は、ポリオレフィン系樹脂にスチレン系単量体が含浸重合された複合樹脂を基材樹脂とする粒子状の発泡体である。発泡粒子は、少なくともポリオレフィン系樹脂成分とポリスチレン系樹脂成分とを含有する複合樹脂から構成されていると共に、多数の気泡を含む構造を有する。発泡粒子は、例えば、型内成形により、成形型内で発泡粒子を発泡させると共に、発泡粒子を相互に融着させることで得られる発泡粒子成形体を製造するために用いられる。このような成形体は、多数の発泡粒子が相互に融着することによって構成される。発泡粒子は、造粒工程と改質工程と発泡工程とを行うことにより製造される。
【0011】
[造粒工程]
造粒工程においては、ポリオレフィン系樹脂と気泡調整剤とを混練してポリオレフィン系樹脂種粒子(以下、適宜「種粒子」という)を得る。ポリオレフィン系樹脂としては、例えば分岐状低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸アルキルエステル共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸アルキルエステル共重合体等のポリエチレン系樹脂を用いることができる。また、ポリオレフィン系樹脂としては、例えばプロピレンホモ重合体、プロピレン-エチレン共重合体、プロピレン-1-ブテン共重合体、プロピレン-エチレン-1-ブテン共重合体、プロピレン-4-メチル-1-ペンテン共重合体等のポリプロピレン系樹脂を用いることもできる。また、ポリオレフィン系樹脂としては、1種の重合体を用いることもできるが、2種以上の重合体の混合物を用いることもできる。
【0012】
ポリオレフィン系樹脂は、ポリエチレン系樹脂であることが好ましい。この場合には、発泡粒子成形体の靭性をより高めることができる。また、ポリエチレン系樹脂の密度は910kg/m3以上930kg/m3未満であることがより好ましい。
【0013】
ポリエチレン系樹脂100質量%中の直鎖状低密度ポリエチレンの含有量は、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましい。直鎖状低密度ポリエチレンとは、エチレンと1-ブテンや1-ヘキセン等のα-オレフィンとの共重合体であり、密度が910kg/m3以上930kg/m3未満のものを意味する。直鎖状低密度ポリエチレンは、直鎖のポリエチレン鎖と炭素数2~6の短鎖状の分岐鎖とを有する分岐構造を有することが好ましい。具体的には、例えばエチレン-ブテン共重合体、エチレン-ヘキセン共重合体、エチレン-オクテン共重合体等が挙げられる。特に、ポリエチレン系樹脂は、メタロセン系重合触媒を用いて重合してなる直鎖状低密度ポリエチレンであることが好ましい。この場合には、複合樹脂粒子中のポリエチレン系樹脂成分と、スチレン系単量体が重合してなるポリスチレン系樹脂成分との親和性がより向上し、より靱性の高い複合樹脂粒子を得ることができる。また、低分子量成分をより少なくし、成形時の発泡粒子間の融着強度をより高めることができるため、より一層割れの発生しにくい発泡複合樹脂成形体(発泡粒子成形体)を製造することが可能になる。さらに、ポリスチレン系樹脂の優れた剛性とポリエチレン系樹脂の優れた粘り強さとをより高いレベルで兼ね備えた発泡複合樹脂成形体を得ることが可能になる。
【0014】
改質工程におけるスチレン系単量体の含浸性を向上させ、重合安定性を高められることにより、得られる成形体の剛性と靱性とをバランスよく高めやすくなる観点から、ポリオレフィン系樹脂の融点Tmは、80℃~115℃であることが好ましく、85~110℃であることがより好ましい。また、上記観点から、ポリオレフィン系樹脂がポリエチレン系樹脂の場合には、ポリエチレン系樹脂の融点Tm(℃)は95~105℃であることが好ましく、100~105℃であることがより好ましい。なお、ポリオレフィン系樹脂の融点Tmは、JIS K7121-1987に基づいて、示差走査熱量測定(DSC)にて融解ピーク温度として測定される。試験片の状態調節として、「(2)一定の熱処理を行なった後、融解温度を採用する場合」を採用し、加熱温度、冷却温度は共に10℃/分とする。また、DSC曲線に融解ピークが2個以上存在する場合には最も融解熱量の大きい融解ピークをポリオレフィン系樹脂の融点Tmとする。
【0015】
発泡工程での複合樹脂粒子の発泡性が向上する観点から、温度190℃、荷重2.16kgという条件におけるポリオレフィン系樹脂のメルトマスフローレイト(MFR)は、0.5~4.0g/10分であることが好ましく、1.0~3.0g/10分であることがより好ましい。ポリオレフィン系樹脂のMFRは、JIS K7210-1:2014に基づき、測定される値である。また、測定装置としては、メルトインデクサー(例えば(株)安田精機製 No.120-FWP)を用いることができる。
【0016】
種粒子は、着色剤、滑剤、分散径拡大剤等の添加剤を含有することができる。なお、添加剤の配合量は、発泡粒子、発泡複合樹脂成形体の要求性能に応じて適宜調整することができる。種粒子は、気泡調整剤と、必要に応じて添加される添加剤とをポリオレフィン系樹脂に配合し、ポリオレフィン系樹脂を溶融させると共に、配合物を混練してから細粒化することにより製造することができる。溶融混練は押出機により行うことができる。均一な混練を行うためには、予め樹脂成分を混合した後に押出を行うことが好ましい。樹脂成分の混合は、例えばヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、Vブレンダー、レディーゲミキサーなどの混合機を用いて行うことができる。溶融混練は、例えばダルメージタイプ、マドックタイプ、及びユニメルトタイプ等の高分散タイプのスクリュの単軸押出機や二軸押出機を用いて行うことが好ましい。
【0017】
造粒工程では、複合樹脂粒子の発泡後に得られる発泡粒子の発泡倍率を所望の発泡倍率に調整すると共に、発泡粒子の気泡径を調整するため、種粒子に気泡調整剤を含有させる。気泡調整剤は、フッ素樹脂粉末及び無水溶性無機粉末の少なくとも一方と、体積平均粒子径MVが4μm以上の硫酸マグネシウム粉末とを含む。また、フッ素樹脂粉末、無水溶性無機粉末としては、1種以上の粉末(つまり、粉末A)を用いることができる。したがって、気泡調整剤は、フッ素樹脂粉末及び難水溶性無機粉末からなる群より選択される1種以上の粉末Aと、体積平均粒子径MVが4μm以上の硫酸マグネシウム粉末とを含む。
【0018】
種粒子が、上記のように特定の気泡調整剤を含有するため、発泡工程では、高発泡倍率の発泡粒子を得ることができる。この理由は次のように考えられる。
水に溶解しないフッ素樹脂粉末や、難水溶性の無機粉末は、改質工程や発泡工程において水性媒体による影響を受けにくく、樹脂粒子の発泡時には種粒子造粒後の分散状態で樹脂粒子中に存在すると考えられる。そのため、フッ素樹脂粉末や難水溶性無機粉末は、主に発泡粒子の気泡数を調整する気泡核剤として機能すると考えられる。一方、硫酸マグネシウム粉末は、親水性で、フッ素樹脂粉末や難水溶性無機粉末に比べて水に溶解しやすいため、重合工程や発泡工程において複合樹脂粒子中に水分を引き込むと共に、硫酸マグネシウムの一部は水に溶解するものと考えられる。複合樹脂粒子中に引き込まれた水は、ポリオレフィン系樹脂と気泡調整剤との間に入り込み、後述の物理発泡剤と共に発泡剤として機能すると考えられる。また、引き込まれた水は、物理発泡剤に比べて大きな気泡を形成させやすい傾向がある。これらにより、上記特定の気泡調整剤を用いることで、発泡時の発泡条件を過酷にしなくとも、発泡粒子の発泡倍率を高くすることができると考えられる。また、二段発泡法等の複数の発泡工程を行わなくとも、高発泡倍率の発泡粒子を得ることができる。したがって、低コストで生産性良く高発泡倍率の発泡粒子を得ることができる。
【0019】
フッ素樹脂粉末は、フッ素樹脂から構成された粉末である。フッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(つまり、PTFE)、テトラフルオロエチレンとヘキサフロオロプロピレンの共重合体、テトラフルオロエチレンとパーフルオロアルキルビニルエーテルの共重合体等の四フッ素化樹脂や、ポリフッ化ビニリデン等が挙げられ、これらのうちの1種又は2種以上の樹脂が用いられる。これらの中でも、樹脂中への分散性が良く、良好な気泡な気泡構造を形成することができることから、ポリテトラフルオロエチレンを用いることが好ましい。
【0020】
難水溶性無機粉末とは、水に溶けにくい又は溶けない無機粉末であり、90℃における水100gへの溶解度が、1g以下である無機粉末を意味する。難水溶性無機粉末か否かは、脱イオン水100gに無機粉末を加えた混合物を90℃に加熱し、所定時間撹拌した後、脱イオン水に溶解した無機粉末の量を測定することにより判定することができる。
【0021】
難水溶性無機粉末を用いることで、改質工程や発泡工程において、樹脂中の無機粉末が水性媒体に溶出することが抑制され、無機粉末が樹脂中に良好に分散した状態で、発泡工程を行うことができるため、所望とする発泡粒子を得ることができる。なお、水性媒体は、例えば水等の液体である。
この効果が向上するという観点から、難水溶性無機粉末の水への溶解度は、0.5g以下であることがより好ましく、0.1g以下であることがさらに好ましい。なお、難水溶性無機粉末の水への溶解度は、温度90℃、100gの水に対する難水溶性無機粉末の溶解度を意味する。
【0022】
難水溶性無機粉末としては、ホウ酸亜鉛、タルク、炭酸カルシウム、シリカ、酸化チタン等が挙げられ、これらのうちの1種又は2種以上の無機粉末が用いられる。難水溶性無機粉末は、ホウ酸亜鉛及び/又はタルクであることが好ましく、ホウ酸亜鉛であることがより好ましい。この場合には、所望の発泡倍率の発泡粒子を安定して得ることができる。
【0023】
硫酸マグネシウムは、90℃における水100gへの溶解度が53gであり、適度な水への溶解度を示す一方で、例えば、同様に水に溶解する硫酸塩である、硫酸カリウムアルミニウムに比べて、90℃における水への溶解度が低い。このような水への適度な溶解度を示す硫酸マグネシウムは、改質工程や発泡工程等における高温条件下において、水性媒体中への過度な溶出を生じにくく、さらに樹脂粒子中に水を引き込むことができるものと考えられる。そのため、硫酸マグネシウムを含む気泡調整剤を用いて、発泡工程を行うことで、発泡粒子の発泡倍率を効果的に高めることができるものと考えられる。なお、硫酸カリウムアルミニウムの90℃における水100gへの溶解度は、109gである。
【0024】
粉末Aの体積平均粒子径MVは1~50μmであることが好ましい。この場合には、所望の発泡倍率の発泡粒子を安定して得ることができる。この効果が向上するという観点から、粉末Aの体積平均粒子径MVは、3~40μmであることがより好ましく、5~30μmであることがさらに好ましい。なお、粉末Aとして複数種類の粉末を用いる場合、上記体積平均粒子径は、各粉末の体積平均粒子径から判断することができる。
発泡倍率を調整しやすくなる観点から、上記粉末Aとして、フッ素樹脂粉末を用いることが好ましい。
【0025】
本明細書において、体積平均粒子径は、体積基準の粒度分布における体積平均径(MV:Mean Volume Diameter)であり、以下(1)式により算出される。式(1)において、Vは測定された各粒子の体積、dは測定された各粒子を真球と仮定した際の、各粒子の直径(真球相当径)である。
【0026】
【数1】
【0027】
体積平均粒子径として、MVの値を採用することにより、樹脂粒子の発泡に大きく寄与できる気泡調整剤であるか否かを好適に評価することができる。
体積平均粒子径MVは、レーザー回折・散乱法による粒子径分布測定により測定することができる。例えば、測定装置として、マルバーン社製の乾式レーザー散乱型の粒度分布測定器LMS-3000を用いて体積平均粒子径を測定することができる。
なお、レーザー回折・散乱法は、分散されたサンプル粒子にレーザー光を照射し、粒子からの散乱光強度の角度依存性を測定することにより、サンプルに含まれる粒子の粒子径分布を測定する方法である。
【0028】
粉末Aの添加量(フッ素樹脂粉末と難水溶性無機粉末とを用いる場合には、フッ素樹脂粉末と難水溶性無機粉末との合計添加量)は、上記種粒子と上記スチレン系単量体との合計100質量%に対して、0.02~2質量%であることが好ましい。この場合には、良好な気泡構造を有すると共に、発泡倍率の高い発泡粒子を安定して得ることができるという効果が得られる。この効果が向上するという観点から、粉末Aの添加量は、種粒子とスチレン系単量体との合計100質量%に対して、0.03~1質量%であることがより好ましく、0.04~0.6質量%であることがより好ましく、0.05~0.5質量%であることがさらに好ましい。
【0029】
硫酸マグネシウム粉末の体積平均粒子径MVは、上記のごとく4μm以上である。体積平均粒子径が小さすぎる場合には、発泡粒子の発泡倍率を十分に高めることが困難となるおそれがある。所望とする発泡倍率を有する発泡粒子を安定して得ることができるという観点から、硫酸マグネシウム粉末の体積平均粒子径MVは、5μm以上であることが好ましく、6μm以上であることがより好ましい。また、発泡粒子の発泡倍率を安定して高めることができるという観点から、硫酸マグネシウム粉末の体積平均粒子径MVは、100μm以下であることが好ましく、80μm以下であることがより好ましく、60μm以下であることがより好ましく、50μm以下であることがさらに好ましく、30μm以下であることが特に好ましい。
【0030】
硫酸マグネシウムの、体積基準粒度分布における、体積累計90%に相当する粒子径Dv90は、200μm以下であることが好ましく、150μm以下であることがより好ましく、100μm以下がさらに好ましく、60μm以下であることが特に好ましい。この場合、複合樹脂粒子の発泡性を安定して高めることができると共に、気泡構造が良好な発泡粒子を得やすくなる。 上記粒子径は、例えば、マルバーン社製の乾式レーザー散乱型の粒度分布測定器LMS-3000を用いて測定することができる。
【0031】
硫酸マグネシウムとしては、本発明の所期の目的を達成できる範囲で、硫酸マグネシウムの無水和物や水和物を用いることができるが、造粒工程における押出安定性や気泡調整剤の分散性を高める観点や、意図しない過大気泡の発生を抑制する観点からは、硫酸マグネシウムの無水物を用いることが好ましい。
【0032】
硫酸マグネシウム粉末の添加量は、種粒子とスチレン系単量体との合計100質量%に対して、0.01~1質量%であることが好ましい。この場合には、良好な気泡構造を有する発泡粒子を得られると共に、発泡粒子の発泡倍率を安定して高めることができるという効果が得られる。この効果が向上するという観点から、硫酸マグネシウム粉末の添加量は、種粒子とスチレン系単量体との合計100質量%に対して、0.02~0.8質量%であることがより好ましく、0.03~0.6質量%であることがさらに好ましく、0.05~0.5質量%であることがさらに好ましい。
【0033】
硫酸マグネシウム粉末の添加量と、粉末Aの添加量との比率は、1:0.1~1:10であることが好ましい。ただし、硫酸マグネシウム粉末の添加量:粉末Aの添加量(フッ素樹脂粉末及び難水溶性無機粉末の合計添加量)である。この場合には、良好な気泡構造を有すると共に、発泡倍率が高く、型内成形性に優れる発泡粒子を安定して得ることができるという効果が得られる。この効果が向上するという観点から、硫酸マグネシウム粉末の添加量と、粉末Aの添加量との比率は、1:0.2~1:5であることがより好ましく、1:0.3~1:3であることがさらに好ましい。
【0034】
粉末Aの体積平均粒子径MVに対する、硫酸マグネシウム粉末の体積平均粒子径MVの比は、0.1~10であることが好ましく、0.2~5であることがより好ましく、0.3~2であることがさらに好ましい。この場合、良好な気泡構造を有する発泡粒子を得られると共に、発泡粒子の発泡倍率を安定して高めることができ、型内成形性にも優れる発泡粒子となる。
【0035】
造粒工程において、種粒子の微細化は、例えば、混練した配合物を押出機等により押出しながら切断することにより行われる。微細化は、例えばストランドカット方式、アンダーウォーターカット方式、ホットカット方式等によって行うことができる。
【0036】
[改質工程]
改質工程では、水性媒体中に分散させた上記種粒子にスチレン系単量体を含浸重合させて複合樹脂粒子を得る。水性媒体としては、例えば脱イオン水などの水を好ましく用いることができる。種粒子は、懸濁剤とともに水性媒体中に分散させることが好ましい。この場合には、スチレン系単量体を水性媒体中に均一に懸濁させることができる。懸濁剤としては、例えばリン酸三カルシウム、ハイドロキシアパタイト、ピロリン酸マグネシウム、リン酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化第2鉄、水酸化チタン、水酸化マグネシウム、リン酸バリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、タルク、カオリン、ベントナイト等の微粒子状の無機懸濁剤を用いることができる。また、例えばポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等の有機懸濁剤を用いることもできる。これらの中でも、リン酸三カルシウム、ハイドロキシアパタイト、ピロリン酸マグネシウムが好ましい。これらの懸濁剤は単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0037】
懸濁剤の使用量は、懸濁重合系の水性媒体(反応生成物含有スラリーなどの水を含む系内の全ての水)100質量部に対して、固形分量で0.05~10質量部が好ましく、0.3~5質量部がより好ましい。この場合には、スチレン系単量体を安定して懸濁させることができ、樹脂の塊状物の発生を防止することができる。その結果、改質工程後に得られる複合樹脂粒子の粒子径分布を狭くすることが可能になる。
【0038】
水性媒体には界面活性剤を添加することができる。界面活性剤としては、例えばアニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤等を用いることができ、アニオン系界面活性剤を用いることが好ましい。 アニオン系界面活性剤としては、例えばアルキルスルホン酸ナトリウム、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、α-オレフィンスルホン酸ナトリウム、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム等を用いることができる。より好ましくは、炭素数8~20のアルキルスルホン酸アルカリ金属塩(好ましくはナトリウム塩)がよい。これにより、懸濁を充分に安定化させることができる。
【0039】
また、水性媒体には、必要に応じて、例えば塩化リチウム、塩化カリウム、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム等の無機塩類からなる電解質を添加することができる。また、靭性、機械的強度により優れた発泡複合樹脂成形体を得るためには、水性媒体に水溶性重合禁止剤を添加することが好ましい。
水溶性重合禁止剤としては、例えば亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム、亜硝酸アンモニウム、L-アスコルビン酸、クエン酸等を用いることができる。
【0040】
改質工程においては、水性媒体中において、種粒子にスチレン系単量体を含浸重合させる。なお、スチレン系単量体の重合は、重合開始剤の存在下で行う。この場合には、スチレン系単量体の重合と共にポリオレフィン系樹脂の架橋が生じることがある。スチレン系単量体の重合においては重合開始剤を用いるが、必要に応じて架橋剤を併用することができる。また、重合開始剤及び/又は架橋剤を使用する際には、予めスチレン系単量体に重合開始剤及び/又は架橋剤を溶解しておくことが好ましい。また、架橋剤を用いる場合には、重合温度では分解せず、架橋温度で分解する架橋剤を採用することができる。具体的には、例えば、ジクミルパーオキサイド、2,5-t-ブチルパーベンゾエート、1,1-ビス-t-ブチルパーオキシシクロヘキサン等の過酸化物が挙げられる。架橋剤としては、1種類を用いることもできるし、2種類以上を併用することもできる。架橋剤の配合量は、スチレン系単量体100質量部に対して0.1~5質量部が好ましい。
【0041】
重合開始剤としては、t-ブトキシ基を有し、かつ10時間半減期温度が80~120℃の有機過酸化物Aと、t-ヘキシルオキシ基又はt-アミルオキシ基を有し、かつ10時間半減期温度が80~120℃の有機過酸化物Bとを用い、上記ポリオレフィン系樹脂と上記スチレン系単量体との合計量100質量部に対する上記有機過酸化物Aと上記有機過酸化物Bとの合計配合量が0.1~1.0質量部であり、上記有機過酸化物Aと上記有機過酸化物Bとの合計配合量に対する上記有機過酸化物Aの配合量の割合が50~80質量%であることが好ましい。有機過酸化物Aは、水素引き抜き能が強く、残留スチレン系単量体の低減効果を有する。一方、有機化酸化物Bは、水素引き抜き能が弱く、ポリオレフィン系樹脂の架橋を起こし難い。
【0042】
上記のように10時間半減期温度が80℃以上である有機過酸化物Aと有機過酸化物Bとを用いることにより、発泡粒子中の残留スチレン系単量体を少なくすることができる。また、発泡粒子の形状が扁平になり、成形時の充填性が悪くなることを防止できる。これらの効果が向上するという観点から、有機過酸化物A及び有機過酸化物Bの10時間半減期温度は、85℃以上であることがより好ましく、90℃以上であることがさらに好ましく、95℃以上であることが特に好ましい。また、上記のように10時間半減期温度が120℃以下である有機過酸化物Aと有機過酸化物Bとを用いることにより、発泡粒子中の残留スチレン系単量体量を少なくすることができる。また、重合時に樹脂粒子同士が凝結することを防止することができる。これらの効果が向上するという観点から、有機過酸化物A及び有機過酸化物Bの10時間半減期温度は、115℃以下であることがより好ましく、110℃以下であることがさらに好ましく、105℃以下であることが特に好ましい。
【0043】
10時間半減期温度とは、有機過酸化物を不活性溶媒中に仕込み、有機過酸化物の仕込み量の50%が10時間で熱分解する温度と定義される。10時間半減期温度は、例えば次のようにして測定することができる。まず、有機過酸化物をベンゼンに溶解して濃度0.1mol/リットルの溶液を得る。この溶液を、予め内部の空気を窒素により置換したガラス管内に封入する。次いで、ガラス管を所定温度にセットした恒温槽に浸すことにより、有機過酸化物を熱分解させる。ここで、分解速度定数をk、時間をt、有機過酸化物の初期濃度を[PO]0、時間t後の有機過酸化物の濃度を[PO]tとすると、kt=ln[PO]0/[PO]tの関係が成り立つ。そこで、時間tとln[PO]0/[PO]tとの関係をグラフにプロットすると、その傾きから分解速度定数kを求めることができる。
【0044】
半減期時間t1/2では[PO]0/[PO]t=2の関係が成り立つので、t1/2=ln2/kの関係式より、ある温度での半減期時間t1/2を求めることができる。複数の温度について半減期時間t1/2を求め、lnt1/2と1/Tとの関係をグラフにプロットすることにより、10時間半減期温度を得ることができる。Tは絶対温度(単位:K)である。なお、有機過酸化物の製造会社が発行するカタログや技術資料に記載された10時間半減期温度のデータを利用しても良い。
【0045】
ポリオレフィン系樹脂とスチレン系単量体との合計量100質量部に対する有機過酸化物Aと有機過酸化物Bとの合計配合量を上記のごとく0.1質量部以上とすることにより、発泡粒子中の残留スチレン系単量体を少なくすることができる。この効果が向上するという観点から、有機過酸化物Aと有機過酸化物Bとの合計配合量は、0.2質量部以上であることがより好ましく、0.3質量部以上であることがさらに好ましく、0.4質量部以上であることがさらに好ましい。また、ポリオレフィン系樹脂とスチレン系単量体との合計量100質量部に対する有機過酸化物Aと有機過酸化物Bとの合計配合量を上記のごとく1.0質量部以下とすることにより、発泡性、成形性がより向上し、さらに、成形体における発泡粒子同士の内部融着が向上し、成形体の曲げ破断エネルギーが向上する。この効果が向上するという観点から、有機過酸化物Aと有機過酸化物Bとの合計配合量は、0.8質量部以下であることがより好ましく、0.6質量部以下であることがさらに好ましい。
【0046】
有機過酸化物Aと有機過酸化物Bとの合計配合量に対する有機過酸化物Aの配合量の割合が上記のごとく50質量%以上であることにより、発泡粒子中の残留スチレン系単量体を少なくすることができる。この効果が向上するという観点から、有機過酸化物Aの配合量の割合は、55質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることがさらに好ましい。
また、有機過酸化物Aと有機過酸化物Bとの合計配合量に対する有機過酸化物Aの配合量の割合が上記のごとく80質量%以下であることにより、樹脂粒子の発泡性が向上しやすくなる。また、型内成形における発泡粒子の成形性が向上し、比較的低い成形圧力で成形を行った場合であっても、融着状態が良好で、間隙の少ない発泡粒子成形体を安定して得ることができる。この効果が向上するという観点から、有機過酸化物Aの配合量の割合は、75質量%以下であることがより好ましく、70質量%以下であることがさらに好ましい。
【0047】
有機過酸化物Aとしては、例えば、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシルモノカーボネート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシラウレート、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ブチルパーオキシベンゾエート、ジ-t-ブチルパーオキサイド、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン等を用いることができる。残留スチレン系単量体をより低減しやすいという観点から、有機過酸化物Aとしては、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシルモノカーボネートが好ましい。t-ヘキシルオキシ基を有する有機過酸化物Bとしては、例えば、t-ヘキシルパーオキシベンゾエート、t-ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、ジ-t-ヘキシルパーオキサイド等を用いることができる。また、t-アミルオキシ基を有する有機過酸化物Bとしては、例えば、t-アミルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t-アミルパーオキシ-2-エチルヘキシルモノカーボネート、t-アミルパーオキシベンゾエート、1,1-ビス(t-アミルパーオキシ)シクロヘキサン、t-アミルパーオキシアセテート等を用いることができる。残留スチレン系単量体をより低減しやすく、ポリオレフィン系樹脂の架橋をより抑制して発泡性や成形性の低下をより防止できるという観点から、有機過酸化物Bとしては、t-ヘキシルパーオキシベンゾエートが好ましい。
【0048】
改質工程においては、所望の物性等が得られるように、ポリオレフィン系樹脂を含有する種粒子100質量部に対するスチレン系単量体の配合量を調整することができる。スチレン系単量体の配合量の下限は、種粒子100質量部に対して、100質量部であることが好ましく、200質量部であることがより好ましく、400質量部であることがさらに好ましい。成形体の靱性を維持しつつ、剛性を高める観点から、スチレン系単量体の配合量は、種粒子100質量部に対して、500質量部を超え1900質量部以下であることが特に好ましい。また、この場合には、発泡倍率が高いと共に、良好な型内成形性を有する発泡粒子を得ることができる。
【0049】
種粒子にスチレン系単量体を含浸させてスチレン系単量体を重合させるにあたって、種粒子を分散させた水性媒体中に、配合予定のスチレン系単量体の全量を一括して添加することもできるが、配合予定のスチレン系単量体の全量を例えば2以上に分割し、これらのモノマーを異なるタイミングで添加することもできる。具体的には、配合予定のスチレン系単量体の全量のうちの一部を、種粒子が分散された水性媒体中に添加して、スチレン系単量体を含浸、重合をさせつつ、次いで、さらに配合予定のスチレン系単量体の残部を1回又は2回以上に分けて水性媒体中に添加することができる。後者のように、スチレン系単量体を分割して添加することにより、重合時に樹脂粒子同士が凝結することをより抑制することが可能になる。
【0050】
また、重合開始剤は、スチレン系単量体に溶解させた状態で、水性媒体中に添加することができる。上述のごとく、配合予定のスチレン系単量体を2回以上に分割して異なるタイミングで添加する場合には、いずれのタイミングで添加されるスチレン系単量体にも重合開始剤を溶解させることができ、異なるタイミングで添加される各スチレン系単量体に重合開始剤を添加することもできる。
【0051】
なお、スチレン系単量体(第1モノマー)のシード比(種粒子に対する第1モノマーの質量比)は、0.5以上であることが好ましい。この場合には、複合樹脂粒子の形状をより球状に近づけることが容易になる。同様の観点から、シード比は0.7以上であることがより好ましく、0.8以上であることがさらに好ましい。また、シード比は、1.5以下であることが好ましい。この場合には、スチレン系単量体が種粒子に充分に含浸される前に重合することをより防止することができ、樹脂の塊状物の発生をより防止することができる。同様の観点から、第1モノマーのシード比は、1.3以下であることがより好ましく、1.2以下であることがさらに好ましい。
【0052】
スチレン系単量体は、スチレンだけでなく、スチレンと共重合可能なモノマーを含むことができる。スチレンと共重合可能なモノマーとしては、例えばスチレン誘導体、その他のビニルモノマー等が挙げられる。スチレン誘導体としては、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-エチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、p-メトキシスチレン、p-n-ブチルスチレン、p-t-ブチルスチレン、o-クロロスチレン、m-クロロスチレン、p-クロロスチレン、2,4,6-トリブロモスチレン、ジビニルベンゼン、スチレンスルホン酸、スチレンスルホン酸ナトリウムなどが挙げられる。これらは、単独でも2種類以上を混合したものを用いても良い。
【0053】
また、その他のビニルモノマーとしては、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、アクリル酸、メタクリル酸、水酸基を含有するビニル化合物、ニトリル基を含有するビニル化合物、有機酸ビニル化合物、オレフィン化合物、ジエン化合物、ハロゲン化ビニル化合物、ハロゲン化ビニリデン化合物、マレイミド化合物などが挙げられる。これらのビニルモノマーは、単独でも2種類以上を混合したものを用いても良い。
【0054】
アクリル酸エステルとしては、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル等がある。メタクリル酸エステルとしては、例えばメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル等がある。
【0055】
水酸基を含有するビニル化合物としては、例えばアクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル等がある。ニトリル基を含有するビニル化合物としては、例えばアクリロニトリル、メタクリロニトリル等がある。有機酸ビニル化合物としては、例えば酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等がある。
【0056】
オレフィン化合物としては、例えばエチレン、プロピレン、1-ブテン、2-ブテン等がある。ジエン化合物としては、例えばブタジエン、イソプレン、クロロプレン等がある。ハロゲン化ビニル化合物としては、例えば塩化ビニル、臭化ビニル等がある。ハロゲン化ビニリデン化合物としては、例えば塩化ビニリデン等がある。マレイミド化合物としては、例えばN-フェニルマレイミド、N-メチルマレイミド等がある。
【0057】
スチレン系単量体としては、複合樹脂粒子の発泡性を高めるという観点から、スチレンを含むスチレン系単量体を用いることが好ましい。その場合、スチレン系単量体中のスチレンの含有割合は50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上あることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましく、90質量%以上であることが特に好ましい。また、スチレンを単独で用いるか、スチレンとアクリル系単量体とを併用することが好ましい。
さらに発泡性を高めるという観点からは、スチレン系単量体としては、スチレンとアクリル酸ブチルとを用いることが特に好ましい。この場合には、アクリル酸ブチルの配合量は、複合樹脂中のアクリル酸ブチル成分の含有量が複合樹脂全体に対して0.5~10質量%になるように調整することが好ましく、1~8質量%になるように調整することがより好ましく、2~5質量%になるように調整することがさらに好ましい。
【0058】
なお、スチレン系単量体として、スチレンと共に、スチレンと共重合可能なモノマーを用いる場合には、複合樹脂粒子中のスチレンと共重合可能なモノマーの含有量を10質量%以下にすることが好ましい。この場合には、複合樹脂粒子の発泡性を向上させることができ、また、発泡粒子の収縮を防止することができる。発泡性をより良好にするという観点から、複合樹脂粒子中のスチレンと共重合可能なモノマーの含有量は、1~8質量%がより好ましく、2~5質量%がさらに好ましい。
【0059】
改質工程において、種粒子中のポリオレフィン系樹脂の融点Tm(℃)と、改質工程における重合温度Tp(℃)とが、Tm-10≦Tp≦Tm+30の関係を満足することが好ましい。この場合には、複合樹脂粒子の製造時に、ポリオレフィン系樹脂にスチレン系単量体を充分に含浸させることができ、重合時に懸濁系が不安定化することを防止することができる。その結果、ポリスチレン系樹脂の優れた剛性とポリオレフィン系樹脂の優れた粘り強さとをより高いレベルで兼ね備えた発泡複合樹脂成形体を得ることが可能になる。また、改質工程における、含浸温度、重合温度は、使用する重合開始剤の種類によって異なるが、60~105℃であることが好ましく、70~105℃であることがより好ましい。また、架橋温度は使用する架橋剤の種類によって異なるが、100~150℃であることが好ましい。スチレン系単量体の含浸温度は、ポリオレフィン系樹脂にスチレン系単量体を含浸させる温度である。また、重合温度は、ポリオレフィン系樹脂に含浸したスチレン系単量体の重合を進行させる温度である。
【0060】
また、スチレン系単量体には、必要に応じて可塑剤、油溶性重合禁止剤、難燃剤、着色剤、連鎖移動剤等を添加することができる。
【0061】
[発泡工程]
発泡工程においては、密閉容器内で複合樹脂粒子を物理発泡剤とともに水性媒体に分散させる。これにより、物理発泡剤を複合樹脂粒子に含浸させる。具体的には、耐圧容器などの密閉容器内で、複合樹脂粒子、必要により添加される添加剤を分散媒(例えば液体)に分散させる。容器内の圧力が例えば2~4MPa(ただし、ゲージ圧)となるように物理発泡剤を圧入し、容器内の温度が例えば140~180℃、好ましくは150~170℃となるように調整することにより複合樹脂粒子に物理発泡剤を含浸させる。発泡装置(つまり、密閉容器)の負荷を低減する観点からは、容器内の圧力は3.5MPa(ただし、ゲージ圧)以下となるように物理発泡剤を圧入することが好ましい。
なお、水性媒体中で複合樹脂粒子が物理発泡剤等により加圧されることにより、樹脂粒子中に水が引き込まれやすくなるものと考えられる。
【0062】
物理発泡剤としては、炭化水素などの有機系物理発泡剤を用いてもよいが、無機系物理発泡剤を50~100質量%含む物理発泡剤を用いることが好ましい。無機系物理発泡剤としては、窒素、二酸化炭素、アルゴン、空気、ヘリウム、水等が挙げられ、これらの2種以上を混合して用いることができる。
前記物理発泡剤の配合量は、目的とする前記複合樹脂発泡粒子の見掛け密度、基材樹脂の組成、または発泡剤の種類等を考慮して決定されるが、概ね、複合樹脂粒子100質量部に対して1~30質量部の範囲で含浸されるように配合される。
【0063】
物理発泡剤としては二酸化炭素を用いることが好ましい。この場合、気泡構造が良好で、所望とする発泡倍率を有する発泡粒子を安定して得やすくなるという効果が得られる。なお、物理発泡剤中の二酸化炭素の割合は、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましく、90質量%であることが特に好ましい。なお、従来においては、二酸化炭素等の無機系物理発泡剤を用いて複合樹脂粒子を一段発泡により発泡させる場合、発泡装置の負荷が少ない発泡条件では、例えば発泡倍率が30倍以上となるような、発泡倍率の高い発泡粒子を得ることは困難であった。本開示の製造方法では、上述したように、特定の気泡調整剤を用いることにより、発泡時の発泡条件を過酷にしなくとも、一段発泡により、発泡倍率の高い発泡粒子を得ることができる。つまり、本開示の製造方法によれば、二酸化炭素等の無機系物理発泡剤を用いて、生産性よく、低コストで、高発泡倍率の発泡粒子を製造することができる。
【0064】
また、発泡工程では、密閉容器の内容物を、密閉容器の内圧よりも低い圧力域に放出することで複合樹脂粒子を発泡させて発泡粒子を得る。具体的には、例えば、密閉容器内で物理発泡剤が含浸された軟化状態の複合樹脂粒子を分散媒と共に密閉容器からこの容器内よりも低圧域(例えば大気圧下)に放出することにより発泡性複合樹脂粒子(具体的には、物理発泡剤が含浸された複合樹脂粒子)を発泡させて発泡粒子を得る。このような発泡方法を、適宜「ダイレクト発泡法」という。なお、発泡工程においては、樹脂粒子中に特定の硫酸マグネシウム粉末が含まれていることで、樹脂中に水が引き込まれた状態で樹脂粒子を発泡させることができるため、発泡倍率を高めることができるものと考えられる。
【0065】
密閉容器内から発泡性複合樹脂粒子を放出する際には、発泡粒子の見掛け密度や気泡径のバラツキを小さくするために、密閉容器内の温度および圧力を一定に保つか、或いは、密閉容器内の温度および圧力を徐々に高めることが好ましい。この場合、密閉容器内の圧力調整は、物理発泡剤と同様のガス、或いは窒素、空気等の無機ガスで密閉容器内に背圧をかけることにより行われる。このような圧力調整により、たとえば容器内の圧力が急激に低下しないようにしつつ内容物を低圧下に放出させる。
【0066】
なお、発泡粒子の発泡倍率を高めるために、製造された発泡粒子に対して多段発泡(二段発泡、三段発泡等)を行い、発泡粒子をさらに発泡させても良い。多段発泡の方法としては、例えば、密閉容器等に発泡粒子を供給し、空気等の気体により加圧することにより該発泡粒子内部の圧力(内圧)を高め、発泡粒子に膨張性を付与した後、該発泡粒子を水蒸気等の加熱媒体により加熱し、発泡粒子を膨張させる方法等が挙げられる。
【0067】
以上のように、造粒工程及び改質工程を行うことにより、複合樹脂粒子を製造し、発泡工程を行うことにより、発泡粒子を製造することができる。次に、複合樹脂粒子、発泡粒子について、以下のとおり説明する。
【0068】
複合樹脂粒子は、ポリオレフィン系樹脂成分と、スチレン系単量体が重合してなるポリスチレン系樹脂成分とを含有する複合樹脂から構成されている。発泡粒子は、複合樹脂粒子の発泡体である。
【0069】
また、複合樹脂粒子中の未反応のスチレン系単量体の含有量は500質量ppm以下(0を含む)であることが好ましい。この場合には、発泡粒子を用いて、低VOC(揮発性有機化合物)の発泡複合樹脂成形体を得ることができる。発泡粒子中のスチレン系単量体の含有量は、400質量ppm以下(0を含む)であることがより好ましく、300質量ppm以下(0を含む)であることがさらに好ましく、200質量ppm以下(0を含む)であることがさらにより好ましい。
【0070】
発泡粒子においては、ソックスレー抽出によるキシレン不溶分(すなわち、主に架橋されたポリオレフィン系樹脂成分)の質量割合が5質量%以下であることが好ましい。この場合には、複合樹脂粒子の発泡性をより向上させることができる。また、キシレン不溶分の質量割合は3質量%以下であることがより好ましく、2質量%以下であることがさらに好ましい。また、キシレン不溶分は0であっても良いが、発泡粒子間の発泡倍率のバラつきを低減しやすくなる観点から、0.1質量%以上であることが好ましい。
【0071】
また、複合樹脂粒子において、ポリスチレン系樹脂成分の重量平均分子量は、10万~60万であることが好ましい。この場合には、複合樹脂粒子を発泡させて得られる発泡粒子の収縮をより防止することができる。さらに、発泡粒子の型内成形時に、発泡粒子同士の融着性をより向上させることができる。その結果、発泡複合樹脂成形体の寸法安定性をより向上させることができる。同様の観点からポリスチレン系樹脂の重量平均分子量は、12万~50万であることがより好ましく、15万~35万であることがさらに好ましい。
【0072】
また、複合樹脂粒子におけるポリスチレン系樹脂成分のガラス転移温度(Tg)は、85~100℃であることが好ましい。この場合には、複合樹脂粒子の発泡時における発泡性をより向上させることができ、発泡時の収縮をより防止することができる。さらに、発泡後に得られる発泡粒子の型内成形時に、発泡粒子同士の融着性をより向上させることができ、成形体の寸法安定性をより向上させることができる。
【0073】
複合樹脂粒子におけるポリスチレン系樹脂成分のガラス転移温度(Tg)は、例えば次のようにして測定できる。具体的には、まず、150メッシュの金網袋中に複合樹脂発泡粒子1.0gを入れる。次に、容積200mlの丸型フラスコにキシレン約200mlを入れ、ソックスレー抽出管に上記金網袋に入れたサンプルをセットする。マントルヒーターで8時間加熱し、ソックスレー抽出を行う。抽出したキシレン溶液をアセトン600mlへ投下し、デカンテーションし、上澄み液を減圧蒸発乾固し、アセトン可溶分としてポリスチレン系樹脂成分を得る。得られたポリスチレン系樹脂成分2~4mgについて、ティ・エイ・インスツルメント社製のDSC測定器(Q1000)を用い、JIS K7121(1987年)に準拠して熱流束示差走査熱量測定を行う。そして、加熱速度10℃/分の条件で得られるDSC曲線の中間点ガラス転移温度としてガラス転移温度Tgを求めることができる。
【0074】
複合樹脂粒子中の水分量は、1.0~5.0質量%であることが好ましく、2.0~4.0質量%であることがより好ましい。この場合、複合樹脂粒子の発泡性を安定して高めやすくなると共に、気泡構造が良好な発泡粒子が得られやすくなる。複合樹脂粒子中の水分量は加熱気化装置を備えたカールフィッシャー水分計により求めることができる。
【0075】
複合樹脂発泡粒子のかさ密度は特に限定されるものではないが、軽量であると共に、機械的物性にすぐれる成形体が得られる観点から、複合樹脂発泡粒子のかさ密度は10~50kg/mであることが好ましく、20~40kg/mであることがより好ましく、25~35kg/mであることがさらに好ましい。
複合樹脂発泡粒子のかさ密度は、例えば、以下のようにして測定することができる。まず、1Lのメスシリンダーを用意し、空のメスシリンダー中に発泡粒子を1Lの標線まで充填する。次いで、1Lあたりの発泡粒子の質量を測定し、発泡粒子1Lの質量を単位換算することにより、かさ密度を算出することができる。
【実施例0076】
(実施例1)
以下に、複合樹脂粒子の製造方法について説明する。本例においては、複合樹脂粒子を作製し、この複合樹脂粒子に物理発泡剤を含浸させ、複合樹脂粒子を発泡させることにより発泡粒子を作製し、さらに発泡粒子を用いて型内成形を行うことにより成形体を製造する。
【0077】
(1)種粒子の作製
ポリエチレン系樹脂として、メタロセン重合触媒を用いて重合してなる直鎖状低密度ポリエチレン(具体的には、東ソー社製「ニポロンZ HF210K」、以下適宜「mLLDPE」という)を準備した。このポリエチレン系樹脂の融点Tmは、103℃である。また、酸化防止剤マスターバッチとして、東邦(株)製「TMB113」を準備した。さらに、気泡調整剤(1)としての硫酸マグネシウム無水和物(馬居化成工業株式会社製、「SSN-00」、以下適宜「MgSO」という)と、前記直鎖状低密度ポリエチレンとを含有するマスターバッチ(1)(硫酸マグネシウム無水和物10質量%、直鎖状低密度ポリエチレン90質量%)を準備した。さらに、気泡調整剤(2)としてのポリテトラフルオロエチレン(セイシン企業(株)製「TFW1000」、以下適宜「PTFE」という)と、前記直鎖状低密度ポリエチレンとを含有するマスターバッチ(2)(ポリテトラフルオロエチレン10質量%、直鎖状低密度ポリエチレン90質量%)を準備した。
なお、気泡調整剤の体積平均粒子径MV、体積基準粒度分布における、体積累計10%に相当する粒子径Dv10、体積累計90%に相当する粒子径Dv90は、マルバーン社製の乾式レーザー散乱型の粒度分布測定器LMS-3000を用いて、Mie理論に基づくレーザー回折・散乱法により以下のように測定した。まず、圧縮空気のみでブランク測定を行い、その後、測定を行うために必要な量の試料を乾式ユニットに入れて、試料の粒径の測定を行った。測定範囲は0.10~3500.00μm、圧縮空気圧力は0.2MPa、計測方法は噴射型乾式測定とした。
【0078】
ポリエチレン系樹脂8.6kgと、酸化防止剤マスターバッチ0.09kgと、マスターバッチ(1)0.67kgと、マスターバッチ(2)0.67kgとをヘンシェルミキサーに投入し、5分間混合することにより、樹脂混合物を得た。次いで、50mmφの単軸押出機を用いて、ポリエチレン系樹脂を溶融させ、樹脂混合物を混練し、水中カット方式により平均0.35mg/個に切断することにより、種粒子を得た。樹脂混合物の混練は、押出機の最高温度を250℃に設定して行った。
【0079】
(2)複合樹脂粒子の作製
撹拌装置の付いた内容積3Lのオートクレーブに、脱イオン水1000gを入れ、更にピロリン酸ナトリウム6.0gを加えた。その後、粉末状の硝酸マグネシウム・6水和物12.9gを加え、室温で30分間撹拌した。これにより、懸濁剤としてのピロリン酸マグネシウムスラリーを作製した。次に、この懸濁剤に界面活性剤としてのラウリルスルホン酸ナトリウム(10質量%水溶液)2.0g、水溶性重合禁止剤としての亜硝酸ナトリウム0.2g、及び種粒子75gを投入した。
【0080】
次いで、重合開始剤として、2種類の有機過酸化物を準備した。具体的には、有機過酸化物Aとして、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシルモノカーボネート(具体的には、日油社製の「パーブチルE」)を準備し、有機過酸化物Bとして、t-ヘキシルパーオキシベンゾエート(具体的には、日油社製「パーヘキシルZ」)を準備した。また、連鎖移動剤として、αメチルスチレンダイマー(具体的には、日油社製「ノフマーMSD」)を準備した。そして、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシルモノカーボネート1.72gと、t-ヘキシルパーオキシベンゾエート0.86gと、αメチルスチレンダイマー0.63gとを、第1モノマー(スチレン系単量体)に溶解させた。そして、溶解物を回転速度500rpmで撹拌しながら、種粒子等が投入された上述のオートクレーブ内に投入した。なお、第1モノマーとしては、スチレン60gとアクリル酸ブチル15gとの混合モノマーを用いた。
【0081】
次いで、オートクレーブ内の空気を窒素にて置換した後、昇温を開始し、1時間30分かけてオートクレーブ内を温度100℃まで昇温させた。昇温後、この温度100℃で1時間保持した。その後、撹拌速度を450rpmに下げ、温度100℃で7.5時間保持した。このときの温度(具体的には100℃)が重合温度である。尚、温度100℃に到達してから1時間経過時に、第2モノマー(スチレン系単量体)としてのスチレン350gを5時間かけてオートクレーブ内に添加した。
【0082】
次いで、オートクレーブ内を温度125℃まで2時間かけて昇温させ、そのまま温度125℃で5時間保持した。その後、オートクレーブ内を冷却させ、内容物(複合樹脂粒子)を取り出した。次いで、硝酸を添加して複合樹脂粒子の表面に付着したピロリン酸マグネシウムを溶解させた。その後、遠心分離機により脱水及び洗浄を行い、気流乾燥装置で表面に付着した水分を除去することにより、ポリスチレン系樹脂とポリエチレン系樹脂の比率(質量比)が85:15の複合樹脂粒子を得た。このポリスチレン系樹脂とポリエチレン系樹脂との比率は、製造時に用いたスチレン系単量体とポリエチレン系樹脂との配合比(質量比)から求められる。
【0083】
本例において作製した複合樹脂粒子の仕込み組成などを後述の表1に示す。また、本例において得られた複合樹脂粒子について、体積平均粒子径、水分量(WC)、ポリスチレン系樹脂成分の重量平均分子量Mw、残存スチレン系単量体の含有量を以下のようにして調べた。その結果を表1に示す。
【0084】
「平均粒径」
乾式粒度分布測定装置(日機装社製ミリトラックJPA)を用いて複合樹脂粒子の粒径を測定した。複合樹脂粒子の最小粒径からの重量累積粒径値が63%に達するときの粒径値(d63)を算出し、この値を複合樹脂粒子の平均粒子径とした。
【0085】
「水分量」
複合樹脂粒子中の水分量は、カールフィッシャー水分計により測定した。具体的には、まず、試料として、複合樹脂粒子0.28gを精秤した。次いで、京都電子工業(株)製の水分気化装置CHK-501により、温度160℃で試料を加熱して水分を気化させ、その水分量を京都電子工業(株)製のカールフィッシャー水分計(電量滴定方式)MKC-610を用いて測定した。
【0086】
「発泡性」
複合樹脂粒子1kgを水3.5リットルと共に撹拌機を備えた5Lの耐圧容器内に仕込み、更に、水に分散剤としてのカオリン5g、及び界面活性剤としてのアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.6gを添加した。次いで、耐圧容器内を撹拌速度300rpmで撹拌しながら、耐圧容器内を発泡温度165℃まで昇温させた後、耐圧容器内に無機系物理発泡剤としての二酸化炭素を3.3MPa(G)圧入し、撹拌下で20分間保持した。その後、内容物を大気圧下に放出することにより、複合樹脂粒子を発泡させて発泡粒子を得た。得られた発泡粒子のかさ密度(g/L)を測定し、複合樹脂の密度(1000g/L)を測定したかさ密度で除することにより、発泡粒子の発泡倍率を算出した。
なお、複合樹脂発泡粒子のかさ密度は以下のようにして測定した。まず、1Lのメスシリンダーを用意し、空のメスシリンダー中に発泡粒子を1Lの標線まで充填した。次いで、1Lあたりの発泡粒子の質量を測定し、発泡粒子1Lの質量を単位換算することにより、かさ密度を算出した。
【0087】
「複合樹脂粒子中に残存するスチレン系単量体の含有量(R-SM)」
まず、複合樹脂粒子をIKA社製分析ミルで粒子径が100μm程度になるように冷凍粉砕した。約1gの粉砕物を採取し、これをジメチルホルムアミド(すなわち、DMF)25ml中に浸漬し、温度5℃で24時間放置した。DMF溶液のガスクロマトグラフィーにより未反応のスチレン系単量体の含有量を測定した。なお、ガスクロマトグラフィーの測定条件は次の通りである。使用機器:(株)島津製作所製のガスクロマトグラフGC-9A、カラム充填剤:〔液相名〕PEG-20M、〔液相含浸率〕25重量%、〔担体粒度〕60/80メッシュ、担体処理方法〕、カラム材質:内径3mm、長さ3000mmのガラスカラム、キャリヤーガス:N2、検出器:FID(水素炎イオン化検出器)、定量:内部標準法。
【0088】
「ポリスチレン系樹脂成分のMw」
複合樹脂粒子をIKA社製分析ミルで粒子径が50μm程度になるように冷凍粉砕した。約35mgの粉砕物を採取し、10mLのメスフラスコに入れた。その後テトラヒドロフラン(THF)約10mLを加え24時間静置した。テトラヒドロフラン不溶分をメンブランフィルター(0.45μm)で除去し、THF可溶分を、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)法により測定し、標準ポリスチレンで校正してMwを求めた。なお、複合樹脂中のTHF可溶分は、主にスチレン系樹脂である。具体的には、東ソー(株)製のGPC装置(HLC-8320GPC EcoSEC, カラム TSKguardcolumn SuperH-H×1本、TSK-GEL SuperHM-H×2本を直列に接続。)を用いて、溶離液:THF、流量:0.6ml/分、試料濃度:0.1wt%の測定条件で測定を行った。
【0089】
(3)発泡粒子の製造
複合樹脂粒子500gを分散媒としての水3500gと共に撹拌機を備えた5Lの耐圧密閉容器内に仕込んだ。続いて、耐圧密閉容器内の分散媒中に分散剤としてのカオリン5gと、界面活性剤としてのアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.5gとをさらに添加した。次いで、回転速度300rpmで耐圧密閉容器内を撹拌しながら、容器内を発泡温度165℃まで昇温させた。その後、無機系物理発泡剤である二酸化炭素を耐圧密閉容器内の圧力が3.3MPa(G:ゲージ圧)になるように耐圧密閉容器内に圧入し、同温度(すなわち、165℃)で15分間保持した。これにより複合樹脂粒子中に二酸化炭素を含浸させて、発泡性複合樹脂粒子を得た。次いで、発泡性複合樹脂粒子を分散媒と共に密閉容器から大気圧下に放出することにより、嵩密度が29kg/m3の発泡粒子を得た。発泡粒子は、複合樹脂粒子の発泡体であるため、複合樹脂発泡粒子とも言える。
【0090】
発泡粒子について、下記のようにして、キシレン不溶分の質量割合(つまり、XYゲル量)を測定した。
【0091】
「キシレン不溶分の質量割合(XYゲル量)」
まず、約1gの発泡粒子を採取して、その質量(すなわち、W0)を小数点第4位まで計量し、150メッシュの金網袋中に入れた。次いで、容量200mlの丸型フラスコに約200mlのキシレンを入れ、ソックスレー抽出管に上記金網袋に入れたサンプルをセットした。マントルヒーターで8時間加熱することにより、ソックスレー抽出を行った。抽出終了後、空冷により冷却した。冷却後、抽出管から金網を取り出し、約600mlのアセトンにより金網ごとサンプルを洗浄した。次いで、アセトンを揮発させてから温度120℃で乾燥した。この乾燥後に金網内から回収したサンプルが「キシレン不溶分」である。キシレン不溶分の質量(すなわち、W)を計量した。キシレン不溶分の割合は、上記複合樹脂粒子の質量(すなわち、W0)に対する質量(W)の割合(すなわち100×W/W0、単位:質量%))である。
【0092】
(4)型内成形
型物成形機(DABO(株)製DSM-0705VS)により、上記のようにして得られた発泡粒子を、縦250mm、横200mm、厚み50mmの平板形状のキャビティを有する金型内に充填した。次いで、金型内に水蒸気を導入することにより、発泡粒子を加熱して相互に融着させた。成形圧は、0.10MPaとした。その後、金型内を水冷によって冷却した後、金型より成形体を取り出した。さらに成形体を温度40℃に調整されたオーブン内に24時間載置することにより、乾燥及び養生を行った。このようにして成形体を得た。成形体は、発泡粒子が相互に融着された成形体であるため、複合樹脂発泡粒子成形体であるともいえる。
【0093】
成形体について、外観評価を下記の観点から行うとともに、見掛け密度(kg/m3)、曲げ弾性率(MPa)、曲げ最大応力(MPa)を以下のようにして測定した。その結果を後述の表1示す。
【0094】
「外観評価」
外観評価は、成形体の間隙、融着を次のように評価することにより行った。評価は、発泡倍率が20倍程度の発泡粒子を用いて成形した成形体(成形体評価(1))と、発泡倍率が30倍程度の発泡粒子を用いて成形した成形体(成形体評価(2))について行った。なお、発泡粒子の発泡倍率は、発泡性評価と同じ方法で測定した。
【0095】
(1)間隙
成形体の稜線における間隙や溶融の有無を目視で観察した。その結果、間隙や溶融がほとんど見られない場合をAと評価し、間隙や溶融が散見される場合をBと評価し、間隙や溶融が多く見られる場合をCと評価した。なお、成形体の稜線とは、平板状の成形体の表面を構成する、成形体の一つの面と該面に隣接する面との境界部分(成形体の辺部分)のことを意味する。
【0096】
(2)融着
成形体を破断させ、その破断面を観察し、材料破壊した発泡粒子数と、界面で剥離した発泡粒子数をそれぞれ計測した。材料破壊した発泡粒子と界面で剥離した発泡粒子の合計数に対する材料破壊した発泡粒子の割合を百分率で表した値を融着率(%)とし、融着率から、融着を判定した。その結果、融着率が80%以上である場合をAと評価し、融着率が80%未満である場合をBと評価した。
【0097】
「見掛け密度」
発泡粒子成形体の見掛け密度は、成形体の質量と体積を測定し、測定された質量をその体積で除することにより算出した。
【0098】
「曲げ弾性率」
曲げ弾性率は、JIS K7221-1:2006に記載の3点曲げ試験方法に準拠して測定した。具体的には、厚み25mm(成形体厚み)×幅75mm×長さ300mmの成形スキンを有する試験片を発泡複合樹脂成形体から切り出した。試験片を、室温23℃、湿度50%の恒室内に24時間以上放置した後、支点間距離200mm、圧子の半径R10.0mm、支持台の半径R10.0mm、試験速度10mm/min、試験速度10mm/min、室温23℃、湿度50%の条件で、オートグラフAGS-10kNG(島津製作所製)試験機により、試験片に対して曲げ試験を行い、応力―歪み曲線を得た。得られた応力―歪み曲線から、成形体の曲げ弾性率と、曲げ最大応力とを求めた。
【0099】
(実施例2~6、比較例1~比較例7)
表1、表2に示す変更点を除き、実施例1と同様の操作を行った。なお、実施例3では、気泡調整剤(2)として、ホウ酸亜鉛(富田製薬(株)製「ホウ酸亜鉛2335」、表1中では、ZnBと略す)を含有する、マスターバッチ(2)(ホウ酸亜鉛10質量%、直鎖状低密度ポリエチレン90質量%)を用いた。
また、比較例1、2では、気泡調整剤(1)として、ミョウバン(K・Al(SO4)2)(大明化学(株)製「タイエース」、表2中では、ミョウバンと略す)を含有する、マスターバッチ(1)(ミョウバン10質量%、直鎖状低密度ポリエチレン90質量%)を用いた。
また、比較例3では、気泡調整剤(1)として、硫酸カリウム(KSO4)(高杉製薬(株)製、表2中では、KSO4と略す)を含有する、マスターバッチ(1)(硫酸カリウム10質量%、直鎖状低密度ポリエチレン90質量%)を用いた。
実施例2~6の結果を表1に示し、比較例1~7の結果を表2に示す。
【0100】
なお、ホウ酸亜鉛の90℃における水への溶解度を以下のように測定した。
脱イオン水100g、ホウ酸亜鉛0.01g、撹拌子を300mlビーカーに投入し、ヒーター付きスターラーで混合物を撹拌しながら90℃まで昇温し、5分間保持した。その後、撹拌を停止し、混合物を90℃で5分間保持した。その後、ビーカー中の混合物を確認したところ、ビーカー中に沈殿物が確認された。このことから、ホウ酸亜鉛の90℃における100gの水への溶解度は0.01g未満であることが確認された。
【0101】
【表1】
【0102】
【表2】
【0103】
表1、表2より理解されるように、比較例では、発泡倍率が28倍以上の発泡粒子を得ることができなかった。なお、発泡倍率が20倍未満の発泡粒子については、成形を省略した。これに対し、実施例では、発泡倍率が28倍以上の発泡粒子を得ることができた。また、実施例では、発泡倍率が28倍以上の発泡粒子を用いることで、高発泡倍率の成形体を得ることができ、さらに、得られた成形体は良好な外観を有すると共に、良好な曲げ物性を示した。