(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022030823
(43)【公開日】2022-02-18
(54)【発明の名称】筆記具
(51)【国際特許分類】
B43K 7/00 20060101AFI20220210BHJP
B43K 3/00 20060101ALI20220210BHJP
B43K 5/00 20060101ALI20220210BHJP
【FI】
B43K7/00 100
B43K3/00 N
B43K5/00 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020135091
(22)【出願日】2020-08-07
(71)【出願人】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(72)【発明者】
【氏名】高橋 亮太
(72)【発明者】
【氏名】大西 智温
【テーマコード(参考)】
2C350
【Fターム(参考)】
2C350GA01
2C350GA03
2C350KF01
2C350NC05
2C350NC20
(57)【要約】
【課題】漆器を把持したようなしっとりとした感触が得られる樹脂製の部品を具備した筆記具を提供すること。
【解決手段】筆記具用部品を具備した筆記具であって、前記筆記具用部品が、前記筆記具の外表面に位置するとともに、当該筆記具用部品が、前記筆記具用部品が、前記筆記具の外表面に位置するとともに、当該筆記具用部品が、吸水率0.8%以上の樹脂成形品で形成され、前記筆記具用部品の表面粗さが、算術平均粗さ(Sa)0.020μm以下であることを特徴とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筆記具用部品を具備した筆記具であって、前記筆記具用部品が、前記筆記具の外表面に位置するとともに、当該筆記具用部品が、吸水率0.8%以上の樹脂成形品で形成され、前記筆記具用部品の表面粗さが、算術平均粗さ(Sa)0.020μm以下であることを特徴とする筆記具。
【請求項2】
前記筆記具用部品の表面の一部に、印刷、転写から選ばれる加飾を施した加飾部を具備してなる請求項1に記載の筆記具。
【請求項3】
前記筆記具用部品が、ASTM規格、D785、Rスケールのロックウェル硬度がR50以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筆記具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、軸筒などの筆記具を構成する部品に、漆をコーティングすることは知られている。こうした漆を用いた筆記具用部品は、指で把持した際、冷たく、しっとりとした触感を得ることができる。しかし、例えば、実開昭51-105535号公報(特許文献1)のように、軸筒又はキャップの外周部に模様紙を貼着し、その表面に漆をコーティングした場合には、コストが高騰するため、特に低価格の筆記具には不向きであった。
【0003】
ところで、漆器の得られる、しっとりとした触感については、漆は空気中の水分を適度に吸収、保持するため、使用される環境によらず、しっとりとした触感は持続するためと考えられている。
【0004】
さらに、しっとりとした触感については、指の触感も大きく起因している。これは、物体表面の凹凸や形も,その物体の知覚を決定する要素となり、例えば、同じ素材からなる2 種類の物体があり,一方の表面は粗く仕上げられており,もう一方は滑らかに仕上げられているとき,前者の表面を粗く仕上げている方が、接触面積が限られており、熱抵抗が大きいため,温かく感じられ、一方、滑らかに仕上げられている方が、凝着効果による摩擦係数が大きく湿っているように感じられるため、触感に違いが出ると推測する。
【0005】
また、使用者が筆記具を使用する環境は一定ではなく、暑い場所で使用する場合もあれば寒い場所の場合もあり、湿度も同様に、多湿での環境下や低湿度での環境下など、様々な場所で筆記具は使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者は鋭意検討を重ねた結果、吸湿性の高い材料を筆記具用部品に用いること、及び当該筆記具用部品表面を鏡面仕上げにすることで、大気中の水分を吸湿するなど表面性状による、しっとりとした感触を得ることによって、前述の問題を解決するに到った。
【0008】
本発明は、以上の知見に基づいている。本発明の目的は、漆器を把持したようなしっとりとした感触が得られる樹脂製の筆記具用部品を具備した筆記具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、前記課題を解決するため、第一に、筆記具用部品を具備した筆記具であって、前記筆記具用部品が、前記筆記具の外表面に位置するとともに、当該筆記具用部品が、吸水率0.8%以上の樹脂成形品で形成され、前記筆記具用部品の表面粗さが、算術平均粗さ算術平均粗さ(Sa)0.020μm以下であることを特徴とする。
【0010】
第二に、前記筆記具用部品の表面の一部に、印刷、転写から選ばれる加飾を施した加飾部を具備してなることを特徴とする。
【0011】
第三に、前記筆記具用部品の硬度が、ロックウェル硬度(ASTM規格、D785、Rスケール)で測定した硬度がR50以上であることを特徴とする。
【0012】
本発明の筆記具用部品には、樹脂材料として、吸水率が0.8%以上、好ましくは2.0%以上、より好ましくは、4.0%以上の樹脂材料を用いる。これは、水分保有量が多いほど、指の表皮が膨潤により柔軟化することで材料表面との接触面積が向上して摩擦係数が大きくなり、しっとりとした感触を得られると考えられるためである。尚、吸水率が高すぎると、経時安定性に新たな課題が発生するため、10.0%以下とすることが好ましい。
【0013】
また、樹脂材料としては、具体的には、酢酸セルロースなどのセルロース樹脂、エポキシ樹脂、66ナイロンなどのナイロン樹脂、ポリウレタン樹脂などが挙げられる。尚、本発明の吸水率は、JISK0068(2001)に定められた乾燥減量法で測定することができる。乾燥減量法とは、まず水分を含んだ試験片の重さを測定し、その後一定の温度(105℃)に保たれた恒温槽に入れて水分を蒸発させ、試験片を3時間放置させて乾燥させ、再度その試験片の重さを測定し、水分を含んだ状態より軽くなった重さ分を水分量として、そこから水分率を測定した数値を吸水率としている。尚、金属部品は、熱伝導率が高いため、把持した指の熱が奪われることから、温冷知覚として冷たい感触となると考えられている。本発明の筆記具用部品は吸水率が高く、この水分によって指の熱が奪われることも、金属部品のように、冷たい感触が得られる要因の一つと推測できる。
【0014】
また、前述のように、吸水率が0.8%以上、好ましくは2.0%以上、より好ましくは、4.0%以上の樹脂材料としては、適宜選択することが可能であるが、近年の環境への配慮などを考慮すると、非食用植物原料のバイオプラスチックを用いることが好ましい。具体的には、セルロース系樹脂、その中でも射出成形性が良好な酢酸セルロースが最も好ましい。
【0015】
また、本発明で用いることができる樹脂材料には、表面粗さに影響を及ぼし得る擦過傷を付きにくくする耐傷付き性を向上させる目的で滑剤などの添加剤を含有することが好ましい。
滑剤は、脂肪酸金属塩、脂肪酸アミド系滑剤、脂肪族ウレア化合物、シリコーン系滑剤、脂肪酸エステル系滑剤の中から選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。滑剤の含有量は0.1質量%から10.0質量%の範囲にあることが好ましい。滑剤の添加効果による耐傷付き性を十分に得る点から、滑剤の含有量は0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、1質量%以上がさらに好ましく、2質量%以上が特に好ましい。
【0016】
また、筆記具用部品の製造のし易さや成形性の観点から、可塑化成分を含有することが好ましい。可塑化成分としては、脂肪族ポリエステル、アジピン酸エステル系可塑剤が好ましく、特にポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート等の脂肪族ポリエステル、ビス(2-エチルヘキシル)アジペート等の脂肪族アジピン酸エステルが好ましく、特にポリブチレンサクシネート、ビス(2-エチルヘキシル)アジペートが好ましい。
【0017】
また、本発明で用いることができる樹脂材料には、カーボンブラックなどの着色剤を含有することができる。着色剤の含有量は、十分な着色効果を得るため、0.05質量%以上とし、好ましくは0.1質量%以上、より高い着色効果を得るためには、0.2質量%以上がより好ましい。また、光沢度などの外観の観点から1.0質量%以下が好ましい。
【0018】
更に、しっとりとした触感を得るため、筆記具用部品の表面は、算術平均粗さ(Sa)0.020μm以下とし、好ましくは0.015μm以下、より好ましくは、0.010μm以下とする。尚、算術平均粗さ(Sa)の測定は(セイコーエプソン社製の機種名SPI3800N)で求めることができる。また、研磨加工により算術平均粗さ(Sa)を小さくすることも可能だが、加工性を考慮すると、算術平均粗さ(Sa)0.0001μm以上とすることが好ましい。
【0019】
尚、本発明に用いられる樹脂は、例えば筆記時に把持部を把持した際、把持部が圧縮されることで水分が外部に漏れ出てこないようにするため、或いは、漆器のような触感を得るため、硬度は、高いものが好ましい。
ここで、物質の硬度は種々の基準で表すことができるが、本発明においては、ロックウェル硬度(ASTM規格、D785、Rスケール)で測定した硬度をいう。本発明においてロックウェル硬度は、R50以上であることが好ましく、R70以上あることがより好ましい。
【0020】
本発明における筆記具用部品は、例えば、軸筒、キャップ、尾栓など特に限定されるものではないが、軸筒の把持部は、筆記する際の把持する部位となり、指で把持することも多く、また把持している時間も長いため、本発明の効果は特に顕著である。
【0021】
また、本発明の筆記具用部品の表面の一部に、加飾を施すことで、加飾部分と非加飾部分との把持感触の相違も得られるため、加飾を施すことが好ましく、加飾を施すことにより使用者が把持する位置を最適な把持位置に誘導することができる。尚、フィルム転写、印刷など、加飾方法は特に限定されるものではないが、筆記具用部品が外部に露出した接触部分を設ける必要があるため、印刷による加飾が好ましい。本発明の筆記具用部品は、算術平均粗さ(Sa)0.020μm以下であるため、加飾の表面の算術平均粗さ(Sa)を0.020μmより大きくすることで、把持感触の相違をより感じることができるので好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、漆器を把持したようなしっとりとした感触が得られる樹脂製の筆記具用部品を具備した筆記具を得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【発明を実施するための形態】
【0024】
次に図面を参照しながら、本発明の筆記具の実施形態を説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。尚、筆記体の筆記部がある側を前方と表現し、その反対を後方と表現する。また、軸筒本体の軸心に近い側を内方と表現しその反対側を外方と表現する。
【0025】
図1~
図3に示すように、本実施の第一の形態(実施例1)の筆記具1は、把持部2dを有する前軸2(本発明における筆記具用部品の一例)と、後軸3とから軸筒4を構成してある。また、前軸2の連結部2aには雄ねじ部2bを設け、後軸3の前端部の内面に設けた雌ねじ部3aに螺着してある。さらに、筆記具1は、軸筒4内に出没可能に収容された筆記体5を備えており、後軸3の後部には、クリップ6を装着してある。尚、図示された例において、筆記具1はボールペンである。
【0026】
前軸2は、前端に筆記体5(ボールペンレフィル)の筆記部7(ボールペンチップ)が突出可能な開口部2cが形成されている。また、筆記体5は、前軸2内に配設したコイルスプリング8によって、軸筒4の軸方向後方(
図2における右方)に付勢された状態で配設してある。
【0027】
筆記体5を出没させるための出没機構として、後軸3に筆記体5の筆記部7の出没切替のための回転カム9と当該回転カム9に係合するカム溝(図示せず)を有するカム機構が設けられている。筆記体5の筆記部7が前軸2内に没入した状態でノック部材10が押圧操作(ノック操作)されると、回転カム9がカム溝に沿って摺動し、筆記体5の筆記部7が前軸2の開口部2cから前方へ突出され、更に、カム機構の作用によって回転カム9が回転されることによって、筆記体5の軸方向後方への相対移動が制限され、押圧操作の終了後もこの突出状態が維持されるようになっている。また、この突出状態で再度ノック部材10が押圧操作(ノック操作)されると、カム機構の作用によって筆記体5の軸方向後方への相対移動が許容され、コイルスプリング8の付勢力によって筆記体5及びノック部材10が軸方向後方に押し戻されて初期状態に復帰されるようになっている。
【0028】
筆記体5について詳述すると、インキ収容筒11の前端部に、φ0.5mmのボールを回転自在に抱持したボールペンチップからなる筆記部7を装着してある。また、インキ収容筒11内には、図示はしていないが、ティー・エイ・インスツルメント株式会社製AR-G2(ステンレス製40mm2)を用いた20℃の環境下で、剪断速度5sec-1にて測定したインキ粘度が15000mPa・sである黒色の油性ボールペン用インキを直に収容してある。
【0029】
また、
図3に示すように、前軸2と後軸3は、前軸2の後部の外面に設けた雄ねじ部2bと、後軸3の前部の内面に設けた雌ねじ部3aとが着脱自在に螺着されており、前軸2を後軸3から分離することができる。
【0030】
前軸2は酢酸セルロース樹脂で形成されており、滑剤、着色剤などを添加して混合し、硬化することにより、吸水率4.0%の前軸2(把持部)を形成してある。
また、前軸2の把持部2dの外表面(指で把持可能)には、算術平均粗さ(Sa)が0.009μmの鏡面状に仕上げてあるため、表面の摩擦力が向上し、表面に複数の溝部で形成した滑り止めを設けなくても指が滑ることが無く、把持部2dの表面にぴったりと張り付くため、冷たく、しっとりとした触感が得られた。また、前軸2には、印刷によって施された加飾部2eを設けてあり、加飾部2eの算術平均粗さ(Sa)は0.03μmであった。このため、加飾部2eにより把持感触の相違をより感じることができることから、使用者が把持する位置を加飾部2eにより把持部2dに誘導することで、把持部2dに複数の凹凸のパターンなどによる目印を設けなくともボールペン1を自然と最適な位置で把持させることができる。
【0031】
さらに、前軸2の把持部2dは、厚さが1.0mm、ロックウェル硬度(ASTM規格、D785、Rスケール)で測定した硬度Rが平均90.2であった。このため、十分な硬さが得られていることから、把持部2dを把持した際に、把持部2dが変形することで内部の水分が外部に漏れ出るのを防止できた。
【0032】
また、図示はしていないが、従来から筆記具の軸筒として広く使用されている、PC樹脂(吸水率0.15%)、PP樹脂(吸水率0.01%)によって同形に作製した筆記具の軸筒に比べ、本実施例の筆記具1の前軸2は、空気中の水分を多く吸湿するため、前軸2の把持部2dを指で把持すると、指が滑りにくくしっかり把持することができ、しっとりとした触感を得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の筆記具は、ボールペンに限定されることなく、筆記具として広く実施可能である。また、実施例では、便宜上、筆記具用部品として、筆記具の軸筒を例示しているが、筆記具のキャップ、尾栓など適宜選択して使用することができる。
【符号の説明】
【0034】
1…筆記具、
2…前軸、2a…連結部、2b…雄ねじ部、2c…開口部、2d…把持部、
2e…加飾部、
3…後軸(軸筒本体)、3a…雌ねじ部、
4…軸筒、
5…筆記体、
6…クリップ、
7…筆記部、
8…コイルスプリング、
9…回転カム、
10…ノック部、
11…インキ収容筒。