(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022030879
(43)【公開日】2022-02-18
(54)【発明の名称】スリッターナイフ用刃及びその製造方法並びにスリッターナイフ
(51)【国際特許分類】
B26D 1/24 20060101AFI20220210BHJP
B26D 1/00 20060101ALI20220210BHJP
【FI】
B26D1/24 A
B26D1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020135190
(22)【出願日】2020-08-07
(71)【出願人】
【識別番号】000165398
【氏名又は名称】兼房株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081776
【弁理士】
【氏名又は名称】大川 宏
(72)【発明者】
【氏名】加藤 直人
【テーマコード(参考)】
3C027
【Fターム(参考)】
3C027AA05
3C027AA09
3C027AA17
3C027AA18
3C027UU01
3C027UU06
(57)【要約】
【課題】従来よりも寿命の長いスリッターナイフ用刃を提供すること。
【解決手段】スリッターナイフの刃1の形状を刃先から回転軸方向に向かって凸状にすると共に、表面粗さを適正な範囲にすることで切断品質を保ったまま刃先の摩耗が抑制できることを見出した。本発明のスリッターナイフ用刃1は、刃先11の少なくとも一部が重なるように相手方の刃と共にスリッターに装着し、製紙、段ボールを切断するスリッターナイフ用刃1において、前記相手方の刃2と重なる面12の算術平均粗さが0.05から0.4(μm)で、前記相手方の刃2と重なる面12における回転軸を含む断面形状が、周縁から厚み方向外側且つ前記回転中心に向かって傾斜している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
刃先の少なくとも一部が重なるように下刃と共にスリッターに装着し、製紙又は段ボールを切断するスリッターナイフ用刃において、
前記下刃と重なる面の算術平均粗さが0.05から0.4(μm)で、
前記下刃と重なる面における回転軸を含む断面形状が、周縁から刃の厚み方向外側且つ前記回転中心に向かって傾斜しているスリッターナイフ用刃。
【請求項2】
前記下刃と重なる面が表面処理されている請求項1に記載のスリッターナイフ用刃。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のスリッターナイフ用刃と、
前記スリッターナイフ用刃の刃先の少なくとも一部が重なるようにスリッターに装着されるスリッターナイフ用下刃と、
を有するスリッターナイフ。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のスリッターナイフ用刃を製造する方法であって、
前記下刃と重なる面は研削加工後にショットブラスト加工を行って形成されているスリッターナイフ用刃の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スリッターに装着されるスリッターナイフ用刃及びその製造方法並びにスリッターナイフに関する。上刃と下刃からなるスリッターナイフは、製紙、段ボール等の被削材を切断する。
【背景技術】
【0002】
製紙、段ボール等を被削材とする従来のスリッターナイフの上刃は円盤状の回転刃であり、下刃と重なる面が平面か刃先から回転中心に向かって凹状に傾斜している(特許文献1など)。傾斜角は1°前後である。製紙を切断すると刃先の摩耗が激しく、毛羽立ち、紙紛が発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平1-210296号公報(
図6など)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記実情に鑑み完成したものであり、従来よりも寿命の長いスリッターナイフ用刃及びスリッターナイフを提供すること並びにそのようなスリッターナイフ用刃の製造方法を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するために、スリッターナイフの形状、表面状態などを検討し以下の知見を得た。具体的には、スリッターナイフの刃の形状を刃先から回転中心に向かって凸状にすると共に、表面粗さを適正な範囲にすることで切断品質を保ったまま刃先の摩耗、毛羽立ち、紙粉の発生を抑制できることを見出した。本発明者は、上記知見に基づき以下の発明を完成した。
【0006】
すなわち、上記課題を解決する本発明のスリッターナイフ用刃は、刃先の少なくとも一部が重なるように相手方の刃と共にスリッターに装着し、製紙又は段ボールを切断するスリッターナイフ用刃において、前記相手方の刃と重なる面の算術平均粗さが0.05から0.4(μm)で、前記相手方の刃と重なる面における回転軸を含む断面形状が、周縁から厚み方向外側且つ前記回転軸方向に向かって傾斜している。ここで、厚み方向外側とは、厚みが増す方向である。
【0007】
相手方の刃と重なる面における回転軸を含む断面形状について、周縁から厚み方向外側に向かって傾斜していることで、刃先の摩耗を抑制することができる。断面形状が周縁から厚み方向外側に傾斜していることで切断品質が低下する傾向になるが、相手方の刃と重なる面の算術平均粗さを上記範囲に設定することで切断品質を向上することができる。つまり、切断品質を保ちながら刃先の摩耗を抑制して寿命を延ばすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施形態のスリッターナイフ用刃の平面図である。
【
図2】本実施形態のスリッターナイフ用刃の断面図である。
【
図3】本実施形態のスリッターナイフ用刃の切れ刃部分の拡大断面図である。(
図2のIII)
【
図4】本実施形態のスリッターナイフ用刃の使用状態における断面図である。
【
図5】本実施形態のスリッターナイフ用刃の使用状態における断面図である。
【
図6】実施例のスリッターナイフ用刃で切断した紙の切断面である。
【
図7】比較例のスリッターナイフ用刃で切断した紙の切断面である。
【
図8】従来技術のスリッターナイフ用刃の切れ刃部分の拡大断面図である。
【
図9】従来技術のスリッターナイフ用刃の使用状態における断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のスリッターナイフ用刃及びその製造方法並びにスリッターナイフについて実施形態に基づいて以下詳細に説明を行う。本実施形態のスリッターナイフは、製紙、段ボール等の切断に用いられる。なお、特に断らない限り、本明細書に記載された数値範囲「a~b」は、下限a及び上限bをその範囲に含む。そして、これらの上限値及び下限値、ならびに実施例中に列記した数値も含めてそれらを任意に組み合わせることで数値範囲を構成し得る。
【0010】
さらに、これらの数値範囲内から任意に選択した数値を、その数値を数値範囲に含む新たな上限や下限の数値、その数値を数値範囲に含まない新たな上限や下限の数値とすることができる。なお、本明細書において用いる図面の縮尺や図面内の部材の大きさの相対関係などについては正確なものではない。特に正確な縮尺で製図すると細部を明確に表すことが困難であるため傾斜の程度などについて実際よりも大きな値にしている場合が多い。
【0011】
本実施形態のスリッターナイフは、上刃と下刃とをもつ。上刃は皿タイプ、下刃は皿タイプ又はリングタイプである。本実施形態のスリッターナイフ用刃は、皿タイプであり、上刃及び下刃の一方又は双方に採用することもできる。以下の説明では本実施形態のスリッターナイフ用刃は、上刃を例として説明するが、下刃として皿タイプを採用する場合には、そのまま採用することができるため説明を省略する。
【0012】
上刃と下刃は、周囲に刃先を持つ切れ刃をもち、中央に軸孔をもち、軸孔を中心に回転駆動されるか従動回転する。上刃及び下刃は、刃先の少なくとも一部が重なっている(重なり部分)。上刃と下刃の重なり部分は、所定の圧力で接している。
【0013】
本実施形態の上刃1は、
図1及び2に示すように、周縁11に切れ刃が形成されたリングタイプの部材であり、中央に軸孔14をもつ。本実施形態の上刃1の大きさは特に限定しない。大きさを例示すると、直径が100mm、150mm、200mm、250mm、300mm、350mmなどが挙げられ、厚みは、2mm、3mm、4mm、5mm、6mmなどが挙げられる。
【0014】
本実施形態の上刃1は、
図3に示すように、最外周に周縁11があり、図面上方(下刃と対向しない面)に刃面13が2段階で形成されている。刃面13は、最外周にある第1刃面13aと第1刃面13aから回転中心に近い側に隣接する第2刃面13bとをもつ。
【0015】
第1刃面13aにおける刃先の角度θ2は特に限定されないが、20°~40°程度、特に25°~35°程度にすることができる。第2刃面13bにおける刃先の角度θ3はθ2よりも小さいこと以外は特に限定されないが、10°~20°程度、特に12.5°~17.5°程度にすることができる。
【0016】
上刃及び下刃のうちの一方における他方に対向する面のうち、回転軸と平行な方向から見た重なり部分に相当する部分が、本明細書における「重なる面」である。本実施形態の上刃は、回転して使用するため、重なり部分は、上刃全体としては、周縁から一定の幅(重なり部分に相当)をもつリング状である。
【0017】
重なり部分について
図1に基づき説明する。上刃1は、下刃2と重なっている。その場合の重なり部分12(重なる面12)は、上刃1が回転するため、上刃1の外周部(境界線Wよりも外周側のリング状部分)に拡がっている。
【0018】
その重なる面12の大きさ(リング状部分のリングの幅)は特に限定されないが、0.3mm~3mm程度にすることができる。ここで、重なり部分12としては、実際の使用状態において対向する刃と重なるかどうかを判断せずに周縁から中心方向に0.3mm以上であれば重なり部分であると判断できる。
【0019】
本実施形態の上刃の刃先は、使用時において下刃と重なる面(以下単に「上刃の重なる面」と称することがある。
図3における12)の形状及び表面粗さに特徴をもつ。本実施形態の上刃における重なる面12における回転軸を含む断面形状が、周縁11から厚み方向外側且つ回転中心に向かって傾斜角θ1(θ1>0)で傾斜していることで、下刃2と重なったときに周縁11が下刃と接することが抑制できる。具体的には、周縁2が下刃11と接触しなくなったり、接触しても接触点が減ることが期待できる。このような傾斜角θ1を設定することで重なる面12は、下刃2に向けて凸形状になり、下刃2との接触はその凸形状の中央部近傍のみになって、接触点を減らすことが可能になる。
【0020】
θ1の好ましい値としては特に限定されないが、上限値として2°、1°、0.9°、0.8°、0.7°、0.6°、0.5°、0.45°、0.4°、0.35°、0.3°、0.25°、0.2°などが挙げられる。
【0021】
本実施形態の上刃1は、
図4に示すように、下刃2(一例として本実施形態の上刃1と同じ物を記載しているが、他の形態をもつ下刃を採用しても良い)と組み合わせてスリッターナイフを構成する。また、
図5に示すように、下刃3としてリングタイプのものを採用することもできる。
【0022】
それに対して、従来の上刃9では、
図8に示すように、重なる面92における回転軸を含む断面形状が、周縁91から厚み方向内側且つ回転軸方向に向かって傾斜角θ4(θ4>0)で傾斜している。この傾斜は本実施形態の上刃1とは逆方向の傾き(θ1で表すとθ1<0)である。
【0023】
従来の上刃9は、
図9に示すように、下刃10(一例として上刃9と同じ物を記載している)と組み合わせてスリッターナイフを構成する。周縁91がしっかりと接触していることが分かる。
【0024】
本実施形態の上刃1の重なる面12は、算術平均粗さ(Ra)が0.05から0.4(μm)である。ここで算術平均粗さの上限値は、0.2μm、0.3μm、0.35μmを採用でき、下限値としては0.05μm、0.08μm、0.1μmを採用できる。これらの上限値及び下限値は任意に組み合わせて好ましい範囲を設定することができる。なお、算術平均粗さは、大きくすると紙粉の発生が抑制でき、小さくすると毛羽立ちの発生が抑制できる。被削材として繊維長が長い紙を採用する場合には、毛羽立ちの発生の方が紙粉の発生よりも目立つため、算術平均粗さを小さくする方が好ましく、古紙などのように繊維長が短い場合には毛羽立ちの発生よりも紙粉の発生の方が目立つため、算術平均粗さを大きくする方が好ましい。
【0025】
重なる面12の算術平均粗さを調節する方法としては特に限定されないが、算術平均粗さを大きくする方法としては、ショットピーニング、ショットブラスト、レーザーショックピーニング、バレル振動処理、ウォータージェット処理などが挙げられ、小さくする方法としては研磨などが挙げられる。更には、研削加工後の算術平均粗さが大きな状態の表面に上述の処理を行って算術平均粗さを小さくする方法を採用することにより切断性を向上することができるため好ましい。例えば、上刃1の重なる面12は、研削加工後にショットブラストを行って形成することが好ましい。
【0026】
本実施形態の上刃と下刃を構成する材料は特に限定されない。全体を同じ材料で構成することもできるし、部位毎に異なる材料で構成することもできる。部位毎に異なる材料で構成する場合について例示すると、刃先とそれ以外の部分(本体部分)との材質を変化することが好ましい。例えば複数種類の金属を張り合わせて複層に構成されたクラッド鋼が例示できる。刃先部分の材質は、溶製高速度工具鋼や粉末高速度工具鋼などの高速度工具鋼、超硬合金、合金工具鋼などが挙げられる。本体部分を構成する材料としては、炭素工具鋼、合金鋼、例えばクロム鋼(SCr)、マンガン鋼(SMn)、マンガンクロム鋼(SMnC)、クロムモリブデン鋼(SCM)、ニッケルクロム鋼(SNC)、ニッケルクロムモリブデン鋼(SNCM)、アルミニウムクロムモリブデン鋼(SACM)等の機械構造用合金鋼である。
【実施例0027】
図3におけるθ2が30°、θ3が15°、θ1が0.5°、直径200mm、厚み4mmのスリッターナイフ用刃を実施例1の刃とした。重なる面12の算術平均粗さは0.08~0.12μmとした。刃金としては高速度工具鋼(SKH-51)を用いた(以下同じ)。
【0028】
図3におけるθ1を1.0°にした以外は実施例1と同様のスリッターナイフ用刃を実施例2の刃とした。
【0029】
図8におけるθ2が30°、θ3が15°、θ4が1.0°、直径200mm、厚み4mmのスリッターナイフ用刃を比較例の刃とした。重なる面92の算術平均粗さは0.02~0.04μmとした。
【0030】
スリッターには、比較例の刃を下刃に用いた。上刃としては、実施例1、2及び比較例の刃を用いて以下の試験を行った。
【0031】
(予備試験及び結果)
何も切断せずにそのまま運転を行った。その結果、上刃として比較例の刃を用いた場合には金属粉が生じたが、実施例1及び2の刃を用いた場合には双方共に金属粉は発生しなかった。つまり、θ1を正にすることで上刃と下刃の間の摩耗が抑制できることが分かった。
【0032】
(耐久試験1)
2つの比較例の刃について試験を行った。被削材としての紙は一定しておらず種々の紙を被削材とした。200時間の使用時間で摩耗量が0.010763mm2及び0.008526mm2となった。そして、200時間の使用で被削材の切断品質が十分でないことが分かった。摩耗量の測定は、刃線に垂直な断面における刃先の輪郭を測定し、刃先の両面の接線を描画し、接線の交点と接線で囲まれたエリアを新品時の形状と仮定して、接線の交点と接線と測定した輪郭で囲まれたエリアが摩耗量に相当するとして、その面積を算出し、その値を測定値とした。
【0033】
2つの実施例2(θ1が1.0°)の刃について試験を行った。試験条件は上述の比較例と同じ条件とした。313時間の使用時間で摩耗量が0.002737mm2及び0.002146mm2となった。つまり、使用時間が比較例よりも長いにもかかわらず摩耗量は少ないことが分かった。また、切断品質は十分であった。
【0034】
(耐久試験2)
スリッター装置の種類を代えると共に、被削材も変えた以外は、耐久試験1と同様の条件で試験を行った。試験に供した刃は、2つの実施例1の刃と2つの比較例の刃を用いた。
【0035】
1ヶ月の使用時間で、比較例の方は、摩耗量が0.012528mm2で刃先後退量が0.10016mm、及び摩耗量が0.008541mm2で刃先後退量0.10404mmとなった。そして、実施例2の方は、摩耗量が0.004381mm2で刃先後退量が 0.07604mm、及び摩耗量が0.002753mm2で刃先後退量0.08958mmとなった。
【0036】
1ヶ月の使用時間であっても実施例の方が摩耗量も刃先後退量も少なく耐久性に優れていることが分かった。また切断品質も実施例の方が優れていた。
【0037】
(耐久試験3)
2つの比較例の刃を上刃及び下刃として試験を行った。被削材は坪量64g/m2の紙を用いた。200時間の使用時間で摩耗量が上刃0.009262mm2及び下刃0.007901mm2となった。
【0038】
2つの実施例1(θ1が0.5°)の刃を上刃及び下刃として試験を行った。試験条件は上述の比較例と同じ条件とした。200時間の使用時間で摩耗量が上刃0.003572mm2及び下刃0.002118mm2となった。つまり、比較例よりも摩耗量は少ないことが分かった。また、上刃のみでなく下刃についても摩耗量の低減が可能であることが分かった。
【0039】
実施例1については、継続して試験を行った、その結果、400時間の使用時間で摩耗量が上刃0.003656mm2及び下刃0.004057mm2となった。使用時間を倍にしても比較例よりも摩耗量が少ないことが分かった。また、切断品質も比較例よりも優れていた。
【0040】
切断品質については、使用時間が137時間のときの被削材の切断面を
図6(実施例1)及び
図7(比較例)に示す。
図6及び7は、切断された被削材を重ねた切断面の顕微鏡写真である。
図6及び7から明らかなように、実施例1のスリッターナイフで切断した方が比較例のスリッターナイフで切断した紙よりも切断面が滑らかであり、切断面の毛羽立ちが少なく、紙粉の発生量も少なかった。
【0041】
(θ1の比較)
実施例1及び2の刃について、試験を行った。被削材は坪量64g/m2の紙を用いた。200時間の使用時間で摩耗量が上刃0.009262mm2及び下刃0.007901mm2となった。