IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大成建設株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-計測装置および計測方法 図1
  • 特開-計測装置および計測方法 図2
  • 特開-計測装置および計測方法 図3
  • 特開-計測装置および計測方法 図4
  • 特開-計測装置および計測方法 図5
  • 特開-計測装置および計測方法 図6
  • 特開-計測装置および計測方法 図7
  • 特開-計測装置および計測方法 図8
  • 特開-計測装置および計測方法 図9
  • 特開-計測装置および計測方法 図10
  • 特開-計測装置および計測方法 図11
  • 特開-計測装置および計測方法 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022030928
(43)【公開日】2022-02-18
(54)【発明の名称】計測装置および計測方法
(51)【国際特許分類】
   G01C 5/04 20060101AFI20220210BHJP
【FI】
G01C5/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020135260
(22)【出願日】2020-08-07
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】水野 史隆
(72)【発明者】
【氏名】谷 卓也
(57)【要約】
【課題】中長期に亘って精度の高い計測が可能である計測装置および計測方法を提供する。
【解決手段】構造物の鉛直方向の変位量を液体の液面の高さの変化量として計測する計測装置1であって、計測点Pに設置され、比重の異なる第一液体および第二液体を収容した検知部10と、検知部10から延伸しており、前記第一液体を収容する第一管状部材および前記第二液体を収容する第二管状部材を有する連結部30と、前記第二液体の液面の位置を読み取り可能な読取手段を有する表示部20とを備え、検知部10は、前記第一管状部材および前記第二管状部材の少なくとも何れか一方をコイル状に巻いたコイル部を有し、前記第一管状部材および前記第二管状部材の周囲に保護材が密着して配置されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の鉛直方向の変位量を液体の液面の高さの変化量として計測する計測装置であって、
計測点に設置され、比重の異なる第一液体および第二液体を収容した検知部と、
前記検知部から延伸しており、前記第一液体を収容する第一管状部材および前記第二液体を収容する第二管状部材を有する連結部と、
前記第二液体の液面の位置を読み取り可能な読取手段を有する表示部とを備え、
前記検知部は、前記第一管状部材および前記第二管状部材の少なくとも何れか一方をコイル状に巻いたコイル部を有し、
前記第一管状部材および前記第二管状部材の周囲に保護材が密着して配置されている、ことを特徴とする計測装置。
【請求項2】
前記保護材は、液状を呈する保護液であり、
前記検知部は、水密性を備えるケース部を備え、前記ケース部内に前記コイル部および前記保護液が封入されており、
前記連結部は、水密性を備える保護管を備え、前記保護管内に前記第一管状部材、前記第二管状部材および前記保護液が封入されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の計測装置。
【請求項3】
前記保護液は、前記第一液体および前記第二液体のうち、比重が軽い方と同じ成分を含有する液体である、ことを特徴とする請求項2に記載の計測装置。
【請求項4】
前記第一管状部材の先端には、第一バルブが設置されており、
前記第二管状部材の先端側は、第一分岐管および第二分岐管の二つに分岐しており、
前記第一分岐管には、第二バルブが設置されており、
前記第二分岐管には、第三バルブを介して余剰分の前記第二液体を排出する排出用ノズルが設置されている、
ことを特徴とする請求項1ないし請求項3の何れか一項に記載の計測装置。
【請求項5】
構造物の鉛直方向の変位量を液体の液面の高さの変化量として計測する計測方法であって、
請求項4に記載の計測装置を準備する準備工程と、
前記計測装置を計測対象の構造物に設置する設置工程と、
前記計測装置を初期状態に調整する調整工程と、
前記計測装置を用いて変位量を計測する計測工程と、を有し、
前記調整工程は、
前記第一バルブ、前記第二バルブおよび前記第三バルブを閉鎖した状態から、前記第一バルブおよび前記第三バルブを開放して、前記第一液体の液面を低下させるとともに、余剰分の前記第二液体を前記排出用ノズルから排出する第1工程と、
前記第1工程の状態から前記第一バルブを閉鎖するとともに前記第二バルブを開放して、前記第二液体の液面を低下させるとともに、余剰分の前記第二液体を前記排出用ノズルからさらに排出する第2工程と、
前記第2工程の状態から前記第一バルブを開放するとともに前記第三バルブを閉鎖する第3工程とを有する、
ことを特徴とする計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、計測装置および計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地質が不良な地山等においては、トンネルの上部だけでなくトンネルの底部(インバート部)にも設計で想定した値を超える外圧が作用することがあるため、インバート部が隆起する場合がある。
【0003】
インバート部の隆起が継続する場合には、隆起現象の程度に応じた対策を講じる必要がある。また、インバート部の覆工コンクリートの打設はトンネル変形の収束を条件としているため、変位計測により確認する必要があり、インバート部の変位計測は重要である。例えば「独立行政法人 鉄道建設・運輸施設整備支援機構」が発行する「山岳トンネル設計施工標準」では、インバート部の覆工コンクリートの打設は、内空変位の収束を確認してから施工することを基本とすると定められている。
【0004】
これに関連して、構造物の鉛直方向の変位量を液体の液面の高さの変化量として計測する計測装置が開発されている(特許文献1参照)。特許文献1に記載される計測装置は、計測点に設置され、比重の異なる第一液体および第二液体を収容した検知部と、前記検知部から延伸しており、前記第一液体を収容する第一管状部材および前記第二液体を収容する第二管状部材を有する連結部と、前記第二液体の液面の位置を読み取り可能な読取手段を有する表示部とを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-003287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、トンネル変形(内空変位)の収束を確認するためには、中長期(例えば、数か月程度)に亘って計測を行う必要がある。しかし、特許文献1に記載の計測装置を中長期に亘って使用すると、設置場所の環境の影響を受け、例えば、乾燥した環境下においては内部の液体が管状部材の外側(大気中)へ染み出し、湿度の高い環境下においては管状部材の外側(大気中)の水分が内部に浸透することによって、意図せずに液面が変動する場合があることが分かった。
【0007】
このような観点から、本発明は、中長期に亘って精度の高い計測が可能である計測装置および計測方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る計測装置は、構造物の鉛直方向の変位量を液体の液面の高さの変化量として計測する計測装置である。
この計測装置は、計測点に設置され、比重の異なる第一液体および第二液体を収容した検知部と、前記検知部から延伸しており、前記第一液体を収容する第一管状部材および前記第二液体を収容する第二管状部材を有する連結部と、前記第二液体の液面の位置を読み取り可能な読取手段を有する表示部とを備える。
前記検知部は、前記第一管状部材および前記第二管状部材の少なくとも何れか一方をコイル状に巻いたコイル部を有し、前記第一管状部材および前記第二管状部材の周囲に保護材が密着して配置されている。
【0009】
本発明に係る計測装置においては、第一管状部材および第二管状部材の周囲に保護材が密着して配置されているので、設置環境の影響が第一管状部材および第二管状部材の内部に及び難い。つまり、第一管状部材若しくは第二管状部材内に外部から物質が流入または外部へ作動媒体(重液、軽液)が流出し難くなり、ひいては、作動媒体の体積が増減する(つまり、液面の位置が変動する)のを抑制できる。その結果、中長期に亘って精度の高い計測が可能である。
【0010】
前記保護材が液状を呈する保護液である場合、前記検知部は、水密性を備えるケース部を備え、前記ケース部内に前記コイル部および前記保護液が封入されており、前記連結部は、水密性を備える保護管を備え、前記保護管内に前記第一管状部材、前記第二管状部材および前記保護液が封入されているのがよい。
【0011】
前記保護液は、前記第一液体および前記第二液体のうち、比重が軽い方と同じ成分を含有する液体であるのが好ましい。
【0012】
このようにすると、浸透圧の影響による液面の変動を抑制することができる。
【0013】
前記第一管状部材の先端には、第一バルブが設置されており、前記第二管状部材の先端側は、第一分岐管および第二分岐管の二つに分岐しているのがよい。そして、前記第一分岐管には、第二バルブが設置されており、前記第二分岐管には、第三バルブを介して余剰分の前記第二液体を排出する排出用ノズルが設置されている。
【0014】
このようにすると、液面の位置調整が容易になるので、変位量の計測を正確かつ迅速に行うことができる。
【0015】
また、本発明に係る計測方法は、構造物の鉛直方向の変位量を液体の液面の高さの変化量として計測する計測方法である。
この計測方法は、前記記載の計測装置を準備する準備工程と、前記計測装置を計測対象の構造物に設置する設置工程と、前記計測装置を初期状態に調整する調整工程と、前記計測装置を用いて変位量を計測する計測工程とを有する。また、前記調整工程は、第1工程と、第2工程と、第3工程とを有する。
前記第1工程では、前記第一バルブ、前記第二バルブおよび前記第三バルブを閉鎖した状態から、前記第一バルブおよび前記第三バルブを開放して、前記第一液体の液面を低下させるとともに、余剰分の前記第二液体を前記排出用ノズルから排出する。
前記第2工程では、前記第1工程の状態から前記第一バルブを閉鎖するとともに前記第二バルブを開放して、前記第二液体の液面を低下させるとともに、余剰分の前記第二液体を前記排出用ノズルからさらに排出する。
前記第3工程では、前記第2工程の状態から前記第一バルブを開放するとともに前記第三バルブを閉鎖する。
【0016】
本発明に係る計測方法においては、第一管状部材および第二管状部材の周囲に保護材が密着して配置されているので、設置環境の影響が第一管状部材および第二管状部材の内部に及び難い。つまり、第一管状部材若しくは第二管状部材内に外部から物質が流入または外部へ作動媒体(重液、軽液)が流出し難くなり、ひいては、作動媒体の体積が増減する(つまり、液面の位置が変動する)のを抑制できる。その結果、中長期に亘って精度の高い計測が可能である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、中長期に亘って精度の高い計測が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態に係る計測装置の全体図である。
図2】本発明の実施形態に係る計測装置を構成する検知部を説明するための図であり、(a)は平面図であり、(b)は(a)のY-Yに対応する断面図であり、(c)は(a)のX1-X1に対応する断面図であり、(d)は(a)のX2-X2に対応する断面図である。(a)~(d)では、ケース部に収容される保護液、並びに第一管状部材および第二管状部材に収容される液体(主に作動媒体)の記載を省略している。
図3】検知部本体のイメージ図である。
図4】本発明の実施形態に係る計測装置を構成する表示部の正面図である。
図5】本発明の実施形態に係る計測装置の作動原理を説明するための図であり、(a)は変位発生前の状態を示し、(b)は変位発生後の状態を示す。
図6】本発明の実施形態に係る計測装置の調整工程を説明するための図であり、(a)は第1工程を実施する前の状態を示し、(b)は第1工程を実施した後の状態を示し、(c)は第2工程を示し、(d)は第3工程を示す。
図7】従来の計測装置における経時的な計測変位を示したグラフである。
図8】吸水させる前処理を行った樹脂製のチューブによる液面安定性確認試験の結果を示すグラフであり、(a)は軽液の液面安定性確認試験の結果であり、(b)は重液の液面安定性確認試験の結果である。
図9】乾燥条件および浸水条件における液面安定性確認試験の結果を示すグラフである。
図10】二重管構造の液面安定性確認試験を説明するための図であり、(a)は試験体の概要図であり、(b)は二重管構造の液面安定性確認試験の結果を示すグラフである。
図11】高濃度のエチレングリコール水溶液を用いた液面安定性確認試験の結果を示すグラフである。
図12】二重管構造計測装置による液面安定性確認試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施をするための形態を、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。各図は、本発明を十分に理解できる程度に、概略的に示してあるに過ぎない。よって、本発明は、図示例のみに限定されるものではない。なお、各図において、共通する構成要素や同様な構成要素については、同一の符号を付し、それらの重複する説明を省略する。
【0020】
<実施形態に係る計測装置の構成>
図1を参照して、実施形態に係る計測装置1の構成について説明する。計測装置1は、計測対象物の鉛直方向の変位を計測するものである。変位は、ある基準点に対する鉛直方向における相対的な距離であり、例えば、第1の時刻における計測対象物の位置と第2の時刻における計測対象物の位置との差である。計測対象物は、時間経過により鉛直方向の変位が発生するものであればよく、特に限定されるものではない。実施形態に係る計測装置1は、地中や水中などの視認不能または視認し難い場所にある構造物の変位を計測するのに有効である。
【0021】
ここでは、図1に示すように、施工中のトンネル2のインバート部2aの変位計測に計測装置1を用いることを想定する。土被りの大きい地山や膨張性の地山等においては、インバート部2aにも大きな外圧が作用するので、インバート部2aが隆起する現象が発生する場合がある。本実施形態では、施工した直後のインバート部2aの位置を基準点とし、所定の時間経過後のインバート部2aの位置(変位)を計測する。ここでのインバート部2aは、路盤3に埋もれており、視認ができない状態である。
【0022】
計測装置1は、計測対象物の鉛直方向の変位量を作動媒体である液体の高さの変化量として計測する液柱式の計測器である。本実施形態における計測装置1では、比重の異なる2種類の液体を作動媒体として用いる。以下では、2種類の液体のうち、比重が重たい液体を「重液」と称し、比重が軽い液体を「軽液」と称する。本実施形態では、重液が「第一液体」に相当し、軽液が「第二液体」に相当する。
【0023】
図1に示すように、計測装置1は、計測対象物であるインバート部2aの計測点Pに設置される検知部10と、インバート部2aの変位が液面の位置変化として表示される表示部20と、検知部10および表示部20を連結する連結部30とを備えて構成される。表示部20は、計測点Pよりも高い位置(つまり、検知部10よりも高い位置)であって、時間経過により鉛直方向の変位が発生しない(発生したとしても微小である)場所に設置される。表示部20は、例えば、トンネル2の側壁2bに設置される。
【0024】
検知部10は、計測点P(図1参照)に設置されるものであり、図2に示すように、検知部本体10aと、検知部本体10aを内部に収納するケース部10bとからなる。ケース部10bの内部は保護液(図示を省略)で満たされている(すなわち、ケース部10bには保護液が封入されている)。したがって、検知部本体10aは、保護液に浸かった状態である。保護液は、作動媒体を周辺環境(大気や地下水等)から隔離する役割を担い、意図しない液面の変動を抑制する。意図しない液面の変動は、例えば作動媒体が大気中へ流出することや大気中の水分が作動媒体に吸収されることで発生する。ケース部10bは、検知部本体10aを保護するとともに、計測点Pから移動しないように設置することができるものであればよく、形状などは特に限定されない。ケース部10bは、水密性を備える構造になっており、封入される保護液が外部に漏れ出さないようになっている。検知部本体10aは、ケース部10bの内部に固定手段10c(図2(b),(d)参照)によって固定されている。図2に示す固定手段はボルトである。なお、保護液は、保護材の一例である。
【0025】
図2(a),(b)に示すように、ケース部10bは、円筒状の本体部材16と、本体部材16の一方(一端側)を閉塞する第一閉塞部材17と、本体部材16の他方(他端側)に連結される連結部材18と、連結部材18の一方を閉塞する第二閉塞部材19と、を備える。なお、図2に示すケース部10bの構成はあくまで例示であり、他の構成であってもよい。ケース部10bの材料は、特に限定されずに例えば金属製、樹脂製などであってよい。
【0026】
ケース部10bを構成する部材は、管用テーパーねじによって接合されている。管用テーパーねじは、円錐形状のねじであって、先端に行くほど細くなっている。本体部材16の両側外周面には雄ねじが形成されており、第一閉塞部材17の内周面には雌ねじが形成されており、連結部材18の両側内周面には雌ねじが形成されており、第二閉塞部材19の外周面には雄ねじが形成されている。ケース部10bに形成される管用テーパーねじを適切なトルクで螺合することによって、ケース部10b内の水密性が確保される。
【0027】
第二閉塞部材19は、内部の空間を軸方向において二つに分ける仕切り部19aを備える。仕切り部19aには、ねじ孔が形成されており、固定手段10cを用いて第二閉塞部材19に検知部本体10aを締結する。また、第二閉塞部材19には、円形の開口部が形成されており、この開口部を介して連結部30の第一コネクタ32が接続されている。ケース部10bと連結部30との接続部分は、水密性を確保できる構造になっていればよく、ケース部10bと連結部30との接続方法は特に限定されない。第一コネクタ32は、例えばケーブルグランドを備える構造になっている。
【0028】
図2(a),(b)に示すように、検知部本体10aは、主に重液を収容した第一管状部材11と、主に軽液を収容した第二管状部材12と、第一管状部材11と第二管状部材12とを連通するように接続する折返し部13とを備えて構成される。折返し部13は、検知部本体10aの製造を容易にするために設けられている構成要素であるので、検知部本体10aは、折返し部13を備えない構成であってもよい。本実施形態では、第一管状部材11および第二管状部材12の内径が同じになっている。また、図2に示すように、第一管状部材11および第二管状部材12の少なくとも何れか一方(ここでは、第二管状部材12)は、ケース部10b内で多重に巻かれることでコイル部14を形成している。図2では、折返し部13がコイル部14の内側に位置しているが、折返し部13の位置は他の場所であってもよい。
【0029】
図3を参照して、検知部本体10aの構成(特に、第一管状部材および第二管状部材に収容される液体について説明する。
図3に示すように、本実施形態では、重液と軽液との間には、これらの液体が混ざらないように分離する隔離シリコンオイルが収容されている。隔離シリコンオイルは、分離用液体の一例である。隔離シリコンオイルの量は、特に限定されるものではなく、重液と軽液とが混ざらない最小限量であるのがよい。これにより、本実施形態におけるコイル部14には、重液と隔離シリコンオイルとの界面である重液側境界部K1、および軽液と隔離シリコンオイルとの界面である軽液側境界部K2が形成されている。所定の粘度の隔離シリコンオイルを使用するとこで、重液や軽液の粘度に関わらず、重液側境界部K1や軽液側境界部K2を適切に形成することができる。なお、重液と軽液とが混じり合わないものである場合には、隔離シリコンオイルを設けなくてもよい(つまり、重液と軽液とが接することで、界面を形成していてもよい)。
【0030】
重液と軽液との境界部(ここでは、重液側境界部K1から軽液側境界部K2までの領域であり、以下では「境界部K」と呼ぶ)は、後述する「計測工程」や「計測装置の調整工程」において第一管状部材11および第二管状部材12内を移動する。本実施形態では、境界部Kがコイル部14の外側(連結部30)に移動しないようになっている。つまり、境界部Kがコイル部14の外側に移動しない程度の距離になるように、コイル部14の巻き数Nや一巻きあたりの長さ(円周に対応する長さ)が設定されている。なお、境界部Kの移動量は、重液と軽液との比重差や検知部10から表示部20までの距離L(図1参照)などによって決定される。
【0031】
折返し部13は、重液側接続部13aと、軽液側接続部13bと、U字管13cとを備えて構成されている。重液側接続部13aには、第一管状部材11の端部が取り付けられ、また、軽液側接続部13bには、第二管状部材12の端部が取り付けられる。第一管状部材11と第二管状部材12とは、折返し部13を介して連通しているので、第一管状部材11、第二管状部材12およびU字管13c内の液体は、互いに移動可能である。なお、重液側接続部13aおよび軽液側接続部13bの何れか一方を外すことで、第一管状部材11、第二管状部材12および折返し部13内への液体の注入、並びに、第一管状部材11、第二管状部材12および折返し部13内の液体の排出が可能である。
【0032】
図2に戻って、検知部10の説明を続ける。本実施形態でのコイル部14は、芯部材15に第二管状部材12が巻き付けられることによって形成されている。芯部材15は、第一管状部材11および第二管状部材12の少なくとも何れか一方(ここでは、第二管状部材12)を巻き付けることが可能であればよく、巻き付けられる管状部材11,12ができるだけ水平を保てる構造(つまり、水平に対する管状部材11,12の傾きが小さい構造)であることが望ましい。
【0033】
図2(c),(d)に示すように、本実施形態の芯部材15は、底板15aと、天板15bと、底板15aおよび天板15bの間に設けられるガイド15cと、底板15aの下側に設けられる支持部15dとを備える。
底板15aおよび天板15bは、共に長方形状を呈しており、平行になっている。底板15aは、天板15bに比べて長辺の寸法が大きくなっており、天板15bよりも少しだけ長尺である。
【0034】
ガイド15cは、管状部材11,12が巻き付けられる部分であり、円筒を軸方向で半分にした(言い換えれば、矩形状の板材の両端を近接するようにC字状に湾曲させた)形状(半割円筒状)を呈している。ガイド15cは、底板15aの両端付近に対向するように配置してあり、管状部材11,12が曲線を形成するのをガイドしている。なお、図2に示すガイド15c以外に管状部材11,12を芯部材15に固定する固定手段が設けられていてもよい。
【0035】
支持部15dは、ケース部10bの内周面に当接する曲面を有し、芯部材15がケース部10b内でガタつかないようになっている。支持部15dは、底板15aの両端付近に配置してあり、連結部30側の支持部15dは、固定手段10Cによってケース部10bに固定されている。
【0036】
図1に示すように、連結部30は、検知部10と表示部20とを連結するものであり、本実施形態では、トンネル2のインバート部2aおよび側壁2bに沿うようにして設置されている。なお、連結部30の設置方法は、図1に示すものに限定されない。図2(a),(b)に示すように、連結部30は、重液を収容した第一管状部材11と、軽液を収容した第二管状部材12と、第一管状部材11および第二管状部材12を保護する保護管31とからなる。ここでの第一管状部材11および第二管状部材12は、円筒状のチューブである。つまり、連結部30は、第一管状部材11または第二管状部材12と、保護管31との二重構造になっている。
【0037】
保護管31の内部は、保護液(図示を省略)で満たされている(すなわち、保護管31には保護液が封入されている)。したがって、第一管状部材11および第二管状部材12は、保護液に浸かった状態である。保護液は、作動媒体を周辺環境(大気や地下水等)から隔離する役割を担い、意図しない液面の変動を抑制する。保護管31は水密性を備える構造になっており、封入される保護液が外部に漏れ出さないようになっている。具体的には、保護管31の両端には、第一コネクタ32(図2(a),(b)参照)、および第二コネクタ33(図4参照)が設けられている。第一コネクタ32および第二コネクタ33は、例えばケーブルグランドを備える構造になっている。
【0038】
図4に示すように、表示部20には、重液を収容した第一管状部材11および軽液を収容した第二管状部材12が上下方向に延伸するように左右に並べて固定されている。また、表示部20には、計測する側の液体の表面(ここでは、軽液の液面B2a)の位置を読み取るための目盛り25aが付された目盛板25が設置されている。目盛板25は、読取手段の一例であり、読取手段は目盛板25に限定されない。目盛り25aには、変位発生前に軽液の液面B2aを合わせる零点25bが設定されている。なお、軽液の液面B2aの位置を読み取り易くするために、軽液の液面B2aを視認しやすい色で着色したり、また、着色された液体(例えば、オイル)で軽液の液面B2aを覆ってもよい。
【0039】
第一管状部材11の端部には、第一バルブ21が取り付けられており、第一管状部材11の端部を開閉可能である。詳細は後記するが、計測時において、重液の液面B1aは、第一管状部材11の端部から離れた場所に位置する。第一管状部材11内において重液は柱状を呈し、以下では、特に「重液柱」と呼ぶ場合がある。
【0040】
第二管状部材12は、分岐部22によって第一分岐管12aと、第二分岐管12bとに分岐されている。第一分岐管12aの端部には、第二バルブ23が取り付けられており、第一分岐管12aの端部を開閉可能である。詳細は後記するが、計測時において、軽液の液面B2aは、第一分岐管12aの端部から離れた場所に位置する。第一分岐管12a内において軽液は柱状を呈し、以下では、特に「軽液柱」と呼ぶ場合がある。また、第二分岐管12bの端部には、第三バルブ24を介して第二分岐管12bよりも内径が極めて小さい排出用ノズル24aが取り付けられている。詳細は後記するが、計測装置1を使用可能な初期状態に調整する際に発生する余剰の軽液を排出用ノズル24aから排出する。排出用ノズル24aの先端は、目盛板25の零点25bに位置合わせされている。
【0041】
(計測装置の作動原理)
図5を参照して、計測装置1の作動原理を説明する。図5は、2つの液柱(重液柱、軽液柱)の水頭バランスを示した模式図である。
比重が異なり、かつ、混じり合わない(不混和)な2種類の液体からなる液柱が図5のように液だまりで接する場合を考える。図5(a)に示すように、重液の水頭の高さを「H」とすれば、軽液の水頭の高さは「(ρh/ρl)・H」の位置でつり合う。「ρh」は重液の比重であり、「ρl」は軽液の比重である。また、液だまりの高さ「Hc」は、高さ「H」に比べて無視できる程に小さいものとする。なお、図1に示す計測装置1では、液だまりの安定性の向上や温度依存性の低減を目的として、液だまりをタンク構造ではなく管状部材を多重に巻いたコイル構造にしている。
【0042】
ここで、図5(b)に示すように、液だまりに鉛直方向の変位「x」が生じた場合、各々の水頭のバランスが崩れ、バランスの不均衡を打ち消すために、各水頭はそれぞれ「ΔHh,ΔHl」だけ変化する。
このとき、両水頭のバランスは、以下の式(1)で表される。
(H-x+ΔHh):{(ρh/ρl)・H-x+ΔHl}=ρl:ρh ・・式(1)
また、両液柱間を移動する液体の体積は等しいので、以下の式(2)が成立する。ここで、「Ah」は重液の液柱面積であり、「Al」は軽液の液柱面積である。
(Ah・ΔHh)=(-1・Al・ΔHl) ・・式(2)
【0043】
式(1),(2)より、軽液柱の変化量「ΔHl」と液だまりの変位「x」との関係は、以下の式(3)のようになる。
ΔHl=(ρl-ρh)/{ρl+ρh・(Al/Ah)}・x ・・式(3)
つまり、「ΔHl」(あるいは「ΔHh」でもよい)を知ることができれば、液だまりの変位「x」を知ることができる。また、2種類の液体の比重差が大きく、軽液注が重液注にくらべて細いほど、軽液柱の変化量「ΔHl」は、液だまりの変位「x」に対して感度がよくなる。ただし、液柱を収容する管が細すぎると、液の粘性抵抗によって液柱の動きが悪くなる。
【0044】
(計測装置の製造方法)
計測装置1は、様々な材料を用いて製造することができる。特に、重液、軽液、並びにこれらの液体を収容する第一管状部材11および第二管状部材12の材料は、計測する変位量の精度に関わるので重要である。また、保護液は、変位量の精度に直接関わるものではないが、作動媒体である重液および軽液が大気中へ流出することや大気中の水分が作動媒体に吸収されることを防ぐことによって中長期に亘って精度の高い計測を維持するものなので重要である。さらに、材料の選定に際しては、個別の材料特定に加えて、それぞれの材料の相性を考慮する必要がある。以下、計測装置1で使用可能な材料の一例を示す。
【0045】
軽液としては、例えば、スピンドルオイル、シリコンオイル、水、エチレングリコールを用いることができる。
重液としては、例えば、NaNO3+Ca(NO32混合水溶液、ZnCl2溶液、ポリタングステン酸ナトリウム(SPT)水溶液を用いることができる。
【0046】
保護液は、第一管状部材11若しくは第二管状部材12内に外部から物質が流入または外部へ作動媒体(重液、軽液)が流出することによって、作動媒体の体積が増減する(つまり、液面の位置が変動する)のを抑制できるものであればよい。ここでの抑制は、物質の流入または作動媒体の流出によって作動媒体の体積が永久的に増減しないことを意図するものではなく、時間経過に伴う所定量の物質の流入または作動媒体の流出を許容するものである。つまり、保護液は、予め定めた計測期間内(例えば、数か月間)において作動媒体の増減が所定量に収まることにより、計測期間内での計測精度が予め想定した許容範囲に含まれることを維持できるものであることを意図している。計測期間や計測精度は、計測の目的などによって決定されればよい。
【0047】
保護液は、作動媒体(重液、軽液)に混ぜ合わさらない物質に限定されるものではない。保護液は、作動媒体である重液および軽液とは異なる液体であってもよいし、重液および軽液の何れか一方と同じ成分を含む液体(溶媒および溶質の成分が同じで濃度が異なるものも含む)であってもよい。作動媒体および保護液として同じ成分の液体を用いた場合、作動媒体と保護液とが混ぜ合わさることによって作動媒体の濃度が変化することも想定されるが、前述した作動媒体の体積の増減を許容することと同様に、時間経過に伴う所定量の濃度の変化を許容するものである。
【0048】
本実施形態では上述した通り、連結部30において第一管状部材11および第二管状部材12を一つの保護管31に収納するとともに、検知部10において第一管状部材11および第二管状部材12を一つのケース部10bに収納している。つまり、連結部30および検知部10において、第一管状部材11および第二管状部材12は物理的に分割されない一つの空間内に収納され、当該空間を保護液で充填することによって第一管状部材11および第二管状部材12の周囲を一種類の液体で覆っている。このような構造の場合、物質の流入または作動媒体の流出による体積の変動がより大きい側の作動媒体(例えば軽液)を重視して、当該作動媒体(軽液)の体積の増減を抑える効果がある保護液を用いるのが有効である。
【0049】
また、作動媒体(重液、軽液)との関係よりも第一管状部材11および第二管状部材12との関係を重視して使用する保護液を決定してもよい。さらに、作動媒体(重液、軽液)、第一管状部材11および第二管状部材12、保護液の材料の相性を考慮し、総合的にみて計測精度が低下することを抑制する組合せを選定してもよい。保護液としては、例えば、スピンドルオイル、シリコンオイル、水、エチレングリコール、NaNO3+Ca(NO32混合水溶液、ZnCl2溶液、ポリタングステン酸ナトリウム(SPT)水溶液を用いることができる。
【0050】
第一管状部材11や第二管状部材12の材料が備えていることが好ましい特性は、温度膨張率が低いこと、軽液や重液が浸透しない(または浸透し難い)こと、軽液、重液または隔離シリコンオイルと化学的な反応が起きない(または影響が小さい)こと、耐久性が高いことなどが挙げられる。
第一管状部材11や第二管状部材12の材料としては、例えば、ナイロン、ポリオレフィン、フッ素樹脂(FEP、PFA)、ポリプロピレン、ステンレス鋼を用いることができる。
【0051】
<実施形態に係る計測装置を用いた計測方法>
図1ないし図6を参照して、実施形態に係る計測装置1を用いた変位の計測方法について説明する。計測方法の工程は、主に「計測装置の準備工程」、「計測装置の設置工程」、「計測装置の調整工程」、「計測装置を用いた計測工程」がある。以下では、各工程について説明する。
【0052】
(計測装置の準備工程)
「計測装置の準備工程」は、計測装置1を準備する工程である。この工程では、例えば、第一管状部材11内に重液を注入するとともに、第二管状部材12内に軽液を注入する。また、折返し部13を取り外して、重液と軽液との間に隔離シリコンオイルを注入する。重液,軽液および隔離シリコンオイルを収容後は、第一バルブ21、第二バルブ23および第三バルブ24を閉じた状態にする。また、ケース部10bおよび保護管31の内部に保護液を充填する。
【0053】
(計測装置の設置工程)
「計測装置の設置工程」は、計測装置1を設置する工程である。この工程では、例えば、図1に示すように、計測対象物であるインバート部2aの計測点Pに検知部10を設置するとともに、連結部30をインバート部2aおよび側壁2bに沿うように設置する。また、表示部20を、時間経過により鉛直方向の変位が発生しない(発生したとしても微小である)側壁2bに設置する。
【0054】
(計測装置の調整工程)
「計測装置の調整工程」は、計測装置1を使用可能な初期状態に調整する工程である。この工程では、図6(a)に示すように、第一バルブ21および第三バルブ24を開放する。なお、第二バルブ23は閉鎖したままの状態にする。これにより、図6(b)に示すように、重液柱の液面B1a(図4参照)と軽液柱の液面B2a(図4参照)とがつり合う位置まで重液柱の液面B1a(図4参照)が低下する。また、それに伴い、排出用ノズル24aから余剰分の軽液が排出するとともに、隔離シリコンオイルがコイル部14内を軽液柱側に移動する。本実施形態では、コイル部14を構成する第一管状部材11や第二管状部材12の長さを十分に取ってあるので、隔離シリコンオイルが移動したとしても、境界部K(図3参照)がコイル部14の外側に移動することがない。その結果、重液柱の液面B1aは、目盛板25の零点25b(図4参照)よりも低い位置まで移動する。
【0055】
続いて、図6(c)に示すように、第一バルブ21を閉鎖するとともに、第二バルブ23を開放する。なお、第三バルブ24は開放したままの状態にする。これにより、軽液柱の液面B2a(図4参照)が目盛板25の零点25b(図4参照)まで低下する。また、それに伴い、排出用ノズル24aから余剰分の軽液が排出する。
【0056】
続いて、図6(d)に示すように、第一バルブ21を開放するとともに、第三バルブ24を閉鎖する。なお、第二バルブ23は開放したままの状態にする。これにより、計測装置の調整工程は完了する。
【0057】
(計測装置を用いた計測工程)
「計測装置を用いた計測工程」は、計測装置1を用いて計測点Pの鉛直方向の変位を計測する工程である。この工程は、例えば、所定時間間隔で行われる。この工程では、作業者(図1参照)は、目盛板25を用いて軽液柱の液面B2a(図4参照)の位置を確認し、前記説明した式(3)に従って、検知部10の位置を計測点Pの位置として算出する。そして、例えば、計測点Pの変位量が許容範囲であるか否かを判定し、変位量が許容範囲を超えている場合には、インバート部2aにコンクリートを吹付けるなどの適切な対応を行う。なお、本実施形態では、コイル部14を構成する第一管状部材11や第二管状部材12の長さを十分に取ってあるので、計測点Pの変位に伴って隔離シリコンオイルが移動したとしても、境界部K(図3参照)がコイル部14の外側に移動することがない。
【0058】
<実施形態に係る計測装置の効果の説明>
以上のように、本実施形態に係る計測装置1は、検知部10の変位量が2種類の液体(重液、軽液)の比重差によって液面の変化量として表れる。そのため、計測点Pの鉛直方向の変位量を計測することができる。そして、本実施形態に係る計測装置1は、水圧計や電源を必要としないことから、構成が簡単な上に、使用環境による制限を受けにくいので、従来よりも使用の自由度が高い。
【0059】
また、本実施形態に係る計測装置1は、検知部10が変位することにともなって重液および軽液が移動した場合でも、重液と軽液との境界部Kはコイル部14内を周回する。つまり、境界部Kが計測点Pから離れて連結部30に移動することがないので、計測点Pの近くに常に境界部Kが存在する。そのため、計測点Pの鉛直方向の変位量を高い精度で計測することができる。
【0060】
また、本実施形態に係る計測装置1は、第一管状部材11および第二管状部材12の周囲が保護液で満たされているので、設置環境の影響が第一管状部材11および第二管状部材12の内部に及び難い。つまり、第一管状部材11若しくは第二管状部材12内に外部から物質が流入または外部へ作動媒体(重液、軽液)が流出し難くなり、ひいては、作動媒体の体積が増減する(つまり、液面の位置が変動する)のを抑制できる。その結果、中長期に亘って精度の高い計測が可能である。
【0061】
本発明の発明者は、従来の計測装置が時間の経過と共に精度の低下が起こる要因、および保護液によって第一管状部材11および第二管状部材12を覆う効果について試験を行った。図7ないし図12を参照して、従来の計測装置が時間の経過と共に精度の低下が起こる要因、および保護液によって第一管状部材11および第二管状部材12を覆う効果について説明する。
【0062】
図7は、第一管状部材11および第二管状部材12が大気に露出された従来の計測装置を、ある条件下(室温19℃~24℃程度)に置いた場合での経時的な計測変位を示したグラフである。図7での横軸は、経過日数であり、縦軸は、計測した液面の変位量(または計測した時点での室温)である。なお、図7の試験では、時間経過により鉛直方向の変位が発生しない場所に検知部10を静置しているので、縦軸の液面の変位量に変化はないはずであるが、何らかの理由によって変動している。図7では、プラスの変位量が軽液の液面の沈下方向(下降方向)を示し、マイナスの変位量が軽液の液面の上昇方向を示している。
【0063】
図7に示す計測では、重液、軽液、並びにこれらの液体を収容する管状部材11,12の材料が異なる(または成分が同じで濃度が異なる)三つの試験体を用意した。以下では、この三つの試験体を「標準型」、「高感度型」、「標準S型」と称する。
【0064】
標準型は、重液として「34%硝酸ナトリウムカリウム水溶液」、軽液として「38%エチレングリコール水溶液」、管状部材11,12として「ポリプロピレン」を用いた計測装置である。
高感度型は、重液として「77%ポリタングステン酸ナトリウム(SPT)水溶液」、軽液として「15%エチレングリコール水溶液」、管状部材11,12として「フッ素樹脂(PFA(四フッ化エチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合樹脂の略称))」を用いた計測装置である。
標準S型は、重液として「70%塩化亜鉛水溶液」、軽液として「84%エチレングリコール水溶液」、管状部材11,12として「ポリエチレン」を用いた計測装置である。
【0065】
図7に示すように、標準型および高感度型では軽液の液面が下降し、標準S型では軽液の液面が上昇した。この結果より、本発明の発明者は、以下の2つの要因によって作動媒体の液面が経時的に変化するとの仮説を立てた。
(要因1)樹脂製の管状部材11,12が内部の液体(作動媒体)を吸水し、液面が経時的に低下する。
(要因2)軽液のエチレングリコールが大気中の水分を吸水し、液面が経時的に上昇する(エチレングリコールには、大気中の水を吸って液面を上昇させるはたらきがある)。
つまり、標準型および高感度型では、要因1によって軽液の液面が下降したと推測した(要因2の影響もあったが、標準型および高感度型で軽液に用いたエチレングリコールの濃度は「38%や15%」と低く、その影響が軽微であった)。
一方、標準S型で軽液に用いたエチレングリコールの濃度は「84%」と他の型(38%や15%)と比較して高いので、要因2の影響が要因1よりも大きくなって軽液の液面が上昇したと推測した。
【0066】
次に、発明者は、事前に管状部材11,12に水を吸水させ飽和状態とすることで、要因1による液面低下を防げるのではないかと考え、管状部材11,12に吸水させる前処理を実施した後で液面安定性確認試験を行った。
具体的には、樹脂製のチューブに水を充填し、80℃の恒温槽内に24時間静置した後で内部の水を排出し、軽液および重液を充填した。この試験では高感度型を想定し、重液として「77%ポリタングステン酸ナトリウム(SPT)水溶液」、軽液として「15%エチレングリコール水溶液」、チューブとして「フッ素樹脂(PFA(四フッ化エチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合樹脂の略称))」を使用した。
【0067】
吸水させる前処理を行ったチューブによる液面安定性確認試験の結果を図8に示す。図8(a)は軽液の液面安定性確認試験の結果であり、図8(b)は重液の液面安定性確認試験の結果である。なお、液面安定性確認試験は、温度・湿度制御を行っていない室内で行い、試験期間の室内温度は約23℃~30℃の範囲であり、試験地域の湿度は約60%~100%の範囲であった。なお、図8(a)のPFA(軽液)で示す折れ線グラフが実際の測定値であり、図8(a)のPFA軽液(恒温槽23.6℃)で示す折れ線グラフは、温度変化による液面変動の影響をなくすために熱膨張率を考慮して23.6℃時の液面高さを計算によって求めたものである。同様に、図8(b)のPFA(重液)で示す折れ線グラフが実際の測定値であり、図8(b)のPFA重液(恒温槽24.1℃)で示す折れ線グラフは、温度変化による液面変動の影響をなくすために熱膨張率を考慮して24.1℃時の液面高さを計算によって求めたものである。
図7に示すように、吸水させる前処理を行わない場合では、高感度型を含めた全ての型で試験1日目から軽液の液面の変動(図5に示す原理により重液についても同様)が発生するが、図8に示すように、吸水させる前処理を行った場合では、軽液(エチレングリコール)では約30日間、重液(SPT溶液)では約70日間液面が安定することが確認できる。
【0068】
図8に示すように、樹脂製のチューブに吸水させる前処理を実施することにより、要因1による液面低下問題の改善はみられるものの、長期の計測では依然として液面が低下することが分かった。そこで、発明者は、樹脂製のチューブが水を吸水するのみならず、チューブの内側から外側へ内部の液体(作動媒体)が流出しているという仮説を立て、液体を充填したチューブの乾燥条件および浸水条件における液面安定性確認試験をさらに実施した。具体的には、フッ素樹脂(PFA)でできたチューブの中に水を充填した試験体を用意し、この試験体を乾燥条件(10~15%RH(相対湿度:Relative Humidity))と、水の中に沈めた浸水条件で試験を行った。
【0069】
乾燥条件および浸水条件における液面安定性確認試験の結果を図9に示す。図9に示すように、水浸条件では液面の低下はみられなかったが、乾燥条件では液面の低下がみられた。なお、液面にはシリコンオイルの層を設けたため、大気開放部からの液体(ここでは水)の流出はほとんどない。
【0070】
ここまでの試験の結果から、樹脂製のチューブ(つまり、管状部材11,12)の外側を液体で満たすことにより液面低下が発生しないことが分かったので、発明者は、計測装置の管状部材11,12外側を液体で満たした二重管構造にすることを考え出し、その効果を確認する検証試験(二重管構造の液面安定性確認試験)を行った。
【0071】
図10を参照して、二重管構造の液面安定性確認試験について説明する。図10(a)は、二重管構造の液面安定性確認試験に用いた試験体の概要図であり、図10(b)は、二重管構造の液面安定性確認試験の結果を示すグラフである。
【0072】
図10(a)に示すように、本試験での試験体100は、重液を収容する円筒状のチューブ111と、軽液を収容する円筒状のチューブ112と、チューブ111,112を収容するCD(Combined Duct)管101と、CD管101内に充填された液体104と、を主に備える。CD管101は、コンクリート埋没用の合成樹脂管である。チューブ111,112の先端は閉塞されており、液面にはシリコンオイルの層を設けてある。CD管101の先端は末端閉塞部102によって閉塞されており、末端閉塞部102には液体104をCD管101内に充填するためのバルブ103が設けてある。
【0073】
二重管構造の液面安定性確認試験では高感度型を想定し、重液として「77%ポリタングステン酸ナトリウム(SPT)水溶液」、軽液として「15%エチレングリコール水溶液」、CD管101内に充填される液体104として軽液と同じ成分を含み濃度が異なる「20%エチレングリコール水溶液」を使用した。チューブ111,112は、フッ素樹脂(PFA)製である。液体104にエチレングリコール水溶液を採用した理由は、水を使用するとチューブ111,112内の液体との浸透圧の影響で、液面が変動するためである。
【0074】
試験体100を30℃、10~15%RHの恒温湿槽内に静置したときの時間経過に伴う液面の変動を図10(b)に示す。図10(b)に示すように、時間経過に伴う液面の変動はみられない結果となった。
【0075】
また、発明者は、要因2(軽液のエチレングリコールが大気中の水分を吸水し、液面が経時的に上昇すること)を検証するために、高濃度のエチレングリコール水溶液を用いた液面安定性確認試験を行った。具体的には、99.5%のエチレングリコール溶液を、ポリプロピレン、フッ素樹脂(PFA)およびポリエチレン製のチューブに充填し、静置したときの時間経過に伴う液面の変動を計測した。
【0076】
高濃度のエチレングリコール水溶液を用いた液面安定性確認試験の結果を図11に示す。図11での横軸は、経過日数であり、縦軸は、計測した液面変動(または計測した時点での室温)である。なお、図11のPP(ポリプロピレン)で示す折れ線グラフが実際の測定値であり、図11のPP(恒温槽22.3℃)で示す点は、温度変化による液面変動の影響をなくすために熱膨張率を考慮して22.3℃時の液面高さを計算によって求めたものである。同様に、図11のPFA(フッ素)で示す折れ線グラフが実際の測定値であり、図11のPFA(恒温槽22.3℃)で示す点は、温度変化による液面変動の影響をなくすために熱膨張率を考慮して22.3℃時の液面高さを計算によって求めたものである。同様に、図11のPE(ポリエチレン)で示す折れ線グラフが実際の測定値であり、図11のPE(恒温槽22.3℃)で示す点は、温度変化による液面変動の影響をなくすために熱膨張率を考慮して22.3℃時の液面高さを計算によって求めたものである。
図11に示すように、ポリプロピレン、フッ素樹脂(PFA)およびポリエチレン製の全てのチューブで経時的に液面が上昇した。この結果から、エチレングリコールには、吸湿性があるために大気中の水分を吸水し、液面が上昇したものと推察される。なお、この課題(要因2の課題)に対しても、前述の二重管構造としてチューブを軽液のエチレングリコールと同程度の濃度のエチレングリコールとすることで、液面上昇を防げることを確認した。
【0077】
以上の試験結果から、発明者は、図2に示す計測装置1と同様の二重管構造を有する計測装置を製造し、当該計測装置を用いた液面安定性確認試験(二重管構造計測装置による液面安定性確認試験)を行った。二重管構造計測装置による液面安定性確認試験は、室内で実施した。
【0078】
二重管構造計測装置による液面安定性確認試験では重液として「77%ポリタングステン酸ナトリウム(SPT)水溶液」、軽液として「15%エチレングリコール水溶液」、保護液として「20%エチレングリコール水溶液」を使用した。また、第一管状部材11および第二管状部材12の材料はフッ素樹脂(PFA)であり、連結部30の保護管31としてCD管を使用し、検知部10のケース部10bとして塩化ビニル樹脂製の管状部材(塩ビ管)を使用した。
【0079】
二重管構造計測装置による液面安定性確認試験の結果を図12に示す。図12での横軸は、計測を行った日付であり、縦軸は、計測した軽液の液面変動量(または計測した時点での室温)である。図12に示すように、48日間の液面変化が1mm以内の範囲で安定することを確認した。
【0080】
[変形例]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、特許請求の範囲の趣旨を変えない範囲で実施することができる。
【0081】
本実施形態では、目盛板25を用いて軽液の液面B2aの位置を読み取っていたが、重液の液面B1aの位置を読み取るように構成されていてもよい。その場合、軽液が「第一液体」に相当し、重液が「第二液体」に相当する。
【0082】
また、本実施形態では、検知部10は、第一管状部材11および第二管状部材12の少なくとも何れか一方(ここでは、第二管状部材12)をケース部10b内で多重に巻いたコイル部14を有していた。しかしながら、検知部10が変位することにともなって重液および軽液が移動した場合でも、重液と軽液との境界部Kを検知部10内に維持することができればよく、ケース部10b内における第一管状部材11および第二管状部材12の収納方法はこれに限定されるものではない。例えば、第一管状部材11および第二管状部材12の少なくとも何れか一方をS字状やM字状の状態でケース部10b内に収納してもよい。また、図5に示すように、コイル部14に代えて、タンク構造にしてもよい。
【0083】
また、実施形態では、第一管状部材11および第二管状部材12を一つの保護管31内に収納していたが、第一管状部材11および第二管状部材12を別々の保護管31に収納することも可能である。
【0084】
また、実施形態では、作動媒体を周辺環境(大気や地下水等)から隔離する役割を担う物質として液体(つまり、保護液)を想定して説明していた。しかし、作動媒体を隔離する物質は液体に限らず固体や液体よりも粘性がある物質(例えば「ゲル」のようなもの)であってもよい。これらをまとめて「保護材」と称する。つまり、保護材は、実施形態で説明した保護液と同等の働きをするものであって、気体以外の物質を材料とするものである。保護材は、第一管状部材11および第二管状部材12の周囲に密着して配置されるのがよい。例えば、保護材には、保湿性の高い粘性材料、時間が経過することによって硬化して気密を可能にする硬化材料(例えば「シール材」のようなもの)などが含まれる。また、保護材は、例えば帯状を呈しており、第一管状部材11および第二管状部材12に巻き付けるものであってもよい。なお、保護材が第一管状部材11および第二管状部材12の周囲に留まることが可能である場合、検知部10のケース部10bや連結部30の保護管31を設けなくてもよい。
【符号の説明】
【0085】
1 計測装置
2 トンネル
2a インバート部
10 検知部
10a 検知部本体
10b ケース部
11 第一管状部材
12 第二管状部材
12a 第一分岐管
12b 第二分岐管
13 折返し部
14 コイル部
15 芯部材
20 表示部
21 第一バルブ
22 分岐部
23 第二バルブ
24 第三バルブ
24a 排出用ノズル
25 目盛板(読取手段)
30 連結部
31 保護管
32 第一コネクタ
33 第二コネクタ
P 計測点
K 境界部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12