(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022030935
(43)【公開日】2022-02-18
(54)【発明の名称】フレネルロム及び該フレネルロムを備えた計測装置
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20220210BHJP
G01N 21/21 20060101ALI20220210BHJP
【FI】
G02B5/30
G01N21/21 Z
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020135271
(22)【出願日】2020-08-07
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】599045936
【氏名又は名称】株式会社光学技研
(74)【代理人】
【識別番号】100088580
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 敦
(74)【代理人】
【識別番号】100195453
【弁理士】
【氏名又は名称】福士 智恵子
(74)【代理人】
【識別番号】100205501
【弁理士】
【氏名又は名称】角渕 由英
(72)【発明者】
【氏名】▲柳▼澤 保明
【テーマコード(参考)】
2G059
2H149
【Fターム(参考)】
2G059HH01
2G059HH02
2G059HH03
2G059HH04
2G059JJ19
2G059JJ20
2H149AA22
2H149AB06
2H149AB23
2H149DA01
2H149FA41Y
2H149FD01
(57)【要約】
【課題】位相差がλ/4(90°)であり、真空紫外から近赤外の波長領域で使用可能であり、入射光線と出射光線が同軸にあり、素子のサイズを小型とすることが可能なフレネルロムを提供する。
【解決手段】等方性材料で形成された平行四辺形状の第一菱面体10及び第二菱面体20を備えるフレネルロムQWPであって、第一全反射面13、第二全反射面14、第三全反射面23及び第四全反射面24の少なくとも2つ以上の面には、多層膜Mが形成されており、多層膜Mは、等方性材料よりも屈折率の大きい高屈折率材料で形成性された高屈折率膜M
Hと、等方性材料よりも屈折率の小さい低屈折率材料で形成性された低屈折率膜M
Lと、が交互に積層されており、入射光線Iと出射光線Eの光軸が同軸であり、真空紫外から近赤外の波長領域において入射光線Iに対して略90°の位相差を与える。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
等方性材料で形成された平行四辺形状の第一菱面体及び第二菱面体を備えるフレネルロムであって、
前記第一菱面体は、第一入射端面と、前記第一入射端面と平行に配置された第一出射端面と、前記第一入射端面及び前記第一出射端面と交わる第一全反射面と、前記第一全反射面と平行に配置された第二全反射面と、を有し、
前記第二菱面体は、第二入射端面と、前記第二入射端面と平行に配置された第二出射端面と、前記第二入射端面及び前記第二出射端面と交わる第三全反射面と、前記第三全反射面と平行に配置された第四全反射面と、を有し、
前記第一入射端面に入射した入射光線は、前記第一全反射面、前記第二全反射面、前記第三全反射面及び前記第四全反射面で全反射して、前記第二出射端面から出射光線として出射し、
前記第一全反射面、前記第二全反射面、前記第三全反射面及び前記第四全反射面の少なくとも2つ以上の面には、多層膜が形成されており、
前記多層膜は、前記等方性材料よりも屈折率の大きい高屈折率材料で形成性された高屈折率膜と、前記等方性材料よりも屈折率の小さい低屈折率材料で形成性された低屈折率膜と、が交互に積層されており、
前記入射光線と前記出射光線の光軸が同軸であり、
真空紫外から近赤外の波長領域において前記入射光線に対して略90°の位相差を与えることを特徴とするフレネルロム。
【請求項2】
前記第一全反射面、前記第二全反射面、前記第三全反射面及び前記第四全反射面の全てに前記多層膜が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のフレネルロム。
【請求項3】
前記低屈折率材料がMgF2であり、
前記高屈折率材料がGdF3、LaF3及びNdF3からなる群から選択される少なくとも一種であることを特徴とする請求項1又は2に記載のフレネルロム。
【請求項4】
前記等方性材料が石英又はCaF2であることを特徴とする請求項3に記載のフレネルロム。
【請求項5】
前記等方性材料が石英であり、
前記第一菱面体及び前記第二菱面体の楔角が45.1°であることを特徴とする請求項3に記載のフレネルロム。
【請求項6】
前記多層膜が2層膜であり、
190nm以上2000nm以下の波長領域において前記入射光線に対して90°±10°の位相差を与えることを特徴とする請求項5に記載のフレネルロム。
【請求項7】
前記等方性材料がCaF2であり、
前記第一菱面体及び前記第二菱面体の楔角が45.85°であることを特徴とする請求項3に記載のフレネルロム。
【請求項8】
前記多層膜が2層膜であり、
190nm以上2000nm以下の波長領域において前記入射光線に対して90°±10°の位相差を与えることを特徴とする請求項7に記載のフレネルロム。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか一項に記載のフレネルロムを備えることを特徴とする計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレネルロム及び該フレネルロムを備えた計測装置に係り、特に入射光線に対して90度の位相差を与えるλ/4フレネルロム及び該フレネルロムを備えた計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
波長板は、直交する2つの偏光成分に所定の位相差(光路差)を与えて、入射偏光の状態を変える光学素子である。一般的に、波長板としては、1/2波長板(λ/2板)と1/4波長板(λ/4板)の2種類がよく利用されている。
【0003】
1/4波長板(Quarter-wave plate:QWP)は、入射光線に対して1/4の位相差を与える波長板であり、具体的には、入射光線の電界振動方向(偏光面)にλ/4(90°)の位相差を与える光学素子である。1/4波長板は、入射光線に対して位相差をλ/4(90°)与え、直線偏光を円偏光に変えたり、円偏光を直線偏光に変えたりするために用いられる。
【0004】
1/2波長板(Half-wave plate:HWP)は、入射光線に対して1/2の位相差を与える波長板であり、具体的には、入射光線の電界振動方向(偏光面)にλ/2(180°)の位相差を与える光学素子である。1/2波長板は、入射光線に対して位相差をλ/2(180°)与え、直線偏光を回転させて出射させるために用いられる。
【0005】
特許文献1には、2つの平行四辺形状の菱面体を組み合わせた位相差が116~136°のフレネル菱面体(フレネルロム)に関して、菱面体を溶融石英製とし、4つの全反射面の上に、菱面体を構成する溶融石英よりも屈折率の低いMgF2を30~45nmの範囲の厚みでコーティングすることで、190~1700nmの波長範囲にわたって使用されることが記載されている。
【0006】
特許文献2には、ピンホールアレイ板と試料の間にコリメータレンズおよびフレネルロムを備えた共焦点顕微鏡に関し、プリズム面内で2回の全反射によって両偏光成分の間にπ/2の位相差を生じさせるように形成されたフレネルロムや、キング型のフレネルロムを用いること、フレネルロムに多層膜をコーティングすることで、可視光域(400~800nm)で波長依存性の極めて少ない位相子として働くことが可能となることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第5438789号公報
【特許文献2】特開平6-235865号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、半導体などの高精度、高密度化に伴い、微小領域の偏光解析や高分解能な面内情報の分析が重要性を増しており、(1)位相差がλ/4(90°)であり、(2)使用可能な波長帯域が真空紫外から近赤外の波長領域(λ=190~2000nm)と広帯域であり、(3)入射光線と出射光線が同軸にあり、(4)素子のサイズが小型である汎用性の高い光学素子が必要とされているが、上記(1)~(4)の特性を全て備える光学素子は存在していなかった。
【0009】
特許文献1のフレネルロムでは、4つの全反射面にMgF2単層膜をコーティングすることで190nm~1700nmの波長領域と広帯域化が可能となっているが、これは、位相差を126°(116~136°)としているためである。このことは、特許文献1がエリプソメーターやポラリメーターといった測定装置を前提としており、フレネルロムで生じる位相差が、汎用性が高く、原理的には使いやすい位相差λ/4(90°)ではなくても、装置側の調整で使用できるためである。
【0010】
特許文献2のフレネルロムでは、1つの平行四辺形状の菱面体を用いる場合、その構造上、入射光線と出射光線の光軸にズレが発生するため、光学系を組む際に、入射光線と出射光線の光軸のズレに合わせて、後の部品もずらして配置しなければならない。また、フレネルロムを回転させながら使用すると、出射光線の位置も回転してしまい、使用し難いという課題がある。さらに、キング型のフレネルロムでは、その構造上、特定の一か所以外は、入射光線と出射光線の光軸にズレが発生し光線の上下が逆転してしまうため、光線の上下を修正する部品を追加する必要があるなど使用し難いという課題がある。
【0011】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、位相差がλ/4(90°)であり、真空紫外から近赤外の波長領域で使用可能であり、入射光線と出射光線が同軸にあり、素子のサイズを小型とすることが可能なフレネルロム及び該フレネルロムを備えた計測装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、菱面体を形成する等方性材料よりも屈折率の大きい高屈折率膜と、菱面体を形成する等方性材料よりも屈折率の小さい低屈折率膜と、が交互に積層した多層膜を、フレネルロムの全反射面に形成することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
前記課題は、本発明のフレネルロムによれば、等方性材料で形成された平行四辺形状の第一菱面体及び第二菱面体を備えるフレネルロムであって、前記第一菱面体は、第一入射端面と、前記第一入射端面と平行に配置された第一出射端面と、前記第一入射端面及び前記第一出射端面と交わる第一全反射面と、前記第一全反射面と平行に配置された第二全反射面と、を有し、前記第二菱面体は、第二入射端面と、前記第二入射端面と平行に配置された第二出射端面と、前記第二入射端面及び前記第二出射端面と交わる第三全反射面と、前記第三全反射面と平行に配置された第四全反射面と、を有し、前記第一入射端面に入射した入射光線は、前記第一全反射面、前記第二全反射面、前記第三全反射面及び前記第四全反射面で全反射して、前記第二出射端面から出射光線として出射し、前記第一全反射面、前記第二全反射面、前記第三全反射面及び前記第四全反射面の少なくとも2つ以上の面には、多層膜が形成されており、前記多層膜は、前記等方性材料よりも屈折率の大きい高屈折率材料で形成性された高屈折率膜と、前記等方性材料よりも屈折率の小さい低屈折率材料で形成性された低屈折率膜と、が交互に積層されており、前記入射光線と前記出射光線の光軸が同軸であり、真空紫外から近赤外の波長領域において前記入射光線に対して略90°の位相差を与えること、により解決される。
【0014】
このように、等方性材料で形成された平行四辺形状の第一菱面体及び第二菱面体を備えるフレネルロムにおいて、フレネルロムの4つの全反射面の少なくとも2つ以上の面に、菱面体を形成する等方性材料よりも屈折率の大きい高屈折率膜と、菱面体を形成する等方性材料よりも屈折率の小さい低屈折率膜と、が交互に積層した多層膜を形成することで、位相差がλ/4(90°)であり、真空紫外から近赤外の波長領域で使用可能であり、入射光線と出射光線が同軸にあり、素子のサイズを小型とすることが可能なフレネルロムを提供することが可能となる。
【0015】
このとき、前記第一全反射面、前記第二全反射面、前記第三全反射面及び前記第四全反射面の全てに前記多層膜が形成されているとよい。
このとき、前記低屈折率材料がMgF2であり、前記高屈折率材料がGdF3、LaF3及びNdF3からなる群から選択される少なくとも一種であるとよい。
このとき、前記等方性材料が石英又はCaF2であるとよい。
【0016】
このとき、前記等方性材料が石英であり、前記第一菱面体及び前記第二菱面体の楔角が45.1°であるとよい。
このとき、前記多層膜が2層膜であり、190nm以上2000nm以下の波長領域において前記入射光線に対して90°±10°の位相差を与えるとよい。
【0017】
このとき、前記等方性材料がCaF2であり、前記第一菱面体及び前記第二菱面体の楔角が45.85°であるとよい。
このとき、前記多層膜が2層膜であり、190nm以上2000nm以下の波長領域において前記入射光線に対して90°±10°の位相差を与えるとよい。
【0018】
また、前記課題は、本発明の計測装置によれば、上記のフレネルロムを備えること、により解決される。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、等方性材料で形成された2つの平行四辺形状の菱面体を備えるフレネルロムにおいて、菱面体を形成する等方性材料よりも屈折率の大きい高屈折率膜と、菱面体を形成する等方性材料よりも屈折率の小さい低屈折率膜と、が交互に積層した多層膜を、4つの全反射面の少なくとも2つ以上の面に形成することで、位相差がλ/4(90°)であり、真空紫外から近赤外の波長領域で使用可能であり、入射光線と出射光線が同軸にあり、素子のサイズを小型とすることが可能となる。
【0020】
また、本発明のフレネルロムは、上記の特性を備えているため、各種の測定装置、分析装置、検査装置、観察装置を含む計測装置に適用することで、微細領域の検査、微小領域を観察、様々な偏光計測を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1A】本発明の一実施形態に係るフレネルロムの概略構成図である。
【
図1B】フレネルロムの各全反射面に施された多層膜の構成を示す模式的断面図である。
【
図2A】石英製フレネルロムの各全反射面への入射角と位相差の関係を波長毎に示したグラフであり、各全反射面に多層膜が無い状態での計算値である。
【
図2B】フレネルロムにおける入射角と楔角の説明図である。
【
図3】楔角α=約75°のフレネルロムと、楔角α=約45°のフレネルロムの素子サイズの比較を示す図である。
【
図4】楔角α=約75°のフレネルロムと、楔角α=約45°のフレネルロムによる位相差の比較を示したグラフである。
【
図5】石英よりも小さい屈折率をもつMgF
2材料による膜を全反射面に施した場合の位相差の変化の様子を示すグラフである(楔角α=約45°のフレネルロム)。
【
図6】石英よりも大きい屈折率をもつGdF
3材料による膜を全反射面に施した場合の位相差の変化の様子を示すグラフである(楔角α=約45°のフレネルロム)。
【
図7】全反射面に施した膜の構成と位相差について示すグラフである。
【
図8】実施例1で検討を行った石英製のλ/4フレネルロムの概要図である。
【
図9】実施例1-1の石英製λ/4フレネルロムにおける位相差の波長特性について示すグラフである。
【
図10】実施例1-2の石英製λ/4フレネルロムにおける位相差の波長特性について示すグラフである。
【
図11】実施例1-3の石英製λ/4フレネルロムにおける位相差の波長特性について示すグラフである。
【
図12】実施例2で検討を行ったCaF
2製のλ/4フレネルロムの概要図である。
【
図13】実施例2-1のCaF
2製λ/4フレネルロムにおける位相差の波長特性について示すグラフである。
【
図14】実施例2-2のCaF
2製λ/4フレネルロムにおける位相差の波長特性について示すグラフである。
【
図15】実施例2-3のCaF
2製λ/4フレネルロムにおける位相差の波長特性について示すグラフである。
【
図16】4つの全反射面にGdF
3/MgF
2による2層膜を成膜した石英製とCaF
2製のλ/4フレネルロムにおける位相差の波長特性を示すグラフである。
【
図17】4つの全反射面にGdF
3/MgF
2による2層膜を有する本実施形態のフレネルロムQWPと、従来から存在する各種フレネルロムによる位相差の波長特性について比較したグラフである。
【
図18A】石英製の膜無しλ/4フレネルロムと、全反射面にMgF
2単層膜を形成した従来のフレネルロム(MgF
2単層膜)の概要図である。
【
図18B】4つの全反射面にGdF
3/MgF
2による2層膜を有する本実施形態のフレネルロムQWPと、石英製の膜無しλ/4フレネルロムと、全反射面にMgF
2単層膜を形成した従来のフレネルロム(MgF
2単層膜)の位相差の波長特性を比較したグラフである。
【
図19A】石英製λ/4フレネルロムロング型の概要図である。
【
図19B】4つの全反射面にGdF
3/MgF
2による2層膜を有する本実施形態のフレネルロムQWPと、石英製の膜無しλ/4フレネルロムロング型の位相差の波長特性を比較したグラフである。
【
図20A】石英製λ/4フレネルロム1個型の概要図である。
【
図20B】全反射面に2層膜を有する石英製λ/4フレネルロム1個型と4つの全反射面にGdF
3/MgF
2による2層膜を有する本実施形態のフレネルロムQWPの位相差の波長特性を比較したグラフである。
【
図21A】石英製λ/4フレネルロムキング型の概要図である。
【
図21B】全反射面にコーティングを有する石英製λ/4フレネルロムキング型と4つの全反射面にGdF
3/MgF
2による2層膜を有する本実施形態のフレネルロムQWPの位相差の波長特性を比較したグラフである。
【
図22】実施例3-1-1の石英製λ/4フレネルロムにおける位相差の波長特性について示すグラフである。
【
図23】実施例3-1-2の石英製λ/4フレネルロムにおける位相差の波長特性について示すグラフである。
【
図24】実施例3-2-1のCaF
2製λ/4フレネルロムにおける位相差の波長特性について示すグラフである。
【
図25】実施例3-2-2のCaF
2製λ/4フレネルロムにおける位相差の波長特性について示すグラフである。
【
図26】実施例3-2-3のCaF
2製λ/4フレネルロムにおける位相差の波長特性について示すグラフである。
【
図27】実施例3-2-4のCaF
2製λ/4フレネルロムにおける位相差の波長特性について示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、
図1A乃至
図27を参照しながら、本発明の一実施形態(以下、本実施形態)に係るフレネルロムについて説明する。本実施形態に係るフレネルロムQWPは、真空紫外から近赤外の波長領域において位相差の波長依存性が小さい多層膜付きのλ/4フレネルロム(位相子)である。
【0023】
本願明細書において、○nm~△nmは、○nm以上△nm以下を意味する。
本明細書において、「コンタクト」とは、一対の隣接するプリズムが相互に接触して配置されていることをいい、直接接合されているオプティカル・コンタクトのほか、接着による接合も含まれる。
また、本明細書において、プリズム素子(菱面体)が「対向」するとは、直接接合されているオプティカル・コンタクトの場合と、接着剤など、何かを介在させて接合されている接着の場合、空気層を介在させている場合とを含む。
【0024】
[1.本実施形態のフレネルロムQWPの構造]
本実施形態のフレネルロムQWP(λ/4フレネルロム、λ/4波長板)は、平行四辺形状のプリズム素子を2つ組み合わせた構造(ダブル型のフレネルロム)であり、具体的には、
図1Aに示すように、断面(
図1Aの面と平行な断面、つまり、後述する各入射端面、出射端面、全反射面と直交する断面)が平行四辺形の平行四辺形状の第一菱面体10及び第二菱面体20を備えている。第一菱面体10及び第二菱面体20は、同一形状であり、等方性材料で形成されている。
【0025】
(第一菱面体10)
第一菱面体10は、第一入射端面11と、第一入射端面11と平行に配置された第一出射端面12と、第一入射端面11及び第一出射端面12と交わる第一全反射面13と、第一全反射面13と平行に配置された第二全反射面14と、を有している。
【0026】
第一菱面体10において、第一入射端面11及び第一出射端面12は互いに平行であり、かつ、第一全反射面13及び第二全反射面14は互いに平行である。また、第一菱面体10において、第一入射端面11と第一全反射面13との間、及び、第一出射端面12と第二全反射面14との間は、互いに90度よりも小さい角度(楔角α)で交わっている。さらに、第一菱面体10において、第一入射端面11と第二全反射面14との間、及び、第一出射端面12と第一全反射面13との間は、互いに90度よりも大きい角度で交わっている。
【0027】
(第二菱面体20)
第二菱面体20は、第二入射端面21と、第二入射端面21と平行に配置された第二出射端面22と、第二入射端面21及び第二出射端面22と交わる第三全反射面23と、第三全反射面23と平行に配置された第四全反射面24と、を有している。
【0028】
第二菱面体20において、第二入射端面21及び第二出射端面22は互いに平行であり、かつ、第三全反射面23及び第四全反射面24は互いに平行である。また、第二菱面体20において、第二入射端面21と第三全反射面23との間、及び、第二出射端面22と第四全反射面24との間は、互いに90度よりも小さい角度(楔角α)で交わっている。さらに、第二菱面体20において、第二入射端面21と第四全反射面24との間、及び、第二出射端面22と第三全反射面23との間は、互いに90度よりも大きい角度で交わっている。
【0029】
第一菱面体10及び第二菱面体20は、第一菱面体10の第一出射端面12と、第二菱面体20の第二入射端面21とが互いに平行になるように対向して配置されている。
第一出射端面12と第二入射端面21は、オプティカル・コンタクトによる直接接合とすることが好適であるが、紫外線透過接着剤を用いた接着固定とすることや、接合を行わずに隙間を空けて配置することも可能である。
【0030】
上述したように第一菱面体10の第一入射端面11と第一全反射面13(第一出射端面12と第二全反射面14)は楔角αをなしており、同様に、第二菱面体20の第二入射端面21と第三全反射面23(第二出射端面22と第四全反射面24)も楔角αをなしている。ここで、楔角αは、第一菱面体10及び第二菱面体20を構成する等方性材料の種類に応じて適宜設定することが可能であり、等方性材料が石英の場合には楔角α=45.1°とし、等方性材料がCaF2の場合には楔角α=45.85°とすればよい。
【0031】
(等方性材料)
第一菱面体10及び第二菱面体20は、等方性材料から形成されており、上述した
図1Aは、等方性材料として石英を使用した場合を示している(楔角α=45.1°)。等方性材料としては、真空紫外から近赤外の波長領域を透過する材料であれば良く、入手性の観点から石英(溶融石英:屈折率n=1.46@550nm)やフッ化カルシウム(CaF
2:屈折率n=1.44@546nm)を用いると好適である。なお、用いる等方性材料については、位相差を劣化させてしまうような素材の欠陥や歪などがないことも重要であり、CaF
2よりも石英を用いることが好ましい。
【0032】
第一菱面体10の第一入射端面11に入射した入射光線Iは、第一全反射面13、第二全反射面14、第三全反射面23、第四全反射面24の順で全反射して(反射光線R)、第二出射端面22から出射光線Eとして出射する。フレネルロムQWPでは、真空紫外から近赤外の波長領域において入射光線Iに対して略90°(具体的には、90°±10°)の位相差を与えた出射光線Eが出射される。
【0033】
フレネルロムQWPを使用する時、第一菱面体10の第一入射端面11に対して、外部から実質的に垂直に入射させられた入射光線Iは、次のように進む。入射光線Iは、第一菱面体10の第一全反射面13及び第二全反射面14において内部反射し、反射光線Rは、第一菱面体10の第一出射端面12から第二菱面体20の第二入射端面21へと出射する。そして、第一菱面体10の第一出射端面12から第二菱面体20の第二入射端面21へと入射した反射光線Rは、第三全反射面23と第四全反射面24において内部反射し、反射光線Rは、第二菱面体20の第二出射端面22から出射光線Eとして出射する。
【0034】
本実施形態のフレネルロムQWPは、同一の平行四辺形状のプリズム素子を2つ組み合わせた構造であり、入射光線Iと出射光線Eの光軸がずれない。換言すると、入射光線Iと出射光線Eが一直線になり、入射光線Iと出射光線Eの光軸が(略)同軸となる。つまり、本実施形態のフレネルロムQWPを光軸Xの周りで回転させても、出射光線Eの位置が変わらないという特長がある。
【0035】
(多層膜M)
第一全反射面13、第二全反射面14、第三全反射面23及び第四全反射面24の少なくとも2つ以上の面は、その面上に、第一菱面体10及び第二菱面体20を構成する等方性材料とは異なる屈折率の多層膜Mがコーティングされている(
図1B)。
【0036】
ここで、多層膜Mは、第一菱面体10及び第二菱面体20を構成する等方性材料よりも屈折率の大きい高屈折率材料で形成性された高屈折率膜M
Hと、第一菱面体10及び第二菱面体20を構成する等方性材料よりも屈折率の小さい低屈折率材料で形成性された低屈折率膜M
Lと、が交互に積層されている。高屈折率膜M
Hと低屈折率膜M
Lの積層の順序は
図1Bに示すように、基板となる等方性材料の上に、高屈折率膜M
H、低屈折率膜M
Lの順で積層されていてもよいし、基板となる等方性材料の上に、低屈折率膜M
L、高屈折率膜M
Hの順で積層されていてもよい。
【0037】
入射光線Iは、第一全反射面13、第二全反射面14、第三全反射面23及び第四全反射面24で全反射し、同時にp偏光とs偏光に位相差が発生する。通常、全反射に伴って生じる位相差は、波長が短くなるにつれて大きくなってしまう。そこで、フレネルロムQWPでは、第一菱面体10及び第二菱面体20を構成する等方性材料(石英やCaF2)よりも大きい屈折率の高屈折率膜MHと、小さい屈折率の低屈折率膜MLからなる2種類の膜材料が交互に積層された多層膜Mを4つの全反射面の少なくとも2つ以上の面に施している。
【0038】
高屈折率膜MHを構成する高屈折率材料としては、フッ化ガドリニウム(GdF3:屈折率n=1.59@550nm)、フッ化ランタン(LaF3:屈折率n=1.59@550nm)及びフッ化ネオジム(NdF3:1.61@550nm)が例示されるが、これらの物質に限定されるものではない。また、低屈折率膜MLを構成する低屈折率材料としては、フッ化マグネシウム(MgF2:屈折率n=1.38~1.40@550nm)が例示されるが、これに限定されるものではない。
【0039】
高屈折率膜MH及び低屈折率膜MLは、真空蒸着、CVD、スパッタリング等の方法により形成することが可能である。高屈折率膜MH及び低屈折率膜MLの膜厚は、材料の種類に依存し、例えば、100Å以上650Å以下とすればよいが、この範囲に限定されるものではない。
【0040】
フレネルロムQWPは、4つの全反射面の少なくとも2つ以上の面が、上述の多層膜Mを有していることで、真空紫外から近赤外の波長領域(例えば、190nm以上2000nm以下の波長領域)において位相差の波長依存性を小さくする事を可能となっている。
【0041】
(素子のサイズについて)
本実施形態のフレネルロムQWPについて、素子の幅W(素子の厚み)、素子の開口K、素子の高さH、素子の長さLを、
図1Aに示すように定義する。第一菱面体10及び第二菱面体20を構成する等方性材料が石英であるとき、楔角α=45.1°であり、素子の幅W:素子の開口K:素子の高さH:素子の長さL=10mm:10mm:20mm:20.1mmとなる。また、第一菱面体10及び第二菱面体20を構成する等方性材料がCaF
2であるとき、楔角α=45.85°であり、素子の幅W:素子の開口K:素子の高さH:素子の長さL=10mm:10mm:20.3mm:21.2mmとなる。
【0042】
このように、本実施形態のフレネルロムQWPでは、素子の幅W又は素子の開口Kの比を1としたときに、素子の高さHや素子の長さLの比が約2.0~2.1、つまり、2.0以上2.1以下となり、素子の高さが高くなることや、素子の長さが長くなってしまうことが無く、素子のサイズを小型なものにすることが可能である。
【0043】
[2.全反射面への多層膜の適用による位相差への効果]
図2Aは、石英における各全反射面への入射角と位相差の関係を波長毎に示したものである。
図2Bは、フレネルロムにおける入射角θと楔角αの説明図である。フレネルロムに光線を垂直入射した場合、楔角α=入射角θとなる。各全反射面に多層膜が無い状態での計算値である。フレネルロムは、光線が全反射する際にp偏光とs偏光に位相差が生じる事を利用した位相子であり、生じる位相差は、素材の屈折率と全反射角に依存する。屈折率には、波長依存性がある為、生じる位相差にも、波長依存性が出てしまう。
【0044】
図1Aに示すフレネルロムQWPのような、4回全反射させる屋根型(ダブル型)と呼ばれる構造の場合、位相差90°(λ/4)を得る為には、全反射1回当たりの位相差が、22.5°になるような楔角にする必要がある。等方性材料として石英を用いる場合、楔角α=約75°又は、約45°になる。
【0045】
図3に、楔角α=約75°(74.6°)のフレネルロムと、楔角α=約45°(45.1°)のフレネルロムの素子サイズの比較を示す。楔角α=約75°の場合、開口K=10mmに対して長さL=約135mmと非常に長くなってしまうため、製作上や使用上、現実的ではない。一方、楔角α=約45°の場合には、開口K=10mmに対して長さL=約20mmと現実的なものとなる。
【0046】
位相差性能は、楔角α=約45°で製作した場合は波長依存性が大きく、λ/4位相子として使用するには難がある(
図4)。この状況に対して、本実施形態のフレネルロムQWPでは、全反射面に2種類の材料による多層膜Mを施すことで、実用的な位相差が真空紫外から近赤外の波長領域で得られることを見出した。
【0047】
図5に、石英よりも小さい屈折率をもつMgF
2材料による膜を全反射面に施した場合の位相差の変化の様子を示す(楔角α=約45°(45.1°)のフレネルロム)。石英よりも小さい屈折率を持つ材料の膜では、膜厚を厚くすると、全体的な位相差は小さくなる傾向にあるが、紫外領域までの位相差を平らにする事ができない。更に、膜厚を厚くし過ぎると、800Åの場合にて示されるように、紫外領域の位相差の波長依存性が大きくなる。
【0048】
図6に、石英よりも大きい屈折率をもつGdF
3材料による膜を全反射面に施した場合の位相差の変化の様子を示す(楔角α=約45°(45.1°)のフレネルロム)。大きな屈折率を持つ材料の膜では、膜厚を厚くすると、全体的な位相差は大きくなる傾向にある為、紫外~近赤外領域全体で位相差を90°にする事ができない。更に、膜厚を厚くしていくと、800Åの場合で示されるように、紫外領域の位相差にうねりが発生する。
【0049】
図7に、全反射面に施した膜の構成と位相差について示す。GdF
3膜とMgF
2膜の2層膜によって、MgF
2単層膜では実現することが出来なかった、真空紫外領域における位相差を90°に近づける事が出来るようになる。この為、波長λ=190~2000nmの位相差が90°±10°と、従来技術にはない優れた位相差性能を持った実用的な位相子を実現することが可能となる。
【0050】
4層膜の場合を示すように、多層膜を2層より多層化した場合でも、波長λ=190~2000nmの位相差が90°±10°にする事が可能になる。ただし、2層膜と4層膜の場合で位相差性能に大きな差は無く、多層化による効果はあまり大きくない。
【0051】
[3.本実施形態のフレネルロムQWPの応用例]
本実施形態のフレネルロムQWPの応用例について、以下に示す。本実施形態のフレネルロムQWPは、計測装置に応用可能である。ここで、「計測装置」とは、各種の測定装置、分析装置、検査装置、観察装置を含むものとする。
【0052】
半導体検査装置は、微細領域の検査を行う装置であり、紫外光を積極的に利用するため、真空紫外から近赤外の波長領域で使用可能な本実施形態のフレネルロムQWPを用いると好適である。白色光の偏光を利用している半導体検査装置であれば、本実施形態のフレネルロムQWPが利用可能である。
【0053】
本実施形態のフレネルロムQWPを適用する具体的な対象装置として、分光エリプソメーターが例示される。具体的には、分光エリプソメーターの補償素子としてフレネルロムQWPを利用することができる。
【0054】
また、本実施形態のフレネルロムQWPを、微小領域を観察するための観察装置に適用することも可能である。偏光を制御することでコントラストを向上できる場合がある。より微細な観察を行うためには、短い波長も使った観察が必要になるため、本実施形態のフレネルロムQWPを使用するメリットがある。
【0055】
さらに、異物検知を行うため、異物からの散乱光の偏光状態が正常な部分と異なる特性を利用した観察装置や検査装置、具体的には、半導体ウエハー上の配線パターンの偏光状態を観察して異物を発見する装置に本実施形態のフレネルロムQWPを適用することができる。装置によって、偏光の利用方法は異なるが、偏光情報から半導体の各プロセスで発生した異常(不良)を発見する際に、本実施形態のフレネルロムQWPを位相差180°(λ/2)の位相子と組み合わせることで、様々な偏光計測が可能となる。
【0056】
また、膜厚計に本実施形態のフレネルロムQWPを適用することができる。膜厚計は、主に半導体プロセス中の検査などに用いられるが、フィルム厚、塗装厚等を測定するなど、他の膜状の物の検査にも使われている。膜厚計の測定原理は、様々であるが、エリプソメーター同様の偏光解析で膜厚を測定する装置もある。
【0057】
その他、本実施形態のフレネルロムQWPは、機器偏光を低減させるための偏光解消素子の代わりに使用することができる。反射光学系では、p偏光とs偏光の反射率が異なるため、入射光線の偏光状態が異なる場合や変動する場合、透過率が異なったり、変動したりする。このことを防止するために、入射光線の偏光状態を一定にしたり、光学系からの出射光線の偏光状態を一定にしたりすることがある。精密な計測を行う装置の場合には、入射光線や出射光線の偏光状態を一定にすることが必要になる。本実施形態のフレネルロムQWPを位相差180°(λ/2)の位相子と組み合わせることで、いかなる偏光状態も作り出すことができるため、入射光線や出射光線の偏光状態を一定にすることが可能となる。
【実施例0058】
以下、実施例に基づき、本発明の多層膜付きλ/4フレネルロムについて更に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0059】
以下の実施例では、菱面体を形成する等方性材料として石英又はCaF2を用い、フレネルロムQWPに多層膜を形成した際の位相差の波長特性を示す。具体的には、石英製とCaF2製のフレネルロムQWPの4つの全反射面の少なくとも2つ以上の面に、膜材料が異なる3種類の2層膜(多層膜)をそれぞれ成膜したものを示す。
【0060】
<実施例1.多層膜付き石英製λ/4フレネルロム>
石英製のλ/4フレネルロムの4つ全ての全反射面に、GdF
3/MgF
2、LaF
3/MgF
2、NdF
3/MgF
2の2層膜を成膜した場合における位相差の波長特性を実施例1-1.~1-3.に示す。
図8は、石英製のλ/4フレネルロムの概要図で、2層膜の種類(構成)によらず同一の形状である。なお、2つの菱面体をオプティカル・コンタクトした場合と、互いに離して平行に並べた場合の位相差に違いはない。
【0061】
(実施例1-1.石英製λ/4フレネルロム、GdF
3/MgF
2の2層膜)
図9に4つの全反射面にGdF
3/MgF
2による2層膜を成膜した場合の位相差の波長特性について示す。また、表1に多層膜の膜厚などを示す。全反射面にGdF
3/MgF
2の2層膜を成膜する事で、波長λ=190~2000nmの範囲で81.6~99.0°の位相差にする事が可能になる。
【0062】
【0063】
(実施例1-2.石英製λ/4フレネルロム、LaF
3/MgF
2の2層膜)
図10に4つの全反射面にLaF
3/MgF
2による2層膜を成膜した場合の位相差の波長特性について示す。また、表2に多層膜の膜厚などを示す。全反射面にLaF
3/MgF
2の2層膜を成膜する事で、波長λ=190~2000nmの範囲で84.2~99.4°の位相差にする事が可能になる。
【0064】
【0065】
(実施例1-3.石英製λ/4フレネルロム、NdF
3/MgF
2の2層膜)
図11に4つの全反射面にNdF
3/MgF
2による2層膜を成膜した場合の位相差の波長特性について示す。また、表3に多層膜の膜厚などを示す。全反射面にNdF
3/MgF
2の2層膜を成膜する事で、波長λ=190~2000nmの範囲で83.5~98.0°の位相差にする事が可能になる。
【0066】
【0067】
<実施例2.多層膜付きCaF
2製λ/4フレネルロム>
CaF
2製のλ/4フレネルロムの4つ全ての全反射面に、GdF
3/MgF
2、LaF
3/MgF
2、NdF
3/MgF
2の2層膜を成膜した場合の位相差波長特性を実施例2-1~2-3に示す。
図12は、CaF
2製のλ/4フレネルロムの概要図で、2層膜の種類によらず同一の形状である。なお、2つの菱面体をオプティカル・コンタクトした場合と、互いに離して平行に並べた場合の位相差に違いはない。
【0068】
(実施例2-1.CaF
2製λ/4フレネルロム、GdF
3/MgF
2の2層膜)
図13に4つの全反射面にGdF
3/MgF
2による2層膜を成膜した場合の位相差の波長特性について示す。また、表4に多層膜の膜厚などを示す。全反射面にGdF
3/MgF
2の2層膜を成膜する事で、波長λ=190~2000nmの範囲で86.3~96.8°の位相差にする事が可能になる。
【0069】
【0070】
(実施例2-2.CaF
2製λ/4フレネルロム、LaF
3/MgF
2の2層膜)
図14に4つの全反射面にLaF
3/MgF
2による2層膜を成膜した場合の位相差の波長特性について示す。また、表5に多層膜の膜厚などを示す。全反射面にLaF
3/MgF
2の2層膜を成膜する事で、波長λ=190~2000nmの範囲で87.3~97.4°の位相差にする事が可能になる。
【0071】
【0072】
(実施例2-3.CaF
2製λ/4フレネルロム、NdF
3/MgF
2の2層膜)
図15に4つの全反射面にNdF
3/MgF
2による2層膜を成膜した場合の位相差の波長特性について示す。また、表6に多層膜の膜厚などを示す。全反射面にNdF
3/MgF
2の2層膜を成膜する事で、波長λ=190~2000nmの範囲で85.8~96.3°の位相差にする事が可能になる。
【0073】
【0074】
<比較例.従来のフレネルロムとの比較>
本実施形態の多層膜付きλ/4フレネルロムと従来のフレネルロムとの比較を以下に示す。本実施形態の多層膜付きλ/4フレネルロムは、波長λ=190~2000nmと真空紫外から近赤外の波長領域において、位相差を90±10°にする事が可能な位相子である。第一菱面体10及び第二菱面体20を構成する素材は、上記の波長帯域を透過する等方性材料で安定的な入手が可能な石英又はCaF
2となる。
図16に示すように、位相差特性は、石英製の方が若干劣っている為、以下に示す比較は、等方性材料として石英を用いた場合で行う。
【0075】
図17は、全反射面に2層膜を有する本実施形態のフレネルロムQWPと、従来から存在する各種フレネルロムによる位相差の波長特性について比較したものである。フレネルロムは、位相差の波長特性に優れた素子で、素材に石英を使用する事で、真空紫外から近赤外領域までの波長領域に対応可能な位相子とする事が可能である。位相差の平坦性や使用時の使い勝手などは、構造によって異なり、これらを鑑みた際に、優れた位相差性能を持ち、使い勝手が良く、現実的なフレネルロムは、従来存在していなかった。
【0076】
(比較例1.石英製λ/4フレネルロム膜無し、MgF
2単層膜フレネルロム(従来品)との比較)
図18Aに石英製の膜無しλ/4フレネルロムと、全反射面にMgF
2単層膜を形成した従来のフレネルロム(MgF
2単層膜フレネルロム)の概要図を示し、
図18Bに位相差の波長特性の比較を示す。なお、MgF
2単層膜フレネルロムは、特許文献1を参考にλ/4フレネルロムとして検討し直したものである。ここで示した2つの従来品と本実施形態のフレネルロムQWPは、基本形状は同一であり、違いは全反射面の膜構成のみとなっている。このような屋根型(ダブル型)と言われる構造の場合、入射光線と出射光線の光軸にズレなどが起こらない為、光学系を組み立てる際や、素子を回転させて使用する際に非常に便利である。また、開口と長さの比が10:20程度と偏光用素子としては、一般的な大きさである。位相差特性は、波長λ=190~2000nmにおいて、本実施形態のフレネルロムQWP以外は、90°±10°を超えてしまう。
【0077】
(比較例2.石英製λ/4フレネルロム、ロング型(従来品)との比較)
図19Aに石英製λ/4フレネルロムロング型(従来品)の概要図を示し、
図19Bに位相差の波長特性の比較を示す。ロング型は、位相差の平坦性に優れているという特徴があるが、開口K=10mmに対して長さL=135mmと、素子が長過ぎるため使用上現実的なものではない。
【0078】
(比較例3.石英製λ/4フレネルロム1個型との比較)
図20Aに石英製λ/4フレネルロム1個型(従来品)の概要図を示し、
図20Bに位相差の波長特性の比較を示す。この1個型は、特許文献2の記述を基に楔角や膜構成を検討したものであり、位相差の平坦性に優れているという特徴があるが、1個型は、構造上、入射光線と出射光線の光軸にズレが発生するという特徴がある。この場合、光学系を組む際に、入射光線と出射光線の光軸のズレに合わせて、後続の部品もずらして配置しなければならなくなったり、1個型フレネルロムを回転させながら使用すると、出射光線の位置も回転してしまい、使用し難いという問題がある。
【0079】
(比較例4.石英λ/4フレネルロムキング型との比較)
図21Aに石英λ/4フレネルロムキング型(従来品)の概要図を示し、
図21Bに位相差の波長特性の比較を示す。このキング型は、特許文献2の記述を基に楔角や膜構成を検討したものであり、位相差の平坦性に優れているという特徴があるが、構造上、
図21Aに図示した一か所の位置以外では、入射光線と出射光線の光軸にズレが発生し光線の上下が逆転する。この為、光線の上下を修正する部品を追加する必要があり、使用し難いという問題がある。
【0080】
<実施例3.多層膜の成膜面数を2つ又は3つとした多層膜付きλ/4フレネルロム>
石英製又はCaF2製λ/4フレネルロムに多層膜を成膜した際の位相差の波長特性を以下に示す。具体的には、石英製又はCaF2製のフレネルロムの2つ又は3つの全反射面に、膜材料GdF3とMgF2の、2層膜又は4層膜を成膜した場合にも、波長190~2000nmにおける位相差範囲が85°~110°の範囲となることを示す例である。
【0081】
(実施例3-1.多層膜付き石英製λ/4フレネルロム)
石英製のλ/4フレネルロムの3つの全反射面に、GdF
3/MgF
2による2層膜又は4層膜を成膜した場合の位相差波長特性を実施例3-1-1、3-1-2に示す。具体的には、
図8に示す石英製のλ/4フレネルロムにおいて、4つの全反射面の任意の3つの面に2層膜又は4層膜を成膜した例を示す。
【0082】
(実施例3-1-1.石英製λ/4フレネルロム、GdF
3/MgF
2、成膜面数:3面、2層膜)
図22にGdF
3/MgF
2による2層膜を成膜した場合の位相差の波長特性について示す。また、表7に膜厚などを示す。GdF
3/MgF
2の2層膜を3つの全反射面に成膜する事で、波長λ=190~2000nmの範囲で84.2~109.5°の位相差にする事が可能になる。
【0083】
【0084】
(実施例3-1-2.石英製λ/4フレネルロム、GdF
3/MgF
2、成膜面数:3面、4層膜)
図23にGdF
3/MgF
2による4層膜を成膜した場合の位相差の波長特性について示す。また、表8に膜厚などを示す。GdF
3/MgF
2の4層膜を3つの全反射面に成膜する事で、波長λ=190~2000nmの範囲で83.3~104.6°の位相差にする事が可能になる。
【0085】
【0086】
(実施例3-2.多層膜付きCaF
2製λ/4フレネルロム)
CaF
2製のλ/4フレネルロムの2つ又は3つの全反射面に、GdF
3/MgF
2による2層膜又は4層膜を成膜した場合の位相差波長特性を実施例3-2-1~3-2-4に示す。具体的には、
図12に示すCaF
2製のλ/4フレネルロムにおいて、4つの全反射面の任意の2つ又は3つの面に2層膜又は4層膜を成膜した例を示す。
【0087】
(実施例3-2-1.CaF
2製λ/4フレネルロム、GdF
3/MgF
2、成膜面数:2面、2層膜)
図24にGdF
3/MgF
2による2層膜を成膜した場合の位相差の波長特性について示す。また、表9に膜厚などを示す。GdF
3/MgF
2の2層膜を2つの全反射面に成膜する事で、波長λ=190~2000nmの範囲で85.7~110.0°の位相差にする事が可能になる。
【0088】
【0089】
(実施例3-2-2.CaF
2製λ/4フレネルロム、GdF
3/MgF
2、成膜面数:2面、4層膜)
図25にGdF
3/MgF
2による4層膜を成膜した場合の位相差の波長特性について示す。また、表10に膜厚などを示す。GdF
3/MgF
2の4層膜を2つの全反射面に成膜する事で、波長λ=190~2000nmの範囲で85.0~109.4°の位相差にする事が可能になる。
【0090】
【0091】
(実施例3-2-3.CaF
2製λ/4フレネルロム、GdF
3/MgF
2、成膜面数:3面、2層膜)
図26にGdF
3/MgF
2による2層膜を成膜した場合の位相差の波長特性について示す。また、表11に膜厚などを示す。GdF
3/MgF
2の2層膜を3つの全反射面に成膜する事で、波長λ=190~2000nmの範囲で85.9~103.5°の位相差にする事が可能になる。
【0092】
【0093】
(実施例3-2-4.CaF
2製λ/4フレネルロム、GdF
3/MgF
2、成膜面数:3面、4層膜)
図27にGdF
3/MgF
2による2層膜を成膜した場合の位相差の波長特性について示す。また、表12に膜厚などを示す。GdF
3/MgF
2の4層膜を3つの全反射面に成膜する事で、波長λ=190~2000nmの範囲で86.6~102.3°の位相差にする事が可能になる。
【0094】
【0095】
以上の結果から、多層膜を成膜する全反射面の数が多く、多層膜の層数が2層膜である方が、広帯域な位相差特性を得られやすいことが分かった。したがって、多層膜付きλ/4フレネルロムにおいては、4つの全反射面の全てに2層膜を形成することが最も好ましい。
前記課題は、本発明のフレネルロムによれば、等方性材料で形成された平行四辺形状の第一菱面体及び第二菱面体を備えるフレネルロムであって、前記第一菱面体は、第一入射端面と、前記第一入射端面と平行に配置された第一出射端面と、前記第一入射端面及び前記第一出射端面と交わる第一全反射面と、前記第一全反射面と平行に配置された第二全反射面と、を有し、前記第二菱面体は、第二入射端面と、前記第二入射端面と平行に配置された第二出射端面と、前記第二入射端面及び前記第二出射端面と交わる第三全反射面と、前記第三全反射面と平行に配置された第四全反射面と、を有し、前記第一入射端面に入射した入射光線は、前記第一全反射面、前記第二全反射面、前記第三全反射面及び前記第四全反射面で全反射して、前記第二出射端面から出射光線として出射し、前記第一全反射面、前記第二全反射面、前記第三全反射面及び前記第四全反射面の少なくとも2つ以上の面には、多層膜が形成されており、前記多層膜は、前記等方性材料よりも屈折率の大きい高屈折率材料で形成された高屈折率膜と、前記等方性材料よりも屈折率の小さい低屈折率材料で形成された低屈折率膜と、が交互に積層されており、前記入射光線と前記出射光線の光軸が同軸であり、190nm以上2000nm以下の波長領域において前記入射光線に対して90°±10°の位相差を与えること、により解決される。