(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022030939
(43)【公開日】2022-02-18
(54)【発明の名称】昇降機構付きホールカップ
(51)【国際特許分類】
A63B 57/40 20150101AFI20220210BHJP
【FI】
A63B57/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020135277
(22)【出願日】2020-08-07
(71)【出願人】
【識別番号】597060106
【氏名又は名称】東亜電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100210804
【弁理士】
【氏名又は名称】榎 一
(72)【発明者】
【氏名】宮村 幸春
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 由彦
(72)【発明者】
【氏名】矢澤 正樹
(57)【要約】
【課題】ボールを上昇させるための力をバランス良く伝達することが可能な昇降機構付きホールカップを提供する。
【解決手段】本発明の代表的な昇降機構付きホールカップの一つは、ホールカップ、ボール受け皿、原動部、複数個の昇降機構、および伝達機構部を備える。前記ホールカップは、ホールに配置される。前記ボール受け皿は、前記ホールカップの内部においてボールを受ける。前記原動部は、前記ホールカップの中心軸に沿って旗竿(ピン)を支え、前記旗竿を押し下げる力によって下降する。複数個の前記昇降機構は、前記ボール受け皿を周方向に複数の支持箇所でそれぞれ支持する。前記伝達機構部は、前記原動部の下降力を分解して変換し、複数個の前記昇降機構それぞれに上昇力として伝達する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホールに配置するためのホールカップと、
前記ホールカップの内部においてボールを受けるボール受け皿と、
前記ホールカップの中心軸に沿って旗竿(ピン)を支え、前記旗竿を押し下げる力によって下降する原動部と、
前記ボール受け皿を周方向に複数の支持箇所でそれぞれ支持するための複数個の昇降機構と、
前記原動部の下降力を分解して変換し、複数個の前記昇降機構それぞれに上昇力として伝達する伝達機構部と、
を備えたことを特徴とする昇降機構付きホールカップ。
【請求項2】
請求項1記載の昇降機構付きホールカップであって、
複数個の前記昇降機構それぞれは、
X字状のリンクを一方向に多段連結したマジックハンドであって、前記マジックハンドの中央上側の対偶によって前記ボール受け皿の前記支持箇所それぞれを支持し、前記マジックハンドの中央下側の対偶を固定中心とし、前記固定中心から斜め左右に延長されたX字状の従動節を備え、
前記伝達機構部は、
前記原動部の下降力を略水平内向きの対称運動にそれぞれ変換し、複数個の前記マジックハンドの前記従動節に対して、前記略水平内向きの対称運動をそれぞれ伝達することによって、複数個の前記マジックハンドを連動して伸長させる
ことを特徴とする昇降機構付きホールカップ。
【請求項3】
請求項2記載の昇降機構付きホールカップであって、
2つの前記昇降機構(以下『昇降機構A,B』という)が、前記ホールカップの中心軸を挟んで配置され、
前記伝達機構部は、
前記昇降機構A,Bごとに、
原動部と共に下降する支点と、
前記支点を回り対偶に連結し、前記支点の下降力を前記略水平内向きの対称回動運動に変換するV字状節と、
前記V字状節と前記従動節とを連結して前記対称回動運動を前記従動節に伝達する媒介部材と、
前記媒介部材の前記対称回動運動を略水平内向きの動きに案内するスライドカムとを備える
ことを特徴とする昇降機構付きホールカップ。
【請求項4】
請求項3記載の昇降機構付きホールカップであって、
2つの前記昇降機構A,Bに対して略90度の方向に、前記ホールカップの中心軸を挟んでさらに2つの昇降機構(以下『昇降機構C,D』という)を備え、
前記伝達機構部は、
前記昇降機構A,Bごとの前記スライドカムを、前記昇降機構C,Dの前記従動節にそれぞれ連結することにより、略90度の方向に前記略水平内向きの対称運動をそれぞれ伝達することによって、前記昇降機構C,Dを前記昇降機構A,Bに連動して伸張させる
ことを特徴とする昇降機構付きホールカップ。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の昇降機構付きホールカップであって、
前記旗竿の押し下げによって前記ボール受け皿が上昇すると、前記ボール受け皿を上昇した状態に係止し、前記旗竿の押し下げが終了した後も前記ボール受け皿を上昇した状態に維持する係止機構と、
前記係止機構が解除した状態において、前記旗竿および前記原動部を押し下げ前の位置に復帰させる付勢力によって、前記伝達機構部を介して複数個の前記昇降機構を収縮させて前記ボール受け皿を下降させる付勢部と
を備えたことを特徴とする昇降機構付きホールカップ。
【請求項6】
請求項5に記載の昇降機構付きホールカップであって、
前記係止機構は、
前記ボール受け皿に前記ボールの自重がかかることによって変位する係合部と、
前記ボール受け皿が上昇した状態において、変位した係合部と係止する受け部とを備えた
ことを特徴とする昇降機構付きホールカップ。
【請求項7】
請求項6記載の昇降機構付きホールカップであって、
前記ボール受け皿は、
周方向に分割された複数の扇状部材を備え、
前記係止機構は、前記扇状部材ごとに、前記ボールの自重によって前記扇状部材を前記ホールカップの内向きに傾斜可能にする傾斜機構を備え、
前記係合部は、前記扇状部材それぞれの外縁に設けられ、前記扇状部材が内向きに傾斜することによって前記扇状部材の外周域へはみ出す
ことを特徴とする昇降機構付きホールカップ。
【請求項8】
請求項7記載の昇降機構付きホールカップであって、
前記扇状部材それぞれの上面に凹状の窪み部を備え、
凹状の前記窪み部に前記ボールを捉えることによって、隣接する前記扇状部材の境界上に前記ボールが位置しない
ことを特徴とする昇降機構付きホールカップ。
【請求項9】
請求項7または8に記載の昇降機構付きホールカップであって、
一の前記扇状部材の傾斜に連動して、その他の前記扇状部材を傾斜させる連結機構をさらに備え、
前記係止機構は、前記連結機構により全ての前記扇状部材が一斉に係止状態になる
ことを特徴とする昇降機構付きホールカップ。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の昇降機構付きホールカップであって、
前記ボール受け皿の上昇速度および外向き傾斜角度の少なくとも一方を抑制することにより、前記ボール受け皿の上昇停止時に前記ボール受け皿からの前記ボールの急激な排出を防止する排出抑制手段を備える
ことを特徴とする昇降機構付きホールカップ。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の昇降機構付きホールカップであって、
前記ボール受け皿の下側側面を覆う内周壁と、
前記内周壁と前記ホールカップとの隙間に設けたダスト収集ポケットと、
前記ダスト収集ポケットに集まったダストを排出するためのダスト排出機構と
を備えたことを特徴とする昇降機構付きホールカップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昇降機構付きホールカップに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ゴルフにおいて使用されるホールカップとして、カップインしたゴルフボールをホール外に排出するホールカップが開示されている。
【0003】
例えば、特許文献1の[請求項4]および[
図6]には、「旗竿の押し下げによって下方向に押し下げられる可動部と、前記可動部によって片方向に回動するテコと、前記テコによって片手側を押されて伸張するマジックハンドと、前記マジックハンドによって上昇する断面傘状の底板部とを備え、前記底板部の断面傘状の傾斜によってゴルフボールを地上付近まで押し上げて、ゴルフボールをカップ内からグリーンへ排出(放出)することを特徴とするゴルフボール放出装置付きゴルフカップ」が開示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した特許文献1の技術では、ホールカップの中央に旗竿を立てるため、昇降する底板部の中央に旗竿を通す中央穴を設ける。そのため、底板部の中央穴を避けて外周寄りをマジックハンドで下から押し上げることになる。
【0006】
このような偏った力のかけ方では、底板部に対してバランス良く均等な上昇力をかけることができず、底板部を斜め向きに無理に押し上げようとするなど、マジックハンドからの力の伝達に損失ロスが多いという問題があった。
【0007】
さらに、底板部を垂直方向にスライドさせるためのガイド機構の摺動部分に対して、このような斜め向きの無理な力がかかると、摺動部分にガタが生じやすく円滑に動かなくなるなどのおそれが懸念される。
【0008】
そこで、本発明は、ボールを上昇させるための力をバランス良く伝達することが可能な昇降機構付きホールカップを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の代表的な昇降機構付きホールカップの一つは、ホールカップ、ボール受け皿、原動部、複数個の昇降機構、および伝達機構部を備える。
前記ホールカップは、ホールに配置される。
前記ボール受け皿は、前記ホールカップの内部においてボールを受ける。
前記原動部は、前記ホールカップの中心軸に沿って旗竿(ピン)を支え、前記旗竿を押し下げる力によって下降する。
複数個の前記昇降機構は、前記ボール受け皿を周方向に複数の支持箇所でそれぞれ支持する。
前記伝達機構部は、前記原動部の下降力を分解して変換し、複数個の前記昇降機構それぞれに上昇力として伝達する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ボール受け皿を周方向の複数の支持箇所でそれぞれ支持する複数個の昇降機構を介して、ボールを上昇させるための力をボール受け皿にバランス良く伝達することが可能になる。
【0011】
なお、ここに記載する以外の課題、構成および効果については、以下の実施形態の説明において、さらに詳しく説明される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、昇降機構付きホールカップ100の受け皿下降時の内部構成を示す図である。
【
図2】
図2は、昇降機構付きホールカップ100の受け皿上昇時の内部構成を示す図である。
【
図3】
図3は、昇降機構付きホールカップ100の駆動部分の要部を示す図である。
【
図4】
図4は、昇降機構付きホールカップ100の動作を説明するための流れ図である。
【
図5】
図5は、ボール受け皿120の上昇動作を説明する図である。
【
図6】
図6は、媒介部材153の動きと、スライドカム154の動きとの関係を説明する図である。
【
図7】
図7は、係止機構170の係止動作を説明する図である。
【
図8】
図8は、実施例2の構成と動作を説明する図である。
【
図9】
図9は、実施例3の構成と動作を説明する図である。
【
図10】
図10は、ダスト排出機構340の構成と動作を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施例を説明する。
【実施例0014】
<実施例1の構成>
図1は、昇降機構付きホールカップ100の受け皿下降時の内部構成を示す図である。
図2は、昇降機構付きホールカップ100の受け皿上昇時の内部構成を示す図である。
図3は、昇降機構付きホールカップ100の駆動部分の要部を示す図である。
これら
図1~
図3に示す機構変化を踏まえて、昇降機構付きホールカップ100の内部構成を説明する。
【0015】
まず、昇降機構付きホールカップ100は、ホールカップ110、ボール受け皿120、原動部130、複数個の昇降機構A~D、伝達機構部150、付勢部160、係止機構170、およびフレーム構造180を備える。
【0016】
ホールカップ110は、例えば、ゴルフのルールに規定される内径4.25インチ(108mm)のパイプ材である。ホールカップ110は、その他の機構全体を収容する筐体の役割も果たし、グリーンに掘られたホール内に挿置される。
【0017】
ボール受け皿120は、ホールカップ110にカップインするゴルフボールGを受け止めるための受け皿である。下降時(
図1参照)のボール受け皿120は、例えば、ゴルフのルールに規定されるグリーン深さ4.0インチ(101.6mm)以上の深さに位置するように配置される。ボール受け皿120の中央には、旗竿Pを支持する原動部130を通すための中央穴が開口される。
【0018】
ボール受け皿120は、周方向に分割された複数の扇状部材121と、複数の扇状部材121を下から支える受け皿台122とを備える。
【0019】
この扇状部材121は、受け皿台122に対し、後述する傾斜機構171を介して配置される。そのため、扇状部材121はゴルフボールGの自重を受けると、内向きに傾斜する。この変形によって、ボール受け皿120は内向きにゴルフボールGを保持する。このボール保持動作によって、グリーンまで上昇したボール受け皿120から、ゴルフボールGがグリーン上に勝手に放出(排出)されることはない。
【0020】
なお、扇状部材121それぞれの上面には、両隣の扇状部材121との中間の中途半端な位置(隣接する扇状部材121の境界上)にゴルフボールGが位置することがないよう、凹状の窪み部121aが形成される。窪み部121aは、扇状部材121を上から見て、扇状に形成された窪み形状である。
【0021】
原動部130の上端部分は、旗竿Pの下端部分が嵌合するように形成され、ホールカップ110の中心軸に沿って旗竿Pをなるべく垂直に支持する。この原動部130の下端部分には付勢部160が配置される。ユーザが旗竿Pを押し下げると、原動部130は付勢部160の付勢力に抗して、例えば18mmほど下降する。
【0022】
複数個の昇降機構A~Dは、ボール受け皿120の受け皿台122の下面の外周域を、周方向に90度ずつの支持箇所でそれぞれ支持する。その結果、昇降機構A,Bは、ホールカップ110の中心軸を挟んで対向配置される。また、昇降機構C,Dも、ホールカップ110の中心軸を挟んで対向配置される。
【0023】
これら昇降機構A~Dそれぞれは、X字状のリンクを一方向に多段連結したマジックハンドである。マジックハンドそれぞれの中央一番上の対偶は、受け皿台122の下面に対して回動自在に固定される。マジックハンドそれぞれの中央一番下の対偶は、後述するスライドレール群186の固定レール187の裏側に回動自在に固定され、固定中心142を構成する。この固定中心142それぞれには、斜め左右にリンクを延長する形でX字状の従動節143が回動自在に設けられる。
【0024】
伝達機構部150は、昇降機構A,Bそれぞれに対して、支点151、V字状節152、媒介部材153、およびスライドカム154をそれぞれ備える。
【0025】
支点151は、原動部130と共に上昇下降する作用点(回動軸)であって、昇降機構A,Bに向かい合う向きにそれぞれ設けられる。
【0026】
V字状節152は、支点151それぞれを回り対偶に連結したV字状のリンクであって、昇降機構A,Bに向かい合う位置にそれぞれ設けられる。これらのV字状節152は支点151それぞれの下降力を略水平内向きの対称回動運動に変換することができる。
【0027】
一対の媒介部材153は、昇降機構A,Bの従動節143と、水平方向に離間したV字状節152とをそれぞれ連結することによって、略水平内向きの対称回動運動を昇降機構A,Bの従動節143それぞれに伝達する。
【0028】
スライドカム154は、昇降機構A,Bそれぞれに対して設けられ、一対の媒介部材153の対称回動運動を略水平向きの動きに案内する。
【0029】
さらに、昇降機構A,Bそれぞれのスライドカム154の両端部分は、昇降機構C,Dの従動節143に対してそれぞれ連結される。この場合、スライドカム154の一対は、媒介部材153の動きに案内されることにより、昇降機構C,Dの従動節143に対して略水平内向きの対称運動を伝達する(
図3参照)。
【0030】
このような機構によって、伝達機構部150は、原動部130を押し下げる下降力を支点151に分解してV字状節152の略水平内向きの対応運動に変換し、媒介部材153やスライドカム154を介して昇降機構A~Dそれぞれの従動節143に伝達することによって、昇降機構A~Dを連動して伸長させる。その結果、ボール受け皿120は水平にバランス良く上昇する(
図3参照)。
【0031】
付勢部160は、原動部130の下端を支える弾性部材(弦巻バネなど)や電動アクチュエータなどで構成され、旗竿Pおよび原動部130を下降前の位置に復帰させる付勢力を発生する。
【0032】
係止機構170は、扇状部材121ごとに、傾斜機構171、係合部172、および受け部173をそれぞれ備える。
【0033】
傾斜機構171は、ゴルフボールGの自重がかかると、扇状部材121を内向きに傾斜させる。なお、ゴルフボールGの自重が作用しなくなると、扇状部材121の重量バランスまたは傾斜機構171の傾斜を水平に戻すコイルバネなどの作用によって、扇状部材121は水平の位置に復帰する。
【0034】
係合部172は、扇状部材121それぞれの外縁部分に設けられた凸部であって、扇状部材121の内向き傾斜に伴って回動し、凸部が扇状部材121の外周域へはみ出す(
図2参照)。
【0035】
受け部173は、はみ出した係合部172と係合する穴部または凹部であって、ボール受け皿120を上昇した位置に係止する(
図2参照)。
【0036】
フレーム機構180は、プレート181~183、支柱群184、支柱群185、固定レール187と摺動部材188との組み合わせからなるスライドレール群186、および円筒部材181aを備える。
【0037】
プレート181は、下降時の受け皿台122に対して、その直下に位置するよう固定された水平プレートである。このプレート181には、原動部130や昇降機構A~Dや摺動部材188に接触しないように、穴パターンが適宜に設けられる(
図2参照)。さらに、プレート181には、スライドレール群186の固定レール187の上端部が固定される。
【0038】
プレート182は、プレート181とプレート183との間に固定される水平プレートである。このプレート182には、原動部130やスライドレール群186に接触しないように穴パターンが適宜に設けられる(
図2参照)。
【0039】
プレート183は、ホールカップ110の底を構成する水平プレートである。
プレート183には、付勢部160の下端部が固定される。また、プレート183には、スライドレール群186の固定レール187の下端部が固定される。
【0040】
支柱群184は、プレート181とプレート182との間に固定配置される複数本の支柱である。また、支柱群185は、プレート182とプレート183との間に固定配置される複数本の支柱である。
【0041】
スライドレール群186は、昇降機構A~Dの伸縮を垂直方向にガイドする。スライドレール群186それぞれは、プレート181とプレート183との間に固定される固定レール187と、受け皿台122の下面を支えながらボール受け皿120の上昇下降に応じて固定レール187をスライドする摺動部材188とを備える(
図2参照)。
【0042】
プレート181、円筒部材181a、およびプレート182において、原動部130を通す中央穴の内側面には、突起または溝が設けられる。この突起や溝に対して、原動部130の垂直方向に設けたガイド溝またはガイド突部がスライドする。このガイド機能によって、原動部130が上昇下降する際に生じるねじれが、プレート181、円筒部材181a、およびプレート182の3箇所で防止される。
なお、プレート181や円筒部材181aやプレート182の中央穴を、原動部130の軸受けとして機能させることによって、原動部130を垂直方向に上昇下降するようにガイドしてもよい。しかしながら、原動部130には、ユーザが旗竿Pを介して斜め向きに無理な押し下げを行う場合も想定される。この場合、プレート181や円筒部材181aやプレート182の軸受け箇所と原動部130とが当たって干渉したり、削れて摩耗したりする危惧がある。そのような場合には、プレート181や円筒部材181aやプレート182の中央穴には、原動部130の側面域と面接触しないだけの十分な遊びを設けることが好ましい。
【0043】
なお、ホールカップ110およびフレーム構造180には、雨水などの水抜き用の穴が設けられる。
【0044】
また、昇降機構付きホールカップ100は、ボール受け皿120の上昇速度を抑制することによって、ボール受け皿120の上昇停止時の急停止を防止して、ボール受け皿120からゴルフボールGが慣性で飛び出さないようにする排出抑制手段を備える。
【0045】
例えば、付勢部160が原動部130の下降に抵抗する力を調整することによって、ボール受け皿120の上昇速度を抑制することで、排出抑制手段が実現する。
【0046】
また、ボール受け皿120の上昇時に作用する抵抗力(昇降機構A~Dやスライドレール群186やボール受け皿120などの摩擦力など)を調整することによって、ボール受け皿120の上昇速度を抑制することで、排出抑制手段が実現する。
【0047】
さらに、ボール受け皿120の上昇停止の前に、ボール受け皿120の上昇速度を緩やかに減速させる干渉部材(弾性部材や衝撃吸収部材など)を配置することで、排出抑制手段が実現する。
【0048】
<実施例1の動作>
続いて、実施例1の動作について説明する。
【0049】
図4は、昇降機構付きホールカップ100の動作を説明するための流れ図である。なお、
図4では、説明を分かりやすくするため、同時に連動する動作についても因果関係に基づいて段階的に記述している。
図5は、ボール受け皿120の上昇動作を説明する図である。
図6は、媒介部材153の動きと、スライドカム154の動きとの関係を説明する図である。
図7は、係止機構170の係止動作を説明する図である。
以下、これらの図を参照しつつ、
図4に示すステップ番号の順に沿って説明する。
【0050】
ステップS001: ゴルフボールGがホールカップ110にカップインした後、ユーザは旗竿Pを押し下げる。
【0051】
ステップS002: 旗竿Pの押し下げに伴って、原動部130が付勢部160の付勢力に抗しながら降下する。原動部130が降下することにより、支点151も降下する。この支点151の降下によって、昇降機構A,Bの固定中心142と支点151との垂直間距離が延引される。この延引距離に従って、昇降機構A,BのX字状リンクの段数分だけ延引距離を増倍した距離だけ、昇降機構A、Bは固定中心142から上向きに伸長する(
図5参照)。
【0052】
ステップS003:
図6に図示するように、媒介部材153とスライドカム154との両軌道は同じ高さに拘束されるため、両軌道の中心高さは常に等しくなる。このような作用によって、媒介部材153に連結される昇降機構A,Bの従動節143の対称回動量と、スライドカム154に連結される昇降機構C、Dの従動節143の対称回動量は常に等しい関係になる。そのため、昇降機構C、Dも昇降機構A,Bと等しく上向きに伸長する(
図5参照)。
【0053】
ステップS004: 昇降機構A~Dが一斉に等しく伸長することによって、受け皿台122が水平を保ちながら、略垂直に上昇する。
【0054】
ステップS005: ゴルフボールGの自重によって、扇状部材121が内向きに傾斜して係合部172が外周域にはみ出す。ボール受け皿120が上昇し切った位置において、はみ出した係止部172が、受け部173に係止する(
図7参照)。
【0055】
ステップS006: ユーザは、旗竿Pの押し下げをやめる。このとき、上述した排出抑制手段の作用によって、ボール受け皿120の上昇速度は抑制されるため、ボール受け皿120の急停止は防止される。そのため、ボール受け皿120からゴルフボールGが慣性で飛び出すことはない。
【0056】
ステップS007: 係止部172が受け部173に係止するため、旗竿Pの押し下げをやめても、ボール受け皿120は上昇状態を維持する。
また、ゴルフボールGの自重によって、扇状部材121に内向きに傾斜するため、上昇状態のボール受け皿120からゴルフボールGが勝手にグリーン上に放出されることはない。
【0057】
ステップS008: 上昇状態を維持するボール受け皿120から、ユーザがゴルフボールGを取り出す。
【0058】
ステップS009: ゴルフボールGの取り出しによってボールの自重が作用しなくなるため、内向きに傾斜していた扇状部材121は水平に戻り、係合部172と受け部173との係止が解除される。
【0059】
なお、係合部172と受け部173との係止が強くて、扇状部材121がそのままでは水平に戻らない機構の場合は、ユーザが旗竿Pをさらに一瞬だけ押し下げることによって上昇状態のボール受け皿120をわずかに上昇させればよい。この場合、係合部172がわずかに上昇して受け部173との係止箇所に隙間が与えられることによって、扇状部材121が水平に戻り、係合部172と受け部173との係止を解除することが可能になる。
【0060】
ステップS010: 付勢部160の復元力によって、旗竿Pおよび原動部130が押し下げ前の位置に戻る。
【0061】
ステップS011: 原動部130が押し下げ前の位置へ戻る(上昇する)ことにより、支点151も上昇する。この支点151の上昇によって、昇降機構A,Bの固定中心142と支点151との垂直間距離が収縮される。この収縮距離に従って、昇降機構A,BのX字状リンクの段数分だけ収縮距離を増倍した距離だけ、昇降機構A、Bは固定中心142から下向きに収縮する。
【0062】
さらに、スライドカム154を介して、昇降機構C、Dの従動節143にも等しく収縮距離が伝達されることによって、昇降機構C、Dも昇降機構A,Bと等しく下向きに収縮する。
【0063】
このような伝達機構部150の作用により、昇降機構A~Dが一斉に等しく収縮することによって、受け皿台122は水平を保ちながら下降し、ボール受け皿120は最初の位置に戻る。
【0064】
<本実施例1の効果>
上述した構成および動作によって、本実施例1は次の効果を奏する。
【0065】
(1)本実施例1では、複数個の昇降機構A~Dを備えることによって、ボールを上昇させるための力をボール受け皿120にバランス良く伝達することが可能になる。そのため、ボール受け皿120を斜め向きに無理に押し上げることがなくなり、力の伝達ロスを削減できる。したがって、本実施例1は、ボール受け皿120にバランス良く力を伝達できるという点で優れている。
【0066】
(2)本実施例1では、複数個の昇降機構A~Dによって、受け皿台122を略水平に保って上昇させることができる。そのため、ボール受け皿120を垂直方向にガイドするスライドレール群186に対して斜め向きの無理な力がかかることがなく、スライドレール群186の摺動部分を円滑に動かすことが可能になる。したがって、本実施例1は、垂直方向に摺動する部分がガタつかず、円滑に動くという点で優れている。
【0067】
(3)特許文献1の技術では、旗竿の押し下げによって片方向に回動するテコを用いてマジックハンドの片手側を押す。そのため、マジックハンドに作用する力が片手側に偏るため、力の伝達ロスが生じやすいという懸念があった。
しかしながら、本実施例1では、伝達機構部150が、原動部130の下降力を略水平内向きの対称運動にそれぞれ変換し、複数個の昇降機構A~D(マジックハンド)の従動節143に対して、略水平内向きの対称運動をそれぞれ伝達する。そのため、本実施例1は、マジックハンドの両手側に均等に力を伝達するので、力の伝達ロスが少ない点で優れている。
【0068】
(4)本実施例1では、スライドカム154と媒介部材153とが、互いの軌道を制限することによって、略水平内向きの対称運動以外の余計な動き(ねじれやズレなど)をお互いに打ち消し合う。そのため、本実施例1は、高精度な略水平内向きの対称運動を用いて複数個の昇降機構A~Dを駆動できるという点において優れている。
【0069】
(5)原動部130が降下する力を複数個の昇降機構A~Dに直接に分配した場合、原動部130の近傍に複数個の組(この場合は4組)の伝達機構を並列に配置しなければならず、原動部130付近の狭いスペースに伝達機構が過度に集中して機械のレイアウト設計が困難になる。
しかしながら、本実施例1では、原動部130の付近には、2つの昇降機構A,Bに向けてV字状節152を2個配置すればよい。この2個のV字状節152から、比較的スペースに余裕がある周方向に配置される媒介部材153を介して、2つの昇降機構A,Bに力を伝達する。
さらに、この2個のV字状節152から、比較的スペースに余裕がある周方向に配置される媒介部材153およびスライドカム154を介して、水平90度に力の伝達方向を転回させて(
図6参照)、残りの2つの昇降機構C,Dにも力を伝達する。
したがって、本実施例1は、原動部130の近傍の狭いスペースに伝達機構が過度に集中しない点で優れている。
【0070】
(6)本実施例1では、原動部130の近傍の狭い領域には、縦置き可能で厚みを取らない2つのV字状節152を配置し、周方向の比較的スペースに余裕がある領域には、水平方向に可動する媒介部材153およびスライドカム154を配置する。さらに、4個の昇降機構A~Dとして、厚みを取らず、かつ高い縮長比を可能にするマジックハンドを採用する。このように、本実施例1では、機構全体のスペース配分がうまく図られている。
そのため、本実施例1は、複数個の昇降機構A~Dとその伝達機構部150を搭載しているにもかかわらず、機構全体のスペース配分によってホールカップの深さ(ボール受け皿120から底までの長さ)を比較的短くできるという点で優れている。
【0071】
(7)本実施例1では、係止機構170によってボール受け皿120を上昇した状態に係止するため、ユーザが旗竿Pの押し下げをやめてもボール受け皿120は上昇した状態に維持される。そのため、ユーザは、旗竿Pから手を離した状態で、上昇状態のボール受け皿120からゴルフボールGを取り出すことが可能になる。そのため、本実施例1は、旗竿Pから手を離した状態でゴルフボールGが取り出しやすいという点で優れている。
【0072】
(8)本実施例1では、ゴルフボールGの自重によって係合部172が外周域にはみ出すことによって受け部173に係止する。
そのため、ボール受け皿120にゴルフボールGがない状態では、係止機構170は働かない。この非係止の状態では、ユーザが旗竿Pから手を離すと同時に、ボール受け皿120はそのまま下降して元に位置に戻る。そのため、本実施例1は、ゴルフボールGがカップインしていない状態において、ユーザは旗竿Pから手を離すだけでボール受け皿120を元の位置に戻すことができるという点で優れている。
【0073】
(9)本実施例1では、係止機構170によって上昇状態を維持するボール受け皿120からゴルフボールGを取り出すことによって係止を解除することも可能である。この場合、本実施例1は、ユーザがゴルフボールGをボール受け皿120から取り上げると共に、ボール受け皿120が元の位置に自動的に戻るという点で優れている。
【0074】
(10)特許文献1の技術では、上昇した底板部(ボール受け皿)の断面傘状の傾斜によってゴルフボールGをカップ内からグリーンへ自動的に放出する。そのため、放出されたゴルフボールGが転がるコースによって、グリーンの凹凸や傾斜や芝目が、その他のユーザに読み取られるという懸念があった。
しかしながら、本実施例1では、内向きに傾斜した扇状部材121によってゴルフボールGをボール受け皿120に保持するため、上昇したボール受け皿120から勝手にゴルフボールGがグリーンに放出されることがない。そのため、本実施例1は、ゴルフボールGの放出によってグリーンの凹凸や傾斜や芝目がその他ユーザに読み取られることがないという点で優れている。
【0075】
(11)さらに、本実施例1では、排出抑制手段の作用によって、ボール受け皿120の上昇速度は抑制され、ボール受け皿120の急停止は防止される。そのため、ボール受け皿120からゴルフボールGが慣性で勢いよく飛び出すことがない。そのため、勢いよく飛び出したゴルフボールGが勝手な方向に転がって近くの池に落ちるなどの心配が少ない。すなわち、本実施例1は、排出抑制手段の作用によってボール受け皿120の上昇停止時にゴルフボールGが慣性で飛び出さないという点で優れている。
【0076】
(12)一般に、水平に静止した状態の扇状部材121が傾斜を開始する契機として、傾斜機構171に対して、静止摩擦モーメントを含む抵抗分を上回る大きな荷重モーメントをかける必要がある。このとき、隣り合う扇状部材121の境界上にゴルフボールGが位置すると、ゴルフボールGの自重が2つの傾斜機構171に分散されるため、それぞれの傾斜機構171にかかる荷重モーメントは不足し、傾斜開始は起こりづらい。
しかしながら、本実施例1では、扇状部材121それぞれの上面に凹状の窪み部121aが形成される。この窪み部121aがゴルフボールGを捉えることによって、ゴルフボールGの自重を単一の傾斜機構171にかけることが可能になり、扇状部材121を傾斜開始させるに十分な荷重モーメントが作用する。すなわち、本実施例1は、扇状部材121それぞれの上面に凹状の窪み部121aを形成することによって、扇状部材121は確実に傾斜開始できるという点で優れている。
【0077】
(13)近年のゴルフルールの改正によって、旗竿Pをホールに立てた状態で、パッティングを行うことが可能になった。そのため、旗竿Pをホールカップ110に立てた状態で、ホールカップ110からゴルフボールGを取り出す機会が増えるものと思われる。しかしながら、旗竿Pをホールカップ110に立てた状態では、ホールカップ110に手を入れることが難しい。
しかしながら、本実施例1によれば、立てた状態の旗竿Pを18mmほど押し下げるだけで、ゴルフボールGを乗せたボール受け皿120が上昇するため、旗竿Pを立てたままのホールカップ110からゴルフボールを取り出す作業が格段に容易になる。
このような連結機構210の動作によって、全ての扇状部材121において係合部172が外周域に一斉にはみ出すため、全ての扇状部材121が一斉に係止状態になる。
(1)本実施例2では、連結機構210によって全ての扇状部材121を一斉に係止状態にすることができる。そのため、本実施例2は、ボール受け皿120を、周方向の複数箇所でバランス良くかつ強力に係止できるという点で優れている。