(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022030943
(43)【公開日】2022-02-18
(54)【発明の名称】プラントおよび水素製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 3/26 20060101AFI20220210BHJP
【FI】
C01B3/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020135281
(22)【出願日】2020-08-07
(71)【出願人】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】蓑田 愛
(72)【発明者】
【氏名】清家 匡
(72)【発明者】
【氏名】前田 征児
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 英輝
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 直
(72)【発明者】
【氏名】井上 淳
【テーマコード(参考)】
4G140
【Fターム(参考)】
4G140DA03
4G140DB05
(57)【要約】
【課題】有機ハイドライドから水素を製造する新たな技術を提供する。
【解決手段】プラント1は、改質原料油を貯留する改質原料油タンク8と、有機ハイドライドを貯留する有機ハイドライドタンク16と、改質原料油タンク8中の改質原料油および有機ハイドライドタンク16中の有機ハイドライドが直接または間接的に供給され、触媒反応により改質原料油および有機ハイドライドから改質物、有機ハイドライドの脱水素化体および水素を生成する接触改質装置10と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
改質原料油を貯留する改質原料油タンクと、
有機ハイドライドを貯留する有機ハイドライドタンクと、
前記改質原料油タンク中の改質原料油および前記有機ハイドライドタンク中の有機ハイドライドが直接または間接的に供給され、触媒反応により改質原料油および有機ハイドライドから改質物、有機ハイドライドの脱水素化体および水素を生成する接触改質装置と、
を備えるプラント。
【請求項2】
前記接触改質装置から回収され有機ハイドライドの製造に用いられる有機ハイドライド原料を貯留する原料タンクを備える請求項1に記載のプラント。
【請求項3】
改質原料油の接触改質装置に有機ハイドライドを直接または間接的に供給し、
前記接触改質装置における触媒反応により、有機ハイドライドを脱水素化して水素を製造することを含む水素製造方法。
【請求項4】
有機ハイドライドの製造に用いられる有機ハイドライド原料を前記接触改質装置から回収することを含む請求項3に記載の水素製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラントおよび水素製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、水素を大規模輸送、貯蔵するためのエネルギーキャリアとして、有機ハイドライドが注目されている。例えば特許文献1には、芳香族化合物を水素化して有機ハイドライドを生成し、生成した有機ハイドライドを脱水素反応装置に輸送し、脱水素反応装置で有機ハイドライドを脱水素化して水素を取り出す水素輸送貯蔵システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の水素輸送貯蔵システムでは、有機ハイドライドから水素を取り出す、つまり水素を製造するために、専用の脱水素反応装置を用いていた。これに対し、本発明者は鋭意検討を重ねた結果、専用の脱水素反応装置を用いずに有機ハイドライドから水素を製造する新たな技術を見出した。
【0005】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、有機ハイドライドから水素を製造する新たな技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様は、プラントである。このプラントは、改質原料油を貯留する改質原料油タンクと、有機ハイドライドを貯留する有機ハイドライドタンクと、改質原料油タンク中の改質原料油および有機ハイドライドタンク中の有機ハイドライドが直接または間接的に供給され、触媒反応により改質原料油および有機ハイドライドから改質物、有機ハイドライドの脱水素化体および水素を生成する接触改質装置とを備える。
【0007】
本発明の他の態様は、水素製造方法である。この水素製造方法は、改質原料油の接触改質装置に有機ハイドライドを直接または間接的に供給し、接触改質装置における触媒反応により、有機ハイドライドを脱水素化して水素を製造することを含む。
【0008】
以上の構成要素の任意の組合せ、本開示の表現を方法、装置、システムなどの間で変換したものもまた、本開示の態様として有効である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、有機ハイドライドから水素を製造する新たな技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。各図面に示される同一又は同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図に示す各部の縮尺や形状は、説明を容易にするために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。また、本明細書または請求項中に「第1」、「第2」等の用語が用いられる場合には、この用語はいかなる順序や重要度を表すものでもなく、ある構成と他の構成とを区別するためのものである。また、各図面において実施の形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
【0012】
本発明者は、有機ハイドライドから水素を製造する方法として、専用の脱水素反応装置に代えて既存の設備を利用することを模索した。そして、製油所の接触改質装置を利用することに想到した。石油精製プロセスでは、接触改質装置でナフサ等の改質原料油を改質して、高オクタン価の改質ガソリン等の改質物を生成している。
【0013】
より詳細には、接触改質装置において、改質原料油に含まれるパラフィンの環化脱水素反応やナフテンの脱水素反応が起こる。これにより、ベンゼン、トルエンおよびキシレン(いわゆるBTX)等の芳香族化合物に富む改質ガソリンを含む改質物と、副生成物としての水素とが生成される。したがって、接触改質装置を用いることで、改質原料油の改質処理とともに有機ハイドライドの脱水素処理を実施することができる。
【0014】
図1は、実施の形態に係るプラント1の模式図である。本実施の形態のプラント1は、石油精製プラントであり、原油タンク2、常圧蒸留装置4、水素化脱硫装置6、改質原料油タンク8、接触改質装置10、水素利用装置12、水素製造装置14等を備える。製油所の規模等によって一部の設備の省略や、他の設備の追加等も可能である。プラント1が備えるこれらの設備は公知であるため、詳細な説明を適宜省略する。
【0015】
原油タンク2には、原油が貯留される。原油タンク2内の原油は、脱塩、脱水、固形分除去等の処理が施され、所定温度まで加熱されて、常圧蒸留装置4に供給される。常圧蒸留装置4は、供給された原油をオフガス、LPG、ナフサ、灯油、軽油、重油等の各留分に分離する。常圧蒸留装置4で分留されたナフサは、水素化脱硫装置6に供給される。水素化脱硫装置6に供給されるナフサは、主に重質ナフサである。
【0016】
水素化脱硫装置6は、ナフサに脱硫処理を施す。脱硫処理としては、例えば水素存在下、反応温度280~350℃、水素分圧0.5~10MPaG、液空間速度(LHSV)1.0~8.0h-1、水素/油比10~150NL/Lの反応条件で、ナフサを水素化精製触媒と接触させる処理が挙げられる。脱硫処理が施されたナフサは、改質原料油として改質原料油タンク8に貯留される。
【0017】
また、改質原料油タンク8に貯留される改質原料油には、接触分解ガソリン(CCG)が含まれてもよい。接触分解ガソリンには、沸点範囲が30~100℃程度の軽質接触分解ガソリンや、沸点範囲が100~200℃程度の重質接触分解ガソリンが含まれる。接触分解ガソリンは、例えば常圧蒸留装置4に接続される流動接触分解装置によって生成し、改質原料油タンク8に供給することができる。なお、接触分解ガソリンの製造方法は特に限定されず、接触分解装置、原料、運転条件等は公知のものを採用することができる。一例としては、無定形シリカアルミナ、ゼオライト等の触媒を使用して、軽油から減圧軽油までの石油留分、重油間接脱硫装置から得られる間脱軽油、重油直接脱硫装置から得られる直脱重油、常圧残さ油等を接触分解して、接触分解ガソリンを製造する方法が例示される。なお、改質原料油として接触分解ガソリンのみが用いられてもよい。
【0018】
改質原料油タンク8内の改質原料油は、接触改質装置10に供給される。本実施の形態では、改質原料油は、接触改質装置10に直接、つまり他の処理装置を経由せずに供給される。なお、改質原料油は、接触改質装置10に間接的に、つまり他の処理装置を経由して供給されてもよい。接触改質装置10は、改質原料油に改質処理を施して、改質物や水素等を生成する。接触改質装置10は、白金アルミナ触媒や、白金にレニウム、ゲルマニウム、すず、イリジウムなどの第二の金属を添加したバイメタリックアルミナ触媒を有する。改質処理における反応温度は、好ましくは400~600℃であり、より好ましくは450~550℃である。LHSV(液空間速度)は、好ましくは0.5~5h-1、より好ましくは1~2h-1である。反応圧力は、好ましくは0.1~2MPaであり、より好ましくは0.2~1.5MPaである。水素/油比(モル比)は、好ましくは0.5~10であり、より好ましくは1~5である。なお、接触改質装置10の運転条件や触媒の種類等は特に限定されない。
【0019】
接触改質装置10で生成される改質物には、BTX等の芳香族化合物等が含まれている。改質物は、そのままあるいは分離工程を経て、高オクタン価のガソリン基材(改質ガソリン)や化学品原料(BTX等の芳香族化合物)として用いられる。さらに、芳香族化合物の一部は、後述する有機ハイドライド原料としても利用され得る。
【0020】
接触改質装置10で生成される水素は、水素利用装置12に供給される。水素利用装置12には、水素化精製装置や水素化分解装置等が含まれる。水素化精製装置には、石油製品に用いられる基材から硫黄、窒素、酸素等の不純物を除去する装置が含まれる。基材は、常圧蒸留装置4で分離されたナフサ、灯油、軽油等であってもよい。つまり、水素化脱硫装置6も水素利用装置12に含まれ得る。
【0021】
また、水素化精製装置には、石油製品の基材に含まれる不要な不飽和炭化水素を飽和化して基材の性状を安定化させるための装置や、石油製品の基材以外の化合物に水添処理を施すための装置等も含まれ得る。水素化分解装置には、常圧蒸留装置4で分離された重質留分を水素化分解して軽質留分に変換する装置等が含まれる。
【0022】
水素利用装置12は、プラント1外に設けられてもよい。また、接触改質装置10で生成される水素は、水素発電に利用されたり、水素ステーションに供給されたりしてもよい。つまり、水素利用装置12は、水素発電装置や水素ステーション等であってもよい。水素ステーションは、水素を燃料とする燃料電池自動車等に水素を供給する設備である。接触改質装置10で生成される水素を水素ステーションに供給する場合、要求される水素の純度に応じて、接触改質装置10から得られる水素を精製してもよい。
【0023】
また、接触改質装置10で生成される水素の一部は、接触改質装置10で利用され得る。接触改質反応は脱水素反応である。このため、水素分圧が低い方が反応の進行上は有利である。しかしながら、接触改質装置10に水素を供給することで、改質触媒上へのコークの析出を抑制して、触媒の失活を抑制することができる。なお、常圧蒸留装置4で生成されるナフサ以外の留分についても、必要に応じて、脱硫処理を含む各種の精製処理等が適宜施されて、そのまま製品として、あるいは他の製品の原料(改質原料油を含む)として用いられる。また、ガソリン製造時のように、所望の性状となるようこれらの留分(精製処理等が施されたものを含む)を複数混合して、製品を製造することもある。
【0024】
水素利用装置12には、接触改質装置10からだけでなく、水素製造装置14からも水素が供給される。水素製造装置14には、原料としてオフガス、LPG、ナフサ等が供給され、燃料としてオフガス等が供給される。水素製造装置14は、水蒸気改質反応によって原料を水素および一酸化炭素に改質する。また、生成された一酸化炭素は、シフト反応によって二酸化炭素に転化され、その過程で水素が生成される。生成された水素は、水素製造装置14から水素利用装置12に供給される。これにより、水素利用装置12での水素消費量が接触改質装置10からの水素供給量を上回る場合に、水素供給量の不足を補うことができる。あるいは、接触改質装置10から水素利用装置12への水素の供給によって、水素製造装置14における水素製造量を減らすことができる。
【0025】
また、本実施の形態のプラント1は、有機ハイドライドタンク16、O2ストリッパー18および原料タンク20を備える。
【0026】
有機ハイドライドタンク16は、有機ハイドライドを貯留する。本実施の形態で用いられる有機ハイドライドとその脱水素化体は、脱水素反応/水素添加反応を可逆的に起こすことにより、水素を脱離/添加できる有機化合物であれば特に限定されず、アセトン-イソプロパノール系、ベンゾキノン-ヒドロキノン系、芳香族炭化水素系等を広く用いることができる。これらの中で、エネルギー輸送時の運搬性等の観点から、芳香族炭化水素系が好ましい。
【0027】
有機ハイドライドの脱水素化体としての芳香族炭化水素化合物は、少なくとも1つの芳香環を含む化合物であり、例えば、ベンゼン、アルキルベンゼン、ナフタレン、アルキルナフタレン、アントラセン、ジフェニルエタン等が挙げられる。
【0028】
アルキルベンゼンには、芳香環の1~4の水素原子が炭素数1~6の直鎖アルキル基または分岐アルキル基で置換された化合物が含まれる。このような化合物としては、例えばトルエン、キシレン、メシチレン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン等が挙げられる。アルキルナフタレンには、芳香環の1~4の水素原子が炭素数1~6の直鎖アルキル基または分岐アルキル基で置換された化合物が含まれる。このような化合物としては、例えばメチルナフタレン等が挙げられる。好ましい脱水素化体は、トルエンおよびベンゼンの少なくとも一方である。
【0029】
なお、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、キノリン、イソキノリン、N-アルキルピロール、N-アルキルインドール、N-アルキルジベンゾピロール等の含窒素複素環式芳香族化合物も、脱水素化体として用いることができる。また、有機ハイドライドは、1種類のみで用いられてもよいし、複数種の組み合わせで用いられてもよい。
【0030】
有機ハイドライドタンク16内の有機ハイドライドには、多量の酸素が含まれている場合がある。特に、有機ハイドライドが海上輸送等によってプラント1外から有機ハイドライドタンク16に供給される場合、多量の酸素が含まれる可能性が高い。酸素は、接触改質触媒の触媒毒となり得る。このため、有機ハイドライドは、O2ストリッパー18において酸素が除去された後に、接触改質装置10に供給される。O2ストリッパー18は、公知の構造を有する。したがって本実施の形態では、有機ハイドライドは、接触改質装置10に間接的に、つまりO2ストリッパー18を経由して供給される。なお、有機ハイドライドに含まれる酸素が許容量以下である場合には、O2ストリッパー18を省略してもよい。この場合、有機ハイドライドは、接触改質装置10に直接供給されることになる。
【0031】
図1に示すプラント1では、有機ハイドライドのライン(輸送管)が改質原料油タンク8と接触改質装置10とをつなぐラインに接続されている。したがって、改質原料油と有機ハイドライドとは、ラインブレンド方式によってライン内で混合されて、接触改質装置10に供給される。例えば、有機ハイドライドがメチルシクロヘキサンである場合、改質原料油中にもメチルシクロヘキサンが含まれるが、有機ハイドライドタンク16からメチルシクロヘキサンが接触改質装置10に供給されることで、反応物中のメチルシクロヘキサンの割合を高めることができる。なお、改質原料油と有機ハイドライドの混合方式は、ラインブレンド方式に限定されない。
【0032】
接触改質装置10は触媒反応により、改質原料油から改質物および水素を生成するとともに、有機ハイドライドから脱水素化体および水素を生成する。温度、圧力、LHSV等を含む接触改質装置10の運転条件は、接触改質装置10に供給される反応物の組成や目的とする生成物の種類等に応じて適宜調整される。また、接触改質装置10は、有機ハイドライドタンク16からの有機ハイドライドの添加量に応じて燃料ガスの供給量を変化させて反応温度を調整するといった運転を実行してもよい。
【0033】
接触改質装置10における触媒反応により、有機ハイドライド原料が生成される。接触改質装置10で生成される有機ハイドライド原料の少なくとも一部は、有機ハイドライドの製造用に接触改質装置10から回収されて原料タンク20に貯留される。なお、原料タンク20に貯留される有機ハイドライド原料の一部は、ガソリン基材や化学品の原料として用いられてもよい。回収対象の有機ハイドライド原料は、接触改質装置10から得られる生成物に蒸留分離、抽出分離、膜分離、吸着分離等の公知の処理を施すことで回収することができる。
【0034】
接触改質装置10で生成される有機ハイドライド原料としては、有機ハイドライドタンク16から供給される有機ハイドライドの脱水素化体が挙げられる。なお、有機ハイドライドタンク16から供給される有機ハイドライドの脱水素化体の一部は、原料タンク20に回収されず、つまり原料タンク20を経ずにガソリン基材や化学品の原料として用いられ得る。また、この脱水素化体と同じ化合物は、改質原料油の接触改質反応によっても生成され得る。つまり、有機ハイドライドの脱水素反応だけでなく改質原料油の接触改質反応によっても、有機ハイドライド原料は生成され得る。
【0035】
例えば、有機ハイドライドをメチルシクロヘキサンとし、回収する有機ハイドライド原料をトルエンとする。この場合、接触改質装置10では有機ハイドライド(メチルシクロヘキサン)の脱水素反応と、改質原料油の接触改質反応とのそれぞれによってトルエンが生成される。このため、原料タンク20には、有機ハイドライド由来のトルエンと改質原料油由来のトルエンとが混合された状態で貯留される。
【0036】
なお、有機ハイドライド原料は、水添反応により有機ハイドライドになる化合物であればよい。したがって、原料タンク20に回収される有機ハイドライド原料は、有機ハイドライドタンク16から供給される有機ハイドライドの脱水素化体(化合物Aとする)と、改質原料油の接触改質反応で生成される同じ化合物Aとに限定されない。例えば、有機ハイドライドタンク16から供給される有機ハイドライドの脱水素化体(化合物A)とは異なり、且つ水添反応により有機ハイドライドになる化合物Bが、改質原料油の接触改質反応によって生成される場合、当該化合物Bが単独で、あるいは化合物Aとともに原料タンク20に回収されてもよい。すなわち、有機ハイドライドタンク16から有機ハイドライドとしてメチルシクロヘキサンが供給される場合、原料タンク20に回収される有機ハイドライド原料は有機ハイドライド由来および改質原料油由来のトルエン(化合物Aに相当)に限定されず、改質原料油の接触改質反応によって生成されたベンゼンやキシレン(化合物Bに相当)等を含んでもよい。上記の通り、有機ハイドライド原料は、有機ハイドライドタンク16から供給される有機ハイドライドの脱水素化体(化合物A)および改質原料油由来の同じ化合物(化合物A)とは異なる化合物Bを含んでもよいが、原料タンク20に回収される有機ハイドライド原料は、有機ハイドライドタンク16から供給される有機ハイドライドの脱水素化体(化合物A)と、改質原料油由来の同じ化合物(化合物A)と、から構成されることが好ましい。
【0037】
原料タンク20に貯留される有機ハイドライド原料は、有機ハイドライド製造装置22に供給される。有機ハイドライド製造装置22は、有機ハイドライド原料から有機ハイドライドを製造する。好ましくは、接触改質装置10への有機ハイドライドの供給量に相当する量の有機ハイドライド原料が原料タンク20から有機ハイドライド製造装置22に供給され、有機ハイドライドの製造に利用される。
【0038】
有機ハイドライド製造装置22としては、有機ハイドライド原料に水添処理を施すことが可能な公知の装置を採用することができる。例えば、有機ハイドライド製造装置22としては、水電解等で水素を製造し、化学水素化等の水添処理により有機ハイドライドを製造する装置が挙げられる。また、有機ハイドライドの製造に用いられる水素の供給源は特に限定されない。例えば水素は、天然ガスや石炭等の化石燃料に由来するものであってもよい。また、コークス製造等の鉄鋼製造プロセスで発生する副生水素や、苛性ソーダの製造プロセスで発生する副生水素であってもよい。
【0039】
また、有機ハイドライド製造装置22の他の例としては、有機ハイドライド原料を電気化学還元反応により水素化する電解還元装置を挙げられる。電解還元装置は、電解質膜と、カソードと、アノードとを備える。電解質膜は、カソードとアノードとの間に配置されて、アノード側からカソード側にプロトンを移動させる。電解質膜は、例えばプロトン伝導性を有する固体高分子形電解質膜で構成される。カソードは、カソード触媒層を有する。カソード触媒層は、有機ハイドライド原料をプロトンで水素化して有機ハイドライドを生成する。カソード触媒層は、カソード触媒として白金やルテニウム等を有する。アノードは、水を酸化してプロトンを生成する。アノードは、アノード触媒として例えばイリジウムやルテニウム、白金等の金属、またはこれらの金属酸化物を有する。
【0040】
電解還元装置において、有機ハイドライド原料の一例としてトルエン(TL)を用いた場合に起こる反応は、以下の通りである。
<アノードでの電極反応>
3H2O→3/2O2+6H++6e-
<カソードでの電極反応>
TL+6H++6e-→MCH
【0041】
カソードでの電極反応とアノードでの電極反応とは、並行して進行する。アノードにおける水の電気分解により生じたプロトンは、電解質膜を介してカソード触媒層に供給される。また、水の電気分解により生じた電子は、外部回路を介してカソード触媒層に供給される。カソード触媒層に供給されたプロトンおよび電子は、カソード触媒層においてトルエンの水素化に用いられる。これにより、メチルシクロヘキサン(MCH)が生成される。
【0042】
有機ハイドライド製造装置22の電力源は、好ましくは太陽光、風力、水力、地熱発電等で得られる再生可能エネルギーである。再生可能エネルギー由来の電力で有機ハイドライドを製造することで、水素の製造過程での二酸化炭素排出量を抑制することができる。つまり、いわゆるCO2フリー水素を製造することができる。なお、再生可能エネルギー発電は、気候条件により発電量が変化するため、電力需要量以上に発電することがある。そこで、有機ハイドライド製造装置22は、このような発電所の余剰電力が発生した場合のみ運転するなど、余剰電力を有効活用する運用形態で用いられてもよい。また、再生可能エネルギーを用いない場合であっても、二酸化炭素回収・貯留技術(CCS:Carbon dioxide Capture and Storage)や増進回収法(EOR:Enhanced Oil Recovery)を組み合わせて、水素の製造時に発生する二酸化炭素を回収、貯留することで、二酸化炭素排出量の削減効果が期待できる。したがって、CCSやEORとの組み合わせで製造される水素を用いてもよい。増進回収法とは、自噴しなくなったり油層の含水率が上がったりした油田に二酸化炭素を圧入して、当該油田の残存原油を回収する方法である。
【0043】
有機ハイドライド製造装置22の設置場所は制限されない。再生可能エネルギーが用いられる場合、有機ハイドライド製造装置22は、再生可能エネルギーの生成効率が高い場所に設置される発電所の近隣に設けられ得る。また、副生水素を用いる場合やCCS、EORを組み合わせる場合、このような設備の近隣に設けられ得る。したがって、有機ハイドライド製造装置22は、プラント1に対し遠隔地に設置され得る。遠隔地の有機ハイドライド製造装置22で製造された有機ハイドライドは、海上輸送等によりプラント1に輸送され得る。この場合、プラント1と有機ハイドライド製造装置22との組み合わせは、水素製造システムと捉えることができる。なお、有機ハイドライド製造装置22の電力源は、再生可能エネルギーに限定されない。また、有機ハイドライド製造装置22はプラント1内に設置されてもよい。
【0044】
以上説明したように、本実施の形態に係るプラント1は、改質原料油を貯留する改質原料油タンク8と、有機ハイドライドを貯留する有機ハイドライドタンク16と、改質原料油タンク8中の改質原料油および有機ハイドライドタンク16中の有機ハイドライドが直接または間接的に供給され、触媒反応により改質原料油および有機ハイドライドから改質物、有機ハイドライドの脱水素化体および水素を生成する接触改質装置10とを備える。
【0045】
このように、既存の接触改質装置10を用いて有機ハイドライドから水素を製造することで、既存設備の有効活用が可能な新たな水素製造技術を提供することができる。また、専用の脱水素反応装置の設置が不要になるため、水素の製造コストや製造設備の削減を図ることができる。
【0046】
特に、石油需要の減退によって製油所の接触改質装置10の稼働率が低下する状況が生じた場合には、接触改質装置10の稼働率を改善できるという効果も得られる。つまり、製油所の処理能力の余剰を有効活用することができる。また、改質原料油の接触改質反応を行ってガソリン基材や化学品原料を製造しながら、有機ハイドライドの脱水素化反応を行うため、製油所全体の運転計画に大きな影響を及ぼすことなく、水素の増産も可能となる。また、接触改質装置10における水素の生成量が増加することで、水素製造装置14の規模の縮小や省略が可能となる。これらにより、製油所の競争力を高めることができる。
【0047】
さらに、再生可能エネルギー由来の電力を用いて、あるいはCCSやEORを組み合わせて有機ハイドライドを製造する場合には、水素製造にともなう二酸化炭素排出量を削減することができる。また、水素製造装置14の規模を縮小したり水素製造装置14を省略したりした場合には、水素製造装置14における燃料や原料の消費を削減できるため、さらなる二酸化炭素排出量の削減効果が期待できる。
【0048】
また、本実施の形態のプラント1は、接触改質装置10から回収され有機ハイドライドの製造に用いられる有機ハイドライド原料を貯留する原料タンク20を備える。これにより、有機ハイドライドを水素のキャリアとして繰り返し利用することができる。
【0049】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明した。前述した実施の形態は、本発明を実施するにあたっての具体例を示したものにすぎない。実施の形態の内容は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、請求の範囲に規定された発明の思想を逸脱しない範囲において、構成要素の変更、追加、削除等の多くの設計変更が可能である。設計変更が加えられた新たな実施の形態は、組み合わされる実施の形態および変形それぞれの効果をあわせもつ。前述の実施の形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「本実施の形態の」、「本実施の形態では」等の表記を付して強調しているが、そのような表記のない内容でも設計変更が許容される。以上の構成要素の任意の組み合わせも、本発明の態様として有効である。
【0050】
(変形例)
本変形例は、有機ハイドライドタンク16の接続態様を除き、実施の形態1と共通の構成を有する。以下、本変形例について実施の形態1と異なる構成を中心に説明し、共通する構成については説明を省略する。
図2は、変形例に係るプラント1の模式図である。変形例に係るプラント1では、有機ハイドライドタンク16から延びる有機ハイドライドのラインが原油タンク2に接続される。したがって、有機ハイドライドは、原油タンク2においてタンクブレンド方式によって原油と混合される。
【0051】
原油と有機ハイドライドの混合物が常圧蒸留装置4に供給されると、常圧蒸留装置4によってナフサと有機ハイドライドの混合留分が得られる。この混合留分は、改質原料油タンク8に貯留されて改質原料油として用いられる。したがって本変形例では、有機ハイドライドは、接触改質装置10に間接的に、つまり原油タンク2、常圧蒸留装置4、水素化脱硫装置6および改質原料油タンク8を経由して供給される。接触改質装置10に混合留分が供給された後は、実施の形態1と同様に改質物、有機ハイドライドの脱水素化体および水素が生成される。また、生成物の一部が原料タンク20に回収される。
【0052】
有機ハイドライドを原油タンク2に供給することで、有機ハイドライドに多量の酸素が含まれる場合であっても、この酸素を常圧蒸留装置4において有機ハイドライドから分離することができる。したがって、本変形例によれば、有機ハイドライドに含まれる酸素が許容量を超える場合でも、O2ストリッパー18を省略することができる。なお、有機ハイドライドのラインは、原油タンク2と常圧蒸留装置4とをつなぐラインに接続されてもよい。
【0053】
実施の形態は、以下に記載する項目によって特定されてもよい。
[項目1]
改質原料油の接触改質装置(10)に有機ハイドライドを直接または間接的に供給し、
接触改質装置(10)における触媒反応により、有機ハイドライドを脱水素化して水素を製造することを含む水素製造方法。
[項目2]
有機ハイドライドの製造に用いられる有機ハイドライド原料を接触改質装置(10)から回収することを含む項目1に記載の水素製造方法。
【符号の説明】
【0054】
1 プラント、 8 改質原料油タンク、 10 接触改質装置、 16 有機ハイドライドタンク、 20 原料タンク、 22 有機ハイドライド製造装置。