(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022030976
(43)【公開日】2022-02-18
(54)【発明の名称】バルブ内蔵型消音器
(51)【国際特許分類】
F01N 1/08 20060101AFI20220210BHJP
F01N 13/08 20100101ALI20220210BHJP
F01N 1/04 20060101ALI20220210BHJP
【FI】
F01N1/08 A
F01N13/08 B
F01N1/04 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020135334
(22)【出願日】2020-08-07
(71)【出願人】
【識別番号】000138521
【氏名又は名称】株式会社ユタカ技研
(74)【代理人】
【識別番号】110002192
【氏名又は名称】特許業務法人落合特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】後藤 貴迅
(72)【発明者】
【氏名】金子 靖
(72)【発明者】
【氏名】深田 翼
【テーマコード(参考)】
3G004
【Fターム(参考)】
3G004AA01
3G004BA01
3G004BA03
3G004CA06
3G004CA07
3G004CA14
3G004DA08
3G004DA24
3G004EA02
3G004FA01
3G004FA04
3G004GA04
(57)【要約】
【課題】バルブの設置スペースを小さく抑えつつ、エンジンの低回転域での排気音を低く抑えるとともに、エンジンの高回転域での排気抵抗を小さく抑えることができるバルブ内蔵型消音器を提供すること。
【解決手段】シェル2内をセパレータ3によって第1及び第2の消音室S1,S2に区画し、インレットパイプ4から第1の消音室S1に流入する排気ガスをインナパイプ6を経てアウトレットパイプ7へと流出させるとともに、所定値以上の排気ガス圧によって開いて第1の消音室S1の排気ガスをインナパイプ6をバイパスしてアウトレットパイプ7へと流すバルブ9をセパレータ3に設けて成るバルブ内蔵型消音器1において、バルブ9を、アウトレットパイプ7に開口するバイパス通路3fを開閉する弁体9Aと、該弁体9Aから延びてインナパイプ6の出口に対向配置される受圧部9Bと、弁体9Aを閉じ側に付勢するコイルスプリング(付勢手段)10を含んで構成する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シェル内をセパレータによって少なくとも第1及び第2の消音室に区画し、インレットパイプから前記第1の消音室に流入する排気ガスをインナパイプを経てアウトレットパイプへと流出させるとともに、所定値以上の排気ガス圧によってバイパス通路を開いて前記第1の消音室の排気ガスを前記インナパイプをバイパスして前記アウトレットパイプへと流すバルブを前記セパレータに設けて成るバルブ内蔵型消音器であって、
前記バルブは、
前記アウトレットパイプに開口するバイパス通路を開閉する弁体と、
該弁体から延びて前記インナパイプの出口に対向配置される受圧部と、
前記弁体を閉じ側に付勢する付勢手段と
を含んで構成されることを特徴とするバルブ内蔵型消音器。
【請求項2】
前記インナパイプの出口は、前記セパレータに入口が開口する前記アウトレットパイプに開口し、
前記受圧部は、前記インナパイプの出口から排気ガスの流れ方向下流側に配置され、前記バルブが閉じ状態にあるときには、該受圧部と前記インナパイプの出口との間には排気ガスの流れ方向に所定の隙間が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のバルブ内蔵型消音器。
【請求項3】
前記弁体によって開閉される前記バイパス通路は、前記セパレータに形成され、該バイパス通路は、これの周囲を囲繞する囲繞部によって前記アウトレットパイプに開口し、該バイパス通路が前記弁体によって開閉されることによって前記第1の消音室と前記アウトレットパイプとが選択的に連通するよう構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のバルブ内蔵型消音器。
【請求項4】
前記囲繞部は、前記アウトレットパイプに一体に形成されており、該囲繞部の入口断面積は、前記アウトレットパイプの出口断面積よりも大きく設定されていることを特徴とする請求項3に記載のバルブ内蔵型消音器。
【請求項5】
前記受圧部は、前記バイパス通路に対して所定角度傾斜して配置されていることを特徴とする請求項1~4の何れかに記載のバルブ内蔵型消音器。
【請求項6】
前記セパレータの前記バイパス通路が形成された部分は、前記弁体が選択的に着座する着座部を構成しており、該着座部は当該セパレータの一般面に対して傾斜していることを特徴とする請求項1~5の何れかに記載のバルブ内蔵型消音器。
【請求項7】
前記セパレータの一部は、多数の小孔が設けられた多孔部を形成しており、該多孔部を介して前記第1の消音室とこれに隣接する前記第2消音室とが連通するとともに、前記第2の消音室に吸音材が充填されていることを特徴とする請求項1~6の何れかに記載のバルブ内蔵型消音器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気ガス流量(排気ガス圧)に応じて開閉動作する流量感応バルブを内蔵するバルブ内蔵型消音器に関する。
【背景技術】
【0002】
混合気の燃焼によって発生する熱エネルギを運動エネルギに変換する内燃エンジン(以下、単に「エンジン」と称する)においては、排気ガスが触媒コンバータや消音器(サイレンサ)を経て大気中へと排出される。ここで、消音器は、排気ガスがエンジンから排出される際に発生する音(排気音)を低減するとともに、エンジン特性を調整する機能を果たすものである。
【0003】
ところで、駆動源としてエンジンを搭載する車両においては、加速走行時や高速走行時の性能を向上させるために、エンジンの高回転域での出力を高めることが要求される。また、アイドリング時や低速走行時に高い静粛性を確保するために、排気音を極力低減することが要求される。つまり、エンジンの高回転域における出力を高めるとともに、低回転域では排気音を低く抑えることが要求される。
【0004】
ここで、エンジン出力と排気音は、エンジンの排気系を構成する排気通路の断面積によって大きく影響されることが知られている。具体的には、排気通路の断面積を大きくすれば、排気抵抗の減少によってエンジン出力を高めることができ、逆に排気通路の断面積を小さくすれば、排気抵抗の増大によって排気音を小さく抑えることができる反面、排気抵抗の増大によってエンジン出力が低下することが知られている。
【0005】
そこで、エンジン回転数に比例する排気流量(排気圧)に応じて排気通路の断面積を増減させる流量感応バルブを備えるバルブ内蔵型消音器が例えば特許文献1,2において提案されている。
【0006】
すなわち、特許文献1には、消音器に内蔵される流量感応バルブを、アウトレットパイプ(排気出力チューブ)の消音器内開口端に配置されたバルブ本体と、該バルブ本体を開閉可能に支持するバルブ軸と、該バルブ軸からバルブ本体とは反対方向に延出してインレットパイプ(排気入力チューブ)の出口端に配置された流量感知部材(受圧部材)とで構成する提案がなされている。そして、この流量感応バルブにおいては、流量感知部材の重力作用点をバルブ軸からオフセットさせるとともに、該流量感知部材の受圧面積を、バルブ全閉時に最小で、バルブ開度の増大に伴って漸増するように設定している。
【0007】
また、特許文献2には、排気ガスのバイパス通路である開口部を、排気ガス圧が所定値を超えて上昇すると開く流量感応バルブをセパレータに取り付ける構成が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3748313号公報
【特許文献2】特許第4025745号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1において提案されたバルブ内蔵型消音器においては、流量感応バルブのバルブ本体と流量感知部材が取り付けられたバルブ軸をセパレータに取り付けられた軸支持ブラケットによって支持する構成が採用されているため、流量感応バルブをセパレータから離して配置する必要があり、この流量感応バルブの消音器内での設置スペースが大きくなるという問題がある。また、流量感応バルブのバルブ本体は、排気ガスがアウトレットパイプに流入する方向に抗して開くため、排気抵抗が大きくなってエンジン性能の低下を招くという問題もある。
【0010】
特許文献2において提案されたバルブ内蔵型消音器においては、流量感応バルブがセパレータに取り付けられているが、セパレータによって区画された消音室の圧力が所定値を超えて上昇したときのみバルブが開き、このバルブを通って別の消音室へと流出して広がった排気ガスが小径のアウトレットパイプに流入して大気中へと排出される。このため、バルブが開くと、排気ガスは、バルブを通過する際とアウトレットパイプに流入する際の2度に亘って絞られるために排気抵抗が大きくなってエンジン性能が低下するという問題がある。
【0011】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたもので、その目的は、バルブの設置スペースを小さく抑えつつ、バルブが閉じるエンジンの低回転域での排気音を低く抑えるとともに、バルブが開くエンジンの高回転域での排気抵抗を小さく抑えてエンジン性能の向上を図ることができるバルブ内蔵型消音器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、シェル内をセパレータによって少なくとも第1及び第2の消音室に区画し、インレットパイプから前記第1の消音室に流入する排気ガスをインナパイプを経てアウトレットパイプへと流出させるとともに、所定値以上の排気ガス圧によってバイパス通路を開いて前記第1の消音室の排気ガスを前記インナパイプをバイパスして前記アウトレットパイプへと流すバルブを前記セパレータに設けて成るバルブ内蔵型消音器であって、前記バルブは、前記アウトレットパイプに開口するバイパス通路を開閉する弁体と、該弁体から延びて前記インナパイプの出口に対向配置される受圧部と、前記弁体を閉じ側に付勢する付勢手段とを含んで構成されることを第1の特徴とする。
【0013】
請求項2に記載の発明は、前記第1の特徴に加えて、前記インナパイプの出口は、前記セパレータに入口が開口する前記アウトレットパイプに開口し、前記受圧部は、前記インナパイプの出口から排気ガスの流れ方向下流側に配置され、前記バルブが閉じ状態にあるときには、該受圧部と前記インナパイプの出口との間には排気ガスの流れ方向に所定の隙間が形成されていることを第2の特徴とする。
【0014】
請求項3に記載の発明は、前記第1または第2の特徴に加えて、前記弁体によって開閉される前記バイパス通路は、前記セパレータに形成され、該バイパス通路は、これの周囲を囲繞する囲繞部によって前記アウトレットパイプに開口し、該バイパス通路が前記弁体によって開閉されることによって前記第1の消音室と前記アウトレットパイプとが選択的に連通するよう構成されていることを第3の特徴とする。
【0015】
請求項4に記載の発明は、前記第3の特徴に加えて、前記囲繞部は、前記アウトレットパイプに一体に形成されており、該囲繞部の入口断面積は、前記アウトレットパイプの出口断面積よりも大きく設定されていることを第4の特徴とする。
【0016】
請求項5に記載の発明は、前記第1~第4の何れかの特徴に加えて、前記受圧部は、前記バイパス通路に対して所定角度傾斜して配置されていることを第5の特徴とする。
【0017】
請求項6に記載の発明は、前記第1~第5の何れかの特徴に加えて、前記セパレータの前記バイパス通路が形成された部分は、前記弁体が選択的に着座する着座部を構成しており、該着座部は当該セパレータの一般面に対して傾斜していることを第6の特徴とする。
【0018】
請求項7に記載の発明は、前記第1~第6の何れかの特徴に加えて、前記セパレータの一部は、多数の小孔が設けられた多孔部を形成しており、該多孔部を介して前記第1の消音室とこれに隣接する前記第2消音室とが連通するとともに、前記第2の消音室に吸音材が充填されていることを第7の特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
請求項1に記載の発明によれば、バルブがセパレータに設けられているため、該バルブの消音器内での設置スペースが小さく抑えられる。また、バルブの弁体は、第1の消音室内の排気ガス圧と受圧部に作用する排気ガス圧によってバイパス通路を開閉するため、バルブの開閉タイミングを高精度に調整することができ、該バルブの性能(流量感応性能)を効率良く引き出すことができる。そして、バルブの開度は、コイルバネなどの付勢手段によって排気ガス圧の増減に対してリニアに変化するため、エンジンの低回転域での排気音を低く抑えて高い静粛性を確保するとともに、エンジンの高回転域での排気抵抗を低く抑えて高いエンジン出力を確保することができる。
【0020】
ここで、バルブの弁体は、排気ガスのアウトレットパイプへの流入方向に開いて該排気ガスのアウトレットパイプへの流入を阻害しないため、この排気ガスの流動抵抗が低く抑えられる。また、エンジンの高回転域においてバルブが開くと、第1の消音室の排気ガスは、バイパス通路において1度だけ絞られるため、排気抵抗が小さく抑えられてエンジン出力の低下も低く抑えられる。
【0021】
請求項2に記載の発明によれば、バルブが閉じ状態にあるときには、該バルブの受圧部とインナパイプの出口との間には排気ガスの流れ方向に所定の隙間が形成されているため、エンジンの低回転域においてインナパイプの出口から流出する排気ガスは、受圧部とインナパイプの出口との間の隙間を通過してアウトレットパイプへと流入し、バルブの閉状態が維持されて排気音が低く抑えられる。そして、エンジンの高回転域においてバルブの受圧部が高い排気圧を受けると、弁体がバイパス通路を開いて多量の排気ガスをインナパイプをバイパスしてアウトレットパイプへと直接流すため、排気抵抗が低く抑えられてエンジン出力が高められる。
【0022】
請求項3に記載の発明によれば、セパレータに形成されたバイパス通路は、これの周囲を囲繞する囲繞部によってアウトレットパイプに開口しているため、バルブが開いた際に第1の消音室からアウトレットパイプへと流入する排気ガスが周囲に広がらず、その全てがアウトレットパイプへと効率良く流入するため、エンジンの高回転域での排気抵抗が一層小さく抑えられてエンジン出力が高められる。
【0023】
請求項4に記載の発明によれば、アウトレットパイプに一体に形成された囲繞部の入口断面積がアウトレットパイプの出口断面積よりも大きく設定されているため、アウトレットパイプとセパレータとの密着性が高められるとともに、部品点数を削減することができる。
【0024】
請求項5に記載の発明によれば、バルブの受圧部が開口部に対して所定角度傾斜して配置されているため、バルブの閉状態の設定と閉状態から開状態への切り替えを容易に設定することができる。
【0025】
請求項6に記載の発明によれば、セパレータのバイパス通路が形成された着座部が当該セパレータの一般面に対して傾斜しているため、バルブが開いたときに排気ガスをアウトレットパイプへと真っ直ぐ流すことができ、排気効率が高められるとともに、排気抵抗が低く抑えられてエンジン出力が高められる。
【0026】
請求項7に記載の発明によれば、第1の消音室からセパレータの多孔部を通過して第2の消音室へと流れ込んだ一部の排気ガスは、該第2の消音室に充填された吸音材を通過することによって吸音された後、セパレータの多孔部を通過して第1の消音室へと流れてインナパイプへと流入する。このように第2の消音室に流れ込んだ排気ガスが吸音材を通過することによって吸音されるため、排気音が効果的に低く抑えられて静粛性が一層高められる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明に係るバルブ内蔵型消音器の基本構成を示す縦断面図である。
【
図2】本発明に係るバルブ内蔵型消音器の内部構造を示す斜視図である。
【
図3】本発明に係るバルブ内蔵型消音器のセパレータ、バルブ、インナパイプ及びアウトレットパイプの配置関係を示す斜視図である。
【
図4】本発明に係るバルブ内蔵型消音器のバルブの閉状態を示す部分斜視図である。
【
図5】本発明に係るバルブ内蔵型消音器のバルブの開状態を示す部分斜視図である。
【
図6】本発明に係るバルブ内蔵型消音器のバルブ部分の分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0029】
図1は本発明に係るバルブ内蔵型消音器の基本構成を示す縦断面図、
図2は同バルブ内蔵型消音器の内部構造を示す斜視図、
図3は同バルブ内蔵型消音器のセパレータ、バルブ、インナパイプ及びアウトレットパイプの配置関係を示す斜視図、
図4は同バルブ内蔵型消音器のバルブの閉状態を示す部分斜視図、
図5は同バルブ内蔵型消音器のバルブの開状態を示す部分斜視図、
図6は同バルブ内蔵型消音器のバルブ部分の分解斜視図である。
【0030】
本実施の形態に係るバルブ内蔵型消音器(以下、単に「消音器」と称する)1は、例えば車両の駆動源であるエンジンから排出される排気ガスの音(排気音)を低減するとともに、エンジン特性を調整する機能を果たすものであって、
図1に示すように、中空容器状のシェル2を備えており、このシェル2内は、垂直に起立するセパレータ3によって第1の消音室S1と第2の消音室S2とに区画されている。
【0031】
上記シェル2は左右に2分割された有底カップ状のシェル半体2A,2Bの各開口部周縁を互いに嵌合し、その嵌合部を溶接することによってモナカ状の中空容器として構成されている。なお、本実施の形態では、シェル2を左右2分割構造としたが、上下2分割構造としても良い。また、各シェル半体2A,2Bは、耐熱性と耐食性の高い例えばSUS304やSUS316Lなどの金属プレートをプレス成形することによって得られる。ここで、消音器1においては、
図1及び
図2に矢印にて示す方向をそれぞれ「前後」、「左右」及び「上下」方向とする。
【0032】
また、
図1に示すように、シェル2のシェル半体2Bの前端下部には、インレットパイプ4が貫通して第1の消音室S1に導入されている。詳細には、
図2に示すように、左側のシェル半体2Bの前端下部には、円孔2aが形成されており、インレットパイプ4は、円孔2aを貫通して第1の消音室S1に導入されている。
【0033】
ここで、
図2に示すように、セパレータ3の右端部と左端部には2つの円孔3a,3bと3c,3dがそれぞれ形成されており、同セパレータ3の円孔3aの左方には、後述のバルブ9の弁体9A(
図4~
図6参照)が選択的に着座する着座部3Aが形成されている。そして、このセパレータ3の左右の各2つの円孔3a,3bと3c,3dと着座部3Aの周囲を除く部分は、多数の円形の小孔3eが形成された多孔部(パンチングメタル)として構成されている。したがって、シェル2内の第1の消音室S1と第2の消音室S2とは、セパレータ3の多孔部に形成された多数の小孔3eを介して互いに連通しており、本実施の形態では、
図1に示すように、第2の消音室S2には、グラスファイバなどの吸音材(ロービング材)5が充填されている。
【0034】
ところで、前記インレットパイプ4のシェル2内の第1の消音室S1に導入された部分の後端は、セパレータ3の左端部に形成された円孔3dに差し込まれて固着されており、第2の消音室S2に出口として開口している。ここで、このインレットパイプ4のセパレータ3に近い後端部には、多数の円形の円孔4aが形成された多孔管4Aが取り付けられている。なお、本実施の形態では、多孔管4Aをインレットパイプ4とは別体に構成し、これをインレットパイプ4の後端に接続する構成を採用したが、インレットパイプ4の後端部に多数の小孔4aを直接形成しても良い。
【0035】
また、
図1~
図3に示すように、シェル2内には、側面視コの字状に2度に亘って折り曲げられて側面視四角リング状を成すインナパイプ6が収容されているが、このインナパイプ6は、セパレータ3に形成された円孔3a,3b,3cに挿通固着されている。具体的には、インナパイプ6の右端部の第1水平部6Aは、セパレータ3の右端部に形成された円孔3bを貫通しており、その一端は、シェル2内の第1の消音室S1に入口として開口している。なお、このインナパイプ6の入口端には、拡径部6aが形成されている。
【0036】
そして、インナパイプ6には、第1水平部6Aの後端部が第2の消音室S2において略直角に折り曲げられて左方へと延びる第1垂直部6Bと、この第1垂直部6Bの左端が前方に向かって折り曲げられてシェル2内の左端部を水平に延びる第2水平部6Cと、この第2水平部6Cの前端部が略直角に折り曲げられて第1の消音室S1を右方に向かって延びる第2垂直部6Dと、この第2垂直部6Dの右端が略直角に折り曲げられて後方に向かって水平に延びる第3水平部6Eがそれぞれ形成されている。
【0037】
ここで、
図2及び
図3に示すように、インナパイプ6の第2水平部6Cは、シェル2内の第2消音室S2からセパレータ3の左端部に形成された円孔3cを貫通して第1の消音室S1へと導入されており、第3水平部6Eは、セパレータ3の右端部に形成された円孔3aに挿通固着されており、後述のように、その端部は出口としてアウトレットパイプ7に開口している。
【0038】
また、セパレータ3の右端部後面には、
図1及び
図3に示すように、アウトレットパイプ7がテーパ円筒状の囲繞部8を介して取り付けられており、囲繞部8は、その入口がセパレータ3に開口している。ここで、アウトレットパイプ7は、インナパイプ3の第3水平部3Eと同軸に配置されており、シェル2の外部へと後方に向かって水平に延びて大気中に開口している。したがって、インナパイプ6の第3水平部6Eの出口は、囲繞部8に開口しており、この囲繞部8を介してアウトレットパイプ7に接続されている。
【0039】
上記囲繞部8は、アウトレットパイプ7と一体に形成されており、セパレータ3からアウトレットパイプ7に向かって縮径し、その後端部がアウトレットパイプ7に接続されている。したがって、この囲繞部8の入口断面積は、アウトレットパイプ7の出口断面積よりも大きく設定されている。
【0040】
ところで、セパレータ3に形成された前記着座部3Aは、
図1及び
図2に示すように、セパレータ3の垂直な一般面に対して所定角度だけ傾斜(具体的には、セパレータ3の一般面から前方に向かって斜め下方に傾斜)しており、この着座部3Aには、
図5に示すように、囲繞部8(アウトレットパイプ7)に開口する矩形孔状のバイパス通路3fが形成されている。
【0041】
而して、セパレータ3の着座部3Aが形成された部位には、着座部3Aに形成された前記バイパス通路3fを開閉するバルブ9が設けられている。このバルブ9は、流量感応バルブであって、排気ガス圧(排気ガス流量)、つまりはエンジン回転数に応じてバイパス通路3fを開閉する弁体9Aと、該弁体9Aから一体に延びてインナパイプ6の第3水平部6Eの出口に対向配置される受圧部9Bと、弁体9Aを閉じ側に付勢する付勢手段としてのコイルスプリング10を含んで構成されている。
【0042】
ここで、上記弁体9Aは、
図4~
図6に示すように、周囲に平坦な着座面9aが形成された矩形プレート状の部材であって、その前端部に起立する支点ブラケット9bがセパレータ3の着座部3Aに突設された凸部3g(
図6参照)の内側に係合することによって、支点ブラケット9bの係合点を中心として上下に回動可能に支持されている。また、弁体9Aの中央部(周囲の着座面9a以外の部位)は、山形を成して突出する受圧面9cを構成しており、この受圧面9cには矩形の貫通孔9dが形成されている。
【0043】
前記コイルスプリング10は、
図6に示すように、左右2連のコイル10Aを連結一体化して構成されており、左右のコイル10Aの中央から延びる矩形の係止リング10aは、
図4及び
図5に示すように、セパレータ3の着座部3Aに立設されたスプリングリテーナ11の係止溝11aに係止されている。また、コイルスプリング10の左右のコイル10Aからは直線状の係合バー10bがそれぞれ延びており、これらの係合バー10bは、弁体9Aの左右両端の下面にそれぞれ係合している。したがって、弁体9Aは、コイルスプリング10によってバイパス通路3fを閉じる方向(バルブ9の閉じ方向)に常時付勢されている。
【0044】
また、
図3、
図4~
図6に示すように、バルブ9の弁体9Aの幅方向中央部からはステー状の受圧部9Bが後方に向かって一体に延出しており、この受圧部9Bは、
図1に実線にて示すように、インナパイプ6の第3水平部3Eの出口から排気ガスの流れ方向下流側(
図1の右側)に配置され、バルブ9が閉じ状態にあるときには、該受圧部9Bとインナパイプ6の第3水平部3Eの出口との間には、排気ガスの流れ方向に所定の隙間δが形成されている。ここで、受圧部9Bは、セパレータ3の着座部3Aに形成されたバイパス通路3fに対して所定角度だけ傾斜して配置されている。
【0045】
而して、セパレータ3の着座部3Aに形成されたバイパス通路3fとセパレータ3に設けられたバルブ9は、前記囲繞部8によってその周囲が囲繞されている。つまり、バイパス通路3fは、囲繞部8内(つまりは、アウトレットパイプ7)に開口しており、バルブ9は、囲繞部8の内部に収容されている。
【0046】
次に、以上のように構成された消音器1の作用について説明する。
【0047】
不図示のエンジンから排出される排気ガスは、
図1に矢印にて示すように、インレットパイプ4から消音器1へと導入される。すなわち、インレットパイプ4に導入される排気ガスの一部は、多孔管4Aに形成された多数の小孔4aから第1の消音室S1へと流れ込み、この第1の消音室S1からインナパイプ6へと流入する。そして、インナパイプ6へと流れ込んだ排気ガスは、該インナパイプ6の第1水平部6A、第1垂直部6B、第2水平部6C、第2垂直部6D及び第3水平部6Eを方向を変えながら順次流れ、第3水平部6Eの出口から囲繞部8を経てアウトレットパイプ7へと流れて最終的に大気中に排出される。
【0048】
ここで、エンジン回転数が設定値以下の低回転域にあって、バルブ9の受圧面9cと受圧部9Bにそれぞれ作用する排気ガス圧による各押圧力の合計がコイルスプリング10の付勢力よりも小さい場合には、
図1の実線及び
図4に示すように、バルブ9は閉じ状態にあり、該バルブ9の弁体9Aは、セパレータ3の着座部3Aに形成されたバイパス通路3fを閉じている。したがって、第1の消音室S1の排気ガスがバイパス通路3fを通ってアウトレットパイプへと流れることがなく、インナパイプ6の第3水平部6Eの出口から流出する排気ガスは、該第3水平部6Eの出口とバルブ9の受圧部9Bとの間に形成された隙間δを通って囲繞部8へと流れ込み、アウトレットパイプ7を通って大気中に排出される。
【0049】
また、インレットパイプ4を流れる排気ガスの他の一部と多孔管4Aの小孔4aから第1の消音室S1へと流れ込んだ排気ガスの一部は、インレットパイプ4の出口とセパレータ3の多孔部に形成された多数の小孔3eから第2の消音室S2へと流れ込み、該第2の消音室S2に充填された消音材5を通過することによって吸音される。そして、消音材5によって吸音された排気ガスは、セパレータ3の多孔部に形成された小孔3eを通過して第1の消音室S1へと流れ込み、第1の消音室S1からインナパイプ6に流入して前記と同様の経路を経て最終的には大気中に排出される。
【0050】
以上のように、エンジン回転数が低回転域にあって、排気ガス圧が比較的低くて排気ガス流量が少ない場合には、排気ガスは、消音器1のシェル2内で膨張と収縮を繰り返して騒音エネルギが減衰されるとともに、吸音材5によって吸音されるため、排気音が低く抑えられて静音化が図られる。
【0051】
他方、エンジン回転数が所定値を超える高回転域にある場合には、エンジンから排出される排気ガスの圧力と流量が共に大きく、バルブ9の受圧面9cと受圧部9Bにそれぞれ作用する排気ガス圧による各押圧力の合計がコイルスプリング10の付勢力を超えると、バルブ9がセパレータ3の着座部3Aに形成されたバイパス通路3fを開く。具体的には、
図1の鎖線及び
図5に示すように、バルブ9の弁体9Aがコイルスプリング10の付勢力に抗して支点ブラケット9bの係合点を中心として時計方向に回動してバイパス通路3fを開く。
【0052】
上述のようにバイパス通路3fが開くと、第1の消音室S1とアウトレットパイプ7とが囲繞部8を介して連通するため、第1の消音室S1へと流れ込んだ排気ガスの一部は、
図1に破線矢印にて示すように、インナパイプ6をバイパスしてバイパス通路3fから囲繞部8を経てアウトレットパイプ7へと流れる。すなわち、エンジン回転数が高回転域にあって、エンジンから排出される排気ガスの流量(圧力)が大きい場合には、インレットパイプ4から第1の消音室S1へと流れ込んだ排気ガスは、インナパイプ6を経てアウトレットパイプ7に至る経路と、インナパイプ6をバイパスして直接アウトレットパイプ7に至る経路とを経て大気中に排出される。このため、エンジン回転数が高回転域にある場合には、多量の排気ガスが消音器1のシェル2内をスムーズに流れるため、排気ガスの流動抵抗が低く抑えられてエンジン出力が高められる。
【0053】
以上のように、本実施の形態に係る消音器1においては、バルブ9がセパレータ3に設けられているため、該バルブ9の消音器1内での設置スペースが小さく抑えられる。また、バルブ9の弁体9Aは、第1の消音室S1内の排気ガス圧と受圧部9Bに作用する排気ガス圧によってバイパス通路3fを開閉するため、バルブ9の開閉タイミングを高精度に調整することができ、該バルブ9の性能(流量感応性能)を効率良く引き出すことができる。ここで、バルブ9の開度は、付勢手段であるコイルスプリング10によって排気ガス圧の増減に対してリニアに変化するため、エンジンの低回転域での排気音を低く抑えて高い静粛性を確保するとともに、エンジンの高回転域での排気抵抗を低く抑えて高いエンジン出力を確保することができる。
【0054】
また、バルブ9の弁体9Aは、排気ガスのアウトレットパイプ7への流入方向に開いて該排気ガスのアウトレットパイプ7への流入を阻害しないため、この排気ガスの流動抵抗が低く抑えられる。そして、エンジンの高回転域においてバルブ9が開くと、第1の消音室S1の排気ガスは、バイパス通路3fにおいて1度だけ絞られるため、排気抵抗が小さく抑えられてエンジン出力の低下も低く抑えられる。
【0055】
さらに、本実施の形態においては、バルブ9が閉じ状態にあるときには、該バルブ9の受圧部9Bとインナパイプ6の出口との間には排気ガスの流れ方向に所定の隙間δ(
図1参照)が形成されているため、エンジンの低回転域においてインナパイプ6の出口から流出する排気ガスは、バルブ9の受圧部9Bとインナパイプ6の出口との間の隙間δを通過してアウトレットパイプ7へと流入し、バルブ9の閉状態が維持されて排気音が低く抑えられる。そして、エンジンの高回転域においてバルブ9の受圧部9Bが高い排気圧を受けると、弁体9Aがバイパス通路3fを開き、多量の排気ガスがインナパイプ6をバイパスしてアウトレットパイプ7へと直接流れるため、排気抵抗が低く抑えられてエンジン出力が高められる。
【0056】
また、本実施の形態においては、セパレータ3の着座部3Aに形成されたバイパス通路3fは、これの周囲を囲繞する囲繞部8によってアウトレットパイプ7に開口しているため、バルブ9が開いた際に第1の消音室S1からアウトレットパイプ7へと流入する排気ガスが周囲に広がらず、その全てがアウトレットパイプ7へと効率良く流入する。このため、エンジンの高回転域での排気抵抗が一層小さく抑えられてエンジン出力が高められる。
【0057】
そして、本実施の形態においては、アウトレットパイプ7に一体に形成された囲繞部8の入口断面積がアウトレットパイプ7の出口断面積よりも大きく設定されているため、アウトレットパイプ7とセパレータ3との密着性が高められるとともに、部品点数を削減することができる。
【0058】
さらに、バルブ9の受圧部9Bがバイパス通路3fに対して所定角度だけ傾斜して配置されているため、バルブ9の閉状態の設定と閉状態から開状態への切り替えを容易に設定することができる。また、セパレータ3のバイパス通路3fが形成された着座部3Aが当該セパレータ3の一般面に対して傾斜しているため、バルブ9が開いたときに排気ガスをアウトレットパイプ7へと真っ直ぐ流すことができる。このため、排気効率が高められるとともに、排気抵抗が低く抑えられてエンジン出力が高められる。
【0059】
なお、以上はシェル2の内部が1つのセパレータ3によって2つの消音室S1,S2に区画されているバルブ内蔵型消音器1に対して本発明を適用した形態について説明したが、本発明は、シェル内を2つ以上のセパレータによって3つ以上の消音室に区画したバルブ内蔵型消音器に対しても同様に適用可能である。
【0060】
また、本発明は、以上の実施の形態におけるバルブ内蔵型消音器の内部構造とは異なる内部構造を有する他の任意のバルブ内蔵型消音器に対しても同様に適用可能である。
【0061】
さらに、以上は本発明を車両のエンジンから排出される排気ガスの音(排気音)を低減するためのバルブ内蔵型消音器に適用した形態について説明したが、本発明は、エンジン以外の他の任意の機器から排出される排気ガスの音(排気音)を低減するためのバルブ内蔵型消音器に対しても同様に適用可能である。
【0062】
その他、本発明は、以上説明した実施の形態に適用が限定されるものではなく、特許請求の範囲及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内で種々の変形が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0063】
1 バルブ内蔵型消音器
2 シェル
3 セパレータ
3A セパレータの着座部
3f セパレータのバイパス通路
4 インレットパイプ
5 吸音材
6 インナパイプ
7 アウトレットパイプ
8 囲繞部
9 バルブ
9A バルブの弁体
9B バルブの受圧部
10 コイルスプリング(付勢手段)
S1 第1の消音室
S2 第2の消音室
δ インナパイプ出口とバルブの受圧部との隙間