(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022031028
(43)【公開日】2022-02-18
(54)【発明の名称】新規化合物及び該化合物を含有する亜鉛検出用蛍光プローブ
(51)【国際特許分類】
C07D 501/24 20060101AFI20220210BHJP
【FI】
C07D501/24 CSP
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020135407
(22)【出願日】2020-08-07
(71)【出願人】
【識別番号】517363366
【氏名又は名称】学校法人神戸薬科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】奥田 健介
(72)【発明者】
【氏名】高嶋 一平
【テーマコード(参考)】
4C075
【Fターム(参考)】
4C075AA08
4C075BB02
4C075CC02
4C075CC39
4C075CD10
4C075CD35
4C075DD02
4C075DD16
4C075EE05
4C075EE10
4C075FF01
4C075GG01
4C075GG05
4C075HH01
4C075LL10
(57)【要約】
【課題】新規化合物及び亜鉛イオンを微量でも検出出来る亜鉛イオン検出用蛍光プローブの提供を課題とする。
【解決手段】電子供与基及び蛍光色素部位を有する、特定の構造の新規化合物及びこれを含む蛍光プローブにより、当該課題を解決する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(I)で表される化合物又はその塩。
【化1】
{式中、R
1、R
2及びR
3は、同一又は異なってもよく、水素原子、ハロゲン原子、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルキル基、1以上の置換基で置換されていてもよいシクロアルキル基、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルケニル基、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルキニル基、1以上の置換基で置換されていてもよいアリール基、アミノ基、保護されたアミノ基、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、保護されたカルボキシル基、オキシム基、ヒドラゾン基、ヒドロキシル基、スルファニル基、アルキルスルファニル基、スルファニルアルキル基、アルキルスルフェニル基、スルフェニルアルキル基、アルキルスルフィニル基、スルフィニルアルキル基、アルキルスルホニル基又はアルコキシ基又はアルキルチオ基であり、
R
1は、L
1と3~7員の環を形成してもよく、
L
2は、L
3と5~7員の環を形成してもよく、
R
3は、R
1と5~7員の環を形成してもよく、
L
1、L
2及びL
3は、同一又は異なってもよく、化学結合、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルキレン基、1以上の置換基で置換されていてもよいシクロアルキレン基、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルケニレン基、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルキニレン基、1以上の置換基で置換されていてもよいアリール基、エーテル結合(-O-)、チオエーテル結合(-S-)、エステル結合(-COO-)、アミド結合(-NHCO-)、カルボニル結合(-CO-)、スルホキシド結合(-SO-)、スルホン結合(-SO
2-)、ウレタン結合(-NHCOO-)、ウレア結合(-NHCONH-)、チオウレタン結合(-NHCOS-)、チオウレア結合(-NHCSNH-)、イミン結合又はヒドラゾン結合であり、
前記1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルキレン基、1以上の置換基で置換されていてもよいシクロアルキレン基、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルケニレン基、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルキニレン基、及び1以上の置換基で置換されていてもよいアリール基は、分子内に、エーテル結合(-O-)、チオエーテル結合(-S-)、エステル結合(-COO-)、アミド結合(-NHCO-)、カルボニル結合(-CO-)、スルホキシド結合(-SO-)、スルホン結合(-SO
2-)、ウレタン結合(-NHCOO-)、ウレア結合(-NHCONH-)、チオウレタン結合(-NHCOS-)、チオウレア結合(-NHCSNH-)、イミン結合又はヒドラゾン結合を有していてもよく、
Dは、2以上の窒素原子又は1以上の窒素原子及び1以上の硫黄原子の両方を有する電子供与基を表し、
Fは、蛍光色素部位を表す。}
【請求項2】
下記の一般式(II)で表される、請求項1に記載の化合物又はその塩。
【化2】
{式中、R
a、R
b及びR
2は、同一又は異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルキル基、1以上の置換基で置換されていてもよいシクロアルキル基、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルケニル基、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルキニル基、1以上の置換基で置換されていてもよいアリール基、アミノ基、保護されたアミノ基、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、保護されたカルボキシル基、ヒドロキシル基、スルファニル基、アルキルスルファニル基、スルファニルアルキル基、アルキルスルフェニル基、スルフェニルアルキル基、スルホキシド基、アルキルスルフィニル基、スルフィニルアルキル基、アルキルスルホニル基、アルコキシ基又はアルキルチオ基であり、
R
a又はR
bはL
1と3~7員の環を形成してもよく、
Xは、それぞれ独立して、酸素原子、硫黄原子、S=(О)
n基(nは、1又は2である)又はCR
4R
5基を表し(R
4及びR
5は、同一又は異なってもよく、水素原子、ハロゲン原子、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルキル基、1以上の置換基で置換されていてもよいシクロアルキル基、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルケニル基、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルキニル基、1以上の置換基で置換されていてもよいアリール基である)、
L
1、L
2及びL
3は、同一又は異なってもよく、化学結合、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルキレン基、1以上の置換基で置換されていてもよいシクロアルキレン基、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルケニレン基、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルキニレン基、1以上の置換基で置換されていてもよいアリール基、エーテル結合(-O-)、チオエーテル結合(-S-)、エステル結合(-COO-)、アミド結合(-NHCO-)、カルボニル結合(-CO-)、スルホキシド結合(-SO-)、スルホン結合(-SO
2-)、ウレタン結合(-NHCOO-)、ウレア結合(-NHCONH-)、チオウレタン結合(-NHCOS-)、チオウレア結合(-NHCSNH-)、イミン結合又はヒドラゾン結合であり、
前記1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルキレン基、1以上の置換基で置換されていてもよいシクロアルキレン基、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルケニレン基、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルキニレン基、及び1以上の置換基で置換されていてもよいアリール基は、分子内に、エーテル結合(-O-)、チオエーテル結合(-S-)、エステル結合(-COO-)、アミド結合(-NHCO-)、カルボニル結合(-CO-)、スルホキシド結合(-SO-)、スルホン結合(-SO
2-)、ウレタン結合(-NHCOO-)、ウレア結合(-NHCONH-)、チオウレタン結合(-NHCOS-)、チオウレア結合(-NHCSNH-)、イミン結合又はヒドラゾン結合を有していてもよく、
Dは、2以上の窒素原子又は1以上の窒素原子及び1以上の硫黄原子の両方を有する電子供与基を表し、
Fは、蛍光色素部位を表し、
pは1又は2を表す。}
【請求項3】
一般式(I)又は(II)で表される化合物が下記一般式(a)又は(b)のいずれかで表される化合物である、請求項1又は2に記載の化合物又はその塩。
【化3】
{式中、R
iは、カルボキシル基、保護されたカルボキシル基、ヒドロキサム酸、ヒドラジド基、カルボニル基、オキシム基、イミノ基、ヒドラゾン基、セミカルバゾン基、シアノ基、置換されていてもよいアルキルアミノ基、置換されていてもよいアミノアルキル基、置換されていてもよいヒドロキシアルキル基、置換されていてもよいアルコキシアルキル基、又は置換されていてもよいアルキル基を表し、
Fは、蛍光色素部位を表す。}
【化4】
{式中、R
iiは、カルボキシル基、保護されたカルボキシル基、ヒドロキサム酸、ヒドラジド基、カルボニル基、オキシム基、イミノ基、ヒドラゾン基、セミカルバゾン基、シアノ基、置換されていてもよいアルキルアミノ基、置換されていてもよいアミノアルキル基、置換されていてもよいヒドロキシアルキル基、置換されていてもよいアルコキシアルキル基、又は置換されていてもよいアルキル基を表し、
Fは、蛍光色素部位を表す。}
【請求項4】
一般式(I)又は(II)で表される化合物が、下記一般式(III)で表される化合物である、請求項1又は2に記載の化合物又はその塩。
【化5】
{式中、R
2、R
c、R
d、R
e及びR
fは、同一又は異なってもよく、水素原子、ハロゲン原子、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルキル基、1以上の置換基で置換されていてもよいシクロアルキル基、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルケニル基、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルキニル基、1以上の置換基で置換されていてもよいアリール基、アミノ基、保護されたアミノ基、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、保護されたカルボキシル基、オキシム基、ヒドラゾン基、ヒドロキシル基、スルファニル基、アルキルスルファニル基、スルファニルアルキル基、アルキルスルフェニル基、スルフェニルアルキル基、アルキルスルフィニル基、スルフィニルアルキル基、アルキルスルホニル基又はアルコキシ基又はアルキルチオ基であり、
L
2は、L
3と5~7員の環を形成してもよく、
R
eは、R
fと5~7員の環を形成してもよく、
L
1、L
2及びL
3は、同一又は異なってもよく、化学結合、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルキレン基、1以上の置換基で置換されていてもよいシクロアルキレン基、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルケニレン基、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルキニレン基、1以上の置換基で置換されていてもよいアリール基、エーテル結合(-O-)、チオエーテル結合(-S-)、エステル結合(-COO-)、アミド結合(-NHCO-)、カルボニル結合(-CO-)、スルホキシド結合(-SO-)、スルホン結合(-SO
2-)、ウレタン結合(-NHCOO-)、ウレア結合(-NHCONH-)、チオウレタン結合(-NHCOS-)、チオウレア結合(-NHCSNH-)、イミン結合又はヒドラゾン結合であり、
前記1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルキレン基、1以上の置換基で置換されていてもよいシクロアルキレン基、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルケニレン基、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルキニレン基、及び1以上の置換基で置換されていてもよいアリール基は、分子内に、エーテル結合(-O-)、チオエーテル結合(-S-)、エステル結合(-COO-)、アミド結合(-NHCO-)、カルボニル結合(-CO-)、スルホキシド結合(-SO-)、スルホン結合(-SO
2-)、ウレタン結合(-NHCOO-)、ウレア結合(-NHCONH-)、チオウレタン結合(-NHCOS-)、チオウレア結合(-NHCSNH-)、イミン結合又はヒドラゾン結合を有していてもよく、
Dは、2以上の窒素原子又は1以上の窒素原子及び1以上の硫黄原子の両方を有する電子供与基を表し、
Fは、蛍光色素部位を表す。}
【請求項5】
電子供与基(D)が、1以上の置換基で置換されていてもよいジピリジルアルキルアミン、1以上の置換基で置換されていてもよいビスアリールアルキルアミン、1以上の置換基で置換されていてもよいアリールアルキルアミノアルキルアミン、1以上の置換基で置換されていてもよいアリールアルキルアルキルアミン、1以上の置換基で置換されていてもよいビスアリールアルキルアミノアルキルアミン、1以上の置換基で置換されていてもよいビスアミノアルキルアミン、1以上の置換基で置換されていてもよいビスアルキルアミン、1以上の置換基で置換されていてもよいビスアルキルアミノアルキルアミン又は側鎖が1以上の置換基で置換されていてもよいビス(2-(2-(アルキルチオ)エチルチオ)エチル)アミンのいずれかであることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の化合物又はその塩。
【請求項6】
蛍光色素部位(F)が、1以上の置換基で置換されていてもよいクマリン、1以上の置換基で置換されていてもよいキサンテン、1以上の置換基で置換されていてもよいピレン、1以上の置換基で置換されていてもよいニトロベンゾオキサジアゾール、1以上の置換基で置換されていてもよいベンゾフラン、1以上の置換基で置換されていてもよいアクリジン、1以上の置換基で置換されていてもよいイミノクマリン、1以上の置換基で置換されていてもよいダンシル、1以上の置換基で置換されていてもよいボディパイ、1以上の置換基で置換されていてもよいシアニン、1以上の置換基で置換されていてもよいピロニン、又は1以上の置換基で置換されていてもよいY-キサンテン(Yは、Si、P、S又はC)のいずれかであることを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載の化合物又はその塩。
【請求項7】
下記の一般式(IV)で表される化合物又はその塩を含む亜鉛イオン検出用蛍光プローブ。
【化6】
{式中、R
1、R
2及びR
3は、同一又は異なってもよく、水素原子、ハロゲン原子、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルキル基、1以上の置換基で置換されていてもよいシクロアルキル基、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルケニル基、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルキニル基、1以上の置換基で置換されていてもよいアリール基、アミノ基、保護されたアミノ基、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、保護されたカルボキシル基、オキシム基、ヒドラゾン基、ヒドロキシル基、スルファニル基、アルキルスルファニル基、スルファニルアルキル基、アルキルスルフェニル基、スルフェニルアルキル基、アルキルスルフィニル基、スルフィニルアルキル基、アルキルスルホニル基又はアルコキシ基であり、
R
1は、L
1と3~7員の環を形成してもよく、
L
2は、L
3と5~7員の環を形成してもよく、
R
3は、R
1と5~7員の環を形成してもよく、
L
1、L
2及びR
3は、同一又は異なってもよく、化学結合、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルキレン基、1以上の置換基で置換されていてもよいシクロアルキレン基、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルケニレン基、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルキニレン基、1以上の置換基で置換されていてもよいアリール基、エーテル結合(-O-)、チオエーテル結合(-S-)、エステル結合(-COO-)、アミド結合(-NHCO-)、カルボニル結合(-CO-)、スルホキシド結合(-SO-)、スルホン結合(-SO
2-)、ウレタン結合(-NHCOO-)、ウレア結合(-NHCONH-)、チオウレタン結合(-NHCOS-)、チオウレア結合(-NHCSNH-)、イミン結合又はヒドラゾン結合であり、
前記1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルキレン基、1以上の置換基で置換されていてもよいシクロアルキレン基、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルケニレン基、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルキニレン基、及び1以上の置換基で置換されていてもよいアリール基は、分子内に、エーテル結合(-O-)、チオエーテル結合(-S-)、エステル結合(-COO-)、アミド結合(-NHCO-)、カルボニル結合(-CO-)、スルホキシド結合(-SO-)、スルホン結合(-SO
2-)、ウレタン結合(-NHCOO-)、ウレア結合(-NHCONH-)、チオウレタン結合(-NHCOS-)、チオウレア結合(-NHCSNH-)、イミン結合又はヒドラゾン結合を有していてもよく、
Dは、2以上の窒素原子を有する電子供与基を表し、
Fは、蛍光色素部位を表す。}
【請求項8】
(1)亜鉛イオンを含む検体と、請求項7に記載の蛍光プローブとを混合する工程、及び(2)得られた混合物の蛍光発光を測定する工程を含む、亜鉛イオンを検出する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に蛍光プローブとして用いられる新規な化合物に関する。さらに、該化合物を含む亜鉛イオン検出用蛍光プローブ、及び該化合物を用いた亜鉛イオンを検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生命に不可欠な微量元素である亜鉛は、炭酸脱水酵素やジンクフィンガータンパク質等の多様なタンパク質の補因子として生物学的プロセスに関与していることが知られており、これらのプロセスにおける亜鉛イオンの機能解明が望まれている。亜鉛イオンの検出を目的とした蛍光プローブとしては、Zinpyr-1及びZnAF-2(非特許文献1、2)がすでに知られている。しかしながら、細胞内には、グルタチオン等のキレート作用を有する他の物質も高濃度に存在し、これらの物質と蛍光プローブとは競合して亜鉛に結合することから、細胞外に比べて検出感度が低くなることが知られる。そこでこれら既存の蛍光プローブに比べて感度が高く、微量でも細胞内の亜鉛イオンを検出可能な方法の開発が望まれていた。
【0003】
一方、セフェム(cephem)骨格を有する化合物により、β-ラクタマーゼ産生菌を検出することは知られているが(非特許文献3)、これを用いた亜鉛イオンを検出する分子および検出する方法は、これまでに全く知られていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】J. Am. Chem. Soc. 2001, Vol. 123, pages 7831-7841
【非特許文献2】J. Am. Chem. Soc. 2002, Vol. 124, pages 6555-6562
【非特許文献3】Nature Chem. 2012, Vol. 4, pages 802-809
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、主に蛍光プローブに用いられる化合物に関する。そして、該化合物を含む亜鉛イオン検出用蛍光プローブ、さらには、該化合物を用いた亜鉛イオンを検出する方法等も提供することをさらなる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定の電子供与基及び蛍光色素分子を有する化合物が、既存の蛍光プローブよりも感度高く、微量の亜鉛イオンでも検出出来ること、さらに、当該化合物を含む蛍光プローブが様々な点で有用であることを見出し、研究を続け、本発明に至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下に関する。
[1]下記の一般式(I)で表される化合物又はその塩。
【化1】
{式中、R
1、R
2及びR
3は、同一又は異なってもよく、水素原子、ハロゲン原子、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルキル基、1以上の置換基で置換されていてもよいシクロアルキル基、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルケニル基、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルキニル基、1以上の置換基で置換されていてもよいアリール基、アミノ基、保護されたアミノ基、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、保護されたカルボキシル基、オキシム基、ヒドラゾン基、ヒドロキシル基、スルファニル基、アルキルスルファニル基、スルファニルアルキル基、アルキルスルフェニル基、スルフェニルアルキル基、アルキルスルフィニル基、スルフィニルアルキル基、アルキルスルホニル基又はアルコキシ基又はアルキルチオ基であり、
R
1は、L
1と3~7員の環を形成してもよく、
L
2は、L
3と5~7員の環を形成してもよく、
R
3は、R
1と5~7員の環を形成してもよく、
L
1、L
2及びL
3は、同一又は異なってもよく、化学結合、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルキレン基、1以上の置換基で置換されていてもよいシクロアルキレン基、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルケニレン基、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルキニレン基、1以上の置換基で置換されていてもよいアリール基、エーテル結合(-O-)、チオエーテル結合(-S-)、エステル結合(-COO-)、アミド結合(-NHCO-)、カルボニル結合(-CO-)、スルホキシド結合(-SO-)、スルホン結合(-SO
2-)、ウレタン結合(-NHCOO-)、ウレア結合(-NHCONH-)、チオウレタン結合(-NHCOS-)、チオウレア結合(-NHCSNH-)、イミン結合又はヒドラゾン結合であり、
前記1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルキレン基、1以上の置換基で置換されていてもよいシクロアルキレン基、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルケニレン基、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルキニレン基、及び1以上の置換基で置換されていてもよいアリール基は、分子内に、エーテル結合(-O-)、チオエーテル結合(-S-)、エステル結合(-COO-)、アミド結合(-NHCO-)、カルボニル結合(-CO-)、スルホキシド結合(-SO-)、スルホン結合(-SO
2-)、ウレタン結合(-NHCOO-)、ウレア結合(-NHCONH-)、チオウレタン結合(-NHCOS-)、チオウレア結合(-NHCSNH-)、イミン結合又はヒドラゾン結合を有していてもよく、
Dは、2以上の窒素原子又は1以上の窒素原子及び1以上の硫黄原子の両方を有する電子供与基を表し、
Fは、蛍光色素部位を表す。}
[2] 下記の一般式(II)で表される、前記[1]に記載の化合物又はその塩。
【化2】
{式中、R
a、R
b及びR
2は、同一又は異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルキル基、1以上の置換基で置換されていてもよいシクロアルキル基、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルケニル基、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルキニル基、1以上の置換基で置換されていてもよいアリール基、アミノ基、保護されたアミノ基、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、保護されたカルボキシル基、ヒドロキシル基、スルファニル基、アルキルスルファニル基、スルファニルアルキル基、アルキルスルフェニル基、スルフェニルアルキル基、スルホキシド基、アルキルスルフィニル基、スルフィニルアルキル基、アルキルスルホニル基、アルコキシ基又はアルキルチオ基であり、
R
a又はR
bはL
1と3~7員の環を形成してもよく、
Xは、それぞれ独立して、酸素原子、硫黄原子、S=(О)
n基(nは、1又は2である)又はCR
4R
5基を表し(R
4及びR
5は、同一又は異なってもよく、水素原子、ハロゲン原子、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルキル基、1以上の置換基で置換されていてもよいシクロアルキル基、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルケニル基、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルキニル基、1以上の置換基で置換されていてもよいアリール基である)、
L
1、L
2及びL
3は、同一又は異なってもよく、化学結合、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルキレン基、1以上の置換基で置換されていてもよいシクロアルキレン基、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルケニレン基、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルキニレン基、1以上の置換基で置換されていてもよいアリール基、エーテル結合(-O-)、チオエーテル結合(-S-)、エステル結合(-COO-)、アミド結合(-NHCO-)、カルボニル結合(-CO-)、スルホキシド結合(-SO-)、スルホン結合(-SO
2-)、ウレタン結合(-NHCOO-)、ウレア結合(-NHCONH-)、チオウレタン結合(-NHCOS-)、チオウレア結合(-NHCSNH-)、イミン結合又はヒドラゾン結合であり、
前記1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルキレン基、1以上の置換基で置換されていてもよいシクロアルキレン基、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルケニレン基、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルキニレン基、及び1以上の置換基で置換されていてもよいアリール基は、分子内に、エーテル結合(-O-)、チオエーテル結合(-S-)、エステル結合(-COO-)、アミド結合(-NHCO-)、カルボニル結合(-CO-)、スルホキシド結合(-SO-)、スルホン結合(-SO
2-)、ウレタン結合(-NHCOO-)、ウレア結合(-NHCONH-)、チオウレタン結合(-NHCOS-)、チオウレア結合(-NHCSNH-)、イミン結合又はヒドラゾン結合を有していてもよく、
Dは、2以上の窒素原子又は1以上の窒素原子及び1以上の硫黄原子の両方を有する電子供与基を表し、
Fは、蛍光色素部位を表し、
pは1又は2を表す。}
[3] 一般式(I)又は(II)で表される化合物が下記一般式(a)又は(b)のいずれかで表される化合物である、前記[1]又は[2]に記載の化合物又はその塩。
【化3】
{式中、R
iは、カルボキシル基、保護されたカルボキシル基、ヒドロキサム酸、ヒドラジド基、カルボニル基、オキシム基、イミノ基、ヒドラゾン基、セミカルバゾン基、シアノ基、置換されていてもよいアルキルアミノ基、置換されていてもよいアミノアルキル基、置換されていてもよいヒドロキシアルキル基、置換されていてもよいアルコキシアルキル基、又は置換されていてもよいアルキル基を表し、
Fは、蛍光色素部位を表す。}
【化4】
{式中、R
iiは、カルボキシル基、保護されたカルボキシル基、ヒドロキサム酸、ヒドラジド基、カルボニル基、オキシム基、イミノ基、ヒドラゾン基、セミカルバゾン基、シアノ基、置換されていてもよいアルキルアミノ基、置換されていてもよいアミノアルキル基、置換されていてもよいヒドロキシアルキル基、置換されていてもよいアルコキシアルキル基、又は置換されていてもよいアルキル基を表し、
Fは、蛍光色素部位を表す。}
[4] 一般式(I)又は(II)で表される化合物が、下記一般式(III)で表される化合物である、前記[1]又は[2]に記載の化合物又はその塩。
【化5】
{式中、R
2、R
c、R
d、R
e及びR
fは、同一又は異なってもよく、水素原子、ハロゲン原子、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルキル基、1以上の置換基で置換されていてもよいシクロアルキル基、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルケニル基、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルキニル基、1以上の置換基で置換されていてもよいアリール基、アミノ基、保護されたアミノ基、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、保護されたカルボキシル基、オキシム基、ヒドラゾン基、ヒドロキシル基、スルファニル基、アルキルスルファニル基、スルファニルアルキル基、アルキルスルフェニル基、スルフェニルアルキル基、アルキルスルフィニル基、スルフィニルアルキル基、アルキルスルホニル基又はアルコキシ基又はアルキルチオ基であり、
L
2は、L
3と5~7員の環を形成してもよく、
R
eは、R
fと5~7員の環を形成してもよく、
L
1、L
2及びL
3は、同一又は異なってもよく、化学結合、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルキレン基、1以上の置換基で置換されていてもよいシクロアルキレン基、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルケニレン基、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルキニレン基、1以上の置換基で置換されていてもよいアリール基、エーテル結合(-O-)、チオエーテル結合(-S-)、エステル結合(-COO-)、アミド結合(-NHCO-)、カルボニル結合(-CO-)、スルホキシド結合(-SO-)、スルホン結合(-SO
2-)、ウレタン結合(-NHCOO-)、ウレア結合(-NHCONH-)、チオウレタン結合(-NHCOS-)、チオウレア結合(-NHCSNH-)、イミン結合又はヒドラゾン結合であり、
前記1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルキレン基、1以上の置換基で置換されていてもよいシクロアルキレン基、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルケニレン基、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルキニレン基、及び1以上の置換基で置換されていてもよいアリール基は、分子内に、エーテル結合(-O-)、チオエーテル結合(-S-)、エステル結合(-COO-)、アミド結合(-NHCO-)、カルボニル結合(-CO-)、スルホキシド結合(-SO-)、スルホン結合(-SO
2-)、ウレタン結合(-NHCOO-)、ウレア結合(-NHCONH-)、チオウレタン結合(-NHCOS-)、チオウレア結合(-NHCSNH-)、イミン結合又はヒドラゾン結合を有していてもよく、
Dは、2以上の窒素原子又は1以上の窒素原子及び1以上の硫黄原子の両方を有する電子供与基を表し、
Fは、蛍光色素部位を表す。}
[5]電子供与基(D)が、1以上の置換基で置換されていてもよいジピリジルアルキルアミン、1以上の置換基で置換されていてもよいビスアリールアルキルアミン、1以上の置換基で置換されていてもよいアリールアルキルアミノアルキルアミン、1以上の置換基で置換されていてもよいアリールアルキルアルキルアミン、1以上の置換基で置換されていてもよいビスアリールアルキルアミノアルキルアミン、1以上の置換基で置換されていてもよいビスアミノアルキルアミン、1以上の置換基で置換されていてもよいビスアルキルアミン、1以上の置換基で置換されていてもよいビスアルキルアミノアルキルアミン又は側鎖が1以上の置換基で置換されていてもよいビス(2-(2-(アルキルチオ)エチルチオ)エチル)アミンのいずれかであることを特徴とする、前記[1]~[4]のいずれかに記載の化合物又はその塩。
[6]蛍光色素部位(F)が、1以上の置換基で置換されていてもよいクマリン、1以上の置換基で置換されていてもよいキサンテン、1以上の置換基で置換されていてもよいピレン、1以上の置換基で置換されていてもよいニトロベンゾオキサジアゾール、1以上の置換基で置換されていてもよいベンゾフラン、1以上の置換基で置換されていてもよいアクリジン、1以上の置換基で置換されていてもよいイミノクマリン、1以上の置換基で置換されていてもよいダンシル、1以上の置換基で置換されていてもよいボディパイ、1以上の置換基で置換されていてもよいシアニン、1以上の置換基で置換されていてもよいピロニン、又は1以上の置換基で置換されていてもよいY-キサンテン(Yは、Si、P、S又はC)のいずれかであることを特徴とする、前記[1]~[5]のいずれかに記載の化合物又はその塩。
[7]下記の一般式(IV)で表される化合物又はその塩を含む亜鉛イオン検出用蛍光プローブ。
【化6】
{式中、R
1、R
2及びR
3は、同一又は異なってもよく、水素原子、ハロゲン原子、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルキル基、1以上の置換基で置換されていてもよいシクロアルキル基、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルケニル基、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルキニル基、1以上の置換基で置換されていてもよいアリール基、アミノ基、保護されたアミノ基、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、保護されたカルボキシル基、オキシム基、ヒドラゾン基、ヒドロキシル基、スルファニル基、アルキルスルファニル基、スルファニルアルキル基、アルキルスルフェニル基、スルフェニルアルキル基、スルフィニルアルキル基、アルキルスルフィニル基、アルキルスルホニル基又はアルコキシ基であり、
R
1は、L
1と3~7員の環を形成してもよく、
L
2は、L
3と5~7員の環を形成してもよく、
R
3は、R
1と5~7員の環を形成してもよく、
L
1、L
2及びR
3は、同一又は異なってもよく、化学結合、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルキレン基、1以上の置換基で置換されていてもよいシクロアルキレン基、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルケニレン基、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルキニレン基、1以上の置換基で置換されていてもよいアリール基、エーテル結合(-O-)、チオエーテル結合(-S-)、エステル結合(-COO-)、アミド結合(-NHCO-)、カルボニル結合(-CO-)、スルホキシド結合(-SO-)、スルホン結合(-SO
2-)、ウレタン結合(-NHCOO-)、ウレア結合(-NHCONH-)、チオウレタン結合(-NHCOS-)、チオウレア結合(-NHCSNH-)、イミン結合又はヒドラゾン結合であり、
前記1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルキレン基、1以上の置換基で置換されていてもよいシクロアルキレン基、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルケニレン基、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルキニレン基、及び1以上の置換基で置換されていてもよいアリール基は、分子内に、エーテル結合(-O-)、チオエーテル結合(-S-)、エステル結合(-COO-)、アミド結合(-NHCO-)、カルボニル結合(-CO-)、スルホキシド結合(-SO-)、スルホン結合(-SO
2-)、ウレタン結合(-NHCOO-)、ウレア結合(-NHCONH-)、チオウレタン結合(-NHCOS-)、チオウレア結合(-NHCSNH-)、イミン結合又はヒドラゾン結合を有していてもよく、
Dは、2以上の窒素原子を有する電子供与基を表し、
Fは、蛍光色素部位を表す。}
[8] (1)亜鉛イオンを含む検体と、前記[7]に記載の蛍光プローブとを混合する工程、及び(2)得られた混合物の蛍光発光を測定する工程を含む、亜鉛イオンを検出する方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、既存の亜鉛イオン検出用蛍光プローブよりも感度高く、微量の亜鉛イオンを検出出来る化合物及び当該化合物を含む蛍光プローブを提供することができる。また、本発明の蛍光プローブは、条件を調整することにより、亜鉛を定量的に測定することもできる。さらに、本発明の化合物は、亜鉛に選択的に結合できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1(a)は、既存の亜鉛イオン検出用蛍光プローブの反応の概略を示す図であり、(b)は本発明の亜鉛イオン検出用蛍光プローブの反応の概略を示す図である。
【
図2】
図2は、各種蛍光プローブ候補化合物の亜鉛イオンに対する蛍光応答を検討した結果を示す図である。
【
図3】
図3は、本発明の蛍光プローブ化合物(Dpa-SoxLC)の各金属イオンに対する蛍光応答を検討した結果を示す図である。
【
図4】
図4は、Dpa-SoxLCと既存の亜鉛検出用蛍光プローブZnAF-2の亜鉛イオンに対する蛍光応答を検討した結果を示す図である。
【
図5】
図5は、大量の基質と少量の亜鉛イオンを含む反応系における蛍光応答を検討した結果を示す図であり、(a)はDpa-SoxLCの結果、(b)はZnAF-2の結果である。
【
図6】
図6は、本発明の細胞内亜鉛イオン検出用蛍光プロープ化合物Dpa-LBCが取り込まれた細胞内で生成するDpa-LCの亜鉛イオンに対する蛍光応答を検討した結果を示す図である。
【
図7】
図7は、Hela細胞をDpa-LBC又は既存の細胞膜透過性亜鉛検出用蛍光プローブZnAF-2DAで処理した後、亜鉛ピリチオン(ZnPT)で処理し、共焦点顕微鏡で観察した結果を示す図であり、(a)はDpa-LBCの結果、(b)はZnAF-2DAの結果である。スケールバーはいずれも100 μmを示す。
【
図8】
図8は、Hela細胞をDpa-LBC又は既存の細胞膜透過性亜鉛検出用蛍光プローブZnAF-2DAで処理した後、各種濃度の亜鉛ピリチオン(ZnPT)で処理し、細胞内蛍光強度を測定した結果を示す図であり、(a)はDpa-LBCの結果、(b)はZnAF-2DAの結果である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の化合物又はその塩、該化合物又はその塩を含む蛍光プローブ、及びその検出方法等について詳しく説明する。
【0011】
<本発明の化合物>
本発明の化合物は、下記の一般式(I)で表される化合物又はその塩であることを特徴とする。
【化7】
{式中、R
1、R
2及びR
3は、同一又は異なってもよく、水素原子、ハロゲン原子、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルキル基、1以上の置換基で置換されていてもよいシクロアルキル基、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルケニル基、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルキニル基、1以上の置換基で置換されていてもよいアリール基、アミノ基、保護されたアミノ基、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、保護されたカルボキシル基、オキシム基、ヒドラゾン基、ヒドロキシル基、スルファニル基、アルキルスルファニル基、スルファニルアルキル基、アルキルスルフェニル基、スルフェニルアルキル基、アルキルスルフィニル基、スルフィニルアルキル基、アルキルスルホニル基又はアルコキシ基又はアルキルチオ基であり、
R
1は、L
1と3~7員の環を形成してもよく、
L
2が、L
3と5~7員の環を形成してもよく、
R
3は、R
1と5~7員の環を形成してもよく、
L
1、L
2及びL
3は、同一又は異なってもよく、化学結合、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルキレン基、1以上の置換基で置換されていてもよいシクロアルキレン基、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルケニレン基、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルキニレン基、1以上の置換基で置換されていてもよいアリール基、エーテル結合(-O-)、チオエーテル結合(-S-)、エステル結合(-COO-)、アミド結合(-NHCO-)、カルボニル結合(-CO-)、スルホキシド結合(-SO-)、スルホン結合(-SO
2-)、ウレタン結合(-NHCOO-)、ウレア結合(-NHCONH-)、チオウレタン結合(-NHCOS-)、チオウレア結合(-NHCSNH-)、イミン結合又はヒドラゾン結合であり、
前記1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルキレン基、1以上の置換基で置換されていてもよいシクロアルキレン基、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルケニレン基、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルキニレン基、及び1以上の置換基で置換されていてもよいアリール基は、分子内に、エーテル結合(-O-)、チオエーテル結合(-S-)、エステル結合(-COO-)、アミド結合(-NHCO-)、カルボニル結合(-CO-)、スルホキシド結合(-SO-)、スルホン結合(-SO
2-)、ウレタン結合(-NHCOO-)、ウレア結合(-NHCONH-)、チオウレタン結合(-NHCOS-)、チオウレア結合(-NHCSNH-)、イミン結合又はヒドラゾン結合を有していてもよく、
Dは、2以上の窒素原子又は1以上の窒素原子及び1以上の硫黄原子の両方を有する電子供与基を表し、
Fは、蛍光色素部位を表す。}
なお、上記式(I)において、好ましいR
1、R
2及びR
3としては、例えば、同一又は異なってもよく、水素原子、ハロゲン原子、1以上の置換基で置換されていてもよいアルキル基、アミノ基、保護されたアミノ基、カルボキシル基、保護されたカルボキシル基、カルボニル基が挙げられるが、これらに限定されない。
R
1が、L
1と形成する好ましい3~7員の環としては、R
1が、L
1、カルボニル基(C=O)及び窒素原子と一緒になって形成する4~5員環が挙げられる。
L
2が、L
3と形成する好ましい5~7員の環としては、5~6員環が好ましく、具体的には、ベンゼン環、ピリジル環、フラン環、シクロヘキセン環、シクロペンテン環等が挙げられるが、これらに限定されない。特に好ましい例としては、例えば、下記のような、1,6-脱離型の構造(化8)をとることが挙げられる。
【化8】
R
3が、R
1と形成する好ましい5~7員の環としては、例えば、R
3が、R
1、窒素原子及びR
3と隣接する二重結合と形成する5~6員環が挙げられる。
好ましいL
1、L
2及びL
3は、例えば、化学結合、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルキレン基、エーテル結合(-O-)、エステル結合(-COO-)、アミド結合(-NHCO-)、カルボニル結合(-CO-)、スルホキシド結合(-SO-)又はスルホン結合(-SO
2-)、あるいは、分子内にエーテル結合(-O-)、エステル結合(-COO-)、アミド結合(-NHCO-)又はカルボニル結合(-CO-)を有する1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルキレン基であるが、これらに限定されない。
【0012】
本発明の別の態様として、本発明の化合物又はその塩は、下記の一般式(II)で表される化合物又はその塩であってもよい。
【化9】
{式中、R
a、R
b及びR
2は、同一又は異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルキル基、1以上の置換基で置換されていてもよいシクロアルキル基、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルケニル基、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルキニル基、1以上の置換基で置換されていてもよいアリール基、アミノ基、保護されたアミノ基、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、保護されたカルボキシル基、ヒドロキシル基、スルファニル基、アルキルスルファニル基、スルファニルアルキル基、アルキルスルフェニル基、スルフェニルアルキル基、スルホキシド基、アルキルスルフィニル基、スルフィニルアルキル基、アルキルスルホニル基、アルコキシ基又はアルキルチオ基であり、
R
a又はR
bはL
1と3~7員の環を形成してもよく、
Xは、それぞれ独立して、酸素原子、硫黄原子、S=(О)
n基(nは、1又は2である)又はCR
4R
5基を表し(R
4及びR
5は、同一又は異なってもよく、水素原子、ハロゲン原子、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルキル基、1以上の置換基で置換されていてもよいシクロアルキル基、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルケニル基、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルキニル基、1以上の置換基で置換されていてもよいアリール基である)、
L
1、L
2及びL
3は、同一又は異なってもよく、化学結合、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルキレン基、1以上の置換基で置換されていてもよいシクロアルキレン基、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルケニレン基、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルキニレン基、1以上の置換基で置換されていてもよいアリール基、エーテル結合(-O-)、チオエーテル結合(-S-)、エステル結合(-COO-)、アミド結合(-NHCO-)、カルボニル結合(-CO-)、スルホキシド結合(-SO-)、スルホン結合(-SO
2-)、ウレタン結合(-NHCOO-)、ウレア結合(-NHCONH-)、チオウレタン結合(-NHCOS-)、チオウレア結合(-NHCSNH-)、イミン結合又はヒドラゾン結合であり、
前記1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルキレン基、1以上の置換基で置換されていてもよいシクロアルキレン基、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルケニレン基、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルキニレン基、及び1以上の置換基で置換されていてもよいアリール基は、分子内に、エーテル結合(-O-)、チオエーテル結合(-S-)、エステル結合(-COO-)、アミド結合(-NHCO-)、カルボニル結合(-CO-)、スルホキシド結合(-SO-)、スルホン結合(-SO
2-)、ウレタン結合(-NHCOO-)、ウレア結合(-NHCONH-)、チオウレタン結合(-NHCOS-)、チオウレア結合(-NHCSNH-)、イミン結合又はヒドラゾン結合を有していてもよく、
Dは、2以上の窒素原子又は1以上の窒素原子及び1以上の硫黄原子の両方を有する電子供与基を表し、
Fは、蛍光色素部位を表し、
pは1又は2を表す。}
なお、上記式(II)において、好ましいR
a、R
bは、水素原子、ハロゲン原子、1以上の置換基で置換されていてもよいアルキル基、メトキシ基である。
好ましいR
2、L
1、L
2及びL
3は、上記した式(I)において好ましいものとして挙げたものと同様である。
【0013】
あるいは、本発明の別の態様として、本発明の化合物又はその塩は、下記の一般式(a)又は一般式(b)で表される化合物又はその塩であってもよい。
【化10】
{式中、R
iは、カルボキシル基、保護されたカルボキシル基、ヒドロキサム酸、ヒドラジド基、カルボニル基、オキシム基、イミノ基、ヒドラゾン基、セミカルバゾン基、シアノ基、置換されていてもよいアルキルアミノ基、置換されていてもよいアミノアルキル基、置換されていてもよいヒドロキシアルキル基、置換されていてもよいアルコキシアルキル基、又は置換されていてもよいアルキル基を表し、
Fは、蛍光色素部位を表す。}
なお、上記式(a)において、好ましいR
iは、カルボキシル基、保護されたカルボキシル基、カルボニル基、置換されていてもよいヒドロキシアルキル基等である。
【化11】
{式中、R
iiは、カルボキシル基、保護されたカルボキシル基、ヒドロキサム酸、ヒドラジド基、カルボニル基、オキシム基、イミノ基、ヒドラゾン基、セミカルバゾン基、シアノ基、置換されていてもよいアルキルアミノ基、置換されていてもよいアミノアルキル基、置換されていてもよいヒドロキシアルキル基、置換されていてもよいアルコキシアルキル基、又は置換されていてもよいアルキル基を表し、
Fは、蛍光色素部位を表す。}
なお、上記式(b)において、好ましいR
iiは、カルボキシル基、保護されたカルボキシル基、カルボニル基、置換されていてもよいヒドロキシアルキル基である。
【0014】
本発明のさらに別の態様として、本発明の化合物又はその塩は、下記の一般式(III)で表される化合物であってもよい。
【化12】
{式中、R
2、R
c、R
d、R
e及びR
fは、同一又は異なってもよく、水素原子、ハロゲン原子、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルキル基、1以上の置換基で置換されていてもよいシクロアルキル基、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルケニル基、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルキニル基、1以上の置換基で置換されていてもよいアリール基、アミノ基、保護されたアミノ基、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、保護されたカルボキシル基、オキシム基、ヒドラゾン基、ヒドロキシル基、スルファニル基、アルキルスルファニル基、スルファニルアルキル基、アルキルスルフェニル基、スルフェニルアルキル基、アルキルスルフィニル基、スルフィニルアルキル基、アルキルスルホニル基又はアルコキシ基又はアルキルチオ基であり、
L
2は、L
3と5~7員の環を形成してもよく、
R
eは、R
fと5~7員の環を形成してもよく、
L
1、L
2及びL
3は、同一又は異なってもよく、化学結合、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルキレン基、1以上の置換基で置換されていてもよいシクロアルキレン基、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルケニレン基、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルキニレン基、1以上の置換基で置換されていてもよいアリール基、エーテル結合(-O-)、チオエーテル結合(-S-)、エステル結合(-COO-)、アミド結合(-NHCO-)、カルボニル結合(-CO-)、スルホキシド結合(-SO-)、スルホン結合(-SO
2-)、ウレタン結合(-NHCOO-)、ウレア結合(-NHCONH-)、チオウレタン結合(-NHCOS-)、チオウレア結合(-NHCSNH-)、イミン結合又はヒドラゾン結合であり、
前記1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルキレン基、1以上の置換基で置換されていてもよいシクロアルキレン基、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルケニレン基、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルキニレン基、及び1以上の置換基で置換されていてもよいアリール基は、分子内に、エーテル結合(-O-)、チオエーテル結合(-S-)、エステル結合(-COO-)、アミド結合(-NHCO-)、カルボニル結合(-CO-)、スルホキシド結合(-SO-)、スルホン結合(-SO
2-)、ウレタン結合(-NHCOO-)、ウレア結合(-NHCONH-)、チオウレタン結合(-NHCOS-)、チオウレア結合(-NHCSNH-)、イミン結合又はヒドラゾン結合を有していてもよく、
Dは、2以上の窒素原子又は1以上の窒素原子及び1以上の硫黄原子の両方を有する電子供与基を表し、
Fは、蛍光色素部位を表す。}
なお、上記式(III)において、好ましいR
c、R
d、R
e及びR
fは、水素原子、ハロゲン原子、1以上の置換基で置換されていてもよいアルキル基、アルコキシ基、スルフィド基、スルホキシド基である。
R
eが、R
fと形成する好ましい5~7員の環としては、例えば、R
eが、窒素原子及びR
fと隣接する二重結合と形成する5~6員環が挙げられる。
また、好ましいR
2、L
1、L
2及びL
3は、上記した式(I)において好ましいものとして挙げたものと同様である。
【0015】
本発明のまた別の好ましい態様として、本発明の化合物又はその塩は、下記の一般式(IV)で表される化合物又はその塩を含む亜鉛イオン検出用蛍光プローブであってもよい。
【化13】
{式中、R
1、R
2及びR
3は、同一又は異なってもよく、水素原子、ハロゲン原子、1以上の置換基で置換されていてもよいアルキル基、1以上の置換基で置換されていてもよいシクロアルキル基、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルケニル基、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルキニル基、アミノ基、保護されたアミノ基、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、保護されたカルボキシル基、オキシム基、ヒドラゾン基、ヒドロキシル基、スルファニル基、アルキルスルファニル基、スルファニルアルキル基、アルキルスルフェニル基、スルフェニルアルキル基、アルキルスルフィニル基、スルフィニルアルキル基、アルキルスルホニル基又はアルコキシ基であり、
R
1は、L
1と3~7員の環を形成してもよく、
L
2は、L
3と5~7員の環を形成してもよく、
R
3は、R
1と5~7員の環を形成してもよく、
L
1、L
2及びR
3は、同一又は異なってもよく、化学結合、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルキレン基、1以上の置換基で置換されていてもよいシクロアルキレン基、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルケニレン基、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルキニレン基、1以上の置換基で置換されていてもよいアリール基、エーテル結合(-O-)、チオエーテル結合(-S-)、エステル結合(-COO-)、アミド結合(-NHCO-)、カルボニル結合(-CO-)、スルホキシド結合(-SO-)、スルホン結合(-SO
2-)、ウレタン結合(-NHCOO-)、ウレア結合(-NHCONH-)、チオウレタン結合(-NHCOS-)、チオウレア結合(-NHCSNH-)、イミン結合又はヒドラゾン結合であり、
前記1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルキレン基、1以上の置換基で置換されていてもよいシクロアルキレン基、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルケニレン基、1以上の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分鎖のアルキニレン基、及び1以上の置換基で置換されていてもよいアリール基は、分子内に、エーテル結合(-O-)、チオエーテル結合(-S-)、エステル結合(-COO-)、アミド結合(-NHCO-)、カルボニル結合(-CO-)、スルホキシド結合(-SO-)、スルホン結合(-SO
2-)、ウレタン結合(-NHCOO-)、ウレア結合(-NHCONH-)、チオウレタン結合(-NHCOS-)、チオウレア結合(-NHCSNH-)、イミン結合又はヒドラゾン結合を有していてもよく、
Dは、2以上の窒素原子を有する電子供与基を表し、
Fは、蛍光色素部位を表す。}
なお、上記式(IV)において、好ましいR
1、R
2、R
3、L
1、L
2及びL
3は、上記した式(I)において好ましいものとして挙げたものと同様である。
【0016】
本発明において、「電子供与基(D)」とは、具体的には、局在化している非共有電子対(ローンペア)を1以上有する基であり、2以上の窒素原子、又は1以上の窒素原子及び1以上の硫黄原子の両方を有することを特徴とする。
なお、ここでの「2以上の窒素原子」には、例えば、CBzHN基の窒素原子のように非共有電子が非局在化しているため塩基性が小さいものは含まないことが好ましい。また、別の好ましい例としては、NH2基の窒素原子(1級アミン)しか有しないものは含まない。
このような電子供与基(D)として、例えば、1以上の置換基で置換されていてもよいジピリジルアルキルアミン、1以上の置換基で置換されていてもよいビスアリールアルキルアミン、1以上の置換基で置換されていてもよいアリールアルキルアミノアルキルアミン、1以上の置換基で置換されていてもよいアリールアルキルアルキルアミン、1以上の置換基で置換されていてもよいビスアリールアルキルアミノアルキルアミン、1以上の置換基で置換されていてもよいビスアミノアルキルアミン、1以上の置換基で置換されていてもよいビスアルキルアミン、1以上の置換基で置換されていてもよいビスアルキルアミノアルキルアミン又は1以上の側鎖が1以上の置換基で置換されていてもよいビス(2-(2-(アルキルチオ)エチルチオ)エチル)アミンのいずれかであることが好ましく、このうち、1以上の置換基で置換されていてもよいジピリジルアルキルアミン、1以上の置換基で置換されていてもよいビスアミノアルキルアミン、1以上の置換基で置換されていてもよいビスアリールアルキルアミノアルキルアミンがより好ましく、1以上の置換基で置換されていてもよいジピリジルアルキルアミンがさらに好ましいが、これらに限定されない。
【0017】
また、本発明の別の好ましい電子供与基(D)の態様としては、例えば、下記の化学式で表される置換基:
【化14】
のピリジル環が1以上の置換基で置換されている場合が挙げられる。ピリジル環の代わりに他の複素環が用いられてもよい他、アミンやカルボキシル基等であってもよい。さらに、窒素原子とピリジル環の間のアルキレン基の炭素鎖は、例えば炭素数1~10の範囲で調整することが出来る。
【0018】
本発明において、「蛍光色素部位(F)」とは、具体的には、1以上の置換基で置換されていてもよいクマリン、1以上の置換基で置換されていてもよいキサンテン、1以上の置換基で置換されていてもよいピレン、1以上の置換基で置換されていてもよいニトロベンゾオキサジアゾール、1以上の置換基で置換されていてもよいベンゾフラン、1以上の置換基で置換されていてもよいアクリジン、1以上の置換基で置換されていてもよいイミノクマリン、1以上の置換基で置換されていてもよいダンシル、1以上の置換基で置換されていてもよいボディパイ、1以上の置換基で置換されていてもよいシアニン、1以上の置換基で置換されていてもよいピロニン、又は1以上の置換基で置換されていてもよいY-キサンテン(Yは、Si、P、S又はC)であることが好ましく、このうち、1以上の置換基で置換されていてもよいクマリン、ピロニン、キサンテンがより好ましく、1以上の置換基で置換されていてもよいクマリンがさらに好ましいが、これらに限定されない。
なお、蛍光色素部位は、turn on型、ratio型、時間分解可能な長寿命蛍光turn on型、turn off型のいずれかに分類できる。turn on型は、対象分子を検出して、蛍光強度が増加する蛍光プローブのことであり、turn off型は、対象分子を検出して、蛍光強度が減少する蛍光プローブである。ratio型は、1の蛍光プローブ分子が2種類の蛍光を発するものであるが、本発明においては、いずれであってもよい。好ましくは、フルオレセイン、ローダミン、ボディパイ、クマリン、ベンゾフランが挙げられるが、これらに限定されない。
【0019】
本発明において、用語「アルキル基」は、好ましくは、C1-C10アルキル基、より好ましくは、C1-C7アルキル基、さらに好ましくは、C1-C6アルキル基である。このようなアルキル基として、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、セカンダリーブチル基、ターシャリーブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ターシャリーペンチル基、ネオペンチル基、2,3-ジメチルプロピル基、ベンジルオキシ基等の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基が挙げられるが、これらに限定されない。
なお、上記説明は、「…アルキル基」(例えば、アルコキシアルキル基、ヒドロキシアルキル基、スルファニルアルキル基)や、「アルキル…基」(例えば、アルキルアミノ基等)におけるアルキル部にも同様に適用される。
【0020】
用語「アルケニル基」は、好ましくは、C2-C10アルケニル基、より好ましくは、C1-C7アルケニル基、さらに好ましくは、C2-C6アルケニル基である。このようなアルケニル基として、例えば、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、2-メチル-2-プロペニル基、スチリル基等の直鎖又は分鎖状のアルケニル基が挙げられるが、これらに限定されない。
【0021】
用語「アルキニル基」は、好ましくは、C2-C10アルキニル基、より好ましくは、C1-C7アルキニル基、さらに好ましくは、C2-C6アルキニル基である。このようなアルキニル基として、例えば、エチニル基、1-プロピニル基、2-プロピニル基、1-ブチニル基、2-ブチニル基、3-ブチニル基、3-メチル-1-プロピニル基、フェニルエチニル基等の直鎖又は分鎖状のアルキニル基が挙げられるが、これらに限定されない。
【0022】
用語「シクロアルキル基」は、好ましくは、C3-C10シクロアルキル基、より好ましくは、C3-C7シクロアルキル基、さらに好ましくは、C3-C6シクロアルキル基である。このようなシクロアルキル基として、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基等の環状のアルキル基が挙げられるが、これらに限定されない。
【0023】
用語「アルコキシ基」は、好ましくは、C1-C10アルコキシ基、より好ましくは、C1-C7アルコキシ基、さらに好ましくは、C1-C6アルコキシ基である。このようなアルコキシ基として、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、セカンダリーブトキシ基、ターシャリーブトキシ基、ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、ベンジルオキシ基等の直鎖又は分岐鎖状のアルコキシ基等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0024】
用語「アルキルチオ基」は、好ましくは、C1-C10アルキルチオ基、より好ましくは、C1-C7アルキルチオ基、さらに好ましくは、C1-C6アルキルチオ基である。このようなアルキルチオ基として、例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、イソプロピルチオ基、ブチルチオ基、セカンダリーブチルチオ基、ターシャリーブチルチオ基、ペンチルチオ基、ベンジルチオ基等の直鎖又は分岐鎖状のアルキルチオ基が挙げられるが、これらに限定されない。
【0025】
用語「アルキルスルファニル基」は、好ましくは、C1-C10アルキルスルファニル基、より好ましくは、C1-C7アルキルスルファニル基、さらに好ましくは、C1-C6アルキルスルファニル基である。このようなアルキルスルファニル基として、例えば、メチルスルファニル基、エチルスルファニル基、プロピルスルファニル基、イソプロピルスルファニル基、ブチルスルファニル基、セカンダリーブチルスルファニル基、ターシャリーブチルスルファニル基、ベンジルスルファニル基等の直鎖又は分岐鎖状のアルキルスルファニル基が挙げられるが、これらに限定されない。
【0026】
用語「アルキルスルフィニル基」は、好ましくは、C1-C10アルキルスルフィニル基、より好ましくは、C1-C7アルキルスルフィニル基、さらに好ましくは、C1-C6アルキルスルフィニル基である。このようなアルキルスルフィニル基として、例えば、メチルスルフィニル基、エチルスルフィニル基、プロピルスルフィニル基、イソプロピルスルフィニル基、ブチルスルフィニル基、セカンダリーブチルスルフィニル基、ターシャリーブチルスルフィニル基、ベンジルスルフィニル基等の直鎖又は分岐鎖状のアルキルスルフィニル基が挙げられるが、これらに限定されない。
【0027】
用語「アルキルスルホニル基」は、好ましくは、C1-C10アルキルスルホニル基、より好ましくは、C1-C7アルキルスルホニル基、さらに好ましくは、C1-C6アルキルスルホニル基である。このようなアルキルスルホニル基として、例えば、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、プロピルスルホニル基、イソプロピルスルホニル基、ブチルスルホニル基、セカンダリーブチルスルホニル基、ターシャリーブチルスルホニル基、ペンチルスルホニル基、ベンジルスルホニル基等の直鎖又は分岐鎖状のアルキルスルホニル基が挙げられるが、これらに限定されない。
【0028】
用語「アリール」とは、芳香族炭化水素から誘導された基を示し、例えば、フェニル、トルイル、キシリル、ナフチル、アントラセニル、インダセニル等が挙げられるが、これらに限定されない。
なお、上記説明は、「…アリール」(例えば、アリールアルキルアミノアルキルアミン等)や、「アリール…」におけるアリール部にも適用される。
【0029】
本発明において、用語「1以上の置換基で置換されていてもよい…」又は「置換されていてもよい」とは、例えば、ハロゲン原子、アルキル基、アルケン基、アルキン基、アリール、アミノ基、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、保護されたカルボキシル基、ヒドロキシル基、スルファニル基、アルキルスルファニル基、アルキルスルフェニル基、スルホキシド基、アルキルスルフィニル基、アルキルスルホニル基、アルコキシ基又はアルキルチオ基等の置換基で置換されていてもよいことであるが、これらの置換基に限定されない。
【0030】
本発明において、用語「保護された…基」とは、当分野で公知の保護基で保護されたカルボニル基、保護されたカルボキシル基や保護されたアミノ基のことであり、好ましくは、例えば、ジメチルアセタール、環状アセタール、ジチオアセタール、メチル基、tert-ブチル基、ベンジル基、アリル基、obo(オキサビシクロ[2,2,2]オクチル)基、Boc(tert-ブトキシカルボニル)基、Cbz(ベンジルオキシカルボニル)基、Fmoc(9-フルオレニルメチルオキシカルボニル)基、Troc(2,2,2-トリクロロエトキシカルボニル)基、p-トルエンスルホニル基、2-ニトロベンゼンスルホニル基等の保護基で、カルボニル基、カルボキシル基やアミノ基等が保護されていることであるが、これらの保護基に限定されず、当分野で公知の保護基を適宜用いることが出来る。
【0031】
用語「ヒドラゾン基」及び「ヒドラゾン結合」は、それぞれ、-C(=N-NRイRロ)Rハ基及び構造-C(=N-NRイRロ)-を有する結合である。ここで、Rイ、Rロ及びRハは、同一又は異なってもよく、任意の水素原子、アルキル基、アリール基等であり、好ましくは水素原子又はC1-C6アルキル基である。
用語「イミン結合」は、構造-C(=NRニ)-を有する結合である。ここで、Rニは、任意の水素原子、アルキル基、アリール基等であり、好ましくは水素原子又はC1-C6アルキル基である。
用語「オキシム基」は、>C=N-OHで表される構造であり、アルドキシム-CH=N-OH又はケトキシム-RニC=N-OHのいずれであってもよい。ここで、Rニは、任意のアルキル基又はアリール基等であり、好ましくはC1-C6アルキル基である。
用語「ヒドラジド基」は、-CONRホNRヘRト基である。ここで、Rホ、Rヘ及びRトは、同一又は異なってもよく、任意の水素原子、アルキル基、アリール基等であり、好ましくは水素原子又はC1-C6アルキル基である。
用語「ヒドロキサム酸」は、-C(=O)NHOH基である。
用語「セミカルバゾン基」は、>C=NNRチC(=O)NRリRヌ基である。ここで、Rチ、Rリ及びRヌは、同一又は異なってもよく、任意の水素原子、アルキル基、アリール基等であり、好ましくは水素原子又はC1-C6アルキル基である。
【0032】
用語「環を形成する」は、2つ以上の置換基が環を形成することであり、このような環としては、芳香環、非芳香環のいずれでもよい。このような環の例としては、ベンゼン環、ピリジル環、ピロール環等の芳香環、シクロブタン、シクロプロパン、シクロヘキサン等の非芳香環等が挙げられる。また、環は飽和であっても、不飽和であってもよい。
用語「化学結合」は、単結合(-)を意味する。
【0033】
用語「アルキレン基」は、好ましくは、C1-C10アルキレン基、より好ましくは、C1-C7アルキレン基、さらに好ましくは、C1-C6アルキレン基である。このようなアルキレン基として、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、へキシレン基、へプチレン基等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0034】
用語「アルケニレン基」は、好ましくは、C2-C10アルケニレン基、より好ましくは、C2-C7アルケニレン基、さらに好ましくは、C2-C6アルケニレン基である。
また、用語「アルキニレン基」は、好ましくは、C2-C10アルキニレン基、より好ましくは、C2-C7アルキニレン基、さらに好ましくは、C2-C6アルキニレン基である。
【0035】
また、本発明の化合物は、公知の方法に従い又は準じて所望の塩の形態に変換することができる。このような塩の好ましい例としては、例えば、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、燐酸塩等の無機酸塩類、酢酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、シュウ酸塩、メタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、パラトルエンスルホン酸塩等の有機酸塩、ナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム、マグネシウム等の無機塩、トロメタモール、アルギニン、リジン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリメチルアミン等の有機塩基との塩を例示することができる。
【0036】
また、本発明の化合物又はその塩として、例えば、以下の化合物又はその塩が好ましく挙げられるが、これらに限定されない。
【化15】
【0037】
また、本発明で用いる蛍光プローブは、上記した化合物又はその塩を有効成分として含有することが好ましい。以下、上記した本発明の化合物又はその塩を、本発明の蛍光プローブ用化合物又はその塩ともいう。
【0038】
<蛍光プローブについて>
亜鉛イオン検出のための蛍光プローブ用化合物としては、以下の化合物が知られている(非特許文献1、2。このうち、ZnAF-2は、後述の実験項でも比較として用いる)。
【化16】
【0039】
これら既存の蛍光プローブは、
図1(a)に記載するように、亜鉛イオンと選択的に2:1 又は1:1 でリガンドに配位し、亜鉛イオンを検出することが出来る。しかしながら、細胞内では高濃度に存在するグルタチオン(GSH)等も亜鉛イオンに親和性を有することから、グルタチオン等とこれら化合物が競合する結果、これらの化合物によって検出出来る細胞内亜鉛イオン感度はあまり高くはない。
【0040】
これらの既存の蛍光プローブに対し、本発明の蛍光プローブは、
図1(b)に記載するように、消光されていた蛍光団が標的に選択的な化学反応に基づいて蛍光を回復し、かつ反応後の標的が触媒回転して蛍光シグナルを増強するため、有用である。本発明の蛍光プローブは、上記したグルタチオン等の競合化合物が存在する細胞内においても、標的を高い感度で検出出来ると考えられる。具体的には、下記の化学式の通りである。
【0041】
【0042】
すなわち、本発明の化合物は、亜鉛イオンを選択的に認識して活性化する配位子ならびに活性化亜鉛イオンに応答して消光されていた蛍光団を放出し、解離した亜鉛イオンが触媒回転して蛍光シグナルを増幅する蛍光プローブとなり得る。本発明の化合物又はその塩では、亜鉛イオンが触媒となって多分子の蛍光プローブに作用することが出来るため、増幅された蛍光シグナルが得られ、有用である。
【0043】
また、Dpa-SoxLBC及びDpa-LBCの細胞内での挙動を示すと下記の通りである。p-アセトキシベンジル部分と結合したDpa-SoxLC及びp-アセトキシベンジル部分と結合したDpa-LC(DpaSoxLBC及びDpa-LBC)は、細胞内に輸送され、エステラーゼによって脱アセチル化され、キノンメチドが切断されるものと考えられる。
【0044】
【0045】
<製造方法>
本発明の化合物又はその塩は、自体公知のアルキル化反応、脱保護反応、ウレタン結合形成反応、置換反応、酸化反応、アミド結合形成反応、エステル結合形成反応や還元反応を適宜組み合わせることによって製造される。例えば、具体的な脱保護反応としては、酸性条件でのBoc除去とp-MeO benzylの除去、fluorideによる脱silyl化反応等が挙げられるが、これらに限定されない。また、反応に用いられる保護基の種類、導入、除去は、十分に知られていて、本発明において、これらの技術に従ってよいが、例えば、Green’s Protective Groups in Organic Synthesis, 5th Ed. (Wiley, 2014)に記載の保護基やそれらの導入、除去反応を用いてもよい。
【0046】
<医薬組成物>
本発明は、本発明の化合物又はその塩、及び1種又は複数の薬学的に許容される担体、希釈剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、乳化剤、安定剤、希釈剤、増粘剤、湿潤剤、pH調整剤、溶解剤、保湿剤、増粘剤、懸濁化剤、着香剤、着色剤、防腐剤、界面活性剤、乳化剤、安定化剤又は賦形剤を含む医薬組成物(以下、本発明の医薬組成物ともいう。)を提供する。担体、希釈剤又は賦形剤は、処方の他の成分と混合可能である。さらなる実施態様において、本発明はまた、本発明の化合物又はその塩を1種又は複数の薬学的に許容される担体、希釈剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、乳化剤、安定剤、希釈剤、増粘剤、湿潤剤、pH調整剤、溶解剤、保湿剤、増粘剤、懸濁化剤、着香剤、着色剤、防腐剤、界面活性剤、乳化剤、安定化剤又は賦形剤と混合することを含む本発明の医薬組成物の調製法を提供する。
【0047】
本発明の化合物又はその塩は、上記特性を利用して、亜鉛を検出又は測定することができる蛍光プローブ(蛍光試薬)として利用することができる。本発明はまた、上記蛍光プローブを含む亜鉛蛍光検出薬、亜鉛蛍光検出キット等として利用することができる。
【0048】
本発明の蛍光プローブを用いて亜鉛を測定又は検出することができる。その方法は、例えば、(1)亜鉛を含む検体と、本発明の蛍光プローブとを混合する工程、及び(2)得られた混合物の蛍光スペクトルを測定する工程を含む。具体的には、適当な緩衝液中で、亜鉛を含む検体及び本発明の蛍光プローブを混合しインキュベートした後、この混合物に励起光を当てて蛍光を測定することで亜鉛を測定できる。
【0049】
緩衝液としては特に限定はなく、例えば、リン酸緩衝生理食塩水(pH7.4)、グッド緩衝液、リン酸緩衝液、クエン酸リン酸緩衝液、トリス緩衝液等の公知のものを用いることができるが、これらに限定されない。なお、本発明の化合物又はその塩は、cell free系でも使用されることがある。
【0050】
緩衝液中の蛍光プローブ(本発明の化合物又はその塩)の濃度は特に限定はなく、通常、0.1μM~1mM 程度、好ましくは1μM~0.1mM程度、より好ましくは2μM~10μM程度であるが、これらに限定されない。
【0051】
インキュベーションの温度及び時間は、例えば、0~40℃程度で10分~2時間程度であることが好ましいが、これらに限定されない。検体が細胞又は組織である場合には、その培養に適した温度(例えば、ヒト由来の細胞又は組織であれば約37℃等)であることが好ましい。
【0052】
蛍光の測定は、市販の蛍光光度計を用いることができる。細胞内の亜鉛の動態を調べる場合には、蛍光顕微鏡、共焦点レーザー走査蛍光顕微鏡等の公知の方法を用いて観察することができる。
【0053】
本発明の方法を採用することで、高感度に亜鉛を蛍光検出することが可能となる。具体的には、細胞および組織染色での亜鉛を蛍光検出したり、血清や尿等において亜鉛を定量して亜鉛欠乏症を検出したりすることができる。例えば、血清においては、亜鉛が一定の基準数値(例えば、60 μg/dL(モル濃度では9.2 uM)未満)以下等)であると亜鉛欠乏症と判断されるが、本発明の化合物又はその塩を併用することで、これを簡易に判断することが可能である。なお、現状このような判断は、比較的操作が煩雑な原子吸光法等で行っていることから、本発明の化合物又はその塩を用いれば、病理検査を簡易化出来る可能性があり、有用である。
【実施例0054】
次に、試験例、実施例、比較例及び参考例等を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではなく、多くの変形が本発明の技術的思想内で当分野において通常の知識を有する者により可能である。
参考文献(Nat. Chem. Vol. 4, 802-809, 2012及びJ. Med. Chem. Vol. 33, 77-86, 1990)
【0055】
なお、本発明に使用する実施例、比較例及び参考例の化合物は市販されたものを容易に入手することができ、それを使用することができる。ACLE・HClは大塚化学、他の全ての溶媒と化学薬品は、Aldrich、富士フィルム和光純薬株式会社、関東化学株式会社、ナカライテスク、又は東京化成工業株式会社から購入した。カラムクロマトグラフィーはシリカゲル(SiliaFlash(登録商標) Irregular Silica Gels, F60, 40-63 μm (230-400 mesh), 60 オングストローム (SiliCycle Inc. #R10030B))を使用して行った。一次元NMRスペクトルおよびHH-COSYは、300 MHz/75 MHz(1H NMR/13C NMR)周波数にて、Varian MERCURY plus 300(300 MHz)分光計を使用して測定した。化学シフトは、溶媒共鳴又はTMSを内部標準としてppmで記載した。多重度は(s =シングレット、d =ダブレット、t =トリプレット、dd =ダブレットのダブレット、dt =トリプレットのダブレット、m =マルチプレット、br =ブロード)で示す。
低分解能質量スペクトル(LRMS)は、ESI技術によるHITACHI CM5610 MS検出器を使用して取得し、高分解能質量スペクトル(HRMS)は、ESI技術によるThermo Fisher Scientific Exactive Orbitrap質量分析計を使用して取得した。
【0056】
[スキーム1] Dpa-SoxLC、Dpa-SoxLBC及びDpa-LBCの合成
【化19】
【0057】
化合物1(N,N-ビス(ピリジン-2-イルメチル)グリシンメチルエステル)の合成
【化20】
【0058】
ヨウ化カリウム(208 mg、1.35 mmol)及び炭酸カリウム(600 mg、4.35 mmol)を、ビス(2-ピリジルメチル)アミン(355 μL、394 mg、2.00 mmol)のアセトニトリル溶液(15 mL)に加えた。さらに、クロロ酢酸メチル(200 μL、247 mg、2.27 mmol)を加えた後、溶液を50℃で3時間撹拌した。クロロホルム(150 mL)で溶液を希釈した後、希釈後の懸濁液を濾紙で濾過した。溶媒を減圧下に除去した後、残渣をカラムクロマトグラフィー(クロロホルム/メタノール/28%アンモニア水 = 200/10/1)で精製し、褐色の油状物質である化合物1を得た(540 mg、100%)。
【0059】
1H-NMR (300 MHz, DMSO-d6) δ 3.45 (2H, s), 3.60 (3H, s), 3.91 (4H, s), 7.52 (2H, td, J = 6.0, 1.5 Hz), 7.51 (2H, d, J = 7.8 Hz), 7.71 (2H, td, J = 7.5, 1.8 Hz), 8.48 (2H, dt, J = 4.8, 0.9 Hz). ESI-LRMS m/z: 294.5、計算値: 294.1([C15H17N3O2+Na]+)。
【0060】
化合物2(N,N-ビス(ピリジン-2-イルメチル)グリシン)の合成
【化21】
【0061】
化合物1(540 mg、1.99 mmol)を、THF(テトラヒドロフラン、5 mL)及び1N 水酸化ナトリウム(2 mL)の混合溶液に溶解した後、室温で6時間撹拌した。その後、THFを減圧下に除去して、溶液を水(3 mL)で希釈した。水溶液のpHを1N 塩酸により、5~6に酸性化した後、水溶液を凍結乾燥し、茶色の無定形である化合物2を得た(529 mg、100%)。
【0062】
1H-NMR (300 MHz, DMSO-d6) δ 3.71 (2H, s), 4.34 (4H, s), 7.59 (2H, t, J = 6.3 Hz), 7.71 (2H, d, J = 7.8 Hz), 8.10 (2H, td, J = 7.8, 1.8 Hz), 8.71 (2H, d, J = 4.2 Hz). ESI-LRMS m/z: 280.5、計算値: 280.1([C14H15N3O2+Na]+)。
【0063】
化合物3(7-tert-ブトキシカルボニルアミノ-3-クロロメチル-3-セフェム-4-カルボン酸p-メトキシベンジルエステル)の合成
【化22】
【0064】
TEA(トリエチルアミン、204 μL、148 mg、1.46 mmol)を、ACLE(7-アミノ-3-クロロメチル-3-セフェム-4-カルボン酸p-メトキシベンジルエステル)・HCl(600 mg、1.48 mmol)、Boc2O(炭酸ジ-tert-ブチル、520 mg、2.38 mmol)及びHOBt・H2O(1-ヒドロキシベンゾトリアゾール1水和物、390 mg、2.82 mmol)のDMF(ジメチルホルムアミド、7 mL)溶液へ添加した。溶液を0℃で20分間撹拌した後、室温まで加温し、23時間撹拌した。酢酸エチル(150 mL)で溶液を希釈した後、有機層を水(200 mL)及び食塩水(30 mL)で洗浄した。さらに、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧下に蒸発させた。残渣をカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル = 5/1から3/1)で精製し、透明な油状物質である化合物3を得た(602 mg、1.28 mmol、87%)。
【0065】
1H-NMR (300 MHz, CDCl3) δ 1.46 (9H, s), 3.47 (1H, d, J = 18.3 Hz), 3.66 (1H, d, J = 18.3 Hz), 3.81 (3H, s), 4.43 (1H, d, J = 11.7 Hz), 4.57 (1H, d, J = 12.0 Hz), 4.95 (1H, d, J = 4.8 Hz), 5.15-5.21 (1H, m), 5.23 (2H, s), 5.62 (1H, dd, J = 6.3, 4.5 Hz), 6.90 (1H, d, J = 8.7 Hz), 7.35 (1H, d, J = 9.0 Hz). ESI-HRMS m/z: 491.1007、計算値: 491.1014([C21H25ClN2O6S+Na]+)
【0066】
化合物4(7-tert-ブトキシカルボニルアミノ-3-(2-オキソ-2H-クロメン-7-イル)オキシメチル-3-セフェム-4-カルボン酸p-メトキシベンジルエステルS-オキシド)の合成
【化23】
【0067】
ヨウ化ナトリウム(1.80 g、12.0 mmol)をアセトン(40 mL)中の化合物3(606 mg、1.29 mmol)の溶液に加えた。混合物を室温で1時間撹拌した後、溶媒を減圧下に除去した。残渣を酢酸エチル(200 mL)で溶解し、有機層を水(200 mL)及び食塩水(50 mL)で洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧下に蒸発させた。室温で2時間真空乾燥した後、残渣(粗生成物)をさらに精製することなく次の反応に使用した。ウンベリフェロン(300 mg、1.85 mmol)と炭酸カリウム(370 mg、2.68 mmol)を、アセトニトリル(20 mL)中の上記粗生成物の溶液に加えた。混合物を室温で3時間撹拌した。溶媒を減圧下に除去した後、残渣をカラムクロマトグラフィー(クロロホルム/メタノール= 50/1)で精製し、ウンベリフェロンコンジュゲートの粗生成物(580 mg)を黄色の油状物質として得て、これをジクロロメタン(30 mL)に溶解した。0℃に冷却した後、m-クロロペルオキシ安息香酸(mCPBA、220 mg、831 μmol)を溶液に加え、0℃で30分間撹拌した後、クロロホルム(150 mL)にて希釈した。有機層を水(150 mL)で洗浄後、硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧下に溶媒を除去した。残渣をカラムクロマトグラフィー(クロロホルム/メタノール= 50/1)で精製して、淡橙色の固体である化合物4(380 mg、622 μmol、48%)を得た。
【0068】
1H-NMR (300 MHz, CDCl3) δ 1.46 (9H, s), 3.27 (1H, d, J = 19.2 Hz), 3.81 (3H, s), 4.03 (1H, d, J = 18.9 Hz), 4.48 (1H, dd, J = 4.8, 1.5 Hz), 4.83 (1H, d, J = 13.8 Hz), 5.26 (1H, d, J = 12.0 Hz), 5.28 (1H, d, J = 13.2 Hz), 5.37 (1H, d, J = 13.5 Hz), 5.71 (1H, d, J = 10.8 Hz), 5.82 (1H, d, J = 10.8 Hz), 6.29 (1H, d, J = 9.3 Hz), 6.76-6.80 (2H, m), 6.91 (2H, d, J = 8.7 Hz), 7.37 (1H, d, J = 8.4 Hz), 7.38 (2H, d, J = 8.4 Hz), 7.64 (1H, d, J = 9.3 Hz), 8.07 (1H, d, J = 0.6 Hz). ESI-LRMS m/z: 633.2、計算値: 633.2([C30H30N2O10S+Na]+)。
【0069】
化合物5(7-アミノ-3-(2-オキソ-2H-クロメン-7-イル)オキシメチル-3-セフェム-4-カルボン酸S-オキシド)の合成
【化24】
【0070】
化合物4(70.4 mg、115 μmol)をジクロロメタン(2.4 mL)に溶解し、さらに、チオアニソール(500 μL)及びTFA(トリフルオロ酢酸、1.8 mL)を溶液に0℃で加えた。溶液を0℃で4時間撹拌し、冷ジエチルエーテル(-15℃、12 mL)を加えた後、遠心分離(10000 g x 1分)で沈殿物を回収し、上澄みを除去した。冷ジエチルエーテル(6 mL)の添加と遠心分離の工程を3回繰り返した後、沈殿物を洗浄した。残渣を真空中で乾燥させ、白色固体である化合物5(35.0 mg、89.7 μmol、78%)を得た。
【0071】
1H-NMR (300 MHz, DMSO-d6) δ3.61 (1H, d, J = 19.5 Hz), 3.96 (1H, d, J = 18.3 Hz), 4.76 (1H, d, J = 5.1 Hz), 4.84 (1H, d, J = 4.8 Hz), 4.88 (1H, d, J = 12.6 Hz), 5.11 (1H, d, J = 12.3 Hz), 6.31 (1H, d, J = 9.3 Hz), 6.94-6.98 (2H, m), 7.65 (1H, d, J = 8.4 Hz), 8.00 (1H, d, J = 9.6 Hz). ESI-HRMS m/z: 391.0592、計算値: 391.0594([C17H14N2O7S+H]+)。
【0072】
Dpa-SoxLC(7-(N,N-ビス(ピリジン-2-イルメチル)アミノアセトアミド-3-(2-オキソ-2H-クロメン-7-イル)オキシメチル-3-セフェム-4-カルボン酸S-オキシド)の合成
【化25】
【0073】
WSCD・HCl(水溶性カルボジイミド、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド、32.6 mg、170 μmol)を0℃でDMF(3 mL)中の化合物2(75.1 mg、268 μmol)、NHS(N-ヒドロキシスクシンイミド、26.3 mg、229 μmol)及びDMAP(4-ジメチルアミノピリジン、26.0 mg、213 μmol)の溶液に加えた後、溶液を0℃で2時間撹拌し、化合物5(20.0 mg、51.2 μmol)を加えた。0℃で1.5時間攪拌した後、溶液を水/アセトニトリル = 2/1(4.5 mL)の混合物で希釈し、HPLC(ODS-A、YMC-Pack、150 x 30 mm、流速:9.9 mL/min、A:アセトニトリル(0.1%TFA)B:水(0.1%TFA)、グラディエント:(時間(分)、B(%))=(0、95)(10、95)(50、50)(55、5)、保持時間37分)にて精製を行った。得られた溶液を凍結乾燥し、やや黄色の白色固体である化合物Dpa-SoxLCを得た(20.5 mg、32.5 μmol、64%)。
【0074】
1H-NMR (300 MHz, DMSO-d6) δ 3.50 (2H, s), 3.70 (1H, d, J = 18.0 Hz), 4.07 (1H, d, J = 19.2 Hz), 4.11 (4H, s), 4.94 (1H, d, J = 12.6 Hz), 4.98 (1H, d, J = 4.2 Hz), 5.15 (1H, d, J = 12.9 Hz), 5.94 (1H, dd, J = 9.0, 5.4 Hz), 6.32 (1H, d, J = 9.6 Hz), 6.97 (1H, dd, J = 8.4, 2.4 Hz), 7.01 (1H, d, J = 2.4 Hz), 7.47 (2H, t, J = 6.3 Hz), 7.64 (2H, d, J = 6.6 Hz), 7.65(1H, d, J = 6.3 Hz), 7.96(2H, t, J = 6.3 Hz), 8.01 (1H, d, J = 9.6 Hz), 8.63 (2H, d, J = 4.2 Hz), 8.74 (1H, d, J = 9.0 Hz). 13C-NMR (75 MHz, DMSO-d6) δ 45.93, 57.20, 58.56, 59.01, 66.91, 68.18, 102.31, 113.60, 115.30, 119.23, 119.80, 124.31, 124.90, 126.81, 130.43, 140.09, 145.04, 147.90, 156.01, 156.44, 160.97, 161.79, 162.93, 165.25, 170.48. ESI-HRMS m/z: 630.1682、計算値: 630.1653([C31H27N5O8S+H]+)
【0075】
酢酸4-ブロモメチルフェニル (4-BPA)の合成
【化26】
【0076】
水素化ホウ素ナトリウム(56.0 mg、1.48 mmol)を、4-アセトキシベンズアルデヒド(220 mg、1.34 mmol)のTHF(4 mL)溶液に0℃で加えた。0℃で1.5時間撹拌した後、溶液を酢酸エチル(50 mL)で希釈し、飽和塩化アンモニウム水溶液(20 mL)で2回洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧下に蒸発させた。室温で1.5時間真空乾燥した後、残渣をジクロロメタン(4 mL)に溶解し、0℃に冷却した後、四臭化炭素(584 mg、1.76 mmol)とトリフェニルホスフィン(416 mg、1.58 mmol)を溶液に加えた。この溶液を0℃で10分間及び室温で24時間攪拌した。溶媒を減圧下に除去した後、残渣をカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル= 12/1から10/1)で精製し、無色結晶である化合物酢酸4-ブロモメチルフェニル(4-BPA)を得た(226 mg、986 μmol、74%)。
1H-NMR (300 MHz, CDCl3) δ 2.30 (3H, s), 4.49 (2H, s), 7.06 (2H, dd, J = 6.6, 1.8 Hz), 7.41 (2H, dd, J = 6.6, 1.8 Hz).
【0077】
Dpa-SoxLBC(7-(N,N-ビス(ピリジン-2-イルメチル)アミノアセトアミド-3-(2-オキソ-2H-クロメン-7-イル)オキシメチル-3-セフェム-4-カルボン酸p-メトキシベンジルエステルS-オキシド)の合成
【化27】
【0078】
化合物Dpa-SoxLC(17.5 mg、27.8 μmol)をDMF(3 mL)に溶解し、炭酸カリウム(10.1 mg、72.5 μmol)と酢酸4-ブロモメチルフェニル(26.6 mg、116 μmol)を溶液に加えた。0℃で6時間攪拌した後、溶液を9 mLのアセトニトリル/水=1/2(0.1%TFA)で希釈し、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)フィルター(Millex-HV、非滅菌、直径 13mm、0.45 μm)でろ過した。濾液をHPLC(ODS-A、YMC-Pack、150 x 30 mm、流量:9.9 mL/min、A:アセトニトリル(0.1%トリフルオロ酢酸)、B:水(0.1%TFA)、グラディエント:(時間(分)、B(%))=(0、95)(40、55)(45、5)(50、5)、保持時間43分)にて精製を行った。得られた溶液を凍結乾燥して、白色固体であるDpa-SoxLBC(10.2 mg、13.1 μmol、47%)を得た。
【0079】
1H-NMR(300 MHz, DMSO-d6) δ 2.25 (3H, s), 3.48 (2H, s), 3.74 (1H, d, J = 18.3 Hz), 4.03 (4H, s), 4.14 (2H, d, J = 19.2 Hz), 4.93 (1H, d, J = 12.3 Hz), 5.01 (1H, d, J = 3.6 Hz), 5.09 (1H, d, J = 12.6 Hz), 5.32 (1H, d, J = 3.6 Hz), 6.01 (1H, dd, J = 8.7, 5.4 Hz), 6.34 (1H, d, J = 9.3 Hz), 6.90-6.95 (2H, m), 7.08 (2H, d, J = 8.7 Hz), 7.40-7.48 (4H, m), 7.63 (2H+1H, t, J = 7.5 Hz), 7.92 (2H, t, J = 7.2 Hz), 8.02 (1H, d, J = 9.3 Hz), 8.60 (2H, d, J = 3.9 Hz), 8.78 (1H, d, J = 10.2 Hz). 13C-NMR (75 MHz, DMSO-d6) δ 21.55, 46.06, 57.19, 58.69, 58.99, 67.07, 67.86, 68.04, 102.37, 113.48, 113.64, 115.29, 121.15, 122.57, 124.29, 124.89, 125.40, 130.35, 130.57, 133.14, 140.11, 144.99, 147.82, 151.19, 155.96, 156.46, 160.95, 161.34, 161.59, 165.54, 169.84, 170.52. ESI-HRMS m/z: 778.2184、計算値: 778, 2177([C40H35N5O10S+H]+)
【0080】
Dpa-LBC(7-(N,N-ビス(ピリジン-2-イルメチル)アミノアセトアミド-3-(2-オキソ-2H-クロメン-7-イル)オキシメチル-3-セフェム-4-カルボン酸p-メトキシベンジルエステル)の合成
【化28】
【0081】
Dpa-SoxLBC(16.7 mg、21.5 μmol)をアセトン(2 mL)に溶解し、ヨウ化ナトリウム(16.1 mg、107 μmol)及び無水トリフルオロ酢酸(16.3 μL、24.3 mg、118 μmol)を溶液に添加した。0℃で30分間攪拌した後、溶液を5.4 mLのアセトニトリル/水 = 1/2(0.1%TFA)で希釈し、PVDFフィルター(Millex-HV、非滅菌、直径13mm、0.45 μm)でろ過した。ろ液をHPLC(ODS-A、YMC-Pack、150 x 30 mm、流速:9.9 mL/min、A:アセトニトリル(0.1%TFA)、B:水(0.1%TFA)、グラディエント:(時間(分)、B(%))=(0、80)(30、32)(31、0)(36、0)、保持時間24分)にて精製を行った。得られた溶液を凍結乾燥し、黄色の結晶性固体である、化合物Dpa-LBC(11.3 mg、14.8 μmol、69%)を得た。
【0082】
1H-NMR(300 MHz, DMSO-d6) δ 2.25 (3H, s), 3.61 (2H, s), 3.64 (1H, d, J = 18.9 Hz), 3.76 (1H, d, J = 18.3 Hz), 4.18 (4H, s), 4.88 (1H, d, J = 12.3 Hz), 4.94 (1H, d, J = 12.0 Hz), 5.21 (1H, d, J = 4.8 Hz), 5.24 (1H, d, J = 12.3 Hz), 5.31 (1H, d, J = 12.3 Hz), 5.81 (1H, dd, J = 8.7, 5.4 Hz), 6.33 (1H, d, J = 9.6 Hz), 6.91-6.98 (2H, m), 7.06 (2H, d, J = 8.4 Hz), 7.42 (2H, d, J = 8.4 Hz), 7.47 (2H, t, J = 6.3 Hz), 7.60 (2H, d, J = 8.1 Hz), 7.63 (1H, d, J = 8.7 Hz), 7.97 (2H, t, J = 6.6 Hz), 8.01 (1H, d, J = 9.6 Hz), 8.62 (2H, d, J = 4.8 Hz), 9.51 (1H, d, J = 8.4 Hz). 13C-NMR (75 MHz, DMSO-d6) δ 21.58, 26.59, 56.81, 58.28, 58.71, 59.85, 67.68, 102.30, 113.48, 113.57, 122.58, 124.33, 125.00, 125.55, 126.00, 130.34, 130.53, 133.21, 140.14, 145.04, 147.78, 151.16, 155.98, 156.54, 158.95, 161.00, 161.73, 162.15, 165.60, 169.88, 170.78. ESI-HRMS m/z: 762.2221、計算値: 762.2228([C40H35N5O9S+H]+)
【0083】
DM-SoxLC(7-(N,N-ジメチルアミノアセトアミド-3-(2-オキソ-2H-クロメン-7-イル)オキシメチル-3-セフェム-4-カルボン酸S-オキシド)の合成
【化29】
塩化チオニル(30.0 μL、49.2 mg、413 μmol)をN,N-ジメチルグリシン(21.0 mg、204 μmol)のアセトニトリル(3 mL)溶液に加え、溶液を室温で2時間撹拌した。溶媒を減圧下に除去した後、残渣を0℃でDMF(2 mL)に溶解した。この溶液を、0℃でDMF(1.5 mL)中の化合物5(35.0 mg、89.6 μmol)の溶液に滴下した。混合物を0℃で2時間撹拌した。アセトニトリル/水= 1/2(10 mL、0.1%(v/v)TFA)の混合物で希釈した後、溶液をPVDFフィルターでろ過し、HPLC(ODS-A、YMC-Pack、150 x 30 mm、流量:9.9 mL/分、A:アセトニトリル(0.1%TFA)、B:水(0.1%TFA)、グラディエント:(時間(分)、B(%))=(0、95)(10、95)(50、50)(55、5)、保持時間35分)にて精製を行った。得られた画分を凍結乾燥し、白色固体である化合物DM-SoxLCを得た(17.0 mg、35.7 μmol、40%)。
【0084】
1H-NMR(300 MHz, DMSO-d6) δ 2.77 (6H, s), 3.70 (1H, d, J = 18.9 Hz), 3.98 (2H, br), 4.03 (1H, d, J = 18.3 Hz), 4.93 (1H, d, J = 12.6 Hz), 5.01 (1H, d, J = 3.9 Hz), 5.16 (1H, d, J = 12.3 Hz), 5.92 (1H, dd, J = 8.4, 5.1 Hz), 6.32 (1H, d, J = 9.3 Hz), 6.96 (1H, dd, J = 8.7, 2.4 Hz), 6.99 (1H, d, J = 2.4 Hz), 7.66 (1H, d, J = 8.7 Hz), 8.01 (1H, d, J = 9.6 Hz), 9.05 (1H, d, J = 8.1 Hz). 13C-NMR (75 MHz, DMSO-d6) δ 44.43, 46.09, 58.49, 62.44, 66.84, 68.20, 102.32, 113.57, 119.40, 120.07, 127.03, 130.38, 145.00, 155.98, 158.25, 160.92, 161.75, 162.89, 164.38, 166.80. ESI-HRMS m/z: 476.1122、計算値: 476.1122([M+H]+)
【0085】
[スキーム2]Dpa-LC(7-(N,N-ビス(ピリジン-2-イルメチル)アミノアセトアミド-3-(2-オキソ-2H-クロメン-7-イル)オキシメチル-3-セフェム-4-カルボン酸)の合成
【化30】
【0086】
化合物6(7-tert-ブトキシカルボニルアミノ-3-(2-オキソ-2H-クロメン-7-イル)オキシメチル-3-セフェム-4-カルボン酸p-メトキシベンジルエステル)の合成
【化31】
【0087】
ヨウ化ナトリウム(236 mg、1.57 mmol)を化合物4(195 mg、319 μmol)のアセトン溶液(7 mL)に加え、溶液を0℃で5分間撹拌した。その後、無水トリフルオロ酢酸(252 μL、378 mg、1.80 mmol)を溶液に滴下した後、溶液を0℃で20分間撹拌した。飽和炭酸水素ナトリウム(30 mL)で希釈した後、溶液をクロロホルム(30 mL)で3回抽出した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧下に蒸発させた。残渣をカラムクロマトグラフィー(クロロホルム/メタノール= 100/1)で精製して、橙色の油状物質である化合物6(118 mg、198 μmol、62%)を得た。
【0088】
1H-NMR (300 MHz, CDCl3) δ 1.48 (9H, s), 3.61 (1H, d, J = 6.3 Hz), 3.81 (3H, s), 4.93 (1H, d, J = 12.6 Hz), 4.96 (1H, d, J = 5.4 Hz), 5.06 (1H, d, J = 12.9 Hz), 5.18-5.30 (3H, m), 5.64 (1H, dd, J = 9.9, 5.1 Hz), 6.28 (1H, d, J = 9.6 Hz), 6.76 (1H, d, J = 2.4 Hz), 6.80 (1H, dd, J = 8.7, 2.4 Hz), 6.87 (2H, d, J = 8.7 Hz), 7.33 (2H, d, J = 6.6 Hz), 7.36 (1H, d, J = 6.9 Hz), 7.63 (1H, d, J = 9.6 Hz). ESI-LRMS m/z: 617.7、計算値: 617.2([C30H30N2O9S+Na]+)
【0089】
化合物7(7-アミノ-3-(2-オキソ-2H-クロメン-7-イル)オキシメチル-3-セフェム-4-カルボン酸)の合成
【化32】
【0090】
化合物6(118 mg、198 μmol)をジクロロメタン(2.0 mL)に溶解した。チオアニソール(500 μL)とTFA(1.5 mL)を0℃で溶液に加え、溶液を0℃で4時間撹拌した。冷ジエチルエーテル(-15℃、13 mL)を加えた後、遠心分離(10000 g x 1分)により沈殿物を集め、上澄みを除去した。沈殿を洗浄するため、ジエチルエーテル(6 mL)の添加及び遠心分離の工程を3回繰り返した。残渣を真空中で乾燥させて、白色固体である化合物7(50.5 mg、135 μmol、68%)を得た。
ESI-LRMS m/z: 375.6、計算値: 375.1([C17H14N2O6S+H]+)
【0091】
1H-NMR (300 MHz, DMSO-d6) δ 3.39 (2H, td, J = 6.9, 0.6 Hz), 3.57 (1H, d, J = 18.0 Hz), 3.68 (1H, d, J = 18.0 Hz), 4.87 (1H, d, J = 5.7 Hz), 4.90 (1H, d, J = 11.4 Hz), 4.98 (1H, d, J = 11.4 Hz), 5.05 (1H, d, J = 5.1 Hz), 6.21 (1H, d, J = 9.6 Hz), 6.96-7.03 (2H, m), 7.65 (1H, d, J = 8.7 Hz), 8.00 (1H, d, J = 9.6 Hz).
【0092】
Dpa-LC(7-(N,N-ビス(ピリジン-2-イルメチル)アミノアセトアミド-3-(2-オキソ-2H-クロメン-7-イル)オキシメチル-3-セフェム-4-カルボン酸)の合成
【化33】
【0093】
WSCD・HCl(16.5 mg、84.7 μmol)を0℃でDMF(2.4 mL)中の化合物2(38.2 mg、136 μmol)、NHS(13.3 mg、115 μmol)及びDMAP(17.4 mg、143 μmol)の溶液に添加した。溶液を0℃で2時間撹拌した後、化合物7(11.1 mg、29.7 μmol)を添加し、0℃で1.5時間反応させた。反応後の溶液を4.8 mLの水(0.1%TFA)で希釈し、HPLC(ODS-A、YMC-Pack、150 x 30 mm、流速:9.9 mL/分、A:アセトニトリル(0.1%TFA)、B:水(0.1%TFA)、グラディエント:(時間(分)、B(%))=(0、95)(5、95)(40、60)(42、5)、保持時間37分)にて精製を行った。得られた溶液を凍結乾燥して、やや黄色の白色固体である化合物Dpa-LCを得た(10.0 mg、16.4 μmol、55%)。
【0094】
1H-NMR (300 MHz, DMSO-d6) δ 3.60 (1H, d, J = 18.3 Hz), 3.62 (2H, s), 3.72 (1H, d, J = 18.0 Hz), 4.19 (4H, s), 4.94 (1H, d, J = 12.0 Hz), 5.02 (1H, d, J = 12.3 Hz), 5.18 (1H, d, J = 4.8 Hz), 5.75 (1H, dd, J = 8.1, 4.8 Hz), 6.32 (1H, d, J = 9.6 Hz), 6.98 (1H, dd, J = 8.7, 2.4 Hz), 7.04 (1H, d, J = 2.4 Hz), 7.48 (2H, t, J = 6.3 Hz), 7.60 (2H, d, J = 7.8 Hz), 7.66 (1H, d, J = 10.2 Hz), 7.97 (2H, td, J = 8.4, 2.0 Hz), 8.01 (1H, d, J = 9.6 Hz), 8.62 (2H, d, J = 4.5 Hz), 9.47 (1H, d, J = 11.4 Hz). 13C-NMR (75 MHz, DMSO-d6) δ 26.35, 56.85, 58.06, 58.78, 59.68, 67.89, 102.25, 113.50, 115.46, 119.40, 124.23, 124.46, 124.89, 127.29, 130.35, 139.93, 145.02, 147.87, 156.00, 156.63, 160.95, 161.89, 163.67, 165.27, 170.82. ESI-HRMS m/z: 614.1698、計算値: 614.1704([C31H27N5O7S+H]+)。
【0095】
[スキーム3]Bn-SoxLC(3-(2-オキソ-2H-クロメン-7-イル)オキシメチル-7-フェニルアセトアミド-3-セフェム-4-カルボン酸S-オキシド)の合成
【化34】
【0096】
化合物8(3-クロロメチル-7-フェニルアセトアミド-3-セフェム-4-カルボン酸p-メトキシベンジルエステル)の合成
【化35】
【0097】
アセトニトリル(5 mL)中のACLE・HCl(208 mg、513 μmol)及び2,6-ルチジン(115 μL、106 mg、986 μmol)の溶液に塩化フェニルアセチル(92.8 μL、108 mg、702 μmol)を0℃で添加した。さらに、TEA(68.0 μL、49.6 mg、493 μmol)を溶液に添加し、溶液を室温で12時間攪拌した。溶媒を減圧下に除去した後、残渣をカラムクロマトグラフィー(クロロホルム)で精製し、白色結晶である化合物8を得た(162 mg、333 μmol、65%)。
【0098】
1H-NMR (300 MHz, CDCl3) δ 3.42 (1H, d, J = 18.6 Hz), 3.61 (1H, d, J = 18.3 Hz), 3.65 (2H, d, J = 6.0 Hz), 3.81 (3H, s), 4.40 (1H, d, J = 12.0 Hz), 4.49 (1H, d, J = 12.0 Hz), 4.93 (1H, d, J = 4.8 Hz), 5.21 (2H, s), 5.83 (1H, dd, J = 9.0, 4.5 Hz), 6.00 (1H, d, J = 9.0 Hz), 6.89 (2H, dt, J = 8.7, 2.4 Hz), 7.25-7.41 (7H, m). ESI-HRMS m/z: 509.0912、計算値: 509.0908([C24H23ClN2O5S+Na]+)。
【0099】
化合物9(3-(2-オキソ-2H-クロメン-7-イル)オキシメチル-7-フェニルアセトアミド-3-セフェム-4-カルボン酸p-メトキシベンジルエステルS-オキシド)の合成
【化36】
【0100】
ヨウ化ナトリウム(700 mg、4.66 mmol)を化合物8(237 mg、487 μmol)のアセトン(12 mL)溶液に加えた。混合物を室温で1時間撹拌した後、溶媒を減圧下に除去した。残渣を酢酸エチル(80 mL)で希釈し、有機層を水(100 mL)及び食塩水(20 mL)で洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧下に蒸発させた。室温で1時間真空乾燥した後、残渣(粗生成物)をさらに精製することなく次の反応に使用した。ウンベリフェロン(158 mg、970 μmol)と炭酸カリウム(202 mg、1.46 mmol)を、アセトニトリル(10 mL)中の上記粗生成物の溶液に加え、混合物を室温で2時間撹拌した。溶媒を減圧下に除去した後、残渣をカラムクロマトグラフィー(クロロホルム/メタノール= 100/1)で精製し、ウンベリフェロンコンジュゲートである粗生成物を黄色の油状物質として得た(358 mg)。この粗生成物をジクロロメタン(20 mL)に溶解し、0℃に冷却した後、mCPBA(86.7 mg、327 μmol)を溶液に加え、0℃で20分間反応させた。反応後の溶液をクロロホルム(80 mL)で希釈し、飽和炭酸水素ナトリウム(100 mL)、水(100 mL)及び食塩水(20 mL)で洗浄した。そして、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧下に蒸発させた。残渣をカラムクロマトグラフィー(クロロホルム/メタノール= 50/1)で精製して、淡橙色固体である化合物9(89.5 mg、142 μmol、29%)を得た。
【0101】
1H-NMR (300 MHz, CDCl3) δ 3.27 (1H, d, J = 18.9 Hz), 3.64 (2H, d, J = 3.0 Hz), 3.81 (3H, s), 3.98 (1H, d, J = 18.6 Hz), 4.44 (1H, dd, J = 4.8, 1.5 Hz), 4.79 (1H, d, J = 13.5 Hz), 5.24 (1H, d, J = 11.7 Hz), 5.30 (1H, d, J = 11.7 Hz), 5.31 (1H, d, J = 13.8 Hz), 6.09 (1H, dd, J = 9.9, 4.5 Hz), 6.29 (1H, d, J = 9.3 Hz), 6.69 (1H, d, J = 9.9 Hz), 6.73-6.77 (2H, m), 6.90 (2H, dt, J = 8.7, 2.1 Hz), 7.28-7.39 (7H, m), 7.63 (1H, d, J = 9.6 Hz). ESI-HRMS m/z: 651.1406、計算値: 651.1408([C33H28N2O9S+Na]+)。
【0102】
Bn-SoxLC(3-(2-オキソ-2H-クロメン-7-イル)オキシメチル-7-フェニルアセトアミド-3-セフェム-4-カルボン酸S-オキシド)の合成
【化37】
【0103】
化合物9(40.0 mg、63.6 μmol)をジクロロメタン(3 mL)に溶解し、さらにチオアニソール(600 μL)及びTFA(1.8 mL)を0℃で溶液に加えた。溶液を0℃で4時間撹拌し、冷ジエチルエーテル(-15℃、12 mL)を添加した後、遠心分離(21500 g x 1分)により沈殿物を集め、上澄みを除去した。さらに、冷ジエチルエーテル(6 mL)を添加及び遠心分離の工程を3回繰り返し、沈殿物を洗浄した。残渣を真空中で乾燥させ、淡橙色固体である化合物Bn-SoxLC(28.2 mg、55.5 μmol、87%)を得た。
【0104】
1H-NMR (300 MHz, DMSO-d6) δ 3.54 (1H, d, J = 14.1 Hz), 3.63 (1H, d, J = 18.3 Hz), 3.70 (1H, d, J = 14.1 Hz), 3.99 (1H, d, J = 18.3 Hz), 4.91 (2H, dd, J = 8.4, 3.6 Hz), 5.13 (1H, d, J = 12.0 Hz), 5.82 (1H, dd, J = 8.1, 4.5 Hz), 6.31 (1H, d, J = 9.6 Hz), 6.94-6.99 (2H, m), 7.23-7.31 (5H, m), 7.65 (1H, d, J = 8.4 Hz), 8.00 (1H, d, J = 9.6 Hz), 8.43 (1H, d, J = 8.4 Hz). 13C-NMR (75 MHz, DMSO-d6) δ41.09, 42.21, 46.02, 59.01, 67.07, 68.23, 102.31, 113.58, 119.44, 126.92, 127.30, 129.05, 129.86, 130.39, 136.58, 145.02, 156.00, 160.97, 161.79, 162.98, 165.01, 171.82. ESI-HRMS m/z: 531.0835、計算値: 531.0833([C25H20N2O8S+Na]+)
【0105】
[スキーム4]HO-SoxLC(7-ヒドロキシアセトアミド-3-(2-オキソ-2H-クロメン-7-イル)オキシメチル-3-セフェム-4-カルボン酸S-オキシド)の合成
【化38】
【0106】
化合物10(tert-ブチルジメチルシロキシ酢酸)の合成
【化39】
【0107】
TBDMSCl(tert-ブチルジメチルクロロシラン、2.8 g、18.5 mmol)及びイミダゾール(1.7 g、25.0 mmol)をグリコール酸(1.0 g、13.1 mmol)のDMF(15 mL)溶液に加え、室温で3時間撹拌して反応させた。反応後の溶液を酢酸エチル(80 mL)で希釈した後、有機層を水(100 mL)で2回及び食塩水(30 mL)で洗浄した。さらに、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧下に蒸発させた。残渣をカラムクロマトグラフィー(クロロホルム)で精製して、透明な油状物質である化合物10を得た(185 mg、972 μmol、7%)。
【0108】
化合物11(7-tert-ブチルジメチルシロキシアセトアミド-3-クロロメチル-3-セフェム-4-カルボン酸p-メトキシベンジルエステル)の合成
【化40】
【0109】
ACLE・HCl(280 mg、691 μmol)、HOBt・H2O(190 mg、1.45 mmol)及び化合物10(160 mg、841μmol)を溶解したDMF溶液(5.5 mL)に、さらに、WSCD・HCl(177 mg、923 μmol)及びTEA(95.9μL、70.0 mg、692 μmol)を加え、0℃で4時間攪拌した。溶液を酢酸エチル(100 mL)で希釈した後、有機層を、飽和炭酸水素ナトリウム(100 mL)、水(100 mL)及び食塩水(40 mL)で洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧下に蒸発させた。残渣をカラムクロマトグラフィー(クロロホルム/メタノール= 100/1)で精製し、透明な油状物質である化合物11を得た(196 mg、362 μmol、52%)。
【0110】
1H-NMR (300 MHz, CDCl3) δ 0.12 (6H, d, J = 2.4 Hz), 0.92 (9H, s), 3.49 (1H, d, J = 18.6 Hz), 3.68 (1H, d, J = 18.3 Hz), 3.81 (3H, s), 4.15 (2H, s), 4.43 (1H, d, J = 12.0 Hz), 4.59 (1H, d, J = 11.7 Hz), 4.99 (1H, d, J = 5.1 Hz), 5.24 (2H, s), 5.91 (1H, dd, J = 9.9, 5.1 Hz), 6.90 (2H, d, J = 8.7 Hz), 7.33 (1H, d, J = 8.1 Hz), 7.35 (2H, d, J = 8.7 Hz). ESI-HRMS m/z: 563.1409、計算値: 563.1409([C24H33ClN2O6SSi+Na]+)。
【0111】
化合物12(7-tert-ブチルジメチルシロキシアセトアミド-3-(2-オキソ-2H-クロメン-7-イル)オキシメチル-3-セフェム-4-カルボン酸p-メトキシベンジルエステルS-オキシド)の合成
【化41】
【0112】
ヨウ化ナトリウム(500 mg、2.68 mmol)をアセトン(15 mL)中の化合物11(196 mg、362 μmol)の溶液に加えた。混合物を室温で30分間撹拌した後、溶媒を減圧下に除去した。残渣を酢酸エチル(100 mL)に溶解し、有機層を水(100 mL)及び食塩水(30 mL)で洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧下に蒸発させた。室温で1時間真空乾燥した後、残渣(粗生成物)をさらに精製することなく次の反応に使用した。ウンベリフェロン(117 mg、722 μmol)と炭酸カリウム(150 mg、1.08 mmol)を、アセトニトリル(9 mL)中の上記粗生成物の溶液に加え、混合溶液を室温で1時間撹拌した。溶媒を減圧下に除去した後、残渣をカラムクロマトグラフィー(クロロホルム/メタノール= 100/1)で精製し、ウンベリフェロンコンジュゲートである粗生成物を黄色の油状物質として得た。これをジクロロメタン(10 mL)に溶解し、0℃に冷却した後、mCPBA(38.2 mg、155 μmol)を溶液に添加した。0℃で20分間撹拌した後、溶液をクロロホルム(90 mL)で希釈し、飽和炭酸水素ナトリウム(100 mL)、水(100 mL)及び食塩水(30 mL)で洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧下に蒸発させた。残渣をカラムクロマトグラフィー(クロロホルム/メタノール= 100/1)で精製して、透明な無定形である化合物12(46.4 mg、67.9 μmol、19%)を得た。
【0113】
1H-NMR (300 MHz, CDCl3) δ 0.12 (6H, d, J = 3.6 Hz), 0.93 (9H, s), 3.32 (1H, d, J = 18.6 Hz), 3.81 (3H, s), 4.06 (1H, d, J = 18.6 Hz), 4.18 (2H, s), 4.50 (1H, dd, J = 5.1, 1.5 Hz), 4.81 (1H, d, J = 13.5 Hz), 5.26 (1H, d, J = 11.7 Hz), 5.28 (1H, d, J = 11.7 Hz), 5.37 (1H, d, J = 13.8 Hz), 6.13 (1H, dd, J = 10.2, 4.5 Hz), 6.29 (1H, d, J = 9.6 Hz), 6.75 (1H, s), 6.76 (1H, d, J = 9.0 Hz), 6.91 (2H, d, J = 8.4 Hz), 7.35-7.39 (3H, m), 7.63 (1H, d, J = 9.9 Hz), 7.90 (1H, d, J = 10.2 Hz). ESI-HRMS m/z: 705.1906、計算値: 705.1909([C33H38N2O10SSi+Na]+)。
【0114】
化合物13(7-ヒドロキシアセトアミド-3-(2-オキソ-2H-クロメン-7-イル)オキシメチル-3-セフェム-4-カルボン酸p-メトキシベンジルエステルS-オキシド)の合成
【化42】
【0115】
THF(100 μL)中のフッ化テトラブチルアンモニウムの1M溶液をTHF(1.5 mL)中の化合物12(44.2 mg、64.2 μmol)の溶液に加え、0℃で15分間攪拌して反応させた。反応後の溶液を室温で15分間攪拌した後、カラムクロマトグラフィーで精製した(クロロホルム/メタノール= 50/1)。単離された画分を真空中で乾燥させ、白色固体である化合物13(21.7 mg、38.2 μmol、59%)を得た。
【0116】
1H-NMR (300 MHz, DMSO-d6) δ 3.71 (3H, s), 3.73 (1H, d, J = 15.9 Hz), 3.94 (2H, d, J = 5.7 Hz), 4.12 (1H, d, J = 19.2 Hz), 4.87 (1H, d, J = 12.6 Hz), 5.01-5.05 (2H, m), 5.24 (2H, s), 5.94 (1H, t, J = 5.8 Hz), 6.10 (1H, dd, J = 10.5, 4.8 Hz), 6.33 (1H, d, J = 9.3 Hz), 6.83-6.91 (4H, m), 7.34 (2H, d, J = 8.7 Hz), 7.63 (1H, d, J = 8.1 Hz), 7.85 (1H, d, J = 10.8 Hz), 8.01 (1H, d, J = 9.3 Hz). ESI-HRMS m/z: 591.1045、計算値: 591.1044([C27H24N2O10S+Na]+)
【0117】
化合物 HO-SoxLC(7-ヒドロキシアセトアミド-3-(2-オキソ-2H-クロメン-7-イル)オキシメチル-3-セフェム-4-カルボン酸S-オキシド)の合成
【化43】
【0118】
TFA(0.8 mL)及びチオアニソール(252 μL)を化合物13(15.2 mg、26.7 μmol)の溶液に加えた後、溶液を0℃で4時間撹拌した。さらに、冷ジエチルエーテル(-15℃、6 mL)を加えた後、遠心分離(10000 g x 1分)により沈殿物を集め、上澄みを除去した。残渣を冷ジエチルエーテル(2 mL)に懸濁し、遠心分離した後、上清を除去した。この手順を3回繰り返し、残渣を真空乾燥して、白色固体である化合物HO-SoxLCを得た(15.2 mg、100%)。
【0119】
1H-NMR (300 MHz, DMSO-d6) δ 3.70 (1H, d, J = 18.3 Hz), 3.94 (2H, d, J = 5.1 Hz), 4.09 (1H, d, J = 18.6 Hz), 4.94 (1H, d, J = 12.0 Hz), 5.01 (1H, d, J = 3.6 Hz), 5.16 (1H, d, J = 12.3 Hz), 5.93 (1H, t, J = 5.4 Hz), 6.07(1H, dd, J = 10.5, 5.1 Hz), 6.32 (1H, d, J = 9.6 Hz), 6.94-7.00 (2H, m), 7.66 (1H, d, J = 8.1 Hz), 7.85 (1H, d, J = 10.8 Hz), 8.01 (1H, d, J = 9.6 Hz). 13C-NMR (75 MHz, DMSO-d6) δ 45.63, 57.95, 61.73, 66.71, 68.00, 69.76, 102.08, 113.29, 113.33, 119.61, 126.39, 130.08, 144.64, 155.57, 160.51, 161.31, 162.47, 165.65, 172.36. ESI-HRMS m/z: 471.0471、計算値は471.0469([C19H16N2O9S+Na]+)
【0120】
[スキーム5]化合物 Gly-SoxLC(7-アミノアセトアミド-3-(2-オキソ-2H-クロメン-7-イル)オキシメチル-3-セフェム-4-カルボン酸S-オキシド)の合成
【化44】
【0121】
化合物14(7-tert-ブトキシカルボニルアミノアセトアミド-3-クロロメチル-3-セフェム-4-カルボン酸p-メトキシベンジルエステル)の合成
【化45】
【0122】
ACLE・HCl(98 mg、242 μmol)、HOBt・H2O(64.8 mg、479 μmol)及びBoc-Gly-OH(48.2 mg、275 μmol)をDMF(1 mL)に溶解した。WSCD・HCl(58.2 mg、303 μmol)及びTEA(34.2 μL、25.0 mg、247 μmol)を溶液に加え、0℃で3時間撹拌した。酢酸エチル(80 mL)で希釈した後、有機層を飽和炭酸水素ナトリウム(100 mL)、水(100 mL)、食塩水(30 mL)で洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧下に蒸発させた。残渣をカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル= 1/1)で精製し、透明な油状物質である化合物14(105 mg、200 μmol、83%)を得た。
【0123】
1H-NMR (300 MHz, CDCl3) δ 1.46 (9H, s), 3.48 (1H, d, J = 18.3 Hz), 3.66 (1H, d, J = 18.3 Hz), 3.81 (3H, s), 3.83-3.88 (2H, m), 4.43 (1H, d, J = 12.0 Hz), 4.54 (1H, d, J = 12.0 Hz), 4.98 (1H, d, J = 4.8 Hz), 5.03 (1H, br), 5.24 (2H, s), 5.84 (1H, dd, J = 9.0, 5.1 Hz), 6.90 (2H, dd, J = 8.4, 2.4 Hz), 6.93 (1H, br), 7.35 (2H, dt, J = 8.7, 2.7 Hz). ESI-HRMS m/z: 548.1228、計算値: 548.1229([C23H28ClN3O7S+Na]+)
【0124】
化合物15(7-tert-ブトキシカルボニルアミノアセトアミド-3-(2-オキソ-2H-クロメン-7-イル)オキシメチル-3-セフェム-4-カルボン酸p-メトキシベンジルエステルS-オキシド)の合成
【化46】
【0125】
ヨウ化ナトリウム(240 mg、1.60 mmol)を化合物12(84.3 mg、160 μmol)のアセトン(2 mL)溶液に加えた。混合物を室温で1時間撹拌した後、溶媒を減圧下に除去した。残渣を酢酸エチル(80 mL)に溶解し、有機層を水(100 mL)及び食塩水(20 mL)で洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧下に蒸発させた。室温で1時間真空乾燥した後、残渣(粗生成物)をさらに精製することなく次の反応に使用した。ウンベリフェロン(49.3 mg、304 μmol)及び炭酸カリウム(63.2 mg、457 μmol)を、アセトニトリル(2 mL)中の上記の粗生成物の溶液に加え、混合物を室温で1時間撹拌した。溶媒を減圧下に除去した後、残渣をカラムクロマトグラフィー(クロロホルム/メタノール = 50/1)で精製して、ウンベリフェロンコンジュゲートである粗生成物を黄色の油状物質として得た(72.4 mg)。さらに、粗生成物をジクロロメタン(8 mL)に溶解した。0℃に冷却した後、mCPBA(30.2 mg、122 μmol)を溶液に添加して0℃で20分間撹拌した後、溶液をクロロホルム(80 mL)で希釈し、飽和炭酸水素ナトリウム(50 mL)、水(50 mL)及び食塩水(15 mL)で洗浄した。そして、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧下に蒸発させた。残渣をカラムクロマトグラフィー(クロロホルム/メタノール= 50/1)で精製し、白色結晶である化合物15(27.4 mg、41.0 μmol、26%)を得た。
【0126】
1H-NMR (300 MHz, CDCl3) δ 1.47 (9H, s), 3.32 (2H, d, J = 18.0 Hz), 3.49 (1H, d, J = 5.1 Hz), 3.81 (3H, s), 3.93 (1H, br), 4.03 (2H, d, J = 19.2 Hz), 4.50 (1H, d, J = 5.4 Hz), 4.83 (1H, d, J = 12.9 Hz), 5.05 (1H, br), 5.29 (2H, d, J = 3.6 Hz), 5.34 (1H, J = 13.8 Hz), 6.11 (1H, dd, J = 9.9, 4.8 Hz), 6.29 (1H, d, J = 9.3 Hz), 6.75-6.79 (2H, m), 6.90 (2H, d, J = 8.7 Hz), 7.36 (2H, d, J = 11.7 Hz), 7.63 (1H, d, J = 9.9 Hz). ESI-HRMS m/z: 690.1724、計算値: 690.1728([C32H33N3O11S+Na]+)
【0127】
化合物 Gly-SoxLC(7-アミノアセトアミド-3-(2-オキソ-2H-クロメン-7-イル)オキシメチル-3-セフェム-4-カルボン酸S-オキシド)の合成
【化47】
【0128】
化合物15(27.4 mg、41.0 μmol)をジクロロメタン(3 mL)に溶解し、さらに、チオアニソール(600 μL)及びTFA(1.8 mL)を0℃で溶液に加え、溶液を0℃で4時間撹拌した。冷ジエチルエーテル(-15℃、12 mL)の添加後、遠心分離(21500 g x 1分)により沈殿物を集め、上澄みを除去した。冷ジエチルエーテル(6 mL)の添加及び遠心分離の工程を3回繰り返し、沈殿物を洗浄した。残渣を真空中で乾燥させ、白色の固体である化合物Gly-SoxLCを得た(10.3 mg、18.3 μmol、45%)。
【0129】
1H-NMR (300 MHz, DMSO-d6) δ 3.63-3.80 (3H, m), 4.00 (1H, d, J = 18.6 Hz), 4.92 (1H, d, J = 12.3 Hz), 4.97 (1H, d, J = 4.2 Hz), 5.19 (1H, d, J = 12.3 Hz), 5.92 (1H, dd, J = 8.1, 5.4 Hz), 6.31 (1H, d, J = 9.3 Hz), 6.96 (2H, s+d, J = 9.0 Hz), 7.65 (1H, d, J = 8.4 Hz), 8.00 (1H, d, J = 9.6 Hz), 8.02 (2H, br), 8.79 (1H, d, J = 8.7 Hz). 13C-NMR (75 MHz, DMSO-d6) δ 46.25, 58.60, 67.06, 68.29, 102.45, 113.75, 119.97, 126.91, 130.57, 145.20, 156.11, 161.18, 161.89, 163.04, 164.69, 168.04. ESI-HRMS m/z: 448.0808、計算値: 448.0809([C19H17N3O8S+H]+)
【0130】
[スキーム6]Dpa-SoxLTG((6R,7R)-7-{2-ビス(ピリジン-2-イル)メチルアミノアセトアミド}-8-オキソ-3-(3-オキソ-9-オルトトリル-3H-キサンテン-6-イルオキシメチル)-5-チア-1-アザビシクロ[4.2.0]オクト―2-エンー2-カルボン酸S-オキシド)の合成
【化48】
【0131】
化合物16((6R,7R)-7-(tert-ブトキシカルボニルアミノ)-8-オキソ-3-(3-オキソ-9-オルトトリル-3H-キサンテン-6-イルオキシメチル)-5-チア-1-アザビシクロ[4.2.0]オクト―2-エンー2-カルボン酸p-メトキシベンジルエステルS-オキシド)の合成
【化49】
【0132】
化合物3 (94 mg, 200 μmol)をアセトン (10 mL)に溶解し、ヨウ化カリウム (281 mg, 1.69 mmol)を添加して室温下で1時間攪拌した。減圧下に溶媒留去したのち、生成物を酢酸エチル (50 mL)に溶解し、水 (60 mL)および食塩水 (30 mL)で有機層を洗浄した。硫酸ナトリウムで脱水したのちに減圧下に溶媒留去して真空乾燥を室温下で1時間行った。得られた残渣をアセトニトリル (5 mL)で溶解したのちにTokyo green (81.4 mg, 269 μmol)および炭酸カリウム (57.5 mg, 416 μmol)を添加して室温下で2時間攪拌した。反応液はクロロホルム(50 mL)で希釈したのちに濾過を行って炭酸カリウムの沈殿物を除去した。得られた溶液は減圧下に溶媒留去したのちにカラムクロマトグラフィー (クロロホルム/メタノール = 50/1)で精製した。得られた化合物は減圧下に溶媒留去したのちに真空乾燥を室温下2時間行ってオレンジ色オイル 62.1 mgを粗生成状態で得た。次にこの粗生成物をジクロロメタン (1 mL)に溶解したのちにmCPBA (34.6 mg, 136 μmol)を加えて0℃にて30分間攪拌した。反応液はそのままカラムクロマトグラフィー (クロロホルム/メタノール = 30/1)で精製した。得られた溶液は減圧下に溶媒留去したのちに真空乾燥を室温下1時間行うと、オレンジ色固体 16.7 mg (22.2 μmol, 11%)で化合物16を得た。
【0133】
1H-NMR (300 MHz, DMSO-d6) δ 1.48 (9H, s), 3.35 (1H, d, J =18.6 Hz), 3.79 (3H, d, J = 1.2 Hz), 3.83 (3H, s), 4.05 (1H, d, J = 19.5 Hz), 4.51 (1H, d, J = 4.2 Hz), 4.90 (1H, d, J = 14.1 Hz), 5.21 (2H, s), 5.39 (1H, d, J = 14.4 Hz), 5.73 (1H, d, J = 10.5 Hz), 5.84 (1H, d, J = 10.5 Hz), 6.67 (1H, dd, J = 21.3, 9.9 Hz), 6.88-6.92 (2H, m), 6.98 (1H, dd, J = 9.6, 4.8 Hz), 7.35-7.48 (4H, m), 7.59 (2H, dt, J = 7.8, 1.2 Hz), 7.98 (2H, dt, J = 7.8, 1.5 Hz), 8.08 (2H, t, J = 2.1 Hz). ESI-LRMS m/z: 751.1、計算値: 751.8([C
41H
38N
2O
10S+H]
+)。
【化50】
【0134】
[試験例1]本発明の蛍光プローブ化合物(Dpa-SoxLC)の亜鉛イオンに対する蛍光応答
実験方法:上記した方法により合成した、本発明の蛍光プローブ化合物(Dpa-SoxLC)と参考化合物(R-SoxLC(ここで、Rは、Bn、HO、Gly及びDM))を使用した。各蛍光プローブのストック溶液(10 mM)はDMSOで調製した。亜鉛イオン溶液(10 mM)はZnCl2を蒸留水で溶解して調製した。
各蛍光プローブを10 μM含む50 mM HEPES緩衝液(pH 7.4)を、96ウェルプレート(Corning, #3694)の1ウェルあたり100 μL添加し、亜鉛イオン添加前、亜鉛イオン(10 μM ZnCl2)添加後0、5、15、30、45及び60分に蛍光を測定した。反応温度は37℃とした。対照として亜鉛イオンを添加していないウェルの蛍光を同時に測定した。蛍光測定にはプレートリーダーSpectraMax iD5(Molecular Devices、ウンベリフェロンの励起波長(λex)390 nm、蛍光波長(λem)470 nm)を使用した。
【0135】
結果:結果を
図2に示した。蛍光強度は亜鉛イオン添加前の蛍光強度(F
0)に対する蛍光強度比(F/F
0)で表した。Dpa-SoxLCのみが亜鉛イオンの存在により強い蛍光が測定された。亜鉛イオン添加後60分のDpa-SoxLCの蛍光強度は約60であった。Gly-SoxLCも亜鉛イオン存在下で蛍光強度が上昇したが、亜鉛イオン非存在下でも同様に蛍光強度が上昇したことから、Gly-SoxLCは水性条件で分解することが判明した。
【0136】
[試験例2]本発明の蛍光プローブ化合物(Dpa-SoxLC)の各金属イオンに対する蛍光応答
実験方法:各金属イオン溶液(10 mM)は各金属塩(MgCl2、CaCl2、MnCl2、FeCl2、CoCl2、NiCl2、CuCl2、ZnCl2、CdCl2)を蒸留水で溶解して調製した。10 μMのDpa-SoxLC及び2mMのグルタチオンを含む50 mM HEPES緩衝液(pH 7.4)を、96ウェルプレートの1ウェルあたり100 μL添加し、各金属イオン添加前、各金属イオン(10 μM。ただしMgCl2は500 μM、CaCl2は2 mMである。)添加後0、5、15、30、45及び60分に蛍光を測定した。反応温度は37℃とした。対照として亜鉛イオンを添加していないウェル(NONE)の蛍光を同時に測定した。蛍光測定は試験例1と同様に行った。
【0137】
結果を
図3に示した。蛍光強度は亜鉛イオン添加前の蛍光強度(F
0)に対する蛍光強度比(F/F
0)で表した。グルタチオンは、通常2~5 mMのレベルで細胞内に継続的に存在する。Dpa-SoxLCは2 mMのグルタチオン存在下においても、亜鉛イオン添加後60分の蛍光強度は45を超える高値であり、生体内の亜鉛イオンの検出用プローブとして使用可能であると考えられる。
【0138】
[試験例3]本発明の蛍光プローブ化合物(Dpa-SoxLC)と既存の亜鉛検出用蛍光プローブZnAF-2における検出限界の比較
実験方法:ZnAF-2(AdipoGen Life Sciences, Ltd)を購入して使用した。Dpa-SoxLC又はZnAF-2を10 μM、及びグルタチオン(0、1又は2 mM)を含む50 mM HEPES緩衝液(pH 7.4)を、96ウェルプレートの1ウェルあたり100 μL添加し、亜鉛イオン(0、0.625、1.25、2.5、及び5 μM ZnCl2)添加後5、15、30、45及び60分に蛍光を測定した。グルタチオン及び亜鉛イオンを添加しないウェルを対照とした。蛍光測定は試験例1と同様に行った。検出限界は次の式を使用して計算した。
【0139】
【数1】
σ:亜鉛イオン非存在下におけるプローブの5分の蛍光強度の標準偏差(n = 3)
m(t):異なる反応時間における亜鉛濃度のプロットに対する蛍光強度の線形近似した傾き(tは亜鉛イオン添加後の時間(分))
【0140】
蛍光測定の結果を
図4に示した。蛍光強度は亜鉛イオン添加前の蛍光強度(F
0)に対する蛍光強度比(F/F
0)で表した。ZnAF-2はグルタチオンの非存在下で10を超える蛍光強度を示したが、1 mM以上のグルタチオンが存在すると蛍光強度が35%以上抑制された。なお、ZnAF-2の蛍光強度は亜鉛イオン添加直後(0分)が最も高く、時間の経過とともに蛍光強度が減少した。一方、Dpa-SoxLCはグルタチオンの非存在下で約60の蛍光強度を示し(亜鉛イオン添加60分後)、2 mMのグルタチオンが存在下でも80%以上の蛍光強度を維持した。
【0141】
検出限界を算出した結果を下記の表1に示した。ZnAF-2検出限界は、グルタチオンの非存在下で16 nMであったが、2 mMグルタチオン存在下で191 nMに低下した。一方、Dpa-SoxLCの検出限界はグルタチオンの非存在下で8 nM、2 mMグルタチオン存在下で30 nMであり高い検出限界が示された。
【0142】
【0143】
[試験例4]
亜鉛イオンが触媒的に複数のDpa-SoxLCと反応することを確認するために、大量の基質と少量の亜鉛イオンを含む反応系で蛍光測定を行った。5段階の異なる濃度(3~50 μM)のDpa-SoxLC及びグルタチオン(2 mM)を含む50 mM HEPES緩衝液(pH 7.4)を、96ウェルプレートの1ウェルあたり100 μL添加し、亜鉛イオン(5 μM ZnCl2)添加後30、60及び120分に蛍光を測定した。対比のために、ZnAF-2でも同様の実験を行った。ZnAF-2濃度を0.5~10 μMとし、亜鉛イオン濃度を1 μMとし、蛍光測定時間を亜鉛イオン添加の5分後とした。
【0144】
結果を
図5に示した。(a)はDpa-SoxLCの結果、(b)はZnAF-2の結果である。Dpa-SoxLCの蛍光強度は、基質濃度及び反応時間(黒四角:30分、黒三角:60分、黒丸:120分)に依存して制限なく増加した。一方、ZnAF-2は、1 μM亜鉛イオンの存在下で基質濃度が3 μMを超えるとプラトーに達した。Dpa-SoxLCの蛍光強度は、プラトーに達したZnAF-2の蛍光強度の約10倍であった。
【0145】
[試験例5]細胞内亜鉛イオン検出の検討
細胞内エステラーゼによって切断されてDpa-LCを生成するアセトキシベンジル基を持つDpa-LBCを使用した。Dpa-LCを用いて試験例2と同じ実験を行うこと、すなわち亜鉛イオン(10 μM。ただしMgCl
2は500 μM、CaCl
2は2 mMである。)及びグルタチオン(2 mM)の存在下において経時的に蛍光を測定することにより、Dpa-LCが亜鉛イオンに対してDpa-SoxLCと同等の選択性を示すことを確認した(
図6)。
【0146】
ZnAF-2DA(AdipoGen Life Sciences, Ltd)を購入して使用した。5.0×104個/mLのHela細胞を、500 μLにて35mmガラス底ディッシュ(CellVIEW、Greiner bio-one、#627870)で24時間培養した。培地は、5%ウシ胎児血清、50 μg/mLカナマイシン、50 U/mLペニシリンG及び50 μg/mL ストレプトマイシンを含む高グルコースダルベッコ改変イーグル培地を用いた。500μL PBSで2回洗浄した後、3 μMのDpa-LBCを含むHBS培地(20 mM HEPES, 107 mM NaCl, 6 mM KCl, 1.2 mM MgSO4, 2 mM CaCl2, 11.5 mM D-(+)-Glucose)を添加して30分間インキュベートした。対比のために、既存の細胞膜透過性亜鉛検出用蛍光プローブZnAF-2DA(3 μM)を含むHBS培地を添加して30分間インキュベートした(DA:「ジアセチル化された」の意味であり、細胞膜透過性を有する)。500μL HBS培地で洗浄した後、50 μMの亜鉛ピリチオン(ZnPT)又はDMSOを含むHBS培地を添加し、Dpa-LBCの場合は30分後に、ZnAF-2DAの場合は5分後に、それぞれ共焦点顕微鏡(x20、Zeiss、LSM700)で細胞を観察した。
【0147】
結果を
図7に示した。(a)はDpa-LBCの結果、(b)はZnAF-2DAの結果である。(a)及び(b)とも、上段はZnPT処理していない細胞、下段はZnPT処理した細胞の観察像である。左は蛍光観察、中央は微分干渉観察、右は両者の合成画像である。(a)より、Hela細胞をDpa-LBCで処理し、50 μMZnPTと反応させると、細胞全体にウンベリフェロン由来の蛍光シグナルが10倍を超える蛍光強度で観察された。一方、(b)より、Hela細胞をZnAF-2DAで処理し、50 μMZnPTと反応させると、細胞内の蛍光シグナルが約2倍に増加した。
【0148】
さらに、上記でDpa-LBC処理した細胞には、ZnPTを0、1、5、10又は50 μM含むHBS培地を添加して30分後に、ZnAF-2DA処理した細胞には、ZnPTを0、5又は50 μM含むHBS培地を添加して5分後に、それぞれ共焦点顕微鏡で画像を取得し、細胞内の蛍光強度を測定し、Zeiss ZEN (3.1 blue edition)を用いて解析した。
【0149】
結果を
図8に示した。(a)はDpa-LBCの結果、(b)はZnAF-2DAの結果である。蛍光強度は、ZnPT処理していない細胞の蛍光強度に対する蛍光強度の比で表した。(a)より、Dpa-LBCを用いた場合は、1 μMのZnPT処理により、有意な蛍光強度の増加が観察された。一方、(b)より、ZnAF-2DAを用いた場合は、5 μMのZnPT処理では蛍光強度の変化はほとんど検出できず、50 μMのZnPT処理でも、蛍光強度の変化は約2倍であった。
本発明では、亜鉛を効果的に検出出来る、新規な蛍光プローブを開発した。本発明の蛍光プローブは感度が高いため、複雑な細胞内環境でも低濃度の亜鉛を検出出来る。そのため、本発明の蛍光プローブは、細胞機能における低濃度レベルでの亜鉛の明らかにされていない関与を解明するための有望なツールとなり得るため、有用である。