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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022031035
(43)【公開日】2022-02-18
(54)【発明の名称】乳酸菌含有錠剤、及び、その製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/744 20150101AFI20220210BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20220210BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20220210BHJP
   A23L 33/135 20160101ALI20220210BHJP
   A61P 1/00 20060101ALN20220210BHJP
   A61P 3/02 20060101ALN20220210BHJP
【FI】
A61K35/744
A61K9/20
A61K47/26
A23L33/135
A61P1/00
A61P3/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020135414
(22)【出願日】2020-08-07
(71)【出願人】
【識別番号】715011078
【氏名又は名称】アサヒグループ食品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142804
【弁理士】
【氏名又は名称】大上 寛
(72)【発明者】
【氏名】田村 陽子
【テーマコード(参考)】
4B018
4C076
4C087
【Fターム(参考)】
4B018LB10
4B018LE01
4B018MD10
4B018MD29
4B018MD35
4B018MD86
4B018ME14
4B018MF02
4B018MF06
4B018MF08
4C076AA36
4C076BB01
4C076CC16
4C076CC21
4C076CC40
4C076DD41
4C076EE30
4C076EE31
4C076FF05
4C076FF06
4C076FF36
4C076GG14
4C076GG32
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC56
4C087MA05
4C087MA35
4C087NA03
4C087ZA66
4C087ZC21
(57)【要約】
【課題】 乳酸菌の含量を高めても、崩壊性や製造適性(硬度・成形性)に優れる錠剤とその製造方法を提案する。
【解決手段】 錠剤全量基準で30~50質量部の乳酸菌粉末と、錠剤全量基準で45~65質量部の麦芽糖粉末と、錠剤全量基準で2~20質量部の結着剤と、を含む、乳酸菌含有錠剤とする。また、混合物の全量基準で含有量が30~50質量部の乳酸菌粉末と、混合物の全量基準で45~65質量部の麦芽糖粉末と、混合物の全量基準で含有量が2~20質量部の結着剤と、を含む混合物を打錠する、錠剤の製造方法とする。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
錠剤全量基準で30~50質量部の乳酸菌粉末と、
錠剤全量基準で45~65質量部の麦芽糖粉末と、
錠剤全量基準で2~20質量部の結着剤と、
を含む、乳酸菌含有錠剤。
【請求項2】
混合物の全量基準で含有量が30~50質量部の乳酸菌粉末と、
混合物の全量基準で45~65質量部の麦芽糖粉末と、
混合物の全量基準で含有量が2~20質量部の結着剤と、
を含む混合物を打錠する、錠剤の製造方法。
【請求項3】
打錠圧0.6~1.4kgfで打錠する、
ことを特徴とする請求項2に記載の錠剤の製造方法。
【請求項4】
前記麦芽糖粉末は、
体積平均粒子径が160~180μmの麦芽糖粉末Aと、
体積平均粒子径が90~110μmの麦芽糖粉末Bと、を含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の乳酸菌含有錠剤、
又は請求項2又は請求項3に記載の錠剤の製造方法。
【請求項5】
前記麦芽糖粉末A:Bの質量含有割合が、
5:5~9:1である、
ことを特徴とする請求項4に記載の乳酸菌含有錠剤、
又は請求項4に記載の錠剤の製造方法。
【請求項6】
前記乳酸菌粉末がスプレードライ粉末であることを特徴とする
請求項4又は請求項5に記載の乳酸菌含有錠剤、
又は請求項4又は請求項5に記載の錠剤の製造方法。
【請求項7】
前記乳酸菌粉末の体積平均粒子径が5~500μmである、
ことを特徴とする、
請求項4乃至請求項6のいずれか一項に記載の乳酸菌含有錠剤、
又は請求項4乃至請求項6のいずれか一項に記載の錠剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳酸菌を高含有で含んだ機能性に優れた乳酸菌含有錠剤、及び、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薬効成分や有効成分の一つの投与方法として、薬効成分を含有する錠剤を投与する方法が一般的に知られている。特に、医薬品においては、各種病態の治療及び予防に、錠剤型の医薬品が広く使用されている。
【0003】
近年は、特定保健用食品や機能性表示食品、栄養補助食品のような医薬品とは異なる分野においても、錠剤型製品が提案されてきている。しかし、栄養補助食品等の有効成分は、訴求効果を得るための1回の摂取量が薬効成分に比較して極めて多いことが通常であり、よって、錠剤を大型化するか、又は1回の摂取錠数を多くするか等、飲用者の摂取負担が大きい。
【0004】
このような問題を解決するためには、錠剤中の有効成分の含有量を多くすることが考えられるが、結合剤等の副資材の含有量が少ない場合、錠剤化できない問題や、結合力不足による錠剤の破損等の問題が発生する。
【0005】
このような問題に着目し、例えば特許文献1では、カゼインやカゼイン加水分解物を高濃度で含有し、錠剤の物理的強度に優れ、かつ優れた打錠適性を有する製剤について開示がされている。
【0006】
また、特許文献2には、硬化剤としてマルトースなどを含む賦形剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第6251667号公報
【特許文献2】WO2018/003762号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、乳酸菌の効能はますます注目されており、乳酸菌を含む錠剤についても、その機能性の多様化や、有効量の多様化に伴い、乳酸菌含量を高めた錠剤が求められている状況にある。
【0009】
従来の乳酸菌錠剤では、乳酸菌の含量が錠剤全量基準で5質量部未満(5質量部未満)のものが主流であるが、この含量を高める試験を行ったところ、崩壊性や製造適性(硬度・成形性)が、ともに低下してしまうことが確認された。
【0010】
特に、乳酸菌粉末のスプレードライ(SD)粉末は、粉末の粒形が細かく、粒子が丸みを帯びているために流動性が高い。このため、乳酸菌粉末を30~50質量部含むような錠剤においては、成形性が悪く、十分な硬度が得られない。一方、硬度を得るために結着剤を多く含む場合には、崩壊性が悪いという課題が生じる。例えば、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(LA-950、株式会社堀場製作所)による測定した乳酸菌粉末の体積平均粒子径が5~500μmである場合には、本課題が顕在化する。
【0011】
以上の課題に関し、引用文献1には、乳酸菌粉末や麦芽糖を含む構成が開示されるものではなく、課題を解決できるものではない。
【0012】
また、引用文献2には、乳酸菌粉末を含む錠剤は開示されておらず、洗浄剤などを主成分とした錠剤に関する開示が中心であり、崩壊性などの条件が大きく異なっていることから、課題を解決できるものではない。
【0013】
そこで、本発明は、乳酸菌の含量を高めても、崩壊性や製造適性(硬度・成形性)に優れる錠剤とその製造方法を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0015】
本発明の一態様によれば、錠剤全量基準で30~50質量部の乳酸菌粉末と、錠剤全量基準で45~65質量部の麦芽糖粉末と、錠剤全量基準で2~20質量部の結着剤と、を含む、乳酸菌含有錠剤とするものである。
【0016】
また、本発明の一態様によれば、混合物の全量基準で含有量が30~50質量部の乳酸菌粉末と、混合物の全量基準で45~65質量部の麦芽糖粉末と、混合物の全量基準で含有量が2~20質量部の結着剤と、を含む混合物を打錠する、錠剤の製造方法とするものである。
【0017】
また、本発明の一態様によれば、打錠圧0.6~1.4kgfで打錠することとするものである。
【0018】
また、本発明の一態様によれば、前記麦芽糖粉末は、体積平均粒子径が160~180μmの麦芽糖粉末Aと、体積平均粒子径が90~110μmの麦芽糖粉末Bと、を含む、こととするものである。
【0019】
また、本発明の一態様によれば、前記麦芽糖粉末A:Bの質量含有割合が、5:5~9:1である、こととするものである。
【0020】
また、本発明の一態様によれば、前記乳酸菌粉末がスプレードライ粉末であることとするものである。
【0021】
また、本発明の一態様によれば、前記乳酸菌粉末の平均径が5~500μm、及び/又は、安息角が20~55度である、こととするものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明の構成によれば、乳酸菌を高含有で含む機能性などに優れた乳酸菌含有錠剤を実現することができる。また、日本薬局方記載の崩壊性を満たし、一般的な打圧(0.6t~1.4t)で製造した際においても打錠障害が生じることがなく、適正な硬度を有する錠剤の製造が実現される。なお、打錠障害とは、製造工程において発生するキャッピング、ラミネーション、バインディングやスティッキング等の障害である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の乳酸菌含有錠剤は、乳酸菌粉末と、麦芽糖粉末と、結着剤と、を含んで構成される。
【0024】
乳酸菌粉末は、例えば、ラクトバチルス・カルバタスCP2998株(CP2998乳酸菌:(受託番号:NITE p-02033))を含む乳酸菌粉末を使用することができる。
乳酸菌粉末は、一般的に用いられる培地にて培養したものを集菌し、スプレードライや凍結乾燥により粉末化することにより製造することができる。乳酸菌粉末としては、一般的な乳酸菌粉末であれば特に限定されるものではない。例えば、乳酸菌粉末の体積平均粒子径が5~500μmのものが使用され得る。より好ましくは、乳酸菌粉末の体積平均粒子径が300μm以下、さらに好ましくは、200μm以下、最も好ましくは、100μm以下であるときに発明の効果が得られやすい。
【0025】
麦芽糖粉末は、例えば、マルトースを含む粉末を使用することができる。市販品としては、例えば、サンマルトS、サンマルト ミドリ(共に株式会社林原)などを使用することができる。
【0026】
麦芽糖粉末は、体積平均粒子径が160~180μmの麦芽糖粉末Aと、体積平均粒子径が90~110μmの麦芽糖粉末Bと、の2種類のものを、所定の割合で同時に使用することができる。
【0027】
麦芽糖粉末は、体積平均粒子径が上記の範囲を逸脱すると、打錠適性が不十分で、錠剤が破損するおそれがある。
【0028】
麦芽糖粉末の体積平均粒子径は、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(LA-950、株式会社堀場製作所)により乾式、屈折率1.6-0i、波長655.0nm、透過率90~98質量部の条件で測定される数値を利用することができる。
【0029】
また、麦芽糖粉末A:Bの質量含有割合は、5:5~9:1とすることができる。この質量含有割合は、体積平均粒子径が大きい麦芽糖粉末Aの割合が増えると、硬度においてより適正なものになると考えられる。
【0030】
また、結着剤は、例えば、旭化成株式会社製のセオラス(登録商標)を使用することができる。例えば、市販品としては、旭化成株式会社製のグレード名:セオラスUF-F711が使用することができる。
【0031】
以上の各成分、即ち、乳酸菌粉末、麦芽糖粉末A、麦芽糖粉末B、結着剤を所定の割合で含有する混合物を調整し、さらに、これらの混合物を100質量部とするものに対し、1~2質量部の滑沢剤や固結防止剤を加えることで錠剤を製造することができる。
【0032】
滑沢剤は、例えば、ステアリン酸カルシウム(太平化学産業株式会社製)などを使用することができる。固結防止剤は、例えば、酸化ケイ素(サイロページ720、富士シリシア化学株式会社製)などを使用することができる。
【0033】
打錠機の打錠形式としては特に制限が無く、例えば、単発式、ロータリー式の打錠機を使用することができる。連続生産性の点でロータリー式が好ましい。また、本発明に使用できる打錠機の杵及び臼については、一般的な形状であれば特に制限なく使用することができる。例えば、RIVA社製の「PICCOLA D/8型機(φ8mm、R6.5mm 4本立て)」を用いることができる。
【0034】
打錠時の雰囲気は、離型性を考慮して除湿雰囲気が好ましく、湿度60%以下が好ましい。
打錠圧としては、0.1~2.0tが好ましく、下限圧としては0.5t以上がより好ましく、上限圧としては1.6t以下がより好ましい。これにより、錠剤の適正な物理的強度が得られ、滑沢剤が離型効果を発揮するとともに、臼杵へ過度の衝撃がかかり難い。なお、本願発明によれば、一般的な打圧とされる0.6t~1.4tで製造した際に、日本薬局方記載の崩壊性が満たすことが可能となるものである。
【0035】
以下、具体的な実施例を用いて説明する。
各実施例において使用される成分や条件などは以下である。
<有効成分>
(1)乳酸菌粉末: ラクトバチルス・カルバタスCP2998株乳酸菌粉末(体積平均粒子径が100μm以下)
(2)麦芽糖粉末A:製品名サンマルトS(体積平均粒子径が160~180μm)(株式会社林原社製)
(3)麦芽糖粉末B:製品名サンマルト ミドリ(体積平均粒子径が90~110μm)(株式会社林原社製)
(4)結着剤:製品名セオラスUF-F711(旭化成株式会社社製)
<滑沢剤>
ステアリン酸カルシウム(太平化学産業株式会社製)
<その他>
酸化ケイ素(サイロページ720、富士シリシア化学株式会社製)
【0036】
<打錠機及び打錠条件>
打錠機及び打錠条件は、RIVA社製の「PICCOLA D/8型機(φ8mm、R6.5mm 4本立て)」を用い、20℃、湿度45%下で、丸型錠剤重量約250mg、打錠圧約0.5t~約1.6t、回転数40rpmで錠剤を製造した。
【0037】
<錠剤の評価方法>
1.崩壊性
日本薬局方記載の崩壊試験器を用いて崩壊性を評価した。
37度±2度の範囲内で30分以内に崩壊したものを「○」と評価し、崩壊しなかったものを「×」とした。
【0038】
2.製造適性(硬度評価)
0.6t~1.4tの硬度を評価し、包装適性の低い低硬度を「×」、杵臼の損傷の高い高硬度を「△」、どの観点でも問題のない硬度を「○」として評価した。
【実施例0039】
【表1】
【0040】
麦芽糖粉末AとBを5:5で含み、結着剤を4質量部含む場合は、乳酸菌粉末を5~50質量部を含むすべての系において、崩壊性、製造適正ともに良好な結果が得られた。
【実施例0041】
【表2】
【0042】
乳酸菌濃度30質量部、結着剤濃度4質量部において、麦芽糖粉末AとBを0:10~10:0で調整したところ、5:5~9:1の範囲において、崩壊性、製造適正ともに良好な結果が得られた。麦芽糖粉末Aの割合が3割以下となる場合は、高い打圧条件で製造適正(硬度)が不適切となり、麦芽糖粉末Bを含まない場合は、低い打圧条件で製造適正(硬度)が不適切となった。
【実施例0043】
【表3】
【0044】
乳酸菌濃度30質量部、麦芽糖粉末AとBを5:5の条件において、結着剤濃度を2~20質量部とした結果、全ての系において、崩壊性、製造適正ともに良好な結果となった。
【比較例】
【0045】
【表4】
【0046】
乳酸菌濃度50質量部で結着剤を含まない場合、麦芽糖粉末AとBの割合を調整しても、適正な崩壊性や製造適正を得ることができなかった。
【0047】
<結論>
本検討において、結着剤を含まない場合は、適正な錠剤を製造することができないことが確認された。一方、結着剤を2~20質量部含む場合、乳酸菌濃度30~50質量部の範囲で、麦芽糖AとBの含有割合を5:5~9:1とすることで、0.6~1.4tの打錠圧全ての条件で適正な崩壊性や製造適正(硬度)が得られることが確認された。なお、その他の条件においても配合割合、打錠圧を調整することにより適正な錠剤を作成できることも確認された。
【0048】
以上のようにして、本願発明を実施することができる。
即ち、錠剤全量基準で30~50質量部の乳酸菌粉末と、錠剤全量基準で45~65質量部の麦芽糖粉末と、錠剤全量基準で2~20質量部の結着剤と、を含む、乳酸菌含有錠剤とするものである。
【0049】
また、混合物の全量基準で含有量が30~50質量部の乳酸菌粉末と、混合物の全量基準で45~65質量部の麦芽糖粉末と、混合物の全量基準で含有量が2~20質量部の結着剤と、を含む混合物を打錠する、錠剤の製造方法とするものである。
【0050】
また、打錠圧0.6~1.4kgfで打錠することとするものである。
【0051】
また、前記麦芽糖粉末は、体積平均粒子径が160~180μmの麦芽糖粉末Aと、体積平均粒子径が90~110μmの麦芽糖粉末Bと、を含む、こととするものである。
【0052】
また、前記麦芽糖粉末A:Bの質量含有割合が、5:5~9:1である、こととするものである。
【0053】
また、前記乳酸菌粉末がスプレードライ粉末であることとするものである。
【0054】
また、前記乳酸菌粉末の平均径が5~500μm、こととするものである。
【0055】
以上によれば、乳酸菌を高含有で含む機能性などに優れた乳酸菌含有錠剤を実現することができる。また、日本薬局方記載の崩壊性を満たし、一般的な打圧(0.6t~1.4t)で製造した際においても打錠障害が生じることがなく、適正な硬度を有する錠剤の製造が実現される。なお、打錠障害とは、製造工程において発生するキャッピング、ラミネーション、バインディングやスティッキング等の障害である。