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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022031068
(43)【公開日】2022-02-18
(54)【発明の名称】ラメルテオン含有被覆錠
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/343 20060101AFI20220210BHJP
   A61P 25/20 20060101ALI20220210BHJP
   A61K 9/36 20060101ALI20220210BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20220210BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20220210BHJP
【FI】
A61K31/343
A61P25/20
A61K9/36
A61K47/38
A61K47/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2020145057
(22)【出願日】2020-08-07
(71)【出願人】
【識別番号】307020615
【氏名又は名称】キョーリンリメディオ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】福寿 晃
(72)【発明者】
【氏名】玉川 清崇
(72)【発明者】
【氏名】菅原 崇
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA42
4C076BB01
4C076CC01
4C076DD29U
4C076DD37Q
4C076DD47E
4C076EE32H
4C076FF63
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA05
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA35
4C086MA52
4C086NA03
4C086ZA05
(57)【要約】
【課題】可塑剤を含まなくても、フィルム強度や展延性及び外観等に問題が無く、可塑剤由来のラメルテオンの分解が生じない保存安定性に優れた錠剤の提供、及びフィルム強度や展延性及び外観等を維持するため可塑剤を用いても、特定の物質を添加することでラメルテオン由来の分解物を抑制できる保存安定性に優れた錠剤の提供。
【解決手段】
ラメルテオンを含有する核錠に、特定の重量平均分子量を有するヒプロメロースを水に対して9W/W%以下の濃度になるように調製し、これに着色剤の酸化チタンと黄色三二酸化鉄を、ヒプメロースに対して特定の割合で懸濁させた被覆液を用いて被覆すること、または、更に可塑剤とラジカルスカベンジャーを加えた被覆液を用いて被覆することにより、コーティング時におけるフィルム強度や展延性及び外観等の問題が無く、尚且つ可塑剤由来のラメルテオンの分解が生じない保存安定性に優れた錠剤とすることができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラメルテオンを含有する核錠を、ヒプロメロース並びに酸化チタン及び黄色三二酸化鉄からなる群から選ばれる着色剤を含む被覆成分でコーティングすることを特徴とする、ラメルテオン含有被覆錠の製造方法であって、
重量平均分子量が30000~40000のヒプロメロースを水に対して9w/w%以下の濃度で含有する被覆液を、ラメルテオンを含有する核錠に被覆する工程を含み、
ヒプロメロースの質量に対する酸化チタン及び黄色三二酸化鉄の質量が、各々11~16w/w%及び0.2~0.4w/w%であり、
被覆成分に可塑剤を含まない、製造方法。
【請求項2】
被覆錠を70℃で130時間保存した時に、増加する分解物の合計量が0.1%以下である、請求項1に記載の被覆錠の製造方法。
【請求項3】
ラメルテオンを含有する核錠と、ヒプロメロース、着色剤、可塑剤及びラジカルスカベンジャーを含む被覆層とを含有する、ラメルテオン含有被覆錠。
【請求項4】
可塑剤がクエン酸トリエチルである、請求項3に記載の被覆錠。
【請求項5】
ラジカルスカベンジャーがベンズヒドロキシトルエンである、請求項3又は4に記載の被覆錠。
【請求項6】
クエン酸トリエチルの添加量に対するベンズヒドロキシトルエンの添加量が0.6~0.7である、請求項5に記載の被覆錠。
【請求項7】
ヒプロメロースの重量平均分子量が30000~40000である、請求項3から6のいずれか1項に記載の被覆錠。
【請求項8】
着色剤が酸化チタン及び/又は黄色三二酸化鉄である、請求項3~7のいずれか1項に記載の被覆錠。
【請求項9】
ヒプロメロースの質量に対する酸化チタン及び黄色三二酸化鉄の質量が、各々11~16w/w%及び0.2~0.4w/w%である、請求項8に記載の被覆錠。
【請求項10】
被覆錠を70℃で130時間保存した時に、増加する分解物の合計量が0.1%以下である、請求項3から9のいずれか1項に記載の被覆錠。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラメルテオンを含有する被覆錠における、保存安定性と外観に優れた錠剤の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
日本では人口の高齢化、ライフスタイルの多様化、24時間社会における生活リズムの乱れ、ストレス等が要因となり、一般成人のうち約21%が不眠に悩んでおり、約15%が日中の眠気を自覚している。睡眠障害は、日中の眠気やだるさ、集中力低下などを引き起こし、日々の生活に支障をきたし、極端な場合には事故につながることがある。また、睡眠不足や睡眠障害が長時間持続すると生活習慣病やうつ病などになりやすくなる。こうしたことから、睡眠障害に適切に対処することが重要と考えられている(厚生労働省,みんなのメンタルヘルス 総合サイト)。
【0003】
不眠症の治療においては、ベンゾジアゼピン系及び非ベンゾジアゼピン系睡眠薬が使用されるが、その作用機序は、中枢神経系のGABA受容体に結合し、中枢神経抑性作用を増強することで睡眠作用を示す。一方、これらの治療薬には、依存性、健忘、残遺効果、筋弛緩作用、反跳性不眠症及び退薬症候等の副作用があるため、向精神薬および習慣性医薬品に指定されている。
【0004】
ラメルテオンは、睡眠覚醒リズムに関与するメラトニン受容体1型及びメラトニン受容体2型に作用し、睡眠中枢を優位に導くことで睡眠を誘発し、副交感神経を優位に保つことにより自律神経を抑制する。すなわち生体リズムの睡眠・覚醒の周期に関係するメラトニンの働きを調節し、自然な眠気を誘発する薬剤であり、依存性が殆ど無いため、向精神薬や習慣性医薬品の指定を受けない医薬品として開発された。
【0005】
ラメルテオンを含有する医薬品として、溶出挙動のバラツキを改善する技術(特許文献1)、安定性を改善する技術(特許文献2)が開示されている。特許文献1は、錠剤中のラメルテオンに、ステアリン酸マグネシウムと特定の粘度を有するヒドロキシプロピルセルロースを組み合わせて配合することにより、溶出挙動のバラツキを改善した技術である。
【0006】
非特許文献1には、ラメルテオンを含有する市販錠剤を粉砕すると,光に不安定なため不純物が増加することが開示されている。この市販錠剤には酸化チタンと黄色三二酸化鉄が含まれており、これらは遮光剤として用いられる成分であることから、ラメルテオンを含有する錠剤は、コーティングが必要な製剤であることが推察される。
【0007】
特許文献2は、ラメルテオン含有錠の保存中の分解の原因が、コーティング成分に含まれる可塑剤のポリエチレングリコールであることを特定し、これに変わる可塑剤として水溶性ビニル系高分子であるコポリドンが有用であることを見出した技術である。
【0008】
一方、特許文献2に於いて、コポリドン及びその他の可塑剤を全く含まない比較例2と比較例4が、コポリドンを含む実施例と同程度の安定性を示している。特許文献2では,錠剤の被覆において、フィルム強度の増強、工程中における展延性向上、外観向上のため、可塑剤の添加が必須であると述べていることから、可塑剤を全く含んでいない比較例2及び比較例4のラメルテオン含有錠は、フィルム強度や展延性及び外観等に問題があり、実質的に商品化に適さない被覆錠であると推察される。従って、特許文献2は、コポリドンがラメルテオンとの配合に適した成分であり、尚且つ錠剤被覆時の可塑剤としての機能を有していることを開示しているに過ぎず、コポリドンを配合することによりラメルテオンの分解が抑制されたことを示すものではない。そのため、コポリドンやその他の可塑剤を用いなくても錠剤被覆時の外観等の問題が無く安定性も良好なラメルテオン含有被覆錠の技術、あるいは一般的な可塑剤を含んでいても安定性の良好なラメルテオン含有被覆錠の技術が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第5220408号
【特許文献2】特許第3633895号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】医薬品インタビューフォーム ロゼレム錠8mg 2020年7月改訂(第9版)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、可塑剤を含まなくてもフィルム強度や展延性及び外観等に問題が無く、可塑剤由来のラメルテオンの分解が生じない保存安定性に優れた錠剤を提供することを課題とする。また、フィルム強度や展延性及び外観等を維持するために可塑剤を用いても、特定の物質を添加することでラメルテオン由来の分解物が抑制された、保存安定性に優れた錠剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは鋭意検討を行った結果、特定の重量平均分子量を有するヒプロメロースを水に対して9%w/w%以下の濃度になるように調製し、これに着色剤の酸化チタンと黄色三二酸化鉄を、ヒプロメロースに対して特定の割合で懸濁させた被覆液を用いて、ラメルテオンを含有する核錠に被覆することで、コーティング時におけるフィルム強度や展延性及び外観等の問題が無く、尚且つ可塑剤由来のラメルテオンの分解が生じない、保存安定性に優れた錠剤が得られることを見出した。
【0013】
また、ラメルテオン含有錠の保存中の分解はフィルム成分中の可塑剤が主な原因であるが、この可塑剤に着色剤が加わると分解が更に促進されることが判明した。そこで、ラジカルスカベンジャーの添加を試みた結果、驚くべきことに、可塑剤が含まれていてもラメルテオン含有被覆錠の分解が劇的に抑制されることを見出し、本発明を完成させた。
【0014】
本発明は以下の発明を含む。
(1) ラメルテオンを含有する核錠を、ヒプロメロース並びに酸化チタン及び黄色三二酸化鉄からなる群から選ばれる着色剤を含む被覆成分でコーティングすることを特徴とする、ラメルテオン含有被覆錠の製造方法であって、重量平均分子量が30000~40000のヒプロメロースを水に対して9w/w%以下の濃度で含有する被覆液を、ラメルテオンを含有する核錠に被覆する工程を含み、ヒプロメロースの質量に対する酸化チタン及び黄色三二酸化鉄の質量が、各々11~16w/w%及び0.2~0.4w/w%であり、被覆成分に可塑剤を含まない、製造方法。
(2) 被覆錠を70℃で130時間保存した時に、増加する分解物の合計量が0.1%以下である、(1)に記載の被覆錠の製造方法。
(3) ラメルテオンを含有する核錠と、ヒプロメロース、着色剤、可塑剤及びラジカルスカベンジャーを含む被覆層とを含有する、ラメルテオン含有被覆錠。
(4) 可塑剤がクエン酸トリエチルである、(3)に記載の被覆錠。
(5) ラジカルスカベンジャーがベンズヒドロキシトルエンである、(3)又は(4)に記載の被覆錠。
(6) クエン酸トリエチルの添加量に対するベンズヒドロキシトルエンの添加量が0.6~0.7である、(5)に記載の被覆錠。
(7) ヒプロメロースの重量平均分子量が30000~40000である、(3)から(6)のいずれか1つに記載の被覆錠。
(8) 着色剤が酸化チタン及び/又は黄色三二酸化鉄である、(3)~(7)のいずれか1つに記載の被覆錠。
(9) ヒプロメロースの質量に対する酸化チタン及び黄色三二酸化鉄の質量が、各々11~16w/w%及び0.2~0.4w/w%である、(8)に記載の被覆錠。
(10) 被覆錠を70℃で130時間保存した時に、増加する分解物の合計量が0.1%以下である、(3)から(9)のいずれか1つに記載の被覆錠。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、保存安定性に優れた高品質のラメルテオン含有錠剤を提供することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例1及び比較例1~5で得られたラメルテオン含有被覆錠の被覆状態
図2】ラメルテオン含有被覆錠の保存中における分解生成物のHPLCチャート
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明において、ラメルテオンを含有する核錠とは、ラメルテオンと必要により医薬上許容された添加剤成分とが共に圧縮成形された錠剤である。核錠の形状や大きさは特に限定されないが、錠剤表面がフィルムコーティングに適した曲面を有していることが好ましく、更に錠剤として取り扱いやすく服用もし易い、直径7~9mmの円形錠が好ましい。
【0018】
本発明において、ラメルテオンを含有する核錠の製造方法は、直打法、乾式造粒法、湿式造粒法、流動層造粒法など、錠剤の製造に一般的に用いられる製造方法であればいずれも可能であり、特に限定されない。
【0019】
本発明においてラメルテオン含有被覆錠に含まれるラメルテオンの含有量は、治療に適した量で有れば特に限定されないが、一般的に医療で用いられている8mgが好適である。
【0020】
医薬上許容された添加剤成分としては、錠剤化に用いられる成分であれば特に限定されないが、ラメルテオンとの配合による不純物生成の問題が無く、錠剤化プロセスにおける製造性、さらには錠剤としての適度な強度、崩壊性及び溶出性等の機能を保つのに必要な成分として、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定化剤、着色剤等を任意に用いることができる。
【0021】
(賦形剤)
本発明に係るラメルテオン含有錠における賦形剤としては、任意の成分を用いることが可能であるが、例えば、乳糖水和物、無水乳糖、白糖、マンニトール、エリスリトール、ソルビトール、キシリトール、トレハロースおよびショ糖などの糖類、結晶セルロース及び低置換度ヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース類、トウモロコシデンプン、馬鈴薯デンプン、コメデンプンおよび部分アルファー化デンプンなどのでんぷん類、リン酸水素カルシウムおよび炭酸カルシウムなどの無機塩類を単体又は適宜組み合わせて使用することができる。本発明においては、乳糖水和物とトウモロコシデンプンが特に好ましい。
【0022】
(崩壊剤)
本発明に係るラメルテオン含有錠において、崩壊剤は特に限定されず、トウモロコシデンプン、デンプングリコール酸ナトリウム、カルメロース、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、クロスポビドン等を単体又は適宜組み合わせて使用することができる。本発明においては、クロスカルメロースナトリウムが特に好ましい。
【0023】
(結合剤)
本発明に係るラメルテオン含有錠において、結合剤は、例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、マクロゴール及び上記に賦形剤として示した化合物等から選択することができる。これらの結合剤は、単体または適宜組み合わせて使用することができる。本発明においては、特にヒドロキシプロピルセルロースが好ましい。
【0024】
(滑沢剤)
本発明に係るラメルテオン含有錠において、滑沢剤は、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、軽質無水ケイ酸、フマル酸ステアリルナトリウム、タルク、水素添加植物油、マイクロクリスタリンワックス、ショ糖脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール等から選択することができる。これらの滑沢剤は、単体または適宜組み合わせて使用することができる。本発明においては、ステアリン酸カルシウムが好ましい。
【0025】
(コーティング剤)
本発明に係るラメルテオン含有錠の被覆成分組成物はヒプロメロースを含む。更に、医薬用途で使用可能なコーティング剤を含んでもよい。例えば、ポリビニルアルコール、エチルセルロース、カルボキシメチルエチルセルロース、カルメロース、カルメロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、PVAコポリマー、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマー分散液、アミノアルキルメタクリレートコポリマー、オパドライ、カルナウバロウ、ヒプロメロースアセテートサクシネート、ヒプロメロースフタレート、メタクリル酸コポリマー等が挙げられる。その粘度を公定法に従って測定するとき3~7mPa・sであるヒプロメロースを用いるのが好適である。ヒプロメロースの重量平均分子量は30000~40000であることが好ましく、30000~35000であることが更に好ましく、32800であることが特に好ましい。
【0026】
(可塑剤)
本発明に係るラメルテオン含有錠の被覆成分組成物において可塑剤は、例えば、クエン酸トリエチル、プロピレングリコール、ポリアルキレングリコール、グリセリン、および脂肪酸トリグリセリド等が挙げられる。本発明においては、特にクエン酸トリエチルが好ましい。
【0027】
(着色剤)
本発明に係るラメルテオン含有錠の被覆成分組成物において着色剤は、例えば、酸化チタン、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄、食用青色1号、食用青色2号、食用黄色4号、食用5号、食用緑色3号、食用赤色2号、食用赤色3号、食用赤色102号、食用赤色104号、食用赤色105号、食用赤色106号等が挙げられる。本発明においては、特に酸化チタン及び黄色三二酸化鉄が好ましい。酸化チタンの添加量は、ヒプロメロースに対して11~16w/w%であることが好ましく、11~12w/w%であることが更に好ましく、11.1w/w%であることが特に好ましい。黄色三二酸化鉄の添加量は、ヒプロメロースに対して0.2~0.4w/w%であることが好ましく、0.2~0.3w/w%であることが更に好ましく、0.22w/w%であることが特に好ましい。
【0028】
(ラジカルスカベンジャー)
本発明に係るラジカルスカベンジャーは抗酸化作用を有するものであれば特に制限されないが、例えば、アスコルビン酸、アジ化ナトリウム、ベンズヒドロキシトルエン、ジブチルヒドロキシトルエン、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、アルファチオグリセリン、エデト酸ナトリウム、塩酸システイン、クエン酸、チオグリコール酸ナトリウム、チオリンゴ酸ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、ブチルヒドロキシアニソール、チロシン、トリプトファン、システイン、ヒスチジンなどのL-アミノ酸、D-マンニトール等が挙げられる。本発明においては、特にベンズヒドロキシトルエンが好ましい。
ラジカルスカベンジャーは可塑剤に対して0.1~1.0w/w%であることが好ましく、0.6~0.7w/w%であることが更に好ましく、0.67w/w%であることが特に好ましい。
【0029】
本発明に係るラメルテオン含有被覆錠は、錠剤の被覆成分中に可塑剤が無くても、ヒプロメロースと着色剤を含む被覆成分とすることにより、コーティングにおけるフィルム強度や展延性及び外観等の問題が無く、尚且つ可塑剤由来のラメルテオンの分解が生じない保存安定性に優れた錠剤が得られる。また、被覆成分に可塑剤を含めた場合であっても、併せてラジカルスカベンジャーを加えることにより、コーティングにおけるフィルム強度や展延性及び外観等の問題が無く、尚且つラメルテオンの分解が抑制された保存安定性に優れた錠剤が得られる。
【0030】
次に実施例を挙げて、本発明を詳しく説明するが、本発明はこれに限られるものではない。
【実施例0031】
(参考例1)
ラメルテオン含有核錠の製造
ラメルテオン800g、乳糖水和物9687g及びトウモロコシデンプン1552gを流動層造粒装置(フロイント産業性,FLO-15)に投入し、ヒドロキシプロピルセルロース473gを水に溶解して全重量7883gとした液をスプレーし造粒した。得られた造粒物を乾燥し、整粒機(QUADORO製:QC-197S)にて整粒した。得られた整粒品を混合機(徳寿製作所,TVC-60)に投入し、さらにトウモロコシデンプンとステアリン酸カルシウムを加えて混合した。得られた混合物をロータリー式打錠機(畑鐵工所製:HT-AP18SSII)で圧縮成形し直径7mm、質量130mgの錠剤(ラメルテオン含有核錠)を得た。
【実施例0032】
ラメルテオン含有核錠をフィルムコーティング装置(フロイント産業製:ハイコーターHCT-60)に投入し、重量平均分子量32800のヒプロメロース450gを水6000gに溶解し、これに酸化チタン50g及び黄色三二酸化鉄1gを水1200gに懸濁させた液を噴霧・乾燥し、質量135mgのラメルテオン含有被覆錠を得た。
【0033】
(比較例1)
ラメルテオン含有核錠をフィルムコーティング装置(フロイント産業製:ハイコーターHC-LABO)に投入し,重量平均分子量32800のヒプロメロース22.5gを水150gに溶解し、これに酸化チタン2.5g及び黄色三二酸化鉄0.05gを水50gに懸濁させた液を噴霧・乾燥し、質量135mgのラメルテオン含有被覆錠を得た。
【0034】
(比較例2)
ラメルテオン含有核錠をフィルムコーティング装置(フロイント産業製:ハイコーターHC-LABO)に投入し,重量平均分子量32800のヒプロメロース18.8g及びクエン酸トリエチル3.8gを水200gに溶解し、これに酸化チタン2.5g及び黄色三二酸化鉄0.05gを懸濁させた液を噴霧・乾燥し、質量135mgのラメルテオン含有被覆錠を得た。
【0035】
(比較例3)
ラメルテオン含有核錠をフィルムコーティング装置(フロイント産業製:ハイコーターHC-LABO)に投入し,重量平均分子量20000のヒプロメロース22.5gを水250gに溶解し、これに酸化チタン2.5g及び黄色三二酸化鉄0.05gを水50gに懸濁させた液を噴霧・乾燥し、質量135mgのラメルテオン含有被覆錠を得た。
【0036】
(比較例4)
ラメルテオン含有核錠をフィルムコーティング装置(フロイント産業製:ハイコーターHC-LABO)に投入し,重量平均分子量56400のヒプロメロース22.5gを水250gに溶解し、これに酸化チタン2.5g及び黄色三二酸化鉄0.05gを水50gに懸濁させた液を噴霧・乾燥し、質量135mgのラメルテオン含有被覆錠を得た。
【0037】
(比較例5)
ラメルテオン含有核錠をフィルムコーティング装置(フロイント産業製:ハイコーターHC-LABO)に投入し,重量平均分子量32800のヒプロメロース20.0gを水215gに溶解し、これに酸化チタン5g及び黄色三二酸化鉄0.05gを水50gに懸濁させた液を噴霧・乾燥し、質量135mgのラメルテオン含有被覆錠を得た。
【0038】
(試験例1)
実施例1及び比較例1から5で得られたラメルテオン含有被覆錠について、そのコーティング時における作業性及びコーティング後の錠剤の被覆状態を観察した。その結果を表1及び図1に示す。
【0039】
【表1】
【0041】
表1及び図1に示すように、実施例1では、可塑剤を用いなかったにもかかわらず、錠剤表面の状態は極めて滑らかで品質の高い錠剤が得られた。一方、比較例1では、被覆後の錠剤表面の粗さが目立ち、品質の点で問題があった。この錠剤表面の粗さは、高粘度でスプレーガンから噴霧されるコーティング液の噴霧ミストが大きいためと推察された。コーティング液濃度を希釈して粘度を下げれば改善が期待できるものの、コーティング時間が増大するため、コスト面の問題がある。比較例2では、コーティング後の錠剤表面の状態は良好であった。比較例3では、コーティング後の錠剤表面や、側面のフィルム層が部分的に剥がれた痕跡や、剥がれたフィルムの破片が錠剤表面に付着した状態の錠剤が観察され、品質の点で問題があった。比較例4では、コーティング後の錠剤表面が若干粗く,品質が劣った。比較例5では、錠剤表面が粗く、且つ黒ずみが生じている錠剤が観察され、品質が著しく劣った。これは、フィルム成分中の酸化チタンの割合が多いために生じた現象と推察され、特に黒ずみにおいては、増量した酸化チタンとコーティンパンとの摩擦頻度の増大による現象と推察された。
【0042】
錠剤のコーティングに用いられるヒプロメロースに可塑剤を添加することで、錠剤表面が滑らかになり、品質の高い錠剤が得られる。一方、可塑剤を用いないコーティングにおいては、外観に問題の無い、品質の高い被覆錠を得るには、ヒプロメロースの重量平均分子量と水溶液の濃度、更にはヒプロメロースの質量に対する被覆成分中の着色剤の酸化チタン及び黄色三二酸化鉄の質量が非常に重要であることが分かった。
【実施例0043】
ラメルテオン含有核錠をフィルムコーティング装置(フロイント産業製:ハイコーターHC-LABO)に投入し,重量平均分子量32800のヒプロメロース8.1g及びクエン酸トリエチル1.9gを水82.5gに溶解し、これにベンズヒドロキシトルエン(BHT)1.3g,酸化チタン1.3g及び黄色三二酸化鉄0.025gを水25gに懸濁させた液を噴霧・乾燥し、質量135mgのラメルテオン含有被覆錠を得た。
【0044】
(比較例6)
ラメルテオン含有核錠をフィルムコーティング装置(フロイント産業製:ハイコーターHC-LABO)に投入し,重量平均分子量32800のヒプロメロース18.8g及びクエン酸トリエチル3.8gを水200gに溶解し、これに酸化チタン2.5gを水50gに懸濁させた液を噴霧・乾燥し、質量135mgのラメルテオン含有被覆錠を得た。
【0045】
(比較例7)
ラメルテオン含有核錠をフィルムコーティング装置(フロイント産業製:ハイコーターHC-LABO)に投入し,重量平均分子量32800のヒプロメロース21.3g及びクエン酸トリエチル3.8gを水232.5gに溶解し、これに黄色三二酸化鉄0.05gを水50gに懸濁させた液を噴霧・乾燥し、質量135mgのラメルテオン含有被覆錠を得た。
【0046】
(比較例8)
ラメルテオン含有核錠をフィルムコーティング装置(フロイント産業製:ハイコーターHC-LABO)に投入し,重量平均分子量32800のヒプロメロース21.3g及びクエン酸トリエチル3.8gを水282.5gに溶解させた液を噴霧・乾燥し、質量135mgのラメルテオン含有被覆錠を得た。
【0047】
(試験例2)
実施例1、実施例2、比較例2及び比較例6から比較例8で得られたラメルテオン含有被覆錠を各々ガラス瓶に入れ、密栓で70℃に保存し、保存開始時、60時間保存後及び130時間保存後に生成した分解物の合計量を高速液体クロマトグラフィーにより求めた。その結果を表2に示す。
【0048】
【表2】
【0049】
ヒプロメロースに酸化チタンと黄色三二酸化鉄を加えて被覆した実施例1のラメルテオン含有被覆錠は、保存後の分解物の合計量が少なかった。一方、ヒプロメロースとクエン酸トリエチルに酸化チタンと黄色三二酸化鉄を加えて被覆した比較例2のラメルテオン含有被覆錠は、実施例1と比較して、保存後の分解物の合計量が多かった。ヒプロメロースとクエン酸トリエチルだけで被覆した比較例8のラメルテオン含有被覆錠は、比較例2よりも保存後の分解物の合計量が少なかった。また、ヒプロメロースとクエン酸トリエチルに酸化チタンを加えて被覆した比較例6と、ヒプロメロースとクエン酸トリエチルに黄色三二酸化鉄を加えて被覆した比較例7のラメルテオン含有被覆錠の分解物の合計量は各々比較例8より多く、比較例2より少なかった。
【0050】
以上の結果から、ラメルテオン含有被覆錠の分解物の生成は、可塑剤のクエン酸トリエチルが大きく影響しているが、クエン酸トリエチルだけが原因ではなく、着色剤の酸化チタンと黄色三二酸化鉄も相乗的に関与していることが示唆された。また、これら比較例のラメルテオン含有被覆錠の保存中における分解生成物の種類・特徴は、医薬品の強制分解試験のラジカルイニシエーターとして用いるアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)をラメルテオンに配合した時の分解生成物と、図2に示す通り、ほぼ一致していたことから、上記ラメルテオン含有被覆錠の主な分解メカニズムはラジカル反応によるものと推察された。
【0051】
そこで、実施例2ではヒプロメロース、クエン酸トリエチル、酸化チタン及び黄色三二酸化鉄を含む被覆成分に、更にラジカルスカベンジャーとしてのベンズヒドロキシトルエン(BHT)を加えて被覆した。その結果、BHTの添加によりラメルテオン含有被覆錠の分解生成物は大きく減少することを見出し、本発明を完成するに至った。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明により、有効成分の均一性および保存安定性と外観に優れる品質の良好なラメルテオン含有被覆錠が提供される。
図1
図2