(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022031079
(43)【公開日】2022-02-18
(54)【発明の名称】亜鉛合金およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 18/04 20060101AFI20220210BHJP
C22B 19/32 20060101ALI20220210BHJP
【FI】
C22C18/04
C22B19/32
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020180889
(22)【出願日】2020-10-28
(31)【優先権主張番号】202010776657.2
(32)【優先日】2020-08-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】520422430
【氏名又は名称】百路達(厦門)工業有限公司
【氏名又は名称原語表記】LOTA XIAMEN INDUSTRY CO. LTD.
【住所又は居所原語表記】NO. 2168, TONGAN ROAD, TONGAN DISTRICT, XIAMEN CITY, FUJIAN PROVINCE, CHINA
(71)【出願人】
【識別番号】510320025
【氏名又は名称】シアメン ロタ インターナショナル カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】XIAMEN LOTA INTERNATIONAL CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】No.61, Xing Nan Road, Jimei District, Xiamen, Fujian 361022, China
(74)【代理人】
【識別番号】110002262
【氏名又は名称】TRY国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】許 伝凱
(72)【発明者】
【氏名】龍 佳
(72)【発明者】
【氏名】胡 振青
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA02
4K001AA09
4K001AA30
4K001AA42
4K001BA23
4K001EA03
4K001EA04
4K001EA07
(57)【要約】 (修正有)
【課題】亜鉛合金およびその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の亜鉛合金は、3.5~4.3wt%のAl、0.005-0.018wt%のMgを含み、残部はZnおよび不可避的不純物である。
【効果】この合金は優れた耐鋳造成形クラック性能を有し、鋳造歩留まりが高く、研磨および電気めっき性能に優れており、鋳物に対する高い表面品質の要求を満たすことができ、ダイカストによる配管、トイレ及び浴室金属製品アクセサリー、電子機器、玩具などの製品の生産に適する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
3.5~4.3wt%のAl、0.005-0.018wt%のMgを含み、残部はZnおよび不可避的不純物であることを特徴とする、亜鉛合金。
【請求項2】
前記合金中のAlの含有量は3.7~4.2wt%であることを特徴とする、請求項1に記載の合金。
【請求項3】
前記合金中のAlの含有量は3.9~4.1wt%であることを特徴とする、請求項1に記載の合金。
【請求項4】
前記合金中のMgの含有量は0.005-0.015wt%であることを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載の合金。
【請求項5】
前記合金には、0.2-1.0wt%のCuが選択的に添加されることを特徴とする、請求項1から4のいずれか1項に記載の合金。
【請求項6】
前記合金中のCuの含有量は0.5-1.0wt%であることを特徴とする、請求項1から5のいずれか1項に記載の合金。
【請求項7】
前記合金は、Zr、Sb、Cr、Mn、Ti、Bi、Se、Niなどの元素を含まず、これらの元素が不純物元素として存在する場合、それぞれの元素の含有量は0.001wt%未満であることを特徴とする、請求項1から6のいずれか1項に記載の合金。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の亜鉛合金の製造方法であって、
亜鉛合金の組成に従って亜鉛インゴット、アルミニウムインゴット、マグネシウムインゴットおよび/または選択的に添加される電解銅を秤量し、炉底にアルミニウムインゴットおよび/または選択的に添加される電解銅、並びに1/3の亜鉛インゴットを添加し、材料が完全に溶融した後、均一に撹拌し、残りの亜鉛インゴットを加え、材料が完全に溶融した後、約540℃でベルジャーを用いてマグネシウムインゴットを炉底まで圧入し、マグネシウムインゴットが完全に溶融した後、微細化剤を選択的に加え、微細化剤が十分に反応した後、精練剤を加えて精練し、その後、脱スラグおよび脱ガス処理を行い、検査により成分が合格したと判断された後、静置し、炉からスラグを掻き出し、船形インゴットを鋳造することを含むことを特徴とする、製造方法。
【請求項9】
前記微細化剤は、塩類微細化剤、例えば、チタン塩、ホウ素塩またはそれらの複合塩であり、かつRe、ZrまたはBを含む中間合金ではないことを特徴とする、請求項8に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合金技術の分野に属し、耐クラック性に優れた亜鉛合金およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイカスト用亜鉛合金は、亜鉛を主成分として他の元素を添加して形成された合金である。一般的な合金元素は、アルミニウム、銅、マグネシウム、カドミウム、鉛、チタンなどである。亜鉛合金は、融点が低く、流動性がよく、溶接、ろう付け、可塑化が容易であり、大気中の耐食性が高く、残留廃棄物のリサイクルや再溶融が容易であるが、クリープ強度が低く、自然な経年変化により寸法変化を起こしやすい。
【0003】
一般的に使用されているダイカスト用亜鉛合金は、ZAMAK3合金およびZAMAK5合金である。これらの合金成分は比較的簡単で、最初は亜鉛元素、アルミニウム元素を主に含み、銅元素などを添加する場合がある。このような合金は耐食性が低い。耐食性を改善するために、研究開発者は、マグネシウム元素を添加してみた結果、粒界腐食が顕著に改善され、合金強度が向上することを発見した。そのため、現在市販されているZAMAK3合金およびZAMAK5合金のいずれにもアルミニウム元素が添加されており、アルミニウム元素の含有量は0.03-0.06%に制御されている。
【0004】
ダイカスト用合金のうち、ZAMAK3合金は、総合性能に優れ、コストが低いため、配管、トイレ及び浴室金属製品業界で幅広く使用されている。しかし、R角が小さい3方向、4方向の金属製品では、ZAMAK3合金を使用すると、R角に熱クラックが発生しやすく、成形クラック率が100%に達するとともに、製品設計が顧客の要求によって制限され、R角を自由に変更することができず、成形クラックを解決できない。ZAMAK3合金と比較して、ZAMAK5合金は、硬度および強度が高く、柔軟性が低いが、ZAMAK3合金と同様に熱クラックが発生しやすい欠陥を有する。
【発明の概要】
【0005】
従来技術の上記欠点を克服するために、本発明者は、従来の亜鉛合金を十分に研究し、耐熱クラック性能に優れた亜鉛合金およびその製造方法を提供する。上記亜鉛合金は優れた総合性能を有し、特に耐熱クラック性能が顕著に向上し、鋳物、特にダイカスト鋳物に対する高い表面品質の要求を満たすことができ、鋳物の再鋳造に使用することができ、配管、トイレ及び浴室金属製品アクセサリー、電子機器、玩具などの部品の生産に適し、製品の歩留まりを大幅に向上させ、製品の異常処理時間を減少させ、生産能力を効果的に向上させ、製品の市場競争力を高めることができる。
本発明の目的は、以下の技術的解決策により達成される。
【0006】
一態様において、本発明は、3.5~4.3wt%のAl、0.005-0.018wt%のMgを含み、残部はZnおよび不可避的不純物である亜鉛合金を提供する。
【0007】
好ましくは、上記亜鉛合金において、Alの含有量は3.7~4.2wt%であり、より好ましくは3.9~4.1wt%である。
【0008】
好ましくは、上記亜鉛合金において、Mgの含有量は0.005-0.015wt%である。
【0009】
好ましくは、上記亜鉛合金は0.2-1.0wt%のCu、好ましくは0.5-1.0wt%のCuをさらに含む。
【0010】
好ましくは、上記亜鉛合金はZr、Sb、Cr、Mn、Ti、Bi、Se、Niなどの元素を含まない。これらの元素が不純物として存在する場合、それぞれの元素の含有量は0.001wt%未満である。
【0011】
別の態様において、本発明は、上記亜鉛合金の製造方法を提供する。この方法は、亜鉛合金の組成に従って亜鉛インゴット、アルミニウムインゴット、マグネシウムインゴットおよび/または選択的に添加される電解銅を秤量し、炉底にアルミニウムインゴットおよび/または選択的に添加される電解銅、並びに1/3の亜鉛インゴットを添加し、材料が完全に溶融した後、均一に撹拌し、残りの亜鉛インゴットを加え、材料が完全に溶融した後、約540℃でベルジャーを用いてマグネシウムインゴットを炉底まで圧入し、マグネシウムインゴットが完全に溶融した後、微細化剤を選択的に加え、微細化剤が十分に反応した後、精練剤を加えて精練し、その後、脱スラグおよび脱ガス処理を行い、検査により成分が合格したと判断された後、静置し、炉からスラグを掻き出し、船形インゴットを鋳造することを含む。
【0012】
好ましくは、上記微細化剤は塩類微細化剤、例えば、チタン塩、ホウ素塩またはそれらの複合塩である。好ましくは、上記微細化剤は、Re、ZrまたはBを含む中間合金ではない。
【0013】
本発明の微細化剤を使用することにより、中間合金の微細化効果が達成されるとともに、良好な研磨性能が確保され、Re、ZrまたはBを含む中間合金の使用による研磨ハードスポットの問題が回避され、鏡面研磨などの高い要求が満たされる。
【0014】
本発明の亜鉛合金において、アルミニウムは主な合金元素であり、亜鉛液体の酸化を防止し、鋳物表面の品質を向上させ、鋳物脆性を低下させ、鉄るつぼに対する亜鉛の侵食を軽減する作用を有する。また、アルミニウムの添加により結晶粒を微細化し、合金の強度および硬度を向上させることもできる。本発明のAlの含有量は3.5~4.3wt%である。Alの含有量が3.5wt%未満である場合、合金の流動性が低下し、鋳造成形の不良率が高くなる。
【0015】
本発明の亜鉛合金にマグネシウムを添加することにより、合金の粒界腐食の傾向が顕著に減少し、合金の耐食性が改善される。これはマグネシウムを加えることの本来の意味でもある。当該技術分野では、マグネシウム元素の添加量は一般的に0.03-0.06%に制御されている。この含有量は合金系の全体において高くないため、当業者は通常この含有量がもたらす影響に注目することがなかった。本発明の開発の初期段階では、本発明者はこの元素の影響に注意を払っておらず、主に他の主な元素の合金性能に対する影響を考慮していた。しかし、本発明者は、他の元素を制御しても熱クラックという欠陥を解決できないことを発見した。ある偶然の実験で、本発明者は不十分な量のマグネシウムを添加した結果、熱クラックが発生しないことを発見した。これをきっかけに、本発明者は亜鉛合金に対するマグネシウム元素の影響を研究し始め、マグネシウが結晶粒を微細化し、合金の強度を向上できるだけでなく、マグネシウの含有量を制御することにより、熱クラックを顕著に改善できることを予想外に発見した。本発明において、Mg含有量は0.005~0.018wt%に制御される。Mgの含有量が0.005wt%未満である場合、合金の耐食性が悪く、寸法安定性が低下する一方、Mgの含有量が0.018wt%より高い場合、合金の熱クラック傾向が顕著に高くなり、可塑性が低下する。
【0016】
本発明の亜鉛合金に少量の銅を選択的に添加することにより、合金の流動性を改善し、合金の強度を向上させることができ、合金の耐熱クラック能力の向上に役立つ。Cuの添加量は0.2-1.0wt%に制御される。Cuの含有量が高いと、原材料のコストが高く、Cu含有量の増加に伴い、合金の強度が高くなるが、合金の粒界腐食傾向も高くなる。
本発明の元素Zr、Sb、Cr、Mn、Ti、Bi、Seが不純物として存在する場合、それぞれの元素の含有量は0.001wt%未満である。これは、合金の高品質の研磨性能の保証、成形クラックおよび粒界腐食傾向の低下に非常に重要である。
【0017】
本発明の亜鉛合金は、従来技術と比較して、少なくとも以下の有益な効果を有する。
本発明の亜鉛合金は、耐熱クラック効果が顕著であり、一般的なZAMAK3およびZAMAK5と比較して、熱クラック不良率が50%以上低下し、製品の異常処理時間を減少させ、生産能力を効果的に向上させ、製品の市場競争力を高めることができる。
【0018】
本発明の亜鉛合金は、顕著な耐熱クラック効果を有し、研磨性、電気めっき性能に優れており、鋳物に対する高い表面品質の要求を満たすことができ、ダイカストによる配管、トイレ及び浴室金属製品アクセサリー、電子機器、玩具などの部品の生産に適し、特に熱クラックが発生しやすい鋳造製品に適する。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、実施例を参照しながら本発明をさらに詳しく説明する。
【0020】
実施例
本発明の合金および対照合金の成分を表1に示す。
以下の方法に従って本発明の合金および対照合金を製造する。
合金の組成に従って亜鉛インゴット、アルミニウムインゴット、電解銅(必要に応じて)、マグネシウムインゴットを秤量する。炉底にアルミニウムインゴット、電解銅(必要に応じて)および1/3の亜鉛インゴットを添加し、材料が完全に溶融した後、均一に撹拌し、残りの亜鉛インゴットを加え、材料が完全に溶融した後、約540℃でベルジャーを用いてマグネシウムインゴットを炉底まで圧入し、マグネシウムインゴットが完全に溶融した後、チタン塩を微細化剤として選択的に加え、微細化剤が十分に反応した後、精練剤を加えて精練し、その後、脱スラグおよび脱ガス処理を行い、検査により成分が合格したと判断された後、静置し、炉からスラグを掻き出し、鋳造する。
【0021】
本発明の合金は、再溶融用の船形鋳造インゴットである。
以下、本発明の合金と対照合金の性能を検査する。具体的な性能検査項目および根拠は以下の通りである。
【0022】
1.鋳造性能
本発明合金1-8および対照合金1-6の鋳造性能を評価するために、合金を鋳造するための汎用の螺旋状サンプルを用いてメルトフロー長さを測定し、合金の流動性を評価する。各サンプルはいずれも手動で注入する。注入温度は420℃±2℃である。結果を表2に示す。
【0023】
2.製品の耐成形熱クラック性能
同一の作業者で同じ金型、同じダイカストマシン、同じダイカストパラメータを採用し、本発明の合金1-8および対照合金1-6を用い、420℃±10℃のダイカスト温度で同じ製品をダイカスト成形する。ダイカスト成形のクラック不良率を表2に示す。
【0024】
3.研磨性能
各鋳物をそれぞれ研磨し、目視で観察する。ハードスポットがない場合、良好であり、「〇」で表される。ハードスポットの総数が3よりも多く、それぞれのハードスポットの直径が0.5mm未満な場合、不良であり、「×」で表される。結果を表2に示す。
【0025】
<表1>
表1:本発明の合金および対照合金の成分(wt%)
【0026】
<表2>
表2:本発明の合金および対照合金の諸性能
【0027】
表2の諸性能の検査結果から分かるように、鋳造合金として使用される本発明の合金は、流動性がZAMAK3、ZAMAK5亜鉛合金に相当するが、耐成形熱クラック性能はZAMAK3およびZAMAK5よりも顕著に優れている。本発明の合金1-8の研磨性能は、対照合金3および4よりも優れている。本発明の合金3、5、6、7、8の耐成形クラック性能、研磨性能などの総合性能は比較的良好であり、微細化剤が添加された合金3および合金8の耐クラック性はより良好である。対照合金1-6の耐成形熱クラック性能は本発明の合金よりも悪く、対照合金3-4の耐クラック性が比較的良好であるが、研磨性能が悪いため、研磨に対する要求が高いトイレ及び浴室の外観に適用には適さない。
【0028】
以上より、本発明の合金は、良好な鋳造性能、優れた耐成形クラック性能、優れた研磨および電気めっき性能を有し、ダイカストおよび重力鋳造による配管、トイレ及び浴室金属製品アクセサリー、電子機器、玩具などの部品の生産に適し、特に成形クラックが発生しやすい鋳造製品に適する。
【0029】
以上の実施例は本発明を説明するものであり、本発明を制限するものではなく、本発明の思想および特許請求の範囲内で本発明に対して行われる全ての修正および変化は、本発明の保護範囲に含まれる。