(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022031082
(43)【公開日】2022-02-18
(54)【発明の名称】液体循環システム及びそれを備える穿孔システム
(51)【国際特許分類】
B28D 7/02 20060101AFI20220210BHJP
B23Q 11/10 20060101ALI20220210BHJP
B28D 1/14 20060101ALI20220210BHJP
【FI】
B28D7/02
B23Q11/10 E
B28D1/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020185628
(22)【出願日】2020-11-06
(31)【優先権主張番号】P 2020133561
(32)【優先日】2020-08-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000137845
【氏名又は名称】株式会社ミヤナガ
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮永 淳
【テーマコード(参考)】
3C011
3C069
【Fターム(参考)】
3C011EE03
3C011EE09
3C069AA04
3C069BA09
3C069BB01
3C069BC02
3C069CA10
3C069CA12
3C069DA06
3C069DA07
(57)【要約】
【課題】 懸濁液の逆流を適切に抑制して循環させることが可能な液体循環システムを提供する。
【解決手段】 穿孔装置に取り付けられたビットの刃先部で穿孔する被穿孔体の穿孔部分を覆う遮蔽部と、液体を貯留する液体容器と、液体容器に貯留した液体を刃先部へ強制的に供給する液体供給装置と、遮蔽部で遮蔽した部分から懸濁液を強制的に回収して液体容器へ戻す液体回収装置と、を備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
穿孔装置に取り付けられたビットの刃先部で穿孔する被穿孔体の穿孔部分を覆う遮蔽部と、
液体を貯留する液体容器と、
前記液体容器に貯留した液体を前記刃先部へ強制的に供給する液体供給装置と、
前記遮蔽部で遮蔽した部分から懸濁液を強制的に回収して前記液体容器へ戻す液体回収装置と、を備えている、
ことを特徴とする液体循環システム。
【請求項2】
前記液体供給装置は、前記液体容器に貯留した液体の一部を前記刃先部へ強制的に供給する第1チューブポンプを有し、
前記液体回収装置は、前記遮蔽部で遮蔽した部分から懸濁液を前記液体容器へ強制的に回収する第2チューブポンプを有し、
前記第1チューブポンプと前記第2チューブポンプとを連動して運転/停止させるスイッチを有している、
請求項1に記載の液体循環システム。
【請求項3】
前記遮蔽部と前記第2チューブポンプとの間の液体回収流路にストレーナをさらに備えている、
請求項2に記載の液体循環システム。
【請求項4】
前記遮蔽部と前記ストレーナとの間の前記液体回収流路を、前記遮蔽部から排出される前記被穿孔体の破片に応じた太さに形成している、
請求項3に記載の液体循環システム。
【請求項5】
前記遮蔽部は、前記穿孔部分の周囲に前記被穿孔体と接するシール部材を有している、
請求項1~4のいずれか1項に記載の液体循環システム。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の液体循環システムを備え、
前記穿孔装置は、前記液体供給装置で供給する液体の供給流路を開閉する液体供給機構と、前記遮蔽部を前方に向けて付勢する付勢機構と、を有している、
ことを特徴とする穿孔システム。
【請求項7】
前記液体供給機構は、前記ビットとともに前記穿孔装置の後方へ所定量で移動するスライド部材を有し、前記スライド部材が前記所定量で移動することで前記供給流路が開放するように構成されている、
請求項6に記載の穿孔システム。
【請求項8】
前記ビットの前記刃先部は、前記遮蔽部の前面から前記液体供給機構の方向に所定量の配置隙間を有して配置され、前記液体供給機構の前記スライド部材が移動する所定量は、前記配置隙間よりも小さく設定されている、
請求項7に記載の穿孔システム。
【請求項9】
前記付勢機構は、前記穿孔装置から前記遮蔽部に向けて延びるガイド部と、前端に前記遮蔽部が固定され、前記ガイド部にガイドされてスライドするスライド部と、前記ガイド部に沿って前記スライド部を前方に付勢する付勢部と、前記スライド部を所定位置で保持する保持部と、を有している、
請求項6~8のいずれか1項に記載の穿孔システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体循環システム及びそれを備える穿孔システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリートや磁器タイルなどへの穴あけに用いられる穿孔装置には、ビットの刃先から被穿孔体の穿孔部分に液体を供給するものがある。この種の先行技術として、例えば、穿孔装置の刃先に液体を供給するための液体供給装置と、刃先から供給した液体と穿孔部分の粉塵(切屑)とが混ざった懸濁液から被穿孔体の粉塵を分離する分離装置とを有する携帯式循環濾過装置がある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1の携帯式循環濾過装置では、被穿孔体の穿孔部分から出た懸濁液が、懸濁液回収部と排水管とを介して携帯式循環濾過装置内のフィルタに内に導かれている。携帯式循環濾過装置内では、フィルタによって懸濁液から被穿孔体の粉塵が分離されて、穿孔装置に供給するための液体が得られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1で提案されている携帯式循環濾過装置では、被穿孔体の穿孔部分から出た懸濁液が、懸濁液回収部から排水管を介して分離装置まで導かれている。しかし、この場合、懸濁液の排出量によっては、排水管に排出された懸濁液が懸濁液回収部に逆流してしまうおそれがある。
【0006】
そこで、本発明は、懸濁液の逆流を適切に抑制して循環させることが可能な、液体循環システム及びそれを備える穿孔システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係る液体循環システムは、穿孔装置に取り付けられたビットの刃先部で穿孔する被穿孔体の穿孔部分を覆う遮蔽部と、液体を貯留する液体容器と、前記液体容器に貯留した液体を前記刃先部へ強制的に供給する液体供給装置と、前記遮蔽部で遮蔽した部分から懸濁液を強制的に回収して前記液体容器へ戻す液体回収装置と、を備えている。この明細書及び特許請求の範囲の書類中における「懸濁液」は、刃先部に供給した液体と刃先部で穿孔した被穿孔体とが混ざった液をいう。
【0008】
この構成により、穿孔装置に取り付けられるビットの刃先部で穿孔する被穿孔体の穿孔部分を遮蔽部で覆い、液体供給装置から刃先部に液体を強制的に供給し、液体回収装置によって遮蔽部で遮蔽した部分から懸濁液を強制的に回収するので、懸濁液の逆流を適切に抑制することができる。
【0009】
また、前記液体供給装置は、前記液体容器に貯留した液体の一部を前記刃先部へ強制的に供給する第1チューブポンプを有し、前記液体回収装置は、前記遮蔽部で遮蔽した部分から懸濁液を前記液体容器へ強制的に回収する第2チューブポンプを有し、前記第1チューブポンプと前記第2チューブポンプとを連動して運転/停止させるスイッチを有していてもよい。このように構成すれば、第1チューブポンプによる液体の強制的な供給と第2チューブポンプによる懸濁液の強制的な回収とをスイッチで連動して行うことができ、液体の循環を適切にできる。しかも、液体の循環にチューブポンプを用いることで、刃先部で穿孔して生じる粉塵が混入している懸濁液であっても適切に送ることができる。
【0010】
また、前記遮蔽部と前記第2チューブポンプとの間の液体回収流路にストレーナをさらに備えていてもよい。このように構成すれば、刃先部で穿孔して生じる粉塵に大きな破片が混ざるおそれのある作業でも、その大きな破片をストレーナで除去することができる。
【0011】
また、前記遮蔽部と前記ストレーナとの間の前記液体回収流路を、前記遮蔽部から排出される前記被穿孔体の破片に応じた太さに形成していてもよい。このように構成すれば、刃先部で穿孔して生じる粉塵に大きな破片が混ざるおそれのある作業でも、その大きな破片を遮蔽部からストレーナまでの液体回収流路でスムーズに流し、ストレーナで除去することができる。
【0012】
また、前記遮蔽部は、前記穿孔部分の周囲に前記被穿孔体と接するシール部材を有していてもよい。このように構成すれば、液体供給装置で刃先部へ強制的に供給した液体が遮蔽部と被穿孔体との間から漏れることを適切に抑止することができる。
【0013】
一方、本発明に係る穿孔システムは、前記したいずれかの液体循環システムを備え、前記穿孔装置は、前記液体供給装置で供給する液体の供給流路を開閉する液体供給機構と、前記遮蔽部を前方に向けて付勢する付勢機構と、を有している。
【0014】
この構成により、液体循環システムの液体供給装置によって刃先部に液体を強制的に供給し、液体回収装置で穿孔部分から懸濁液を強制的に回収して液体容器に貯留することができる。液体容器の懸濁液は、分離装置によって穿孔装置の刃先部に供給する液体として循環させることができる。しかも、付勢機構で遮蔽部を被穿孔体に向けて適切に押圧した状態で、液体供給機構によって液体の供給流路を開放して刃先部へ液体を供給することができる。
【0015】
また、前記液体供給機構は、前記ビットとともに前記穿孔装置の後方へ所定量で移動するスライド部材を有し、前記スライド部材が前記所定量で移動することで前記供給流路が開放するように構成されていてもよい。このように構成すれば、穿孔装置で穿孔作業を行うためにビットを被穿孔体へ押し付けると、ビットとともにスライド部材が穿孔装置の後方へ所定量で移動して液体供給機構の液体供給流路を開放するので、穿孔作業に連動して液体をビットの刃先部へ供給することができる。
【0016】
また、前記ビットの前記刃先部は、前記遮蔽部の前面から前記液体供給機構の方向に所定量の配置隙間を有して配置され、前記液体供給機構の前記スライド部材が移動する所定量は、前記配置隙間よりも小さく設定されていてもよい。このように構成すれば、穿孔作業を行うために遮蔽部を被穿孔体へ押し付けた後、液体の供給流路が開放されるので、遮蔽部を被穿孔体へ適切な力で押し付けた状態で液体を供給して穿孔作業を行うことができる。
【0017】
また、前記付勢機構は、前記穿孔装置から前記遮蔽部に向けて延びるガイド部と、前端に前記遮蔽部が固定され、前記ガイド部にガイドされてスライドするスライド部と、前記ガイド部に沿って前記スライド部を前方に付勢する付勢部と、前記スライド部を所定位置で保持する保持部と、を有していてもよい。このように構成すれば、穿孔装置から遮蔽部に向けて延びるガイド部に沿って、スライド部の前端に固定された遮蔽部が付勢部によって前方へ付勢される。よって、遮蔽部を被穿孔体に向けて押し付けた状態で、ビットにより穿孔作業を行うことができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、懸濁液の逆流を適切に抑制して循環させることが可能な、液体循環システム及びそれを備える穿孔システムを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本発明の第1実施形態に係る第1穿孔システムの全体構成を示す概略図である。
【
図3】
図3は、
図1に示す第1穿孔システムにおける穿孔装置の液体供給機構を示す概略断面図である。
【
図4】
図4は、
図1に示す第1穿孔システムの遮蔽部を示す図面であり、(a)は穿孔装置の方向から見た概略図、(b)は中央縦断面図である。
【
図5】
図5は、
図4に示す遮蔽部を被穿孔体に向けて付勢する付勢機構の平面視における概略図である。
【
図6】
図6は、
図3に示す液体供給機構の作業時における動作を示す図面であり、(a)は作業前の概略断面図、(b)は作業時の概略断面図である。
【
図7】
図7は、本発明の第2実施形態に係る第2穿孔システムの全体構成を示す概略図である。
【
図8】
図8は、
図7に示す第2穿孔システムの液体回収流路に備えられたストレーナの部分を示す一部断面した拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。以下の実施形態では、穿孔装置2に取り付けられたビット7の刃先部8で被穿孔体100(例えば、コンクリート壁、磁器タイル壁など)に所定深さの孔を形成する穿孔システム1、70を例に説明する。また、液体として水Lを例に説明する。穿孔システム1、70は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を損なわない範囲で種々の構成を変更してもよい。なお、この明細書及び特許請求の範囲の書類中における前後方向の概念は、
図1に示す穿孔装置2に対して刃先部8の方向を前方とする前後方向の概念と一致するものとする。
【0021】
(第1実施形態に係る第1穿孔システム)
図1は、第1実施形態に係る第1穿孔システム1の全体構成を示す概略図である。この実施形態に係る第1穿孔システム1は、穿孔作業を行うための穿孔装置2と、この穿孔装置2に取り付けられたビット7(切削具)の刃先部8で穿孔する被穿孔体100の穿孔部分101を覆う遮蔽部50と、ビット7の刃先部8に供給する水Lを循環させるための液体循環システム30と、を備える。遮蔽部50は、穿孔装置2に設けられた付勢機構20によって前方へ付勢されている。
【0022】
穿孔装置2は、電動ドリル3と、電動ドリル3に取り付けられる液体供給機構10と、液体供給機構10に取り付けられるビット7と、を備える。電動ドリル3は、ドリル本体4と、ドリル本体4を駆動する操作部5と、ドリル本体4の先端に設けられ、液体供給機構10のシャンク12を把持するための把持機構6と、を有する。液体供給機構10は、中央部分にビット7の基部を把持して回転する回転部11があり、その周囲に水Lの供給部となる液体供給部13を備えている。液体供給機構10の詳細は、後述する。
【0023】
穿孔装置2は、ドリル本体4内に設けられたモータ(図示せず)の回転によって把持機構6を回転させ、液体供給機構10の回転部11を介してビット7を回転させる。回転するビット7の刃先部8が、被穿孔体100に押し当てられることで、穿孔作業が行われる。この穿孔作業時に、液体供給機構10からビット7の刃先部8に水Lが供給される。刃先部8から被穿孔体100との間に水Lを供給することで、穿孔時における刃先部8と被穿孔体100との間の摩擦の緩和、発熱を抑制する。
【0024】
(液体循環システム)
図2は、
図1に示すチューブポンプ32,36の平面図である。
図1,2に示すように、この実施形態に係る液体循環システム30は、液体容器40内の水Lを、穿孔装置2の液体供給機構10を介して刃先部8へ水Lを強制的に供給する液体供給装置31を備えている。また、穿孔部分101を切削した粉塵C(被穿孔体100を穿孔することで生じる屑を含む)が水Lに混ざった懸濁液Sを遮蔽部50から液体容器40へ強制的に回収する液体回収装置35も備えている。液体容器40は、例えば、4~5リットル程度の水Lを貯留できる内部容器41を有している。この実施形態に係る液体供給装置31は、第1チューブポンプ32を有している。液体回収装置35は、第2チューブポンプ36を有している。この実施形態に係る第1チューブポンプ32及び第2チューブポンプ36は、一体となった2連式チューブポンプとなっている。また、液体容器40の内部には、液体回収装置35で回収した懸濁液Sから、被穿孔体100の大きな粉塵Cを分離するための分離装置45を備えている。
【0025】
(液体供給装置と液体回収装置)
図1,2に示すように、この実施形態の2連式チューブポンプは、水Lの供給側と懸濁液Sの回収側とが同一の駆動軸39で駆動される構成となっている。2連式チューブポンプは、公知の構造のものを利用できる。なお、第1チューブポンプ32及び第2チューブポンプ36は、それぞれ別々な構成でもよく、他の公知のものを用いてもよい。
【0026】
液体供給装置31は、水Lを貯留するための液体容器40から第1チューブポンプ32で水Lを吸い上げる第1供給流路33と、その水Lを第1チューブポンプ32から穿孔装置2の液体供給機構10へ供給する第2供給流路34と、を有している。第1供給流路33は、上流側の端部が、液体容器40内の分離装置45に接続されている。
【0027】
液体回収装置35は、遮蔽部50から懸濁液Sを第2チューブポンプ36で強制的に回収する第1液体回収流路37と、その懸濁液Sを第2チューブポンプ36から液体容器40に送る第2液体回収流路38と、を有している。
【0028】
第1チューブポンプ32及び第2チューブポンプ36は、駆動軸39で回転させるローラ(図示省略)がチューブポンプ内のチューブを圧縮し、真空状態が発生することでチューブ内に液体を引き込むように構成されている。第1チューブポンプ32及び第2チューブポンプ36は、チューブのみが液体と接触するため、粉塵Cが混ざった懸濁液Sであっても適切に送ることができる。第1チューブポンプ32は、例えば、1分間に100~150ミリリットル程度の水Lを穿孔装置2の液体供給機構10に供給できるものを利用できる。
【0029】
(分離装置)
この実施形態に係る分離装置45は、液体容器40内の内部容器41に貯留された水Lに浮かべられている。分離装置45は、懸濁液Sの少なくとも液面付近で浮力を生じるフロート46と、懸濁液S内でフロート46と一体的に移動可能であり、懸濁液Sから大きな粉塵Cを分離するためのストレーナ47と、を有する。分離装置45は、第1供給流路33の上流側の端部に取り付けられている。分離装置45により、液体容器40内に貯留された懸濁液Sから自重で粉塵Cなどが沈降した水Lの上部から、ストレーナ47を介して大きな粉塵C(液体供給機構10のスライド部材17と回転部11との間、傾斜面17aとシール部材15との間を通過できない大きさの粉塵C;例えば、約1mm程度)を取り除いた水Lを吸い上げるようにしている。
【0030】
分離装置45は、液体容器40の内部容器41内に、粉塵Cを分離するためのフィルタ(図示略)を設けたものでもよい。分離装置45は、液体容器40から穿孔装置2の刃先部8に供給する水Lに大きな粉塵Cが混ざらなければ設けなくてもよい。分離装置45は、これらの構成に限定されるものではない。
【0031】
(液体供給機構)
図3は、
図1に示す第1穿孔システム1における穿孔装置2の液体供給機構10を示す概略断面図である。この実施形態の液体供給機構10は、電動ドリル3の把持機構6に把持されるシャンク12を有する回転部11と、回転部11の周囲に設けられた液体供給部13と、を有している。液体供給部13は、回転部11との間に設けられた軸受14によって回転しない状態を保つことができる。液体供給部13には、第2供給流路34が接続されている。液体供給部13の内部に設けられた供給流路13aは、回転部11に設けられた供給流路11aと連通している。
【0032】
回転部11の前部には、ビット7の基部を把持するビット取付部16が設けられている。ビット取付部16には、ビット7の基部が挿入されて保持されている。ビット7の基部を保持する機構は、図示を省略する。ビット7の基部を保持する機構は、公知の技術を用いることができる。
【0033】
回転部11の内部には、ビット7の基部が当接した状態で前後方向に所定量の移動が可能なスライド部材17が設けられている。スライド部材17は、回転部11の内部に設けられた付勢部材18(スプリング)によって前方に付勢されている。スライド部材17の後部には、拡径する傾斜面17aが設けられており、この傾斜面17aが付勢部材18の付勢力で回転部11の所定位置に設けられたシール部材15に当接している。スライド部材17の前部は、ビット取付部16との間に設けられたシール部材19によってシールされている。シール部材15,19には、Oリングを用いることができる。スライド部材17は、回転部11との間の所定量の隙間Aの範囲で、付勢部材18の付勢力に抗して後方向にスライド可能となっている。
【0034】
スライド部材17と回転部11との間の空間11bは、スライド部材17に設けられた供給流路17bを介してビット7に設けられた液体供給穴9と連通している。液体供給穴9は、ビット7の基部から刃先部8まで設けられている。
【0035】
図示するように、スライド部材17が付勢部材18で前方に向けて付勢された状態では、傾斜面17aがシール部材15に当接して、供給流路11aと空間11bとの間は閉鎖された状態となる。この状態では、第2供給流路34から液体供給部13に供給された水Lは、供給流路11aから空間11bへ流れない。
【0036】
一方、スライド部材17がビット7の方向から押圧されると(後述する
図6(b)の状態)、スライド部材17は付勢部材18の付勢力に抗して所定量の隙間Aの範囲で後方に移動する。この状態では、傾斜面17aがシール部材15から離れて、供給流路11aと空間11bとの間が連通した状態となり、第2供給流路34から供給された水Lが供給流路11aから空間11bへ流れる。
【0037】
よって、ビット7をビット取付部16に取り付けた状態では、水Lは液体供給機構10まで供給された状態で止まり、ビット7が後方へ押し込まれることで、液体供給機構10に供給された水Lがビット7の液体供給穴9を介して刃先部8から穿孔部分101(
図1)へと供給される。
【0038】
また、この実施形態では、スライド部材17が前後方向に移動する所定量の隙間Aは、付勢機構20で前方に向けて付勢された状態の遮蔽部50の前面からビット7の刃先部8までの配置隙間B(
図1、
図6(b))よりも小さくなっている。これにより、遮蔽部50の前面を被穿孔体100に当接させた後、配置隙間Bが所定量の隙間Aの分だけ押し込まれてからスライド部材17の傾斜面17aがシール部材15から離れることになる。よって、遮蔽部50のシール部材58を被穿孔体100に押し付けた状態で水Lが刃先部8から供給されることになり(
図6(b))、遮蔽部50と被穿孔体100との間から水Lが漏れるのを抑止することができる。なお、所定の隙間Aと配置隙間Bの関係は一例であり、この実施形態に限定されるものではない。
【0039】
(遮蔽部)
図4は、
図1に示す第1穿孔システム1の遮蔽部50を示す図面であり、(a)は穿孔装置2の方向から見た概略図、(b)は中央縦断面図である。この実施形態の遮蔽部50は、本体部51が横長に形成され、その両端部に連結部52が設けられている。連結部52には、
図5に示す付勢機構20のスライド部25が連結される。本体部51の中央部分には、ビット7の前部を前後方向に案内する案内部材53が設けられている。案内部材53には、中央部分にビット7の案内部54が設けられ、前方部分には空間部55が設けられている。案内部材53と本体部51との間にはシール部材56が設けられており、これらの間から懸濁液Sが漏れるのを防止している。シール部材56は、Oリングを用いることができる。
【0040】
また、本体部51の前面には、被穿孔体100と接するシール部材58が設けられている。シール部材58は、空間部55の周囲をシールするとともに、穿孔部分101の周囲をシールするように設けられている。シール部材58は、スポンジ材、ゴム材などを用いることができる。
【0041】
また、本体部51の下部には、空間部55から外部に通じる回収穴57が設けられている。回収穴57には、第1液体回収流路37が接続されている。空間部55の懸濁液Sは、回収穴57から第1液体回収流路37へと回収される。なお、二点鎖線で示す大径回収穴57Aは、後述する
図7に示す第2穿孔システム70における大径回収穴57Aの例である。この大径回収穴57Aには、後述する大径の上流側第1液体回収流路37Aが接続される。
【0042】
(付勢機構)
図5は、
図4に示す遮蔽部50を被穿孔体100に向けて付勢する付勢機構20の平面視における概略図である。
図5は、半断面図で示している。この実施形態の付勢機構20は、穿孔装置2の液体供給機構10に取り付けられる本体部21を有している。本体部21は、液体供給機構10の外面に固定されている。
【0043】
本体部21には、液体供給機構10の左右位置に、前後方向に延びる2本のガイド部23と、ガイド部23に沿って前後方向にスライドするスライド部25と、が設けられている。ガイド部23は、本体部21の穴部に挿入され、左右位置の2箇所を固定ボルト22で固定することによって本体部21に固定されている。スライド部25は、ガイド部23の内部に設けられた付勢スプリング24(付勢部)によって、前方に向けて付勢されている。スライド部25は、ガイド部23の端部に設けられた保持部26(段部)により、図示する所定位置で前方へのスライドが止まって保持されている。スライド部25は、図示する状態から付勢スプリング24の付勢力に抗して後方へスライド可能となっている。
【0044】
スライド部25の先端には、遮蔽部50が固定されている。これにより、遮蔽部50は、付勢スプリング24の付勢力に抗してスライド部25と一体的に後方へ移動可能となっている。
【0045】
(穿孔作業の一例)
図6は、
図5に示す遮蔽部50と付勢機構20の作業時における動作を示す図面であり、(a)は作業前の概略断面図、(b)は作業時の概略断面図である。
図1とこれらの図に基づいて、上記第1穿孔システム1を用いて被穿孔体100に対して穿孔作業を行う一例について説明する。
【0046】
まず、
図1に示すように、第1穿孔システム1の構成を接続する。そして、チューブポンプ32,36のスイッチを入れて稼働させ、穿孔装置2の刃先部8を被穿孔体100の穿孔部分101に配置する。この状態では、液体供給装置31の第1チューブポンプ32は、液体容器40から水Lを穿孔装置2の液体供給機構10へ供給しようとする。しかし、
図6(a)に示すように、液体供給機構10のスライド部材17がシール部材15に当接して供給流路11aの先が閉鎖されているため、液体容器40から水Lは供給されない。液体回収装置35の第2チューブポンプ36は、遮蔽部50の空間部55(
図4(b))から空気を吸引した状態となる。この状態で、穿孔装置2に設けられた遮蔽部50のシール部材58を、被穿孔体100の穿孔部分101に当てる。
【0047】
そして、
図6(b)に示すように、ドリル本体4に設けられた操作部5を操作してビット7を回転させつつ、ビット7の刃先部8を被穿孔体100に向けて押し付ける。これにより、遮蔽部50は、付勢機構20によって被穿孔体100に適切な力で押し当てられた状態となる。また、ビット7の刃先部8が被穿孔体100に押し当てられることで、ビット7の基部がスライド部材17を付勢部材18の付勢力に抗して所定量の隙間Aの範囲で後方へ移動させる。
【0048】
これにより、スライド部材17の傾斜面17aがシール部材15から離れて、液体供給部13の供給流路13aが、回転部11の供給流路11a、空間11b、スライド部材17の供給流路17bを介してビット7の液体供給穴9と連通する。よって、ビット7の刃先部8で被穿孔体100を穿孔するときには、液体供給装置31から液体供給機構10に供給された水Lが、ビット7の刃先部8から穿孔部分101に供給される。そして、遮蔽部50の空間部55における懸濁液Sは、液体回収装置35の第2チューブポンプ36によって第1液体回収流路37及び第2液体回収流路38を介して液体容器40へと強制的に回収される。
【0049】
このように、ビット7を回転させて刃先部8を前方の被穿孔体100に押し付けることで、被穿孔体100の穿孔部分101が刃先部8によって穿孔される。そして、この穿孔作業時には、第1チューブポンプ32によって液体容器40の水Lが穿孔装置2の刃先部8から穿孔部分101へ強制的に供給され、刃先部8で切削した被穿孔体100の粉塵Cが混ざった懸濁液Sが遮蔽部50から第1液体回収流路37及び第2液体回収流路38を介して液体容器40へ強制的に回収される。
【0050】
また、液体回収装置35で回収して液体容器40に貯留した懸濁液Sは、大きな粉塵Cは沈降し、液体容器40の上部でストレーナ47によって粉塵Cが取り除かれた水Lが第1液体供給流路33及び第2液体供給流路34を介して再び刃先部8へ供給される。つまり、液体容器40に貯留された懸濁液Sから穿孔装置2に取り付けられたビット7の刃先部8へ供給する水Lを、懸濁液Sの中でも粉塵Cが少ない液面及びその近傍部分から分離装置45のストレーナ47を介して得られた水Lとすることで、穿孔装置2の刃先部8へは粉塵Cの混入が少ない水Lを循環させている。しかも、水Lの循環にチューブポンプ32,36を用いているため、水Lに多少の粉塵Cが混入していたとしても適切に循環させることができる。
【0051】
よって、上記した第1穿孔システム1によれば、液体循環システム30により、水Lの刃先部8への適切な供給と、懸濁液Sの強制的な回収で逆流を適切に抑制した循環を行いつつ、穿孔装置2で被穿孔体100に対して適切な穿孔作業を行うことが可能である。
【0052】
その上、上記した第1穿孔システム1によれば、穿孔部分101を覆う遮蔽部50から懸濁液Sを強制的に回収するため、下向きの穿孔作業であっても水Lの適切な循環が可能となる。よって、様々な向きの穿孔作業を適切に行うことが可能となる。
【0053】
(第2実施形態に係る第2穿孔システム)
図7は、第2実施形態に係る第2穿孔システム70の全体構成を示す概略図である。
図8は、
図7に示す第2穿孔システム70の液体回収流路に備えられたストレーナ80の部分を示す一部断面した拡大図である。なお、第2穿孔システム70は、遮蔽部50と第2チューブポンプ36との間の第1液体回収流路37の部分における構成が上記した第1穿孔システム1とは異なっている。このため、第2穿孔システム70の説明は第1穿孔システム1と異なる部分のみを説明し、上記した第1穿孔システム1と同一の構成には同一の符号を付し、その説明は省略する。第2穿孔システム70は、刃先部8で穿孔して生じる粉塵Cに大きな破片D(例えば、3~5mm程度)が混ざるおそれのある作業の場合に用いることができる。
【0054】
図7に示すように、第2穿孔システム70は、遮蔽部50と第2チューブポンプ36との間の上流側第1液体回収流路37Aと下流側第1液体回収流路37Bとの間にストレーナ80が備えられている。遮蔽部50とストレーナ80との間の上流側第1液体回収流路37Aは大径のものが用いられ、ストレーナ80と第2チューブポンプ36との間の下流側第1液体回収流路37Bは他の流路(第2液体回収流路38)と同径のものが用いられている。上流側第1液体回収流路37Aを接続する遮蔽部50には、上流側第1液体回収流路37Aの直径に応じた大径回収穴57A(
図4(b))が設けられる。例えば、下流側第1液体回収流路37Bの直径を6~8mm程度にして、上流側第1液体回収流路37Aの直径を10~12mm程度にすることができる。上流側第1液体回収流路37Aの直径は、下流側第1液体回収流路37Bの直径の1.2倍~2倍程度、好ましくは、1.5倍程度にできる。上流側第1液体回収流路37Aの直径及び遮蔽部50の大径回収穴57Aは、刃先部8で穿孔することで生じる大きな破片D(
図8)の大きさに応じて設定すればよい。
【0055】
図8に示すように、ストレーナ80は、円筒形のストレーナ本体81を有し、上流側のストレーナ入口82には上流側第1液体回収流路37Aが接続され、下流側のストレーナ出口83には下流側第1液体回収流路37Bが接続されている。この実施形態のストレーナ80は、ストレーナ本体81の下部に下流方向へ傾斜したフィルタ配置部84が設けられ、このフィルタ配置部84に円筒形のフィルタ85が設けられている。フィルタ85は、フィルタ配置部84の下端部を塞ぐ閉鎖部材86によって下端部が塞がれている。フィルタ85は、円筒形の中央部が上流側と連通し、円筒形の外周部が下流側と連通している。フィルタ85は、捕集する大きな破片Dの大きさに応じたメッシュの金網などを用いることができる。
【0056】
このストレーナ80によれば、上流側第1液体回収流路37Aからストレーナ本体81に入った懸濁液Sは、フィルタ85に中央から入って周囲から出て下流側第1液体回収流路37Bへと流れる。よって、懸濁液Sに混入している大きな破片Dは、フィルタ85によって捕集される。通常、1日の作業で大きな破片Dは多く生じないため、大きな破片Dをフィルタ85に溜めて、作業を中断することなく1日中作業を行うことができる。フィルタ85に捕集された大きな破片Dは、閉鎖部材86を取外すことで排出することができる。なお、この実施形態のストレーナ80は一例であり、他の形式のストレーナを用いることもでき、ストレーナ80はこの実施形態に限定されるものではない。
【0057】
また、上記した実施形態の第1穿孔システム1及び第2穿孔システム70は、液体容器40と第1チューブポンプ32及び第2チューブポンプ36を運搬するための台車60を備えている。これにより、穿孔作業を行う場所へシステム全体を容易に移動することが可能である。システム全体の移動は、台車60に代えてリュック、ショルダーバッグを備えさせても容易に行える。また、穿孔装置2の電動ドリル3をバッテリ内蔵とすれば、台車60に液体容器40を載せた状態で移動することが容易にできるので、穿孔作業の位置変更が容易であるとともに、比較的狭い作業現場であったとしても、適切に穿孔作業を行うことが可能となる。穿孔装置2の電動ドリル3は、バッテリ内蔵の構成に限定されない。電動ドリル3は、電源コードを介して電力供給される構成でもよい。
【0058】
(その他の変形例)
上記実施形態では、電動ドリル3に取り付けられた液体供給機構10に、遮蔽部50を被穿孔体100に向けて付勢する付勢機構20を設けた例を説明したが、付勢機構20はドリル本体4に設けてもよい。
【0059】
上記した実施形態では、液体として水Lを例に説明したが、液体は水L以外であってもよく、刃先部8と被穿孔体100との摩擦の緩和、刃先部8と被穿孔体100との摩擦により発熱した刃先部8を冷却できる液体であれば特に限定されるものではない。
【0060】
さらに、上記した実施形態は一例を示しており、当業者にとっては、本発明の多くの改良や他の実施形態が明らかである。したがって、上記説明は、例示としてのみ解釈されるべきであり、本発明を実行する最良の態様を当業者に教示する目的で提供されたものである。本発明の精神を逸脱することなく、その構造及び/又は機能の詳細を実質的に変更できる。
【符号の説明】
【0061】
1 第1穿孔システム
2 穿孔装置
7 ビット
8 刃先部
9 液体供給穴
10 液体供給機構
11 回転部
13 液体供給部
15 シール部材
16 ビット取付部
17 付勢部材
18 シール部材
20 付勢機構
23 ガイド部
24 付勢スプリング(付勢部)
25 スライド部
30 液体循環システム
31 液体供給装置
32 第1チューブポンプ
33 第1液体供給流路
34 第2液体供給流路
35 液体回収装置
36 第2チューブポンプ
37 第1液体回収流路
37A 第1液体回収流路
37B 第1液体回収流路
38 第2液体回収流路
40 液体容器
45 分離装置
46 フロート
47 ストレーナ
50 遮蔽部
54 案内部
55 空間部
56 シール部材
57 回収穴
57A 回収穴
58 シール部材
70 第2穿孔システム
80 ストレーナ
83 フィルタ
84 閉鎖部材
100 被穿孔体
101 穿孔部分
A 所定量の隙間(所定量)
B 配置隙間
L 水(液体)
S 懸濁液
C 粉塵
D 大きな破片