(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022031117
(43)【公開日】2022-02-18
(54)【発明の名称】穴あけ工具および穴あけ方法
(51)【国際特許分類】
B23B 51/00 20060101AFI20220210BHJP
B23B 51/06 20060101ALI20220210BHJP
【FI】
B23B51/00 S
B23B51/06 C
B23B51/06 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021071856
(22)【出願日】2021-04-21
(31)【優先権主張番号】10 2021 105 703.5
(32)【優先日】2021-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(31)【優先権主張番号】10 2020 120 939.8
(32)【優先日】2020-08-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(71)【出願人】
【識別番号】505455004
【氏名又は名称】エミューゲ ヴェルク リチャード グリンペル ゲーエムベーハー ウント カンパニー ケージー ファブリック ファープレーツィシオンスヴェルクツォイゲ
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン ベーア
(72)【発明者】
【氏名】ベルンハート ボーシェルト
(72)【発明者】
【氏名】トーマス フンク
(72)【発明者】
【氏名】ディートマー ヘクトル
(72)【発明者】
【氏名】マヌエル レオンハルト
(72)【発明者】
【氏名】マルティン シュタインバッハ
【テーマコード(参考)】
3C037
【Fターム(参考)】
3C037BB06
3C037BB08
3C037BB15
3C037DD06
3C037DD07
(57)【要約】 (修正有)
【課題】大きい穴あけ送り量が可能な、穴あけ工具およびワークピースに穴をあける方法を提供する。
【解決手段】穴あけ工具2は、工具軸Aを中心に回転方向VDに回転し、前部または自由端ドリル領域3を備える。ドリル領域3は、回転方向VDに互いにオフセットして配置されたn(ただし、nはn≧1の自然数)のドリル切れ刃31,32を有し、それぞれに少なくとも1つのチップブレーカ11,12が配置され、このチップブレーカ11,12がそれぞれのドリル切れ刃31,32の中断部21,22を形成する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒形の内壁を有する穴を形成するための穴あけ工具であって、
(a)前記穴あけ工具は、前記穴あけ工具を通って延びる工具軸を中心に所定の回転方向に回転運動可能であると同時に、前記工具軸に対して軸方向に前進移動可能であり、
(b)前記穴あけ工具は、前部または自由端にある前記穴あけ工具の前方に位置するように構成された少なくとも1つのドリル領域を備えるが、好ましくはねじ形成領域を有しておらず、
(c)前記ドリル領域は、前記回転方向に互いにオフセットして配置されたn(ただし、nはn≧1の自然数)のドリル切れ刃を有し、
(d)nのドリル切れ刃の少なくとも1つまたはそれぞれに、少なくとも1つのチップブレーカが配置され、このチップブレーカがそれぞれのドリル切れ刃の中断部を形成する、穴あけ工具。
【請求項2】
前記ドリル領域は、前記回転方向に互いにオフセットして配置された、n≧2、すなわち少なくとも2つのドリル切れ刃を有し、特に360°/nのピッチ角で等ピッチで配置されているか、あるいは異なるピッチ角で不等ピッチで配置されている、請求項1に記載の穴あけ工具。
【請求項3】
前記関連する切れ刃から前記工具軸に対して前記軸方向に測定された前記または各チップブレーカの前記軸方向における深さは、前記回転方向における直前の切れ刃に対する前記関連する切れ刃の前記軸方向の送り量の0.5倍から1.1倍の範囲から選択され、好ましくは、前記関連するドリル切れ刃の前記軸方向の送り量と少なくともほぼ等しい、請求項2に記載の穴あけ工具。
【請求項4】
前記工具軸に対して前記軸方向に測定された前記または各チップブレーカの前記軸方向の深さは、0.5/nから1.1/nの範囲、好ましくは少なくとも約1/nに、1回転あたりの前記穴あけ工具の前記軸方向の送り量を乗じものから選択される、請求項1または2に記載の穴あけ工具。
【請求項5】
前記工具軸を中心とする前記所定の回転方向への回転投影において、第1ドリル切れ刃のチップブレーカに後続の第2ドリル切れ刃の切れ刃領域が続くように、および/または、前記2つのドリル切れ刃のうちの一方のドリル切れ刃の前記工具軸に最も近い最も内側の点における前記チップブレーカの前記半径方向距離が、前記2つのドリル切れ刃のうちの他方のドリル切れ刃の前記工具軸から最も遠い最も外側の点における前記チップブレーカの前記半径方向距離よりも大きくなるように、および/または、前記2つのドリル切れ刃のうちいの一方のドリル切れ刃の前記チップブレーカの外側半径方向距離が、前記2つのドリル切れ刃のうちの他方のドリル切れ刃の前記チップブレーカの内側半径方向距離よりも小さくなるように、前記工具軸からの前記チップブレーカの前記半径方向距離は、前記nのドリル切れ刃のうちの少なくとも2つのドリル切れ刃で異なっている、請求項1から4のいずれかに記載の穴あけ工具。
【請求項6】
チップブレーカ、特に関連するドリル切れ刃の中断部の半径方向の幅は、穴領域の直径の0.05倍から0.25倍の範囲から選択される、請求項1から5のいずれかに記載の穴あけ工具。
【請求項7】
少なくとも1つまたはそれぞれのチップブレーカは、前記それぞれのドリル切れ刃に中断部を形成するチップブレーカ溝として形成されている、請求項1から6のいずれかに記載の穴あけ工具。
【請求項8】
それぞれのチップブレーカの少なくとも1つまたはそれぞれのチップブレーカ溝は、実質的に直線状のコース、もしくは、互いに対して傾斜した、特に前記工具軸に向かって内側に傾斜した一連の少なくとも2つもしくは3つの直線状のセクションを有し、前記チップブレーカ溝もしくはそのセクションの直線的な延在部は、特にそれぞれの場合において工具軸を中心とする円の接線方向に延在し、または、少なくとも部分的に、好ましくは前記工具軸に対して凸状の、湾曲したコースを有する、請求項7に記載の穴あけ工具。
【請求項9】
少なくとも1つまたはそれぞれのチップブレーカ溝は、好ましくは前方または前記ドリル切れ刃に向かって開口する、特に45°から90°の間、好ましくは少なくとも約60°の開口角で開口する台形の断面を有する、請求項7または8に記載の穴あけ工具。
【請求項10】
それぞれのチップブレーカの少なくとも1つまたはそれぞれのチップブレーカ溝は、それぞれのドリル切れ刃から隣接する自由表面および任意でさらなる自由表面に延びており、特に、チップブレーカ溝の延在部の長さは自由角度または自由表面の位置によって調整可能である、請求項7から9のいずれかに記載の穴あけ工具。
【請求項11】
それぞれのドリル切れ刃は、関連するウェブに構成および/または形成され、少なくとも1つの自由表面は、それぞれのウェブ、特にウェブの端面のそれぞれのドリル切れ刃に隣接し、自由表面の自由角度は、半径方向外側の3°から15°の間、または5°から15°の間、特に6°または10°の範囲で選択され、好ましくは半径方向内側に向かって、特に最大40°の値まで増加し、および/または自由表面は特に円錐面の形態であるかまたは円錐面研磨によって形成されるかまたは平坦である、請求項1から10のいずれかに記載の穴あけ工具。
【請求項12】
ドリル領域から始まるおよび/または軸方向長さが穴あけ工具の最大貫通深さよりも大きい少なくとも1つ、好ましくは少なくとも2つのチップ除去溝を備え、チップ除去溝がいつでもワークピース表面よりも上または外側の領域に延び、穴からチップを除去できるようにする、請求項1から11のいずれかに記載の穴あけ工具。
【請求項13】
ウェブの1つは2つのチップ除去溝の間を延在し、および/または、チップ除去溝および/またはウェブは工具軸を中心に、特に、典型的には、0°から50°、特に20°から35°、例えば30°の間隔で一定または可変のねじれ角でねじれて延在する、請求項11または12に記載の穴あけ工具。
【請求項14】
少なくとも1つまたはそれぞれのチップブレーカ溝は冷却剤および/または潤滑剤のための出口まで延在し、当該出口は、好ましくは、関連するウェブを延びるチャネルに接続される、請求項1から13のいずれかに記載の穴あけ工具。
【請求項15】
前記工具軸に対するドリル領域の直径は、最大で10mmであり、および/または、それぞれの切れ刃にすくい面が隣接しており、前記すくい面にはチップ形成面またはチップ形成段差が設けられていない、請求項1から14のいずれかに記載の穴あけ工具。
【請求項16】
その外周に、特にドリル領域から軸方向にオフセットされたガイド領域をさらに備え、このガイド領域は、ドリル領域の外径に対応する、またはドリル領域の外径よりもわずかに、例えば0.5%から2%だけ小さい直径を有し、ガイド領域は、好ましくは、形成された穴において穴あけ工具を自己ガイドする役割を果たし、および/または、好ましくは、個々のガイドサブ領域にさらに分割され、それぞれがウェブの1つに設けられる、請求項1から15のいずれかに記載の穴あけ工具。
【請求項17】
前記ガイド領域は、好ましくは各ウェブの各ガイドサブ領域は、穴あけプロセスにおいてガイド領域に潤滑剤、特に油を供給するために、周方向に延びる少なくとも1つの潤滑溝、好ましくは軸方向に間隔をあけた少なくとも2つの潤滑溝を有し、各潤滑溝は、好ましくは、1回転あたりまたは1ドリル切れ刃あたりの軸方向の送り量に対応するピッチで螺旋に沿って延びる、請求項16に記載の穴あけ工具。
【請求項18】
前記ドリル切れ刃の外側領域にコーナブレイクが設けられ、特に前記半径方向に対する前記コーナブレイクのコーナブレイク角は0°から60°、好ましくは15°と30°との間の範囲にあり、および/または、半径方向に測定された前記コーナブレイクのコーナブレイク幅は、好ましくは0.05mmと0.4mmの間であり、および/または、前記工具軸に対する前記コーナブレイクの角度は、0°とねじれ角、特にチップ除去溝のねじれ角の範囲、好ましくは0°から選択される、請求項1から17のいずれかに記載の穴あけ工具。
【請求項19】
ねじ山のない円筒形の内壁を有する穴をあける方法であって、
請求項1から18のいずれかに記載の穴あけ工具が使用され、
前記穴あけ工具は、前記穴をあけるとき、穴あけ工具を通って延びる前記工具軸を中心に所定の前進回転方向に前進回転運動で回転されると同時に、前記工具軸に対して軸方向の前進方向に軸方向の前進運動で移動され、
前記穴あけ工具は、あけられた穴から外に、前記前進方向とは反対の軸方向後方に移動され、その間、前記前進回転方向に回転され続ける、方法。
【請求項20】
前記穴あけ工具の1回転あたりの前記前進運動の軸方向の穴あけ送り量は、1回転あたり少なくとも前記穴あけ工具の前記ドリル領域の前記直径の9%、特に直径5.5mmに対して1回転あたり少なくとも0.5mm、および、特に、1回転あたり少なくとも前記穴あけ工具の前記ドリル領域の前記直径の15%、特に直径5.5mmに対して1回転あたり少なくとも0.8mmに設定される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記穴あけ工具の回転の回転速度は、1000rpmから20,000rpmの間の範囲から選択される、および/または、前記穴あけ工具を穴の外に移動させるときの軸方向の速度は、軸方向の前進移動中よりも速く、好ましくは少なくとも5倍速い、請求項19または20に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
穴あけ工具および穴あけ方法
【背景技術】
【0002】
(ねじ山のない)穴をあけるための穴あけ工具、特にツイストドリルは、通常、内側から外側に向かって延在する連続したドリル切れ刃を持つように設計されている。これにより、切削速度と、ドリル切れ刃を覆う切削された材料の周方向の長さが半径方向で異なり、チップの再形成とカールにつながるため、より短いカールしたドリルチップが発生する。これらの短いチップは、通常、穴あけ加工に適している。チップは、特に、らせん状チップ、らせん状チップ片、渦巻き状チップ、渦巻き状チップ片またはコンマ状チップに区別される。
【0003】
穴径が大きく、特に幅広のチップが発生するような稀な用途では、いわゆるチップブレーカ(chip dividers)を穴あけ工具のドリル切れ刃に設けることができ、下流のチップ形成ステージまたはチップブレーカ(DE3704196A1、DE102009024256A1またはUS3,076,357)と組み合わせることができる。
【0004】
チップブレーカは、ドリル切れ刃の中断を形成するもので、溝や凹部として、またはそれぞれのドリル切れ刃の段差として設けることもできる。
【0005】
このようなチップブレーカは、ドリル径が大きい場合に特に幅広のチップを幅狭のチップに分割する。しかしながら、現在では、かなり長くてほとんどカールしてない、いわゆる帯状チップが発生する。このような帯状チップは、特に、工具と穴の壁との間に詰まり、ダメージを生じさせ、工具の破損に至ることもあるため、加工には役立たない。このため、チップブレーカを備える最新の穴あけ工具では、帯状のチップを即座に形成および分断するために、チップブレーカを下流のチップ形成ステップやチップブレーカと組み合わせている。
【0006】
EP3199279A1から、チップブレーカを備えた穴あけ工具が知られており、この工具は、特に航空機産業において、炭素繊維強化プラスチック製のワークピースに穴をあけることを主な目的としている。このような炭素繊維強化プラスチックでは、穴あけ中の送り荷重による繊維層の剥離や、穴あけバリや繊維の突出物が発生する危険性があり、特に穴の縁のほつれの原因となる。EP3199279A1の穴あけ工具は、この問題を対策することを目的としている。EP3199279A1による公知の穴あけ工具は、中央のドリル先端(先端切れ刃)に対して斜めに先細りする2つの端部切れ刃と、を備えるツイストドリルの態様で設計されている。例えば、EP3199279A1の
図1から
図6に示されるように、2つの端部切れ刃7のそれぞれは、3つの部分切れ刃21,22および23にさらに分割されている。第1の内側部分切れ刃21と最も外側の第3の部分切れ刃23は、三角形の断面、すなわちV字型の凹部または溝8によって互いに分離されている。第2の部分切れ刃は、溝の端部に形成され、第3の部分切れ刃から内側に延び、切削に寄与しないウェブ16によって第1の部分切れ刃に接続されている。3つの部分切れ刃21,22および23は、それぞれ直線状に延在し、第1の部分切れ刃21と第3の部分切れ刃23は共通の直線上にあり、第2の部分切れ刃22はそれに対して内側に傾いた直線上にある。この切れ刃設計と傾斜した部分切れ刃によって凹部に作用する送り力が低減されることは、EP3199279A1の
図5と関連する図の説明に示されている。凹部8は、正面のドリル切れ刃から、ドリル工具のそれぞれの領域の背面または自由表面6に向かって後方に延びている。螺旋状のフルート(flute)2は、すくい面として部分切れ刃21,22および23に沿って延在し、すくい面2aを形成している。2つの異なるドリル切れ刃における凹部の半径方向の距離は、大多数の例示的な実施形態において同じになるように選択されている、すなわちそれらは回転投影において完全に重なり合っている。
図28の例示的な実施形態では、2つのドリル切れ刃の凹部の半径方向の距離はわずかに異なっているが、それにもかかわらず、2つの凹部は、工具軸を中心とする回転投影においてまだ部分的に重なっている、すなわち、半径方向にさらに外側にある凹部の最も内側の半径方向の距離は、半径方向にさらに内側にある凹部の外側の半径方向の距離よりも小さくなっている。
図5に模式的に示される凹部8の軸方向の深さは、軸方向の穴あけ送り量frとほぼ等しく、
図24に模式的に示される凹部18の軸方向の深さは、軸方向の穴あけ送り量frの約2倍である。
【0007】
軸方向の穴あけ送り量の典型的な値は、既知のツイストドリルで1回転あたり0.1から0.3mm程度である。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、高い穴あけ送り量が可能な、穴あけ工具およびワークピースに穴をあける方法を特定するという目的に基づいている。特に、1回転当たり少なくとも穴あけ工具のドリル領域の直径の9%、特に直径5.5mmに対して0.5mm、さらにそれ以上の穴あけ送り量を実現することである。
【0009】
この課題を解決するのに適した本発明による実施形態および目的は、特に独立請求項1の特徴を有する穴あけ工具、および、そのような工具を使用して穴をあける特に請求項18の特徴を有する方法を対象とする請求項に示されている。
【0010】
さらなる実施形態および本発明によるさらなる実施形態は、それぞれの従属請求項から生じる。
【0011】
本発明による特徴および主題の請求可能な組み合わせは、請求項において選択された文言および後方参照に限定されない。むしろ、例えば工具などの請求項のカテゴリの特徴は、例えばプロセスなどの別の請求項のカテゴリでも請求できる。さらに、請求項の任意の特徴は、請求項の1つまたは複数の他の特徴と任意の組み合わせで、それらの後方参照とは無関係に請求項することができる。さらに、明細書または図面に記載または開示された任意の特徴は、それ自体で、それが発生する文脈から独立して、またはそれとは別に、単独で、または請求項に記載または開示された1つまたは複数の他の特徴との任意の組み合わせで請求することができる。
【0012】
請求項1によれば、円筒形の内壁を有する穴を形成するのに適し、かつ、意図されている穴あけ工具であって、(a)穴あけ工具は、穴あけ工具を通って延びる工具軸を中心に所定の回転方向に回転運動で回転可能であると同時に、工具軸に対して軸方向の前進方向に軸方向の前進運動で移動可能であり、(b)穴あけ工具は、前部または自由端にある穴あけ工具の前方に位置するように構成された少なくとも1つのドリル領域を備えるが、好ましくはねじ形成領域を有しておらず、(c)ドリル領域は、回転方向に互いにオフセットして配置されたn(ただし、nはn≧1の自然数)個のドリル切れ刃を有し、(d)n個のドリル切れ刃の少なくとも1つまたはそれぞれに、少なくとも1つのチップブレーカが配置され、このチップブレーカがそれぞれのドリル切れ刃の中断部を形成する、穴あけ工具が提案される。
【0013】
一般に、ドリル領域は、n≧2、すなわち少なくとも2つのドリル切れ刃を有し、それらは、回転方向に互いにオフセットし、特に360°/nのピッチ角で等ピッチに、あるいは異なるピッチ角で不等ピッチに配置される。
【0014】
特に有利な実施形態では、関連するドリル切れ刃から工具軸の軸方向に測定された上記または各チップブレーカの軸方向における深さは、回転方向における直前のドリル切れ刃に対して当該関連するドリル切れ刃の軸方向の送り量の0.5倍から1.1倍の値の範囲から選択され、好ましくは、当該関連するドリル切れ刃の軸方向の送り量と少なくともほぼ等しい。これは、不等ピッチの場合に特に好都合である。
【0015】
さらに有利な実施形態では、工具軸に対して軸方向に測定された上記または各チップブレーカの軸方向の深さは、0.5/nから1.1/nの範囲の値、好ましくは少なくとも約1/nに、1回転あたりの穴あけ工具の軸方向の送り量を乗じたものから選択される。
【0016】
これらの有利な手段により、前記チップブレーカの前記軸方向の深さは、チップの厚さの範囲にあり、チップはそれに応じて完全に分割されるか、少なくとも十分に弱められてから分割される。
【0017】
有利な実施形態では、nのドリル切れ刃のうちの少なくとも2つのドリル切れ刃の工具軸からのチップブレーカの半径方向距離は互いに異なっている、すなわち、工具軸を中心とする所定の回転方向への回転投影において、第1ドリル切れ刃のチップブレーカに後続の第2ドリル切れ刃の切れ刃領域が続き、および/または、2つのドリル切れ刃のうちの一方のドリル切れ刃の工具軸に最も近い最も内側の点におけるチップブレーカの半径方向距離が、2つのドリル切れ刃のうちの他方のドリル切れ刃の工具軸から最も遠い最も外側の点におけるチップブレーカの半径方向距離よりも大きく、および/または、2つのドリル切れ刃のうちいの一方のドリル切れ刃のチップブレーカの外側半径方向距離が、2つのドリル切れ刃のうちの他方のドリル切れ刃のチップブレーカの内側半径方向距離よりも小さくなっている。
【0018】
チップブレーカ、特に関連するドリル切れ刃の中断部の半径方向の幅は、好ましくは、ドリル領域の直径の0.05倍から0.25倍の範囲から選択される。
【0019】
少なくとも1つまたはそれぞれのチップブレーカが、それぞれのドリル切れ刃に中断部を形成するチップブレーカ溝として設計されることは好都合である。
【0020】
一実施形態では、それぞれのチップブレーカの少なくとも1つのチップブレーカ溝は、それぞれのドリル切れ刃から、隣接する自由表面または一連の自由表面まで延びる。チップブレーカ溝の延在部の長さは、特に自由表面の角度または位置によって調整することができる。
【0021】
別の実施形態では、チップブレーカ溝は、それぞれのドリル切れ刃のすくい面に沿って延びてもよい。
【0022】
チップブレーカ溝の延在部は、好ましくは、基本的に直線的なコース、または互いに向かって傾斜した、特に工具軸に向かって傾斜した(または凸状の)一連の少なくとも2つまたは3つの直線的な溝セクションのコースをとる。特に、チップブレーカ溝の直線的な延在部またはその部分は、工具軸を中心とする円の接線方向に延びてもよい。
【0023】
さらに、チップブレーカ溝の延在部は、少なくとも部分的に、好ましくは工具軸に対して凸状に、湾曲してもよい。
【0024】
それぞれのチップブレーカの少なくとも1つまたはそれぞれのチップブレーカ溝は、好ましい実施形態では、実質的に直線的なコース、または互いに傾斜した、特に工具軸に向かって傾斜した一連の少なくとも2つまたは3つの直線的なセクションを有し、チップブレーカ溝またはそのセクションの直線的な延在部は、特にそれぞれの場合において工具軸を中心とする円の接線方向に延在する。チップブレーカ溝はまた、少なくとも部分的に、好ましくは工具軸に対して凸状に、湾曲した形状を有してもよい。
【0025】
少なくとも1つまたはそれぞれのチップブレーカは、好ましくは前方またはドリル切れ刃に向かって開口する、特に45°から90°の間、好ましくは少なくとも約60°の開口角で開口する台形の断面を有することが有用であることがわかった。
【0026】
様々な実施形態において、少なくとも1つのチップブレーカまたはチップブレーカ溝は、任意に延長された直線的な側壁を有する、三角形状または台形状またはアリ形状または長方形状または二重波または特に半円の丸みを帯びた形状の断面を有してもよい。
【0027】
少なくとも1つのチップブレーカをチップブレーカステップとして設計することもできる。
【0028】
一般に、それぞれのドリル切れ刃は、関連するウェブに構成および/または形成され、少なくとも1つの自由表面は、それぞれのウェブ、特にウェブの端面のそれぞれのドリル切れ刃に隣接する。自由表面の自由角度は、好ましくは半径方向外側の3°から15°の間、または5°から15°の間、特に6°または10°の範囲にあり、好ましくは半径方向内側に向かって、特に最大で40°の値まで増加する。自由表面は、特に円錐面であるかまたは円錐面研磨によって形成されるが、平坦または水平であってもよい。
【0029】
好ましくは、穴あけ工具は、ドリルチップを除去するためにドリル領域から始まる少なくとも1つ、好ましくは少なくとも2つのチップ除去溝を備える。
【0030】
チップ除去溝の軸方向長さは、一般的に工具の最大穴あけ深さまたは貫通深さよりも大きいため、チップ除去溝はいつでもワークピース表面よりも上または外側の領域に延び、チップを穴から排出できる。
【0031】
好ましくは、ウェブ(webs)の1つは、2つのチップ除去溝の間を延びる。
【0032】
チップ除去溝および/またはウェブは、好ましくは工具軸を中心に、特に、典型的には、0°から50°、特に20°から35°、例えば30°の間隔で一定または可変のねじれ角でねじれて延在する。
【0033】
有利な実施形態では、少なくとも1つのチップブレーカ溝は、関連するウェブを冷却剤および/または潤滑剤のための出口まで延在し、その出口は好ましくは、関連するウェブ内を延在するチャネルの口に接続されているか、またはその口を形成している。
【0034】
ドリル領域の光軸に対する半径は、好ましくは最大10mmである(すなわちチップブレーカはツイストドリルで通常使用されないサイズである)。
【0035】
すべての実施形態において、それぞれのドリル切れ刃のすくい面は、好ましくは、突出したチップ形成面またはチップ形成段差が設けられないが、特に比較的低い曲率で連続的に延在する。これにより、ドリル領域をよりコンパクトかつ軸方向に短くできる。
【0036】
別の有利な実施形態では、その外周に、特にドリル領域から軸方向にオフセットされたガイド領域が設けられている。ガイド領域は、ドリル領域の外径に対応する、またはドリル領域の外径よりもわずかに、例えば0.5%から2%小さい直径を有している。つまり、ガイド領域は、好ましくは、形成された穴において穴あけ工具自体をガイドする役割を果たす。
【0037】
ガイド領域は、好ましくは、個々のガイドサブ領域にさらに分割され、それぞれがウェブの1つに設けられる。
【0038】
好ましくは、ガイド領域、好ましくは各ウェブの各ガイド部分は、穴あけプロセスにおいてガイド領域に潤滑剤、特に油を供給するために、周方向に延びる少なくとも1つの潤滑溝、好ましくは軸方向に間隔をあけた少なくとも2つの潤滑溝を有する。好ましくは、各潤滑溝は、1回転あたりまたは1ドリル切れ刃あたりの軸方向の送り量に対応するピッチで螺旋に沿って延びる。
【0039】
特別な実施形態では、コーナブレイクは、ドリル切れ刃の外側領域に設けられる。0°から60°、好ましくは15°から30°の範囲の半径方向に対するコーナブレイクのコーナブレイク角を選択することができ、および/または、工具軸に対するコーナブレイクの角度は、0°とねじれ角、特にチップ除去溝のねじれ角との間、好ましくは0°から選択することができる。半径方向に測定されたコーナブレイクのコーナブレイク幅は、好ましくは0.05mmから0.4mmの間である。
【0040】
本発明、特に請求項19による方法は、円筒形の内壁を有する特にねじ山のない穴をあけるために提供される。本発明による穴あけ工具が使用され、それを用いて以下の処理ステップ(それ自体が穴あけ加工の典型的なもの)が実行される。
-穴あけ工具は、穴をあけるとき、穴あけ工具を通って延びる工具軸を中心に所定の前進回転方向に前進回転運動で回転されると同時に、工具軸に対して軸方向の前進方向に軸方向の前進運動で移動される。
-穴あけ工具は、あけられた穴から外に、前進方向とは反対の軸方向後方に移動され、その間、前進回転方向に回転され続ける。
これではねじ山は生成されない。
【0041】
ツイストドリルを用いた既知の穴あけ方法とは対照的に、本発明によれば、穴あけ工具の1回転あたりの前進運動の軸方向の穴あけ送り量fは、1回転あたり少なくとも穴あけ工具のドリル領域の直径の9%、特に直径5.5mmに対して1回転あたり少なくとも0.5mm、および、特に、1回転あたり少なくとも穴あけ工具のドリル領域の直径の15%、特に直径5.5mmに対して1回転あたり少なくとも0.8mmであることが好ましい。そして、1回転(360°)あたりの送り量fに、ピッチ角と360°の比を乗じることで、ドリル切れ刃あたりの送り量fzが得られる。
【0042】
少なくとも穴をあけている間の穴あけ工具の回転速度は、好ましくは、1000rpmから20,000rpmの間の範囲から選択される。穴あけ工具を穴の外に移動させるときの軸方向の速度は、一般的に、軸方向の前進移動中よりも速く、好ましくは少なくとも5倍速い。
【0043】
本発明は、実施形態の例によって以下にさらに説明される。図面も参照される。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【
図2】
図1の穴あけ工具のドリル領域を拡大して示す側面斜視図である。
【
図3】
図1の穴あけ工具のドリル領域とそれに続くガイド領域を拡大して示す側面斜視図である。
【
図4】
図1の穴あけ工具のドリル領域を拡大して示す正面斜視図である。
【
図5】
図1においてB-Bと記された断面による、
図1の穴あけ工具のドリル領域の断面図である。
【
図6】
図1においてC-Cと記された断面による、
図1の穴あけ工具のドリル領域の断面図である。
【
図7】角折れ保護機能を備えた穴あけ工具のドリル領域の正面斜視図である。
【
図8】
図7の穴あけ工具のドリル領域の側面斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
図1~8は、それぞれの場合を模式的に示す。
図1~8において、対応する部分およびサイズは、同じ符号によって示される。
【0046】
穴あけ工具(略して工具ともよぶ)は、符号2で示され、円筒形の穴、特に、止まり穴または貫通穴をあけるために使用され、この目的のために、ドリル領域3が形成されているが、一般的には、ねじ山形成領域は含まれない。あけた穴にねじ山を切る場合、この目的のために別のねじ切り工具を使用して後続のステップを実行することができる。
【0047】
穴あけ工具2は、好ましくは、図示されていない回転駆動装置、特に工作機械および/または工作機械駆動装置または工作機械スピンドルによって、工具軸Aに対して軸方向に延びるまたは形成された工具シャンク24の結合領域が工具軸Aを中心に前進回転方向VDに回転または回転運動することにより、駆動可能である。さらに、工具2は、特に工作機械および/または工作駆動装置または工作機械スピンドルに設けられてもよい軸方向駆動装置によって、工具軸Aに対して軸方向の前進移動VBおよび反対側の軸方向の戻り移動ができる。
【0048】
ドリル領域3は、シャンク24の結合領域から離れた、穴あけ工具2の自由端領域または前端に設けられる。ドリル領域3は、外径またはドリル径d1を有し、図示しないワークピースに内径d1を有する穴をあける。そのドリル先端33で、回転工具2のドリル領域3をワークピースの表面に配置し、穴あけプロセスを開始する。
【0049】
穴あけ工具2は、一方では、穴あけ工具を貫くように延在する工具軸Aを中心に回転可能または回転移動可能であり、他方では、工具軸Aに沿ってまたは軸方向に移動可能または並進移動可能である
【0050】
穴をあけるために、一方では工具軸を中心とする回転運動、他方では工具軸Aに沿った軸方向送り運動で構成された作業動作で、穴あけ工具2をワークピース(不図示)に移動させ、ドリル領域3はチップ除去により穴をあける。工具軸Aは、通常、この穴あけプロセスにおいては穴の中心軸と一致する。
【0051】
穴の底または最大穴あけ深さに達すると、穴あけ工具2は、作業動作の前進方向とは反対の軸方向後方への戻り運動で、あけられた穴の外に移動される。戻り動作中、または穴あけ工具を穴の外に移動するとき、一般に、穴あけ中の作業動作よりも著しく高い軸方向速度が選択され、例えば5倍から50倍の軸方向速度が選択される。穴あけ工具は、戻り動作中も回転し続け、回転の方向または穴あけ工具の回転方向は、作業動作と比べて戻り動作中も変化しない、すなわち前進回転方向に対応する。
【0052】
穴あけ中の回転速度Nは、一般的に、1,000rpm(回毎分)から20,000rpmの間で選択され、通常は工作機械やワークピース、または穴あけ工具の直径に応じて、例えば、30m/minから300m/minの外径上の接線方向の周速度が達成されるような方法で選択される。穴から引き抜くときは、より低い速度を選択することができるが、一般的には維持される。
【0053】
本発明による穴あけ工具2は、特に、高い軸方向の穴あけの送り量fに適しており、意図している。
【0054】
好ましい実施形態では、穴あけ(ドリル送り)中の軸方向の送り移動中の穴あけ工具の軸方向送り量fは、直径d1=5.5mmに対して1回転あたり少なくとも0.5mm、好ましくは少なくとも0.8mm(一般的には直径d1のお9%または15%)になるように選択され、一般性を制限することなく、1回転あたり最大1.5mm、さらには最大2mmに達することができる。穴あけの送り量fは、穴あけ工具2のドリル領域3の直径d1に適合させることができ、これにより、直径d1が大きいほど、穴あけ送り量fも、一般に、大きくなるように選択される又はされうる。
【0055】
既知のツイストドリルと比較して、このように著しく高い穴あけ送り量は、本発明による穴あけ工具の特別な設計によって可能となるが、これについては、例示的な実施形態によって以下にさらに説明する。
【0056】
図示された例示的な実施形態では、ドリル領域3は2つの正面ドリル(メイン)切れ刃31および32を備え、これらは、特に斜めまたは円錐状または所定の曲率に構成され、特にドリル先端33に向かって先細りする円錐形で、および/または、ドリル先端33を介して2つのドリル切れ刃31および32を接続する横方向切れ刃34を介して、軸方向前方に延在し、ドリル先端33に向かってまたはドリル先端33で収束する。これらの正面のドリル切れ刃31および32は、図示の実施の形態では直角切断で、前進回転方向VDに切削し、前進回転方向VDへの回転移動と同時の前進移動VBの間のチップ除去方法で、穴あけ工具2の前方に軸方向に横たわるワークピース6から材料を除去するように設計されている。図示されていない実施形態では、ドリル先端33をセンタリングチップとして設計することもできる。
【0057】
さらに、工具2には、ドリル領域3から始まりシャンク24に続く、複数のチップ除去溝25が設けられている。複数のチップ除去溝25の間に、ウェブ(またはリッジ)35および36が配置され、形成されている。第1ドリル切れ刃31は、第1ドリルウェブ35に形成され、第2ドリル切れ刃32は、第2ドリルウェブ36に形成されており、いずれもそれぞれのウェブ35または36の正面領域または端面に形成されている。
【0058】
好ましくは、複数のチップ除去溝25およびそれらの間のウェブ35および36は、典型的には0°から50°、特に20°から35°の間、例えば30°である、一定または変化するねじれ角で工具軸Aの周りをねじれて延在するが、工具軸Aに平行または軸方向に延在してもよい。チップ除去溝25の軸方向の長さは、好ましくは、工具2の最大穴あけ深さまたは最大貫通深さよりも大きくなるように選択され、すなわち、チップ除去溝25はワークピース表面よりも上または外側の領域に延びる。これは、プロセスのすべての段階で、発生したチップが、チップ除去溝25を通って、ワークピースに形成された穴から外に導かれることを意味する。
【0059】
ドリル切れ刃31または32のそれぞれにおいて、関連するチップ除去溝25は関連するすくい面を形成する。ドリル切れ刃31および32のすくい面のすくい角は、好ましくは-10°から+45°の範囲で選択され、それにより、好ましくはすくい角は、工具軸に対して内側から外側に向かって増加し、-10°から+10°の範囲では工具軸により近く、特に15°から45°では外側の範囲に位置し、好ましくは、ねじれたチップ除去溝25のねじれ角に対応する。
【0060】
すくい面または関連するチップ除去溝25とは反対側に面する切れ刃31または32の裏面には、それぞれ、関連するドリルウェブ35または36の正面に配置された自由表面63または64がある。
【0061】
自由表面63および64の自由角度、すなわち、自由表面と、ドリル切れ刃を通って工具軸Aに垂直に延びる横断面との間の角度は、一般に、好ましくは高い軸方向送り量fにもかかわらず、これらの自由表面によって形成されるドリルウェブ35および36の端面のワークピース2での摩擦が回避されるように選択される。ある半径rにおける最小の自由角度は、式arctan(1回転当たりの軸方向送り量/(2rπ))、すなわちここではarctan(f/(4rπ))にしたがって近似的に計算することができ、すなわち外側から内側に向かって増加する。しかしながら、確実に摩擦を防ぐためには、通常、より大きな自由角度が選択される。
【0062】
ドリル切れ刃31および32に隣接する第1自由表面63および64の自由角度は、好ましくは、5°から15°の間、特に10°の半径方向外側の範囲で選択され、半径方向内側に向かって増加し、特にドリル先端33のルーフ角度(roof angle)まで増加する。これにより、安定したドリル切れ刃31または32が確保される。自由表面63および64は、特に円錐面形状であってもよく、または円錐面研磨によって形成されてもよく、または平坦であってもよい。
【0063】
自由表面63および64はそれぞれ、回転方向においてそれらの背後に形成された、関連するウェブ35または36の端部の凹部61および62によって比較的狭く保たれており、その結果、それらは、特に、いずれの場合も工具軸Aの周りの最大12°の角度セグメント内に位置するようになっている。凹部61および62は、自由表面63および64よりも大きい自由角度を有する、自由表面63および64にそれぞれ隣接するさらなる自由表面を形成する。しかしながら、図示されていない実施形態では、さらに好ましくは、自由表面63または64の真後ろで、凹部61または62の正面に、自由表面63または64よりも大きな自由角度、例えば20°から40°、特に30°を有する平坦な自由表面が設けられてもよい。
【0064】
凹部61および62のそれぞれにおいて、冷却剤および/または潤滑剤を供給するための流体チャネルの、例えば断面が円形または凸状の出口67または68は、それぞれのウェブ35または36を通っており、ウェブ35または36と同様に、軸方向に延在してもよいし、ねじれて延在してもよい。
【0065】
本発明によれば、穴あけ工具のドリル切れ刃にチップブレーカが設けられ、ドリル切れ刃が発生させたチップを分割してより幅狭にすることで、特に帯状チップが発生する。これらのチップは、高い送り量とおそらく材料のもろさのために、除去中に破壊されると推測されるが、いずれにせよ、チップで予想されるプロセス上の問題は、調査では観察されなかった。
【0066】
第1チップブレーカ11は、第1ドリル切れ刃31に配置され、第2チップブレーカ12は、第2ドリル切れ刃32に配置される。
【0067】
しかしながら、すべてのドリル切れ刃にチップブレーカを設ける必要はなく、および/または1つのドリル切れ刃に複数のチップブレーカを設けてもよい。
【0068】
チップブレーカ11または12は、それぞれのドリル切れ刃31または32の中断部21または22を形成する。図示の実施形態では、チップブレーカ11または12は、関連するドリル切れ刃31および32を、工具軸Aに向かう内側領域の内側部分ドリル切れ刃31Aまたは32Aと、工具軸Aから離れた外側領域の外側ドリル部分切れ刃31Bまたは32Bとにそれぞれ分割または分離する。
【0069】
第1チップブレーカ11の工具軸Aからの半径方向距離r1は、第2チップブレーカ12の半径方向距離r2とは異なるように選択される。半径方向距離r1およびr2は、好ましくは、工具2の回転方向と反対の回転投影において直接隣接するチップブレーカ11および12の間に重なりがないように、すなわち、それらは依然としていくらか半径方向に離間するように選択される。その結果、或る切れ刃のチップブレーカの背後の回転投影には、次の切れ刃の切れ刃が存在し、したがって、チップは異なって分割され、長さが制限される。さらに、穴の底が傷つくのも回避される。
【0070】
チップブレーカ11の中断部21の半径方向の幅b1と、チップブレーカ12の中断部22の半径方向の幅b2は、好ましくは等しくなるように選択され、および/または、好ましくは、さらに内側のチップブレーカ12の外側半径方向距離r3=r2+b2が他のチップブレーカ11の内側半径方向距離r1よりも小さくなるように選択され、それによって、回転投影における中断部21および22の重なりが回避される。
【0071】
好ましい値は、半径方向の幅b1およびb2については0.05d1から0.25d1の範囲、半径方向距離r1については0.05d1から0.25d1の範囲、半径方向距離r2については0.25d1から0.4d1の範囲で選択される。
【0072】
好ましい実施形態では、チップブレーカ11および12は、ドリルウェブ35および36の端面において、それぞれのドリル切れ刃31または32からその背後の自由表面63または64に延びるチップブレーカ溝として形成されており、原則として、凹部61および62にも延びて開口している。
【0073】
チップブレーカ溝またはチップブレーカ11および12の長さは、それぞれl1およびl2で示され、互いに等しく選択することができ、および/または、特に、自由表面63および64の自由角度または位置、ならびに、凹部61および62の位置および深さを変化させることによっても、変えられる。
【0074】
所与の深さt1またはt2に対して、チップブレーカ11および12のチップブレーカ溝の長さl1またはl2は、特に、自由表面63または64がどのように傾斜しているか、すなわちどの自由角度が選択されているかによって調整することができる。より急な配向またはより大きな自由角度では、チップブレーカ溝の長さは短くなり、より小さな自由角度またはより急でない自由表面の配向では、チップブレーカ溝の長さはより長くなる。自由表面63および64およびそれらの比較的大きな自由角度、ならびに凹部61および62は、チップブレーカ溝の後縁がワークピースに擦れないようにする。
【0075】
好ましくは、チップブレーカまたはチップブレーカ溝の長さまたは延在部は、冷却剤および/または潤滑剤の出口、特にドリルウェブ35および36にそれぞれ設けられた出口67および68に可能な限り近くまで延びるように選択される。これにより、冷却剤および/または潤滑剤がチップブレーカの溝を通ってドリル切れ刃に導かれる。
【0076】
一方ではチップブレーカ11および12のチップブレーカ溝の半径方向距離r1およびr2に、他方では出口67および68の半径方向距離および断面に応じて、チップブレーカ溝は、
図4のチップブレーカ溝11に示されるように、出口の近傍までしか延びていないか、あるいは、
図4のチップブレーカ溝11および出口67に示されるように、出口に直接にまたは出口を通って延びることさえ可能である。出口の近傍に配置されていても、外部からまたは外側の側面を介して既に切れ刃に到達している冷却剤および/または潤滑剤に加えて、冷却剤および/または潤滑剤のかなりの部分はチップブレーカ溝を通って切れ刃に到達し、そこで冷却または潤滑の効果を発揮することができる。
【0077】
切れ刃から逃げ面またはすくい面へのチップブレーカ溝の延在部は、全く異なる形状および長さであり得る。
【0078】
例えば、
図4に示すように、砥石で簡単に製造できるという利点を有する直線の延在部を選択することができ、これにより、直線の延在部は、工具軸Aを中心とする円の接線方向、または、接線方向に対して斜め方向にすることもでき、長さl1またはl2は直線の延在部に沿って測定される。
【0079】
さらに、チップブレーカ溝の延在部は曲がったコースでもあり得る。例えば、工具軸Aを中心とした円に沿ったコースや、その他の曲線を選択することができる。曲がったコースの長さは、特に円弧の長さとして決定される。
【0080】
図示されていない実施形態では、チップブレーカ溝の少なくとも1つ、またはチップブレーカ溝のそれぞれは、特に互いに傾斜しているか、または互いに角度をつけて配置されている2つ、3つ、またはそれ以上の、特に直線の、連続したセクションの形で、ドリル切れ刃から逃げ面またはすくい面にも延びることができる。チップブレーカ溝のそれぞれのセクションの直線的な延在部は、工具軸Aを中心とした円の接線方向、または接線方向に対して斜めにすることができる。これにより、チップブレーカ溝は、円周に沿って、または、特に工具軸Aを中心とした湾曲、特に円形の湾曲に沿って、部分多角形のようにコースを近似することができる。各直線部は、好ましくは、砥石の直線運動によって形成することができる。さらに、連続した直線部および曲線部を有するチップブレーカ溝を設けることもできる。
【0081】
中断部21または22から工具軸Aの軸方向に測定したチップ分割溝11および12の軸方向深さt1およびt2は、広い範囲で選択でき、互いに等しいことが好ましい。
【0082】
特に有利な実施形態では、チップブレーカ11および12のチップブレーカ溝の軸方向深さt1およびt2は、特にドリル切れ刃が均等に配置されている場合やピッチ角が等しい場合には、穴あけ工具の軸方向送り量(軸方向の穴あけ送り量)fのちょうど半分または約半分の範囲に設定される。一般に、ドリル切れ刃の数がnの場合、ドリル切れ刃におけるチップブレーカの軸方向の深さは、基本的に、f×0.5/nからf×1.1/nの範囲、特にf×0.8/nからf×1/nの範囲、好ましくはf/nである。
【0083】
あるいは、各チップブレーカの軸方向の深さは、回転方向における直前のドリル切れ刃に対して、関連するドリル切れ刃の軸方向送り量fzの0.5倍から1.1倍の範囲に設定される。好ましくは、チップブレーカの軸方向の深さは、ドリル切れ刃あたりのこの軸方向送り量fzに、少なくともほぼ等しい。これは、ピッチが等しくない場合、つまりドリル切れ刃互いに同じピッチ角で配置されていない場合に特に有効である。
【0084】
これらの実施形態では、チップブレーカの軸方向の深さは、チップを完全に分割できるように、または少なくとも十分に弱くして容易に成形または破壊できるように、をチップの厚さの範囲に設定される。
【0085】
チップブレーカ溝またはチップブレーカ11および12はまた、好ましくは、特に軸方向の自由角度および/または半径方向の自由角度、好ましくは0°から20°の範囲、特に14°の自由角度を有し、これは軸方向の深さにも影響を与える。
【0086】
チップブレーカ溝の断面だけでなく、位置、形状および長さは、所望のチップピッチなどの機能やパラメータに応じて、広い範囲で選択することができる。このようにして、チップの形成は、引き裂きと圧縮で異なる形の影響を受ける可能性があり、摩擦もプラスに作用することがある。
【0087】
好ましい実施形態では、チップブレーカ11および12のチップブレーカ溝は、少なくともドリル切れ刃31または32において、特に全体的に、台形の形の断面を有しており、この台形は、特に45°から90°の範囲から選択された、好ましくは約60°の開口角φで、端面に向かってまたは前進方向に開口している。この設計は、送り方向の自由な動きに関して有利であることが証明されている。
【0088】
しかしながら、チップブレーカ11および12のチップブレーカ溝の断面をアリ形状にして、アンダーカットの台形状にすることも可能であり、また、チップブレーカ11および12のチップブレーカ溝の断面は矩形状であってもよく、また、三角形状であってもよく、また、少なくとも部分的に凸状に湾曲した断面や丸い断面であってもよく、またフライスカッタの荒削りの歯に相当する断面であってもよい
【0089】
好ましい実施形態では、穴あけ工具2は、その外周部に、ドリル領域3から軸方向に後退し、本質的に円筒形の表面に沿って形成され、および/またはドリル領域3の外径d1に対応するまたは例えば0.5%から2%わずかに小さい直径を有する、ガイド領域4を有する。このようにして、このガイド領域4は、形成された穴において穴あけ工具2を自己ガイドする役割を果たし、高い穴あけの送り量とそれに伴う高い変形力のために生じうる工具の変位を防止または低減する。ガイド領域4は、ウェブ35および36のそれぞれに1つずつの個々のガイドサブ領域に分割され、これらはチップ除去溝25によって互いに分離されている。
【0090】
穴の内壁でのガイド領域4の摺動による摩擦熱を低減するために、ガイド領域4は、ウェブ35および36のそれぞれの各ガイド領域に、少なくとも1つの周方向に延びる潤滑溝、図示の例示的な実施形態では軸方向に間隔をあけた2つの潤滑溝41および42を有する。各潤滑溝は、特に、軸方向送り量fまたはfzから生じるピッチ角で螺旋に沿って、すなわち、1回転当たりの軸方向送り量fまたはドリル切れ刃あたりの軸方向送り量fzをピッチとする螺旋に沿って、延在してもよい。潤滑溝のピッチフリーのコースを含む別のコースも可能である。
【0091】
潤滑溝41および42を通して、ガイド領域4は、穴あけプロセス中に供給される潤滑剤、特に油で、特に流体潤滑膜を形成することによって、十分に潤滑され、それにより、互いに摺動する穴あけ工具2のガイド領域4の表面とワークピースの穴の内壁との間の摩擦熱が大幅に低減される。特に、潤滑剤は、チップ除去溝25から潤滑溝41および42を通ってガイド領域4の外周面に至る。
【0092】
ガイド領域の代わりに、またはガイド領域に加えて、外周切れ刃またはシース切れ刃(sheath cutting edges)を設けることもでき、これらの切れ刃は、外側で工具軸Aに半径方向に隣接するワークピース6の領域から材料を除去することによって、穴のシース壁(sheath wall)を機械加工または準備する。これらの外周切れ刃は、穴のケーシング壁(casing wall)の十分な表面仕上げを達成するのにも役立ち、特に、穴の直径の半分に相当する工具軸Aから半径方向距離d1/2において、工具軸Aに対して主に平行または(摩擦を減らすために)わずかに後方に傾斜して延びる。ガイド領域、または周方向または横方向の切れ刃は、正面のドリル切れ刃に直接に隣接して形成および/構成されることができ、またはそれらから軸方向にわずかにオフセットすることもできる。
【0093】
ドリル切れ刃31および32は、一般的に少なくとも大部分が直線状であるが、少なくとも部分的に湾曲したコース、特に前進回転方向VDに凸状に湾曲したコースを有することもできる。
【0094】
図示されたドリル領域3のドリル切れ刃31および32は、特に、工具軸Aを含む軸方向に延びる中心面の反対側に位置する。2つのドリル切れ刃31および32は、例えば、もちろん異なる配置のチップブレーカ11または12を除いて、本質的に180°の回転角の回転対称、または工具軸Aに対して点対称に構成および形成される。
【0095】
図示されていない実施形態では、1つのドリル切れ刃のみ、または2つ以上、例えば3つまたは4つまたは5つまたは6つのドリル切れ刃、すなわち一般的にn≧1のドリル切れ刃があってもよい。
【0096】
ドリル切れ刃31および32は、横方向切れ刃34などの横方向切れ刃を介して、中心工具軸Aに位置するドリル先端33に向かって延在しうる。中心部または横方向切れ刃の領域では、すくい角と自由角が互いに近づく。工具軸Aに対する2つのドリル切れ刃31および32の傾斜角度は、好ましくは同じであり、例えば90°から135°の間、特に120°とすることができる。
【0097】
穴あけ工具または少なくともドリル領域3は、特に、硬質金属またはHSSEまたはPCDで作られ、および/または、摺動層としてダイヤモンド(炭素のようなダイヤモンド)でコーティングすることができる。チップ除去溝は、特にチップ表面で、少なくとも部分的に滑らかに研磨されうる。穴あけ工具は、少なくとも部分的に付加製造法で製造されうる。ドリル切れ刃には、エッジに丸みを付けることができる。
【0098】
切れ刃の外側領域にある切れ刃コーナを保護し、ひいては耐用年数の向上と摩耗の低減を図るために、
図7および8による例示的な実施形態では、コーナブレイク70が装着または設けられている。コーナブレイク70の半径方向に対するコーナブレイク角βは、0°から60°の範囲にあり、好ましくは15°から30°の範囲にある。半径方向に測定されたコーナブレイク70のコーナブレイク幅eは、好ましくは0.05mmから0.4mmの範囲にある。コーナブレイク70は、好ましくは軸方向に研磨され、好ましくはねじれに追従しない。したがって、軸方向または工具軸Aに対する角度は、0°が好ましい。0°とねじれ角、特にチップ除去溝25のねじれ角との間の工具軸Aに対する角度が一般的に可能である。
【符号の説明】
【0099】
2 穴あけ工具
3 ドリル領域
4 ガイド領域
7 チップ領域
11,12 チップブレーカ
11A,11B チップブレーカ溝
12A,12B チップブレーカ溝
20 ワーク領域
21,22 中断部
24 シャフト
25 チップ除去溝
31,32 ドリル切れ刃
31A,31B 部分ドリル切れ刃
32A,32B 部分ドリル切れ刃
33 ドリル先端
34 横方向切れ
35,36 ドリルウェブ
41,42 潤滑溝
61,62 凹部
63,64 自由表面
67,68 出口
70 コーナブレイク
A 工具軸
b1,b2 (チップブレーカの)幅
d1,d2 直径
e コーナブレイク幅
f 軸方向送り量
l1,l2 (チップブレーカの)長さ
t1,t2 (チップブレーカの)軸方向深さ
VB 前進移動
VD 回転方向
φ 開口角
β コーナブレイク角
【外国語明細書】