(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022031174
(43)【公開日】2022-02-18
(54)【発明の名称】廃プラスチックと炭化水素原料との共変換プロセス
(51)【国際特許分類】
C10G 1/10 20060101AFI20220210BHJP
C08J 11/18 20060101ALI20220210BHJP
【FI】
C10G1/10
C08J11/18
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021124021
(22)【出願日】2021-07-29
(31)【優先権主張番号】202021033558
(32)【優先日】2020-08-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(71)【出願人】
【識別番号】518386656
【氏名又は名称】インディアン オイル コーポレイション リミテッド
【氏名又は名称原語表記】INDIAN OIL CORPORATION LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】特許業務法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】プラディープ,ポノリー,ラマチャンドラン
(72)【発明者】
【氏名】モンダル,プランティック
(72)【発明者】
【氏名】ディキシット,シヴァム アショク
(72)【発明者】
【氏名】サルーヤ,シーカ
(72)【発明者】
【氏名】シン,シャクティ
(72)【発明者】
【氏名】プラサド,テラパーリ ハリ ヴェンカタ デヴィ
(72)【発明者】
【氏名】ダス,サティエン クマール
(72)【発明者】
【氏名】サウ,マドゥスダン
(72)【発明者】
【氏名】カプール,グルプリート シン
(72)【発明者】
【氏名】ラマクマール,サンカラ スリ ヴェンカタ
【テーマコード(参考)】
4F401
4H129
【Fターム(参考)】
4F401AA09
4F401AA10
4F401AA11
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4H129NA37
4H129NA43
(57)【要約】 (修正有)
【課題】廃プラスチックを石油原料とともに接触分解装置、特に石油精製所で使用される流動接触分解装置で変換するプロセスを提供する。また、炭化水素の接触分解とともに廃プラスチックを燃料に変換することを可能にする方法およびハードウェアシステムを提供する。
【解決手段】本発明の方法は、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、金属を含むポリエチレン-ポリプロピレンの多層プラスチック、その他の金属を含むプラスチックなどのあらゆる種類の廃プラスチックと、減圧軽油、還元原油、減圧残渣などの石油由来の原料とを、接触分解装置で共処理する方法である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチックと炭化水素とを軽質留分生成物に共変換する方法であって、
a)噴射ノズル(31)によってライザー反応器(32)の底部に炭化水素供給物(30)をスプレー供給するステップと、
b)高温の再生触媒を再生容器(45)からライザー反応器の底部に供給し、炭化水素供給物との接触を可能にするステップと、
c)ライザー反応器(32)の底部にリフト流動化媒体(33)を供給するステップと、
d)廃プラスチックを供給容器からライザーの底部に移送し、廃プラスチックがライザー反応器内を上昇する間に触媒粒子と接触させることにより、プラスチック材料をより軽い分子に熱分解するとともに、それを接触分解することを可能にするステップと、
e)ライザー終端装置を用いて、触媒と生成物蒸気(42)とを分離するステップと、
f)ストリッパー容器(18)内でスチームストリッピングによって触媒から炭化水素分子を分離するステップと、および
g)生成物蒸気(22)を、分留カラムによってナフサ、軽質サイクル油、重質サイクル油、クラリファイド重油などの異なる生成物留分に分離するステップと、
を含む方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、廃プラスチックを必要に応じて、洗浄、乾燥、押し出し、ペレット化などを含むステップによって前処理する方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法であって、容器内の廃プラスチックが必要に応じて流動状態である方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法であって、廃プラスチックは、金属が添加された多層プラスチックを含むポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、PET、またはこれらの組み合わせからなる群から選択される方法。
【請求項5】
請求項1に記載のプロセスであって、廃プラスチックの物理的形態は、顆粒、粉末、粉砕された塊、スラリー、溶融物、またはこれらの組み合わせからなる群から選択されるプロセス。
【請求項6】
請求項1に記載のプロセスであって、炭化水素原料の流量に対する触媒の比が3~25、好ましくは5~20であるプロセス。
【請求項7】
請求項1に記載のプロセスであって、廃プラスチックが、全原料の混合物(炭化水素および廃プラスチック)の0.1~15重量%、好ましくは0.5~5重量%であるプロセス。
【請求項8】
請求項1に記載のプロセスであって、ライザー反応器を、490℃~680℃、好ましくは500℃~570℃の温度範囲で、かつ、0.9~2Kg/cm2(g)、好ましくは1.0~1.5Kg/cm2(g)の圧力範囲で稼働させるプロセス。
【請求項9】
請求項1に記載のプロセスであって、触媒系は、超安定Y-ゼオライトを1~7重量%、ペンタシルゼオライトを7~25重量%、基部選択的な活性物質を0~10重量%、希土類成分を0~1重量%、および結合剤を有する残りの非酸性成分を含むプロセス。
【請求項10】
廃プラスチックと炭化水素とを軽質留分生成物に共変換するためのシステムであって、
(i)廃プラスチックをライザー反応器(32)の底部に供給するための廃プラスチック供給容器(34)と、
(ii)廃プラスチック供給容器(34)から廃プラスチックを受け取り、噴射ノズルを通して炭化水素供給物を受け取って、それらを高温の再生触媒と接触させるためのライザー反応器(32)と、
(iii)高温の再生触媒をライザー反応器(32)に供給するための再生容器(45)と、
(iv)スチームストリッピングによって触媒から炭化水素分子を分離するためのストリッパー容器(41)と、および
(v)生成物蒸気(42)をナフサ、軽質サイクル油、重質サイクル油、クラリファイド重油に分離するための分留カラムと、
を含むシステム。
【請求項11】
請求項10に記載のシステムであって、廃プラスチック供給容器(34)が、圧力制御弁(40)によって、1~2.5Kg/cm2(g)の範囲の制御された圧力下に保持されているシステム。
【請求項12】
請求項10に記載のシステムであって、廃プラスチック供給容器(34)が、ガス供給リング(36)によるガス噴射のためのガス設備を備えているシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃プラスチックを石油原料とともに接触分解装置、特に石油精製所で使用される流動接触分解装置で変換するプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
廃プラスチックの処理問題は、世界中で深刻な問題となっており、特にインドでは、毎日26000トンもの廃プラスチックが発生している。埋め立てなどの廃棄方法は、地下水の汚染や土地の利用形態などの問題があり、プラスチックの焼却は、大気汚染を引き起こし、動植物の健康を阻害する。公共の場の清潔さや、廃棄物の分別に関する人々の意識が高まるにつれ、インドでは廃プラスチックを他の廃棄物と分別して回収することができるようになってきた。特に、金属を含むポリエチレンやポリプロピレンの多層プラスチックフィルムについては、効果的なリサイクルや処理の選択肢がない。廃プラスチックを処理して炭化水素燃料を生成するため、従来から種々の取り組みがなされてきた。
【0003】
米国特許第5364995号には、所望の温度に加熱した不活性な固体粒状物質の流動床において、廃プラスチックを低級炭化水素に変換するプロセスが記載されている。また、プロセスの安全性を向上させるために、酸性ガスの捕獲にアルカリ性固体を使用するオプションも提供されている。
【0004】
米国特許第6534689号には、連続循環式流動床を用いたダウンフロー型の流動床反応器において、細断された廃プラスチックを接触熱分解するプロセスが記載されている。廃プラスチックの熱分解に必要な熱を供給するために、装置内で不活性粒子を循環させている。熱分解生成物をクエンチして液体を回収し、再利用している。
【0005】
米国特許第8350104号には、外部から加熱された円筒形の横型の反応器を用いて廃プラスチックを接触分解する方法および装置が記載されている。廃プラスチックを、反応器内で350~500℃の反応温度域で分解触媒と混合する。反応生成物は凝縮され、回収される。
【0006】
先行技術のプロセスは、複数の技術を用いた廃プラスチックの変換に焦点を当てており、廃プラスチックがこれらのプロセスの単一の原料である。また、独立型の廃プラスチックの変換装置を設置するには、装置から排出される生成物の処理施設が必要であるため、小規模で設置するには経済的ではないという欠点がある。その結果、独立型の廃プラスチックの変換プロセスによって生成された生成物の一部は、市場で求められる生成物の規格を満たさない。この問題は、分子組成や不純物のレベルなどの点で、廃プラスチックの品質が大きく異なることが原因で悪化している。したがって、石油精製所の既存の処理装置と統合することができる、廃プラスチックを燃料に変換するプロセスを得ることが非常に望ましく、時の要請であると我々は確信している。このプロセスにおいて、廃プラスチックを変換した生成物を通常の石油精製の生成物と混合して、処理装置で効果的な生成物処理を行うことができる。従来の技術では、このような現実的な問題に対処するための、石油精製所内で廃プラスチックを燃料に変換する効率的かつ効果的なプロセスを提供するものはなかった。
【0007】
一方、興味深いことに、減圧軽油の範囲の重質炭化水素原料をより軽質な炭化水素に接触分解するために石油精製所で採用されている、重要な処理装置の1つである流動接触分解装置では、装置をより高いシビアリティおよびより高いコークス収率で稼働させながら、高温で再生器を稼働させるにあたって直面するボトルネックがあることが確認されている。この問題は主に、重質原料の処理中に発生する過剰なコークスを燃焼させる際に再生器で発生する過剰な熱に起因する。ライザー出口の温度の設定点によって再生容器から引き出される再生触媒の流量が制御されるため、再生器内の過剰な熱は、ライザー反応器へ流入する高温の再生触媒を減少させる結果となる。流動接触分解装置を高いシビアリティで稼働させたい場合は、再生器に「触媒冷却器」を設置して、過剰な熱を除去することが望ましい。このように、流動接触分解における熱管理の問題に対処すると同時に、石油精製所内において廃プラスチックを燃料に効率的に変換できるプロセスが所望されている。
【0008】
本発明の目的:
本発明の第一の目的は、原油精製プロセスで発生する石油残渣を、価値のある軽質留分生成物に接触分解するのに用いる接触分解のプロセスを提供することである。
【0009】
本発明の主な目的は、金属を含有する多層プラスチックを含む廃プラスチックを、石油由来の原料と共に、流動接触分解装置において価値のある軽質留分生成物に共変換するプロセスを提供することである。
【0010】
本発明の他の目的は、廃プラスチックを直接FCCに供給するための特有のプロセス・ハードウェア方式を提供することである。
【0011】
本発明のさらに他の目的は、廃プラスチックの接触変換の反応生成物を、炭化水素の接触分解で生成した生成物と共に処理できるようにし、生成物の品質を確保することである。
【0012】
本発明の他の目的は、高温の再生触媒の過剰な熱エネルギーを高いシビアリティのFCC装置で利用して、廃プラスチックの熱分解および接触分解を可能にして、軽質オレフィン、LPG、ガソリンなどの価値のある軽質炭化水素に変換することである。
【発明の概要】
【0013】
本発明においては、接触分解装置による廃プラスチックと炭化水素原料との相乗的な共変換が開示されている。
【0014】
本発明の好ましい態様において、プラスチックと炭化水素とを軽質留分生成物に共変換する方法が開示されている。当該方法は、以下のステップを含む。
a)噴射ノズル(31)によってライザー反応器(32)の底部に炭化水素供給物(30)をスプレー供給するステップと、
b)高温の再生触媒を再生容器(45)からライザー反応器の底部に供給し、炭化水素供給物との接触を可能にするステップと、
c)ライザー反応器(32)の底部にリフト流動化媒体(33)を供給するステップと、
d)廃プラスチックを供給容器からライザーの底部に移送し、廃プラスチックがライザー反応器内を上昇する間に触媒粒子と接触させることにより、プラスチック材料をより軽い分子に熱分解するとともに、それを接触分解することを可能にするステップと、
e)ライザー終端装置を用いて、触媒と生成物蒸気(42)とを分離するステップと、
f)ストリッパー容器(18)内でスチームストリッピングによって触媒から炭化水素分子を分離するステップと、および
g)生成物蒸気(22)を、分留カラムによってナフサ、軽質サイクル油、重質サイクル油、クラリファイド重油などの異なる生成物留分に分離するステップ。
【0015】
本発明の他の態様においては、プラスチックと炭化水素を軽質留分生成物に共変換する方法が開示されており、廃プラスチックを必要に応じて、洗浄、乾燥、押し出し、ペレット化などを含むステップによって任意に前処理し、容器内の廃プラスチックが必要に応じて流動状態である。
【0016】
本発明の他の態様においては、プラスチックと炭化水素を軽質留分生成物に共変換する方法が開示されており、廃プラスチックは、金属が添加された多層プラスチックを含むポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、PET、またはこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0017】
本発明の他の態様においては、プラスチックと炭化水素を軽質留分生成物に共変換する方法が開示されており、廃プラスチックの物理的形態は、顆粒、粉末、粉砕された塊、スラリー、溶融物、またはこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0018】
本発明の他の態様においては、プラスチックと炭化水素を軽質留分生成物に共変換する方法が開示されており、炭化水素原料の流量に対する触媒の比が3~25、好ましくは5~20である。
【0019】
本発明の他の態様においては、プラスチックと炭化水素を軽質留分生成物に共変換する方法が開示されており、廃プラスチックが、全原料の混合物(炭化水素および廃プラスチック)の0.1~15重量%、好ましくは0.5~5重量%である。
【0020】
本発明の他の態様においては、プラスチックと炭化水素を軽質留分製品に共変換する方法が開示されており、ライザー反応器を、490~680℃、好ましくは500~570℃の温度範囲で、かつ、0.9~2K/cm2(g)、好ましくは1.0~1.5Kg/cm2(g)の圧力範囲で稼働させる。
【0021】
本発明の他の態様においては、プラスチックと炭化水素を軽質留分製品に共変換する方法が開示されており、触媒系は、超安定Y-ゼオライトを1~7重量%、ペンタシルゼオライトを7~25重量%、基部選択的な活性物質(Bottom selective active material)を0~10重量%、希土類成分を0~1重量%、および結合剤を有する残りの非酸性成分を含む。
【0022】
本発明の他の好ましい態様においては、廃プラスチックと炭化水素とを軽質留分製品に共変換するためのシステムが開示されており、当該システムは、以下のものを含む。
(i)廃プラスチックをライザー反応器(32)の底部に供給するための廃プラスチック供給容器(34)と、
(ii)廃プラスチック供給容器(34)から廃プラスチックを受け取り、噴射ノズル(31)を通して炭化水素供給物を受け取って、それらを高温の再生触媒と接触させるためのライザー反応器(32)と、
(iii)高温の再生触媒をライザー反応器(32)に供給するための再生容器(45)と、
(iv)スチームストリッピングによって触媒から炭化水素分子を分離するためのストリッパー容器(41)と、および
(v)生成物蒸気(42)をナフサ、軽質サイクル油、重質サイクル油、クラリファイド重油などに分離するフラクテーターカラム。
【0023】
他の好ましい態様においては、プラスチックと炭化水素を軽質留分製品に共変換する方法であって、廃プラスチック供給容器(34)が、圧力制御弁(40)によって、1~2.5Kg/cm2(g)の範囲の制御された圧力下に保持されている。
【0024】
他の好ましい態様においては、廃プラスチック供給容器(34)が、ガス供給リング(36)によるガス噴射のためのガス設備を備えている。
【図面の簡単な説明】
【0025】
本発明の利点および態様をさらに明確にするために、添付図面に示す具体的な実施形態を参照して、本発明をより詳細に説明する。本発明の図面は、本発明の典型的な実施形態のみを示しており、したがって、本発明の範囲を限定するものではないことを理解されたい。
【0026】
【
図2】
図2は、本発明のプロセスの実施形態の模式図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
主な実施形態によると、本発明は、金属を含有するポリエチレン-ポリプロピレン多層プラスチックを含む、価値の低いプラスチック廃棄物を、接触分解装置において石油系の炭化水素原料と共に共処理することにより、より価値の高い軽質留分生成物に変換するプロセスを開示している。
【0028】
実施形態の一つにおいて、本発明は、廃プラスチックを直接FCCに供給する特有のプロセス・ハードウェア方式を開示している。粉砕した廃プラスチック材料は廃プラスチック供給容器に充填され、ここで流動状態に保たれ、空圧運搬機構によってFCCのライザー反応器の底部に空気圧で供給される。炭化水素供給物は、150~350℃の温度域で予熱される。炭化水素原料は、高速(>5m/s)の空圧フロー(pneumatic flow)ライザー型分解反応器に噴射され、そこで、触媒再生容器から供給された650~750℃の温度域で来る高温のミクロサイズの触媒粒子と接触して接触分解される。廃プラスチックの分子サイズは、ミクロンサイズの触媒に比べて大きいため、廃プラスチックの粉末は、底部に入るとすぐに熱分解を受け、最初に高温の再生触媒粒子から熱を奪う。熱分解によって比較的小さいサイズの分子が生成されると、これらの分子が触媒粒子と効率的に接触することが可能となり、接触分解のための活性サイトとして機能する触媒の細孔に入り込むことが可能となる。これらの分子は、触媒との接触により接触分解を受け、ライザー反応器を上昇する間に、燃料ガス、LPG、ガソリンなどのより軽質の炭化水素分子が生成される。石油炭化水素原料と廃プラスチックの両方を接触分解して得られた複合軽質留分生成物の蒸気は、次いで、メインの分留カラムに送られ、軽質サイクル油やクラリファイド重油などの所望の液体生成物に分離される。分留カラムの上部から得られた生成物蒸気は、ナフサ、燃料ガス、LPGの分離のため、GASCONセクション(ガス分離・濃縮セクション)に送られる。
【0029】
炭化水素原料:
このプロセスで使用する液体の炭化水素原料は、ナフサにおける炭素数5から始まる留分のような炭化水素原料から、減圧軽油、減圧残渣、大気残渣、脱アスファルト油、シェール油、コールタール、クラリファイド重油、残油、重質含ろう油、ろう下油、スロップ油、または炭素数が100以上のそのような炭化水素の混合物から選択される。これらの留分は、直留成分、または、接触プロセスよって生成された分解成分であってもよい。接触プロセスは、例えば水素化分解、FCC、またはコーキング、ビスブレーキングなどの熱分解プロセスなどである。供給物のコンラッドソン炭素残渣の含有量は、最大値が11重量%、最小密度が0.95g/ccに保たれる。
【0030】
廃プラスチック:
プラスチックとは、重合によって形成された高分子であり、適度な熱、圧力、または別の形態の力を加えることにより成形することができる。プラスチックとは、原油を高度に精製した留分や、原油由来の化学物質として知られるモノマーを用いて製造されるさまざまなポリマーの総称である。ポリマーは、これらのモノマーが反応して形成され、炭素原子が数万から数十万個の鎖長になる。
【0031】
プラスチック廃棄物は生分解性でないため、廃棄物処理の問題に大きく関わっている。プラスチックフィルムには、耐久性を高めるためにアルミニウムやスズなどの金属が添加されている。これらの例には、金属を含有するポリエチレンおよびポリプロピレンの多層プラスチックフィルム、金属を含有するポリエチレンテレフタレートのプラスチックフィルムなどが含まれる。クラッキングおよび分解の間に触媒上に残留金属が堆積することによる触媒への悪影響を最小限に抑えるために、廃プラスチックは10重量%未満の少量で投入される。
【0032】
プラスチックは、その物理的性質により、熱可塑性プラスチック材料と熱硬化性プラスチック材料に分類することができる。
●熱可塑性プラスチック材料(リサイクル可能なプラスチック):これらは、熱と圧力で所望の形状に成形でき、加熱すると固体になる。例えば、ポリエチレン、ポリスチレン、PVCなどがある。
●サーモスタットまたは熱硬化性材料(リサイクルできないプラスチック):これらは、一度成形したものは、熱を加えても軟化・再成形することはできない。例えば、フェノールホルムアルデヒドや尿素ホルムアルデヒドなどがある。
【0033】
本発明のプロセスで共変換可能な廃プラスチックには、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、PETなどを含む様々なプラスチックが含まれ、金属を添加した多層プラスチックが含まれる。当該プロセスで使用されるこれらの廃プラスチックは、洗浄、乾燥、押し出し、ペレット化などを含むステップによって前処理することができる。プラスチック供給容器からライザー底部へ廃プラスチックを搬送可能とするために、廃プラスチックは、空気圧輸送が可能となる流動性のある形状となるよう、選択されたサイズと形状の仕様で調製することができる。
【0034】
本発明の一つの特徴として、廃プラスチックは、スクリューコンベアなどのコンベアを用いて、プラスチック供給容器からライザー反応器の底部に供給される。
【0035】
本発明の他の実施形態では、廃プラスチック材料は、熱を加えることによってプラスチック供給容器内で溶融状態に保たれ、液状でライザーに供給される。
【0036】
本発明のさらに他の実施形態では、本発明のプロセスにおける処理に使用される廃プラスチックは、ベルトコンベアのような他の手段によって搬送可能な粉砕された形態、または、塊であってもよい。
【0037】
触媒:
本発明で用いる固体触媒の成分は、超安定Y-ゼオライトが1~7重量%、形状選択的(shape selective)なペンタシルゼオライトが7~25重量%、基部選択的(bottom selective)な活性物質が0~10重量%、希土類成分が0~1重量%、非酸性成分および結合剤が60~85重量%である。孔径は、超安定Y-ゼオライトで8~11Å、形状選択的なペンタシルゼオライトで5~6Å、基部選択的な活性物質で50~950Åである。従来の流動接触分解の触媒は、接触分解反応を可能とするために、主に、有効成分としての複数種のY-ゼオライトからなる。流動接触分解装置(FCCU)/残渣流動接触分解装置(RFCCU)のプロセスで使用される従来の触媒系もまた、プラスチックの変換を可能にするために使用することができるが、これによるとプラスチックからの軽質オレフィンの収率が低くなる。
【0038】
プロセス条件:
本プロセスのライザー反応器は、所望の稼働温度を490~680℃、好ましくは500℃~570℃とし、所望の稼働圧力を0.9~2Kg/cm2(g)、好ましくは1.0~1.5Kg/cm2(g)として稼働させることができる。重量空間速度(WHSV)を、40~120hr-1に維持する。ライザー反応器内の滞留時間を、1~10秒、好ましくは3~7秒に維持する。炭化水素原料の流量に対する触媒の比を、3~25、好ましくは5~20に維持することができる。ライザー反応器への廃プラスチックの供給量は、炭化水素と廃プラスチックの全供給混合物の0.1~15重量%、好ましくは0.5~5重量%に維持することができる。炭化水素の希釈とクエンチに使用される蒸気は、炭化水素原料の品質に応じて、原料の3~50%の範囲に維持する。
【0039】
プロセスの説明:
本発明のプロセスは、
図1によって例示されるが、これに限定されるものではない。
図1に記載のプロセスでは、廃プラスチック顆粒は、空気圧搬送システムまたは貯蔵容器からの廃プラスチック顆粒の搬送に一般的に使用される機械的な搬送システムによって、プラスチック供給容器(34)に供給される。プラスチック供給容器(34)から搬送された廃プラスチックは、回転式エアロックバルブ(37)によって制御された流量で、パイプ(38)を通してライザー底部に供給される。プラスチック供給容器(34)には、ガス供給リング(36)により不活性ガスを噴射するオプションが設けられており、詰まるのを回避することができる。プラスチック供給容器は、ガスライン(39)に設けられた圧力制御弁(40)によって運転中の装置全体の圧力のバランスをとれるようにするために、1~2Kg/cm
2(g)の所望の圧力に保たれる。炭化水素供給物(30)は、噴射ノズル(31)からライザー反応器(32)の底部に入り、ライザー底部の内側で噴射されてミクロサイズの液滴となる。これらは、再生容器(45)からスライド弁(47)と再生触媒スタンドパイプ(46)を通ってライザー底部に供給される高温の再生触媒と接触する。また、ライザー底部には、リフト流動化媒体(33)が供給される。廃プラスチックがライザー底部の高温環境に入ると、最初にプラスチック材料が熱分解されてより軽い分子に分解される。次いで、熱分解によって生成されたこれらの分子は、ライザー内で触媒と蒸気が上昇する間に触媒粒子と接触することで、さらに軽い炭化水素分子に接触分解される。触媒と生成物蒸気とは、FCCの技術分野で周知の、閉結合サイクロン(closed coupled cyclones)などのライザー終端装置によってライザー反応器の末端で分離され、巻き込まれた炭化水素分子はストリッパー容器(41)内でさらにスチームストリッピングによって触媒から分離される。ストリッパー容器の上部から得られる生成物蒸気(42)は、ナフサ、軽質サイクル油、重質サイクル油、クラリファイド重油などの異なる生成物の留分に分離するために、メイン分留カラムに送られる。スチームストリッピングされた触媒は、使用済み触媒スタンドパイプ(43)を通じて再生容器(45)に送られ、その流れは使用済み触媒スライド弁(44)によって制御される。コークスを含んだ触媒は、FCCの技術分野で周知のスパージャーシステムなどの分配器を通して底部に供給される空気(49)の存在下でコークスを燃焼させることによって再生容器(45)内で再生される。
【0040】
実施形態の一つにおいては、廃プラスチックは、溶融状態でライザー反応器に送られる。
【0041】
他の実施形態においては、廃プラスチックはライザー底部に送られて、炭素数が5~100の炭化水素溶媒から選択される溶媒と混合される。
【0042】
さらに他の実施形態においては、再生容器で生じる高温の再生触媒から出る熱エネルギーを利用して廃プラスチックを溶融する。
【0043】
本発明のプロセスの一実施形態の模式を
図2に示す。
図2に記載したプロセスでは、廃プラスチックの粉末/顆粒は、ベルトコンベア(1)又は同様の手段によって充填容器(2)に供給される。廃プラスチックは、「回転式エアロック弁」などの弁(4)を用いて、必要な速度で、その充填容器からパイプ(3)を通じて取り出される。廃プラスチックは、垂直方向または水平方向に配置され得る流動化媒体(6)によってアシストされた充填ライン(5)を用いて、プラスチック供給容器(7)に充填される。プラスチック材料は、分配器(8)から供給される流体によって、プラスチック供給容器(7)内で流動状態に保たれる。ガス(21)は適切な手段によって容器から取り出されて、容器の圧力を確実に制御することができる。炭化水素供給物(12)は、噴射ノズル(31)を通してライザー反応器(11)の底部に入り、ミクロンサイズの液滴としてライザー底部内に噴射される。これらは、再生容器(16)からスライド弁(14)を備えた再生触媒スタンドパイプ(15)を通ってライザー底部に供給された高温の再生触媒と接触する。また、ライザー底部には、リフト流動化媒体(13)も供給される。廃プラスチックは、プラスチック供給容器(7)から流量調整弁(10)を備えたパイプ(9)を通してライザー底部に供給される。廃プラスチックがライザー底部の高温環境に入ると、最初にプラスチック材料が熱分解されてより軽い分子に分解される。次いで、熱分解によって生成したこれらの分子は、ライザー内で触媒と蒸気が上昇する間に触媒粒子と接触することで、さらに軽い炭化水素分子に接触分解される。触媒と生成物蒸気は、ライザー終端装置によってライザー反応器の末端で分離され、巻き込まれた炭化水素分子はストリッパー容器(18)内でさらにスチームストリッピングによって触媒から分離される。ストリッパー容器の上部から得られる生成物蒸気(22)は、ナフサ、軽質サイクル油、重質サイクル油、クラリファイド重油などの異なる生成物の留分に分離するために、メイン分留カラムに送られる。スチームストリッピングされた触媒は、使用済み触媒スタンドパイプ(19)を通じて再生容器(16)に送られ、その流れは使用済み触媒スライド弁(20)によって制御される。コークスを含んだ触媒は、再生器に供給される空気(17)の存在下でコークスを燃焼させることによって再生容器(16)内で再生される。
【0044】
本発明のハードウェア・プロセス方式は、従来の流動接触分解装置(FCCUs)や残油FCCUsでも実施可能であるが、余分な熱の利用可能性や触媒の循環速度を上げる必要性を考慮すると、高いシビアリティのFCCUsで実施することが非常に望ましい。
【0045】
実施例:
本発明のプロセスを、以下の非限定的な例によって例示する。
図1に示した本発明の方式における廃プラスチック処理について、都市ごみから排出されるポリエチレン廃棄物およびポリプロピレン廃棄物の混合廃プラスチックを処理することによってシミュレーションを行った。廃プラスチックを熱分解して液体炭化水素を生成し、その後さらに接触分解によって軽質オレフィン、ナフサ、中間留分などを生成する現象を実証するために、廃プラスチックを熱分解したところ、15重量%のガス(エチレン:3.29重量%、プロピレン:41.81重量%)、76重量%の液体、9重量%のコークス残渣が得られた。さらに、この油を炭化水素原料とともに、4重量%の超安定Y-ゼオライト、18重量%のペンタシルゼオライト、10重量%の基部選択的な活性物質、0.5重量%の希土類成分、および67.5重量%の非酸性成分結合剤を含む触媒(触媒A)を用いて接触分解した。
【0046】
炭化水素原料―水素化処理されたVGOの特性を表1に示す。
【0047】
【0048】
接触分解実験の稼働条件を表2に示す。
【0049】
【0050】
廃プラスチックの熱分解油の接触変換を確認するために、表3に示す特性を有するもので実験を行い、その収率を表4に示す。
【0051】
【0052】
【0053】
表5は、異なるラン(run)で廃プラスチックの共処理を行った場合の収率パターンの比較(全ての新鮮な供給(total fresh feed)を基準とする-炭化水素および廃プラスチック)を示す。
【0054】
表5:炭化水素原料とのプラスチック共変換の収率パターン
【0055】
本発明のプロセス方式では、廃プラスチックの処理による著しい劣化はなく、また、プラスチックをより軽質な炭化水素に変換することが可能であることがわかった。
【0056】
本発明の利点:
1.主要なハードウェアとして、既存の流動接触分解のハードウェアの大部分とともにわずかな付加的な容器を用いて、金属を含有したポリエチレンやポリプロピレンの多層プラスチックフィルムを含む廃プラスチックを、価値のある軽質留分生成物に変換する。
2.精油業者が廃プラスチックから価値を生み出し、金属を含有した廃プラスチック処理の環境への懸念に対処することが可能となる。
3.廃プラスチックの変換にかかる熱供給の問題を解消し、金属を含有する廃プラスチックの変換時の、分解触媒に対する金属の付着による悪影響を最小限に抑えることができる。
4.流動接触分解装置の再生容器から熱を除去する問題に対処すると同時に、その熱を廃プラスチックの分解を行うために使用する。
5.ヒートバランスにより、より多い触媒流量での流動接触分解装置の運転が可能となる。
6.炭化水素供給物の接触分解の従来の反応生成物とともに廃プラスチックの分解による反応生成物を処理できるようにすることによって、廃プラスチックの分解による反応生成物の処理の問題に対処し、それによって生成物の品質を確保する。
7.従来の原料の共処理で試みられていたような、炭化水素原料にプラスチックを混合する際の供給ノズルや供給炉の詰まりなどの問題を解消する。
8.ナフサ分子などの廃プラスチックの分解生成物を、LPGなどのより軽質な生成物や、エチレン、プロピレンなどの軽質オレフィンに接触変換することができる。
【外国語明細書】