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特開2022-31249フッ素化石英ガラスの製造のための代替フッ素化剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022031249
(43)【公開日】2022-02-18
(54)【発明の名称】フッ素化石英ガラスの製造のための代替フッ素化剤
(51)【国際特許分類】
   C03B 8/04 20060101AFI20220210BHJP
   C03B 37/014 20060101ALI20220210BHJP
【FI】
C03B8/04 P
C03B37/014 Z
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021129639
(22)【出願日】2021-08-06
(31)【優先権主張番号】20189830.1
(32)【優先日】2020-08-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】599089712
【氏名又は名称】ヘレウス・クアルツグラース・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング・ウント・コンパニー・コマンディット・ゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Heraeus Quarzglas GmbH & Co. KG
(74)【代理人】
【識別番号】100147935
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 進介
(74)【代理人】
【識別番号】100080230
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 詔二
(72)【発明者】
【氏名】ステファン オークス
(72)【発明者】
【氏名】マルチン トロンマー
(72)【発明者】
【氏名】トーマス カイザー
【テーマコード(参考)】
4G014
4G021
【Fターム(参考)】
4G014AH21
4G021CA14
(57)【要約】      (修正有)
【課題】低い地球温暖化ポテンシャルを有するフッ素化石英ガラスの製造を可能にする代替フッ素化剤が使用される、フッ素ドープ石英ガラスの製造方法を提供する。
【解決手段】フッ素化石英ガラスの製造方法は、SiOスート体を提供する工程と、SiOスート体を-10℃以上の沸点を有するフッ素化剤と反応させてフッ素化SiOスート体を得る工程と、フッ素化SiOスート体をガラス化する工程とを含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、フッ素化石英ガラスの製造方法:
a.SiOスート体を提供する工程;
b.前記SiOスート体と沸点が-10℃以上のフッ素化剤とを反応させ、フッ素化SiOスート体を得る工程;
c.前記フッ素化SiOスート体をガラス化する工程。
【請求項2】
工程b.で行われるフッ素化が、
i.酸素含有フッ素化剤;
ii.ニトリル含有フッ素化剤;及び
iii.酸素含有及びニトリル含有フッ素化剤の混合物
からなる群から選択されるフッ素化剤を用いて実施されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記酸素含有フッ素化剤が、
i.下記一般式(I)のペルフルオロケトン;
F1-CO-RF2 (I),
(式中、RF1は、1~7個の炭素原子を有する過フッ素化炭素基及びフッ素からなる群から選択され;及び
F2は、1~7個の炭素原子を有する過フッ素化炭素基からなる群から選択される)
ii.下記一般式(II)のペルフルオロエーテル;
F1-C(X)(X)O-RF2 (II),
(式中、RF1は、1~7個の炭素原子を有する過フッ素化炭素基及びフッ素からなる群から選択され;
F2は、1~7個の炭素原子を有する過フッ素化炭素基からなる群から選択され;及び
及びXは、フッ素又はCFである);
iii.下記一般式(III)のヒドロフルオロエーテル;
F1-C(X)(X)O-R (III),
(式中、RF1は、1~7個の炭素原子を有する過フッ素化炭素基及びフッ素からなる群から選択され、
は、1~3個の炭素原子を有する非フッ素化炭化水素基であり;及び
及びXは、フッ素又はCFである)
からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記ニトリル含有フッ素化剤が、
iv.下記一般式(IV)のペルフルオロニトリル
F1-C≡N (IV)
(式中、RF1は、1~7個の炭素原子を有する過フッ素化炭素基からなる群から選択される)
からなる群から選択されることを特徴とする、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
前記SiOスート体を-10℃以上の沸点を有する前記フッ素化剤と反応させる工程b.が、700~1250℃の温度範囲で行われることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記フッ素化SiOスート体をガラス化する工程c.が、1100~1500℃、好ましくは1150~1350℃の温度範囲で行われることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
処理工程b.からのフッ素化SiOスート体が、処理工程c.のガラス化の前に1つ以上のさらなる乾燥工程に供され、それによって700~1200℃の温度範囲で乾燥が行われることを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の方法により得られるフッ素化石英ガラス。
【請求項9】
ドープ石英ガラス中のフッ化物濃度が、質量部基準で1000~25000ppm、好ましくは2000~20000ppmであることを特徴とする請求項8に記載のフッ素化石英ガラス。
【請求項10】
フッ素化石英ガラスの製造のための沸点が-10℃以上のフッ素化剤の使用。
【請求項11】
前記フッ素化剤が、
i.酸素含有フッ素化剤;
ii.ニトリル含有フッ素化剤;又は
iii.酸素含有及びニトリル含有フッ素化剤の混合物
であることを特徴とする請求項10に記載の使用。
【請求項12】
前記酸素含有フッ素化剤が、
i.下記一般式(I)のペルフルオロケトン;
F1-CO-RF2 (I),
(式中、RF1は、1~7個の炭素原子を有する過フッ素化炭素基及びフッ素からなる群から選択され;及び
F2は、1~7個の炭素原子を有する過フッ素化炭素基からなる群から選択される)
ii.下記一般式(II)のペルフルオロエーテル;
F1-C(X)(X)O-RF2 (II),
(式中、RF1は、1~7個の炭素原子を有する過フッ素化炭素基及びフッ素からなる群から選択され;
F2は、1~7個の炭素原子を有する過フッ素化炭素基からなる群から選択され;及び
及びXは、フッ素又はCFである)
iii.下記一般式(III)のヒドロフルオロエーテル
F1-C(X)(X)O-R (III),
(式中、RF1は、1~7個の原子を有する過フッ素化炭素基及びフッ素からなる群から選択され、
は、1~3個の原子を有する非フッ素化炭化水素基であり;及び
及びXは、フッ素又はCFである)
からなる群から選択されることを特徴とする請求項10又は11に記載の使用。
【請求項13】
前記ニトリル含有フッ素化剤が、
iv.下記一般式(IV)のペルフルオロニトリル
F1-C≡N (IV)
(式中、RF1は、1~7個の炭素原子を有する過フッ素化炭素基からなる群から選択される)
からなる群から選択されることを特徴とする請求項10又は11に記載の使用。
【請求項14】
前記フッ素化剤が、前記フッ素化においてキャリアガスと共に又はキャリアガスなしで使用されることを特徴とする請求項10~13のいずれか一項に記載の使用。
【請求項15】
前記ガス中の前記フッ素化剤の割合が、前記ガスの総量に対して、それぞれ5~100モル%、好ましくは30~100モル%であることを特徴とする請求項14に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素化石英ガラスの製造方法、及び本発明によるこの方法によって得られるフッ素化石英ガラスに関する。本発明のさらなる目的は、フッ素化石英ガラスの製造のための代替及び改良されたフッ素化剤の使用である。
【背景技術】
【0002】
合成石英ガラスの製造のために、SiO粒子はCVD法においてケイ素含有出発物質から加水分解又は酸化によって生成され、そして移動するキャリア上に堆積される。外部堆積法と内部堆積法とに区別することができる。外部堆積法では、SiO粒子が回転キャリアの外部に堆積される。このような外部堆積法の例は、いわゆるOVD法(Outside Vapor Phase Deposition)、VAD法(Vapor Phase Axial Deposition)、PODプロセス(Plasma Outside Deposition)又はPECVDプロセス(Plasma Enhanced Chemical Vapor Deposition)である。内部堆積法のよく知られた例としては、MCVD法(Modified Chemical Vapor Deposition)、FCVD法(Furnace Chemical Vapor Deposition)、PCVD法(Plasma Chemical Vapor Deposition)があり、この方法では、外部から加熱された管の内壁にSiO粒子が堆積される。
【0003】
キャリア表面の領域において十分に高温である場合は、SiO粒子の直接ガラス化が起こり、これは「直接ガラス化(direct vitrification)」としても知られる。対照的に、所謂「スート法(soot process)」においては、SiO粒子の堆積中の温度が非常に低く、多孔質SiOスート層が得られ、これは、次いで、別の工程で透明な石英ガラスに焼結される。直接ガラス化法及びスート法の両方は、緻密で、透明で、高純度の合成石英ガラスをもたらす。
【0004】
前記スート法は、スート体の多孔質構造が異種原子を組み込むことを可能にするので、異種原子を含有する合成石英ガラスの製造(ドーピング)に特に適している。
【0005】
前記石英ガラスに異種原子を導入することにより、その物理的性質に影響が与えられる。例えば、石英ガラスにフッ素をドープすると、屈折率が低下する。従って、フッ素ドープ石英ガラスは、とりわけ光ファイバにおける光伝導屈折率構造の製造のために、例えば、1つ又は複数のFドープ屈折率低下クラッド層を有する光パワー伝送用の特殊ファイバのために、活性高パワーレーザファイバ及びFドープ外側クラッド層を有するそれらの前駆体の製造のために、とりわけ、ファイバコンバイナのために、曲げ不感応ファイバのために、又はいわゆる「超低損失ファイバ」において使用されるフッ素ドープ管及び毛細管のために使用される。多数の方法が当業者に利用可能である。例えば、そのような光ファイバのための半完成品として、半径方向に屈折率プロファイルを有し、所望のファイバ内に直接延伸することができるプリフォームを使用することもできる。あるいは、フッ素ドープ石英ガラスの少なくとも1つの層を有する棒状又は管状のシリンダを使用することができる。このシリンダは、ファイバに同軸配置で全体として他の円筒状構成要素と共に細長くすることができる。更に、このようなフッ素ドープ石英ガラスシリンダは、レーザ及び半導体製造において使用される。
【0006】
フッ素ドープ石英ガラスの製造は、従来技術から知られている。例えば、特許文献1は、スート体が水素又は酸素の雰囲気中で加熱され、その後の工程において、焼結がフッ素含有雰囲気中で行われる、紫外線耐性のフッ素ドープ石英ガラスの製造に関する。この2段階処理は、得られる石英ガラスの紫外線透過率を改善することを目的とする。
【0007】
特許文献2には、構造的欠陥を回避することを目的とした多孔質シリカ含有プリフォームのフッ素ドーピング及びガラス化が記載されている。
【0008】
特許文献3はドープされた光ファイバプリフォームを製造するための方法を開示しており、この方法では、スート体が最初に塩素含有雰囲気中で処理され、その後の工程で、フッ素含有ガスに曝される。
【0009】
特許文献4には光ファイバ用のガラスプリフォームを製造する方法が記載されており、この方法ではガラスプリフォームがSiOを含む微細なガラス粒子から形成され、次いで、He及びSiFの雰囲気中で焼結される。
【0010】
特許文献5には、フッ素含有ガスの存在下でスート状ガラスプリフォームを加熱することによって光ファイバ用ガラスプリフォームを製造する方法が記載されている。
【0011】
特許文献6には蒸着によるナトリウムドープガラスの製造方法が記載されており、この方法はフルオロアルコキシドナトリウム蒸気及びSiCl蒸気を使用する。両方の蒸気はバーナの反応領域に同時に供給され、そこで、蒸気混合物の加熱/酸化により、ナトリウムがドープされたSiOスート体が形成される。このように、SiO体の作成とそのドーピングは同時に行われる。さらに、この方法で使用されるナトリウム化合物はそれらの構造中にフッ素原子を有し得るが、得られるガラスはフッ素を全く含まない。これは特許文献6の表1から導き出すことができ、そこには調製されたガラス材料の組成が記載されており(100質量%まで)、そして特定の調製されたガラスのいずれにおいてもフッ素含有量が開示されていない。従って、特許文献6は、石英ガラスをフッ素化する方法を開示していない。
【0012】
特許文献7には第1のコーティングを有する基板上に光学コーティングを形成する方法が記載されており、この方法はプロダクトフローから第1のコーティング上に粉末コーティングを堆積させることを含み、このプロダクトフローは当該フロー中の化学反応から生じ、粉末コーティングは適切な条件下で光学コーティングに固化する。それによって、光学コーティング及び第1のコーティングは、固化後、少なくとも約1%の屈折率の差を有する。これらのコーティングを形成するために、広範囲の組成物、例えば、屈折率及び他の光学特性に影響を及ぼすことができるような、異なるドーパント(例えば、リン酸塩、ゲルマニウム又はホウ素ドーパント)を有するケイ酸塩ガラスが使用される。
【0013】
高度で均一なドーピングを達成するためには、SiOスート体の処理にドーピングガスを使用しなければならず、このドーピングガスは含有フッ素が許容できる温度範囲内でSiO母体と反応し、スート体中にできるだけ迅速に拡散することを可能にする。
【0014】
この目的のために、CF,SF,C及びNFは、従来技術からガスフッ素化剤として知られている。しかしながら、これらのガスはかなりの地球温暖化ポテンシャル(GWP)を有し、それらの化学的安定性のために非常に長時間大気中に留まる。環境法規制の厳格化により、このような物質の販売はますます困難になり、それらの商業的入手可能性は低下し、その結果、それらは、少なくとも永久にフッ素化石英ガラスを製造する目的のためにもはや入手できなくなることが予想される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】US 2001/0018835 A
【特許文献2】JP 63-225543 A
【特許文献3】WO 03/101900 A
【特許文献4】EP 0 161 680 A
【特許文献5】EP 0 139 532 A
【特許文献6】US 4,645,524
【特許文献7】US 2015/037513 A
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
従来技術から知られているフッ素化剤の別の欠点はその低沸点であり、これは取扱いを困難にする。例えば、低沸点のフッ素化剤は使用される装置において比較的大容量を必要とし、対応するフッ素化剤は比較的高価な方法で加圧ガスボンベに貯蔵されなければならず、さらに、より高い安全基準が一般に必要とされる。従って、本発明の目的は、低い地球温暖化ポテンシャルを有するフッ素化石英ガラスの製造を可能にする代替フッ素化剤が使用される、フッ素ドープ石英ガラスの製造方法を提供することである。
【0017】
他の目的は、石英ガラスのフッ素化のために効率的に使用することができる代替フッ素化剤によるフッ素化石英ガラスの製造方法を提供することである。
【0018】
また、本発明の目的は、フッ素含有量が高く、ドーパントの分布が均一なフッ素化石英ガラスの製造を可能にする方法を提供することである。
【0019】
さらに、本発明の目的は、フッ素ドープ石英ガラスの製造方法であって、石英ガラスのフッ素含有量が高く、同時にブリスター形成が最小である方法を提供することである。
【0020】
最後に、本発明のさらなる目的は容易に取り扱うことができるフッ素化剤を使用するフッ素化石英ガラスの製造方法であって、比較的少量の装置を使用することができ、加圧ガスシリンダによる比較的複雑な取り扱いを回避することができ、さらに、特に高い安全基準を守る必要がない方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
これらの課題は、新しいフッ素化剤の使用によって解決される。これらの新しいフッ素化剤は従来技術と比較してより高い沸点を特徴とし、これは、フッ素化剤の取り扱いを少なくとも部分的に単純化する。本発明によるフッ素化剤は-10℃以上の沸点を有し、従って、簡単な方法で蒸発装置に供給することができる。
【0022】
従って、本発明は、少なくとも以下の工程を含むフッ素化石英ガラスの製造方法に関する:
a.SiOスート体を提供する工程;
b.SiOスート体と少なくとも1つのフッ素化剤とを反応させ、フッ素化SiOスート体を得る工程;
c.フッ素化SiOスート体をガラス化する工程。
【0023】
本発明による方法は、フッ素化剤が-10℃以上の沸点を有することを特徴とする。
【0024】
本発明の文脈において、常圧(1013mbar)で存在する沸点が仮定される。
【0025】
沸点が-10℃以上のフッ素化剤を用いることにより、フッ素化の取扱い及び手順を簡略化することができる。
【0026】
本発明の文脈において、フッ素化剤はフッ素原子を含み、SiOスート体をフッ素化することができる化学物質であると理解される。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の好ましい実施形態において、フッ素化剤は、-5℃以上、好ましくは0℃以上、より好ましくは5℃以上、より好ましくは10℃以上、より好ましくは15℃以上、より好ましくは20℃以上の沸点を有する。
【0028】
本発明によって提案されるフッ素化剤の上限沸点は、フッ素化剤が合成石英ガラスの製造のための通常の方法条件下で、SiOスート体と気体の形態で反応することができるという点で、いかなる特別な技術的制限も受けない。
【0029】
本発明の文脈において、300℃以下、好ましくは275℃以下、より好ましくは250℃以下、より好ましくは225℃以下、より好ましくは200℃以下、より好ましくは175℃以下、より好ましくは150℃以下の沸点を有するフッ素化剤が好ましい。
【0030】
これらの代替フッ素化剤の単純化された取り扱いは、前述の沸点範囲の直接的な結果である。
【0031】
従って、本発明に従って提供されるフッ素化剤は、好ましくは-10~300℃、より好ましくは-5~275℃、より好ましくは0~250℃、より好ましくは5~225℃、より好ましくは10~200℃、より好ましくは15~175℃、さらに好ましくは20~150℃の沸点範囲を有する。
【0032】
本発明により提供されるフッ素化剤は、特に下記群から選択される1種以上のフッ素化剤である。
i.酸素含有フッ素化剤;及び
ii.ニトリル含有フッ素化剤。
【0033】
本発明の文脈に関し、本発明による方法において、上記の酸素含有及びニトリル含有フッ素化剤の混合物を使用することも可能であり、ここで、本発明の文脈において、混合物は、純粋なニトリル含有フッ素化剤の混合物、純粋な酸素含有フッ素化剤の混合物、ならびに酸素含有及びニトリル含有フッ素化剤の混合物を意味すると理解される。
【0034】
好ましい酸素含有フッ素化剤は、以下に、より詳細に記載される。
【0035】
本発明の第1の実施形態において、使用される酸素含有フッ素化剤は、一般式(I)のペルフルオロケトンである。
F1-CO-RF2 (I),
式中、
F1は1~7個の炭素原子を有する過フッ素化炭素基及びフッ素からなる群から選択され、そして
F2は1~7個の炭素原子を有する過フッ素化炭素基からなる群から選択される。
【0036】
この第1の実施形態の好ましい態様において、過フッ素化炭素基は、1~6個、より好ましくは2~6個、より好ましくは2~5個、より好ましくは2~4個の炭素原子を含む。
【0037】
この第1の実施形態の化合物の具体例を以下に示す。
a)ペルフルオロ(2-メチル-3-ペンタノン);又は1,1,1,2,2,4,5,5,5-ノナフルオロ-4-(トリフルオロメチル)-3-ペンタノン;
b)ペルフルオロ(2-メチル-3-ブタノン),又は1,1,1,3,4,4,4-ヘプタフルオロ-3-(トリフルオロメチル)-2-ブンタノン;及び
c)ペルフルオロ(2,2,-ジメチル-3-ブタノン)。
【0038】
前記化合物
a)ペルフルオロ(2-メチル-3-ペンタノン)又は1,1,1,2,2,4,5,5,5-ノナフルオロ-4-(トリフルオロメチル)-3-ペンタノン;及び
b)ペルフルオロ(2-メチル-3-ブタノン),又は1,1,1,3,4,4,4-ヘプタフルオロ-3-(トリフルオロメチル)-2-ブンタノン
は、3M Deutschland GmbH社からNOVEC(登録商標)649及びNOVEC(登録商標)5110の商品名で市販されている。
【0039】
本発明の第2の実施形態において、使用される酸素含有フッ素化剤は、一般式(II)のペルフルオロエーテルである。
F1-C(X)(X)O-RF2 (II),
式中、
F1は1~7個の炭素原子を有する過フッ素化炭素基及びフッ素からなる群から選択され、そして
F2は1~7個の炭素原子を有する過フッ素化炭素基からなる群から選択され;そして
残基X及びXはF又はCFである。
【0040】
この第2の実施形態の好ましい態様において、過フッ素化炭素基は、1~6個、より好ましくは2~6個、より好ましくは2~5個、より好ましくは2~4個の炭素原子からなる。
【0041】
この第2の実施形態の化合物の具体例は下記の通りである
a)ペルフルオロ-1-メトキシプロパン;
b)ペルフルオロ-2-イソプロポキシ-2-メチルペンタン;
c)ペルフルオロ-1-エトキシヘプタン;及び
d)ペルフルオロ-2-n-ブトキシ-2-メチルペンタン。
【0042】
本発明の第3の実施形態において、使用される酸素含有フッ素化剤は、一般式(III)のヒドロフルオロエーテルである。
F1-C(X)(X)O-R (III),
式中、
F1は、1~7個の炭素原子を有する過フッ素化炭素基及びフッ素からなる群から選択され;
は1~3個の炭素原子を有する非フッ素化炭化水素基であり;そして
残基XとXはF又はCFである。
【0043】
この第3の実施形態の好ましい実施態様では、過フッ素化炭素基が、1~6個、より好ましくは2~6個、より好ましくは2~5個、より好ましくは2~4個の炭素原子を含む。
【0044】
この第3の実施形態の化合物の具体例は以下の通りである
a)メチルノナフルオロブチルエーテル;
b)エチルノナフルオロブチルエーテル;及び
c)2-トリフルオルメチル-3-エトキシドデカフルオロヘキサン。
【0045】
上記第1~第3の実施形態の具体例は市販されている。
【0046】
以下に、好ましいニトリル含有フッ素化剤を、第4の実施形態としてより詳細に説明する。
【0047】
ニトリル含有フッ素化剤は、好ましくは一般式(IV)のペルフルオロニトリルである。
F1-C≡N (IV)
式中、
F1は、1~7個の炭素原子を有する過フッ素化炭化水素基からなる群から選択される。
この第4の実施形態の好ましい態様において、過フッ素化炭素基は、1~6個、より好ましくは2~6個、より好ましくは2~5個、より好ましくは2~4個の炭素原子からなる。
【0048】
この第4の実施形態の化合物の具体例は以下の通りである
a)ヘプタフルオロイソブチロニトリル;又は
b)2,3,3,3-テトラフルオロ-2-(トリフルオロメチル)プロパンニトリル。
【0049】
これらの化合物も市販されている。
【0050】
上記の実施例によって既に例示されているように、本発明の文脈における過フッ素化炭素基は、少なくとも1つの炭素原子の炭素ネットワーク中の水素原子がフッ素原子によって完全に置換されている有機化合物であると理解される。好ましくは炭素ネットワーク中の全ての水素原子がフッ素原子で置換されている。
【0051】
本発明の文脈において、上記のフッ素化剤は、SiOスート体と反応するためにSiOスート体と接触させられ、SiOスート体の少なくとも部分的なフッ素化が起こる。
【0052】
本発明の文脈におけるスート体はキャリア上にSiO微粒子を堆積することによって得られた多孔質ブランクであり、これはガラス化によって完成した石英ガラスに変換される。通常、SiOスート体の組織は十分に気体透過性であり、均一な気相処理又は焼成を可能にする。より高い密度を有する層の領域では、これは限られた範囲でのみ可能となる。何故なら、これらの層が乾燥及び焼結プロセス中に不均一な処理結果を引き起こす可能性がある拡散障壁を示すからである。この問題は、長い拡散経路に起因して、特に、大きな肉厚を有する大容量のSiOスート体の場合に生じる。
【0053】
このようなスート体を製造するために、当業者は多数の方法を利用することができる。例としては、いわゆるCVD法、特にOVD及びVAD法が挙げられる。OVD(Outside Vapor Deposition)法では、SiO粒子がその縦軸の周りを回転する細長いキャリアの円筒面上に堆積される。キャリアは、例えば、セラミック、グラファイト、又は石英ガラスから作ることができる。VAD(Vapor Axial Deposition)法では、SiO粒子がスート体の長手方向軸線に沿って円盤状の回転キャリア上に蓄積される。両方の方法において、SiO粒子は、キャリア上に層ごとに堆積されて、スート体を形成することができる。
【0054】
対応するSiOスート体は多孔質構造を有しており、その結果、フッ素化剤がSiOスート体の孔を通って当該スート体の三次元構造内に浸透しそしてSiOスート体の均一なフッ素化を引き起こすことができる。
【0055】
本発明の実施形態において、使用されるフッ素化剤は、アルカリ元素を含まず、特にナトリウムを含まない。
【0056】
本発明のさらなる実施形態において、フッ素化剤は、ナトリウムフルオロアルコキシドではない。
【0057】
以下に、個々の処理工程a.~c.をより詳細に説明する。
【0058】
[処理工程a.]
SiOスート体を調製するために、少なくとも1つの重合性ポリアルキルシロキサン化合物を含む供給原料を最初に蒸発させて供給原料蒸気を形成する。
【0059】
本発明によれば、原則として、合成石英ガラスの製造に適した任意の重合性ポリアルキルシロキサン化合物を使用することができる。本発明の文脈において、ポリアルキルシロキサンという用語は、線状(分岐構造を含む)及び環状分子構造の両方を包含する。
【0060】
特に好適な環状代表例は、下記の一般式を有するポリアルキルシロキサンである。
Si(R)2p
式中、pは2以上の整数である。残基「R」はアルキル基であり、最も単純な場合にはメチル基である。
【0061】
ポリアルキルシロキサンは質量パーセント当たりのケイ素の割合が特に高いことを特徴とし、これにより合成石英ガラスの製造におけるそれらの使用の経済的効率に寄与する。
【0062】
ポリアルキルシロキサン化合物は、好ましくはヘキサメチルシクロトリシロキサン(D3)、オクタメチルシクロテトラシロキサン(D4)、デカメチルシクロペンタシロキサン(D5)、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン(D6)、テトラデカメチルシクロヘプタシロキサン(D7)、ヘキサデカメチルシクロオクタシロキサン(D8)、及びそれらの直鎖状同族体、並びに上記化合物の任意の混合物からなる群から選択される。D3、D4、D6、D7及びD8という表記は、ゼネラル・エレクトリック社によって導入された表記から得られ、ここで、「D」は[(CHSi]-O-基を表す。この表記は、当業者には既知である。
【0063】
本発明の範囲内で、前述のポリアルキルシロキサン化合物の混合物も使用することができる。
【0064】
高純度でのその大規模な入手可能性のために、オクタメチルシクロテトラシロキサン(OMCTS)が現在のところ好ましい。従って、本発明の範囲内で、ポリアルキルシロキサン化合物がオクタメチルシクロテトラシロキサン(D4)であることが特に好ましい。当業者は、四塩化ケイ素又はヘキサメチルジシロキサン(HMDS)などの代替原料も使用可能であることを知っている。
【0065】
原則として、供給原料が処理工程に導入される前に、供給原料を精製することが可能である。このような精製プロセスは、当業者に既知である。
【0066】
意図されたスート体のSiO前駆体の供給原料の蒸発は、キャリアガス成分の存在の有無にかかわらず起こり得る。好ましくは供給原料の蒸発がキャリアガスの存在下で起こり、これは蒸発がポリアルキルシロキサン化合物の沸点未満の温度で起こることを可能にするからである。このことは供給原料の気体が好ましくはキャリアガスをさらに含むことを意味する。このようなアプローチは、供給原料の蒸発がその沸点未満で起こる場合に好ましい。不活性ガスは好ましくは化学的に不活性であり、さらに好ましくは窒素又はアルゴンである。また、キャリアガスとして酸素を用いることもできる。重合性ポリアルキルシロキサン化合物のキャリアガスに対するモル比は、好ましくは0.01~2の範囲、特に好ましくは0.02~1.5の範囲、非常に特に好ましくは0.05~1.25の範囲である。特に、40容量ppm未満の含水率を有する窒素がキャリアガスとして使用され、OMCTSがポリアルキルシロキサン化合物として使用されることが好ましい。また、OMCTSの窒素に対する分子比は、0.015~1.5の範囲であることが好ましい。
【0067】
蒸発の処理工程は、当業者に知られている。ポリアルキルシロキサン化合物及びキャリアガスの選択された分子比に依存して、ポリアルキルシロキサン化合物は、好ましくは120~200℃の温度で気相に変換される。蒸発室内の蒸発温度は常に、ポリアルキルシロキサン化合物の露点よりも少なくとも数度高くなければならない。露点は、同様にポリアルキルシロキサン化合物とキャリアガスとの選択された分子比に依存する。好ましい態様では、ポリアルキルシロキサン化合物が蒸発前に40~120℃の温度に予熱され、次いで、供給原料の予熱よりも高い温度を有する蒸発室に噴霧される。好ましい構成では、不活性キャリアガスが蒸発チャンバに供給される前に、250℃までの温度にさらに予熱することができる。蒸発室内の平均温度は、ポリアルキルシロキサンとキャリアガスとの混合物の露点温度よりも常に高いことが有利である。適切な蒸発方法は、例えば、WO 2013/087751 A及びWO 2014/187513 A並びにドイツ特許出願DE 10 2013 209 673 Aに記載されている。
【0068】
本発明の文脈において、用語「露点」は、液体の凝縮と蒸発との間で平衡状態に達する温度を表す。
【0069】
供給原料の沸点未満の温度を使用する場合、蒸発は、好ましくは不活性キャリアガスと一緒に行われる。
【0070】
本発明の文脈において、「蒸発」は、供給原料が実質的に液相から気相に変換される過程であると理解される。これは、好ましくは上記のように、供給原料の主成分として重合性ポリアルキルシロキサン化合物の露点より高い温度を使用することによって行われる。当業者はプロセス工学の観点から、供給原料の小さな液滴が同伴され得ることを除外できないことを知っている。従って、好ましくは97モル%以上、好ましくは98モル%以上、特に好ましくは99モル%以上、非常に特に好ましくは99.9モル%以上の気体成分を含む供給原料蒸気が生成される。
【0071】
生成された供給原料蒸気は反応域に供給され、そこで、と以外供給原料蒸気は酸化及び/又は加水分解によってSiO粒子に変換される。結果として得られたSiO粒子はSiOスート体を形成するために、堆積面上に堆積される。可能な実施形態は、当業者には既知である。
【0072】
本発明による方法の工程a.において調製されるスート体は、好ましくは石英ガラスの相対密度に基づいて18~30%の範囲の平均密度を有する。これは、2.21g/cmの石英ガラス密度に基づいている。達成される密度は、とりわけ、バーナと堆積表面との間の距離、使用される温度、ガスの化学量論及びバーナの幾何学的形状に依存する。対応する設定は、当業者には既知である。スート体の密度は、既知の方法によって測定することができる。例えば、スート体の局所密度は、スート体の断面画像を撮影することによって、コンピュータ断層撮影法を使用して決定することができる。そして、平均密度は全ての測定点で平均をとることによって決定される。
【0073】
本発明による方法の特に好ましい実施形態においては、スート体がDlN-ISO 9277:2003-5に従って測定された、7~16m/g、好ましくは10~15m/gのBETによる比表面積を有することである。
【0074】
処理工程a.から生じるスート体は、スート体中に存在し得る水素基(OH基)などの不純物を除去するために、処理工程b.におけるフッ素化剤との反応前に乾燥させることができる。この場合、乾燥は、熱的及び/又は化学的に行うことができる。特に好ましい実施形態は、700~1100℃の範囲の温度で、処理工程a.においてスート体を熱的及び/又は化学的に乾燥させるものである。
【0075】
スート体の熱乾燥は、好ましくは1つ以上の不活性ガスの存在下で行われる。このようにして、スート体のすでに清浄化された領域が再汚染されることが防止される。好ましくは不活性気体がHe、Ar、N及びそれらの混合物からなる群から選択される。
【0076】
さらに好ましくはスート体の化学的乾燥が塩素含有化合物の存在下で行われる。特に好ましいのは塩素(Cl)の使用である。
【0077】
スート体の化学的乾燥の別の方法は一酸化炭素(CO)の使用である。
【0078】
特に好ましい態様はスート体が処理工程a.において最初に不活性ガスの存在下で、次いで塩素含有化合物の存在下で乾燥される態様であり、ここで、それぞれの場合における温度は700~1100℃の範囲である。
【0079】
[処理工程b.]
次いで、処理工程b.において、スート体は本発明によるフッ素化剤を用いてフッ素化に供される。スート体のドーピングは、上記のフッ素化剤の少なくとも1つを含むガスでスート体を処理することによって、本発明による方法の処理工程b.において実施される。また、フッ素化剤は本発明によるいくつかのフッ素化剤の混合物であってもよい。
【0080】
さらに、本発明のフッ素化剤は、CF,SF,CやNFなどの従来技術から既知のフッ素化剤と組合せて使用することができる。
【0081】
フッ素化剤は、例えば、キャリアガスと共に使用することができ、それによって、スート体中のフッ素化剤の均一な分布を好ましく達成することができる。この目的のために、使用されるガスは、本発明に係るフッ素化剤のガスの総量に対して、いずれの場合も、好ましくは5~100モル%、より好ましくは7.5~100モル%、さらに好ましくは9~100モル%、さらに好ましくは30~100モル%含む。従って、本方法の好ましい構成は、ガス中のフッ素化剤の量がガスの総量に対して、いずれの場合も、5~100モル%、より好ましくは7.5~100モル%、さらに好ましくは9~100モル%、好ましくは30~100モル%である。ガス中のフッ素化剤の量は、フッ素化剤の種類によって異なる。
【0082】
本発明方法の工程b.におけるスート体の処理が高温で行われると特に有利であることが判明した。これを行うことにより、ドーパントの均一な分布及び望ましくない不純物の低レベル化を達成することができる。従って、好ましい構成は、処理工程b.におけるスート体の処理が700~1250℃の範囲の温度で実施されるものである。SiOスート体とフッ素化剤との反応に適した他の温度は、700~1200℃、800~1200℃、900~1200℃、700~1150℃、800~1150℃、900~1150℃、700~1100℃、800~1100℃及び900~1100℃である。
【0083】
処理を実施する温度又は温度範囲は、使用するフッ素含有化合物を考慮して選択すべきである。
【0084】
SiOスート体のフッ素化の持続時間は達成されるべきフッ素化含量に応じて変化させることができ、そして当該持続時間としては36時間まで、好ましくは24時間までを求めることができる。
【0085】
スート体をフッ素化剤で処理した後、本発明による方法の一実施形態では、このようにして得られたスート体を950~1150℃の範囲の温度に加熱して、フッ素化スート体を形成する。このプロセスの間、フッ素化スート体は圧縮され、その結果、得られるフッ素化スート体の平均密度は石英ガラスの相対密度の最大80%、好ましくは最大60%となる。特に好ましい実施形態では、このようにして得られたスート体の平均密度が、石英ガラスの相対密度の40~80%、好ましくは50~60%である。フッ素化スート体が加熱される温度は、意図される圧縮度及び使用されるフッ素含有化合物に依存する。このようにして、導入されたフッ素がスート体のSiO母体中に固定されることが達成され、一方では同時に、全ての孔がまだ閉じられているわけではない。これにより、ガス交換が可能となり、その結果、例えば、あらゆる残留不純物又は可能性のあるガス介在物を除去することができる。本発明方法のフッ素化スート体を、その後のガラス化温度よりも少なくとも100℃低い温度に加熱すると、特に有利であることが判明した。従って、温度がフッ素化スート体のガラス化温度よりも少なくとも100℃、好ましくは150℃低い実施形態が好ましい。
【0086】
さらに、フッ素化スート体を塩素含有雰囲気中で乾燥させることが有利であることが判明した。これにより中間体中のOH基の塩素による置換が行われ、これは後の繊維のやせ細りの減少をもたらす。従って、フッ素化スート体を塩素含有雰囲気中で乾燥させる態様が好ましく、ここで、乾燥は、700~1100℃の範囲の温度で行うことが好ましい。特に好ましくは塩素含有雰囲気が塩素含有化合物、好ましくはClを含むことである。さらに、塩素含有化合物の割合が、ガスの総容量に対して5~100容量%である態様が好ましい。
【0087】
本発明の文脈において、SiOスート体のフッ素化は、不活性ガス炉、大気炉、るつぼ炉、貫流炉、等温炉、レトルト炉で行うことができる。
【0088】
[処理工程c.]
本発明による方法の工程c.では、フッ素化スート体がガラス化される。好ましくは処理工程c.におけるガラス化温度が1100~1500℃、好ましくは1150~1350℃の範囲である。後の石英ガラスにおけるブリスター形成を回避するために、ガラス化が真空下又はヘリウム又はヘリウム/フッ素化剤混合ガス雰囲気下で行われると有利であることが判明した。これはまた、処理チャンバの材料が、攻撃的で腐食性のガスによって劣化されず、従って、劣化が低減されるという利点を有する。
【0089】
材料、特に処理チャンバの材料を保護するために、スート体のドーピング及びフッ素化スート体のガラス化が異なる処理チャンバ内で行われると有利であることが判明している。従って、本発明方法によれば、処理工程c.におけるガラス化は、第1の処理チャンバとは異なる第2の処理チャンバ内で起こる。これを行うことにより、処理チャンバの各々は対応する処理工程のために最適化することができ、例えば、高温での攻撃性及び腐食性ガスによる材料への過度のストレスが回避される。従って、処理工程c.におけるガラス化が、処理工程a.及びb.が実行される第1の処理チャンバとは異なる第2の処理チャンバ内で実行される実施形態が好ましい。例えば、第2の処理チャンバは、フッ素化スート体のガラス化がゾーンごとに行われるゾーン炉であってもよい。好ましくは第2の処理チャンバはフッ素含有ガスに曝されない。
【0090】
フッ素化SiOスート体のガラス化の工程c.は、当業者に知られている通常の炉内で行うことができる。例としては、恒温炉、ガス加圧焼結炉、真空炉、貫流炉、常圧又は低圧の炉がある。
【0091】
好ましくは第2の処理チャンバはガラス化炉である。このような炉は当業者に知られており、そしてスート体のサイズ及び形状についての特定の要件に従って、本方法において使用することができる。
【0092】
さらなる実施形態では、処理工程b.及びc.は、石英ガラス処理管を備えた恒温炉内で実施される。適切な炉は、従来技術から当業者に知られている。
【0093】
第1の処理チャンバから第2の処理チャンバへのフッ素化スート体の移送中、雰囲気の水分は水の拡散をもたらし、その結果、OH基による汚染をもたらし、従って後続の石英ガラス中のOH基濃度の軸方向及び半径方向の不均一な分布をもたらす可能性がある。さらに、フッ素化スート体中のOH基の存在はこれらのOH基が光ファイバの通常の使用波長の範囲で高い吸収を示し、従って後の生成物の品質に悪影響を及ぼすという不利益を有する。従って、フッ素化スート体中のOH濃度を低下させるために、フッ素化スート体をガラス化前に乾燥工程にかけることが有利であることが証明されている。
【0094】
従って、フッ素化スート体が、ガラス化の前に第2の処理チャンバ内でさらなる乾燥工程に供され、乾燥が700~1200℃の範囲の温度で行われる実施形態が好ましい。このようにして除染を排除できることが示されている。フッ素化スート体を700℃を超える温度に加熱すると、OH基が放出され、このOH基は中間体の多孔性の結果として、加熱前面から離れて移動しそして中間体から離れる。中間体の既に精製された領域が放出された水と再び反応するのを防止するために、それらは不活性ガスで清浄化することによって、又は吸引によって除去することができる。減圧下でフッ素化スート体のガラス化を行うことが有利であることが判明している。このようにして、スート体の同時脱水は、焼結プロセス中に行われ、そしていかなる含有物も除かれる。さらに、後の石英ガラスにおけるブリスター形成が最小限に抑えられる。
【0095】
しかしながら、この方法は、スート体中に物理的に結合したドーパント特にガス状フッ素化合物がガラス化プロセス中に特に外層において部分的に脱着することができるという欠点を有する。その結果、望ましくない濃度勾配が形成されかつフッ素の消耗が起こる。これらの工程は第2の処理チャンバ内で実行することができ、従って、費用のかかる改造を回避することができる。新たな汚染を防止するために、第2の処理チャンバ内の乾燥工程における圧力が、第2の処理チャンバの外側よりも低いことが有利であることが判明している。従って、第2の処理チャンバ内の乾燥工程における圧力が1mbar未満である実施形態が特に好ましい。
【0096】
特に好ましい実施形態では、本発明による方法が以下の処理工程を含む:
処理工程A.1:石英ガラスの相対密度に基づいて18~30%の範囲の平均密度を有するスート体を提供すること;
処理工程A.2:700~1100℃の範囲の温度での前記スート体の乾燥;
処理工程A.3:必要に応じて、塩素含有ガスの存在下、700~1100℃の範囲の温度での前記スート体の化学乾燥;
処理工程B.1:第1の処理チャンバ内でスート体をフッ素化剤で処理してフッ素化スート体を形成する工程。ここで、フッ素化スート体の平均密度は、処理工程A.3におけるスート体の平均密度に対して最大30%増加する;
処理工程B.2:必要に応じて、フッ素化スート体を、塩素含有ガスの存在下、700~1100℃の範囲の温度で化学的に乾燥させる工程;
処理工程C.1:処理チャンバ内の1000℃を超える温度でフッ素化スート体のガラス化し、ドープ石英ガラスを形成する工程。ここで、処理チャンバ内の圧力は処理チャンバ外の圧力以下である。
【0097】
本発明の別の目的は、本発明方法により得られるドープ石英ガラスを提供することである。この石英ガラスは、フッ素含有量が高く、ブリスター形成が少ない場合であっても、フッ素で均一にドーピングされることを特徴とする。
【0098】
屈折率及び吸収作用が最大であるような石英ガラスの特性は、石英ガラス中の選択されたさらなる異種原子の存在によって影響され得る。従って、石英ガラスがフッ素に加えて他のドーパントを有する実施形態が好ましいが、そのドーパントは好ましくはAI,Yb,Er,NbO,TiO,Ce,Y、及びそれらの混合物からなる群から選択される。
【0099】
当業者に知られているように、石英ガラスの屈折率は、フッ素を選択的にドーピングすることによって調整することができる。しかしながら、当業者は石英ガラス中に存在するフッ素の量が製造方法によって制限されるという問題にしばしば直面する。何故なら、例えばフッ素が真空中での乾燥及びガラス化のような対応する処理工程によってスート体から再び除去されるからである。一方、本発明による石英ガラスは、石英ガラス中のフッ素含有量が高く、その分布が均一であることを特徴とする。従って、好ましい実施形態では、石英ガラス中のフッ素含有量がいずれの場合も質量部に基づいて、1,000~25,000ppm、好ましくは2,000~20,000ppmである。
【0100】
石英ガラス、特にドープされた石英ガラスは、光学及び分析において広く使用されている。従って、本発明のさらなる目的は、本発明によるドープされた石英ガラスを、光学部品、光ファイバ形態、又は光ファイバの一部として使用することである。
【0101】
本発明のさらなる目的は、フッ素化石英ガラスの製造のための上記のフッ素化剤の使用である。これらの使用の特定の実施形態に関して、本発明による方法の上記の議論が参照される。
【実施例0102】
以下の実施例を参照して、本発明をより詳細に説明する:
【0103】
(実施例)
本実施例では、以下の2つの異なるフッ素化剤を使用する:
(1)分子式C12OのNovec(登録商標)649(パーフルオロ(2-メチル-3-ペンタノン)((1,1,1,2,2,4,5,5,5-ノナフルオロ-4-(トリフルオロメチル)-3-ペンタノン))。この化合物は49℃の沸点を有する室温で液体である。
(2)分子式C10OのNovec(登録商標)5110(ペルフルオロ(2-メチル-3-ブタノン)((1,1,1,3,4,4,4-ヘプタフルオロ-3-(トリフルオロメチル)-2-ブタノン))。この化合物は26.9℃沸点を有する室温で液体である。
【0104】
両方の化合物は、3M Deutschland GmbH, Neuss(ドイツ)から市販されている。
【0105】
フッ素化剤は、以下のように気体反応物として提供される:
Novec(登録商標)649(沸点49℃)では、温度制御されたチャンバ内の温度制御された(二重壁、水で温度制御された)蒸発器又は前駆体貯蔵容器が試料及び気体キュベットを有する縦型管状炉と組み合わされて使用される。排ガスライン及び反応性ガスラインを有する配管系は、フッ素化が実施される反応ゾーンへの追加のガスの有無にかかわらず、前駆体の導入を可能にした。
【0106】
Novec(登録商標)5110(26,9℃)では、より低温の蒸発器容器を使用した。
【0107】
前駆体の流量は、温度によって、及びキャリアガスの流量によって調節された。
【0108】
処理すべきOVD体を管状炉内の石英ガラス反応器に入れ、最初に5K/分で200℃に加熱し(保持時間:2時間)、次に5K/分で900℃に加熱する(保持時間:最大15時間)ことによって50sccmのNで熱乾燥した。
【0109】
1つの実験(実験5)においてのみ、予備塩素化(25sccm Cl/25sccm N、3時間、1000℃)による化学的乾燥を行った。
【0110】
続いて、Novec(登録商標)649については下記の表1に、Novec(登録商標)5110については下記の表2に示す温度及び処理時間で、上記の2つの代替フッ素化剤のうちの1つを用いて加工を行った。
【0111】
前駆体流量として、6.5sccmは、通常、蒸発器の温度に応じてキャリアガス流量Nを調整することによって確保され、追加の流量Nはすべての実験において同じ総流量が達成されるように、それに応じて調整された。
【0112】
蒸発器の温度は、Novec(登録商標)649については25℃、Novec(登録商標)5110については4.3℃であった。
【0113】
処理した試料の最終焼結は真空下1550℃の焼結炉中の追加のコランダム保護管中で実施された。
【0114】
最終石英材料中のフッ素含有量を以下の表1及び2に示す。
【0115】
最終石英材料のフッ素含有量は、以下のようにして測定される:
厚さ1mmの薄片を各ガラス化試料の頂部及び底部から切り取り、その放射状フッ素濃度プロフィールを電子ビームマイクロ分析(ESMA)によって決定した。
【0116】
【表1】
【0117】
【表2】
【0118】
上記の実施例は、本発明方法がシリカスート材料をフッ素化するための効率的な方法であり、それによって、使用されるフッ素化材料はかなりの低減された地球温暖化ポテンシャル(GWP)を有し、非常に長い間大気中に残留しないことを示す。
【0119】
さらに、本発明によるフッ素化剤は、一般に従来技術の公知のフッ素化剤と比較して高い沸点を有し、これにより、取り扱いがより容易になる。
【外国語明細書】