(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022031296
(43)【公開日】2022-02-18
(54)【発明の名称】組織因子を標的とする抗体、その調製方法及びその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20220210BHJP
C07K 16/18 20060101ALI20220210BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20220210BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20220210BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20220210BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20220210BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220210BHJP
C12N 5/078 20100101ALI20220210BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220210BHJP
A61P 7/02 20060101ALI20220210BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20220210BHJP
A61P 3/00 20060101ALI20220210BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220210BHJP
【FI】
C12N15/13
C07K16/18 ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N5/078
A61P35/00
A61P7/02
A61P29/00
A61P3/00
A61K39/395 N
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021191925
(22)【出願日】2021-11-26
(62)【分割の表示】P 2019511436の分割
【原出願日】2017-02-20
(31)【優先権主張番号】201610705557.4
(32)【優先日】2016-08-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】519058734
【氏名又は名称】フータン ユニバーシティ
(71)【出願人】
【識別番号】519058745
【氏名又は名称】シャンハイ ミラコーケン インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100182730
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 浩明
(72)【発明者】
【氏名】ユイ コー
(72)【発明者】
【氏名】チャン シュエサイ
(72)【発明者】
【氏名】リン チン
(72)【発明者】
【氏名】リー チンロウ
(57)【要約】
【課題】本発明は、組織因子(TF)モノクローナル抗体及びその調製方法を提供する。
【解決手段】本発明により提供されるモノクローナル抗体は、TF抗原を特異的に結合し、高い親和性及び低い免疫原性を有し、そして腫瘍に抵抗する活性、などを有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗体の重鎖可変領域であって、前記重鎖可変領域が以下の3種の相補性決定領域(CDR)を含み:
配列番号1に記載の配列を有するCDR1、
配列番号2に記載の配列を有するCDR2、及び
配列番号3に記載の配列を有するCDR3;
ここで前記アミノ酸配列中の任意のアミノ酸配列がさらに、少なくとも1つのアミノ酸の任意の付加、欠失、修飾及び/又は置換から生じ、そしてTF-結合親和性を保持する誘導体配列を含むことを特徴とする、抗体の重鎖可変領域。
【請求項2】
前記重鎖が、請求項1に記載の重鎖可変領域を有することを特徴とする、抗体の重鎖。
【請求項3】
抗体の軽鎖可変領域であって、前記軽鎖可変領域が、下記:
配列番号4に記載の配列を有するCDR1′
配列番号5に記載の配列を有するCDR2′及び
配列番号6に記載の配列を有するCDR3′
から成る群から選択される相補性決定領域(CDR)を含み、
前記アミノ酸配列中の任意のアミノ酸配列が、少なくとも1つのアミノ酸の付加、欠失、修飾及び/又は置換から生じ、そしてTF-結合親和性を有する誘導体配列を含むことを特徴とする、抗体の軽鎖可変領域。
【請求項4】
前記軽鎖が、請求項3に記載の軽鎖可変領域を有することを特徴とする、抗体の軽鎖。
【請求項5】
抗体であって、前記抗体が、以下:
(1)請求項1に記載の重鎖可変領域;及び/又は
(2)請求項3に記載の軽鎖可変領域、
を有し、又は
前記抗体が請求項2に記載の重鎖;及び/又は請求項4に記載の軽鎖を有することを特徴とする、抗体。
【請求項6】
動物由来の抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体又はそれらの組合せから選択されることを特徴とする、請求項5に記載の抗体。
【請求項7】
前記抗体の重鎖可変領域配列が、配列番号7、9、10、11、12又は13から成る群から選択され;そして/又は
前記抗体の軽鎖可変領域配列が、配列番号8、14、15、16又は17から成る群から選択されることを特徴とする、請求項5に記載の抗体。
【請求項8】
付加された、欠失された、修飾された、及び/又は置換されたアミノ酸の数が1~7であることを特徴とする、請求項5に記載の抗体。
【請求項9】
少なくとも1つのアミノ酸の付加、欠失、修飾及び/又は置換から生じる配列が、少なくとも80%の相同性を有するアミノ酸配列であることを特徴とする、請求項5に記載の抗体。
【請求項10】
(a)診断剤の製造;及び/又は(b)TF-関連疾患の予防及び/又は治療のための医薬の製造のために使用されることを特徴とする、請求項5に記載の抗体の使用。
【請求項11】
前記TF-関連疾患が、下記:
腫瘍の発生、増殖及び/又は転移;
血栓症関連疾患;
炎症;及び
代謝関連疾患
から成る群から選択されることを特徴とする、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
前記腫瘍が、高TF-発現を有する腫瘍であることを特徴とする、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
(i)請求項1に記載の重鎖可変領域、請求項2に記載の重鎖、請求項3に記載の軽鎖可変領域、請求項4に記載の軽鎖、又は請求項5に記載の抗体;及び
(ii)任意には、発現及び/又は精製を補助するタグ配列、
を有することにより特徴づけられる組換えタンパク質。
【請求項14】
(1)請求項1に記載の重鎖可変領域、請求項2に記載の重鎖、請求項3に記載の軽鎖可変領域、請求項4に記載の軽鎖、又は請求項5に記載の抗体;又は
(2)請求項13に記載の組換えタンパク質、
から成る群から選択されたポリペプチドをコードすることにより特徴づけられるポリヌクレオチド。
【請求項15】
本発明の請求項14に記載のポリヌクレオチドを含むことにより特徴づけられるベクター。
【請求項16】
請求項15に記載のベクターを含むか、又はゲノムに組込まれた請求項14に記載のポリヌクレオチドを有することにより特徴づけられる、遺伝子操作された宿主細胞。
【請求項17】
(a)請求項1に記載重鎖可変領域、請求項2に記載の重鎖、請求項3に記載の軽鎖可変領域、請求項4に記載の軽鎖、請求項5に記載の抗体、又はそれらの組合せから選択された抗体部分;及び
(b)前記抗体部分に接合された接合部分、ここで前記接合部分は、検出可能マーカー、トキシン、サイトカイン、放射性核種、酵素、又はそれらの組合せから選択される、を含むことにより特徴づけられる、抗体-薬物接合体。
【請求項18】
請求項5に記載の抗体を発現するか、又は細胞膜外に露出される請求項5に記載の抗体を発現する免疫細胞。
【請求項19】
(i)請求項1に記載の重鎖可変領域、請求項2に記載の重鎖、請求項3に記載の軽鎖可変領域、請求項4に記載の軽鎖、請求項5に記載の抗体、請求項13に記載の組換えタンパク質、請求項17に記載の抗体-薬物接合体、請求項18に記載の免疫細胞、又はそれらの組合せから選択された活性成分;及び
(ii)医薬的に許容できる担体、
を含むことにより特徴づけられる、医薬組成物。
【請求項20】
請求項1に記載重鎖可変領域、請求項2に記載の重鎖、請求項3に記載の軽鎖可変領域、請求項4に記載の軽鎖、請求項5に記載の抗体、請求項13に記載の組換えタンパク質、請求項17に記載の抗体-薬物接合体、請求項18に記載の免疫細胞、又はそれらの組合せから選択されることを特徴とする、医薬、剤、試験パネル又はキットの製造のための活性成分の使用。
【請求項21】
インビトロでサンプル中のTFタンパク質を決定するための方法であって、以下の工程:
(a)インビトロで請求項5に記載の抗体と、サンプルとを接触し;そして
(b)抗原-抗体複合体が形成されるかどうかを決定することを含み、ここで前記複合体の形成がサンプル中のTFタンパク質の存在を示す、方法。
【請求項22】
基板(支持プレート)及び試験片を含み、前記試験片が請求項5に記載の抗体又は請求項17に記載の免疫接合体を含むことを特徴とする、試験パネル。
【請求項23】
組換えポリペプチドの調製方法であって、
(a)発現のために適切な条件下で請求項16に記載の宿主細胞を培養し;そして
(b)培養物から組換えポリペプチドを分離し、前記組換えポリペプチドが請求項5に記載の抗体又は請求項13に記載の組換えタンパク質である、方法。
【請求項24】
請求項5に記載の抗体、前記抗体の抗体-薬物接合体、又は前記抗体を発現するCAR-T細胞を用いることを含む、腫瘍、血栓性疾患、炎症性疾患及び/又は代謝性疾患の治療方法。
【請求項25】
ヒトTFタンパク質に対する親和性について0.01~0.03nMのED50を有することを特徴とする、抗体-TF抗体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗体、特にヒト組織因子(TF)を標的とする抗体、その調製方法及び使用に関する。
【背景技術】
【0002】
組織因子(TF)は、47kDaのトランスメンブラン糖タンパク質である。通常の生理学的条件下で、TF発現は主に、内皮下層の細胞に限定され;血管が生体内で損傷されると、TFが血流に暴露され、そして第VII因子に結合し、そして活性化することにより、外因性凝固反応を開始する。
【0003】
TFが異常に活性化され、そして多くの腫瘍組織において発現され、そして腫瘍の発生及び進行において重要な役割を演じることが研究において見出された。特に癌の進行期において、ほとんどの患者は、自発的血栓症、例えば深部静脈血栓症(DVT)、播種性血管内凝固症候群(DIC)及び肺塞栓症(PE)を伴い(Thrombosis research, 2013, 131: S59-S62; Journal of Thrombosis and Haemostasis, 2011, 9(s1): 306-315);腫瘍細胞におけるTFの異常発現は、それらの症状の主なる原因である。多くの腫瘍の臨床サンプルについての分析は、TFの発現レベルが悪化指標、例えば患者における腫瘍の転移及び血栓症の発生に直接的に影響を及ぼし、例えば異常TF発現の割合が、乳癌で85.8%、膵臓癌で88.5%、肺癌で83.6%及び食道癌において91.3%、等であったことを示している(Blood, 2012, 119: 924-932)。
【0004】
外因性凝固反応の開始に加えて、TF/FVIIa複合体は、トランスメンブランGタンパク質共役受容体、すなわちプロテアーゼ活性化受容体2(PAR2)に直接的に結合し、そして活性化を誘発することができる。PAR2は、炎症応答を調節する重要なシグナル経路である。腫瘍の分野におけるPAR2についての研究はほとんどないが、TFがPAR2により細胞における一連の腫瘍機能シグナルに影響を及ぼすことができると考えられる。要約すると、TF-PAR2は重要な成長因子、免疫調節剤、及びケモカイン(例えば、VEGF、CSF1/2、IL8、CXCL1、等)の遺伝子発現を誘発し、血管新生を促進し、そしてMAPK/ERKリン酸化による腫瘍増殖のための適切な栄養素、エネルギー及び適切な環境を提供する。さらに、TFはまた、Rac1及びβ1ファミリー関連インテグリンとの相互作用により腫瘍細胞の移動及び付着を増強することができ、それにより、一般的に腫瘍細胞の血行性転移能力を増強することができる(Journal of Thrombosis research, 2012, 130: S84-S87; Journal of Thrombosis and Haemostasis, 2013, 11: 285-293; International Journal of Cancer, 2014, doi: 10.1002/ijc.28959; Blood, 2012, 119: 924-932)。
【0005】
一方、TF誘発性凝固亢進状態は、腫瘍細胞の生存及び血行性転移を直接促進し(Blood, 2008, 111: 190-9; Cancer Res., 2015, 75 (1 Suppl): Abstract nr B19)、すなわちTF/FVIIa開始の凝固は、トロンビンの形成、及びフィブリンの沈着をもたらし、それは腫瘍細胞が免疫攻撃から逃れることを可能にするのみならず、腫瘍細胞と内皮細胞との間の相互作用を増強し、腫瘍細胞の拡散及び浸潤を助け、そして血行性転移の発生を促進する。これはまた、現在、癌を治療することが困難である重要な理由である。
【0006】
TFはまた、血栓性疾患においても役割を果たすことが、研究により示されている。腫瘍の発生及び進行におけるその役割に加えて、TF又はMPTF(微小粒子組織因子)-開始の凝固もまた、静脈血栓塞栓症(VTE)を誘発する重要な理由であり、そしてさらに、その血液中の含有量がVTEの重症度に正比例している。現在、TFが臨床におけるVTE患者の診断及び状態評価のための重要なマーカーとして、及びVTE治療のための潜在的標的として使用され得ることを示す多くの研究が存在する(Thrombosis research, 2010, 125: 511-512; Lupus., 2010, 19: 370-378; Annual review of physiology, 2011, 73: 515-525)。動脈血栓症におけるTFの役割もまた無視できない。多くの臨床データは、TFがアテローム性動脈硬化症の発症及び進行に重要な役割を果たすことを示している。2009年に、Steppich BA, Braun SL等は、不安定性狭心症(uAP)の174人の患者、及び急性心筋梗塞(AMI)の112人の患者の研究を行い、そしてその結果は、血漿中のTFの活性が心血管疾患の患者の死亡率に直接的な影響を有し、そしてTFが心血管患者の診断及び予後のためのマーカーとして使用され得ることを示し(Thrombosis research, 2012, 129: 279-284; Thromb J., 2009, 7(11): 1-9);2014年に、Jiang P, Xue D等は、光化学的に誘発された血栓症モデアル及びFeCl3により誘発された血栓症モデルの研究を行い、そして血液凝固の内因性経路と比較し、血液凝固のTF開始された外因性経路が動脈血栓症患者の発症及び進行に重要な役割を果たしたことを示し、そして実験結果はさらに、血液凝固のTF開始外因性経路が動脈血栓性患者の治療のための標的として使用され得ることを証明した(Thrombosis research, 2014, 133(4): 657-666)。
【0007】
TFはまた、炎症及び代謝性疾患においても役割を果たす。炎症性患者の発症が異常な血管形成及び凝固を伴うことが研究により示されている。Maria I Bokarewa等により行われた研究は、種々の炎症性刺激が内因細胞及び単核細胞の表面上のTFの発現を促進することを示しており、そしてそれらの実験は、TFの過剰発現がまた、炎症を誘発し、そして促進するための主要因子であることも示している(Arthritis Res 2002, 4:190-195)。
【0008】
さらに、研究はまた、TFが肥満及び糖尿病の治療において有意な調節役割を果たすことを示している。例えば、Leylla Badeanlou等により行われた研究は、TFを標的とする特異的抗体、又はTFのノックアウトによるTF-PAR2シグナル経路の遮断が食事誘発性肥満及び脂肪組織炎症の発症を有意に阻害し、そして糖尿病に対するインスリンの治療効果を有意に改善し得ることを示している(Nature medicine, 2011, 17(11): 1490-1497)。
【0009】
従って、種々の関連疾患におけるTFの役割及び機能を考慮すると、TFを標的とする特異的治療抗体の開発は、種々の患者、例えば癌、血栓症及び炎症においてTFにより引起される、血管増殖、異常凝固等に起因する病理学的特徴の診断、治療及び予防に極めて有益である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、ヒトTFを特異的に標的とし、腫瘍増殖及び転移を阻害する活性を有し、そして抗凝固活性、活性化された凝固因子X(FXa)の産生を阻害する活性などを有するTF抗体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1の側面によれば、本発明は、以下の3種の相補性決定領域(CDR)を含み:
配列番号1に記載の配列を有するCDR1、
配列番号2に記載の配列を有するCDR2、及び
配列番号3に記載の配列を有するCDR3;
ここで前記アミノ酸配列中の任意のアミノ酸配列がさらに、少なくとも1つのアミノ酸の任意の付加、欠失、修飾及び/又は置換から生じ、そしてTF-結合親和性を保持する誘導体配列を含む、抗体の重鎖可変領域を提供する。
【0012】
第2の側面によれば、本発明は、第1の側面の重鎖可変領域を有する、抗体の重鎖を提供する。
【0013】
別の好ましい側面によれば、重鎖可変領域は、配列番号7に示されるようなアミノ酸配列を有する。
【0014】
第3の側面によれば、本発明は、下記:
配列番号4に記載の配列を有するCDR1′
配列番号5に記載の配列を有するCDR2′
配列番号6に記載の配列を有するCDR3′
から成る群から選択される相補性決定領域(CDR)を含み、
前記アミノ酸配列中の任意のアミノ酸配列が、少なくとも1つのアミノ酸の付加、欠失、修飾及び/又は置換から生じ、そしてTF-結合親和性を有する誘導体配列を含む、抗体の軽鎖可変領域を提供する。
【0015】
第4の側面によれば、本発明は、第3の側面の軽鎖可変領域を有する、抗体の軽鎖を提供する。
【0016】
別の好ましい側面によれば、軽鎖可変領域は、配列番号8に示されるようなアミノ酸配列を有する。
【0017】
第5の側面によれば、本発明は、以下:
(1)第1の側面の重鎖可変領域;及び/又は
(2)第3の側面の軽鎖可変領域、
を有する抗体を提供し、又は
前記抗体は第2の側面の重鎖;及び/又は第4の側面の軽鎖を有する。
【0018】
別の好ましい例によれば、抗体は、動物由来の抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体又はそれらの組合せから選択される。
【0019】
別の好ましい例によれば、付加され、欠失され、修飾され、そして/又は置換されたアミノ酸の数は、初期アミノ酸配列のアミノ酸の合計数の90%を越えない。
【0020】
別の好ましい例によれば、付加され、欠失され、修飾され、そして/又は置換されたアミノ酸の数は、1~7である。
【0021】
別の好ましい例によれば、少なくとも1つのアミノ酸の付加、欠失、修飾及び/又は置換から生じる配列は、少なくとも80%の相同性を有するアミノ酸配列である。
【0022】
別の好ましい例によれば、少なくとも1つのアミノ酸の付加、欠失、修飾及び/又は置換から生じる配列は、TF関連シグナル経路を阻害する活性、抗凝固活性、及びFXaの産生を阻害する活性を有する。
【0023】
別の好ましい例によれば、抗体は、TF-mAb-SC1、TF-mAb-Ch、TF-mAb-H39及びTF-mAb-H44から成る群から選択される。
【0024】
第6の側面によれば、本発明は、(a)診断剤の製造;及び/又は(b)TF-関連疾患の予防及び/又は治療のための医薬の製造のための本発明の抗体の使用を提供する。
【0025】
別の好ましい例によれば、TF-関連疾患は、腫瘍の発生、増殖及び/又は転移;血栓症関連疾患;炎症;及び代謝関連疾患から成る群から選択される。
【0026】
別の好ましい例によれば、腫瘍は、高TF発現を有する腫瘍である。
【0027】
別の好ましい例によれば、発現の「高TF発現」とは、腫瘍組織中のTF転写体及び/又はタンパク質レベルL1が正常組織中の転写体及び/又はタンパク質レベルLOと比較される場合、L1/L0≧2、好ましくは≧3であることを意味する。
【0028】
別の好ましい例によれば、腫瘍は、トリプルネガティブ乳癌、膵臓癌、肺癌及び悪性神経膠腫から成る群から選択される。
【0029】
別の好ましい例によれば、薬物は、抗体-薬物接合体である。
【0030】
第7の側面によれば、本発明は、(i)第1の側面の重鎖可変領域第2の側面の重鎖、第3の側面の軽鎖可変領域、第4の側面の軽鎖、又は第5の側面の抗体;及び
(ii)任意には、発現及び/又は精製を補助するタグ配列を有する組換えタンパク質を提供する。
【0031】
第8の側面によれば、本発明は、(1)第1の側面の重鎖可変領域、第2の側面の重鎖、第3の側面の軽鎖可変領域、第4の側面の軽鎖、又は第5の側面の抗体;又は
(2)第7の側面の組換えタンパク質、
から選択されたポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを提供する。
【0032】
第9の側面によれば、本発明は、第8の側面のポリヌクレオチドを含むベクターを提供する。
【0033】
第10の側面によれば、本発明は、第9の側面のベクターを含むか、又はゲノムに組込まれた第8の側面のポリヌクレオチドを有する、遺伝子操作された宿主細胞を提供する。
【0034】
第11の側面によれば、本発明は、
(a第1の側面の重鎖可変領域、第2の側面の重鎖、第3の側面の軽鎖可変領域、第4の側面の軽鎖、又は第5の側面の抗体、又はそれらの組合せから選択された抗体部分;及び
(b)前記抗体部分に接合された接合部分、ここで前記接合部分は、検出可能マーカー、トキシン、サイトカイン、放射性核種、酵素、又はそれらの組合せから選択される、を含む抗体-薬物接合体を提供する。
【0035】
別の好ましい例によれば、抗体部分は、化学結合又はリンカーを介して接合部分に接合される。
【0036】
別の好ましい例によれば、抗体-薬物接合体中の抗体部分は、TF-mAb-SC1、TF-mAb-Ch、又はTF-mAb-H29からTF-mAb-H48から成る群から選択され;より好ましくは、抗体部分は、TF-mAb-H39及びTF-mAb-H44から成る群から選択される。
【0037】
第12の側面によれば、本発明は、本発明の第5の側面の抗体を発現するか、又は細胞膜外に露出される本発明の第5の側面の抗体を発現する免疫細胞を提供する。
【0038】
別の好ましい例によれば、免疫細胞は、NK細胞、T細胞を含む。
【0039】
別の好ましい例によれば、免疫細胞は、ヒト免疫細胞である。
【0040】
別の好ましい例によれば、抗体は、単鎖抗体である。
【0041】
第13の側面によれば、本発明は、
(i)第1の側面の重鎖可変領域、第2の側面の重鎖、第3の側面の軽鎖可変領域、第4の側面の軽鎖、第5の側面の抗体、第7の側面の組換えタンパク質、第11の側面の抗体-薬物接合体、第12の側面の免疫細胞、又はそれらの組合せから選択された活性成分;及び
(ii)医薬的に許容できる担体、を含む医薬組成物を提供する。
【0042】
第14の側面によれば、本発明は、第1の側面の重鎖可変領域、第2の側面の重鎖、第3の側面の軽鎖可変領域、第4の側面の軽鎖、第5の側面の抗体、第7の側面の組換えタンパク質、第11の側面の抗体-薬物接合体、第12の側面の免疫細胞、又はそれらの組合せから選択された、医薬、剤、試験パネル又はキットの製造のための活性成分の使用を提供する。
【0043】
別の好ましい例によれば、前記剤、試験パネル又はキットは、
(1)サンプル中のTFタンパク質を検出し;そして/又は
(2)腫瘍細胞中の内因性TFタンパク質を検出し;そして/又は
(3)TFタンパク質を発現する腫瘍細胞を検出するために使用され;そして
前記医薬は、疾患、例えばTFタンパク質発現腫瘍、血栓性疾患、肥満及び糖尿病を治療するか又は予防するために使用される。
【0044】
第15の側面によれば、本発明は、以下の工程:
(a)インビトロで本発明の抗体と、サンプルとを接触し;そして
(b)抗原-抗体複合体が形成されるかどうかを決定することを含み、ここで前記複合体の形成がサンプル中のTFタンパク質の存在を示す、インビトロでサンプル中のTFタンパク質を決定するための(診断的に又は非-診断的に決定することを含む)方法を提供する。
【0045】
第16の側面によれば、本発明は、基板(支持プレート)及び試験片を含み、前記試験片が第5の側面の抗体又は第11の側面の免疫接合体を含む、試験パネルを提供する。
【0046】
第17の側面によれば、本発明は、
(1)本発明の抗体を含む第1容器;及び/又は
(2)本発明の抗体に対する第2抗体を含む第2容器を含むキットを提供し、又は
第16の側面の試験パネルを含むキットを提供する。
【0047】
第18の側面によれば、本発明は、
(a)発現のために適切な条件下で第10の側面の宿主細胞を培養し;そして
(b)培養物から組換えポリペプチドを分離し、前記組換えポリペプチドが第5の側面の抗体又は第7の側面の組換えタンパク質である、組換えポリペプチドの調製方法を提供する。
【0048】
第19の側面によれば、本発明は、第5の側面の抗体、前記抗体の抗体-薬物接合体、又は前記抗体を発現するCAR-T細胞を用いる(例えば、その必要な対象に投与する)ことを含む、腫瘍、血栓性疾患、炎症性疾患及び/又は代謝性疾患の治療方法を提供する。
【0049】
別の好ましい例によれば、代謝性疾患は、肥満又は糖尿病を含む。
【0050】
第20の側面によれば、本発明は、ヒトTFタンパク質に対する親和性について0.005~0.10nM、好ましくは0.005~0.05nM、より好ましくは0.01~0.03nM又は0.01~0.02nMのED50を有することを特徴とする、抗体-TF抗体を提供する。
【0051】
別の好ましい例によれば、抗体は、野生型マウスTFタンパク質に結合しない。
【0052】
別の好ましい例によれば、抗体は、下記;
(a)腫瘍細胞の移動又は転移の阻害;及び
(b)腫瘍増殖の阻害、から成る群から選択される1又は2以上の特徴を有する。
【0053】
別の好ましい例によれば、抗体は、TF-mAb-SC1、TF-mAb-Ch、又はTF-mAb-H29~TF-mAb-H48であり;好ましくは、抗体は、TF-mAb-SC1、TF-mAb-Ch、TF-mAb-H39、及びTF-mAb-H44から成る群から選択される。
【0054】
第21の側面によれば、本発明は、下記工程:
本発明のネズミ抗体可変領域のヌクレオチド配列を、ヒト抗体不変領域を含む発現ベクター中にクローニングした後、動物細胞をトランスフェクトすることにより、ヒト-マウスキメラ抗体を発現する工程;
本発明のヒトFR領域を含む抗体可変領域のヌクレオチド配列を、ヒト抗体不変領域を含む発現ベクター中にクローニングした後、動物細胞をトランスフェクトすることにより、ヒト化抗体を発現する工程を含む、ヒト化又はキメラ抗体の調製方法を提供する。
【0055】
別の好ましい例によれば、抗体は、部分的に又は完全にヒト化されたモノクローナル抗体である。
【0056】
第22の側面によれば、本発明は、本発明の抗体、その抗体の抗体-薬物接合体、又はその抗体を発現するCAR-T細胞を、その必要な対象に投与する工程を含むことにより特徴づけられる、腫瘍細胞の転移を阻害するための方法を提供する。
【0057】
本発明の範囲内で、上述の本発明の技術的特徴と以下に(例えば実施例において)記載される技術的特徴とを互いに組み合わせて、新規又は好ましい技術的解決策を構成することができることが理解されるべきである。スペースを節約するために、これらの組み合わせはここではこれ以上説明しない。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【
図1】
図1は、ヒトTF陽性(MDA-MB-231及びBxPC-3)及びネズミTF陽性(B16-F10)細胞に対する一連のオリジナル抗ヒトTFモノクローナル抗体(オリジナルハイブリドーマ)の結合活性を示し、ここでTF-mAb-SC1は、10μg/mlの濃度で最良の結合活性を示した。
【0059】
【
図2】
図2は、ELISAにより決定された、TFの細胞外ドメインタンパク質に対するTF-mAb-SC1の結合親和性を示す。
【0060】
【
図3】
図3は、ウェルターンブロットにより決定された、BxPC-3におけるTF-PAR2細胞内シグナル経路に対する一連のオリジナルモノクローナル抗体の阻害効果を示す。
【0061】
【
図4A】
図4は、単一酵素消化及び二重酵素消化によるヒト-マウスキメラ抗体(TF-mAb-Ch)の発現プラスミドの制限酵素消化を示し、ここで
図4Aは、単一酵素消化及び二重酵素消化による重鎖可変領域の発現プラスミドの同定結果を示し、
図4Bは、単一酵素消化及び二重酵素消化による軽鎖可変領域の発現プラスミドの同定結果を示す。
【
図4B】
図4は、単一酵素消化及び二重酵素消化によるヒト-マウスキメラ抗体(TF-mAb-Ch)の発現プラスミドの制限酵素消化を示し、ここで
図4Aは、単一酵素消化及び二重酵素消化による重鎖可変領域の発現プラスミドの同定結果を示し、
図4Bは、単一酵素消化及び二重酵素消化による軽鎖可変領域の発現プラスミドの同定結果を示す。
【0062】
【
図5A】
図5は、癌細胞表面TFへのTF-mAb-SC1の結合親和性を示し、ここで
図5Aは、BxPC-3細胞への結合親和性の結果を示し、
図5Bは、MDA-MB-231細胞への結合親和性の結果を示し、
図5Cは、U87MG細胞への結合親和性の結果を示し、そして
図5Dは、H1975細胞への結合親和性の結果を示す。
【
図5B】
図5は、癌細胞表面TFへのTF-mAb-SC1の結合親和性を示し、ここで
図5Aは、BxPC-3細胞への結合親和性の結果を示し、
図5Bは、MDA-MB-231細胞への結合親和性の結果を示し、
図5Cは、U87MG細胞への結合親和性の結果を示し、そして
図5Dは、H1975細胞への結合親和性の結果を示す。
【
図5C】
図5は、癌細胞表面TFへのTF-mAb-SC1の結合親和性を示し、ここで
図5Aは、BxPC-3細胞への結合親和性の結果を示し、
図5Bは、MDA-MB-231細胞への結合親和性の結果を示し、
図5Cは、U87MG細胞への結合親和性の結果を示し、そして
図5Dは、H1975細胞への結合親和性の結果を示す。
【
図5D】
図5は、癌細胞表面TFへのTF-mAb-SC1の結合親和性を示し、ここで
図5Aは、BxPC-3細胞への結合親和性の結果を示し、
図5Bは、MDA-MB-231細胞への結合親和性の結果を示し、
図5Cは、U87MG細胞への結合親和性の結果を示し、そして
図5Dは、H1975細胞への結合親和性の結果を示す。
【0063】
【
図6】
図6は、BxPC-3細胞におけるFVIIa-活性化TF-PAR2の細胞内シグナル経路に対するTF-mAb-SC1の効果を示す。
【0064】
【
図7A】
図7は、BxPC-3細胞(
図7A)及びMDA-MB-231細胞(
図7B)由来のTFにより開始される凝固を阻害するためのTF-mAb-SC1の活性を示す。
【
図7B】
図7は、BxPC-3細胞(
図7A)及びMDA-MB-231細胞(
図7B)由来のTFにより開始される凝固を阻害するためのTF-mAb-SC1の活性を示す。
【0065】
【
図8A】
図8は、BxPC-3細胞(
図8A)及びMDA-MB-231細胞(
図8B)由来のTFにより誘発されるFXa産生を阻害するためのTF-mAb-Sc1の活性の結果を示す。
【
図8B】
図8は、BxPC-3細胞(
図8A)及びMDA-MB-231細胞(
図8B)由来のTFにより誘発されるFXa産生を阻害するためのTF-mAb-Sc1の活性の結果を示す。
【0066】
【
図9】
図9は、ヌードマウスにおける皮下BxPC-3異種移植腫瘍増殖を阻害するためのTF-mAb-SC1の活性を示す(矢印は投与開始の時間を示す)。
【0067】
【
図10】
図10は、ヌードマウスにおける皮下U87MG異種移植腫瘍増殖を阻害するためのTF-mAb-SC1の活性の結果を示す(矢印は投与開始の時間を示す)。
【0068】
【
図11】
図11は、HCC1806異種移植腫瘍増殖を現場阻害するためのTF-mAb-SC1の活性の結果を示す(矢印は投与開始の時間を示す)。
【0069】
【
図12】
図12は、BxPC-3腫瘍マトリックスコラーゲンの蓄積を阻害するためのTF-mAb-SC1の活性、及びImage-pro plusを用いての統計学的分析の結果を示す。
【0070】
【
図13】
図13は、BxPC-3腫瘍血管の内腔領域を縮小するためのTF-mAb-SC1の活性及びその統計学的結果を示す。
【0071】
【
図14A】
図14は、TF遺伝子がノックアウトされている条件下でのMDA-MB-231細胞(
図14A)、及びBxPC-3細胞(
図14B)の移動能力の決定を示す。
【
図14B】
図14は、TF遺伝子がノックアウトされている条件下でのMDA-MB-231細胞(
図14A)、及びBxPC-3細胞(
図14B)の移動能力の決定を示す。
【0072】
【
図15A】
図15は、MDA-MB-231細胞(
図15A)、及びBxPC-3細胞(
図15B)の移動能力を阻害するためのTF-mAb-SC1の活性の決定を示す。
【
図15B】
図15は、MDA-MB-231細胞(
図15A)、及びBxPC-3細胞(
図15B)の移動能力を阻害するためのTF-mAb-SC1の活性の決定を示す。
【0073】
【
図16】
図16は、TF遺伝子がノックアウトされた後、マウスにおけるMDA-MB-231-luc細胞の血行性移動能力の決定、及びその蛍光強度の統計学的結果を示す。
【0074】
【
図17】
図17は、マウスにおけるMDA-MB-231-luc細胞の血行性移動能力を阻害するためのTF-mAb-SC1の活性の決定、及びその蛍光強度の統計学的結果を示す。
【0075】
【
図18A】
図18Aは、マウスの肺上でのMDA-MB-231腫瘍転移巣の形成に関する代表的な画像及び統計学的分析を示し、そして
図18Bは、各グループにおける肺重量に関する統計学的分析の結果を示す。
【
図18B】
図18Aは、マウスの肺上でのMDA-MB-231腫瘍転移巣の形成に関する代表的な画像及び統計学的分析を示し、そして
図18Bは、各グループにおける肺重量に関する統計学的分析の結果を示す。
【0076】
【
図19】
図19は、レーザー共焦点顕微鏡下で観察された、MDA-MB-231細胞によるリソソームへのTF-mAb-SC1の内在化の結果を示す。
【0077】
【
図20】
図20は、ELISAにより決定された、TFの細胞外ドメインタンパク質へのキメラ抗体TF-mAb-Chの結合親和性を示す。
【0078】
【
図21A】
図21Aは、TF陽性腫瘍細胞MDA-MB-231へのTF-mAb-Chの結合親和性を示し、
図21Bは、TF陽性腫瘍細胞HCC1806へのTF-mAb-Chの結合親和性の結果を示す。
【
図21B】
図21Aは、TF陽性腫瘍細胞MDA-MB-231へのTF-mAb-Chの結合親和性を示し、
図21Bは、TF陽性腫瘍細胞HCC1806へのTF-mAb-Chの結合親和性の結果を示す。
【0079】
【
図22】
図22は、BxPC-3細胞におけるTF-PAR2細胞内シグナル経路を阻害するためのTF-mAb-Chの活性を示す。
【0080】
【
図23】
図23は、MDA-MB-231細胞によるリソソームへのTF-mAb-Chの内在化の結果を示す。
【0081】
【
図24A】
図24Aは、ELISAにより決定された、TFの細胞外ドメインタンパク質へのヒト化抗体TF-mAb-H39の結合親和性を示し、
図24Bは、ELISAにより決定された、TFの細胞外ドメインタンパク質へのヒト化抗体TF-mAb-H44の結合親和性を示す。
【
図24B】
図24Aは、ELISAにより決定された、TFの細胞外ドメインタンパク質へのヒト化抗体TF-mAb-H39の結合親和性を示し、
図24Bは、ELISAにより決定された、TFの細胞外ドメインタンパク質へのヒト化抗体TF-mAb-H44の結合親和性を示す。
【0082】
【
図25】
図25は、BxPC-3細胞におけるTF-PAR2細胞内シグナル経路に対するヒト化抗体の効果の結果を示す。
【0083】
【
図26】
図26は、HCC1806異種移植腫瘍増殖を阻害するための種々のヒト化抗体の活性の結果を示す。
【0084】
【
図27】
図27は、HCC1806異種移植腫瘍増殖を阻害するためのキメラ抗体TF-mAb-Ch及びヒト化抗体TF-mAb-H39の用量反応活性を示す。
【0085】
【
図28】
図28は、ウェスターンブロットにより決定された、高浸潤性及び高転移性基底様乳癌(特に、トリプルネガティブ乳癌)細胞系、及び内腔サブタイプ乳癌細胞系におけるTFタンパク質の発現結果の比較を示す。
【0086】
【
図29】
図29は、データベースE-TABM-157 (European Molecular Biology Laboratory-European Bioinformatics Institute, EMBL-EBI)に従って分析された、高浸潤性及び高転移性基底様乳癌(特に、トリプルネガティブ乳癌)細胞系、及び内腔サブタイプ乳癌細胞系におけるTF mRNAの発現レベル比較の結果を示す。
【0087】
【
図30】
図30は、ウェスターンブロットにより決定された、異なる膵臓癌細胞系におけるTFタンパク質レベルを示す。
【0088】
【
図31】
図31は、データベースGSE15471 (Gene Expression Omnibus, GEO)に従って分析された、隣接する正常組織と比較しての膵臓癌組織におけるTF mRNAの異常活性化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0089】
本発明者は、広範且つ詳細な研究及び多数のスクリーニングを実施することにより、意外にも抗-TFモノクローナル抗体(TF-mAb-SC1)を得、そしてその実験結果は、TFタンパク質に対するモノクローナル抗体がIgG2b抗体であることを示す。抗体は、高い特異性及び高い親和性でTF抗原に結合することができ(EC50は、ELISAにより決定される場合、約0.019nMである)、そして抗体は有意な抗腫瘍活性を有し、そして哺乳動物自体に対して明らかな毒性副作用を有さない。さらに、TF-mAb-SC1に基いて得られる、キメラ抗体、ヒト化抗体及びその対応するADCもまた、卓越した特性を有する。本発明は、それらに基いて達成された。
【0090】
抗体
本明細書において使用される場合、用語「抗体(antibody)」又は「免疫グロブリン(immunoglobulin)」とは、2つの同一の軽鎖(L)及び2つの同一の重鎖(H)から成る、同じ構造特性を有する約150,000Daのヘテロテトラマー糖タンパク質である。各軽鎖は、共有ジスルフィド結合を介して重鎖に結合され、そして異なる免疫グロブリンイソタイプは、重鎖間に異なる数のジスルフィド結合を有する。各重鎖及び各軽鎖に規則的等間隔の鎖内ジスルフィド結合も存在する。各重鎖は、一端で可変領域(VH)、続いて多くの不変領域を有する。各軽鎖は、一端で可変領域(VL)及び他端で不変領域;重鎖の第1不変領域に対応する軽鎖の不変領域、及び重鎖の不変領域に対応する軽鎖の可変領域を有する。特定のアミノ酸残基は、軽鎖の可変領域と重鎖の可変領域との間に界面を形成する。
【0091】
本明細書において使用される場合、用語「可変(variable)」とは、可変領域の特定部分における配列に関して、抗体がお互いに異なり、それが種々の特定の抗体のそれらの特定の抗原への結合及び特異性を担当していることを意味する。しかしながら、可変性は、抗体の可変領域全体に均一に分布されない。それは、軽鎖及び重鎖可変領域における相補性決定領域(CDR)又は超可変領域と呼ばれる3つのセグメントに集中されている。可変領域の保存部分は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる。天然に存在する重鎖及び軽鎖の各可変領域は、一般的に、結合ループを形成する3つのCDRにより連結されるβ-シート構造で存在し、そして場合によっては、部分的β-シート構造を形成できる、4つのFR領域を含む。各鎖におけるCDRは、FR領域を介して互いに密接に結合され、そして他の鎖のCDRと共に、抗体の抗原結合部位を形成する(Kabat et al., NIH Publ. No. 91-3242, Vol. I, pp. 647-669 (1991)を参照のこと)。不変領域は、抗原への抗体の結合に直接関与していないが、しかしながら、それらは異なる効果及び機能を示し、例えば抗体の抗体依存性細胞毒性に関与している。
【0092】
脊椎動物抗体(免疫グロブリン)の「軽鎖(light chain)」は、その不変領域のアミノ酸配列に依存して、2つの明白に異なるクラス(κ及びλと呼ばれる)のうちの1つに分類され得る。免疫グリブリンは、それらの重鎖不変領域のアミノ酸配列に依存して、異なるクラスに分類され得る。免疫グロブリンには主に以下の5つのクラスがあり:IgA、IgD、IgE、IgG、及びIgM、それらのいくつかはさらに、以下のサブクラス(アイソタイプ)に分類され得る:IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA、及びIgA2。異なるクラスの免疫グロブリンに対応する重鎖不変領域はそれぞれ、α、δ、 ε、 γ、 及び μと呼ばれる。異なるクラスの免疫グロブリンのサブユニット機構及び三次元配置は、当業者に良く知られている。
【0093】
一般的に、抗体の抗原結合特性は、可変領域を4つのフレームワーク領域(FR)に分割する、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる、重鎖及び軽鎖可変領域に位置する3つの特定領域により説明され得;4つのFRのアミノ酸配列は比較的保存的であり、そして結合反応には直接的に関与していない。それらのCDRは環構造を形成し、そしてそれらの環のFRにより形成されるβ-シートを介して立体構造内で互いに接近し、そして重鎖上のCDR及び対応する軽鎖上のCDRは抗体の抗原結合部位を構成する。同じタイプの抗体のアミノ酸配列を比較することにより、どのアミノ酸がFR又はCDRを形成するかが決定され得る。
【0094】
本発明は、損なわれていない抗体のみならず、また免疫学的活性を有する抗体のフラグメント、又は抗体及び別の配列により形成される融合タンパク質も含む。従って、本発明はまた、抗体のフラグメント、誘導体及び類似体を含む。
【0095】
本発明においては、抗体は、当業者に周知の技法により調製される、マウス、キメラ、ヒト化又は完全ヒト抗体を含む。ヒト及び非ヒト部分を含む、キメラ及びヒト化モノクローナル抗体などの組換え抗体は、標準的なDNA組換え技法により得られ、それらのすべては有用な抗体である。キメラ抗体は、異なる部分が異なる動物種に由来する分子、例えばマウス由来のモノクローナル抗体からの可変領域、及びヒト免疫グロブリンからの不変領域を有するキメラ抗体である(例えば、米国特許第4,816,567号及び第4,816,397号を参照のこと;それらはそれらの全体が参照により本明細書に組込まれる)。ヒト化抗体は、非ヒト種由来の1又は2以上の相補性決定領域(CDR)、及びヒト免疫グロブリン分子由来のフレームワーク領域を有する、非ヒト種由来の抗体分子を言及する(米国特許第5,585,089号を参照のこと;それはその全体が参照により本明細書に組込まれる)。それらのキメラ及びヒト化抗体は、当業界において良く知られている組換えDNA技法により調製され得る。
【0096】
本発明においては、抗体は、単一特異性、二重特異性、三重特異性、又は多重特異性であり得る。
【0097】
本発明においては、本発明の抗体はさらに、その保存的変異体を含み、それは本発明の抗体のアミノ酸配列に比較して最大10、好ましくは最大8、より好ましくは最大5及び最も好ましくは最大3個のアミノ酸の類似アミノ酸による置換により形成されるポリペプチドを言及する。それらの保存的変異体ポリペプチドは好ましくは、表Aによるアミノ酸置換により調製される。
【0098】
【0099】
抗-TF抗体
本発明は、重鎖及び軽鎖を含む、TFに対して高い特異性及び高い親和性を有する抗体を提供し、ここで重鎖は、重鎖可変領域(VH)のアミノ酸配列を含み、そして軽鎖は、軽鎖可変領域(VL)のアミノ酸配列を含む。
【0100】
好ましくは、重鎖可変領域(VH)のアミノ酸配列及び軽鎖可変領域(VL)のアミノ酸配列に対するCDRは、下記から選択される:
a1) 配列番号1;
a2) 配列番号2;
a3) 配列番号3;
a4) 配列番号4;
a5) 配列番号5;
a6) 配列番号6;
a7) 前記アミノ酸配列のいずれかのアミノ酸配列の少なくとも1つのアミノ酸の付加、欠失、修飾及び/又は置換から生じ、TF-結合親和性を有する配列。
【0101】
別の好ましい例によれば、少なくとも1つのアミノ酸の付加、欠失、修飾及び/又は置換から生じる配列は好ましくは、少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも95%の相同性を有するアミノ酸配列である。
【0102】
好ましくは、抗体は、TF-関連シグナル経路を阻害する活性を有し;抗凝固活性を有し;FXa産生を阻害する活性を有し;又はそれらの組合を有する。
【0103】
本発明の抗体は、二本鎖又は単鎖抗体であり得、そして動物由来の抗体、キメラ抗体、及びヒト化抗体から成る群から選択され得;より好ましくは、ヒト化抗体及びヒト-動物キメラ抗体から成る群から選択され得;そして完全ヒト抗体であり得る。
【0104】
本発明の抗体は、単鎖抗体、及び/又は抗体フラグメント、例えばFab、Fab′、(Fab′)2、又は当業界において知られている他の抗体誘導体であり得、そしてIgA,IgD、IgE、IgG及びIgM抗体又はサブタイプの抗体のいずれか1又2以上であり得る。
【0105】
本発明においては、動物は好ましくは、哺乳類、例えばマウスである。
【0106】
本発明の抗体は、ヒトTFを標的とするキメラ抗体、ヒト化抗体、CDR移植及び/又は修飾抗体であり得る。
【0107】
本発明の好ましい例によれば、配列番号1~3のいずれか1又は2以上の配列、又は少なくとも1つのアミノ酸の付加、欠失、修飾及び/又は置換から生じ、そしてTF-結合親和性を有するそれらの配列は、重鎖可変領域(VH)のCDRに位置する。
【0108】
本発明の好ましい例によれば、配列番号4~6のいずれか1又は2以上の配列、又は少なくとも1つのアミノ酸の付加、欠失、修飾及び/又は置換から生じ、そしてTF-結合親和性を有するそれらの配列は、軽鎖可変領域(VL)のCDRに位置する。
【0109】
本発明のより好ましい例によれば、VH CDR1,CDR2,CDR3は、配列番号1~3のいずれか1又は2以上の配列、又は少なくとも1つのアミノ酸の付加、欠失、修飾及び/又は置換から生じ、そしてTF-結合親和性を有するそれらの配列から独立して選択され;VL CDR1,CDR2,CDR3は、配列番号4~6のいずれか1又は2以上の配列、又は少なくとも1つのアミノ酸の付加、欠失、修飾及び/又は置換から生じ、そしてTF-結合親和性を有するそれらの配列から独立して選択される。
【0110】
本発明においては、付加され、欠失され、修飾され、そして/又は置換されるアミノ酸の数は、初期アミノ酸配列のアミノ酸の合計数の、好ましくは、40%を越えず、より好ましくは35%を越えず、より好ましくは1~33%であり、より好ましくは5~30%であり、より好ましくは10~25%であり、そしてより好ましくは15~20%である。
【0111】
本発明においては、より好ましくは、付加され、欠失され、修飾され及び/又は置換されるアミノ酸の数は、1~7、より好ましくは1~5、より好ましくは1~3、より好ましくは1~2である。
【0112】
別の好ましい例によれば、TFを標的とする抗体は、TF-mAb-SC1(オリジナル名称はTF-mAbである)である。
【0113】
別の好ましい例によれば、抗体TF-mAb-SC1の重鎖可変領域(VH)のアミノ酸配列は、配列番号7に示されるようなアミノ酸配列である。
【0114】
別の好ましい例によれば、抗体TF-mAb-SC1の軽鎖可変領域(V-κ)のアミノ酸配列は、配列番号8に示されるようなアミノ酸配列である。
【0115】
抗体の調製
本発明の抗体又はそのフラグメントに対するDNA分子の配列は、従来の技法、例えばPCR増幅又はゲノムライブラリースクリーニングのような方法により得られる。さらに、軽鎖及び重鎖をコードする配列は、一緒に融合され、単鎖抗体が形成される。
【0116】
関連配列が得られると、組換え方法を用いて、関連配列を多量に得ることができる。これは通常、配列をベクター中にクローニングし、そのベクターにより細胞を形質転換し、そして次に、増殖された宿主細胞から関連配列を、従来の方法により分離することにより実施される。
【0117】
さらに、関連配列は、特に、フラグメントの長さが短い場合、人工的に合成される。通常、いくつかの小フラグメントが、まず合成され、そして次に、一緒に連結され、長い配列を有するフラグメントが得られる。
【0118】
本発明の抗体(又はそのフラグメント、又はその誘導体)をコードするDNA配列を、化学合成により得ることは、現在可能である。次に、そのDNA配列は、当業界において知られている種々の既存のDNA分子(又は、例えばベクター)及び細胞中に導入され得る。さらに、突然変異がまた、化学合成により、本発明のタンパク質配列中に導入され得る。
【0119】
本発明はさらに、前記適切なDNA配列、及び適切なプロモーター又は制御配列を含むベクターに関する。それらのベクターは、それらがタンパク質を発現することを可能にするために適切な宿主細胞を形質転換するために使用され得る。
【0120】
宿主細胞は、原核細胞、例えば細菌細胞;又は下等真核細胞、例えば酵母細胞;又は高等真核細胞、例えば哺乳類細胞であり得る。好ましい動物細胞は、CHO-S、HEK-293細胞を含むが、但しそれらだけには限定されない。
【0121】
一般的に、本発明の抗体の発現のために適切な条件下で、得られる宿主細胞は培養される。次に、本発明の抗体は、従来の免疫グロブリン精製工程、例えば当業者に良く知られている従来の分離及び精製手段、例えばプロテインA-セファロース、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、分子篩クロマトグラフィー又は親和性クロマトグラフィーを用いることにより精製される。
【0122】
得られるモノクローナル抗体は、従来の手段により同定され得る。例えば、モノクローナル抗体の結合特異性は、免疫沈降又はインビトロ結合アッセイ(例えば、ラジオイムノアッセイ(RIA)又は酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA))により決定され得る。モノクローナル抗体の結合親和性は、例えばScatchard分析(Anal. Biochem., 107: 220 (1980))により決定され得る。
【0123】
本発明の抗体は、細胞において又は細胞膜上に発現され、又は細胞外に分泌される。必要に応じて、組換えタンパク質は、その物理的、化学的又は他の特性に従って種々の分離方法により分離され、そして精製され得る。それらの方法は、当業者に良く知られている。それらの方法の例は、以下を含むが、但しそれらだけには限定されない:従来の再生処理、タンパク質沈殿剤による処理(塩析法)、遠心分離、浸透性細菌の破砕、超音波処理、超遠心分離、モレキュラーシーブクロマトグラフィー(ゲル濾過)、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、他の様々な液体クロマトグラフィー技法及びそれらの方法の組合せ。
【0124】
抗体-薬物接合体(ADC)
本発明はまた、本発明の抗体に基く抗体-薬物接合体(ADC)も提供する。
【0125】
典型的には、抗体-薬物接合体は、抗体及びエフェクター分子を含み、ここで抗体はエフェクター分子に接合され、そして化学的接合が好ましい。好ましくは、エフェクター分子は、治療的活性薬物である。さらに、エフェクター分子は、1又は2以上の毒性タンパク質、化学療法薬物又は放射性核種であり得る。
【0126】
本発明の抗体及びエフェクター分子は、カップリング剤によりカップリングされ得る。カップリング剤の例としては、非選択的カップリング剤、カルボキシル基を利用するカップリング剤、ペプチド鎖、及びジスルフィド結合を利用するカップリング剤のいずれか1つ又は2以上のものであり得る。非選択的カップリング剤は、共有結合、例えばグルタルアルデヒドなどを介してエフェクター分子と抗体との間の連結をもたらす化合物を言及する。カルボキシル基を利用するカップリング剤は、シス-アコニット酸無水物カップリング剤(例えば、シス-アコニット酸無水物)及びアシルヒドラゾンカップリング剤(カップリング部位はアシルヒドラゾンである)のいずれか1つ又は2以上のものであり得る。
【0127】
抗体上の特定の残基(例えば、Cys又はLys、等)は、造影剤(例えば、発色団及び蛍光体)、診断剤(例えば、MRI造影剤及び放射性同位体)、安定化剤(例えば、ポリ(エチレングリコール))及び治療剤を含む種々の官能基を連結するために使用される。抗体は、抗体-機能剤の接合体を形成するために機能剤に接合され得る。機能剤(例えば、薬物、検出試薬、安定化剤)は、抗体に接合される(共有結合による)。機能剤は、リンカーを介して直接的に又は間接的に抗体に連結される。
【0128】
抗体は、抗体-薬物接合体(ADC)を形成するために、薬物に接合され得る。典型的には、ADCは、薬物と抗体との間にリンカーを含む。リンカーは、分解性又は非分解性リンカーであり得る。典型的には、分解性リンカーは、細胞内環境下で容易に分解され、例えば、リンカーは標的部位で分解され、それにより、抗体から薬物を放出する。適切な分解性リンカーは、細胞内でプロテアーゼ(例えば、リソソームプロテアーゼ又はエンドソームプロテアーゼ)により分解され得るペプチジル含有リンカーを含む酵素分解リンカー、糖リンカー、例えばグルクロニダーゼにより分解され得るグルクロニド含有リンカーを含む。ペプチジルリンカーは例えば、ジペプチド、例えばバリン-シトルリン、フェニルアラニン-リシン又はバリン-アラニンを含むことができる。他の適切な分解性リンカーは、例えばpH感受性リンカー(例えば、5.5以下のpHで水分解されるリンカー、例えばヒドラゾンリンカー)及び還元条件下で分解されるリンカー(例えば、ジスルフィド結合リンカー)を含む。非分解性リンカーは、典型的には、抗体がプロテアーゼにより加水分解される条件下で薬物を放出する。
【0129】
抗体への連結の前、リンカーは特定のアミノ酸残基と反応できる反応基を有し、そして連結がその反応基により達成される。チオール特異的反応基が好ましく、これは例えば、マレイミド化合物、ハロゲン化(例えば、ヨード、ブロモ、又はクロロ置換された)アミド;ハロゲン化(例えば、ヨード、ブロモ、又はクロロ置換された)エステル;ハロゲン化(例えば、ヨード、ブロモ、又はクロロ置換された)ハロゲン化ベンジル;ビニルスルホン;ピリジルジスルフィド;水銀誘導体、例えば3、6-ジ-(水銀メチル)ジオキサン(対イオンがCH3COO-、Cl-又はNO3
-である);及びポリメチレンジメチルスルフィドチオスルホネートを含む。リンカーは例えば、チオスクシンイミドを介して抗体に連結されるマレイミドを含む。
【0130】
薬物は、任意の細胞毒性、細胞増殖抑制又は免疫抑制薬物であり得る。1つの実施形態によれば、抗体はリンカーを介して薬物に連結され、そして薬物は、リンカーと共に結合を形成できる官能基を有する。例えば、薬物は、リンカーと共に結合を形成できる、アミノ基、カルボキシル基、チオール基、ヒドロキシル基、又はケトン基を有することができる。薬物がリンカーに直接連結される場合、薬物は、抗体に連結される前、反応基を有する。
【0131】
有用な薬物は以下を含む:抗チューブリン薬、DNA副溝結合剤、DNA複製阻害剤、アルキル化剤、抗生物質、葉酸拮抗薬、代謝拮抗薬、化学療法増感剤、トポイソメラーゼ阻害剤、ビンカアルカロイドなど。特に有用な細胞毒性薬物の例は、以下を含み:DNA副溝結合剤、DNAアルキル化剤、及びチューブリン阻害剤;典型的な細胞毒性薬物は、例えば以下を含む:アウリスタチン、カンプトテシン、ドカマイシン/デュオカルマイシン、エトポシド、メイタンシン及びメイタンシノイド(例えば、DM1及びDM4)、タキサン、ベンゾジアゼピン又はベンゾジアゼピン含有薬物(例えば、ピロロ[1,4]ベンゾジアゼピン(PBD)、インドリノベンゾジアゼピン及びオキサゾリジノベンゾジアゼピン)、並びにビンカアルカロイド。
【0132】
本発明においては、薬物-リンカーは、簡単な工程プロセスでADCを形成するために使用され得る。他の実施形態によれば、二官能性リンカー化合物が、二段階又は多段階プロセスでADCを形成するために使用され得る。例えば、システイン残基は、第1段階においてリンカーの反応性部分と反応され、そして次に、リンカー上の官能基が、ADCを形成するために続く段階において薬物と反応される。
【0133】
一般的に、リンカー上の官能基は、薬物部分上の適切な反応性基と特別に反応できるよう選択される。非限定的な例として、アジトベースの部分が、薬物部分上の反応性アルキニル基と特別に反応するために使用され得る。薬物は、アジト基とアルキニル基との間の1,3-双極子環状付加によりリンカーに共有結合される。他の有用な官能基は例えば、以下を含む:ケトン及びアルデヒド(ヒドラジド及びアルコキシアミンとの反応のために適切な)、ホスフィン(アジドとの反応のために適切な);イソシアネート及びイソチオシアネート(アミン及びアルコールとの反応のために適切な);及び活性化エステル、例えばN-ヒドロキシスクシンイミドエステル(アミン及びアルコールとの反応のために適切な)。それらの及び他の連結法、例えばBioconjugation Technology (2nd Edition (Elsevier))は、当業者に良く知られている。当業者は、相補的対の反応性官能基が薬物部分とリンカーとの間の選択的反応のために選択される場合、相補的対の各メンバーがリンカーのために使用され、そしてまた、薬物のために使用され得ることを理解できる。
【0134】
本発明はさらに、抗体-薬物接合体(ADC)を形成するために十分な条件下で、薬物-リンカー化合物に抗体を結合されることをさらに含む、ADCの調製方法を提供する。
【0135】
特定の実施形態によれば、本発明の方法は、抗体-リンカー接合体を形成するのに十分な条件下で、二官能性リンカー化合物に抗体を結合されることを含む。それらの実施形態によれば、本発明の方法は、リンカーを介して薬物部分を抗体に共存結合するのに十分な条件下で、抗体-リンカー接合体を薬物部分に結合されることを含む。
【0136】
いくつかの実施形態によれば、抗体-薬物接合体(ADC)は、以下のような式:
【化1】
[式中、Abは抗体であり;
LUはリンカーであり、
Dは薬物であり;そして
下付文字pは、1~8から選択された値である]を有する。
【0137】
検出用途及びキット
本発明の抗体又はそのADCは、例えば診断情報を提供するためにサンプルの検出に使用するための検出用途に使用され得る。
【0138】
本発明においては、使用される検体(サンプル)は、細胞、組織サンプル及び生検検体を含む。本発明に使用される用語「生検(biopsy)」は、当業者に知られている全ての種類の生検を含むべきである。本発明で使用される生検検体は例えば、腫瘍の切除サンプル、及び器官の内視鏡的方法又は穿剌又は針穿剌生検により調製された組織サンプルを含む。
【0139】
本発明で使用するサンプルには、固定された又は保存された細胞又は組織サンプルを含む。
【0140】
本発明はさらに、本発明の抗体(又はそのフラグメント)を単に含むキットを提供し;本発明の好ましい例によれば、キットはさらに、容器、説明書、緩衝液、等を含む。好ましい例によれば、本発明の抗体は、試験パネル上に固定され得る。
【0141】
用途
本発明はさらに、診断剤の製造、又はTF関連疾患を予防し、そして/又は治療するための医薬の製造のための本発明の抗体の使用を提供する。TF関連疾患は、腫瘍形成、腫瘍増殖及び/又は転移、血栓症関連疾患、炎症、代謝関連疾患などを包含する。
【0142】
本発明の抗体、ADC又はCAR-Tの使用は、以下のためを包含する(但し、それらだけには限定されない):
(i)腫瘍形成、腫瘍増殖及び/又は転移、特に高TF発現を有する腫瘍の診断、予防及び/又は治療、ここで腫瘍は以下を含む(但し、それらだけには限定されない):乳癌(例、トリプルネガティブ乳がん)、膵臓癌、肺癌、悪性神経膠腫、胃癌、肝臓癌、食道癌、腎臓癌、大腸癌、膀胱癌、前立腺癌、子宮内膜癌、卵巣癌、子宮頸癌、白血病、骨髄癌、血管肉腫など;特に、トリプルネガティブ乳癌、膵臓癌、悪性神経膠腫及び肺癌;より好ましくは、トリプルネガティブ乳癌及び/又は膵臓癌;
(ii)血栓症関連疾患の診断、予防及び/又は治療、ここで血栓症関連疾患は、以下を含む(但し、それらだけには限定されない):アテローム性動脈硬化症、急性冠症候群、急性心筋梗塞、脳卒中、高血圧、深部静脈血栓症、肺塞栓症、腎塞栓症及び動脈手術、冠状動脈バイパス術による血栓症など;
(iii)炎症の診断、予防及び/又は治療、ここで炎症は、以下を含む(但し、それらだけには限定されない):リウマチ性関節炎、変形性関節症、強直性脊椎炎、痛風、リトル症候群、乾癬性関節炎、感染性関節炎、結核性関節炎、ウイルス性関節炎、真菌性関節炎、糸球体腎炎、全身性エリテマトーデス、クローン病、潰瘍性大腸炎、急性肺損傷、慢性閉塞性肺疾患、及び特発性肺線維症;
(iv)代謝関連疾患の診断、予防及び/又は治療、ここで代謝関連疾患は、以下を含む(但し、それらだけには限定されない):糖尿病、食事性肥満、脂肪炎症など。
【0143】
医薬組成物
本発明はさらに、組成物を提供する。好ましい例によれば、組成物は、抗体、又はその活性フラグメント、融合タンパク質又はADC、又は対応するCAR-T細胞、及び医薬的に許容できる担体を含む医薬組成物である。一般的に、それらの物質は、非毒性、不活性及び医薬的に許容できる水性担体媒体において配合され得、ここでpHは一般的に約5~8であり、好ましくは、pHは約6~8であり、但しそのpH値は、配合される物質の性質及び治療される状態に依存して変えられ得る。配合される医薬組成物は、従来の経路、例えば腫瘍内、腹腔内、静脈内、又は局所投与(但し、それらだけには限定されない)により投与され得る。
【0144】
本発明の抗体はまた、細胞においてヌクレオチド配列から発現され、そして細胞療法に使用され得、例えば抗体はキメラ抗原受容体T細胞免疫治療(CAR-T)、などに使用される。
【0145】
本発明の医薬組成物は、TFタンパク質分子を結合するために直接使用され得、そして従って、疾患、例えば腫瘍を予防し、そして治療するために使用され得る。さらに、併用治療剤もまた、同時に使用され得る。
【0146】
本発明の医薬組成物は、安全且つ有効な量(例えば、0.001~99重量%、好ましくは0.01~90重量%、好ましくは0.1~80重量%)の本発明のモノクローナル抗体(又はその接合体)及び医薬的に許容できる担体又は賦形剤を含む。そのような担体は、以下を含む(但し、それらだけには限定されない):食塩水、緩衝液、グルコース、水、グリセロール、エタノール及びそれらの組合せ。医薬製剤は、投与法に対応すべきである。本発明の医薬組成物は、生理食塩水、又はグルコース及び他のアジュバントを含む水溶液を用いて従来の方法により、注射剤の形で調製され得る。医薬組成物、例えば注射剤及び溶液は、無菌条件で調製されるべきである。活性成分の投与量は、治療的有効量、例えば約1μg/kg体重/日~約5mg/kg体重/日である。さらに、本発明のポリペプチドはまた、追加の治療剤と組合しても使用され得る。
【0147】
医薬組成物が使用される場合、安全且つ有効な量の免疫接合体が哺乳類に投与され、ここで前記安全且つ有効な量は、一般的に、少なくとも約10μg/kg体重、及びほとんどの場合、約50mg以下/kg体重である。好ましくは、用量は、約10μg/kg体重~約20mg/kg体重である。もちろん、特定の用量は、投与経路及び患者の体調など、熟練した医師の技量の範囲内である要因に依存するはずである。
【0148】
本発明の主な利点は、以下を含む:
a)本発明の抗体は、卓越した生物活性及び特性を有し、そして高い親和性を有し(EC50は、ELISAにより決定される場合、0.01~003nMである);さらに、細胞表面TFに対して良好な結合親和性を有し、そしてTF-標的抗体として使用され得;
(b)本発明のヒト化抗体は、免疫抗体の活性に匹敵する活性を有するのみならず、また、低い免疫原性も有し;
(c)本発明の抗体及びADCの両者は、有意な抗腫瘍活性を有し、そし的哺乳類動物自体に対して明らかな毒性副作用を有さず、そして
(d)本発明の抗体及びADCは、腫瘍モデルにおいて有意な治療効果を有するのみならず、また、他の高TF発現関連疾患、例えば血栓性疾患及び代謝性疾患にも適用できる。
【0149】
本発明はさらに、続く特定の実施例を参照して説明される。続く実施例は、本発明を説明するために単に使用されるが、本発明の範囲を限定するものではないことが理解されるべきである。続く実施例における実験方法は、その特定の条件は示されていないが、通常、従来の条件、例えばSambrook et al., Molecular Cloning: Laboratory Manual (New York: Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989)に記載される条件、又は製造業者により推薦される条件に従って、実施される。特にことわらない限り、百分率及び部は、重量百分率及び重量部を意味する。細胞系は、市販されているか又はATCCから購入される従来の製品であり、そしてすべてのプラスミドは、市販されている製品である。
【実施例0150】
実施例1:ヒトTFを標的とするモノクローナル抗体の発現及び調製
工程1:ハイブリドーマ細胞の調製:
最初に、生後8週の雌のBalb/cマウスを、ヒトTFタンパク質の細胞外ドメイン(UniProtKB/Swiss-Prot: P13726.1、位置34~251からのアミノ酸)により免疫化し、ここでTFの細胞外ドメインは、免疫化された脾細胞を調製するために100μg/マウスの量で使用され;マウス骨髄腫細胞(SP2/0)及びフィーダー細胞を、融合の目的で適時に調製した。
【0151】
前記3種の細胞を調製した後、脾細胞及びSP2/0の細胞の融合を、PEGにより媒介し、PEGを除去し、そして得られる細胞を、フィーダー細胞を含むHAT完全培地に再懸濁し、そして96ウェルプレートにおいて培養した。陽性ウェルを、ELISAによりスクリーニングした。最終的に、陽性ウェル中の細胞を、限界希釈法によりクローン培養にゆだね、そして高力価及び良好な形態を有し、そしてモノクローナル様式で増殖した細胞を、ELISA又は免疫蛍光技法によりスクリーニングした。モノクローナル様式で増殖された細胞をさらに、3回の連続したスクリーニングについて陽性クローニング率が100%になるまで、サブクローニングスクリーニングにゆだねた。
【0152】
工程2:ヒトTFを標的とするネズミモノクローナル抗体の腹水の調製:
工程1でスクリーニングされたハイブリドーマ細胞を、増幅培養にゆだねた。適応性の上昇の後、プリスタン(0.5ml/マウス)を、マウスの腹腔内に注射し、ハイブリドーマ細胞の増殖のために好ましい環境を提供した。7~10日後、10×106個のハイブリドーマ細胞を、各マウスの腹腔内に注射した。マウスを、7日目以降、腹水及び精神状態の産生を毎日観察し、そして腹水を採取し、遠心分離し、細胞を除去し、そして後での精製のために-80℃で凍結保存した。
【0153】
工程3:ヒトTFを標的とするネズミモノクローナル抗体の精製:
工程2で凍結保存された腹水を、氷上で融解し、そして0.45μmのフィルターを通して濾過した後、4℃で一晩、PBSにより透析した。最終的に、抗体を、FPLC技法により精製し、限外濾過し、所望する濃度に濃縮し、再包装し、そしてさらなる使用のために-80℃で凍結保存した。
【0154】
工程4:ヒトTFを標的とするネズミモノクローナル抗体の生物活性及び標的特異性の決定:
予備スクリーニングの後、約30個のハイブリドーマを、二次限界希釈クローニングのために選択し、そして次に6個の抗体を、大規模発現及び精製のために選択した。各抗体を、フローサイトメトリーにより、ヒト乳癌細胞MDA-MB-231、ヒト膵臓癌細胞BxPC-3及びネズミ黒色腫細胞B16-F10に対するその親和性について10μg/mlの濃度で決定した。
【0155】
図1に示される結果は、試験された抗体がネズミTF(B16-F10細胞)への特異的結合を伴わないで、ヒトTF(MDA-MB-231及びBxPC-3細胞)に対して特異的に結合し、ここで、TF-mAb-SC1は、他の5個の抗体よりもヒトTFに対して高い親和性を有したことを示した。
【0156】
抗原(TFの細胞外ドメインタンパク質)を、コーチング溶液により0.5μg/mlに希釈し、そして100μl/ウェル及び4℃で一晩、ELISAプレートを被覆するために使用した。過剰の抗原を、線状により除去した。プレートを室温で2時間、2%BSAによりブロックし、そして次に、3倍に連続希釈されたモノクローナル抗原の個々を、100μl/ウェルで添加し、そして室温で2時間インキュベートした。未結合抗体を、洗浄により除去し、そして適切な濃度の西洋ワサビペルオキシダーゼ標識の抗マウス二次抗体を、100μl/ウェルで添加し、そして室温で1時間インキュベートした。未結合二次抗体を、洗浄により除去し、TMB発色性溶液を添加し、色を適切な色深度に発色した。2MのH
2SO
4を、50μl/ウェルで添加し、発色反応を停止し、次に、450nmでの吸光度を決定し、そしてデータを分析した。
図2に示されるように、TF-mAb-SC1は、TFの細胞外ドメインタンパク質に対する強い親和性を有し、そして約0.019nMのEC
50を有した。
【0157】
一方、3×105個の膵臓癌細胞BxPC-3を、12ウェルプレートに広げた。12時間後、細胞を減菌PBSにより3度、洗浄し、そして次に、無血清培地の添加の後、5%CO2インキュベーターにおいて、37℃で4時間、飢餓状態にした。各モノクローナル抗体を、3倍勾配希釈にゆだね、そしてインキュベーターにおいてBxPC-3と共に、1時間インキュベートし、続いてBxPC-3における25nMのFVIIaによりPAR2細胞内シグナル経路を活性化した。37℃で15分間の相互作用の後、細胞を前もって冷却されたPBSにより1度、洗浄し、細胞中のタンパク質を氷上に集め、そして下流のMAPK/ERKのリン酸化レベルに対するTF-mAb-SC1の効果をウェスターンブロットにより同定し、ここでFVIIa刺激のみを実施し、そしてモノクローナル抗体と共にインキュベートされなかった細胞を陽性対照として使用した。溶媒のみが得られ、そして抗体が添加されなかった場合、それはVehとして指定された。BxPC-3におけるTF-PAR2細胞内シグナル経路に対する前記6個の抗体の効果を、ウェスターンブロットにより決定した。
【0158】
図3に示される結果は、TF-mAb-SC1のみが、特定の程度の容量依存性を伴って、下流のMAPK/ERKのリン酸化レベルを有意に阻害したことを示唆した。
【0159】
TF-mAb-SC1は非常に高い特異性、非常に高い親和性、及びMAPK/ERKのリン酸化レベルに対する有意な阻害効果を示したので、それを配列決定及び続く研究のために選択した。
【0160】
Kabatのデータベースに従っての従来の配列決定及び分析により、以下の配列情報を得た:
重鎖可変領域のCDRのアミノ酸配列は、以下の通りであった:
配列番号1: SYWMN;
配列番号2: MIYPADSETRLNQKFKD;
配列番号3: EDYGSSDY。
【0161】
完全VHアミノ酸配列は、配列番号7に示される通りであった:
QVQLQQPGAELVRPGASVKLSCKASGYSFISYWMNWVKQRPGQGLEWIGMIYPADSETRLNQKFKDKATLTVDKSSSTAYMQLSSPTSEDSAVYYCAREDYGSSDYWGQGTTLTVSS (配列番号7)。
【0162】
軽鎖可変領域のCDRのアミノ酸配列は、以下の通りであった:
配列番号4: SASSSVSYMN;
配列番号5: GISNLAS;
配列番号6: QQKSSFPWT。
【0163】
完全VLアミノ酸配列は、配列番号8に示される通りであった:
EILLTQSPAIIAASPGEKVTITCSASSSVSYMNWYLQKPGSSPKIWIYGISNLASGVPARFSGSGSGTSFSFTINSMETEDVATYYCQQKSSFPWTFGGGTKLEIK(配列番号8)。
【0164】
実施例2:ヒト-マウスキメラ抗体の調製
ヒト-マウス抗体を、得られた高い活性の及び特異的ネズミTF-mAb-SC1に基いて構成した。
【0165】
関連データベースに従っての分析により、重鎖可変領域のCDRのアミノ酸配列は、以下であった:
配列番号18:MIYPXDSETRLNXKFKD(Xは、A、D、E、Q及びYから成る群から選択された任意の1つである)
配列番号19:GYSFXSYWMN(Xは、A、I、Y、Q及びWから成る群から選択された任意の1つである)
配列番号20:AREDYGXSDY(Xは、S、P、G、D、M及びNから成る群から選択された任意の1つである)。
【0166】
関連データベースに従っての分析により、軽鎖可変領域のCDRのアミノ酸配列は、以下であった:
配列番号21:QQXSSFXWT(Xは、S、P、K、G、及びHから成る群から選択された任意の1つである)
配列番号22:SASSXVSYMN(Xは、A、P、D、及びSから成る群から選択された任意の1つである)
配列番号23:GXSNLAS(Xは、P、D、I、及びSから成る群から選択された任意の1つである)。
【0167】
プライマーを、重鎖可変領域にEcoRI及びNheIを導入し、そして軽鎖可変領域にAgeI及びBsiWI制限エンドヌクレアーゼ部位を導入するよう設計し、そして次に、上記で得られた抗体重鎖及び軽鎖の可変領域配列を、重鎖不変領域及びヒトIgG1のκ鎖不変領域を含むベクター中に別々にクローン化した。同定による確認の後(
図4Aは、重鎖の酵素消化の同定結果を示し、そして
図4Bは、軽鎖の酵素消化の同定結果を示し、ここでサンプル1は対応する重鎖/軽鎖のブランクベクターであり、サンプル2は、重鎖/軽鎖可変領域がクローン化されているベクターであり、サンプル3及び4は、単一の酵素消化の後のサンプルであり、そしてサンプル5は二重酵素消化の後のサンプルであった)、構成されたキメラ抗体を、トランスフェクション技法及び哺乳類発現系(CHO-S又はHEK-293細胞)を用いることにより、発現し、そして精製し、そして得られたヒト-マウスキメラ抗体を、TF-mAb-Chと命名した。
【0168】
実施例3:TF-陽性腫瘍細胞に対するTF-mAb-SC1の結合親和性の決定
この実験においては、細胞表面上にTFを高く発現している、トリプルネガティブ乳癌細胞MDA-MB-231、膵臓癌細胞BxPC-3、悪性神経膠腫細胞U87MG及び非小細胞肺癌細胞H1975を、標的細胞として使用し;そして333.33nM~0.15nMまで、3倍連続希釈により希釈された、100μlのTF-mAb-SC1を一次抗体として使用し、それぞれ、100μlのRPMI-1640無血清培地に懸濁された3×105個のMDA-MB-231又はBxPC-3と共に均質に混合するか;又は66.67nM~0.03nMまで、3倍連続希釈により希釈された100μlのTF-mAb-SC1を、一次抗体として使用し、そして100μlのMEM無血清培地に懸濁された3×105個のU87MGと共に均質に混合するか;又は一次抗体としての100μlの33.3nM及び3.33nMのTF-mAb-SC1を、100μlのRPMI-1640無血清培地の懸濁された3×105個のH1975と共に混合し、そして次に4℃で1時間インキュベートした。細胞をPBSにより2度、洗浄し、末結合一次抗体を除去し、そして標的細胞を、200μlのPE標識された二次抗体(2μg/ml)と共に4℃で30分間インキュベートした。細胞を、PBSにより2度、洗浄し、末結合二次抗体を除去し、そして最終的に細胞を、400μlのPBSに再懸濁した。TF-mAb-SC1を、その対応する細胞表面TFに対する結合親和性についてフローサイトメトリーにより決定した。
【0169】
図5に示されるTF-mAb-SC1は、BxPC-3、MDA-MB-231及びU87MG細胞に対する良好な結合親和性を有し、それぞれ、2.6nM(
図5A)、2.5nM(
図5B)及び1.6nM(
図5C)のEC
50を有し;そして
図5Dは、TF-mAb-SC1がまた、H1975細胞に対する良好な結合親和性を有したことを示した。
【0170】
これは、実施例1におけるモノクローナル抗体がヒトTFを標的として使用できたことを示唆した。
【0171】
実施例4:TF-PAR2細胞内シグナル経路に対するTF-mAb-SC1の効果
3×105個の膵臓癌細胞(BxPC-3)を、12ウェルプレートにプレートした。12時間後、細胞を減菌PBSにより、洗浄し、次に、無血清培地の添加の後、5%CO2インキュベーターにおいて37℃で4時間、飢餓状態にした。次に、TF-mAb-SC1を、3倍の連続希釈により100nM~1.2nMに希釈し、そしてインキュベーターにおいてBxPC-3細胞と共にインキュベートし、続いてBxPC-3細胞における25nMのFVIIaによりPAR2細胞内シグナル経路を活性化した。37℃での15分間の相互作用の後、細胞を予備冷却されたPBSにより1度、洗浄し、そして細胞タンパク質を氷上に集めた。下流MAPK/ERKのリン酸化レベルに対するTF-mAb-SC1の効果を、ウェスターンブロットにより同定し、ここでTF-mAb-SC1処理なしでのFVIIa刺激のみが対照として使用された。
【0172】
図6に示されるような結果は、TF-mAb-SC1が下流MAPK/ERKシグナル伝達のリン酸化レベルを強力且つ用量依存的に阻害することを示した。
【0173】
実施例5:TF-mAb-SC1の抗凝固活性の決定
100nMのTF-mAb-SC1を、1.5625nM(50μlの最終体積)に連続希釈し、そして5mMのCaCl2を含む、50μlのハンクス平衡塩溶液(HBSS)に懸濁された3×104個のMDA-MB-231及びBxPC-3細胞と共に、室温で15分間インキュベートした。次に、50μlのクエン酸ヒト血漿を添加し、そして得られる混合物を急速に均質に混合した。405nMでの吸光度を、次の2時間以内に15秒毎に測定し、細胞表面上のTFにより開始された凝固に対する抗凝固効果を計算した。
【0174】
図7においては、縦座標は最大凝固速度の達成時間を表し、横座標は、TF-mAb-SC1の濃度を表し、そしてBxPC-3(
図7A)及びMDA-MB-231(
図7B)の細胞表面上のTFを、TFの供給源として使用した。実験結果は、TF-mAb-SC1が12.5nM以下の濃度で有意な抗凝固活性を有することを示した。
【0175】
実施例6:FXa産生を阻害するためのTF-mAb-SC1の活性の決定
100nMのTF-mAb-SC1を、1.5625nM(50μlの最終体積)に連続希釈し、そして50μlのHBSS(3nMのFVIIaを含む)に懸濁された1.5×104個のMDA-MB-231及びBxPC-3細胞と共に、室温で振盪下で、別々にインキュベートした。次に、50μlのFX(50nMの最終濃度で)を添加し、反応を開始し、そして5分後、1MのEDTA(25μl)を添加し、反応を停止した。その後、3mMのS2765(25μl)を添加し、そして得られる混合物を急速に均質に混合した。速度論的反応曲線を、次の60分間、15秒毎に測定し、FXa産生を阻害する活性を測定した。
【0176】
図8に示されるように、TF-mAb-SC1は、FXaを阻害する良好な活性を示し、そして9.0nM(
図8A)及び6.4nM(
図8B)のIC
50を有した。
【0177】
実施例7:インビボで腫瘍増殖を阻害するその活性に対するTF-mAb-SC1の評価
ヌードマウスを、2つのグループにランダムに分け、各グループは10匹であった。最初に腫瘍細胞(1×107個のBxPC-3、又は5×106個のU87MG、又は2.5×106個のHCC1806)を、100μgのTF-mAb-SC1と共に室温で混合した。室温での30分間インキュベーションの後、生後6週の免疫不全雌マウス(Ball/cヌードマウス)の背中又は乳房脂肪パッドに、得られる混合物を接種し、BxPC-3の皮下腫瘍増殖に対する阻害効果を観察した。正常マウスIgG(図においてはIgGとして示される)により接種された他のマウスグループを、対照として使用した。ヌードマウスをそれらの体重及び腫瘍サイズについて定期的に測定し、腫瘍増殖曲線をブロットし、そして活性を評価した。
【0178】
図9に示されるように、IgGと比較して、TF-mAb-SC1は、BxPC-3皮下異種移植腫瘍増殖に対して有意な阻害効果を有し、そして最大80%までの阻害率を有し、そして実験を終了した時、腫瘍増加の阻害率は55%であった。
【0179】
図10に示されるように、IgGと比較して、TF-mAb-SC1は、U87MG皮下異種移植腫瘍増殖に対して有意な阻害効果を有し、そして最大60%までの阻害率を有し、そして実験を終了した時、腫瘍増加の阻害率は36%であった。
【0180】
図11に示されるように、IgGと比較して、TF-mAb-SC1は、HCC1806皮下異種移植腫瘍増殖に対して有意な阻害効果を有し、そして最大90以%以の阻害率を有し、そして実験を終了した時、腫瘍増加の阻害率は83%であった。
【0181】
実施例8:TF-mAb-SC1による腫瘍マトリックスコラーゲンの蓄積の有意な阻害
実施7からのBxPC-3腫瘍を収集し、そして4%中性ホルムアルデヒド中で固定し、続いて、パラフィン包埋し、そして断片化し、日常的に水にワックス除去し、そしてMasson染色した。各染色されたサンプルについて、5~10のフィールドを、100倍の倍率(説明文においては100μm)で撮影し、そして統計学的に分析した。
【0182】
図12に示される結果は、TF-mAb-SC1が腫瘍増殖阻害に寄与し得る腫瘍マトリックスコラーゲンの蓄積(青色領域)を有意に阻害することを示し、ここで右パネルはImage-pro plusを用いた統計学的分析の結果を示した。
【0183】
実施例9:TF-mAb-SC1による腫瘍血管の内腔領域の有意な縮小
実施7からのBxPC-3腫瘍を収集し、そして4%中性ホルムアルデヒド中で固定し、続いて、パラフィン包埋し、そして断片化し、日常的に水にワックス除去し、そしてCD31免疫組織学的染色した。各免疫組織学的に染色されたサンプルについて、5~10のフィールドを、200倍の倍率(説明文においては50μm)で撮影し、そして統計学的に分析した。
【0184】
図13に示される結果は、TF-mAb-SC1が腫瘍血管の内腔領域を有意に縮小したことを示し、ここで右図は、血管の内腔領域の統計学的結果を示した。
【0185】
実施例10:腫瘍細胞の移動を阻害するその活性についてのTF-mAb-SC1の決定
腫瘍細胞移動レベルに対するTF-mAbの効率を、トランスウェルチャンバーシステムを用いて、インビトロで評価した:1×105個のMDA-MB―231又は8×104個のBxPc-3細胞を、200μlの無血清培地中、特定濃度のTF-mAb-SC1(100nM、33.3nM又は11.1nM)又はマウスIgG(図においてはIgGとして示される)と共に別々に混合し;得られる混合物を、上部チャンバーに添加し、そして10%FBSを含む、600μlの完全培地を下部チャンバーに添加し;細胞を5%CO2インキュベーター中で37℃でインキュベートし;8時間後、チャンバー膜の上面上の細胞を、湿った綿棒により拭き取った。膜の下面上の細胞を、95%エタノールにより30分間、固定し、そして次に、0.2%クリスタルバイオレットにより30分間、染色し、そして蒸留水により洗浄し、過剰のクリスタルバイオレットを除去した。室温での乾燥の後、5つの代表的フィールドを、顕微鏡下でランダムに選択し、そしてチャンバー膜の下面に移動する細胞の数を計数し、そして分析した。この実験においては、TFノックアウト細胞(sh-TF)及び対応するベクター対照細胞(sh-NT)の両者を用いて、腫瘍細胞の移動を阻害するためのTF-mAb-SC1の活性を確かめた。
【0186】
図14に示されるように、MDA-MB-231(
図14A)及びBxPC-3(
図14B)細胞の移動は、TF遺伝子をノックアウトすることにより有意に阻害された。
【0187】
図15に示されるように、TF-mAb-SC1は、濃度依存性態様で、MDA-MB-231(
図15A)及びBxPC-3(
図15B)の移動レベルを有意に阻害できた。
【0188】
結果は、腫瘍細胞の移動がTFを阻害することにより効果的に阻害され得たことを示した。
【0189】
実施例11:TF-mAb-SC1による腫瘍細胞のインビボ血行性転移の有意な阻害
腫瘍細胞の移動レベルに対するTF-mAb-SC1の効果を、血行性転移の実験モデルを用いて、インビボで評価した:2×106個のルシファラーゼ標識されたMDA-MB-213細胞(MDA-MB-231-luc)を、200μlのPBS中、100μgのTF-mAb-SC1又はマウスIgGと共に混合し、氷上で20分間インキュベートし、そして次に、生後6週のBalb/c雌ヌードマウスの尾静脈中にゆっくり注射し;4時間後、ヌードマウスに麻酔し、そしてPBS中、D-ルシフェリンカリウム塩の溶液を、150mg/kgの容量でヌードマウスに腹腔内注射し;6分後、マウスを、小動物インビボイメージングシステム(IVIS SPECTRUM)に1分間暴露し、そして蛍光強度を測定し;そして統計学的分析を、各グループ当たり5匹のヌードマウスを用いて行った。
【0190】
図16に示されるように、TF遺伝子のノックアウトは、MDA-MB-231-lucの血行性移動能力を有意に阻害できた。同様に、
図17に示されるように、TF-mAb-SC1はまた、MDA-MB-231-luc細胞の血行性移動能力を有意に阻害でき、ここで右図は、肺に移動される細胞の蛍光強度の統計学的結果を示した。
【0191】
3×106個のMDA-MB-231細胞を、200μlのPBS中、100μgのTF-mAb-SC1又はIgGと共に混合し、氷上で20分間インキュベートし、そして次に、生後6週の雌のSCID Beigeマウスの尾静脈中にゆっくり注射した。6週間後、マウスを屠殺し、そして肺を撮影し、そしてBouin溶液に固定し、そして次に、写真撮影し、そして体重測定した。各グループ当たり7匹のマウスを用いて、各肺上の転移巣の数を記録した。
【0192】
図18に示される結果は、TF-mAb-SC1がマウス肺上の腫瘍転移巣の形成及び増殖を有意に阻害したことを示唆した。
【0193】
実施例12:リソソームへのTF-mAb-SC1の急速且つ高率的な内在化
50%の密度のMDA-MB-231細胞を、レーザー共焦点顕微鏡への使用のために特異的な培養皿にプレートした。約16時間後、10μg/mlのTF-mAb-SC1を添加し、そして細胞を38℃又は4℃で1時間インキュベートし、そして次に、室温で30分間、4%パラホルムアルデヒドにより固定した。PBSにより3度、洗浄した後、細胞を、37℃で1時間、Lamp-2(ウサギ抗-ヒト)抗体と共にインキュベートし、リソソームの位置を標識し、未結合抗体を、PBSによる洗浄により除去した。Alexa Flour 594-標識されたロバ抗-マウス二次抗体及びAlexa Fluor 488-標識されたロバ抗-ウサギ二次抗体と共に37℃での30分間のインキュベーションの後、末結合抗体を、洗浄により除去し、核の位置を、DAPI染色により標識し、そして次に、抗体の内在化をレーザー共焦点顕微鏡下で観察した。
【0194】
図19に示されるように、TF-mAb-SC1は、リソソームに内在化され得る。
【0195】
実施例13;TF-mAb-Chの生物活性の決定
この実験法はまた、実施例1の工程4を参照する。
【0196】
図20に示される結果は、TF-mAb-ChがTFの細胞ドメインタンパク質に対する強い親和性を有し、そして約0.011nMのEC
50を有することを示唆した。
【0197】
実施例14:;TF-陽性腫瘍細胞に対するTF-mAb-Chの結合親和性の決定
この実験方法は、実施例3を参照する。
【0198】
この結果は、TF-mAb-CがMDA-MB-231(
図21A)及びH1806(
図21B)細胞の両者に対する良好な結合親和性を有し、そしてそれぞれ、2.3nM及び2.1nMのED
50を有したことを示した。
【0199】
実施例15:TF-PAR2細胞内シグナル経路に対するTF-mAb-Chの効果
この実験方法は、実施例4を参照する。
【0200】
図22に示される結果は、TF-mAb-Chが濃度依存性態様でMAPK/ERKのFVIIa誘発されたリン酸化レベルを阻害したことを示した。
【0201】
実施例16:リソソームへのTF-mAb-Chの急速且つ効率的内在化
この実験方法は、実施例12を参照する。
【0202】
図23に示される結果は、TF-mAb-Chがリソソームに内在化され得たことを示した。
【0203】
上記実験は、本発明のTF-mAb抗体は容易に内在化され得るので、それは抗体-薬物接合体(ADC)への進行のために、及び高TF発現関連腫瘍の治療への適用のために適切であった。
【0204】
実施例17:TF-mAb-SC1のヒト化及び活性の決定
抗体TF-mAb-SC1の重鎖可変領域(配列番号7)及び軽鎖可変領域(配列番号8)の配列を参照することにより、非CDR領域と最も良く一致したヒト化鋳型を、Germlineデータベースで選択した。次に、ネズミ抗体TF-mAb-SC1のCDR領域を、選択されたヒト化鋳型に移植し、ヒト化鋳型のCDR領域を置換し、続いてIgG1/κ不変領域と組換えた。一方、ネズミ抗体の三次元構造に基いて、CDR領域と直接的に相互作用された残基、及びVL及びVHの立体配座に対する重要な効果を有した残基に対して復帰突然変異を行い、それにより、5つのヒト化重鎖可変領域(配列番号9、10、11、12及び13)及び4つのヒト化軽鎖可変領域(配列番号14、15、16及び17)を得た。
【0205】
【0206】
操作されたVH及びVLに基いて、それらのヒト化重鎖及び軽鎖を別々に組合して発現し、最終的に合計20のヒト化抗体、すなわちTF-mAb-H29~TF-mAb-H48を得た。各抗体についての重鎖及び軽鎖の対応する組合せは、以下の表に示された:
【0207】
【0208】
最初に、20のヒト化抗体を、ELISA結合アッセイによりTFの細胞外ドメインタンパク質に対するそれらの親和性について決定した(実験方法は、実施例1の工程4を参照する)。結果は、表1に示される。TFの細胞外ドメインタンパク質に対するTF-mAb-H39及びTF-mAb-H44の結合親和性曲線が、それぞれ、
図24A及び
図24Bに示された。
【0209】
【0210】
それらの20のヒト化抗体を、フローサイトメトリーにより、10μg/ml及び1μg/mlでMDA-MB-231細胞に対するそれらの結合親和性について決定した。実験方法は、実施例3を参照し、そして結果は表2に示された。
【0211】
【0212】
TF-PAR2細胞内シグナル経路に対する9つのヒト化抗体の効果をまた決定した。実験方法は、実施例4を参照する。
【0213】
図25に示される実験結果は、各ヒト化抗体がMAPK/ERKのFVIIa誘発されたリン酸化レベルを、濃度依存性態様で異なる程度、阻害したことを示した。
【0214】
さらに、6つのヒト化抗体を、腫瘍細胞HCC1806と共にインキュベートした後、6つのヒト化抗体の個々(各抗体につき100μg)により、ヌードマウスの乳房脂肪パッドに現場接種することによる腫瘍に対するそれらの阻害効果について決定した。実験方法は、実施例17を参照する。
【0215】
図26に示される実験結果は、すべてのヒト抗体が腫瘍増殖を阻害する有意な活性を示し、そしてそれらの中で、TF-mAb-H35、TF-mAb-H39、TF-mAb-H40、TF-mAb-H44及びTF-mAb-H45が腫瘍増殖を阻害する卓越した活性を示したことを示唆した。
【0216】
さらに、ヒト化抗体TF-mAb-H39及びキメラ抗体TF-mAb-Chをまた、腫瘍細胞HCC1806と共にインキュベートした後、異なる容量(100μg、30μg及び10μg)で、ヒト化抗体TF-mAb-H39及びキメラ抗体TF-mAb-Chによるヌードマウスの乳房脂肪パッドの別の接種によるHCC1806異種移植片の増殖を阻害するそれらの効果についても決定した。実験方法は、実施例7を参照する。実験結果は、
図27に示された。その結果は、ヒト化抗体TF-mAb-H39が、キメラ抗体TF-mAb-Chの活性に匹敵する腫瘍増殖阻害活性を有した。
【0217】
実施例18:基底様及びトリプルネガティブ乳癌におけるTFの非常に異常な活性化
最初に、全細胞タンパク質を、異なる組織に由来する種々の腫瘍細胞について調製した。正確な定量化の後、TFタンパク質の発現レベルを、ウェスターンブロットにより決定した。
【0218】
結果は、TFタンパク質の非常に異常な活性化及び発現が、いくつかの高侵襲性及び高転移性の基底様又は基底A/B及びトリプルネガティブ乳癌(
図28に示されるような)細胞系に有することを示し;しかしながら、TFタンパク質の高発現は、悪性度の低いいくつかの管腔内乳癌の細胞系においてのみ生じた。
【0219】
次に、データベースE-TABM-157 (European Molecular Biology Laboratory-European Bioinformatics Institute, EMBL-EBI)中の乳癌細胞系におけるTF mRNAの発現レベルを分析した。その結果は、高侵襲性及び高転移性基底A/B及びトリプルネガティブ乳癌(特に、トリプルネガティブ乳癌)細胞系におけるTF mRNAの発現レベルが内腔サブタイプ乳癌細胞系におけるそれよりも一般的に高いことを示し、これは統計学的に有意なものであった(
図29)。従って、本発明のTFを標的とする抗体は、トリプルネガティブ乳癌の診断、予防及び治療においてより顕著な効果を有した。
【0220】
実施例19:膵臓癌におけるTFの非常に異常な活性化
最初に、全細胞タンパク質を、異なる組織に由来する種々の腫瘍細胞系について調製した。正確な定量化の後、TFタンパク質の発現レベルを、ウェスターンブロットにより決定した。結果は、TFタンパク質の非常に異常な活性化及び発現が高侵襲性及び高転移性膵臓癌(
図30に示されるような)細胞系に存在することを示した。
【0221】
次に、データベースGSE15471 (Gene Expression Omnibus, GEO)中の膵臓腫瘍及び正常組織におけるTF mRNAの発現レベルを分析した。結果は、TF mRNAが一般的に、膵臓腫瘍組織において高レベルで発現されたことを示した(
図31)。従って、本発明のTF標的抗体は、膵臓癌の診断、予防及び治療においてより顕著な効果を有した。
【0222】
本発明において言及される全ての文書は、あたかも各個々の文書が具体的かつ個別に参照により組み込まれることが示されるのと同程度に参照により本出願に組み込まれる。 さらに、本発明で教示された内容を読んだ後、当業者によって本発明に対して様々な修正及び変更がなされてもよく、これらの同等物もまた特許請求の範囲によって定義される範囲に含まれることを理解すべきである。