(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022031411
(43)【公開日】2022-02-18
(54)【発明の名称】小麦ふすま組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 7/10 20160101AFI20220210BHJP
A21D 6/00 20060101ALN20220210BHJP
A21D 13/02 20060101ALN20220210BHJP
A23L 7/109 20160101ALN20220210BHJP
【FI】
A23L7/10 Z
A21D6/00
A21D13/02
A23L7/109 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021209714
(22)【出願日】2021-12-23
(62)【分割の表示】P 2021512829の分割
【原出願日】2020-09-29
(31)【優先権主張番号】P 2019180401
(32)【優先日】2019-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】301049777
【氏名又は名称】日清製粉株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】398012306
【氏名又は名称】株式会社日清製粉ウェルナ
(71)【出願人】
【識別番号】000226998
【氏名又は名称】株式会社日清製粉グループ本社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村上 浩二
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 克俊
(72)【発明者】
【氏名】石塚 晃司
(72)【発明者】
【氏名】西辻 ひとみ
(72)【発明者】
【氏名】野崎 聡美
(57)【要約】
【課題】二次加工適性が高く、且つ外観、風味及び食感に優れた二次加工品に加工可能な小麦ふすま組成物を提供すること。
【解決手段】本発明の小麦ふすま組成物は、白小麦を原料とし、食物繊維含有量が43質量%以上であり且つ糖質含有量が18質量%以下である。また本発明は、白小麦の穀粒を粉砕して、食物繊維含有量が43質量%以上であり且つ糖質含有量が18質量%以下である小麦ふすま組成物を得る小麦ふすま組成物の製造方法も提供する。更に本発明は、小麦ふすま組成物を含有するミックスも提供する。更に本発明は、小麦ふすま組成物を原料として用いる加工食品の製造方法も提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
白小麦を原料とし、食物繊維含有量が43質量%以上であり且つ糖質含有量が18質量%以下である、小麦ふすま組成物。
【請求項2】
前記白小麦が中間質小麦である、請求項1に記載の小麦ふすま組成物。
【請求項3】
平均粒径が200μm以下である、請求項1又は2に記載の小麦ふすま組成物。
【請求項4】
熱処理されたものである、請求項1~3のいずれか一項に記載の小麦ふすま組成物。
【請求項5】
湿熱処理されたものである、請求項1~4のいずれか一項に記載の小麦ふすま組成物。
【請求項6】
アラビノキシラン含有量が20質量%以上である、請求項1~5のいずれか一項に記載の小麦ふすま組成物。
【請求項7】
アルキルレゾルシノール含有量が0.25質量%以上である、請求項1~6のいずれか一項に記載の小麦ふすま組成物。
【請求項8】
白小麦の穀粒を粉砕して、食物繊維含有量が43質量%以上であり且つ糖質含有量が18質量%以下である小麦ふすま組成物を得る、小麦ふすま組成物の製造方法。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか一項に記載の小麦ふすま組成物を含有するミックス。
【請求項10】
請求項1~7のいずれか一項に記載の小麦ふすま組成物を原料として用いる加工食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小麦ふすま組成及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、健康意識の高まりから、食物繊維、ビタミン、ミネラルなどの栄養素や、機能性成分に富み、良好な風味を有する小麦ふすまを用いて、パンや麺類等の二次加工品が製造されている。本出願人は先に、二次加工性に優れ、二次加工品における外観、風味および食感の良好な小麦ふすまを効率良く製造する方法を提案した(特許文献1及び2参照)。
【0003】
特許文献3には、風味、食感、外観などに優れた美味なパンを製造することを目的として、赤小麦由来の小麦粉100質量部に対して、白小麦由来の小麦ふすまを4質量部以上25質量部以下の比率で混合したパン用小麦粉組成物が開示されている。また特許文献4には、ふすま臭を低減することを目的として、小麦としてウエスタン・ホワイトを用い、該小麦から小麦粉を得るための製粉工程で分離されるふすまの画分のうち、粒度が所定値より小さい画分と、粒度が所定値より大きい画分を除いた中間粒度画分のふすまを採取し、このふすまを焙煎した後、粒度分布における中位径が100μm以下になるように粉砕する微粉砕ふすまの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-243984号公報
【特許文献2】特開2015-53868号公報
【特許文献3】特開2009-254240号公報
【特許文献4】特開2017-12099号公報
【発明の概要】
【0005】
しかし、特許文献1及び2の製造方法は、二次加工性に優れ、二次加工品における外観、風味および食感の良好な小麦ふすまを効率良く製造可能であるが、特に二次加工性の更なる向上について改善の余地があった。また、特許文献3及び4の技術は、得られる小麦ふすまの二次加工性が悪く、また二次加工物の食感等も満足できるものではなかった。
【0006】
したがって、本発明の課題は、二次加工適性が高く、且つ外観、風味及び食感に優れた二次加工品に加工可能な小麦ふすま組成物並びにその製造方法を提供することにある。
【0007】
本発明は、白小麦を原料とし、食物繊維含有量が43質量%以上であり且つ糖質含有量が18質量%以下である、小麦ふすま組成物を提供するものである。
【0008】
また本発明は、白小麦の穀粒を粉砕して、食物繊維含有量が43質量%以上であり且つ糖質含有量が18質量%以下である小麦ふすま組成物を得る、小麦ふすま組成物の製造方法を提供するものである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に本発明の小麦ふすま組成物及びその製造方法を、その好ましい実施形態に基づいて説明する。以下の説明では、「X~Y[Z]」(X及びYは任意の数字、[Z]は任意の単位)と記載した場合、特に断らない限り「X[Z]以上Y[Z]以下」を意味する。
【0010】
本発明の小麦ふすま組成物は、イネ科コムギ属の一種である白小麦を原料として得られる小麦ふすまを含有し、食物繊維及び糖質をそれぞれ所定量含むものである。一般的に、小麦頴果(小麦の穀粒)は、胚乳部、外皮部(外皮及び種皮)並びに胚芽(胚部)に大別されるところ、小麦穀粒を粉砕し、胚乳部及び胚芽を除去して得られた外皮部由来の画分が、小麦ふすまとなる。通常、このように製造された小麦ふすまの粉砕物の水分量は15質量%以下である。小麦ふすま組成物は、当該画分をそのまま用いたもの、並びに、該画分に対して更に粉砕、分級、熱処理等を施した小麦ふすま加工品の双方を包含する。小麦ふすま組成物は、その水分量が典型的には3~15質量%であり、好ましくは粉状物である。以下の説明では、説明の便宜上、特に断らない限り、上述した範囲の水分量を有する粉状物である小麦ふすま組成物を例にとり説明する。また、小麦ふすま組成物の水分量が8~9質量%の場合に、以下の説明で記載する成分の含有量であることが、該組成物の高い品質を得られる点から好ましい。
【0011】
小麦は、小麦穀粒を視認したときに観察される色に応じて、赤小麦と白小麦との二つの種類に大別される。赤小麦は、外皮部に赤色色素を含有する小麦であり、小麦穀粒を視認したときに、赤色、赤褐色又は褐色として観察される。一方、白小麦は、外皮部に赤色色素を略含有しない小麦であり、小麦穀粒を視認したときに、白色又は淡黄色として観察される。本発明では、小麦ふすま組成物の原料として白小麦を用いることによって、二次加工適性を高めることができ、また、得られる二次加工品は、小麦ふすまに由来する苦みやえぐみ等の不快な味が低減されて風味が良好になり、食感も滑らかなものとなることに加えて、外観にも優れる。
【0012】
本発明に用いられる白小麦の具体例としては、普通小麦では、オーストラリア・スタンダード・ホワイト(ASW、オーストラリア産)、プライムハード(PH、オーストラリア産)、ソフトホワイト(SW、アメリカ合衆国産)、ウエスタンホワイト(WW、アメリカ合衆国産)、が挙げられるほか、デュラム小麦(世界各国で生産)も含まれる。これらの白小麦は、例えば遺伝学的特徴で適宜選別することができる。
【0013】
また普通小麦は、小麦穀粒の硬さに応じて、硬質小麦と、軟質小麦と、硬質と軟質との中間の硬さを有する中間質小麦との三つの種類に大別される。これらの種類のうち、得られる小麦ふすま組成物の風味及び食感を更に向上させる観点から、白小麦のうち、中間質小麦に分類される白小麦を用いることが好ましい。上述した白小麦且つ普通小麦を例にとると、硬質小麦としてはプライムハード等が挙げられ、中間質小麦としてはオーストラリア・スタンダード・ホワイト等が挙げられ、軟質小麦の具体例としてはウエスタンホワイト等が挙げられる。つまり、中間質小麦に分類される白小麦として、ASW等が好ましく用いられる。
【0014】
本発明の小麦ふすま組成物は、該組成物の質量に対する食物繊維の含有量が好ましくは43質量%以上、より好ましくは44質量%以上、更に好ましくは45質量%以上であり、また二次加工品の製造効率の観点から60質量%以下が現実的である。食物繊維の含有量をこのような範囲とすることによって、小麦ふすま組成物を用いて製造した二次加工品は、小麦ふすまに由来する良好な風味と食感に優れ、外観が良好なものとなる。また、食物繊維の摂取による健康増進効果を得ることができる。食物繊維の含有量は、例えば、小麦穀粒を粉砕して得られた小麦ふすま画分に対して、粉砕及び分級のうち少なくとも一つを更に施すなどの方法を行って、小麦外皮部の含有量を高めることによって適宜調整することができる。
【0015】
本発明における食物繊維含有量は、水溶性食物繊維及び不溶性食物繊維の合計値として、日本食品標準成分表2015年版(七訂)分析マニュアルに基づき、プロスキー変法(AOAC985.29法をベースとする分析法)によって定量される値である。食物繊維含有量は、例えばプロスキー変法に基づく市販の測定キットを用いて測定することができる。
【0016】
本発明の小麦ふすま組成物は、該組成物の質量に対する糖質の含有量が好ましくは18質量%以下、より好ましくは17.7質量%以下、更に好ましくは17質量%以下、一層好ましくは16質量%以下であり、また二次加工品の製造効率の観点から10質量%以上が現実的である。糖質の含有量をこのような範囲とすることによって、小麦ふすま組成物の二次加工への適性を高めることができるとともに、得られる二次加工品の外観及び食感に優れたものとなる。糖質の含有量は、例えば小麦穀粒を粉砕して得られた小麦ふすま画分に対して、粉砕及び分級のうち少なくとも一つを更に施すなどの方法で適宜調整することができる。
【0017】
本発明における糖質の含有量は、例えば日本食品標準成分表2015年版(七訂)分析マニュアルに基づく差引き法によって求められる炭水化物の値から食物繊維の値を差し引いた値とすることができる。すなわち、本発明における糖質は、100gの測定対象物から、水分、たんぱく質、脂質、灰分及び食物繊維の質量を差し引いた値である。水分、たんぱく質、脂質、灰分及び食物繊維の各質量については、前記分析マニュアルに基づいてそれぞれ定量することができる。
【0018】
以上の構成を有する小麦ふすま組成物は、これを用いてパンや麺類等の食品に二次加工する際に製造される生地の弾力性や形態保持性、成形性等の諸物性が良好となり、二次加工適性が高いものとなる。また、小麦ふすま組成物を用いて加工された二次加工品は、小麦ふすまに由来する苦みやえぐみ等の不快な味が低減され、風味及び食感に優れ、外観が良好なものとなる。詳細には、小麦ふすまの原料となる小麦外皮部及びその周辺には澱粉類が含まれているが、この澱粉類は二次加工に適した構造を有しているものが少なく、澱粉類の質が悪いものが多い。このような澱粉類を含む小麦ふすま組成物を二次加工に用いると、生地の諸物性が悪くなりやすく、その結果、二次加工品の食感や外観が悪くなりやすい。この点に関して、本発明の小麦ふすま組成物は、糖質含有量が少ないので、質が悪い澱粉類が混入しづらくなっており、その結果、二次加工への適性を高くして、二次加工品の外観及び食感が良好になる。これに加えて、小麦ふすま組成物は、白小麦を原料としているので、赤小麦を用いた場合と比較して、苦みやえぐみ等が低減された良好な風味を二次加工品に発現させることができる。更に、食物繊維を所定量含んでいるので、二次加工適性、外観、風味及び食感の向上とともに、食物繊維の摂取による健康増進効果を効率よく発揮させることができる。
【0019】
小麦ふすま組成物を用いて二次加工品を製造したときに、得られる二次加工品の滑らかで良好な食感を顕著なものとする観点から、小麦ふすま組成物は、その平均粒径が好ましくは10~200μm、より好ましくは20~150μm、更に好ましくは30~120μm、一層好ましくは50~100μmである。本発明における平均粒径は、レーザ回折散乱式粒度分布測定装置(例えば、日機装株式会社製、「マイクロトラック粒径分布測定装置9200FRA」)を用いて乾式で測定したときの累積体積50容量%における体積累積粒径D50を指す。
【0020】
小麦ふすま組成物及びこれを用いた二次加工品の外観を更に向上させる観点から、小麦ふすま組成物のL値は、好ましくは60~100である。L値は、CIE 1976(L*,a*,b*)色空間(CIELAB)に定められたL*値のことであり、例えばJIS Z8781に準じて測定することができる。
【0021】
小麦ふすま組成物は、該組成物の質量に対するアラビノキシラン含有量が、好ましくは20質量%以上であり、より好ましくは20~25質量%である。アラビノキシランは、アラビノース及びキシロースが重合した水溶性食物繊維の一種であり、免疫機能の向上作用等が報告されている。したがって、上述した量のアラビノキシランを含有する小麦ふすま組成物及びこれを用いた二次加工品を摂取したときに、健康増進効果を更に高めることができる。
【0022】
アラビノキシラン含有量は、例えば以下の測定条件における高速液体クロマトグラフィーを用いて定量することができるが、この方法に限られない。本方法における前処理方法は、測定対象の小麦ふすま組成物0.6gを72v/v%硫酸水溶液に混合して、室温で1時間撹拌する。撹拌して得られた固形分を4v/v%硫酸水溶液に混合して、オートクレーブ処理(121℃、20分)を行う。この水溶液を冷却、中和し、200mLに定容した後にろ過して得られた濾液を、高速液体クロマトグラフィーに導入して、アラビノース、キシロース及びガラクトースの量をそれぞれ定量する。得られたアラビノース、キシロース及びガラクトースの各定量値を以下の計算式に代入して、アラビノキシラン質量(g)を算出する。アラビノキシラン含有量(質量%)は、測定対象の小麦ふすま組成物の質量(g)に対するアラビノキシラン質量(g)の百分率とする。
アラビノキシラン質量(g)=0.88×(アラビノース質量(g)+キシロース質量(g)-0.7×ガラクトース質量(g))
【0023】
<高速液体クロマトグラフィーの測定条件例>
機種:LC-20AD(株式会社島津製作所)
検出器:蛍光分光光度計 RF-20Axs(株式会社島津製作所)
カラム:TSKgel SUGAR AXI、φ4.6mm×150mm(東ソー株式会社)
カラム温度:60℃
移動相:0.5mol/L ホウ酸緩衝液(pH8.7)
流量:0.4mL/min
注入量:20μL
蛍光励起波長:320nm
蛍光測定波長:430mm
ポストカラム:反応液 1w/v% L-アルギニン溶液
反応液流量;0.7mL/min
反応温度;150℃
【0024】
また小麦ふすま組成物は、該組成物の質量に対するアルキルレゾルシノール含有量が、その合計量として、好ましくは0.25質量%以上であり、より好ましくは0.25~1.0質量%、更に好ましくは0.25~0.52質量%である。アルキルレゾルシノールは、例えば特開2016-153387号公報及び特開2019-104755号公報に記載されているように、1,3‐ジヒドロキシ‐5‐n‐アルキルベンゼンの骨格を有する化合物の総称であり、これらは睡眠改善作用や抗肥満作用を有することが報告されている。したがって、上述した量のアルキルレゾルシノールを含有する小麦ふすま組成物及びこれを用いた二次加工品を摂取したときに、健康増進効果を更に高めることができる。また、アルキルレゾルシノールは、小麦外皮のうち、特にアリューロン層に近い部位に局在している。特に本発明の小麦ふすま組成物は、上述した部位を多く含有しているので、上述した量のアルキルレゾルシノールを多く含有させることができ、健康増進効果を更に高めることができる。これに加えて、通常の小麦ふすまよりも食味、食感の改善効果を得ることができる。アルキルレゾルシノール含有量は、例えば特開2016-132641号公報に記載の方法に基づいて、分配クロマトグラフィーを用いて測定することができる。
【0025】
小麦ふすま組成物は、乾熱処理及び湿熱処理などの熱処理が施されたものであることが好ましく、湿熱処理されたものであることが更に好ましい。このような熱処理が施されていることによって、二次加工性が更に改善され、また、得られる二次加工品の風味及び食感がより一層良好なものとなる。
【0026】
以下に、本発明の小麦ふすま組成物の好適な製造方法を説明する。まず、原料となる白小麦の穀粒を粉砕し、胚乳及び胚芽を分離して、小麦ふすまを得る(粉砕工程)。粉砕に用いられる白小麦の穀粒は、穀粒に加水して調質してもよく、又は加水調質せずに粉砕してもよい。穀粒粉砕物から小麦ふすまを採取する方法は特に制限されず、例えば篩分け等の公知の分級方法により、穀粒粉砕物を小麦ふすまと、それ以外の成分とに分離し、小麦ふすまを採取する方法を利用できる。
【0027】
白小麦の穀粒の粉砕は、本技術分野で通常用いられる粉砕方法を用いることができ、例えば、ロール式粉砕、衝撃式粉砕、気流式粉砕等の方法を用いることができる。穀粒の粉砕は、1回のみ行ってもよく、同一の又は異なる粉砕方法で複数回行ってもよい。例えば、ロール式粉砕と衝撃式粉砕とを組み合わせてこの順で実施してもよく、ロール式粉砕を多段階で複数回行っても良い。また、衝撃式粉砕に用いる粉砕機としては、衝撃板と回転ローター間で機械的衝撃により粉砕を行うものであれば特に限定されない。穀粒の粉砕効率とふすまの分離効率とを両立して高める観点から、ロール式粉砕を採用することが好ましい。
【0028】
このようにして得られた白小麦の小麦ふすまは、これをそのまま本発明の小麦ふすま組成物としてもよく、あるいは後述する各工程のうち少なくとも一つを更に行って、本発明の小麦ふすま組成物としてもよい。いずれの場合であっても、得られる小麦ふすま組成物は、食物繊維含有量が好ましくは43質量%以上であり、糖質含有量が好ましくは18質量%以下のものである。このような小麦ふすま組成物は、ロール式粉砕及び衝撃式粉砕等の各粉砕条件、並びに必要に応じて行う分級条件及び熱処理条件の各条件を適宜調整することによって得ることができる。
【0029】
上述した食物繊維含有量及び糖質含有量を有する小麦ふすま組成物を効率良く得る観点から、上述の方法で得られた小麦ふすまに対して熱処理を行うことが好ましい。また、熱処理工程を経ることによって、小麦ふすまを細かく粉砕することができるので、粒径の小さい小麦ふすま組成物を生産性高く得る点で有利である。また、熱処理工程を経ることによって、アミラーゼやプロテアーゼなどの各種酵素の活性を低減、あるいは失活させることができるため、二次加工性を更に向上させたり、二次加工品の食感を更に向上させたりできる点で特に有利である。
【0030】
熱処理として乾熱処理を行う場合、小麦ふすまの品温が好ましくは80~200℃、更に好ましくは90~150℃となるようにして、好ましくは1~120分間、更に好ましくは3~50分間処理を行う。乾熱処理においては、例えば特開2004-9022号公報に記載されている熱処理撹拌装置と同様の構成を有する装置に小麦ふすまを導入して、前記温度及び時間になるように行うことができる。この熱処理撹拌装置は、被処理物を収容する円筒状容器と、該容器の内部に備えられた中空構造の回転シャフトと、該シャフトに連通して形成された中空のパイプスクリューと、回転シャフト及びパイプスクリュー内に蒸気を供給する蒸気供給源とを備え、回転シャフト及びパイプスクリュー内に蒸気を供給して生じた伝熱を、回転シャフト及びパイプスクリューを介して被処理物に伝播させて、乾熱処理できるように構成されている。
【0031】
また、熱処理として湿熱処理を行う場合、水蒸気を導入する密閉系容器内において、小麦ふすまの品温が、好ましくは80~110℃、更に好ましくは85~95℃となるようにして、好ましくは1~60秒間、更に好ましくは3~30秒間滞留させることにより行う。湿熱処理においては、例えば特許第2784505号公報に記載の粉粒体加熱装置に、被処理物である小麦ふすまと、飽和水蒸気とを導入して前記温度及び時間になるように行うことができる。この粉粒体加熱装置は、飽和水蒸気の吹込口を有し、被処理物を収容する円筒形圧力容器と、該容器の一端に配された投入口から投入された粉粒体を撹拌しながら、該容器の他端に配された排出口に向けて移送するように、円筒内径に近い寸法の複数の棒状羽根を回転軸上に有する撹拌手段とを備えている。特に、湿熱処理を行うことによって、二次加工性が更に改善され、また、得られる二次加工品の風味及び食感がより一層良好なものとなる。
【0032】
微粒の小麦ふすま組成物を効率よく得る観点から、小麦ふすまを更に微粉砕して、微粉砕物を得ることが好ましく、前記熱処理が行われた小麦ふすまを微粉砕して、微粉砕物を得ることが更に好ましい。この微粉砕工程は、衝撃式微粉砕に供して行うことも好ましい。微粉砕処理は、小麦ふすまの全質量に対する平均粒径200μm未満の画分の割合が50~100質量%程度となるように行うことが好ましく、70~100質量%となるように行うことが更に好ましい。
【0033】
また粒度分布をシャープにして、ざらつきの少ない滑らかな食感を有する二次加工品を加工可能な小麦ふすま組成物を効率よく得る観点から、小麦ふすまの微粉砕物を分級して、好ましくは平均粒径200μm以下、より好ましくは平均粒径150μm以下の画分を分離することが好ましい。この分級工程は、篩を用いてもよく、空気分級機を用いてもよく、これらをともに用いてもよい。
【0034】
本工程を篩を用いて行う場合、篩の目開きとして、好ましくは150~200μm、より好ましくは150~180μm、更に好ましくは150μmを用いて、篩を通過した画分を採取する。また本工程を空気分級機を用いて行う場合、粒径150~200μmを境界とした画分を精度よく分離可能な分級機を用いて、好ましくは平均粒径200μm以下、より好ましくは平均粒径150μm以下の画分を採取する。省スペース化の観点から、空気分級機内蔵の衝撃式粉砕機を用いて粉砕及び分級を行うことが好ましい。空気分級機内蔵の衝撃式微粉砕機としては、例えばホソカワミクロン社製のACMパルベライザー(商品名)を挙げることができる。
【0035】
以上の工程を経て、本発明の小麦ふすま組成物を得ることができる。特に、本製造方法の好適な態様によれば、白小麦の穀粒を粉砕して小麦ふすまを得て、該小麦ふすまを熱処理し、熱処理した小麦ふすまを更に微粉砕することによって、小麦ふすま組成物を得ることができる。これに加えて、微粉砕された小麦ふすまを更に分級することも好適である。
【0036】
小麦ふすま組成物は、これに小麦粉や小麦胚芽等の小麦ふすま以外の穀粉、グルテン等のタンパク質、未加工澱粉及び加工澱粉(アセチル化澱粉、エーテル化澱粉、架橋澱粉、酸化澱粉等)等の澱粉類、砂糖及びオリゴ糖等の糖類、ショートニング、バター及びマーガリン等の油脂、酵母及び乳酸菌等の発酵用菌種、食塩、脱脂粉乳、増粘剤、乳化剤、膨張剤等の原材料の一種以上を混合して、小麦ふすま組成物を含むミックスとすることができる。このミックスは、好ましくは粉状である。ミックスは、目的とする二次加工品である加工食品に応じて、各原材料の含有量を適宜調整することができるが、ミックスの全質量に対する小麦ふすま組成物の含有量は、好ましくは1~70質量%、更に好ましくは1~60質量%である。
【0037】
また小麦ふすま組成物は、これを原料として用いて、二次加工品である加工食品を製造することもできる。詳細には、小麦ふすま組成物、好ましくは小麦ふすまを含む前記ミックスに、水、牛乳、全卵、卵白、卵黄、生クリーム、かん水等の生地調製用液体を加えて混合し、粘土状生地(いわゆるドウ)又はペースト状生地(いわゆるバッター)とする。その後、目的とする加工食品の形態となるように生地を成形して、必要に応じて、該生地を乾燥、冷却又は発酵したり、あるいは焼成、蒸し調理、揚げ調理、茹で調理などの加熱処理を該生地に施したりして、加工食品を製造する。
【0038】
加工食品を製造するにあたり、小麦ふすま組成物を含むミックスを用いる場合、生地調製用液体のミックスへの添加量は、生地調製用液体として水を用いた場合において、調製する生地がドウの場合は、ミックス100質量部に対して50~100質量部程度が好ましく、調製する生地がバッターの場合は、ミックス100質量部に対して90~300質量部程度が好ましい。
【0039】
小麦ふすま組成物を含むミックスは、生地の成形性が良く、二次加工適性が良好であるので、例えば食パンやロールパン等のパン類、ワッフル、クレープ、パンケーキ、ホットケーキ、スポンジケーキ、お好み焼、たこ焼き、大判焼、たい焼き等のベーカリー食品類、うどん、そうめん、ひやむぎ、そば、中華麺及びパスタ等の麺類、餃子皮及び春巻皮等の麺皮類、天ぷら、から揚げ、竜田揚げ、フリッター等の揚げ物類等の各種加工食品を製造するために好適に用いることができる。また得られる加工食品の外観、風味及び食感に優れたものとなる。詳細には、加工食品がパン類であれば、外観に優れ、苦みやえぐみが少なく良好な風味を有し、且つ柔らかく良好な食感を有するものとなる。また、加工食品が麺類であれば、白色で外観に優れ、苦みやえぐみが少なく良好な風味を有し、且つ弾力が強く良好な食感を有するものとなる。
【実施例0040】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。なお、各実施例及び比較例の小麦ふすま組成物における、該組成物の質量に対する食物繊維、糖質、アラビノキシラン及びアルキルレゾルシノールの各含有量(質量%)は、上述の方法に基づいて測定した。結果を以下の表1に示す。なお、実施例1~11および比較例1~10の小麦ふすま組成物は、いずれも小麦ふすまのみからなる粉状物であり、該組成物の水分量はいずれも8~9質量%の範囲に調整されており、上述の測定方法で測定した該組成物の平均粒径はいずれも85~94μmの範囲であった。
【0041】
〔実施例1~4及び比較例1〕
原料小麦として、白小麦且つ中間質小麦であるASWを用い、これを精選してロール式粉砕機にて粉砕し、その粉砕物を目開き200μmの篩で分級して、篩上残存物として小麦ふすまを採取した。
【0042】
次いで、採取した小麦ふすまを、ターボミル(東京製粉機製作所製)を用いて衝撃式粉砕を行ったあと、この粉砕物に対して、特許第2784505号明細書に記載される粉粒体加熱装置を用いて飽和水蒸気を導入しながら、品温90℃で5秒間の条件で湿熱処理を行った。続いて、湿熱処理後の粉砕物を、衝撃式微粉砕機(ACMパルベライザー、ホソカワミクロン社製)を用いて微粉砕し、その後、目開き150μmの篩を用いて分級し、篩を通過する粒径150μm未満の画分を分取して、目的とする小麦ふすま組成物を得た。食物繊維及び糖質の各含有量が異なる画分は、ロール式粉砕及び衝撃式粉砕の粉砕条件を適宜調整することによって得た。
【0043】
〔実施例5〕
湿熱処理に代えて、特開2004-9022号公報に記載の熱処理撹拌装置と同様の構成の装置を用いて、品温が120℃となるように25分間加熱して、乾熱処理を行った以外は、実施例1と同様の方法で小麦ふすま組成物を得た。
【0044】
〔実施例6~7及び比較例2〕
原料小麦として、白小麦且つ軟質小麦であるWWを用いた以外は、実施例1と同様に湿熱処理を行って、小麦ふすま組成物を得た。
【0045】
〔実施例8〕
原料小麦として、白小麦且つ軟質小麦であるWWを用いた以外は、実施例5と同様に乾熱処理を行って、小麦ふすま組成物を得た。
【0046】
〔実施例9~10及び比較例3〕
原料小麦として、白小麦且つ硬質小麦であるPHを用いた以外は、実施例1と同様に湿熱処理を行って、小麦ふすま組成物を得た。
【0047】
〔実施例11〕
原料小麦として、白小麦且つ硬質小麦であるPHを用いた以外は、実施例5と同様に乾熱処理を行って、小麦ふすま組成物を得た。
【0048】
〔比較例4~10〕
原料小麦として、赤小麦且つ中間質小麦の国産小麦(種類:きたほなみ、比較例4~5)、赤小麦且つ硬質小麦のNo.1カナダ・ウエスタン・レッド・スプリング(1CW、カナダ産;比較例6~8)、又は、赤小麦且つ硬質小麦のダーク・ノーザン・スプリング(DNS、アメリカ合衆国産;比較例9~10)を用いた以外は、実施例1と同様に湿熱処理を行って、小麦ふすま組成物を得た。
【0049】
〔評価1:パンの製造〕
各実施例及び比較例の小麦ふすま組成物と、以下に示す原材料とを以下に示す割合で混合して生地を調製し、以下のパン製造工程を経て、二次加工品(加工食品)であるパンを製造した。パンの製造時における生地の加工性(二次加工性)、並びに、得られたパンの風味及び食感について、10名の専門パネラーに製造及び喫食させた。パネラーによる各実施例及び比較例の評価は、比較例4の小麦ふすま組成物を「対照例」とし、これを用いて製造及び喫食したときの評価点数をそれぞれ「2点」に設定して、以下に示す評価基準で評価をさせた。結果を算術平均値として表1に示す。
【0050】
<パンの原材料>(以下に示す原材料の単位は「質量部」である。)
・小麦粉(強力粉) :60
・小麦ふすま組成物 :30
・グルテン :10
・小麦胚芽 :0.5
・発酵種 :5
・生地改良剤 :0.8
・生イースト :3.5
・食塩 :2
・上白糖 :4
・脱脂粉乳 :2
・ショートニング :6
・水 :74
(グルテン:H-10 小川製粉製、小麦胚芽:ハイギーSP フレッシュフードサービス製、発酵種:クレーム・ド・ルヴァン オリエンタル酵母工業製、生地改良剤:ユーロベイクシリウス オリエンタル酵母工業製)
【0051】
<パン製造工程>
各原材料をミキシング装置(関東混合機株式会社製、縦型ミキサーHPi-20M)に投入して、品温27℃、低速7分、中低速5分、中高速2分の順序で混合して、生地(ドウ)を調製した。この生地を27℃、75%RHの条件下で60分静置して発酵させた。発酵した生地を450gごとに分割して、ベンチタイムを20分として静置した。これらの生地をロール状に成形したものをワンローフ用食パン型に入れて、38℃、85%RHの条件下で50分静置してホイロを行った。最後に、ホイロ後の生地を220℃、30分間焼成し、実施例及び比較例の小麦ふすま組成物を含む食パンを得た。
【0052】
<パンの二次加工性評価>
5点:生地が対照例(比較例4)よりも非常にまとまりやすく、非常に優れた二次加工性を有する。
4点:生地が対照例よりもまとまりやすく、二次加工性が良好である。
3点:生地が対照例よりもある程度まとまりやすく、二次加工性がやや良好である。
2点:対照例と同等の二次加工性を有する。
1点:生地が対照例よりもまとまりにくく、二次加工性が悪い。
【0053】
<パンの食感>
5点:対照例(比較例4)よりも非常に柔らかく、食感に非常に優れる。
4点:対照例よりも柔らかく、食感に優れる。
3点:対照例よりもやや柔らかく、食感がやや良好である。
2点:対照例と同等の食感である。
1点:対照例よりも硬く、食感が悪い。
<パンの風味>
5点:対照例(比較例4)と比較して、えぐみを感じないか、又は非常に弱く感じるものであり、風味に非常に優れる。
4点:対照例と比較してえぐみを弱く感じるものであり、風味に優れる。
3点:対照例と比較してえぐみをやや弱く感じるものであり、やや良好な風味である。
2点:対照例と同等の風味である。
1点:対照例と比較してえぐみを強く感じ、風味が悪い。
【0054】
〔評価2:麺の製造〕
各実施例及び比較例の小麦ふすま組成物と、以下に示す原材料とを以下に示す割合で混合して生地を調製し、以下の麺製造工程を経て、二次加工品(加工食品)である麺を製造した。麺の製造時における生地の加工性(二次加工性)、並びに、得られた麺の風味及び食感について、10名の専門パネラーに製造及び喫食させた。パネラーによる各実施例及び比較例の評価は、比較例4の小麦ふすま組成物を「対照例」とし、これを用いて製造及び喫食したときの評価点数をそれぞれ「2点」に設定して、以下に示す評価基準で評価をさせた。結果を算術平均値として表1に示す。
【0055】
<麺の原材料>(以下に示す原材料の単位は「質量部」である。)
(ミックス粉末)
・小麦粉(中力粉) :52
・小麦ふすま組成物 :30
・グルテン :14
・乾燥卵白 :3
・増粘剤 :1
(生地調製用液体)
・食塩 :1
・かん水 :1.5
・水 :58
(グルテン:H-10 小川製粉製、乾燥卵白:サンキララRS 太陽化学株式会社製、増粘剤:ネオソフトT 太陽化学株式会社製)
【0056】
<麺製造工程>
ミックス粉末と生地調製用液体とを麺類用ミキサー装置に投入して、真空条件下(700mmHg)にて、高速5分、低速7分、順序で混合して、生地(ドウ)を調製した。得られた麺生地を圧延・複合して厚さ1.6mmの麺帯とした後、#20角の切刃を使用し、麺線に切り出した。この麺線を熱湯で茹で調理して、実施例及び比較例の小麦ふすま組成物を含む麺を得た。
【0057】
<麺の二次加工性評価>
5点:生地が対照例(比較例4)よりも非常にまとまりやすく、非常に優れた二次加工性を有する。
4点:生地が対照例よりもまとまりやすく、二次加工性が良好である。
3点:生地が対照例よりもある程度まとまりやすく、二次加工性がやや良好である。
2点:対照例と同等の二次加工性を有する。
1点:生地が対照例よりもまとまりにくく、二次加工性が悪い。
【0058】
<麺の食感>
5点:対照例(比較例4)よりも弾力が強く、食感に非常に優れる。
4点:対照例よりも弾力が強く、食感に優れる。
3点:対照例よりも弾力がやや強く、食感がやや良好である。
2点:対照例と同等の食感である。
1点:対照例よりも弾力が弱く、食感が悪い。
<麺の風味>
5点:対照例(比較例4)と比較して、えぐみを感じないか、又は非常に弱く感じるものであり、風味に非常に優れる。
4点:対照例と比較してえぐみを弱く感じるものであり、風味に優れる。
3点:対照例と比較してえぐみをやや弱く感じるものであり、やや良好な風味である。
2点:対照例と同等の風味である。
1点:対照例と比較してえぐみを強く感じ、風味が悪い。
【0059】
【0060】
表1に示すように、白小麦を原料とし、食物繊維及び糖質の各含有量を所定の範囲にした小麦ふすま組成物を用いることによって、二次加工性に優れ、且つ外観、風味及び食感に優れた加工食品を製造可能であることが判る。特に、実施例1~4に示すように、白色且つ中間質の小麦を原料を用い、食物繊維及び糖質の各含有量を好適な範囲とし、且つ湿熱処理が施された小麦ふすま組成物を用いることによって、二次加工性に優れ、且つ外観、風味及び食感により一層優れた加工食品を製造可能となることも判る。