▶ 太盛工業株式会社の特許一覧
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022031454
(43)【公開日】2022-02-18
(54)【発明の名称】過熱水蒸気脱脂焼結装置
(51)【国際特許分類】
C04B 35/638 20060101AFI20220210BHJP
【FI】
C04B35/638
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021211225
(22)【出願日】2021-12-24
(62)【分割の表示】P 2020181165の分割
【原出願日】2015-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】390010593
【氏名又は名称】太盛工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101605
【弁理士】
【氏名又は名称】盛田 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】田中 茂雄
(57)【要約】
【課題】短時間に脱バインダ工程及び焼結工程を行うことができるとともに、クラックや割れ等が生じることが少なく、しかも、精度の高い粉体焼結成形体を形成することができる。
【解決手段】焼結可能な焼結粉体と有機バインダとを含む成形材料から所定の形状に成形された焼結材料成形体を、過熱水蒸気を作用させて脱脂し、所定温度で焼結する過熱水蒸気脱脂焼結装置であって、焼結材料成形体を収容する炉体2と、上記炉体に過熱水蒸気を供給する過熱水蒸気発生装置3と、上記炉体内に、上方から過熱水蒸気を噴射して供給する噴射ノズル5と、上記炉体内からバインダを分解した成分を含む過熱水蒸気を排出する排出口7とを備えて構成されおり、上記噴射ノズルから噴出される過熱蒸気を、上記焼結材料成形体の表面に沿って流動させて、上記排出口に流動させるように構成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼結可能な焼結粉体と有機バインダとを含む成形材料から所定の形状に成形された焼結材料成形体を、過熱水蒸気を作用させて脱脂し、所定温度で焼結する過熱水蒸気脱脂焼結装置であって、
焼結材料成形体を収容する炉体と、
上記炉体に過熱水蒸気を供給する過熱水蒸気発生装置と、
上記炉体内に、上方から過熱水蒸気を噴射して供給する噴射ノズルと、
上記炉体内からバインダを分解した成分を含む過熱水蒸気を排出する排出口とを備えて構成されおり、
上記噴射ノズルから噴出される過熱蒸気を、上記焼結材料成形体の表面に沿って流動させて、上記排出口に流動させるように構成されている、過熱水蒸気脱脂焼結装置。
【請求項2】
上記焼結材料成形体の下方から、焼結材料成形体に過熱蒸気を作用させることができる噴射ノズルを備える、請求項1に記載の過熱水蒸気脱脂焼結装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、過熱水蒸気脱脂焼結装置に関する。詳しくは、過熱水蒸気を用いて脱脂及び焼結を行う過熱水蒸気脱脂焼結装置に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックス粉体や金属粉体を焼結させて粉体焼結成形体を形成する場合、上記粉体と多量の有機バインダを含む焼結材料成形体を種々の手法で成形し、その後、上記有機バインダを消失させ、所定温度に加熱することにより、上記粉体を焼結させる。
【0003】
上記有機バインダを焼結材料成形体から消失させる脱バインダ工程は、上記焼結材料成形体を、空気中で上記有機バインダが分解する温度以上に加熱して行われることが多い。
【0004】
上記脱バインダ工程においては、上記焼結材料成形体の加熱過程において、上記バインダ成分が内部で急激に膨張しあるいは分解すると、脱バインダされた上記焼結材料成形体にクラック等が発生しやすい。このため、昇温速度を非常に小さく設定して上記脱バインダ工程が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来の昇温速度では、脱バインダ工程が完了するまで、24~150時間を要する。このため、多大なエネルギを要するとともに、エネルギ効率が非常に悪い。また、ヒータ等の所要電力が非常に大きくなり、製造コストも増加する。
【0007】
また、昇温速度を小さくしても、バインダが所要の温度を越えると、焼結材料成形体の内部でバインダ成分の急激な分解現象が生じることがあり、クラックや割れ等が生じることも多い。
【0008】
さらに、ヒータ等で炉内の全域を加熱して、脱バインダ工程や焼結工程が行われるため、精度の高い温度管理は非常に困難である。
【0009】
しかも、厚みの大きな焼結材料成形体では、脱バインダ工程や焼結工程において、クラック等の欠陥が生じることが多い。このため、成形可能な焼結材料成形体の寸法や形状に大きな制限があった。
【0010】
さらに、上記脱バインダ工程終了後に行われる焼結工程にも多大な時間を要し、また焼結温度は、脱バインダ温度より大きいため所要のエネルギも大きくなる。しかも、形状等に応じて、焼結時間や温度を精度高く管理するのが困難であった。
【0011】
本願発明は、上記従来の課題を解決し、短時間に脱バインダ工程及び焼結工程を行うことができるとともに、クラックや割れ等が生じることが少なく、しかも、精度の高い粉体焼結成形体を形成することができる粉体焼結成形体の過熱水蒸気脱脂焼結装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明は、焼結可能な焼結粉体と有機バインダとを含む成形材料から所定の形状に成形された焼結材料成形体を、過熱水蒸気を作用させて脱脂し、所定温度で焼結する過熱水蒸気脱脂焼結装置であって、焼結材料成形体を収容する炉体と、上記炉体に過熱水蒸気を供給する過熱水蒸気発生装置と、上記炉体内に、上方から過熱水蒸気を噴射して供給する噴射ノズルと、上記炉体内からバインダを分解した成分を含む過熱水蒸気を排出する排出口とを備えて構成されおり、上記噴射ノズルから噴出される過熱蒸気を、上記焼結材料成形体の表面に沿って流動させて、上記排出口に流動させるように構成されている。
【0013】
過熱水蒸気は、100℃で蒸発した飽和水蒸気を、常圧でさらに高温過熱したH2Oガスである。過熱水蒸気は、加熱対象に対して、対流熱と凝縮熱と放射熱とを作用させることができる。しかも、比熱が空気の2倍程度あるため、加熱効率が非常に高い。
【0014】
しかも、過熱水蒸気の水分と熱による加水分解で有機物を低分子化してガス化できる。また、温度のみで分解する場合や、酸素雰囲気中で分解する場合に比べて分解開始温度が低い。また、加熱蒸気温度管理を精度高く行うことにより、空気中における酸化分解のように急激な分解を抑えることができるとともに、また、分解速度が早く、しかも分解効率も高い。
【0015】
また、過熱水蒸気による脱バインダ工程及び焼結工程は、従来のように、脱バインダや焼結を行う炉の全体をヒータ等で加熱するものではなく、所要の温度の過熱水蒸気を生成して、炉中で流動させて対象物表面に作用させるようにして行われる。このため、過熱水蒸気の温度を精度高く制御できるばかりでなく、各工程における成形体に作用する温度を精度高く管理することができる。
【0016】
本願発明では、バインダ成分が急激に分解しない一定の温度に管理された過熱水蒸気を、対象物の表面に継続的に作用させることができる。このため、バインダは、焼結材料成形体の表面から順次消失させられて、内部のバインダ成分が急激に膨張したり分解したりすることはない。このため、クラック等の発生を効果的に防止できる。
【0017】
しかも、炉の全体を一定温度に保持するものではないため、エネルギ効率が格段に高い。したがって、ヒータ等の電気代を節減できるとともに、製造コストを低減させることも可能となる。
【0018】
上記脱バインダ工程は、上記有機バインダの構成成分の一部が分解する温度の過熱水蒸気を、所定時間作用させて行う第1の脱バインダ工程と、上記有機バインダの全てを分解することができる温度以上の温度の過熱水蒸気を作用させて行う第2の脱バインダ工程とを含んで行うのが好ましい。
【0019】
過熱水蒸気の温度は、非常に精度高く管理することができる。このため、上記有機バインダの構成成分の一部が分解する温度の過熱水蒸気を、所定時間作用させることが可能となる。しかも、上記有機バインダの成分が急激に分解することない一定の温度の過熱水蒸気を作用させることにより、有機バインダ内部のバインダ成分が急激に膨張したり、分解するのを防止できる。
【0020】
上記第1の脱バインダ工程は、上記有機バインダの構成成分の一部が分解を開始する温度より1~10℃高い温度、好ましくは1~5℃高い温度の過熱水蒸気を、所定時間作用させて行うのが好ましい。これにより、有機バインダの成分が急激に分解するのを効果的に防止できる。有機バインダの構成成分の一部が分解を開始する温度は、有機バインダの各構成成分を、加熱水蒸気中で分解することにより得ることができる。
【0021】
上記過熱水蒸気は焼結材料成形体の表面に作用させることができ、しかも、過熱水蒸気の熱容量が空気等に比べて非常に大きい。このため、空気中で行われる従来の脱バインダ工程における温度より低い温度で、樹脂の分解を開始させることができる。しかも、上記温度は、熱による分解温度より低く、また過熱水蒸気は焼結材料成形体の表面に作用させることができるため、バインダは焼結材料成形体の表面から順次消失を開始する。このため、焼結材料成形体内部の温度を、空気を用いた場合の分解温度や不活性ガスを用いた分解温度より低く設定しても、所要時間を短縮することが可能となり、焼結材料成形体内部におけるバインダの急激な膨張や分解を抑制することが可能となる。これにより、クラック等の発生を効果的に防止できる。
【0022】
上記第1の脱バインダ工程を行うことにより、バインダ構成成分のうち所要の割合を消失させる。これにより、焼結材料成形体内が多孔質状となる。その後、上記過熱水蒸気の温度を、上記有機バインダを完全に消失させることができる温度にまで高めて作用させる第2の脱バインダ工程を行う。
【0023】
上記有機バインダを、低い温度で消失するバインダ成分と、高い温度で消失するバインダ成分とを含んで構成し、上記低い温度で消失するバインダ成分が消失を開始する温度以上で、上記高い温度で消失するバインダ成分の消失が開始する温度未満の温度の過熱水蒸気を所定時間作用させる第1の脱バインダ工程と、上記高い温度で消失するバインダ成分が消失する温度以上の温度の過熱水蒸気を作用させる第2の脱バインダ工程とを含む脱バインダ工程を行うのが好ましい。たとえば、高い温度で消失するバインダ成分として、オレフィン系樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン)、ポリスチレン等が好適である。一方、低い温度で消失するバインダ成分として、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、脂肪酸エステル、フタル酸系エステル等を採用するのが好ましい。
【0024】
この構成を採用することにより、上記低い温度で消失するバインダ成分を先に消失させて焼結材料成形体を多孔質状とし、その後、高い温度で消失するバインダ成分を消失させることが可能となる。このため、脱バインダの所要時間を短縮できるともともに、クラック等の発生をより効果的に防止できる。
【0025】
上記焼結工程は、上記脱バインダ工程に引き続いて、過熱水蒸気の温度を粉体の焼結温度以上に高めて行うことができる。これにより、同じ炉内で、脱脂バインダ工程と焼結工程とを連続的に行うことができる。
【0026】
また、上記過熱水蒸気を用いることなく、上記焼結工程を、脱バインダ工程を終えた上記焼結材料成形体を、不活性ガス雰囲気、還元雰囲気もしくは真空中雰囲気のいずれか一種以上の雰囲気中で焼結を行うこともできる。
【0027】
さらに、上記脱バインダ工程を、窒素、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気と過熱水蒸気の混合ガスをフローさせて最高温度800℃以下において行うことができる。これにより、金属粉体を採用する場合等において、過熱水蒸気中の酸素成分によって金属粉体等が酸化するのを防止できる。
【0028】
上記成形工程において、消失開始温度及び/又は消失完了温度が異なる有機バインダを含む少なくとも2以上の層又は部分を含む焼結材料成形体を形成するとともに、上記2以上の層又は部分のうち、上記消失開始温度及び/又は消失完了温度が低いバインダを含む所定の層又は部分に含まれる有機バインダを優先的に消失させることができる。
【0029】
上述したように、脱バインダ工程は、温度を精度高く管理した過熱水蒸気を焼結材料成形体の表面に作用させるようにして行われる。このため、有機バインダは焼結材料成形体の表面から順次消失するが、バインダが消失する際、焼結材料成形体が所定量収縮する。このため、焼結材料成形体の形態によっては、上記収縮によってクラックや変形が生じる場合があった。本願発明では、焼結材料成形体の所定の部位のバインダを優先的に消失させたり、消失速度を制御することができる。これにより、収縮の際の応力を緩和して、クラック等を防止することが可能となり、焼結材料成形体の形状の自由度が高まる。しかも、従来は、薄肉部分が脱バインダされる温度条件や昇温条件に合わせて脱バインダ工程を行っていたが、これを行う必要がなくなるため、脱バインダ工程に要する時間を短縮する効果も期待できる。また、変形が大きくなる部分を優先的に脱バインダすることにより、変形等を防止することもできる。
【0030】
さらに、上記成形工程、又は上記成形工程後脱バインダ工程前に、上記焼結材料成形体の所定部位に、脱バインダを規制する脱バインダ規制部を設けることができる。
【0031】
上記脱バインダ規制部を設けることにより、所定温度の過熱水蒸気を作用させた場合において、所要の部分の有機バインダの消失を遅らせ、あるいは所定部分の有機バインダを優先的に消失させることが可能となる。このため、脱バインダ工程における収縮に伴う応力を緩和し、これまでにない形態の成形体を得ることも可能となる。
【0032】
上記脱バインダ規制部は、種々の手法で形成することができる。たとえば、焼結材料成形体の所定部位の表面に、消失温度の高い樹脂層を形成することができる。上記樹脂層は、たとえば、上記成形工程において一体的に成形し、あるいは、成形工程が終了した後に、上記樹脂を表面に塗着等することにより形成することができる。
【0033】
さらに、厚みが小さな焼結材料成形体を形成する場合、流動する成形材料の熱が急激に金型等に奪われて温度が低下し、流動性が下がることが多い。このような場合、樹脂等で形成された犠牲型を用いて成形を行うことができる。すなわち、金型内に、上記焼結材料成形体の一部又は全部を成形できる犠牲型部を形成する犠牲型部成形工程を含み、上記犠牲型部を含む金型内に上記成形材料を充填して上記成形工程が行われるとともに、上記犠牲型部は、上記脱バインダ工程、上記焼結工程又はその後に行われる犠牲型部除去工程において、消失又は分離されるように構成できる。
【0034】
上記犠牲型部は、熱伝導率の小さな保温性の高い樹脂材料を用いて形成される。このため、金型内を流動する成形材料の熱が奪われにくく、型内の隅々に成形材料を充填できる。また、金型から上記犠牲型部を付属させたまま焼結材料成形体を離型させることができるため、離型作業を容易に行うことができる。特に、微小な焼結材料成形体を製造する場合、複数の焼結材料成形体を上記犠牲型部とともに離型させることができるため、欠け等を効果的に防止できる。また、その後のハンドリングを容易に行うこともできる。
【0035】
一方、犠牲型部は、脱バインダ工程において完全に消失する一方、上記焼結材料成形体は、バインダ成分のみ消失するため、犠牲型が消失する際に焼結材料成形体を支持する部分が消失し、変形等が生じる恐れもある。また、上記犠牲型部の脱バインダ工程における収縮率が上記焼結材料成形体の収縮率と異なると、予期しない応力が上記焼結材料成形体に作用し、成形体の寸法精度や形状精度が低下する恐れがある。
【0036】
上記不都合を回避するため、上記犠牲型部を、所定の粒度を有する粉体状樹脂と、上記粉体状樹脂間に充填された犠牲型バインダ成分とを含んで構成することができる。犠牲型部の上記犠牲型バインダ成分は、上記犠牲型部成形工程において溶融する一方、上記成形工程において溶融せず、上記脱バインダ工程において消失させられるように設定される。上記粉体状樹脂は、上記犠牲型部成形工程、上記成形工程において溶融せず、上記脱バインダ工程において消失させられるように設定される。そして、上記脱バインダ工程における上記犠牲型部の犠牲型バインダ成分及び上記焼結材料成形体の有機バインダが消失する温度を、上記粉体状樹脂の消失温度より低く設定することができる。
【0037】
上記構成によると、焼結材料成形体の有機バインダと上記犠牲型部の犠牲型バインダ成分とを先に消失させることができる。このとき、上記粉体状樹脂は消失しておらず、焼結材料成形体を、上記粉体状樹脂に保持させながら、焼結材料成形体内の有機バインダを消失させることができる。これにより、焼結材料成形体の脱バインダ工程における変形等を防止できる。その後、上記粉体状樹脂を消失させることにより脱バインダ工程が完了する。
【0038】
すなわち、上記脱バインダ工程は、上記犠牲型部に含まれる上記犠牲型バインダ成分と、上記焼結材料成形体を構成する有機バインダとが消失する第1の犠牲型部消失工程と、上記粉体状樹脂が消失する第2の犠牲型部消失工程を含んで行われる。これにより、上記焼結材料成形体を上記犠牲型部に保持させながら、脱バインダすることが可能となる。さらに、好ましくは、上記犠牲型バインダ成分を上記焼結材料成形体の有機バインダが消失を開始する前に、消失するように構成するのが好ましい。これにより、犠牲型部を多孔質状とし、過熱水蒸気を通過させながら上記焼結材料成形体の有機バインダを消失させ、その後に粉体状樹脂を消失させることが可能となり、焼結材料成形体の脱バインダをより促進することができる。
【0039】
さらに、上記脱バインダ工程において、上記犠牲型部の上記犠牲型バインダ成分が消失する際の収縮率と、上記焼結材料成形体の収縮率とを同じに設定するのが好ましい。これにより、焼結材料成形体の収縮に応じて犠牲型部を収縮させることが可能となり、焼結材料成形体の形状精度等を高めることができる。
【0040】
また、上記犠牲型部を、上記焼結粉体とは焼結しない粉体とバインダ成分とを含んで構成し、上記脱バインダ工程及び上記焼結工程において、焼結材料成形体を上記焼結しない粉体に保持しながらこれら工程を行うことができる。
【0041】
上記構成を採用すると、脱バインダ工程における変形のみならず、焼結工程における変形を防止できる。また、上記犠牲型部は、少なくとも上記脱バインダ工程における収縮率を、上記焼結材料成形体の収縮率と同一に設定するのが好ましい。これにより、焼結材料成形体の脱バインダ後の形状精度等をより高めることができる。
【0042】
たとえば、上記焼結粉体として金属粉体を採用し、上記焼結しない粉体としてセラミック材料から形成された粉体を採用することができる。セラミック材料から形成された粉体は、金属粉体より焼結温度が高く、上記金属粉体を焼結する温度では焼結しない。上記セラミック粉体は、金属粉体が焼結した後に、容易に金属焼結体から除去することができる。なお、上記セラミック粉体は、上記焼結粉体の保持部分の形態に成形されるため、上記金属粉体を含む焼結材料成形体を精度高く保持して、焼結工程を行うことが可能となる。
【0043】
さらに、上記焼結材料成形体を、同時に焼結される上記犠牲型部に保持しながら焼結することもできる。すなわち、上記犠牲型部を、上記焼結工程において焼結するとともに上記焼結粉体とは焼結しない粉体と、犠牲型バインダとを含んで構成する。そして、上記脱バインダ工程において、上記有機バインダ及び上記犠牲型バインダが消失するとともに、上記焼結工程において、上記焼結材料成形体が、上記犠牲型部とともに焼結され、その後に行われる上記犠牲型部除去工程において、上記犠牲型部が分離除去される。
【0044】
上記犠牲型部が、上記焼結工程においても消失しないため、上記焼結材料成形体を精度高く保持したまま焼結工程を行うことができる。このため、焼結過程にある焼結材料成形体の変形等を効果的に防止することができる。
【0045】
上記犠牲型部を構成する粉体同士は焼結するが、上記焼結材料成形体を構成する焼結材料とは焼結しない材料から構成するのが好ましい。たとえば、金属粉体を用いて焼結材料成形体が構成される場合、上記金属粉体とは焼結しない金属粉体、又はセラミック粉体を採用できる。
【0046】
犠牲型部を採用する場合、上記脱バインダ工程における収縮率及び上記焼結工程における収縮率が同一になるように設定するのが好ましい。これにより、上記焼結材料成形体の形態を精度高く保持したまま、脱脂工程及び焼結工程を行うことが可能となり、焼結成形体の形状精度を高めることができる。
【0047】
上記有機バインダは、これを構成するバインダ成分が水分吸湿率0.05%以下である熱可塑性樹脂を少なくとも20~40vol%含有し、融点が100℃以下である有機化合物を少なくとも20~40vol%含み、上記有機バインダの添加量が焼結粉体に対して30~70vol%に設定して、これら部材を加熱混練して成形材料を作成するのが好ましい。
【0048】
上記水分吸湿率が0.05%以下である熱可塑性樹脂を少なくとも20~40vol%含有する上記有機バインダを採用することにより、過熱水蒸気中において、樹脂成分が膨潤することなく熱分解される。このため、クラック等の発生を効果的に防止できる。上記水分吸湿率が0.05%を越える樹脂を、40vol%を越えて配合した場合、過熱水蒸気から水分を吸収しやすくなり、膨潤によってクラック等が生じやすくなる。
【0049】
また、融点が100℃以下の有機化合物を少なくとも20~40vol%含ませることにより、成形工程における成形材料の流動性が確保され、また、焼結材料成形体の靱性を高めることもできる。
【0050】
また、上記成形材料調整工程において得られた成形材料から成形した粉体焼結成形体を、最高温度800℃以下の過熱水蒸気中で脱バインダ工程を行うのが好ましい。
【0051】
これにより、上記配合のバインダを効率よく分解して消失させることができる。なお、上述したように、焼結材料成形体の形態等に応じてバインダ成分を設定することができる。
【0052】
その後、過熱水蒸気の温度を900℃~1500℃に高めて作用させることにより、焼結工程が行われる。上記焼結工程における過熱水蒸気の温度が900℃未満の場合、上記バインダからの残留カーボンを充分に分解消失させることができない。一方、1500℃を越えると、焼結材料が溶融し、変形等の問題が生じやすくなる。
【0053】
水分吸湿率が0.05%以下である熱可塑性樹脂として、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル重合体を採用するのが好ましい。
【0054】
融点が100℃以下の有機化合物として、パラフィンワックス、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、フタル酸エステル、マイクロクリスタルワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、カルナバワックス、モンタン系ワックス、ウレタン化ワックス、無水マイレン酸変成ワックス、ステアリン酸及びポリグリコール系化合物からなる有機化合物を採用することができる。
【0055】
特に、上記有機バインダを構成する成分が、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、エチレン酢酸ビニル共重合体から選ばれた1以上の熱可塑性樹脂を、少なくとも5~40vol%含有させるのがより好ましい。
【0056】
本願発明に係る焼結粉体の種類は特に限定されることはない。たとえば、ステンレス金属粉体又はジルコニアセラミックス粉体を採用できる。また、粉体焼結成形体を種々の用途に用いることができる。
【発明の効果】
【0057】
短時間に脱バインダ工程及び焼結工程を行うことができるとともに、クラックや割れ等が生じることが少なく、しかも、精度の高い粉体焼結成形体を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【
図1】炉体内で過熱水蒸気を用いて脱バインダ工程及び焼結工程を行う状態を模式的に示す図である。
【
図2】
図1に示す装置を用いて脱脂工程の開始前の状態を示す図である。
【
図3】脱バインダ工程の途中の状態を示す図である。
【
図4】脱バインダ工程が終了した状態を示す図である。
【
図6】焼結材料成形体の構成を模式的に示す図である。
【
図7】脱バインダ工程の途中の焼結材料成形体の状態を模式的に示す図である。
【
図8】脱バインダ工程終了後の焼結材料成形体の状態を模式的に示す図である。
【
図9】焼結工程が終了した状態を模式的に示す図である。
【
図10】焼結材料成形体を、過熱水蒸気を通過させる保持部材に保持させながら脱バインダ工程を行う図である。
【
図11】有機バインダの異なる部分を有する焼結材料成形体の構成を模式的に示す図である。
【
図12】有機バインダの異なる部分を有する焼結材料成形体の脱バインダ工程の途中の状態を模式的に示す図である。
【
図13】有機バインダの異なる部分を有する焼結材料成形体の脱バインダ工程の終了後の状態を模式的に示す図である。
【
図15】
図14に示す犠牲型部を用いて焼結材料成形体を形成する工程を示す図である。
【
図16】
図15に示す犠牲型部及び焼結材料成形体を金型装置から取り出した状態を模式的に示す図である。
【
図17】
図16に示す犠牲型部及び焼結材料成形体からバインダを除去した状態を模式的に示す図である。
【
図18】
図17に示す成形体から犠牲型部を消失させた状態を模式的に示す図である。
【
図19】
図18に示す成形材料成形体を焼結した後の状態を模式的に示す図である。
【
図20】脱バインダ規制部を設けた焼結材料成形体の断面を模式的に示す図である。
【
図21】
図20示す焼結材料成形体の脱バインダ工程途中の状態を模式的に示す図である。
【
図22】
図19及び
図20に示す焼結材料成形体の脱バインダ工程が終了した後の状態を模式的に示す図である。
【
図23】犠牲型部を構成する粉体が焼結される場合の例を示す模式図であり、
図16に対応する図面である。
【
図24】
図23に示す犠牲型部及び焼結材料成形体から犠牲型バインダ及び有機バインダを消失させた状態を示す図である。
【
図25】
図24に示す焼結材料成形体を焼結した状態を示す図である。
【
図26】焼結材料成形体を犠牲型部から分離させた状態を示す図である。
【
図28】
図27に示す成形体からバインダを除去した状態を示す図である。
【
図29】
図28に示す焼結材料成形体と犠牲型部を一体的に焼結した状態を示す図である。
【
図30】
図29に示す粉体焼結成形体と犠牲型部とを分離した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0059】
以下、本願発明の実施形態を具体的に説明する。
図1に示すように、本実施形態に係る過熱水蒸気脱脂焼結装置1は、焼結材料成形体10を収容する炉体2と、上記炉体2に過熱水蒸気6を供給する過熱水蒸気発生装置3と、上記炉体2内に、上方から過熱水蒸気6を噴射して供給する噴射ノズル5と、上記炉体2内からバインダを分解した成分を含む過熱水蒸気を排出する排出口7,7とを備えて構成されている。
【0060】
上記過熱水蒸気発生装置3は、市販されている種々の過熱水蒸気発生装置を採用できる。上記炉体2内には、焼結材料成形体10が、セラミック製の台9に載置され、上方から過熱水蒸気を作用させることができるように構成されている。
【0061】
図2及び
図3に示すように、上記焼結材料成形体10は、焼結可能な焼結粉体11と有機バインダ12とを含む成形材料13を成形して構成される。上記成形材料を成形する手法は特に限定されることはない。たとえば、圧縮成形、射出成形、押し出し成形等、種々の成形手法を用いて形成できる。
【0062】
上記焼結粉体として、種々の粉体を採用できる。たとえば、所要の粒度を備える金属粉体やセラミック粉体を採用できる。粉体の粒度は、上記成形方法等に応じて適宜設定できる。
【0063】
本願発明では、上記焼結粉体11として所定粒度のステンレス粉体を採用するとともに、有機バインダを上記ステンレス粉体と混練して成形材料を調整し、これを射出成形して上記焼結材料成形体10を形成している。
【0064】
本実施形態における上記有機バインダは、水分吸湿率0.05%以下である熱可塑性樹脂を少なくとも20~40vol%配合するとともに、融点が100℃以下である有機化合物を少なくとも20~40vol%配合して、上記成形材料13を構成している。
【0065】
上記熱可塑性樹脂として、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、エチレン酢酸ビニル共重合体から選ばれた1以上の熱可塑性樹脂を採用するのが好ましい。また、上記有機化合物として、パラフィンワックス、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、フタル酸エステル、マイクロクリスタリンワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、カルナバワックス、モンタン系ワックス、ウレタン化ワックス、無水マレイン酸変性ワックス、ステアリン酸及びポリグリコール系化合物からなる有機化合物を使用することができる。上記熱可塑性樹脂及び上記有機化合物の種類及び配合割合は、成形手法や成形体の形態等に応じて設定することができる。
【0066】
図2から
図5に、焼結材料成形体の脱脂工程における脱バインダ状態を模式的に示す。本実施形態では、採用した有機バインダの一部が消失を開始する温度より5℃高い温度
の過熱水蒸気を、上記噴射ノズル5を用いて、焼結材料成形体10の上方から下方に向けて流動させる。上記過熱水蒸気6は、上記焼結材料成形体10の表面に沿って流動させられ、炉体2の側方に設けた上記排出口7,7から排出される。なお、
図1では、流動する過熱水蒸気6は、大気中に排出するように記載しているが、過熱水蒸気発生装置3に循環させることもできる。
【0067】
図に示すように、上記温度の過熱水蒸気6を、上記焼結材料成形体10の表面に作用させることにより、焼結材料成形体10中の有機バインダを、表面側から順次消失させることができる。しかも、本実施形態では、採用した有機バインダの消失開始温度より5℃高い一定温度の過熱水蒸気6を作用させるため、焼結材料成形体10の内部の温度は、上記温度以上になることはない。
【0068】
過熱水蒸気6は、上述したように、空気による脱バインダと異なる機構で脱バインダが行われるため、有機バインダの一部が消失を開始する温度を、空気を用いた場合や不活性ガスを用いた場合に比べて低く設定できる。このため、有機バインダが急激に膨張し、あるいは分解する温度以下の温度で、焼結材料成形体10の表面から脱バインダを開始させることが可能となる。上記過熱水蒸気の温度が、過熱水蒸気による脱バインダを開始する温度より10度を越えて高くなると、有機バインダが急激に膨張しあるいは分解する恐れが高まる。
【0069】
上記過熱水蒸気の温度を、有機バインダが分解を開始する温度より5度以下の範囲で脱バインダを行うことにより、焼結材料成形体10の内部の有機バインダが、急激に膨張したり、分解したりすることはない。したがって、脱バインダ工程において、上記焼結材料成形体10内に、クラック等が生じるのを効果的に防止できる。上記加熱水蒸気6の温度は、有機バインダの消失特性等に応じて、有機バインダの消失開始温度から10℃以内の範囲で設定できる。
【0070】
一方、過熱水蒸気の温度を、有機バインダの消失が開始する温度より5℃高い温度に設定したままでは、有機バインダの全てを消失させることはできない。このため、所定時間経過後、あるいは所定量の有機バインダが消失した後に、過熱水蒸気の温度を、全ての有機バインダが消失する温度以上に高めるのが好ましい。
【0071】
図4に示すように、上記過熱水蒸気6の温度を、上記温度以上に高めることにより、
図4に示すように、有機バインダを完全に消失させることができる。その後、上記過熱水蒸気の温度を高めて、焼結材料成形体10を焼結する。上記焼結温度は、焼結粉体の種類に応じて設定できる。本実施形態で採用したステンレス粉体では、1200℃程度の過熱水蒸気を作用させるのが好ましい。
図5に示すように、上記焼結工程において焼結粉体間の隙間がなくなるため、粉体焼結成形体14は、焼結材料成形体10に比べて、10~20%収縮する。
【0072】
図6から
図9に、焼結材料成形体の脱バインダ工程及び焼結工程における焼結材料成形体10の内部の状態を模式的に示す。なお、本実施形態では、有機バインダ22が消失温度の異なる2種類のバインダ成分22a,22bから構成されており、これらの図において、有機バインダ22a,22bの成分を直径が異なる円形粒子として示している。
【0073】
本実施形態では、上記有機バインダ22を、低い温度で消失するバインダ成分22aと、高い温度で消失するバインダ成分22bとを含んで構成している。上記低い温度で消失するバインダ成分22aとして、上述した融点が100℃以下である有機化合物が採用される。一方、高い温度で消失するバインダ成分22bとして、上述した水分吸湿率0.05%以下である熱可塑性樹脂を採用している。なお、上記各バインダ成分の配合割合は、成形手法等に応じて、上述した範囲の配合割合で設定される。
【0074】
まず、低い温度で消失するバインダ成分22aの消失開始温度より1~5℃高い温度で、かつ、上記高い温度で消失するバインダ成分22bが消失を開始する温度以下の温度の過熱水蒸気を生成し、上述した実施形態と同様に焼結材料成形体10に作用させて第1の脱バインダ工程が行われる。
【0075】
上記過熱水蒸気の温度が、上記低い温度で消失するバインダ成分22aの消失開始温度より高い温度に設定されているとともに、上記高い温度で消失するバインダ成分22bの消失開始温度より低く設定されているため、上記第1の脱バインダ工程においては、上記低い温度で消失するバインダ成分22aが選択的に消失させられる。
【0076】
本実施形態では、過熱水蒸気の温度を一定に保持し、上記焼結材料成形体10の表面に作用させることができるため、高い温度で消失するバインダ成分22bを残した状態で、低い温度で消失するバインダ成分22aのみを選択的に消失させることができる。しかも、過熱水蒸気の気流を焼結材料成形体10の表面に当ててこれらバインダ成分を消失させるため、炉内を一定温度に保持する従来の手法に比べて、効率よく低い温度で消失するバインダ成分22aのみを選択的に消失させることが可能となる。このため、
図7に示すように、低い温度で消失するバインダ成分22aを消失させることにより、多孔質状の焼結材料成形体23が形成される。
【0077】
その後、過熱水蒸気の温度を、高い温度で消失するバインダ成分22bが消失する温度以上に高めて、焼結材料成形体10に作用させる。上記焼結材料成形体10が、多孔質状となっているため、過熱水蒸気を、焼結材料成形体の内部にまで浸透させながら脱バインダ工程を行うことができる。この結果、
図8に示すように、クラック等の発生を防止しながら、有機バインダを効率よく除去することが可能となる。
【0078】
その後、上記過熱水蒸気の温度を、上記焼結粉体21の焼結温度以上に高めて、焼結工程が行われ、
図9に示す粉体焼結成形体24が形成される。
【0079】
図2及び
図3に示すように、焼結材料成形体10は、炉内でセラミック製の台9に保持される。上記台9は、加熱水蒸気の透過性がないため、上記台9に接する部分には、上記過熱水蒸気が作用しにくい。このため、焼結材料成形体の底部の脱バインダが阻害され、上記台9の底部中央近傍の部分の脱脂が遅れる。このため、焼結材料成形体の形状によっては、上記台9と接する部分において、予期しない変形等が生じる場合がある。
【0080】
上記不都合を解消するため、
図10に示すように、上記脱バインダ工程及び/又は上記焼結工程を、過熱水蒸気36が通過できるとともに、上記焼結材料成形体33の収縮に対応して変位できる粒子39aから構成された保持部材39に保持させて行うことができる。
【0081】
また、本実施形態では、過熱水蒸気36を、上方に設けたノズル35aのみならず、上記保持部材39の下方に設けたノズル35bから炉体2内に噴出させることができるように構成している。上記構成によって、焼結材料成形体33の全周囲に過熱水蒸気36を作用させることが可能となり、上述した台9を採用した場合の不都合が解消される。
【0082】
しかも、上記保持部材39は、粒子39aを集合させたものであり、上記焼結材料成形体33の収縮に応じて変位あるいは変形できるように構成されている。このため、脱バインダ工程及び焼結工程において、焼結材料成形体33の保持部分に予期しない変形等が生じるのを効果的に防止できる。
【0083】
さらに、
図10に示す状態で、加熱水蒸気36の温度を、焼結粉体31の焼結温度以上に高め、脱バインダ工程に連続して焼結工程を行うことができる。焼結工程において、上記粒子39aが、焼結材料成形体の収縮に応じて変位あるいは変形できるため、形状精度の高い粉体焼結形成体を形成できる。
【0084】
【0085】
本実施形態では、上記成形工程において、消失開始温度及び/又は消失完了温度が異なるバインダ成分を配合した少なくとも2以上の部分を含む焼結材料成形体43が形成される。
図11に示すように、焼結粉体41はすべての部分で同一のものを採用しているが、中央部分と両側部分で有機バインダの種類を異ならせている。
【0086】
上記両側部分には、高い温度で消失する有機バインダ42aを採用する一方、中央部分には、低い温度で消失する有機バインダ42bを採用している。具体的には、上記有機バインダ42aは、ポリエチレン樹脂を含む樹脂バインダであり、上記有機バインダ42bは、ポリアセタール樹脂を含む有機バインダを採用している。
【0087】
上記構成の焼結材料成形体を形成する手法は特に限定されることはない。たとえば、射出成形法を採用する場合、いわゆる2色成形によって一体的な焼結材料成形体を形成することができる。また、上記両側部分と中央部分とを別途成形し、接合面のバインダ成分を溶融させて接合することもできる。
【0088】
上記焼結材料成形体43に、まず、低い温度で消失する有機バインダ42bが消失を開始する温度より高く、上記有機バインダ42aが消失を開始する温度より低い温度の過熱水蒸気を作用させて第1の脱バインダ工程を行う。過熱水蒸気の温度は、非常に精度高く管理することができるため、上記低い温度で消失する有機バインダ42bのみ選択的に消失させることができる。なお、消失温度によっては、両バインダが消失を開始する場合もあるが、少なくとも、上記有機バインダ42bが完全に消失した時点で、上記有機バインダ42aの40~80%が消失しないように構成するのが望ましい。
【0089】
上記低い温度で消失する有機バインダ42bが消失した後、過熱水蒸気の温度を、高い温度で消失する有機バインダが消失する温度まで高めて、第2の脱バインダ工程を行う。これにより、上記焼結材料成形体43内のバインダを完全に消失させることができる。
【0090】
上記手法を採用すると、焼結材料成形体43の所定部分のバインダを優先的に消失させることが可能となる。通常、焼結材料成形体43の表面近傍から均一に樹脂バインダが消失するが、形態によっては、所定部分の脱バインダを優先的に行ったり、逆に遅らせたりすることにより形状精度等が上がる場合がある。また、過熱水蒸気を作用させる場合、焼結材料成形体の表面の過熱水蒸気の気流の速度が、炉内の位置や成形体の形態によって異なる場合があるため、脱脂される速度が異なることになる。このため、脱脂工程において、予期しない変形等が生じる恐れがある。上記手法を採用して、所定部分脱バインダ速度を調整し、これまで製作が困難であった複雑な形態を備える粉体焼結成形体を形成することが可能となる。
【0091】
図14から
図18に、本願発明を、犠牲型部を用いて成形される粉体焼結成形体に適用した例を示す。
【0092】
図14に示すように、本実施形態では、まず、上型61と下型62を備える金型装置60を用いて、犠牲型部64を成形する。上記上型61と下型62との間には上型内面61aと下型内面62aが形成されている。これら内面間に成形空間が形成されており、上記上型61に設けた犠牲部材注入口67から、上記成形空間に犠牲型材料63が注入されて犠牲型部64が形成される。
【0093】
次に、上記上型61を、第2の上型71に交換する。上記第2の上型71と、上記犠牲型部64の間には、焼結可能な粉体51と有機バインダ52とを含む成形材料53が、上記第2の上型71に設けた成形材料注入口65から注入されて、上記犠牲型部64に埋め込まれるようにして、犠牲型部64が付属した焼結材料成形体70が成形される。
【0094】
上記焼結材料成形体70は、上記犠牲型部64とともに金型71,62から離型される。このため、離型の際に焼結材料成形体70が傷む恐れもない。また、その後のハンドリングも容易に行うことができる。
【0095】
図16に示すように、本実施形態では、上記犠牲型材料63は、所定の粒度を有する粉体状樹脂65と、上記粉体状樹脂65間に充填された犠牲型バインダ成分66とを含んで構成される。一方、上記焼結材料成形体70は、上述した実施形態と同様に、焼結粉体51と有機バインダ52とを含む成形材料53から構成される。
【0096】
上記犠牲型バインダ成分66は、上記犠牲型部成形工程において溶融する一方、上記成形材料53を注入する上記成形工程において溶融せず、上記脱バインダ工程において消失するように設定されている。上記粉体状樹脂65は、上記犠牲型部成形工程及び上記成形工程において溶融せず、上記脱バインダ工程において消失させられるように設定されている。そして、上記脱バインダ工程において、上記犠牲型部64の犠牲型バインダ成分66と上記焼結材料成形体の上記有機バインダ52が消失する温度が、上記粉体状樹脂65の消失温度より低く設定されている。
【0097】
たとえば、上記犠牲型バインダ成分66及び上記有機バインダ52にポリエチレンを含むバインダ成分を採用する一方、上記粉体状樹脂65に熱硬化性の樹脂材料、たとえば、ウレタン樹脂やポリエステル樹脂を採用することができる。
【0098】
上記形態の焼結材料成形体70及び犠牲型部64に、上記犠牲型バインダ成分66と上記有機バインダ52が消失する温度以上で、上記粉体状樹脂65が消失しない温度に設定した過熱水蒸気を作用させる。上記温度の過熱水蒸気を所定時間作用させることにより、
図17に示すように、脱バインダが行われた焼結材料成形体70と、上記犠牲型部64の上記粉体状樹脂65を残留させることができる。
【0099】
上記犠牲型バインダ成分66が消失する際の犠牲型部64の収縮率と、上記有機バインダ52が消失する際の焼結材料成形体70の収縮率が同じになるように設定されている。このため、脱バインダ工程における変形等を効果的に防止しつつ、脱バインダ工程を行うことができる。
【0100】
その後、過熱水蒸気を上記粉体状樹脂65が消失する温度以上に高めることにより、
図18に示すように、上記粉体状樹脂65が消失させられる。これにより、焼結材料成形体70の脱バインダ工程が終了する。
【0101】
本実施形態では、犠牲型部64に、焼結材料成形体70を保持させながら上記焼結材料成形体中の有機バインダを消失させることができる。しかも、上記犠牲型部64の犠牲型バインダ成分を消失させることにより多孔質状となった犠牲型部64を介して、焼結材料成形体70の全周に過熱水蒸気を作用させることが可能となり、脱バインダ効率を高めることができるとともに、形状精度も高まり、さらに、クラック等を防止できる。
【0102】
その後、加熱蒸気を上記焼結粉体の焼結温度以上に上昇させ、
図19に示す粉体焼結成形体74が形成される。
【0103】
図20から
図22に、脱バインダ工程において、焼結材料成形体80の所定部位の有機バインダ82の消失を規制する脱バインダ規制部90を設けた実施形態を示す。
【0104】
上記焼結材料成形体80は、第1の実施形態に係る焼結材料成形体と同様に、焼結粉体81と有機バインダ82とを含んで形成されている。本実施形態では、平坦状基部91とこの基部の上面から突出する突起部92とを備える焼結材料成形体80が成形される。また、上記基部91と突起部92の隅部を覆うように上記脱バインダ規制部90が設けられている。上記脱バインダ規制部90は、上記有機バインダ82より消失温度が高い樹脂材料から形成されている。
【0105】
上記構成の焼結材料成形体80に、まず、上記有機バインダ82が消失を開始する温度より高く、上記脱バインダ規制部90が消失しない温度範囲の過熱水蒸気を作用させる。すると、
図21に示すように、上記脱バインダ規制部90を設けた部位近傍の上記有機バインダ82の消失が規制されて、それ以外の部分の脱バインダが進行する。その後、上記脱バインダ規制部90が消失する温度以上の過熱水蒸気を作用させることにより、上記脱バインダ規制部90を消失させる。
【0106】
上記構成によって、上記焼結材料成形体80の突起部92の隅部を保護した状態で脱バインダ工程を進行させることができる。このため、脱バインダ工程において、変形等が生じやすい部分の脱バインダを遅らせたり、早めたり、さらに、脱バインダの程度を調整しながら脱バインダ工程を行うことが可能となる。このため、脱バインダ工程における変形やクラックの発生を効果的に防止できる。
【0107】
図23から
図26に、上記焼結材料成形体70を、同時に焼結される犠牲型部164に保持しながら焼結する実施形態を示す。
図23に示すように、犠牲型部164を構成する粉体165は焼結工程において焼結する一方、上記焼結材料成形体70を構成する焼結粉体51とは焼結しないもので構成されている。なお、焼結材料成形体70を構成する焼結粉体51と有機バインダ52は、上述した実施形態と同様であるので説明は省略する。
【0108】
上記犠牲型バインダ166は、上記有機バインダ52と同じ成分のものが採用されている。脱バインダ工程において、上記犠牲型部164は、上記焼結材料成形体70と同じ収縮率で脱バインダが行われるように構成されている。このため、
図24に示すように、脱バインダ工程において、上記焼結材料成形体70を上記犠牲型部164に保護しながら脱バインダを行うことができる。
【0109】
さらに、本実施形態では、焼結工程において、上記犠牲型部164を構成する粉体165が、上記焼結材料成形体70と同じ収縮率で焼結されるように設定されている。このため、
図25に示すように、上記焼結材料成形体70が、上記犠牲型部164と一体的に焼結されている。また、上記焼結工程においても、上記焼結材料成形体70を、上記犠牲型部165で保護しながら焼結工程を行うことが可能となる。
【0110】
図25における焼結後の上記犠牲型部167は、粉体焼結成形体151とは焼結しない材料から形成されているため、
図26に示すように、容易に分離させることが可能となる。なお、上記犠牲型部164を構成する粉体165が仮焼結状態、すなわち、上記粉体焼結成形体151より強度が低くなるように焼結して、その後、上記犠牲型部167を破壊して上記粉体焼結成形体151を分離するように構成することもできる。
【0111】
上記犠牲型部164を構成する粉体165として、たとえば低融点のセラミック粉体を採用する一方、上記焼結粉体としてステンレス粉末を採用することができる。上記ステンレス粉体が焼結終了する温度で、上記セラミック粉体が仮焼結するものを採用するのが好ましい。
【0112】
図27から
図30に、犠牲型部264を、加熱水蒸気を流動させる形態に形成した場合の実施形態を示す。
【0113】
なお、上記犠牲型部264の粉体265及び犠牲型バインダ266、焼結材料成形体273の焼結粉体251及び有機バインダ252は、上述した実施例と同じである。
【0114】
本実施形態では、犠牲型部264を成形する工程において、上記粉体265が存在せず、上記犠牲型バインダ266のみで成形された領域を設けている。
【0115】
上記粉体265が存在しない領域は、脱バインダ工程において上記犠牲型バインダが消失して孔状となる。本実施形態では、炉の載置面と平行に延びる横孔271と、上記横孔271に連通するとともに、上記焼結材料成形体273の下面に通じる縦孔270とを形成している。これにより、過熱水蒸気6を焼結材料成形体273の下面に導いて、脱バインダ工程及び焼結工程を効率よく行うことができるとともに、クラックや変形の発生を効果的に防止できる。
【実施例0116】
以下、本願発明の実施例を示す。なお、実施例においては、下記の成分の成形材料を調整し、10×20×5mmの直方体状の試験片を成形して実験を行った。
【0117】
実施例1
ステンレス金属粉末(SUS316L:平均粒径7μm) 60vol%
有機バインダ:40vol%
(1)ポリプロピレン:20vol%
(2)エチレン酢酸ビニル共重合体:20vol%
(3)パラフィンワックス:50vol%
(4)ステアリン酸:10vol%
【0118】
実施例2
ステンレス金属粉末(SUS317:平均粒径7μm) 60vol%
有機バインダ:40vol%
(1)ポリプロピレン:20vol%
(2)ポリエチレン:20vol%
(3)パラフィンワックス:50vol%
(4)ステアリン酸:10vol%
【0119】
〔実施例1及び実施例2に係る試験方法及び試験結果〕
実施例1,2については160℃で各ステンレス金属粉末と有機バインダを加熱混練し、ペレット形状に成形材料を作成する。次に、射出成形温度180℃で射出成形工程を行い、上記形態の成形体を得た。得られた成形体を、過熱水蒸気発生装置を用いて50℃~800℃まで5℃/minで加熱し成形体から有機バインダを加熱除去した。実施例1,2共に残留した有機バインダ量は5%以下であることが残留炭素分析(堀場、レコカーボン量測定装置)で確認された。
【0120】
得られた脱バインダ成形体を800℃までを水素ガス雰囲気中で、800℃以上をアルゴンガス雰囲気で、最高温度1350℃で焼結を行い、粉体焼結成形体を得た。得られた焼結焼結成形体は内部クラックのない健全な焼結体であった。
【0121】
実施例3
ジルコニアセラミックス粉末(比表面積8 平米/ g):50vol%
有機バインダ:50vol%
(1)ポリプロピレン:10vol%
(2)エチレン酢酸ビニル共重合体:20vol%
(3)パラフィンワックス:60vol%
(4)ステアリン酸:10vol%
【0122】
実施例4
ジルコニアセラミックス粉末(比表面積8m2 /g):50vol%
有機バインダ:50vol%
(1)ポリスチレン:5vol%
(2)エチレン酢酸ビニル共重合体:25vol%
(3)パラフィンワックス:60vol%
(4)ステアリン酸:10vol%
【0123】
〔実施例3及び実施例4に係る試験方法及び試験結果〕
実施例3,4については160℃で各ジルコニア粉末と有機バインダを加熱混練し、ペレット形状に成形材料を作成する。次に、射出成形温度180℃で成形し上記形態の焼結材料成形体を得た。得られた焼結材料成形体を、過熱水蒸気装置を用いて50℃~800℃までを3℃/minで加熱し焼結材料成形体から有機バインダを加熱除去した。実施例3,4共に残留した有機バインダ量は5%以下であることが残留炭素分析(堀場、レコカーボン量測定装置)で確認された。得られた脱バインダされた焼結材料成形体を空気雰囲気下、最高温度1450℃で焼成を行い、所定形状の粉体焼結成形体を得た。
【0124】
〔比較例1〕
上記実施例におけるポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、エチレン酢酸ビニルコポリマーの代わりに、66ナイロン、ポリアセタール、ポリメチルメタクリレートをバインダとして用いて同様の条件で、試験を行った。
【0125】
〔比較例1における試験結果〕
同上の条件では過熱水蒸気脱脂工程でクラックが発生した。
【0126】
〔比較例2〕
上記実施例1,2に係る構成の試験片を従来の窒素雰囲気下での加熱脱脂条件で脱脂した。この場合、0.5℃/minの条件で脱バインダした場合にも加熱途中に変形が生じて健全な脱脂体を得ることができなかった。
【0127】
〔比較例3〕
上記実施例3,4の構成の試験片を従来の空気雰囲気下での加熱脱脂条件で脱脂した場合には0.1℃/minの条件で脱脂した場合にも内部にクラックが生じ健全な脱脂体を得ることができなかった。
【0128】
〔考察〕
水分吸湿率が0.05%を超える材料を熱可塑性樹脂バインダとして用いた場合には加熱条件1℃/minでもクラックが生じた。熱可塑性樹脂バインダにおいて水分吸湿率が0.05%以下であるポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、エチレン酢酸ビニルコポリマーを用いた場合では5 ℃/minでもクラックは生じなかった。
これら炭化水素系樹脂は吸水率が0.05%以下と非常に小さいため、過熱水蒸気中においても樹脂そのものが膨潤すること無く熱分解されたものと思われる。
これに対して、吸水率が0.05%以上であるポリアセタール、ナイロン、ポリメチルメタクリレートを樹脂バインダとして用いた場合には水蒸気で加熱する際にこれら樹脂が吸水することで膨潤し焼結材料成形体にクラックを発生させるものと思われる。
【0129】
本願発明の範囲は、上記実施形態及び実施例に限定されることはない。実施形態で記載した焼結材料成形体の形態以外の種々の形態の成形品に、本願発明を適用できる。また、実施形態で記載した、焼結材料成形体の構成成分も限定されることはなく、種々の焼結粉体及び種々の有機バインダ等を採用できる。
【産業上の利用可能性】
【0130】
短時間に脱バインダ工程及び焼結工程を行うことができるためエネルギ効率が高いとともに、クラックや割れ等が生じることが少なく、しかも、精度の高い粉体焼結成形体を形成することができる。
【符号の説明】
【0131】
6 過熱水蒸気
10 焼結材料成形体
11 焼結粉体
12 有機バインダ
13 成形材料
14 粉体焼結成形体
【手続補正書】
【提出日】2022-01-21
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼結可能な焼結粉体と有機バインダとを含む成形材料から所定の形状に成形された焼結材料成形体を、過熱水蒸気を作用させて脱脂し、所定温度で焼結する過熱水蒸気脱脂焼結装置であって、
焼結材料成形体を収容する炉体と、
上記炉体に過熱水蒸気を供給する過熱水蒸気発生装置と、
上記炉体内に、上方から過熱水蒸気を噴射して供給する噴射ノズルと、
上記炉体内からバインダを分解した成分を含む過熱水蒸気を排出する排出口とを備えて構成されおり、
上記過熱蒸気を、上記焼結材料成形体の表面に向けて流動させる上記噴射ノズルを備える、過熱水蒸気脱脂焼結装置。
【請求項2】
上記炉体の底面に、上記過熱蒸気を、上記焼結材料成形体の下面に向けて流動させる上記噴射ノズルを備える、請求項1に記載の過熱水蒸気脱脂焼結装置。
【請求項3】
上記過熱蒸気を、上記焼結材料成形体の表面に向けて流動させるとともに上記焼結材料成形体の表面に沿って流動させる上記噴射ノズルを備える、請求項1又は請求項2に記載の過熱水蒸気脱脂焼結装置。
【請求項4】
所定温度の過熱水蒸気を焼結材料成形体の表面に向けて継続的に流動させる、過熱水蒸気発生装置及び上記噴射ノズルを備える、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の過熱水蒸気脱脂焼結装置。
【請求項5】
過熱水蒸気が通過できるとともに、上記底面に設けた上記噴射ノズルから噴射された過熱蒸気を、上記焼結材料成形体の下面に向けて流動させる保持部材を備える、請求項2に記載された過熱水蒸気脱脂焼結装置。
【請求項6】
焼結可能な焼結粉体と有機バインダとを含む成形材料から所定の形状に成形された焼結材料成形体を、過熱水蒸気を作用させて脱脂し、所定温度で焼結する過熱水蒸気脱脂焼結方法であって、
所定温度の上記過熱蒸気を、上記焼結材料成形体の表面に向けて継続的に流動させる過熱水蒸気脱脂焼結方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、過熱水蒸気脱脂焼結装置に関する。詳しくは、過熱水蒸気を用いて脱脂及び焼結を行う過熱水蒸気脱脂焼結装置に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックス粉体や金属粉体を焼結させて粉体焼結成形体を形成する場合、上記粉体と多量の有機バインダを含む焼結材料成形体を種々の手法で成形し、その後、上記有機バインダを消失させ、所定温度に加熱することにより、上記粉体を焼結させる。
【0003】
上記有機バインダを焼結材料成形体から消失させる脱バインダ工程は、上記焼結材料成形体を、空気中で上記有機バインダが分解する温度以上に加熱して行われることが多い。
【0004】
上記脱バインダ工程においては、上記焼結材料成形体の加熱過程において、上記バインダ成分が内部で急激に膨張しあるいは分解すると、脱バインダされた上記焼結材料成形体にクラック等が発生しやすい。このため、昇温速度を非常に小さく設定して上記脱バインダ工程が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来の昇温速度では、脱バインダ工程が完了するまで、24~150時間を要する。このため、多大なエネルギを要するとともに、エネルギ効率が非常に悪い。また、ヒータ等の所要電力が非常に大きくなり、製造コストも増加する。
【0007】
また、昇温速度を小さくしても、バインダが所要の温度を越えると、焼結材料成形体の内部でバインダ成分の急激な分解現象が生じることがあり、クラックや割れ等が生じることも多い。
【0008】
さらに、ヒータ等で炉内の全域を加熱して、脱バインダ工程や焼結工程が行われるため、精度の高い温度管理は非常に困難である。
【0009】
しかも、厚みの大きな焼結材料成形体では、脱バインダ工程や焼結工程において、クラック等の欠陥が生じることが多い。このため、成形可能な焼結材料成形体の寸法や形状に大きな制限があった。
【0010】
さらに、上記脱バインダ工程終了後に行われる焼結工程にも多大な時間を要し、また焼結温度は、脱バインダ温度より大きいため所要のエネルギも大きくなる。しかも、形状等に応じて、焼結時間や温度を精度高く管理するのが困難であった。
【0011】
本願発明は、上記従来の課題を解決し、短時間に脱バインダ工程及び焼結工程を行うことができるとともに、クラックや割れ等が生じることが少なく、しかも、精度の高い粉体焼結成形体を形成することができる粉体焼結成形体の過熱水蒸気脱脂焼結装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明は、焼結可能な焼結粉体と有機バインダとを含む成形材料から所定の形状に成形された焼結材料成形体を、過熱水蒸気を作用させて脱脂し、所定温度で焼結する過熱水蒸気脱脂焼結装置であって、焼結材料成形体を収容する炉体と、上記炉体に過熱水蒸気を供給する過熱水蒸気発生装置と、上記炉体内に、上方から過熱水蒸気を噴射して供給する噴射ノズルと、上記炉体内からバインダを分解した成分を含む過熱水蒸気を排出する排出口とを備えて構成されおり、上記過熱水蒸気を、上記焼結材料成形体の表面に向けて流動させる上記噴射ノズルを備えて構成されている。
【0013】
過熱水蒸気は、100℃で蒸発した飽和水蒸気を、常圧でさらに高温過熱したH2Oガスである。過熱水蒸気は、加熱対象に対して、対流熱と凝縮熱と放射熱とを作用させることができる。しかも、比熱が空気の2倍程度あるため、加熱効率が非常に高い。
【0014】
しかも、過熱水蒸気の水分と熱による加水分解で有機物を低分子化してガス化できる。また、温度のみで分解する場合や、酸素雰囲気中で分解する場合に比べて分解開始温度が低い。また、過熱水蒸気温度管理を精度高く行うことにより、空気中における酸化分解のように急激な分解を抑えることができるとともに、また、分解速度が早く、しかも分解効率も高い。
【0015】
また、過熱水蒸気による脱バインダ工程及び焼結工程は、従来のように、脱バインダや焼結を行う炉の全体をヒータ等で加熱するものではなく、所要の温度の過熱水蒸気を生成して、炉中で流動させて対象物表面に作用させるようにして行われる。このため、過熱水蒸気の温度を精度高く制御できるばかりでなく、各工程における成形体に作用する温度を精度高く管理することができる。
【0016】
本願発明では、バインダ成分が急激に分解しない一定の温度に管理された過熱水蒸気を、対象物の表面に向けて流動させ、継続的に作用させることができる。このため、バインダは、焼結材料成形体の表面から順次消失させられて、内部のバインダ成分が急激に膨張したり分解したりすることはない。このため、クラック等の発生を効果的に防止できる。
【0017】
しかも、炉の全体を一定温度に保持するものではないため、エネルギ効率が格段に高い。したがって、ヒータ等の電気代を節減できるとともに、製造コストを低減させることも可能となる。
【0018】
上記脱バインダ工程は、上記有機バインダの構成成分の一部が分解する温度の過熱水蒸気を、所定時間作用させて行う第1の脱バインダ工程と、上記有機バインダの全てを分解することができる温度以上の温度の過熱水蒸気を作用させて行う第2の脱バインダ工程とを含んで行うのが好ましい。
【0019】
過熱水蒸気の温度は、非常に精度高く管理することができる。このため、上記有機バインダの構成成分の一部が分解する温度の過熱水蒸気を、所定時間作用させることが可能となる。しかも、上記有機バインダの成分が急激に分解することのない一定の温度の過熱水蒸気を作用させることにより、有機バインダ内部のバインダ成分が急激に膨張したり、分解するのを防止できる。
【0020】
上記第1の脱バインダ工程は、上記有機バインダの構成成分の一部が分解を開始する温度より1~10℃高い温度、好ましくは1~5℃高い温度の過熱水蒸気を、所定時間作用させて行うのが好ましい。これにより、有機バインダの成分が急激に分解するのを効果的に防止できる。有機バインダの構成成分の一部が分解を開始する温度は、有機バインダの各構成成分を、過熱水蒸気中で分解することにより得ることができる。
【0021】
上記過熱水蒸気は焼結材料成形体の表面に作用させることができ、しかも、過熱水蒸気の熱容量が空気等に比べて非常に大きい。このため、空気中で行われる従来の脱バインダ工程における温度より低い温度で、樹脂の分解を開始させることができる。しかも、上記温度は、熱による分解温度より低く、また過熱水蒸気は焼結材料成形体の表面に作用させることができるため、バインダは焼結材料成形体の表面から順次消失を開始する。このため、焼結材料成形体内部の温度を、空気を用いた場合の分解温度や不活性ガスを用いた分解温度より低く設定しても、所要時間を短縮することが可能となり、焼結材料成形体内部におけるバインダの急激な膨張や分解を抑制することが可能となる。これにより、クラック等の発生を効果的に防止できる。
【0022】
上記第1の脱バインダ工程を行うことにより、バインダ構成成分のうち所要の割合を消失させる。これにより、焼結材料成形体内が多孔質状となる。その後、上記過熱水蒸気の温度を、上記有機バインダを完全に消失させることができる温度にまで高めて作用させる第2の脱バインダ工程を行う。
【0023】
上記有機バインダを、低い温度で消失するバインダ成分と、高い温度で消失するバインダ成分とを含んで構成し、上記低い温度で消失するバインダ成分が消失を開始する温度以上で、上記高い温度で消失するバインダ成分の消失が開始する温度未満の温度の過熱水蒸気を所定時間作用させる第1の脱バインダ工程と、上記高い温度で消失するバインダ成分が消失する温度以上の温度の過熱水蒸気を作用させる第2の脱バインダ工程とを含む脱バインダ工程を行うのが好ましい。たとえば、高い温度で消失するバインダ成分として、オレフィン系樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン)、ポリスチレン等が好適である。一方、低い温度で消失するバインダ成分として、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、脂肪酸エステル、フタル酸系エステル等を採用するのが好ましい。
【0024】
この構成を採用することにより、上記低い温度で消失するバインダ成分を先に消失させて焼結材料成形体を多孔質状とし、その後、高い温度で消失するバインダ成分を消失させることが可能となる。このため、脱バインダの所要時間を短縮できるともともに、クラック等の発生をより効果的に防止できる。
【0025】
上記焼結工程は、上記脱バインダ工程に引き続いて、過熱水蒸気の温度を粉体の焼結温度以上に高めて行うことができる。これにより、同じ炉内で、脱脂バインダ工程と焼結工程とを連続的に行うことができる。
【0026】
また、上記過熱水蒸気を用いることなく、上記焼結工程を、脱バインダ工程を終えた上記焼結材料成形体を、不活性ガス雰囲気、還元雰囲気もしくは真空中雰囲気のいずれか一種以上の雰囲気中で焼結を行うこともできる。
【0027】
さらに、上記脱バインダ工程を、窒素、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気と過熱水蒸気の混合ガスをフローさせて最高温度800℃以下において行うことができる。これにより、金属粉体を採用する場合等において、過熱水蒸気中の酸素成分によって金属粉体等が酸化するのを防止できる。
【0028】
上記成形工程において、消失開始温度及び/又は消失完了温度が異なる有機バインダを含む少なくとも2以上の層又は部分を含む焼結材料成形体を形成するとともに、上記2以上の層又は部分のうち、上記消失開始温度及び/又は消失完了温度が低いバインダを含む所定の層又は部分に含まれる有機バインダを優先的に消失させることができる。
【0029】
上述したように、脱バインダ工程は、温度を精度高く管理した過熱水蒸気を焼結材料成形体の表面に作用させるようにして行われる。このため、有機バインダは焼結材料成形体の表面から順次消失するが、バインダが消失する際、焼結材料成形体が所定量収縮する。このため、焼結材料成形体の形態によっては、上記収縮によってクラックや変形が生じる場合があった。本願発明では、焼結材料成形体の所定の部位のバインダを優先的に消失させたり、消失速度を制御することができる。これにより、収縮の際の応力を緩和して、クラック等を防止することが可能となり、焼結材料成形体の形状の自由度が高まる。しかも、従来は、薄肉部分が脱バインダされる温度条件や昇温条件に合わせて脱バインダ工程を行っていたが、これを行う必要がなくなるため、脱バインダ工程に要する時間を短縮する効果も期待できる。また、変形が大きくなる部分を優先的に脱バインダすることにより、変形等を防止することもできる。
【0030】
さらに、上記成形工程、又は上記成形工程後脱バインダ工程前に、上記焼結材料成形体の所定部位に、脱バインダを規制する脱バインダ規制部を設けることができる。
【0031】
上記脱バインダ規制部を設けることにより、所定温度の過熱水蒸気を作用させた場合において、所要の部分の有機バインダの消失を遅らせ、あるいは所定部分の有機バインダを優先的に消失させることが可能となる。このため、脱バインダ工程における収縮に伴う応力を緩和し、これまでにない形態の成形体を得ることも可能となる。
【0032】
上記脱バインダ規制部は、種々の手法で形成することができる。たとえば、焼結材料成形体の所定部位の表面に、消失温度の高い樹脂層を形成することができる。上記樹脂層は、たとえば、上記成形工程において一体的に成形し、あるいは、成形工程が終了した後に、上記樹脂を表面に塗着等することにより形成することができる。
【0033】
さらに、厚みが小さな焼結材料成形体を形成する場合、流動する成形材料の熱が急激に金型等に奪われて温度が低下し、流動性が下がることが多い。このような場合、樹脂等で形成された犠牲型を用いて成形を行うことができる。すなわち、金型内に、上記焼結材料成形体の一部又は全部を成形できる犠牲型部を形成する犠牲型部成形工程を含み、上記犠牲型部を含む金型内に上記成形材料を充填して上記成形工程が行われるとともに、上記犠牲型部は、上記脱バインダ工程、上記焼結工程又はその後に行われる犠牲型部除去工程において、消失又は分離されるように構成できる。
【0034】
上記犠牲型部は、熱伝導率の小さな保温性の高い樹脂材料を用いて形成される。このため、金型内を流動する成形材料の熱が奪われにくく、型内の隅々に成形材料を充填できる。また、金型から上記犠牲型部を付属させたまま焼結材料成形体を離型させることができるため、離型作業を容易に行うことができる。特に、微小な焼結材料成形体を製造する場合、複数の焼結材料成形体を上記犠牲型部とともに離型させることができるため、欠け等を効果的に防止できる。また、その後のハンドリングを容易に行うこともできる。
【0035】
一方、犠牲型部は、脱バインダ工程において完全に消失する一方、上記焼結材料成形体は、バインダ成分のみ消失するため、犠牲型が消失する際に焼結材料成形体を支持する部分が消失し、変形等が生じる恐れもある。また、上記犠牲型部の脱バインダ工程における収縮率が上記焼結材料成形体の収縮率と異なると、予期しない応力が上記焼結材料成形体に作用し、成形体の寸法精度や形状精度が低下する恐れがある。
【0036】
上記不都合を回避するため、上記犠牲型部を、所定の粒度を有する粉体状樹脂と、上記粉体状樹脂間に充填された犠牲型バインダ成分とを含んで構成することができる。犠牲型部の上記犠牲型バインダ成分は、上記犠牲型部成形工程において溶融する一方、上記成形工程において溶融せず、上記脱バインダ工程において消失させられるように設定される。上記粉体状樹脂は、上記犠牲型部成形工程、上記成形工程において溶融せず、上記脱バインダ工程において消失させられるように設定される。そして、上記脱バインダ工程における上記犠牲型部の犠牲型バインダ成分及び上記焼結材料成形体の有機バインダが消失する温度を、上記粉体状樹脂の消失温度より低く設定することができる。
【0037】
上記構成によると、焼結材料成形体の有機バインダと上記犠牲型部の犠牲型バインダ成分とを先に消失させることができる。このとき、上記粉体状樹脂は消失しておらず、焼結材料成形体を、上記粉体状樹脂に保持させながら、焼結材料成形体内の有機バインダを消失させることができる。これにより、焼結材料成形体の脱バインダ工程における変形等を防止できる。その後、上記粉体状樹脂を消失させることにより脱バインダ工程が完了する。
【0038】
すなわち、上記脱バインダ工程は、上記犠牲型部に含まれる上記犠牲型バインダ成分と、上記焼結材料成形体を構成する有機バインダとが消失する第1の犠牲型部消失工程と、上記粉体状樹脂が消失する第2の犠牲型部消失工程を含んで行われる。これにより、上記焼結材料成形体を上記犠牲型部に保持させながら、脱バインダすることが可能となる。さらに、好ましくは、上記犠牲型バインダ成分を上記焼結材料成形体の有機バインダが消失を開始する前に、消失するように構成するのが好ましい。これにより、犠牲型部を多孔質状とし、過熱水蒸気を通過させながら上記焼結材料成形体の有機バインダを消失させ、その後に粉体状樹脂を消失させることが可能となり、焼結材料成形体の脱バインダをより促進することができる。
【0039】
さらに、上記脱バインダ工程において、上記犠牲型部の上記犠牲型バインダ成分が消失する際の収縮率と、上記焼結材料成形体の収縮率とを同じに設定するのが好ましい。これにより、焼結材料成形体の収縮に応じて犠牲型部を収縮させることが可能となり、焼結材料成形体の形状精度等を高めることができる。
【0040】
また、上記犠牲型部を、上記焼結粉体とは焼結しない粉体とバインダ成分とを含んで構成し、上記脱バインダ工程及び上記焼結工程において、焼結材料成形体を上記焼結しない粉体に保持しながらこれら工程を行うことができる。
【0041】
上記構成を採用すると、脱バインダ工程における変形のみならず、焼結工程における変形を防止できる。また、上記犠牲型部は、少なくとも上記脱バインダ工程における収縮率を、上記焼結材料成形体の収縮率と同一に設定するのが好ましい。これにより、焼結材料成形体の脱バインダ後の形状精度等をより高めることができる。
【0042】
たとえば、上記焼結粉体として金属粉体を採用し、上記焼結しない粉体としてセラミック材料から形成された粉体を採用することができる。セラミック材料から形成された粉体は、金属粉体より焼結温度が高く、上記金属粉体を焼結する温度では焼結しない。上記セラミック粉体は、金属粉体が焼結した後に、容易に金属焼結体から除去することができる。なお、上記セラミック粉体は、上記焼結粉体の保持部分の形態に成形されるため、上記金属粉体を含む焼結材料成形体を精度高く保持して、焼結工程を行うことが可能となる。
【0043】
さらに、上記焼結材料成形体を、同時に焼結される上記犠牲型部に保持しながら焼結することもできる。すなわち、上記犠牲型部を、上記焼結工程において焼結するとともに上記焼結粉体とは焼結しない粉体と、犠牲型バインダとを含んで構成する。そして、上記脱バインダ工程において、上記有機バインダ及び上記犠牲型バインダが消失するとともに、上記焼結工程において、上記焼結材料成形体が、上記犠牲型部とともに焼結され、その後に行われる上記犠牲型部除去工程において、上記犠牲型部が分離除去される。
【0044】
上記犠牲型部が、上記焼結工程においても消失しないため、上記焼結材料成形体を精度高く保持したまま焼結工程を行うことができる。このため、焼結過程にある焼結材料成形体の変形等を効果的に防止することができる。
【0045】
上記犠牲型部を構成する粉体同士は焼結するが、上記焼結材料成形体を構成する焼結材料とは焼結しない材料から構成するのが好ましい。たとえば、金属粉体を用いて焼結材料成形体が構成される場合、上記金属粉体とは焼結しない金属粉体、又はセラミック粉体を採用できる。
【0046】
犠牲型部を採用する場合、上記脱バインダ工程における収縮率及び上記焼結工程における収縮率が同一になるように設定するのが好ましい。これにより、上記焼結材料成形体の形態を精度高く保持したまま、脱脂工程及び焼結工程を行うことが可能となり、焼結成形体の形状精度を高めることができる。
【0047】
上記有機バインダは、これを構成するバインダ成分が水分吸湿率0.05%以下である熱可塑性樹脂を少なくとも20~40vol%含有し、融点が100℃以下である有機化合物を少なくとも20~40vol%含み、上記有機バインダの添加量が焼結粉体に対して30~70vol%に設定して、これら部材を加熱混練して成形材料を作成するのが好ましい。
【0048】
上記水分吸湿率が0.05%以下である熱可塑性樹脂を少なくとも20~40vol%含有する上記有機バインダを採用することにより、過熱水蒸気中において、樹脂成分が膨潤することなく熱分解される。このため、クラック等の発生を効果的に防止できる。上記水分吸湿率が0.05%を越える樹脂を、40vol%を越えて配合した場合、過熱水蒸気から水分を吸収しやすくなり、膨潤によってクラック等が生じやすくなる。
【0049】
また、融点が100℃以下の有機化合物を少なくとも20~40vol%含ませることにより、成形工程における成形材料の流動性が確保され、また、焼結材料成形体の靱性を高めることもできる。
【0050】
また、成形材料調整工程において得られた成形材料から成形した粉体焼結成形体を、最高温度800℃以下の過熱水蒸気中で脱バインダ工程を行うのが好ましい。
【0051】
これにより、上記配合のバインダを効率よく分解して消失させることができる。なお、上述したように、焼結材料成形体の形態等に応じてバインダ成分を設定することができる。
【0052】
その後、過熱水蒸気の温度を900℃~1500℃に高めて作用させることにより、焼結工程が行われる。上記焼結工程における過熱水蒸気の温度が900℃未満の場合、上記バインダからの残留カーボンを充分に分解消失させることができない。一方、1500℃を越えると、焼結材料が溶融し、変形等の問題が生じやすくなる。
【0053】
水分吸湿率が0.05%以下である熱可塑性樹脂として、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル重合体を採用するのが好ましい。
【0054】
融点が100℃以下の有機化合物として、パラフィンワックス、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、フタル酸エステル、マイクロクリスタルワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、カルナバワックス、モンタン系ワックス、ウレタン化ワックス、無水マイレン酸変成ワックス、ステアリン酸及びポリグリコール系化合物からなる有機化合物を採用することができる。
【0055】
特に、上記有機バインダを構成する成分が、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、エチレン酢酸ビニル共重合体から選ばれた1以上の熱可塑性樹脂を、少なくとも5~40vol%含有させるのがより好ましい。
【0056】
本願発明に係る焼結粉体の種類は特に限定されることはない。たとえば、ステンレス金属粉体又はジルコニアセラミックス粉体を採用できる。また、粉体焼結成形体を種々の用途に用いることができる。
【発明の効果】
【0057】
短時間に脱バインダ工程及び焼結工程を行うことができるとともに、クラックや割れ等が生じることが少なく、しかも、精度の高い粉体焼結成形体を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【
図1】炉体内で過熱水蒸気を用いて脱バインダ工程及び焼結工程を行う状態を模式的に示す図である。
【
図2】
図1に示す装置を用いて脱脂工程の開始前の状態を示す図である。
【
図3】脱バインダ工程の途中の状態を示す図である。
【
図4】脱バインダ工程が終了した状態を示す図である。
【
図6】焼結材料成形体の構成を模式的に示す図である。
【
図7】脱バインダ工程の途中の焼結材料成形体の状態を模式的に示す図である。
【
図8】脱バインダ工程終了後の焼結材料成形体の状態を模式的に示す図である。
【
図9】焼結工程が終了した状態を模式的に示す図である。
【
図10】焼結材料成形体を、過熱水蒸気を通過させる保持部材に保持させながら脱バインダ工程を行う図である。
【
図11】有機バインダの異なる部分を有する焼結材料成形体の構成を模式的に示す図である。
【
図12】有機バインダの異なる部分を有する焼結材料成形体の脱バインダ工程の途中の状態を模式的に示す図である。
【
図13】有機バインダの異なる部分を有する焼結材料成形体の脱バインダ工程の終了後の状態を模式的に示す図である。
【
図15】
図14に示す犠牲型部を用いて焼結材料成形体を形成する工程を示す図である。
【
図16】
図15に示す犠牲型部及び焼結材料成形体を金型装置から取り出した状態を模式的に示す図である。
【
図17】
図16に示す犠牲型部及び焼結材料成形体からバインダを除去した状態を模式的に示す図である。
【
図18】
図17に示す成形体から犠牲型部を消失させた状態を模式的に示す図である。
【
図19】
図18に示す成形材料成形体を焼結した後の状態を模式的に示す図である。
【
図20】脱バインダ規制部を設けた焼結材料成形体の断面を模式的に示す図である。
【
図21】
図20示す焼結材料成形体の脱バインダ工程途中の状態を模式的に示す図である。
【
図22】
図19及び
図20に示す焼結材料成形体の脱バインダ工程が終了した後の状態を模式的に示す図である。
【
図23】犠牲型部を構成する粉体が焼結される場合の例を示す模式図であり、
図16に対応する図面である。
【
図24】
図23に示す犠牲型部及び焼結材料成形体から犠牲型バインダ及び有機バインダを消失させた状態を示す図である。
【
図25】
図24に示す焼結材料成形体を焼結した状態を示す図である。
【
図26】焼結材料成形体を犠牲型部から分離させた状態を示す図である。
【
図28】
図27に示す成形体からバインダを除去した状態を示す図である。
【
図29】
図28に示す焼結材料成形体と犠牲型部を一体的に焼結した状態を示す図である。
【
図30】
図29に示す粉体焼結成形体と犠牲型部とを分離した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0059】
以下、本願発明の実施形態を具体的に説明する。
図1に示すように、本実施形態に係る過熱水蒸気脱脂焼結装置1は、焼結材料成形体10を収容する炉体2と、上記炉体2に過熱水蒸気6を供給する過熱水蒸気発生装置3と、上記炉体2内に、上方から過熱水蒸気6を噴射して供給する噴射ノズル5と、上記炉体2内からバインダを分解した成分を含む過熱水蒸気を排出する排出口7,7とを備えて構成されている。
【0060】
上記過熱水蒸気発生装置3は、市販されている種々の過熱水蒸気発生装置を採用できる。上記炉体2内には、焼結材料成形体10が、セラミック製の台9に載置され、上方から過熱水蒸気を作用させることができるように構成されている。
【0061】
図2及び
図3に示すように、上記焼結材料成形体10は、焼結可能な焼結粉体11と有機バインダ12とを含む成形材料13を成形して構成される。上記成形材料を成形する手法は特に限定されることはない。たとえば、圧縮成形、射出成形、押し出し成形等、種々の成形手法を用いて形成できる。
【0062】
上記焼結粉体として、種々の粉体を採用できる。たとえば、所要の粒度を備える金属粉体やセラミック粉体を採用できる。粉体の粒度は、上記成形方法等に応じて適宜設定できる。
【0063】
本願発明では、上記焼結粉体11として所定粒度のステンレス粉体を採用するとともに、有機バインダを上記ステンレス粉体と混練して成形材料を調整し、これを射出成形して上記焼結材料成形体10を形成している。
【0064】
本実施形態における上記有機バインダは、水分吸湿率0.05%以下である熱可塑性樹脂を少なくとも20~40vol%配合するとともに、融点が100℃以下である有機化合物を少なくとも20~40vol%配合して、上記成形材料13を構成している。
【0065】
上記熱可塑性樹脂として、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、エチレン酢酸ビニル共重合体から選ばれた1以上の熱可塑性樹脂を採用するのが好ましい。また、上記有機化合物として、パラフィンワックス、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、フタル酸エステル、マイクロクリスタリンワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、カルナバワックス、モンタン系ワックス、ウレタン化ワックス、無水マレイン酸変性ワックス、ステアリン酸及びポリグリコール系化合物からなる有機化合物を使用することができる。上記熱可塑性樹脂及び上記有機化合物の種類及び配合割合は、成形手法や成形体の形態等に応じて設定することができる。
【0066】
図2から
図5に、焼結材料成形体の脱脂工程における脱バインダ状態を模式的に示す。本実施形態では、採用した有機バインダの一部が消失を開始する温度より5℃高い温度の過熱水蒸気を、上記噴射ノズル5を用いて、焼結材料成形体10の上方から下方に向けて流動させる。上記過熱水蒸気6は、上記焼結材料成形体10の表面に沿って流動させられ、炉体2の側方に設けた上記排出口7,7から排出される。なお、
図1では、流動する過熱水蒸気6は、大気中に排出するように記載しているが、過熱水蒸気発生装置3に循環させることもできる。
【0067】
図1に示すように、上記温度の過熱水蒸気6を、上記焼結材料成形体10の表面に作用させることにより、焼結材料成形体10中の有機バインダを、表面側から順次消失させることができる。しかも、本実施形態では、採用した有機バインダの消失開始温度より5℃高い一定温度の過熱水蒸気6を作用させるため、焼結材料成形体10の内部の温度は、上記温度以上になることはない。
【0068】
過熱水蒸気6は、上述したように、空気による脱バインダと異なる機構で脱バインダが行われるため、有機バインダの一部が消失を開始する温度を、空気を用いた場合や不活性ガスを用いた場合に比べて低く設定できる。このため、有機バインダが急激に膨張し、あるいは分解する温度以下の温度で、焼結材料成形体10の表面から脱バインダを開始させることが可能となる。上記過熱水蒸気の温度が、過熱水蒸気による脱バインダを開始する温度より10℃を越えて高くなると、有機バインダが急激に膨張しあるいは分解する恐れが高まる。
【0069】
上記過熱水蒸気の温度を、有機バインダが分解を開始する温度より5℃を超えて高くならない範囲で脱バインダを行うことにより、焼結材料成形体10の内部の有機バインダが、急激に膨張したり、分解したりすることはない。したがって、脱バインダ工程において、上記焼結材料成形体10内に、クラック等が生じるのを効果的に防止できる。上記過熱水蒸気6の温度は、有機バインダの消失特性等に応じて、有機バインダの消失開始温度から10℃を超えて高くならない範囲で設定できる。
【0070】
一方、過熱水蒸気の温度を、有機バインダの消失が開始する温度より5℃高い温度に設定したままでは、有機バインダの全てを消失させることはできない場合がある。このため、所定時間経過後、あるいは所定量の有機バインダが消失した後に、過熱水蒸気の温度を、全ての有機バインダが消失する温度以上に高めるのが好ましい。
【0071】
図4に示すように、上記過熱水蒸気6の温度を、
全ての有機バインダが消失する温度以上に高めることにより、
図4に示すように、有機バインダを完全に消失させることができる。その後、上記過熱水蒸気の温度を高めて、焼結材料成形体10を焼結する。上記焼結温度は、焼結粉体の種類に応じて設定できる。本実施形態で採用したステンレス粉体では、1200℃程度の過熱水蒸気を作用させるのが好ましい。
図5に示すように、上記焼結工程において焼結粉体間の隙間がなくなるため、粉体焼結成形体14は、焼結材料成形体10に比べて、10~20%収縮する。
【0072】
図6から
図9に、焼結材料成形体の脱バインダ工程及び焼結工程における焼結材料成形体10の内部の状態を模式的に示す。なお、本実施形態では、有機バインダ22が消失温度の異なる2種類のバインダ成分22a,22bから構成されており、これらの図において、有機バインダ22a,22bの成分を直径が異なる円形粒子として示している。
【0073】
本実施形態では、上記有機バインダ22を、低い温度で消失するバインダ成分22aと、高い温度で消失するバインダ成分22bとを含んで構成している。上記低い温度で消失するバインダ成分22aとして、上述した融点が100℃以下である有機化合物が採用される。一方、高い温度で消失するバインダ成分22bとして、上述した水分吸湿率0.05%以下である熱可塑性樹脂を採用している。なお、上記各バインダ成分の配合割合は、成形手法等に応じて、上述した範囲の配合割合で設定される。
【0074】
まず、低い温度で消失するバインダ成分22aの消失開始温度より1~5℃高い温度で、かつ、上記高い温度で消失するバインダ成分22bが消失を開始する温度以下の温度の過熱水蒸気を生成し、上述した実施形態と同様に焼結材料成形体10に作用させて第1の脱バインダ工程が行われる。
【0075】
上記過熱水蒸気の温度が、上記低い温度で消失するバインダ成分22aの消失開始温度より高い温度に設定されているとともに、上記高い温度で消失するバインダ成分22bの消失開始温度より低く設定されているため、上記第1の脱バインダ工程においては、上記低い温度で消失するバインダ成分22aが選択的に消失させられる。
【0076】
本実施形態では、過熱水蒸気の温度を一定に保持し、上記焼結材料成形体10の表面に作用させることができるため、高い温度で消失するバインダ成分22bを残した状態で、低い温度で消失するバインダ成分22aのみを選択的に消失させることができる。しかも、過熱水蒸気の気流を焼結材料成形体10の表面に当ててこれらバインダ成分を消失させるため、炉内を一定温度に保持する従来の手法に比べて、効率よく低い温度で消失するバインダ成分22aのみを選択的に消失させることが可能となる。このため、
図7に示すように、低い温度で消失するバインダ成分22aを消失させることにより、多孔質状の
焼結材料成形体10が形成される。
【0077】
その後、過熱水蒸気の温度を、高い温度で消失するバインダ成分22bが消失する温度以上に高めて、焼結材料成形体10に作用させる。上記焼結材料成形体10が、多孔質状となっているため、過熱水蒸気を、焼結材料成形体の内部にまで浸透させながら脱バインダ工程を行うことができる。この結果、
図8に示すように、クラック等の発生を防止しながら、有機バインダを効率よく除去することが可能となる。
【0078】
その後、上記過熱水蒸気の温度を、上記焼結粉体21の焼結温度以上に高めて、焼結工程が行われ、
図9に示す粉体焼結成形体24が形成される。
【0079】
図2及び
図3に示すように、焼結材料成形体10は、炉内でセラミック製の台9に保持される。上記台9は、
過熱水蒸気の透過性が
低いため、上記台9に接する部分には、上記過熱水蒸気が作用しにくい。このため、焼結材料成形体の底部の脱バインダが阻害され、上記台9の底部中央近傍の部分の脱脂が遅れる。このため、焼結材料成形体の形状によっては、上記台9と接する部分において、予期しない変形等が生じる場合がある。
【0080】
上記不都合を解消するため、
図10に示すように、上記脱バインダ工程及び/又は上記焼結工程を、過熱水蒸気36が通過できるとともに、上記焼結材料成形体33の収縮に対応して変位できる粒子39aから構成された保持部材39に保持させて行うことができる。
【0081】
また、本実施形態では、過熱水蒸気36を、上方に設けたノズル35aのみならず、上記保持部材39の下方、すなわち、炉の底面に設けたノズル35bから炉体2内に噴出させることができるように構成している。上記炉の底面に設けたノズル35bから噴出された過熱水蒸気は、上記焼結材料成型体に向けて流動させられ、上記焼結材料成型体の底面に作用させられる。上記構成によって、焼結材料成形体33の全周囲に過熱水蒸気36を作用させることが可能となり、上述した台9を採用した場合の不都合が解消される。
【0082】
しかも、上記保持部材39は、粒子39aを集合させたものであり、上記焼結材料成形体33の収縮に応じて変位あるいは変形できるように構成されている。このため、脱バインダ工程及び焼結工程において、焼結材料成形体33の保持部分に予期しない変形等が生じるのを効果的に防止できる。
【0083】
さらに、
図10に示す状態で、
過熱水蒸気36の温度を、焼結粉体31の焼結温度以上に高め、脱バインダ工程に連続して焼結工程を行うことができる。焼結工程において、上記粒子39aが、焼結材料成形体の収縮に応じて変位あるいは変形できるため、形状精度の高い粉体焼結形成体を形成できる。
【0084】
【0085】
本実施形態では、上記成形工程において、消失開始温度及び/又は消失完了温度が異なるバインダ成分を配合した少なくとも2以上の部分を含む焼結材料成形体43が形成される。
図11に示すように、焼結粉体41はすべての部分で同一のものを採用しているが、中央部分と両側部分で有機バインダの種類を異ならせている。
【0086】
上記両側部分には、高い温度で消失する有機バインダ42aを採用する一方、中央部分には、低い温度で消失する有機バインダ42bを採用している。具体的には、上記有機バインダ42aは、ポリエチレン樹脂を含む樹脂バインダであり、上記有機バインダ42bは、ポリアセタール樹脂を含む有機バインダを採用している。
【0087】
上記構成の焼結材料成形体を形成する手法は特に限定されることはない。たとえば、射出成形法を採用する場合、いわゆる2色成形によって一体的な焼結材料成形体を形成することができる。また、上記両側部分と中央部分とを別途成形し、接合面のバインダ成分を溶融させて接合することもできる。
【0088】
上記焼結材料成形体43に、まず、低い温度で消失する有機バインダ42bが消失を開始する温度より高く、上記有機バインダ42aが消失を開始する温度より低い温度の過熱水蒸気を作用させて第1の脱バインダ工程を行う。過熱水蒸気の温度は、非常に精度高く管理することができるため、上記低い温度で消失する有機バインダ42bのみ選択的に消失させることができる。なお、消失温度によっては、両バインダが消失を開始する場合もあるが、少なくとも、上記有機バインダ42bが完全に消失した時点で、上記有機バインダ42aの40~80%が消失しないように構成するのが望ましい。
【0089】
上記低い温度で消失する有機バインダ42bが消失した後、過熱水蒸気の温度を、高い温度で消失する有機バインダが消失する温度まで高めて、第2の脱バインダ工程を行う。これにより、上記焼結材料成形体43内のバインダを完全に消失させることができる。
【0090】
上記手法を採用すると、焼結材料成形体43の所定部分のバインダを優先的に消失させることが可能となる。通常、焼結材料成形体43の表面近傍から均一に樹脂バインダが消失するが、形態によっては、所定部分の脱バインダを優先的に行ったり、逆に遅らせたりすることにより形状精度等が上がる場合がある。また、過熱水蒸気を作用させる場合、焼結材料成形体の表面の過熱水蒸気の気流の速度が、炉内の位置や成形体の形態によって異なる場合があるため、脱脂される速度が異なることになる。このため、脱脂工程において、予期しない変形等が生じる恐れがある。上記手法を採用して、所定部分における脱バインダ速度を調整し、これまで製作が困難であった複雑な形態を備える粉体焼結成形体を形成することが可能となる。
【0091】
図14から
図18に、本願発明を、犠牲型部を用いて成形される粉体焼結成形体に適用した例を示す。
【0092】
図14に示すように、本実施形態では、まず、上型61と下型62を備える金型装置60を用いて、犠牲型部64を成形する。上記上型61と下型62との間には上型内面61aと下型内面62aが形成されている。これら内面間に成形空間が形成されており、上記上型61に設けた犠牲部材注入口67から、上記成形空間に犠牲型材料63が注入されて犠牲型部64が形成される。
【0093】
次に、上記上型61を、第2の上型71に交換する。上記第2の上型71と、上記犠牲型部64の間には、焼結可能な粉体51と有機バインダ52とを含む成形材料53が、上記第2の上型71に設けた成形材料注入口65から注入されて、上記犠牲型部64に埋め込まれるようにして、犠牲型部64が付属した焼結材料成形体70が成形される。
【0094】
上記焼結材料成形体70は、上記犠牲型部64とともに金型71,62から離型される。このため、離型の際に焼結材料成形体70が傷む恐れもない。また、その後のハンドリングも容易に行うことができる。
【0095】
図16に示すように、本実施形態では、上記犠牲型材料63は、所定の粒度を有する粉体状樹脂65と、上記粉体状樹脂65間に充填された犠牲型バインダ成分66とを含んで構成される。一方、上記焼結材料成形体70は、上述した実施形態と同様に、焼結粉体51と有機バインダ52とを含む成形材料53から構成される。
【0096】
上記犠牲型バインダ成分66は、上記犠牲型部成形工程において溶融する一方、上記成形材料53を注入する上記成形工程において溶融せず、上記脱バインダ工程において消失するように設定されている。上記粉体状樹脂65は、上記犠牲型部成形工程及び上記成形工程において溶融せず、上記脱バインダ工程において消失させられるように設定されている。そして、上記脱バインダ工程において、上記犠牲型部64の犠牲型バインダ成分66と上記焼結材料成形体の上記有機バインダ52が消失する温度が、上記粉体状樹脂65の消失温度より低く設定されている。
【0097】
たとえば、上記犠牲型バインダ成分66及び上記有機バインダ52にポリエチレンを含むバインダ成分を採用する一方、上記粉体状樹脂65に熱硬化性の樹脂材料、たとえば、ウレタン樹脂やポリエステル樹脂を採用することができる。
【0098】
上記形態の焼結材料成形体70及び犠牲型部64に、上記犠牲型バインダ成分66と上記有機バインダ52が消失する温度以上で、上記粉体状樹脂65が消失しない温度に設定した過熱水蒸気を作用させる。上記温度の過熱水蒸気を所定時間作用させることにより、
図17に示すように、脱バインダが行われた焼結材料成形体70と、上記犠牲型部64の上記粉体状樹脂65を残留させることができる。
【0099】
上記犠牲型バインダ成分66が消失する際の犠牲型部64の収縮率と、上記有機バインダ52が消失する際の焼結材料成形体70の収縮率が同じになるように設定されている。このため、脱バインダ工程における変形等を効果的に防止しつつ、脱バインダ工程を行うことができる。
【0100】
その後、過熱水蒸気を上記粉体状樹脂65が消失する温度以上に高めることにより、
図18に示すように、上記粉体状樹脂65が消失させられる。これにより、焼結材料成形体70の脱バインダ工程が終了する。
【0101】
本実施形態では、犠牲型部64に、焼結材料成形体70を保持させながら上記焼結材料成形体中の有機バインダを消失させることができる。しかも、上記犠牲型部64の犠牲型バインダ成分を消失させることにより多孔質状となった犠牲型部64を介して、焼結材料成形体70の全周に過熱水蒸気を作用させることが可能となり、脱バインダ効率を高めることができるとともに、形状精度も高まり、さらに、クラック等を防止できる。
【0102】
その後、
過熱水蒸気を上記焼結粉体の焼結温度以上に上昇させ、
図19に示す粉体焼結成形体74が形成される。
【0103】
図20から
図22に、脱バインダ工程において、焼結材料成形体80の所定部位の有機バインダ82の消失を規制する脱バインダ規制部90を設けた実施形態を示す。
【0104】
上記焼結材料成形体80は、第1の実施形態に係る焼結材料成形体と同様に、焼結粉体81と有機バインダ82とを含んで形成されている。本実施形態では、平坦状基部91とこの基部の上面から突出する突起部92とを備える焼結材料成形体80が成形される。また、上記基部91と突起部92の隅部を覆うように上記脱バインダ規制部90が設けられている。上記脱バインダ規制部90は、上記有機バインダ82より消失温度が高い樹脂材料から形成されている。
【0105】
上記構成の焼結材料成形体80に、まず、上記有機バインダ82が消失を開始する温度より高く、上記脱バインダ規制部90が消失しない温度範囲の過熱水蒸気を作用させる。すると、
図21に示すように、上記脱バインダ規制部90を設けた部位近傍の上記有機バインダ82の消失が規制されて、それ以外の部分の脱バインダが進行する。その後、上記脱バインダ規制部90が消失する温度以上の過熱水蒸気を作用させることにより、上記脱バインダ規制部90を消失させる。
【0106】
上記構成によって、上記焼結材料成形体80の突起部92の隅部を保護した状態で脱バインダ工程を進行させることができる。このため、脱バインダ工程において、変形等が生じやすい部分の脱バインダを遅らせたり、早めたり、さらに、脱バインダの程度を調整しながら脱バインダ工程を行うことが可能となる。このため、脱バインダ工程における変形やクラックの発生を効果的に防止できる。
【0107】
図23から
図26に、上記焼結材料成形体70を、同時に焼結される犠牲型部164に保持しながら焼結する実施形態を示す。
図23に示すように、犠牲型部164を構成する粉体165は焼結工程において焼結する一方、上記焼結材料成形体70を構成する焼結粉体51とは焼結しないもので構成されている。なお、焼結材料成形体70を構成する焼結粉体51と有機バインダ52は、上述した実施形態と同様であるので説明は省略する。
【0108】
上記犠牲型バインダ166は、上記有機バインダ52と同じ成分のものが採用されている。脱バインダ工程において、上記犠牲型部164は、上記焼結材料成形体70と同じ収縮率で脱バインダが行われるように構成されている。このため、
図24に示すように、脱バインダ工程において、上記焼結材料成形体70を上記犠牲型部164に保護しながら脱バインダを行うことができる。
【0109】
さらに、本実施形態では、焼結工程において、上記犠牲型部164を構成する粉体165が、上記焼結材料成形体70と同じ収縮率で焼結されるように設定されている。このため、
図25に示すように、上記焼結材料成形体70が、上記犠牲型部164と一体的に焼結されている。また、上記焼結工程においても、上記焼結材料成形体70を、上記
犠牲型部164で保護しながら焼結工程を行うことが可能となる。
【0110】
図25における焼結後の上記犠牲型部167は、粉体焼結成形体151とは焼結しない材料から形成されているため、
図26に示すように、容易に分離させることが可能となる。なお、上記犠牲型部164を構成する粉体165が仮焼結状態、すなわち、上記粉体焼結成形体151より強度が低くなるように焼結して、その後、上記犠牲型部167を破壊して上記粉体焼結成形体151を分離するように構成することもできる。
【0111】
上記犠牲型部164を構成する粉体165として、たとえば低融点のセラミック粉体を採用する一方、上記焼結粉体としてステンレス粉末を採用することができる。上記ステンレス粉体が焼結終了する温度で、上記セラミック粉体が仮焼結するものを採用するのが好ましい。
【0112】
図27から
図30に、犠牲型部264を、
過熱水蒸気を流動させる形態に形成した場合の実施形態を示す。
【0113】
なお、上記犠牲型部264の粉体265及び犠牲型バインダ266、焼結材料成形体273の焼結粉体251及び有機バインダ252は、上述した実施例と同じである。
【0114】
本実施形態では、犠牲型部264を成形する工程において、上記粉体265が存在せず、上記犠牲型バインダ266のみで成形された領域を設けている。
【0115】
上記粉体265が存在しない領域は、脱バインダ工程において上記犠牲型バインダが消失して孔状となる。本実施形態では、炉の載置面と平行に延びる横孔271と、上記横孔271に連通するとともに、上記焼結材料成形体273の下面に通じる縦孔270とを形成している。これにより、過熱水蒸気6を焼結材料成形体273の下面に導いて、脱バインダ工程及び焼結工程を効率よく行うことができるとともに、クラックや変形の発生を効果的に防止できる。
【実施例0116】
以下、本願発明の実施例を示す。なお、実施例においては、下記の成分の成形材料を調整し、10×20×5mmの直方体状の試験片を成形して実験を行った。
【0117】
実施例1
ステンレス金属粉末(SUS316L:平均粒径7μm) 60vol%
有機バインダ:40vol%
(1)ポリプロピレン:20vol%
(2)エチレン酢酸ビニル共重合体:20vol%
(3)パラフィンワックス:50vol%
(4)ステアリン酸:10vol%
【0118】
実施例2
ステンレス金属粉末(SUS317:平均粒径7μm) 60vol%
有機バインダ:40vol%
(1)ポリプロピレン:20vol%
(2)ポリエチレン:20vol%
(3)パラフィンワックス:50vol%
(4)ステアリン酸:10vol%
【0119】
〔実施例1及び実施例2に係る試験方法及び試験結果〕
実施例1,2については160℃で各ステンレス金属粉末と有機バインダを加熱混練し、ペレット形状に成形材料を作成する。次に、射出成形温度180℃で射出成形工程を行い、上記形態の成形体を得た。得られた成形体を、過熱水蒸気発生装置を用いて50℃~800℃まで5℃/minで加熱し成形体から有機バインダを加熱除去した。実施例1,2共に残留した有機バインダ量は5%以下であることが残留炭素分析(堀場、レコカーボン量測定装置)で確認された。
【0120】
得られた脱バインダ成形体を800℃までを水素ガス雰囲気中で、800℃以上をアルゴンガス雰囲気中で、最高温度1350℃で焼結を行い、粉体焼結成形体を得た。得られた焼結成形体は内部クラックのない健全な焼結体であった。
【0121】
実施例3
ジルコニアセラミックス粉末(比表面積8 平米/ g):50vol%
有機バインダ:50vol%
(1)ポリプロピレン:10vol%
(2)エチレン酢酸ビニル共重合体:20vol%
(3)パラフィンワックス:60vol%
(4)ステアリン酸:10vol%
【0122】
実施例4
ジルコニアセラミックス粉末(比表面積8m2 /g):50vol%
有機バインダ:50vol%
(1)ポリスチレン:5vol%
(2)エチレン酢酸ビニル共重合体:25vol%
(3)パラフィンワックス:60vol%
(4)ステアリン酸:10vol%
【0123】
〔実施例3及び実施例4に係る試験方法及び試験結果〕
実施例3,4については160℃で各ジルコニア粉末と有機バインダを加熱混練し、ペレット形状に成形材料を作成する。次に、射出成形温度180℃で成形し上記形態の焼結材料成形体を得た。得られた焼結材料成形体を、過熱水蒸気装置を用いて50℃~800℃までを3℃/minで加熱し焼結材料成形体から有機バインダを加熱除去した。実施例3,4共に残留した有機バインダ量は5%以下であることが残留炭素分析(堀場、レコカーボン量測定装置)で確認された。得られた脱バインダされた焼結材料成形体を空気雰囲気下、最高温度1450℃で焼成を行い、所定形状の粉体焼結成形体を得た。
【0124】
〔比較例1〕
上記実施例におけるポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、エチレン酢酸ビニルコポリマーの代わりに、66ナイロン、ポリアセタール、ポリメチルメタクリレートをバインダとして用いて同様の条件で、試験を行った。
【0125】
〔比較例1における試験結果〕
同上の条件では過熱水蒸気脱脂工程でクラックが発生した。
【0126】
〔比較例2〕
上記実施例1,2に係る構成の試験片を従来の窒素雰囲気下での加熱脱脂条件で脱脂した。この場合、0.5℃/minの条件で脱バインダした場合にも加熱途中に変形が生じて健全な脱脂体を得ることができなかった。
【0127】
〔比較例3〕
上記実施例3,4の構成の試験片を従来の空気雰囲気下での加熱脱脂条件で脱脂した場合には0.1℃/minの条件で脱脂した場合にも内部にクラックが生じ健全な脱脂体を得ることができなかった。
【0128】
〔考察〕
水分吸湿率が0.05%を超える材料を熱可塑性樹脂バインダとして用いた場合には加熱条件1℃/minでもクラックが生じた。熱可塑性樹脂バインダにおいて水分吸湿率が0.05%以下であるポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、エチレン酢酸ビニルコポリマーを用いた場合では5 ℃/minでもクラックは生じなかった。
これら炭化水素系樹脂は吸水率が0.05%以下と非常に小さいため、過熱水蒸気中においても樹脂そのものが膨潤すること無く熱分解されたものと思われる。
これに対して、吸水率が0.05%以上であるポリアセタール、ナイロン、ポリメチルメタクリレートを樹脂バインダとして用いた場合には水蒸気で加熱する際にこれら樹脂が吸水することで膨潤し焼結材料成形体にクラックを発生させるものと思われる。
【0129】
本願発明の範囲は、上記実施形態及び実施例に限定されることはない。実施形態で記載した焼結材料成形体の形態以外の種々の形態の成形品に、本願発明を適用できる。また、実施形態で記載した、焼結材料成形体の構成成分も限定されることはなく、種々の焼結粉体及び種々の有機バインダ等を採用できる。
短時間に脱バインダ工程及び焼結工程を行うことができるためエネルギ効率が高いとともに、クラックや割れ等が生じることが少なく、しかも、精度の高い粉体焼結成形体を形成することができる。