(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022031484
(43)【公開日】2022-02-18
(54)【発明の名称】腫瘍に対して標的化されるナノキャリアの抗体媒介性自触反応的送達
(51)【国際特許分類】
A61K 47/69 20170101AFI20220210BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220210BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20220210BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20220210BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20220210BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20220210BHJP
A61P 33/00 20060101ALI20220210BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20220210BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20220210BHJP
A61P 3/00 20060101ALI20220210BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20220210BHJP
A61K 9/51 20060101ALI20220210BHJP
A61K 9/127 20060101ALI20220210BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20220210BHJP
A61K 47/42 20170101ALI20220210BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20220210BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220210BHJP
A61K 51/12 20060101ALI20220210BHJP
A61K 51/10 20060101ALI20220210BHJP
A61K 49/18 20060101ALI20220210BHJP
A61K 49/16 20060101ALI20220210BHJP
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A61K 49/22 20060101ALI20220210BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20220210BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20220210BHJP
A61K 31/713 20060101ALI20220210BHJP
A61K 31/502 20060101ALI20220210BHJP
C07K 17/00 20060101ALI20220210BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20220210BHJP
A61K 31/704 20060101ALN20220210BHJP
C07K 16/00 20060101ALN20220210BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20220210BHJP
【FI】
A61K47/69
A61P35/00
A61P9/10
A61P31/00
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A61P31/12
A61P33/00
A61P37/02
A61P21/00
A61P3/00
A61K47/68
A61K9/51
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A61K47/34
A61K47/42
A61K9/14
A61K39/395 C
A61K39/395 L
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K51/12 200
A61K51/10 200
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A61K49/22
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A61K51/12 100
A61K51/10 100
A61K31/7088
A61K31/713
A61K31/502
C07K17/00 ZNA
C07K19/00
A61K31/704
C07K16/00
C12N15/13
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021212129
(22)【出願日】2021-12-27
(62)【分割の表示】P 2018565326の分割
【原出願日】2017-06-15
(31)【優先権主張番号】62/350,423
(32)【優先日】2016-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】593152720
【氏名又は名称】イェール ユニバーシティー
【氏名又は名称原語表記】Yale University
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】ジアンビン ジョウ
(72)【発明者】
【氏名】ジェイムズ ハンセン
(57)【要約】
【課題】活性な作用物質を被包するためおよび活性な作用物質を細胞外DNAに送達するための、DNA標的化ナノキャリアを提供すること。
【解決手段】それらのナノキャリア、例えば、ポリマー粒子、リポソームおよび多層ベシクルは、それらに結合体化された、DNAを標的化する標的化部分を有する。DNAを標的化する標的化部分は、通常、DNAまたはヌクレオソームに結合する抗体またはそれに由来するバリアント、フラグメントもしくは融合タンパク質である。標的化部分は、DNAに結合する循環自己抗体、例えば、SLEを有する患者において通常見られるものであり得る。いくつかの実施形態において、標的化部分は、抗体3E10またはそれに由来するバリアント、フラグメントもしくは融合タンパク質である。薬学的組成物、使用方法および投与レジメンも提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本明細書に記載の発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
この出願は、2016年6月15日に出願されたU.S.S.N.62/350,423号(これは、その全体が参考として本明細書に援用される)の利益およびそれに対する優先権を主張する。
【0002】
配列表への言及
2017年6月15日に作成され、「YU_7013_PCT_ST25.txt」という名称であり、23,726バイトのサイズを有する、テキストファイルとして提出された配列表は、37C.F.R§1.52(e)(5)に従って参照により本明細書に援用される。
【0003】
発明の分野
本発明の分野は、概して、標的化薬物送達、特に、細胞外DNAの部位(例えば、腫瘍、傷害部位および損傷部位、虚血組織、ならびに感染部位においておよびそれら付近で見られるもの)への標的化薬物送達の分野におけるものである。
【背景技術】
【0004】
発明の背景
最初のナノドラッグであるDoxil(登録商標)は、リポソームナノキャリアにおけるドキソルビシン(DOX)の製剤であり、1995年に、AIDS関連カポジ肉腫を有するヒト患者を処置するためにFDAによって承認された(Barenholzら、Journal of Controlled Release:Official Journal of the Controlled Release Society,160(2):117-134(2012))。それ以降、癌薬物の開発への有望なアプローチとして、化学療法薬を送達するためのナノキャリアの開発が登場した。遊離薬物と比べて、ナノキャリアの使用は、多くの利点を有する。例えば、ナノキャリアは、他の方法では直接投与することができない疎水性または毒性の薬物の送達を可能にする。ナノキャリアは、単独では循環中のATP結合カセット(ABC)トランスポーターによって分解または排除され得る薬物に対する保護も提供する。さらに、腫瘍における内皮間接合部(interendothelial junction)(40~80nm)と健常組織における内皮間接合部(<8nm)とのサイズの差および腫瘍における不完全なリンパ排液によって生じる血管透過性・滞留性亢進(enhanced permeability and retention)(EPR)効果に起因して(Jain,Cancer
Metastasis Rev,6(4):559-593(1987))、ナノキャリアの使用は、化学療法薬の体内分布を変化させ、薬物を優先的に腫瘍内に蓄積させる。しかしながら、このEPR効果に基づく受動的な標的化アプローチは、癌治療において意味のある利益をもたらすには十分でない可能性がある(Chauhanら、Nat Mater,12(11):958-962(2013))。
【0005】
標的化効率をさらに高めるために、ナノキャリアは、癌細胞または腫瘍新生血管構造(tumor neovasculature)または腫瘍微小環境において過剰発現されている分子に対して高親和性を有するリガンドへの結合体化によって操作され得る。例えば、S,S-2-[3-[5-アミノ-1-カルボキシペンチル]-ウレイド]-ペンタン二酸(ACUPA)は、前立腺特異的膜抗原(PSMA)を標的化し(Hrkachら、Sci Transl Med,4(128):128ra139(2012));iRGDは、腫瘍新生血管構造におけるαυインテグリンを標的化し(Sugaharaら、Cancer Cell,16(6):510-520(2009)、Zhouら、Biomaterials,33(2):583-591(2012));クロロトキシン(chlorotoxin)(CTX)は、マトリクスメタロプロテアーゼ-2(MMP2)を標的化する(Hanら、ACS Nano,10(4):4209-4218(2016))。ACUPAに結合体化したナノ医薬およびiRGDに結合体化したナノ医薬は、首尾よく臨床試験に進み、有効性の改善を証明した(Chowら、Sci Transl Med,5(216):216rv214(2013)、Serviceら、Science,330(6002):314-315(2010))。それにもかかわらず、これらの従来の標的化アプローチには、重大な限界がある:腫瘍細胞および新生血管構造を殺滅する化学療法剤の送達の場合、標的化送達に利用可能な分子の量は時間とともに減少する;その結果として、腫瘍内のナノ粒子の蓄積効率が低下する。過去数年間にわたって、この限界を克服するために、凝固カスケードの誘導を介してインビボで連絡する別々のナノ粒子製剤を使用する試み(von Maltzahnら、Nat Mater,10(7):545-552(2011))をはじめとした多くの試みがなされた。しかしながら、そのような系の複雑さは、診療所においてこの手法を適用する能力を限定する恐れがある。ナノ医薬アプローチを臨床で意味のある治療に変えることを助けるために、ナノキャリアを腫瘍に標的化する代替のストラテジーが必要とされている。
疾患および障害を特定、診断および処置する組成物、キットおよび方法を提供することが、本発明の目的である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Serviceら、Science(2010)330(6002):314~315
【非特許文献2】von Maltzahnら、Nat Mater(2011)10(7):545~552
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明の要旨
活性な作用物質を被包するためおよび活性な作用物質を細胞外DNAに送達するための、DNA標的化ナノキャリアが提供される。それらのナノキャリア、例えば、ポリマー粒子、リポソームおよび多層ベシクルは、それらに結合体化された、DNAを標的化する標的化部分を有する。DNAを標的化する標的化部分は、通常、DNAまたはヌクレオソームまたはそれらの構成要素、あるいはDNAの前駆体(例えば、ヌクレオチド、ヌクレオシド、核酸塩基)に結合する抗体またはそれに由来するバリアント、フラグメントもしくは融合タンパク質である。例えば、DNAを標的化する標的化部分は、可変フラグメント(Fv)であり得る。一例において、Fvは、scFv、ジscFvまたはトリscFvである。例えば、Fvは、scFvである。一例において、Fvは、ジscFvである。一例において、Fvは、トリscFvである。
【0008】
標的化部分は、DNAに結合する循環自己抗体(例えば、SLEを有する患者において通常見られるもの)であり得る。いくつかの実施形態において、標的化部分は、抗体3E10もしくは5C6、またはそれに由来するバリアント、フラグメントもしくは融合タンパク質である。例えば、標的化部分は、配列番号2に示されているようなアミノ酸配列を含むVHおよび配列番号3に示されているアミノ酸配列を含むVLを有する抗体(3E10)もしくは配列番号14に示されているようなアミノ酸配列を含むVHおよび配列番号18に示されているアミノ酸配列を含むVLを有する抗体(5C6)、またはそのバリアント、フラグメント、融合タンパク質である。標的化部分は、配列番号2に示されているようなアミノ酸配列を含むVHおよび配列番号3に示されているアミノ酸配列を含むVLを有する抗体、またはそのバリアント、フラグメント、融合タンパク質である。標的化部分は、配列番号14に示されているようなアミノ酸配列を含むVHおよび配列番号18に示されているアミノ酸配列を含むVLを有する抗体、またはそのバリアント、フラグメント、融合タンパク質である。別の例では、標的化部分は、3E10または5C6のヒト化型またはキメラ型である。
【0009】
標的化部分は、抗体3E10もしくは5C6またはそのバリアントのFab、(Fab’)2、ミニボディ(minibody)、VL、VH、scFv-Fc、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディまたは他の構成要素もしくは誘導体であり得る。標的化部分は、可変フラグメントであり得る。例えば、標的化部分は、抗体3E10もしくは5C6の一価、二価または三価の一本鎖可変フラグメント(scFV)またはそのバリアントであり得る。いくつかの実施形態において、scFVは、配列番号1または2または18から選択されるアミノ酸配列を有する重鎖および配列番号3または14のアミノ酸配列を有する軽鎖を含む。具体的な実施形態において、標的化部分は、配列番号11、12または13のアミノ酸配列を含む。
【0010】
いくつかの実施形態において、標的化部分は、標的部位において放出され得、活性な作用物質として働き得る。例えば、標的化部分は、腫瘍の微小環境に見られ得るようなグルタチオンの存在下において切断され得るジスルフィド結合によってナノキャリアに連結され得る。特定の実施形態において、放出される活性な作用物質は、抗体3E10もしくは5C6、またはそれに由来するフラグメント、バリアントもしくは融合タンパク質である。
【0011】
いくつかの実施形態において、ナノキャリアはポリマーナノ粒子である。ポリマーナノ粒子は、1種またはそれを超える生分解性のポリエステルまたはポリ無水物、例えば、ポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)またはポリ(乳酸-co-グリコール酸)から形成されていてよい。特定の実施形態において、ポリマーナノ粒子は、PLGA-ポリ(ε-カルボベンゾキシル-L-リジン)(PLL)から形成されている。
【0012】
典型的には、ナノキャリアは、ナノキャリア中に被包されている1種またはそれを超える活性な作用物質を有する。例えば、活性な作用物質は、抗血管新生剤、抗増殖薬、化学療法剤、細胞傷害剤、抗体またはそのフラグメントもしくはバリアント、放射線増感剤、放射性同位体、治療用タンパク質、治療用遺伝子、siRNA、アプタマー、オリゴヌクレオチド、アンチセンスオリゴヌクレオチド、遺伝子改変剤、遺伝子発現改変剤、あるいはそれらの組み合わせであり得る。別の例では、活性な作用物質は、PARP阻害剤であり、例えば、PARP阻害剤はOlaparib(C24H23FN4O3)である。
【0013】
薬学的組成物を必要とする被験体に投与するための、有効量のナノキャリアおよび薬学的に許容され得るキャリアを含む薬学的組成物も提供される。処置を必要とする被験体に有効量のナノキャリア、通常、薬学的組成物中のナノキャリアを投与することによってその被験体を処置する方法も、開示される。いくつかの実施形態において、被験体は、癌、虚血または傷害または感染症または遺伝疾患もしくは自己免疫疾患を有する。活性な作用物質は、意図される治療上、診断上または予防上の使用に基づいて選択され得る。例えば、癌を処置するとき、活性な作用物質は、抗血管新生剤、抗増殖薬、化学療法剤、細胞傷害剤、放射線増感剤またはそれらの組み合わせであり得る。虚血を処置する場合、活性な作用物質は、血流を増加させ得るか、凝固を減少させ得るか、動脈拡張を誘導し得るか、血栓溶解を誘導し得るかもしくは増加させ得るか、虚血領域における細胞を保護しかつその細胞の生存を延長し得るか、またはそれらの組み合わせを行い得る。傷害を処置する場合、活性な作用物質は、鎮痛薬、麻酔薬、抗炎症薬、抗感染薬、サイトカイン、ケモカイン、免疫調節物質、創傷治癒を促進する作用物質、傷害領域における細胞を保護しかつその細胞の生存を延長する作用物質、またはそれらの組み合わせであり得る。感染症を処置する場合、活性な作用物質は、抗微生物剤、抗ウイルス剤、抗菌剤、抗生物質、抗体もしくはそのバリアントのフラグメント、鎮痛薬、麻酔薬、抗炎症薬、抗感染薬、サイトカイン、ケモカイン、免疫調節物質、創傷治癒を促進する作用物質、感染領域における細胞を保護しかつその細胞の生存を延長する作用物質、またはそれらの組み合わせであり得る。
【0014】
投与レジメンも提供される。いくつかの実施形態において、組成物は、数時間、数日間または数週間の間隔で2回またはそれを超えて被験体に投与される。下記の実施例では、活性な作用物質が、癌の状況において送達される化学療法剤であるとき、その処置の有効性は、活性な作用物質が、より多くの細胞死を誘導するがゆえにより多くの細胞外DNAを標的部位において誘導するので、その後の投与とともに改善することが実証される。特定の実施形態において、投与レジメンは、少なくとも1日空けた、ナノキャリアを含む薬学的組成物の2、3、4、5回またはそれを超える投与を含む。
【0015】
癌、組織損傷、傷害または虚血の部位を検出する方法も提供される。その方法は、通常、それを必要とする被験体に、有効量の、薬学的に許容され得るキャリア中の標的化ナノキャリアを投与する工程を含む。それらのナノキャリアには、通常、画像診断法または核医学法を用いて検出可能な作用物質、例えば、PET-CT、骨スキャン、MRI、CT、心エコー検査、超音波またはX線によって検出可能な作用物質がローディングされている。
本発明の実施形態において、例えば以下の項目が提供される。
(項目1)
ナノキャリアに結合体化された、DNAを標的化する標的化部分を有する粒子を含む活性な作用物質を被包するためのナノキャリア。
(項目2)
前記標的化部分が、DNA、ヌクレオチド、ヌクレオシド、核酸塩基またはヌクレオソームに結合する、抗体またはそれに由来するバリアント、フラグメントもしくは融合タンパク質である、項目1に記載のナノキャリア。
(項目3)
DNAを標的化する前記標的化部分が、可変フラグメント(Fv)である、項目1または項目2に記載のナノキャリア。
(項目4)
前記Fvが、scFv、ジscFvまたはトリscFvである、項目3に記載のナノキャリア。
(項目5)
前記標的化部分が、配列番号2に示されているようなアミノ酸配列を含むVHおよび配列番号3に示されているアミノ酸配列を含むVLを有する抗体(3E10)もしくは配列番号14に示されているようなアミノ酸配列を含むVHおよび配列番号18に示されているアミノ酸配列を含むVLを有する抗体(5C6)、またはそのバリアント、フラグメント、融合タンパク質である、項目1~4のいずれか1項に記載のナノキャリア。
(項目6)
前記標的化部分が、3E10または5C6のヒト化型またはキメラ型である、項目5に記載のナノキャリア。
(項目7)
前記標的化部分が、抗体3E10または5C6の一価、二価もしくは三価または多価の一本鎖可変フラグメント(scFv)である、項目5または項目6に記載のナノキャリア。
(項目8)
前記標的化部分が、抗体3E10または5C6のダイアボディ、トリアボディ、テトラボディまたは他の多量体である、項目5または項目6に記載のナノキャリア。
(項目9)
前記標的化部分が、抗体3E10もしくは5C6またはそのバリアントのFab、(Fab’)2、ミニボディ(minibody)、VL、VH、scFv-Fc、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディまたは他の構成要素もしくは誘導体である、項目5または項目6に記載のナノキャリア。
(項目10)
前記scFvが、配列番号1および2から選択されるアミノ酸配列を含む重鎖ならびに配列番号3のアミノ酸配列を含む軽鎖を含む、項目4、7または9のいずれか1項に記載のナノキャリア。
(項目11)
前記標的化部分が、配列番号11、12または13のアミノ酸配列を含む、項目4に記載のナノキャリア。
(項目12)
前記ナノキャリアが、ポリマー粒子、リポソーム、多層ベシクルおよび微小気泡からなる群より選択される、項目1~11のいずれか1項に記載のナノキャリア。
(項目13)
前記ポリマー粒子が、ポリマーナノ粒子である、項目12に記載のナノキャリア。
(項目14)
前記ポリマーナノ粒子が、1種またはそれを超える生分解性のポリエステルまたはポリ無水物から形成されている、項目13に記載のナノキャリア。
(項目15)
前記生分解性のポリエステルまたはポリ無水物が、ポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)およびポリ(乳酸-co-グリコール酸)からなる群より選択される、項目14に記載のナノキャリア。
(項目16)
前記ポリマーナノ粒子が、PLGA-ポリ(ε-カルボベンゾキシル-L-リジン)(PLL)から形成されている、項目13に記載のナノキャリア。
(項目17)
前記標的化部分が、細胞透過性である、項目1~16のいずれか1項に記載のナノキャリア。
(項目18)
前記標的化部分が、細胞透過性でない、項目1~16のいずれか1項に記載のナノキャリア。
(項目19)
前記標的化部分が、標的部位において放出され、活性な作用物質として働くことができる、項目1~18のいずれか1項に記載のナノキャリア。
(項目20)
前記標的化部分が、腫瘍の微小環境においてグルタチオンの存在下において切断され得るジスルフィド結合によって前記ナノキャリアに連結されている、項目19に記載のナノキャリア。
(項目21)
前記ナノキャリア中に被包されている1種またはそれを超える活性な作用物質をさらに含む、項目1~20のいずれか1項に記載のナノキャリア。
(項目22)
前記活性な作用物質が、抗血管新生剤、抗増殖薬、化学療法剤、細胞傷害剤、抗体またはそのフラグメントもしくはバリアント、放射線増感剤、放射性同位体、治療用タンパク質、治療用遺伝子、siRNA、アプタマー、オリゴヌクレオチド、アンチセンスオリゴヌクレオチド、遺伝子改変剤、遺伝子発現改変剤、あるいはそれらの組み合わせである、項目21に記載のナノキャリア。
(項目23)
前記活性な作用物質が、PARP阻害剤である、項目22に記載のナノキャリア。
(項目24)
前記PARP阻害剤が、Olaparib(C24H23FN4O3)である、項目23に記載のナノキャリア。
(項目25)
有効量の項目1~24のいずれか1項に記載のナノキャリアを含む、薬学的組成物。
(項目26)
癌の処置を必要とする被験体に有効量の項目25に記載の薬学的組成物を投与する工程を含む、癌を処置する方法。
(項目27)
前記1種またはそれを超える活性な作用物質が、抗血管新生剤、抗増殖薬、化学療法剤、細胞傷害剤、抗体またはそのフラグメントもしくはバリアント、放射線増感剤、放射性同位体、治療用タンパク質、治療用遺伝子、siRNA、アプタマー、オリゴヌクレオチド、アンチセンスオリゴヌクレオチド、遺伝子改変剤、遺伝子発現改変剤、あるいはそれらの組み合わせである、項目26に記載のナノキャリア。
(項目28)
前記癌が、脳に位置する、項目26または27に記載の方法。
(項目29)
脳卒中および心筋梗塞を含むがこれらに限定されない虚血を処置する方法であって、前記方法は、それを必要とする被験体に有効量の項目25に記載の薬学的組成物を投与する工程を含み、前記1種またはそれを超える活性な作用物質は、治療用タンパク質、治療用遺伝子、抗体またはそのフラグメントもしくはバリアント、siRNA、アプタマー、オリゴヌクレオチド、アンチセンスオリゴヌクレオチド、遺伝子改変剤、遺伝子発現改変剤、血流を増加させるか、凝固を減少させるか、動脈拡張を誘導するか、血栓溶解を誘導するかもしくは増加させるか、アポトーシスを抑制するか、またはその他の方法で虚血細胞の生存を促進する作用物質、あるいはそれらの組み合わせである、方法。
(項目30)
傷害を処置する方法であって、前記方法は、それを必要とする被験体に有効量の項目25に記載の薬学的組成物を投与する工程を含み、前記1種またはそれを超える活性な作用物質は、治療用タンパク質、治療用遺伝子、抗体またはそのフラグメントもしくはバリアント、siRNA、アプタマー、オリゴヌクレオチド、アンチセンスオリゴヌクレオチド、遺伝子改変剤、遺伝子発現改変剤、鎮痛薬、麻酔薬、抗炎症薬、抗感染薬、サイトカイン、ケモカイン、免疫調節物質、創傷治癒を促進するか、アポトーシスを抑制するか、またはその他の方法で傷害細胞の生存を促進する作用物質、あるいはそれらの組み合わせである、方法。
(項目31)
感染症を処置する方法であって、前記方法は、それを必要とする被験体に有効量の項目25に記載の薬学的組成物を投与する工程を含み、前記1種またはそれを超える活性な作用物質は、治療用タンパク質、治療用遺伝子、抗体またはそのフラグメントもしくはバリアント、siRNA、アプタマー、オリゴヌクレオチド、アンチセンスオリゴヌクレオチド、遺伝子改変剤、遺伝子発現改変剤、抗ウイルス薬、抗菌剤、抗寄生生物薬、鎮痛薬、麻酔薬、抗炎症薬、抗感染薬、サイトカイン、ケモカイン、免疫調節物質、創傷治癒を促進する作用物質、あるいはそれらの組み合わせである、方法。
(項目32)
自己免疫疾患または遺伝疾患を処置する方法であって、前記方法は、それを必要とする被験体に有効量の項目25に記載の薬学的組成物を投与する工程を含み、前記1種またはそれを超える活性な作用物質は、治療用タンパク質、治療用遺伝子、抗体またはそのフラグメントもしくはバリアント、siRNA、アプタマー、オリゴヌクレオチド、アンチセンスオリゴヌクレオチド、遺伝子改変剤、遺伝子発現改変剤、免疫抑制剤、補充タンパク質、補充遺伝子、鎮痛薬、麻酔薬、抗炎症薬、抗感染薬、サイトカイン、ケモカイン、免疫調節物質、創傷治癒を促進する作用物質、あるいはそれらの組み合わせである、方法。(項目33)
筋ジストロフィを処置する方法であって、前記方法は、それを必要とする被験体に有効量の項目25に記載の薬学的組成物を投与する工程を含み、前記1種またはそれを超える活性な作用物質は、治療用タンパク質、治療用遺伝子、抗体またはそのフラグメントもしくはバリアント、siRNA、アプタマー、オリゴヌクレオチド、アンチセンスオリゴヌクレオチド、遺伝子改変剤、遺伝子発現改変剤、ジストロフィンまたはユートロフィンまたはミオチューブリンを含む補充筋タンパク質、鎮痛薬、麻酔薬、抗炎症薬、抗感染薬、サイトカイン、ケモカイン、免疫調節物質、創傷治癒を促進する作用物質、あるいはそれらの組み合わせである、方法。
(項目34)
リソソーム蓄積疾患または糖原病を処置する方法であって、前記方法は、それを必要とする被験体に有効量の項目25に記載の薬学的組成物を投与する工程を含み、前記1種またはそれを超える活性な作用物質は、治療用タンパク質、治療用遺伝子、抗体またはそのフラグメントもしくはバリアント、siRNA、アプタマー、オリゴヌクレオチド、アンチセンスオリゴヌクレオチド、遺伝子改変剤、遺伝子発現改変剤、補充酵素、鎮痛薬、麻酔薬、抗炎症薬、抗感染薬、サイトカイン、ケモカイン、免疫調節物質、創傷治癒を促進する作用物質、あるいはそれらの組み合わせである、方法。
(項目35)
前記組成物が、全身投与される、項目26~34のいずれか1項に記載の方法。
(項目36)
少なくとも1日空けた前記薬学的組成物の2回またはそれを超える投与を含む、項目25~35のいずれか1項に記載の方法。
(項目37)
腫瘍からのDNA放出を増加させるように設計された放射線治療または化学療法による腫瘍の処置後の前記薬学的組成物の投与を含む、項目26~28のいずれか1項に記載の方法。
(項目38)
癌、組織損傷、傷害または虚血の部位または複数の部位を検出する方法であって、前記方法は、それを必要とする被験体に有効量の項目25に記載の薬学的組成物を投与する工程を含み、1種またはそれを超える活性な作用物質は、画像診断法または核医学法を用いて検出可能な作用物質である、方法。
(項目39)
前記画像診断法または核医学法が、PET-CT、骨スキャン、MRI、CT、心エコー検査、超音波およびX線からなる群より選択される、項目38に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1AB】
図1Aは、動的光散乱(DLS)によって測定されたナノ粒子(裸のナノ粒子、DOX-NP、3E10
EN-NP、3E10
EN/DOX-NP)の流体力学直径を示している棒グラフである。
図1Bは、DOX-NPおよび3E10
EN/DOX-NPの制御されたDOX放出プロファイルを示している線グラフである。
図1Cは、4T1マウス乳癌細胞の生存能に対するナノ粒子の効果を示している線グラフである。その細胞を、DOX単独、DOX-NP、3E10
EN-NPまたは3E10
EN/DOX-NPで3日間処置し、次いで、MTTアッセイによって生存を評価した。細胞生存率が示される。
【
図1C】
図1Aは、動的光散乱(DLS)によって測定されたナノ粒子(裸のナノ粒子、DOX-NP、3E10
EN-NP、3E10
EN/DOX-NP)の流体力学直径を示している棒グラフである。
図1Bは、DOX-NPおよび3E10
EN/DOX-NPの制御されたDOX放出プロファイルを示している線グラフである。
図1Cは、4T1マウス乳癌細胞の生存能に対するナノ粒子の効果を示している線グラフである。その細胞を、DOX単独、DOX-NP、3E10
EN-NPまたは3E10
EN/DOX-NPで3日間処置し、次いで、MTTアッセイによって生存を評価した。細胞生存率が示される。
【0017】
【
図2】
図2は、直鎖化されたプラスミドDNAでコーティングし、表面に3E10
ENを有するまたは有しないナノ粒子とともにインキュベートしたAスライドガラスに結合したナノ粒子の定量的分析(蛍光強度)を示している棒グラフである。検出の目的で、ナノ粒子に、IR780を被包した。ナノ粒子との60分間のインキュベーションの後、スライドをリンスし、IR780のシグナル(ナノ粒子の量と相関する)をIVIS(登録商標)Imaging Systemによって可視化した。
***:P<0.001。
【0018】
【
図3】
図3は、Picogreen染色によって測定された、3E10
EN/DOX-NPによる処置ありおよびなしの正常組織および4T1腫瘍におけるexDNAの相対量(蛍光強度)を示している棒グラフである。無処置腫瘍におけるexDNAの量は、肝臓、心臓および筋肉で見られた量よりも7.5倍、11.7倍および2.5倍高かった。3E10
EN/DOX-NPによるマウスの処置は、無処置マウスにおける腫瘍と比べて、腫瘍におけるexDNAの量を5.1倍増加させた。示されている組織に存在するexDNA(n=5)は、平均値+/-SDとして示されている。
**:P<0.01。
***:P<0.001。
【0019】
【
図4】
図4は、3E10
EN結合体化ありまたはなしのIR780がローディングされたナノ粒子を静脈内投与した24時間後に、4T1腫瘍を有するマウスから切除され、IVISイメージングシステムを用いて画像化された腫瘍の蛍光強度を示している棒グラフである。プライミング処置を受けたマウス由来の腫瘍におけるナノ粒子の平均量は、プライミングなしのマウス由来の腫瘍における量よりも1.8倍多かった。プライミングを用いたとき、腫瘍におけるナノ粒子の蓄積は、裸のNPによる処置を受けたマウスの場合の0.5倍に対して、肝臓における蓄積よりも4.1倍多かった。腫瘍における示されているナノ粒子の蓄積の定量的解析(n=4)(
*および#は、それぞれ、3E10ありのNPの群と3E10なしのNPの群との間、ならびに3E10ありNPかつプライミングの群と3E10ありのNPの群との間の統計解析を表している)
*および#:P<0.05、
**および##:P<0.01。
【0020】
【
図5】
図5は、4T1腫瘍成長に対するナノ粒子の効果を示している腫瘍体積の成長曲線(腫瘍体積(mm
3))である。約100mm
3のサイズの4T1腫瘍を有するマウスを、コントロールPBS、遊離DOX、DOX-NP、3E10
EN-NPまたは3E10
EN/DOX-NPの静脈内注射で1週間に3回処置し(1群あたりn=7匹のマウス)、腫瘍体積を1週間に3回計測し、示されるようにプロットした。
【0021】
【
図6】
図6は、ナノ粒子におけるIR780シグナルを検出するためにIVISによって画像化された、転移性メラノーマ脳腫瘍を有するマウスからの脳の画像対である。コントロールマウスの画像は、IR780がローディングされているが表面の3E10
ENを欠くコントロールナノ粒子で処置されたマウスからの画像である。3E10
ENの画像は、IR780がローディングされ、表面に結合体化された3E10
ENを有するナノ粒子で処置されたマウスからの画像である。
【0022】
【
図7】
図7は、ナノ粒子におけるIR780シグナルを検出するためにIVISによって画像化された、U87神経膠芽腫脳腫瘍を有するマウスからの脳の画像対である。コントロールマウスの画像は、IR780がローディングされているが表面の3E10
ENを欠くコントロールナノ粒子で処置されたマウスからの画像である。3E10ENの画像は、IR780がローディングされ、表面に結合体化された3E10
ENを有するナノ粒子で処置されたマウスからの画像である。
【0023】
【
図8】
図8は、中大脳動脈閉塞によって誘導された脳卒中を有するマウスからの脳の画像対である。コントロールマウスの画像は、IR780がローディングされているが表面の3E10
ENを欠くコントロールナノ粒子で処置されたマウスからの画像である。3E10
ENの画像は、IR780がローディングされ、表面に結合体化された3E10
ENを有するナノ粒子で処置されたマウスからの画像である。
【0024】
【
図9】
図9は、時間の関数として、3E10
ENの結合体化ありおよびなしのDOX-NPの血中濃度を示している線グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
発明の詳細な説明
I.定義
本明細書中で使用されるとき、用語「3E10」とは、ATCCアクセッション番号PTA2439ハイブリドーマによって産生されるモノクローナル抗体のことを指す。
【0026】
本明細書中で使用されるとき、用語「5C6」とは、Nobleら、2014,Sci
Rep 4:5958 doi:10.1038/srep05958に記載されているようにMRL/lprループスマウスモデルからのハイブリドーマによって産生される、核酸分解活性を有するモノクローナル抗DNA抗体のことを指す。
【0027】
本明細書中で使用されるとき、用語「一本鎖Fv」または「scFv」は、本明細書中で使用されるとき、scFvが抗原結合のために所望の構造を形成することを可能にするリンカーによって繋がった軽鎖可変領域(VL)および重鎖可変領域(VH)を単一のポリペプチド鎖として含む(すなわち、単一のポリペプチド鎖のVHおよびVLが互いに会合してFvを形成する)一本鎖可変フラグメントを意味する。そのVLおよびVH領域は、親抗体に由来し得るか、または化学的にもしくは組換え的に合成され得る。
【0028】
本明細書中で使用されるとき、用語「可変領域」は、そのような免疫グロブリンのドメインを、抗体が広く共有するドメイン(例えば、抗体のFcドメイン)と区別することを目的としている。可変領域は、その残基が抗原結合に関与する「超可変領域」を含む。超可変領域は、「相補性決定領域」もしくは「CDR」のアミノ酸残基(すなわち、通常、軽鎖可変ドメインのおよそ残基24~34(L1)、50~56(L2)および89~97(L3)ならびに重鎖可変ドメインのおよそ残基27~35(H1)、50~65(H2)および95~102(H3);Kabatら、Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD.(1991))および/または「超可変ループ」の残基(すなわち、軽鎖可変ドメインにおける残基26~32(L1)、50~52(L2)および91~96(L3)ならびに重鎖可変ドメインにおける26~32(H1)、53~55(H2)および96~101(H3);Chothia and Lesk,1987,J.Mol.Biol.196:901-917)を含む。
【0029】
本明細書中で使用されるとき、用語「フレームワーク領域」または「FR」残基は、本明細書中で定義されるような超可変領域の残基以外の可変ドメイン残基である。
【0030】
本明細書中で使用されるとき、用語「抗体」とは、標的抗原に結合する天然または合成の抗体のことを指す。この用語には、ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体が含まれる。インタクトな免疫グロブリン分子に加えて、それらの免疫グロブリン分子のフラグメントまたはポリマー、および標的抗原に結合する免疫グロブリン分子のヒトバージョンまたはヒト化バージョンもまた、用語「抗体」に含まれる。
【0031】
本明細書中で使用されるとき、用語「細胞透過性抗DNA抗体」とは、生存している哺乳動物細胞の核に運搬されてDNA(例えば、一本鎖および/または二本鎖DNA)に結合する、抗体またはその抗原結合フラグメントもしくは抗原結合分子のことを指す。ある実施形態において、細胞透過性抗DNA抗体は、キャリアまたは結合体の助けなしに、細胞の核に運搬される。別の実施形態において、細胞透過性抗DNA抗体は、細胞透過性部分(例えば、細胞透過性ペプチド)に結合体化される。当業者は、用語「細胞透過性」が、scFvなどのDNAを標的化する標的化部分を有する他の粒子のことを指すために本開示の文脈において使用され得ることを認識するだろう。例えば、この用語は、キャリアまたは結合体の助けなしに細胞の核に運搬され、かつDNA(例えば、一本鎖および/または二本鎖DNA)に結合するscFvのことを指すために使用され得る。
【0032】
本明細書中で使用されるとき、用語「特異的に結合する」とは、他の抗原に有意に結合せずに、抗体とその同族抗原(例えば、DNA)とが結合することを指す。好ましくは、抗体は、その第2の分子を用いて、約105mol-1を超える(例えば、106mol-1、107mol-1、108mol-1、109mol-1、1010mol-1、1011mol-1および1012mol-1またはそれを超える)親和性定数(Ka)で抗原に「特異的に結合する」。
【0033】
本明細書中で使用されるとき、用語「モノクローナル抗体」または「MAb」とは、実質的に均一な抗体集団から得られた抗体のことを指し、すなわち、その集団内の個々の抗体は、抗体分子の小サブセットに存在し得る天然に存在する可能性のある変異を除いては同一である。
【0034】
本明細書中で使用されるとき、用語「DNA修復」とは、細胞がDNA分子に対する損傷を特定してそれを訂正する一連のプロセスのことを指す。一本鎖の欠陥は、塩基除去修復(BER)、ヌクレオチド除去修復(NER)またはミスマッチ修復(MMR)によって修復される。二本鎖切断は、非相同末端結合(NHEJ)、マイクロホモロジー媒介末端結合(MMEJ)または相同組換えによって修復される。DNA損傷の後、細胞周期チェックポイントが活性化され、それによって細胞周期が停止することにより、その細胞に損傷を修復する時間が与えられた後、分裂が続けられる。チェックポイントメディエータータンパク質としては、BRCA1、MDC1、53BP1、p53、ATM、ATR、CHK1、CHK2およびp21が挙げられる。
【0035】
本明細書中で使用されるとき、用語「損なわれたDNA修復」とは、変異した細胞または遺伝子発現が変化した細胞が、DNA修復をできない状態、または1つもしくはそれを超えるDNA修復経路の低減された活性もしくは効率を有する状態、またはそのDNAに対する損傷を修復する時間が野生型細胞と比べてさらにかかる状態のことを指す。
【0036】
本明細書中で使用されるとき、用語「化学的感受性」とは、抗癌薬の効果に対する癌細胞の相対的な感受性のことを指す。癌細胞は、化学的感受性であるほど、その細胞を殺滅するために必要な抗癌薬の量は少なくなる。
【0037】
本明細書中で使用されるとき、用語「放射線感受性」とは、電離放射線の悪影響に対する細胞の相対的な感受性のことを指す。細胞は、放射線感受性であるほど、その細胞を殺滅するために必要な放射線は少なくなる。一般に、細胞の放射線感受性は、細胞分裂の速度に正比例し、DNA修復に対する細胞の能力に反比例すると見出されている。
【0038】
本明細書中で使用されるとき、用語「放射線抵抗性」とは、臨床的に好適な線量の放射線に曝露されたとき、死滅しない細胞のことを指す。
【0039】
本明細書中で使用されるとき、用語「新生物細胞」とは、異常な細胞増殖(「新形成」)を起こしている細胞のことを指す。新生物細胞の成長は、その周辺の正常組織の成長を上回っており、その周辺の正常組織の成長と協調しない。その成長は、通常、それらの刺激が無くなった後であっても同じ過剰な様式で持続し、通常、腫瘍を形成させる。
【0040】
本明細書中で使用されるとき、用語「腫瘍」または「新生物」とは、新生物細胞を含む異常な組織の塊のことを指す。新生物および腫瘍は、良性、前悪性または悪性であり得る。
【0041】
本明細書中で使用されるとき、用語「癌」または「悪性新生物」とは、無制御の成長および分裂、隣接する組織の浸潤を示し、身体の他の場所に転移することが多い、細胞のことを指す。
【0042】
本明細書中で使用されるとき、用語「抗新生物」とは、癌の成長、浸潤および/または転移を阻害し得るかまたは予防し得る組成物(例えば、薬物または生物製剤)のことを指す。
【0043】
本明細書中で使用されるとき、用語「抗癌部分」とは、開示される抗DNA抗体の抗癌特性を高めるために、その抗体と併用され得る任意の作用物質(例えば、ペプチド、タンパク質、核酸または小分子)のことを指す。この用語には、抗新生物薬、癌細胞における他の治療標的に結合して阻害する抗体、および癌細胞に向かう標的化のために癌細胞に対して親和性を有する物質が含まれる。
【0044】
本明細書中で使用されるとき、用語「ウイルスによって形質転換した細胞」とは、ウイルスに感染した細胞またはウイルスのDNAもしくはRNAをゲノムに組み込んだ細胞のことを指す。そのウイルスは、急性的に形質転換するまたはゆっくり形質転換する腫瘍ウイルスであり得る。急性的に形質転換するウイルスにおいて、ウイルス粒子は、ウイルス癌遺伝子(v-onc)と呼ばれる過活性の癌遺伝子をコードする遺伝子を有し、感染した細胞は、v-oncが発現されるや否や形質転換する。対照的に、ゆっくり形質転換するウイルスでは、そのウイルスゲノムは、宿主ゲノムの癌原遺伝子の近くに挿入される。例示的な腫瘍ウイルスとしては、ヒトパピローマウイルス(HPV)、B型肝炎(HBV)、C型肝炎(HCV)、ヒトTリンパ向性ウイルス(HTLV)、カポジ肉腫関連ヘルペスウイルス(HHV-8)、メルケル細胞ポリオーマウイルス、エプスタイン・バーウイルス(EBV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)およびヒトサイトメガロウイルス(CMV)が挙げられる。
【0045】
本明細書中で使用されるとき、「ウイルスに感染した細胞」とは、ウイルスに曝露されたもしくは感染した細胞、またはウイルスの遺伝物質、RNAもしくはDNAを有する細胞のことを指す。そのウイルスは、腫瘍ウイルスまたは溶解性ウイルスまたは潜伏性ウイルスであり得、癌、免疫不全、肝炎、脳炎、肺臓炎、呼吸器疾患または他の疾患状態を引き起こし得る。レトロウイルス(retorvirus)、特にHIVは、宿主DNAへの組み込みのために塩基除去修復(BER)経路に部分的に依存することが以前に示された。3E10がDNA修復を阻害できることによって、3E10および他の抗DNA抗体が、特に、DNA修復を干渉し、それによってウイルスの生活環の一部ならびに細胞のウイルス感染の一部であるDNAまたはRNAの代謝を阻止することによって、ウイルスによって引き起こされた疾患を回復させ得る機構が提供される。
【0046】
本明細書中で使用されるとき、用語「阻害する」は、活性、応答、状態、疾患または他の生物学的パラメータを減少させることを意味する。これには、活性、応答、状態または疾患の完全な消失が含まれ得るがこれらに限定されない。これには、例えば、天然またはコントロールのレベルと比べたときの、活性、応答、状態または疾患の10%の減少も含まれ得る。したがって、その減少は、天然またはコントロールのレベルと比べたときの、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100%またはその中間の任意の減少量であり得る。
【0047】
本明細書中で使用されるとき、用語「融合タンパク質」とは、1つのポリペプチドのアミノ末端と別のポリペプチドのカルボキシル末端との間に形成されるペプチド結合を介して、またはアミノ酸側鎖の間の反応による1つのポリペプチドと別のポリペプチドとの連結(例えば、各ポリペプチド上のシステイン残基間のジスルフィド結合)を介して、2つまたはそれを超えるポリペプチドを繋ぐことによって形成されたポリペプチドのことを指す。融合タンパク質は、構成成分であるポリペプチドの化学的カップリングによって形成され得るか、または単一の連続した融合タンパク質をコードする核酸配列から単一のポリペプチドとして発現され得る。融合タンパク質は、2つの遺伝子をインフレームで繋いで単一の核酸配列にして、次いで、融合タンパク質が産生される条件下においてその核酸を適切な宿主細胞において発現させる、分子生物学における従来の手法を用いて調製され得る。
【0048】
本明細書中で使用されるとき、用語「バリアント」とは、参照ポリペプチドまたは参照ポリヌクレオチドと異なるが本質的な特徴を保持している、ポリペプチドまたはポリヌクレオチドのことを指す。ポリペプチドの代表的なバリアントは、別の参照ポリペプチドとアミノ酸配列が異なる。一般に、差は限られており、参照ポリペプチドの配列とバリアントの配列とは、全体的によく似ており、多くの領域において同一である。バリアントと参照ポリペプチドとは、1つまたはそれを超える改変(例えば、置換、付加および/または欠失)によって、アミノ酸配列が異なり得る。置換されたまたは挿入されたアミノ酸残基は、遺伝暗号によってコードされるものであってもよいし、そうでなくてもよい。ポリペプチドのバリアントは、対立遺伝子バリアントなどの天然に存在するものであってよいか、または天然に存在すると知られてないバリアントであってよい。
【0049】
改変および変更は、本開示のポリペプチドの構造において行うことができ、そのポリペプチドと同様の特性を有する分子をなおももたらす(例えば、保存的アミノ酸置換)。例えば、ある特定のアミノ酸は、かなりの活性喪失を伴わずに、ある配列において、他のアミノ酸の代わりに用いることができる。ポリペプチドの相互作用能および性質こそが、そのポリペプチドの生物学的機能活性を定義するので、ある特定のアミノ酸配列の置換を、あるポリペプチド配列において行うことができるが、それにもかかわらず、同様の特徴を有するポリペプチドがもたらされる。
【0050】
そのような変更を行う際、アミノ酸の疎水性親水性指標(hydropathic index)が考慮され得る。相互作用的生物学的機能をポリペプチドに付与する際のアミノ酸の疎水性親水性指標の重要性は、当該分野において広く理解されている。ある特定のアミノ酸は、類似の疎水性親水性指標または疎水性親水性スコアを有する他のアミノ酸の代わりに用いることができ、なおも類似の生物学的活性を有するポリペプチドがもたらされることが知られている。各アミノ酸には、その疎水性および電荷の特性に基づいて疎水性親水性指標が割り当てられている。それらの指標は、イソロイシン(+4.5);バリン(+4.2);ロイシン(+3.8);フェニルアラニン(+2.8);システイン/シスチン(+2.5);メチオニン(+1.9);アラニン(+1.8);グリシン(-0.4);トレオニン(-0.7);セリン(-0.8);トリプトファン(-0.9);チロシン(-1.3);プロリン(-1.6);ヒスチジン(-3.2);グルタミン酸(-3.5);グルタミン(-3.5);アスパラギン酸(-3.5);アスパラギン(-3.5);リジン(-3.9);およびアルギニン(-4.5)である。
【0051】
アミノ酸の相対的な疎水性親水性の性質は、生じるポリペプチドの二次構造を決定し、そしてそれがそのポリペプチドと他の分子(例えば、酵素、基質、レセプター、抗体、抗原および補因子)との相互作用を定義すると考えられている。あるアミノ酸は、類似の疎水性親水性指標を有する別のアミノ酸によって置換され、なおも機能的に等価なポリペプチドをもたらし得ることが当該分野で公知である。そのような変更において、疎水性親水性指標が±2以内のアミノ酸の置換が好ましく、±1以内のアミノ酸の置換が特に好ましく、±0.5以内のアミノ酸の置換がなおもより特に好ましい。
【0052】
類似のアミノ酸の置換は、特に、それによって作製された生物学的に機能的に等価なポリペプチドまたはペプチドを免疫学的実施形態において使用することが意図される場合、親水性に基づいても行うことができる。以下の親水性値が、アミノ酸残基に割り当てられている:アルギニン(+3.0);リジン(+3.0);アスパラギン酸(+3.0±1);グルタミン酸(+3.0±1);セリン(+0.3);アスパラギン(+0.2);グルタミン(glutamnine)(+0.2);グリシン(0);プロリン(-0.5±1);トレオニン(-0.4);アラニン(-0.5);ヒスチジン(-0.5);システイン(-1.0);メチオニン(-1.3);バリン(-1.5);ロイシン(-1.8);イソロイシン(-1.8);チロシン(-2.3);フェニルアラニン(-2.5);トリプトファン(-3.4)。あるアミノ酸は、類似の親水性値を有する別のアミノ酸の代わりに用いることができ、なおも生物学的に等価なポリペプチド、特に、免疫学的に等価なポリペプチドをもたらし得ると理解される。そのような変更において、親水性値が±2以内のアミノ酸の置換が好ましく、±1以内のアミノ酸の置換が特に好ましく、±0.5以内のアミノ酸の置換がなおもより特に好ましい。
【0053】
上で概要を述べたように、アミノ酸の置換は、一般に、アミノ酸側鎖の置換基、例えば、それらの疎水性、親水性、電荷、およびサイズなどの相対的な類似性に基づく。前述の様々な特性を考慮した例示的な置換は、当業者に周知であり、それらとしては、以下が挙げられる(元の残基:例示的な置換):(Ala:Gly、Ser)、(Arg:Lys)、(Asn:Gln、His)、(Asp:Glu、Cys、Ser)、(Gln:Asn)、(Glu:Asp)、(Gly:Ala)、(His:Asn、Gln)、(Ile:Leu、Val)、(Leu:Ile、Val)、(Lys:Arg)、(Met:Leu、Tyr)、(Ser:Thr)、(Thr:Ser)、(Tip:Tyr)、(Tyr:Trp、Phe)および(Val:Ile、Leu)。したがって、本開示の実施形態は、上に示されたようなポリペプチドの機能的等価物または生物学的等価物を企図する。特に、ポリペプチドの実施形態は、目的のポリペプチドに対して約50%、60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれを超える配列同一性を有するバリアントを含み得る。
【0054】
本明細書中で使用されるとき、用語「パーセント(%)配列同一性」は、参照核酸配列と候補配列とをアラインメントし、最大パーセント配列同一性を得るために、必要であればギャップを挿入した後の、参照核酸配列におけるヌクレオチドまたはアミノ酸と同一である、候補配列におけるヌクレオチドまたはアミノ酸のパーセンテージと定義される。パーセント配列同一性を決定する目的のアラインメントは、当該分野の技術の範囲内である様々な方法で、例えば、公的に入手可能なコンピュータソフトウェア(例えば、BLAST、BLAST-2、ALIGN、ALIGN-2またはMegalign(DNASTAR)ソフトウェア)を用いて、達成され得る。アラインメントを測定するための適切なパラメータ(比較されている配列の全長にわたって最大アラインメントを達成するために必要な任意のアルゴリズムを含む)は、公知の方法によって決定され得る。
【0055】
本明細書中の目的で、所与の核酸配列Dへの、それとの、またはそれに対する所与のヌクレオチド配列またはアミノ酸配列Cの%配列同一性(あるいは、所与の配列Dへの、それとの、またはそれに対するある特定の%配列同一性を有するかまたは含む所与の配列Cと言い表され得る)は、以下のとおり算出される:
100×分数W/Z
ここで、Wは、配列アラインメントプログラムによって、そのプログラムの、CとDとのアラインメントにおいて完全一致とスコア付されたヌクレオチドまたはアミノ酸の数であり、Zは、Dにおけるヌクレオチドまたはアミノ酸の総数である。配列Cの長さが、配列Dの長さと等しくない場合、Dに対するCの%配列同一性は、Cに対するDの%配列同一性と等しくないことがあることが理解されるだろう。
【0056】
本明細書中で使用されるとき、用語「生体適合性」は、本明細書中で使用されるとき、それ自体が宿主(例えば、動物またはヒト)にとって毒性でなく、かつ宿主において有毒な濃度のモノマーもしくはオリゴマーのサブユニットまたは他の副産物を生成する速度では分解しない(当該材料が分解する場合)、1つまたはそれを超える材料のことを指す。
【0057】
本明細書中で使用されるとき、用語「生分解性」は、当該材料が、その構成要素サブユニットに分解または破壊すること、すなわち、例えば、生化学的プロセスによる当該材料のより小さい(例えば、非ポリマー)サブユニットへの消化を意味する。
【0058】
本明細書中で使用されるとき、用語「徐放」とは、当該物質の全量が一度に生物学的に利用可能にされるボーラス型の投与とは対照的に、長期間にわたる物質の放出のことを指す。
【0059】
本明細書中で使用されるとき、用語「粒子」とは、治療薬、診断薬もしくは予防薬の形状を成しているか、治療薬上、診断薬上もしくは予防薬上または治療薬、診断薬もしくは予防薬に付着されているか、あるいは、治療薬、診断薬もしくは予防薬を組み込んでいる、任意の粒子のことを指す。一例において、粒子は、結合タンパク質である。例えば、粒子は、抗体であり得る。別の例において、粒子は、scFvなどのFvである。
【0060】
本明細書中で使用されるとき、用語「ナノ粒子」とは、約10nmから最大約1ミクロンまで(約1ミクロンは含まない)、または100nmから約1ミクロンの直径を有する粒子のことを概して指す。粒子は、任意の形状を有し得る。球状の形状を有するナノ粒子は、一般に「ナノスフェア」と称される。
【0061】
本明細書中で使用されるとき、用語「ミクロスフェア」は、当該分野において認識されており、約1ミクロンまたはそれを超えるサイズから最大約1000ミクロンまでに及ぶサイズを有する生体適合性ポリマーから形成されている実質的に球状のコロイド構造を含む。一般に、用語「マイクロカプセル」は、これもまた当該分野において認識されているが、コアおよびシェルから形成されているので、ミクロスフェアと区別され得る。用語「微小粒子」も、当該分野において認識されており、ミクロスフェアおよびマイクロカプセルならびに上記の2つのカテゴリーのいずれかに容易に分類されない可能性がある構造を含み、それらはすべて、平均して約1000ミクロン未満の寸法を有する。これらの構造が、約1ミクロン未満の直径である場合、当該分野において認識されている対応する用語「ナノスフェア」、「ナノカプセル」および「ナノ粒子」が、使用され得る。ある特定の実施形態において、ナノスフェア、ナノカプセルおよびナノ粒子は、約500nm、200nm、100nm、50nm、10nmまたは1nmという平均直径を有する。
【0062】
微小粒子またはナノ粒子を含む組成物は、ある範囲の粒径の粒子を含み得る。ある特定の実施形態において、粒径の分布は、均一であり得、例えば、平均体積径(volume
diameter)の約20%標準偏差未満以内であり得、他の実施形態では、なおもより均一であり得、例えば、メジアン体積径の約10%以内であり得る。
【0063】
本明細書中で使用されるとき、句「平均粒径」とは、粒子集団中の粒子の統計的な平均粒径(直径)のことを概して指す。本質的に球状の粒子の直径は、物理的直径または流体力学直径のことを指し得る。非球状粒子の直径は、流体力学直径のことを指し得る。本明細書中で使用されるとき、非球状粒子の直径は、その粒子の表面上の2点の間の最長の直線距離のことを指し得る。平均粒径は、動的光散乱などの当該分野で公知の方法を用いて計測され得る。
【0064】
本明細書中で使用されるとき、句「単分散」および「均一なサイズ分布」は、交換可能に使用され、すべての粒子が同じまたはほぼ同じサイズであるナノ粒子または微小粒子の集団のことを記載する。本明細書中で使用されるとき、単分散分布とは、その分布の90%がメジアン粒径の15%以内またはメジアン粒径の10%以内またはメジアン粒径の5%以内に入る粒子分布のことを指す。
【0065】
本明細書中で使用されるとき、「分子量」とは、別段特定されない限り、バルクポリマーの相対的な平均鎖長のことを概して指す。実際には、分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)またはキャピラリービスコメトリーをはじめとした様々な方法を用いて推定され得るかまたは特徴づけられ得る。GPC分子量は、数平均分子量(Mn)とは対照的に重量平均分子量(Mw)として報告される。キャピラリービスコメトリーは、濃度、温度および溶媒条件の特定のセットを用いて、希薄なポリマー溶液から測定された固有の粘度として分子量の推定値を提供する。
【0066】
本明細書中で使用されるとき、用語「標的化部分」とは、特定の場所に局在化するかまたは特定の場所から離れて局在化する部分のことを指す。その部分は、例えば、タンパク質、核酸、核酸アナログ、炭水化物または小分子であり得る。前記実体は、例えば、小分子などの治療用化合物、または検出可能な標識などの診断用実体であり得る。前記場所は、組織、特定の細胞型または細胞内コンパートメントであり得る。1つの実施形態において、標的化部分は、活性な実体の局在化を指示する。その活性な実体は、小分子、タンパク質、ポリマーまたは金属であり得る。その活性な実体は、治療、予防または診断の目的で有用であり得る。
【0067】
本明細書中で使用されるとき、句「薬学的に許容され得る」とは、過剰な毒性、刺激作用、アレルギー反応または他の問題もしくは合併症なく、人間および動物の組織と接触する際に使用するために適しており、合理的なベネフィット/リスク比に相応する、適切な医学的判断の範囲内の、組成物、ポリマーおよび他の材料ならびに/または剤形のことを指す。
【0068】
本明細書中で使用されるとき、句「薬学的に許容され得るキャリア」とは、薬学的に許容され得る材料、組成物またはビヒクル(例えば、1つの器官または身体の一部から、別の器官または身体の一部に任意の主題組成物を保有または運搬することに関わる、液体または固体の充填剤、希釈剤、溶媒または被包材料)のことを指す。各キャリアは、主題組成物の他の成分と適合性であり、かつ患者にとって傷害性でないという意味において、「許容され得る」ものでなければならない。
【0069】
本明細書中で使用されるとき、句「薬学的に許容され得る塩」は、当該分野において認識されており、化合物の比較的無毒性の無機酸付加塩および有機酸付加塩を含む。薬学的に許容され得る塩の例としては、鉱酸(例えば、塩酸および硫酸)から得られる塩および有機酸(例えば、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸およびp-トルエンスルホン酸)から得られる塩が挙げられる。塩の形成に適した無機塩基の例としては、アンモニア、ナトリウム、リチウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウムおよび亜鉛の水酸化物、炭酸塩および炭酸水素塩が挙げられる。塩は、無毒性でありかつそのような塩を形成するのに十分強い塩基を含む、好適な有機塩基によっても形成され得る。
【0070】
本明細書中で使用されるとき、用語「個体」、「宿主」、「被験体」および「患者」は、投与または処置の標的である任意の個体のことを指すために交換可能に使用される。その被験体は、脊椎動物、例えば、哺乳動物であり得る。したがって、その被験体は、ヒト患者または動物患者であり得る。
【0071】
本明細書中で使用されるとき、用語「処置」とは、疾患、病理学的な状態または障害を治癒するか、回復させるか、安定化するかまたは予防する目的での患者の医学的管理のことを指す。この用語には、積極的治療、つまり、特に疾患、病理学的な状態または障害の改善を対象とした処置が含まれ、原因治療、つまり、関連する疾患、病理学的な状態または障害の原因の除去を対象とした処置も含まれる。さらに、この用語には、姑息的治療、つまり、疾患、病理学的な状態または障害の治癒ではなく症状の軽減のために設計された処置;予防的処置、つまり、関連する疾患、病理学的な状態または障害の発症を最小限にすることまたは部分的にもしくは完全に阻害することに関する処置;および支持的処置、つまり、関連する疾患、病理学的な状態または障害の改善を対象とした別の特定の治療を補うために用いられる処置も含まれる。
【0072】
本明細書中で使用されるとき、用語「治療有効量」とは、本明細書中に記載される粒子内および/または粒子上に組み込まれたとき、任意の医学的処置に適用できる合理的なベネフィット/リスク比でいくらかの所望の効果をもたらす治療薬の量のことを指す。有効量は、処置される疾患もしくは状態、投与される特定の標的化構築物、被験体のサイズ、またはその疾患もしくは状態の重症度のような因子に応じて変動し得る。当業者は、必要以上の実験を要することなく、特定の化合物の有効量を経験的に決定し得る。いくつかの実施形態において、用語「有効量」とは、脳の1つまたはそれを超える疾患または障害の症状を減少させるまたは減らす(例えば、腫瘍サイズ(例えば、腫瘍体積)の減少または神経障害の1つもしくはそれを超える症状(例えば、記憶障害もしくは学習障害、振戦または震え(shake)など)を減少もしくは減らすこと)ための治療薬または予防薬の量のことを指す。なおも他の実施形態では、「有効量」とは、損傷ニューロンの修復および/またはニューロン再生の誘導に必要な治療薬の量のことを指す。
【0073】
本明細書中で使用されるとき、用語「組み込まれる」および「被包される」とは、所望の適用において、活性な作用物質の放出(例えば、徐放)を可能にする組成物内におよび/またはその組成物上にそのような作用物質を組み込むこと、製剤化すること、またはその他の方法で含めることを指す。これらの用語は、治療薬または他の材料が、ポリマーマトリクス内に組み込まれる任意の様式(例えば、そのようなポリマーのモノマーに付着されること(共有結合性、イオン性または他の結合相互作用によって)、物理的な混合、ポリマーのコーティング層に作用物質を包むこと、およびそのようなモノマーを、ポリマー製剤を得るための重合の一部にすること、ポリマーマトリクス全体に分布すること、ポリマーマトリクスの表面に付け加えること(共有結合性または他の結合相互作用によって)、ポリマーマトリクス内部に被包することなどを含む)を企図する。用語「共組み込み」または「共被包」とは、治療薬または他の材料と少なくとも1つの他の治療薬または他の材料とを主題組成物に組み込むことを指す。例えば、少なくとも2つの活性な作用物質が、被包され得る。別の例において、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つまたはそれを超える活性な作用物質が、被包され得る。
【0074】
より詳細には、任意の治療薬または他の材料がポリマーに被包される物理的形態は、特定の実施形態によって異なり得る。例えば、治療薬または他の材料が、まずミクロスフェアに被包され、次いで、そのミクロスフェア構造の少なくとも一部が維持されるようにポリマーと合わされ得る。あるいは、治療薬または他の材料は、ポリマーに溶解されるのではなく、ポリマー中に小さい液滴として分散されるほど十分にポリマーに不混和性であり得る。
【0075】
本明細書中で使用されるとき、「活性な作用物質」とは、体内において局所的および/または全身的に作用する生理的または薬理学的に活性な物質のことを指す。活性な作用物質は、疾患または障害の処置(例えば、治療薬)、予防(例えば、予防薬)または診断(例えば、診断薬)のために、患者に投与される物質である。
【0076】
II.組成物
抗DNA抗体を有するナノ粒子は、インビボにおいて外来性DNAの部位(例えば、腫瘍、虚血領域(例えば、虚血脳または心筋梗塞の梗塞(infraction)領域)および傷害(例えば、収縮性傷害を受けた骨格筋)を含む)に治療薬を送達するために使用され得る。細胞傷害剤が、活性な作用物質としてナノ粒子によって送達されるとき、そのストラテジーは、細胞外DNAを効率的に標的化するだけでなく、死細胞および瀕死の細胞によるDNAの放出の増加に起因して、時間およびその後の処置とともに改善される送達効率ももたらす。したがって、開示される組成物は、概して、ナノキャリアに結合体化された抗DNA抗体もしくは抗ヌクレオソーム抗体またはそれに由来する機能的フラグメント、バリアントもしくは融合タンパク質を有するナノキャリアを含む。
【0077】
1種またはそれを超える活性な作用物質を含むナノキャリア組成物が提供され、その活性な作用物質の各々は、送達ビヒクル内にローディングされ、送達ビヒクルの表面に付着され、かつ/または送達ビヒクル内に封入される。
【0078】
ナノキャリア送達ビヒクルは、例えば、ポリマー粒子、無機粒子、シリカ粒子、リポソーム、ミセル、多層ベシクルまたは微小気泡であり得る。
【0079】
ある実施形態において、送達ビヒクルは、ナノスケールの組成物、例えば、10nmから最大約1ミクロンまで(約1ミクロンを含まない)の組成物である。しかしながら、いくつかの実施形態において、およびいくつかの用途のために、粒子は、それより小さいかまたは大きい(例えば、微小粒子など)ことがあることが認識されるだろう。本明細書中に開示される組成物の多くが、ナノ粒子またはナノキャリア(nanacarrier)組成物と称されるが、いくつかの実施形態において、およびいくつかの用途のために、キャリアは、ナノ粒子よりもいくらか大きいことがあることが認識されるだろう。例えば、キャリア組成物は、約1ミクロン~約1000ミクロンであり得る。そのような組成物は、微小粒子組成物と称され得る。例えば、本開示に係るナノキャリアは、微小粒子であり得る。微小粒子は、0.1~100μmのサイズの直径を有する粒子である。別の例において、ナノキャリアは、超粒子(supraparticle)であり得る。超粒子は、約100μmのサイズを超える直径を有する粒子である。例えば、超粒子は、約100μm~約1,000μmのサイズの直径を有し得る。
【0080】
微小気泡は、産業、生命科学および医学において広い適用を有する、直径1ミリメートルより小さいが1マイクロメートルより大きい気泡である。その気泡のシェルおよび充填材料の組成が、特徴(例えば、浮力、粉砕強さ、熱伝導率および音響特性)を決定し、付与する。医学において、それらは、イメージングなどの診断および薬物送達などの治療における適用を有する。
【0081】
癌を処置するためのいくつかの実施形態において、粒子は、腫瘍微小環境に接近するのに適したサイズであることが望ましい。特定の実施形態において、粒子は、血管透過性・滞留性亢進(EPR)効果によって、腫瘍微小環境および/または腫瘍細胞に接近するのに適したサイズである。EPRとは、ある特定の分子サイズが、正常組織よりもかなり多く腫瘍組織内に蓄積する傾向があるという特性のことを指す。ゆえに、癌を処置するための例示的な組成物において、送達ビヒクルは、約25nm~約500nmの範囲内であり得る。別の例において、送達ビヒクルは、約50nm~約300nmの範囲内(両端を含む)であり得る。別の例において、送達ビヒクルは、約80nm~約120nmの範囲内(両端を含む)であり得る。別の例において、送達ビヒクルは、約85nm~約110nmの範囲内(両端を含む)であり得る。
【0082】
ポリマーナノ粒子は、通常、シングルエマルジョン法またはダブルエマルジョン法、水性溶媒および非水溶媒を用いて、形成される。通常、ナノ粒子は、溶媒除去後、最小量の非水溶媒を含む。ナノ粒子を調製する例示的な方法は、実施例に記載される。
【0083】
いくつかの実施形態において、ナノ粒子は、エマルジョン溶媒蒸発法を用いて調製される。ポリマー材料を水不混和性有機溶媒に溶解し、薬物溶液または薬物溶液の組み合わせと混合する。その水不混和性有機溶媒は、クロロホルム、ジクロロメタンおよび酢酸アシルなどのGRAS成分であり得る。その薬物は、以下のもの:アセトン、エタノール、メタノール、イソプロピルアルコール、アセトニトリルおよびジメチルスルホキシド(DMSO)のうちの1つまたは複数に溶解され得るが、これらに限定されない。次いで、水溶液を、得られた混合物溶液に加えて、乳化によってエマルジョン溶液を得る。乳化の手法は、プローブ超音波処理またはホモジナイザーによる均質化であり得るがこれらに限定されない。
【0084】
いくつかの実施形態において、ナノ粒子は、ナノ沈殿法またはマイクロ流体デバイスを用いて調製される。ポリマー材料を、水混和性有機溶媒中の薬物または薬物の組み合わせと混合する。その水混和性有機溶媒は、以下のもの:アセトン、エタノール、メタノール、イソプロピルアルコール、アセトニトリルおよびジメチルスルホキシド(DMSO)のうちの1つまたはそれより多くであり得る。次いで、得られた混合物溶液を、水溶液に加えて、ナノ粒子溶液を得る。作用物質は、粒子の表面に会合され得、粒子内に被包され得、粒子で取り囲まれ得、かつ/または粒子のポリマーマトリクス全体に分布され得る。
【0085】
いくつかの実施形態において、ナノ粒子は、エマルジョン溶媒蒸発、一工程ナノ沈殿法またはマイクロ流体デバイスを用いて、両親媒性ポリマー(必要に応じて、親水性ポリマーおよび/または疎水性ポリマーを含む)の自己集合によって調製される。
【0086】
本開示によって包含されるナノ粒子を作製する他の例示的な方法は、Zhouら、Biomaterials,33(2):583-591(2012)およびHanら、Nanomedicine(2016)に記載されている。
【0087】
標的化部分をナノ粒子内に組み込む2つの方法としては、i)ナノ粒子の調製の前に、標的化リガンドをポリマーの親水性領域(例えば、PEG)に結合体化すること;およびii)標的化分子をナノ粒子上に組み込むこと(ここで、ナノ粒子表面上のPEG層は、目的の組織において化学物質または酵素の存在下で切断されて、標的化分子を露出し得る)が挙げられる。
【0088】
一例において、粒子は、微小粒子またはナノ粒子であり得る。ナノ粒子は、組織間適用、細胞の透過およびある特定の投与経路に対して使用されることが多い。一例において、ナノ粒子は、10nmから最大約1,000nmまでの任意の直径を有し得る。ナノ粒子は、10nmから900nm、10nmから800nm、10nmから700nm、10nmから600nm、10nmから500nm、20nmから500nm、30nmから500nm、40nmから500nm、50nmから500nm、50nmから400nm、50nmから350nm、50nmから300nm、または50nmから200nmの直径を有し得る。いくつかの実施形態において、ナノ粒子は、400nm未満、300nm未満、または200nm未満の直径を有し得る。例えば、ナノ粒子は、50nm~300nmの直径を有し得る。
【0089】
一例において、ナノ粒子の平均直径は、約50nm~約500nm、または約50nm~約350nmである。一部の実施形態では、ナノ粒子の平均直径は、約100nmである。
【0090】
ナノ粒子のゼータ電位は、通常、約-50mV~約+50mVまたは約-25mV~+25mVまたは約-10mV~約+10mvである。
【0091】
いくつかの実施形態において、粒子は、薬物がローディングされ得、頭蓋内対流強化薬剤送達法(intracranial convection-enhanced delivery)(CED)(例えば、WO2013/166487および米国特許出願公開第2015/0118311号において論じられているもの)に対して最適化され得る、脳透過性ポリマーナノ粒子である。例えば、それらの粒子は、ポリマー-薬物溶液を乳化し、次いで、溶媒を除去し、第1の力で遠心分離して、より大きな粒子を除去し、次いで、第2のより大きな力を用いてより小さな粒子を回収して、脳間質腔を透過できる100nm未満の直径または25~75ナノメートルの範囲内の平均直径を有するより小さな粒子を沈降させることによって、形成され得る。
【0092】
部分的に水混和性の有機溶媒(例えば、ベンジルアルコール、乳酸ブチルおよび酢酸エチル(EA))は、エマルジョン拡散機構によりナノ粒子の製剤化を可能にし、ジクロロメタン(dicloromethane)(DCM)などの水不混和性溶媒よりも小さいナノ粒子を生成できる。部分的に水混和性の有機溶媒を使用することにより、脳透過性ナノ粒子の収量が改善される。使用され得る代表的な溶媒としては、DCM、ベンジルアルコール、乳酸ブチルおよび酢酸エチル(EA)、アセトンが挙げられる。EAは、毒性が低いので、特に魅力的である。
【0093】
凝集を減少させるために、FDAによって承認された二糖トレハロースなどの糖が、組成物に加えられ得る。他の糖としては、グルコース、スクロースおよびラクトースが挙げられる。通常、ナノ粒子に対する糖の重量比は、10~50%である。
【0094】
一例において、ナノキャリアおよびそれを有する組成物は、状態を処置するための薬の製造において使用され得る。別の例において、本開示は、状態の処置において使用するためのナノキャリアまたはそれを有する組成物に関する。処置される状態の例は、下記で論じられる。
【0095】
以下は、ポリマーNPを作製する例示的な材料および方法である。
【0096】
A.例示的なナノキャリア
いくつかの実施形態において、用語「ナノキャリア」は、ポアのネットワークを含む集塊粒子のことを指すために本開示の文脈において使用される。ポアのネットワークは、ナノキャリアに、ペイロード(例えば、下記で論じられる例示的な1種またはそれを超える活性な作用物質)を保持するための大きなポア体積および表面積を提供する。大きなポア体積および表面積は、ナノキャリアによって保有され得るペイロードの量を増大できるので、有益である。
【0097】
いくつかの実施形態において、ナノキャリアは、ポアのネットワークを含む集塊粒子ではない。
【0098】
1.ポリマー
ナノキャリアは、1種またはそれを超える親水性ポリマーを含む粒子であり得る。例示的な親水性ポリマーとしては、セルロース系ポリマー(例えば、デンプンおよび多糖);親水性ポリペプチド;ポリ(アミノ酸)(例えば、ポリ-L-グルタミン酸(PGS)、ガンマ-ポリグルタミン酸、ポリ-L-アスパラギン酸、ポリ-L-セリンまたはポリ-L-リジン);ポリアルキレングリコールおよびポリアルキレンオキシド(例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール(PPG)およびポリ(エチレンオキシド)(PEO));ポリ(オキシエチル化ポリオール);ポリ(オレフィンアルコール);ポリビニルピロリドン);ポリ(ヒドロキシアルキルメタクリルアミド);ポリ(ヒドロキシアルキルメタクリレート);ポリ(サッカライド);ポリ(ヒドロキシ酸);ポリ(ビニルアルコール)およびそれらの共重合体が挙げられる。
【0099】
ナノ粒子は、1種またはそれを超える疎水性ポリマーを含み得る。好適な疎水性ポリマーの例としては、ポリヒドロキシ酸(例えば、ポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)およびポリ(乳酸-co-グリコール酸));ポリヒドロキシアルカノエート(例えば、ポリ3-ヒドロキシブチレートまたはポリ4-ヒドロキシブチレート);ポリカプロラクトン;ポリ(オルトエステル);ポリ無水物;ポリ(ホスファゼン);ポリ(ラクチド-co-カプロラクトン);ポリカーボネート(例えば、チロシンポリカーボネート);ポリアミド(合成および天然のポリアミドを含む)、ポリペプチドおよびポリ(アミノ酸);ポリエステルアミド;ポリエステル;ポリ(ジオキサノン);ポリ(アルキレンアルキレート);疎水性ポリエーテル;ポリウレタン;ポリエーテルエステル;ポリアセタール;ポリシアノアクリレート;ポリアクリレート;ポリメチルメタクリレート;ポリシロキサン;ポリ(オキシエチレン)/ポリ(オキシプロピレン)共重合体;ポリケタール;ポリホスフェート;ポリヒドロキシバレレート;ポリアルキレンオキサレート;ポリアルキレンスクシネート;ポリ(マレイン酸)、ならびにそれらの共重合体が挙げられる。
【0100】
疎水性ポリマーは、脂肪族ポリエステルであり得る。いくつかの実施形態において、疎水性ポリマーは、ポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)またはポリ(乳酸-co-グリコール酸)である。
【0101】
ナノ粒子は、1種またはそれを超える生分解性ポリマーを含み得る。例示的な生分解性ポリマーとしては、体内で水溶性材料に化学的または酵素的に変換される、水に不溶性または難溶性であるポリマーが挙げられ得る。生分解性ポリマーには、架橋されたポリマーを水に不溶性または難溶性にする加水分解可能な(hydolyzable)架橋基によって架橋された可溶性ポリマーが含まれ得る。
【0102】
ナノ粒子における生分解性ポリマーとしては、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアルキレン、ポリアルキレングリコール、ポリアルキレンオキシド、ポリアルキレンテレフタレート(polyalkylene terepthalate)、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリビニルエステル、ポリビニルハロゲン化物、ポリビニルピロリドン、ポリグリコリド、ポリシロキサン、ポリウレタンおよびその共重合体、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、セルロースエーテル、セルロースエステル、ニトロセルロース、アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルのポリマー、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシ-プロピルメチルセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、酢酸フタル酸セルロース、カルボキシルエチルセルロース、三酢酸セルロース、硫酸セルロースナトリウム塩、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリ(エチルメタクリレート)、ポリ(ブチルメタクリレート)、ポリ(イソブチルメタクリレート)、ポリ(ヘキシルメタクリレート(hexlmethacrylate))、ポリ(イソデシルメタクリレート)、ポリ(ラウリルメタクリレート)、ポリ(フェニルメタクリレート)、ポリ(メチルアクリレート)、ポリ(イソプロピルアクリレート)、ポリ(イソブチルアクリレート)、ポリ(オクタデシルアクリレート)、ポリエチレン、ポリプロピレンポリ(エチレングリコール)、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(酢酸ビニル、ポリ塩化ビニルポリスチレンおよびポリビニルピロリドン(polyvinylpryrrolidone)、それらの誘導体、それらの直鎖および分枝共重合体ならびにブロック共重合体、ならびにそれらのブレンドが挙げられ得る。例示的な生分解性ポリマーとしては、ポリエステル、ポリ(オルトエステル)、ポリ(エチレンイミン)、ポリ(カプロラクトン)、ポリ(ヒドロキシブチレート)、ポリ(ヒドロキシバレレート)、ポリ無水物、ポリ(アクリル酸)、ポリグリコリド、ポリ(ウレタン)、ポリカーボネート、ポリリン酸エステル、ポリホスファゼン、それらの誘導体、それらの直鎖および分枝共重合体ならびにブロック共重合体、ならびにそれらのブレンドが挙げられる。
【0103】
ナノ粒子は、1種またはそれを超える両親媒性ポリマーを含み得る。両親媒性ポリマーは、疎水性ポリマーブロックおよび親水性ポリマーブロックを含むポリマーであり得る。疎水性ポリマーブロックは、上記の疎水性ポリマーのうちの1種もしくはそれより多くまたはその誘導体もしくは共重合体を含み得る。親水性ポリマーブロックは、上記の親水性ポリマーのうちの1種もしくはそれより多くまたはその誘導体もしくは共重合体を含み得る。いくつかの実施形態において、両親媒性ポリマーは、疎水性ポリマーから形成される疎水性末端および親水性ポリマーから形成される親水性末端を含むジブロックポリマーである。いくつかの実施形態において、疎水性末端、親水性末端またはその両方に、ある部分が付着され得る。
【0104】
いくつかの実施形態において、ナノ粒子は、疎水性ポリマーブロック、親水性ポリマーブロック、および親水性ポリマーブロックに結合体化された標的化部分を有する第1の両親媒性ポリマー;ならびに疎水性ポリマーブロックおよび親水性ポリマーブロックを有するが標的化部分を有しない第2の両親媒性ポリマーを含む。第1の両親媒性ポリマーの疎水性ポリマーブロックおよび第2の両親媒性ポリマーの疎水性ポリマーブロックは、同じであってもよいし、異なってもよい。同様に、第1の両親媒性ポリマーの親水性ポリマーブロックおよび第2の両親媒性ポリマーの親水性ポリマーブロックも、同じであってもよいし、異なってもよい。
【0105】
いくつかの実施形態において、ナノ粒子は、生分解性のポリエステルまたはポリ無水物(例えば、ポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)およびポリ(乳酸-co-グリコール酸))を含む。例えば、本開示に係るナノ粒子は、生成されたポリ(乳酸-co-グリコール酸)から作製され得る。例えば、ナノ粒子は、以下のポリエステル:グリコール酸単位を含むホモポリマー(本明細書中で「PGA」と称される)、および乳酸単位を含むホモポリマー(例えば、ポリ-L-乳酸、ポリ-D-乳酸、ポリ-D,L-乳酸、ポリ-L-ラクチド、ポリ-D-ラクチドおよびポリ-D,L-ラクチド(まとめて本明細書中で「PLA」と称される))およびカプロラクトン単位を含むホモポリマー(例えば、ポリ(ε-カプロラクトン)(まとめて本明細書中で「PCL」と称される));ならびに乳酸単位およびグリコール酸単位を含む共重合体(例えば、乳酸:グリコール酸の比によって特徴づけられる様々な形態のポリ(乳酸-co-グリコール酸)およびポリ(ラクチド-co-グリコリド)(まとめて本明細書中で「PLGA」と称される);ならびにポリアクリレート、およびそれらの誘導体のうちの1つまたはそれより多くを含み得る。例示的なポリマーとしては、ポリエチレングリコール(PEG)および上述のポリエステルの共重合体(例えば、様々な形態のPLGA-PEGまたはPLA-PEG共重合体(まとめて本明細書中で「PEG化ポリマー」と称される))も挙げられる。ある特定の実施形態において、PEG領域は、切断可能なリンカーによって、「PEG化ポリマー」をもたらすようにポリマーと共有結合的に会合され得る。他のポリマーとしては、PLGA-ポリ(ε-カルボベンゾキシル-L-リジン)(PLL)(すなわち、PLGA-PLL)が挙げられる。
【0106】
例えば、ナノ粒子は、ポリマーと標的化部分または検出可能な標識との間に末端間の結合を含む1つまたはそれを超えるポリマー結合体も含み得る。例えば、改変されたポリマーは、PLGA-PEG-ペプチドブロックポリマーであり得る。
【0107】
例えば、ナノ粒子は、1種のポリマーまたは2種もしくはそれを超えるポリマーの混合物を含み得る。ナノ粒子は、他の実体(例えば、安定剤、界面活性物質または脂質)を含み得る。ナノ粒子は、標的化部分を有する第1のポリマーおよび標的化部分を有しない第2のポリマーを含み得る。標的化されたポリマーと標的化されていないポリマーとの比を調整することによって、粒子の外部上の標的化部分の密度を調整できる。
【0108】
ナノ粒子は、疎水性末端、親水性末端、および親水性末端に付着された標的化部分を有する両親媒性ポリマーを含み得る。いくつかの実施形態において、両親媒性高分子は、疎水性ポリマーブロック、疎水性ポリマーブロックに共有結合的にカップリングされた親水性ポリマーブロック、および親水性ポリマーブロックに共有結合的にカップリングされた標的化部分を有するブロック共重合体である。例えば、両親媒性ポリマーは、構造A-B-X(ここで、Aは、疎水性分子または疎水性ポリマーであり、Bは、親水性分子または親水性ポリマーであり、Xは、標的化部分である)を有する結合体を有し得る。例示的な(Examplary)両親媒性ポリマーとしては、Aが疎水性生分解性ポリマーであり、BがPEGであり、Xが、標的が結合する標的化部分である、ポリマーが挙げられる。
【0109】
いくつかの実施形態において、ナノ粒子は、上に記載されたような構造A-B-Xを有する第1の両親媒性ポリマーおよび構造A-Bを有する第2の両親媒性ポリマー(ここで、第2の両親媒性高分子におけるAおよびBは、第1の両親媒性高分子におけるAおよびBから独立して選択されるが、それらは同じであってもよい)を含む。
【0110】
2.リポソームおよびミセル
ナノキャリアは、リポソームまたはミセルであり得る。リポソームは、水性コンパートメントによって隔てられた同心性のリン脂質二重層から構成される球状のベシクルである。リポソームは、細胞表面に接着し、細胞表面上に分子フィルムを形成し得る。構造的に、リポソームは、水性の内部を囲い込む同心性のリン脂質二重層から構成される脂質ベシクルである(Gregoriadisら、Int.J.Pharm.,300,125-30 2005;Gregoriadis and Ryman,Biochem.J.,124,58P(1971))。疎水性化合物は、脂質相と会合し、親水性化合物は、水相と会合する。
【0111】
リポソームは、細胞表面上および組織表面上において分子フィルムを形成する能力を有する。臨床研究によって、局所治癒剤としてのリポソームの有効性が明らかにされている(Dauschら、Klin Monatsbl Augenheilkd 223,974-83(2006);Leeら、Klin Monatsbl Augenheilkd 221,825-36(2004))。リポソームは、角膜炎、角膜移植片拒絶、ブドウ膜炎、眼内炎および増殖性硝子体網膜症を回復させるために眼科においても使用されている(Ebrahimら、2005;Liら、2007)。
【0112】
リポソームは、種々の化学療法剤のための薬物キャリアとして広く研究されている(およそ25,000の科学論文が、その主題で公開されている)(Gregoriadis,N Engl J Med 295,765-70(1976);Gregoriadisら、Int.J.Pharm.300,125-30(2005))。ドキソルビシンなどの水溶性抗癌物質は、リン脂質二重層によって区切られたリポソームの水性コンパートメント内で保護され得るのに対して、アンホテリシンおよびカプサイシンなどの脂溶性物質は、リン脂質二重層内に取り込まれ得る(Aboul-Fadl,Curr Med Chem 12,2193-214(2005);Tyagiら、J Urol 171,483-9(2004))。シクロスポリンの局所的送達および硝子体送達は、リポソームによって大幅に改善された(Lallemandら、Eur J Pharm Biopharm 56,307-18 2003)。化学療法剤の送達は、薬物動態の改善および毒性プロファイルの低減をもたらす(Gregoriadis,Trends
Biotechnol 13,527-37(1995);Gregoriadis and Allison,FEBS Lett 45,71-4 1974;Sapraら、Curr Drug Deliv 2,369-81(2005))。10を超えるリポソーム製剤および脂質ベースの製剤が、規制当局によって承認され、多くのリポソーム薬物が、前臨床開発中または臨床試験中である(Barnes,Expert Opin Pharmacother 7,607-15(2006);Minkoら、Anticancer Agents Med Chem 6,537-52(2006))。リポソームの急性、亜慢性および慢性の毒性に関する安全性データは、数千人の患者に対して診療所においてリポソームを使用する莫大な臨床経験から取り入れられた。
【0113】
リポソームおよびミセルなどのナノキャリアは、生理学的pHにおいて中性、陰イオン性または陽イオン性であり得る1種またはそれを超える脂質から形成され得る。好適な中性および陰イオン性の脂質としては、ステロールおよび脂質(例えば、コレステロール、リン脂質、リゾ脂質、リゾリン脂質、スフィンゴ脂質またはペグ化脂質)が挙げられるが、これらに限定されない。中性および陰イオン性の脂質としては、ホスファチジルコリン(PC)(例えば、卵PC、大豆PC)(1,2-ジアシル-グリセロ-3-ホスホコリンを含むがこれに限定されない);ホスファチジルセリン(PS)、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール(PI);糖脂質;スフィンゴリン脂質(例えば、スフィンゴミエリンおよびスフィンゴ糖脂質(1-セラミジルグルコシドとしても知られる)(例えば、セラミドガラクトピラノシド、ガングリオシドおよびセレブロシド));脂肪酸、カルボン酸基を含むステロール、例えば、コレステロール;1,2-ジアシル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(1,2-ジオレイルホスホエタノールアミン(DOPE)、1,2-ジヘキサデシルホスホエタノールアミン(DHPE)、1,2-ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、1,2-ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)および1,2-ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)を含むがこれらに限定されない)が挙げられるが、これらに限定されない。脂質には、脂質の様々な天然の誘導体(例えば、組織由来のL-α-ホスファチジル:卵黄、心臓、脳、肝臓、ダイズ)および/または合成の誘導体(例えば、飽和および不飽和の1,2-ジアシル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン、1-アシル-2-アシル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン、1,2-ジヘプタノイル-SN-グリセロ-3-ホスホコリン)も含まれ得る。いくつかの実施形態において、リポソームは、ホスファジチルコリン(PC)頭部基および必要に応じてスフィンゴミエリンを含む。いくつかの実施形態において、リポソームは、DPPCを含む。さらなる実施形態において、リポソームは、1,2-ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)などの中性脂質を含む。
【0114】
ある特定の実施形態において、リポソームは、単一のタイプのリン脂質から生成される。いくつかの実施形態において、リン脂質は、ホスファジチルコリン頭部基を有し、例えば、スフィンゴミエリンであり得る。リポソームは、スフィンゴミエリン代謝産物を含み得る。リポソームを製剤化するために使用されるスフィンゴミエリン代謝産物としては、セラミド、スフィンゴシンまたはスフィンゴシン1-リン酸が挙げられるがこれらに限定されない。リポソームを製剤化するために使用される脂質に含められるスフィンゴミエリン代謝産物の濃度は、約0.1mol%~約10mol%または約2.0mol%~約5.0mol%の範囲であり得るか、または約1.0mol%の濃度であり得る。
【0115】
リポソームにおける好適な陽イオン性脂質としては、TAP脂質としても言及されるN-[1-(2,3-ジオレオイルオキシ)プロピル]-N,N,N-トリメチルアンモニウム塩、例えば、メチル硫酸塩が挙げられるが、これらに限定されない。好適なTAP脂質としては、DOTAP(ジオレオイル-)、DMTAP(ジミリストイル-)、DPTAP(ジパルミトイル-)およびDSTAP(ジステアロイル-)が挙げられるが、これらに限定されない。リポソームにおける好適な陽イオン性脂質としては、ジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミド(DDAB)、1,2-ジアシルオキシ-3-トリメチルアンモニウムプロパン、N-[1-(2,3-ジオレオイルオキシ(dioloyloxy))プロピル]-Ν,Ν-ジメチルアミン(DODAP)、1,2-ジアシルオキシ-3-ジメチルアンモニウムプロパン、N-[1-(2,3-ジオレイルオキシ)プロピル]-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリド(DOTMA)、1,2-ジアルキルオキシ-3-ジメチルアンモニウムプロパン、ジオクタデシルアミドグリシルスペルミン(DOGS)、3-[N-(N’,N’-ジメチルアミノ-エタン)カルバモイル]コレステロール(DC-Chol);2,3-ジオレオイルオキシ-N-(2-(スペルミンカルボキサミド)-エチル)-N,N-ジメチル-1-プロパンアミニウムトリフルオロ-アセテート(DOSPA)、β-アラニルコレステロール、セチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)、ジC14-アミジン、N-ferf-ブチル-N’-テトラデシル-3-テトラデシルアミノ-プロピオンアミジン、N-(アルファ-トリメチルアンモニオアセチル)ジドデシル-D-グルタメートクロリド(TMAG)、ジテトラデカノイル-N-(トリメチルアンモニオ-アセチル)ジエタノールアミンクロリド、1,3-ジオレオイルオキシ-2-(6-カルボキシ-スペルミル)-プロピルアミド(DOSPER)およびN,N,N’,N’-テトラメチル-、N’-ビス(2-ヒドロキシルエチル)-2,3-ジオレオイルオキシ-1,4-ブタンジアンモニウムヨージドが挙げられるが、これらに限定されない。1つの実施形態において、陽イオン性脂質は、1-[2-(アシルオキシ)エチル]2-アルキル(アルケニル)-3-(2-ヒドロキシエチル)-イミダゾリニウムクロリド誘導体、例えば、1-[2-(9(Z)-オクタデセノイルオキシ)エチル]-2-(8(Z)-ヘプタデセニル-3-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリニウムクロリド(DOTIM)および1-[2-(ヘキサデカノイルオキシ)エチル]-2-ペンタデシル-3-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリニウムクロリド(DPTIM)であり得る。1つの実施形態において、陽イオン性脂質は、四級アミン上にヒドロキシアルキル部分を含む2,3-ジアルキルオキシプロピル四級アンモニウム化合物誘導体、例えば、1,2-ジオレオイル-3-ジメチル-ヒドロキシエチルアンモニウムブロミド(DORI)、1,2-ジオレイルオキシプロピル-3-ジメチル-ヒドロキシエチルアンモニウムブロミド(DORIE)、1,2-ジオレイルオキシプロピル-3-ジメチル(dimetyl)-ヒドロキシプロピルアンモニウムブロミド(DORIE-HP)、1,2-ジオレイル-オキシ-プロピル-3-ジメチル-ヒドロキシブチルアンモニウムブロミド(DORIE-HB)、1,2-ジオレイルオキシプロピル-3-ジメチル-ヒドロキシペンチルアンモニウムブロミド(DORIE-Hpe)、1,2-ジミリスチルオキシプロピル-3-ジメチル-ヒドロキシルエチルアンモニウムブロミド(DMRIE)、1,2-ジパルミチルオキシプロピル-3-ジメチル-ヒドロキシエチルアンモニウムブロミド(DPRIE)および1,2-ジステアリルオキシプロピル(disteryloxypropyl)-3-ジメチル-ヒドロキシエチルアンモニウムブロミド(DSRIE)であり得る。
【0116】
脂質は、1種より多い脂質の組み合わせから形成され得、例えば、荷電脂質が、生理学的pHにおいて非イオン性または無電荷の脂質と組み合わされ得る。非イオン性脂質としては、コレステロールおよびDOPE(1,2-ジオレオリルグリセリルホスファチジルエタノールアミン)が挙げられるが、これらに限定されない。第1のリン脂質(例えば、スフィンゴミエリン)と第2の脂質とのモル比は、約5:1~約1:1または3:1~約1:1または約1.5:1~約1:1の範囲であり得るか、またはそのモル比は、約1:1である。
【0117】
いくつかの実施形態において、リポソームまたはミセルは、リン脂質、コレステロールおよび窒素含有脂質を含む。例としては、天然のリン脂質(例えば、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジン酸、カルジオリピン、スフィンゴミエリン、卵黄レシチン、大豆レシチンおよびリゾレシチン)を含むリン脂質、ならびに標準的な様式で得られるそれらの水素化産物が挙げられる。合成リン脂質(例えば、リン酸ジセチル、ジステアロイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン、ジパルミトイルホスファチジルセリン、エレオステアロイルホスファチジルコリン、エレオステアロイルホスファチジルエタノールアミン、ならびにホモ-ポリ{N’--[N-(2-アミノエチル)-2-アミノエチル]アスパルトアミド}P[Asp(DET)]およびブロック-カチオマーポリ(エチレングリコール)(PEG)-b-P[Asp(DET)]を使用することも可能である。
【0118】
いくつかの実施形態において、リポソームは、長時間循環するリポソームまたはステルスリポソーム(例えば、Immordinoら、Int J Nanomedicine,1(3):297-315(2006))(その全体が参照により明確に本明細書中に援用される)において概説されているもの)である。例えば、糖脂質およびシアル酸を含む種々の分子によって改変された表面を有するリポソームが開発された。長時間循環するリポソームは、例えば、リポソーム組成に合成ポリマーであるポリ-(エチレングリコール)(PEG)を含み得る。リポソームキャリアの表面上のPEGは、単核食細胞系の取り込みを減少させつつ血液循環時間を延長でき(ステルスリポソーム)、標的化部分に対するアンカーとして働き得る。
【0119】
抗体および抗体フラグメントが、その標的抗原に対する高い特異性に起因して、リポソームに対する標的化部分のために一般的に使用されている。免疫リポソームと称される、抗体をリポソーム表面にカップリングすることによって標的化リポソームを作製する方法は、当該分野で公知である。そのような手法としては、従来のカップリング技術およびマレイミドベースの技術が挙げられるが、これらに限定されない。Paszko and Senge,Curr Med Chem.,19(31):5239-77(2012)、Kellyら、Journal of Drug Delivery,Volume
2011(2011),Article ID 727241,11頁も参照のこと。
【0120】
ミセルは、ポリマーミセル、例えば、親溶媒性(solvophilic)ブロックおよび疎溶媒性(solvophobic)ブロックから生成された両親媒性のジブロックまたはトリブロック共重合体から構成されるものであり得る(例えば、Croy and
Kwon,Curr Pharm Des.,12(36):4669-84(2006)を参照のこと)。
【0121】
3.微小気泡
いくつかの実施形態において、ナノキャリアは、微小気泡である。
【0122】
いくつかの実施形態において、微小気泡は、活性な作用物質を含む溶液中に分散されているか、または活性な作用物質を被包しているリポソームもしくは粒子を含む懸濁物中に分散されている。超音波に曝露されている間、微小気泡は、音波振動に応答してサイズが様々であり、最終的には破裂して衝撃波をもたらし、近くの生物学的組織においてタイトジャンクションを一過性に開く。一方、溶液中の活性な作用物質またはリポソームもしくは粒子から放出された活性な作用物質は、一過性に開いたジャンクションを越えて急速に拡散し、さもなければ浸透しにくい組織に浸透する。
【0123】
いくつかの実施形態において、微小気泡は、活性な作用物質でコーティングされているかまたは活性な作用物質で満たされており、超音波の衝撃波が、コーティングを活性化し、小さな破裂を引き起こして、医薬を放出する。
【0124】
いくつかの実施形態において、微小気泡は、タンパク質、脂質またはポリマーから構成されるシェルによって安定化された気体コアを有する。微小気泡は、不溶性ペルフルオロカーボンガス(例えば、ペルフルオロメタン、ペルフルオロエタン、ペルフルオロプロパン、ペルフルオロブタンまたはペルフルオロペンタン)で満たされる。1つの実施形態において、微小気泡は、直径が約1~約15ミクロンである。
【0125】
微小気泡は、アルブミン、リゾチーム、および高度に界面活性である他の両親媒性タンパク質で形成されたタンパク質シェルを有し得る。アルブミンでコーティングされた微小気泡は、空気の存在下における、ヒト血清アルブミンの加熱された溶液(例えば、5%(w/v))の超音波処理によって形成され得る。超音波処理中、ナノメートルの厚さの凝集アルブミンのシェル内に被包されるようになる空気の微小気泡が形成される。超音波処理の前にアルブミンを変性させるため、および被包を促進するために、加熱が必要であり、アルブミンシェルは、キャビテーション中に形成されたシステイン残基間のジスルフィド結合を介して共に保持される。
【0126】
微小気泡は、SPAN-40(登録商標)およびTWEEN-40(登録商標)などの合成界面活性物質の混合物を用いて形成される界面活性物質シェルを有し得る。SPAN(登録商標)/TWEEN(登録商標)混合物溶液が、空気の存在下において超音波処理されることにより、安定した微小気泡が形成される。
【0127】
好ましい実施形態において、微小気泡は、脂質シェルを有する。商業的に入手可能な、脂質でコーティングされた微小気泡製剤が、本明細書中で使用され得、それらとしては、DEFINITY(登録商標)(Lantheus Medical Imaging)およびSONOVUE(登録商標)(登録商標)(Bracco Diagnostics)が挙げられる。リン脂質は、それらの疎水性アシル鎖が気体に面し、親水性頭部基が水に面するように、自発的に気液界面において高配向単層に自己集合する。脂質分子は、鎖がからまることなく、「弱い」物理的力によって共に保持され、それにより、シェルが、超音波発生中の面積膨張および圧縮に適合する。微小気泡の形成に適した例示的な脂質分子は、リポソームの作製について上に記載されたものである。
【0128】
他の実施形態において、微小気泡は、架橋されたもしくはもつれたポリマー種から形成されるポリマーシェルまたは高分子電解質多層シェルを有する。例示的なポリマーシェルを有する微小気泡は、Sirsi S and Borden M,Bubble Sci Eng Technol,1(1-2):3-17(2009)に記載されている。
【0129】
B.DNAを標的化する部分
開示されるナノキャリアは、通常、それに付着、連結もしくは結合体化された、DNAもしくはその構成要素(例えば、ヌクレオチドまたはヌクレオシドまたは核酸塩基)またはヌクレオソームもしくはその構成要素を標的化する部分を含む。その部分は、ナノキャリアを形成するポリマーに結合体化され得る。一例において、結合部分は、ナノキャリアの外側のシェル上にディスプレイされる。
【0130】
標的化部分は、細胞外DNAもしくはその構成要素、ヌクレオチド、核酸塩基またはヌクレオソームに結合し得る、抗体またはバリアントまたは機能的フラグメントまたは融合タンパク質であり得る。様々な例示的な抗DNA/抗ヌクレオソーム抗体が、当該分野で公知である(例えば、Shuster A.M.et.al.,Science,v.256,1992,pp.665-667、Isenbergら、Rheumatology,46(7):1052-1056(2007))を参照のこと)。例えば、全身性エリテマトーデス(SLE)の患者の血清中に一本鎖または二本鎖のデオキシリボ核酸(DNA)に対する自己抗体がしばしば同定され、これは多くの場合、疾患の病因に関係づけられる。DNAに対して反応性の循環自己抗体(抗DNA抗体)が存在することは、全身性エリテマトーデス(SLE)の患者における目印となる実験上の知見である。SLEにおける抗DNA抗体の正確な役割は不明であるが、この抗体は、SLEの病態生理において積極的な役割を果たすことが示唆される。ループス(Select lupus)抗DNA自己抗体は、生細胞の核に浸透し、DNA修復を阻害できるか、またはDNAを直接損傷できることから、DNA損傷に感受性である腫瘍に対してこれらの抗体を使用する試みが進行中である(Hansenら、Sci Transl Med,4(157):157ra142(2012)、Nobleら、Cancer Research,2015;75(11):2285-2291、Nobleら、Sci Rep-Uk,4(2014)、Nobleら、Nat Rev Rheumatol (2016))。ゆえに、いくつかの実施形態において、抗DNA抗体は、SLEを有する患者に由来し得るか、またはSLEを有する患者から単離され得る。いくつかの実施形態において、抗DNA抗体は、モノクローナル抗体またはそのフラグメントもしくはバリアントである。
【0131】
抗体は、例えば、SLE患者に天然に存在するものであり得るか、または抗体ライブラリーのスクリーニングによって得られるものであり得る。抗体は、抗DNA抗体の血清レベルが上昇した宿主(例えば、MRL/1prマウス)由来の脾臓細胞を、公知の技法に従って骨髄腫細胞と融合することによって、または、脾臓細胞を、適切な形質転換ベクターを用いて形質転換して、細胞を不死化することによって調製することができる。細胞を選択培地において培養し、スクリーニングしてDNAに結合する抗体を選択することができる。
【0132】
いくつかの実施形態において、本開示によって包含される抗体、バリアント、機能的フラグメントまたは融合タンパク質は、DNAを加水分解し得る。他の実施形態において、本開示によって包含される抗体、バリアント、機能的フラグメントまたは融合タンパク質は、DNAを加水分解しない。
【0133】
いくつかの実施形態において、本開示によって包含される抗体、バリアント、機能的フラグメントまたは融合タンパク質は、細胞透過性であるか、核膜透過性であるか、またはその両方である。したがって、いくつかの実施形態において、本開示によって包含される抗体、バリアント、機能的フラグメントまたは融合タンパク質は、(1)細胞透過性であるか、(2)細胞透過性であるが、核膜を浸透しないか、(3)細胞透過性であり、かつ核透過性であるか、または(4)ナノキャリアに結合体化されたとき、細胞透過性でなく、かつ核膜透過性でない。したがって、いくつかの実施形態において、ナノキャリアは、主に、細胞外空間、例えば、腫瘍微小環境に留まる。いくつかの実施形態において、標的化部分は、細胞膜を越えて細胞内にナノキャリアを送達することを促進する。言い換えれば、一例において、標的化部分は、細胞透過性である。したがって、いくつかの実施形態において、標的化粒子は、同じ形質の非標的化粒子よりも効率的にまたは高い頻度で細胞内に送達される。いくつかの実施形態において、標的化部分は、核膜を越えるナノキャリアの送達も促進する。別の例において、標的化部分は、細胞透過性でない。
【0134】
使用することができる例示的な抗体としては、任意のクラスの免疫グロブリン全体(すなわち、インタクトな抗体)、その断片、および少なくとも抗体の抗原結合可変ドメインを含有する合成タンパク質が挙げられる。可変ドメインは、抗体の間で配列が異なり、特定の抗原に対する特定の各抗体の結合および特異性において用いられる。しかしながら、可変性は、通常、抗体の可変ドメインに均等に分布していない。可変性は、通常、軽鎖可変ドメインと重鎖可変ドメインの両方における相補性決定領域(CDR)または超可変領域と呼ばれる3つのセグメントに集中している。可変ドメインのより高度に保存された部分は、フレームワーク(FR)と呼ばれる。天然の重鎖および軽鎖の可変ドメインは各々、大部分がベータシート配置をとる4つのFR領域を含み、それらのFR領域は、3つのCDRによって接続されており、それらのCDRは、そのベータシート構造を接続している、場合によってはそのベータシート構造の一部を形成している、ループを形成している。各鎖におけるCDRは、FR領域によって近接して共に保持され、他の鎖のCDRとともに、抗体の抗原結合部位の形成に寄与する。したがって、抗体は、細胞に浸透し、DNAの結合を維持し、かつ/またはDNA修復を妨害するために必要なCDRの構成成分を含有し得る。
【0135】
生物活性を有する抗体のバリアントおよび断片も開示されている。他の配列に付着しているかどうかにかかわらず、断片の活性が、修飾されていない抗体または抗体断片と比較して有意に変更されない、または損なわれないのであれば、断片は、特定の領域または特定のアミノ酸残基に挿入、欠失、置換、または他の選択された修飾を含む。
【0136】
抗原性タンパク質に特異的な単鎖抗体の作製に技法を適応させることもできる。単鎖抗体を作製するための方法は当業者に周知である。単鎖抗体は、重鎖および軽鎖の可変ドメインを、短いペプチドリンカーを用いて融合し、それにより、単一分子上の抗原結合部位を再構成することによって創出することができる。一方の可変ドメインのC末端が他方の可変ドメインのN末端と15~25アミノ酸ペプチドまたはリンカーで係留された単鎖抗体可変性断片(scFv)が、抗原の結合または結合の特異性を有意に撹乱することなく開発されてきた。リンカーは、重鎖および軽鎖がそれらの適切なコンフォメーション方向で結合することが可能になるように選択される。
【0137】
抗DNA標的化部分を修飾して、それらの治療可能性を改善することができる。例えば、いくつかの実施形態では、性抗DNA標的化部分を、例えば、癌細胞上もしくはその近くまたは腫瘍微小環境内の第2の治療標的に特異的な別の抗体と結合体化する。例えば、抗DNA抗体は、DNAまたはヌクレオソームに結合する単鎖可変断片および第2の治療標的に特異的に結合するモノクローナル抗体の単鎖可変性断片を含有する融合タンパク質であってよい。他の実施形態では、抗DNA抗体は、抗DNAまたは抗ヌクレオソーム抗体由来の第1の重鎖および第1の軽鎖ならびに第2の治療標的に特異的に結合するモノクローナル抗体由来の第2の重鎖および第2の軽鎖を有する二重特異性抗体(bispecific antibody)である。
【0138】
二価の単鎖可変性断片(ジscFv)は、2つのscFvを連結することによって作り出すことができる。これは、2つのVH領域および2つのVL領域を有する単一のペプチド鎖を作製することによって行うことができ、これにより、タンデムなscFvがもたらされる。ScFvは、2つの可変領域が一緒に折りたたまれるには短いリンカーペプチド(約5アミノ酸)を用いて設計することができ、これにより、scFvは二量体を形成することになる。この種類のものは、二特異性抗体(diabody)として公知である。二特異性抗体は、対応するscFvの40分の1に至るまで低い解離定数を有する、つまり、それらの標的に対してさらに高い親和性を有することが示されている。さらに短いリンカー(1アミノ酸または2アミノ酸)により、三量体(三特異性抗体(triabodyまたはtribody))の形成が導かれる。四特異性抗体(tetrabody)も作製されている。これらは、それらの標的に対して二特異性抗体よりもさらに高い親和性を有する。
【0139】
抗体は、ヒト化抗体もしくはキメラ抗体、またはそのフラグメント、バリアントもしくは融合タンパク質であり得る。非ヒト抗体をヒト化するための方法は、当該分野で周知である。一般に、ヒト化抗体は、非ヒトである供給源からそのヒト化抗体に導入された1つまたはそれを超えるアミノ酸残基を有する。これらの非ヒトアミノ酸残基は、「移入」残基と称されることが多く、それらは、代表的には「移入」可変ドメインから選び取られる。抗体のヒト化の技法は、一般に、抗体分子の1つまたはそれを超えるポリペプチド鎖をコードするDNA配列を操作する組換えDNA技術の使用を含む。
【0140】
いくつかの実施形態において、抗体は、半減期を変更するために改変される。いくつかの実施形態において、抗体が、より長期間にわたって循環中または処置部位に存在するように、抗体の半減期を延長することが望ましい。他の実施形態において、抗DNA抗体の半減期は、潜在的な副作用を減少させるために短縮される。抗体フラグメントは、フルサイズの抗体よりも短い半減期を有すると予想される。半減期を変更する他の方法は、公知であり、記載される方法において使用され得る。例えば、抗体は、半減期を延長するFcバリアントを用いて、例えば、XtendTM抗体半減期延長技術(Xencor,Monrovia,CA)を用いて、操作され得る。
【0141】
いくつかの実施形態では、標的化部分またはナノキャリアそれ自体を、細胞内への侵入および核への輸送を容易にするために、細胞浸透性ペプチドなどの細胞浸透性部分と結合体化する。細胞浸透性ペプチドの例としては、これらだけに限定されないが、ポリアルギニン(例えば、R9)、アンテナペディア配列、TAT、HIV-Tat、ペネトラチン、Antp-3A(Antp変異体)、Buforin II、トランスポータン、MAP(モデル両親媒性ペプチド)、K-FGF、Ku70、プリオン、pVEC、Pep-1、SynB1、Pep-7、HN-1、BGSC(ビス-グアニジニウム-スペルミジン-コレステロール、およびBGTC(ビス-グアニジニウム-トレン-コレステロール)が挙げられる。他の実施形態では、TransMabs(商標)技術(InNexus
Biotech.、Inc.、Vancouver、BC)を用いて抗体を修飾することができる。
【0142】
いくつかの実施形態において、抗DNA抗体は、3E10、5C6、またはそれに由来する、バリアント機能的フラグメントもしくは融合タンパク質である。例えば、抗DNA抗体は、配列番号2に示される通りのアミノ酸配列を有するVH、および配列番号3に示される通りのアミノ酸配列を有するVL(3E10)を有し得る。例示的なバリアントとして、配列番号2に示される通りのアミノ酸配列と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含むVH、および配列番号3に示される通りの配列と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含むVLを有する抗体が挙げられる。他の例示的なバリアントとして、配列番号2に示される通りの配列と少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%同一であるアミノ酸配列を含むVH、および配列番号3に示される通りのアミノ酸配列と少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%同一であるアミノ酸配列を含むVLを有する抗体が挙げられる。他の例示的なバリアントとしては、WO2015/106290およびWO2016/033324に記載されているものなどの3E10のヒト化型が挙げられる。
【0143】
別の例では、抗DNA抗体は、配列番号14に示される通りのアミノ酸配列を有するVH、および配列番号18に示される通りのアミノ酸配列を有するVL(5C6)を有し得る。例示的なバリアントとして、配列番号14に示される通りのアミノ酸配列と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を有するVH、および配列番号18に示される通りの配列と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を有するVLを有する抗体が挙げられる。他の例示的なバリアントとして、配列番号14に示される通りのアミノ酸配列と少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%同一であるアミノ酸配列を有するVH、および配列番号18に示される通りの配列と少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%同一であるアミノ酸配列を有するVLを有する抗体が挙げられる。
【0144】
下記の実施例は、各ナノ粒子の表面に平均で5つの3E10EN分子が結合体化されることが、細胞外DNAに対する標的化粒子にとって有効であったことを示す。標的化分子の数は、通常、約1~約10,000または約5~約1,000の範囲内であり得る。
【0145】
1.例示的な抗体
3E10および5C6ハイブリドーマを含むハイブリドーマのパネルが、以前にMRLmpj/lprループスマウスモデルから作製され、DNA結合活性が評価された(Zackら、J.Immunol.154:1987-1994(1995);Guら、J.Immunol.,161:6999-7006(1998))。したがって、いくつかの実施形態において、標的化部分は、3E10もしくは5C6抗体またはそのバリアント、フラグメントおよび融合タンパク質である。各々が、単独でまたは組み合わさって、活性な作用物質を被包しているナノキャリアの表面に付着され得、細胞外DNAの部位(アポトーシスおよびネクローシスの細胞および組織の微小環境を含むがこれらに限定されない)にナノキャリアを標的化し得る。
【0146】
3E10(D31N)ジscFv(「3E10EN」)は、核透過活性を有し、単独でDNA修復を阻害するが、ナノキャリアに不可逆的に結合体化されているとき、細胞核に浸透せず、その生物学的機能を発揮しないことがある。したがって、抗DNA抗体が、ナノキャリアの表面に共有結合的に結合体化されているとき、活性な作用物質は、通常、ナノキャリア内にローディングされるかまたは被包される。しかしながら、いくつかの実施形態において、標的化部分は、標的部位に送達されたとき標的化部分を放出する切断可能なリンカーまたは結合によってナノキャリアの表面に結合体化される。具体的な実施形態において、そのリンカーまたは結合は、ジスルフィド結合である。このアプローチを用いると、標的化部分は、還元性の腫瘍微小環境に遭遇すると、高レベルのグルタチオンに起因して、ナノキャリアから放出され得る(Shaoら、Ther Deliv,3(12):1409-1427(2012))。次いで、放出された抗体またはそれに由来するフラグメントもしくは融合タンパク質は、上で論じられたように細胞に浸透することができる活性な作用物質になる。他の切断可能なリンカーは、腫瘍微小環境中の酵素に対する基質であるペプチド(例えば、PLGLAG(配列番号29)(例えば、Aguileraら、Integr Biol(Camb),1(5-6):371-381(2009)を参照のこと)およびRLQLKL(配列番号30)(例えば、Whitneyら、J.Biol.Chem.,285(29):22532-41(2010))を参照のこと)であり得る。
【0147】
あるいは、またはナノキャリアの表面に結合体化された抗体を有することに加えて、3E10もしくは5C6などの抗体またはそれに由来するバリアントもしくはフラグメントもしくは融合タンパク質またはそれらの任意の組み合わせが、単独でまたは1つもしくはそれを超えるさらなる活性な作用物質と組み合わせて、ナノキャリア内に被包され得る。遊離抗体は、ジスルフィド結合の切断または被包された抗体の放出によってナノキャリアから放出されると、標的の細胞核に浸透することができ、DNA修復を阻害することができることによって、腫瘍をDNA損傷に感作し得るか、またはDNA修復に欠損がある癌細胞を選択的に殺滅し得る。いくつかの実施形態において、被包された抗体の一部または全部が、それに結合体化された活性な作用物質を有することにより、活性な作用物質が細胞またはその核に送達されることが促進される。
【0148】
したがって、いくつかの実施形態において、ローディングされるかまたは被包される活性な作用物質は、3E10もしくは5C6またはそれに由来するフラグメント、バリアント、ヒト化型または融合タンパク質を含まない。他の実施形態において、ローディングされるかまたは被包される活性な作用物質は、遊離抗体、第2の活性な作用物質に結合体化された抗体、またはそれらの組み合わせのいずれかとして、3E10もしくは5C6またはそれに由来するフラグメントもしくは融合タンパク質を含む。それらの実施形態のいずれもが、1つまたはそれを超えるさらなる活性な作用物質を含み得る。
【0149】
a.3E10
1990年代の初めに、マウスループス抗DNA抗体である3E10が、SLEに対する実験的なワクチン療法において試験された。これらの試みは、SLE患者における抗DNA抗体に特異的に結合する抗イディオタイプ抗体を開発することを目的とするものであった。しかし、思いがけなく、3E10は、いかなる観察される細胞毒性も引き起こすことなく生細胞および核に浸透することが見いだされた(Weisbart RHら、J Immunol. 1990年、144巻(7号):2653~2658頁;Zack DJら、J Immunol. 1996年、157巻(5号):2082~2088頁)。その後、SLEのワクチン療法における3E10に関する研究は、3E10を、治療分子を細胞および核内に輸送するための分子送達ビヒクルとして開発することを焦点とした試みに取って代わられた。3E10は、DNA一本鎖テイルに優先的に結合し、DNAの一本鎖および二本鎖切断修復における重要な工程を阻害する(Hansenら、Science Translational Medicine,4:157ra142(2012))。したがって、当業者は、3E10が、配列番号2に示されているようなアミノ酸配列を有するVHおよび配列番号3に示されているようなアミノ酸配列を有するVLを有し得ることを認識するだろう。VHのCDR1にD31N変異を含む3E10抗体およびその単鎖可変性断片(3E10(D31N)scFv)、およびその二価および三価融合物は、細胞および核内に浸透し、化学的な結合体化または組換え融合のいずれかによって抗体に付着させた治療用タンパク質カーゴを輸送することができることが証明されている。3E10または3E10(D31N)scFvによって細胞に送達されるタンパク質カーゴとしては、カタラーゼ、p53、およびHsp70が挙げられる(Weisbart RHら、J Immunol. 2000年、164巻:6020~6026頁;Hansen JEら、Cancer Res. 2007年2月15日;67巻(4号):1769~74頁;Hansen JEら、Brain Res. 2006年5月9日;1088巻(1号):187~96頁)。3E10(D31N)scFvにより、in vivoにおけるHsp70のニューロンへの送達が有効に媒介され、その結果、ラット脳卒中モデルにおいて大脳梗塞の体積が減少し、神経学的な機能が改善された(Zhan Xら、Stroke. 2010年、41巻(3号):538~43頁)。
【0150】
現在、3E10および3E10(D31N)scFvおよびその二価および三価融合物により、いかなる治療用タンパク質とも結合体化することなく、癌細胞の放射線感受性および化学感受性が増強されること、および、この効果はDNA修復が欠損した細胞において強化される。さらに、3E10および3E10 scFvおよびその二価および三価融合物は、放射線または化学療法の不在下であっても、DNA修復が欠損した癌細胞に対して選択的に致死的である。食品医薬品局(Food and Drug Administration)(FDA)により、モノクローナル抗体をヒトの療法に発展させる経路が確立され、3E10は、SLEに対する実験的なワクチン療法における3E10の有効性を試験するために設計された第I相ヒト臨床試験における使用に関してすでにFDAによって認可されている(Spertini Fら、J Rheumatol. 1999年、26巻(12号):2602~8頁)。
【0151】
実験は、3E10(D31N)scFvが、まず、細胞外DNAまたはその分解産物に結合し、次いで、ENT2ヌクレオシドサルベージ経路を介してそれらの後について細胞核内に入ることによって、細胞核に浸透することを示唆している(Weisbart,Scientific Reports,5:Article number:12022(2015)doi:10.1038/srep12022)。3E10は、マウスおよびラットに投与されたとき、細胞外DNAが濃縮されている組織(腫瘍、脳卒中モデルにおける虚血脳の領域、および収縮性傷害を受けた骨格筋を含む)に優先的に引きつけられる(Weisbartら、Sci Rep.,5:12022(2015)、Hansenら、J Biol Chem,282(29):20790-20793(2007)、Weisbartら、Mol Immunol,39(13):783-789(2003)、Zhanら、Stroke:A Journal of Cerebral Circulation,41(3):538-543(2010))。したがって、細胞外DNAの存在は、3E10(D31N)scFvの核への取り込みを増強させる。さらに、3E10(D31N)scFvは、腫瘍の虚血およびネクローシスの領域から放出された局所環境内のDNAが増加していることにおそらく起因して、インビボにおいて腫瘍細胞の核に優先的に局在化する。
【0152】
b.5C6
5C6は、BRCA2(-)細胞においてγH2AXを誘導するが、BRCA2(+)細胞では誘導せず、BRCA2(-)細胞の成長を選択的に抑制する。機構的には、5C6は、BRCA2(-)細胞において老化を誘導するとみられる。老化は、DNA損傷に対する周知の応答であり、多くの化学療法薬をはじめとしたDNA損傷剤が、長期の曝露後に老化を誘導する(Sliwinskaら、Mech.Ageing Dev.,130:24-32(2009);te Poeleら、Cancer Res.62:1876-1883(2002);Achuthanら、J.Biol.Chem.,286:37813-37829(2011))。これらの観察結果は、5C6が、細胞核に浸透し、DNAを損傷すること、およびBRCA2欠損に起因してDNA修復において既存の欠陥がある細胞が、インタクトなDNA修復を有する細胞よりもこの損傷に対して感受性であることを確立する。米国特許出願公開第2015/0376279号を参照のこと。さらに、当業者は、5C6が、配列番号14に示されているようなアミノ酸配列を有するVHおよび配列番号18に示されているようなアミノ酸配列を有するVLを有し得ることを認識するだろう。
【0153】
2.フラグメントおよび融合タンパク質
いくつかの実施形態において、標的化部分および/または活性な作用物質は、抗体3E10もしくは5C6の1つもしくはそれを超える抗原結合抗体フラグメントおよび/または抗原結合融合タンパク質あるいはそれらのバリアントから構成される。抗原結合分子は、通常、3E10または5C6のエピトープに結合し、例えば、完全抗体の機能または活性を維持し得る。
【0154】
例示的なフラグメントおよび融合物としては、一本鎖抗体、一本鎖可変フラグメント(scFv)、ジscFv、トリscFv、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、ジスルフィド連結Fv(sdFv)、Fab’、F(ab’)2、Fvおよび単一ドメイン抗体フラグメント(sdAb)が挙げられるがこれらに限定されない。
【0155】
いくつかの実施形態において、上記標的化部分には、2つまたはそれを超えるscFvが含まれる。例えば、標的化部分は、scFvまたはジ-scFvである。いくつかの実施形態において、各scFvは、3E10または5C6の重鎖可変領域(VL)の1つ、2つ、もしくは3つすべての相補性決定領域(CDR)またはそのバリアントを含み得る。そのscFvは、3E10または5C6の軽鎖可変領域(VL)の1つ、2つ、もしくは3つすべてのCDRまたはそのバリアントを含み得る。上記分子は、3E10または5C6の重鎖可変領域および/もしくは軽鎖可変領域またはそれらのバリアントを含み得る。
【0156】
一本鎖バリアントフラグメントは、短いペプチドリンカーを用いて重鎖および軽鎖の可変ドメインを共に融合することによって、作製され得、それにより、単一分子上に抗原結合部位が再構成される。一方の可変ドメインのC末端が、リンカーを介して他方の可変ドメインのN末端に繋ぎ止められている一本鎖抗体可変フラグメント(scFv)が、抗原結合性または結合の特異性を有意に乱すことなく、開発された。そのリンカーは、重鎖および軽鎖が、適切なコンフォメーション上の配向で互いに結合することを可能にするように選択される。そのリンカーは、通常、可撓性のためにグリシンに富んでおり、代表的には、溶解度のためにセリンまたはトレオニンも含む。そのリンカーは、例えば、VHのN末端をVLのC末端と連結し得るか、またはその逆であり得る。scFvはまた、ハイブリドーマに由来するサブクローニングされた重鎖および軽鎖から直接作製され得る。いくつかの実施形態において、scFvは、定常領域を除去し、リンカーを挿入しているが、元の免疫グロブリンの特異性を保持するか、または改善するか、または高める。
【0157】
抗体3E10または5C6の、3E10または5C6の軽鎖可変領域(VL)またはそのバリアントおよび3E10または5C6の重鎖可変領域(VH)またはそのバリアントを含む2つまたはそれを超える一本鎖可変フラグメント(scFv)を含む例示的な分子としては、二価scFv(ジscFv)、三価scFv(トリscFv)、多価scFv(マルチscFv)、scFvのダイアボディ、トリアボディ、テトラボディなどが挙げられるがこれらに限定されない。
【0158】
二価の一本鎖可変フラグメントは、2つのscFvを連結することによって操作され得る。これは、2つのVH領域および2つのVL領域を有する単一のペプチド鎖を産生して、タンデム型ジscFvと称されるジscFvを得ることによって、行うことができる。ScFvは、それらの2つの可変領域が一緒に折り畳まれるには短すぎてscFvが二量体化せざるを得ないリンカーペプチド(約5アミノ酸)を有するようにも設計され、ダイアボディと称される二価の一本鎖可変フラグメントを形成し得る。ダイアボディは、対応するscFvよりも最大40倍低い解離定数を有すると示されており、これは、それらのダイアボディがそれらの標的に対してかなり高い親和性を有することを示す。さらにより短いリンカー(1または2アミノ酸)は、三量体(トリアボディまたはトリボディ)の形成をもたらす。テトラボディも産生され、それらの標的に対して、ダイアボディよりもさらに高い親和性を示すことが示された。
【0159】
開示される標的化部分には、3E10または5C6の抗原結合抗体フラグメントおよび融合タンパク質ならびに通常親抗体3E10または5C6と同じエピトープに結合するそれらのバリアントが含まれる。いくつかの実施形態において、その抗原結合分子は、二価、三価または多価のscFvである。抗原結合抗体フラグメントまたは抗原結合分子の融合タンパク質はさらなる抗体ドメイン(例えば、定常ドメイン、ヒンジドメインなど)を含み得るが、いくつかの実施形態においては含まない。例えば、3E10は、DNAに結合してDNA修復を阻害し、これが、DNA修復欠損細胞にとって合成致死である。この機能は、いずれの3E10定常領域とも無関係である。対照的に、細胞外レセプターを標的化するセツキシマブなどの非透過性抗体は、腫瘍に対して影響を及ぼすために、ADCCおよび補体のFc媒介性活性化に部分的に依存する。ゆえに、非透過性抗体からFcを排除すると、腫瘍に対するそれらの効果の規模は小さくなり得るが、3E10が癌細胞に対して影響を及ぼすためにFcは必要ない。ゆえに、Fc領域を欠く3E10フラグメントまたは融合物は、ADCCおよび補体を活性化できないはずであり、ゆえに、非特異的副作用のリスクがより低い。
【0160】
a.一本鎖可変フラグメント
本明細書中に開示される一本鎖可変フラグメントは、3E10または5C6の抗原結合フラグメントまたはそのバリアントを含み得る。モノクローナル抗体3E10、ならびに細胞傷害作用なしにインビボにおいて哺乳動物細胞の核に運搬されるその活性なフラグメントおよび例示的なバリアントは、米国特許第4,812,397号および同第7,189,396号ならびに米国出願公開番号2014/0050723において論じられている。開示されるナノキャリアとともに使用するのに適した他の3E10抗体組成物(そのフラグメントおよび融合物を含む)は、例えば、WO2012/135831、WO2016/033321、WO2015/106290およびWO2016/033324において論じられている。5C6は、米国特許出願公開第2015/0376279号に記載されている。
【0161】
scFvは、リンカーによって繋がった軽鎖可変領域(VL)および重鎖可変領域(VH)を含む。一例において、リンカーは、12を超えるアミノ酸残基を含み、(Gly4Ser)3(配列番号10)は、scFvに対するより好ましいリンカーの1つである。一例において、scFvは、ジスルフィド安定化Fv(またはジFvまたはdsFv)であり、ここで、単一のシステイン残基が、VHのFRおよびVLのFRに導入されており、それらのシステイン残基が、ジスルフィド結合によって連結されて、安定なFvをもたらす。一例において、scFvは、二量体scFv(ジscFV)、すなわち、非共有結合または共有結合、例えば、ロイシンジッパードメイン(例えば、FosまたはJunに由来するもの)によって連結された2つのscFv分子を含むタンパク質、または三量体のscFV(トリscFv)である。別の例において、例えば、米国特許出願公開第2006/0263367に記載されているように、2つのscFvは、両方のscFvが形成でき、抗原に結合できるほど十分長い、ペプチドリンカーによって連結される。さらなる詳細は、下記および本明細書中の他の箇所で論じられ、例証される。
【0162】
可変ドメインは、抗体の間で配列が異なり、特定の抗原に対する特定の各抗体の結合および特異性において用いられる。しかしながら、可変性は、通常、抗体の可変ドメインに均等に分布していない。可変性は、通常、軽鎖可変ドメインと重鎖可変ドメインの両方における相補性決定領域(CDR)または超可変領域と呼ばれる3つのセグメントに集中している。可変ドメインのより高度に保存された部分は、フレームワーク(FR)と呼ばれる。天然の重鎖および軽鎖の可変ドメインは各々、大部分がベータシート配置をとる4つのFR領域を含み、それらのFR領域は、3つのCDRによって接続されており、それらのCDRは、そのベータシート構造を接続している、場合によってはそのベータシート構造の一部を形成している、ループを形成している。各鎖におけるCDRは、FR領域によって近接して共に保持され、他の鎖のCDRとともに、抗体の抗原結合部位の形成に寄与する。
【0163】
本明細書中に開示される抗体のフラグメントおよび融合物は、生物活性を有し得る。っ例えば、それらのフラグメントおよび融合物は、他の配列に付着されているかまたは付着されていないかを問わず、特定の領域または特異的なアミノ酸残基の挿入、欠失、置換または他の選択された改変を含むことができる。いくつかの実施形態において、フラグメントまたは融合物の活性は、未改変の抗体または抗体フラグメントと比べて有意に減少しないかまたは損なわれない。
【0164】
b.抗体配列
i.3E10軽鎖可変領域
3E10の軽鎖可変領域についてのアミノ酸配列は、
【化1】
である。相補性決定領域(CDR)には下線をつけて示している。他の3E10軽鎖配列は、当該分野で公知である。例えば、Zackら、J.Immunol.,15;154(4):1987-94(1995);GenBank:L16981.1-マウスIg再配列L鎖遺伝子,部分的cds;GenBank:AAA65681.1-免疫グロブリン軽鎖,部分的[Mus musculus])を参照のこと。
【0165】
相補性決定領域(CDR)は、
【化2】
を含み、下線で示される。
【0166】
ii.3E10重鎖可変領域
3E10の重鎖可変領域についてのアミノ酸配列は、
【化3】
(配列番号1;Zackら、Immunology and Cell Biology,72:513-520(1994);GenBank:L16981.1-マウスIg再配列L鎖遺伝子,部分的cds;およびGenBank:AAA65679.1-免疫グロブリン重鎖,部分的[Mus musculus])である。相補性決定領域(CDR)には下線をつけて示している。
【0167】
3E10の重鎖可変領域の好ましいバリアントについてのアミノ酸配列は、
【化4】
である。相補性決定領域(CDR)には下線をつけて示している。
【0168】
3E10の重鎖可変領域の31位のアミノ酸は、その抗体およびそのフラグメントが核に浸透してDNAに結合する能力に影響すると決定された。例えば、CDR1におけるD31N変異(配列番号1および2における太字の斜体)は、元の抗体よりもかなり高い効率で、核に浸透してDNAに結合する(Zackら、Immunology and Cell Biology,72:513-520(1994),Weisbartら、J.Autoimmun.,11,539-546(1998);Weisbart,Int.J.Oncol.,25,1867-1873(2004))。
【0169】
相補性決定領域(CDR)は、CDR H1.1(元の配列):DYGMH(配列番号22);CDR H1.2(D31N変異を有する):NYGMH(配列番号23);CDR H2:YISSGSSTIYYADTVKG(配列番号24);CDR H3:RGLLLDY(配列番号25)を含み、下線で示される。
【0170】
上に記載された3E10およびそのフラグメントに加えて、さらなる抗DNA抗体が、ナノキャリアをDNAに標的化するため、ならびにナノキャリアを腫瘍または損傷部位もしくは感染部位に送達し、そして細胞に入るために、使用され得る。これらには、下記に明記されるような核透過性抗DNA抗体5C6が含まれる。
【0171】
iii.5C6軽鎖可変領域
mAb 5C6のカッパ軽鎖可変領域(VL)についてのアミノ酸配列は、
【化5】
である。
【0172】
相補性決定領域(CDR)は、CDR L1:RASKSVSTSGYSYMH(配列番号15);CDR L2:LVSNLES(配列番号16);CDR L3:QHIRELDTF(配列番号17)を含み、下線で示される。
【0173】
iv.5C6重鎖可変領域
mAb 5C6の重鎖可変領域(VH)についてのアミノ酸配列は、
【化6】
である。
【0174】
相補性決定領域(CDR)は、CDR H1:SYTMS(配列番号19);CDR H2:TISSGGGSTYYPDSVKG(配列番号20);CDR H3:RAYSKRGAMDY(配列番号21)を含み、下線で示される。
【0175】
c.リンカー
用語「リンカー」は、本明細書中で使用されるとき、ペプチドリンカーを含むがこれに限定されない。ペプチドリンカーは、可変領域によるエピトープの結合を干渉しないという条件であれば、任意のサイズであり得る。いくつかの実施形態において、リンカーは、1つまたはそれを超えるグリシンおよび/またはセリンアミノ酸残基を含む。通常、1つの可変ドメインのC末端が、15~25アミノ酸のペプチドまたはリンカーを介して、他の可変ドメインのN末端に繋がっている、一価の一本鎖抗体可変フラグメント(scFv)。リンカーは、重鎖および軽鎖が適切なコンフォメーション上の配向で共に結合できるように選択される。ダイアボディ、トリアボディなどにおけるリンカーは、通常、上で論じられたような一価scFvのリンカーよりも短いリンカーを含む。二価、三価および他の多価のscFvは、通常、3つまたはそれを超えるリンカーを含む。それらのリンカーは、長さおよび/またはアミノ酸組成が同じであり得るかまたは異なり得る。ゆえに、リンカーの数、リンカーの組成およびリンカーの長さは、当該分野で公知であるように、scFvの所望の結合価に基づいて決定され得る。リンカーは、二価、三価および他の多価のscFvの形成を可能にするかまたは駆動し得る。
【0176】
例えば、リンカーは、4~8アミノ酸を含み得る。特定の実施形態において、リンカーは、アミノ酸配列GQSSRSS(配列番号4)を含む。別の実施形態において、リンカーは、15~20アミノ酸、例えば、18アミノ酸を含む。特定の実施形態において、リンカーは、アミノ酸配列GQSSRSSSGGGSSGGGGS(配列番号5)を含む。他の可撓性リンカーとしては、アミノ酸配列Gly-Ser、Gly-Ser-Gly-Ser(配列番号6)、Ala-Ser、Gly-Gly-Gly-Ser(配列番号7)、(Gly4-Ser)2(配列番号8)および(Gly4-Ser)4(配列番号9)および(Gly-Gly-Gly-Gly-Ser)3(配列番号10)が挙げられるがこれらに限定されない。
【0177】
d.バリアント
上記scFvは、3E10または5C6の可変重鎖および/または軽鎖のアミノ酸配列(例えば、それぞれ配列番号1、2、3、14および/または18)と少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%または少なくとも99%同一であって、3E10または5C6のエピトープに結合する、可変重鎖および/または可変軽鎖のアミノ酸配列を含む抗体フラグメントまたは融合タンパク質から構成され得、DNA修復が欠損した細胞に選択的に致死であるか、またはDNA修復が欠損した細胞の放射線感受性および/もしくは化学的感受性を選択的に高めるか、またはそれらの組み合わせである。上記scFvは、3E10または5C6の可変重鎖および/または軽鎖のCDRのアミノ酸配列(例えば、それぞれ、配列番号22~25および26~28、または19~21および15~17)と少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%または少なくとも99%同一であって、3E10または5C6のエピトープに結合する、CDRを含む抗体フラグメントまたは融合タンパク質から構成され得、DNA修復が欠損した細胞に選択的に致死であるか、またはDNA修復が欠損した細胞の放射線感受性および/もしくは化学的感受性を選択的に高めるか、またはそれらの組み合わせである。2つのアミノ酸配列の同一性パーセントの決定は、BLASTタンパク質比較によって決定され得る。いくつかの実施形態において、scFvは、上に記載された好ましい可変ドメインの1、2、3、4、5個または6個すべてのCDRを含み、3E10または5C6のエピトープに結合し、DNA修復が欠損した細胞に選択的に致死であるか、またはDNA修復が欠損した細胞の放射線感受性および/もしくは化学的感受性を選択的に高めるか、またはそれらの組み合わせである。
【0178】
3E10または5C6に対する軽鎖可変配列の予測される相補性決定領域(CDR)は、上に提供されている。GenBank:AAA65681.1-免疫グロブリン軽鎖,一部[Mus musculus]も参照のこと。3E10および5C6に対する重鎖可変配列の予測される相補性決定領域(CDR)は、上に提供されている。例えば、Zackら、Immunology and Cell Biology,72:513-520(1994)およびGenBankアクセッション番号AAA65679.1を参照のこと。
【0179】
e.例示的なscFv
例示的な3E10scFVとしては、モノscFv3E10(D31N)、ジscFv3E10(D31N)およびトリscFv3E10(D31N)が挙げられる。
scFv 3E10(D31N)についてのアミノ酸配列は、
【化7】
である。
【0180】
配列番号11に関連するscFvタンパク質ドメインの注釈
・AGIH配列は溶解度を高める(配列番号11のアミノ酸1~4)
・Vk可変領域(配列番号11のアミノ酸5~115)
・軽鎖CH1の最初の(6aa)(配列番号11のアミノ酸116~121)
・(GGGGS)3リンカー(配列番号11のアミノ酸122~136)
・VH可変領域(配列番号11のアミノ酸137~252)
・Mycタグ(配列番号11のアミノ酸253~268)
・His6タグ(配列番号11のアミノ酸269~274)
【0181】
3E10ジscFv(D31N)のアミノ酸配列
ジscFv3E10(D31N)は、3E10の2×重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含み、その重鎖の31位のアスパラギン酸がアスパラギンに変異している、ジ一本鎖可変フラグメントである。ジscFv3E10(D31N)についてのアミノ酸配列は、以下である。
【化8】
【0182】
配列番号12に関連するジscFvタンパク質ドメインの注釈
・AGIH配列は溶解度を高める(配列番号12のアミノ酸1~4)
・Vk可変領域(アミノ酸5~115)
・軽鎖CH1の最初の(6aa)(配列番号12のアミノ酸116~121)
・(GGGGS)3リンカー(配列番号12のアミノ酸122~136)
・VH可変領域(配列番号12のアミノ酸137~252)
・ヒトIgG CH1の最初の13アミノ酸からなる、Fvフラグメントの間のリンカー(配列番号12のアミノ酸253~265)
・スイベル配列(配列番号12のアミノ酸266~271)
・Vk可変領域(配列番号12のアミノ酸272~382)
・軽鎖CH1の最初の(6aa)(配列番号12のアミノ酸383~388)
・(GGGGS)3リンカー(配列番号12のアミノ酸389~403)
・VH可変領域(配列番号12のアミノ酸404~519)
・Mycタグ(配列番号12のアミノ酸520~535)
・His6タグ(配列番号12のアミノ酸536~541)
【0183】
トリscFvについてのアミノ酸配列
トリscFv3E10(D31N)は、310Eの3×重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含み、その重鎖の31位のアスパラギン酸がアスパラギンに変異している、トリ一本鎖可変フラグメントである。トリscFv3E10(D31N)についてのアミノ酸配列は、以下である。
【化9-1】
【化9-2】
【0184】
配列番号13に関連するトリscFvタンパク質ドメインの注釈
・AGIH配列は、溶解度を高める(配列番号13のアミノ酸1~4)
・Vk可変領域(配列番号13のアミノ酸5~115)
・軽鎖CH1の最初の(6aa)(配列番号13のアミノ酸116~121)
・(GGGGS)3リンカー(配列番号13のアミノ酸122~136)
・VH可変領域(配列番号13のアミノ酸137~252)
・ヒトIgG CH1の最初の13アミノ酸からなる、Fvフラグメントの間のリンカー(配列番号13のアミノ酸253~265)
・スイベル配列(配列番号13のアミノ酸266~271)
・Vk可変領域(配列番号13のアミノ酸272~382)
・軽鎖CH1の最初の(6aa)(配列番号13のアミノ酸383~388)
・(GGGGS)3リンカー(配列番号13のアミノ酸389~403)
・VH可変領域(配列番号13のアミノ酸404~519)
・ヒトIgG CH1の最初の13アミノ酸からなる、Fvフラグメントの間のリンカー(配列番号13のアミノ酸520~532)
・スイベル配列(配列番号13のアミノ酸533~538)
・Vk可変領域(配列番号13のアミノ酸539~649)
・軽鎖CH1の最初の(6aa)(配列番号13のアミノ酸650~655)
・(GGGGS)3リンカー(配列番号13のアミノ酸656~670)
・VH可変領域(配列番号13のアミノ酸671~786)
・Mycタグ(配列番号13のアミノ酸787~802)
・His6タグ(配列番号13のアミノ酸803~808)
【0185】
WO2016/033321およびNobleら、Cancer Research,
75(11):2285-2291(2015)は、ジscFvおよびトリscFvがそれらの一価の対応物と比べて改善された活性およびさらなる活性を有することを示す。それらの例示的な融合タンパク質の各々の異なるドメインに対応する部分配列もまた、下記に提供される。当業者は、それらの例示的な融合タンパク質またはそのドメインが、上でより詳細に論じられた融合タンパク質を構築するために利用され得ることを認識するだろう。例えば、いくつかの実施形態において、ジscFvは、VH可変ドメイン(例えば、配列番号12のアミノ酸404~519またはその機能的バリアントもしくはフラグメント)に連結されたVk可変領域(例えば、配列番号12のアミノ酸272~382またはその機能的バリアントもしくはフラグメント)を含む第2のscFvに連結された、VH可変ドメイン(例えば、配列番号12のアミノ酸137~252またはその機能的バリアントもしくはフラグメント)に連結されたVk可変領域(例えば、配列番号12のアミノ酸5~115またはその機能的バリアントもしくはフラグメント)を含む第1のscFvを含む。いくつかの実施形態において、トリscFvは、VH可変ドメイン(例えば、配列番号13のアミノ酸671~786またはその機能的バリアントもしくはフラグメント)に連結されたVk可変領域(例えば、配列番号13のアミノ酸539~649またはその機能的バリアントもしくはフラグメント)を含む第3のscFvドメインに連結されたジscFvを含む。
【0186】
上記Vk可変領域は、VH可変ドメインに、例えば、リンカー(例えば、(GGGGS)3(配列番号10)によって、単独でまたは軽鎖CH1の(6aa)(配列番号12のアミノ酸116~121)とともに連結され得る。他の好適なリンカーは、上で論じられたものであり、当該分野で公知である。scFvは、リンカー(例えば、配列番号12のヒトIgG CH1の最初の13アミノ酸(253~265))によって、単独でまたはスイベル(swivel)配列(例えば、配列番号12のアミノ酸266~271)とともに、連結され得る。他の好適なリンカーは、上で論じられたものであり、当該分野で公知である。
【0187】
ゆえに、ジscFvは、配列番号12のアミノ酸5~519を含み得る。トリscFvは、配列番号13のアミノ酸5~786を含み得る。いくつかの実施形態において、融合タンパク質は、さらなるドメインを含む。例えば、いくつかの実施形態において、融合タンパク質は、溶解度を高める配列(例えば、配列番号12のアミノ酸1~4)を含む。ゆえに、いくつかの実施形態において、ジscFvは、配列番号12のアミノ酸1~519を含み得る。トリscFvは、配列番号13のアミノ酸1~786を含み得る。いくつかの実施形態において、その融合タンパク質は、その融合タンパク質の精製、単離、捕捉、識別、分離などを高める1つまたはそれを超えるドメインを含む。例示的なドメインとしては、例えば、Mycタグ(例えば、配列番号12のアミノ酸520~535)および/またはHisタグ(例えば、配列番号12のアミノ酸536~541)が挙げられる。ゆえに、いくつかの実施形態において、ジscFvは、配列番号12のアミノ酸配列を含み得る。トリscFvは、配列番号13のアミノ酸配列を含み得る。他の代用可能なドメインおよびさらなるドメインは、上でより詳細に論じられたものである。
【0188】
C.さらなる部分
1.さらなる標的化部分
ナノキャリアは、目的の標的に特異的に結合する1つまたはそれを超えるさらなる結合部分または標的化部分を含み得る。代表的な標的化部分としては、抗体およびその抗原結合フラグメント、アプタマー、ペプチドおよび小分子が挙げられるが、これらに限定されない。結合部分は、ナノキャリアを形成するポリマーに結合体化され得る。通常、結合部分は、ナノキャリアの外側のシェル上にディスプレイされる。外側のシェルは、ナノキャリアが被験体の免疫系によって認識されるのを防ぐ遮蔽物として働き、それによって、被験体におけるナノキャリアの半減期が延長され得る。ナノ粒子は、疎水性コアを含み得る。リポソーム(liposaomal)ナノ粒子の場合、コアは、親水性でもあり得る。いくつかの実施形態において、疎水性コアは、生分解性ポリマー材料から生成される。内側のコアは、治療用ペイロードを保持し、全身、腹腔内、経口、肺または局所投与後に、その治療用ペイロードを持続性の速度で放出する。ナノキャリアは、必要に応じて、検出可能な標識、例えば、ナノキャリアの可視化を可能にするフルオロフォアまたはNMR造影剤も含む。
【0189】
ナノキャリアの標的化部分は、抗体またはその抗原結合フラグメントであり得る。標的化部分は、標的細胞上の細胞表面レセプターまたは細胞表面抗原に対して親和性を有するべきである。標的化部分は、標的細胞内でナノキャリアの内部移行をもたらし得る。
【0190】
標的化部分は、細胞型、組織型または器官に特異的な標的分子を特異的に認識し得、その標的分子に結合し得る。標的分子は、細胞表面ポリペプチド、脂質または糖脂質であり得る。標的分子は、特定の細胞表面、組織または器官上で選択的に発現されるレセプターであり得る。細胞特異的マーカーは、特定のタイプの細胞に対するものであり得、それらとしては、幹細胞、皮膚細胞、血液細胞、免疫細胞、筋細胞、神経細胞、癌細胞、ウイルス感染細胞、細菌細胞、真菌細胞および器官特異的細胞が挙げられるがこれらに限定されない。細胞マーカーは、内皮細胞、外胚葉細胞または間葉系細胞に特異的であり得る。代表的な細胞特異的マーカーとしては、癌特異的マーカーが挙げられるが、これに限定されない。
【0191】
標的化部分は、ペプチドであり得る。標的化ペプチドは、ポリマーと共有結合的に会合され得、その共有結合性の会合は、リンカーによって媒介され得る。
【0192】
標的化部分は、抗体またはその抗原結合フラグメントであり得る。抗体は、当該分野で公知の任意のタイプの免疫グロブリンであり得る。例えば、抗体は、任意のアイソタイプ、例えば、IgA、IgD、IgE、IgG、IgMなどであり得る。抗体は、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体であり得る。抗体は、天然に存在する抗体、例えば、哺乳動物、例えば、マウス、ウサギ、ヤギ、ウマ、ニワトリ、ハムスター、ヒトなどから単離および/または精製された抗体であり得る。あるいは、抗体は、遺伝的に操作された抗体、例えば、ヒト化抗体もしくはキメラ抗体、またはそのフラグメント、バリアントもしくは融合タンパク質であり得る。抗体は、モノマー型またはポリマー型であり得る。抗体の抗原結合部分は、少なくとも1つの抗原結合部位を有する任意の部分(例えば、Fab、F(ab’)2、dsFv、sFv、ダイアボディおよびトリアボディ)であり得る。ある特定の実施形態において、抗体は、一本鎖抗体である。
【0193】
アプタマーは、実質的に任意のクラスの標的分子を高い親和性および特異性で認識する能力を有するオリゴヌクレオチド配列またはペプチド配列である。アプタマーは、標的(例えば、有機小分子(small organics)、ペプチド、タンパク質、細胞および組織)に結合する。抗体とは異なり、いくつかのアプタマーは、立体選択性を示す。アプタマーは、細胞、組織または器官上に発現される特異的な標的に結合するように設計され得る。
【0194】
2.さらなる部分
ナノキャリアは、ポリマーとある部分との間に末端間の結合を含む1つまたはそれを超えるポリマー結合体を含み得る。その部分は、標的化部分、検出可能な標識または治療薬、予防薬もしくは診断薬であり得る。例えば、ポリマー結合体は、PLGA-PEG-ホスホネートであり得る。さらなる標的化エレメントとは、特定の場所に結合するかまたは他の方法でナノキャリアを特定の場所に局在化させるエレメントのことを指し得る。その場所は、組織、特定の細胞型または細胞内コンパートメントであり得る。ナノキャリアの標的化エレメントは、抗体もしくはその抗原結合フラグメント、アプタマーまたは小分子(500ダルトン未満)であり得る。さらなる標的化エレメントは、標的細胞上の細胞表面レセプターまたは細胞表面抗原に対して親和性を有し得、標的細胞内でナノキャリアの内部移行をもたらし得る。
【0195】
D.活性な作用物質
送達される作用物質には、治療用化合物、栄養化合物、診断用化合物および予防用化合物が含まれる。タンパク質、ペプチド、炭水化物、多糖、核酸分子および有機分子、ならびに診断薬が、送達され得る。組み込まれる例示的な材料は、薬物およびイメージング剤である。治療薬としては、抗生物質、抗ウイルス薬、抗寄生生物薬(蠕虫類、原生動物)、抗癌剤(本明細書中で「化学療法薬」と称され、細胞傷害薬(例えば、ドキソルビシン、シクロスポリン、マイトマイシンC、シスプラチンおよびカルボプラチン)、BCNU、5FU、メトトレキサート、アドリアマイシン、カンプトテシン、エポチロンA~Fおよびタキソールを含む)、抗体およびその生物活性フラグメント(ヒト化抗体、一本鎖抗体およびキメラ抗体を含む)、抗原およびワクチン製剤、ペプチド薬物、抗炎症薬、栄養補助食品(neutraceutical)(例えば、ビタミン)およびオリゴヌクレオチド薬物(DNA、mRNA、アンチセンス、siRNA、miRNA、抗miRNA、piRNAを含むRNA、アプタマー、リボザイム、リボヌクレアーゼPに対する外部ガイド配列、およびtcPNAなどの三重鎖形成剤(triplex forming agent))が挙げられる。いくつかの実施形態において、活性な作用物質は、上で論じられたものなどのオリゴヌクレオチドをコードするベクター、プラスミドまたは他のポリヌクレオチドである。
【0196】
送達される例示的な薬物としては、抗血管新生剤、抗増殖薬および化学療法剤(例えば、ラパマイシン(rampamycin))が挙げられる。
【0197】
診断材料の代表的なクラスとしては、常磁性分子、蛍光化合物、磁性分子および放射性核種が挙げられる。例示的な材料としては、金属酸化物(例えば、酸化鉄)、金属粒子(例えば、金粒子)などが挙げられるが、これらに限定されない。診断適用のために、その表面にバイオマーカーが結合体化され得る。
【0198】
1種またはそれを超える活性な作用物質は、単独でもしくは賦形剤とともに製剤化され得るか、あるいはナノキャリア上、ナノキャリア内に被包され得るか、またはナノキャリアに組み込まれ得る。活性な作用物質には、治療薬、予防薬、栄養補助剤および診断薬が含まれる。任意の好適な作用物質を使用してよい。これらには、標準的な手法を用いて組み込まれ得る、有機化合物、無機化合物、タンパク質、多糖、核酸または他の材料が含まれる。
【0199】
活性な作用物質には、合成および天然のタンパク質(酵素、ペプチドホルモン、レセプター、成長因子、抗体、シグナル伝達分子を含む)ならびに合成および天然の核酸(RNA、DNA、アンチセンスRNA、三重鎖DNA、阻害性RNA(RNAi)およびオリゴヌクレオチドを含む)ならびにそれらの生物学的に活性な部分が含まれる。好適な活性な作用物質は、小型ペプチドおよびポリペプチドの場合は約1,000Daを超えるサイズを有し、より通常には、タンパク質の場合は少なくとも約5,000Daおよびしばしば10,000Daまたはそれを超えるサイズを有する。核酸は、より通常には、塩基対または塩基(まとめて「bp」)に関して列挙される。通常、約10bpを超える長さを有する核酸が、本方法において使用される。より通常には、プロービングまたは治療上の使用のために有用な核酸の長さは、約20bp(プローブ;阻害性RNAなど)から、遺伝子およびベクターの場合、数万bpの範囲内であり得る。活性な作用物質は、親水性分子でもあり得、任意選択で低分子量を有する。
【0200】
あるいは、生分解性ポリマーは、細胞材料(例えば、免疫学的応答を誘導するために下記に記載されるような抗原提示細胞に送達される細胞材料)を被包し得る。
【0201】
予防薬には、腫脹を軽減する化合物、放射線損傷を減少させる化合物および抗炎症薬が含まれ得る。
【0202】
イメージングのために、テクネチウム99(99mTc)などの放射性材料またはFe2O3などの磁性材料が、使用され得る。他の材料の例としては、放射線不透過性である、気体または気体放出化合物が含まれる。脳腫瘍に対する最も一般的なイメージング剤としては、酸化鉄およびガドリニウムが挙げられる。診断薬は、放射性であり得るか、磁性であり得るか、またはX線もしくは超音波によって検出可能であり得る。他の検出可能な標識としては、例えば、放射性同位体、フルオロフォア(例えば、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、フィコエリトリン(PE))、酵素(例えば、アルカリホスファターゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ)、元素粒子(例えば、金粒子)または造影剤が挙げられる。これらは、ポリマー内に被包され得るか、ポリマー内に分散され得るか、またはポリマーに結合体化され得る。
【0203】
例えば、蛍光標識が、ナノキャリアのポリマーに化学的に結合体化されて、蛍光標識されたポリマーをもたらし得る。他の実施形態において、標識は、造影剤である。造影剤とは、医用イメージングにおいて身体内の構造または流体のコントラストを高めるために使用される物質のことを指す。造影剤は、当該分野で公知であり、それらとしては、X線の減弱および磁気共鳴シグナルの増強に基づいて働く作用物質が挙げられるが、これらに限定されない。好適な造影剤としては、ヨウ素およびバリウムが挙げられる。
【0204】
活性な作用物質は、用いられている処置のタイプに基づいて選択され得る。癌、虚血および傷害を処置するための例示的な活性な作用物質は、下記でより詳細に論じられる。
【0205】
下記の実施例は、DOXが、6.0重量%でナノ粒子に被包されたことを示す。活性な作用物質のローディングは、活性な作用物質の化学的性質およびナノキャリアの組成をはじめとした因子に依存するが、しかしながら、概して、約1重量%~約50重量%の活性な作用物質が、ナノキャリアにローディングされる。ローディングは、5%~25%であり得る。
【0206】
III.作製方法
A.結合体
ポリマーの合成方法は、例えば、Braunら(2005)Polymer Synthesis:Theory and Practice.New York,NY:Springerに記載されている。ポリマーは、段階成長重合、連鎖成長重合またはプラズマ重合を介して合成され得る。
【0207】
いくつかの実施形態において、両親媒性ポリマーは、第1の反応性カップリング基を末端に有する疎水性ポリマー、および第1の反応性カップリング基と反応して共有結合を形成できる第2の反応性カップリング基を末端に有する親水性ポリマーから出発して、合成される。第1の反応性カップリング基または第2の反応性カップリング基のどちらか一方は、第1級アミンであり得、他方の反応性カップリング基は、アミン反応性連結基(例えば、イソチオシアネート、イソシアネート、アシルアジド、NHSエステル、塩化スルホニル、アルデヒド、グリオキサール、エポキシド、オキシラン、カーボネート、ハロゲン化アリール、イミドエステル、カルボジイミド、無水物およびフルオロフェニルエステル)であり得る。第1の反応性カップリング基または第2の反応性カップリング基のどちらか一方は、アルデヒドであり得、他方の反応性カップリング基は、アルデヒド反応性連結基(例えば、ヒドラジド、アルコキシアミンおよび第1級アミン)であり得る。第1の反応性カップリング基または第2の反応性カップリング基のどちらか一方は、チオールであり得、他方の反応性カップリング基は、スルフヒドリル反応基(例えば、マレイミド、ハロアセチルおよびピリジルジスルフィド)であり得る。
【0208】
いくつかの実施形態において、アミンまたはアミン反応性連結基を末端に有する疎水性ポリマーは、相補的な(complimentary)反応性連結基を末端に有する親水性ポリマーにカップリングされる。例えば、NHSエステル活性化PLGAは、PLGA-CO(OH)をNHSおよびカップリング試薬(例えば、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)またはエチル(ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC))と反応させることによって形成され得る。NHSエステル活性化PLGAは、第1級アミンを末端に有する親水性ポリマー(例えば、PEG-NH2)と反応して、両親媒性のPLGA-b-PEGブロック共重合体を形成し得る。
【0209】
いくつかの実施形態において、両親媒性ポリマーと標的化部分との結合体は、同じまたは同様のカップリング反応を用いて形成される。いくつかの実施形態において、結合体は、一方の末端に第1の反応性カップリング基を有し、第2の末端に保護基を有する親水性ポリマーから出発して、作製される。その親水性ポリマーは、第1の反応基と相補的な反応基を有する標的化部分と反応して、親水性ポリマーと標的化部分との間に共有結合を形成する。次いで、第2の反応性カップリング基を提供するために、例えば、標的化部分を有する親水性ポリマーの結合体への疎水性ポリマーブロックのカップリングを可能にするために、保護基が除去され得る。次いで、第2の反応性カップリング基に相補的な反応性カップリング基を末端に有する疎水性ポリマーが、共有結合的にカップリングされて、結合体を形成し得る。当然のことながら、それらの工程は、逆の順序でも行われ得、すなわち、まず、疎水性ポリマーと親水性ポリマーとの結合体が形成された後、脱保護および親水性ポリマーブロックへの標的化部分のカップリングが行われ得る。
【0210】
いくつかの実施形態において、両親媒性ポリマーの両端に結合体化された部分を有する結合体が形成される。例えば、疎水性ポリマーブロックおよび親水性ポリマーブロックを有する両親媒性ポリマーは、親水性ポリマーブロックに結合体化された標的化部分および疎水性ポリマーブロックに結合体化されたさらなる部分を有し得る。いくつかの実施形態において、さらなる部分は、検出可能な標識であり得る。いくつかの実施形態において、さらなる部分は、治療薬、予防薬または診断薬である。例えば、さらなる部分は、放射線治療のために使用される部分であり得る。結合体は、一方の末端に第1の反応性カップリング基を有し、もう一方の末端に第1の保護基を有する疎水性ポリマー、および一方の末端に第2の反応性カップリング基を有し、もう一方の末端に第2の保護基を有する親水性ポリマーから出発して、調製され得る。その疎水性ポリマーは、第1の反応性カップリング基に相補的な反応性カップリング基を有するさらなる部分と反応し、それによって、疎水性ポリマーとさらなる部分との結合体が形成され得る。その親水性ポリマーは、第2の反応性カップリング基に相補的な反応性カップリング基を有する標的化部分と反応し、それによって、親水性ポリマーと標的化部分との結合体が形成され得る。第1の保護基および第2の保護基が除去されることにより、疎水性ポリマーブロックを親水性ポリマーブロックに共有結合的に連結するように反応され得る相補的な反応性カップリング基の対がもたらされ得る。
【0211】
B.ナノキャリアの形成
1.エマルジョン法
いくつかの実施形態において、ナノ粒子は、エマルジョン溶媒蒸発法を用いて調製される。例えば、ポリマー材料を、水不混和性有機溶媒に溶解し、薬物溶液または薬物溶液の組み合わせと混合する。いくつかの実施形態において、被包される治療薬、予防薬または診断薬の溶液を、ポリマー溶液と混合する。そのポリマーは、以下:PLA、PGA、PCL、それらの共重合体、ポリアクリレート、上述のPEG化ポリマー、上述のポリマー-薬物結合体、上述のポリマー-ペプチド結合体もしくは上述の蛍光標識されたポリマーのうちの1つまたはそれより多く、またはそれらの組み合わせの様々な形態であり得るが、これらに限定されない。薬物分子は、以下:PPARガンマアクチベーター(例えば、ロシグリタゾン、(RS)-5-[4-(2-[メチル(ピリジン-2-イル)アミノ]エトキシ)ベンジル]チアゾリジン-2,4-ジオン、ピオグリタゾン、(RS)-5-(4-[2-(5-エチルピリジン-2-イル)エトキシ]ベンジル)チアゾリジン-2,4-ジオン、トログリタゾン、(RS)-5-(4-[(6-ヒドロキシ-2,5,7,8-テトラメチルクロマン-2-イル)メトキシ]ベンジル)チアゾリジン-2,4-ジオンなど)、プロスタグランジン(prostagladin)E2アナログ(PGE2、(5Z,11α,13E,15S)-7-[3-ヒドロキシ-2-(3-ヒドロキシオクタ-1-エニル)-5-オキソ-シクロペンチル]ヘプタ-5-エン酸など)、ベータ3アドレノセプターアゴニスト(CL316243、5-[(2R)-2-[[(2R)-2-(3-クロロフェニル)-2-ヒドロキシエチル]アミノ]プロピル]-1,3-ベンゾジオキソール-2,2-ジカルボン酸二ナトリウム水和物など)、線維芽細胞成長因子21(FGF-21)、イリシン、RNA、DNA、化学療法化合物、核磁気共鳴(NMR)造影剤またはそれらの組み合わせのうちの1つまたはそれより多くであり得るが、これらに限定されない。水不混和性有機溶媒は、以下:クロロホルム、ジクロロメタンおよび酢酸アシルのうちの1つまたはそれより多くであり得るが、これらに限定されない。上記薬物は、以下:アセトン、エタノール、メタノール、イソプロピルアルコール、アセトニトリルおよびジメチルスルホキシド(DMSO)のうちの1つまたはそれより多くであり得るがこれらに限定されないものに溶解され得る。
【0212】
いくつかの実施形態において、ポリマー溶液は、上に記載されたような1種またはそれを超えるポリマー結合体を含む。ポリマー溶液は、疎水性ポリマーブロック、親水性ポリマーブロック、および親水性末端に結合体化された標的化部分を有する第1の両親媒性ポリマー結合体を含み得る。いくつかの実施形態において、ポリマー溶液は、1種またはそれを超えるさらなるポリマーまたは両親媒性ポリマー結合体を含む。例えば、ポリマー溶液は、第1の両親媒性ポリマー結合体に加えて、1種またはそれを超える疎水性ポリマー、親水性ポリマー、脂質、両親媒性ポリマー、ポリマー-薬物結合体、または他の標的化部分を含む結合体を含み得る。第1の両親媒性ポリマーとさらなるポリマーまたは両親媒性ポリマー結合体との比を制御することによって、標的化部分の密度が、制御され得る。第1の両親媒性ポリマーは、ポリマー溶液中のポリマーの1重量%~100重量%で存在し得る。例えば、第1の両親媒性ポリマーは、ポリマー溶液中のポリマーの10重量%、20重量%、30重量%、40重量%、50重量%または60重量%で存在し得る。
【0213】
次いで、得られた混合物溶液中に水溶液を加え、乳化によってエマルジョン溶液が得られる。乳化の手法は、プローブ超音波処理またはホモジナイザーによる均質化であり得るが、これらに限定されない。プラークによって標的化されるペプチドまたはフルオロフォアまたは薬物は、本発明の粒子の表面と会合され得、本発明の粒子内に被包され得、本発明の粒子で取り囲まれ得、かつ/または本発明の粒子のポリマーマトリクス全体に分布され得る。
【0214】
2.ナノ沈殿法
別の実施形態において、多様式のナノ粒子が、ナノ沈殿法またはマイクロ流体デバイスを用いて調製される。ポリマー材料を、水混和性有機溶媒中で薬物または薬物の組み合わせと混合する。そのポリマーは、以下:PLA、PGA、PCL、それらの共重合体、ポリアクリレート、上述のPEG化ポリマー、上述のポリマー-薬物結合体、上述のポリマー-ペプチド結合体もしくは上述の蛍光標識されたポリマーのうちの1つまたはそれより多く、またはそれらの組み合わせの様々な形態であり得るが、これらに限定されない。薬物分子は、以下:PPARガンマアクチベーター(例えば、ロシグリタゾン、(RS)-5-[4-(2-[メチル(ピリジン-2-イル)アミノ]エトキシ)ベンジル]チアゾリジン-2,4-ジオン、ピオグリタゾン、(RS)-5-(4-[2-(5-エチルピリジン-2-イル)エトキシ]ベンジル)チアゾリジン-2,4-ジオン、トログリタゾン、(RS)-5-(4-[(6-ヒドロキシ-2,5,7,8-テトラメチルクロマン-2-イル)メトキシ]ベンジル)チアゾリジン-2,4-ジオンなど)、プロスタグランジン(prostagladin)E2アナログ(PGE2、(5Z,11α,13E,15S)-7-[3-ヒドロキシ-2-(3-ヒドロキシオクタ-1-エニル)-5-オキソ-シクロペンチル]ヘプタ-5-エン酸など)、ベータ3アドレノセプターアゴニスト(CL316243、5-[(2R)-2-[[(2R)-2-(3-クロロフェニル)-2-ヒドロキシエチル]アミノ]プロピル]-1,3-ベンゾジオキソール-2,2-ジカルボン酸二ナトリウム水和物など)、RNA、DNA、化学療法化合物、核磁気共鳴(NMR)造影剤またはそれらの組み合わせのうちの1つまたはそれより多くであり得るが、これらに限定されない。水混和性有機溶媒は、以下:アセトン、エタノール、メタノール、イソプロピルアルコール、アセトニトリルおよびジメチルスルホキシド(DMSO)のうちの1つまたはそれより多くであり得るがこれらに限定されないものであり得る。
【0215】
3.マイクロフルイディクス
マイクロフルイディクスを用いてナノ粒子を作製する方法は、当該分野で公知である。好適な方法としては、Karnikらによる米国特許出願公開第2010/0022680A1号に記載されているものが挙げられる。一般に、マイクロ流体デバイスは、混合装置に集まる少なくとも2つのチャネルを備える。それらのチャネルは、通常、ポリマー表面のリソグラフィー、エッチング、エンボスまたは成形によって形成される。流体の供給源が、各チャネルに取り付けられ、その供給源に圧力を印加することにより、チャネルに流体が流れる。その圧力は、シリンジ、ポンプおよび/または重力によって印加され得る。ポリマー、標的化部分、脂質、薬物、ペイロードなどを含む溶液の入口流が、集まり、混合し、得られた混合物が、ポリマー非溶媒溶液と組み合わされることにより、所望のサイズおよび表面上の部分の密度を有するナノ粒子が形成される。入口チャネルにおける圧力および流量ならびに流体の供給源の性質および組成を変化させることによって、再現性のあるサイズおよび構造を有するナノ粒子が作製され得る。
【0216】
4.他の方法
溶媒蒸発。この方法では、ポリマーを塩化メチレンなどの揮発性有機溶媒に溶解する。その溶液に薬物(可溶性であるかまたは微細な粒子として分散されている)を加え、その混合物を、ポリ(ビニルアルコール)などの界面活性剤を含む水溶液に懸濁する。得られたエマルジョンを、有機溶媒のほとんどが蒸発するまで撹拌し、その結果、固体の微小粒子が残る。得られた微小粒子を水で洗浄し、凍結乾燥機において一晩乾燥させる。この方法によって、種々のサイズ(0.5~1,000ミクロン)および形態を有する微小粒子を得ることができる。この方法は、ポリエステルおよびポリスチレンのような比較的安定したポリマーに対して有用である。
【0217】
しかしながら、ポリ無水物などの不安定なポリマーは、水が存在することに起因して、製作プロセス中に分解し得る。これらのポリマーの場合、完全に無水の有機溶媒中で行われる以下の2つの方法が、より有用である。
【0218】
ホットメルトマイクロカプセル化。この方法では、まず、ポリマーを融解し、次いで、固体粒子と混合する。その混合物を非混和性溶媒(シリコンオイル(silicon oil)のような)に懸濁し、撹拌し続けながら、ポリマーの融点より5□C高い温度に加熱する。エマルジョンが安定化されたら、ポリマー粒子が凝固するまで冷却する。得られた微小粒子を、デカンテーションによって石油エーテルで洗浄して、易流動性の粉末を得る。0.5~1000ミクロンのサイズを有する微小粒子が、この方法によって得られる。この手法によって調製された球体の外面は、通常、滑らかかつ高密度である。この手順を用いることにより、ポリエステルおよびポリ無水物でできた微小粒子が調製される。しかしながら、この方法は、1,000~50,000Daの分子量を有するポリマーに限定される。
【0219】
溶媒除去。この手法は、主にポリ無水物に対して設計される。この方法では、塩化メチレンのような揮発性有機溶媒中の選択されたポリマーの溶液に薬物を分散または溶解する。この混合物を有機油(例えば、シリコンオイル)中で撹拌することによって懸濁して、エマルジョンを形成する。溶媒蒸発とは異なり、この方法を用いることにより、高い融点および種々の分子量を有するポリマーから微小粒子を作製することができる。1~300ミクロンの範囲の微小粒子を、この手順によって得ることができる。この手法によって作製された球体の外側の形態は、使用されるポリマーのタイプに高度に依存する。
【0220】
噴霧乾燥。この方法では、ポリマーを有機溶媒に溶解する。既知量の活性な薬物を、そのポリマー溶液に懸濁するか(不溶性薬物)または共溶解する(可溶性薬物)。次いで、その溶液または分散物を噴霧乾燥する。ミニ噴霧乾燥機(Buchi)に対する代表的なプロセスパラメータは、以下のとおりである:ポリマー濃度=0.04g/mL、入口温度=-24℃、出口温度=13~15℃、アスピレータ設定=15、ポンプ設定=10mL/分、噴霧流量=600Nl/時およびノズル直径=0.5mm。使用されるポリマーのタイプに依存する形態を有する1~10ミクロンの範囲の微小粒子が得られる。
【0221】
ヒドロゲル微小粒子。アルギネートなどのゲルタイプのポリマーから作製された微小粒子は、従来のイオンゲル化法によって作製される。まず、そのポリマーを水溶液に溶解し、硫酸バリウムまたは何らかの生物活性作用物質と混合し、次いで、いくつかの場合では窒素ガス流を用いて液滴を分ける、微小滴形成デバイスに通して押し出す。ゆっくり撹拌する(およそ100~170RPM)イオン硬化浴(ionic hardening bath)をその押出デバイスの下に配置して、形成してくる微小滴を捕らえる。ゲル化が生じるのに十分な時間を経過させるために、それらの微小粒子をその浴において20~30分間、放置してインキュベートする。微小粒子の粒径は、様々なサイズの押出機を使用するかまたは窒素ガスもしくはポリマー溶液の流量を変化させることによって制御される。キトサン微小粒子は、ポリマーを酸性溶液に溶解し、それをトリポリホスフェートで架橋することによって調製され得る。カルボキシメチルセルロース(CMC)微小粒子は、ポリマーを酸性溶液に溶解し、鉛イオンによって微小粒子を沈殿させることによって調製され得る。負に荷電したポリマー(例えば、アルギネート、CMC)の場合、種々の分子量の正に荷電したリガンド(例えば、ポリリジン、ポリエチレンイミン)が、イオンによって付着され得る。
【0222】
5.リポソームおよびミセルの形成
リポソームは、通常、水性コアを有する。水性コアは、水または水とアルコールとの混合物を含み得る。好適なアルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール(例えば、イソプロパノール)、ブタノール(例えば、n-ブタノール、イソブテン、sec-ブタノール、tart-ブタノール、ペンタン(例えば、アミルアルコール、イソブチルカルビノール)、ヘキサノール(例えば、1-ヘキサノール、2-ヘキサノール、3-ヘキサノール)、ヘプタノール(例えば、1-ヘプタノール、2-ヘプタノール、3-ヘプタノールおよび4-ヘプタノール)またはオクタノール(例えば、1-オクタノール)またはそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0223】
リポソームには、例えば、単一の脂質二重層によって形成される小型単層ベシクル(SUV)、単一の脂質二重層によって形成される比較的大きな粒子を有するベシクルである大型単層ベシクル(LAN)、および複数の膜層によって形成される多重層ベシクル(MLV)が含まれる。したがって、リポソームは、1つ(単層の)またはいくつかの(多層の)リン脂質二重層を輪郭とする1つまたはいくつかの水性コンパートメントを有し得る(Sapraら、Curr.Drug Deliv.,2,369-81(2005))。多層リポソームは、会合される疎水性治療薬のために、より多くの脂質二重層を有する。したがって、標的細胞に到達するために、潜在的により多い量の治療薬が、リポソーム内で利用可能である。
【0224】
リポソームは、任意の粒径であり得、例えば、平均粒子直径は、約10~約2000nmであり得る。本発明の一実施形態において、平均粒子直径は、約10、20、25、30、40、50、100、200、300、400、500、600、700、800、900、1,000、1,250、1,500、1,750、2,000nm(または約10~約2,000nmの任意の範囲)またはそれより大きい。本発明の一実施形態において、平均粒子直径は、約2,000、1,750、1,500、1,250、1,000、900、800、700、600、500、400、300、200、100、50、40、30、25、20、10nm(または約2,000~10nmの任意の範囲)またはそれ未満である。平均粒子直径は、約20から約1,000nm、約100から約1,500nm、約100から約1,000nm、約100から約700nm、約200から約2,000nm、約1,000から約2,000nm、または約750から約1,500nmであり得る。粒子直径とは、動的光散乱によって計測される粒子の直径のことを指す。
【0225】
リポソーム製剤は、製剤中に、リポソーム集団の1~100%の範囲の大きなリポソームを含み得る。いくつかの実施形態において、大きなリポソームは、製剤中のリポソーム集団のおよそ50%超に相当する。
【0226】
リポソームを製造する方法は、当該分野で公知であり、その方法は、例えば、有機溶媒から脂質を乾燥させること、その脂質を水性媒質に分散させること、得られたリポソームを精製すること、および最終生成物を解析することを含み得る。リポソームを製造するいくつかの方法としては、例えば、押出法、Mozafari法、ポリオール希釈法、気泡法および加熱法が挙げられる。
【0227】
ミセルは、従来の様式で、例えば、逆相蒸発法、エーテル注入法、界面活性物質に基づく手法などによって、調製され得る。親水性セグメントおよび疎水性セグメントを有するブロック共重合体を使用したポリマーミセルの製剤化は、例えば、米国特許出願公開第20160114058号、WO2009/142326A1およびWO2010/013836A1に開示されている。
【0228】
C.粒子の表面に分子を被包または付着する方法
直接またはカップリング分子を介してポリマーに被包または付着される主要な分子の群が2つある:標的化分子、付着分子および治療薬、栄養補助剤、診断薬もしくは予防薬。これらは、標準的な手法を用いてカップリングされ得る。標的化分子または送達される治療用分子は、ポリマーまたは材料(例えば、ポリマーに組み込まれる脂肪酸)に直接カップリングされ得る。
【0229】
官能性とは、粒子の表面上および付着されるリガンド上に存在する機能的な化学基(カルボン酸、アルデヒド、アミン、スルフヒドリルおよびヒドロキシル)を介して、粒子の表面にリガンドを結合体化することを指す。官能性は、2つの方法で粒子に組み込まれ得る。
第1の方法は、粒子の調製中、例えば、機能的な化学基を有する安定剤(stablizer)を組み込むことによる粒子のエマルジョンの調製中における方法である。
【0230】
第2の方法は、ホモまたはヘテロ二官能性架橋剤を用いて粒子とリガンドとを直接架橋することによる、粒子調製後の方法である。この第2の手順は、好適な化学反応およびあるクラスの架橋剤(下記でより詳細に論じられるようなCDI、EDAC、グルタルアルデヒドなど)または調製後に粒子表面の化学修飾を介してリガンドを粒子表面にカップリングする他の任意の架橋剤を使用し得る。この第2のクラスには、両親媒性分子(例えば、脂肪酸、脂質または機能的な安定剤)が、粒子表面に受動的に吸着および接着されることにより、リガンドに繋ぎ止めるための機能的な末端基が導入され得るプロセスが含まれる。
【0231】
活性な作用物質を被包するナノキャリアを作製する他の様々な方法は、当該分野で公知である。例えば、ナノ多孔性構造にローディングする方法が、Wangら(2009)J.Mater.Chem.19,6451において概説されている。一例において、ナノキャリアは、活性な作用物質の水溶液とナノキャリアを接触させた後、インキュベーションの期間を経ることによってローディングされ得る。その活性な溶液は、過剰量の、超粒子上にローディングされる活性な作用物質を含み得、インキュベーションが、室温において行われ得る。その超粒子およびペイロードを含む溶液の撹拌を用いることによって、ペイロードのローディングが増加し得る。
【0232】
IV.薬学的組成物
粒子は、適切な薬学的に許容され得るキャリアを用いて、それを必要とする個体に投与するための薬学的組成物に製剤化され得る。それらの製剤は、経腸的に(例えば、経口)または非経口的に(例えば、注射または注入によって)投与され得る。
【0233】
粒子は、非経口投与のために製剤化され得る。「非経口投与」は、本明細書中で使用されるとき、消化管または非侵襲性の局所的経路もしくは領域性経路を介する以外の任意の方法による投与を意味する。例えば、非経口投与には、患者への静脈内、皮内、動脈内、腹腔内、病巣内、頭蓋内、関節内、前立腺内、胸膜腔内、気管内、硝子体内、腫瘍内、筋肉内、皮下、結膜下、小胞内(intravesicularly)、心膜内、臍下(intraumbilically)、注射および注入による投与が含まれ得る。
【0234】
いくつかの実施形態において、ナノキャリアは、例えば、注射または注入によって、全身投与される。いくつかの実施形態において、ナノキャリアは、注射または注入によって局所投与される。より具体的な実施形態において、ナノキャリアは、中枢神経系、特に脳に、対流強化薬剤送達法(CED)によって投与される。
【0235】
非経口製剤は、当該分野で公知の手法を用いて水性組成物として調製され得る。通常、そのような組成物は、注射可能な製剤、例えば、溶液または懸濁物;注射の前に再構成媒質を加える際に溶液または懸濁物を調製するために使用するのに適した固体の形態;エマルジョン(例えば、油中水型(w/o)エマルジョン、水中油型(o/w)エマルジョンおよびそれらのマイクロエマルジョン)、リポソームまたはエマルソーム(emulsome)として調製され得る。
【0236】
キャリアは、例えば、水、エタノール、1種またはそれを超えるポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコールおよび液体ポリエチレングリコール)、油(例えば、植物油(例えば、落花生油、トウモロコシ油、ゴマ油など))およびそれらの組み合わせを含む溶媒または分散媒であり得る。例えば、レシチンなどのコーティングの使用、分散物の場合、必要とされるナノキャリアのサイズの維持、および/または界面活性物質の使用によって、適切な流動性が維持され得る。多くの場合、等張剤(isotonic agent)、例えば、糖または塩化ナトリウムが含められる。
【0237】
遊離酸もしくは遊離塩基またはその薬理学的に許容され得る塩としての活性な化合物の溶液および分散物は、1つまたはそれを超える薬学的に許容され得る賦形剤(界面活性物質、分散剤、乳化剤、pH改変剤、粘度改変剤およびそれらの組み合わせを含むがこれらに限定されない)と適切に混合される水または別の溶媒もしくは分散媒において調製され得る。
【0238】
好適な界面活性物質は、陰イオン性、陽イオン性、両性または非イオン性界面活性剤であり得る。好適な陰イオン性界面活性物質としては、カルボン酸イオン、スルホン酸イオンおよび硫酸イオンを含む界面活性物質が挙げられるが、これらに限定されない。陰イオン性界面活性物質の例としては、長鎖アルキルおよびアルキルアリールのスルホン酸ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩(例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム);ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム(例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム);ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム(例えば、ビス-(2-エチルチオキシル)-スルホコハク酸ナトリウム);および硫酸アルキル(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム)が挙げられる。陽イオン性界面活性物質としては、四級アンモニウム化合物(例えば、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、臭化セトリモニウム、塩化ステアリルジメチルベンジルアンモニウム、ポリオキシエチレンおよびココナッツアミン)が挙げられるが、これらに限定されない。非イオン性界面活性剤の例としては、モノステアリン酸エチレングリコール、ミリスチン酸プロピレングリコール、モノステアリン酸グリセリル、ステアリン酸グリセリル、ポリグリセリル-4-オレエート、ソルビタンアシレート、スクロースアシレート、ラウリン酸PEG-150、モノラウリン酸PEG-400、モノラウリン酸ポリオキシエチレン、ポリソルベート、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、PEG-1000セチルエーテル、ポリオキシエチレントリデシルエーテル、ポリプロピレングリコールブチルエーテル、Poloxamer(登録商標)401、ステアロイルモノイソプロパノールアミドおよびポリオキシエチレン水素化獣脂アミドが挙げられる。両性界面活性物質の例としては、ナトリウムN-ドデシル-.ベータ.-アラニン、N-ラウリル-β-イミノジプロピオン酸ナトリウム、ミリストアンホアセテート、ラウリルベタインおよびラウリルスルホベタインが挙げられる。
【0239】
製剤は、微生物の成長を防止するために保存剤を含み得る。好適な保存剤としては、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸およびチメロサールが挙げられるが、これらに限定されない。製剤は、活性な作用物質の分解を防止するために酸化防止剤も含み得る。
【0240】
製剤は、通常、非経口投与のために再構成の際に3~8のpHに緩衝されている。好適な緩衝液としては、リン酸緩衝液、酢酸緩衝液およびクエン酸緩衝液が挙げられるが、これらに限定されない。
【0241】
非経口投与用の製剤では、水溶性ポリマーが使用されることが多い。好適な水溶性ポリマーとしては、ポリビニルピロリドン、デキストラン、カルボキシメチルセルロースおよびポリエチレングリコールが挙げられるが、これらに限定されない。
【0242】
滅菌された注射可能な溶液は、1つまたはそれを超える上に列挙された賦形剤を含む適切な溶媒または分散媒に、必要量の活性な化合物を組み込んだ後、必要に応じて濾過滅菌することによって、調製され得る。一般に、滅菌された様々な活性成分を、基本的な分散媒および上に列挙された成分の中から必要とされる他の成分を含む滅菌されたビヒクルに組み込むことによって、分散物が調製される。滅菌された注射可能な溶液を調製するための滅菌された粉末の場合、例示的な調製方法としては、予め濾過滅菌された、活性成分および任意のさらなる所望の成分の溶液からそれらの粉末をもたらす、真空乾燥および凍結乾燥の手法が挙げられる。それらの粉末は、ナノキャリアが本質的に多孔性であり、それによりナノキャリアの溶解が増加し得るような様式で、調製され得る。多孔性のナノキャリアを作製するための方法は、当該分野で周知である。
【0243】
経腸製剤は、薬学的に許容され得るキャリアを用いて調製される。本明細書中で一般的に使用されるとき、「キャリア」には、希釈剤、保存剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、膨張剤(swelling agent)、充填剤、安定剤およびそれらの組み合わせが含まれるが、これらに限定されない。その剤形において使用されるポリマーには、疎水性または親水性ポリマーおよびpH依存性または非依存性ポリマーが含まれる。疎水性ポリマーおよび親水性ポリマーとしては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール、エチルセルロース、微結晶性セルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニルおよびイオン交換樹脂が挙げられるが、これらに限定されない。
【0244】
キャリアは、コーティング組成物のあらゆる構成要素も含み、それらとしては、可塑剤、色素、着色料、安定化剤および流動促進剤(glidant)が挙げられ得る。製剤は、希釈剤、保存剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、膨張剤、充填剤、安定剤およびそれらの組み合わせを含む1つまたはそれを超える薬学的に許容され得る賦形剤を用いて調製され得る。
【0245】
制御放出投与製剤は、“Pharmaceutical dosage form tablets”,Libermanら編(New York,Marcel Dekker,Inc.,1989)、“Remington-The science and practice of pharmacy”,20th ed.,Lippincott Williams & Wilkins,Baltimore,MD,2000および“Pharmaceutical dosage forms and drug delivery systems”,6th Edition,Anselら(Media,PA:Williams and Wilkins,1995)などの標準的な参考文献に記載されているように調製され得る。これらの参考文献は、錠剤およびカプセル剤、ならびに遅延放出剤形の錠剤、カプセル剤および顆粒剤を調製するための賦形剤、材料、機器およびプロセスに関する情報を提供している。これらの参考文献は、錠剤およびカプセル剤、ならびに遅延放出剤形の錠剤、カプセル剤および顆粒剤を調製するためのキャリア、材料、機器およびプロセスに関する情報を提供している。
【0246】
安定剤は、薬物分解反応(例として酸化反応が挙げられる)を阻害するかまたは遅らせるために使用される。好適な安定剤としては、酸化防止剤、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT);アスコルビン酸、その塩およびエステル;ビタミンE、トコフェロールおよびその塩;亜硫酸塩(例えば、メタ重亜硫酸ナトリウム);システインおよびその誘導体;クエン酸;没食子酸プロピル、ならびにブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0247】
V.使用方法
A.処置方法
開示されるナノキャリアは、活性な作用物質をインビボにおいて細胞外DNAの部位に送達するために使用され得る。通常、抗DNAまたは抗ヌクレオソーム標的化部分(例えば、3E10またはそれに由来するフラグメントもしくは融合タンパク質)を有する、活性な作用物質をローディングしている、有効量のナノキャリアが、それを必要とする被験体に投与される。本明細書中で使用されるとき、用語「有効量」または「治療有効量」は、処置されている障害の1つもしくはそれを超える症状を処置、阻害もしくは軽減するのに十分かまたは所望の薬理学的および/もしくは生理学的な効果をもたらすのに十分な投与量を意味する。正確な投与量は、選択された活性な作用物質、ならびに種々の因子、例えば、被験体に依存する変数(例えば、齢、免疫系の健康状態など)、疾患および実施される処置に従って変動し得る。下記でより詳細に論じられるように、いくつかの実施形態において、被験体は、癌、虚血または傷害を有する。組成物は、コントロールと比べたとき、より効率的であり得るか、より毒性でない可能性があるか、またはそれらの組み合わせであり得る。いくつかの実施形態において、コントロールは、遊離した活性な作用物質または非標的化ナノキャリアに被包された活性な作用物質で処置された細胞、組織または被験体である。
【0248】
癌、組織損傷、傷害または虚血の部位を検出する方法も提供される。その方法は、通常、それを必要とする被験体に、有効量の、薬学的に許容され得るキャリア中の標的化ナノキャリアを投与する工程を含む。それらのナノキャリアには、通常、画像診断法または核医学法を用いて検出可能な作用物質、例えば、PET-CT、骨スキャン、MRI、CT、心エコー検査、超音波またはX線によって検出可能な作用物質がローディングされている。
【0249】
B.投与レジメン
腫瘍内の微小環境を健康な組織の微小環境と区別する重要な特徴は、比較的多量の細胞外DNA(exDNA)が存在することであり(Weisbartら、Sci Rep.,5:12022(2015)、Strounら、Clin Chim Acta,313(1-2):139-142(2001)、Sueoka-Araganeら、PloS One,9(12)(2014)、Wenら、Cancer Research,73(14):4256-4266(2013))、その細胞外DNAは、活発に分裂しているアポトーシスまたはネクローシスの腫瘍細胞および好中球細胞外トラップを起源とする(Wenら、Cancer Research,73(14):4256-4266(2013)、Hawesら、Cancer Research,75(20):4260-4264(2015)、Demersら、Proc Natl Acad Sci USA,109(32):13076-13081(2012))。重要なことには、腫瘍領域におけるexDNAの量は、腫瘍の細胞死およびDNAの放出を引き起こすDOXなどの細胞傷害剤での処置中にさらに増加する(Swystunら、J Thromb Haemost,9(11):2313-2321(2011)、Hansenら、Sci
Transl Med,4(157):157ra142(2012))。正常組織と比べて腫瘍環境における高い濃度のexDNAは、DNAに対して高親和性を有する作用物質を使用した新規の腫瘍標的化アプローチを開発する機会を提供する。
【0250】
下記の実施例は、標的部位において細胞死を誘導する活性な作用物質がナノキャリアにローディングされるとき、抗DNA抗体-ナノキャリアの局在化は、時間が経過するにつれて、およびより多くの処置が送達されるにつれて、細胞外DNAの標的化がますます効率的になることを示す。なぜなら、それが生じるにつれて、死細胞または瀕死の細胞が、ますます多くのDNAを放出し、ますます多くの標的化ナノキャリアを細胞外DNAの部位に引きつけるからである。このアプローチは、「自触反応的」と称され得、それが、それ独自の正のフィードバックループをもたらして、標的部位へのナノキャリアのますます良好な局在化を刺激することを意味する。このアプローチは、癌、ならびに細胞死の増加が望まれる他の疾患、障害および状態の処置に特に有効であるが、投与レジメンは、2回またはそれを超える投与を含み、任意の処置方法に使用され得る。
【0251】
一般に、単なる例としてであるが、開示される方法において有用な剤形は、1mg~1,000mg、10mg~750mg、15mg~500mgまたは20mg~250mgまたは25mg~200mgまたは30mg~150mgまたは35mg~125mgまたは40mg~100mgまたは45mg~90mgまたは50mg~80mgの範囲の用量のナノキャリアを含み得る。
【0252】
投与量の範囲は、送達される薬物、送達ビヒクルおよび送達方法に依存する。下記の実施例では、マウスに、1mg/マウスのナノ粒子を投与した。
【0253】
いくつかの実施形態において、組成物は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30または31日ごとに1回、それを必要とする被験体に投与される。いくつかの実施形態において、組成物は、1週間に1回、2回または3回、被験体に投与される。いくつかの実施形態において、組成物は、1ヶ月に1回、2回または3回、被験体に投与される。
【0254】
特定の実施形態において、用量は、毎週、1回またはそれを超える投与で投与される約1mg/kg~約1,500mg/kgである。例えば、具体的な実施形態において、被験体は、約10mg/kg、20,mg/kg、30mg/kg、40mg/kg、50mg/kg、60mg/kg、70mg/kg、80mg/kg、90mg/kgまたは100mg/kgを1週間に1回、2回または3回投与される。いくつかの実施形態において、疾患の1つまたはそれを超える症状を改善するために、単回用量で十分である。いくつかの実施形態において、2回目の用量後の改善は、1回目の用量より大きい。
【0255】
C.処置される疾患
1.癌
a.処置される癌
開示される組成物および方法は、それを必要とする被験体における癌を処置するために使用され得る。成熟した動物では、通常、ほとんどの器官および組織において、細胞再生と細胞死とのバランスが保たれている。身体内の様々なタイプの成熟細胞が、所与の寿命を有し;これらの細胞が死ぬと、様々なタイプの幹細胞の増殖および分化によって新しい細胞が産生される。正常な状況下では、新しい細胞の産生は、任意の特定のタイプの細胞の数が一定のままであるように制御されている。それにもかかわらず、しばしば、正常な成長調節機構にもはや応答しない細胞が生じる。これらの細胞は、かなりのサイズに拡大して腫瘍または新生物をもたらし得る細胞のクローンを生じさせる。無限に成長できず、健康な周辺組織を広範に浸潤しない腫瘍は、良性である。成長し続けて徐々に浸潤性になる腫瘍は、悪性である。癌という用語は、具体的には、悪性腫瘍のことを指す。悪性腫瘍は、無制御の成長に加えて、転移を示す。このプロセスでは、小クラスターの癌性細胞が、腫瘍から出て、血管またはリンパ管に侵入し、他の組織に運ばれて、そこで増殖し続ける。このように、1つの部位における原発腫瘍は、別の部位に二次性腫瘍を生じさせ得る。
【0256】
本明細書中に記載される組成物および方法は、被験体における腫瘍の成長を遅延させるかもしくは阻害すること、その腫瘍の成長もしくはサイズを減少させること、その腫瘍の転移を阻害するかもしくは減少させること、および/または腫瘍の発生もしくは成長に関連する症状を阻害するかもしくは減少させることによって、良性腫瘍または悪性腫瘍を有する被験体を処置するために有用である。下記の実施例は、本明細書中に開示される粒子および方法が、インビボの癌の処置に有用であることを示唆する。
【0257】
処置され得る悪性腫瘍は、本明細書では、その腫瘍が由来する組織の胚起源に従って分類される。癌腫は、内胚葉または外胚葉の組織、例えば、皮膚、または内部器官および腺の上皮内層から生じる腫瘍である。開示される組成物は、癌腫の処置において特に有効である。肉腫は、それほど頻繁に生じず、中胚葉の結合組織、例えば、骨、脂肪および軟骨に由来する。白血病およびリンパ腫は、骨髄の造血細胞の悪性腫瘍である。白血病は、単一の細胞として増殖するのに対して、リンパ腫は、腫瘤として成長する傾向がある。悪性腫瘍は、身体の数多くの器官または組織に現れて、癌を確立し得る。
【0258】
提供される組成物および方法で処置され得る癌のタイプとしては、多発性骨髄腫などの血管の癌(vascular cancer);骨、膀胱、脳、乳房、子宮頸部(cervical)、結腸直腸、食道、腎臓、肝臓、肺、鼻咽頭(nasopharangeal)、膵臓、前立腺、皮膚、胃および子宮の腺癌および肉腫などの癌が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、開示される組成物は、複数の癌のタイプを同時に処置するために使用される。組成物は、複数の位置における転移または腫瘍を処置するためにも使用され得る。
【0259】
開示される組成物は、無制御の成長、浸潤または転移を起こしている細胞を処置するために使用され得る。
【0260】
腫瘍細胞の低酸素は、癌細胞を放射線およびいくつかの化学療法剤による処置に対して抵抗性にしてしまうので、現在、癌治療における問題として認識されている。低酸素は、癌細胞において損なわれたDNA修復を引き起こすとも知られている。したがって、いくつかの実施形態において、開示される組成物は、低酸素性腫瘍細胞に対する標的化された作用物質として使用される。
【0261】
上で論じられたように、いくつかの実施形態において、3E10抗体またはそれに由来するフラグメントもしくは融合タンパク質は、標的化部分として働くことに加えて、活性な作用物質でもある。WO2012/135831およびWO2016/033321において論じられているように、3E10抗体およびフラグメントおよび融合タンパク質の活性な作用物質は、DNA修復が損なわれている細胞の処置に特に有用であり、単独でまたはDNA損傷剤および放射線治療と組み合わせて使用され得る。
【0262】
いくつかの実施形態において、上記組成物は、損なわれたDNA修復を有する細胞にとって致死である。それらの細胞は、DNA修復、DNA合成または相同組換えに関わる遺伝子の発現またはタンパク質の機能が不完全であり得る。例示的な遺伝子および関連産物としては、XRCC1、ADPRT(PARP-1)、ADPRTL2(PARP-2)、ポリメラーゼベータ、CTPS、MLH1、MSH2、FANCD2、PMS2、p53、p21、PTEN、RPA、RPA1、RPA2、RPA3、XPD、ERCC1、XPF、MMS19、RAD51、RAD51B、RAD51C、RAD51D、DMC1、XRCCR、XRCC3、BRCA1、BRCA2,PALB2、RAD52、RAD54、RAD50、MRE11、NB51、WRN、BLM、KU70、KU80、ATM、ATR CHK1、CHK2、FANCファミリーの遺伝子、FANCA、FANCB、FANCC、FANCD1、FANCD2、FANCE、FANCF、FANCG、FANCL、FANCM、RAD1およびRAD9が挙げられる。
【0263】
いくつかの実施形態において、上記不完全な遺伝子は、癌抑制遺伝子である。いくつかの実施形態において、その遺伝子は、染色体の完全性の維持および/または遺伝子毒性ストレスからの保護に関連する。いくつかの実施形態において、それらの細胞は、一本鎖および/または二本鎖切断の修復が欠損している。
【0264】
いくつかの実施形態において、上記細胞は、BRCA1、BRCA2および/またはPTENに1つまたはそれを超える変異を有する。BRCA1、BRCA2、PTEN変異などの遺伝子変異は、標準的なPCR、ハイブリダイゼーションまたは配列決定技術を用いて特定され得る。
【0265】
特定の実施形態において、癌細胞は、低酸素に起因してDNA損傷の修復が不完全である。
【0266】
ゆえに、いくつかの実施形態において、上記組成物は、DNA修復欠損の家族性の症候群から生じた癌、例えば、乳癌、卵巣癌および膵癌を処置するために使用され得る。これらの実施形態では、抗DNA抗体が、放射線療法または化学療法なしで有効であり得る。例えば、上記組成物は、BRCA1、BRCA2、PALB2またはRAD51B、RAD51C、RAD51Dまたは関連遺伝子における変異に関係する癌を処置するために使用され得る。上記組成物は、DNAミスマッチ修復に関連する遺伝子(例えば、MSH2、MLH1、PMS2および関連遺伝子)における変異に関係する結腸癌、子宮内膜腫瘍または脳腫瘍を処置するためにも使用され得る。上記抗原結合分子は、DNA修復遺伝子(例えば、BRCA1、MLH1またはRAD51B、RAD51CもしくはRAD51D)が発現停止した癌を処置するためにも使用され得る。上記抗原結合分子は、染色体の維持または遺伝子毒性ストレスに関連する癌、例えば、PTENが変異しているかまたは発現停止している癌を処置するためにも使用され得る。PTENは、乳癌、前立腺癌、神経膠腫、メラノーマおよび肺癌をはじめとした多くの癌において不活性化されていることが多い。これらの実施形態では、上記抗原結合分子が、これらの癌の固有の修復欠損または他の感受性と組み合わせてDNA修復を阻害する能力は、細胞死を誘導するのに十分であり得る。
【0267】
開示される組成物を使用して処置され得る癌の代表的であって非限定的なリストとしては、血液およびリンパ系の癌(白血病、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、孤立性形質細胞腫、多発性骨髄腫を含む)、泌尿生殖器系の癌(前立腺癌、膀胱癌、腎癌、尿道癌、陰茎癌、精巣癌を含む)、神経系の癌(髄膜腫(mengioma)、神経膠腫、神経膠芽腫、上衣腫を含む)、頭頸部の癌(口腔、鼻腔、鼻咽頭腔、中咽頭腔、喉頭および副鼻腔の扁平上皮癌腫を含む)、肺癌(小細胞肺癌および非小細胞肺癌を含む)、婦人科の癌(子宮頸癌、子宮体癌、膣癌、外陰癌、卵巣およびファロピウス管癌を含む)、消化器癌(胃癌、小腸癌、直腸結腸癌、肝臓癌、肝胆道癌および膵癌を含む)、皮膚癌(メラノーマ、扁平上皮癌腫および基底細胞癌を含む)、乳癌(腺管癌および小葉癌ならびにトリプルネガティブ乳癌を含む)および小児癌(神経芽細胞腫、ユーイング肉腫、ウィルムス腫瘍、髄芽腫を含む)が挙げられる。
【0268】
いくつかの実施形態において、上記癌は、放射線療法または化学療法に対していくらか抵抗性を示す新生物または腫瘍である。特定の実施形態において、上記癌細胞は、低酸素に起因して、放射線または化学療法に抵抗性である。
【0269】
標準的な方法を用いた放射線療法に抵抗性である癌としては、肉腫、腎細胞癌、メラノーマ、リンパ腫、白血病、癌腫、芽腫および胚細胞性腫瘍が挙げられるがこれらに限定されない。
【0270】
b.癌処置のための例示的な活性な作用物質
3E10抗体またはそれに由来するフラグメントもしくは融合タンパク質に加えてまたはそれに代わって、ナノキャリアには、癌を処置または診断するための、タンパク質、ペプチド、炭水化物、多糖、核酸分子、有機分子、診断用の活性な作用物質またはそれらの組み合わせがローディングされ得る。
【0271】
いくつかの実施形態において、活性な作用物質は、治療用薬物である。化学療法薬の大部分は、アルキル化剤、代謝拮抗物質、アントラサイクリン、植物アルカロイド、トポイソメラーゼ阻害剤、モノクローナル抗体および他の抗腫瘍剤に分けることができる。
【0272】
DNAを損傷するかまたはDNA修復を阻害する抗新生物薬の非限定的な例としては、カルボプラチン、カルムスチン、クロラムブシル、シスプラチン、シクロホスファミド、ダカルバジン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、エピルビシン、イダルビシン、イホスファミド、ロムスチン、メクロレタミン、ミトキサントロン、オキサリプラチン、プロカルバジン、テモゾロマイドおよびバルルビシンが挙げられる。いくつかの実施形態において、抗新生物薬は、テモゾロマイドであり、これは、神経膠芽腫に対して通常使用される、DNAを損傷するアルキル化剤である。いくつかの実施形態において、抗新生物薬は、PARP阻害剤であり、これは、DNA損傷の塩基除去修復の工程を阻害する。例えば、PARP阻害剤は、Olaparib(C24H23FN4O3)であり得る。
【0273】
いくつかの実施形態において、抗新生物薬は、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤であり、これは、転写レベルでDNA修復を抑制し、クロマチン構造を破壊する。いくつかの実施形態において、抗新生物薬は、プロテアソーム阻害剤であり、これは、細胞におけるユビキチン代謝の破壊によってDNA修復を抑制する。ユビキチンは、DNA修復を制御するシグナル伝達分子である。いくつかの実施形態において、抗新生物薬は、キナーゼ阻害剤であり、これは、DNA損傷応答シグナル伝達経路を変化させることによってDNA修復を抑制する。
【0274】
さらなる抗新生物薬としては、これらだけに限定されないが、アルキル化剤(例えば、テモゾロミド、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、メクロレタミン、シクロホスファミド、クロラムブシル、ダカルバジン、ロムスチン、カルムスチン、プロカルバジン、クロラムブシルおよびイホスファミドなど)、代謝拮抗薬(例えば、フルオロウラシル、ゲムシタビン、メトトレキセート、シトシンアラビノシド、フルダラビン、およびフロクスウリジンなど)、一部の抗有糸分裂薬、およびビンカアルカロイド(例えば、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビノレルビン、およびビンデシンなど)、アントラサイクリン系薬剤(ドキソルビシン、ダウノルビシン、バルルビシン、イダルビシン、およびエピルビシン、ならびにアクチノマイシンDなどのアクチノマイシンを含む)、細胞毒性抗生物質(マイトマイシン、プリカマイシン、およびブレオマイシンを含む)、ならびにトポイソメラーゼ阻害剤(イリノテカンおよびトポテカンなどのカンプトテシンならびにアムサクリン、エトポシド、リン酸エトポシド、およびテニポシドなどのエピポドフィロトキシンの誘導体を含む)ならびにパクリタキセルなどの細胞骨格標的化薬が挙げられる。
【0275】
いくつかの実施形態において、活性な作用物質は、放射線増感剤である。公知の放射線増感剤の例としては、シスプラチン、ゲムシタビン、5-フルオロウラシル、ペントキシフィリン、ビノレルビン、PARP阻害剤、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤およびプロテアソーム阻害剤が挙げられる。
【0276】
いくつかの実施形態において、活性な作用物質は、パクリタキセル、カンプトテシンおよびまたは誘導体である。
【0277】
いくつかの実施形態において、活性な作用物質の用量は、開示されるナノキャリアにおいて投与されるとき、遊離薬物と比べて、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、60%、70、80%またはそれを超えて減少させることができる。
【0278】
c.併用療法
開示される組成物は、標準的な化学療法、放射線治療および他の抗癌処置と組み合わせて使用され得る。放射線治療(放射線療法としても知られる)は、悪性細胞を管理するための癌処置の一部として、電離放射線を医学的に使用することである。放射線治療は、非悪性の状態においてもいくつかの適用(例えば、三叉神経痛、重度の甲状腺眼疾患、翼状片、色素性絨毛結節性滑膜炎の処置、ケロイド瘢痕の成長の予防、および異所性骨化の予防)を有する。いくつかの実施形態において、開示される抗原結合分子は、非悪性の状態に対して放射線感受性を高めるために使用される。
【0279】
放射線療法は、分裂細胞、例えば、癌細胞のDNAを損傷することによって働く。このDNA損傷は、2つのタイプのエネルギー、光子または荷電粒子のうちの1つによって引き起こされる。この損傷は、直接的または間接的である。間接的な電離は、水の電離の結果として起き、フリーラジカル、特にヒドロキシルラジカルを形成し、次いでそれがDNAを損傷する。例えば、光子治療(photon therapy)によって引き起こされる照射効果のほとんどが、フリーラジカルを通じたものである。光子放射線療法の主な限界の1つは、固形腫瘍の細胞が酸素欠乏になって、低酸素環境における腫瘍細胞が、通常の酸素環境における細胞よりも放射線損傷に対して2~3倍抵抗性になり得ることである。
【0280】
癌細胞のDNAに対する直接的な損傷は、高LET(線エネルギー付与)の荷電粒子(例えば、プロトン、ホウ素、炭素またはネオンイオン)を通じて生じる。これらの粒子は、通常二本鎖DNA切断を引き起こす直接的なエネルギー移動を主に介して作用するので、この損傷は、腫瘍の酸素供給とは無関係である。比較的大きな質量に起因して、プロトンおよび他の荷電粒子は、組織においてほとんど側方散乱を有さず;そのビームは、ほとんど広がらずに、その腫瘍の形状に集中したまま留まり、周辺組織にわずかな線量の副作用しか送達しない。光子放射線療法において使用される放射線の量は、グレイ(Gy)を単位として測定され、処置される癌のタイプおよびステージに応じて変動する。治癒症例の場合、固形上皮性腫瘍に対する典型的な線量は、60~70Gyの範囲である一方で、リンパ腫は、それより低い線量で処置される。術後(アジュバント)線量は、通常、1.8~2Gyずつのおよそ45~60Gyである(乳癌、頭部癌および頸部癌の場合)。放射線腫瘍学者は、線量を選択する際、他の多くの因子を考慮し、その因子としては、患者が化学療法を受けているか否か、患者の共存症、手術の前または後に放射線治療が施されるか、および手術の成功の程度が挙げられる。
【0281】
放射線に対する癌の応答は、その癌の放射線感受性によって説明される。高度に放射線感受性の癌細胞は、適度の線量の放射線によって迅速に殺滅される。これらには、白血病、ほとんどのリンパ腫および胚細胞性腫瘍が含まれる。上皮癌の大部分は、中程度にしか放射線感受性でなく、根治を達成するためには、著しく高い線量の放射線(60~70Gy)を必要とする。いくつかのタイプの癌は、特に放射線抵抗性であり、つまり、根治するためには、臨床実施において安全であり得る線量よりもはるかに高い線量を必要とする。一般に、腎細胞癌およびメラノーマが、放射線抵抗性であると考えられている。
【0282】
放射線療法に対する腫瘍の応答は、そのサイズにも関係する。複合的な理由で、非常に大きな腫瘍は、より小さい腫瘍または顕微鏡的疾患よりも放射線にあまり反応しない。この作用を克服するために、様々なストラテジーが用いられている。最も一般的な手法は、放射線療法の前に外科的切除を行うことである。これは、広範な局所切除または乳房切除に続くアジュバント放射線療法による乳癌の処置において最も一般的に見られる。別の方法は、ラジカル放射線療法の前のネオアジュバント化学療法によって腫瘍を収縮させることである。第3の手法は、放射線療法の過程においてある特定の薬物を投与することによってその癌の放射線感受性を高めることである。いくつかの実施形態において、開示される組成物は、手法2、3またはそれらの組み合わせを達成し得る。
【0283】
2.虚血
いくつかの実施形態において、組成物は、治療薬を虚血部位に標的化するために使用される。虚血は、未処置の場合、組織死に至り得る、組織、器官または四肢への動脈血の供給の中断を伴う血管の状態である。したがって、虚血は、細胞外DNAの蓄積をもたらすネクローシスを誘導し得る。虚血は、塞栓症、アテローム性動脈硬化症の動脈の血栓症または外傷によって引き起こされ得る。静脈流出閉塞および低流動状態のような静脈の問題は、急性動脈虚血を引き起こし得る。動脈瘤が、急性動脈虚血の最も頻度の高い原因の1つである。他の原因は、心筋梗塞、僧帽弁疾患、慢性心房細動、心筋症およびプロテーゼを含む心臓の状態であり、これらのすべてにおいて、血栓が発生しやすい。虚血の一般的なタイプとしては、例えば、虚血性大腸炎を含み得る大腸および小腸の虚血、一過性脳虚血発作または脳卒中を含み得る急性および慢性脳虚血、急性肢虚血を含む肢虚血、ならびに皮膚虚血が挙げられる。
【0284】
虚血を処置するためのいくつかの実施形態において、開示されるナノキャリアには、血流を増加させるか、凝固を減少させるか(例えば、ヘパリンなどの抗凝固薬を用いて)、動脈拡張を誘導するか、または血栓溶解を誘導するかもしくは増加させる(例えば、組換え組織プラスミノゲンアクチベーター(rtPA)、ストレプトキナーゼ、ウロキナーゼなどを用いて)活性な作用物質、あるいは虚血領域における細胞を保護するおよび/またはその生存を促進する作用物質(例えば、熱ショックタンパク質を含む細胞保護タンパク質)がローディングされる。いくつかの実施形態において、活性な作用物質の用量は、開示されるナノキャリアにおいて投与されるとき、遊離薬物と比べて、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、60%、70、80%またはそれを超えて減少させることができる。
【0285】
いくつかの実施形態において、組成物は、ニューロンなどの脳細胞の生存を増大するものである。
【0286】
いくつかの実施形態において、ナノキャリアは、微小気泡である。例えば、微小気泡は、低酸素の組織に酸素を運ぶ(vehiculating)ための治療デバイスであり得る。それらは、適切な透過特性および拡散特性を示し得、無毒性であり得る。例えば、「インビトロ」調製物と「インビボ」調製物の両方において酸素を効率的に送達し、都合よく代謝されて、細胞の低酸素の反応を逆転させ得る、キトサンでコーティングされた平均直径2.5μmの酸素微小気泡を記載している、Bisazzaら、Engineering in Medicine and Biology Society,2008.EMBS 2008.30th Annual International Conference of the IEEE(20-25 Aug.2008),10.1109/IEMBS.2008.4649599を参照のこと。米国特許第9,107,950号およびWO2009/043031も参照のこと。酸素をローディングしている微小気泡を含む微小気泡は、開示される標的化抗体を用いて、目的の組織(例えば、低酸素の組織)に標的化され得る。標的化部分を含むように微小気泡を改変するための組成物および方法は、当該分野で公知であり、例えば、Yehら、“A Targeting Microbubble for Ultrasound Molecular Imaging,” PLoS ONE,10(7):e0129681.doi:10.1371/journal.pone.0129681(2015)を参照のこと。
【0287】
3.傷害
開示される組成物は、傷害を処置するために使用され得る。傷害は、一般に、例えば、事故、転倒、衝突、武器などによって引き起こされ得る、身体に対する損傷として定義され得る。傷害には、創傷、脳傷害、神経傷害および軟部組織傷害が含まれる。傷害は、身体の任意の部分、例えば、頭部、頸部、咽頭、背中、眼、鼻、咽頭、胸部、足、足指、手、手指、膝、肘などに対するものであり得る。傷害は、身体の任意の器官または組織、例えば、腎臓、肝臓、脊髄、筋肉、骨などであり得る。器官に対する傷害の例は、心虚血傷害である。
【0288】
いくつかの実施形態において、組成物は、急性、慢性または感染創傷を処置するための活性な作用物質を送達するために使用される。創傷治癒は、表皮細胞と真皮細胞との間の複雑な相互作用、細胞外マトリクス、制御された血管新生および血漿由来タンパク質を必要とし、これらはすべて、数々のサイトカインおよび成長因子によって協調される。この動的なプロセスは、従来、いくつかの重複する段階:炎症、増殖、遊走およびリモデリングに分けられている。
【0289】
処置され得る代表的な慢性の非治癒性創傷としては、糖尿病性潰瘍、動脈性潰瘍、静脈性潰瘍、床擦れ(褥瘡性潰瘍)およびやけどが挙げられるが、これらに限定されない。急性創傷には、傷害または手術に付随するものが含まれる。細菌のバイオフィルムは、感染した皮膚創傷の治癒または処置において、皮膚の創傷治癒を損ない得、局所的な抗菌効率を低下させ得る。バイオフィルム細菌は、免疫防御系に対してそれほど感受性でなく、その結果として、バイオフィルム関連感染症は、長期間持続し得る(すなわち、急性感染症から慢性感染症に進行し得る)。
【0290】
いくつかの実施形態において、被験体は、炎症性疾患を有する。例えば、炎症性疾患は、有害な刺激(例えば、病原体、損傷した細胞または刺激原)の結果であり得る。炎症性疾患は、過敏症または自己免疫の結果でもあり得る。
【0291】
免疫系は、炎症性障害に関わることが多く、このことは、アレルギー反応といくつかのミオパシーの両方において証明されており、多くの免疫系障害が、異常な炎症をもたらす。炎症性プロセスに病因起源を有する非免疫疾患としては、癌、アテローム性動脈硬化症および虚血性心疾患が挙げられる。炎症に関連する障害の例としては、尋常性ざ瘡、喘息、アテローム性動脈硬化症、自己免疫疾患、慢性前立腺炎、糸球体腎炎、過敏症、炎症性腸疾患、骨盤腹膜炎、再灌流傷害、関節リウマチ、サルコイドーシス、移植片拒絶、血管炎および間質性膀胱炎が挙げられる。
【0292】
傷害を処置するために使用される活性な作用物質は、その傷害に基づいて選択され得るが、それらとしては、鎮痛薬、麻酔薬、抗炎症薬、抗感染薬、サイトカイン、ケモカイン、免疫調節物質、治癒を促進する他の作用物質、ならびに傷害領域における細胞を保護するおよび/またはその生存を促進する作用物質(例えば、熱ショックタンパク質を含む細胞保護タンパク質)が挙げられ得る。いくつかの実施形態において、活性な作用物質の用量は、開示されるナノキャリアにおいて投与されるとき、遊離薬物と比べて、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、60%、70、80%またはそれを超えて減少させることができる。
【0293】
4.感染症
a.処置される感染症
細胞外DNAは、感染の領域にも見られ得る。したがって、開示される組成物および方法は、感染症の処置を必要とする被験体において感染症を処置するために使用され得る。成熟した動物では、免疫系が、通常、感染を防ぐかまたは排除するが、いくつかの場合では、侵入する生物(例えば、細菌、ウイルス、真菌、寄生生物)が、生物内でそれら自身を確立し、有意な症状を引き起こし得、生命を脅かし得る感染症を引き起こし得る。感染部位は、細胞溶解、好中球溶解および好中球細胞外トラップ(NET)からの放出に起因する、細胞外DNA量の増加に関連し(Okshevskyら、Curr Opin Biotech,2015,33:73-80)(Whitchurchら、Science,2002,295:1487)(Allesen-Holmら、Mol Biol 2006,59:1114-1128)、ゆえに、本明細書中に開示される組成物および方法を用いて標的化され得る。
【0294】
本明細書中に記載される組成物および方法は、被験体における感染症の進行を遅延させるかもしくは阻害することによって感染症を有する被験体を処置するため、その感染症を減少させるおよび/もしくは根治させるため、ならびに/またはその感染症に関連する症状を阻害するかもしくは減少させるため、ならびに/またはその感染症を根治するために必要な他の抗感染症剤の投与量を減少させるために有用である。
【0295】
提供される組成物および方法で処置され得る感染症のタイプとしては、細菌、ウイルス、真菌および寄生生物の感染症が挙げられるが、これらに限定されない。
【0296】
b.感染症処置のための例示的な活性な作用物質
3E10抗体またはそれに由来するフラグメントもしくは融合タンパク質に加えてまたはそれに代わって、ナノキャリアには、感染症を処置または診断するための、タンパク質、ペプチド、抗体、炭水化物、多糖、核酸分子、有機分子、診断用の活性な作用物質またはそれらの組み合わせがローディングされ得る。
【0297】
いくつかの実施形態において、活性な作用物質は、治療用薬物である。抗感染薬の非限定的な例としては、抗生物質、抗ウイルス薬、抗寄生生物薬が挙げられる。
【0298】
いくつかの実施形態において、活性な作用物質の用量は、開示されるナノキャリアにおいて投与されるとき、遊離薬物と比べて、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、60%、70、80%またはそれを超えて減少させることができる。
【0299】
5.自己免疫疾患および/または遺伝性疾患
a.処置される疾患
いくつかの自己免疫疾患および/または遺伝性疾患は、DNAを放出する損傷組織の発生を特徴とする。開示される組成物および方法は、ナノ材料の送達を、自己免疫疾患および/または遺伝性疾患における組織損傷の部位に標的化するために使用され得る。
【0300】
本明細書中に記載される組成物および方法は、被験体における組織損傷の進行を遅延させるかもしくは阻害することによって自己免疫疾患および/もしくは遺伝性疾患を有する被験体を処置するため、その疾患の重症度を低下させるおよび/もしくはその疾患を根治するため、ならびに/またはその疾患に関連する症状を阻害するかもしくは減少させるため、ならびに/または疾患を処置するために必要とされる他の作用物質の投与量を減少させるために有用である。
【0301】
提供される組成物および方法で処置され得る自己免疫疾患または遺伝性疾患のタイプとしては、筋ジストロフィ(デュシェンヌ型筋ジストロフィおよび筋緊張性ジストロフィを含む)、全身性エリテマトーデス、強皮症、血管炎症候群、関節リウマチ、リソソーム蓄積症(テイ・サックス病およびゴーシェ病を含む)、糖原病(ポンペ病およびMcArdle病を含む)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0302】
b.自己免疫疾患および/または遺伝疾患処置のための例示的な活性な作用物質
3E10抗体またはそれに由来するフラグメントもしくは融合タンパク質に加えてまたはそれに代わって、ナノキャリアには、自己免疫疾患または遺伝疾患を処置または診断するための、タンパク質、ペプチド、抗体、炭水化物、多糖、核酸分子、有機分子、診断用の活性な作用物質またはそれらの組み合わせがローディングされ得る。
【0303】
いくつかの実施形態において、活性な作用物質は、治療用薬物である。自己免疫疾患および/または遺伝性疾患を処置するための作用物質の非限定的な例としては、免疫抑制剤、タンパク質補充物(protein replacement)(例えば、ジストロフィン、ユートロフィン、酵素)、鎮痛薬、麻酔薬、抗炎症薬、抗感染薬、サイトカイン、ケモカイン、免疫調節物質、ならびに治癒を促進する他の作用物質、または損傷領域における細胞を保護するおよび/もしくはその生存を促進する作用物質(例えば、熱ショックタンパク質を含む細胞保護タンパク質)が挙げられる。
【0304】
いくつかの実施形態において、活性な作用物質の用量は、開示されるナノキャリアにおいて投与されるとき、遊離薬物と比べて、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、60%、70、80%またはそれを超えて減少させることができる。
【実施例0305】
実施例1:表面に抗DNA自己抗体を有するおよび有しないナノ粒子の合成および特徴付け
材料および方法
材料および細胞培養
別段述べられない限り、すべての化学物質をSigma-Aldrichから購入した。マウス乳腺腫瘍細胞株4T1を、American Type Culture Collection(ATCC)から入手し、10%ウシ胎仔血清(Invitrogen)、100単位/mlペニシリンおよび100ug/mlストレプトマイシン(Invitrogen)が補充されたDMEM培地(Invitrogen)中、5%CO2を含む37℃インキュベータにおいて培養した。
【0306】
PLGA-PLLの合成
以前に報告された手順(Zhouら、Biomaterials,33(2):583-591(2012)、Hanら、Nanomedicine(2016))に従って、PLGA-PLLを合成した。簡潔には、PLGA(3g,50:50PLGA酸末端基;i.v.約0.67dL/g;吸収性ポリマー、AL)および200mgのポリ(ε-カルボベンゾキシル-L-リジン)(PLL)(MW1000~4000Da,Sigma)を、アルゴン下、乾燥丸底フラスコにおいて、6mLのジメチルホルムアミド(dimethlyformamide)に溶解した。2mLのジメチルホルムアミド中のジシクロヘキシルカルボジイミド(58mg)および0.31mgのジメチルアミノピリジンをそのポリマー溶液に加え、48時間撹拌した。クロロホルムを加えることによって反応溶液を希釈し、メタノール中で沈殿させた。次いで、乾燥させたポリマーをクロロホルムに再溶解し、エーテル中で沈殿させ、真空下で24時間乾燥させた。保護を除去するために、乾燥させた保護された生成物を、酢酸中30%wtの10mLの臭化水素に溶解し、脱保護のために90分間撹拌した。そのポリマーをエーテル中で沈殿させ、生成物が黄色からオフホワイトの外観に変化するまで、洗浄した。次いで、その生成物をクロロホルムに溶解し、エーテル中で沈殿させた。そのポリマーを24時間真空乾燥して、すべての痕跡量のエーテルを除去した。ポリマーの改変およびその後のカルボベンゾキシル保護基の除去を確認するために、脱保護前および脱保護後のサンプルを回収した。サンプルをトリフルオロエタノールに溶解し、分光法(Cary 50 Bio UV-Vis Spectrophotometer,Varian,Palo Alto,CA)を用いて200~350nmで評価した。
【0307】
3E10
ENの作製およびチオール化
3E10(D31N)ジscFv(この研究において3E10
ENと称される)を、以前に記載されたようにおよび下記に示されるように(配列番号12)(Nobleら、Cancer Research,2015;75(11):2285-2291)、P.pastorisにおいて産生させ、精製した。P.pastorisの上清から単離された3E10
ENの純度および正体を、ナノ粒子に結合体化する前に、SDS-PAGEおよび抗Mycウエスタンブロットによって確認した。3E10
EN抗体のチオール化を、Traut’s剤を用いて行った。簡潔には、54uLの3E10溶液(5mg/ml)および18uLのTraut’s剤溶液(10mg/ml)を、1mlのPBS(pH8.0、5mM EDTAを含む)に加えた。混合された溶液を室温において水平振盪機上で回転させることによるチオール化プロセスは、1時間を要した。
【化10】
【0308】
ナノ粒子の合成
ナノ粒子合成用のDOXを作製するために、市販のDOX塩酸塩(Sigma)における塩酸塩基を、ジクロロメタン中のトリエチルアミンを用いる滴定によって除去して、有機溶媒に可溶性のDOXを得た。DOXをローディングしているナノ粒子を、標準的なシングルエマルジョン手順に従って合成した。DOX-NPを合成するために、50mgのPLGA-PLLおよび6.7mgのドキソルビシンを2mLの酢酸エチルに溶解した。次いで、その溶液を、2mlの2.5%ポリビニルアルコール(PVA)の溶液に滴下して加えた。得られたエマルジョンを、氷上で3回、各10秒間、超音波処理した。次いで、そのエマルジョンを、0.3%(v/v)PVA水溶液が入ったビーカーに注ぎ込み、室温で一晩撹拌して、EAを蒸発させ、粒子を硬化させた。粒子を18000rpmでの30分間の遠心分離によって回収し、水で2回洗浄し、凍結し、凍結乾燥した。3E10/DOX-NPを合成するために、同じエマルジョン手順を用いた。一晩の蒸発の後、ナノ粒子を回収し、NHS-PEG5000-Mal(8mg,JenKem Technology)を含むPBSに再懸濁した。30分間の反応の後、余分のNHS-PEG5000-Malを遠心分離機によって(18000rpm,30分)除去した。次いで、PEG化されたナノ粒子を、チオール化された3E10(270ug)を含むPBSに再懸濁した。60分後、ナノ粒子を、18000rpmでの30分間の遠心分離によって回収し、水で2回洗浄し、凍結し、凍結乾燥した。裸のNPおよび3E10-NPを、同じ手順に従うがそれぞれDOX/3E10およびDOXを用いずに合成した。
【0309】
ナノ粒子のサイズおよび形態の特徴付け
ナノ粒子の形態およびサイズを、走査型電子顕微鏡(SEM)によって特徴づけた。簡潔には、乾燥させたナノ粒子をカーボンテープに載せ、40mAのスパッター電流(Dynavac Mini Coater,Dynavac,USA)を用いてアルゴン雰囲気において金でスパッターコーティングした。3kVの加速電圧でLaB電子銃を使用し、Philips XL30 SEMを用いて、SEM解析を行った。ナノ粒子の流体力学直径を、動的光散乱(DLS)を用いて計測した。透明のキュベットを、HPLCグレード水中の0.25mg mL-1のナノ粒子で満たした。キャップをしたキュベットをZetasizer(Malvern)に置き、動的光散乱データを読み取った。Zetasizerを用いてゼータ電位も計測した。
【0310】
結合体化効率の特徴付け
10mgの3E10ナノ粒子を、100uLのDMSOに溶解し、900uLのddH2Oに加えて、最終濃度10mg/mlを得た。その溶液中の3E10の量を、標準的なBCAアッセイ(Thermo Scientific)によって測定した。同じ手順を用いて処理された3E10を有しないナノ粒子を、コントロールとして使用した。
【0311】
薬物被包の特徴付け
薬物被包効率(EE)およびローディング効率(LE)を測定するために、DOXをローディングしている1mgのナノ粒子を100uLのDMSOに溶解し、900uLのddH2Oに加えて、1mg/mlの最終濃度を得た。次いで、ナノ粒子溶液を13,000rpmで短時間遠心し、100uLの上清をマイクロプレート(BioTek)に移した。蛍光強度を470nm/590nm(Ex/Em)において計測し、遊離DOXの検量線に従って、DOXの濃度を計算した。
【数1】
【0312】
DOXのコントロール放出
DOXをローディングしているナノ粒子を、エッペンドルフチューブにおいて、0.02%アジ化ナトリウムを含むPBSに1mg/mlで再懸濁し、低速振盪機で室温において回転させた。DOXの放出を、14日間にわたって、いくつかの時間間隔でモニターした。各サンプリング時に、ナノ粒子懸濁物を13,000rpmで10分間遠心した。DOXの定量のために上清を取り出し、放出を連続的にモニタリングするために、等体積のPBSで置き換えた。上に記載された方法と同じ方法を用いてDOXの検出を行った。
【0313】
細胞傷害性の評価
4T1細胞を、96ウェル細胞培養プレートにおいて1ウェルあたり2×103の濃度でプレーティングし、1.25~500ug/mLの範囲のナノ粒子の濃度でインキュベートした。同じ量の遊離DOXを、コントロールとして対応ウェルに加えた。処置の3日後、細胞増殖に対する処置の効果を、標準的なMTTアッセイを用いて測定した。
【0314】
結果
3E10ENによるナノ粒子の自触反応的腫瘍標的化送達のためのストラテジーを開発した。表面に3E10ENが結合体化したPLGAナノ粒子を、exDNAの標的化のために開発し、化学療法のためおよびexDNA放出のために内部に被包されたDOXを用いて開発した。3E10ENは、健康な組織よりも多い量のexDNAを含む腫瘍にナノ粒子をホーミングする能力を有する。腫瘍環境におけるexDNAの濃度は、時間とともにおよび細胞傷害性治療の送達とともに上昇し得る。それにより、腫瘍におけるナノ粒子蓄積の効率は、時間とともにおよびその後の処置とともに、自触反応的に上昇する。
【0315】
補体依存性または抗体依存性細胞媒介性細胞傷害のFc媒介性の活性化に続発する潜在的な非特異的毒性を回避するために、Fc領域を欠く3E10フラグメントが、最近作製され、試験された。これらのフラグメントの最も有望なバリアントの1つは、DNAに対する結合親和性を改善するために変異された、3E10の増強されたジ-一本鎖可変フラグメントである(Nobleら、Cancer Research,2015;75(11):2285-2291)。本研究における試験のために3E10(D31N)ジscFvを選択し、それを本明細書中以後、3E10
EN(EN=増強)と称する。3E10
ENがナノ粒子を腫瘍に自触反応的に送達する能力を試験するために、表面に3E10
ENが結合体化したDOXローディングPLGAナノ粒子(3E10
EN/DOX-NP)を合成した。まず、PLGAをポリ(L-リジン)(PLL)に結合体化し、得られたPLGA-PLL(表面官能化のためにリジン基を含む)を出発物質として使用した。効率的な被包を可能にするために、市販のDOX塩酸塩における塩酸塩基を、ジクロロメタン中のトリエチルアミンを用いる滴定によって除去した。ナノ粒子を、標準的なシングルエマルジョン手順によって合成し、チオール化された3E10
ENを結合体化するためのマレイミド基をディスプレイするためにNHS-PEG-Malでさらに改変した。コントロールには、表面に3E10
ENが結合体化していないナノ粒子(DOX-NP)、3E10
ENを有するがDOXを有しないナノ粒子(3E10
EN-NP)および3E10
ENもDOXも有しないナノ粒子(裸のNP)が含まれ、それらは、同じ手順を用いるが3E10
ENの結合体化、DOXの被包またはその両方を行わずに合成された。走査型電子顕微鏡(SEM)は、すべてのナノ粒子が球状であり、86~107nmのサイズであることを示した(表1)。異なる製剤のナノ粒子の流体力学直径は、180~210nmの範囲内であった(
図1A)。3E10
ENの結合体化は、ナノ粒子のサイズをわずかに大きくした。平均して5つの3E10
EN分子が、各ナノ粒子の表面に結合体化された。DOXは、6.0重量%で被包された(表1)。種々のNPのゼータ電位も計測した。PLLを有するPLGA NPは、中性の表面電荷を有すると見出されたのに対して、3E10
ENの結合体化は、表面電荷を-8まで低下させた(表1)。
【0316】
3E10
EN/DOX-NPおよびDOX-NPからのDOXの放出を比較して、3E10
ENが薬物放出を多少なりとも干渉したかを決定した。
図1Bに示されているように、DOXは、3E10
EN/DOX-NPとDOX-NPの両方から12日間にわたって、制御された等しい様式で放出されたことから、3E10
ENが、薬物放出を干渉しなかったことが示された。次に、4T1マウス乳癌細胞の生存能に対する効果について、ナノ粒子を試験した。その細胞を、DOX単独、DOX-NP、3E10
EN-NPまたは3E10
EN/DOX-NPで3日間処置し、次いで、MTTアッセイによって生存を評価した。遊離DOX、DOX-NPおよび3E10
EN/DOX-NPはすべて、匹敵する細胞阻害をもたらしたが、DOXを有しない3E10
EN-NPは、細胞に対して有意に毒性でなかった(
図1C)。この研究において使用されたナノ粒子の特徴を表1に要約する。
【表1】
【0317】
処置期間中にNPから放出されるDOXの量が、遊離DOXによる処置を受けた群の細胞が曝露された薬物の量のおよそ40%であるにもかかわらず、DOX-NPおよび遊離DOXは、細胞生存能に対して同様の効果があったので、これらの結果は、特に興味深い。同様のことが、(Parkら、Nanomed-Nanotechnol.2009,5:410-418;Leiら、Ifmbe Proc.2010,32:224-227;Zhouら、Proc Natl Acad Sci U S A.,2013,110:11751-11756;Liuら、Biomaterials.2009;30:5707-5719;およびHanら、ACS nano.2016,10:4209-4218)においても論じられており、この効果は、おそらく、細胞の取り込みを支配している機構と、ナノ粒子および遊離薬物の運び出しを支配している機構との違いに起因する。例えば、遊離DOXは、腫瘍細胞において高度に発現されるATP結合カセット(ABC)トランスポーターの基質であるが、DOXをローディングしているナノ粒子は、そうではない。
【0318】
実施例2:3E10EN結合体化は、ナノ粒子とexDNAとの相互作用を高める
材料および方法
3E10に結合体化されたナノ粒子のDNA結合能
プラスミドDNApGL4.74(20ug,Promega)を、BamHIを用いて直鎖化してリン酸基を露出させ、次にそのリン酸基を、N-(3-ジメチルアミノプロピル)-N’-エチルカルボジイミド塩酸塩(EDC,0.20mg,1.0umol)およびN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS,0.17mg,1.5umol)によって活性化し、NH2-PEG50-NH2(0.41mg,3.0umol)と反応させた。次いで、アミン基を末端に有するDNAを、Traut’s試薬(0.68mg,5.0umol)でチオール化し、マレイミド基で官能化されたガラスプレート表面(MicroSurfaes,Inc)にコーティングした。ナノ粒子の結合能を測定するために、3E10ENを有するおよび有しない、IR780をローディングしているナノ粒子を、1mg/mlでPBSに再懸濁し、そのガラスプレート表面に加えた。室温での1時間のインキュベーションの後、そのガラスプレートを水でリンスした。ガラスプレート上に付着したナノ粒子を、インビボイメージングシステム(IVIS)システム(Xenogen)を用いて745nm/800nm(Ex/Em)において検出した。
【0319】
統計解析
データを三連で取り、平均値および標準偏差として報告した。2つの条件の間における、ナノ粒子のDNA結合能、組織におけるexDNAの量、およびナノ粒子送達効率の比較を、対応のあるスチューデントのt検定によって評価した。一元配置分散分析を行って、処置に関連する腫瘍体積の変化の統計的有意性を決定した。p≦0.05が、統計的に有意な差を示すとみなした。
【0320】
結果
3E10は、DNAに対して高い親和性を有する(Serviceら、Science,330(6002):314-315(2010)、Swystunら、J Thromb Haemost,9(11):2313-2321(2011))。表面に結合体化された3E10
ENが、ナノ粒子とDNAとの相互作用を高め得るかを決定するように、実験を設計した。これを試験するために、スライドガラスを、直鎖化されたプラスミドDNAでコーティングし、表面に3E10
ENを有するおよび有しないナノ粒子とともにインキュベートした。検出の目的で、ナノ粒子に、近赤外蛍光色素であるIR780を被包した。ナノ粒子との60分間のインキュベーションの後、スライドをリンスし、IR780のシグナル(ナノ粒子の量と相関する)をIVISによって可視化した。
図2においてシグナルを定量した。3E10
ENの結合体化は、DNAでコーティングされたガラス表面とナノ粒子との会合を5.6倍増加させたことから、3E10
EN-NPが、予想通り、DNAに引きつけられることが確認された。
【0321】
実施例3:exDNAは、4T1腫瘍において濃縮され、3E10EN/DOX-NP処置によって増加する
材料および方法
腫瘍および健康な組織におけるexDNAの計測
3E10/DOX-NPの処置を受けたまたは受けていないマウスから腫瘍を切除した。腫瘍を有しない健康なマウスから回収された肝臓、心臓および筋肉を、コントロールとして使用した。腫瘍およびコントロールの健康な組織を、同様のサイズにスライスし、スライドにマウントし、Picogreen(ThermoFisher Scientific)で染色した。5分後、そのスライドを水でリンスした。蛍光強度をIVISによって465nm/520nm(Ex/Em)において検出した。
【0322】
結果
3E10
ENがナノ粒子を腫瘍に標的化する能力を、同系の4T1マウス乳癌マウスモデルを用いて試験した。このモデルでは、4T1乳癌異種移植片を、BALB/cマウスにおいて皮下注射によって作製した。有効性研究を開始する前に、正常組織および4T1腫瘍におけるexDNAの相対量を、3E10
EN/DOX-NPによる処置ありおよび処置なしで、Picogreen染色によって評価した。以前の知見と一致して(Weisbartら、Sci Rep.,5:12022(2015)、Strounら、Clin Chim Acta,313(1-2):139-142(2001)、Sueoka-Araganeら、PloS One,9(12)(2014)、Wenら、Cancer Research,73(14):4256-4266(2013))、未処置腫瘍におけるexDNAの量は、肝臓、心臓および筋肉において見出されたexDNAの量よりも7.5倍、11.7倍および2.5倍多かった(
図3)ことから、このモデルにおける腫瘍への優先的な薬物送達のための実行可能な標的としてのexDNAが示唆された。exDNAの量に対する3E10
EN/DOX-NPによる処置の効果を試験した。4T1腫瘍を有するマウスを、連続した2日間において3E10
EN/DOX-NPの静脈内注射で処置し、次いで、3日目に、それらのマウスを屠殺し、腫瘍exDNA含有量を評価した。
図3に示されているように、3E10
EN/DOX-NPによるマウスの処置は、腫瘍におけるexDNAの量を、未処置マウスにおける腫瘍と比べて5.1倍増加させた。まとめると、これらの結果から、このマウスモデルが、exDNAを標的化するために3E10
ENを用いた腫瘍へのナノ粒子の提案される自触反応的送達の試験にとって適切であることが確認された。
【0323】
実施例4:3E10ENは、ナノ粒子の自触反応的な腫瘍標的化送達を媒介する
材料および方法
インビボにおけるナノ粒子の腫瘍ホーミング
雌BALB/cマウス(Charles River Laboratories)をこの研究のために使用し、無菌環境において維持した。このプロジェクトは、Yale UniversityのInstitutional Animal Care and
Utilization Committee(IACUC)によって承認された。腫瘍を確立するために、マウスの側腹部に1×106個の4T1腫瘍細胞を皮下注射した。腫瘍のサイズを、追跡可能なデジタルノギス(Fisher)を用いて毎週計測した。腫瘍の体積を、長さ(l)および幅(w)を計測し、次いで、以下の式:V=lw2/2を用いて体積(V)を計算することによって、測定した。体積が、約200mm3に達したら(1日目)、マウスをランダムに3つの群に分けた。第1の群は、1および2日目に、IR780を含まない3E10ENに結合体化されたナノ粒子で処置し、3日目に、3E10ENに結合体化されたIR780ローディングナノ粒子の最後の注射を行った。第2および第3の群には、3日目に、IR780ローディングナノ粒子および3E10ENに結合体化されたIR780ローディングナノ粒子の静脈内投与を行った。マウス1匹あたり1mgのナノ粒子を投与した。IR780ローディングナノ粒子および3E10結合体化IR780ローディングナノ粒子におけるIR780のローディングは、匹敵していた。5日目に、マウスを安楽死させ、IVISを用いたイメージングのために腫瘍を回収した。イメージングの後、腫瘍を凍結乾燥し、DMSO中で均質化した。腫瘍中の色素を抽出し、その量を、マイクロプレート(BioTek)を用いて定量した。
【0324】
DOX-NPの血中濃度
3E10ENの結合体化ありおよびなしのDOX-NPの血中濃度を時間の関数として記録した。NPの検出を可能にするために、NPに1%クマリン6を共ローディングした(co-load)。6匹のBALB/cマウスを、2つの群にランダムに割り当て、それらの2つの群には、それぞれ3E10ENの結合体化ありおよびなしの1mgのDOX-NPの静脈内投与を行った。注射の5分後、15分後、30分後、1時間後、2時間後、4時間後、6時間後、24時間後、36時間後および48時間後に、各マウスから20uLの血液サンプルを1.5mLエッペンドルフチューブに回収し、凍結乾燥した。次いで、100uLのDMSOおよび1mLのアセトニトリルを各チューブに加えた。ウォーターバスソニケーターにおける15分間の超音波処理の後、サンプルを4000rpmでの20分間の遠心分離に供して、細胞のフラグメントおよび血液アルブミンを除去した。次いで、各サンプルから0.8mlの上清を回収し、エッペンドルフチューブに加えた。アセトニトリルを蒸発させ、DMSO中の色素を、プレートリーダー(BioTek ELx800)を用いてEx/Em444/505nmにおいて定量した。
【0325】
結果
3E10
ENが、腫瘍にナノ粒子を優先的に送達することを媒介できるかを決定するように、実験を設計した。3E10
ENの結合体化ありまたはなしの、IR780をローディングしているナノ粒子を、4T1腫瘍を有するマウスに静脈内投与した。24時間後、腫瘍を切除し、IVISイメージングシステムを用いて画像化した。裸のNPは、いくらかの腫瘍取り込みとともに、一連の組織へ局在化することが観察されたが、最大量の取り込みは、肝臓において見られた。対照的に、3E10
ENに結合体化されたNPは、肝臓ではなく腫瘍への優先的な取り込みのパターンおよび裸のNPと比べて腫瘍局在化の2.3倍の増加を示した(
図4)。これらの結果は、3E10
ENによる、未処置腫瘍へのナノ粒子の優先的な標的化を示唆している。3E10
ENは、NPの循環寿命を変化させず(
図9)、ゆえに、3E10
ENによって媒介される取り込みの増大は、腫瘍におけるexDNAとの相互作用に起因すると考えられる。これらの結果は、3E10
ENによる、未処置腫瘍へのナノ粒子の優先的な標的化を示唆している。
【0326】
提案されるストラテジーによると、3E10
ENによって媒介される送達の効率は、時間とともに、および腫瘍DNAの放出を誘導し、腫瘍環境におけるexDNAのさらなる蓄積を引き起こす処置の送達とともに、自触反応的に高まり得る。このストラテジーを試験するために、4T1腫瘍を有するマウスを連続した2日間にわたって毎日、IR780を有しない3E10
EN/DOX-NPで処置した(本明細書中でプライミング処置と称される)。3日目に、IR780をローディングしている3E10
EN-NPの最後の注射をマウスに行った。24時間後、腫瘍を切除し、画像化した。
図4に示されているように、3E10
EN/DOX-NPによるプライミング処置は、ナノ粒子の腫瘍送達を有意に増大させた。プライミング処置を受けたマウス由来の腫瘍におけるナノ粒子の平均量は、プライミングなしのマウス由来の腫瘍における量よりも1.8倍多かった。著しいことに、プライミングを用いたとき、腫瘍におけるナノ粒子の蓄積は、裸のNPによる処置を受けたマウスの場合の0.5倍に対して、肝臓における蓄積よりも4.1倍多かった。
【0327】
実施例5:3E10EN/DOX-NPは、DOX-NPまたはDOX単独よりも腫瘍に対して有意に大きな効果がある
材料および方法
マウス腫瘍異種移植片における抗腫瘍の評価
4T1腫瘍を有するマウスを、上に記載されたように確立した。腫瘍体積が、約100mm3に達したら、マウスをランダムに5つの群に、1群あたり7匹のマウスで、以下のように分けた:群1には、PBSの処置を行い;群2には、PBS中の遊離DOXの処置を行い;群3には、3E10EN-NPの処置を行い;群4には、DOX-NPの処置を行い;群5には、3E10EN/DOX-NPの処置を行った。1週間に3回、処置を行った。マウス1匹あたり80ugのDOXに等しい1mgのナノ粒子を投与した。腫瘍サイズを、1週間に3回、計測した。腫瘍体積が約1000mm3に達したら、マウスを安楽死させ、その時点において、腫瘍を切除し、免疫組織化学のためにホルマリンで固定した。連続切片を得て、治療効果を解析するために、ヘマトキシリン・エオシン(H&E)および末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(TUNEL)で染色した。各時点における各処置群に対する腫瘍体積の平均値を用いて、成長曲線をプロットした。
【0328】
結果
最後に、自触反応的腫瘍標的化薬物送達のためにexDNAを標的化する3E10
ENベースのアプローチが、インビボにおいて処置に対する腫瘍応答の改善をもたらし得るかを決定するように、実験を設計した。約100mm
3のサイズの4T1腫瘍を有するマウスを、コントロールPBS、遊離DOX、DOX-NP、3E10
EN-NPまたは3E10
EN/DOX-NPの静脈内注射で1週間に3回処置した。腫瘍体積を1週間に3回計測し、得られた成長曲線を
図5に示す。全処置群のうち、3E10
EN/DOX-NPだけが、腫瘍の成長を大幅に阻害することが観察された(遊離DOXとDOX-NPとの両方と比べて、p<0.01)。この研究の終わりまでに、PBS処置を用いたコントロール群と比べて、遊離DOXまたはDOX-NPによる処置は、それぞれたった26%および19%だけしか腫瘍体積を減少させなかった。これらの2群間に、有意差は見られなかった。対照的に、3E10
EN/DOX-NPによる処置は、腫瘍体積を72%減少させた。組織学的には、コントロール処置からの腫瘍は、核が目立つ高度に細胞性の塊(cellular mass)を明らかにした;対照的に、3E10
EN/DOX-NPで処置された動物からの腫瘍は、はるかに低度の細胞性の塊、より低い核-細胞質比、およびTUNEL染色によって計測されたアポトーシス細胞の数の顕著な増加を示した。
【0329】
実施例6:3E10EN-NPはメラノーマ脳腫瘍に局在化する
材料および方法
転移性メラノーマ脳腫瘍局在化研究
メラノーマ癌細胞株由来の頭蓋内腫瘍を有するマウスを、IR780がローディングされている非結合体化NP(コントロール)またはIR780がローディングされている3E10EN結合体化NPの尾静脈注射で処置した。24時間後、脳腫瘍におけるNPの蓄積を、IVISによって可視化した。
【0330】
結果
図6に示されているように、コントロールで処置されたマウスの脳では、有意なシグナルは検出されなかったが、3E10
EN-NPで処置されたマウスは、脳腫瘍において有意なIR780シグナルを示したことから、3E10
ENによる脳腫瘍へのNPの有効な送達が証明された。
【0331】
実施例7:3E10EN-NPは神経膠芽腫脳腫瘍に局在化する
材料および方法
神経膠芽腫脳腫瘍局在化研究
同所性の頭蓋内U87神経膠芽腫腫瘍を有する免疫不全マウスを、コントロールNPまたは3E10EN-NPの尾静脈注射で処置した。検出のために、NPにIR780をローディングした。注射の24時間後、神経膠芽腫脳腫瘍におけるNPの蓄積を、IVISによって可視化した。
【0332】
結果
図7に示されているように、コントロールで処置されたマウスの脳では、有意なシグナルは検出されなかったが、3E10
EN-NPで処置されたマウスは、脳腫瘍において有意なIR780シグナルを示した。これらのデータは、3E10
ENによる脳腫瘍へのNPの有効な送達を証明している。
【0333】
実施例8:3E10EN-NPは脳卒中における虚血脳に局在化する
材料および方法
脳卒中体積(Stroke volume)局在化研究
中大脳動脈閉塞によって、マウスに脳卒中を誘導した。脳卒中の徴候の後、マウスをコントロールNPまたは3E10EN-NPの尾静脈注射で処置した。検出のために、NPにIR780をローディングした。注射の24時間後、IVISによって、脳卒中領域へのNPの取り込みについてマウスを解析した。
【0334】
結果
図8に示されているように、コントロールNPで処置されたマウスの脳の脳卒中体積では、有意なシグナルは検出されなかったが、3E10
EN-NPで処置されたマウスは、脳の脳卒中領域において有意なIR780シグナルを示した。これらのデータは、3E10
ENによる虚血脳へのNPの有効な送達を証明している。
【0335】
上記の実施例は、腫瘍環境におけるexDNAを利用する、ナノ粒子を腫瘍に全身送達するための自触反応的腫瘍標的化機構を証明している。3E10ENを、exDNAに対する標的化リガンドとして使用し、DOXをモデル薬物として使用したところ、結果は、3E10ENが、腫瘍へのナノ粒子の効率的な送達を媒介すること、およびより多くのexDNAが瀕死の腫瘍によって放出されるにつれて、この効率がその後の処置とともに増大することを示した。関連する標的が処置とともに消失するような経時的な効率の低下に悩む他の標的化アプローチと比べると、開示される組成物および方法は、標的環境へのexDNAの放出の増加に起因して、時間および処置とともに効率が改善されるという重要な利点を有する。
【0336】
ナノ医薬における送達ストラテジーに対する上記の意義に加えて、本研究は、分子治療の手法においてループス抗DNA自己抗体3E10を使用することに対する可能性の新しい要素も明らかにする。3E10は、生細胞の核に浸透する珍しい能力を有し、この抗体およびその最適化されたフラグメントは、インビトロおよびインビボにおいてp53およびHsp70などの治療カーゴタンパク質を生細胞内に送達するために以前に使用されていた(Hansenら、Cancer Research,67(4):1769-1774(2007)、Hansenら、Brain Res,1088(1):187-196(2006))。より最近では、3E10がDNA修復における重要な工程を阻害する能力が、腫瘍をDNA損傷剤に感作することによって、ならびにBRCA2およびPTEN欠損の悪性疾患などのDNA損傷に対して特に脆弱な癌を選択的に殺滅することによって、癌治療に役立てられ、癌治療に使用することの可能性について試験されている(Hansenら、Sci Transl Med,4(157):157ra142(2012)、Nobleら、Cancer Research,2015;75(11):2285-2291、Nobleら、Nat Rev Rheumatol(2016))。しかしながら、3E10が核に浸透する能力およびDNA修復を阻害する能力は、本明細書中に提示される実験にとって重要ではなかった。その代わり、本研究は、3E10を用いることによって3E10がインビボにおいてexDNAの部位にホーミングする能力を利用して、ナノ粒子を自触反応的様式で腫瘍部位に導いた。本研究は、ナノ粒子を含むカーゴ分子をexDNAの部位に標的化することへのループス抗DNA自己抗体に基づくアプローチの概念証明を確立し、これは、癌ならびに虚血性または外傷性の状態(例えば、DNAが損傷部位において放出されている、脳卒中、梗塞または傷害)の処置に関連する。
【0337】
以前の研究では、3E10が、癌細胞をDOXなどのDNA損傷剤に対して感作することが見出されたが、本明細書中で論じられる実験では、表面に結合体化された3E10
ENは、
図1Cに報告される細胞生存能アッセイにおいて、DOXと協同しなかった。これは、3E10
ENが、ナノ粒子の表面に共有結合的に結合体化されていたので、細胞核に浸透できず、生物学的機能を発揮できなかったからである。この感作活性を達成するために、ジスルフィド結合の形成によって、3E10
ENをナノ粒子の表面に結合体化できた。このアプローチを用いると、3E10
ENは、高レベルのグルタチオンに起因する還元性の腫瘍微小環境と遭遇すると、ナノ粒子から放出され得る(Shaoら、Ther Deliv,3(12):1409-1427(2012))。あるいは、ナノ粒子の表面に結合体化された3E10
ENを有することに加えて、ある量の遊離3E10
ENが、DOXとともにナノ粒子に共被包されることにより、癌細胞への薬物と抗体フラグメントとの同時送達が促進され得る。遊離3E10
ENは、ジスルフィド結合の切断または被包された3E10ENの放出によってナノ粒子から放出されると、腫瘍細胞の核に浸透でき、DNA修復を阻害でき、それにより、腫瘍をDNA損傷に対して感作できるか、またはDNA修復に欠陥がある癌細胞を選択的に殺滅できる。
【0338】
結論として、ナノ医薬は、臨床での癌治療に大きく貢献する可能性を有する。その一方で、ループス抗DNA自己抗体が、DNAに対するその親和性に部分的に起因して、癌治療において使用するための可能性のある新しい作用物質として登場した。
【0339】
実施例9:3E10(D31N)ジscFvはナノ粒子を生細胞内に送達する
材料および方法
Cal12T肺癌細胞を、コントロール緩衝液、遊離ジscFv(配列番号12)、IR780色素が被包された遊離PLGAナノ粒子、遊離ジscFv+IR780色素が被包された遊離PLGAナノ粒子、またはIR780色素が被包された、ジscFvに結合体化されたPLGAナノ粒子で20分間処置した。次いで、それらの細胞を蛍光顕微鏡下で可視化して、IR780シグナルを検出した。
【0340】
結果
有意なIR780シグナルは、ジscFvに結合体化されたナノ粒子で処置された細胞の細胞質でのみ検出され、遊離ナノ粒子で処置された細胞では検出されなかった。これらのデータは、ジscFvが、結合体化されたナノ粒子を生細胞の細胞内コンパートメントに送達できることを証明している。
【0341】
著しいことに、IR780シグナルは、細胞質に限定され、ジscFvが局在化すると予想される核では検出されなかった。結合体化されたナノ粒子が、ジscFvを細胞質に引きとめたかを決定するために、生細胞の可視化の後、細胞を固定し、ジscFvの存在について、抗myc免疫染色によって免疫染色した(ジscFvはそのC末端にmycタグを有する)。遊離ナノ粒子が存在したときでさえ、遊離ジcFvは、細胞核に浸透した。しかしながら、ナノ粒子に結合体化されたジscFvは、それを核に運ばず、細胞質に隔離した。この実験は、別の細胞株であるDLD1結腸癌細胞を用いても行われ、同じパターンが観察された。これらのデータは、ジscFvが、結合体化されたナノ粒子を細胞内に送達することを媒介できることを確認するものであり、著しいことに、ナノ粒子のサイズによって、ジscFvがその通常の核局在化ではなく細胞質の局在化に限定されるようである。
【0342】
別段定義されない限り、本明細書中で使用されたすべての専門用語および科学用語は、開示される発明が属する分野の当業者が通常理解している意味と同じ意味を有する。本明細書に引用された刊行物およびそれらが引用されている資料は、明確に参照により援用される。
【0343】
当業者は、本明細書中に記載された本発明の具体的な実施形態に対する多くの等価物を認識するか、または単なる日常的な実験方法を用いて確かめることができるだろう。そのような等価物は、以下の特許請求の範囲に包含されると意図されている。